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表 18-1 マンチェスター グループとランド大 グループの意味認知症および連合型失認の診断基準定義 : 理解障害 ( 語の意味理解および物品認識障害 ) が発症から疾患の経過を通して優位な特徴である 自伝的記憶を含む他の高次脳機能は損われないか 比較的良好に保たれる Ⅰ. 主要診断特徴 A. 潜在

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第18章

認知症関連症状

1 . 意 味 記 憶 障 害 と 意 味 認 知 症 1 . 1 概 念 、 診 断 基 準 第 1 1 章 で 述 べ た ご と く 、 タ ル ヴ ィ ン は 記 憶 を エ ピ ソ ー ド 記 憶 と 意 味 記 憶 に 二 分 し た 。 彼 は 意 味 記 憶 を 「 言 語 使 用 に 必 要 な 記 憶 で あ り 、 語 そ の 他 の 言 語 使 用 に お い て 、 そ の 意味 と 指 示 対 象 な ら び に そ れ ら の 記 号 、 概 念 、 関 係 を 操 作 す る た め の 規 則 ・ 公 式 ・ ア ル ゴ リズ ム に つ い て ヒ ト が 所 有 し て い る 組 織 化 さ れ た 知 識 、 あ る い は こ こ ろ の 辞 典 」 と 定 義 し た。 1975 年 ウ ェ リントンは 意味記憶が 選択的に障 害されてい る大脳皮質 変性疾患3 例を報 告 し た 。 一 般 知 能 、 言 語 、 視 空 間 認 識 に 障 害 は な か っ た が 、 彼 ら の 言 語 的 語 彙 や 事 物 に 対す る 知 識 は 大 き く 損 な わ れ て い た 。 彼 ら は 物 品 や 生 物 の 定 義 課 題 、 そ れ ら の 上 位 概 念 、 性質 を 選 択 形 式 で 問 う 課 題 に お い て 障 害 が あ り 、 入 力 が 言 語 性 、 非 言 語 性 い ず れ の 場 合 に も障 害 を 示 し た 。し か し そ の 解 決 に 意 味 記 憶 を 必 要 と し な い 課 題 で は 障 害 を 殆 ど 示 さ な か っ た 。 そ の 後 類 似 の 症 例 が 次 々 と 報 告 さ れ た 。 ま た 逆 に コ ル サ コ フ 症 候 群 な ど で 重 度 の エ ピ ソー ド 記 憶 障 害 に も 拘 わ ら ず 意 味 記 憶 が 比 較 的 保 た れ る 症 例 が あ る こ と も 明 ら か に さ れ た1 エ ピ ソ ー ド 記 憶 障 害 と 意 味 記 憶 障 害 が 相 互 に 独 立 に 生 じ る こ と が 確 証 さ れ た 。 一 方 、1989 年スノードンらのマンチェスター・グループは意味記憶障害を主症状とする 3 例 の 認 知 症 患 者 を 報 告 し た 。彼 女 ら は こ れ を「 意 味 認 知 症(SD)」と命名した。類似の 症 例 は 他 の 研 究 者 に よ っ て も 報 告 さ れ 、SDの概念は広く定着した2。彼 ら に よ れ ばSDは前 頭 側 頭 葉 変 性 症 の 一 類 型 で あ る( 図 1 6 - 1 参 照 )。1998 年マンチェスター・グループと ラ ン ド 大 ・ グ ル ー プ は 協 同 で 表 1 8 - 1 に 示 すSDの診断基準を提案した。 1 第 1 1 章 参 照 。 2 第 1 6 章 参 照 。 18-1

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表 1 8 - 1 マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ と ラ ン ド 大 ・ グ ル ー プ の 意 味 認 知 症 お よ び 連 合 型 失 認 の 診 断 基 準 定 義 : 理 解 障 害 ( 語 の 意 味 理 解 お よ び 物 品 認 識 障 害 ) が 発 症 か ら 疾 患 の 経 過 を 通 し て優 位 な 特 徴 で あ る 。 自 伝 的 記 憶 を 含 む 他 の 高 次 脳 機 能 は 損 わ れ な い か 、 比 較 的 良 好 に 保 た れ る 。 Ⅰ . 主 要 診 断 特 徴 A.潜在的発症と緩徐な進行 B.以下に特徴づけられる言語障害 1 . 進 行 性 の 流 暢 で は あ る が 空 虚 な 自 発 発 話 2.呼称、理解障害として出現する語の意味の喪失 3 . 意 味 性 錯 話 C.以下に特徴づけられる認識障害 1 . 相 貌 失 認 : 既 知 の 顔 の 同 定 ・ 認 識 障 害 お よ び / も し く は 2 . 連 合 型 失 認 : 物 品 の 認 識 障 害 D.形態照合や描画の保持 E.単一語復唱の保持 F.綴り規則語の音読と書取の保持 Ⅰ Ⅰ . 支 持 的 診 断 特 徴 A.発話および言語 1 . 抑 揚 の な い 発 話 2 . 特 異 な 語 使 用 3 . 字 性 錯 語 の 欠 如 4 . 表 層 失 読 、 表 層 失 書 5 . 計 算 保 持 B.行動 1 . 共 感 、 同 情 の 欠 如 2 . 関 心 の 狭 さ 3 . 吝 嗇 18-2

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表 1 8 - 1 マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ と ラ ン ド 大 ・ グ ル ー プ の 意 味 認 知 症 お よ び 連 合 型 失 認 の 臨 床 診 断 基 準 ( 続 き ) C.身体的徴候 1 . 原 始 反 射 の 欠 如 も し く は 末 期 の 出 現 2 . 無 動 、 強 剛 お よ び 振 戦 D.検査 1.神経心理学:語理解、相貌および物品の認識障害として出現する重度の 意 味 理 解 障 害 。 音 韻 、 文 法 、 要 素 的 感 覚 、 視 空 間 認 識 、 日 常 記 憶 の 保 持 。 2.脳波:正常 3.(形態的あるいは機能的、ないしその両方の)画像: 主 に 前 側 頭 葉 領 野 の 異 常 ( 対 称 性 も し く は 非 対 称 性 ) ホ ッ ジ ス ら の ケ ン ブ リ ッ ジ ・ グ ル ー プ も SD の概念を提唱する。彼らによれば SD の症 状 は 表 1 8 - 2 に 示 す ご と く で あ る 。 彼 ら は 前 頭 側 頭 型 認 知 症 の 下 位 類 型 と し て 「 原 発性 進 行 性 失 語 」の 範 疇 を 設 定 、さ ら の そ の 下 位 類 型 と し て SD と進行性非流暢性失語(PNFA) を 位 置 づ け た ( 図 1 6 - 1 参 照 ) 。 一 方 、 ケ ル テ ス ら は ほ ぼ SD に該当する症例を認知症というよりむしろ失語であること を 強 調 し て 「 原 発 性 進 行 性 意 味 失 語 」 と 命 名 し た 。 表 1 8 - 2 ケ ン ブ リ ッ ジ ・ グ ル ー プ に よ る 意 味 認 知 症 の 症 状 1 . 以 下 を も た ら す 意 味 記 憶 の 選 択 的 障 害 : 重 篤 な 失 名 辞 、 口 頭 言 語 お よ び 書 字 言 語 に お け る 語 の 理 解 障 害 、 カ テ ゴ リ ー に よ る 語 列 挙 の 障 害 、 一 般 的 知 識 の 貧 困 化 。 2 . 統 辞 や 音 韻 な ど の 他 の 言 語 機 能 の 相 対 的 保 持 。 3 . 正 常 な 知 覚 お よ び 非 言 語 的 問 題 解 決 能 力 。 4 . 比 較 的 良 好 な エ ピ ソ ー ド 記 憶 お よ び 自 伝 的 記 憶 。 5 . 表 層 失 読 様 の 失 読 。 18-3

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以 上 の ご と く 、意 味 記 憶 の 障 害 を 巡 っ て は 様 々 の 議 論 が あ る 。同 じ SD という名称でも、 そ の 臨 床 像 や 位 置 づ け に は 研 究 者 に よ っ て 異 な る 。 そ れ ら を 統 一 的 に 理 解 す る こ と は 困難 で あ る 。 暫 定 的 に 、 本 書 で は 次 の よ う に 考 え る 。 ま ず 意 味 記 憶 障 害 と SD との関係を検討する。意味記憶障害は現象であり、SD は意味記 憶 障 害 を 主 症 状 と す る 症 候 群 で あ る 。 特 定 の 入 力 、 出 力 あ る い は 範 疇 に 限 定 さ れ た 意 味記 憶 障 害 が 存 在 す る 。 例 え ば 第 9 章 で 述 べ た 連 合 型 相 貌 失 認 は 視 覚 的 入 力 ( 顔 ) に 限 定 され た 意 味 記 憶 障 害 、 表 層 失 書 は 書 字 出 力 に 限 定 さ れ た 意 味 記 憶 障 害 と 見 な さ れ る 。 他 方 、表 1 8 - 1 や 表 1 8 - 2 に 示 さ れ る よ う な 症 状 、 す な わ ち 入 力 、 出 力 の 如 何 、 対 象 の 範 疇に 拘 わ ら ず 意 味 記 憶 障 害 が 認 め ら れ る 場 合 に は SD と診断すべきである。 次 にSDと失語との関係について検討する。タルヴィンは意味記憶の定義において言語的 側 面 を 重 視 し た 。 彼 の 定 義 に 従 え ば 、 言 語 面 に お け る 意 味 理 解 障 害 は 意 味 理 解 全 般 の 障害 と 同 意 義 で あ る 。 従 っ て 、 意 味 理 解 障 害 を 主 症 状 と す る 失 語 は 意 味 認 知 症 で あ る 。 他 方ウ ェ リ ン ト ン は 意 味 記 憶 を も っ と 広 く 捉 え て お り 、 概 念 あ る い は 「 意 味 す る も の ( 外 延 )」 と 意 味 さ れ る も の ( 内 包 ) 」 と の 関 係 と 理 解 し て い る 。 こ の 定 義 に 従 え ば 、 言 語 面 で 意味 理 解 障 害 が あ っ て も 、 他 の 高 次 脳 機 能 で 意 味 記 憶 障 害 の な い 症 例 は 意 味 認 知 症 で は な い。 一 般 的 に は 意 味 記 憶 は ウ ェ リ ン ト ン の 意 味 で 使 わ れ て い る 。 従 っ て 高 次 脳 機 能 全 般 に 意味 記 憶 障 害 を 示 す 症 例 は 「 意 味 認 知 症 」 で あ る が 、 言 語 面 に 限 定 さ れ た 意 味 記 憶 障 害 は 失語 と し て 扱 う べ き で あ る3。 ま た 、 第 1 3 章 で 述 べ た ご と く 、 認 知 症 は 人 格 全 体 の 解 体 過 程 で あ る 。 従 っ て 、 ( 多 少 の 情 意 面 の 障 害 も あ る と し て も ) 意 味 記 憶 障 害 、 す な わ ち 特 定の 知 的 機 能 の 障 害 を 主 症 状 と す る 病 態 は 例 え ばATDな ど の 認 知 症 と 同 等 に 扱 う こ と は 妥 当 で は な い 。 「 意 味 認 知 症 」 と い う 名 称 も 適 切 で は な い 。 し か し 、 新 た な 名 称 を 用 い る と混 乱 を 招 く 虞 が あ る の で 、 本 書 で も 名 称 と し て は 「 意 味 認 知 症 」 を 用 い る 。 さ て こ れ ら の 研 究 に 先 立 つ 約 50 年前の 1943 年、日本の井村恒郎は語の意味理解障害を 主 症 状 と す る 失 語 を 「 語 義 失 語 」 と し て 報 告 し た 。 井 村 に よ れ ば 、 語 義 失 語 は 固 有 名 詞や 具 体 語 に つ い て 顕 著 に 認 め ら れ る 語 の 意 味 処 理 障 害 を 中 核 と し て 、 そ の 書 字 言 語 へ の 反映 と し て 表 音 文 字 で あ る 仮 名 処 理 は 保 た れ 、 表 音 文 字 で あ る と 共 に 表 意 文 字 で も あ る 漢 字処 理 が 障 害 さ れ る 。 語 義 失 語 は ほ ぼ SD の診断基準を満たす。井村は世界で最初に意味記憶 障 害 の 存 在 を 明 ら か に し た 研 究 者 で あ る 。 そ の 業 績 は 高 く 評 価 さ れ て よ い で あ ろ う 。 3 本 書 の 立 場 に 立 て ば SD の診断基準としては表18-1の方が表18-2より適切であ る 。 18-4

