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グローバル CSR の潮流 : 「サステナビリティによる価値創造」へ

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グローバル CSR の潮流 :

「サステナビリティによる価値創造」へ

Global CSR Trends:

Creating Corporate Values by Seeking Social Sustainability

鈴木 均 SUZUKI Hitoshi

1.はじめに

1990

年代以降、経済のグローバル化が急速に進展したことにより、途上国を中心に 環境や人権の分野などで企業が社会に及ぼすネガティブな影響が拡大してきた。それ を背景に、企業は消費者、労働団体、NGO、政府、国連など、企業を取り巻く利害関 係者(ステークホルダー)から社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)(1)

への取り組みが強く求められ、多国籍企業を中心に

CSR

活動は幅広く進展してきた。

しかし、近年は、社会課題の解決によってサステナビリティ(持続可能性)を追求し ていくことが世界的な重要課題として認識され、企業にとっても事業活動を通した社 会課題の解決が事業機会と企業価値の向上につながる経営戦略として捉えられるよう になってきた。本稿では、これらの潮流の変化とその変化の中で日本企業に求められ る取り組みについて述べる。

2.グローバル化の「負」の問題が CSR の起点

1990

年代後半から

2000

年代にかけて

CSR

への関心が世界的に高まった。その背景 には、1990年代の企業活動を中心とする経済のグローバリゼーションとそれに伴う資 本市場での競争激化が、地球環境や社会にさまざまな深刻な影響を与えてきたことが ある。たとえば、CO2などの温室効果ガスの排出などに伴う地球温暖化(気候変動)

の進展、生物多様性・生態系の破壊や環境汚染の問題、水を含む資源の枯渇化、新興 国・途上国を中心とするサプライチェーンを含む児童労働・強制労働、汚職・腐敗や 経済格差などの人権問題などである。また食品安全問題、品質偽装、情報漏えい、贈 賄、不正会計、談合などの不祥事・非倫理的行動に代表されるコンプライアンスの問 題もある。

これらの「負」の問題の是正に向けて、欧米を中心とする人権や環境などの

NGO

(Non

governmental Organizations 非政府組織)が、問題の起因になっているような多

国籍企業などへの監視を世界中で強化してきた。特に、インターネット、SNSなどの

(2)

情報通信技術の発達もあり、特定企業に対する消費者を巻き込んだネガティブ・キャ ンペーンに加えメディアや消費者団体、労働団体などと連携した圧力行動などが拡大 した。企業にとっては、従来からのステークホルダーである従業員や株主、取引先、

地域社会(市民)、政府などに加え、新たなステークホルダーが顕在化したことと影響 力が増大したことを意味する。

平行して欧州では

2001

年に

EU

統合化戦略の一環として

CSR

活動を政策面で後押 しする流れが生まれ世界にも影響を与えた。具体的には、

2001

EU SDS(Sustainable Development Strategies:持続可能な開発戦略)

(2)が制定され、EUが「持続的な経済 成長が可能で、より多くのよりよい雇用と一層の社会的結束力を備えた世界で最も競 争力と活力のある知識基盤型経済圏」の構築を目指すリスボン戦略(2000~2010年)

の目標達成に向け、CSR活動の強化を重要要素として位置づけたことである。

これらの背景によって、巨大化する企業の存在感・影響力に対する"しばり"(社会 的責任)としての

CSR

への関心が国際社会で高まった。

3.CSR に関するソフトローや規格化が進展

以上の結果、国連をはじめとする国際社会は、多国籍企業などの活動に対する"し ばり"として、CSRに関連するさまざまな国際行動規範、規格、ガイドラインなどの ソフトローや規制などを制定・強化してきた。

代表例として、CSR全般について包括的に企業への指針を示している「国連グロー バルコンパクト(2000年)」(3)や「組織の社会責任ガイダンス規格

ISO26000(2010

年)」(4)、「OECD多国籍企業行動指針(2011年改訂)」(5)がある。「国連グローバルコ ンパクト」は、2000年

7

月に当時のコフィー・アナン事務総長が提唱し、人権、労働、

環境、腐敗防止に関する

10

原則への支持と普及を求めている。「ISO26000」は、国際 標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)が

