博 士 ( 医 学 ) 竹 薮 公 洋
学位論文題名
Cysteine proteinases and cystatinC in bronchoalveolar lavage fluid from subjects with subclinical emphysema
( 早期 肺気 腫患 者の 気管 支肺 胞洗 浄液 中の シス テイ ンプロテアーゼと シ スタ チンC)
学位論文内容の要旨
研究目的
肺気腫は殆どが中高年の喫煙者に発症し、その成因として肺内のプ口テアーゼ・アン チプロテアーゼ不均衡説が提唱されてきた。しかし、喫煙者の一部しか肺気腫を発症し ない理由や肺内で気腫化に主たる役割を担っているブ口テアーゼは何かという問題は未 解決である。これは従来の殆どの研究が単に喫煙者と非喫煙者、あるいは肺気腫患者と 健常者の比較にとどまっていることによる。そこで本研究では呼吸器自覚症状のない中 高年 者の 中で 肺高 解像 能CTによ り気 腫病 変を 認める 喫煙 者を抽出し、気腫病変のない 喫 煙 者、 非喫 煙者を 対照 に気 管支 肺胞 洗浄(BAL)液中 のプ 口テ アー ゼの 免疫 学的 酵素 量、酵素活性、肺胞マク口ファージからのプ口テアーゼ放出能を検討した。今回着目し たの はシ ステ イン プロ テア ーゼに属し強カなエラスチン分解能を有するカテプシンLで ある 。さ らに 同じ シス テイ ンプ口テアーゼだがエラスチン分解能に乏しいカテプシンB とそ の両 者の イン ヒビ ター であるシスタチンCについても検討した。最後に我々が同様 の手法で検討し以前に報告した好中球エラスターゼ(セリンブ口テアーゼの一種)の成 績と今回の成績を比較し気腫病変形成における各プロテアーゼの役割の違いを考案した。
対象と方法
中 高 年ボ ラン テイ ア39名( 男36名、 女3名 ;平 均年 齢60土11SD歳 )に間 診、 血液 検 査 、 呼 吸機 能検 査、 肺高 解像 能CT検査 を行い 非喫 煙者8名 、気 腫病 変のな い喫 煙者14 名 、気 腫病 変の ある 喫煙 者17名の3群に 分け た。BALは 気管 支鏡を右中葉区域枝に楔入 し 、生 理的 食塩 水を50mlずつ4回に分けて注入し肺胞領域の情報をより反映するとされ る 後半150 mlからの回収液を測定に用いた。細胞を遠沈分離し総細胞数、細胞分画を算 定 し 、 上 清 は 希 釈 の 補 正 の た め ア ル ブ ミ ン 濃 度 を 測 定 し た後‑70℃ で 保 存 し た 。 BAL液上 清に ついて はカ テプ シンしカテプシンB、シスタチンC及び好中球工ラスター ゼ.Q、‐プ口テアーゼインヒビター複合体の酵素量をELISA法で、またカテプシLの活性 を 合 成 基 質 のZ‑Phe‑Arg‑MCAと カ テ プ シンBの特 異的 阻害 剤のCA‑074を用 いて 螢光 吸 光 光度 計で 測定 した 。次 に、 肺胞マクロファージの培養上清中のカテブシンLの酵素量 を 測定 し、 喫煙 や気 腫病 変の 有無との関係を検討した。さらにカテプシンLと好中球エ
ラスターゼ の気腫病 変形成に おける役 割の違い を明らか にするため 同一被験者でBAL液 中両酵素量 の相関を みるとと もに、被 験者を60歳 未満と60歳 以上の2群に分けて再検討 した 。 これ は60歳未 満で気腫 病変を有す る被験者 はより早 期の病変 を有し、 かつ将来 肺 気 腫 患 者 と な る 可 能 性 が よ り 高 い と 判 断 し た か ら で あ る 。 統 計 は3群 間 の 差 を ぬuskal‑Wallis testで、2群の差をMann‑WhitneyU−testで検定しp.05で有意と判定した。
結果
喫煙指数 は気腫病 変のある 喫煙者と 気腫病変 のない喫煙 者の2群で 差はなかった。呼 吸機能検 査で一秒 率は気腫 病変のあ る喫煙者 で気腫病変のない喫煙者より有意に低値で あったが、閉塞陸障害はごく軽度で臨床的に明らかな肺気腫患者は含まれていなかった。
BAL液 中 肺 胞マ ク 口ファ ージの比 率は喫煙 者の2群で 非喫煙者 より有意 に高値であ った が喫 煙 者2群 間で は 差は な か った 。 またBAL液 中好 中球比率 は3群間で 差はなかっ た。
BAL液 中の カ テ プシ ンLと シス タ チ ンCの 酵 素 量はい ずれも気 腫病変の ある喫煙者 で 気 腫 病 変 の な い 喫 煙 者 よ り有 意 に 高か っ たが (0.54土0.10 vs. 0.29土0.07い ヴmg albumin,p.05; 0.54土0.07 vs. 0.31土0.64 yg/mg albumin,p.05)、カテプシンLの 酵素 活 性 は3群間 で差 がなく、 肺胞マク ロファー ジ培養液 のカテプ シンLの酵素 量も気 腫病変の 有無で差 はなかっ た。BAL液中 カテプシ ンBの酵素量 も3群間で 差がなかった。
