国立国語研究所学術情報リポジトリ
〈全文〉 米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文 若菜上〜幻 : 平成23年度 人間文化研究連携共同推 進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2 期)」報告書
ページ 1‑192
発行年 2012‑03‑30
URL http://doi.org/10.15084/00002599
((
平成23年度人間文化研究連携共同推進事業
「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2期)」報告書
米国議会図書館蔵.『源氏物語』翻字本文
若菜上〜幻
斎藤達哉 豊島秀範 伊藤鉄也
林曽智信高田智和編
疏24年3月
人間文化研究機構 国立国語研究所
±fl
は
しがき
本報告書は米国議会図書館アジア部日本ms ︵Library of Congress︐
J
ap
ane se Rare Book Co11ection︶が所蔵する﹃源氏物語﹄ ︵以下︑議 会
図書館本﹃源氏物語﹄︶の﹁若菜上﹂から﹁幻﹂までの八巻の
翻
字本文を提供するものである︒二〇=年三月に﹁桐壼﹂から﹁藤
裏葉﹂までの三十三巻︵いわゆる﹁第一部﹂︶の翻字本文を刊行し︑
本報告書はその続きとしてr第二部﹂を公表する︒
議 会図書館本﹃.agtiK物we﹄ ︵LC Control No.2008427768︶は︑二
o o
九年に米国議会図書館の所蔵となるまで知られていなかった学
界 未
紹介の新出資料である︒後装の濃青色表紙︑料紙鳥の子︑列帖
装 立 て の 全 五 十 四 冊 揃 い の 書
写本である︒古筆了仲による正徳元年
(
1
七l1年︶の極めがあり︑それによれば︑五辻諸仲︵一四八七年〜一五四〇年︶の書写とされる︒本文の系統などについての詳細
な検討は︑今後の研究を侯たねばならないが︑まずは︑議会図書館
本﹃源氏物語﹄の翻字本文と書誌調査報告を公表する次第である︒
議会図書館本﹃源氏物語﹄の原本調査は二〇一二年三月までに︑
予 備
調査一回︑詳細調査二回の計三回実施した︒
〔予
備 調査︺
〔詳
細 調査︺ 一回目 二 回目
二〇一0年一月二五日〜二七日
1 1
011年一月二四日〜二五日二〇一二年二月一日〜三日 1101l年l月︑二〇一二年二月の詳細調査は︑新出資料である
議
会図書館本﹃源氏物語﹄の基礎調査の意義とその必要性により採
択された人間文化研究機構の人間文化研究連携共同推進事業︵平成
二十二年度﹁海外に移出した仮名写本の緊急調査﹂︑平成二十三年度
海
r
外に移出した仮名写本の緊急調査︵第二期︶﹂︑いずれも代表者・高田智和︶の一部として実現した︒
本報告書に公表する翻字本文は︑主としてl 10 1二年二月の詳細
調 査
の結果をふまえたものである︒この調査には︑高田智和︵国立
国語研究所︶︑斎藤達哉︵専修大学︶︑小木曽智信︵国立国語研究
所︶︑神田久義︵國學院大學︶の四名が参加した︒
また︑議会図書館本﹃源氏物語﹄の翻字本文は︑国立国語研究所 ・14ホームページ︵げ:竺\\≦ミ゜ninjal°ac.jp/LCgenji/︶において︑オ
ンライン公開も行う︒この翻字本文が︑源氏物語本文研究や仮名表
記 研究の資料として︑1助となれば幸いである︒
残る﹁匂宮﹂から﹁夢浮橋﹂までの十四巻の詳細調査と翻字本文
公表は︑次年度以降を予定している︒
議会図書館本﹃源氏物語﹄の原本調査にあたっては︑米国議会図
書館アジア部日本課の伊東英一氏︑中原まり氏︑PIPHER・Y清.
