学習支援と学部教育は いかに連携できるのか
─良心館ラーニング・コモンズでの セミナー実践をもとにして─
同志社大学 学習支援・教育開発センターアカデミック・インストラクター 鈴木夕佳
同志社大学 学習支援・教育開発センター助教 岡部晋典
同志社大学 学習支援・教育開発センター准教授 浜島幸司
要約
本稿では、良心館ラーニング・コモンズで展開しているセミナーが正課科目に活用 された事例を元に、その成果と課題を検討した。その上で、正課教育と学習支援との 連携のあり方について展望を述べた。結論として、それらの連携から最終的に学生の 自主的な学習にどのように結び付けていくのかを考える必要があること等、得られた 知見を論じた。
1.はじめに
同志社大学良心館ラーニング・コモンズは2015年度で開室3年目を迎えた。当施設 は学習支援・教育開発センターが中心となって他部署と連携しながら管理・運営を行っ ており、学習相談やアカデミックスキルセミナーをはじめとするさまざまな学習支援 を展開している。
今後もより質の高い学習/修支援を行うにあたり、大学教育の中心である正課教育 との連携は重要な課題である。そこで本稿では、良心館ラーニング・コモンズで展開 しているアカデミックスキルセミナーが学部の初年次科目に活用された事例を紹介お よび分析し、学習支援が大学全体の教育活動の中にどのように位置づけられ機能でき るのか、また学習支援と正課教育との連携の可能性について考察する。
第一部 研究論文・実践報告
2.先行研究の紹介
1960年代以降、大学進学率の上昇や社会状況の変化に伴い、日本の大学には学力や 資質、背景等が多様な学生が入学してくるようになったといわれている。また、高校 と大学との接続関係の揺らぎも要因となり、きわめて優秀な学生も入学してくる一 方で、学生の「生徒化」や基礎学力の低下が問題視されている。そのような問題に対 処するため、初年次教育やリメディアル教育等、大学生活の入口段階での教育や、学 生の学習能力や論理的思考力、チームワーク力等の養成を重視した教育への関心が高 まっている。大学はそれぞれが掲げる教育目標や文化を背景に、特色ある教育カリキュ ラムの展開を進めている。
この流れに呼応するように、図書館や、1990年代以降より北米を中心に広がり、日 本でも設置が増加しているラーニング・コモンズ等をはじめとする学生の主体的学習 の支援を担う機関も、さまざまな取組によって教育の質および学生の学習能力の向上 に貢献しようとしている。しかし、それは組織独自の取組として実施されるものが散 見され、大学教育の中心である正課教育と共通の目的をもって連携しているものは数 少ないように思われる。正課教育と学習支援とが協働し連携をすることで、より高い 教育効果や学習成果をあげることが可能となると考えられる。
しかし、学部ごとの特色が色濃くあらわれている日本では、正課教育と学習支援と の体系的な連携はいまだ発展途上であると考えられる。また、連携の形態や深度は大 学や組織によって多様である。そこで、本章では、これまでに報告されている正課教 育と各学習支援組織との連携事例を概観し、成果と課題を把握する。加えて、本稿で 検討する事例でもある初年次教育と学習支援に関する先行研究をまとめる。
2−1.図書館と正課教育との関連事例
従来、図書館は大学の学術情報基盤として、高等教育および学術研究活動全般を支 える役割を担ってきた。それのみにとどまらず、学生のより自発的な学習や実践の必 要性が重視されるようになるとともに、図書館職員によるレファレンスサービスや情 報リテラシー教育の実践等、学習支援および教育活動への関与が期待されてきている
(文部科学省科学技術・学術審議会 2010)。
図書館が中心となって全学的に情報リテラシー教育を展開した事例として、京都大 学の取組(慈道1998)が挙げられる。この事例では、図書館職員と教員が協働し、全 学共通科目「情報探索入門」として情報活用に関する講義を実施したことが報告され
ている。このような図書館が中心となった情報活用に関する講義科目の設定は、当時 の国立大学の中でも先駆的な取組であった。本取組の提案者は、情報工学者であり、
のちに国立国会図書館館長を務める京都大学・長尾真元総長であった。この取組には、
図書館職員の育成や学内における彼らの存在価値の認識拡大を行うねらいも含まれて いたという。
また、東京女子医科大学では、司書が授業の1コマを受け持ち、情報探索に関する 講義を行うといった事例(山下 2014)等も報告されている。この報告に限らず、授業 の1コマを使い、図書館スタッフによる図書館ツアーや情報探索の講習を行うといっ た事例は、大学の初年次科目でよく取り入れられている。
一方、授業外においても、教員と図書館職員との協働によるライティングセミナー の実施(赤井 2011)等、情報リテラシー教育にとどまらない学習支援の活動が行われ ている。しかし、課外学習であるために学生の受講動機の確保が困難であること、講 師に幅広い専門分野の基礎知識が必要であること、ごく少数の学生にしか対応できな いこと等が課題として挙げられている。
北米においては、図書館員によって学習支援が担われているケースが広く知られて いる。長澤(2013)はミシガン大学のケース・スタディをもとに、フィールド・ライ ブラリアン(部局に派遣される図書館員)の活動を紹介している。彼らはそれぞれ の担当部局にオフィスを構え、関係者や教員との連携体制を敷いている。そうするこ とによって、図書館員が教員の教育環境や研究環境と一体化して活動することが可能 となっている。このように北米での取組は広く知られているが、図書館員による学習 支援の取組は他の地域でも行われている。例えば、オーストラリアにおける、図書館 員と初年次教育担当者との協働によるアカデミック・ライティングの事例(Wilkes, Godwin and Gurney 2015)や、アジアからの留学生が多数を占めるスウェーデンの 工科大学において、図書館員による剽窃防止のための研究方法論のコースが正課科目 へと統合された事例(Gunnarsson, Kulesza and Pettersson 2014)等が報告されている。