同一被験 者の検体 のカテプ シンLと好 中球エラスターゼ.Q、−ブロテアーゼインヒビ ター 複 合 体の 酵 素量 には全く 相関がな かった。 さらに60歳 未満の被 験者だけで 気腫病 変の有無 による喫 煙者2群間 の比較を すると、 好中球工ラ スターゼ はなお気 腫病変のあ る喫煙者 で有意に 高値を示 したが、 カテブシ ンLでは両群 間の差異 が完全に 消失した。
考案
本研 究 の特 徴 は 臨床 的に明 らかな肺 気腫患者を 除外し、 肺CT検査の みで気腫 病変を 診断 したこと である。 これにより 進行した 肺気腫に伴う結果よりは早期の気腫病変に伴 う 変 化を 検 出し う る 。その 結果、気 腫病変のあ る喫煙者 のBAL液中の カテプシ ンLの酵 素量 は非喫煙 者のみな らず同等の 喫煙歴を もちながら気腫病変のない喫煙者よりも有意 に高 いことを 示した。 ただし、そ のインヒ ビターで あるシス タチンCの 酵素量も気腫病 変 の ある 喫 煙者 のBAL液中 で 気腫 病 変 のな い 喫 煙者 よ り有 意 に 高く 、 カテ プ シ ンLの BAL液中 酵素活性 に気腫病 変の有無に よる差が ないこと からブ口 テアーゼ ・アンチプロ テアーゼの不均衡が肺気腫の成因に重要であるとする仮説には必ずしも合致しなかった。
一方 、肺胞マ クロファ ージからのカテプシンL放出量も気腫病変の有無で差がなかった。
これ までに我 々は早期 肺気腫病変 における 好中球工ラスターゼの関与を主張してきた が、 今回の検 討で同一 被験者から の検体で 好中球エラスターゼ.Q1・プ口テアーゼイン ヒビ ター複合 体とカテ プシンLの酵 素量は全 く相関し ないこと 、60歳未満 の喫煙者の比 較で は気腫病 変の有無 による有意 差は前者 でのみ認 めること から、こ れら2つのブ口テ ア ー ゼの 早 期肺 気 腫 病変に おける役 割は年齢や 患者間で 異なるこ とも明ら かにした 。 カテ プシンLは システイ ンプロテア ーゼに属 し、肺内 では主と して肺胞 マクロフアー ジの ライソゾ ームに存 在するが、 細胞外に も放出され酸性条件で強カなエラスチン分解 能を 有する一 方、好中 球エラスタ ーゼのイ ンヒビターのa1ープ口テアーゼインヒビター を不 活性化す る作用も あり気腫化 との関係 が注目されてきた。しかしこの酵素について BAL液 中の 活 性や 肺 胞 マク 口 ファ ー ジ のmRNA発 現 量が 喫煙者で 非喫煙者 より高い とい う報 告はある が肺気腫 との関係を 明らかに した研究 はない。 本研究はBAL液中カテブシ
ンLの酵素量が 気腫病変 のある喫 煙者で確 かに高い というこ とを初めて示した点で意義 が ある。しかし、好中球工ラスターゼ.a、−プロテアーゼインヒビター複合体の成績と の比較は、肺気腫の成因に関与すると推定されている酵素が被験者の年齢、病変の進行、
ロう鞭暴露の期間や程度により個体間でさまざまに働く可能性を示していると考えられる。
結 論
カテ ブ シ ンLとそ のインヒ ビターで あるシスタ チンCの酵 素量は早 期肺気腫 患者の気 管 支肺胞洗浄 液中で上 昇してい る。ただ し、カテ プシンLの 早期肺気腫病変形成におけ る 役割は患者 の年齢や 病期によ り好中球 エラスターゼとは異なっている可能性がある。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Cysteine proteinases and cystatinC
in bronchoalveolar lavage fluid from subjects with subclinical emphysema
(早期肺気腫患者の気管支肺胞洗浄液中のシステインプロテアーゼと シスタチンC)
肺気腫は喫煙によルプロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡が生じ、肺弾性線維の 破壊をきたし発症するとされる。しかし、実際に発症するのは喫煙者の一部であり喫煙 に関する感受性が注目される。われわれはかつて気管支肺胞洗浄(BAL)液や肺胞マク ロファージ培養上清の好中球エラス夕一ゼ.Q1−プロテアーゼインヒビター複合体の蛋 白量が早期肺気腫群では気腫病変のない喫煙者より有意に高いことを報告した。一方、