代
氏に格別の御高配を賜った︒ここに記して謝意を表す︒
平成二十四年三月
高田智和︵国立国語研究所︶
目次
米国議会図書館本﹃源氏物語﹄の書誌概略︵表︶
米国議会図書館蔵﹃源氏物語﹄翻字本文
若菜上 ⁝⁝・⁝
若菜下 ⁝⁝・⁝
柏木 ⁝・⁝⁝⁝
横笛 :⁝⁝⁝:
鈴虫 ⁝⁝::⁝
夕霧 ⁝::⁝⁝
御法 ・⁝⁝⁝⁝
幻
⁝::⁝⁝⁝
■ ■ ■ ■ ■ − − ● ● ■ ● ● ● ● − − ● − ■ i ■ ■ ・ ・ . ・
− ● ■ ■ ● ■ 舎 ● ■ ■ ■ ■ ■ ● ■ ● ● ● ● − ■ t ● − . i i ・ ・
● ● ● − − ● ● ● ● ● 舎 ● ● − ● ● ■ ■ ● ● − ・ . − − ・
■ ● − − − ● ● ● ■ ■ ● ■ ■ − ■ − ● ● ● − ● ● ・ 窃 . − 舎 − ◆ ■ ■ − ● ● ■ ■ − ● ● ■ e ● ・ ・ ︸ − ・ . − ・ ・ 舎 ・ ・
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● ● − − ■ ■ ■ ● ● ■ ● − ● ■ ● ◆ ● ● ■ − ● ● − ■ ・ ● . −
米国議会図書館蔵﹃源氏物語﹄擦消一覧︵若菜上〜幻︶
︵神田久義・斎藤達哉︶
米 国議会図書館蔵﹃源氏物語﹄特殊表記による和歌一覧
︵神田久義・豊島秀範︶ ︳
14613711210496 79 44 7 3 155
⁝− 四
u1
米国議会図書館蔵『源氏物語』の書誌概略(2012年2月3日版)
巻数 巻名 寸法(cm) 丁数 遊紙丁数 括数 本文行数 書入 分書和歌数
1 桐壼 25.0×17.0 25 前1 3 89 ○
2 木 25.2×17.0 41 前1 4 8910 ○
3 空 25.2×16.8 9 前1 2 9 ○
4 夕顔 25.2×16.8 37 前正 3 9 ○
5 若紫 25.2×16.8 29 後1 4 10 ○
6 末摘花 25.2×16.8 25 後1 3 9 ○
7 紅葉 25.2×17.0 19 後1 2 10 ○
8 花宴 25.2×17.0 8 2 10
9 葵 25.2×17.0 32 3 10
10 賢木 25.2×17.0 36 3 10 ○
11 花散里 25.2×16.9 4 前1後1 2 10
12 磨 25.2×17.0 30 3 10 ○ 8
13 明石 25.2×16.9 28 3 10 ○ 8
14 濡標 25。2×17.0 24 3 10 ○ 8
15 蓬生 25.2×17.0 16 2 10 ○
16 関屋 25.2×16.9 6 2 9
17 絵合 25.2×16.9 14 2 10
18 松風 25.2×16.9 16 2 10
19 薄雲 25.2×16.8 22 3 10 ○
20 朝顔 25.2×17.0 14 2 10 ○ 3
21 少女 25.2×16.9 38 4 10 ○
22 玉童 25.2×16.9 30 3 1011 ○ 3
23 初音 25.2×17.0 10 2 10 ○
24 胡蝶 25.2×17.0 16 2 10 3
25 蛍 25.2×16.9 14 2 10.11 5
26 常夏 25.2×16.8 16 2 101正
27 篭火 25.1×16.9 5 後1 2 89