2010

11

月に発 行した社会責任に関する初めての国際ガイダンス規格である。組織統治、人権、労働 慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティ参画と発展の

8

中核主題を 中心に、組織が社会的責任を果たし、持続可能な発展への貢献を進めるための手引書 である。政府、企業、労働、消費者、NGO、有識者の

6

つのマルチ・ステークホル ダーによるプロセスを通して規格化が進められたこともあり、発行まで

6

年の歳月が 掛かった。認証規格ではなく、ステークホルダー・エンゲージメント(対話と関与)

によって実効性を担保する点がユニークである。

CSR

の中核的な要素である人権・労働の領域では、代表的な国際行動規範として

「ILO中核的労働基準

4

原則(結社の自由及び団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働 の実効的な廃止、雇用及び職業における差別の排除)」(6)と「国連ビジネスと人権に関 する指導原則(UNGP: Guiding Principles on Business and Human Rights 2011年)」(7)

が挙げられる。とりわけ国際社会の高い関心を集め、その後も様々な領域に影響を与 えているのが「国連ビジネスと人権に関する指導原則(31の原則から構成)」である。

2005

年に、国連事務総長特別代表としてハーバード大学のジョン・ラギー教授が中心 となって、3年間の調査研究とさまざまなステークホルダーとの議論のプロセスを経

(3)

て、2008年、「国家による人権保護の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「人権侵 害からの救済へのアクセス」の

3

本の柱からなる「保護(protect)・尊重(respect)・

救済(remedy)」の政策枠組みである「ラギー・フレームワーク」に基づき策定され た。その内容は

2011

7

月に国連人権理事会において全会一致で承認され、すべての 国と企業が尊重すべきグローバル基準となった。この指針では企業に対し、人権尊重 を盛り込んだ基本方針の表明、人権への影響を特定、予防や軽減、救済措置などの責 任を持つために人権デューデリジェンスの実行を求めている。

現在、国連指導原則(UNGP)は、世界のさまざまなレベルで実務展開の段階に入っ ており、ISO26000、OECD多国籍企業行動指針、日本経団連企業行動憲章など、CSR に関連するソフトローやガイドライン、規制などにもその内容が盛り込まれている。

UNGP

は法的拘束力がないため、途上国などでは、その実効性の担保を求める動きも ある。2014年

6

月に、エクアドルと南アフリカから

UNGP

の国際的な条約締結による 法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての決議が出された。2015年

7

月には、

国連人権理事会の作業部会において条約による法規制化を検討する作業が始まってお り、その動向を注視する必要がある。また、2015年

6

月にドイツのエルマウで開催さ れた

G7

サミットにても、UNGPが強く支持され、各国政府は実質的な国別行動計画 を策定することになった(8)

これらの規範類のベースとなっている人権に対する考え方は国連人権章典(9)に基づ いている。すなわち、人権とはすべての人に与えられた基本的権利であり、人権には 市民的及び政治的権利としての自由と生存の権利、法の下での平等、プライバシーや 表現の自由などの権利、また経済的、社会的、文化的権利としての労働権、食糧権、

健康に対する権利、教育を受ける権利、社会保障を受ける権利などであり、これらは 企業のあらゆる活動に関わる。グローバルに見れば、人権問題はビジネスリスクとし て企業活動にさまざまなインパクト(操業停止、損害賠償、ブランド毀損、機会損失 など)を及ぼしている。グローバルな事業展開を目指す企業は、「ビジネスと人権」と いう視点から自社の行動を見直し、国際社会が求めるレベルでの適切な行動を取る必 要性に迫られている。

NGO

が主導してルール化したガイドラインも生まれた。例えば、CSR関連領域の情 報開示のルールを定めたオランダの

GRI(Global Reporting Initiative)

(10)による「サ ステナビリティ・レポーティング・ガイドライン」や米国

SAI(Social Accountability International)