以上の通り、正課教育の一環として図書館職員が教員とともに授業を行うといった 連携から、授業外での学習スキルに関する講習の実施、図書館職員の部局への派遣ま で、国外では多くの事例が、国内では数少ないながらも、さまざまな形態での連携が 模索・実践されている。
ただし、これらの文献はあくまでも実践報告であり、実施にあたっての計画や実践 例、および実際のアンケート等については触れているものの、次のサイクルに向けて どのような訂正を行ったかといった省察の実行プロセスまで踏み込んでいるものは、
第一部 研究論文・実践報告
数少ない例外を除いてほとんど存在しない。2−2.リメディアル教育とその支援体制
前述の通り、大学進学率の上昇や社会状況の変化によって引き起こされた学生の多 様化に対応すべく、大学生活の入口段階での教育の必要性が重要視されるようになっ た。その中でもリメディアル教育は、本来、中等教育で身につけるべき内容を補修す ることを目的とする点で、高校から大学への円滑な移行を図ることを主たる目的とす る初年次教育とは区別されるものとして扱われている。しかし、大学や教員がこうし た教育の必要性を実感しつつある一方で、リメディアル教育が必要な学生ほど、課外 講習や補習授業を受講したがらないという問題点も指摘されている(濵名 2007)。
特に、理工系の専門課程は、数学や物理に関する基礎学力を備えていることを前提 として講義が進められるため、それらの知識の欠如が躓きとして専門課程に響きやす い。このことからも、理工分野でのリメディアル教育の重要性は高く、授業時間外で の講習会の開催や相談窓口の設置等、各大学でさまざまな取組がなされている。
リメディアル分野においては、基礎学力の習得という点に関して学習支援の必要性 が高いことから、正課教育と学習支援がより密に連携した事例が報告されている。摂 南大学では、理工学部と学習支援センターとが授業単位で連携しており、いくつかの 授業において、課題プリントのチェックを学習支援センターのスタッフが行うという 事例が報告されている(永見 2013)。また、授業単元ごとにセンタースタッフがチェッ ク用の冊子を確認・押印し、それが単位認定の必要条件となる等、課外の活動が授業 の成績評価にも強く影響する形となっている。このような活動に関して、担当教員は 手応えを感じているものの、限られたスタッフで対応することによるキャパシティの 問題や、一部の学部学生による利用の偏り、学生に対するスタッフの対応の統一化等 が課題として挙げられている。
2−3.学習支援機関を中心とした全学的な連携の実践例
学内の学習支援機関が中心となり、正課教育との連携を全学的に行った事例として、
創価大学のASTAC(Academic Skills Training Across Curriculum:カリキュラム 連携型学習スキル訓練)の取組が挙げられる(創価大学教育・学習活動支援センター 2012)。この取組は、当大学の教育・学習活動支援センターが提供している学習支援 と授業とを連携させることにより、実践を通した学習スキルの強化・増進を目指した ものである。シラバスの作成段階から、センターのスタッフと担当教員とで打ち合わ
せの機会が設けられ、センターで展開している学習セミナーやライティング支援の取 組みが効果的に活用できるよう工夫されている。特に、センターのスタッフがレポー トの書式や体裁、表現をチェックしアドバイスする「レポート診断」は、担当教員か らも学生のレポートに手応えを感じたと評価が高い。一方で、正課科目に学習支援を 組み込み、利用を推奨することによるセンタースタッフのキャパシティの問題が挙げ られている。
また、立命館大学では、2013年に教育開発推進機構に初年次教育プロジェクトを発 足させ、全学的な初年次教育支援を進めている(川那部 2015)。このプロジェクトでは、
教学IRや学習支援、学部等教学機関、外部の教育関連企業と連携し、教材の開発や運 用支援、新入生調査の初年次教育への活用、初年次教育をめぐる課題の整理等、多岐 にわたる活動が行われている。
以上の通り、学習活動に関連するセンターや機関が学部横断的に学習支援を行って いる事例が注目を集めるようになりつつある。
2−4.初年次教育の特色と学習支援
日本における初年次教育は、2000年初頭から多くの大学にて急速に導入されるよう になり、10年程度で急速に普及してきた(山田 2009)。現在、多くの大学や学部において、
初年次教育の実践が行われている。大学や学部によって、ファーストイヤーセミナー
(FYS)やファーストイヤーエクスペリエンス(FYE)、またその他にもさまざまな名 称で正課カリキュラムとして展開されている様子が散見される。
しかし、そもそも初年次教育とは、正課カリキュラムの範囲内で完結するものなの であろうか。この点に関して、濱名(2007)は、初年次教育の特色を(アメリカで初 年次教育の意を指すFirst Year Experienceの)experienceという言葉が含意するよう に、フォーマルなカリキュラムに含まれない、課外活動、寮生活、友人関係、教職員 との関係、ボランティア活動、地域社会での活動等、大学初年次の様々な「経験」か らの学びまでを視野に入れていることと述べている。