28 野分 25.1×16.9 14 2 10 3
29 行幸 25.1×16.9 20 3 10 1
30 藤袴 25.1×16.9 12 2 10
31 真木柱 25.1×16.9 28 3 10
32 梅枝 25.1×16.9 14 2 10
33 藤 葉 25.2×16.9 20 2 10
34 若菜上 25.2×16.9 77 後1 4 9 ○
35 若菜下 25.2×16.9 72 4 89 ○
36 柏木 25.2×16.9 30 3 1011 ○
37 横笛 25.1×16.9 12 2 10,1Ll2
38 鈴虫 25.1×16.9 14 2 910
39 夕霧 25.1×16.9 46 3 10 ○
40 御法 25.1×16.9 14 2 910 ○
41 幻 25.2×17.0 16 2 8.10
42 匂宮 25.1×16.9 10 2 10
43 紅梅 25.1×16.9 10 2 10 ○
44 竹河 25.2×16.9 32 4 910 ○ 6
45 橋姫 25.2×16.9 28 3 10
46 椎本 25.2×16.9 28 4 10 4
47 総角 25.2×16.9 63 後1 3 9 ○
48 早蕨 25.2×16.9 14 2 910
49 宿木 25.2×16.8 60 4 910
50 東屋 25.2×16.8 42 4 10.11
51 浮舟 25.2×16.8 44 4 10 8
52 蜻蛉 25.1×16.9 36 3 1011 ○ 2
53 手習 25.2×16.9 42 4 910
54 夢浮橋 25.2×16.9 12 2 910
1
米 国議会図書館蔵﹃源氏物語﹄翻字本文
3
担 当者一覧
.
〔巻名︺
若 菜 上 若 菜 下
柏木横
笛
鈴虫
夕霧御
法 幻
〔翻
字
担当者︺
阿 部 江 美 子
大
石 裕 子 小 川 千 寿 香 阿 部 友 敬 菅野早月 荻野仁賀 伊藤朋
豊島秀範
野 崎 花 菜 淺 川 槙 子 杉 本 裕 子 楠 木 陽 子
野口あゆみ
藤 本 文 音
千川彩佳
校〔
正
担当者︺
菅原郁子 神田久義
太田幸代 高田智和
豊島秀範 神田久義
小
木曽智信
斎藤達哉豊島秀範 神田久義
伊 藤 鉄 也
斎藤達哉
5
9
凡 例
行移り・丁移り
1 本文の行移りは原本にしたがった︒
2 丁移りは︑その丁の表および裏の冒頭において丁数・表裏を四角囲みで示した︒
3 半丁内の行番号をアラビア数字で示した︒
文
3 2・1字
4
5
仮名は現行の平仮名を用いた︒ ︑ 漢 字 は 現 代 通用の字体によることを原則とした︒
語を漢字表記にする場合の漢字と︑仮名表記にする場合の字母とが︑
は︑漢字として扱った︒ ︵例︶見くるし︑気しき
繰り返し符号は次のように統1した︒
仮名1文字の繰り返し ︵例︶こsち
漢字一文字の繰り返し ︵例︶人々
複 数 文 字 の
繰り返し ︵例︶ひとく
判読できない文字は■で表した︒
一致 するときに
和 21歌
和 歌 は四字下げとした︒
散らし書き風の和歌は︑
配 置を再現することはせず︑末尾に#を付した︒
傍記等
1 傍記等の書き込みは︑この翻字では省いた︒
2 擦消箇所は︑﹁米国議会図書館蔵﹃源氏物語﹄擦消一覧
(若菜上〜幻ごに一覧した︒
図
1版
各巻の表紙および第一丁表の原本写真を掲載した︒若
1
・ 、∴ t tt
上
卜
8
囲