(11)によるサプライチェーンを中心とする労働人権分野の規範を定めた

「SA8000」などである。

なかにはハードロー化したルールもある。代表的な法律として「紛争鉱物開示規制

(米国金融規制改革法第

1502

条、2010)」(12)や「英国贈収賄法 2010」(13)、「英国近代奴 隷法 2015」(14)がある。それぞれ国内法ではあるが、海外で事業展開を進める日本企業 にも影響が及んでいる。例えば、「紛争鉱物開示規制」は、コンゴ民主共和国とその周 辺地域で産出される希少金属のうち、タンタル、タングステン、錫および金が、同国 の武装勢力の資金源となっていること、またその採掘が強制労働や児童労働といった 人権に関わる深刻な問題を起こしているとして、米国で

2010

年に成立した金融規制改 革法(ドッド・フランク法)に紛争鉱物の使用状況の開示に関するルールが追加され

(4)

た経緯がある。その結果、米国の証券取引所に上場する企業は紛争鉱物使用に係る情 報開示義務を課された。米国上場企業と取引のある日本企業にとってもこれらの鉱物 が製品等に使用されているか、資材取引上開示が求められているのでその影響は小さ くない。

4.CSR はグローバル・サプライチェーンを通じて世界に伝播

このように

NGO

などからの欧米を中心とする多国籍企業への働きかけやソフトロー などを起点に、環境、人権、労働、公正取引などの分野において、多国籍企業のサプ ライチェーンを通じた川上企業に対する

CSR

への取り組み要請が強化されるに至った。

特に、1990年代以降アパレル産業や電子電機業界を筆頭にアウトソーシング型ビジネ スモデルが世界的に普及し、アウトソーシング先である新興国や途上国での製造受託 企業等で労働などの人権問題が頻発したことから、多国籍企業による

CSR

の管理範囲 はサプライチェーンまで拡張することが重要視されるようになった。グローバル・サ プライチェーンの一角を占める日本企業にとって影響が強く、CSRへの取り組みを強 化する契機になっている(図参照)。

平行して業界ごとに統一的調達基準が作られる動きが出た。サプライチェーンに対 する

CSR

取り組み上の実効性を高めるためには、業界内での共同したアプローチが 効果的だからである。例えば、電機業界では業界が主導して統一した資材調達基準 が策定された。米国企業が主導して策定した

EICC(Electronic Industry Citizenship Coalition 2005)

(15)と日本の

JEITA(日本電子情報産業協会 2006)

(16)が策定した基準が 代表例である。電機業界のように部品購入先、製造委託先等が共通化しつつある産業 では、CSRサプライチェーン向け業界共同プラットフォームの構築は実効性という点 で有効である。

ISO

CSR

の国際規格化を進めることになったのは、途上国を中心とする中小企業

(多国籍企業の下請け)から購買企業毎に違う

CSR

取り組み要求内容を統一化して欲し

(5)

いとの強い声が背景にあったからでもある。最近では、ISO26000の派生として「持続可 能な調達に関するガイダンス

ISO20400」の規格化も準備されていて、2017

年に発行さ れる予定である。

5.企業行動へのステークホルダーの評価に変化

NGO、消費者団体、労働団体などによる企業行動に対する監視の動きに並行し、企

業の社会課題解決に資する取り組みなどを評価する傾向も出てきた。国連などの国際 機関のイニシアティブの影響もあり、銀行・証券・保険会社等の金融機関・機関投資 家が、経済活動の根幹である"お金の流れ"を持続可能なものにすることで深刻化す る地球環境・社会問題へ対応していこうとする動きである。

たとえば、2000年に開始された

CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェク

ト)(17)がある。機関投資家が連携し、投資対象の企業に対して気候変動や温室効果ガ ス排出に関する情報開示を求め、調査を行うプロジェクトである。また、水や森林資 源に関する情報開示を求める

CDP Water、CDP Forest

など、取り扱うテーマも広がり つつある。

投資家が企業およびそのプロジェクトへ投融資する場合の行動基準・ガイドライン に、環境や社会への影響に対する配慮を取り入れる動きも

2000

年代に入って見られ るようになった。代表例はエクエーター原則(赤道原則)(18)と責任投資原則(PRI:

Principles for Responsible Investment)

