東
洋
文
藝
の
思
想
性
-文 鏡 秘 府 論 の 統 一 的 考 察 -河 本 敦 夫 戦 後、 文 藝 の 再 建 に 就 い て、 色 々 な 角 度 か ら 考 察 が 加 へ ら れ て ゐ る。 そ の 一 つ は、 我 が 國 の 文 藝 が 思 想 性 に 乏 し い と 云、 ふ 批 制 で あ る。 そ れ は、 從 來 か ら 唱 へ れ て ゐ た が、 今 日、 ま た 新 し く 主 張 さ れ て ゐ る。 大 ま か な 言 ひ 方 で あ る が、 情 趣 的 な 世 界 を 丈 藝 本 來 の 領 域 乏 す る 思 潮 が、 傅 統 的 に 流 れ て ゐ て、 江 戸 時 代 に な つ て も、 明 治 に 入 つ て も、 常 に、 作 品 の 成 立 を 規 定 し だ、 ま た、 今 日 も、 衙 風 の 作 品 な ど を 無 批 刺 に 受 入 れ て 喜 ぶ 所 に、 こ の 傾 向 が、 明 ら か に 見 出 さ れ る と 云 ふ。 か く て は 万 畢 ・章、 世 を 他 に し た 文 人 墨 客 の 域 を 脱 れ ず、 或 は 世 俗 逸 民 の 戯 れ た る 性 格 を 永 久 に 背 負 ふ こ と と な る と 云 ふ。 こ の 批 判 は、 確 か に 我 々 の 反 償 に 榎 す る 問 題 を 提 出 し て ゐ る。 だ こ、 に 思 想 性 と 稻 す る の は、 必 ず し も 吋 定 の 名 を 冠 せ ら れ た 何 々 主 義 と 云 ふ が 如 き も の で は な い。 必 ず し も、 一 定 の 融 愈 制 策 や 綱 領 を も つ た 主 義 思 潮 を 意 味 す る の で は な い。 併 し、 少 く も、 人 賜 の 生 活 に 封 し て 強 き 關 心 を も ち、 反 省 と 批 判 と を 加 へ 得 る ま 罷 の 内 容 を 指 し て ゐ る の で あ る。 そ れ は、 人 聞 の 生 活 を 直 観 的 に ﹁ 人 生 ﹂ と 云 ふ 一 般 的 な 形 で と ち へ、. そ の 内 容 を 反 省 す る、 所 謂 人 生 襯 で あ る 場 合 も あ ら う し、 現 實 の 生 活 禮 験 か ら、 自 己 を 滋 會 内 の 存 在 と し て 見 出 し、 人 間 の 生 活 を 一 暦 知 的 に 且、 實 践 的 に 把 捉 す る 杜 愈 親 で あ 惹 揚 合 も あ ら う。 併 し、 人 間 の 生 活 や 杜 會 に 封 し て、 十 分 な 關 心 も 反 省 も な く ・ た 聖 そ の 苦 悩 か ら 自 然 の 中 に 脱 れ ろ 時、 そ こ に は、 右 の 意 味 で の 思 想 性 は 見 出 さ れ な い。 人 生 も、 自 然 の 諸 現 象 捲、 種 て を そ の 中 に 解 浩 し 包 含 腰 し め た、 廣 義 の 良 然 め 中 に、 総 己 を 見 出 す こ と は、 所 謂 文 人 墨 客 の 屡 々 な し た 所 で あ る。 鋒 然 の 諸 現 象 と 人 間 の 諸 行 と の 調 和 の 中 に 身 を 置 き、 そ の 惰 緒 を 詠 じ、 或 は、 自 然 の 造 化 に 順 ひ、 そ の 心 を 表 現 す る こ と は、 我 が 文 藝 の 特 長 と さ へ 考 へ ら れ た。 こ の 揚 合 も、 自 然 と 人 生 と の 調 和 的 な 見 方 が、 た い 傅 統 的 に 輿 へ ら れ、 或 は、 外 園 か ら 模 倣 的 に 移 入 さ れ て、 観 念 上 の 逃 避 の 場 所 と な つ て ゐ る め な ら ば、 そ こ に、 思 想 性 の な い こ と は 無 論 で あ 一 九二 〇 る。 肖 然 の 諸 現 象 と 人 間 の 諸 行 と が、 究 極 に 於 て 調 和 し て ゐ る と 観 る 立 場 が、 入 生 の 苦 悩 と 反 省 を 通 じ て、 常 に 新 し く 見 出 さ れ て こ そ、 思 想 性 が 作 品 の 根 抵 に 乳 み、 表 現 の 基 調 を な し て、 軍 な る 情 趣 の 表 現 に 畢 ら せ な い で あ ら う。 人 間 の 現 實 的 な 生 活 の 中 に 身 を 置 き、 そ の 様 々 な 苦 し み と 思 考 を 介 し、 ぐ れ を 契 機 と し て こ そ、 思 想 性 を 内 實 と し た 自 然 襯 照 が 可 能 と な る。 そ れ 故 に い ま た. 四 季 折 々 の 快 適 な 自 然 現 象 に 恵 ま れ、 或 は、 人 生 を 他 に、 美 し き 自 然 を 亨 樂 し 得 る 境 遇 の 者 が、 自 然 と 人 生 と を 調 和 的 な る 全 髄 と し て 襯 じ 得 た と し て も、 そ れ は、 苦 悩 と 反 省 を 介 し た 自 然 の 如 き 深 み は も た な い。 思 想 性 を 含 蓄 し 得 る 大 き さ も も た な い。 そ の 調 和 的 自 然 は、 要 す る に 自 己 の 快 適 な る 経 瞼 を 李 面 的 に 援 充 し た も の に す ぎ な い。 そ れ は、 勿 論、 人 生 の 苦 摘 も、 自 然 の 諸 現 象 も、 そ の 一 切 を 根 抵 か ら 包 む と 云 ふ が 如 き も の で は な い。 か く の 如 き 深 き 意 味 で の 自 然 は、 感 畳 的 経 験 の 封 象 と な る も の で は な く、 つ き つ め た 心 の 奥 底 か ら 呼 び 畳 さ れ る も の で あ リ、 本 來 的 な 自 然 で あ る。 