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近江商人の道中記『木曾日記 三』

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近江商人の道中記『木曾日記 三』

著者 末永 國紀, 本村 希代, 奥田 以在

雑誌名 經濟學論叢

巻 58

号 3

ページ 1‑22

発行年 2006‑12‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011127

(2)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ ︻史  料︼

   近江商人の道中記﹃木曾日記   三﹄

末  永  國  紀   本  村  希  代   奥  田  以  在  

    ﹃木曾日記  一﹄︵前々号︶

    ﹃木曾日記  二﹄︵前号︶

凡例・原文には適宜読点﹁︑﹂を付した︒

・原則として常用漢字を用い︑人名など固有名詞については原文の文字をそのまま使用した︒

・かなは現行のひらがな・カタカナに改めた︒

・意味が通じにくいが原本のままとした時は︵ママ︶を加えた︒

一 ︵四四四︶

(3)

第五八巻 第三号

木曾日記  三﹂

    隣のあるし故ありて暫く西の家にうつりける︑はしめに招かれて窓の月てふ菓子をおくるとて

時またバやがて光りの照ましてひかしに出ん窓の月影

    隣の子の奉公にゆきけるに餞別して小倉の帯をやるとて

捨をかで日に幾度もしめなをせゆるむハ帯と心なりけり

    九月中頃に旅にたつとて

秋風のふくにまかせて旅すなり木の葉のことく身を軽くして

    冬の日下総の国莚打といふ渡し場にて

名にしおはゝ莚うちはれ冬の日のわたし待まの風よけにせん

    春の水 すえつゐに袖師かうらにいでぬらん梅か香匂ふ葛 かつしかの水     梅

鶯のつぐると東風の送る香に梅の咲しハゆかでしもしる 二 ︵四四三︶

(4)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶     葛飾の梅    﨑玉郡ハ葛飾郡の西に隣 となれり

いかほとに花さきたまに匂ふともよその色香にかつしかの梅

    茶

梅か香を桜のいろも数ならす薄山吹の茶の煮花には

    春の野

佐保姫ハこゝにすミれか紫のねすり衣の色そゆかしき

    同 狂

遊ぶため春の野にいてゝわるさするあの子供等に土ハつきつゝ

菜と共につめるはかりぞ嫁な草われむしりしと人にかたるな

    雨後の牡丹

ふかミ草花のふうじめやぶらしとぬらしてひらく春雨の後

    暮春

佐保姫の名残姿の深ミ草一際目だつ花の粧ひ

三 ︵四四二︶

(5)

第五八巻 第三号     四朔の牡丹

きのふ迄春の名残の花とミしけふハ卯月の色深ミ草

    杜鵑

杜鵑きく度にうたよまんとててつへいかきて血を出しにけり

まどろまハ聞でや過んほとゝきす蚤も今宵のなさけなりけり

    蛍

声かけて招き追ゆくたをやめをしらぬそぶりに飛蛍かな

    蝉

日盛りハ木の葉も草もしほるゝにかれぬ梢のせミのこゑ

唯一の神の森にも此頃ハつく

ぼうしこゝかしこなく

天神のめでさせ玉ふ梅の木につくし恋しとなく蝉の声

酒のミの宿の庭とて蝉らまでじゆくしくさしとなくそつれなき 四 ︵四四一︶

(6)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶     大暑

いかにせん蝿打たゝく力さへなく蝉に猶まさるあつさを

堪かたや瓦にゑりし立波もにえかへるかとミゆる日盛り

    夕立

いそぎつゝ馬の背ほとの山越て空さりげなくはるゝ夕立

    欄間に扇面おほくはりし下に昼寝して

はりつめて風ハらんまをとをさねと扇の下にぬるそ涼しき

    紫陽花

七ばけと聞バ狐のたくひかも煮たらハとんなあぢさいやせん

    初秋

うたゝねの夢驚かす風の音けふわがかども秋やきぬらん

    七夕

天地の尽ぬちきりの七夕ハ逢初てより幾夜ぬるらん

五 ︵四四〇︶

(7)

