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野 生 動 物 に お け る 有 機 塩 素 系 化 合 物 曝 露 の 毒 性 影 響 評 価

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 坂 本 健 太 郎

学 位 論 文 題 名

野生動物における有機塩素系化合物曝露の毒性影響評価 学位論文内容の要旨

  有機塩素系化合物は環境中に放出されてしまうと、分解されにくい上、生物に蓄積し やすい特性を持っている。そのため、一旦汚染されてしまった地域が清浄化するには長 い時間が必要となる。この汚染に対処するために一番良い方法は早期発見しかなく、そ れには鋭敏なモニタリングが不可欠である。本研究では、典型的な有機塩素系化合物曝 露が なされた2種類の事例において野生動物での毒性影響評価を行った。一っは偶発的 な事故として発生しうる事例であり、汚染は局所的かつ高濃度になされた。もうーっは、

環境中に既に広域に低濃度に拡散してしまった汚染物質が、食物網の中で生物濃縮され、

結果として最上位捕食者に影響を及ぼすことになった。これらの事例の毒性評価を行い、

比較検討することで以下の結果と結論を得た。

@ 神奈 川県 藤沢市の 引地川 流域の調 査を行っ た結果 、TEQ換 算で評 価した場 合、

    ダイオキシン類蓄積量は、汚染流出があった地点となかった対照地点では2〜1     5倍程度異なっていた。異性体分析により、対照地点でも農薬であるペンタクロ     ロフェノールとクロロニトロフェン由来の汚染があり、汚染地域ではそれに加え     てゴミ焼却物由来の汚染が存在することが示唆された。

◎河川 に対するダイオキシン類流出が一定期間なされていた場合、この流出が無く     なり河川水中のダイオキシン濃度が正常値に戻りーケ月以上が経過した後でも、

    コイ等の魚類中からダイオキシン類の蓄積は消失しない事が明らかとなった。こ     れは、ダイオキシン類が蓄積されやすく代謝されにくい性質であるためと考えら     れた。

◎ダイ オキシ ン汚染群 では、 チトクロ ームP450の 誘導が認 められるとともに、血     漿エストロゲン量の減少が認められた。また、コイのメス個体では生殖腺重量の     減少が見られ、エストロゲン濃度低下に伴うビテロジェニン産生低下が関与して     いる事が考えられた。これらの結果は、ダイオキシン流出が生体に影響を及ばし     た事を示唆するものであった。

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(2)

@コイ のメス個 体では 、血漿エ ストロ ゲンがCYPIAの誘 導を抑制 した事を 示唆す     る結果が得られた。有機塩素系化合物の影響をモニタリングするバイオマーカー     としてCYPIAを 用いる事が知られているが、繁殖期など血中エス卜ロゲン濃度     が大きく増減するような時期にモニタリングを行う場合には血中エス卜ロゲン     濃度とともに評価する必要がある事が明らかとなった。

◎北海 道に生息 するオ ジロワシ 、オオワ シに蓄 積する有 機塩素系化合物(HCH,ク     ロ ル ダ ン 、HCB、PCBs,DDT8)を 測 定 し た 。PCBs及 びDDTsは そ れ ぞ れ     120‑39,000及ぴ68‑15,000 ng/g湿重量の範囲で蓄積が見られた。その他の化合     物はそれぞれ1桁から2桁小さい蓄積濃度であった。この蓄積量は、バルト海に     生息するオジロワシやスベリオル湖に棲息するハク卜ウワシと同程度の蓄積量     であった。

◎個体 ごとのPCBsの 異性体 存在比を 成長段 階(幼鳥 、亜成体 、成体)に分けて検     討した。相対的に代謝がそれほど進んでいないと考えられる幼鳥での異J陛体存在     比は、 旧ソビェ ト連邦 で使用さ れていたPCB製品のソボルの異性体組成と類似     するものであった。これらの猛禽類の繁殖地域であるハバロフスク、マガダン付     近の大気中の有機塩素系化合物濃度が非常に高いことが知られており、またロシ     ア沿 岸の 底質から 検出さ れたDDTsの異 性体組 成が最近 のDDT使用を示 唆する     ものであったことから、これらの汚染源がロシア沿岸である可能性が考えられ     た。

◎ 成 長 段階 が 進 むほ どPCBの 高 塩 素化 異 性 体の 蓄 積 割合 が 高い 事が明 らかとな     り、高塩素化異性体が代謝されにくく、高齢個体で高濃度に蓄積される事が示唆     された。

