博 士 ( 農 学 ) 溝 口 康 子
学 位 論 文 題 名
林床における C02 放出フラックスの 変 動 特 性 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
地球 温暖 化に 対 する 関心 が高 ま るに っれて、温 室効果ガスのーつである二酸 化炭素の動態に 関する研究 の進展が期待されている。特 に森林は、陸上生態系の中 でも炭素の吸収源のみならず 貯 蔵 源 と し て も 機 能 す る た め 、 そ の 炭 素 動 態 は と く に 注 目 さ れ て い る 。 森林にお ける炭素動態の研究は古くか ら行われているが、長期間 の炭素貯留量の変化や炭素収 支を構成す る光合成や呼吸量などの各要 素の個別研究が、これまで の主な研究対象であった。近 年、空間代 表性と時間分解能の高いデー タを得ることのできる微気 象学的手法によって森林の炭 素 収支 が測 定さ れ るよ うに なる と 、こ の微 気象 学的 手 法に よっ て得られるC02フラックスデー タと比較可 能な質のデータが、炭素収支 を構成する各要素に対レて求められるようになってきた。
本研究では 、森林の炭素収支を構成する 要素のうち、二酸化炭素放 出に占める割合が最も大きい と され る土 壌か ら の二 酸化 炭素 放 出量 、す なわ ち林 床 面C02放 出フラックスの 変動を研究対象 とした。
目的
本研 究は 、ま ず 林床 面か らのC02放出 フラ ッ クス 測定 手法 の 開発を行い、っ ぎに温帯落葉広 葉 樹林 にお ける 林 床面 から のC02放 出フ ラックス変 動特性を解明するという2本 の柱からなる。
C02放出フラ ックス測定手法の開発
測定手法 の開発におけるひとつの主眼 は、空間代表性を確保する ための多点観測に用いられる 小型センサ の特性把握と出力値の補正方 法の開発である。一般に小 型センサは、出力値の精度、
応 答速 度と もに 林 床面C02放出 フラ ック ス測 定 には 不十 分と 考 えられていた。 本研究では、チ ヤ ンバ 法で 多点 観 測を 正確 に行 う ため 、応 答特 性の 情 報が 十分 得られていな い小型C02センサ GMD20,GMT222C,GMM222B、GMM222C、GMP343 (VAISALA製 ) と LI‑820 (LI‑COR 製 )の 出力 値の 補 正方 法に つい て 検討 を行 った 。対 象 とし たセ ンサのうち、GMD20、GMM222、 GMT222( い ず れ もVAISALA製 ) は 、 標 準 ガ ス に よ る 較 正 に よ り 誤 差 を20ppm以 下 に 抑 え る 事 が で き た 。 ま た 、GMP343 (Vt¥ISALA製 )とLI‑820 (11ーCOR製 )は 、前 述の セ ンサ より 精 度 は高 く、 誤差 は それ ぞれ8ppm、5ppm以下 であ った 。LI‑820を 除く 対象 セ ンサ の応 答実 験の 結 果 か ら 、 通 気 状 態 の90%応 答 時間 は11s ‑117s、最 も応 答 時間 が短 かっ たの はGMP343の 通 気 夕 イ プ で あ っ た 。 拡 散 状 態 の90% 応 答 時 間 は66s〜304s、 最 も 応 答 時 間が 短 かっ たの は GMD20の 瞬 間 値 、 次 に 防 塵 フ ィ ル タ を 装 着 し な か っ たGMP343拡 散 夕 イ プ であ っ た。 セン サ
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出 カの 遅 れ 時 間を 考 慮せず に、チ ャンパ 密閉法 で林床 面C02放出 フラッ クスを 測定した 場合、
測定間 隔が短 いほど 誤差が 大きく なると 推定された。測定間隔によらず誤差の少ない値を得るた め 、初 期C02濃 度(Co)と 本研究 の応答 実験に よって得 られた センサ タイプ 別の係 数(a、 ゲ)
を用いて、Ct=〇o+(ビ什匚トビ0)/(1一exp(‑匚君))によるセンサ出力値(ビォ)のt時における 補正(〇t )が行えることを示した。
