Title
東アジアの平和と民主主義 : 北朝鮮問題への地域協力体
制〈課題と展望〉(国際学術シンポジウム)
Author(s)
李, 鍾元
ヤン・C・キム
康, 仁徳
朱, 建栄
遠藤, 哲也
三村, 光弘
渡辺, 勉
宮本, 悟
小田川, 興
Citation
聖学院大学総合研究所紀要, No.53 別冊,
2012.3 : 103-182
URL
http://serve.seigakuin-univ.ac.jp/reps/modules/xoonips/de
tail.php?item_id=4253
Rights
聖学院学術情報発信システム : SERVE
国際学術シンポジウム
東アジアの平和と民主主義
︱
︱
北朝鮮問題への地域協力体制
︿課題と展望
﹀
︱
︱
講 演李
鍾
元
ヤン・
C・キム
基調報告康
仁
徳
朱
建
栄
報 告遠
藤
哲
也
三
村
光
弘
渡
辺
勉
コメント宮
本
悟
司 会小
田
川
興
小田川 ただいまから聖学院大学大学院・聖学院大学総 合 研 究 所 主 催 の 国 際 学 術 シ ン ポ ジ ウ ム﹆ ﹁ 東 ア ジ ア の 平 和 と 民 主 主 義 ︱ ︱ 北 朝 鮮 問 題 へ の 地 域 協 力 体 制 ︿ 課 題 と展望﹀ ﹂を始めます。 本シンポジウムですが﹆ご存じのように昨年末﹆金正 日 北 朝 鮮 総 書 記 が 死 去 す る 中 で﹆ 北 朝 鮮 の 後 継 体 制 問それ以前にも﹆九〇年代の末からさまざまなセミナーを 開催してまいりましたが﹆このような本格的な取り組み をしてきた北朝鮮情勢がいま激動含みということで﹆本 日 は 突 っ 込 ん だ 議 論 を し て い き た い と 思 っ て お り ま す。 申しおくれましたが﹆私は本日のコーディネーターを務 めます聖学院大学総合研究所特命教授の小田川と申しま す。朝日新聞ソウル支局長﹆編集委員を務めてまいりま した。 それでは﹆まず初めに主催者を代表致しまして﹆聖学 院大学総合研究所の大木英夫所長からご挨拶を申し上げ ます。よろしくお願いします。 題もさることながら﹆さまざまな複雑な要因を抱えてい る東アジアの平和と安定を実現するために﹆関係国がど のように協力﹆連携をしていったらよいのかということ を考える局面に来ているところです。北の状況によって は﹆激動含みという状況も予想されないわけではありま せん。 ま た﹆ 東 ア ジ ア を め ぐ っ て は﹆ 今 年 は ロ シ ア﹆ 中 国﹆ アメリカ﹆また﹆お隣の韓国がそれぞれの指導者の交代 の 時 期 で ︱ ︱ 日 本 も 何 や ら 不 安 定 な 政 治 状 況 で す が ̶ ̶ スーパーイヤーと言われております。そんな中で東アジ ア情勢の行方が注目される時期に来ているのではないか と思います。北京では﹆北朝鮮の核問題をめぐるアメリ カと北朝鮮の協議が﹆金正日総書記の死去後初めて開か れたということで﹆これもまた今後の展開が大いに注目 されます。 このシンポジウムですが﹆聖学院大学総合研究所では 二 〇 〇 三 年 に 日 韓 現 代 史 研 究 セ ン タ ー を 設 立 し﹆ こ の テ ー マ で の シ ン ポ ジ ウ ム を 開 催 し て き ま し た。 今 日 で ちょうど一〇回目という節目に当たります。聖学院では
開会挨拶
大
木
英
夫
聖学院大学総合研究所を代表いたしまして﹆一言ご挨 拶を申し上げます。 聖学院大学総合研究所は聖学院大学と並びまして﹆特 別の使命を帯びて﹆大学院ではやり切れないようなテー マを取り上げている研究機関でありまして﹆もう二〇年 も続けております。敗戦後の日本国憲法による新しいデ モクラティックな日本形成にかかわる多面的な研究活動 を続けてまいりました。特にその中で憲法研究を重視い たしまして﹆これはずっと斯界の権威たちが集まって研 究を続けております。 ま た 学 術 方 面 と い た し ま し て は﹆ マ ッ ク ス・ ウ ェ ー バー︵ Max W eber ︶の研究やラインホールド ・ ニーバー ︵ Reinhold Niebuhr ︶ ︱ ︱ 実はラインホールド・ニーバー は 私 の 恩 師 で あ り ま す が ︱ ︱ の 研 究 な ど を 積 極 的 に や っ てまいりました。 その中で特に日韓関係の研究は二〇〇三年﹆金大中政 権 の 初 代 統 一 省 長 官 で あ っ た 康 仁 徳 先 生 を お 迎 え し て﹆ 関 係 者 と と も に 研 究 報 告 の 会 を 開 催 し て ま い り ま し た が﹆今回は一〇回目に当たります。たまたま北朝鮮の指 導部に変化があり﹆また中国の指導部には交代が起ころ うとしており﹆昨日は東京都知事が日本国憲法の改正を 大声で叫びました。そういう状況の中で世界的経済は不 安定になっており﹆中東問題﹆不況﹆そして大震災﹆そ の余震がグローバリゼーションの動向を不確定にしつつ あると思われます。 この研究会は特に東アジアのデモクラシー﹆あるいは デモクラタイゼーションについて関心を共有して﹆日韓 知識人の知的な交流と協力を求め﹆これまでは池袋のメ トロポリタンプラザで開いておりましたが﹆昨年度から こ の 会 場 で 行 う よ う に な り ま し た。 こ こ は ク ロ ー ソ ン ホールといいまして﹆聖学院を開設した初代の宣教師の記念としてつくられた﹆こうした集会のための場所であ ります。特にこのような会が可能になりましたのは国際 交流基金からの援助が続けられておりますためで﹆この 際﹆言及して心から感謝の意を表したいと思います。今 後ここでこのような研究の集いが続けられますことを期 待して﹆皆様のご協力を切にお願いしたいと思っており ます。 私はニーバーのもとで近代デモクラシーの源流につい て い ろ い ろ 研 究 し﹆ 論 文 な ど を 書 い て ま い り ま し た が﹆ 東アジアのデモクラシーの研究等におきましてベルリン の壁の崩壊のころを顧みますと﹆一九五〇年﹆当時のハ ン ガ リ ー 問 題 が 盛 ん に 論 じ ら れ て い る こ ろ﹆ オ ッ ク ス フォードのベイリオル・カレッジの学長をしておりまし た A・ D・リンゼイ﹆この名前は日本でも知られており ますが﹆このリンゼイ卿の発言したことを今ここで思い 出すのであります。 イギリスは﹆デモクラシーの源泉は自分のところにあ るという伝統的な理解を持っておるわけですが﹆ちょう どハンガリー問題が起こっているころ﹆リンゼイはその 当 時 の 人 民 民 主 主 義 と い う も の と 我 々 の 言 う デ モ ク ラ シーは全然違うということを発言したのです。これは日 本ではあまり知られていませんが﹆有名な発言です。 ここでリンゼイのことを一言だけご紹介申し上げます と﹆彼はフランス革命の自由﹆平等﹆博愛﹆こういうも の も﹆ も し も 彼 の 言 う 宗 教 的 根 底 を 離 れ て い る な ら ば﹆ 空虚なものになる﹆こういうことをその当時﹆発言して います。一九四五年の敗戦の二~三年後からです。そし て﹆ 彼 は こ の よ う な こ と も 申 し て お り ま す。 そ の 当 時 の﹆ い わ ゆ る 人 民 民 主 主 義 と デ モ ク ラ シ ー と の 違 い を はっきりさせなければならないと。 東アジアのデモクラシーの問題を考えていくときに重 要 な の は﹆ 依 然 と し て こ の リ ン ゼ イ 卿 が 言 う﹆ 区 別 が は っ き り し な い と い う こ と で は な い か と 見 て お り ま す。 日本でも同様だと思います。そのようなことから﹆東ア ジアのデモクラシーを問うときに﹆我々はこのリンゼイ 卿の教えというものを念頭に置く必要があるのではない かと考えて研究を進めてまいりました。今後とも皆様の ご支持を得まして﹆このような研究会がこの国の将来の