同 じ く、 調 和 的 自 然 と 云 つ て も、 感 畳 的 経 験 に 依 て 見 出 さ れ る 自 然 と、 本 來 的 な 自 然 と は 全 く、 そ の 意 義 の 深 淺 を 異 に し て ゐ る。 一 切 を 含 む 自 然 が、 自 然 現 象 の み な ら ず、 人 生 の 諸 行 を も 根 抵 か ら 含 む も の で あ る な ら ば、 深 き 内 面 性 を も た ね ば な ら な い。 そ れ に 含 ま れ る 三 切 の 調 和 も、 感 畳 的 経 験 に 依 て 見 出 さ れ る が 如 き、 外 面 的 な 適 合 の 關 係 で は な く、 内 面 的 な 融 合 で な け れ ば な ら な い。 從 つ て、 こ の 自 然 は 外 面 的 に 見 出 さ れ る の で は な く、 心 の 奥 底 か ら 呼 び 畳 さ れ る も の で あ る。 一 切 を 含 み、 扁 切 が 蹄 一 す る が 如 き 自 然 は、 人 生 の 矛 盾 と 心 の 破 綻 に 苦 し み、 こ の 苦 悩 を 介 し て こ そ、 自 己 の 内 面 の 深 み に 見 出 さ れ る も の で あ ら う。 前 述 の 文 人 墨 客 の 如 く 調 釦 的 自 然 に 身 を 置 き、 そ の 情 趣 を 詠 じ、 或 は 造 化 に 順 ひ、 そ の 心 を 表 現 す る 者 も、 右 の 如 く、 つ き つ め た 矛 盾 を 介 し て 本 來 的 な 自 然 を 見 出 す の な ら ば、 思 ら 想 性 を 内 實 と す る こ と が で き ょ う。 從 つ て、 自 然 の 中 に 慮 己 を 見 出 し、 自 然 を 主 題 と す る か ら と 云 つ て、 必 ず し も 思 想 性 ゆ が な い と は 云 へ な い。 我 國 の 文 藝 に 自 然 を 詠 ず る も の 多 く し て、 然 も、 思 想 性 に 乏 し い と す る な ら ば、 た 野 傅 統 的 な 観 照 に 追 随 し、 又 は、 大 陸 の 文 藝 思 潮 を 外 面 的 に 移 入 し、 或 は、 感 畳 的 経 験 を 援 充 し た 表 面 的 な 立 場 に 終 始 す る も の 多 き が 故 で あ る。 併 し、 文 藝 の 意 志 は、 必 ず し も、 思 想 性 或 は、 廣 ぐ 肚 會 に 封 す る 關 心 を 含 む こ と を 要 せ ず、 一 般 に 東 洋 の 文 藝 は、 む し ろ、 か く の 如 き 關 心 を 含 ま な い と 考 へ ら れ 易 い。 東 洋 の 文 藝 は、 本 來、 非 思 想 的、 非 就 會 的 で あ る と 思 は れ る。 ま た 東 洋 の 文 藝 論 に 就 會 性 や 思 想 性 を 顧 慮 し た も の は な い と 云 ふ の が 通 念 の や う で あ る。 と こ ろ が、 こ の こ と に 關 し て、 文 鏡 秘 府
論 の 教 へ る 所 は、 甚 だ 興 味 深 い。 そ れ は 右 の 通 念 を 覆 す に 十 分 で あ る。 秘 府 論 は、 大 陸 の 詩 論 を 集 約 紹 介 し な が ら、 東 洋 の 文 藝 思 想 が、 必 ず し も、 非 思 想 的、 非 肚 會 的 で は な く、 む し ろ ソ 交 藝 が、 本 質 的 に 思 想 的 で あ り、 肚 會 的 關 心 を 含 む べ き で あ る と す る 側 面 を 援 大 し て 見 せ て ゐ る 沿 こ の や う な 集 約 と 据 大 に 於 て、 我 々 は、 大 師 の 文 藝 思 想 の 中 核 を 知 る の で あ る が、 そ れ と 共 に 我 國 の 文 藝 思 潮 に 交 流 し 來 つ た 大 陸 の 思 潮 が、 如 何 な る 側 面 を 主 流 と し て ゐ た か を 認 め る こ と が で き る。 ま た、 そ の 行 方 を 見 守 る こ と に 依 て、 我 が 國 の 文 藝 を 批 判 す る 上 に 重 要 な 契 機 が 把 捉 さ れ る。 イ ト ケ ナ ク シ テ 秘 府 論 の 巻 初 に ﹁ 黄 雀 盗 レ 筐 網 験 満 レ 車。 貧 而 樂 レ道 者 望 二 絶 訪 爲 幻 童 而 好 レ 學 者 取 レ 決 無 レ 由 ﹂ と 云 ふ が 如 く、 當 時 諸 種 の 詩 書 詩 論 が 將 來 さ れ、 ま た 流 布 さ れ て、 文 藝 思 潮 の 流 入 は 多 阪 に 亙 つ て ゐ た。 こ の 脈 流 を 統 括 整 理 し、 大 陸 文 藝 思 潮 の 齢 趨 を 明 ら か に し、 迷 へ る 人 々 に 指 標 を 與 へ た の が、 丈 鏡 秘 府 論 で あ つ た。 こ の 間 の 事 情 は、 次 の 序 文 に 依 て 推 察 さ れ る。 ﹁ 愛 有 二 一 多 後 生 鴨 知 ご 閑 寂 於 文 圃 一撞 ル ニ 詞 華 乎 詩 幽 叩 晋 響 難 レ 黙 披 二 巻 函 杖 二 一 即 閲 ラ ご 諸 家 格 式 等 一勘 ニ ニ 彼 同 異 一巻 軸 錐 レ 多 要 伽 則 少。 創 二 其 重 複 一存 一箕 軍 號 二 而 し て 云 ふ、 ﹁ 庶 ク ハ緬 素 好 事 之 人。 山 野 文 會 之 士 不 二 尋 千 里 一蛇 珠 自 得。 不 レ 煩 二 勢 捜 一彫 苛 可 レ 期 ﹂ と。 こ の や う に 馬 秘 府 論 は、 諸 論 を 整 理 し、 大 陸 の 文 藝 思 想 を 統 一 的 に 導 入 流 布 せ し め た。 そ こ に、 重 要 な 文 藝 史 的 意 義 が 存 す る の で あ る。 