(19)である。

エクエーター原則とは、民間金融機関が大規模な開発や建設のプロジェクトに融資 を実施する場合に、プロジェクトが自然環境や地域社会に与える影響に十分配慮して 実施されることを確認するための枠組みである。2003年

6

月、国際金融公社(IFC)

とシティバンクなどの欧米系の金融機関

4

行が連携して制定された。PRIとは、2006 年に当時のコフィー・アナン国連事務総長が金融業界に対して提唱したイニシアティ ブである。機関投資家の意思決定プロセスに、財務情報に加えて環境・社会・ガバナ ンスなどの

ESG(E:Environment、S:Social、G:Governance)情報を受託者責任の

範囲内で反映させるべきとした世界共通のガイドライン的な性格を持つ。国連環境計 画(UNEP)並びに国連グローバルコンパクト(UNGC)が推進する。

2000

年代に入って、財務分析による投資基準に加え、社会・環境・倫理といった観 点において企業が社会的責任を果たしているかどうかを投資基準にする社会的責任投 資

SRI(Socially responsible investment)の動きが見られ始めた。SRI

は古くは米国で

1920

年代、キリスト教会の資金を運用する際に、たばこ、アルコール、ギャンブルな ど、その教義からは許容しがたい業種を投資対象から外したのが発端とされる。

代表的な

SRI

として

1999

年に始まり現在も継続している

DJSI(ダウ・ジョーンズ・

サステナビリティ・インデックス)と

2001

年から継続している

FTSE4Good

がある。

前者は米国ダウ・ジョーンズとスイス

Robeco SAM

社が、世界

3,000

社以上を対象に アンケート調査に基づき、経済・環境・社会の

3

つの側面から各社の持続可能性を評 価し、その結果を踏まえて組み入れ銘柄企業を決定するインデックスである。後者は、

英国のフィナンシャル・タイムズとロンドン証券取引所の合弁会社である

FTSE

イン

(6)

ターナショナルによって作成されたインデックスである。選定にあたって「タバコ、

核兵器の主要な部品やサービスを提供する会社、武器製造会社、原発を所有・操業す る企業、ウラニウムの採掘製造企業」の排除を前提に「環境的持続可能性」、「社会問 題とステークホルダーの関係」、および「人権」について評価する。

もうひとつの流れは、公共調達での

CSR

視点の評価である。欧州を中心に、政府調 達の評価基準として

CSR

に関連した要素を取り入れる傾向が

2000

年以降顕在化した。

2010

年代以降はその傾向が世界的に強まっている。

6.「サステナビリティ追及の価値創造」へ

CSR

に対するステークホルダーの認識に大きな変化が表れている。2008年

9

月に発 生したリーマンショックが契機になっていると考える。それまでの過度の金融資本主 義への反省が促されるなど企業を取り巻く経営環境が大きく変化しており、新たな企 業経営のあり方が問われている。キーワードは「サステナビリティ(持続可能性)」で ある。CSRに対しても、社会やステークホルダーへの「負」の影響を軽減する「守り の社会的責任」というベースラインを踏まえつつ「サステナビリティを追及する価値 創造」をより重視する方向へと進化してきている。それに伴い、企業を取り巻く環境 やステークホルダーの意識・行動にもさまざまな変化が表れている。

(1)社会課題解決に対するステークホルダーからの期待の高まり

米国の

PR

会社であるエデルマン社が

2016

年に実施した調査(20)によると、世界の

80%の市民が「企業は自社の利益の増大と事業を展開する地域の経済・社会状況の改善

の両方を果たす行動を期待」と回答している。2015年の調査結果では

74%であり、市

民から企業に対する社会課題解決への貢献期待がますます高まっていることが分かる。

国連では、2015年

9

月に「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development

Goals)

(21)」が採択された。2012年

6

月の国連会議「リオ+

20」において合意され、17

の目標(図表参照)と

169

のターゲットから構成される。主に途上国の課題を対象と していた「ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)(22)、1990年