ために﹆またアジアの平和と発展のために何らかの貢献 ができればと願っておりますので﹆どうぞよろしくご指 導賜りますようお願いいたします。ありがとうございま した。 ︵拍手︶ 小田川 ありがとうございました。それでは早速﹆講演 に入らせていただきたいと思います。なお今日は資料集 が準備されておりまして﹆お手元にございますものを読 んでいただければと思います。また﹆後ろのほうには年 表等もついておりますので﹆ご参照いただきたいと思い ます。 まず講演の最初は﹆立教大学の李鍾元さんにお願いし たいと思います。李先生は﹆日米﹆米韓関係に大変精通 さ れ﹆ ﹃ 東 ア ジ ア 冷 戦 と 韓 米 日 関 係 ﹄ と い う す ぐ れ た 著 書を出されています。それでは李先生﹆お願いします。
〈講演〉
東アジアの安定と日本の役割
李
鍾
元
こんにちは。ご紹介いただきました立教大学の李鍾元 と申します。よろしくお願いいたします。今年はシンポ ジ ウ ム 一 〇 周 年 の 節 目 だ と お 聞 き し ま し た が﹆ 本 日 は﹆ 昨年に引き続き﹆この一〇周年の節目の大事なシンポジ ウムにスピーカーとして﹆しかも第一発言者としてお招 きいただき﹆大変光栄に思います。 こ れ か ら 多 く の パ ネ リ ス ト の 方 の 発 言 が 続 き ま す が﹆ 私の発言はどちらかというとお手元の資料集に基づきま して﹆全体に関するお話を申し上げたいと考えております。 ﹁ 東 ア ジ ア の 安 定 と 日 本 の 役 割 ﹂ と い う 非 常 に 大 き なお題をいただきました。しかも最初に話をしろという こ と で し た の で 全 体 を 見 渡 し な が ら の お 話 と い う こ と で﹆しかも三〇分という限られた時間ですので﹆どうし て も オ ー バ ー オ ー ル な 総 括 的 な 話 に な ろ う か と 思 い ま す。少し弁解がましくなるかもしれませんが﹆いただい た題の﹁東アジアの安定と日本の役割﹂という二つの大 きな概念の中で﹆主に前半についてお話ししたいと思い ます。 私は日本で二十数年お世話になり﹆税金もたくさん納 め て は お り ま す け れ ど も﹆ 市 民 権 が あ る わ け で は な く﹆ 時折﹆日本の政策に少しばかり口出しはしますが﹆それ を決める基本的な主権者ではございません。 後半の﹆日本の役割についてはこれから続く多くのス ピーカー﹆パネリストの方々﹆とりわけ日本の市民権を 持っていらっしゃる方々に多くご発言をお願いしたいと 考えております。 先ほど司会の小田川さんからもお話がありましたけれ ど も﹆ 今 年 は 本 当 に 東 ア ジ ア 地 域 に 直 接 関 係 す る 国 々 で﹆政権交代﹆選挙﹆政治の変動の季節が続きます。国 際政治の歴史でもこれほど選挙なり権力交代が集中する 年というのはなかなかないので﹆私のような国際政治学 者には﹆不謹慎な言い方になるかもしれませんが﹆非常 におもしろい年ということになります。ただ﹆政治の現 実﹆外交の現実も流動的になりやすい時期です。 そういう意味で日本にとっても大きな危機で﹆どのよ うに危機を管理していくのかという発想が基本的に求め られる時期であります。それと同時に﹆非常に陳腐な言 い方ですけれども﹆常に危機﹆流動的だというのは何か のチャンスでもあるということですので﹆これから少し ばかり大まかなことを申し上げたいと思いますが﹆日本 外交にとってはやるべきことはたくさんある﹆そういう 時 期 と い う こ と に も な る か と 思 い ま す。 さ ま ざ ま な 激 動﹆あるいは少なくとも激動のポテンシャルを含んだ局 面 が 続 く わ け で す が﹆ 少 し 大 き な 言 い 方 に な り ま す が﹆ その背景に二つの変化があるということをまず最初に申 し上げたいと思います。 一 つ は﹆ ﹁ パ ワ ー シ フ ト ﹂ で す。 国 際 政 治 で よ く 言
わ れ る パ ワ ー シ フ ト で す け れ ど も﹆ 権 力 交 代﹆ 世 界 的 な﹆あるいは地域的なパワートランジションです。これ は 言 う ま で も な く 中 国 の 台 頭 と い う こ と で す け れ ど も﹆ 二〇一〇年に日中逆転が起きました。そのことが少しば か り 話 題 に な り ま し た。 そ の 日 中 逆 転 が 起 き た 直 後 に 三・一一が起きたので﹆さらに大きなパワーシフト﹆パ ワートランジションが東アジアに進行しているという認 識が﹆日本ではより強くなるのかもしれません。つまり 日本がもっと苦しい時期に入っていくのに﹆周りの﹆特 に中国を含んだほかのアジアはもっと伸びてくるのでは ないかという大きなパワーシフトの認識です。 さらに﹆日中逆転が起きたのは一昨年ですが﹆当初は 二〇三〇年というふうに思われていましたけれども﹆当 初の予想より早くなって﹆二〇二〇年代の前半には米中 逆転が起きるのではないかとも言われています。これは 数 値 上 の 問 題 で は あ り ま す け れ ど も﹆ 経 済 全 体 の サ イ ズ﹆ G D Pか ら す る と﹆ 恐 ら く 二 〇 二 〇 年 代 の 前 半 に は米中は並ぶことになるだろうということです。 これは中国の伸びが予想以上に早いということもあり ますが﹆それよりもアメリカの落ち方が早いということ が大きく影響しています。アメリカは二つの戦争﹆反テ ロ戦争で相当消耗して﹆経済力が大きなダメージを受け た。それが財政危機﹆金融危機にあらわれているわけで すが﹆そのアメリカの後退といいましょうか﹆退潮とい うのがより顕著になり﹆米中逆転が予想より早くなるの ではないかという見通しです。 もちろん一人当たりの国民所得というのは今現在でも 日本の一〇分の一ですし﹆中国がさまざまな問題を抱え ているということは日本の新聞にほぼ毎日報道されると おりです。少なくとも中国はいま本当に先進国なのかと いうことを﹆朱建栄さんもいろいろお書きになったりし ていますが﹆その実態にさまざまな問題があるというの は中国自身も自覚していると思います。 そう単純な話ではありませんけれども﹆少なくとも国 家全体の経済のサイズ﹆これが一定程度﹆外交に影響す るのは仕方ない﹆避けられないところですが﹆そういう 意 味 で も 大 き な 変 化 が 起 こ っ て い る こ と は 否 定 で き な い。非常に世界的なパワートランジションが起きている
ということです。 国 際 政 治 の 歴 史﹆ 理 論 な ど を 見 る と﹆ こ の よ う な パ ワ ー ト ラ ン ジ シ ョ ン の 時 期 に 多 く の 戦 争 な り﹆ 紛 争 な り﹆そういうものが起きるということは教科書的に語ら れ る こ と で す。 ロ バ ー ト・ ギ ル ピ ン︵ Rober t Gilpin ︶ な どが﹁覇権交代戦争論﹂などの本を書いて一時期話題に も な り ま し た け れ ど も﹆ 彼 ら の 言 葉 を か り る ま で も な く﹆ パ ワ ー が シ フ ト す る﹆ こ の 時 期 が 不 安 定 で あ っ て﹆ さまざまな戦争などが多発するということは﹆国際政治 の歴史が示すとおりです。ですから﹆このアジアにおい て も﹆ あ る い は 世 界 に お い て も﹁ 膨 張 す る 中 国 ﹂ ︱ ︱ こ れはある本のタイトルですけれども﹆膨張する中国とど の よ う に 向 き 合 っ て﹆ そ の 中 国 を 取 り 込 ん だ 新 た な 秩 序﹆システムをつくっていくのか﹆これが世界的な課題 であり﹆とりわけ東アジアにとっては最大の課題である ということは言うまでもないことかと思います。 ただ﹆中国の台頭﹆膨張する中国といっても﹆それは すぐアメリカに代わって中国が新たな覇権国になってく るのかというと﹆そういう見方もありますけれども﹆私 はそういう単純な見方は妥当ではないと考えます。その よ う に 考 え る こ と ︱ ︱ ど ち ら か と い う と 一 九 世 紀﹆ 二 〇 世紀前半までの﹆近代世界の軍事力を中心とした国力を 国家単位で競い合うという発想も﹆ある種の残像という ふうに見るべきだと思います。今起きていることは覇権 の交代﹆覇権がかわるという﹆そうした古典的な見方で はなくて﹆その部分が完全に消えたとは言えませんけれ ども﹆より重要なのは国際政治そのもののパワーが分散 し多様化している﹆あるいは分権化しているというのが よ り 現 状 に か な っ た 妥 当 な 言 い 方 で は な い か と 考 え ま す。 ﹃ポスト ・ アメリカの世界 ︵ The Post-American W orld ︶﹄ と い う 本 を 書 い た Newsweek の 編 集 長 で イ ン ド 出 身 の ザ カ リ ア︵ Far eed Zakaria ︶ さ ん が﹆ そ の サ ブ タ イ ト ル を ﹁その他の台頭 ︵
