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対 テ ロ戦 争 にお け る兵 士 の市民 的不 服 従
市 川 ひろみ
ア メ リカ合 衆 国 大 統 領 とひ と りの 人 間 と して さ しで 話 をす る機 会 が あ っ た ら、 自 分 の 国 の 憲 法 や 法 律 を顧 み る よ う に勧 め て や りた い 。 兵 士 た ち に と って 、 軍 に対 す る義 務 が す べ て に優 先 す る とい う考 え は 誤 りだ 。兵 士 が もっ と も優 先 す べ き義 務 は、 わ れ わ れ の心 の奥 底 に横 た わ る人 道 に対 す る 義務 だ 。 ジ ョ シ ュ ア ・キ ー元 米 陸 軍 上等 兵(1)。は じめ に
現 代 の 戦 争 で は 、 国 外 勢 力 を 野 蛮 とみ な す 一 方 、 国 内 勢 力 が 市 民 性 を 有 し て い る と い う考 え 方 や 、 正 当 な 武 器 保 持 者 と し て の 戦 闘 員 と そ れ 以 外 の 非 戦 闘 員 、 軍 人 や 警 官 と犯 罪 者 、 と い っ た 様 々 な 区 別 は 崩 壊 し つ つ あ る(2)。2001 年9月11日 の テ ロ 攻 撃 に 対 し て 、 米 国 政 府 は 「対 テ ロ 戦 争 」 を 宣 言 した 。 こ の 戦 争 に 派 遣 さ れ た 兵 士 に と っ て 、 「敵 」 は 制 服 を 着 て 戦 っ て い る 正 規 軍 で は な い 。 「テ ロ リ ス ト」 と民 間 人 と の 違 い は 明 確 で は な く、 「付 随 的 被 害 」 に よ っ て 多 数 の 子 ど も を 含 む 民 間 人 が 犠 牲 に な っ て い る 。 テ ロ と の 戦 争 で は 、 民 間 人 の 居 住 す る 地 域 で 戦 闘 と な る こ と も 多 く、 民 家 を急 襲 す る こ と も 珍 し (1)キ ー は 、2003年4月 か ら12月 ま で イ ラ ク の 前 線 に 派 遣 さ れ た 。 一 時 帰 国 中 に脱 走 し、 妻 と子 ど も2人 と共 に 一 年 以 上 米 国 内 を 転 々 と し た の ち 、26歳 の 時 カ ナ ダ に 逃 れ た 。 ジ ョ シ ュ ァ ・キ ー 『イ ラ ク 米 軍 脱 走 兵 、真 実 の 告 発 』 井 手 真 也 訳 、合 同 出 版 、2008年 、 245-246頁 。 (2)メ ァ リ ー ・カ ル ドー 『新 戦 争 論 』 山 本 武 彦 、 渡 辺 正 樹 訳 、 岩 波 書 店 、2003年 、7-8 頁228 京女 法 学 第1号 くな い。 米 軍 が 頻 繁 に採 用 す る よ うに な っ た 「テ ロ リス ト」 の 暗殺 作 戦 は、 国際 法 に違 反 す る疑 い が 強 い。 そ もそ も誰 を 「テ ロ リス ト」 とす る のか 、 そ の根 拠 は何 か 、 果 た して 「テ ロ リス ト」 は 軍 隊 に よっ て攻 撃 す べ き対 象 な の か、 明確 な答 えの ない 問 題 が 山積 して い る。対 テ ロ戦 争 にお い て は、 武 力 行 使 の 正 当 性 に疑 問 が 生 じる こ とは避 けが た い 。 本 稿 で は、 市 民 的不 服従 の観 点 か ら対 テ ロ戦 争 に お け る兵 士 に よ る命 令 拒 否 お よ び脱 走 を取 り上 げ る。 対 テ ロ戦 争 の 実態 に直 面 し、 そ の正 当性 に疑 問 を抱 い た 彼 ら は、 ナ シ ョナ ル な存 在 だ った兵 士 か らグ ロ ーバ ル な視 点 を もつ 市 民 へ と変 化 を遂 げ て い る。 1)軍 人 ・兵 士 に よ る軍 務 拒 否 イ ラ ク戦 争 に反 対 す る兵士 の多 くが 、 アメ リカ の イ ラ ク侵 攻 が 違 法 で あ り 法 的正 当性 を 欠 い て い る こ とに言 及 して い る(3>。歴 史 的 に見 る と、 軍 務 を拒 否 す る人 々が 根 拠 と して きた の は、個 人 の信 仰 、平 和 主 義 の 信 条 、人道 主 義 、 特 定 の 戦 争 を不 正 とす る正戦 論 的 な信 条 な どで あ っ た。 テ ロ との戦 い以 降顕 著 に な っ て い るの が 、 国 際法 に則 して法 的 な正 当性 が な い こ と を根 拠 とす る もので あ る。 軍 隊 での 役 務 を拒 否 す る人 々 の歴 史 は古代 ロー マ 時代 に まで さか の ぼ る こ とが で きる。 当初 は特 定 の宗 教 上 の信 仰 に基 づ くもの で あ っ た 。19世 紀 終 わ りか ら特 に20世 紀 に は、 信仰 に よ らな い理 由 に よ って兵 役 を拒 否 す る若 者 が 増 加 した。 特 定 の宗 派 に属 す る 人 が行 うの で はな く、個 人 が 自 らの 良心 ・信 条 に従 っ て兵 役 拒 否 を なす よ うに な っ た。 また 、個 人 の 内面 の 自由 、信 仰 の 自由 の 問題 と して よ りも、 戦 争、 武 器 、 武 器 の使 用 方法 な どの正 当性 を問 う ものへ と変 化 して きた(4)。徴 兵 制 の も とで は、兵役 拒 否者 は刑 法 や 軍 法 に よつ
(3)Shaun Randol, The Conscientious Objectors in Iraq: Placing them in an Historical Context, Nebula, 6.1, March 2009, p. 52 — 53.
