一九九〇年代後半期のフランスにおける選挙・政策
・イデオロギー : 社会民主主義は復活したか
その他のタイトル Elections, Policies and Ideologies in late 1990s France : Has Social Democracy Revived?
著者 森本 哲郎
雑誌名 關西大學法學論集
巻 50
号 6
ページ 1270‑1296
発行年 2001‑02‑28
URL http://hdl.handle.net/10112/00023578
一九八一年の大統領選挙・議会選挙での左翼︵社会党中心︶の勝利︑しかし八六年議会選挙での保守
(R PR +U
DF)の勝利︒八八年選挙︵大統領︑議会︶は左翼が再び制するが︑九三年議会選挙で左翼は﹁崩落﹂する︒ところ ー I問題の所在
1 1
選挙での社会民主主義勢力の勝利ー争点の視点から一九九七年議会選挙を再考する
Im本当に社会民主主義イデオロギーのヘゲモニーは回復したのか?N保守陣営のアポリア
>結論ぶ江会民主主義のヘゲモニーが復活したとは言えない︒しかし︑新自由主義のヘゲモ
ニーが確立したわけでもない︒
問 題 の 所 在
森
一 九
九
0 年代後半期のフランスにおける
選挙・政策・イデオロギー
ー社会民王主義は復活したか
I
本 七
八
哲
(︱二
七
0)
郎
社会的争点の面で が九五年大統領選挙では保守が勝利するも︑左翼︵社会党︶は復調を示し︑九七年の議会選挙では今度は保守が大敗北を喫する︒そして一ー一度目の保革共存となった九七年六月以後現在︵二0
0
年夏現在︶まで︑社会党のジョスパン0
首相の内閣は好調な支持率を保って推移している[付記参照Fこれはヽゃはりしばしば言われるようにヽ左翼︵社
会民
主主
義︶
の復調と考えてよいのだろうか︒少なくとも選挙レベルで見れば︑
て︑これについて﹁欧州統合の深化にともなう社会的︿弱者﹀問題への対応︵社会的テーマ︶が︑多くの平均的有権
者の関心を集め︑そしてこのテーマヘの対応能力については︑歴史的にそうであったように︑依然として保守よりも
左翼に期待感が強い﹂ことが保守の不振・左翼の復調をもたらしたという説明がしばしばなされるが︑これもそのと
おりであると思う︒
しかし︑ここでいくつかの疑問が生じてくる︒ひとつは︑イデオロギーとしての社会民主主義は復調したのかとい
うこ
とで
ある
︒
一九
七
0年代末以来︑﹁西側︵当時︶先進諸国﹂における保守対左翼︵社民︶
済的自由主義︵新自由主義︶の攻勢という状況下での︑経済政策をめぐる新自由主義と社会民主主義の対立であった︒
大胆に要約すれば︑前者の基軸は規制緩和・民営化に象徴される市場中心主義であり︑後者は市場経済の欠陥是正の
ために︵市場経済を前提としつつも︶国家が市場を規制するという主義だと言えるが︑
一九
九0
年代
後半
期の
フラ
ンス
にお
ける
選挙
・政
策・
イデ
オロ
ギー
七九
の基本的対立軸は︑経
フラ
ンス
では
︑ 三年に社会党政権が古典的な社会民主主義の実験に失敗した後︑新自由主義的方向に転回し︑国家中心主義
( e t a
t i s m
e )
的保守のゴーリストも含めて︑ある程度の振れはあっても︑左右とも規制緩和・民営化という市場中心
主義的経済政策という点では︑大きな差異は出せなくなっている︒左翼︵社会民主主義︶らしさは︑経済ではなく︑