秘 府 論 は、 難 然 た る 詩 論 の 紹 介 で は な く、 大 師 の 思 想 に 依 惹 整 理 統 合 で あ る。 そ れ 故 に、 秘 府 論 を も 理 解 す る こ と は 大 師 の 文 藝 思 想 を 讃 み と る こ と 玉 な る。 ま た、 請 種 の 文 藝 思 想 が 集 約 せ ら れ、 或 る 内 容 が、 特 に 顯 と な つ て ゐ る。 そ れ 故 に、 當 時、 大 陸 文 藝 思 想 の 如 何 な る 側 面 が 主 流 と な つ て、 導 入 さ れ た か を 見 出 す こ と が で き る。 私 は、 こ の 集 約 さ れ 顯 と な つ て ゐ る も の 玉 中 で、 文 藝 の 思 想 性 に 關 す る 所 論 を 理 解 し、 敷 街 し て 見 よ う と 思 ふ。 古 か ら、 詩 文 の 創 作 に 就 い て は、 毛 詩 に ﹁ 詩 者 志 之 所 レ 之 也。 在 レ 心 爲 レ 志。 焚 レ 言 爲 レ 詩。 情 動 二 於 中 三 而 形 ご 於 言 鴨 言 レ 之 不 レ 足。 故 瑳 二 歎 之 殉 嵯 歎 不 レ 足。 故 永 歌 レ 之 ﹂ と あ つ て、 或 る 主 艦 の 内 容 が、 自 ら 顯 現 す る こ と 瓦 考 へ ら れ て ゐ る。 秘 府 論 も、 毛 詩 を 引 用 し て、 ﹁ 詩 本 志 也。 在 レ 心 爲 レ 志。 蛮 レ 言 爲 レ 詩。 情 動 ご 於 中 賦而 形 ご 於 言 幻 然 後 書 ご 之 於 紙 三 也 と あ る。 つ ま り、 主 髄 の 感 情 的 な 内 容 が、 客 観 的 な も の に 成 ら う と し て 外 に 向 つ て 動 く、 そ の 自 ら を 客 観 化 し よ う と す る 活 動 が ﹁ 志 ﹂ で あ り、 こ の 活 動 に 依 て、 言 語 的 表 現 と な り、 客 観 的 に 成 立 し た も の が 詩 で あ る と 云 ム。 こ の 所 論 の み か も 考 へ る な ら ば 二 一
二 二 詩 丈 は、 感 情 的 内 容 の 自 ら な る 襲 現 で あ り、 詩 人 自 髄 の 反 省 努 力 を 要 し な い も の 邸 如 く で あ る。 特 に ﹁ 褒 レ 言 爲 レ 詩 ゆ 情 動 二 於 中 一而 形 二 於 言 刈 ﹂ と 云 ひ、 詩 は、 感 情 の 直 接 的 な 襲 露 で あ り、 そ の 表 現 は、 ﹁ 嵯 歎 不 レ 足。 故 永 歌 ヒ 之 ﹂ と あ つ て、 あ た か も 感 叫 語 の 如 く 考 へ ら れ て ゐ る や う で あ る。 詩 は、 感 情 が、 何 ら の 手 績 も 要 せ ず に、 そ の ま、 稜 現 し た も の だ と、 軍 純 な 考 察 を 加 へ て ゐ る と 思 は れ る で あ ら う。 併 し、 こ の 考 察 は、 軍 純 で あ る に も せ よ、 原 理 的 に 云 つ て、 藝 術 的 表 現 の 究 極 の 姿 を と ら へ て ゐ る。 勿 論、 そ れ は 一 面 的 で あ る。 併 し 表 現 の 成 立 に、 種 々 の 契 機 が 含 ま れ、 様 々 の 構 造 が 考 へ ら れ る に せ よ、 畢 寛、 主 盟 の 内 面 的 な 意 味 が、 そ り ま ま 客 観 的 な 姿 を と つ て 現 れ て ゐ る と 云 ふ こ と に な ら ね ば な ら な い。 そ れ 故 に、 唯 軍 純 な 考 察 と し て 看 過 す る こ と は で き な い の で あ る が、 そ こ に 創 作 の 内 容 が 何 れ 程 具 燈 的 に 考 へ ら れ て ゐ る か 疑 問 で あ り、 何 れ 程 の 含 蓄 を も つ て ゐ る も の か 分 ら な い。 實 際、 極 め て 軍 純 に、 鳥 の 暗 聲 と 詩 の 表 現 と を、 全 く 同 一 覗 し て ゐ る が 如 き 所 論 も あ つ て、 詩 と 感 叫 語、 と を 同 列 に 考 へ て ゐ た か も 知 れ な い り で あ る。 從 つ て、 原 理 的 な 究 極 の 部 分 の み を 述 べ た 簡 軍 な 章 句 の 考 察 に 止 ま つ て ゐ て は、 我 々 は、 何 ら 満 足 を 得 る こ と は で き な い。 然 る に、 多 く の 人 は 右 の 一 章 句 の み を 取 つ て、 東 洋 り 文 藝 論 は、 詩 の 表 現 と 喘 聲 と を 一 つ に す る が 如 き 軍 純 な 考 察 し か な し 得 な い と 思 つ て み る。 か く の 如 ぐ、 そ れ こ そ 軍 純 に 考 へ て ゐ る。 併 し、 我 々 が、 檬 々 な 角 度 か ら 述 べ ら れ た 多 く の 所 論 を 併 せ 考 へ、 思 想 の 構 造 を 綜 合 し て 見 る な ら ば、 右 の 章 句 は、 た 穿、 原 理 的 な 部 分 の 一 つ に 過 ぎ な い こ と が 理 解 さ れ る。 ま た、 こ の 章 句 の 含 蓄 が 理 解 さ れ、 新 し く 見 直 さ れ る の で あ る。 詩 文 の 表 現 が、 作 者 の 反 省 努 力 も な く、 た 讐 直 接 的 に 感 情 の 畿 現 し た も の で な い こ と は、 誰 し も 諒 解 す る 所 で あ ら う。 推 敲 と 云 ふ 語 が、 興 味 深 い 論 話 を 語 原 と し て ゐ る が 如 く に、 詩 丈 の 表 現 に 於 け る 文 字 は、 始 め か ら 一 義 的 に 決 つ て 來 る も の で は な い 震 レ 言 而 爲 レ 詩 と い ふ 文 字 通 り の 表 面 的 な 意 味 で、 直 ち に 決 定 さ れ る の で は な い。 