(4)兵 役 拒 否 の 歴 史 的 展 開 お よ び 類 型 に つ い て は 、 市 川 ひ ろ み 『兵 役 拒 否 の 思 想 一 市 民 的 不 服 従 の 理 念 と展 開 』 明 石 書 店 、2007年 、79-103頁 。
対 テ ロ戦争 にお け る兵士 の市 民的不 服従(市 川) 229 て処 罰 され 、 多 くの若 者 が 自 らの 国家 に よっ て投 獄 ・処 刑 され た。 第 一 次 大 戦 期 、 特 に第 二 次大 戦 後 以 降 は 、個 人 の 良 心 に 反 す る場 合 に は軍 務 に就 くこ とを強 制 され ない権 利 が 、個 人 の 自由権(信 仰 ・良心)と して広 く受 け入 れ られ る よう に なっ た。 西 側 諸 国 で は、 兵 役拒 否 を合 法 化 し非 軍 事 の役 務 を認 め る制 度 が 一 般化 した 。 この よ うな制 度 は、 軍 の構 造 変 化 に そ う もの だ っ た。 国家 は これ らの 若者 を軍 に は必 要 と しな くな って い た の み な ら ず 、 潜 在 的 な 「反 乱 分 子 」 や 「弱 虫 」 を兵 舎 の外 に置 い て お く方 が都 合 が よ か っ た 。 自 由権 を保 障 す る兵 役 拒 否 制 度 は、 「車 輪 の 中 の砂 つ ぶ 」 とな り う る人 を遠 ざ け て お くフ ィ ル ター の役 割 を果 た した。 兵役 拒 否 者 を訴 追す る こ とは、 社 会 との 軋 礫 を生 み 、 そ の コ ス トは 大 きいく5)。この 制 度 は、 反 乱 者 や 殉 教 者 の発 生 を防 ぐこ とに な り、秩 序 の安 定 に寄 与 す る もの だ った 。 冷 戦 の終 結 に伴 い、 大 規模 な兵 員 は 必 要 な くな り、 多 くの 国 々 で徴 兵 制 が 廃 止 され た。 志 願 制 軍 隊 の 下 で の 兵士 に よる命 令 拒 否 は、 市 民 的不 服 従 と し て の側 面 を 強 くもつ よ うに なっ た 。 軍 人 ・兵士 で あ っ て も自 らの信 条 が 、全 て の戦 争 を悪 とす る平 和 主 義 的 な信 念 を抱 くよ うに な った と証 明 で きる場 合 に は 、 「良 心 的兵 役 拒 否 」 と して 非 軍 事 役 務 へ の 配 置 転 換 や 、 除 隊 す る こ と が で きる制 度 をそ な え る軍 隊 もあ る。 この よ うな制 度 は、 そ の 軍 人 ・兵士 の 良心 ・信 条 を尊 重 す る とい う 自 由権 を保 障 す る もの で あ っ て、 個 々の 戦 争 や 命 令 を拒 否 す る こ とは認 め られ て い ない 。 そ の た め、 特 定 の命 令 へ の 不服 従 は違 法行 為 と な り罰 せ さ られ る。 注 目すべ き こ と に、個 々の 兵 士 に命 令 へ の 批 判 的服 従 を義 務 づ け てい る軍 隊 が あ る。 ドイ ツ連邦 軍 で は、 無 批 判 に命 令 に従 った兵 士 に よっ て大 規模 な 残 虐 行 為 が行 わ れ た ナチ ス ドイ ツ期 の 反 省 か ら、 兵 士 に 「制 服 を着 た市 民 」
(5)Ulrich Broeckling, Sand in the wheels? Conscientious objection at the turn of the twenty-first century, in: Ozgur Heval Cinar and Coskun Usterici, Conscientious
230 京女 法 学 第1号 で あ る こ と を 求 め て い る(6)。兵 士 は 、 自 分 に 下 さ れ た 命 令 に つ い て 、 そ れ を 遂 行 した 結 果 ま で を考 慮 し、 違 法 性 は な い か 、 人 道 に 反 す る も の で は な い か を 確 認 し な け れ ば な ら な い と さ れ て い る 。 し か し な が ら、 こ の よ う な 制 度 を 有 す る 連 邦 軍 で あ っ て も、 実 際 に 、 命 令 に 疑 問 を 呈 す る こ と は 、 業 務 を妨 害 す る 行 い で あ る と し て 罰 金 な どの 処 罰 の 対 象 と な り得 る(7>。 2)「 凡 庸 な 悪 」 に 抗 す る 市 民 的 不 服 従 市 民 的 不 服 従 と は 、 自 ら の 行 為 の 正 当 性 を 確 信 し、 非 合 法 行 為 で あ る こ と を 自 覚 しつ つ 法 律 ・命 令 に 背 く行 為 で あ る(8)。国 家 の 法 律 ・命 令 に よ っ て 何 か を な す こ と を 求 め ら れ た と き、 そ れ が 自 己 の 良 心 と 背 反 す る 場 合 、 個 人 は ど の よ う に 行 為 す べ き か 、 と い う 問 題 と し て 、 ギ リ シ ャ ・mマ お よ び ユ ダ ヤ 教 や キ リ ス ト教 の 伝 統 の 中 で 繰 り返 し議 論 さ れ て き た(9)。キ ケ ロ は 、 「善 き 市 民 」 で は な く永 遠 か つ 普 遍 的 な 正 義 に 従 っ て 生 き る 「善 き 人 間 」 の 方 に 重 き を置 い て い る 。 彼 に よ れ ば 、 人 間 は 必 ず し も正 義 と の 接 点 が 曖 昧 な 国 家 の 法 律 に 従 う義 務 を も た な い(1①。 カ ン トは 、 法 適 合 性 と善/正 義 と い う二 つ の 概 念 を 峻 別 し 、 法 に 従 う こ と と 善 き行 い と の 間 に 明 確 な 線 引 き を行 っ た 。 カ ン トは 法 に 適 合 した 行 為 を行 (6)市 川 ひ ろ み 「抗 命 す る 義 務 一 批 判 的 服 従 を 実 践 した ドイ ツ 連 邦 軍 少 佐 」 『わ だ つ み の こ え 一 日 本 戦 没 学 生 記 念 会 機 関 誌 一 』131号 、2009年 、5-12頁 。Lothar Liebsch,
Frieden ist der Ernstfall: Die Soldaten des "DARMSTAEDTER SIGNALS" im Widerspruch
zwischen Bundeswehr und Friedensbewegung, Jenior Verlag, Kassel, 2003'00
(7) Jürgen Rose, Massenflucht ans dem soldatischen Gehorsam? in Freitag, 13. April 2007, Florian D. Pfaff, Totschlag im Amt: Wie der friede vernaten wurde, HWK Verlag,
2008. (8)市 民 的不 服 従 に つ い て は 、H.D.ソ ロ ー 『市 民 の 反 抗 』 飯 田 実 訳 、岩 波 書 店 、1997年 、 L.マ ク フ ァ ー レ ン 『政 治 的 不 服 従 論 一 抵 抗 権 の 諸 問 題 』 斉 藤 寿 、 西 修 、 岩 下 栄 一 訳 早 稲 田 大 学 出 版 部1977年 、 寺 島 俊 穂 『市 民 的 不 服 従 』 風 行 社 、2004年 、 平 野 仁 彦 「『市 民 的 不 服 従 』 研 究 序 説 」(1)∼(3)『 法 学 論 叢 』1982年6月111巻3号 、1982年11月ll2 巻2号 、1983年1月112巻4号 、J・ハ ー バ マ ス 「核 時 代 の 市 民 的 不 服 従 」 三 島 憲 一 訳 『世 界 』(464)、1984.7.126-135頁 他 。 (9)ラ ン ドル 、 前 掲 書 、40頁 。 (io)押村 高 『国 際 正 義 の 論 理 』 講 談 社 、2008年 、32頁 。