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1 . 2 意 味 記 憶 障 害 1 . 2 .1 意味記憶障害の臨床像 ウ ェ リ ン ト ン に よ れ ば 、 意 味 記 憶 障 害 の 臨 床 像 は 、 ① ア ク セ ス 障 害 、 ② 保 持 障 害 、 ③ 検 索 障 害 、 に 分 け ら れ る 。 1 ) ア ク セ ス 障 害 ~ 貯 蔵 さ れ て い る 意 味 記 憶 自 体 に は 問 題 が な く そ こ へ の ア ク セ ス に 障 害 が あ る 。 ウ ェ リ ン ト ン ら に よ れ ば 、 ア ク セ ス の 障 害 は 、 ① 語 の 出 現 頻 度 は 成 績 に 影 響し な い 、 ② 課 題 を 反 復 し た 場 合 成 績 に 一 貫 性 が な い 、 ③ プ ラ イ ミ ン グ 効 果 の 存 在 、 ④ 処 理水 準 が 深 く な る と 成 績 が 向 上 す る 、 な ど に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る 。 例 え ば 、 意 味 記 憶 ア クセ ス 障 害 に よ る 失 読 患 者 の 成 績 は 一 貫 性 が な く セ ッ シ ョ ン に よ っ て 成 績 が 変 動 す る 。 語 の出 現 頻 度 の 影 響 は 受 け な い 。 上 位 語 や 関 連 語 の プ ラ イ ミ ン グ 効 果 が 認 め ら れ る 。 意 味 記 憶ア ク セ ス 障 害 は 失 語 で も 認 め ら れ る 。例 え ば ウ ェ ル ニ ッ ケ 失 語 は 語 の 意 味 理 解 障 害 を 示 す が 、 意 味 的 プ ラ イ ミ ン グ は 保 た れ て い る 。 全 失 語 の 語 理 解 検 査 の 成 績 は 刺 激 提 示 速 度 に よ って 大 き く 影 響 さ れ る 。 提 示 時 間 が 長 く な る と 成 績 は 大 き く 向 上 す る 。 こ れ は 反 応 ま で の 時間 的 余 裕 が あ れ ば 深 い 水 準 で の 語 処 理 が 可 能 で あ る た め と 考 え ら れ る 。 2 ) 貯 蔵 障 害 ~ 貯 蔵 障 害 は ア ク セ ス 障 害 と は 対 照 的 な 特 徴 、 す な わ ち ① 語 の 出 現 頻 度 が 成 績 に 影 響 す る 、 ② 成 績 に 一 貫 性 が あ る 、 ③ 提 示 時 間 が 成 績 に 影 響 し な い 、 を 示 す 。 この 症 状 は 意 味 認 知 症 を 特 徴 づ け る 症 状 で あ る ( 詳 細 は 本 章 第 2 節 参 照 ) 。 意 味 認 知 症 で は概 念 自 体 が 失 わ れ て い る 。 従 っ て 如 何 な る 方 法 に よ っ て も 概 念 に ア ク セ ス し 、 概 念 を 検 索す る こ と が 出 来 な い 。 た だ し 、 患 者 は 「 ラ ク ダ に は 瘤 が あ る 」 と い う 知 識 は 失 っ て い て も、 ラ ク ダ の 絵 を 見 れ ば そ れ が 動 物 で あ る こ と は 判 る 。 事 物 の 呼 称 は 出 来 な く て も 同 じ カ テゴ リ ー の 物 品 を サ ン プ ル か ら 選 択 す る こ と は 可 能 で あ る 。 概 念 は 一 番 身 近 で な い も の か ら失 わ れ て い く 。 「 ト カ ゲ 」 は 判 ら な く て も 「 イ ヌ 」 は 判 る 。 詳 細 な 特 徴 が ま ず 失 わ れ 、 粗大 な 特 徴 は 保 た れ る 。 従 っ て 下 位 概 念 に 比 べ 上 位 概 念 は 保 た れ や す い 。 3 ) 検 索 障 害 ~ 検 索 障 害 は 概 念 に 対 応 す る 語 を 想 起 す る こ と の 障 害 で あ り 、 呼 称 障 害 と し て 認 め ら れ る 。 呼 称 障 害 が あ る 場 合 、 そ れ が 検 索 障 害 で あ る か 音 韻 レ キ シ コ ン の 障 害で あ る か を 判 断 す る 明 確 な 基 準 は 存 在 し な い 。 検 索 障 害 の 場 合 、 物 品 呼 称 は 障 害 さ れ る が物 品 理 解 は 保 た れ る は ず で あ る 。 し か し 一 般 に 呼 称 よ り 理 解 の 方 が 容 易 で あ り 、 こ の 基 準は 適 用 出 来 な い 。 た だ し 失 語 で は 理 解 よ り 呼 称 が 容 易 で あ る 患 者 が 存 在 す る 。 グ ッ ド グ ラス ら は 語 に 対 応 す る 物 品 の 指 示 に 障 害 を 示 す が 、 同 じ 物 品 の 呼 称 は 可 能 で あ る 流 暢 失 語 例は 少 な く な い こ と を 示 し 、 語 の 意 味 記 憶 と 音 韻 レ キ シ コ ン と は 相 互 に 独 立 で あ る と 述 べ た 。 18-5

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検 索 障 害 の 検 査 法 と し て は 語 流 暢 性 検 査 が あ る 。 特 定 の 語 頭 音 あ る い は カ テ ゴ リ ー の語 を 想 起 す る こ と に 障 害 が あ れ ば 、 検 索 障 害 の 可 能 性 が あ る 。 た だ し こ の 場 合 に は 患 者 が正 し い 検 索 戦 略 ( 同 じ 語 は 検 索 か ら 除 外 ) を 適 用 出 来 る か ど う か が 問 題 と な る 。 呼 称 障 害が あ る ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症(ATD)で語流暢性が保たれている場合がある。これは検索 障 害 と 呼 称 障 害 と は 異 な る 過 程 で あ る こ と を 示 唆 す る 。 検 索 障 害 が な く て も 音 韻 レ キ シコ ン 障 害 に よ っ て 呼 称 が 障 害 さ れ る こ と は ( 少 な く て も 理 論 的 に は ) あ り う る 。 1 . 2 . 2 意 味 記 憶 障 害 に お け る カ テ ゴ リ ー 特 異 性 意 味 記 憶 障 害 研 究 に お い て 非 常 に 関 心 が 高 い 研 究 テ ー マ に カ テ ゴ リ ー 特 異 性 の 問 題 があ る 。 意 味 記 憶 障 害 患 者 で 、 ① あ る 特 定 の カ テ ゴ リ ー の 対 象 に 対 し て は 障 害 が 著 し い が 別の カ テ ゴ リ ー の 対 象 に 対 し て は 軽 度 で あ る こ と が 生 じ る か ど う か 、 ② 生 じ る と す れ ば そ の機 序 は 何 か 、 が 問 題 と な る 。 1 . 2 . 2 . 1 抽 象 語 と 具 象 語 失 語 や 失 読 で は 抽 象 語 の 成 績 は 具 象 語 よ り 不 良 と さ れ て き た 。 と こ ろ が 逆 の 場 合 が あ る こ と が 明 ら か な っ た 。 例 え ば ウ ェ リ ン ト ン の 報 告 例 AB で は 語 定 義 課 題 の 成績 は 具 体 語 50%であるのに対し抽象語は 90%であった。同様の現象は他の研究者によっても報告され た 。 抽 象 語 / 具 体 語 の 乖 離 現 象 は 言 語 課 題 の み な ら ず 視 覚 認 識 課 題 に お い て も 存 在 す る。 ま ず 具 体 的 な 概 念 が 獲 得 さ れ 、 そ こ か ら 抽 象 的 な 概 念 が 形 成 さ れ る 。 従 っ て 、 脳 損 傷 など に よ る 障 害 は ま ず 抽 象 的 概 念 に 生 じ 次 い で 具 体 的 概 念 に 及 ぶ 。こ れ が 常 識 的 な 理 解 で あ る 。 上 述 の 事 実 は こ の 常 識 的 理 解 に 疑 問 を 投 げ か け て い る 。 1 . 2 . 2 . 2 生 物 と 非 生 物 カ テ ゴ リ ー 特 異 性 意 味 記 憶 障 害 の な か で 、 特 に 注 目 を 集 め て い る の が 、 課 題 と な る 対 象 が 生 物 あ る い は 自 然 事 物 で あ る 場 合 と 非 生 物 あ る い は 人 工 物 の 場 合 と で 成 績 の 解 離 を 示す 症 例 の 存 在 で あ る 。 そ の 大 半 は 自 然 事 物 に 強 い 障 害 を 示 す 症 例 の 報 告 で あ る が 、 人 工 物に 強 い 障 害 を 示 す 症 例 も 報 告 さ れ て い る 。 1 ) 自 然 事 物 の 選 択 的 障 害 ~ 最 初 の 報 告 は 1984 年ウェリントンらのグループによって な さ れ た 。ヘ ル ペ ス 脳 炎 例 4 例でいずれも自然事物の呼称、同定の成績が人工物のそれよ り 不 良 で あ っ た 。 例 え ば 症 例 JBR の正答率は表18-3のごとくであった。 18-6