The Rise of Rest
︶﹂ というふうにつけま し た。 こ れ は も ち ろ ん 言 葉 遊 び で あ り ま す。 ﹁ The Rise of the East ﹂ と か﹁ The Rise of the W est ︵ 西 洋 の 台 頭 ︶﹂ という言葉にかわって﹆東か西か﹆あるいはアメリカか 中国か﹆そういう特定の国が台頭するということではな
くて﹆もろもろの国が台頭しているという表現です。 オバマ大統領が四年前の大統領選挙中にこの本を愛読 書 の よ う に 持 ち 歩 い て い る の が 画 面 に キ ャ ッ チ さ れ て﹆ さらに売れたという本ですが﹆このサブタイトルは非常 に巧みなものだと思います。つまり特定の﹆アメリカに かわって中国が台頭する﹆新たな覇権国が台頭するとい う古典的な覇権の交代ではなくて﹆覇権のあり方そのも のが変わって﹆国際政治秩序が垂直的なものから水平的 なものに変わっていく﹆そういうプロセスではないかと いう考察を﹆私は非常に鋭い観察だと感じております。 このような国際政治の多様化﹆分権化というのは﹆パ ワーの性質そのものも変化しているということと表裏の 関係にあると申し上げるべきかと思います。以前は軍事 力が優位でありました。軍事力の優位を誇ったのが従来 の 国 際 政 治 で す け れ ど も﹆ 今 や そ れ が 経 済 力 や 文 化 力﹆ 価値﹆理念など﹆さまざまな要素が重要になってくると いうことです。そのパワー自体の多様化が古典的な国家 の序列構造を根底から変えて﹆より水平的な国際関係の 可能性が生まれているということです。 これは言うまでもなく﹆相互依存とかグローバルとい う観点で語られる現象ですけれども﹆相互依存とグロー バ ル 化 の 進 展 で 主 権 国 家 の 体 系 そ の も の が 相 対 化 さ れ て﹆ 国 家 の 垣 根 を 越 え た﹁ 地 域︵ region ︶﹂ と い う も の が国際政治の重要な単位として浮上しているということ も﹆一九九〇年代﹆冷戦終結以来の大きな流れになりま す。 既 に E Uが﹆ 苦 し み な が ら も そ の 筆 頭 を 走 っ て い ますし﹆日本にはなかなか報道されませんが﹆ラテンア メリカも急速に地域統合を進めています。 このように国際政治のパラダイムシフトとも言うべき パワーのあり方そのものが変化し﹆相互依存と主権国家 を超える地域というあり方が大きな単位として浮上して いる。これがもう一つ﹆同時に進行している国際政治の 大きな変化ということに私たちは注目すべきだと考えま す。 国 家 を 超 え る 枠 組 み と し て の 地 域 を 考 え て み る と﹆ 無差別に進行するグローバル化へのオルタナティブ的な 色彩を持っているということがヨーロッパ﹆ラテンアメ リカを見るとはっきりとわかりますし﹆東アジアにおい てもこのような発想が非常に大事になってくるというの
が﹆私の申し上げたい最初の点になります。 このように二つの変化が生じていますが﹆地域統合に 対しては﹆東アジアではまだネガティブな見方が多いわ け で す。 こ れ は 客 観 的 に E Uと か ラ テ ン ア メ リ カ に 比 べると﹆東アジアの地域統合というのは制度化と認識が 遅 れ を と っ て い る の は 事 実 で す が﹆ そ の 実 態 を 見 る と﹆ 事実上の﹁東アジア共同体﹂が成立していると申し上げ てもいいような状況が﹆国際政治経済的にはいろいろな ところで確認できるわけです。 どちらかというと経済﹆社会﹆文化の現実はより先に 進んでいますけれども﹆政治や安全保障の枠組みがそれ より遅れていますし﹆さらに人間の認識というのは最も 保守的なものですので﹆より一九世紀的なところにとど まっているというのが﹆今のアジアの現実ではないかと いうような感じがします。 ここに簡単な統計だけ書いておきましたが﹆よく物差 しとして使われるものです。ちょっと古いもので恐縮で すが﹆通常﹆地域というものがどの程度まとまっている かという統合度を示す一つの材料が﹆域内貿易の比率で す。全体の貿易の中で﹆地域の中での取引はどのぐらい の 比 率 を 占 め る の か が﹆ よ く 一 つ の 尺 度 と し て 用 い ら れ ま す。 そ れ を 見 ま す と﹆ 二 〇 〇 五 年 の 統 計 で す け れ ど も﹆ ﹁ A S E A N+ 3︵ 日 中 韓 ︶﹂ に オ ー ス ト ラ リ ア﹆ ニュージーランド﹆インドを加えると一六カ国﹆これが 今 の と こ ろ 日 本 外 務 省 の 定 義 す る 東 ア ジ ア と い う こ と で す。 去 年 か ら は 一 八 カ 国 に 広 げ よ う と し て い ま す が﹆ こ の 一 六 カ 国 か ら 成 る 東 ア ジ ア の 域 内 貿 易 率 を 見 る と 五 五・ 九 % で す。 こ れ は N A F T Aの 四 三・ 五 % を は る か に 上 回 っ て お り﹆ E Uの 六 五・ 七 % に は 至 り ま せ ん が﹆ そ の 中 間 に 位 置 す る﹆ E Uに 肉 薄 す る よ う な 水 準を示しているということで﹆その数字は非常に興味深 いものだと思います。 つ ま り﹆ N A F T Aと E Uと い う の は お 互 い に 関 税 の障壁がないところですけれども﹆それでもこれぐらい の 水 準 で す。 東 ア ジ ア は F T Aは 進 ん で い る と は い え 依 然 と し て さ ま ざ ま な 障 壁 が あ り﹆ ま た 歴 史 問 題﹆ 政 治﹆安全保障では日中韓だけを見ても﹆さまざまなあつ れ き が あ る 中 で こ れ ほ ど の 統 合 度 を 示 す と い う こ と は﹆
いかに経済のお互いを必要とする相互依存の度合いが高 いのかということを﹆この数字一つだけで端的に物語っ ていると言えます。 日本ではなかなか認識されませんが﹆少なくとも﹁ A S E A N+ 3﹂ を 土 台 に し て﹆ 共 通 に 中 長 期 的 に 目 指 すべき目標として﹆二〇〇一年に﹁東アジア共同体﹂と いうのが公式に合意されました。日本ではよく東アジア 共同体というと﹆鳩山首相が祖父の代からの夢物語のよ うに掲げて﹆それで普天間問題に足をとられて﹆夢だけ を語って何も進展しなかった忘れ去られたエピソードの ように語られる場合も多いのですが﹆国際政治の場でい う と﹆ A S E A N+ 3の 公 式 文 書 に は 依 然﹆ 中 長 期 的 な目標として East Asian Community ︵ E A C︶を目指す ということを﹆それぞれの参加国がコミットしながら少 しずつ進めているという段階です。 それがさまざまな問題に直面しまして﹆各国がしのぎ を削っているのは事実ですけれども﹆少なくとも二〇〇 五年には一六カ国から成る ﹁東アジアサミット ︵ E A S︶﹂ というものがスタートして現在に至っております。 さ ら に 昨 年 は﹆ こ れ は A S E A N諸 国 が 中 国 へ の バ ラ ンスを意図したものではありますが﹆アメリカとロシア が新たに参加しまして﹆今は一八カ国となり﹆拡大しま した。東アジアという地域概念が拡大して﹆アメリカか らインドに至る広大な地域を含むことになり﹆さらにロ シアも含みますので﹆本当に東アジアと言っていいのか という戸惑いはありますけれども﹆この中身をどのよう にしていくかというのはこれからの課題です。 狭 義 の 東 ア ジ ア と い う 枠 は 少 し 緩 や か に な り ま し た が﹆ 少 な く と も そ の A S E A N+ 3︵ 日 中 韓 ︶ を 中 心 と した関係地域が何らかの形で制度化を進めなければなら ないという必要性は﹆政治﹆経済﹆安全保障面でも認識 され始めたということを端的に示す事柄だと思います。 よく指摘されますように﹆東アジアという地域をどの ように定義して﹆どうつくっていくのか﹆これをめぐっ てさまざまなせめぎ合いと戦いが展開されています。東 アジア首脳会議︵ E A S︶をめぐっても米中のあつれき が 報 道 さ れ ま し た し﹆ さ ら に T P Pと い う の は 東 ア ジ アをどのようにつくるかということに対する構想として