対 テ ロ戦 争 にお け る兵 士 の市民 的不服 従(市 川) 231 う こ と と そ れ が 善/正 義 と は 適 合 し な い とい う状 態 に 悩 ま な い こ と を 悪 と し て 理 解 し て い た 。 「適 法 性 に 向 か お う と す る 人 間 の 意 志 そ の も の の う ち に 、 悪 の 根 源 が 隠 さ れ て い る 」 と考 え た の で あ る 。 す な わ ち 、 既 存 の 法 的 な枠 組 み を 満 た す こ と に よ っ て 、 そ こ で 行 っ た 決 断 ・行 為 を 正 当 化 し、 そ こ に倫 理 的 な 観 点 か ら 問 題 視 さ れ る べ き矛 盾 や ジ レ ン マ を 忘 れ 去 っ て し ま う と こ ろ に 悪 の 存 在 を 見 た の だ っ た(11)。そ れ は 、 ア ー レ ン トが 「凡 庸 な 悪 」 と し て 指 摘 し た ア イ ヒ マ ン に 代 表 さ れ る 思 考 の 欠 如 に 通 底 す る(iz)。こ の 思 考 の 欠 如 を 否 定 し、 自 らの 判 断 に 基 づ い て 行 動 す る の が 、 市 民 的 不 服 従 で あ る 。
ヘ ン リ ー ・デ ィ ヴ ィ ッ ト ・ソ ロ ーHenry David Thoreau(1817年 一1862年) に よ れ ば 、 市 民 的 不 服 従 は ∼ 現 行 の 「不 正 」 に 抗 議 し、 そ れ を告 発 、 是 正 し よ う と す る 行 為 で あ る 点 に お い て 、 「正 義 」 実 現 へ の 一 つ の 試 み で あ り、 一 種 の 顕 著 な 政 治 参 加 行 為 で あ る(13}。ジ ョ ン ・ロ ー ル ズJohn Rawls(1921年 一 2002年)は 、 市 民 的 不 服 従 を 、 「通 常 、 法 や 政 府 の 政 策 を 変 え さ せ る こ と を ね ら っ て な さ れ る 行 為 で あ っ て 、 法 に 反 す る 、 公 共 的 、 非 暴 力 的 、 良 心 的 、 か つ 政 治 的 な 行 為 」 と 定 義 し て い る(14)。そ の 際 に 、 自然 権 ・憲 法 ・国 際 法 と い う 、実 定 法 や 政 府 の 命 令 を超 え る 原 理 に 、そ の 正 当 性 の 根 拠 が 求 め ら れ る 。 こ れ ら の 上 位 の 規 範 に 則 っ て 、 特 定 の 法 や 政 策 の 違 憲 性 ・不 正 を 明 ら か に す る 。 し か し、 そ の よ う な 市 民 的 不 服 従 の 行 い は 、 実 定 法 上 の 違 法 行 為 と な ら ざ る を得 な い ⑮。 ロ ー ル ズ は 、個 々 の 法 律 が 憲 法 に 合 致 し て い る か の 判 断 は 、 一 般 市 民 に 留 保 さ れ て お り、 「訴 え の最 終 審 は、 裁 判 所 で も、 行 政 部 で も、 ま た 立 法 部 で も な く、 選 挙 民 全 体 な の で あ る 」 と して い る 。 正 義 に か な っ た (11)清 水 耕 介 「現 代 に お け る グ ロ ー バ ル な 善 ・悪 の 概 念 に つ い て 一 カ ン ト ・ア レ ン ト ・デ リ ダ の 正 義 」 『平 和 研 究 』 第36号 、2011年 、50-51頁 。 (12)ハ ン ナ ・ア ー レ ン ト 『イ ェ ル サ レ ム の ア イ ヒ マ ン ー 悪 の 陳 腐 さ に つ い て の 報 告 』 大 久 保 和 郎 訳 、 み す ず 書 房 、1994年 。 (13)ソ ロ ー 、 前 掲 書 、26-27頁 。 (14)ジ ョ ン ・ ロ ー ル ズ 『正 義 論 』 矢 島 釣 次 監 訳 、 紀 伊 国 屋 書 店1979年 、282頁 。
(15)David Spitz, Democracy and the Problem of Civil Disobedience, American Political Science Review, Jun.1954,393p.
232 京 女法 学 第1号 政 治構 造 は一 般 市 民 の 正 義 感覚 に よっ て不 断 にチ ェ ック され ね ば な らない と 考 え るか らで あ る。 彼 は、 市民 的不 服 従 を立 憲体 制 を安 定 化 させ る一 つ の 方 策 と して位 置 づ け てい る⑯。 ギ リシ ャ悲 劇 『ア ン テ ィ ゴネ ー』 が 提 起 す る よ うに 、人 の尊 厳 と法 の 要 請 との不 一 致 は、 法 の 正 当 性 ・正 義 につ い て の疑 問 を生 起 す る。 す な わ ち、 市 民 的不 服 従 は、 法 と個 人 の 良心 との緊 張 で は な く、法 と政 治 、 規 範 的構 造 と 政 治 的 な公 的 空 間 の 緊 張 に よ って 定 義 づ け られ る(1の。 人 の尊 厳 に 反 す る法 に は、 正 当性 は な く、 正 義 で もな い とい う市 民 的不 服 従 の主 張 は、 た とえ個 人 の特 定 の 関心 事 に よ って 始 め られ た と して も、 原則 的 に全 て の人 に 関 わ る も の で あ る。 3)軍 人 ・兵 士 に よ る市 民 的 不 服従 軍隊 は、 厳 格 な命 令 服 従 関係 に よっ て秩 序 づ け られ て い る。 命 令 に は考 え ず に直 ち に従 う こ とが 求 め られ 、新 兵 訓 練 で は 、 一個 の人 格 を もっ た存 在 と して の人 間性 を徹 底 的 に否 定 され る(18)。上 官 に対 して 質 商す る こ とはお ろか 、 話 しか け る こ とす ら反 抗 的 とみ な され 、 厳 しい 処 罰 の対 象 とな る。 た と え、 そ れが 正 当 な指摘 で あ った と して も、 問 題提 起 を した兵 士 は、 減 給 な どの ペ ナ ル テ ィが 科 せ られ る こ と を覚 悟 しな けれ ば な らな い 。命 令 へ の不 服 従 は 到 底 許容 され ない 。 個 々の 兵 士 が 進 ん で命 令 に服 従 す る こ とは 、不 服 従 の結 果 に対 す る恐 れ か らか も しれ ない が 、 集 団 的 な忠 誠 心 は、 政 府 の権 威 お よび正 統 性 へ の承 認 に 依 拠 して い る(19)。政 策 の 正 当性 が 揺 ら ぐ時 、 軍 は兵 士 を命 令 に従 わ せ る こ と (16)ロ ー ル ズ 、 前 掲 書 、296-302頁 。
(17)Nilguen Toker Kilinc, The morals and politics of conscientious objection, civil disobedience and anti-militarism, Cinar and Usterici, op. cit., p.63‐67.