同様に、山田(2009)も、アメリカにおける初年次教育の守備範囲を、教育課程で 提供されているファーストイヤーセミナーのみならず、学生支援や学習支援も含めて、
より総合的に初年次生の経験を支援するものとしている。加えて、日本の初年次教育 が必ずしも理論的な研究の上に構築されているわけではなく、実践が先行していると いう点において、そのプログラム展開や効果の測定、評価に関して課題があることを 指摘している。
第一部 研究論文・実践報告
上記の通り、アメリカの初年次教育が大学生活で必要な「経験」からの学びや、課外の学習支援を含めて展開されているのに対し、日本は学部単位でそれぞれに初年次 教育を行っているケースが散見され、大学全体として課外活動や学習支援を視野にい れた総合的なものとして初年次教育を展開しているとは言いがたい。
日本における初年次教育がその理論的土台において未成熟である状況は前述の通り であるが、学習支援の分野においても、未だ理論的研究や実践に関して、十分に議論 が進んでいるとは言いがたい状況である。小貫(2005)は、学習者に焦点化した改革 論議が進む中で、リメディアル教育や初年次教育などプログラムごとの調査研究、学 習意欲に関する研究に注目が集まっているものの、日本における学習支援は未だ発展 途上であると主張している。その原因として、大学教育における学習支援の位置づけ や概念が曖昧であること、また、実践的取り組みを普遍化し共有化するためのシステ ムが脆弱であることを指摘している。
また、清水(2009)は、大学によって学習支援の扱う範囲が、単なる学習の支援か らキャリア支援、“よろず相談的な意味合い”等も含む場合があり、組織によって支援 形態が多岐にわたっていることを指摘している。加えて、日本の学習支援においては、
その成果を直接測ってはおらず、フィードバックもない状況であること、学習支援の 担当者や学生による目的・対象に応じた評価を行うことが肝要であると論じている。
上記の通り、日本においては初年次教育および学習支援に関して、未だ理論的枠組 みの検討および実践の蓄積の点で課題が多いといえる。今後、実践を積み重ねながら データを蓄積し、各組織や形態に即した適切で効果的な評価を検討していく必要があ る。
また、2−1で指摘したように、これまでの学習支援の試みについては、実践報告 的なものが多く、実際の評価の段階にしても、アンケートの紹介の水準にとどまって おり、次に向けて実際にどのような改善への取り組みを行ったかという議論はほとん ど行われていない。さらに踏み込んで言えば、実践したことによるコストやデメリッ トの点については触れられない傾向にある。そこで本稿では、メリット・デメリット を同時に捉え、次のサイクルに繋げることを念頭に考察する。
3.目的
学習支援の役割が求められている図書館や、1990年代以降、設置が増加しているラー ニング・コモンズ、また学習支援センター等、大学内における学習支援を担う組織は、
上記の通りさまざまな取組によって教育の質および学生の学習能力の向上に貢献しよ うとしている。しかし、それは組織独自の取組として実施されるものが散見され、大 学教育の中心である正課教育と共通の目的をもって連携しているものは数少ないよう に思われる。正課教育と学習支援とが連携することで、より高い教育効果や学習成果 をあげることが可能となるはずである。とはいえ、正課教育との連携といっても、図 書館における教育・学習支援や、学習支援センターによるリメディアル支援、レポー ト作成等の基礎的学習スキルの支援等、先行事例に見られるように形態や深度はさま ざまである。また、学生に直接関与はせずとも、川那部(2015)の事例のような、教 学IRという側面から理論的に正課教育をサポートするという形態の連携も考えられ る。
上記の例をはじめ、大学の風土や歴史、学生の傾向によっても、適切な連携方法は 異なる。よって、本稿では、大学内の学習支援機関における学習支援と正課教育とが どのように連携しうるのか、先行事例および筆者らの所属する学習支援・教育開発セ ンター(良心館ラーニング・コモンズ)と初年次科目との連携事例をもとに、その成 果と課題を検討する。その上で、正課教育と学習支援との連携のあり方について展望 を述べる。
4.取組の概要
良心館ラーニング・コモンズ(以下LC)では、開室当初の2013年度より、大学生 活に必要な基礎的な学習スキルを補完する授業外の講習(「アカデミックスキルセミ ナー」)を企画・運営してきた。その内容は、年を追うごとに拡充しており、レポー ト執筆に関するものからグループワークに関するもの、メールの書き方等の大学生活 における周辺的なスキルに関するものまで、多様な種類のセミナーを用意している。
今回の連携事例が実施された2015年度春学期には、14タイトルのセミナーを計41回実 施した(表1参照)。
アカデミックスキルセミナーは、通常、正課教育のプログラム外のものとして実施 されており、学生の任意参加が原則となっている。セミナー実施当初より、学生の参 加数はさほど多くなく、その少ない受講者も、元々主体的な学習意欲のある学生が多 かった。このことから、本当に学習支援が必要な学生層にサービスが行き届いている のかという懸念があったが、今回、正課の初年次科目と連携することで、学習支援の さらなる活用と展開が期待された。
第一部 研究論文・実践報告
今回、LCと連携した正課科目は、商学部初年次科目の「アカデミック・リテラシーⅠ」(2015年度春学期開講)である。当科目は計35クラスあり、学生数はおよそ800名 程度である。連携の内容は、当科目の成績の加点要素として、LCが展開しているアカ デミックスキルセミナーの受講を推奨するというものである。具体的な手続きとして、