2015

年」と比べ、先進国を含む国際社会全体が

2030

年までに達成すべき、貧困や飢 餓、エネルギー、気候変動、平和的

社会など持続可能な開発のための目 標が設定されている。とりわけ「サ ステナビリティを追及する価値創 造」の観点から企業の積極的な参 画が

MDGs

以上に期待されている 点は注目すべきである。そのため企 業は、自社事業と関係の深い

SDGs

の目標、ターゲットに対する戦略 的な分析を進め、国連機関や政府、

NGO、他の企業などとの協働も視

(7)

野に入れながら、その解決策をビジネスとして提供できるビジネスモデルを整備するこ とも重要になる。

(2)社会価値と企業価値の両立を評価する動き

2011

年に、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が

CSV

(Creating Shared Value)という経営戦略への

CSR

の融合により競争優位を目指す新 たな経営戦略論を提唱した。企業にとって社会課題は事業機会であり、その解決はい わゆるフィランソロピー的社会貢献活動だけでは不十分であり、本来の事業活動で解 決を図ることが、企業価値を創出することになる。要するに社会価値と経済価値の両 立を目指すことが企業価値の向上につながるとの考えである。欧州の

150

年企業であ るネスレ社がすでに

2005

年ごろからこの経営戦略を

CSR

経営の中核に据えて実践し、

企業価値の向上を実証してきたことがマイケル・ポーター教授の経営論に影響したよ うである。CSVには、「社会課題を解決するような社会に有用な製品・サービス」、「バ リューチェーンと連携し、社会的な課題(例:気候変動など)の解決とコスト削減な どの企業価値の創造も実現」、「企業が関係する地域社会での持続可能な開発を支援す ることで企業自身の持続可能性も実現」の

3

つのアプローチに分類される。

社会価値と経済価値の同時実現を目指す

CSV

の考え方は、既存の経営戦略論が環境 問題や社会問題を経済活動の外部要素としていたのに対し、それらを内部化し、企業 競争力強化に繋げようとするものであり、ビジネスモデルの革新的な転換を意味して いる。

目標1. あらゆる形態の貧困の撲滅

目標2. 飢餓の撲滅、食糧安全保障および栄養改善の実現と、持続可能な農業の促進 目標3. 健康な生活の確保と福祉(wellbeing)の促進

目標4. 公正な質の高い教育の提供と、生涯学習の機会促進

目標5. ジェンダー平等の達成 女性および女子のエンパワーメント 目標6. 水と衛生の利用可能性および持続可能な管理の確保

目標7. 安価かつ持続可能な現代的エネルギーへのアクセス確保

目標8. 包括的かつ持続可能な経済成長、完全かつ生涯的な雇用とディーセント・ワークの促進 目標9. レジリエントなインフラ構築、持続可能な産業化の促進、およびイノベーションの拡大 目標10. 国内および各国間の不平等の是正

目標11. 安全かつレジリエントで持続可能な都市および人間居住の実現 目標12. 持続可能な生産消費形態の確保

目標13. 気候変動への緊急対策

目標14. 海洋資源の保全および持続可能な利用

目標15. 陸 域生態系の保護・回復・持続可能な利用、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、

土地の劣化の阻止・防止、生物多様性の損失阻止

目標16. 平 和で包括的な社会の促進、司法へのアクセス提供、あらゆるレベルにおける効果的か つ包括的な制度の構築

目標17. グローバル・パートナーシップの活性化

(8)

(3)グローバルでの ESG 投資拡大の動き

投資家の企業を評価する軸(尺度、指標)に変化が見られる。財務実績に加えて、

企業の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)面での取り組みおよびパフォーマンス を投資の判断基準とする

ESG

投資がメインストリーム化している。実際、ESG投資 市場の世界規模は、GSIA(The Global Sustainable Investment Alliance)(23)によれば、

2012

年に

13

兆ドルだったものが、2014年には

21

兆ドルに増加し、世界の金融資産全

体の

30.2%を占めるまでになっている。ESG

投資市場の拡大の動きは、投資家が、投

資先企業の持続的な成長および中長期の価値創造能力を判断する上で、過去情報であ る財務情報だけでなく、将来情報である

ESG

情報などの非財務情報が重要な意味を持 つという認識を共有していることを意味している。

このような投資家の意識の変化なども背景として結成されたのが、国際統合報告評 議会

IIRC(International Integrated Reporting Council)