出てきましたので﹆場合によっては東アジアというのは 大きく分裂する傾向をも含んだ非常に流動的な状態では あります。 ただ﹆その米中があつれきを増大させていることは事 実 で す け れ ど も﹆ 米 中 関 係 は そ う 単 純 な も の で は な く て﹆このあつれきを含みながらも相互依存が非常に進ん で い ま す し﹆ 金 融 面 で は﹁ 米 中 融 合 ﹂ と ま で 言 わ れ る﹆ そういう現象がもう一面ではあるわけです。そういう意 味では﹆東アジアをどのようにつくるかをめぐって米中 が確執を続けている新冷戦的な面が確かにありますけれ ども﹆米中の実態を見ると﹆それだけではなくて相互依 存によって米中を含んだ共同体をいかにつくるのかとい う議論と実態が存在するということを﹆ここで指摘をし たいということです。 アメリカの中国への政策を見ましても﹆関与とヘッジ という両面が存在しています。それを含めて﹆やや単純 化した表現ですが﹆一方ではパワーシフトに伴う地政学 の 発 想 か ら 新 冷 戦 と い う 対 立 の 側 面 が 出 ま す け れ ど も﹆ それと同時にパラダイムシフトというもう一つの面から すると﹆相互依存と地経学という潮流があり﹆またそれ に基づいた共同体の推進という﹆この二つの潮流が混在 して地域の枠組みをめぐってせめぎ合っているのが﹆今 の東アジアの状況と申し上げることができます。 え て し て 日 本 で 外 交﹆ 東 ア ジ ア 問 題 を 語 る と き に は﹆ 問題﹆危機﹆葛藤﹆対立﹆そのような側面が強調されが ちですが﹆やはり必要なのは協調と対立という二つの面 が 同 時 に 進 行 し て い る と い う こ と を き ち ん と 見 き わ め て﹆その上で総合的な外交を展開するのが肝腎なことで ある。これが日本に求められていることだと思います。 このような大きな流れを背景にしまして﹆冒頭でお話 があったように﹆二〇一二年には各国で政治的な変動が 続きます。詳細に申し上げることは時間の都合上できま せ ん の で 原 稿 を 参 考 に し て い た だ け れ ば と 思 い ま す が﹆ そ れ ぞ れ の 国 の 動 き を 見 ま す と﹆ そ こ に は 一 定 の キ ー ワ ー ド が 重 な り な が ら 展 開 さ れ て い る こ と が 分 か り ま す。 まず﹆一月に行われたのは台湾の総統選挙です。台湾 の 選 挙 の キ ー ワ ー ド は﹆ ﹁ 経 済 ﹂ と﹁ 平 和 ﹂ だ と 言 わ れ
ました。国民党政権の馬英九総統が再選を果たしたわけ で す が﹆ 彼 が 進 め た 大 陸 と の 和 解 政 策﹆ 共 存 政 策 の 結 果﹆台湾の経済が非常に活況を呈したという経済効果で す。 つ ま り 経 済 と 平 和 の 相 関 関 係 が 大 き な 要 因 と な り﹆ 苦戦すると思われた国民党政権がある種の楽勝をおさめ たということです。これは一つのキーワードだと思いま す。 その反面﹆中国も柔軟な姿勢で臨んだ。どちらかとい うと﹆それが功を奏して台湾の国民党の再選を導き出し たということです。以前は総統選挙があれば﹆中国が軍 事的な威嚇行動を行ったりしましたけれども﹆今回は経 済力を全面に出したある種の微笑外交﹆緩やかで柔軟な 外 交 を 展 開 し﹆ そ れ が 中 台 関 係 の 安 定 化 に も つ な が っ た﹆国民党の再選にもつながったということです。それ は言ってみれば﹆私からの見方から申し上げると﹆中国 の 中 で も 穏 健 派 と い い ま し ょ う か﹆ 中 国 の 中 の 台 湾 派﹆ 国際派の立場をより強化する﹆そういう結果になったと いうことも言えるかと思います。 三 月 の 来 週 に は﹆ ロ シ ア の 大 統 領 選 挙 が あ り ま す が﹆ ロ シ ア も プ ー チ ン が 再 選 さ れ る だ ろ う と い う こ と で す。 ここで私たちが注目すべきは﹆ロシアはいろいろな民主 主義の問題がまた沸騰していますけれども﹆プーチン大 統領は近年﹆メドベージェフ大統領と一緒にユーラシア 同 盟 や 太 平 洋 国 家 と い う ビ ジ ョ ン を 語 っ て い ま す。 ど ち ら か と い う と ア ジ ア 太 平 洋 の 政 治﹆ 外 交﹆ 安 全 保 障﹆ そ れ か ら 経 済 の 重 点 を 移 す﹆ そ う い う 動 き を 示 し て い る わ け で す。 今 年 の 九 月 に﹆ ロ シ ア が 初 め て 主 催 す る A P E C首 脳 会 議 が ウ ラ ジ オ ス ト ク で 開 か れ ま す。 恐 らくこれを舞台にして﹆アジア太平洋国家としてのロシ アというものをいろいろな形で打ち出そうという政策で ここ数年準備を進めてきたわけですが﹆ロシアの考えて いる動機は非常にはっきりしています。資源は豊富だけ れども﹆経済的な開発が遅れている極東ロシア地域の開 発を促進する。そのためにはアジア諸国との連携が必要 である。とりわけ日本﹆韓国﹆朝鮮半島との連携が非常 に大事だということが一方であります。 それとともに﹆その背景には﹆中国に対するある種の バランス戦略があります。中国との関係は非常にいいの
ですが﹆地政学的な観点からすると中国の台頭はロシア にとって負担にもなりますので﹆中国の台頭に対するあ る種のバランス体制として﹆アジアにどのようなマルチ ︵ 多 国 間 ︶ の 体 制 を 築 く の か。 そ の 軸 と な る べ き も の が ロシアと韓国の関係であり﹆朝鮮半島との関係だという のが﹆ロシアの近年の議論からはよく見えてくるところ です。アジア太平洋に戻ってくるロシア﹆これは日本に とっても大きな外交のチャンスです。日本もこのような 要素を取り入れて﹆東アジアにどのような新システムを つくるのかということを考えるべき時点だと思います。 中国の変化については後ほど朱建栄先生からお話があ る か と 思 い ま す が﹆ 一 点 だ け 申 し 上 げ た い と 思 い ま す。 中国では長年﹆胡錦濤主席を中心とした鄧小平路線﹆ど ちらかというと対外的な柔軟路線ですけれども﹆この時 代から習近平さんにかわって﹆より保守強硬派的な政策 が 全 面 に 出 て く る の で は な い か と い う 危 惧 が あ り ま す。 近年そのような兆候があることは事実ですが﹆ここで強 調しておきたいのは﹆中国の指導部や世論も必ずしも一 枚岩ではない。どちらかというと穏健派と強硬派﹆国際 協調派と自主派がせめぎ合う構図があります。これはど の国も同じです。さらにそのどちらがより優位を得てく るのか﹆力を得てくるのかというのは﹆中国の内部事情 だけではなくて関係国の対中政策など﹆国際環境との双 方向的な相互作用﹆相関関係があるということを私たち は念頭に置くべきだと思います。 また﹆アメリカの大統領選挙の行方もまだ流動的です けれども﹆オバマが再選された場合には﹆恐らく今の政 策の流れがより強化されると思います。これもまた﹁経 済﹂というのが一つのキーワードです。軍事的な負担が 大きかったので﹆軍事費を削減し軍事力縮小しなければ ならないというのが一つあります。しかしその上で﹆経 済的な要因からも﹆また中国を牽制するという要因から も﹆アジア太平洋に積極的に展開することになると﹆相 矛盾する要請にこたえなければなりません。軍事力を減 らしながらアジア太平洋への関与を強めるというのは今 アメリカが試みているわけですが﹆そうすると当然その 答えは何かというと﹆外交的な手法に重点を置くことで す。特に多国間の地域の枠組みを強化していくことがア