学習支援・教育開発センターが発行している受講証明書(図1参照)および受講内容 に関するレポート(A4用紙1枚以上)を学生が各自の担当教員に提出すれば、インセ ンティブとして最大5点が総合成績得点に加点される措置が用意された。
表1. アカデミックスキルセミナー一覧 No. セミナー名(2015年春)
1 学術文献の読み方
2 アイデアの拡張法
3 伝わる文章の書き方
4 プレゼンの構成法
5 グループでのアイデア出し
6 ソーシャルメディアの学術的利用法
7 レポートの構成の立て方
8 ノートの取り方
9 ポスターの作り方
10 レジュメの作り方
11 引用の方法
12 図・表の見方・作り方 13 ラーニング・コモンズ活用法
14 メールの書き方
これまでも、いくつかの正課科目においてLCの利用やアカデミックスキルセミナー の受講を推奨する科目は散見された。しかし、それはLCに関心のある教員がそれぞれ の担当範囲内で促しているのみの状況であった。そのため受講者の全体数にはさほど 影響はなかったが、今回は特定学部の初年次科目クラスすべてにおいて受講推奨が行 われたことで、想定される対象学生の数が最大800名程度と膨大となった。なお、LC と学部とが組織的に連携を行った事例は今回が初の試みである。
今回の企画に際し、2015年7月、9月、12月の3回にわたり、学習支援・教育開発 センターのスタッフ(教員3名、職員2名)と当該科目のシラバス作成・運営を担当 している商学部の教員(3名)とで、情報共有と意見交換の場を設けた。そこで、商
図1. 受講証明書
学部と学習支援・教育開発センターのそれぞれの立場から明らかとなった成果を共有 し、次年度の連携を視野に入れた上で課題を確認した。詳細は次章に述べる。
5.取組の結果
5−1.申込・受講データからみるアカデミックスキルセミナー利用状況
アカデミックスキルセミナーは基本的に事前予約制で行っている。具体的には、良 心館ラーニング・コモンズホームページの申込み専用フォームから、セミナー開催の 3日前までに申し込みを行うことになっている。まず、その事前申込データと、当日 の受講データから、2015年度春学期アカデミックスキルセミナーの利用状況を紹介す る。
表2 全アカデミックスキルセミナーの事前申込・当日受講状況(2014-2015年春)
事前申込者 当日受講者 受講%
2014春 全35セミナー 81 45 55.6
2014秋 全43セミナー 74 64 86.5
2015春 全41セミナー 833 555 66.6
※当日受講者には「出席票未提出者」も含む
2015年度春学期の事前申込者は833名、当日受講者は555名であった(表2)。これ は2014年春学期・秋学期に比べ、事前申込者・当日受講者ともにおよそ10倍の増加と なる。もちろん、この数には商学部との連携に関係なく、任意で受講した学生数も含 まれている。しかし、学部別のセミナー事前申込・受講状況(表3)をみると、事前 申込者・当日受講者ともに、半数以上が商学部の学生であったことがわかる。
表3. 学部別アカデミックスキルセミナー事前申込・当日受講状況(2015年春)
事前申込者 当日受講者 受講%
商学部 515 298 57.9
商学部以外の学部 318 247 77.7
合計 833 545 65.4
※一部であるが、申し込みのないまま受講を希望する学生もいた
※当日受講者から「出席票未提出者」 「記載不明者」を除いた
また、学年別の当日受講(事前申込)状況を表4に示した。この結果から、1年生
第一部 研究論文・実践報告
の利用が多数を占めることがわかる。特に商学部ではその傾向が顕著であり、当連携の強い影響がうかがえる。ただし、商学部以外の学部でも1年生の利用は他学年に比 較しても多いため、アカデミックスキルセミナーは1年生のニーズに適合的であるこ とが推察される。1年生の次に多いのは、3年生である。これは、ゼミが始まること が主たる要因として考えられ、おそらく基礎的な学習スキルの学び直しの需要がある と考えられる。
表4. 学年別アカデミックスキルセミナー当日受講(事前申込)状況(2015年春)
41セミナー「合計」降順 1年生 2年生 3年生 4年生 合計
商学部 297(512) 0 (2) 1 (1) 0 (0) 298(515)
商学部以外の学部 176(251) 8 (9) 42(33) 15(18) 241(311)
合計 473(763) 8(11) 43(34) 15(18) 539(826)
※事前申込者は()内に記す
※当日参加者(「出席票未提出者」 「不明」除く)
※大学院生の申込・受講者を除く
なお、鈴木・岡部・浜島(2015)は、同志社大学良心館ラーニング・コモンズ(LC)
の(1)入室者、(2)エリア使用状況、(3)学習相談の3つの利用実態より、同志 社大学学生のLCにおける学習行動の分析・考察を行っている。それによると、1年生 は、基礎的な学習スキルを身に着けるために学習資源を積極的に活用する傾向がある 一方で、2年生、3年生はそれぞれ多様な学習行動を行っていることを指摘している。
学習支援・教育開発センターでは、授業の関係でセミナーを受講するケース等に対 応するため、先に触れた受講証明書を発行している。表5の結果から、受講者数は昨 年度に比べて大幅に増加しているものの、“成績への加点”というインセンティブが、
とりわけ商学部学生の受講の動機(298名中296名が受講証明書を希望)に強く影響し ていることと考えられる。なお、商学部以外の学部においては、受講証明書を希望す る学生と希望しない学生とに大きな差はみられなかった。