第五八巻 第三号     于羅盆

絵でうちん西瓜柿梨子餅団子月も坊主も丸きぼんの夜

    秋

野のむしもミねの小鹿もなく頃にわらふもめんハ秋をしらずや

粟黍も稲穂もたるゝ秋風に巻あけたるハ今朝の犬の尾

うちつゝく秋の日和をうれしミて木綿のゑめる遠近の畠

    黄蜀葵  和名とろゝ又ねり

あつけれと夏ハいねりととろゝ花時えかほなる初秋のてり

    雁来紅

葉けいとう色まさりしと見るあした遠く聞ゆる初かりの声

    母のもとに葉けいとうのたねをおくるとて

くれないハ花にもまさる葉けいとううつらぬ色を幾秋も見よ 六 ︵四三九︶

(8)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶     仲冬梅をミて

人などか事あらかじめなさゞらん梅ハこはるにはなつほミせり

    同 庭梅の一花ひらくをミて

佐保姫の春狂言の顔ミせにまづ咲庭の梅の一花

    雪

見まほしくひらけハ寒し老の身の思ひ煩ふ雪の日の窓

    述懐

事なくハ世にもしられじ様々のうきにたえ

るもさちにやあるらん     嘉永五年壬子歳暮

思ひきや世にうき事を壬のねにのミなきてとしくれんとハ

    癸丑元旦

ながらハヽ又よき事も癸のうしと思はで春をいはゝん

世中ハめくる車やうしの春もうことしよりよき事やこん

七 ︵四三八︶

(9)

第五八巻 第三号     茄子形といふ銚子を得て

酒のミは下手こそよけれ茄子形はしこ上戸をのミさがらせよ

    久しく魚をくハざれバ頭にしら雲といふ﹇ ︵虫  ﹈ 損︶できぬると︑をさなきとき聞しに︑此ころたえて魚なかりけれハ

深山にハすまねど幾日魚なくて天窓にかゝるしら雲ぞうき

    二月又筵打をわたりて

むしろ打はれる小舟も布の帆もミな一はいにつゝむ春かぜ

    長女におくる

行すえの杖ともたのむ女竹よにむしつくなをれなまがるな

    節季かけ取

しめ引て神にいのらバ古掛もはらひ給へや帳けし給へ

古掛も煤もほこりも打はらへ正月前の掃除つゐでに

打払へわがかさねどもミせのかけこハすゝろなりあきれた御客 ︵九九九︶八 ︵四三七︶

(10)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶     甲寅元旦

うしと見しとしハきのふに呉竹や枝をならさぬとらのはつ風

我宿ハまだ大晦日おへなくに春ハきのえのとらの正月

    寅の春東の方に新しく蔵を建て

寅としや東のすミにくらたてゝ猶もさかへよにしむらのミせ

    あたらし屋のから紙をはりてやりける時に

幾重はる反古のもしの数々はよむとも尽じ宿のゆくすえ

    箒 はゝきに似し杏 子の木を植て 植し木や心のちりを箒 はゝきにてつねにはかんとあんずなりけり     弥生のはしめ半次ぬしのミまかりしを吊ふて

けふよりハうき世の春をよそにミて君や浄土の花をなかめん

    同中頃に頼母子構 ︵ママ︶といふ事なせる日︑女の子をまふけしときく︑祝ふてやるとて

頼もしや後の色香ハいかならん花のさかりにまふけたる子の

︵九九八︶九 ︵四三六︶

(11)