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表 1 8 - 3 症 例 JBR の物品同定および呼称課題の正答率 自 然 事 物 人工物 視 覚 聴 覚 視 覚 聴 覚 同 定 呼 称 同 定 上 位 概 念 同 定 呼 称 同 定 上 位 概 念 6% 6% 8% 90% 90% 67% 79% 94% 自 然 事 物 特 異 的 な 呼 称 な ら び に 理 解 障 害 は 他 の 研 究 者 に よ っ て も 報 告 さ れ て い る 。 ガ イ ノ ッ チ ら の 症 例 で は 、 視 覚 提 示 ( 絵 、 文 字 ) 、 聴 覚 提 示 ( 語 ) い ず れ の 場 合 で も 、 口 頭あ る い は 書 字 に よ る 呼 称 、 概 念 の 説 明 、 の 各 課 題 で 自 然 事 物 の 成 績 が 不 良 で あ っ た 。 一 方、 視 覚 課 題 に 限 定 さ れ た 自 然 事 物 特 異 的 意 味 記 憶 障 害 を 示 し た 症 例 、 聴 覚 ( 言 語 課 題 ) に限 定 さ れ た 自 然 事 物 特 異 的 意 味 記 憶 障 害 を 示 し た 症 例 も 報 告 さ れ て い る 。 ま た 人 工 物 と 比較 し て 、 動 物 名 お よ び 植 物 名 の み に 選 択 的 失 名 辞 を 呈 し た 症 例 も 報 告 さ れ て い る 。 彼 ら の動 植 物 に 対 す る 知 識 は 保 た れ て お り 、 呼 称 だ け が 障 害 さ れ て い た 。 果 物 ・ 野 菜 に 対 す る 選択 的 失 名 辞 、 動 物 名 の 発 達 性 失 名 辞 な ど の 症 例 も 知 ら れ て い る 。 2 ) 人 工 物 の 選 択 的 障 害 ~ ウ ェ リ ン ト ン ら の グ ル ー プ の 報 告 例 VER は動物、植物、花 な ど の 自 然 事 物 に 比 較 し て 人 工 物 に 対 し て 選 択 的 障 害 を 示 し た 。 特 に 言 語 課 題 で 障 害 が顕 著 で あ っ た 。 道 具 の 実 物 と そ の 写 真 と の 照 合 に 障 害 は な か っ た が 、 口 頭 で 指 示 さ れ た 道具 を 複 数 の 対 象 か ら 選 択 す る 課 題 で は 障 害 を 示 し た 。カ ラ マ ザ ら の 研 究 グ ル ー プ の 報 告 例 JJ の 呼 称 課 題 の 正 答 率 は 、 生 物 で は 91%であったが他のカテゴリーでは 10%台であった。 3 ) カ テ ゴ リ ー 内 選 択 的 障 害 ~ 生 物 あ る い は 非 生 物 の カ テ ゴ リ ー 内 で さ ら に 選 択 的 な 障 害 を 呈 し た 症 例 が 報 告 さ れ て い る 。ウ ェ リ ン ト ン ら の 症 例 JBR は生物に比して非生物の理 解 は よ く 保 た れ て い た が 楽 器 の 理 解 は 不 良 で あ っ た 。 こ の 他 、 ① 全 般 的 失 名 辞 を 呈 し たが 交 通 機 関 の 名 称 は 保 た れ て い た 症 例 、 ② 人 工 物 の 概 念 全 般 は 保 た れ て い た が 車 両 の 概 念の み が 失 わ れ て い た 症 例 、 ③ 生 物 カ テ ゴ リ ー の 中 で 身 体 部 位 の 概 念 が 選 択 的 に 保 た れ 非 生物 カ テ ゴ リ ー で は 食 品 と 楽 器 が 選 択 的 に 障 害 さ れ た 症 例 、 ④ 患 者 が 熟 知 し て い る 医 療 機 器名 呼 称 の 選 択 的 障 害 、 な ど 非 常 に 限 ら れ た カ テ ゴ リ ー 概 念 の 選 択 的 障 害 、 あ る い は 選 択 的保 持 を 示 す 症 例 が 次 々 に 報 告 さ れ て い る 。 18-7

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1 . 2 . 2 . 3 品 詞 特 定 の 品 詞 の 理 解 の 選 択 的 障 害 例 も し く は 選 択 的 保 持 例 が 報 告 さ れ て い る 。 ウ ェ リ ン ト ン ら の 報 告 例 ROX は名詞に比して動詞に重度の障害を示した。彼は動作をしている絵を 見 て そ の 動 作 名 を 呼 称 出 来 な か っ た 。物 品 名 の 呼 称 は 保 た れ て い た 。彼 女 ら の 報 告 例 FRA は 逆 に 名 詞 で 重 度 の 障 害 を 示 し た 。 患 者 は 連 合 型 視 覚 失 認 を 呈 し 物 品 の 絵 の 呼 称 は 障 害さ れ て い た が 、 動 作 絵 の 呼 称 に 障 害 は な か っ た 。 1 . 2 . 2 . 4 特 定 対 象 上述のカテゴリー内選択的障害が更に特異的になり、非常に限定された特定対象にのみ 選 択 的 障 害 も し く は 選 択 的 保 持 を 示 し た 症 例 が 種 々 報 告 さ れ て い る 。 ① 他 の 語 彙 に し て国 名 の 想 起 が 特 に 良 好 で あ っ た 症 例 、 ② 著 名 人 の 名 前 の 想 起 が 困 難 で あ っ た 例 、 ③ 一 般 的に 人 物 名 の 想 起 が 困 難 で あ っ た 症 例 、 ④ 一 般 的 な 呼 称 障 害 が あ る が 建 築 物 や 人 物 名 な ど の固 有 名 詞 の 想 起 は 可 能 で あ っ た 症 例 、 ⑤ 固 有 名 詞 の 想 起 が 特 に 障 害 さ れ た 例 、 ⑥ 歴 史 上 の人 物 や 著 名 な 景 勝 地 の 想 起 が 困 難 で あ っ た 症 例 、⑦18 歳の少年の頭部外傷例で学校で受けた 授 業 内 容 は 失 わ れ た が 他 の 知 識 は 保 た れ て い た 症 例 、 ⑧ 頭 部 外 傷 例 や ア ル ツ ハ イ マ ー 型認 知 症(ATD)例で、エピソード記憶や他の範疇の意味記憶は障害されているが、自己の性 格 特 徴 に 関 す る 記 憶 が 保 た れ て い た 症 例 、 な ど が 存 在 す る 。 特 定 対 象 の 意 味 記 憶 障 害 の 中 で 特 に 注 目 さ れ る の は 人 物 に 対 す る 意 味 記 憶 の 障 害 で あ る。 上 述 の ご と く 、 人 物 名 の 想 起 障 害 は し ば し ば 報 告 さ れ て い る が 、 個 人 に 対 す る 意 味 記 憶全 般 の 障 害 例 も 報 告 さ れ て い る 。 第 9 章 で 述 べ た 連 合 型 の 相 貌 失 認 に 類 似 す る が 、 人 物 の意 味 記 憶 障 害 の 場 合 、 家 族 や 有 名 人 を 視 覚 的 に 同 定 出 来 な い だ け で な く 、 声 を 聴 い て も 同定 出 来 な い 、 名 前 を 聴 い て 人 物 を 言 語 的 に 説 明 す る こ と が 出 来 な い な ど の 点 で 相 貌 失 認 と異 な っ て い る 。 1 . 2 . 3 意 味 記 憶 障 害 の 機 序 、 意 味 記 憶 の 構 造 意 味 記 憶 障 害 の 発 症 機 序 、 さ ら に 意 味 記 憶 の 構 造 を 巡 っ て は 三 つ の 論 点 が あ る 。 ま ずカ テ ゴ リ ー 特 異 的 な 意 味 記 憶 の 障 害 あ る い は 保 持 は ど の よ う に 生 じ る か が 問 題 に な る 。 次に 視 覚 、 聴 覚 な ど の 感 覚 様 相 に 特 異 的 な 意 味 シ ス テ ム が あ る の か 否 か が 問 題 と な る 。 そ して 最 後 に そ も そ も 単 一 の 意 味 シ ス テ ム が 存 在 す る の か 、 カ テ ゴ リ ー 別 あ る い は 様 相 別 に 複数 の 意 味 シ ス テ ム が 存 在 す る の か 否 か が 問 題 に な る 。 18-8

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1 . 2 . 3 . 1 カ テ ゴ リ ー 特 異 性 意 味 記 憶 障 害 の 機 序 自 然 事 物 あ る い は 人 工 物 な ど の 特 定 カ テ ゴ リ ー に 特 異 的 な 意 味 記 憶 障 害 が 何 故 生 じ る か 。 多 数 の 研 究 論 文 が 発 表 さ れ 種 々 の 議 論 が な さ れ て い る が 結 論 は 得 ら れ て い な い 。 ま ず 、 生 物 / 非 生 物 の 乖 離 に 関 し て は 、 意 味 記 憶 課 題 の 成 績 に 影 響 を 及 ぼ す 概 念 あ る い は 語 の 熟 知 度 、 頻 度 な ど の 要 因 の 統 制 の 不 十 分 さ に 起 因 す る ア ー チ フ ァ ク ト で あ る と の説 は 当 然 提 唱 さ れ た 。 し か し 、 ① 成 績 に 影 響 す る 可 能 性 の あ る 要 因 を 厳 密 に 統 制 し て も カテ ゴ リ ー 間 に 差 が 認 め ら れ る 、 ② 同 じ 刺 激 ・ 課 題 を 用 い た 場 合 で も 自 然 事 物 が 障 害 さ れ る症 例 と 人 工 物 が 障 害 さ れ る 症 例 が 存 在 す る 、 な ど の 点 か ら ア ー チ フ ァ ク ト 説 は 否 定 さ れ た 。 次 に 、 生 物 と 非 生 物 で は そ の 属 性 に 違 い が あ る と の 説 が 多 く の 研 究 者 に よ っ て 提 唱 され た 。 代 表 的 な 説 は 、 生 物 の 認 識 に 際 し て は 知 覚 的 属 性 ( 四 足 で あ る 、 鼻 が 長 い 、 な ど )に つ い て の 知 識 が 重 要 で あ る の に 対 し て 、 非 生 物 の 認 識 で は 機 能 的 属 性 ( 物 品 を 切 る 、 物品 を 挟 む 、 な ど ) に つ い て の 知 識 が 重 要 で あ る こ と が 生 物 / 非 生 物 の 意 味 記 憶 障 害 の 解 離の 原 因 で あ る と す る も の で あ る 。 こ の 説 を さ ら に 進 め て 、 非 生 物 は 動 作 や 操 作 と 密 接 に 結び つ い て い る が 、 生 物 は そ う で は な い 。 非 生 物 に つ い て は 運 動 系 か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク が認 識 効 率 を 高 め て い る と す る 説 が 提 唱 さ れ た 。 そ の 他 、 1 ) 生 物 は 個 体 間 の 類 似 性 が 高 い が ( イ ヌ と ネ コ は よ く 似 て い る ) 、 人 工 物 で は そ う で は な い ( ナ イ フ と フ ォ ー ク は 似 て い な い ) た め 前 者 の 方 が 障 害 さ れ や す い 。 2 ) 個 体 発 生 的 に カ テ ゴ リ ー に よ っ て そ の 概 念 の 習 得 時 期 が 異 な る 。 生 物 の 概 念 が ま ず 習 得 さ れ 、 非 生 物 の 順 と な る 。 こ の 概 念 習 得 時 期 の 違 い が 認 識 の 違 い に も 反 映 さ れ る 。 3 ) 概 念 空 間 は 一 様 で は な く い く つ か の 「 瘤 」 か ら 形 成 さ れ て い る 。 一 つ の 瘤 は 互 い に 類 似 し た 特 性 を 有 し て い る 。 共 通 点 が 多 い 程 瘤 は 凝 集 性 が 高 い 。 そ れ ぞ れ の 瘤 は 単 独 で障 害 さ れ う る 。 な ど の 説 が 提 唱 さ れ て い る 。 1 . 2 . 3 . 2 様 相 特 異 性 意 味 シ ス テ ム 様 相 特 異 性 意 味 シ ス テ ム の 存 在 を 示 唆 す る モ デ ル は 既 に 19 世紀末フロイドによっても 提 唱 さ れ て い る ( 図 1 - 4 ) 。 意 味 記 憶 障 害 の 研 究 を リ ー ド し て き た ウ ェ リ ン ト ン ら の研 究 グ ル ー プ は 基 本 的 に 様 相 特 異 性 意 味 シ ス テ ム 説 の 立 場 に 立 つ 。 彼 女 ら が そ の 根 拠 と して い る の は 様 相 特 異 的 な 意 味 記 憶 障 害 を 示 す 症 例 の 存 在 で あ る 。 彼 女 ら の 4 症 例 の 意 味 記憶 18-9