−朱雀院のみかとありしみゆきの後そのころをひよりれい2ならすなやみわたらせ給ふもとよりあつしくおはしますうちに此たひは
3物心ほそくおほしめされて年ころをこなひのほいふかきをきさひの
4宮のおはしましつる程はようつは﹀かりきこえさせ給ていま﹀ておほし
5と﹀こほりつるをなをそのかたにもよほすにやあらん世にひさしかるましき
6こ﹀地なんするなとのたまはせてさるへき御心まうけともせさせ給ふみこた
7ちは春宮ををきたてまつりて女宮たちなんよところおはしましけるそのなか
8に藤つほときこえしは先帝の源氏にそおはしましけるまた坊ときこえさせ
9し時まいり給てたかきくらゐにもさたまり給ふへかりし人のとりたてたる御
固
−うしろ見もおはせすは﹀かたもそのすちとなく物はかなきかうゐはらにて物し
2給けれは御ましらひの程も心ほそけにて大きさきの内侍のかみをまいらせたて
3まつり給てかたはらにならふ人なくもてなしきこえ給ふなとせし程にけをされて
4みかとも御心のうちにいとおしき物に思きこえさせ給なからおりさせ給にしかはかひな
5くくちおしくて世の中をうらみたるやうにてうせ給にしその御はA
6の女三の宮をあまたの御中にすくれてみかと思かしつききこえ給ふ
7その程御とし十三四にそおはするいまはとそむきすて山こもりしなん
8後の世に立とまりて誰をうしろみたのむかけにて物したまはんとた﹀此
9宮の御事をおもほしなけくにし山なるみ寺つくらせ給てうつろひ給ふへき御いそき
④
−にそへて又此宮の御もきの御いそきの事をいそかせ給ふ院うちにやむことなく
2おもほす御たから物御てうとなとはさらにもいはすたA此御かたにとわたし給て
3ことみこたちには此つきくになん御そうふなとし給けるとそ春宮はか﹀る御
4なやみにそへて世をそむき給ふへき御心つかひをきこしめしてわたり給へりは>
5女御もそひてまいり給へりおほえも物したまはさりしかと宮のかくておはします
6御すくせに世になくめてたけれは年ころの御物かたりなとあはれきこえかはし
7給ける宮にもようつの事世申をたもち給ふへき心つかひなときこえしらせ
8給ふ御としの程よりはいとよくをとなひ給て御うしろみなとかろくしから
9ぬ御なからひに物し給へはいとうしろやすく思きこえ給ふ此世に又
固
−うらみのこる事も侍らす此女宮たちのあまたのこりと﹀まるゆく
2さきを思ふになんさらぬわかれにもほたしなるへかりけるさきく人の
3うへにても見きくためしにも女は心よりほかにあはくしう人におとしめら
4る﹀時なんいとくちおしくかなしきいつれをも心と﹀めて思ふやうなる
5世に物したまはんにはかならすさまくにつけておほしたつねよその
6中にもさるへきうしろ見なと侍るはそれに思ゆつり侍りいはけなき程
7よりた﹀ひとつきをたのみならひて打すて﹀む後の世にたAよひ
8さすらへん事なんかなしきと女御にもきこえ給ふされとは﹀女御の人に
9まさりて時めき給しにいつれもいと見かはし給し程御なからひともはた
團
1うるはしくもあらさりしなこりとりたて﹀にくしとはなけれと又ま
2ことにうしろ見んなとは心と﹀めすや物したまはんすらんなとあさ夕に此 い
●
6
3御事をおもほしなけきたり年暮ゆくま﹀に御なやみまことにをもくならせ
4給てみすのとにも出させたまはす御物の気に時々なやませ給ふ事はあれと
5いとかく打はへてをやみなきさまにはおはしまささりつるを此たひはなを