第五八巻 第三号     明家 蜘 くものすハ去年のまゝにて軒ちかくことしの草の生繁るかな   

   むかし荘周ハ夢に胡蝶となり廬生ハ邯鄲にひる寝して︑五十年の栄花を極めたりと︑さるかしこき人のたくひにあらで︑是ハ賎しきなりハひ

東下りの草枕︑旅のつかれに︑秋の夜も長しともせで宵の間のうたゝねにミし夢のさま忘れもやらて︑さめて後ありのまゝにそしるし侍りぬ

秋風の︒吹 ふきそめてよりいつとなく︒梢 こずゑの蝉 せミの声 こゑおひて︒残 のこる暑 気も日 に薄 うすく︒千 種の花 はなのいろ

に︒咲 さけど哀 あハれハいとゝ猶 なを︒十

の芒 すゝきつゆ露しげき︒庭に音 信る初 はつかりの︒かけて来 ぬらん玉 たまづさの︒便 たよりも遠 とをき旅 たびの宿 やと︒余 の砧 きぬたのつれなくも︒旧 ふるさと思ふ身にきけと︒うつゝ

か夢 ゆめか淋 さミしさを︒慰 なぐさめかねて起 おきあがり︒此 方彼 方を徘徊り廊 ほそどのの窓 まどの間隙より︒隣 となりの方 かたをさし覗 のぞけハ︒十四五はかりの男 おとこの児 ︒物 ものの 本 ほんあまた取 とりちらし︒横 よこばいながら草 くさ双紙 よミける傍 かたハらに︒それか妹 いもうとと見えて十二三の少 女の︒百人一首 しゆを打ちひろげ︒余 ねんなく詠 ながめ居

たりしが︒やがて吟 ぎんして︒千 早ふる神 かミもきかず立 たつかハ︒からくれなゐに水くゝるとハ︒とよミて︒兄 あにの童 児に打向 うかひ︒この歌 うたハ 如 なる心 こゝろにて侍 はべるぞや︒兄 あにの男 おのこおきなをり︒膝 ひざを正 たゝしふして答 こたへていふやう︒此 このうたまことに深 ふかき心あり︒むかし千 早といふ遊 ゆうじよあり︒

かミといふも遊 ゆうじよの名 にて︒千 早の姉 あねじよらうなりしが︒千 早邪 じやけんにして︒己 をのか心 こゝろに合 かなハぬ客 きやくハ︒愛 あいそう想なくふりけるゆへ︒姉 あねじよらうのか ミ代 ハ是 これを見 かねて︒屡 しバ早に諷 諫して︒各 おのかいの世中なるに︒そなたのやうに慳 けんどんに︒客 きやくをふるとハ何 なにごとぞや︒情 なさけハ人のため ならず︒努 ゆめつゝしミ給へやと︒真 まめだちて諫 いさむれとも︒千 早さら

きゝいれず︒いよ

ずいに振 ふるまいけるが︒人 ひとくひうまにも合 あいくちとやら︒

良ぬ悪 漢と馴 なじを重 かさね︒郭 くるハを誘 さそいだされしが︒懐 ふところさミしくなるまゝに︒遂 ついに男 おとこに捨 すてられて︒かゝる嶋 しまなき破 やれふね︒こなた彼 方と ︵九九七︶一〇︵四三五︶

(12)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ 呻 さまよいて︒次 だひに貧 ひんに迫 せまりつゝ︒纔 わづかの衣 きぬも売 うりつくし︒終 ついに乞 こつじきの躰 ていになりけるこそ哀 あハれなれ︒又神 かミハ程 ほどなく年 ねんはてゝ古 ふるさとに帰 かへり︒

たつ川の辺 ほとりなる︒豆 とうに嫁 し︒冨 とむといふにハあらねとも︒何 なにそくなくくらしけるが︒千 早むかしの好 意を思ひ︒尋 たづね行 ゆきて救 すくひを 求 もとめけるに︒かミ代さらに聞 きかずして︒われむかし幾 いくたびとなく︒そもじへ諷 けんしたれども︒邪 じゃけんのそもし聴 きゝいれず︒心からなる今その 形 ありさま︒自 がうとくの罰 ばちあたりへ︒施 ほどこすものを我 われハもたずと︒豆 とうのからさへくれざれバ︒千 早今ハ詮 せんかたなく︒弥 いよかつに堪 たへかねて︒立 たつ