(is)ダ グ ラ ス ・ ラ ミ ス 『憲 法 と 戦 争 』 晶 文 社 、2000年 、40頁 、 ア レ ン ・ ネ ル ソ ン 『ネ ル ソ ン さ ん あ な た は 人 を 殺 し ま し た か 』 講 談 社 、2003年 他 参 照 。
対 テ ロ戦争 にお け る兵 士 の市民 的不 服 従(市 川) 233 が 困 難 に な る 。 ベ ト ナ ム 反 戦 運 動 が 盛 ん だ っ た1970∼71年 で は 、 徴 集 さ れ た 4人 に1人 が 何 ら か の 抵 抗 活 動 ・不 服 従 に 関 わ っ て い た 。兵 士 に よ る サ ボ タ ー ジ ュ 、 反 戦 ビ ラ の 配 布 、 反 戦 カ フ ェ の 開 設 に 留 ま ら な い 。 戦 闘 中 に 故 意 に 的 を 外 し て 銃 撃 し た り、 発 砲 し な か っ た り 、 敵 と 遭 遇 し な い よ う に し た り 、 最 も 極 端 な 場 合 に は 上 官 を 殺 害 す る こ と も 稀 で は な か っ た ⑫①。 権 力 行 使 を 担 っ て い る 警 察 、 軍 隊 、 官 僚 機 構 に よ る 非 協 力 、 不 服 従 の 及 ぼ す 影 響 は 直 接 的 で あ る 。1979年 イ ラ ン で は 、 軍 の 司 令 官 が 兵 舎 に 戻 る よ う に 部 隊 に 命 令 し 、 民 衆 制 圧 の 次 の 段 階 に 加 わ る の を 拒 否 し た と き 、 シ ャ ー は 国 外 逃 亡 を 余 儀 な く さ れ た 。 マ ル コ ス が フ ィ リ ピ ン か ら 逃 れ た の は 、 軍 部 が マ ニ ラ の 通 り で 数 万 人 の デ モ 参 加 者 に 発 砲 す る の を 拒 否 し た と き で あ る ㈱。 2011年 「ア ラ ブ の 春 」 に お い て も 、 民 主 化 を 求 め る デ モ 隊 の 鎮 圧 、 発 砲 の 命 令 に 従 わ な か っ た 兵 士 ・警 官 が い た こ と が 報 道 さ れ て い る 。 東 ド イ ツ で は 、 全 く の 少 数 者 だ っ た 兵 役 拒 否 者 ら が 政 策 の 正 当 性 を 問 う 運 動 を1960年 代 か ら 続 け 、1989年 の 民 主 化 ・体 制 変 換 に つ な が る 市 民 運 動 の 底 流 と な っ た(22)。ス ペ イ ン で は 、40年 近 く に 及 ぶ フ ラ ン コ 政 権 の 後 の 民 主 化 、 非 軍 事 化 の 過 程 に お い て 、 兵 役 拒 否 運 動 が 大 き な 影 響 力 を も っ た(23)。 エ レ・ン ・ワ タ ダEhlen Watada米 軍 中 尉 は 、 イ ラ ク 戦 争 へ の 派 遣 を 公 け に 拒 否 し た 唯 一 の 将 校 で あ る 図。 彼 は 、 大 学 卒 業 後 の2003年 、 陸 軍 に 入 隊 し た 。 2005年 に イ ラ ク へ 派 遣 さ れ る こ と を 知 ら さ れ 、 将 校 と し て 部 下 に 対 す る 責 任 (20)David Cortright, Soldiers in Revolt:GI Resistance During the Uietnarn War, Haymarket
Books,2005, pp.270.兵 士 に よ る 抵 抗 運 動 に つ い て は 、 David Cortright and Max Watts, Left Face:Soldier Unions and Resistance Movements in Modern Armies, Greenwood Press,19910
⑳ ラ ン ドル、 前 掲 書 、126-127頁 。 (22)市川 、 前 掲 書 、105-169頁 。 (23)Cinar and Usterici, op. cit., p.8
(24)ワタ ダ 中尉 支 援 の ホ ー ム ペ ー ジ http://www.whittierpeace.org/watada.htm(2011年
9月20日)、 「陸 軍 中 尉 イ ラ ク 派 遣 信 念 で 拒 否 」 『中 国 新 聞 』2007年1月14日 。 ワ タ ダ を 含 む 、 イ ラ ク 戦 争 へ の 反 対 を 公 言 した 米 軍 兵 士 ・脱 走 兵 の 証 言 は、 ア ン ・ラ イ ト、ス ー ザ ン ・デ ィ ク ソ ン 『異 議 あ り1良 心 の 声 一 戦 争 に 黙 っ て い て は い け な い 』 コ ー ドピ ン ク 大 阪 、2009年 。
234 京女 法学 第1号 を ま っ と う で き る よ う に イ ラ ク戦 争 に つ い て 調 べ た 。 そ して 、 イ ラ ク 戦 争 が 国 際 法(25)のみ な らず 米 国 憲 法 に も違 反 す る 不 道 徳 な 戦 争 で あ る と確 信 す る よ う に な り、 こ の よ う な 戦 争 へ の 参 加 は 自 分 の 良 心 が 許 さ な い と し て 、2006年 1月 辞 職 を 願 い 出 た 。 し か し 、 軍 は こ れ を 受 理 し な か っ た た め 、 彼 は 、 イ ラ ク 戦 争 が 国 内 法 的 に も 人 道 的 に も過 ち で あ り、そ の よ う な 不 正 を 行 う こ と を 、 自 らの 「名 誉 と誠 実 を 重 ん じ る将 校 と して 」 拒 否 す る と の 声 明 を6月7日 に 発 表 し た 。 そ れ は 、 彼 に と っ て は 、 将 校 へ の 就 任 宣 言 「米 国 の 法 と人 々 を 守 る 」 を 履 行 す る こ と だ っ た ②⑤。 ワ タ ダ 中尉 は 、 ア フ ガ ニ ス タ ンへ の 派 遣 命 令 で あ れ ば 、 拒 否 は し な か っ た と語 っ て い る 。 戦 場 に 派 遣 さ れ る こ と へ の 準 備 は で き て い る が 、 「不 法 な 戦 争 に 行 く よ り、 刑 務 所 に 行 く こ と を 選 ぶ 」㈲ と発 言 し て お り、8月 に 行 っ た ス ピ ー チ で は マ ー テ ィ ン ・ル ー サ ー ・キ ン グ の 言 葉 を 引 用 す る な ど、 自 ら の 行 い を 市 民 的 不 服 従 の 理 念 に よ っ て 説 明 し て い る 。 彼 に 対 し て は 、 強 い 批 判 も あ る 一 方 で 、 市 民 的 不 服 従 行 為 と し て 評 価 も さ れ て い る 。2007年2月 の 軍 (25)国際 法 上 合 法 と され る武 力 行 使 は 、 自衛 お よ び 国 連 決 議 に 基 づ く場 合 の み で あ る。 イ ラ クへ の 侵 攻 は 、 国 連 決 議 な し に行 わ れ た 。 当 初 、 サ ダ ム ・フ セ イ ンが 使 用 す る お そ れ の あ る大 量 破 壊 兵 器 の 存 在 が 、「自衛 」 の 論 理 と し て 開 戦 の 理 由 に あ げ ら れ て い た が 、 国 際 法 で 認 め ら れ る 自衛 に は、 先 制 攻 撃 は 含 ま れ な い 。 ま た 、 大 量 破 壊 兵 器 そ の もの も見 つ か ら な か っ た 。 (26)現在 の 米 軍 は 志 願 制 で あ り、 全 て の 軍 人 は 、 自 ら の 意 思 に よ っ て 軍 と契 約 を か わ し て 入 隊 して い る。 米 軍 は 、 兵 員 を 対 象 とす る 良 心 的 兵 役 拒 否conscientious objectionを 制 度 化 し て い る 。 武 力 行 使 一 般 に つ い て の 個 人 の 信 条 ・信 仰 が 審 査 に よ っ て 認 め ら れ れ ば 、 良 心 的 兵 役 拒 否 者 と して 、 非 戦 闘任 務 へ の 配 属 、 あ る い は 除 隊 が 承 認 さ れ る。 し か し な が ら、 特 定 の 戦 争 や 作 戦 を 理 由 とす る 任 務 拒 否 は 許 さ れ な い 。 声 明 文 を 本 人 が 読 み 上 げ て い る ビ デ オ お よ び 記 者 会 見 の 様 子 は イ ン タ ー ネ ッ ト上 に 公 開 さ れ て い る。 http://www.thankyoult.org/component/option,com_weblinks/catid,7/ltemid,38/ (2007年3月3日)