︵例えば︑移民問題や女性問題など︶示そうというスタンスを取らざるを得なくなっている︒そう
(︱
二七
一︶
一九
八一
ー八
一応そのように言えるだろう︒そし
であ
る︒
だとすると︑選挙における政治勢力としての社会民主主義勢力は復調したが︑イデオロギーとしての社会民主主義は
(1 )
そうではない︑と言わねばならないだろう︒
ふたつめに︑選挙結果をもう一度見れば︑保守が大敗北した九七年議会選挙でも︑右翼︵保守+極右︶全体の得票
率︵対有効投票︶は五一・五%で︑左翼︵エコロジストを含む︶を上回っており︑保守が左翼を破った七八年議会選
挙での右翼全体の得票率︵四七・五%︶を上回っている︒とすれば︑左翼の復調は事実だが︑より大きな問題は右翼
側にありそうだ︒右翼の得票率全体に占める保守︵穏健右翼
II RP R+ UD F)
挙で勝つためには極右支持票を獲得することが必要なのだが︑
︵ー
ニ七
二︶
の比率が縮小し︑極右
(F
N)
が恒
常的に右翼全体の中で二五ー三0%を占めていることが最大のアポリアとなってきた︒というのは︑保守勢力は︑選
フランス政治システムにおける﹁非正統化された﹂勢
力たる
F
Nとの連合は禁じ手であるし︑支持者の切り崩しのために
F
Nの主張を取り込むことも同様に禁じ手なので
ある︒先に述べたように︑欧州統合の深化にともない関心度を増している﹁社会的テーマ﹂について︑保守は本来的
に左翼よりも﹁不得手﹂と認知されているし︑他方で極右のようにこのテーマに徹底した排外主義的アプローチ︵移
民排斥など︶を取って不満を持つ有権者を籠絡することはできない︒かくして︑保守︵穏健右翼︶は左翼と極右の間
に挟まれて︑打開策を見出しかねているという危機状況にある︒左翼の選挙での勝利は︑このような保守勢力の危機
に負うところが大きい︒実際︑八八年︑九三年︑九七年の議会選挙の特徴は︑三五%という棄権率の一貫した大きさ
一九五八ー一九八六年までの議会選挙では︑もっと大事だと感じられる選挙︵例えば大統領選挙︶
行われた場合という例外的事例を除き二
0%前後︑多くて二五%だったのとは様変わりである
20 00 ]︒ 廷
g旦回皿3曲5荘
ti
Rg紙ヤ欠免怜の退潮︑その中での保守の危機と左翼の相対的復調︑しかしイデオロギーとしての社
関 法 第 五
0巻
第 六 号
八〇
の直後に[ cf.
土
倉︑
19 98 ,
八
マスメディアのレベルにおいて︑長い間もっとも大
(t
he
me
s
会民主主義のヘゲモニーの回復かどうかは不確か︑というのが︑本稿の主張である︒
選挙での社会民主主義勢力の勝利
ー争点の視点から一九九七年議会選挙を再考するI
本節では︑社会党を中心とする左翼
( l a
ga
uc
he
pl u
r i e l
l e )
が大勝した一九九七年五ー六月の国民議会選挙結果を︑
有権者の関心の所在︵争点︶という観点から検討し︑有権者レベルでのイデオロギーのありようを捉えたい︒この問
題を詳細な世論調査データをもとに正面から論じているのがR
・ケ
ロル
あげられているデータとあわせて︑
田 ︑
19 99 ,p .
1 0 7
は ︑
[ Ca y
r ol ,
1
99 8)
である︒本節では︑そこで
ケロルの立論をやや詳しく紹介し︑次節でその妥当性の範囲を検討する[
c f .