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課 題 の 成 績 は 表 1 7 - 4 の ご と く で あ っ た 。症 例 CAV、AB、CR は視覚における障害が強 く 、症 例 EM では聴覚における障害が顕著であることから、ウェリントンらは様相特異的 な 意 味 シ ス テ ム の 存 在 を 主 張 し た 。 表 1 7 - 4 意 味 記 憶 障 害 例 の 様 相 別 成 績 症 例 CAV AB EM CR 視 覚 ( 絵 画 同 定 ) 12/40 19/40 37/40 13/40 聴 覚 ( 単 語 定 義 ) 40/40 27/40 26/40 21/40 こ の グ ル ー プ の 一 員 で あ る マ ッ カ ー シ ー は 、 様 相 特 異 性 意 味 記 憶 障 害 の 観 点 か ら リ ッ サ ウ エ ル の 連 合 型 視 覚 失 認 の 解 釈 を 試 み て い る 。 そ の 際 、 連 合 型 視 覚 失 認 を 離 断 症 候 群 とし て 理 解 し よ う と す る ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 解 釈 を 対 立 仮 説 に お い て い る 。 離 断 症 候 群 仮 説 によ れ ば 、 意 味 シ ス テ ム は 単 一 で 、 そ こ へ は 複 数 の 入 力 経 路 が あ る 。 例 え ば 視 覚 か ら の 入 力が 閉 ざ さ れ れ ば 、 連 合 型 視 覚 失 認 の 症 状 が 出 現 す る こ と に な る 。 こ れ に 対 し て 、 マ ッ カ ーシ ー は 次 の よ う に 主 張 す る 。 意 味 記 憶 障 害 は 、 ① カ テ ゴ リ ー 特 異 的 な ア ク セ ス 障 害 、 ② 貯蔵 障 害 、 の 二 つ の 機 序 で 生 じ る 。 そ の 臨 床 像 が 前 述 し た 貯 蔵 障 害 の パ タ ー ン を 示 す 場 合 、障 害 が 単 一 様 相 に 限 局 し て い て も 、 ア ク セ ス の 障 害 で は な く ( つ ま り 意 味 シ ス テ ム に 至 るま で の 経 路 で の 離 断 で は な く ) 、 貯 蔵 自 体 の 障 害 と 考 え る べ き で あ る 。 し か も 単 一 の 様 相に 限 局 し た 障 害 で あ る の で 、 様 相 特 異 的 意 味 シ ス テ ム の 障 害 で あ る 。 1 . 2 . 3 . 3 単 一 意 味 記 憶 シ ス テ ム ・ モ デ ル 上 記 ウ ェ リ ン ト ン の グ ル ー プ の 説 に 対 し て カ ラ マ ザ の グ ル ー プ は 「 意 味 シ ス テ ム は 単 一 で あ る 」 と の 立 場 を と る 。 二 つ の 立 場 を 図 示 す る と 図 1 8 - 1 の よ う に な る 。 カ ラ マ ザら の 考 え で は 、 特 定 様 相 を 介 し た ア ク セ ス が 単 独 で 障 害 さ れ た 場 合 、 現 象 的 に は 様 相 特 異的 意 味 記 憶 障 害 に な る 。 ウ ェ リ ン ト ン ら の 提 示 し て い る 症 例 は 様 相 特 異 的 意 味 シ ス テ ム が存 在 す る 証 拠 と は な ら な い と 主 張 し て い る 。 18-10

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図 1 8 - 1 意 味 記 憶 シ ス テ ム の 二 つ の 処 理 モ デ ル 1 . 2 . 3 . 4 意 味 記 憶 の ク リ ー ク ・ モ デ ル 厳 密 に 言 う と 、 図 1 8 - 1 の 二 つ の モ デ ル は 意 味 記 憶 シ ス テ ム の 処 理 モ デ ル で あ り 、意 味 記 憶 シ ス テ ム 自 体 の モ デ ル で は な い 。 一 方 、 チ ェ ン は 「 ク リ ー ク 」 の 概 念 を 用 い て 意味 記 憶 シ ス テ ム の モ デ ル を 提 案 し て い る ( 図 1 8 - 2 ) 。 ク リ ー ク と は あ る 出 来 事 に 対 する ニ ュ ー ロ ン 活 動 の 全 体 で あ る 。 個 体 が あ る 体 験 を す る と そ の 体 験 の 様 々 な 側 面 を コ ー ドす る ク リ ー ク が 形 成 さ れ る 。 多 く の 体 験 に 共 通 す る 一 般 的 な 側 面 を コ ー ド す る ク リ ー ク から あ る 体 験 の み を コ ー ド す る 特 殊 な ク リ ー ク ま で 様 々 な ク リ ー ク が あ り 、 そ れ ら は 階 層 構造 を な し て い る 。 チ ェ ン は ク リ ー ク に つ い て 以 下 の ご と く 述 べ て い る 。 「 『 び っ く り す る 出 来 事 』 な ど の 一 つ の カ テ ゴ リ ー に 属 す る ピ ラ ミ ッ ド を 集 め て 、 そ れ ぞ れ の ピ ラ ミ ッ ド を 一 つ の 面 と す る 多 面 体 を 構 成 す れ ば 、 同 じ カ テ ゴ リ ー に 属 す る 全 ての 出 来 事 を 一 つ の 多 面 体 と し て 表 せ る だ ろ う ( 図 1 8 - 2 ④ ) 。 記 憶 の 形 成 で 使 わ れ て いる 連 合 的 ・ 階 層 的 な 手 法 に よ っ て 、 脳 は ネ ッ ト ワ ー ク レ ベ ル の パ タ ー ン を ほ ぼ 無 限 に 生 み出 し て 、 一 生 の 間 に 出 合 う 無 数 の 経 験 を 表 す こ と が 出 来 る 。 記 憶 コ ー ド は カ テ ゴ リ ー に 分か れ て い て か つ 階 層 的 だ か ら 、 新 し い 経 験 を 表 す 場 合 は 単 に 記 憶 ピ ラ ミ ッ ド の 頂 上 部 分 のク リ ー ク を 入 れ 替 え る だ け で す む だ ろ う 。 例 え ば 生 垣 の 陰 で 吠 え て い る 犬 は ジ ャ ー マ ン シェ パ ー ド で は な く 今 度 は プ ー ド ル で あ る と か 、 今 回 の 大 地 震 は イ ン ド ネ シ ア で は な く カ リ 18-11

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図 1 8 - 2 チ ェ ン の 記 憶 モ デ ル

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フ ォ ル ニ ア で 起 こ っ た な ど と い う 具 合 に 。 記 憶 を コ ー ド す る ピ ラ ミ ッ ド に は 抽 象 的 な 情報 を 処 理 す る ク リ ー ク が 必 ず 含 ま れ る こ と が わ か っ た が 、 こ れ は 脳 が 特 定 の 出 来 事 に つ いて 全 て の 詳 細 を 記 録 す る 単 な る 記 憶 装 置 で は な い と い う 考 え 方 を 裏 付 け る も の だ 。 記 憶 シス テ ム の ク リ ー ク の お か げ で 、 脳 は 特 定 の 出 来 事 の カ ギ と な る 特 徴 を コ ー ド 出 来 る う え 、体 験 か ら 一 般 的 な 情 報 を 抽 出 し て 、 将 来 、 本 質 的 な 特 徴 は 同 じ だ が 物 理 的 に は 少 し 違 う とい っ た 状 況 で 役 立 て ら れ る 。 日 々 の 出 来 事 か ら 抽 象 概 念 や 知 識 を 生 み 出 す 能 力 は 知 能 の 本質 で あ り 、 変 化 し 続 け る 世 界 で 生 じ る 新 た な 問 題 の 解 決 を 可 能 に す る 。 例 え ば ベ ッ ド の 概念 に つ い て 考 え て み よ う 。 人 は 世 界 中 ど の ホ テ ル の 部 屋 に 行 っ て も 、 ベ ッ ド を す ぐ に 認 識出 来 る 。 た と え 以 前 に そ の ベ ッ ド を 見 た 経 験 が な く て も こ れ は 可 能 で あ る 。 あ る 特 定 の ベッ ド の 姿 形 だ け で な く ベ ッ ド と は ど の よ う な も の で あ る か と い う 一 般 的 な 知 識 を 持 て る よう に し て い る の が 、 私 た ち の 記 憶 で あ る 。 」 こ の モ デ ル に 従 え ば 、 カ テ ゴ リ ー 特 異 的 意 味 記 憶 障 害 は 記 憶 ピ ラ ミ ッ ド の 損 傷 が ど の 階 層 で 生 じ た か に よ っ て 決 定 さ れ る こ と に な る 。 理 論 的 に は 如 何 な る 特 殊 な カ テ ゴ リ ー の意 味 記 憶 障 害 も こ の モ デ ル で 説 明 可 能 で あ る 。 こ の モ デ ル で は 意 味 記 憶 シ ス テ ム は 単 一 であ る 。 従 っ て 、 様 相 特 異 的 な 意 味 記 憶 障 害 は 特 定 の 感 覚 様 相 を 介 し て の ア ク セ ス の 障 害 とし て 理 解 さ れ る こ と に な ろ う 。 意 味 記 憶 の 具 体 的 構 造 に ま で 踏 み 込 ん で い る 点 で 優 れ た モデ ル と 考 え ら れ る 。 1 . 2 . 4 意 味 記 憶 の 解 剖 学 1 . 2 . 4 . 1 意 味 記 憶 障 害 の 責 任 病 巣 こ れ ま で 意 味 記 憶 障 害 と し て 報 告 さ れ た 症 例 は ヘ ル ペ ス 脳 炎 が 圧 倒 的 に 多 い 。 ヘ ル ペス 脳 炎 で は 両 側 側 頭 葉 が 侵 さ れ る 。 従 っ て 意 味 記 憶 障 害 の 責 任 病 巣 と し て は 側 頭 葉 が ま ず問 題 と な る 。 側 頭 葉 前 方 、 特 に 下 側 頭 回 病 変 が 注 目 さ れ て い る 。 ヘ ル ペ ス 脳 炎 例 で 下 側 頭葉 病 変 が 多 い だ け で な く 、 意 味 記 憶 障 害 を 主 症 状 と す る 変 性 疾 患 例 で も 下 側 頭 回 に 萎 縮 が認 め ら れ 、 上 側 頭 回 は 保 た れ た と す る 剖 検 所 見 が 報 告 さ れ て い る 。X 線照射に伴う意味記憶 障 害 例 で も 下 側 頭 回 前 方 の 損 傷 が 認 め ら れ た 。 左 後 交 通 動 脈 ・ 動 脈 瘤 に 伴 う 意 味 記 憶 障害 例 も 報 告 さ れ て い る が 、 損 傷 部 位 は 下 側 頭 回 と 推 定 さ れ る 。 い ず れ の 場 合 も 皮 質 損 傷 であ り 、 側 頭 葉 内 側 の 構 造 は 比 較 的 保 た れ て い た 。 多 く の 症 例 は 両 側 性 病 変 例 で あ る が 、 一 側 性 病 変 例 も 報 告 さ れ て い る 。 こ の 場 合 、 損傷 側 と 症 状 と の 関 連 が 注 目 さ れ る 。 意 味 記 憶 は 左 大 脳 半 球 に 関 連 が 深 い と 考 え 、 左 側 頭 葉の 18-13

