博 士 ( 農 学 ) 篠 木 亜 季
学 位 論 文 題 名
腸間膜脂肪細胞が分泌するメタボリック症候群関連因子に 対する食品成分の作用解析
学位論文内容の要旨
近年、メタボリック症候群(メタポリックシ ンドローム)の多発が社会問題となってお り、その発症には幼少期における食習慣の関与も考えられている。メタボリック症候群は、
内臓脂肪型肥満によルインスリン抵抗性が惹起 され、それに伴い糖代謝異常、脂質代謝異 常、高血圧症などの生活習慣病を複数発症し、動脈硬化症リスクを増大させる疾病である。
内臓脂肪、特に腸間膜脂肪組織から放出される 生理活性物質である種々のアディポサイト カイン分泌異常が、インスリン抵抗性やこれら 疾患の発症に関与すると考えられている。
本研究では、メタボリック症候群を引き起こす、.内臓脂肪細胞機能変化と食事との関連を 明らかにする一環として、低カルシウム食およ びフラクトオリゴ糖(FOS)食 が、腸間膜脂 肪細胞に及ばす影響にっいて検討した。ラット を用いて、食事による脂肪細胞への影響を 検討し、また、作用機構を解明するために、試 験飼料の長期摂取により条件付けした腸間 膜脂肪組織から単離した脂肪細胞を用いて、ア ドレナリン刺激下における脂肪分解(リポ リシス)とアディポサイトカイン分泌の変動を 検討した。また、本研究では、メタボリッ ク症候群発症における幼少期の食習慣の関与も 考慮し、離乳直後のラットを用いて、食事 による脂肪細胞の性質の変化を検討した。
1.低カルシウムが腸間膜脂肪細胞に及ばす作 用
カルシウムの摂 取不足により、2型糖尿病やメタボリック症候群の発症率が増加すること が報告されている 。本実験では、ラットに低カルシウム食を長期間摂取させ、腹腔内脂肪 細胞に及ぼす影響 を検討した。腸間膜脂肪細胞を単離後、アドレナリン刺激下における脂 肪細胞のりポリシ ス活性およびアディポサイトカイン分泌を解析した結果、カルシウム欠 乏により腸間膜脂 肪細胞のアドレナリン感受性が亢進し、リポリシスが増加、また、脂肪 細 胞の サイ ズが 減少した。これには、血 中カルシウム濃度低下による副甲状腺ホルモン (PTH)の過剰分泌とそれに伴うインスリン抵抗 性の増大が関与している可能性が考えられ た。PTHの過剰分泌は、腸問膜脂肪細胞の性質 を変化させてアディポネクチン放出を抑制 し、これによる血 中アデイポネクチンレベルの低下が、インスリン抵抗性を引き起こして いることが示唆さ れた。本実験では、離乳直後から低カルシウム食を摂取することによっ て腸間膜脂肪細胞の´陸質が変化することを明らかにした。成人後、インスリン抵抗性が誘
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導 され やす くな り 、メ タボ リック症候群発症のりス クが増大する可能性が示唆された。
2.フラクトオリゴ糖が腸問膜脂肪細 胞に及ばす作用
メタボ リック症候群の主因となる腸間膜脂肪細胞は、小腸側と 大腸側で異なる腸間膜静 脈に接す るため、吸収される栄養素や物質の違いが腸問膜脂肪細 胞の性質を変化させる可 能性が考 えられる。小腸では、たんぱく質や脂質、可消化性糖質 が吸収され、大腸では、
細菌成分 やその代謝物、難消化性糖質の発酵によって得られた短 鎖脂肪酸などの有機産物 が吸収さ れる。そこで、腸問膜脂肪組織を小腸側と大腸側に分けて単離脂肪細胞を調製後、
アドレナ リン刺激下における脂肪細胞のりポリシスを比較した結 果、腸間膜脂肪細胞のア ドレナリ ン感受性は、大腸側で高いことが明らかとなった。この 現象には、離乳直後から 長期間の 発酵性糖質を含まない食餌が関与するとの仮設をたて、 以下の試験を実施した。
大腸で高い発酵性をも つFOSの摂取が腸問膜脂肪細 胞に及ばす影響を評価するために、