(24)である。IIRCは、2010年

8

月に、英国のチャールズ皇太子のプロジェクトであるアカウンティング・フォー・

サステナビリティ(A4S)と、オランダに本拠を置く

CSR

レポートの国際標準を策定 しているグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)が組成した組織であ る。IIRCには、証券監督者国際機構(IOSCO)・東証などの証券取引関係、国際会計 基準審議会(IASB)・米国財務会計基準審議会(FASB)などの会計基準設定主体、国 際会計士連盟(IFAC)・BIG4といわれる大手会計事務所、国連環境計画・金融イニ シアティブ(UNEPFI)・国連責任投資原則(UNPRI)・国連グローバルコンパクト

(UNGC)などの国連機関、その他非財務情報の国際イニシアティブ、産業界、金融機 関、NGO、教育機関などのトップがメンバーとして名を連ねている。2013年

12

月、

IIRC

が企業の中長期の価値創造能力を投資家に分かり易く開示することを目的とする

「統合報告のフレームワーク」を公表した。企業は自らの価値創造能力を財務情報と非 財務情報を関連付けながら説明するために、本

IIRC

フレームワークを参考にしながら 統合報告に取り組むことが期待されている。

統合報告の流れとは別に、米国では、米企業が

SEC(証券取引委員会)に提出する

財務報告(Form

10K

など)の中に、非財務情報を盛り込むための基準作りが進んで いる。これに取り組んでいるのがサステナビリティ会計基準評議会

SASB(Sustainable Accounting Standard Board)

(25)である。SASBは米国財務会計基準審議会(FASB)の サステナビリティ版の開示促進を目指すもので、10のセクター(通信、金融、ヘルス ケア、交通・運輸、サービス、金融、消費財など)、89の産業について独自に非財務 情報の開示基準を作る作業を進めている。

(4)日本政府も成長戦略の一環として ESG 価値の評価へ

中長期の企業価値評価におけるこのような

ESG

重視の考え方は、国内でも着実に進 展してきている。政府が

2014

年に「日本版スチュワードシップ・コード」(26)を公表 したことが先ずはその背景にある。このコードでは、投資先企業の持続的成長に向け て投資家が把握すべき内容として、「ガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク

(社会・環境問題に関連するリスクを含む)対応など」を挙げている。これらは、IIRC が提供する統合報告フレームワークとも合致している。

(9)

2016

9

月時点で

213

の機関投資家が署名している。その中には政府(厚生労働省 所管)の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれている。GPIFは、2015 年

9

月に国連責任投資原則(PRI)にも署名したことから、その運用委託先である国内 の金融機関などにも

PRI

への署名を求めるなど、我が国の

ESG

投資の促進に影響を与 えている。2015年

11~12

月に実施された社会的責任投資日本フォーラム(JSIF)の調 査も、欧米とは比較にならないほどの極めて小規模であった日本での

ESG

投資が少し ずつ拡大傾向にあることを示している。今後投資家は、企業に対し

ESG

関連リスクへ の適切な対応と情報開示、対話・エンゲージメントなどの要求を強化してくることが 予想される。

2015

6

月、持続可能な成長と中長期の企業価値向上に向けた「攻めのガバナンス」

を目的とする「コーポレートガバナンス・コード」(27)が金融庁から公表された。これ は、アベノミクス第

3

の矢の「成長戦略」として

2014

6

月に閣議決定された「日本 再興戦略 2014」の一環であるコーポレートガバナンス改革の重要な施策の

1

つとなる ものである。上場企業は、本コードに対する法的な遵守義務はないものの、本コード に示されている原則を実施することが求められ(comply)、実施しない場合はその理由 の合理的な説明が求められる(explain)。上場企業は、本コードに対応する東証の「改 正規程」に基づき、コーポレートガバナンス報告書を発行することが求められている。

本コードについては、一般的に基本原則

1【株主の権利・平等性の確保】、基本原則

4【取締役会等の責務】および基本原則 5【株主との対話】が注視されがちである。し

かし、「サステナビリティを追及する価値創造」としての

CSR

の観点から見た場合、

本コードの特徴は、基本原則

2【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】およ

び基本原則

3【適切な情報開示と透明性の確保】にあると言える。

基本原則

2

では、「上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、

従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーに よるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホル ダーとの適切な協働に努めるべきである」と書かれている。これは、まさに