6かきりなめりとおもほひたり御くらゐをさり給へれとなをその世にたのみそめ
7たてまつり給へる人々いまもなつかしくめてたき御ありさまを心やりところ
8にはまいりつかうまつり給ふかきりは心をつくしおしみきこえ給ふ六条院
9よりもしはく御とふらひきこえ給ふみつからもまいり給ふへきよしきこし
固
−めして院にはよろこひきこえ給ふ中納言の君まいり給へるをみすのうちに
2めしいれて御物かたりこまやかにきこえ給ふ故院のうへのいまはのき
3さみにあまたの御ゆひごんありし中に此院の御事内のうへの御事となんとり
4わけてのたまひをきしをおほやけとなりことかきりありけれはうちくの
5心よせはかはらすなからはかなきあやまりめにも心をかれたてまつる事も
6ありけんと思ふを年ころ事にふれてさらにそのうれへとAめ給へる気しき
7をなんもらしたまはぬさかしき人といへと身のうへになりぬれはことに
8たかひてなを心うごきかならすそのむくひ見えゆかめるに見る事なん
9いにしへの代にたにおほかりけるいかならんおりにかその心はへをほころふへ
囲
−きとよの人もおもむけうたかひけるをつゐにしのひ給て東宮なと
2にもかく心をよせ給てまたなくしたしかるへき御中となりむつひをかはし給へる
3なんかきりなく心には思なから本上の物をうかなるに打そへて此みちのやみに
4立ましりかたくななるさまにやとて中々たえすくんし侍内の御事はかの
5御ゆひごんたかはすつかうまつりてしかはかくすゑの世のあきらけき君
6としてきしかたの御おもてをもおこし給ふほいのこといとうれしくなん此秋の行
7幸の﹀ちいにしへの事とりそへていふかしくおほつかなくおほえ給ふたいめんに
8きこえをくへきことも侍るかならすもよほしきこえ給へなと打しほれつ>
9きこえ給ふ中納言すき侍りにけん程の事はともかくも思給へをきかたく
固
1侍る年まかりより侍ておほやけにつかうまつり侍あひた大少の事につけてうちく
2のさるへきついてなとにもいとしたのうれはしき事や侍けんきしかたのさる事
3なとをかすめ申給ふおり侍らすなんおほやけの御うしろみをもつかうまつりしつか
4なる思をかなへんとひとへにまかりこもりし後の世のありさまをもしらぬやう
5にてむかし故院の御ゆひごんの事をもえつかうまつらす御くらゐにおはしまし>
6世にはよはひの程も身のうへは物もをよはすかしこきかみの人々おほくてその
7こ﹀うさしをとけて御らんせらるA事もなかりきいまかうまつりことをさりて
8しつかにおはしますころをひ心のうちをへたてなくまいりうけたまはらまほしきを
9さすかにとをくとなくところせくなにとはなき身のよそをひにてをのつから月
園
−日をすこし侍事となんおりふしにはなけき申給ふなとそうし給ふ廿にいまた
2年もわつかになる程なれといとよくと﹀のひすくしかたちなともさかりに物し
3給ふを御めにとAめて御らんしつ︑かのもてわひ給ふひめ宮の御うしろみに是を
4やとおほしよりけりおほきおと﹀のわたりにやいまはすみはてられにたる年ころ
5心えぬやうにきく事ありしをみ﹀やすき物からねたくおもふ事こそあれと
s
o l
6のたまへは打かしこまりていかにのたまはする事にかと思めくらすに此ひめ宮
7をかうさるへき人あらはあつけて心やすく世中を思はなれんとおほしのた
8まはするさま物のたよりにつたへ聞けるをさやうのすちにやと思よれと
9ふと心えかほにもなにかいらへきこえさせんた﹀はかくしうも侍らぬ身には
同凹 .