詩 文 に 於 い て は、 推 敲 が、 他 の 文 藝 以 上 に 重 要 な 契 機 を な し て ゐ る。 ま た、 我 國 の 歌 道 に 於 て も、 一 雀 の 歌 書 を 繕 け ば 直 ち に 見 出 さ れ る 如 く、 枕 詞、 縁 語、 懸 詞 等、 到 底 感 情 の 直 接 的 な 磯 現 と 云 ふ が 如 き こ と で は、 解 決 で き な い も の を 含 ん で ゐ る。 そ の や う に、 詩 丈 に 於 て も、 故 事、 薩 喩、 誕 刺 等 が 存 し、 且、 和 歌 な ど と は 異 つ て、 特 に 韻 律 上 の 規 定 が、 構 成 を 決 定 す る 上 の 重 要 な 契 機 と な つ て ゐ る。 こ れ は、 誰 に と つ て も 明 白 な 事 實 で あ る 限 り、 詩 論 を 立 て る 者 が、 見 逃 す 筈 も な く、 こ れ を 度 外 親 し て、 上 蓮 の 如 き 軍 純 な 表 現 の 理 論 を 叙 蓮 す る と は 到 底 考 へ ら れ な い。 右 の 字 昔 に 依 る 韻 律 上 の 規 定 は、 特 に 重 要 な 問 頚 を 示 し
て ぬ る。 詩 文 に 於 け る 文 字 妙 書 は、 た 讐、 個 々 に 散 在 し て、 一 定 の 規 則 に 從 つ て 取 レ あ げ ら れ て 來 る と 去 ふ が 如 き も の で は な い。 凡 て の 字 普 は、 特 殊 な 系 列 に 從 つ て、 云 は 讐 特 殊 な 遠 近 法 に 依 て、 互 に 闘 聯 し の 一 つ の 膨 大 な 髄 系 を な し て ゐ る。 換 嘗 す れ ば、 字 音 は、 其 等 の み で、 文 字 の 意 味 と は 猫 立 に、 特 有 の 音 響 的 世 界 を 構 成 し て ゐ る の で あ る。 そ れ 故 に、 詩 丈 の 表 現 は、 作 者 の 内 面 に 於 け る 意 味 の み か ら、 任 意 に 決 定 さ れ る も の で は な い。 字 骨 は、 字 皆 特 有 の 法 則 を も ち、 自 已 圃 有 の 世 界 を も つ て ゐ て、 丈 字 の 意 味 に 澄 随 し ゐ る も の で は な い。 感 歎 詞、 或 は、 感 叫 語 の 如 く、 主 膿 の 感 情 的 内 容 に 依 て 一 義 的 に 決 定 さ れ、 そ れ と 分 つ べ か ら ざ る 合 一 を な し で ゐ る も の で は な い。 本 來、 字 皆 と 文 字 の 意 味 と は 領 域 を 異 に し て 居 り 陶 文 字 は、 こ の 爾 者 の 結 合 す る 揚 所 と 考 へ ら れ る。 云 は 穿、 意 味 の 世 界 と 音 響 の 世 界 と が、 相 接 し よ う と す る 無 限 の 近 接 黙 が 文 字 で あ り、 そ こ に、 字 義 と 字 皆 が 成 立 す る。 秘 府 論 は、 詩 論 に 於 け る、 か く の 如 き 思 想 を、 巻 頭 に 於 て 集 約 し 明 白 に し て ゐ る。 序 に 次 ぐ 調 四 聲 譜、 以 下 四 聲 論 に 至 る ま で、 特 に、 宇 普 の 自 立 的 な 髄 系 と、 韻 律 の 構 成 法 が 説 か れ て ゐ る が、 ﹁ こ れ は、 詩 文 の 内 容 の 方 向 か ら 叙 述 し 始 め る の と は、 逆 で あ る。 詩 文 に 於 け る 特 殊 な 意 味 の 世 界、 ま た、 此 を 把 提 す る 観 照 の 方 法、 そ の 境 地 等 の 説 明 か ら 始 め ず に 直 ち に、 字 音 の 世 界 を、 掲 げ て ゐ る こ と は、 詩 文 の 最 も 外 面 的 な 、 要 素 か ら 分 訴 的 に 議 論 を 進 め る 便 宜 的 な 方 法 と も 考 へ ら れ よ う。 併 し、 秘 府 論 で は 字 音 を 意 味 内 容 に 從 屡 せ る 外 面 的 な も の と は し て ゐ な い。 そ れ 故 に、 字 音 の 燈 系 を 第 三 に 叙 述 し た の は む し ろ、 詩 丈 の 世 界 に 於 て 確 然 と し て 成 立 し て ゐ る 字 昔 の 鵬 系 を、 先 づ 知 ら し め る こ と が、 詩 文 の 領 域 を 他 か ら 直 別 し、 そ の 特 殊 性 を、 明 白 な ら, し め る 所 以 と 考 へ ら れ た が 爲 で あ ら う。 先 づ、 こ の 艦 系 の 存 在 を 知 る こ と が、 詩 文 の 關 門 な の で あ る。 こ れ を く 穿 ら ず し て、 詩 文 の 世 界 に 入 つ た と は 考 へ ら れ な か つ た の 姫 あ ら う。 そ れ 故 に、 自 立 的 な 燈 系 を も つ 字 昔 の 世 界 を 考 へ る こ と は、 大 師 の 文 藝 思 想 に 於 て 中 心 的 な も の で あ る。 從 つ て、 ま た、 意 味 と 字 音 と の 二 つ の 領 域 を、 明 白 に 分 ち、 意 味 に 於 て 字 晋 が 一 義 的 に 決 定 さ れ な い と す る 思 想 が、 秘 府 論 の 雀 頭 か ら 顯 に さ れ て ゐ る と 思 ふ。 か く 考 察 す る 時、 前 掲 の 焚 レ 言 而 爲 レ 詩 と 云 ふ 章 句 も、 決 し て 字 義 の 如 く 輩 純 な も の で は な く、 廣 い 背 景 を も つ た 原 理 的 な 一 部 分 と し て 考 へ ら れ る で あ ら う。 右 の 字 昔 の 艦 系 と 音 韻 に 關 す る 所 論 は、 秘 府 論 中、 特 に 注 目 を 惹 き、 巻 初 の み な ら ず、 巻 中、 屡 々 散 見 さ れ る。 ま た、 我 國 り 歌 論 の 上 に も、 そ の 影 響 を 顯 に 見 出 す の で あ る。 秘 府 論 は、 主 と し て、 沈 約 の 四 聲 譜 に 立 脚 し、 字 音 に 依 る 音 韻 の 艦 系 を 叙 述 し て ゐ る。 沈 約 は ﹁ 沈 約 字 休 文。 呉 興 武 康 人 也。 撰 二 四 聲 譜 殉 以 爲 下 在 昔 詞 人 累 ご 千 載 一 不 上 レ 窟。 而 狸 得 二 胸 衿 輔。 二 三