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役 割 を 重 視 す る 研 究 者 が い る 。 他 方 、 意 味 記 憶 障 害 の 程 度 は 右 側 頭 葉 損 傷 例 で よ り 重 度で あ る と す る 研 究 者 も い る 。 語 理 解 や 呼 称 の 障 害 が 重 度 で あ る 患 者 で は 左 側 頭 葉 の 萎 縮 が右 よ り 重 度 で あ り 、 人 物 認 識 障 害 を 示 す 患 者 で は 右 側 頭 葉 の 萎 縮 が よ り 重 度 で あ る と い う報 告 も あ る 。 ア ク レ ス ら は 一 側 側 頭 葉 損 傷 例 を 対 象 と し て 、 ① 言 語 課 題 ( 呼 称 、 語 の 意 味範 疇 分 類 ) 、 ② 非 言 語 課 題 ( 物 品 の 実 在 / 非 実 在 の 判 断 、 物 品 画 の 意 味 範 疇 分 類 ) 、 の 課題 を 実 施 し た 。 左 側 頭 葉 が 保 た れ て い る 程 度 は ① の 成 績 と 有 意 な 相 関 を 示 し 、 右 側 頭 葉 が保 た れ て い る 程 度 は ② の 成 績 と 有 意 な 相 関 を 示 し た 。 カ テ ゴ リ ー 特 異 的 な 意 味 記 憶 障 害 に つ い て は 、 道 具 の 意 味 記 憶 に は 前 頭 葉 が 関 連 し て い る と の 報 告 が あ る 。 植 物 に 関 連 し た 意 味 記 憶 が 特 に 障 害 さ れ て い た 症 例 で は 左 後 大 脳 動脈 領 域 の 損 傷 が 認 め ら れ た 。 一 方 、 動 物 に 関 す る 意 味 記 憶 障 害 は 両 側 側 頭 葉 前 方 損 傷 例 で多 く 報 告 さ れ て い る 。カ ピ タ ー ニ ら に よ るMRIを用いた詳細な検討では、左紡錘状回の中央 か ら 後 方 に か け て の 損 傷 で は 植 物 に 関 連 し た 意 味 記 憶 の 障 害 が 認 め ら れ 、 動 物 に 関 連 した 意 味 記 憶 の 障 害 は 左 側 頭 葉 前 方 領 野 の 損 傷 例 で 特 に 顕 著 で あ っ た 。 ま た 、 知 覚 / 機 能 のカ テ ゴ リ ー 特 異 性 と の 関 連 で は 、 前 者 は 側 頭 葉 下 方 の 腹 側 視 覚 系4が 関 連 し 、 後 者 は 前 頭 ・ 頭 頂 葉 の 背 側 視 覚 系 に 関 連 す る と の 説 も 提 出 さ れ て い る 。 1 . 2 . 4 . 2 機 能 画 像 解 析 所 見 意 味 記 憶 課 題 遂 行 時 の 脳 活 動 性 に つ い て は 1 ) 物 品 呼 称 ・ 語 音 読 ~ 左 側 頭 葉 領 野 、 下 前 頭 回 、 後 頭 葉 腹 下 側 な ど の 活 性 化 。 2 ) 語 流 暢 性 課 題 ~ 左 側 頭 葉 後 方 お よ び 下 方 の 活 性 化 。 3 ) 意 味 判 断 ・ 意 味 連 合 課 題 ~ 左 側 頭 葉 の 腹 側 お よ び 後 方 、 左 後 紡 錘 状 回 、 左 側 頭 葉・ 頭 頂 葉 な ど の 活 性 化 。 な ど の 報 告 が あ り 、 左 側 頭 葉 、 特 に そ の 下 後 方 の 紡 錘 状 回 と 意 味 記 憶 と の 密 接 な 関 連 が認 め ら れ る ( 図 1 8 - 3 ) 。 カ テ ゴ リ ー 特 異 的 意 味 記 憶 障 害 と の 関 連 に お い て 、 処 理 す べ き 意 味 記 憶 の カ テ ゴ リ ーの 違 い に よ っ て 活 性 化 さ れ る 脳 領 野 が 異 な る か 否 か に つ い て は 種 々 の 研 究 報 告 が あ る 。 最初 の 報 告 は 1995 年頃ペラニら、マーチンらによってなされ、いずれの研究でも後頭葉の活 性 化 は 道 具 よ り 動 物 で 大 で あ り 、 こ の 傾 向 は 右 大 脳 半 球 よ り 左 大 脳 半 球 で 顕 著 で あ っ た。 そ の 後 の 研 究 で は 、 ① 後 頭 葉 内 側 活 性 化 は 動 物 で 大 、 ② 左 後 頭 葉 下 方 活 性 化 は 動 物 で 大、 4 腹 側 視 覚 系 、 背 側 視 覚 系 に つ い て の 詳 細 は 第 9 章 参 照 。 18-14

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③ 両 側 後 頭 葉 下 方 活 性 化 は 動 物 で 大 、 ④ 両 側 後 頭 葉 下 方 活 性 化 は 道 具 で 大 、 な ど の 報 告が あ る 。動 物 に 関 連 し た 処 理 は 腹 側 視 覚 系 が 関 連 し て い る こ と を 意 味 す る と 解 釈 さ れ て い る 。 図 1 8 - 3 意 味 記 憶 関 連 課 題 で 活 性 化 さ れ る 脳 部 位 以 上 の ご と く 、 意 味 処 理 に は 左 側 頭 葉 下 後 方 の 紡 錘 状 回 が 深 い 関 連 を 有 し て い る 。 こ の 領 野 の 活 動 性 に カ テ ゴ リ ー 特 異 性 は あ る か 。 当 初 は 否 定 的 な 結 果 が 報 告 さ れ た が 、 次 第に 肯 定 的 な 結 果 が 報 告 さ れ る よ う に な っ た 。 チ ャ オ ら の 報 告 で は 、 紡 錘 状 回 外 側 の 活 性 化は 動 物 で 大 で あ っ た 。 興 味 深 い こ と に こ の 部 位 は ヒ ト の 顔 に 対 し 強 く 反 応 す る 領 野 で も ある ( 図 9 - 1 5 参 照 ) 。 た だ し チ ャ オ ら に よ れ ば 顔 に 反 応 す る 領 野 の 範 囲 は 動 物 に 反 応 する 領 野 よ り も 大 で あ っ た 。 一 方 、 紡 錘 状 回 内 側 の 活 性 化 は 動 物 よ り 道 具 で 大 で あ っ た 。 側頭 葉 下 後 方 領 野 に カ テ ゴ リ ー 特 異 的 に 活 性 化 さ れ る 部 位 が あ る こ と は 他 の 研 究 者 に よ っ ても 報 告 さ れ て お り 、 紡 錘 状 回 外 側 は 動 物 に 関 連 し た 意 味 処 理 に 関 与 す る 領 野 で あ る こ と が確 認 さ れ て い る 。 動 作 あ る い は 道 具 使 用 に 特 異 的 な 意 味 記 憶 障 害 が 存 在 す る こ と は 前 述 し た 。 機 能 画 像 解 析 に お い て も 、 道 具 の 使 用 を 含 む 運 動 に 関 連 し た 刺 激 に よ っ て 活 性 化 さ れ る 領 野 が 存 在す る 。 左 運 動 前 野 の 活 動 性 は 動 物 よ り 道 具 に 対 し て 大 で あ る 。 こ の 領 野 は 道 具 使 用 に 関 連し た 動 作 に よ っ て も 活 性 化 さ れ る 。 こ れ ら の 事 実 は 道 具 の 認 識 と 運 動 前 野 と の 関 連 を 示 唆す る 。 意 味 記 憶 シ ス テ ム が 単 一 か 否 か に 関 連 し て ヴ ァ ン デ ン ベ ル ゲ ら は 次 の よ う な 報 告 を し て い る 。6 人の健常者を対象に意味判断課題を施行し、局所脳血流を PET で測定した。課題 18-15

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は 絵 と 語 と い う 異 な る 様 相 で 提 示 さ れ た 。 課 題 が 視 覚 ( 絵 ) の 場 合 と 言 語 ( 語 ) の 場 合で 活 性 化 さ れ る 脳 領 野 は 大 き く 重 な り 合 っ て い た 。 こ の 結 果 は 、 言 語 入 力 に 対 す る 意 味 処理 と 視 覚 入 力 に 対 す る 意 味 処 理 が 脳 内 の 共 通 の 領 野 で 行 わ れ て い る こ と を 示 し て い る 。 呼称 課 題 に お い て 刺 激 提 示 様 相 に 拘 わ ら ず 同 一 領 野 が 活 性 化 さ れ る こ と は 他 の 研 究 者 に よ って も 確 認 さ れ て い る 。 機 能 画 像 解 析 研 究 の 結 果 は 単 一 意 味 シ ス テ ム 説 を 支 持 す る 。 1 . 3 意 味 認 知 症 1 . 3 . 1 概 念 、 診 断 基 準 本 章 第 1 節 第 1 項 に 述 べ た ご と く で あ る 。 1 . 3 . 2 病理学所見 当 初 、 ホ ッ ジ ス ら の 研 究 グ ル ー プ は 、SD の病理学所見ではアルツハイマイー病(AD) 所 見 は 認 め ら れ ず 、 ピ ッ ク 病 所 見 も し く は 特 異 的 組 織 像 を 欠 く 認 知 症 (DLDH)所見のい ず れ か が 多 い と し て い た 。2009 年の研究報告では、SD34 例の病理学所見を、 1 ) ユ ビ キ チ ン 陽 性 封 入 体 を 伴 う 前 頭 側 頭 葉 変 性 症 所 見(18 例)。うち 11 例ではユビキ チ ン 封 入 体 を 大 脳 皮 質 お よ び 海 馬 歯 状 回 に 認 め る 運 動 ニ ュ ー ロ ン 疾 患 (MND)所見。 2 ) ピ ッ ク 病 所 見 (3 例)~タウ陽性ピック小体。 3 )AD 所見(3 例)~NFT 沈着。 の 3 型 に 分 類 し 、SD と MND との密接な関連性を強調している。 ケ ル テ ス ら の 原 発 性 進 行 性 失 語 は マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ の SD に対応する。彼らは 原 発 性 進 行 性 失 語 ( す な わ ち SD)22 例についてその臨床経過と病理学所見を詳細に検討 し て い る 。結 果 は 図 1 8 - 4 に 示 す ご と く で あ っ て 、病 理 学 的 診 断 は AD が最も多かった。 SD の剖検例は少ない。いずれの主張が妥当かは将来の研究に待つところ大である。 1 . 3 . 3 臨 床 像 パ タ ー ソ ン と ホ ッ ジ ス 、 ス ノ ー ド ン な ど に よ れ ば 、SD の臨床像は以下のごとくである ( 表 1 8 - 1 参 照 ) 。 1 )言 語 ~ 患 者 の 発 話 は 流 暢 で あ り 、構 音 は 正 常 で 文 法 障 害 や 音 韻 錯 語 は 認 め ら れ な い 。 一 方 、 発 話 内 容 は 空 虚 で 、 「 あ れ 」 や 「 こ れ 」 な ど の あ い ま い な 表 現 や 紋 切 り 方 の 表 現が 目 立 つ 。 「 手 袋 」 を 「 靴 下 」 と い う な ど 同 一 カ テ ゴ リ ー 内 で の 語 性 錯 語 が 出 現 す る 。 18-16