−よるへも侍かたくなときこえてやみぬ女房なとはのぞきつ﹀見ていとあり
2かたくも見え給ふかたちかなといふおひしらへるなとはされとかのおと﹀の
3かはかりにておはし﹀かたちはえなすらひたまはしいとめもあやにいみしくこそ
4きよらにおはせしかなといふをきこしめしてさらにかれはさまことなりしを
5やいまは又その世にもねひまさりてけにひかるとは是をいふへきにやと
6見ゆるかたちなとそひにたるうるはしたちてはかくしきかたにみれはいとはつかしく
7あさやかにめもをよはぬこ・ちするを又打とけてたはふれ物をもいひけるなつ
8かしきさまはたいふかきりなくあひきやうつきうつくしきところこそいとあり
9かたけれ何事もさきの世の契りゆかしう思やられたるめつらかなる人の
團
−ありさま也宮のうちにおひいてさる帝王のいのちにかけておほしたりしかと
2心のま﹀にもおこらすひけしつ﹀廿かうちには納言となり給へりきかしひとつ
3あまりてや宰相にて近衛の中将かけ給へりそれを是は世をはくたり
4なからすみためるをつきくにおほえのまきるなめりかしまことに心のかしこき
5かたのさえ心もちゐはおよすけまさりにたるおほえことなめりなとめて給ふ
6ひめ宮のいとうつくしけにてわかくなに心もなき御ありさまを見たてまつり
7給てかつは又かたをひならん事をは見かくしをしへきこゆへからん人のまたかた
8をひの御ありさまをもならはしきこえもちゐんにあつけてうしろやすく
9おもは﹀やなときこえ給ふはかくしき御めのと女房たちめし出て御
固
1もきの程の事なとのたまはするついてに六条のおと﹀の式部卿の宮のむす
2めおほしたて給けんやうに此宮をあつかりてはく︑まむ人もかなた>
3人の中にはいとありかたし内には中宮さふらひ給ふつきくの女御たち
4とてもいとやむことなきかきりありはかくしきうしろみなくてさやう
5のましらひ中々ならん此こん大なごんのあそんのひとり物しつる程に打
6かすめて心見るへくこそありけれわかけれといときやうさくにおひさき
7物しき人なりとのたまふを中なごんはいとまめ人にてかのわたりに
8心をかけてほかさまに思うつろふ心も侍らさりけるをその思かな
9ひてはゆるくこと侍らしかの院こそ中々なをいかなる事につけても
團
−人をゆかしくおほしたる心はたえす物せさせ給ふなれその中にもやむ
2ことなき事のねかひたえぬにや前斎院なとをもことにわすれかたく
3きこえ給ふなれと聞ゆいてそのふりせぬあたけこそはいとうしろめたけれ
4とはのたまはすれとけにあまたの中にか﹀つらびめさましかるましかるへき
5思はありともなをやかておやさまにてさためてやゆつりをきてましさるは
6心ことにおもはん女こをなとはかの人の御あたりにこそはふれはAせまほしくそ
7あるいくはくならぬ此世のあひたさま心ゆくありさまをしてこそあらま
8ほしけれ我女ならましかはおやはらからなりともかならすむつひよりなま
L t
・
9しをなとなんむかしはつねにおもほえしまして女のあさむかれんは
固
−いとことはりそやとのたまひて此御心のうちにかんの君の御事を
2おもほし出らるへしその中におもくしき御めのと此せうとの左大
3弁なるか院のしたしき人にて年ころつかうまつりてこの宮にも
4心よせつかうまつるありけりまいりたるにあひて物かたりのついてに
5うへなんしかく御けしきありてきこえ給しをかの院におりよき時
6あらはもらしきこえ給て御けしきたまはり給へけに御こたちは一
7ところおはしますれいの事なれとさまくにつけて心よせたてまつり何事
8も御うしろ見し給ふ人あるはたのもしけ也うへををきたてまつりては
9又さすかに思きこえ給ふ人なけれはをのれらはかうつかうまつるとても
團
1なにはかりの宮つかへとてもあらんをのか身ひとつにあらてもおもはぬ
2さまの事おはしましかるくしききこえもあらん時はいかさまにかわつらはし
3からん御らんする世にともかくも此御事さたまりてはつかうまつりよくそ
4あらんかしかしこきすちとおもへと女はいとすくせさためかたくおはします物なれ
5はようつになけかしうかうあまたの御中にてとりわけてきこえさせ