二 四 窮 ご 其 妙 旨 幻 自 謂 ご 入 紳 之 作 一﹂ ( 梁 書 十 三 ) と あ つ て、 從 來、 宮 商 角 徴 羽 の 習 樂 上 の 法 則 に 追 随 し て ゐ た 詩 文 の 晋 韻 法 則 つ を、 新 た に 猫 自 の も の た ら し め た 人 で あ る。 恐 ら く 戸 聲 譜 を そ の ま、 引 用 し た と 畳 し き 秘 府 論 の 叙 述 ( 文 境 秘 府 論 箋、 雀 第 一、 調 ﹁ 聲 譜 ) に 從 へ ば、 一 切 の 字 普 を 亭 上 圭 入 の ﹁ 聲 に 分 類 し、 此 を 東 南 西 北 の 順 に 口 方 に 配 し、 夏 に、 苦 聲 の 同 一 性 に 依 て、 秩 序 を 與 へ て ゐ る。 即、 亭、 常、 祇、 壬、 は 孚 聲 で あ る が、 此 等 に 相 鷹 す る 上 去 入 の 広 音 は、 夫 々 ﹁ 伜 病 別 ﹂ ﹁ 上 樹 右 ﹂ ﹁ 去 刻 ﹂ ﹁ 妊 任 入 ﹂ で あ る。 こ の 音 聲 を 同 じ く す る 卒 上 去 人 の 一 聯 の 字 音 を 一 紐 と 呼 ぶ。 そ し て 音 聲 を 同 じ く ・す る 字 音 が 多 数 存 す る 限 り、 ま た、 一 つ の 字 音 は、 多 く の 紐 に 關 係 す る。 即、 鐘 は 入 聲 で あ る が、 此 は、 皇 晃 瑠 鐘 の 一 紐 に 厨 す る と 共 に、 曳 果 過 鍵 の 一 紐 に も 屡 す る。 ま た、 光 廣 胱 郭 の 郭 は、 禾 蝸 制 郭 の 一 紐 に も 屡 し て ゐ る。 か く し て、 夫 々 の 字 膏 は、 音 聲 の 同 一 性 に 依 て、 多 く の 字 膏 と 關 係 し、 多 く の 紐 を 形 成 す る。 從 つ て、 此 等 の 無 数 の 紐 は 通 相 互 に 交 錯 し 網 目 の 如 く に 關 係 し あ ふ。 云 は 讐、 一 つ 一 つ の 字 音 が、 こ の 翻 の 結 び 目 を な し、 そ こ に、 多 く の 紐 が 交 叉 し て ゐ る。 更 に、 音 聲 上 全 く 同 一 で な く と も、 最 後 の 母 音、 若 し く は 韻 尾 を 同 じ く し、 或 は 最 初 の 子 音 を 等 し く す る も の は、 相 互 に 關 係 し て、 夫 々、, 鰻 韻、 マ 聲 と 呼 ば れ る。 例 へ ば 郎 朗 浪 落 は、 羊 養 蕪 藥 と 最 後 の 母 音 を ( 入 聲 に 於 て は 韻 尾 を ) 等 し く し て、 繰 韻 の 關 係 に あ り、 ま た 禮 麗 課 と 最 初 の 子 音 を 同 じ く 七 て ゑ 聲 の 關 係 を な す。 從 つ て、 一 つ の 紐 は、 他 の 紐 と 麟 韻 の 關 係 に あ り、 憂 に 別 の 紐 と 聲 の 關 係 に あ る。 か く の 如 き、 二 つ の 關 係 を 綜 合 す る と ﹁ 反 切 ﹂ の 關 係 が 生 ず る。 即、 或 る 紐 に 屡 す る 各 字 音 の 最 後 の 母 音 ( 又 は 韻 尾 ) は、 鱒 韻 關 係 に あ る 他 の 紐 の 各 字 膏 に 含 ま れ、 ま た、 そ の 最 初 の 子 昔 は、 刃 聲 關 係 に あ る 他 の 紐 の 各 字 昔 が 含 ん で ゐ る。 そ れ 故 に、 つ の 紐 は、 そ れ と 盤 韻 刃 聲 の 關 係 を な す 爾 紐 の 母 音 及 子 昔 か ら 合 成 す る こ と が で き る。 こ の 合 威 の 關 係 が、 反 切 で あ る。 例 へ ば、 天 は、 土 と 煙 に 樹 し て 双 聲 軽 韻 の 關 係 に あ り、 最 初 の 子 音 ︹ 己 は、 土 の そ れ と 同 じ で あ り、 韻 尾 ︹en、 は、 煙 ︹ien ︺ の 中 に 含 ま れ て ゐ る。 從 つ て、 天 は、 土 煙 の 含 む 音 聲 か ら 合 成 す る こ と が で き る。 か く の 如 き 關 係 を ﹂ 天 字 の 反 切 土 煙、 或 は 土 煙 の 切 天 と 呼 ぶ。 ( 反 切 は、 元 來、 魏 の 頃 か ら、 文 字 の 音 を 示 す 方 法 と し て 用 ひ ら れ た の で あ る。 こ の 本 來 の 意 義 に 從 へ ば、 或 る 字 音 を 合 成 す る 二 字 の 中、 第 一 一 の 字 は、 合 成 ざ れ る 字 音 と 韻 種 を 同 じ く ゐ な け れ ば な ら な い。 即、 反 切 は、 音 と 共 に 韻 種 を 示 さ ね ば な ら な い。 併 し、 秘 府 論 で は、 特 に 斯 様 な 規 定 を 示 し て は ゐ な い ). 右 の 如 く、 凡 て の 文 字 は、 他 の 文 字 と 紐 を な し、 双 聲 聲 韻 の 關 係 を と り、 ま た ・ 反 切 に 依 て 複 合 的 に 聯 關 を な す。 即、