メリカの政策の重点ということになります。 その文脈から去年﹆アメリカは東アジア首脳会議に正 式メンバーとして参加しました。さまざまな多国間の枠 組 み を 活 用 し た 外 交 を 展 開 し よ う と し て い る わ け で す。 も ち ろ ん 軍 事 的 な バ ラ ン ス 戦 略 も 展 開 し ま す け れ ど も﹆ 私は非軍事的な政治・経済的な多国間の枠組みが﹆今後 より大事になってくるというのがアメリカの政策の流れ だと思います。 戦後日本は軍事力を持たず﹆基本的に経済力に依拠し た外交を展開してきました。もはや第二の経済大国では なくなった日本は新たな局面を迎えています。これまで は軍事力がなくても経済力があったので﹆経済力という 手段を用いた外交を長年展開してきましたが﹆これから の日本の課題は﹆ある元外交官の方の言葉を借りるなら ば﹆ ﹁ お 金 の な い と き に ど う い う 外 交 を 展 開 す る の か ﹂ という問題を考える必要があります。 そ の 方 は﹆ ﹁ お 金 が た く さ ん あ る と き に は 外 交 と い う のはそんなに真剣に考えなくてもよかった﹂と﹆若干誇 張 し た 言 い 方 を さ れ ま し た が﹆ 経 済 力 だ け に 頼 れ な く なった日本が﹆戦後﹆平和憲法体制の下で展開した平和 国家日本としての外交のノウハウを﹆外交的にどのよう に結集して多国間のシステムをつくる外交を展開するの か﹆これから求められることになると思います。 朝鮮半島﹆韓国でも政治の変動が予想されていますけ れ ど も﹆ 韓 国 で も 台 湾 と 同 じ く﹆ 選 挙 で は﹁ 経 済 ﹂ と ﹁平和﹂が争点になっていますし﹆与野党問わず﹁福祉﹂ を競って掲げています。さらに今日の話ともつながるこ とですが﹆一昨年の北朝鮮からの延坪島砲撃の後もさま ざまな紛争がありました。その直後には韓国でも北に対 しての反感などが高まりましたけれども﹆それと同時に やはり安定することが大事であると。延坪島砲撃事件の 後に﹆かえって南北の安定を望む声が世論的には高まり ました。それに伴って﹆与野党ともに南北関係は非常に 緊張していますけれども﹆対北政策を一定程度﹆修正す べきではないかという議論があるわけです。選挙の季節 には﹆政策転換というのはなかなかそう簡単にはいきま せんけれども﹆もし四月に野党が躍進すると﹆大統領選 挙も接戦になると思います。
そういう状況では﹆韓国もやはり米中の間で南北関係 をいかに改善しながら朝鮮半島を安定させるのか﹆北東 アジアの中で外交的にどのような位置を占めるのか﹆こ れをめぐっては保守﹆革新﹆与野党問わず共通の悩みで すし﹆さまざまな試みがあります。保守﹆親米と言われ ている李明博政権であっても﹆ 去年の一一月に米韓 F T Aの 調 印 を な し 遂 げ た 後 す ぐ に 中 韓 F T Aに 軸 足 を 移 しました。これはある種のバランスです。アメリカとの 関係を土台にした上で﹆中韓関係﹆中国とのある種の新 たな﹁北方政策﹂的な流れの後に﹆ロシアとの関係も強 化しようとしています。 朝鮮半島を縦断するガスパイプラインのプロジェクト を中心にして﹆ロシアと韓国の関係も韓国としては非常 に大事だと考えている。これは韓国が米中という二極構 造の中でアジア太平洋﹆東アジアが完全に分断されない ように﹆どのようにつなげるのかということを韓国なり に苦心をしている﹆そういう流れの一つだと思います。 このような流動性を高めている東アジア情勢ですけれ ども﹆私は日本にとってもこれは危機管理をしなければ ならない状況であると同時に﹆先ほど申し上げたように 大 き な チ ャ ン ス で も あ る と 考 え ま す。 単 純 に 考 え て も﹆ 米中がにらみ合いを続ければ続けるほど﹆競争すればす る ほ ど﹆ 間 に 入 っ た 国 の 株 価 は 上 が る と い う こ と で す。 これは国際政治の単純な理屈ですけれども。そういう意 味で﹆米中が融合しながらも一定程度の競争関係を強め るとなると﹆双方から日本へのアプローチというのはか なり強くなります。 現実に今現在を見ますと﹆東アジア地域の主な国が日 本に対するアプローチを強めているような動きを示して います。これは角逐を続けるアメリカ﹆中国ともにです が﹆日本との関係を重視するさまざまな動きを示してい ま す し﹆ 新 し い ア ジ ア 太 平 洋 戦 略 を 構 想 す る ロ シ ア の プーチンにとっても﹆対日関係は非常に大事であるとい うことです。プーチンが大統領に当選すれば﹆日露関係 に新たないろいろな動きが出てくるのではないかと言わ れるのは﹆そういう背景からです。 また﹆これはまた後で詳しいお話があろうかと思いま
すが﹆今現在は中国への依存戦略を強めている北朝鮮で すけれども﹆北にとって中国への依存というのはもろ刃 の剣のようなものです。中国に依存して足場を固めると 同 時 に﹆ あ ま り 中 国 の 影 響 力 に 従 属 し な い よ う に﹆ 対 米﹆対日関係のバランスをとろうとする動きは以前から ありましたし﹆恐らくこれからもそういう状況は続くの ではないかと思います。問題はそれを受けとめる戦略的 発想と政治力が日本にあるのか﹆日本の政治が安定する のかというのが課題です。現在も恐らく水面下の接触を 含めて﹆米朝関係次第ではありますが﹆日朝関係にも一 定の進展の可能性はあると思います。 また﹆韓国にとってもこの中国問題や北朝鮮問題を考 え た と き に﹆ 日 本 と の 戦 略 的 な 連 携 は 非 常 に 不 可 欠 で す。その観点から﹆韓国の李明博政権は就任当初から対 日政策の重視を盛んに唱え﹆進めてきました。しかし残 念ながら﹆この連携が非常に不可欠であるにもかかわら ず﹆軍慰安婦などの歴史の問題や領土問題などで行き詰 まっているのは周知のとおりです。対日柔軟姿勢を標榜 して登場したのが李明博政権ですし﹆また韓国との戦略 的 な 連 携 を 重 視 し て﹆ ﹁ 実 現 で き る ﹂ と い う ふ う に 自 負 したのが日本の民主党政権です。 対日﹆対韓﹆それぞれ重視する二つの政権の間の関係 は﹆当初期待しましたけれども﹆むしろ今は非常にぎく しゃくしています。日韓の社会・文化の協力関係は非常 に好調ですけれども﹆政治・外交では非常に冷たい関係 になっているということは﹆私は非常に残念だと思いま す。恐らくそこでトゲになっているのは﹆歴史と領土問 題という古い問題を﹆それこそ日本と韓国がどのように 知恵を出してやっていくのかということが大きな課題だ と思います。ここでもプロセスをよく見てみますと﹆日 韓両方とも﹆政治のリーダーシップがいかに欠如してい るかということがはっきりとあらわれているわけです。 このように日韓関係に限らず﹆東アジア地域の戦略的 な環境の変化やその機会に直面して﹆日本がいかに外交 的なイニシアチブをとるのか﹆あるいはとれる状況が生 まれつつあるわけですが﹆それにはこれからの日本の政 治の状況が問題になると思います。さまざまな外交をす る た め に も﹆ 政 治 が ま ず 安 定 し な け れ ば な り ま せ ん し﹆