の川に身を投て︒水をくゝりて果 はてけるとなり︒されバかミ代もきかず立田川からくれなゐに水くゝるとハ︒と詠 よミ給ひしならん︒ 少 女打わらひ︒扨 さてむつかしく︒長々敷︒歌 うたの心かな︒しからハ結 けつの︒とハと申ハ︒いかなることにて候ぞや︒童 男声 こゑに応 おうじて︒

されバとよ︒千 早の幼 おさなゝ名を︒おとハといゝしとなり︒少 女又吟 ぎんじて︒うかりける人をはつせの山おろし︒はげしかれとハいのらぬ ものを︒此 このうたの心ハいかに︒答 こたへていはく︒是 これハうかりけろりとしてゐる人を︒初 はつの山より︒ぞろ

とおろしけるに︒山険 けハ

しくして︒思 おもハず急 きうに落 おちたりしかバ︒あゝそのやうにはげしくおちよとハ︒祈 いのらざりしに︒扨 さて

︒あぶなき事をしてけりとい ふ歌なり︒少 女可 笑さに堪 たへかねて︒声 こゑの限 かきり打わらへる処 ところへ︒合 あいの韓 からかミしづかにあけて︒児達 たちの母 はゝにやあらん︒四十はかりの女房 ぼうの︒

そのさま賎 いやしからさるが︒従 じうようと立 たちいてて︒そち達 たちハ何 なにを笑 わらふぞ︒又百人一首 しゆの講 かうしやくか︒扨 さてもおかしき子 どもよと︒三人斉 ひとしく打わらへ バ︒さし覗 のぞきゐる此 方にも声 こゑを呑 のんでぞ笑 わらひける︒漸 やうにして笑 わらひやミ︒少 女ハ顔 かほを打しかめ︒あれ母 かゝさま何 なにとしよう︒先 刻から栄 いばらのミ実 を三度までたべたれバ︒厠 かハやにゆきたき気 なれど︒今に通 つうじがつきはべらず︒いかゞなさんと打しほるれハ︒母も困 こまりし形 勢にて︒

まだ渋 しぶのぬけぬ柿 かきをたべしゆへ︒其 そのやうに大便 べんけつするハ︒早 ハやく厠 かハやにゆくべし︒ほりだして得 させんと︒直 すぐに厠 かハやにつれゆけバ︒少 女ハ尻 おいどを打まくり︒陰

囊隠の板 いたをつかミ︒猿 さるのごときの顔 かほつきして︒きバれど

さらに出 いでず︒母 ハヽハ尻 穴をさしのぞき︒簪 かんざしの耳 ミヽかきも て︒小 くちにつまりし堅 かたき糞 ものを︒漸 やうにしてほり出 いだせバ︒忽 たちまち諸 もろの大桶 おけの︒呑 のミくちの抜 ぬけたるごとく︒ぶつ

しうと飛 とびして︒母の顔 かほ

から天 窓から︒肩 かたから襟 ゑりからだいなしに︒穢 きたなきものをへりかけしハ︒気 の毒 どくなりける形 ありさま勢なり︒少 女ハほつと吐 いきつき︒やれ

らくになりましたと︒いへバ御 北堂顔 かほ打しかめ︒そなたハ楽 らくになつたかしらねど︒悲 かなしやわたしハ糞 バヽだらけ︒あら臭 くさやあゝきたなや︒

面き尻 穴よ因 いんくハな肛 門よ︒こりやまあどうせう情 なさけないと︒いふ声 こゑきゝて息 むすもかけつけ︒此 このありさま勢に仰 げうてんし︒手 を拱 こまぬきて忙 バうぜんたり

︵九九六︶一一︵四三四︶

(13)

第五八巻 第三号 しが︒流 石百人一首 しゆの講 かうしやくをするほどの童 男なれバ     菜 バたけのごとくに糞 こゑをかけられて︒青 あをくなりたる御 ふくろの顔 かほ