各 字 音 は 湘 紐、 双 聲 愚 韻、 反 切 の 三 者 に 依 て、 直 接、 叉 は 間 接 に 他 の 凡 て の 字 音 と 關 係 を も つ こ と 玉 な る 今、 天 の 一 字 音 を 屯 心 と し て 考 へ る な ら ば そ れ の 厨 す る 一 つ の 紐 は ・ 天 膜 環 鐵 で あ り ・ 天 の 一 つ の 反 切 は ・ 土 煙 で あ る。 そ の 土 ン 煙 と は 夫 々、 勤 土 免 禿、 煙 堰 宴 曖 の 如 き 幾 つ か の 紐 を も つ。 ( 天 を 中 心 と す る 時、 其 の 屡 す る 紐 を 正 紐、 そ の 反 切 土 煙 の 屡 ヤ ロ ヲ す る 紐 を 傍 紐 と 云 ふ ) ま た、 煙 土 と 倒 し て、 こ の 反 切 に 依 て 鴨 の 如 き 字 普 を 得 る。 鳩 は ま た ド 鴨 汗 の 如 き 幾 ろ か の 紐 に 屡 す る。 亜 に、 此 等 の 紐 に 厨 す る 各 字 習 は、 録 韻 聲 反 切 の 關 係 に 依 て、 別 の 紐 に 關 係 し て 行 く。 か く し て、 天 の 三 字 を 中 心 と し て、 無 限 に 他 の 字 音 へ の 關 係 が 波 及 し て 行 く。 然 も、 天 字 の も つ 字 音 は 一 つ に と 穿 ま ら な い。 そ の 反 切 は 土 煙 の み で は な く、 佗 前、 佗 年、 汀 因 も あ り、 其 等 か ら 又 別 の 物 紐 が 關 聯 し て 來 る。 從 つ て 天 の 一 字 は、 無 限 に 多 く の 字 昔 と 直 接 間 接 に 關 係 を 結 ぶ こ と ゝ な る。 今、 天 の 字 音 を と つ て 読 助 し た や う に、 何 れ の 文 字 も、 書 聲 上 自 己 を 中 心 と し て、 無 限 に そ の 關 係 を 波 及 せ し め、 凡 て の 文 字 を 罷 系 的 に 關 係 せ し め る 弓 と、 な る。 然 も、 字 背 の 世 界 に 於 て は、 何 ら, 固 定 し た 中 心 と な る 字 昔 が あ る わ け で な く、 取 上 げ ら れ る に 從 つ て、 何 れ の 文 字 も、 そ の 時 々 に 罷 系 の 中 心 と な り、 他 の 文 字 が 取 上 げ ら れ る 時 は、 從 屡 的 な 要 素 と な る。 み た か も、 我 々 の 注 意 が そ、 が れ る に 從 つ て、 個 々 の 事 物 が、 任 意 に、 覗 野 の 申 心 と な り、 叉 任 意 に 周 邊 の も の と な つ て 消 え 去 る が 如 く、 そ の 時 々 に 依 て、 前 景 と も な り、 背 景 と も な り 得 る の で あ る。 そ れ 故 に、 一 つ の 文 字 を 取 上 げ る こ と は、 孤 立 的 に、 そ れ が 取 り あ げ ら れ る の で は な く 隔 常 に 背 景 を も ち、 場 所 を も つ て ゐ る。 そ れ 故 に、 紐 ヌ 聲、 愚 韻 反 切、 正 紐 レ 紐 等 の 關 係 法 則 は、 文 字 の 音 韻 的 世 界 に 於 け る 遠 近 法 で あ り、 一 、 を 取 れ ば、 そ の 昔 聲 が 周 園 に 呼 び 起 す 波 動 の 法 則 で あ る。 か く の 如 き 様 相 を、 圖 式 的 に 示 し た の が 沈 約 の 四 聲 譜 で あ つ た と 考 へ ら れ る。 註1) 沈 約 の 四 聲 譜 は 我 國 に も 中 國 に も 現 存 し な い。 こ の 他、 今 日、 全 部 叉 は 一 部 が 散 侠 し て 見 る こ と の で き な い 詩 書 の 原 文 が 秘 府 論 の 中 に 断 篇 的 に 見 出 さ れ る。 じ の 鮎 に 於 て も、 秘 府 論 は、 丈 藝 史 上 貴 重 な 資 料 と な つ て ゐ る。 資 料 的 な 研 究 に 就 い て な、 加 地 教 授 の ﹁丈 鏡 秘 府 論 の 引 用 書 に つ い て ﹂ ( 密 教 研 究 第 十 四 號 ) を 参 照 さ れ た い 上 述 の 如 く、 秘 府 論 の 巻 頭 靴 掲 げ ら れ た 鵡 日 韻 の 所 論 は、 字 訟 日 の 自 立 性 を 明 確 に し て ゐ る。 從 つ て、 度 々 右 に 述 べ た 如 く、 詩 の 表 現 活 動 を、 獲 レ 言 爲 レ 詩 と 云 ふ 章 句 の 字 義 通 り に、 簡 軍 に 考 察 し て ゐ た と は、 到 底 考 へ ら れ な い。 字 音 は、 一 つ 二 五
二 六 の 艦 系 を も つ た 特 殊 な 昔 韻 の 世 界 を 形 域 し、 自 立 し て ゐ る。 そ し て、 一 字 菅 を 取 上 げ れ ば、 此 を 中 心 と し て 無 限 に 多 く の 字 暴 關 係 し 來 つ て ・ そ の 背 塾 な す ・ か く 考 へ ら れ て ゐ る 場 合 ・ 表 現 さ れ る べ き 内 面 的 出藻 の 方 向 の み か ら、 自 ら 字 昔 が 決 定 さ れ て 來 る と は、 考 へ ら れ る 筈 が な い。 意 味 と 字 菅 と は 世 界 を 別 に し、 法 則 を 異 に し て ゐ る。 そ れ 故 に、 意 味 か ら 直 接 任 意 に 字 昔 が 決 定 さ れ る と は 考 へ ら れ な い の で あ る。 そ れ な ら ば、 斯 く 意 味 の 世 界 と 字 昔 の 世 界 と を 明 白 に 匠 別 し た 場 合、 如 何 に し て 詩 的 表 現 が 成 立 す る の か。 