⑫のJeremy Brecher&Brendan Smith, Will the Watada Mistrial Spark an End to the War?, The Nation, February 9,2007, http://www.thenation.com/doc/20070226/
対 テロ戦 争 にお ける兵士 の市 民 的不服 従(市 川) 235 法 会 議 の 期 間 に は 全 米 や 外 国 か ら1千 人 を 超 え る 支 援 者 が 集 ま っ た 圏。 市 民 的 不 服 従 の 行 為 は 、 責 任 あ る 一 員 と し て 政 治 に 参 加 す る 行 為 で あ り、 そ の 行 為 者 自 身 の エ ンパ ワ ー メ ン トに も つ な が る 可 能 性 が あ る鋤。 イ ラ ク で の 戦 場 を 経 験 し た 海 兵 隊 員 ら に よ っ て2004年 、 反 戦 イ ラ ク帰 還 兵 の 会(lraq Veterans against the War:IVAW)が 設 立 さ れ た 。 彼 らへ の 支 持 は 広 が り、 2009年 に は 国 内 の み な らず カ ナ ダ や イ ラ ク を含 む 米 軍 基 地 の あ る 各 地 に62の 支 部 を 有 し て い るG①。 あ るIVAWの 会 員 は 、 海 兵 隊 に お け る す べ て の 軍 務 よ り、IVAWで の 仕 事 に 誇 り を 感 じ る と語 つ て い る 。 会 員 と し て 活 動 す る こ と は 、 彼 ら 自 身 に と っ て 「癒 し と 、 自 分 自 身 が す で に 失 っ た と 思 っ て い た 自 身 の 再 生 を 意 味 す る と と も に 、 他 の 人 た ち を 苦 し め た 自 分 の 役 回 りを 償 う こ と や 、 相 互 に 支 援 し合 い 、 母 国 の た め に 立 ち 上 が りつ づ け る こ と も意 味 し て い る 圃」 と い う 。 4)グ ロ ー バ ル な 市 民 と し て の 兵 士 20世 紀 の 戦 争 は 、 ナ シ ョナ リ ズ ム を 強 め た 一 方 で 、 グ ロ ー バ ル な 意 識 も創 出 し た 。 カ ル ドー は 、 グ ロ ー バ ル と い う言 葉 を 、 「世 界 的 規 模 で の 人 間 社 会 の 共 通 意 識 の 発 展 」 と 理 解 す る こ と を 提 案 し て い る 。 グ ロ ー バ ル 政 治 で は 、 個 人 が 参 加 す る 可 能 性 が ま す ま す 高 ま る 。1960年 代 の 新 しい 社 会 運 動 は 、 精
(2s)Jeff Paterson, Lt.Watada Mistrial Clear Victory, http://wwwユewrockwelLcom/orig8/ patersonLhtml(2011年9月27日)、 オ バ マ 政 権 発 足 後 の2009年5月 に な っ て 、 司 法 省 の 要 請 に よ っ て 連 邦 判 事 は 、 二 度 目の 軍 法 会 議 が 憲 法 違 反 で あ る と した 連 邦 裁 判 所 の 判 決 に 対 す る 上 訴 を 断 念 した 。 ワ タ ダ は2009年10月2日 に 除 隊 し た 。 (29)イラ ク の 前 線 で の 任 務 に7ヶ 月 間 従 事 し 、 休 暇 で 帰 国 した 際 に カ ナ ダ に 逃 れ た 米 軍 脱 走 兵 ダ レル ・ア ン ダ ー ソ ンDarrell Andersonは 、 反 戦 活 動 に積 極 的 に 参 加 す る 中 で 自 信 をつ け 、 め ざ ま し い 成 長 を遂 げ た ひ と り。 市 川 、 前 掲 書 、32-34頁 。 (30)反戦 イ ラ ク 帰 還 兵 の 会 の ホ ー ム ペ ー ジ は 、http://ivaw.org(2011年10月20日)。 (31)ケリ ー ・ドー ア テ イ、 イ ラ ク帰 還 兵 で 反 戦 イ ラ ク 帰 還 兵 の 会 創 設 者 の 一 人 。 『冬 の 兵 士 』 前 掲 書 、8頁 。 市 川 ひ ろ み 「イ ラ ク 帰 還 兵 た ち の 反 戦 」 『週 刊 金 曜 日』614号 、2006年 、 26-27頁 他 。
236 京女 法学 第1号 神 の 自律 性 や 個 人 の 責 任 に 関 心 を 向 け た(32)。個 人 に 注 目 す る こ と は 、 人 権 、 政 治 参 加 、 そ し て 批 判 的 な 考 察 に 結 び つ い て い た 。 近 年 、 国 民 に 還 元 さ れ な い 市 民 の あ り方 が 問 わ れ る よ う に な り、 シ テ ィ ズ ン シ ッ プ に つ い て の 関 心 が 高 ま っ て い る 。 近 代 に お い て 、 シ テ ィ ズ ン シ ッ プ は 、 国 民/国 家 構 成 員 と 同 等 の 意 味 で 用 い られ て き た 。 し か し 、 市 民 が 都 市 や 国 家 に 包 摂 さ れ て い た 時 代 は 終 わ りつ つ あ り、 国 境 を こ え て 市 民 社 会 が 形 成 さ れ て い る 事 実 を 重 視 す れ ば 、 シ テ ィ ズ ン シ ッ プ は 、 社 会 や 世 界 と の 関 連 で 定 義 す べ き言 葉 に な っ て い る 。 政 治 に 参 加 す る こ と 自体 に 価 値 を 置 く ア ー レ ン トの 思 想 か ら シ テ ィ ズ ン シ ッ プ を理 解 す る と 、 公 的 自 由 、 公 的 幸 福 を 重 視 す る活 動 的 市 民 性 とい う 意 味 に な る(33)。 寺 島 俊 穂 は 、 現 代 に お け る 、 国 民 に 還 元 さ れ な い 市 民 の 規 範 的 な 資 質 と し て 、1)他 者 感 覚 、2)開 か れ た 態 度 、3)正 義 感 覚 、4)対 等 な 関 係 性 、5) 非 暴 力 の 態 度 と規 範 の5つ を 挙 げ て い る 。1)他 者 感 覚 と は 、 他 者 の 立 場 に 立 っ て 考 え て み る 能 力 を 身 に つ け て い く と い う こ と。2)開 か れ た 態 度 は 、 基 本 的 に は 他 者 の 批 判 に 対 し て 開 か れ て い る こ と を 意 味 す る 。 見 知 ら ぬ 者 を 受 け 入 れ る 、 分 け 隔 て の な さ で もあ る 。3)正 義 感 覚 は 、 正 し い と思 う こ と を な そ う とす る 意 志 で あ り、 信 念 で あ る 。 自 分 が 正 し い と確 信 し た こ と は 、 た と え周 りの 人 々 が み な 反 対 で も主 張 す る と い う こ と で あ り、 逆 に 、 間 違 っ て い る と判 断 し た こ と は 、 た と え 一 人 で も 「否 」 と言 う こ と で あ る 。 独 断 に 陥 っ て は な ら な い の で 、他 者 の 批 判 に は つ ね に 開 か れ て い な け れ ば な ら な い 。 4)対 等 な 関 係 性 は 、 人 と人 との 関 係 が 命 令=服 従 の 関 係 で は な く、 平 等 な 立 場 に あ る と い う こ とで あ る 。 誰 も が 、 自 ら を 命 令 す る 立 場 に 置 か れ な い と い う こ と で あ り、 意 見 交 換 の 上 で 同 意 に基 づ い て 活 動 す る こ と が 求 め ら れ て い る 。5)非 暴 力 と は 、 身 体 的 に も 精 神 的 に も他 人 を 意 図 的 に 傷 つ け な い こ (32)メア リー ・カ ル ドー 『グ ローバ ル市民社 会 論一 戦争 へ の ひ とつ の回 答』 山本 武 彦 ・宮 脇 昇 ・木村 真 紀 ・大西 崇介 訳、 法政 大学 出版 局、2007年 、160-162頁 。 (33)寺島俊 穂 「市 民 活 動 と シテ ィ ズ ンシ ップ」 『関 西 大 学 法 学 論 集 』58(6)、2009年 、 1020頁 。