増
ケロルの議論を肯定的に紹介している]°まず[表
l I ー
l]
から明らかなように︑九七年議会
選挙での﹁投票に際してもっとも重視する問題は何か﹂と聞かれた有権者の文字通り圧倒的多数︵八
0%
︶が﹁雇用
︵すなわち失業︶﹂問題をあげていた︒雇用問題を頂点に高い関心事となったのは︑﹁社会的テーマ
s oc i
a ux )
﹂とケロルが呼ぶ争点群︑すなわち﹁社会的不平等との闘い﹂﹁社会的保護
( p r o
t e c t
i o n
s o c i
a l e )
﹂である
︵ 五
0%前後︶︒これに対して︑政治経済行政各分野のエリート︑
きな課題となっていた﹁財政赤字﹂と﹁ヨーロッパ建設︑単一通貨﹂︑また﹁世界におけるフランスの影響力﹂﹁諸制
度の良好な働き﹂︑要するにマクロ経済政策・外交安保・政治制度といった﹁天下国家論﹂的︵このうち︑前二者に
ついては明白に﹁新自由主義的﹂解決策を含意する︶問題についての関心はもっとも低い水準に推移していた︵ニ
0%前後ーニ五%︶︒しかも︑これらは選挙運動期間が進むにつれ︑関心がさらに低下する傾向さえ見られる︒
一九
九
0年
代後
半期
のフ
ラン
スに
おけ
る選
挙・
政策
・イ
デオ
ロギ
ー
I I
(︱
二七
三︶
[表11一1] 「今回の国民議会選挙で,投票に際して最も重視する 問題は何ですか」
[1997年4月24日ー5月27日のCSAによる24回のパネル調査] (%)
項目/第*回目の調査 1 2 3 4 11 12 13 14 21 22 23 24
雇 用 84 81 81 80 81 83 84 82 77 76 75 78
社会的保護 52 51 48 48 45 43 46 49 46 44 44 46
社会的不平等との闘い 52 53 52 52 47 49 49 50 52 49 48 50
治 安 44 39 40 40 31 34 37 35 39 38 37 40
腐敗との闘い 40 34 36 37 28 28 32 33 35 31 29 34
諸制度の良好な働き 32 30 28 28 22 23 23 23 27 25 26 28
財政赤字との闘い 32 26 24 26 18 19 21 20 26 23 22 25
ヨーロッパ建設・単一通貨 29 26 26 25 22 22 21 20 27 24 23 26
世界におけるフランスの影響力 25 23 22 23 17 17 19 18 22 21 21 23
関法第五
0巻第六号
典拠: [Cayrol, 1998, pp. 100‑101]より作成
月二日の
CSA
調査︶︒すなわち︑この考え方に同意する︵﹁どちらかと
言え
ば賛
成﹂
︶
のが回答者全体では八九%︑支持政党別では︑共産党支
持者九一%︑社会党支持者九三%︑ェコロジスト支持者八七%︑中道保
守の
UDF
支持者八七%︑保守ゴーリスト
RPR
支持者八七%︑極右F サスが成立していることが明らかにされている 0
%
︶
また
︑
ケロルが引いている同時期の別の調査によれば︑﹁将来の政府
がフランスをどのようなタイプの社会に持って行くのを望むか/私的
︵民間の︶イニシアチプが優位となり︑経済的社会的問題について国家
︑ ︑
はできるだけ関与しない社会︑それとも連帯が優位となり︑国家が重要
な経済的社会的使命に携わる社会か﹂という質問に対して︑四月ー五月
の何回かの調査を通して︑有権者の大多数は﹁連帯﹂を優位に置き︑選
挙が近づくにつれてその数字は大きくなって行った︵連帯こ五二︑五六︑
六〇︑六四︑六五%/私的イニシアチプニ=一︑二八︑二七︑ニ︱ニ
[ Ca y
r ol ,
1
99 8, p .
1 0 6 ]
︒
同様に︑﹁我々の社会的モデルが保障されるという条件付きで︑深い
変化を受け入れることができる﹂という考え方に同意するか否かについ
て︑左右の支持政党を越えて有権者レベルでほぼ完全な同意のコンセン
J¥
(︱
二七
四︶
︵九
七年
四月
二四
日ー
五
[表1Iー 2] 各政党の問題解決能カイメージ
「次の各問題について,それを解決する能力があるとあなたが最も信頼を寄せて いる政党は何ですか」
[1997年4月29‑30日のCSAによる調査] (%)
争 点 PC+PS RPR+UDF FN
雇 用 35 34 3
社会的不平等との闘い 50 27 4
社会的保護 50 29 3
(
ムロ 安 26 41 10
腐敗との闘い 27 31 7
諸制度の良好な働き 31 36 4
財政赤字との闘い 26 41 4
ヨーロッパ建設 29 42 2
世界の中でのフランスのイメージ 27 44 3
典拠: [Cayrol, 1998, p. 108]より作成。
J¥
して︑保守
(R PR +U DF ) を上げたものは︑それぞれ二七%と
N支持者八二%であった[
C ay r
o l,
19 98 , p . 10 7]
︒まさに﹁︿社会的
モデル︾と︿連帯︾という概念が一九九七年には︑この国のイデオ ロギー的景観の中心を占めている﹂[
C a y r
o l,
19 98 ,
p .