私 は こ の 根 本 的 問 題 の 解 決 を 秘 府 論 の 中 に 探 り、 そ れ に 依 て、 ま た、 東 洋 文 藝 の 思 想 性 の 問 題 を 根 本 的 に 把 ら へ る こ と が で き る と 思 ふ。 一 般 に、 表 現 と は、 内 面 的 な 意 味 そ の も の が 客 観 的 と な る こ と で あ る。 表 現 は、 表 徴 や 記 號 と は 異 つ て、 表 現 す る も の と、 表 現 さ れ る も の と が、 匠 別 さ れ ず に 合 一 し て ゐ る。 此 に 封 し て、 表 徴 や 記 號 は、 慣 習 或 は 約 束 に 依 て、 意 味 と、 こ れ を 指 示 す る も の と が 任 意 に 結 合 さ れ て ゐ る。 こ、 に は、 意 味 と 意 味 す る も の と の 間 に 乖 離 が 存 す る。 然 る に、 表 現 に 於 て は、 意 味 自 艦 が 音 聲 と な り、 色 と な り 線 と な つ て ゐ る。 ま た 逆 に 音 聲 や 色 や 線 が、 意 味 そ の も の な の で あ る。 こ の 表 現 本 來 の 構 造 を、 最 も よ く 示 す も の は、 藝 術 的 表 現 で あ る。 我 々 は、 一 枚 の 絡 電 に 於 て、 軍 に 線 や 色 な ど を 見 る の で は な い。 し い も も し ま た、 描 か れ た 封 象 の 雛 形 を 見 る の で は な い。 聲 家 の 見 た 風 景 或 は 艀 物 そ の も の を 見 る。 即、 叢 家 が 或 る 風 景 や 艀 物 に 於 て 見 は じ め た 美 し い 形 象 が 智 彼 り 絡 心 の 中 で 磯 展 し、 明 確 な 姿 に ま で 成 長 し た も の を 見 る の で あ る。 更 に 云 ひ 換 れ ば、 彼 が、 彼 に 特 有 の 個 性 的 な 覗 畳 に 依 て 見 出 し、 他 人 と は 異 つ た 縮 心 の 中 に 育 て、 彼 に し か で き な い 作 風 で 描 き 幽 し た も の を 観 照 す ゐ。 我 々 は、 一 枚 の 総 書 に 於 て、 軍 な る 墨、 絡 具、 紙 等 の 物 質 的 な 材 料 に の み 目 を と 璽 め る な ら ば、 そ れ は、 無 論、 絡 書 を 見 て ゐ る こ と に は な ら な い。 ま た、 實 物 の 代 用 と し で、 そ れ を 取 上 げ る 場 合 も、 絡 を 見 る と は 云 へ な い。 給 電 を 見 る と 云 ふ 限 り、 書 家 が 見 禺 し、 彼 の 絡 心 に 育 つ た 美 し い 形 象、 書 嫁 め 内 面 に 於 て 嚢 展 し 成 長 し た 形 象 そ の も の を、 親 照 す る の で な け れ ば な ら な い。 併 し、 そ の 形 象 は、 描 か れ た 線 や 色 な ど を 離 れ で、 何 虚 に あ る も の で も な い。 描 か れ た 要 素 の 全 髄 が、 と り も 直 さ ず 形 象 そ の も の で あ る。 即、 描 か れ た 叢 面 は、 叢 家 の 心 に 育 つ た 内 面 的 な 意 味 と 一 つ に な つ て ゐ る。 或 は、 舞 面 が、 意 味 そ の も の と な つ て ゐ る の で あ る。 表 現 と は、 本 來 か く の 如 き 構 造 を も つ も の を 云 ふ。 そ れ 故 に、 表 徴 や 記 號 と は、 嚴 密 に 匝 別 さ れ な け れ ば な ら な い。 象 徴 と 構 せ ら れ る も の も、 表 現 と は 全 く 別 の も の と は 考 へ ら れ な い。 象 徴 は、 屡 々、 表 徴 や 記 號 と 混 用 さ れ る、 難 回薇 が 李 和 の 象 徴 と さ れ、 梅 が、 操 の 象 徴 と さ れ る が、 此 等 は、 他 の 記 號
ほ ど に 恣 意 的 便 宜 的 な 結 合 で は な い が、 な ぼ、 多 分 に 慣 脅 的 記 號 的 で も あ る。 象 徴 倣、 本 來、 其 像 的 な 形 禮 に 於 て 現 れ な い も の、 形 象 を 超 え た る も の を つ た へ る 作 用 で あ る。 形 象 化 す れ ば、 嘘 欺 と な り、 到 底、 感 畳 の 封 象 と は な り 得 な い 高 次 の も の を 會 得 せ し め る 作 用 で あ る。 併 し、 何 ら の 形 象 も 現 さ ず し て、 此 を つ た へ る こ と は で き な い。 一 つ の 形 象 を 現 し、 そ れ と 何 ら か の 關 係 に 於 て、 示 唆 す る の 他 は な い。 或 る 形 象 を 描 ぐ こ と に 依 て こ れ を 超 え、 ま た こ れ を 包 む 背 後 の も の に 導 く か ( こ の 場 合、 高 次 の も の は、 一 っ の 形 象 に 封 す る 無 限 の 背 景 と 云 ふ 關 係 に 立 つ ) 或 は、 通 常 の 豫 想 を 超 え た 一 つ の 形 象 を 描 く こ と に 依 て、 主 艦 の 内 面 に、 更 に 高 次 の も の を 喚 起 す る か ( こ の 場 合 は、 主 膿 の 内 面 に 喚 起 さ れ た 高 次 の も の ば、 描 か れ た 形 象 の 中 に 輻 襖 さ れ る。 そ れ 故 に、 形 象 と そ の 中 に 深 く 潜 む 内 實 と 云 ふ 關 係 に 置 か れ る )、 凡 そ、 一 一 つ の 場 合 が 考 へ ら れ る。 