対 テ ロ戦 争 にお ける兵 士 の市民 的不服 従(市 川) 237 と を 意 味 す る(34)。 こ の グ ロ ー バ ル な シ テ ィ ズ ン シ ッ プ の 資 質 は 、 市 民 的 不 服 従 と し て の 命 令 拒 否 者 の 行 い と 合 致 す る 。 本 稿 冒 頭 に 紹 介 し た ジ ョ シ ュ ア ・キ ーJoshua Keyは 、 イ ラ ク に 派 遣 さ れ る 前 は 、 イ ラ ク 人 は 全 員 テ ロ リ ス トだ と信 じ て お り、子 ど も で あ っ て も信 用 し な い とい う偏 狭 な 考 え の 持 ち 主 だ っ た 。彼 に と っ て は 、フ セ イ ン を 一 方 的 に 排 除 す る こ と は 疑 い よ う の な い 正 義 だ つ た 。 彼 は 、 軍 隊 で の 命 令 服 従 関 係 の 中 で 、そ れ に 適 応 す る こ と に 喜 び を 感 じて い た の で 、 新 兵 訓 練 所 で の で き の 悪 い 仲 間 や 「生 意 気 な 」 兵 士 へ の リ ン チ に も進 ん で 加 わ っ て い た 。 日常 的 な 暴 力 の 中 で 育 ち 、8歳 で す で に 銃 を 発 砲 し て い た 彼 は 、 そ れ を 当 た り前 の も の と し て 受 け 入 れ て い た 。 そ の 彼 が 、 生 活 の た め に 入 隊 し、 イ ラ ク で の 経 験 か ら脱 走 を 決 意 し た 。 彼 は 、 イ ラ ク の 家 宅 捜 索 で 耐 え が た い 経 験 を し た 。 深 夜 、 民 家 の 寝 室 に 押 し入 っ て 子 ど も た ち を 一 カ 所 に 引 っ 立 て な け れ ば な ら な か っ た こ と だ 。 「も し、 ぼ く の 息 子 た ち の 寝 室 に外 国 の 兵 士 が 乱 入 し て ベ ッ ドか ら は ぎ取 る よ う に し た ら、 息 子 た ち は ど う感 じ る だ ろ う と 考 え ず に は い ら れ な か っ た(35)」と、 他 者 の 立 場 に た っ て 考 え る よ う に な っ た(1)。 彼 は ま た 、 現 地 の 人 々 と言 葉 を 交 わ す よ う に な り、 彼 ら は 「テ ロ リ ス ト」 で は な く、 自 分 と 同 じ く普 通 の 生 活 を 望 ん で い る 人 間 だ と気 づ い た(2、4)。 そ し て 、 自分 が 正 し い と 確 信 し た こ と一 犯 罪 者 と な っ て も 、 こ れ 以 上 無 実 の イ ラ ク 人 を傷 つ け な い 一 を 実 行 し た(3、5)。 「ぼ く は ア メ リ カ 軍 か ら脱 走 した こ と につ い て 、 絶 対 に 謝 罪 し よ う と は 思 わ な い 。 ぼ く は 不 正 義 か ら脱 走 し た の で あ り、 そ れ は 進 む べ き正 しい 道 だ っ た 。 謝 罪 す べ き こ とが あ る とす れ ば 、 た だ ひ とつ 、 そ れ は イ ラ ク の 人 び と に 対 す る 謝 罪 しか な い ㈹」 と い う 言 葉 か ら、 国 家 の 命 令 に 服 従 す る だ け の 存 在 か ら、 グ ロ ー バ ル な 自覚 を 深 め た 様 子 が 読 み 取 れ る 。 (34)寺 島 、 前 掲 論 文 、1025-1026頁 。 (35)キ ー 、 前 掲 書 、90頁 。 (36)キ ー 、 前 掲 書 、248-249頁 。
238 京 女法 学 第1号 軍 務 か ら逃 げ る 代 償 は 小 さ く な い 。 彼 は 、 故 郷 に 帰 る こ と は で きず 、 母 親 や 弟 と も離 れ ば な れ に な っ た 。 キ ー の 行 動 を 裏 切 りだ と思 っ て い る ほ と ん ど の 親 戚 と は 、 絶 縁 状 態 に な っ た 。 外 国 で あ る カ ナ ダ で の 不 安 定 な 生 活 を 強 い ら れ て い る 。 5)戦 争犯 罪 の責 任 を負 う兵 士 参 政権 を もつ 以 上 は、 政 府 の な した決 定 に は従 わ ね ば な らな い とい う議 論 は、逆 に言 え ば、 政 治 過 程 か ら排 除 され て い る と き には、 服 従 の義 務 は な い とい う こ と に な る㈱。 米 軍 で は 、 ア メ リカ 国籍 の取 得 を 目的 と して 入 隊 して い る移 民 も多 く、 参 政 権 を もた な い場 合 も少 な くな い。 と こ ろが 、 兵 士 は、 戦場 で の行 動 につ いて 国 際 法 上 の 責任 が 問 われ る。 そ の戦 争 に つ い て の政 策 決 定 に は兵 士 はか か わ って い ない が 、執 行 の場 面 で 関 わ る こ とに な る。 彼 ら は、命 令 に従 わ な い こ とに よ って 政 治参 加 す る とい う側 面 が あ る。 国 家 間 の戦 争 で は、 兵 士 は人 格 あ る一 人 の人 間 として で は な く、命 令 を遂 行 す る こ とが 求 め られ る だ け の存 在 だ った。 敵 味 方 の 兵 士 は 、 お 互 い に相 手 個 人 に殺 す 理 由 が あ るわ けで は な い。 「偶 然 」 に敵 とな っ た 国 民 同士 が 戦 場 で 戦 った の だ っ た。 敵 の兵 士 は一 人 の 人格 と して はみ な され ず 、個 人 の行 為 の 責任 を認定 す る こ とな く攻 撃 ・殺 害 され る。 同時 に戦 争 は国 家対 国家 の 関 係 で あ り、戦 争 の主 体 は 国家 で あ って 、 そ れ に参 加 して い る個 人 は 、 人格 と して の責任 を負 わず 、戦 争 へ の参 加 を理 由 として処 罰 され る こ とは なか っ た(38)。 第 一 次 大戦 後 に締 結 さ れ た 国際 人 道 法 は 、民 間人 の殺 害 や 残 虐 行為 を禁 止 してい た が 、国家 主 権 に守 られ て戦 争 犯 罪行 為 は処 罰 され る こ とは なか った 。 大 規 模 な戦争 犯 罪 が行 わ れ た 第2次 大 戦 を経 て、 よ うや くニ ュ ル ンベ ル ク裁 判 ・東 京 裁判 に よっ て、 兵 士 も個 人 として責 任 の一 端 を担 う の だ とされ る よ ㈲ 寺 島 、 前 掲 書 、32頁 。 (38)西平 等 「『敵 』 と 『犯 罪 者 』 一 近 代 法 的 人 道 性 の 基 礎 に つ い て の 考 察 」 『平 和 研 究 』 第 36号 、2011年 、29頁 。