表5. 受講証明書発行状況(2015年春)
受講証明書
合計 希望する%
希望する 希望しない
商学部 296 2 298 99.3
商学部以外の学部 134 113 247 54.3
合計 430 115 545 78.9
※当日受講者から「出席票未提出者」 「記載不明者」を除いた
5 10 10 4 10
10 14 47 45
13 33
10 12 25 7 34
3434
47 2427
34
27 32 2830
2929 29 4 25
3 27
2629
60 44
22 5 8
79
3 9
14 41 3
4 15
9 21 8 21 5 28
21 28 29 1516
1
1 25
2224 1820 9
1215 33
13 19
8 17
23 3
0 10 20 30 40 50 60 70
4月3日 ノートの取り方(30分コース)
4月13日 伝わる文章の書き方 4月17日 ノートの取り方(京田辺)
4月17日 引用の方法(京田辺)
4月22日 グループでのアイデア出し 4月23日 プレゼンの構成法 4月24日 メールの書き方(30分コース)
5月7日 レジュメの作り方 5月8日 レポートの構成の立て方(京田辺)
5月8日 アイデアの拡張法(京田辺)
5月11日 図・表の見方・作り方(30分コース)
5月13日 プレゼンの構成法(30分コース)
5月15日 グループでのアイデア出し 5月19日 伝わる文章の書き方 5月21日 ラーニング・コモンズ活用法 5月22日 ノートの取り方 5月27日 アイデアの拡張法 5月29日 学術文献の読み方 6月2日 伝わる文章の書き方(30分コース)
6月4日 レポートの構成の立て方(30分コース)
6月8日 ポスターの作り方 6月10日 レジュメの作り方 6月12日 ソーシャルメディアの学術的利用法(京田辺)
6月12日 学術文献の読み方(京田辺)
6月16日 ノートの取り方 6月18日 ソーシャルメディアの学術的利用法 6月22日 プレゼンの構成法 6月24日 レポートの構成の立て方 6月29日 引用の方法 7月1日 引用の方法(30分コース)
7月6日 アイデアの拡張法 7月8日 ソーシャルメディアの学術的利用法 7月10日 プレゼンの構成法(京田辺)
7月10日 ポスターの作り方(京田辺)
7月14日 学術文献の読み方 7月16日 レポートの構成の立て方 7月20日 引用の方法 7月22日 ラーニング・コモンズ活用法 7月24日 伝わる文章の書き方(京田辺)
7月24日 レジュメの作り方(京田辺)
7月27日 ポスターの作り方
申込者 受講者
図2. 申込者と受講者の推移(2015年春)
前述の通り、アカデミックスキルセミナーは、良心館ラーニング・コモンズホーム ページからの事前申込みが前提となっている。しかし、2013年度のアカデミックスキ ルセミナー開始当初より、事前に申込みはするものの、出席しない学生が散見された。
2015年度春学期ではその傾向がより著しくなり、学期の後半(6月〜:図2の枠内)
になるにしたがって、申込者数と実際の受講者数の隔たりが大きくなっている。その 差が最も大きいセミナーでは、申込者60名のうち受講者17名という結果であった(7 月22日 ラーニング・コモンズ活用法:図2)。
以上の結果から、成績への加点というインセンティブが付与されたことで、受講す
第一部 研究論文・実践報告
るか否かに関わらず席取りだけでもしておくという学生が多かったと考えられる。また、表6をみると、申込者一人につき平均申込回数は2.30であり、平均受講数は1.65で あった。中には、最大11回もの申込みを行った学生もいるが、実際には全てのセミナー に出席していない(表7より、この学生は11回の申込みの内、7回受講していること がわかる)。これらの結果から、全体的に数多く申込みはするものの、全てのセミナー には出席しないという学生が多かったことがわかる。また、申込みはするものの、一 度も受講していない学生が一定の割合で存在する(表7の網掛け箇所参照)。1〜4 回の申し込みを行った学生のうち、30%にあたる60名が、予約はとるものの一度も受 講していない。
表6. 商学部学生の申込回数と受講回数 2015年度 春学期 全41セミナー
申込者 受講者
回数 人数 % 人数 %
1回 101 45.1 118 64.8
2回 54 24.1 36 19.8
3回 29 12.9 15 8.2
4回 17 7.6 7 3.8
5回 8 3.6 3 1.6
6回 7 3.1 1 0.5
7回 3 1.3 2 1.1
8回 1 0.4 0 0.0
9回 1 0.4 0 0.0
10回 2 0.9 0 0.0
11回 1 0.4 0 0.0
合計 224 100.0 182 100.0
平均 2.30 1.65
上記のような早期の席取りにより、早々に定員が埋まってしまったセミナーも多く、
自主的に受講を希望する学生が受講できないという事態を招いてしまった。また、予 約だけ取り、事前連絡なく無断欠席するというケースも多発しており、空いた席を告 知できないことも多かった。
表7. 個票からみる商学部学生の申込回数と受講回数
受講回数 合計
0回 1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回 10回 11回
申込み回数
0回 0 8 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8