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意 味 認 識 の 障 害 は 呼 称 や 語 理 解 の 課 題 で 明 ら か に な っ て く る 。 患 者 は ご く あ り ふ れ た 物 品 の 呼 称 に も 障 害 を 示 す 。 語 頭 音 の 提 示 は 成 績 を 向 上 さ せ な い 。 課 題 を 多 肢 選 択 に 変 更し て も 成 績 は 向 上 し な い 。 こ れ ら の 事 実 は 物 品 名 の 想 起 が 障 害 さ れ て い る の で は な く 、 概念 自 体 が 失 わ れ て い る こ と を 示 唆 す る 。 語 理 解 も 障 害 さ れ る 。 こ の 場 合 も ご く あ り ふ れ た日 常 語 も 理 解 出 来 な い 。 患 者 に と っ て 身 近 な 語 は そ う で な い 語 よ り 保 た れ る 場 合 が 多 い 。呼 称 障 害 や 理 解 障 害 は 日 常 的 物 品 だ け で な く 、 動 物 名 、 食 物 、 身 体 部 位 、 道 具 な ど 広 汎 な範 囲 に 及 ぶ が 、 概 念 の 喪 失 は 完 全 で は な い 。 あ る 患 者 は レ モ ン が 動 物 で は な い こ と は 理 解し て い た 。 し か し バ ナ ナ や リ ン ゴ と ど う 違 う の か は 理 解 出 来 な か っ た 。 図 1 8 - 4 原 発 性 進 行 性 失 語 の 臨 床 像 の 変 化 と 病 理 学 所 見 2nd-SYNDROME:第二症状、3rdSYNDROME:第三症状、PATHOLOGY:病理学 FTD-bv:前頭側頭型認知症行動変異型、PPA:特発性進行性失語症、 CBDS:皮質基底核変性症(臨床)、MND:運動ニューロン疾患、DLDH:特異的組織像 を 欠 く 認 知 症 、NMDI:封入体型運動ニューロン疾患、AD:アルツハイマー病、Pick’s:ピ ッ ク 病 、CBD:皮質基底核変性症、PSP:進行性核上麻痺、 DLB:レビー小体病、GT:グリオシス 18-17

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言 語 理 解 の 障 害 は 語 レ ベ ル で 生 じ 、 文 法 構 造 の 理 解 は 比 較 的 保 た れ る 。 質 問 文 「 ト ラ が ラ イ オ ン に 殺 さ れ た 。 死 ん だ の は ど ち ら か 」 に は 正 答 す る が 、 質 問 文 「 ト ラ と ネ ズ ミ はど ち ら が 大 き い か 」 に は 答 え ら れ な い 。 復 唱 、 書 き 取 り 課 題 は 意 味 理 解 障 害 に 伴 う 誤 り が 多 少 見 ら れ る が 比 較 的 保 た れ て い る 。 有 意 味 文 の 復 唱 に 比 し て 、 無 意 味 文 の 復 唱 は よ り 困 難 で あ る 。 読 字 で は 、 患 者 は 音 韻 を手 が か り に 文 章 を 読 む 。 従 っ て 不 規 則 綴 り の 語 が 読 め な い 表 層 失 読 の 症 状 を 呈 す る5 病 状 の 進 行 と 共 に 発 話 内 容 は さ ら に 空 虚 と な り 、 表 現 も 紋 切 り 方 と な る 。 話 題 は 狭 くな り 身 の 回 り の 事 柄 に 限 ら れ て く る 。 し か し 非 流 暢 な 発 話 や 努 力 性 発 話 は 可 能 で あ る 。 2 ) 感 覚 ~ 感 覚 障 害 は 認 め ら れ な い 。 視 覚 、 聴 覚 、 触 覚 、 味 覚 、 嗅 覚 な ど に 粗 大 な 障 害 は な い 。 3 ) 顔 認 識 ~ 顔 の 認 識 障 害 は 発 症 当 初 か ら 存 在 す る 。 そ の 本 質 は 顔 に 関 す る 意 味 記 憶 の 障 害 で あ っ て 知 覚 の 障 害 で は な い 。 従 っ て 、 顔 の 弁 別 や 同 定 で は 障 害 は 認 め ら れ な い 。障 害 は 有 名 人 、 歴 史 上 の 人 物 な ど 個 人 的 な 知 人 で は な い 人 物 に 関 し て 顕 著 で あ る 。 家 族 、友 人 な ど に 関 し て は 軽 度 で あ る 。 顔 の 認 識 障 害 で あ る 相 貌 失 認 に は 、 ① 統 覚 型 、 ② 連 合 型、 ③ 健 忘 型 が 区 別 さ れ る6。SDの顔認識障害は健忘型相貌失認である。 4 )視 覚 的 物 品 認 識 ~SDでは視覚的物品認識も障害される。発症初期は目立たないが次 第 に 明 ら か に な っ て く る 。 語 理 解 の 場 合 と 同 じ く 物 品 概 念 の 喪 失 は 完 全 で は な い 。 患 者は 物 品 を 食 べ ら れ る 物 品 と 食 べ ら れ な い 物 品 に 分 類 す る こ と は 可 能 で あ る7。 し か し 食 べ る 前 に 調 理 が 必 要 な 物 品 ( ニ ワ ト リ ) と 必 要 で な い 物 品 ( レ タ ス ) の 区 別 は 出 来 な い 。 自分 が 使 っ て い る 道 具 は 認 識 出 来 る が そ の 道 具 の 絵 や 写 真 は 認 識 出 来 な い 。 道 具 を 実 際 に 使う こ と は 出 来 る が 、 道 具 の 用 途 や 使 い 方 を 説 明 す る こ と が 出 来 な い 。 抽 象 的 な レ ベ ル で の知 識 が 失 わ れ て い る 。 物 品 の 形 態 知 覚 は 障 害 さ れ な い 。 従 っ て 、 物 品 を 正 確 に 模 写 す る こと が 可 能 で あ る 。 物 品 間 の 形 態 レ ベ ル で の 照 合 課 題 も 誤 り な く 遂 行 出 来 る 。 5 ) 数 ~ 数 概 念 の 理 解 、 計 算 は 比 較 的 保 た れ る 。 金 銭 を 取 り 扱 う こ と も 可 能 で あ る 。数 に 関 連 し た ク イ ズ や ゲ ー ム な ど も 楽 し む こ と が 出 来 る 。 一 方 に お い て 貨 幣 を 認 識 す る こと が 出 来 ず 、 聴 覚 的 に 与 え ら れ た 数 と 数 字 と の 照 合 が 出 来 な く な る 。 5 第 7 章 で 述 べ た ご と く 、日 本 語 に お け る 表 層 失 読 症 状 は 井 村 に よ っ て 詳 し く 検 討 さ れ た 。 患 者 は 仮 名 は 読 め る が 漢 字 は 読 め な く な る 。 6 第 9 章 参 照 。 7 重 症 例 で は こ の 区 別 も 障 害 さ れ る 。 筆 者 の 自 験 例 は 「 消 し ゴ ム 」 を 「 チ ョ コ レ ー ト 」 と 誤 認 し た 。 18-18

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6 ) 視 空 間 認 識 ~ 視 空 間 認 識 や 移 動 能 力 は 一 般 に 保 た れ て い る 。 道 に 迷 う こ と も な く、 ス ー パ ー で 食 品 の 陳 列 棚 の 位 置 を 正 し く 覚 え て い る 。 視 空 間 認 識 に 関 す る 神 経 心 理 学 的検 査( 線 分 の 傾 き 判 断 、点 の 計 数 、二 次 元 空 間 の 位 置 判 断 、な ど )の 成 績 も 正 常 範 囲 で あ る 。 こ の 点 は ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 (ATD)との重要な鑑別点となる。 7 ) 視 覚 以 外 の 認 識 ~ 対 象 の 意 味 の 認 識 障 害 は 視 覚 以 外 の 感 覚 様 相 に も 生 じ る 。 聴 覚 に お い て は 、電 話 の ベ ル や 玄 関 の 呼 び 鈴 な ど の 非 言 語 音 の 認 識 に 障 害 が 認 め ら れ る 。手 触 り 、 味 、 香 り な ど の 認 識 、 同 定 に も 障 害 を 示 す 。 8 ) 運 動 ~ 運 動 面 で の 障 害 は 認 め ら れ な い 。 運 動 巧 緻 性 は 低 下 し な い 。 高 度 の 運 動 技 能 を 必 要 と す る 活 動 、 た と え ば ピ ア ノ 演 奏 、 ゴ ル フ な ど を 支 障 な く 行 え る 。 し か し 知 識 を必 要 と す る 行 為 、 例 え ば 調 理 な ど は レ シ ピ が 読 め な く な る た め 遂 行 出 来 な く な る 。 9 ) 短 期 記 憶 、 作 業 記 憶 ~ 粗 大 な 障 害 は な い 。 こ れ は 言 語 材 料 、 非 言 語 材 料 い ず れ の 場 合 で も 同 様 で あ る 。 1 0 )エ ピ ソ ー ド 記 憶 ~SD が ATD などの他の認知症と最も異なる点はエピソード記憶 が 保 た れ て い る こ と で あ る 。 患 者 は 約 束 し た 場 所 や 時 間 を 正 し く 記 憶 し て お り 、 自 分 の身 の 回 り の 出 来 事 も よ く 覚 え て い る 。 ま た 住 居 が 替 わ っ た 場 合 で も 新 し い 住 所 の 地 理 を 容易 に 学 習 す る こ と が 可 能 で あ る 。ま た 、エ ピ ソ ー ド 記 憶 障 害 の 質 的 側 面 に つ い て もSD と ATD に は 違 い が 認 め ら れ る 。 自 伝 的 記 憶 に は 意 味 記 憶 の 色 彩 が 強 い 側 面 ( 幼 少 期 通 っ た 小 学校 名 ) と エ ピ ソ ー ド 記 憶 の 色 彩 が 強 い 側 面 ( 昨 日 の 夕 食 に 何 を 食 べ た か ) が あ る 。 ホ ッ ジス ら は 健 常 者 、ATD 患者、SD 患者を対象にこの自伝的記憶の二つの側面を比較した。結果 は 図 1 8 - 5 の ご と く で あ っ た 。ATD は、エピソード記憶の側面で明瞭な時間的傾斜を示 し 、 最 近 の 記 憶 ほ ど 成 績 が 低 下 し た 。 意 味 記 憶 の 側 面 は 時 間 的 傾 斜 が 明 瞭 で は な い 。SD で は 両 者 と も 時 間 的 傾 斜 を 示 し 、 か つ ATD と逆に最近の記憶の方が成績良好であった。 ATD は出来事のエピソード的側面を「記銘」する事に障害がある。SD では出来事のエピ ソ ー ド 的 側 面 と 意 味 的 側 面 を 「 想 起 」 す る 事 に 障 害 が あ る 。 1 1 ) 行 動 ~ 自 己 中 心 性 、 行 動 柔 軟 性 の 欠 如 、 感 覚 刺 激 過 敏 、 危 機 感 の 欠 如 、 食 の 好 み の 変 化 、 強 迫 行 動 、 な ど の 行 動 変 容 が 認 め ら れ る 。 最 も 特 徴 的 な 症 状 は 特 定 の 決 ま り 切っ た 行 動 へ の こ だ わ り で あ る 。 毎 日 時 計 が 時 を 刻 む よ う に 同 じ 行 動 を 繰 り 返 す 。 「 部 屋 のあ る 位 置 に だ け 座 る 」 の よ う な 無 意 味 な 儀 式 的 動 作 を 毎 日 繰 り 返 し 行 う 。 し か し こ れ ら の行 動 を 禁 止 さ れ も 強 迫 患 者 の よ う に 不 安 を 感 じ る こ と は な い 。 18-19