カテブシンLはシステインプロテアーゼの一種で強カなエラスチン分解能を有すること から肺気腫発症との関係が注目されている。本研究は喫煙に伴う肺気腫形成に関してシ ステインプロテアーゼとそのインヒビターが喫煙感受性を反映するか否かを検討し、さ らに好中球工ラスターゼ.a1―プロテアーゼインヒビター複合体の役割と比較した。呼 吸器自覚症状のない中高年者39名から肺高解像能CTにより気腫病変を認める喫煙者を 抽出し、非喫煙者、気腫病変のない喫煙者、気腫病変のある喫煙者の3群に分け、間診、
呼吸機能 検査、血液 検査、BALを行った。BAL液上清 のカテプシ ンL、カテプシンB
(エラスチン分解能に乏しいシステインプ口テアーゼ)、シスタチンC(システインプ ロテアーゼインヒビター)及び好中球工ラスターゼ.ai−プロテアーゼインヒビター複 合体の蛋白量をEUSA法で、またカテプシLの活性をZ‑Phe‑ArgーMCAとCA‑074を用いて 螢光吸光光度計で測定した。次に、肺胞マクロファージの培養上清のカテブシンLの蛋 白量を測定した。結果は、対象の特徴では気腫病変のある喫煙者と気腫病変のない喫煙 者の2群で喫煙指数、コチニン濃度に差がなかった。BAL液では喫煙者は非喫煙者より 肺胞マク口ファージの比率が高値であったが気腫病変の有無による差はなかった。BAL 液中のカテプシンLとシスタチンCの蛋白量はいずれも気腫病変のある喫煙者で気腫病 変のない喫煙者より有意に高値であった。しかし、カテプシンLの酵素活性、肺胞マク
三 之和 信 紘義 藤 上 西加 川 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ロ フ ァー ジ 培 養液 の カ テプ シンLの蛋 白量は気 腫病変の 有無で差 はなかっ た。BAL液中 カ テブシンBの蛋白量は 喫煙者全 体では非 喫煙者よ り高値で あったが 気腫病変の 有無に よ る 差は な か った 。 同 一被 験者のBAL液 中のカテ プシンLと 好中球工 ラスター ゼの蛋白 量 には相関 はなかった 。そこで 気腫病変 形成にお ける役割の違いを明らかにするため、
被 験者を60歳 未満と60歳以 上の2群に 分けて再 検討した 。これは60歳未満で 気腫病変を 有 する被験 者はより早 期の病変 を有し、 かつ将来 臨床的な肺気腫患者となる可能性がよ り 高いと判 断したから である。60歳未満の 被験者で は好中球工ラスターゼはなお気腫病 変 のある喫 煙者で有意 に高値を 示したが 、カテブ シンLでは 両群間の 差異が消失 した。
以 上 より 、BAL液の カ テ プシンLとシスタ チンCの蛋 白量は、 カテブシ ンBとは対 照的に 肺 の気腫化 に関する喫 煙感受性 を反映す るひとつ の因子である。これらのプ口テアーゼ の 肺気腫形 成における 意義は不 明だが、 肺気腫の 成因に関与するとされている各酵素の 役割は被験者の年齢、病変の進行、喫煙暴露の期間により個体間で異なる可能性がある。
口 頭発表後 、副査加藤 教授から 肺CT検査に より抽出 した今回の早期肺気腫群と臨床的 肺 気腫との 関係などに ついて、 副査川上 教授から 好中球エ ラスター ゼ.al‑プロテ アー ゼ インヒビ ター複合体 の意味づ けや各種 ブロテア ーゼの疾患特異性などについて、主査 西 教授よル システイン プ口テア ーゼイン ヒビター としてシ スタチンC以外のもの を想定 し なくてよ いかどうか について 、また、 今後対象 数を増やしたり追跡調査を行うことに よ る展望、 肺気腫の成 因として 最も重要 なプロテ アーゼが何であるかという考案につい て 質疑があ った。これ らの質疑 に対し申 請者は、 今回の対象は必ずしも将来臨床的肺気 腫 になる群 ではないが 、呼吸機 能検査で の一秒量 の経年的 な低下と 関連するBAL液 中の 指 標を追跡 調査で明ら かにでき る可能性 があると 回答した。さらに、好中球エラスター ゼ.al−プロテアーゼインヒビ夕一複合体がelastin derived peptidesとよく相関するとい う データー を紹介し間 接的では あるが肺 胞破壊を 反映するとの考案を述べた。また、シ ス タ チンCは 細 胞 外で 働 くシ スタチン 族でカテ ブシンLの 抑制因子 として最 も重要であ る と回答し た。加えて 、その他 の質疑に おいても 申請者は、質問者を納得させる妥当な 回 答を行っ た。審査員 一同は、 これらの 結果を認 め、博士(医学)の学位に値するもの と判定したふ