6給ふにつけても人の御そねみおほかるへかめるにいかてちりもすへたてま
7まつらしとかたらふに弁いかなるへき事にかあらん院はあやしきまて
8御心なかくかりにても見そめ給ふ事さへ御思とまれるをも又さしもふかAらぬ
9をもさまくにつけてたつねとりてなんあまたつとへ給へるめれともやむこと
固
1なくおもほすはかきりありて一かたなめれはそれにことよりてかひな
2けなる御すまゐし給ふかたくおほかめるを御すくせありてもしさやう
3にもおはしますやうあらんにはいみしき人といふとも立ならひをしたち
4給ふはあらしと思なからなをは﹀かる事なんありぬへきこの世さるは
5すゑの世もすきて見る心もとなきを女のすちにてなん人のもときをお
6ひ我心にもあかぬ事あるをとなんうちくの御すさひことにはおもほしのた
7まはすなるけにをのれと見たてまつる事もおはしますへかめりかたくにつ
8けてさて御かけにかくし給へる人々その人ならぬたちくたれるきはには
9物したまはねとかきりあるたくひともにておとAの御ありさまにならふへ
團
1きおほえくし給へるもなしかしおなしくはさもおはしまさんにたくひ
2たる御ありさまあはひならんとかたらふをそれと又ことのついてに
3しかくなんなにかしのあそんにほのめかし侍しかはかの院にはかならす
4うけひき給てんと年ころの御ほいふかき事かなひ給ておも
5ほしぬへき事なるをこなたさまの御気しきまことにおもほし
6さたむへくはつたへきこえむといひ侍しをいかなるへき事にか侍らん
7ほとくにつけて人の程きはくおほしわきありかたき御心には物し
8給ふなれとた﹀人たに又か﹀つらひ思ふ人たちならひたるありさまは
9人のあかぬ事にし侍をおもほしさため給てなん侍へきかきりなき
固
−人と聞ゆれといまの世のやうとてはみなほこりかにあるへかしう世中
z t
2を御心とすくひ給ふ人々なんおはすへかめるをひめ宮はあさましう心もと
3なき御ありさまにのみ見えさせ給ふにさふらひ給ふ人々もつかうまつりつい
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5いときよらにせさせ給へりらてんのみつし二ようひに御ころもはこ四
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3めあるついてにいにしへの事御心の中にはおほし出る事とも﹀さまくありけんかし
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8給ふかんの君は打つ﹀きしも御らんせられしとのたまひけるを大将のか﹀る
9おりに御らんせさせんとてふたりおなしやうにてふりわけかみのなに心もなき
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4かとまうけたるをことくしうおもへたて﹀見せすかし人よりことにかそへとり給ける
5けふのねのひこそなをうれたけれしはしは老をわすれて侍へきをもきこえ
6給ふかんのきみいとよくねひまさりてものくしきけさへして見るかひあるさま7し給へり
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5かうしたしき御なからひにて心あるやうならんとひんなくて日たけてそわたり給
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・7ひ給ふほとけにねくらのうくひすもおとろきぬはかりおもしろしわたくしの
8ことさまもしなし給てろくともなといとかうさくにまうけられたりけり
9あか月にかんの君はかへり給ふ御をくり物ともありけりかう世をすつるやうにて
1あかしくらす程に年月のゆくゑをもしらすかほなるをかそへさせ給つるに
2つけても心ほそくなん時々はおひまさるやとも御らんしくらへよふるめかしき
3身のところせきに人にしたかひてたいめんなきもいとくちおしくなときこえ
4給ふあはれにもおかしくも思ひ出きこえ給ふ事なきにしもあらねは中々ほのかにかう
5いそきわたり給ふをいとあかすくちおしくおもほされけりかんの君もなをまことの