政権が安定しなければなりませんが﹆そのような状況に なかなか向かわないので﹆客観的には対処すべき問題も 多く﹆またチャンスであるにもかかわらず﹆外交の面で は も ど か し さ が 募 る と い う こ と は 少 し 残 念 な 状 況 で す。 これは政治だけではなくて﹆他の面においても知恵を出 すべきだと思います。 後半は主に北朝鮮に関するものですが﹆これについて は資料をご参照いただければと思います。特に一一ペー ジ︵本書一九頁︶以降の﹆北朝鮮が代がわりしたという ことですが﹆予想以上に表面的には安定しているように 見えます。もちろんこれは不安定の上での安定ではあり ま す が﹆ 少 な く と も 表 面 的 に 安 定 と 言 え る 一 つ の 理 由 は﹆金正日総書記が二〇〇八年﹆健康上に異変があった 後に﹆焦っているかのように幾つかの政策を急いで展開 し ま し た。 振 り 返 っ て 考 え る と﹆ あ る 種 の﹁ 遺 訓 統 治 ﹂ のレールをつくろうとして﹆一定の方向性をつくろうと したのではないかとも思われます。それを四つの点にま とめてみました。 先軍政治を強化しながらも﹆党国家体制﹆統治の正常 化を進めようとしましたし﹆その中身は﹆経済重視をす るようにいろいろな布石を打ちました。またそれを支え る 基 盤 と し て﹆ ﹁ 対 中 シ フ ト ﹂ と 私 は あ え て 表 現 し ま し たが﹆中国に依存して﹆それで足場を固める戦略を進め ました。もちろんそれにとどまるのではなくて﹆それを 踏まえてさらに中長期的にアメリカ﹆日本との関係を改 善するという戦略に戻ろうとしているわけです。その流 れははっきり見えるのではないかということを申し上げ て﹆時間を超過して申しわけございませんでしたが﹆私 の話をここで終わらせていただきたいと思います。ご清 聴ありがとうございました。 ︵拍手︶ 小田川 大変限られた時間の中で﹆国際政治のパラダイ ムシフトをご指摘されて﹆その中で東アジアの情勢変化 に つ い て 大 変 巨 視 的 に 論 じ て く だ さ い ま し た。 そ し て﹆ 大局的な観点からの日本の努力についても触れてくださ いまして﹆ありがとうございました。
続きましての講演は﹆ヤン・ C・キムさんですが﹆ア メ リ カ﹆ ジ ョ ー ジ ワ シ ン ト ン 大 学 の 名 誉 教 授 で い ら っ しゃいます。同大学のガストン・シグール東アジア研究 所の所長などを歴任されまして﹆またこの間﹆北朝鮮と の学術交流を進めてこられました。よろしくお願いいた します。
米国の北朝鮮政策と地域安全保障
ヤン・
C・キム
本日﹆皆様方と一緒にアメリカの対北朝鮮政策を考え る機会をいただきましたことを非常にうれしく思ってお ります。朝鮮半島をめぐる情勢は﹆非常に複雑﹆不安定 で流動的です。去年の一〇月にアメリカの外交問題評議 会︵ C F R︶ か ら﹁ 中 国 周 辺 地 域 に お け る 不 安 定 の 管 理﹂という研究報告書が発表されましたが﹆そこには朝 鮮半島問題で関連諸国が協力するか対決するかを決めざ るを得ない﹆四つの大きなシナリオを想定しています。 ︵ 1︶ 北 朝 鮮 に お け る 人 道 的 危 機﹆ 統 治 機 構 の 崩 壊。 ︵ 2︶ 北 朝 鮮 の 指 導 部 が 政 治 的 統 制 力 の 強 化 を 目 指 し﹆ 外部︵勢力︶に対する軍事的対決状態に突入する。 ︵ 3︶ 後継者の基盤強化に失敗し﹆国内の異なる集団勢力間の 内 戦 状 態 に な り﹆ 外 国 勢 力 へ の 支 援 を 要 請 す る。 ︵ 4︶ 北朝鮮による核拡散の結果﹆テロ集団がアメリカ﹆ある いはその同盟国家に対する核攻撃を行う。 また﹆これも去年の秋に出版されましたが﹆アメリカ 国防大学の研究報告書が﹆厳しい国際環境を予見してい ま す。 今 後﹆ ア メ リ カ が 非 核 化 と 朝 鮮 半 島 統 一 問 題 で﹆ 中国との大きな軍事的対決のリスクを冒してまで軍事的 介入をする可能性が﹆現実的シナリオであるという結論 を出しています。そして﹆朝鮮半島への中国の軍事介入 を﹆ ほ ぼ 確 実 に す る 状 況 を 想 定 し て い ま す。 さ ら に ロ シ ア の I M E M O研 究 所︹ 世 界 経 済・ 国 際 関 係 研 究 所 ︺ が 去 年 発 表 し た 報 告 書 に よ り ま す と﹆ 北 朝 鮮 の 体 制 は 二〇年以内に崩壊するという結論が出ています。中国のいわゆる攻撃的対外行動パターンと﹆それに対するオバ マ政権の一連の対抗策に反映されている米中間の緊張の 高まりが懸念される中﹆金正日委員長の死去があり﹆当 該地域の不安定はますます顕在化しています。 後継者である金正恩氏の指導体制下での今後の情勢の 推移について﹆対外政策の方向性に対するさまざまな見 解がアメリカにおいても噴出していますが﹆私がこれま で目を通した論文や評論だけでも数十本に及びます。時 間の制限上﹆その幾つかを選択してご紹介したいと思い ます。 ま ず﹆ Douglas Paal ︵ ダ グ ラ ス・ パ ー ル ︶ と い う 方 で す け れ ど も﹆ 彼 は ホ ワ イ ト ハ ウ ス の 元 N S C︹ 米 国 家 安 全保障会議︺アジア部長で﹆現在﹆カーネギー国際平和 財団に所属しています。彼は北朝鮮軍部内の異なる集団 による内戦が起きた場合﹆だれが核兵器を保管﹆統制す ることになるかという問題点を提示し﹆所有すべきでな い勢力の手に落ちるのではないか。それはだれも保証で きないのではないか。それゆえにアメリカは中国と秘密 対話を通じて﹆アメリカの特殊部隊が核の確保のために 北朝鮮に侵入できるように﹆事前に中国の了解をとって おくべきだと主張しています。彼は北朝鮮の海軍及び空 軍が﹆陸軍による核兵器増強に不満を持っており﹆核政 策﹆財源の配分をめぐる闘争が起こる可能性に多大なる 懸念を表明しているわけです。 次 に﹆ Sung Yoon Lee ︵ ソ ン ユ ン・ リ ︶ 氏 の 見 解 で す が﹆彼は国立アジア研究所の研究員﹆タフツ大学の教授 です。今後﹆北朝鮮は金正恩氏の適格性を高めるために も﹆国内的に﹆また対外的にも攻撃的な行動をとるだろ うと予見しています。すなわち北朝鮮は挑発をして報償 を勝ち取るという﹆伝統的な行動パターンをとると予測 しているわけです。そして北朝鮮は﹆世襲を正当化し軍 事力を誇示するためには﹆リスクを避けようとする隣国 に対する挑発行為がベストだと考えている。しかし﹆今 後一〇年﹆長くて二〇年以内には金正恩体制は終焉を迎 え﹆自由な韓国に統一されているであろうと。短期的に は北朝鮮の従来の政治構造﹆政治文化﹆統治スタイルか ら見ても﹆集団指導制や軍の派閥が金正恩に影響力を行 使するとか﹆挑戦する可能性は非常に低いと判断してい
ます。 V ictor Cha ︵ ビ ク タ ー・ チ ャ︶ 氏 の 見 解 で す が﹆ 彼 は ブ ッ シ ュ 政 権 下 の N S Cア ジ ア ︵ 部 長 ︶﹆ 現 在﹆ C S I S︹米戦略国際問題研究所︺ の Kor ea Chair ︵朝鮮部長︶ ﹆ ジョージタウン大学教授です。アメリカ政府は﹆最近の 北朝鮮での出来事を軽視し過ぎるのではないか。中国と 韓国が静観しているはずがないのに﹆もう少し注意を払 うべきだ﹆というような論旨であります。中国は韓国や アメリカとの十分な対話を拒んでいるが﹆韓国とアメリ カの協力なしでは中国の権益を守ることはできないとい うことを知るべきである。韓国は一方的に行動をとりた い誘惑を避けるべきである。 いろいろなシナリオ﹆ゲームをしてみたが﹆朝鮮半島 における大国間の抗争の発端は﹆いつも韓国側による一 方的な行動に起因する。今後﹆中国は北朝鮮への支持を 強化するであろう。中国は韓国と取引し﹆米韓関係を引 き裂こうとしてはならない。新指導部について﹆現体制 内でのエリート層の生存のために後継者を支持するであ ろうというのが多数意見であるが﹆そういう考え方は間 違いである。なぜなら﹆それでは﹁アラブの春﹂で倒れ た多数の指導者たちに対し﹆同じことが言えたはずでは ないかと。 次 に﹆ Evans Rever e ︵ エ バ ン ス・ リ ビ ア ︶ と い う 方 で すが﹆彼は元国務省高官﹆現在﹆ブルッキングス研究所 の非常勤研究員です。金正恩体制は持続することが不可 能 で あ る﹆ と い う 結 論 で す。 彼 に と っ て の 真 の 挑 戦 は﹆ 政 権 継 承 や 国 内 政 治 を ど の よ う に 管 理 す る か で は な く﹆ 既に死亡﹆あるいは滅亡過程にある体制をどのように保 存するかである。北朝鮮がとり得るオプションは急速に なくなりつつあり﹆金正恩は二年あるいは三年内に﹆体 制の未来に対する重大な決断を迫られるだろう。間違っ た選択は体制の終えんを意味し﹆北朝鮮にとってよい結 果にならないと思う。我々アメリカはゲームの終末に備 えておくべきであると。 北朝鮮に対してこのようなシビアな厳しい見解は﹆ア メリカには多数あります。楽観的で融和的な接近方法を 主張する見解を二﹆三﹆紹介したいと思います。 ノ ー チ ラ ス 研 究 所 の 平 和 安 保 ネ ッ ト ワ ー ク﹆ ポ リ