10 6]
るわ
けだ
︒ そして︑歴史的にそうであったように[第五共和制前半期につい
て︑参照こ渡辺/南/森本,
19 97 , pp. 2 07
‑2 08
]︑
てもまた︑有権者のもっとも大きな関心事︵争点︶
と言え
となっていた
﹁社会的テーマ﹂に対する解決能力は︑保守よりも左翼にあると︑
より多くの有権者は考えていた
0
[ 表
Il
│2
]
は︑各争点について︑
有権者が﹁それを解決する能力があると最も信頼を寄せている﹂と して上げた政党の割合を示したものだが︑これによれば︑﹁社会的 不平等との闘い﹂および﹁社会的保護﹂について︑左翼︵社会党+
共産党︶に解決能力ありとするものが︑ともに五
0%だったのに対
二九%だった︒︵ただし︑雇用問題については左翼と保守はほぼ同 等で︑しかも低い水準でそうである︒これが何を含意するかは次節 で検討する︒︶これに対して︑保守が左翼をはっきりと引き離して
一九
九
0年
代後
半期
のフ
ラン
スに
おけ
る選
挙・
政策
・イ
デオ
ロギ
ー
(︱
二七
五︶ 一九九七年におい
投票者では六二%と圧倒的に多い つ社会﹂を望む者が七0%と圧倒的に多いのに対して 一九九七年の投票政党別に分け︑それぞれの いるのは︑﹁財政赤字との闘い﹂﹁ヨーロッパ建設﹂﹁世界の中でのフランスのイメージ﹂﹁治安﹂といった争点である︒要するに﹁天下国家論﹂的かつ﹁新自由主義﹂的テーマについては︑保守はその解決能力を左翼よりもありと有権者に認められていたわけである︒いくつかの言葉を﹁もっともよく体現している政党﹂を有権者に尋ねたイメージ調査でも︑﹁改革﹂﹁現代性﹂﹁ヨーロッパ﹂は保守が多く上げられ︑﹁連帯﹂﹁親近性﹂は左翼が多く上げられていた︵それぞれ順に︑保守対左翼は︑三八対ニ︱︱‑%︑三八対ニ︱%︑四一対一九%︑
結局︑より多くの有権者における関心の所在︵争点︶と左翼・保守のそれぞれのイメージの適合度の落差の相違が︑
左翼の勝利と保守の敗北を生み出した大きな要因であることは言えるだろう︒この点を確証するデータのひとつが︑
一九九五年大統領選挙の決選投票で保守のシラクに投票した有権者を︑
争点に対する態度を見た世論調査である︵九七年四月二四日ー五月二二日の
CSA
調査
︶︒
﹁将
来の
政府
がフ
ラン
スを
どのようなタイプの社会に持って行くのを望むか﹂︵﹁私的イニシアチプが優位な社会﹂か﹁連帯が優位な社会﹂か︶
という質問について見れば︑九五年にシラクに投票しながら九七年には左翼に投票した人々では︑﹁連帯が優位に立
九五年も九七年も保守︵シラク︶に投票した人々では︑それぞれ四二%︵私的イニシアチプが優位︶︑四三%︵連帯
が優位︶と拮抗している︒また﹁現在進行中のようなヨーロッパ建設はフランスにとってチャンス﹂と考える人は︑
九五年シラク九七年左翼投票者では四六%︵そうは考えない四四%︶なのに対して︑九五年も九七年も一貫して保守
︵そうは考えない二七%)[
C a y r
o l ,
19 98 , p .