御袋聞て打腹 ハらたち︒是 これほと臭 くさいに歌 うたどころか︒早 ハやく水くめ湯 をわかせと︒烈 ハげしき声 こゑに恂 びつくりし︒周 章ふためきかけ廻 まハり︒家 ないの男 なんによ女 呼 よびたて立て︒水を汲 くむやら火をたくやら︒手 おけよ杓 しやくよ盥 たらいよと︒上 うへを下 したへと騒 そうどうす︒漸 やうにして御 ふくろハ︒汚 けがれし所 ところを洗 あらひ浄 きよめ衣 ふくを更 あらため座 に なをり︒少女の方 かたを打見 やりて     うかりけつ人が覗 のぞいてゐる顔 かほへ︒はけしくへれといのらぬものを︒

まあ

つうじてよかりしよと︒苦 にがわらひして煙 管をとり︒煙 草をすふて快 くわいぜんたり 去 さるにても広 くわうだいりやうの母 ハヽの慈 悲︒穢 きたなきものを天 窓から︒かけられなから通 つうしを悦 よろこび︒肛 門を恨 うらミて少女を叱 しからず︒勿 もつたひ躰もなや難 ありかた有や︒

やけの雉 子夜 よるの鶴 つる︒母 ハヽの恩 おんたくあのとほり︒蒼 そうかいかへつて猶 なをあさし︒斯 かゝかる恵 めくミを世 よのなか中の︒母 ハヽある人に告 つげなんと独 ひとりことする我 わかこゑ声に︒驚 おどろき覚 さむれバ 小 夜嵐 あらし︒窓 まとうつ音 おとの凄 すさまじく︒枕 まくらにちかき虫 むしの声 こゑ︒只 たゝこれたびの秋 あきの夜 の夢 ゆめ

    ほこりがにとくも笑ふもはこするも      たゝうたゝねの夢の世中     敷 しきつくし  茶に酔ていく度となく小便に起︑出入の敷居につまつきて

此しきハ如 何なるしきぞ︒しきにもいろ

︒神 かミハ正直 じき仏ハ金 こんじき色︒戸 とちやう帳ハ錦 にしきに五 しきの彩 さいしき色︒色 しきそくくう︒空 くうそくしき︒赤 しやくしきしやくくハう︒白 びやく

しきびやくくハう︒供 ようの飲 おんじき食︒律 りつしう一食 じき︒高 かうの木 もくじき食行 ぎやうじやの断 だんじき食︒門 もんの肉 にくじき︒烏 からすの悪 あくじき食︒坊 ぼうさま智 しきで学 がくしやハ博 はくしき︒殿 とのさま権 けんしきいゑ

の格 かくしき︒正 たゞしき御 ふう︒鎌 かまくらしきもく︒故 事記に旧 事記︒委 くハしき敷書 かきもの物︒御 ともの雑 ぞうしき色︒厳 きびしき御 らう︒それでも色 しきよく︒由 々しき御 たい︒御 ︵九九五︶一二︵四三三︶

(14)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ 上 かミしきの立 々しき御 げんくハ︒御 にハの敷 しきいし︒座 しきの敷 しき︒ふくハ板 いたじきかつの広 ひろしき︒渋 しぶかミあいしきうすべり上 うハしき敷︒膳 ぜんハ折 しきで昼 ひるめし飯中 ちうじき食︒扶 食 ハ御 おかこひ囲ひ ︵ママ︶︒賎 いやしき下 しもまづしき困 こんきう︒非 にんハ乞 こつしき食︒苦 くるしき世中︒悲 かなしき愁 うれい︒見 るハ桟 さんじきまくあき拍 ひやう︒怪 あやしき曲 くせもの︒いとしき 順 じゆんれい︒詠 ながめたけしきに︒恋 こひしきあの人︒逢 あふて嬉 うれしき別 わかれてくやしき︒ほしきハ銭金︒ひじき干 かんぶつ︒御 てらで葬 そうしき︒酒 さかに甑 こしき︒桶 おけの 正 子木問 といの蔵 くらしき敷︒上 あがれハ高 かうじきさがれバ下 しき︒背 おふた風 呂鋪 しきさミしき山中︒険 けハしき崖 がけミち︒雪 ゆきふり橇 かんじき︒侘 わびしき住 居も歌 うたハ敷 しきしまほつの点 てんしき︒ 色 しきたんざく︒大 だいハ百 もゝしき︒鴫 しぎの羽 はねがき百 もゝがき︒しき