対 テ ロ戦争 にお ける兵士 の市 民 的不服 従(市 川) 239 う に な っ た 。 戦 争 人 道 法 は 、 兵 士 が 無 事 の 民 間 人 を殺 す こ と よ り も 、 個 人 的 な リ ス ク を 負 う こ と を 要 求 す る 。 敵 に 直 面 し た 時 に さ え 、 自 己 保 存 は 戦 争 人 道 法 を 侵 害 す る 抗 弁 に は な り得 な い 。 兵 士 は 、 自 らが 生 き残 る 可 能 性 を 高 め る た め に 、 無 皐 の 民 間 人 を 犠 牲 に す る こ と は 許 さ れ な い 。 た と え そ れ が 強 制 さ れ た もの だ っ た と し て も、 彼 ら が 従 事 し て い る行 為 か ら直 接 に そ の 義 務 が 生 じ る の だ と さ れ る(39)。兵 士 は 、 戦 争 に つ い て 意 思 決 定 を す る 立 場 に な く、 下 さ れ た 命 令 を ひ る が え す 権 限 も も た な い が 、 武 力 行 使 を 遂 行 す る 主 体 と し て 、 そ の 責 任 を 追 及 さ れ る 。 国 際 法 は 、 兵 士 に 違 法 な ・人 道 に 反 す る 命 令 に は従 わ な い 権 利 と義 務 を 与 え て い る(40)。国 連 難 民 ハ ン ドブ ッ ク に は 、 国 際 社 会 に よ っ て 広 く非 難 さ れ て い る 戦 争 へ の 従 軍 を拒 否 し た 兵 士 は 、 難 民 と して 認 定 さ れ る べ き で あ る と 明 確 に 謳 わ れ て い る(41)。敷 術 す れ ば 、 良 心 に 反 す る 行 為 を 強 制 さ れ な い と い う 個 人 の 自 由 権 の 保 障 と し て だ け で は な く、 兵 士 に は 、 不 正 行 為 を 防 ぐ責 務 が あ る と考 え られ て い る 。 旧 ユ ー ゴ ス ラ ビ ア 国 際 刑 事 裁 判 所(ICTY)初 期 の 判 例 で は 、 戦 争 犯 罪 の 場 合 は 、 一 般 犯 罪 よ り も、 よ り一 層 、 国 際 法 の 規 範 性 を 重 視 す べ きで あ る と 考 え られ て い る 。 戦 争 犯 罪 に 加 担 す る よ う な 命 令 に は 、 身 の 安 全 が 脅 か さ れ よ う と も従 わ な い こ と が 求 め ら れ て い る 。 一 兵 卒 で あ っ て も 、 軍 人 で あ る 以 (39)マ イ ケ ル ・ウ ォ ル ツ ァ ー 『正 し い 戦 争 と 不 正 な 戦 争 』 荻 原 能 久 監 訳 、 風 行 社 、2008年 、 551-553頁 。
(40)国 連 少 数 者 差 別 防 止 ・保 護Unite Na廿ons Sub℃ommission on Preven面n of Discrimina廿on and Protection of Minoritiesに よ る 、1987/77決 議 は 、軍 務 に つ い て い る 人 に つ い て も 、 そ の 役 務 期 間 中 に 兵 役 拒 否 の 決 心 を す る こ と は 、 思 想 ・良 心 ・信 仰 の 自 由 の 権 利 の 正 当 な 行 使 で あ る と 名 言 し て い る 。 市 川 、 前 掲 書 、97頁 他 。
(41)Handbook on Procedures and Criteria for Determining Refugee Status under the 1951 Convention and 1967 Protocol relating to the Status Refugees, HCR/IP/4/Eng/REV.1 Reedited, Geneva, January 1992, UNHCR 1979,28p.
http://www.unhcr.org/3d58e13b4.html(2011年11月1日)チ ェ チ ェ ン で の 任 務 を 拒 否 し た ロ シ ア 兵 が 、 英 国 で 難 民 と し て 承 認 さ れ た 例 が あ る 。
240 京女 法学 第1号 上 一 般 人 と は 異 な り、 死 ぬ こ と を 覚 悟 し て い る は ず で あ っ て 、 殺 害 さ れ る 現 実 の 可 能 性 に 直 面 し て い た と い う事 実 を 過 大 視 し て は な ら な い 。 ま し て や 、 高 い 階 級 の 軍 人 で あ れ ば 、 死 ぬ 覚 悟 は 一 兵 卒 よ り も っ と で き て い る は ず だ か ら、 免 責 の 抗 弁 は 成 り立 た な い 。 ジ ェ ノ サ イ ドの 罪 が 問 題 と な る 場 合 に は 、 脅 迫 な い し 強 制 に よ る 犯 行 と し て 免 責 さ れ る こ と は な く、 刑 の 軽 減 の 情 状 と して 考 慮 さ れ る に す ぎ な い(42)。 ボ ス ニ ァ 出 身 で セ ル ビ ア 人 と結 婚 して い た ク ロ ア チ ア 人 、 ド ラ ジ ェ ン ・エ ル デ モ ヴ ィ ッ チDrazen Erdemovi6は 、 ボ ス ニ ア で 「ス レ ブ レ ニ ツ ァ 虐 殺 」 が 起 こ っ た 時 、 セ ル ビ ア 共 和 国 軍 の 兵 士 だ っ た 。1995年 、 彼 は ム ス リ ム 人 を 銃 殺 す る よ う命 じ ら れ た 。 彼 は 、 他 の 兵 士 と と も に 、 ス レ ブ レニ ツ ァ か ら連 行 さ れ て き た17歳 か ら60歳 ま で の モ ス リ ム 人 男 子 を ブ ラ ニ ェ ボ 農 場 で 一 列 に 並 ば せ 、 背 後 か ら5時 間 に わ た っ て 銃 撃 し 、1200人 ほ ど を殺 害 した 。 エ ル デ モ ヴ ィ ッ チ 自 身 は70人 か ら100人 を 殺 害 し た 。 彼 は 、殺 害 を 命 じ られ た 際 、「自 分 は(銃 殺 に)参 加 し た く な い 。 上 官 、 あ な た は 正 常 で す か 」 と 抗 議 の 声 を あ げ た が 、 上 官 に 「嫌 な ら、 お 前 も銃 を こ ち ら に 渡 し て 、 向 こ う に 並 べ 」 と 言 わ れ た 。 当 時 は 、 命 令 に 従 わ な い 部 下 を 上 官 が 即 決 処 刑 し て よ い とい う 状 況 で 、 エ ル デ モ ヴ ィ ッ チ は 森 に 逃 げ る こ と も 考 え た が 、 逃 げ き れ ず 殺 さ れ る 可 能 性 もあ り、 仮 に逃 げ お お せ て も、 妻 子 の 身 に何 が 起 こ る か 分 か らず 、 ま た 、 他 の 兵 士 が 命 令 に 従 う こ と は 間 違 い な い の で 、 仕 方 な く命 令 に 従 っ た 。 エ ル デ モ ヴ ィ ッ チ は 、 「自 ら の 意 思 に 反 し て 殺 害 に 加 わ っ た の で 自 分 の 良 心 に 従 っ て 証 言 し た い 」 と 、1996年 にICTYに 出 頭 し た 。 「自 分 は 単 に 強 制 さ れ た 。 自 らの 命 と彼 ら の 命 と ど ち ら を と る か 選 択 で き る 立 場 に は い た 。 し か し、 自 らの 命 を捨 て た と こ ろ で 犠 牲 者 の 運 命 は 同 じ だ っ た 。 彼 ら の 運 命 は 自分 よ り も っ と 上 の 次 元 の 人 々 の 決 断 に よ つ て 決 ま っ て い た 。 あ の 事 件 は 私 (42)多谷 千 香 子 『戦 争 犯 罪 と法 』 岩 波 書 店 、2006年 、139-140頁 。