FOSを大腸発酵が十分に生じる5%添加した飼料をラットに摂取さ せ、インスリン感受性お よび血中 アディポサイトカインの変動を測定し、また、腸間膜脂 肪細胞を単離し、そこか ら放出さ れるアディポサイトカインの変動およぴアドレナリン刺 激下における脂肪細胞の り ポリシス活性を検討し た。その結果、FOS摂取は内 臓脂肪組織重量を低下させるととも に、イン スリン感受性の指標であるHOMAーIRを亢進した。小腸側 に比べて大腸側腸間膜脂 肪 組織重量の減少は大き く、これには大腸から吸収されるFOSの大腸発酵産物が寄与して い る可能性が考えられた 。一方FOSは、大腸側に比べ 小腸側腸間膜脂肪細胞において、レ プ チン やTNF‑aの 分泌 活性 をよ り大きく低下させ、また、HOMA‑IRと小腸側腸間膜脂肪か ら のこれらアディポサイ トカイン分泌は正の相関を示した。すぬわち、FOS摂取によるイ ン スリン感受性の亢進に は、FOSの小腸側腸間膜脂肪 細胞への直接的な作用機構も存在す る ことが示唆された。ま た、FOS摂取によるこれらの 影響は、短期間摂取するよりも離乳 直 後 か ら 長 期 間 摂 取 し た 方 が よ り 強 く 作 用 す る こ と が 示 さ れ た 。
以上より 、カルシウム、あるいは難消化性糖質の摂取は、腹腔内脂肪細胞の性質を変化 させること が明らかとなった。培養脂肪細胞を用いて食品成分による影響を検討した研究 は、広くな されているが、長期間試験飼料を摂取させたラットを用いて、腸間膜脂肪から 単離調製し た脂肪細胞の性質を評価した研究はほとんどない。本研究は、カルシウム欠乏 および難消 化性糖質の摂取・が内臓脂肪細胞に影響を及ばし、リポリシスおよびアディポサ イトカイン 放出を変化させることを明らかにした。メタボリック症候群発症のりスクは、
カルシウム 欠乏により増加し、難消化性糖質の摂取により減少することが示唆された。食 習慣は、若 年層において不規則になりやすく、カルシウムや難消化性糖質の摂取不足もそ の例として あげられる。食習慣の改善は腹腔内脂肪細胞の変化を介して、メタボリック症 候群発症を 予防することが期待できる。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 准教授
原 川端 石塚
学 位 論 文 題 名
博 潤 敏
腸間膜脂肪細胞が分泌するメタボリック症候群関連因子に 対する食品成分の作用解析
本 論 文 は 、128頁 か ら な る 和 論 文 で あ り 、 図28と 表25を 含 み 、 参 考 論 文4編 が 添 え ら れ て い る 。
近 年 、 メ タ ポ リ ッ ク 症 候 群 ( メ タ ボ リ ッ ク シ ン ド ロ ー ム ) の 多 発 が 社 会 問 題 とな っ て お り 、 そ の 発 症 に は 幼 少 期 に おけ る 食 習慣 の 関 与も 考 え られ て い るふ メ タ ポリ ッ ク 症 候群 は 、 内 臓 脂 肪 型 肥 満 が 主 因 と さ れ 、 特 に 腸 間 膜 脂 肪 組 織 か ら 放 出 さ れ る 生 理 活 性 物 質 で あ る 種 々 の ア デ ィ ポ サ イ ト カ イ ン 分 泌 異 常 が 、 イ ン ス リ ン 抵 抗 性 を 惹 起 し 、 そ れ に 伴 い糖 代 謝 異 常 、 脂 質 代 謝 異 常 、 高 血 圧 症 な ど を 複 数 発 症 し 、 動 脈 硬 化 症 リ ス ク を 増 大 さ せ る疾 病 で あ る 。 本 研 究 で は 、 メ タ ボ リ ッ ク 症 候 群 を 引 き 起 こ す 、 内 臓 脂 肪 細 胞 機 能 変 化 と 食事 と の 関 連 を 明 ら か に す る 一 環 と し て 、 低 カ ル シ ウ ム 食 お よ び フ ラ ク ト オ リ ゴ 糖(FOS)食 が 、 腸 間 膜 脂 肪 細 胞 に 及 ば す 影 響 に っ い て 検 討 し て い る 。 ラ ッ ト を 用 い て 食 事 に よ る 脂肪 細 胞 へ の 影 響 を 検 討 し 、 ま た 、 作 用 機 構 を 解 明 す る た め に 、 試 験 飼 料 の 長 期 摂 取 に よ り条 件 付 け し た 腸 間 膜 脂 肪 組 織 か ら 単 離 し た 脂 肪 細 胞 を 用 い て 、 ア ド レ ナ リ ン 刺 激 下 に お ける 脂 肪 分 解 ( リ ポ リ シ ス ) と ア デ ィ ポ サ イ ト カ イ ン 分 泌 の 変 動 を み て い る 。 ま た 、 本 研 究で は 、 メ タ ポ リ ッ ク 症 候 群 発 症 に お け る 幼 少 期 の 食 習 慣 の 関 与 も 考 慮 し 、 離 乳 直 後 の ラ ット を 用 い て 、 食 事 に よ る 脂 肪 細 胞 の 性 質 の 変 化 も 考 慮 さ れ て い る 。 こ れ ら に っ い て 、 以 下の よ う を 結 果 を 得 て い る 。