シー・フォーラムに掲載された幾つかの論文を紹介いた します。 ま ず﹆ V ictor Hsu ︵ ビ ク タ ー・ シ ュ エ ︶ 訪 問 教 授 の 提 案であります。今は国際社会にとってまさに機会の窓で あり﹆北朝鮮と関与の道を模索すべき時期である。オバ マ政権は戦略的忍耐政策をとるべきである。国際社会は 北朝鮮に性急に政策決定をするように圧力をかけてはな らない。北朝鮮が要求する交渉に応ずるべきである。北 朝鮮は現存のすべての公約﹆コミットメントを履行する と信じる。国際社会は協力し﹆調整された関与政策をつ くるべきである。国連制裁はあまり効果もなく﹆再検討 されるべきである。北朝鮮との関係を﹆核や人権問題の 視点だけに限定すべきではない。 次は﹆同じくノーチラス研究所のポリシー・フォーラ ム に 掲 載 さ れ た﹆ ソ ウ ル 大 学 の 著 名 な Paik Nak -chung ︵ 白 楽 晴 ︶ 名 誉 教 授 の 提 言 で す。 朝 鮮 半 島 の 将 来 に 与 え る影響は﹆北朝鮮国内の要因よりも﹆韓国の二〇一三年 体 制 の ほ う が よ り 大 き い。 継 承 作 業 の 進 展 ぶ り を 見 る と﹆北朝鮮国内が急速に政治的﹆社会的混乱状態に陥る とは思えない。今年一二月の韓国大統領選挙の結果のほ うが重要である。李明博大統領の後継者が追従すべき目 標として平和協定の締結﹆南北調整の連邦制の樹立を掲 げているわけです。 そ の 後 に 私 の 資 料 に は も う ひ と つ 書 い て あ り ま す が﹆ 省略します。 以上﹆専門家の方々の見解を紹介しましたが﹆アメリ カの政府内外の専門家の多数の意見は﹆北朝鮮の国内状 況と対外政策における不安定﹆不測度は高く﹆朝鮮半島 をめぐる国際関係全般の緊張を増大させ﹆地域の平和と 安定に否定的な影響を及ぼすという評価です。 融和派であろうと強硬派であろうと﹆アメリカの専門 家 た ち は﹆ こ こ 数 年 の 北 朝 鮮 の 攻 撃 的 な 対 外 行 動 の パ ターンが繰り返されることを懸念しています。北朝鮮は ここ数年﹆一連の挑発行為によって国際社会に大きな衝 撃を与えています。なぜ北朝鮮はそのような挑発行為に 出たのだろうか。最近のいわゆる天安号撃沈事件や延坪 島砲撃事件を復習してみる必要があると思います。 簡単に私の見解を紹介したいと思います。まず﹆ ︵ 1︶
天安号撃沈事件。アメリカに対して﹆現存の北方限界線 N L Lに か わ る 新 し い 海 上 境 界 線 に 関 す る 交 渉 と﹆ 休 戦協定にかわる平和協定締結交渉に応ずるように圧力を か け た と い う 説 が あ り ま す。 ︵ 2︶ 韓 国 の 対 北 朝 鮮 敵 対 政策に対する懲罰であり﹆北朝鮮への経済支援の再開を 強 要 す る た め の 恫 喝 で あ っ た。 ︵ 3︶ 強 盛 大 国 建 設 に お ける金正恩氏の役割を拡大宣伝し﹆彼の政権継承を容易 にし﹆正当化する作業の一貫である。これはアメリカの 政府内外の多数意見ですが﹆最大の要因は﹆権力継承問 題に絡んだ国内政治だというのが﹆アメリカの専門家の 支配的見解です。 二〇一〇年一一月に起きた延坪島砲撃事件についてで す が﹆ こ れ も 複 数 の 要 因 が あ り ま す。 ︵ 1︶ ア メ リ カ と 韓国を圧迫し﹆平和協定の締結交渉を初め﹆究極的には 駐 韓 米 軍 の 撤 退 を 実 現 す る。 ︵ 2︶ N L Lの 不 法 性﹆ 不 当性をアピールし﹆アメリカを新しい境界線決定作業に 追 い 込 む。 ︵ 3︶ア メ リ カ が 米 韓 同 盟 条 約 に か か わ ら ず﹆ N L L近 海 の 五 島 の 防 衛 の た め に 戦 争 を す る こ と を 好 まないことを証明し﹆米韓・日米同盟を揺さぶる。 ︵ 4︶ 李明博政権を恫喝し﹆北朝鮮の要求を実現させる。 ︵ 5︶ 次 に 最 も 重 要 な 要 因 だ と 専 門 家 が 指 摘 す る の は﹆ 政 権 継承に絡んだ思惑です。すなわち﹆体制の生き残りのた めに軍部の権益を尊重し﹆軍部の提唱する政策に迎合し たということです。金正恩氏の軍事戦略面での天才的資 質・才能を証明し﹆大胆なリーダーシップで﹆アメリカ 帝国主義とその傀儡との対決で輝かしい勝利をおさめた とし﹆彼の地位を強固にする作業の一環である﹆という のが多数意見です。 アメリカ政府は﹆このような不安定な朝鮮半島の現状 に大変な懸念を持っており﹆できれば早い時期に北朝鮮 と 対 話 モ ー ド に 移 行 し た い と 考 え て い る の が 事 実 で す。 その背景には三つの思惑があります。 ︵ 1︶ 沈 没 事 件 や 砲 撃 事 件 の よ う な 軍 事 紛 争 の 再 発 を 防止し﹆アメリカが軍事行動に直接巻き込まれることを 避けたいという思惑です。 ︵ 2︶北 朝 鮮 の ミ サ イ ル・ 核 能 力 の 向 上 を 阻 止 し た い。 今後数年内に﹆ 北朝鮮が小型化された核を搭載した I C B Mで ア メ リ カ 本 土 を ね ら え る 能 力 を 持 つ と い う の が﹆
アメリカの情報機関での統一した認識です。また﹆ウラ ン 濃 縮 プ ロ グ ラ ム が 進 め ば﹆ 核 兵 器 の 量 産 が 可 能 と な り﹆拡散の可能性が高まる。アメリカは少なくとも対話 進行中には﹆そのような活動を中断させることができる と考えています。私の見解によると﹆ちょっと甘い考え だと思います。 ︵ 3︶核問題の根本的﹆ 総合的解決を当面棚上げし﹆ 時 間 稼 ぎ を す る。 北 朝 鮮 の 新 指 導 部 下 の 北 朝 鮮 の 国 内 情 勢﹆対外政策の動向を見守りながら﹆より優先順位が高 い課題に取り組もうとするわけです。 金正日総書記死去後も﹆アメリカの六者協議﹆または 米朝予備会談等々の再開に要する前提条件に﹆基本的な 変 化 は 全 く あ り ま せ ん。 以 前 に 比 べ て 表 現 が 若 干 柔 軟 ︵モダレート︶になったという印象はありますけれども﹆ 人 道 支 援 問 題﹆ 食 料 支 援 ︱ ︱ ア メ リ カ は 栄 養 支 援 と 言 っ て い ま す け れ ど も ︱ ︱ 遺 骨 発 掘 問 題 等 々 を 議 題 に し た 米 朝 二 者 協 議・ 対 話 は 別 で﹆ い つ で も 可 能 で あ る わ け で す。ご存じのように﹆昨日と一昨日﹆北京で米朝の第三 次 予 備 会 談 が あ り ま し て﹆ 米 国 に よ る と﹁ a little bit of 多少の進展はあった﹂という表現でした。すなわち﹆変 化はなかったということだと思います。 では北朝鮮にとって米朝会談や六者協議のメリットと デメリットは何かということを考えてみます。 ま ず メ リ ッ ト か ら 申 し ま す と﹆ ︵ 1︶ 中 国 に 対 す る 配 慮 を 示 し た こ と に な る。 ︵ 2︶ 経 済 制 裁 の 緩 和 や 解 消 を 促 進 し﹆ 国 際 社 会 で の 孤 立 を 免 れ る。 ︵ 3︶一 定 の 経 済・ エネルギー支援の確保ができ﹆強盛国家の扉をあける年 に タ イ ミ ン グ を 合 わ せ て﹆ 人 民 に 経 済 の 活 性 化 と 生 活 水準向上を誇示し﹆権力の地盤を強固にすることができ る。 ︵ 4︶ ア メ リ カ に よ る 敵 対 措 置 の 強 化 や 軍 事 的 脅 威 を懸念せず﹆みずからの軍事力向上を図る北朝鮮にとっ て一つの時間稼ぎになる。 北 に と っ て の デ メ リ ッ ト は 何 か。 ︵ 1︶ ミ サ イ ル・ 核 実 験 の 凍 結 へ の 圧 力 を 無 視 で き な い。 ︵ 2︶ 国 内 締 め つ け 政 策 を と り に く く な る。 ︵ 3︶ 外 部 脅 威 の 存 在 を 継 承 作 業 の 正 当 化 に う ま く 使 え な い。 ︵ 4︶ 核 保 有 国 の 地 位 の国際的認定を勝ち取らなければならない北朝鮮が﹆そ れに逆行して六者協議に参加すると﹆非核化の目標を掲