3.5%1回 37 61 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 100
43.3%2回 16 19 16 2 0 0 0 0 0 0 0 0 53
22.9%3回 5 8 7 9 1 0 0 0 0 0 0 0 30
13.0%4回 2 2 4 6 3 0 0 0 0 0 0 0 17
7.4%5回 0 2 2 1 2 1 0 0 0 0 0 0 8
3.5%6回 0 1 2 2 1 1 0 0 0 0 0 0 7
3.0%7回 0 2 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 3
1.3%8回 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
0.4%9回 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
0.4%10回 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 2
0.9%11回 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
0.4%合計 60 103 34 20 8 3 1 2 0 0 0 0 231
100.0%26.0% 44.6% 14.7% 8.7% 3.5% 1.3% 0.4% 0.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%100.0%
以上が、申込・受講データから明らかとなったアカデミックスキルセミナーの利用 状況である。なお、本取組の概要と結果については、大学全体の学習支援環境を検討 する学内部会にて報告と懇談を行った。部会の参加者からは、本取組と同様の形態で 他学部と連携することによるスタッフのキャパシティに関する懸念の声や、連携の目 的や展望を問う声等、さまざまな意見が交わされた。
5−2.アンケート結果からみる学生の反応
アカデミックスキルセミナーでは、セミナー終了後にアンケート(A4 1枚)を実 施している。質問項目は以下の通りである。
[アカデミックスキルセミナー アンケート質問項目一覧]
1. (4件法)本日のセミナーは、あなたの期待通りの内容でしたか。
2. (4件法)本日のセミナーは、あなたのスキルの向上に役立ちましたか。
3. (自由記述)本日のセミナーを通じて、学んだこと、気づいたことを簡単にお書 き下さい。また、今後のあなたの大学生活に活かせるとしたら、どのように活 かしたいかお書きください。
第一部 研究論文・実践報告
4. (複数回答)あなたは、このセミナーを何で知りましたか。5. (自由記述)今後のセミナーへのご要望(「こんなセミナーをやってほしい」等)
やご意見がございましたら、お書き下さい。
6. (選択・記述)よろしければ、あなたのご所属を教えてください。
アンケート回答数は春学期全体で531名であった。回答結果は以下の通りである(表 8および表9)。なお、ここでは事前の期待に対して受講後の気持ちを回答してもらっ たため、「満足度」という指標とした。
表8. アカデミックスキルセミナーの満足度(2015年度春学期)
N %
期待以上 166 31.8
期待通り 331 63.4
あまり期待通りではない 24 4.6
全く期待通りではない 1 0.2
合計 522 100.0
※「無回答」を除く
表9. アカデミックスキルセミナーの役立ち度(2015年度春学期)
N %
とても役立った 342 65.3
どちらかといえば役立った 176 33.6
あまり役に立たなかった 5 1.0
全く役に立たなかった 1 0.2
合計 524 100.0
※「無回答」を除く
アカデミックスキルセミナーを知ったきっかけ(表10)は以下の通りである。この 結果から、教員に受講を勧められる、あるいは今回のように授業カリキュラムにアカ デミックスキルセミナーが組み込まれるといったきっかけが、受講要因として強く影 響するといえる。
表10. アカデミックスキルセミナーを知ったきっかけ(2015年度春学期)
N %
教員 225 42.4
学内ポスター 97 18.3
センターウェブページ 80 15.1
学内立て看板 59 11.1
その他 51 9.6
友人知人 44 8.3
サイネージ 44 8.3
※「無回答」を除く
※アンケート回答者 531名が対象
「セミナーで学んだこと・気づいたこと、およびそれをどう活かすか」(自由記述)
という質問に対しては、下記①、②、③のように「今まで知らずに行っていたこと・
曖昧にしていたことを改めて学ぶ機会が持ててよかった」という意見が多く見られた。
① あいまいにしていたレジュメの作成についてしっかりとした作成方法、注意点 等を聞けました。ゼミでの発表が1回、卒業研究の発表もあると思うので、そ の際にぜひ今回の講義でのお話を活用したい。(レジュメの作り方)
② レポートの基本的な書き方がよく理解できた。今までなんとなく書いてきたが、
これからは構成に気を付けようと思った。(レポートの構成の立て方)
③ 授業でプレゼンをしたが「これで大丈夫なのかな」という不安は残っていた。
今回の[セミナー]で解消できました。(プレゼンの構成法)
(※[]内は筆者による)
また、「学んだことをどのように活かしたいか」という回答については、日々の授 業以外をはじめ、下記④、⑤のように、ゼミや卒業研究に活かしたいという声や、⑥ のように社会に出た時に活かしたいという声が見られた。
④ ポスターでも発表できることを知った。ゼミの発表で用いたら面白いと思う。
(ポスターの作り方)(※下線は筆者による)