1. 低 カ ル シ ウ ム が 腸 間 膜 脂 肪 細 胞 に 及 ば す 作 用
カ ル シ ウ ム の 摂 取 不 足 に よ り 、2型 糖 尿 病 や メ タ ボ リ ッ ク 症 候 群 の 発 症 率 が 増 加 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 ラ ッ ト に 低 カ ル シ ウ ム 食 を 長 期 間 摂 取 さ せ 、 腹 腔 内 脂 肪 細胞 に 及 ば す 影 響 を 検 討 し て い る 。 腸 間 膜 脂 肪 細 胞 を 単 離 後 、 ア ド レ ナ リ ン 刺 激 下 に お け る脂 肪 細 胞 の り ポ リ シ ス 活 性 韜 よ び ア デ ィ ポ サ イ ト カ イ ン 分 泌 を 解 析 し た 結 果 、 カ ル シ ウ ム欠 乏 に よ り 腸 問 膜 脂 肪 細 胞 の ア ド レ ナ リ ン 感 受 性 が 亢 進 し 、 リ ポ リ シ ス が 増 加 、 ま た 、 脂肪 細 胞 の
サイズが減少した。これには、血中カルシウム濃度低下による副甲状腺ホルモン(PTH) の過剰分泌とそれに伴うインスリン抵抗性の増大が関与している可能性が考えられた。
PTH
の過剰分泌は、腸間膜脂肪細胞の性質を変化させてアディポネクチン放出を抑制、こ れによる血中アディポネクチンレベルの低下が、インスリン抵抗性を引き起こしているこ とを示唆した。本実験では、離乳直後から低カルシウム食を摂取することによって腸間膜 脂肪細胞の性質が変化し、成人後インスリン抵抗性が誘導されやすくなり、メタポリック 症候群発症のりスクが増大する可能性を示している。
2
.フラクトオリゴ糖が腸間膜脂肪細胞に及ばす作用
メタボリック症候群の主因となる腸間膜脂肪細胞は、小腸側と大腸側で異なる腸間膜静 脈に接するため、吸収される栄養素や物質の違いが腸間膜脂肪細胞の性質を変化させる可 能性が考えられる。小腸では、たんぱく質や脂質、可消化性糖質が吸収され、大腸では、
細菌成分やその代謝物、難消化性糖質の発酵によって得られた短鎖脂肪酸などの有機産物 が吸収される。そこで、腸間膜脂肪組織を小腸側と大腸側に分けて単離脂肪細胞を調製後、
アドレナリン刺激下における脂肪細胞のりポリシスを比較した結果、腸間膜脂肪細胞のア ドレナリン感受性は、大腸側で高いことを明らかにした。この現象には、離乳直後から長 期間の、発酵性糖質を含まない食餌が関与するとの仮設をたて、以下の試験を実施してい る。
大腸で高い発酵性をもつ、FOS の摂取が腸間膜脂肪細胞に及ばす影響を評価するために、
FOS
を大腸発酵が十分に生じる
5%添加した飼料をラットに摂取させ、インスリン感受性 および血中アディポサイトカインの変動を測定し、また、単離脂肪細胞から放出されるア ディポサイトカインの変動およびアドレナリン誘導性リポリシスを検討している。その結 果、
FOS摂取は内臓脂肪組織重量の低下と、インスリン感受性の亢進を示した。小腸側に 比べて大腸側腸間膜脂肪組織重量の減少は大きく、これには大腸から吸収される
FOSの大 腸発酵産物が寄与している可能性を示した。一方FOS は、大腸側に比べ小腸側腸間膜脂肪 細胞にねいて、レプチンや
TNF‑aの分泌活性を低下させており、インスリン感受性の亢進 には、
FOSの小腸側腸間膜脂肪細胞への直接的な作用機構が存在することを示唆した。ま た、
FOS摂取によるこれらの影響は、短期間摂取するよりも離乳直後から長期間摂取した 方がより強く作用することを示した。