げ て 行 動 し な け れ ば な ら な い。 非 核 措 置 を と ら な い 場 合﹆ 国 際 的 な 非 難 の 的 に な り﹆ 制 裁 が 続 く こ と に な る。 ︵ 5︶ 核 兵 器 開 発 が 故 金 正 日 総 書 記 の 最 大 業 績・ 遺 産 で あると称賛し﹆その路線の継承を誓った新指導部が﹆軍 部の反対を無視して核放棄を実現するための機構である 六者協議に参加するのを正当化しがたい。 さらに北朝鮮が六者協議復帰を考える場合﹆次のよう な 認 識 も 影 響 与 え て い ま す。 ︵ 1︶ 復 帰 し て も﹆ ア メ リ カから得られる見返りが少ないだろう。再選を控え﹆弱 体化したオバマ政権が提供可能な報償には限界があるだ ろ う と の 北 朝 鮮 の 認 識 が あ り ま す。 ︵ 2︶ 米 朝 対 話 を 続 け﹆六者協議にたどり着くのは﹆南北関係をある程度改 善し﹆南北対話を続けなければならない。それは韓国の 李明博政権を打倒し﹆新北朝鮮政権を樹立させたい北朝 鮮の強力な願望と矛盾する。 主催者側で私の時間が切れたとおっしゃるので﹆皆さ ん の 持 っ て い ら っ し ゃ る 資 料 二 五 ペ ー ジ︵ 本 書 三 八 頁 ︶ の最後の部分だけ読ませていただきたいと思います。 私がスキップした部分は﹆アメリカは北朝鮮政策にお い て ど の よ う な オ プ シ ョ ン が あ る の か と い う こ と で す。 これは後でご参照いただければありがたいのですが。 では﹆私の提言を申し上げることにします。 従 来 の 六 者 協 議 体 制 を 棚 上 げ し﹆ ア ジ ア 地 域 の 平 和﹆ 安全保障﹆経済協力問題全般を議題にした六カ国間の外 相会議開催を経て﹆米朝﹆南北﹆日朝間の複数の二者会 談に移行する。すなわち﹆適切な時期に関係諸国との事 前協議を行い﹆アメリカは北朝鮮と本格的な対話モード に移行し﹆究極的非核化を視野に入れ﹆過渡的なミサイ ル・核問題管理を含む両国間の総合的正常関係構築への ロードマップづくりの作業に着手するための予備交渉を 始めるべきである。 現 行 政 策 の 一 環 と し て 推 進 す る こ と を 想 定 し て お り﹆ 南 北 朝 鮮 及 び 日 朝 そ れ ぞ れ の 二 者 会 談 を 並 行 し て 行 う。 今 ま で の 六 者 協 議 枠 組 み や﹆ そ の 運 営 方 式 に か か わ ら ず﹆中国﹆ロシア等を含む関係諸国のさまざまな形態の 協議も行う。米朝間の基本的合意が成立すれば﹆関係諸 国による追認・認証のための適切な協議プロセスに移行 する。
以上です。ご清聴ありがとうございました。 ︵拍手︶ 小田川 ありがとうございました。ヤン・ C・キムさん は﹆ワシントン﹆そして非常に寒いソウルから東京へと 回ってこられまして﹆ちょっとお風邪を召せられたよう ですが﹆膨大なペーパーを用意していただきましてあり がとうございました。北朝鮮をめぐっての多様なシナリ オを提示されましたし﹆そういうことを通して北朝鮮問 題解決のために具体的な提言まで言及されまして﹆あり がたいと思います。
〈基調報告〉
今 か ら 基 調 報 告 と い う 形 で 進 め て い き た い と 思 い ま す。その最初は﹆南北朝鮮関係においては第一人者でい ら っ し ゃ い ま す 康 仁 徳 さ ん に﹆ ﹁ 北 朝 鮮 の 現 状 と 南 北 関 係 ﹂ と い う テ ー マ で お 願 い し た い と 思 い ま す。 康 先 生 は﹆一九七二年に﹁七・四南北共同声明﹂という南北関 係においては初めての統一を目指した共同声明がござい ましたけれども﹆それに伴う南北対話で調節委員を務め られまして﹆金大中政権下の初代統一省長官でした。現 在﹆韓国・極東問題研究所所長﹆またこの聖学院大学総 合研究所の特命教授でいらっしゃいます。では﹆よろし くお願いいたします。北朝鮮の現状と南北関係
康
仁
徳
いまご紹介いただきました康仁徳でございます。李先 生﹆キム先生のお二人からは﹆国際情勢に対して具体的 なお話がありました。特にキム先生からは﹆将来﹆北に 対するアメリカの政策はどのように変化するだろうかと いうお話もありましたので﹆私は北の今の情勢と内部状 況﹆そして南北関係を中心にして﹆集中的にお話しした いと思います。 まず﹆いま北で起こっているいろいろな事件を見た場 合は﹆やはり金正日が死亡した後﹆継承した金正恩とい う﹁若旦那﹂の﹁唯一指導体制づくり事業﹂に集中して いると言えると思います。 北朝鮮では去る一二月末に﹆二八歳の金正恩を人民軍 最高司令官に任命しました。というのは﹆お父さんの金 正日の場合は﹆一九九一年一二月二四日に朝鮮労働党中 央委員会の全員会議で人民軍最高司令官に任命しました が﹆金正恩の場合は党中央委員会の政治局で任命したと いうことになっています。これは二〇一一年一〇月八日 の﹆金正日の遺訓に沿って決定したということです。実 は先軍政治を継承した以上﹆最高司令官﹆この肩書だけ でも後継者づくりは十分できるだろうと思います。どの よ う な 方 向 に 行 く か わ か り ま せ ん け れ ど も﹆ 党 総 書 記﹆ 国防委員会委員長﹆中央軍事委員会委員長﹆この三つの ポストを握れば﹆最高の唯一指導体制が完成するわけで す。これを早めに達成するか﹆普通にするかはわかりま せんが﹆まず四月中旬に党代表者会を開くことになって います。 この代表者会というのは党規約の第三〇条に出ていま すが﹆重要な問題は全部ここで決めるようになっていま す。党大会を開くことができない場合﹆その中間に党代 表者会を開いて﹆党大会で決めたプログラムを実行する と い う こ と で す。 一 九 八 〇 年 に 第 六 次 党 大 会 を 開 い て﹆今まで一回も党大会を開いていないのですから﹆これは 代表者会で全部解決するだろうと思います。 代表者会が果たす役割というのは﹆このようになって います。労働党の基本的路線﹆政策﹆戦略﹆戦術の重要 問題﹆党中央指導機関の選挙﹆任命まで﹆組織の問題全 部をここで決めることができますから﹆四月中旬に開か れる予定の党代表者会で﹆もしかしたら彼を党総書記ま たは党中央軍事委員会の委員長に任命するだろうと。党 総書記に任命されたら﹆そのまま党中央委員会の軍事委 員会委員長は兼務になりますから﹆そのようにしてもっ と彼のポストを強化するか﹆これはまだ不明ですが﹆そ の方向性に行く可能性もないとは言えないと思います。 問題は﹆党総書記になっても﹆今までの肩書で残って も﹆彼一人の力では到底今の北朝鮮の懸案を解決できな いだろう。その能力はないだろうということで﹆これを 支援するための集団的指導体制といいましょうか﹆私は ﹁ 後 見 集 団 ﹂ と 呼 ん で い ま す け れ ど も﹆ こ の 後 見 集 団 が 既に成り立っているのではないかと思います。 北 の 党 中 央 委 員 会 政 治 局 の 正 規 委 員 を 見 る と﹆ 大 体 二〇年代生まれです。三〇年代生まれは三~四人ぐらい です。今一三名ぐらいいますが﹆金正日が死去しました から﹆その中の大部分の家老たちは﹆今年が過ぎたら交 代するのではないか。そのかわり﹆党中央委員会政治局 の候補委員﹆これは大体一九三〇年代から一九五〇年代 生まれまでですから六〇歳代から七〇歳代ぐらいの人が 多いですが﹆彼らが中心になって金正恩を支えるのでは ないか。 その中でも特に治安問題﹆政権の安全保障の問題に対 し て は﹆ 国 家 安 全 保 衛 部 の 第 一 副 部 長 で あ る 禹 東 則 と か﹆軍総政治局の第一副局長である金正覚とか﹆このよ うな若い連中は大体一九四〇年代生まれです。彼らが中 心になって﹆この若旦那を支えるような後見集団になる だ ろ う と 思 い ま す。 そ の 中 心 に は﹆ 金 正 日 の 義 理 の 弟﹆ つまり妹の夫である張成沢が責任をとっているのではな いかと思います。 問題はこのような集団がどのような性格を持っている かということですが﹆今まで知らされている範囲内では 具体的なことはまだまだわかりません。ただ﹆二〇一一