かくハ最 いともおかしき     巳のとし元旦

よつの海おさまる御代にうるハしき朝日の登る空を巳の春

    福寿草

ねてまてバこかね色なる福寿草朝日登りてさく窓の本

    牛の形ほりし根付を天人の形と取換て

もうあきてうしとみつるを久方の天津乙女とかへし嬉しさ

    女のきぬのうつくしきを預りて

から衣ぬしハたれともしら梅のうつり香残す袖そゆかしき

︵九九四︶一三︵四三二︶

(15)

第五八巻 第三号     正月の中頃に少女の身まかれるをきゝいたミて

まだ花も咲ぬ若木の思ひきや春のふゝきにおれはてんとは

    其としの水無月のはしめ又長女をうしなふて

なよ竹のちからとたのむ杖おれて老の山みちいかゝのほらん

    たゝなみた西瓜を見ても孫みても     午の正月

色々の荷物付出しつけこミてかと賑ハしき午の初春

    きさらきの頃母のもとへ江戸の花と名つけし物をおくるとて

東路も長閑なりとて江戸の花東風にまかせておくる春の日

    晴雨の冨士  ある人の歌のおもしろき趣をかりて

あし高に雲の衣をかゝくれハふしのあたりもやかて見えなん

    情うすき人のこゝろを ︵九九三︶一四︵四三一︶

(16)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ 我うゑし梅ともめでぬ心にハ余所の花とて隔てなからん    若紫

春老てつきぬ詠めの若紫こそうつろふ色の花にまさらめ

    暮春  藤

行春をひきとめもせで藤の花うこかぬ松にまつハりてさく

雨ことに色うすらきし紫を藤にゆづりて春ハいぬめり

    丑寅の方に桃李をはしめ花さく樹おほく栽て︑年ことに花と共になりハひの栄えんことを天地の神に祈りて

活業の咲栄えよと幾本の花の樹植ていのる天地

    棄  瓦石   蓬根    桃李 新   除  鬼門

    歳々 逢 ニ 日   後栄 祈  福   旧乾坤       もゝ  すもゝ

○○ ゝちとりむれくる園ハうくひす

○○○ もものうかる音に木かけにてなく

︵九九二︶一五︵四三〇︶

(17)

第五八巻 第三号         南北

なりハひハ桃の齢ともろ共にミちとせかけて咲栄ふらん

        祐はる

天地もめでつらめやハ幾本の花の樹うゑていのる心を

        髭つら

みちとせになるてふ桃を数植て万代まてもこゝに栄えん

        宗きよ

めて植て心つくさハ花の樹も家もさかえん年々のはる

        儀

花さかハ牛もつなかんはらからのちきりもなさん桃うゑし園

        徳 幾本の桃わか

と花さかハ春ハたかねやこゝにとつかん

        與 ︵九九一︶一六︵四二九︶

(18)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ 桃植て神にいのらハ玉くしけはこにたからハミちとせやへん        童

千早振神めてましゝ花過て桃や李の実こそほしけれ

        松栄

桃の樹を植て若やく君なれハミちとせ迄も老すさかえん

    花の樹をうゑて春まつ風情かな     同    安政五年午十月     安政六未ことし五十の春をむかへて

わひつゝも又ひとゝせをこゆるきのいそちとけふハあら玉のとし

    ことし又江戸の花を母のもとへ贈るとて

江戸の花ことしも東風におくりなハあつまも春としらざらめやハ

︵九九〇︶一七︵四二八︶

(19)