6おやをはさるへき契りはかりに思きこえ給けるありかたくこまやかなりし御心
7はへを年月にそへて世にすみつき給ふにつけてもさまくにをうかならす思しら
8る︑事きこえ給けりかくてきさらきの十余日に朱雀院のひめ君六
9条院へわたり給ふ此院にも御心まうけよのつねならすわかなまいりしにし
−のはなちいてにみちやうたてAそなたのたいわた殿かけて女房の
2つほねくまてこまかにみか﹀せ給へり内にまいり給ふ人のさほうをまねひ給
3てかの院よりも御てうとなとはこはるわたり給ふきしきいへはほうなり
4をくりにかんたちめなとあまたまいり給ふかのけいしのぞみ給し大納言も
5やすからす思なからさふらひ給ふ御くるまよするところに院わたり給て
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6おろしたてまつり給ふなとれいにはたかひたる事とたA人におはすれはよう
7つの事かきりありて内まいりにもにすむこの大君といはんにも事たかひて
8めつらしき御なからひなん三日の程かの院よりもあるしの院のかたにもめつ
9らしきまて見ゆるそみやひをつくし給ふたいのうへことにふれた﹀
−にしもおほされぬ世のありさまけにかAるにつけてこよなく人々にけたるA
2事もあるましき事なれとも又ならふ人なくならひ給て花やかにおひさき
3あなつるにくきけしきにてわたり給へるになまはしたなくもおほさるれと
4つれなくのみもてなし給ふ御わたりの程もろともにはかなき事もしいて
5給つ︑いとらうたけなる御ありさまをいとありかたしと思きこえ給ふひめ
6宮はいとちひさくかたなりにおはするうちにもわかひ給へりむらさきをたつね
7とり給しをおほし出るにかれはされておかしういふかひありしをいといはけなく
8のみ見え給へはいとよかめりにくけにをしたちたる事はあるましかめれと
9おほす物からあまり物のはへなき御さまかなと見えたてまつり給ふ三日の
1程は夜かれなくわたり給ふを年ころはさもならひたまはぬこ﹀地にしのふれと
2物あはれ也御そともなといとくたきしめなとし給物から打なかめて物し給ふけ
3しきいみしうらうたけにおかしなとてようつことありともまた人をなら
4へては見るへきそあたくしう心かろうなりをきにけるわかをこたりにか﹀る事も
5出くるそかしわかけれとも中納言をはえおほしかけすなりぬめりしをと我な︑
6からつらうおほしつ﹀けらるAに涙くまれてこよひはかりはことはりとゆるし給
7てんな是より後のとたえあらんこそ身なからも心つきなかるへれ又さり
8とてもかの院にきこしめさんと世に思みたれ給ふ御心の中くるしけ也ほ>
9ゑみてみつからの御心なからたにえさため給ふましかりけるをましてことはりも
1なにもいつくにとまるへきそといふかひなけにとりなし給へははつかしうさへ
2おもほしてつらつえをつきてよりふし給へり女君御す﹀りをひきよせて
3 目にちかくうつれはかはる世の中をゆくすゑとをく
4たのみけるかなとふる事なとかきませ給へるをとり給てはかなけれとけ
5にとおもほすことはりにて
6 いのちこそたゆともたえめさためなく世のつねならぬ
7申の契りをとみにもえわたりたまはすいとかたはらいたきわさとそ﹀の
8かし給へはなよらかにおかしき程にえならすしのひてわたり給を見いたし
9給ふもいとた﹀にしもあらすかし年ころさもやあらんとうたかはしく思わたりし
1事ともAいまはもてはなれ給つ﹀さらはかはかりにこそはと打とけゆくすゑにあり
2ありて世のきこえもなのめならぬ事の出きぬるよ思さたむへき世のありさ
3まにもあらさりけりいまより後もうしろめたうそおほしなりぬるさこそつ
4れなくもてまきらはし給へとさふらふ人々もおもはすなる世なりやあまた物
5し給ふやうなる世なれといつくもみなこなたの御気しきはかたさりは﹀かるさま
6なれはこそことなくなたらかにもあれをしたちてかはかりなる御ありさまに
7けたれてえすくしたまはしまたさりともはかなひ事もあらんおりかならす
8わつらはしき事ありなんかしなとをのく打かたらひ物なけかしけなるを露も ■