測 定 手 法 に関 す るも うーつ の主眼 は、従 来の林 床面C02放 出フラ ックス 測定法 では難 しかっ た 、連 続 測 定 を行 う た め のシ ス テ ム の開 発 であ る。自 動開閉 型のチャ ンパ2台 と1台の 赤外線 式C02ア ナ ラ イ ザ(IRGA)を用 い、チ ャンバ の蓋の 開閉、 流路変 更のた めの電磁 弁の切 り替え 、 デ ータ の 取 得 、保 存 までコ ンピュ ー夕1台 を使用 して行 うこと により、 長期連 続デー タの取 得 が 可能 と な っ た。 チ ャ ン バとIRGA間 の 空 気循 環の影 響や、 測定中 のチャ ンバ密 閉によ る温度 環 境 の 変 化 は 、 林 床 面C02放 出 フ ラ ッ ク ス に 影 響 す る ほ ど 大 き く は な い と 判 断 し た 。 林床面からのC02放出フラックス変動特性の解明
開 発 さ れ た自 動 開閉 型チャ ンバを 使用し た林床 面C02放出 フラッ クス測 定シス テムを 、埼玉 県川越 市の落 葉広葉 樹林内 に設置 し、3年 間の長 期観測を 行った 。時間分解能の高いデータが得 られた ことに より、 フラッ クスの 日変化 が地温の日変化傾向と一致しない場合があることと、降 雨によ ってフ ラック スが一 時的に 減少あ るいは増加する現象とを捉えることができた。また、新 しい測 定法に より長 期間の 観測デ ータを 得られ、強度の土壌乾燥によるフラックス減少を捉える こ とが で き た 。地 温 と林床 面C02放出 フラッ クスの 関係は 指数関 数で近 似でき るが、温 度依存 性は季 節によ って変 化する ことを 示した 。また、 対象温 度範囲 の上昇にともなって、林床面C02 放出フラックスの温度依存性は減少する傾向があるが、季節変化の割合が大きいことがわかった。
林 床 面C02放出 フ ラッ クスと 体積含 水率との 関係に ついて 、多点 観測の データ を中心 に解析 を 行っ た 。 林 床面C02放出フラ ックス は主に 拡散ブ 口セス によっ て土壌 から放 出される 。した が って 、 拡 散 プ口 セ スに重 要な拡 散係数 と土壌 内のC02濃 度に注 目し、 体積含 水率とフ ラック スの関 係につ いて解 析を行 った。 これま での野外の観測では、土壌水分の増加によるフラックス の減少 と増加 の相反 する現 象が報 告され ている。この相反する現象の説明として、拡散係数の減 少 によ る フ ラ ック ス の 減 少と 、 土 壌 内C02濃 度上昇 にとも なうC02濃 度勾配 の増加 による フラ ッ クス の 増 加 、こ れ ら拡散 プロセ スによ るフラ ックス の増減に 加えてC02発生 速度の増 加の差 し引き によっ て、土 壌水分 変化が フラッ クスの増加・減少を決定することを示した。さらに多点 観 測の 結 果 よ り、 対 象地の 林床面C02フラッ クスの 空間的 ばらっ きが非 常に大 きいこと 、ただ し 、長 期 間 に わた る 測定が 行われ ている ことか ら、地 温と林床 面C02フ ラック スの関係 は、空 間代表性のある関係式として取り扱いえることを示した。
結諭
2000年か ら2002年の 林床か らの炭 素放出 量は平 均948gCm.2yr.1と算 出され 、これ は、一般 的な温 帯落葉 広葉樹 林の値 と矛盾 しない 範囲であった。温度依存性の季節変化を考慮した林床面 C02放出 フ ラ ッ クス の シミュレ ーショ ン結果 は、長 期連続 測定デ ータか ら求め た林床か らの年 間炭素 放出量 の年々 変動は 、フラ ックス の値が大きい夏季の温度変化の影響が大きいことを示唆 した。 サイ卜 間の比 較は、 しばし ば気温 や降水量などの気候値を指標として行われることが多い が、温 帯林の 林床か らの年 間炭素 放出量 の場合、夏季の地温や土壌、植生などが大きく影響して いることを示した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
林床におけるC02 放出フラックスの 変 動 特 性 に 関 す る 研 究
本 論文 は4章105ベー ジか らなり、引用文献131を含む和文原著論文である。ま た参考 論文として、英文2編、 和文2編の計4編が添えられている。
近年、温室効果ガスのーつである二酸化炭素の動態に関する研究が進展するのに伴い、
空間代表性と時間分解能の高いデータが期待できる微気象学的手法によって、森林の炭素 収支が測定されるようになった。また、この炭素収支の構成要素に対しても、炭素収支デ ータと比較可能な高精度のデ一夕が求められている。本研究では、森林の炭素収支構成要 素のうち、二酸化炭素放出に占める割合が最も高い土壌からの二酸化炭素放出量、すなわ ち林床面C02放出フラックスに着目し、チャンバー法に基づく独自のフラックス測定方法を 開発し、これを用いて温帯落葉広葉樹林における林床面C02放出フラックス変動特性を解明 することを目的とした。