1 1 5
] ︒こうして︑有権者の間での﹁社
会民主主義的﹂関心の優位という世論のイデオロギー状況の中で︑相対的に﹁社会民主主義的﹂イメージを持たれて
関 法 第 五
0巻
第 六 号
一九
対四
七%
︑ニ
︱対
三二
%︶
︒
︵﹁
私的
イニ
シア
チプ
が優
位に
立つ
社会
﹂を
望む
もの
は二
0%
︶︑
八四
(︱
二七
六︶
l i l
の薄い選挙網領になってしまった
八五
[なお各党の選挙綱領については︑また参照︑増田3 一九九三年の大敗と結び付いたイメージを払拭 いた左翼︵社会党︶が︑九五年の保守への投票者をも奪って︑勝利を収めたという構図が描けるわけである︒
社会党自身︑選挙運動においては︑ディスインフレと緊縮政策という新自由主義的﹁ベレゴヴォワ主義﹂のイメー
ジ︵ベレゴヴォワは九二年四月ー九三年三月の社会党政権の首相︶︑
するために︑左派的主題系で訴えかけた︒単一通貨受け入れの四条件︵通貨安定協約の見直し︑欧州中央銀行を監視
する欧州経済政府の設置など﹁マネタリスト︵新自由主義︶﹂的単一通貨制度への抑制措置︶
化の凍結︑国家の積極的行動による七0万人の青年の雇用創出︑賃金減額無しの三五時間労働制である[この点にっ
︑︑
︑︑
いて
︑
Gr
un
be
rg
,
19 98
も︑九七年選挙が社会党の争点設定戦略の勝利でもあることを強調する]°これに対して︑保
守陣営では︑選挙前には︑国民負担の大幅軽減︑公務員の削減︑SMIC︵業種間一律スライド制最低賃金制度︶の
凍結・廃止など﹁新自由主義的﹂色彩の濃い主張が何人かの指導的政治家から聞かれていたにもかかわらず︑パター
ナリズム的・﹁国家中心主義的﹂立場︵代表的なのが︑国民投票でマーストリヒト条約反対を訴えたフィリップ・セ
ガン︶からの強い反発によって︑中間的な︑めりはりの欠けた︑社会党の立場ににじり寄っているかのような︑印象
19 99
]︒
[ 以
上 ︑
c f .
Co
he
n,
1
99 8]
本当に社会民主主義イデオロギーのヘゲモニーは回復したのか?
の提示︑すべての民営
前節での分析からは︑﹁フランス国民の間で社会民主主義イデオロギーのヘゲモニーが回復された﹂︑その結果﹁社
会民主主義的イメージをもたれ︑またそのような網領設定を試みた社会党が順当に選挙で勝利を収めた﹂という暫定
一九
九0
年代
後半
期の
フラ
ンス
にお
ける
選挙
・政
策・
イデ
オロ
ギー
(︱
二七
七︶
いのである
︵三
六︑
一 五 ︑
(︱
二七
八︶
的結論が引き出せよう︒この命題の後半は正しい︒だが前半は本当なのだろうか︒前節で依拠したケロルの論文は︑
(2 )
概略的に言えば命題の前半も正しいと言っているのだが︑彼の論文自体が提示しているデータをよく見るといくつか
(1
)
ひとつは︑圧倒的関心事である雇用︵失業︶問題の解決能力について︑有権者は︑左翼にも保守にも︑ほぼ
同等の︑しかも低いレベルでの信頼しか置いていないということである0
[ 表 I
I I 2 ]
で見たように︑各争点につい
て︑﹁それを解決する能力があると最も信頼を寄せている﹂政党として︑左翼︵社会+共産︶あるいは保守
(R PR +U DF )
を上げた有権者の割合は︑各党派のそれぞれ﹁得意分野﹂については︑いずれも四0%を越えているのに
対して︑雇用については︑三五%と三四%に止まっている︒ケロル自身指摘しているように︑﹁多数の市民はこの問
題についてはもはや誰も信頼していない﹂ようだ︒この点は[表皿ー
1]
から一層明らかである︒これは︑各項目
ごとに︑当該争点を﹁とりわけ優先すべきもの﹂と答えた有権者を対象に︑左翼と保守のどちらが︑その問題に効果
的に取り組めると思うかと尋ねた結果を示している︒﹁経済成長の振興﹂﹁国の現代化﹂﹁ヨーロッパの建設﹂につい
ては︑ここでも保守が左翼を大きく引き離して信頼を得ており︵四五︑四二︑四八%︶︑他方︑左翼もやはり︑﹁社会
的保護﹂﹁不平等との闘い﹂などで保守を大きく引き離して信頼を得ている︵四八︑五四%︶︒そして保守が優位な争
点を﹁とりわけ優先すべき﹂とした人の割合は︑左翼の得意分野についてそう答えた人の割合よりもはっきりと少な
一六%に対して四六︑三二%︶︒しかし︑ここでもまた︑回答者の六七%という他の争点