対 テロ戦争 にお ける兵士 の市 民 的不服 従(市 川) 241 の人 生 を完 全 に破 壊 した 」 と証 言 した(43)。彼 に は98年 に禁 固5年 の刑 が 言 い 渡 さ れ た。 一 人 の兵 士 が市 民 的不 服 従 を なす こ と は、大 変 に 困難 で あ る。 と りわ け戦 場 で は、 命 令 に疑 問 を呈 す る だけ で命 が け の行 為 とな る。 家族 の 身 の安 全 さ え危 う く しか ね な い状 況 に追 い 込 まれ た エ ル デ モ ヴ ィ ッチ は、不 正 で あ る と 認 識 しなが ら も命 令 に服 従 した 。兵 士 に この よ うな過 酷 な選択 を迫 る命 令 を 下 す 側 の 責 任 は重 い。 ア メ リカ は 国 際 刑 事 裁 判 所 条 約 に は加 盟 して お らず 、 米 国軍 兵 士 が 国 際法 廷 にお い て 裁 き を受 け る こ とは な い。
おわ りに
米 軍 で は、 反 戦 の 世 論 ・反 戦運 動 をお そ れ、 戦 闘で の 死傷 者 を減 らす ため 、 無 人 戦 闘 機 、 ロ ボ ッ ト兵器 の 導 入 を進 め て い る。 この よ う な 「戦 場 」 で は、 無 人 機 や ロ ボ ッ トを遠 隔 操作 す る兵 士 に とっ て、 殺 害 す る相 手 は モ ニ タ ー画 面 の 中 に しか存 在 しな い㈹。 キ ー の よ う に、 イ ラ ク人 は人 間 で あ る とい う現 実 を知 る機 会 もな く、良 心 の 呵責 を感 じに くい。 この よ う な「無 人 化 」「ロ ボ ッ ト化 」 は 「車 輪 の 中 の砂 つ ぶ 」 を減 らす こ とに な るか も知 れ な い。 戦 争 犯 罪 行 為 を 目撃 した 一 人 の兵 士 が そ れ を止 め させ よ う と した時 、 そ の 行 為 を行 っ て い る のが 自分 よ り上 の 階級 の兵 士 で あれ ば、 無力 だ。 自分 の直 属 の 上 官 に相 談 す る こ とは可 能 だ が、 そ の よ うな行 い は職務 を逸 脱 す る もの (43)ブラニ ェ ボ 農 場 で の 虐 殺 の 後 、 ピ リ ッ ァ文 化 セ ン タ ー で の 殺 害 に つ い て は 、 彼 は こ れ を拒 否 し、 免 除 され て い る。 長 有 紀 枝 『ス レ ブ レ ニ ッ ァー あ る ジ ェ ノ サ イ ドを め ぐ る 考 察 』 東 信 堂 、2009年 、165-166頁 。 (44)現在 、 米 軍 が 保 有 す る 無 人 機 は7000機i以 上 あ り、 空 軍 は 約160機 を ア フ ガ ニ ス タ ン と イ ラ ク に 配 備 し 、 衛 星 通 信 を 使 っ て1万 キ ロ以 上 離 れ た 米 国 本 土 の 基 地 か ら遠 隔 操 作 し て い る 。 兵 士 は 自 宅 で 家 族 と共 に 朝 を 迎 え 、基 地 に 出勤 。 モ ニ タ ー 画 面 に 映 る 「戦 場 」 で 戦 い 、 再 び 家 族 の 待 つ 家 に 帰 る 。 イ ラ ク 戦 争 当 時 、 米 本 土 か ら 無 人 機 を 操 縦 して い た 米 空 軍 の ジ ェ フ リ ー ・エ ガ ー ス 大 佐 は 、 「午 前 中 は ア フ ガ ン。1時 間 休 憩 し て 、 午 後 は イ ラ ク で 無 人 機 を飛 ば して い た 」 と 言 う 。 『毎 日新 聞 』2011年3月8日 。242 京女法 学 第1号 だ と して減 給 な どの 処 罰 を受 け る危 険 を伴 う。 「一 番簡 単 な の は 、 口 を 閉 じ、 や っか い な こ とに手 を 出 さ ない こ と㈲」に な り、違 法 な行 為 、不 正 が見 逃 さ れ、 助 長 され て しま う。 厳 格 な命 令服 従 関係 を要 求 す る組織 の宿a7で あ ろ う。 グ ローバ ル な市 民 意 識 を も った 兵 士 に よる市 民 的不服 従 が 、 こ と さ らに重 要 な 所 以 で あ る。 市 民 的不 服 従 は、 国家 の 上 位 に別 の 主権 を想 定 す る とい う点 で 、 国家 主 権 体 系 を内破 す る可 能 性 を有 して お り、 国 民 で あ る こ と を超 え る内在 的契 機 が 存 在 す る(46)。 脱 走 兵 は、 自 由意 志 で 交 わ した契 約 を破 棄 す る 「卑 怯 者 」、 自 らに課 せ ら れ た任 務 を放 棄 す る 「無 責任 な者 」、 戦 う こ とが恐 ろ し くて 逃 げ 出 した 「臆 病 者 」、 さ らに は 「裏 切 り者 」 で あ る とみ な されが ちで あ る。 これ に対 して、 米 軍 の 制 度 に則 っ て 良心 的 兵 役 拒 否 の 申請 を行 う兵 士 は、 ず っ と好 意 的 に受 け止 め られ る。 自 らは軍 隊 の 外 にあ って 生命 の危 険 に さ ら され る こ との な い 人 々が 、制 度 の保 障 が ない ため 大 きな リス ク を負 って 「不 正 か ら脱走 」 した 兵 士 に対 して、 ル ー ル違 反 だ と非 難 す る。 これ は、 既 存 の 法 に沿 う こ とで、 その 決 断 ・行 為 を正 当化 し、 そ れ以 上 は考 える こ とを しない 「凡 庸 な悪 」 を 支 え る精神 構 造 を示 して い る。 上 か らの命 令 に従 っ て行 動 す る の は、 軍 隊 内 だ け で な く、 現 代 社 会 にお け る大 き な組 織 に 内在 す る メ カ ニ ズ ム であ る。兵 士 に よ る市 民 的 不 服 従 は 、社 会 生 活 の他 の あ らゆ る分 野 にお い て、 不 正 な命 令 に は た とえ 「合 法 」 で あ っ て も従 わ な い とい う概 念 の拡 張 に寄 与 す る㈲。 ハ ワ ー ド ・ジ ンは 、現 代 社 会 にお け る市 民 の 政 治参 加 の重 要 な形 態 と して の非 協 力 を「ス パ ナ を投 げ込 む 」 と表 現 して い る。 だ れ か が 、 「ス パ ナ 」 を放 り込 ん で 機械 を止 め る こ とが で (45)キ ー 、 前 掲 書 、96-98頁 。 ㈹ 土 佐 弘 之 『ア ナ ー キ カ ル ・ガ ヴ ァ ナ ン ス ー 批 判 的 国 際 関 係 論 の 新 展 開 』 御 茶 の 水 書 房 、 2006年 、29-30頁 。
(47)Andreas Speck, Rudi Friedrich, Experiences of conscientious objection movements: South Africa, Greece and Paraguay, Cinar and Usterici, op. cit., p.122.
対 テ ロ戦 争 にお け る兵 士 の市民 的不 服従(市 川) 243 き る と 考 え る か ら で あ る 。 事 態 の 進 行 に 介 入 す る 力 は 不 均 衡 に 配 分 さ れ て お り、 持 ち合 わ せ る 手 段 に よ っ て 、 何 を 犠 牲 に し な く て は な ら な い か も変 わ っ て く る 。 強 力 な ス パ ナ と な る 権 限 を 手 に し て い る 人 間 は 少 数 で あ り、 残 りの 者 に は 、 自分 の 手 足 し か な い 圏。 兵 士 は 、 武 力 行 使 の 権 限 を 与 え ら れ て お り、 権 力 行 使 の 一 端 を担 う役 割 を 負 っ て い る 。 そ の 彼 ら は 、 比 較 的 強 力 な 「ス パ ナ 」 を 手 に して い る と言 え よ う 。 命 令 拒 否 は 、 「ス パ ナ を 投 げ 込 む 」 行 為 で あ り、 権 力 者 か らす る と 「車 輪 に 入 っ た 砂 つ ぶ 」と な る 。 「凡 庸 な 悪 」の 一 端 を 担 う こ と を拒 む 行 為 で あ る 。 (48)ハワ ー ド ・ジ ン 『爆 撃 』 岸 本 和 世 ・荒 井 雅 子 訳 、 岩 波 書 店 、2010年 、63頁 。