C02放出フラックス測定方法の開発では、まず空間代表性を高めるため多点観測に用いら れる小型センサを開発しなければならない。そこで、出力値の精度、応答速度ともに林床 面C02放出フラックス測 定に利用可能と考えられている6種の小型C02センサの出力値と応 答速度の補正方法を検討した。その結果、うち4種は標準ガスを用いた較正により誤差を 20ppm以下に、他の2種は さらに高精度で、それぞれ誤差を8ppm、Sppm以下に抑え ること ができた。また、応答実験において90%応答時間は 、通気状態では1種を除きいずれも11
‑117秒、拡散状態では66 ‑‑304秒に収めることができた。一方、チャンパー密閉法ではセ ンサ出力遅れのため測定間隔が短いほど誤差が大きくなるので、測定間隔に依存せず最少 誤差に抑えるため、初期C02濃度と応答実験で得られたセンサタイプ別係数を用いてセンサ 出カの補正値を求めた。
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己 士
良 司
知 太
孝 高
谷 村
池 野
丸
中
小
平
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
っぎに、時間分解能の 高いデータを得るため、従来困難であった連続測定の可能な林床 面C02放出フラックス測定法を開発した。これは、2台の自動開閉型のチャンパー(開口部 面積1,200cm2、地上高13cm、埋設深3cm)と1台の赤外線C02アナライザー(IR GA)を用 い、チャンバーの蓋の開閉、流路変更のための電磁弁の切り替え、データの取得・保存を1 台 の コ ン ピ ュ ー タ で 行 い 、 長 期 連 続 デ ー タ の 取 得 を す る も の で あ る 。 このように独自に開発 した自動開閉型チャンバーによる林床面C02放出フラックス測定 システムを埼玉県川越市の落葉広葉樹林内に設置し、3年間の長期観測を行った。その結果、
時間分解能の高いデータ により、フラックスと地温の日変化が一致しないケースや、降雨 によルフラックスが一時 的に増減するケースが捉えられた。また長期観測により、強度の 土壌乾燥によるフラックスの減少を捉えることができた。そして、地温と林床面C02放出フ ラックスの関係は指数関 数で近似でき、その温度依存性は季節によって変化し、対象温度 範囲の上昇にともない減 少するが、季節変化の割合は大きいことを示した。また、多点観 測データより、拡散係数の減少によるフラックスの減少、土壌内C02濃度上昇さらに濃度勾 配増加によるフラックスの増加、これにC02発生速度の増加を差し引きすることにより、土 壌水分変化に伴うフラッ クスの増減が決定されることを示した。これにより、これまで報 告されてきた土壌水分の 増加によるフラックスの増加あるいは減少という相反する変化を 説明できた。さらに、多点観測データにより、林床面C02フラックスの空間的ばらっきは非 常に大きいが、長期的に見れば地温と林床面C02フラックスの関係は空間代表性のある関係 式として表現できることを示した。
これより、対象地にお ける2000年から2002年の林床からの炭素放出量は平均948gCm・2 リ・1となり、他の温帯落葉広葉樹林と矛盾しない値が示された。また、林床からの年間炭素 放出量の経年変動は、温 度依存性の季節変化を考慮したシミュレーションより、フラック ス値の大きな夏季の温度 変化が影響していることが示唆された。さらに、しばしば気温や 降水量などの気候値を指 標として行われるサイト間での比較は、温帯林の林床からの年間 炭素放出量の場合は、夏 季の地温や土壌、植生などが大きく影響していることを示した。
以上のように、本論文では、森林土壌からのニ酸化炭素放出量、すなわち林床面C02放出 フラックスの解明のため に、空間代表性と時間分解能の高いデータを得る新たな測定方法 を開発し、これを用いた 長期野外観測により地温と土壌水分に対するフラックスの依存性 を解明し、年間炭素放出 量予測を可能にしたものである。森林環境保全研究にとってきわ めて品質の高い有用な研 究であり、関連分野において高い評価を得ている。よって審査員 一同は、溝口康子が博士 (農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。
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