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図 1 8 - 5 意 味 認 知 症 と ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 に お け る 記 憶 障 害 の 違 い Control:統制群、A-D-Amnesic:アルハイマー型認知症、Sem.Dem.意味認知症 childhood:幼少期、Early Adulthood:青年期、Recent:最近 Semantic Component:意味的側面 Autobiograpphical Component:エピソード的側面 18-20

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1 2 ) 病 識 ~ 患 者 は 自 己 の 障 害 は 認 識 し て い る 。 し か し そ れ を 重 大 な 問 題 と 感 じ た り 悩 ん だ り す る こ と は な く 、 無 関 心 で あ る 。 1 3 ) 身 体 症 状 、 神 経 症 状 ~ 一 般 に 身 体 症 状 、 神 経 症 状 は 認 め ら れ な い 。 晩 期 に は 錐 体 外 路 症 状 、 前 頭 葉 性 の 解 放 症 状 が 認 め ら れ る 。 少 数 例 で は 運 動 ニ ュ ー ロ ン 疾 患 の 症 状 が出 現 す る 。 1 . 3 . 4 画 像 解 析 所 見 1 ) 形 態 画 像 解 析 所 見 ~ 当 初 SD として報告された症例では側頭葉領野外側、特に側頭 極 の 萎 縮 が 共 通 所 見 と し て 記 載 さ れ た 。 例 え ば 1992 年ホッジスらの論文では CT で、両 側 頭 葉 萎 縮( 症 例 PP)、左優位の両側頭葉萎縮(症例 MC)、左側頭葉萎縮(症例 JL)、 左 側 頭 葉 萎 縮( 症 例 EP)、が見出されている。その後の研究でも SD では側頭葉萎縮が多 く の 症 例 で 認 め ら れ て い る 。し か し 、側 頭 葉 萎 縮 の 詳 細 に つ い て は 症 例 に よ る 違 い が あ る 。 ま ず 左 右 差 が あ る か ど う か に つ い て は 、 症 例 に よ り 差 が あ る こ と は 上 記 ホ ッ ジ ス ら の 論 文 か ら も 明 ら か で あ る 。 全 体 的 傾 向 と し て は 右 よ り 左 で 萎 縮 が 顕 著 で あ る と す る 報 告 が多 い 。 デ ス グ ラ ン ジ ェ ら は 10 例の SD の MRI 像について容積計測法を用いて詳細な解析を 行 い 、 左 側 頭 葉 の 萎 縮 程 度 と 神 経 心 理 学 的 検 査 所 見 と の 間 に 有 意 な 相 関 を 見 出 し て い る。 他 の 研 究 に お い て も 、 左 側 頭 葉 限 局 性 で は な く 萎 縮 は 両 側 に 認 め ら れ る 症 例 で も 、 詳 細な 検 討 に よ れ ば 萎 縮 は 左 側 頭 葉 で 顕 著 で あ る 。 側 頭 葉 以 外 の 大 脳 皮 質 領 野 の 病 変 に つ い て は 、 ホ ッ ジ ス ら の 研 究 で は 下 前 頭 回 の 萎 縮 が 認 め ら れ た 。 ス タ ッ ド ホ ー ル ズ の 研 究 で は 側 頭 葉 の 萎 縮 が 後 頭 葉 に ま で 及 ん で い た 。 萎 縮 が 大 脳 皮 質 限 局 性 か 皮 質 下 の 海 馬 な ど に ま で 及 ぶ の か に つ い て は 種 々 議 論 が あ る 。 1992 年のホッジスらの研究では海馬病変には言及されていない。彼のグループの 2000 年 の 報 告 で も 海 馬 は 保 た れ て い る と 述 べ ら れ て い る 。 デ ス グ ラ ン ジ ェ ら の 研 究 で は 海 馬 領域 に も 萎 縮 が 認 め ら れ た 。 ス タ ッ ド ホ ー ル ズ の 研 究 で は 、 海 馬 お よ び 海 馬 傍 回 に も 萎 縮 像が 認 め ら れ た 。 リ ュ ー ら の 報 告 例 で は 、 両 側 頭 葉 萎 縮 と 共 に 、 尾 状 核 、 被 殻 、 視 床 に も 両側 性 の 病 変 が 認 め ら れ た 。 SD に認められる意味記憶障害は ATD でも認められる。第16章で述べたように、SD は 臨 床 病 理 学 的 に 前 頭 側 頭 型 認 知 症 と 近 縁 関 係 に あ る 。 画 像 解 析 上 SD とこれらの認知症 と の 異 同 は ど う か 。 ボ ク サ ー ら は SD11 例と ATD11 例の MRI を比較した。SD に比して ATD では左頭頂葉、両側帯状回、両側楔部の萎縮が顕著であった。グロスマンらは ATD12 18-21

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例 、CBD9例、FTD29 例(SD8 例、PNFA7 例、NON-APH14 例)の MRI 像を比較した。 結 果 は 図 1 8 - 6 に 示 す ご と く で あ っ た 。FTD は健常統制群に比して両側前頭葉および側 頭 葉 に 有 意 な 萎 縮 が 認 め ら れ た 。 側 頭 葉 萎 縮 は SD で 最 も 顕 著 で あ り 、 PNFA お よ び NON-APH に比して SD の左側頭葉後外側は有意に高度の萎縮を示した。特に NON-APH と の 差 が 顕 著 で あ っ た 。ロ ー ゼ ン ら も SD と他の FTD との比較を行っている。SD に比し て FTD では前頭葉腹内側、後眼窩部、島回の両側性萎縮が顕著であった。逆に SD では両 側 の 側 頭 葉 前 方 、 扁 桃 体 / 前 海 馬 領 域 で 萎 縮 が 顕 著 で あ っ た 。 図 1 8 - 6 意 味 認 知 症 と 他 の 前 頭 側 頭 型 認 知 症 の MRI 所見の比較 A:健常統制群に比して認知症で萎縮が認められる部位。ピンク:SD、緑:PNFA、 青:NON-APH、B:PNFA に比して SD で萎縮が大である部位、C:NON-APH に比して SD で萎縮が大である部位、D:SD に比して PNFA で萎縮が大である部位

E:NON-APH に比して PNFA で萎縮が大である部位、F:NON-APH に比して SD で萎 縮 が 大 で あ る 部 位 、G:PNFA に比して NON-APH で萎縮が大である部位。

SD:意味認知症、PNFA:進行性非流暢性失語、NON-APH:失語のない前頭側頭型認知症 18-22

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図 1 8 - 7 意 味 判 断 課 題 遂 行 時 に お け る 意 味 認 知 症 (Patients)と 健 常 者 (Normals)の酸素消費量変化の比較 2 ) 機 能 画 像 解 析 所 見 ~SD では形態画像解析と同じく機能画像解析でも側頭葉領野の 機 能 低 下 が 認 め ら れ る が 、そ の 範 囲 は よ り 広 範 に 及 ぶ 。1992 年のホッジスらのグループの 報 告 例 4 例 は い ず れ も SPECT もしくは PET で機能低下を認めたが、その範囲は側頭葉の み な ら ず 前 頭 葉 お よ び 頭 頂 葉 に も 及 ん で い た 。 デ ス グ ラ ン ジ ェ ら の 研 究 で も 、 機 能 低 下の 範 囲 は 側 頭 葉 を 超 え て 前 頭 葉 眼 窩 部 に ま で 及 ん で い た 。 ホ ッ ジ ス ら の グ ル ー プ は 文 字 およ び 絵 で 提 示 さ れ た 刺 激 の 意 味 判 断 課 題 遂 行 中 の 酸 素 消 費 量 の 変 化 を SD と健常統制群で比 較 し た 。結 果 は 図 1 8 - 7 に 示 す ご と く で あ っ た 。健 常 者 で は 、左 下 前 頭 葉 、左 下 側 頭 回 、 左 前 頭 葉 ・ 頭 頂 葉 ・ 側 頭 葉 接 合 部 お よ び 前 帯 状 回 が 両 刺 激 に 共 通 し て 活 性 化 さ れ た 。 更に 文 字 提 示 で は 左 後 側 頭 葉 も 有 意 に 活 性 化 さ れ た 。SD でも健常者と同様の部位が活性化さ れ た が 、 文 字 に 比 し て 絵 で 左 下 前 頭 回 、 左 下 側 頭 回 、 後 帯 状 回 が よ り 活 性 化 さ れ た 。 これ ら の 領 野 は 健 常 者 で は む し ろ 文 字 で 活 性 化 が 大 で あ っ た 。 す な わ ち 、SD では文字意味判 断 課 題 遂 行 時 に 左 側 頭 葉 後 方 活 性 化 の 欠 如 が 認 め ら れ た 。 著 者 ら は こ の 結 果 を 次 の よ うに 18-23