第一部 研究論文・実践報告
⑤ 4年であるので、これから卒業論文の作成もあり、そこでの文章の書き方に今 回の講座が役に立ってくると思います。(伝わる文章の書き方)
⑥ 大学は今までとちがい、こういった話をする機会は必然的に増えるし、社会に 出ても必ず必要になる能力だと思うため、ここで知ることができたのは大きな メリットだと思いました。(グループでのアイデア出し)
また、「今後のセミナーへの要望や意見」(自由記述)においては、何らかの記述のあっ た回答の内、「正しい敬語やマナーについて教えてほしい」といった回答や「職業観 の確立の仕方」等、大学生活のみならず社会生活や就職活動を意識した回答も散見さ れた。
6.考察
2013年度の実施当初より、アカデミックスキルセミナーの受講者数はさほど多くな く、授業外学習への動機の確保が困難であると予想されていた。加えて、その少ない 受講者も元々主体的な学習意欲のある学生が多く、本当に学習支援が必要な学生層に サービスが行き届いているのかという懸念があった。しかし、今回、商学部の正課科 目と連携することで、これまで授業外学習支援の存在を知らなかった、あるいは興味 を持たなかった学生たちの目を授業外学習に向けさせ、受講機会の提供ができた。ま た、今回は「アカデミック・リテラシーⅠ」という初年次科目と連携したことで、1 年生の受講が大幅に増加した。大学生活の入口段階で学習支援を受ける機会を設けら れたことは、初年次教育が課外活動や学習支援までも含め、総合的に初年次生の経験 を支援するものと考えると、大きな意義があったと考える。
本章では、今回の実践によって見えてきたメリットの点と、デメリットの点につい て述べる。実施したことによって、学生に学びの機会の提供が行われたことは事実で あるし、アンケート結果では高い満足度が示されているが、より正確な理解のためデ メリットの点も含めて分析する。これらを通じ、今後の学習支援のため、押さえてお くべき要諦を得ることを目指す。
6−1.取組の成果
先に述べたとおり、商学部の正課科目として連携したことにより、このような学習
機会が存在することを学生に広く周知することができ、非常に多くの受講生を集めた。
すなわち、正課科目からの紹介・誘導が、学習支援には効果を発揮する。学習支援の「器」
を用意しただけ、ないしは、広報を行っただけでは、なかなか参加者が増加しないと いう発言は全国各地の取り組みにおいてしばしば耳にする。本実践では、正課側から 学生にインセンティブが付与されることにより、広報(認知の水準)および、参加(行 動の水準)のどちらのハードルも容易にクリアが可能であることが示されたといえる。
また、アンケート結果を見る限り、学生はセミナー内容に概ね満足している。さらに、
満足するだけにとどまらず、プレゼンテーション等の大学ではじめて行った学びに対 する不安感の解消を、アカデミックスキルセミナーは果たしているといえる。
6−2.取組の課題
概ね学生からの評価は好評であったものの、当然課題も存在する。まず、今回の取 組がどれだけ学生の自律的な学習能力の向上や、今後の学びへと繋がっているのかは 明らかになっていない。これらについては、既に展開しているプログラムである、対 面による学習相談で把握することや、実際の学生の成績等との兼ね合いについて測る ことが望ましいが、これらは今後の課題といえる。
また、本取組によって、アカデミックスキルセミナーの受講者(主として1年生)
が例年に比べ激増したが、この背景には、「成績への加点」というインセンティブの 設定が大きく影響していたと考えられる。その結果、多くの学生がセミナーに関心を 持ったものの、事前の席取り争いが熾烈になり、予約しながらも受講しない、または 連絡もせずに無断欠席する学生が多発するという事態を招いた。
これは「コモンズの悲劇」の一種の類似例として捉えることができる。コモンズの 悲劇とは、G. ハーディンによって議論されたものであり(Hardin 1968)、個人の利己 的な利益追求が全体の悲劇的状況を招く社会的ジレンマの例としてしばしば引用され る。ハーディンは、多数者が利用できる共有の牧草地に、個々人が自らの利益を求め 家畜を多く投入することにより、共有資源が乱獲され、資源の枯渇を招いてしまうと 論じている。本ケースにおいても(1)セミナー開講件数は有限であり(2)多く申請・
参加するほど学生にとってのインセンティブは増加し(3)申請申し込みは早い者勝 ちであるという構造によって、意図せざるままにコモンズの悲劇的な状況が可視化さ れたといえる。もちろん、事前に「学生は各自の担当教員に受講証明書および受講内 容に関するレポートを提出する」というハードルを設定した。しかし、当初の想定を 超え、学習に意欲のある学生が多数を占めたことが指摘できる。
第一部 研究論文・実践報告
ハーディンの議論に対して多くの批判や意見があるものの、コモンズの悲劇の対策として、コモンズの私有地化や、商取引や法律等によるコントロールの実施が有効と されている。前者については、著作権や電波帯域の利用問題でしばしば議論される。
後者については、例えば二酸化炭素の排出権取引等がそれにあたる。本件に関して