に抜きん出て多い人々が﹁とりわけ優先すべきもの﹂とした﹁雇用﹂については︑左翼を信頼するもの二八%︑保守
を信頼するもの一︱︱‑=%とともに低く︑さらに注目すべきは︑﹁どちらも信頼しない﹂のがニ︱%と他の争点の場合よ の留保をつけることができる︒
関 法 第 五
0巻
第 六 号
八六
[表m‑1J 左翼と保守の能カイメージ
「次のそれぞれの目標について, RPR‑UDFと左翼のどちらがより効果的に取り
組めると思いますか」
[1997年5月9‑10日のCSAによる調査] (%)
RPR‑UDF 左翼 双方可 どちらも不可 無回答
失業との闘い (67%) 33 28 5 21 13
社会的保護の保証(46%) 24 48 5 10 13
経済成長の振興 (36%) 45 24 6 12 13
腐敗との闘い(34%) 28 23 11 27 11
暴カ・治安の不安との闘い (33%) 43 18 14 11 14
不平等との闘い (32%) 19 54 6 11 10
フランス人の利益を配塵したヨーロッパ建設(16%) 48 26
,
6 11この国の現代化(15%) 42 29
,
5 15八七
じたがっている﹂[
C ay r
o l, p .
1 0 6
]
わけ
であ
る︒
政党を問わず︑ほとんどの有権者が︑
一方
で
﹁グローバル化
( l a
よりも雇用問題解決への信頼度は高いのも︑示唆的である︒ りもかなり多いことである︵﹁雇用﹂の場合とともに﹁腐敗との闘い﹂でもこの数字は高いが︑後でも述べるように︑﹁政治不信﹂の現れと解釈できる︶︒しかも︑大きな差ではないとは言え︑保守の方が左翼
(2)ふたつめの留保として︑有権者の意識において矛盾する考え
方が共存していることである
o [表
I I
I │
2 ]
が示しているのは︑支持
m on d
i al i
s at i
o n)
の今
日︑
す示を合割の人たえ答と
のもきることが必要﹂と考えつつ︑同時に︑﹁引き締め政策の時代は過ぎペす先優成去った﹂と考えているということである︒同様に︑﹁現在進行していt作りよるようなヨーロッパ建設﹂がフランスに利益となると考える人は︑社 わ
り
とi
ro
l
会党と保守支持層では多数派であるが︑単一通貨の導入については︑を標目p﹁緊縮政策をやめる﹂という条件付でのみ受け入れるというのが︑支
持党派を超えたコンセンサスとなっている︒有権者の文字通り圧倒的
輝 喚
ま即
a y
多数が︑ふつう対立すると理解されている諸項目の﹁両立可能性を信c
︵ 拠
* 典
このような留保をどう理解すべきか︒これを考えるに当たって示唆
一九
九
0年
代後
半期
のフ
ラン
スに
おけ
る選
挙・
政策
・イ
デオ
ロギ
ー
フランスを現代化し︑もっと競争力をつけ
(︱
二七
九︶
[表IIIー 2] 競争力と引き締めの緩和, ヨーロッパ政策,緊縮政策
「次のそれぞれの意見についてどう考えますか」。
(問1) グローバル化の今日,フランスを現代化し,
が必要。
(問2) 引き締め政策の時代は過ぎ去った。今や新しい段階に移行すべきだ。
(問3) 現在進行しているようなヨーロッパ建設はフランスにとっての好機であ
る。
(問4) 単ー通貨を導入すべきだが,
ある。
[問1'問2⇔1997年4月24‑29BのCSAによる調査,問3'問4¢1997年5月21‑27日
のCSAによる調壺] (%)
もっと競争力をつけること
ただし緊縮政策をやめるという条件付きで
関 法 第五0 巻 第 六号 問1(競争力) 問2(引き締めの緩和) 問3(ヨーロッパ) 問4(単一通貨と緊縮)
どちらかと言えば賛成 どちらかと言えば賛成 どちらかと言えば賛成 どちらかと言えば賛成
全 体 81 61 50 60
支持政党別
共 産 党 70 62 24 67
社 会 党 80 63 52 64
エコロジスト 62 62 43 67
UDF 95 63 63 63
RPR 91 65 65 61
F N 85 57 17 58
典拠:[Cayrol, 1998, pp. 103‑104]により作成。
減に賛成している︒ 時期の別の調査でも︑七七%が企業の負担軽 f r ¥
] 0 [ C
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19 98 ,p .