CSR

経営 の考え方に軌を一にするものである。

原則

3

では、「上場会社は、会社の財務状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・

経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開 示を適切に行うと共に、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべき である」、また「取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行 う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で 利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきであ る」と書かれており、企業による非財務情報開示の重要性について説明している。

本コードは、日本企業の課題、現状を踏まえたガバナンス強化に向けた提言ととも に、初めて"経営と

CSR

の融合"を明文化(基本原則

2、3)したものであり、ベース

となった

OECD

ガバナンスコードを凌ぐ内容との評価もされている。このようにコー ポレートガバナンス・コードはスチュワードシップ・コード・コードと合わせ企業の 持続的な成長のための「車の両輪」となるものである。

(10)

7.日本企業に求められる取り組み

日本企業は、このような投資家に代表されるステークホルダーの変化とその背景に あるものを適確に把握し、社会やステークホルダーへの「負」の影響は与えないとい う従来からの「守りの社会的責任」はベースラインとして踏まえつつ、SDGsを始め とするサステナビリティに関する社会課題への解決に戦略的に取り組む社会価値創造 企業へと経営を大きくトランスフォームさせていくべきである。その場合、社会価値 と経済価値の双方を両立する革新的ビジネスモデルの創出が鍵を握る。

一企業があらゆる社会課題に対応することは現実的ではないので、企業の持つリソー スや経営上の重要性、強みなどを考慮した上で優先すべき重要なサステナビリティに 関するテーマ(マテリアリティ)を先ず設定すべきである。その上で、大学や研究機 関、他企業とのオープンイノベーション、また社会課題の本質を把握している国際機 関や行政、NGO・NPO、社会起業家などとのコラボレーションを活用しながら中長期 視点で取り組んでいくことが重要になる。

革新的なビジネスモデルの創出には経営トップから事業現場の社員まで会社全体で 社会への感度を高めることが不可欠である。社会感度と社会ニーズ志向の高い企業風 土を作りあげるためには、多様性に富む組織作りに加え、社会感度の高い人材の育成 が求められる。そのような人材育成には、地域社会のメンバーとして行政や

NPO

など と共に地域社会の課題解決のためのアクションを起こし,その過程でリーダーシップ や共創力などを学んでいく「コミュニティ・アクション・ラーニング」(28)や社員の専 門性を活かすボランティア活動であるプロボノなどが有効なツールになる。社員が地 域社会に入り込んで、国際機関、行政、アカデミア、NPO、社会起業家、地元企業な どと共に社会課題解決のためのボランティアを実践する過程で、課題解決につながる 事業や製品・サービスへのニーズ等の探索も可能になる。米

IBM

では、2008年から 全世界から集めた社員をチーム編成で途上国に派遣し、NGOと共にプロボノによる社 会課題の解決を支援するプログラム「Corporate Service Corps」(29)を継続展開してい る。この目的は、地域社会への貢献もあるが、それ以上に社員の社会感度やリーダー シップ力などを高め、チームワークの醸成を図る人材教育と事業機会の探索にある。

特に、様々なステークホルダーを巻き込み、従来の発想を破るような革新的なビジ ネスモデルの創出をリードできるプロデューサー人材の育成が重要である。従来の思 考に囚われずイノベーティブな思考、多様なステークホルダーの視点や価値観から新 しい発想のビジネスモデルをステークホルダーと共に共創しながら、コンセプトデザ インを描ける人材である。

このプロセスに基づく製品やサービスをプロトタイプ化し、素早く事業を進めるス モールスタートやリーンスタートアップ、実証事業も重要な要素である。社会課題解 決型事業の多くは社会的使命を果たすことに盲目的になる傾向があるので事業そのも ののサステナビリティを確保するためには収益性への拘りが求められる。そのために はリーンスタートのプロセスを通じ収益性を実証することが前提となる。社会イノベー ション企業として実績を上げつつある