「私有地」化を行うことは困難であるため、後者によるコントロールの可能性につい て議論する。まず、前述の(1)の点については、セミナーの開講件数の有限度合い については、これは人的資源の関係上、無制限に開講することは難しい。スタッフの キャパシティの問題は、他の事例(永見 2013、創価大学教育・学習活動支援センター 2012)にもある通り、可視化されやすい問題である。しかし、セミナーではなく、学 習相談という対面の学習支援であれば、教員以外に大学院生もその業務に従事してい るため、より広範囲な対応が可能である可能性がある。次に、(2)については、授 業の誘導時に適切なインセンティブを示すとともに、他の学生へ迷惑をかけるような 受講申し込みをした場合、リスクがあることを次年度以降は明言していただくことと した。最後に、(3)については、新規にセミナーの予約管理システムを導入し、申 し込みおよびキャンセルを自動化するシステムを用意することとした。これによって、
本当に支援を必要としている学生に学習支援の仕組みが届くように企画した。
言い換えると、(1)はコモンズ領域の拡大 (2)は個々人のコントロール(負の インセンティブを含む) (3)は制度的なコントロールであるとまとめうる。これら の対策を行うために、連携先の学部と複数回の情報共有を行った。このように、単発 的にとどまらない、よりよい学習支援の仕組みを実行することを試みている。なお、
付言しておくと、問題が発生したからといって、今後は連携をすべきではないという 議論は理路としては成立しない。むしろ、ラーニング・コモンズを積極的に使いこな したがゆえに発生した事例である。したがって、問題を回避しつつ連携を模索すると いうことが望ましいありかたであると考える。
6−3.今後に向けて
今回は初年次科目との連携事例を扱ったが、学習支援が必要となるのは無論1年生 のみではない。鈴木・岡部・浜島(2015)は2014年のLCにおける学習相談受付データ より、4年生と1年生の受付人数が多い一方で、2年生、3年生の受付人数はそれら の半分以下しかなく、特に2年生の利用が最も少ないことを論じている。この原因と して、2年生ではゼミがない学部も多く、意欲的に学習する動機が低くなりがちであ り、学習支援の必要性も特段感じにくくなっている可能性があることを指摘している。
また、3、4年生等の高学年においては、ゼミ論や卒業研究に関する、より個々の課 題に応じた支援が考えられるだろう。学部教員と連携することで、教員は学生に対し てどのような学習支援が必要と考えているのか、また、学習支援側から見た学生の学 習状況等の情報のすり合わせを行い、学生の実態に応じたより適切な学習支援を提供 することが可能となる。
加えて、効果的かつ継続的な連携を考えるためには、各学部における個々の教員と ラーニング・コモンズのスタッフという個人単位での連携ではなく、組織単位での連 携を考える必要がある。教員やスタッフ個々の意思に依存した連携は、一回限りとなっ てしまったり、断続的になることで過去の課題や教訓が生かせなかったりする恐れが ある。学部組織内で情報共有や意思統一の機会を設けることをはじめ、スタッフ間に おける適切な引継ぎ、組織間の定期的な懇談の設定等が考えられる。特に、初年次科 目は新任教員が担当することが多いため、授業を進める前段階で、ラーニング・コモ ンズの機能や学習支援の範囲の情報共有があることが望ましい。これを実行するには 学習支援提供側の働きかけのみでは困難であり、学部との協力体制の構築が必須であ るといえる。
7.おわりに
本稿では、良心館ラーニング・コモンズ(LC)で展開しているアカデミックスキル セミナーが商学部の初年次科目に活用された事例をもとに、その成果と課題を検討し た。具体的には、LCで展開しているアカデミックスキルセミナーの受講を成績への加 点要素とするという形態の連携を扱った。
今回の連携の結果、①これまで授業外学習支援の存在を知らなかった、また興味を 持たなかった学生に対して受講機会の提供ができたこと、②学習支援と正課教育との 連携の一つの形を示すことで、学内にLCの学習支援を認知させ、正課教育と協働した 学習支援の今後の活用を考える契機とすることができた等の大きな成果があった。
一方で、①今回の取組がどれだけ学生の自律的な学習能力の向上や、学習相談の活 用等の主体的な学習へと繋がっているのかは明らかではないこと、②「成績への加点」
というインセンティブの影響による申込者数の増加の結果、コモンズの悲劇に類似す る事例が発生したことについては軽重なく触れておきたい。なお、この回避策につい ては6−3で論じた。
正課教育と学習支援との連携には多様な形態が考えられるが、どのように学生の自
第一部 研究論文・実践報告
主的・自律的な学習に結び付けていくのかを考えなければならないであろう。「教員に指示されたから」、「成績上のメリットがあるから」という利用目的のみで終わって は、根本的な学習能力の涵養には繋がらない。したがって、今後は外発的動機に依存 しない、いわば内発的動機によるラーニング・コモンズの利用を促進する方策を考え る必要があるといえる。もちろん、外発的動機によるコモンズ利用を否定するもので はないし、そもそも内発的動機と外発的動機は両立しうるものである。今回の事例の ようにコモンズを認知し、利用してもらう初期の段階において、外発的動機はきわめ て効果を発揮したといえる。よって、利用の初期段階を経たのちの継続的な利用を促 す方策が今後の課題となっていくであろう。
以上、本稿では、ラーニング・コモンズをより積極的に利用してもらうには学部か らの連携がきわめて有効であること、また、有効に機能しすぎたがゆえの負の現象に ついて言及した。また、それに対する回避方法を、共有資源の拡大・個々人のコントロー ル・制度的コントロールの面から述べた。本稿で取り上げた課題は学習資源が有限で ある他の学習空間でも発生しうるものである。よって、本稿における知見は他の学習 空間においても利活用が可能と考えられる。
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