◎ コ プ ラ ナPCBの そ れ ぞ れ の 異 性 体 がTEQに 寄与 す る 割 合を 求 め た。CYPIAに     よ り代謝さ れやす いnon‑ortho PCB異性体IUPAC 77の存在率 が若い 個体ほど     高く、相対的に代謝されにくいmono‑ortho PCBくIUPAC 105,118,156)は若い     個体 で低か った。こ れらの 結果より、PCBが猛禽類の体内に長期間蓄積されて     い る 中 でCYPIAが 誘 導 さ れ 、 そ の 結 果代 謝 さ れ てい る 事 が示 唆 さ れた 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    藤 田 正 一 副 査    教 授    坪 田 敏 男 副 査   准 教 授   片 桐 成二 副査   准教授   石塚真由美

学 位 論 文 題 名

野 生 動 物 に お け る 有 機 塩 素 系 化 合 物 曝 露 の 毒 性 影 響 評 価

人工化学物質による環境汚染は、野生動物の生存をも脅かす重要な問題として取り上げられ るようになってきた。多くの動物種の絶減が環境汚染によると考えられている。これらは、

動物の生命を守る獣医師として、看過できない問題である。しかし、実際に、環境汚染によ って野生動物の身体に 何が起こっているのかを明らかにした研究は意外に少ない。本研究 で、坂本氏は、神奈川県藤沢市を流れる引地川の荏原製作所によるダイオキシン類汚染事故 に着目し、環境省による安全宣言が出された後、河川の食物連鎖の頂点近くに位置するコイ の汚染と、生体影響について検討した。さらに、魚食性の猛禽類である国の天然記念物オオ ワシおよびオジロワシ の汚染を明らかにし、これら猛禽類に蓄積していたPCB(ポリ塩化 ビフェニル)の異性体の組成比をオオワシおよびオジロワシの成長段階で区切って分析する こ とに より 、当 歳齢 に多 く蓄 積す るPCBの組 成比 が、 旧ソ 連が 生産 したPCB製品のソポ ル に類 似し てい るこ とか ら、 これ らの 猛禽 類 を汚 染し たPCBは ソ連 由来のPCBであるこ とを明らかにした。い ずれの研究も、PCBやダイオ キシンなどの化合物が簡単には環境中 から消失せず、長期間にわたって環境中の生物に蓄積し、動物の生存を脅かしていることを 明らかにしたものであ る。

第1章では引地川の堰を挟ん で荏原製作所より上流に生息するコイと、下流および近隣の川 に生息するコイを採取してコイの筋肉に蓄積するダイオキシン類を定量分析し、荏原製作所 より下流のコイに、より多くのダイオキシン類が蓄積していること、上流のダイオキシン類 は農薬に含まれる不純物としてのダイオキシン異性体の組成に近く、下流のものには、それ に加えて、焼却場由来のダイオキシン類に含まれる異性体が見出されることを明らかにし た 。 下 流 の メス のコ イで は、 汚染 に比 例し てシ トク ロムP450 1Aの 誘導 が明 らか で、

シト クロ ムP450の誘導 の程度に反比例してエストロジェンの濃度が低かった。 安全宣言 が出された川でも、そこにすむ魚類には高濃度の汚染が蓄積し、決して安全ではないことが 明らかになった。

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第2章 で はオ オ ワ シと オ ジ ロワ シ に 蓄積 す るPCB,DDT,その他 の農薬 類を分析 し、国 外で報告のある、猛禽類の卵殻薄化や成長障害の起こった地域での猛禽類の汚染状況と比較 検討した。オオワシの汚染は、世界で問題が起こった地域の猛禽類の汚染の程度の平均値程 度の高い値を示していることを明らかにした。

第3章では 、第2章で分 析した汚 染のう ち、PCBに着目し 、当歳 齢、亜成 鳥、成 鳥、と年 齢を 追ってPCB異性 体の蓄積 量の比率の変化を検討した。年齢を重ねるほど、生体内で代 謝されにくい塩素置換数の多い異性体の比率が高く蓄積していることが分かった。当歳齢に 蓄 積 したPCB異 性 体 の組 成比は旧 ソ連製 のPCB、 ソボル の異性体 組成と 類似して いた。

オオワシとオジロワシが春から秋にかけて営巣し、生活するロシア・シベリアのオホーツク 沿 岸 の大 気 がPCBやDDTに高度に 汚染さ れている という 報告とあ わせて 、オオワ シとオ ジロワシのPCB汚染は、ソポルによる汚染と考えられた。

以 上 の結 果 か ら、 坂 本 氏は、一 旦、環 境中に放 出され てしまっ たDDTやPCB、 ダイオキ シン類などの汚染物質は、簡単には消失せず、長期間、環境中の生物体内に存在し、食物連 鎖の上位に位置する生物には、生体影響が出るほどにまで蓄積していること、一旦汚染され た河 川は、水 質の回 復のみで 「安全宣言」を出すべきではないこと、ダイオキシンやPCB の異性体分析から汚染源を類推できることなどを明らかにした。よって、審査委員一同は、

上記学位論文提出者・坂本健太郎氏が博士(獣医学)の学位を授与されるに十分な資格を有 するものと認めた。

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