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考 察 し て い る 。SD では臨床的に物品呼称障害が認められた。上記の実験結果と考え併せ る と 、 左 側 頭 葉 後 方 は 意 味 レ キ シ コ ン と 音 韻 レ キ シ コ ン と の 照 合 に 関 与 す る 領 野 で あ り、 SD ではこの領野の損傷により意味レキシコンと音韻レキシコンとの照合が障害されてい る 。 1 . 3 . 5 発 症 機 序 現 時 点 で 、SD の発症機序は不明である。ホッジスらの SD100 例の検討によれば、家族 内 発 症 は 2 例 に 認 め ら れ 、 家 族 内 発 症 率 は 2~7%と推定される。SD の発症には遺伝的要 因 が 関 与 し て い る 可 能 性 が あ る 。 ホ ッ ジ ス ら の 検 討 で は 、SD の病理学所見としてユビキ チ ン 陽 性 封 入 体 を 伴 う 前 頭 側 頭 葉 変 性 症 所 見 が 最 も 多 い 。 第 1 6 章 で 述 べ た よ う に 、SD と 近 縁 関 係 に あ る FTD の発症機序の一つとして、リン酸化 TDP-43 が細胞内に沈着する こ と に よ り そ の 生 理 機 能 を 失 う か 、 あ る い は 沈 着 リ ン 酸 化 TDP-43 が異常機能を獲得する こ と に よ り 神 経 変 性 が お こ る 可 能 性 が 考 え ら れ て い る 。SD でも類似の発症機序が考えら れ る が 、ホ ッ ジ ス ら の 検 討 で は 、SD とリン酸化 TDP-43 封入体陽性所見を有する FTD 家 系 と の 関 連 は 乏 し い 。 ケ ル テ ス ら は 病 理 学 的 に SD と AD の近縁関係を認めている(前述)。AD はしばしば 臨 床 的 に SD 様の症状を呈することを考えると、SD を AD の枠内に位置づけて考えること も 可 能 で あ る 。 2 . 原 発 性 進 行 性 認 識 障 害 2 . 1 ま え が き 本 節 で は 中 枢 神 経 系 の 変 性 疾 患 な ど に 伴 っ て 特 定 の 高 次 脳 機 能 が 次 第 に 低 下 す る が 他の 高 次 脳 機 能 は 比 較 的 保 た れ る 病 態 、 す な わ ち 原 発 性 進 行 性 認 識 障 害 (PPCD) について検 討 す る 。 こ の 症 状 の 存 在 は か な り 早 く か ら 報 告 さ れ て い た 。 例 え ば ピ ッ ク は 1892 年既に 進 行 性 の 失 語 に つ い て 言 及 し て い る 。 し か し 注 目 さ れ る よ う に な っ た の は 1980 年代以降 で あ る 。デ ラ・サ ラ は そ の 理 由 と し て 、① 認 知 症 が 注 目 さ れ る に つ れ PPCD と認知症の鑑 別 診 断 が 臨 床 的 に 重 要 な 課 題 に な っ た こ と 、 ② 症 状 と 病 変 部 位 と の 対 応 関 係 の 詳 細 な 検討 が 可 能 で あ る こ と か ら 高 次 脳 機 能 の 局 在 研 究 に 大 き く 貢 献 し う る こ と 、 の 二 つ を 指 摘 して い る 。 18-24

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認 知 症 は 全 般 的 な 高 次 脳 機 能 の 低 下 で は あ る が 、 全 て の 機 能 が 同 程 度 に 障 害 さ れ る 訳 で は な い 。 例 え ば ATD では前向性記憶障害が目立つのに対し、皮質基底核変性症や前頭側 頭 型 認 知 症 で は 遂 行 機 能 障 害 が 目 立 つ 。 ま た 同 じ ATD でも全般的な高次脳機能障害が認 め ら れ る 「 全 般 型 」 に 対 し て 、 特 定 の 高 次 脳 機 能 が 特 に 障 害 さ れ る 「 局 所 型 」 も 少 な くな い 。 し か し 殆 ど の 症 例 は 次 第 に 他 の 高 次 脳 機 能 も 障 害 さ れ 、 最 終 的 に は 全 て の 高 次 脳 機能 が 著 し く 障 害 さ れ る 。一 方 、PPCD では特定の高次脳機能のみが障害されるだけではなく、 そ の 状 態 が 長 期 、症 例 に よ っ て は 十 年 以 上 も 持 続 す る 。こ の 点 で 、臨 床 的 に は PPCD は認 知 症 と は 明 ら か に 区 別 さ れ る 。 デ ラ ・ セ ラ は 最 初 の 高 次 脳 機 能 障 害 の 出 現 か ら 次 の 高 次脳 機 能 障 害 出 現 ま で 36 ヶ月以上経過することが PPCD と認知症の鑑別点になりうると考え て い る 。 PPCD の発症機序については殆ど解明が進んでいない。ATD に比べて PPCD の進行は 明 ら か に 遅 い 。 こ れ は PPCD の背景にある中枢神経系変性過程は ATD とは異なることを 示 唆 す る 。 も し PPCD と ATD が同じ変性疾患であるとするなら、何故 PPCD では ATD の よ う な 全 般 的 な 高 次 脳 機 能 の 低 下 が 生 じ な い の か が 問 題 と な る 。PPCD で特定の高次脳 機 能 の み が 障 害 さ れ る こ と は 大 脳 皮 質 の 変 性・萎 縮 が 限 局 性 で あ る こ と を 示 唆 す る 。PPCD で は 何 故 ATD に見られるような大脳皮質全体の変性・萎縮が生じないのか。PPCD では 変 性 ・ 萎 縮 を 限 局 さ せ る よ う な 何 ら か の 防 御 機 構 が 作 用 し て い る の か 。 こ れ ら の 点 の 解明 は ATD をはじめとする認知症全般の発症機序解明、治療・予防にも役立つであろう。 2 . 2 原 発 性 進 行 性 失 語 2 . 2 . 1 概 念 前 述 の ご と く 、 他 の 認 知 症 症 状 を 伴 わ ず 失 語 症 状 の み が 潜 在 的 に 出 現 し 緩 徐 に 進 行 す る 失 語 の 存 在 は 既 に 19 世紀末から報告されていた。しかし注目を浴びるようになったのは 1982 年メスラムらの症例報告がきっかけである。彼らは緩徐に進行する失語症状のみを呈 し て 他 の 高 次 脳 機 能 障 害 を 認 め ず 、 左 側 頭 葉 領 野 も し く は 左 シ ル ビ ウ ス 溝 周 辺 領 野 の 萎縮 を 示 す 症 例 6 例 を 「 緩 徐 進 行 性 失 語 (SPA)」として報告した。以来類似の症例が多数報 告 さ れ 、SPA の概念が確立した。メスラムらが報告した症例はいわゆる流暢失語の症状を 示 す が 、 同 じ く 潜 在 的 に 出 現 し 緩 徐 に 進 行 す る 失 語 で あ る が 非 流 暢 失 語 の 症 状 を 示 す 類型 が マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ ら に よ っ て 報 告 さ れ た 。 彼 ら は こ れ を 「 進 行 性 非 流 暢 失 語 (PNFA)」と命名した。両者を併せて「緩徐進行性失語」、「原発性進行性失語」、「原 18-25

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発 性 緩 徐 進 行 性 失 語 」 な ど と 呼 ば れ て い る 。 本 書 で は 「 原 発 性 進 行 性 失 語 (PPA)」と呼 ぶ 。 2 . 2 . 2 病 理 学 所 見 PPA で一般的に認められる病理学所見は左前頭葉、側頭葉の萎縮である。光顕所見では、 皮 質 表 層 の 細 胞 脱 落 、グ リ オ シ ス が 認 め ら れ る 。FTD における特異的組織像を欠く認知症 (DLDH)類似の所見である。メスラムによれば、PPA の約 60%にこの所見が認められる。 AD あるいはピック病様の所見を示す症例は少ない。皮質基底変性症、進行性核上性麻痺、 ク ロ イ ツ フ ェ ル ト ・ ヤ コ ブ 病 な ど の 病 理 学 所 見 を 示 し た 症 例 も 報 告 さ れ て い る 。 臨 床 像と の 対 応 で は 、 大 脳 前 方 領 野 病 変 が 主 で あ れ ば 非 流 暢 性 失 語 、 後 方 領 野 で あ れ ば 流 暢 失 語で あ る 場 合 が 多 い と さ れ る が 、 例 外 も 少 な く な い 。 PPA の病理学的本態は前頭側頭葉萎縮症あるいはピック複合体のスペクトラム(図16 - 1 4 参 照 ) に 含 ま れ る と す る 見 方 が 一 般 的 で あ る 。 2 . 2 . 3 臨 床 像 PPA の臨床像は以下の諸類型が記載されている。ただしその違いはあくまで相対的、概 念 的 な も の で あ り 、 個 々 の 症 例 で は い ず れ と も 判 断 出 来 な い こ と が 多 い 。 2 . 2 . 3 . 1 原 発 性 進 行 性 非 流 暢 失 語 マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ に よ れ ば 原 発 性 進 行 性 非 流 暢 失 語 (PPNA)の診断基準は 以 下 の ご と く で あ る 。 ① 言 語 表 出 の 障 害 が 発 症 か ら 疾 患 の 経 過 を 通 し て 優 位 な 特 徴 で あ る 。 他 の 高 次 脳 機 能 は 損 な わ れ な い か 、 比 較 的 良 好 に 保 た れ る 。 ② 主 要 な 診 断 特 徴 は 潜 在 的 発 症 と 緩 徐 な 進 行 で あ り 、 非 流 暢 自 発 発 話 、 失 文 法 、 字 性 錯 話 、 失 名 辞 の い ず れ か を 少 な く て も 一 つ は 示 す こ と で あ る 。 支 持 的 診 断 特 徴 は 、 言 語 ・ 発 話 面 で は ① 吃 音 ま た は 発 話 失 行 、 ② 復 唱 障 害 、 ③ 失 読 、 失 書 、 ④ 発 症 初 期 の 語 彙 の 保 持 、 ⑤ 末 期 に お け る 無 言 、 で あ る 。 行 動 面 で は ① 初 期 の 社 会的 技 能 の 保 持 、 ③ 末 期 の FTD 類似の行動変容、である。 4 ) 神 経 症 状 と し て は ① 末 期 の 対 側 原 始 反 射 、 ② 無 動 、 ③ 強 剛 お よ び 振 戦 、 が 認 め ら れ る 。 18-26

表 1 8 - 1   マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ と ラ ン ド 大 ・ グ ル ー プ の 意 味 認 知 症  お よ び 連 合 型 失 認 の 診 断 基 準   定 義 : 理 解 障 害 ( 語 の 意 味 理 解 お よ び 物 品 認 識 障 害 ) が 発 症 か ら 疾 患 の 経 過 を 通 し て優 位 な 特 徴 で あ る 。 自 伝 的 記 憶 を 含 む 他 の 高 次 脳 機 能 は 損 わ れ な い か 、 比 較 的 良 好 に 保 た れ る
表 1 8 - 1   マ ン チ ェ ス タ ー ・ グ ル ー プ と ラ ン ド 大 ・ グ ル ー プ の 意 味 認 知 症  お よ び 連 合 型 失 認 の 臨 床 診 断 基 準 ( 続 き )      C.身体的徴候  1 . 原 始 反 射 の 欠 如 も し く は 末 期 の 出 現  2 . 無 動 、 強 剛 お よ び 振 戦        D.検査        1.神経心理学:語理解、相貌および物品の認識障害として出現する重度の  意 味 理 解 障 害 。  音 韻
表 1 8 - 3   症 例 JBR の物品同定および呼称課題の正答率                自 然 事 物                                   人工物        視 覚               聴 覚                 視 覚               聴 覚   同 定     呼 称       同 定     上 位 概 念     同 定     呼 称       同 定   上 位 概 念 6%          6%
図 1 8 - 1   意 味 記 憶 シ ス テ ム の 二 つ の 処 理 モ デ ル  1 . 2 . 3 . 4   意 味 記 憶 の ク リ ー ク ・ モ デ ル    厳 密 に 言 う と 、 図 1 8 - 1 の 二 つ の モ デ ル は 意 味 記 憶 シ ス テ ム の 処 理 モ デ ル で あ り 、意 味 記 憶 シ ス テ ム 自 体 の モ デ ル で は な い 。 一 方 、 チ ェ ン は 「 ク リ ー ク 」 の 概 念 を 用 い て 意味 記 憶 シ ス
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