GE

は、「リーンスタートアップ」の著者である

(11)

エリック・リース氏を招いて全従業員を対象にした教育プログラムを展開している。

日本企業にとってもこのような人材育成が重要課題である。

また、日本企業は伝統的に社会価値を重視する企業風土を持ち備えているが、中長 期の企業価値創造ストーリ(戦略ストーリ)を作り、投資家等のステークホルダーに 積極的に開示し「共感」を得る努力が不足している。統合報告書はその有効なツール となる。また「目的を持った対話」(ステークホルダー・エンゲージメント)を進めな がら価値創造の

PDCA

サイクルを着実に回すことも重要である。これらの活動は日本 企業の良さに磨きを掛け新たなブランド価値につながると確信している。

これらの活動を着実に実行するためにはトップのリーダーシップが不可欠であるこ とは言うまでもない。  

■註

(1) CSR(Corporate Social Responsibility)に関するISO26000社会的責任ガイダンス規格での 定義:組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫 理的な行動を通じて組織が担う責任:

─健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展への貢献、─ステークホルダーの期待への配 慮、─関連法令の遵守及び国際行動規範の尊重、─組織全体に統合され、組織の関係の中 で実践される行動

注1:活動には、製品、サービス及びプロセスを含む

注2:関係とは組織の影響力の範囲内での活動を指す

(2) EU Strategy for sustainable development http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/

TXT/?uri=URISERV:l28117

(3) http://ungcjn.org/gc/index.html

(4) http://iso26000.jsa.or.jp/_files/info/pm/project_overview.pdf  日 本 規 格 協 会 編 ISO

26000:2010社会的責任に関する手引き

(5) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_ho.pdf

(6) http://www.oit.org/public//japanese/region/asro/tokyo/standards/declaration.htm#decla ration

(7) http://www.hurights.or.jp/japan/img/hrc1731framework.pdf

(8) http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html

(9) http://www.unic.or.jp/activities/humanrights/document/bill_of_rights/

(10) https://www.globalreporting.org/Pages/default.aspx

(11) http://www.sa-intl.org/

(12) http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/funsou/pdf/funsou_01.pdf

(13) https://www.piclub.or.jp/?action=common_download_main&upload_id=1751

(14) http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2015/30/contents/enacted

(15) http://www.eiccoalition.org/

(16) http://home.jeita.or.jp/ecb/csr/

(17) http://sustainablejapan.jp/2015/08/31/cdp/18357

(18) http://www.equator-principles.com/

(19) https://www.unpri.org/

(20) http://www.edelman.com/insights/intellectual-property/2016-edelman-trust-barometer/

global-results/

(21) http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_develop

(12)

ment/2030agenda/

(22) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

(23) http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2015/02/GSIA_Review_download.pdf

(24) http://integratedreporting.org/

(25) http://www.sasb.org/

(26) http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/201402272/04.pdf

(27) http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf

(28) http://empublic.jp/community_action_learning, http://www.impactinternational.com/cal

(29) https://www.ibm.com/ibm/responsibility/corporateservicecorps/follow.html, http://www- 03.ibm.com/ibm/history/ibm100/jp/ja/icons/corporateservicecorps/transform/

■主な参考文献

藤井俊彦・海野みづえ編著、2006、『グローバルCSR調達』

ISO/SR国内委員会監修、日本規格協会編、2011、『ISO26000:2010社会的責任に関する手引 き』

Porter, M. E. and Kramer, M. R., 2011, ʻCreating Shared Value, ’ Harvard Business Review, Vol.

89, Issue/2, pp.6277.

伊吹英子、2014、『新版CSR経営戦略、社会的責任で競争力を高める』

Eric Simanis and Duncan Duke, ʻProfits at the Bottom of Pyramid,’ Harvard Business Review, October 2014.

川村雅彦、2015、『CSR経営パーフェクトガイド』

企業と社会フォーラム編、2015、「企業と社会の相互作用としてのステークホルダーレビューに よるCSRの経営への統合化促進」『持続可能性と戦略』、pp.168181.

森摂・オルタナ編集部、2015、『未来に選ばれる会社』

参照

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