第五八巻 第三号     春の頃国へ帰るやと人の問けれハ

梓弓春なれハとてあしたゆく花なき山にたかのほるへき

    弥生の中頃菊を植て

植てよりあかでめつるそ菊の花こん秋の日をなくさめてさけ

    古今集をよみ伊勢てふ人の歌々を見て

ちとせへて今も恋しき伊勢の海ふかき情の君か言の葉

    首夏

花ちれハ又葉桜のうつくしくかほよ草さくほとゝきすなく

    さ月の中頃松栄ぬしの近江へ帰るとて︑おのれをもさそひけるに︑なりハひのいとまなくて東にとゝまり別れをゝしミて

はねをおもミ心苦しき時鳥泣てけふより友したふらん

五月雨に木曾路を帰る人よりもゆかぬ袖こそぬれまさるらめ

    牽牛花

ひゞ

にひゝに咲かへ又ひゝに幾朝かほのあらたなるいろ ︵九八九︶一八︵四二七︶

(20)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶      洪水惜稼禾     七月 田間 秋気 微

  

  稼禾 欲

ント穂 先肥 タリ

    烈風 暴雨 是何     看 波浪 花実 稀

たつくりの汗にこめたるたなつもの底のミくつとなるそかなしき

     中秋対月感慨     農 歎 愁 万尋   憂 時 誰 亦 撫 孤琴

    今宵 不  似  去年     肉食 無  由  慰

客心

     秋夜即事     閑 寒灯   憶 故郷    隔 蟋蟀 喞  隣牆

    陸家 何 キヲ

    茶味 喫 来 知  夜

     懐郷     秋高 枯葉 已 晨霜   朝鼓 暮鐘 空 断腸     隔 モッテ 家山 幾重    雨糸 風片 逗 トウス

  他郷

     又

︵九八八︶一九︵四二六︶

(21)

第五八巻 第三号     故園 一別 已   三秋   慈母 恩情 易      誰   作 征鴻 羽翼    千山 万水 到 ン 江州

     菊     春来 辛苦 幾 経

    半歳 為  労  此       况   遇 開花 新霽     看  間人

うゑしより秋をちきりし菊の花けふわかうきをなくさめてさく

    敗梧 鳴  暮秋 天   故国 回 頭 独 粲然     起 東窓   視     清香 各自 闘 嬋娟

たち出て見ても淋しき秋の日を菊なかりせハいかゝおくらん

    時   有 寒花 薫 四隣     満園 秋気 脱 紅塵

    陶公 去 後 請   休   悔     愛  到   今 還 逸民

隣にも菊や咲しと人いはん園にあまれる花の色香に ︵九八七︶二〇︵四二五︶

(22)

近江商人の道中記﹃木曾日記三﹄末永・本村・奥田︶ 世のうきも暮行秋のかなしさも菊ミるほとハ忘れてそすく老ぬとて何かなしまん菊を見よ杖をつきても色盛りなり    九月晦日夜

かたりあふ人しなけれとぬるもをし今宵限りの秋と思へば

     十月愛菊     荏苒 トシテ秋光 漸   欲  回 ント    金虫 声老   総   塵埃     東籬 日暖 ニシテ菊猶美      独喜   小園 冬 未  来

神無月籬の菊ハうつくしくわか園にのみ秋ハのこれり

    舞と名つけし菊を得て

うれしさにたち居のあしのふミところ手の舞もしら菊の花

色もよし花よし葉よしみよしのゝ雪ともめつるしら菊の花

    朝おきて

︵九八六︶二一︵四二四︶

(23)

第五八巻 第三号

よしあしハ神と仏にまかせをきわか身のほとのけふをつとめん

    夜ねる時

あすハ又朝とく起てつとめなんけふも事なくぬるそ嬉しき

      安政六年未十月

菊の屋園守 二二︵四二三︶

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