94]~~±-ている同
Ma
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対して︑﹁そう思う﹂が実に八
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﹁思
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わねばならないと思いますか﹂という質問に の引き上げには︑企業の社会負担の軽減を伴
②
﹁新与党が宣言した
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国鉄
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に賛成⁝六八%︑クレディ・リヨネ⁝六七%︑ 支持されている︒
フランステレコムの民営化
①民営化は︑はっきりと多数のフランス人に 論調査結果を見てみよう︒これによれば︑ ているものも含めて︑総選挙後のいくつかの世 的
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19 98 ]
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である︒彼が引用し (︱
二八
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[表1IIー 3l 企業の民営化について
「次の企業について,あなたはどう考えますか」
[1997年6月20‑21日の調査: BVA/BFM/Paris‑Match]
一九
九
0年
代後
半期
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政策
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クレディ リヨネ
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フランス GAN フランス
テレコム 国 鉄 EDF GDF アエロス
パシアル 全面的民営化
に賛成 1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・I・・ ー・・・・・・—..● —+· ・・・・・— ···1···•···-r···1···1···
部分的民営化 に賛成:国家 はその主要株 主として留まる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・I・・・・・・・・・・・・・・+・・・・・・・・・・・・・+・・・・・・・・・・・・・‑i‑・・・・・・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・・・1・・・・ー・・・・・・・・・・
一切の形の民 営化に反対
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
分からない
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12I
7I
16I
5 I 5 I 5 I 1147 39 39 36 30 27 26
20 31 25 32 30 32 33
21 23 20 27 35 36 30
合 t ' ' " ロ
100 100 100 100 100 100 100
八九
︵七
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0 [表 要するに︑社会党の網領に見られる﹁国家のイニシアチプに
社会険保z A G成作りよ
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ガ恥よる︑企業への負担をも含意した﹂諸措置︑民営化の凍結といス
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う方向とは逆の考え方が︑むしろより多くの有権者の意識と :I I なっているようだ︒﹁新自由主義﹂的発想が有権者の間に浸透
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:していると言えなくもない数字ではある︒
E拠
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同時に注目すぺきなのは︑﹁この国の最も重大な諸問題に対 II
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(︱
二八
一︶
チブに任せるべきだと考える人が多い
④
の負担軽減と考える人の方が多い︒﹁失業と闘うために︑次 期政権が取り組むべき優先的措置は何だと考えますか﹂とい 企業の負担の軽減⁝五一%︑公共部門での雇用創出⁝三二%︑
減税⁝三0%︑労働時間の短縮⁝二八%︑採用・解雇の条件の 柔軟化⁝ニ︱%︑労働時間の柔軟化⁝一九%︵複数回答︶︒
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f r / ] 労働時間短縮は政府のイニシアチブよりも企業のイニシア
う質問に対する回答は次のような順であった︒
③失業対策として効果的なのは︑労働時間短縮よりも︑企業