前 の 揚 合 は、 氣 韻 漂 紗 た る 水 墨 書 や 何 も 描 か れ て ゐ な い 背 景 に、 よ り 多 く、 の 意 義 を も た せ た 総 輩、 同 じ や う な 趣 き の あ る 俳 句 其 他 の 文 藝 作 品 等 を、 其 の 例 と し て 纂 げ る こ と が で き る。 ま た、 深 い 寡 園 氣 や 情 緒 そ の も の を 現 さ う と し た 西 欧 の 象 徴 派 の 詩 や マ ー テ ル リ ン ク の 作 品 な ど も、 そ の 一 つ と し て 考 へ ら れ る と 思 ふ。 後 の 揚 合 は、 カ ン ト が 崇 高 性 を 読 明 す る 時 に 墾 げ た 荒 れ 狂 ふ 暖 漠 た る 海 や 噴 火 山 等 の 如 く 異 常 な 形 象 が、 契 機 と な つ て、 我 々 の 奥 底 に 呼 び 畳 さ れ る 高 次 の 叡 知 的 な る も の が、 そ の 異 常 な 形 象 そ の も の の 深 き 精 紳 と し て、 鱒 換 し も 兇 ら れ る 場 合 も、 一 つ の 例 で あ る が、 そ の 他、 此 の 世 の も の と も 思 は れ ぬ ほ ど 美 し く 描 か れ た 観 音 の 姿 が、 我 傭 の 心 の 底 に 潜 ん で ゐ た 一 暦 大 き く 美 し い 慈 悲 の 精 棘 を、 そ の 内 容 と し て 封 家 的 に 見 出 さ し め る 揚 合 隔 即 多 く の 美 し い 佛 菩 薩 の 尊 像 な ど も ﹂ そ の 例 で あ る。 現 實 に は 到 底 存 在 し な い や う な 偉 大 な 事 象 を 語 り な が ら、 特 殊 な 眞 實 性 を も つ 文 藝 作 品 も、 こ れ に 屡 せ し め る こ と が で き る で あ ら う。 い つ れ の 揚 合 も、 描 か れ た 形 象 そ の も の が、 直 ち に、 高 次 の も の 其 自 膣 で は な い。 形 象 に 依 て、 そ れ と め 關 係 に 於 て、 高 次 の も の が 見 出 さ れ、 呼 び 畳 さ れ る の で あ る。 併 し、 形 象 を 離 れ て、 何 虎 に あ る も の で も な い。 然 も、 そ の 形 象 は、 無 限 の も め を、 ま た、 高 く 超 越 し た る も 伽 を 呼 び 畳 す が 如 く に、 或 は、 そ れ と 一 つ の 閥 係 を も ち 讐 が 如 く に 描 か れ て ゐ な け れ ば な ら な い。 云 ひ か へ れ ば、 象 徴 し よ う と す る 意 志 そ の も の が、 形 象 に 於 て 表 現 さ れ て ゐ な け れ ば な ら な い。 そ れ 故 に、 象 徴 も、 ま た、 表 現 と は 別 の も の で な く、 廣 義 の 表 現 に 含 ま れ る の で あ る。 右 の 如 く、 表 現 に 於 て は、 線、 色、 音 聲 等 か ら な る 形 象 と、 内 面 的 な 意 味 と が 一 つ と な り、 客 観 的 と な つ て ゐ る。 か う 二 七
二 八 し た 合 一 が、 如 何 に し て 成 立 す る か。 そ れ に 就 い て、 普 通、 内 面 的 な 意 味 に 表 現 の 原 理 を 求 め、 そ の 方 向 か ら 色 彩、 線、 苦 聲 等 を 解 繹 す る の が、 表 現 作 用 を 内 面 か ら 本 質 的 に 理 解 す る 立 場 で あ る と 考 へ ら れ る。 藝 術 的、 若 し く は 美 的 意 味 の 世 界 の 中 に 於 て、 一 切 を 解 繹 し よ う と す る 藝 術 學、 も し く は 美 學 の 傾 向 は、 こ の 方 向 を と つ て ゐ る。 こ の 立 場 で は、 一 切 の も の が、 色 彩、 線、 音 聲 等 の、 形 象 を 威 す 素 材 も、 全 く 意 味 化 さ れ、 内 面 化 さ れ る。 即、 作 者 の 主 髄 の 内 容 が、 焚 展 し、 そ の ま 曳 外 に 現 れ た の が 形 象 で あ つ て 一 描 く と 云 ふ や う な 表 出 活 動 も、 全 身 を 以 て 観 る こ と で あ り、 意 味 自 畿 が、 漸 進 的 に 展 開 し、 一 暦 明 確 に な ら う と す る 蓮 動 そ の も 伽 に 他 な ら な い と 考 へ ら れ る。 意 味 は、 目 や 耳 に 於 て の み 現 れ る の で は な い、 身 盟 を 離 れ た 心 の 申 の み に あ る の で は な い、 全 身 の 活 動 が、 意 味 の 展 開 す る 活 動 そ の も の で な け れ ば な ら ぬ と す る。 素 材 に 就 い て も、 未 だ 如 何 な る 形 象 の 色 と も 決 ま つ て ゐ な い 色 彩、 未 だ、 如 何 な る 音 樂 の 一 音 節 に も な つ て ゐ な い 昔。 叉、 何 ら 特 定 の 詩 の 言 葉 の 音 聲 と も な つ て ゐ な い 聲 等 は、 結 局、 特 定 の 姿 に ま で 末 だ 展 開 分 化 し な い 無 限 定 な る 意 味 そ の も の で あ る。 一 般 的 な 意 味 そ の も の が、 封 象 的 に 見 出 さ れ た も の に 他 な ら ぬ。 そ れ 故、 甕 家、 音 樂 家 詩 人 等 の 作 家 の 立 場 か ら 云 へ ば、 本 來、 物 質 と し て の 色 や 昔 と 云 ふ も の は な い。 其 等 は、 む し ろ、 自 己 の 内 底 に 潜 め る 無 限 定 な 意 味 そ の も の で あ つ て、 自 己 の 主 艦 の 内 容 も 一 切、 こ の 無 限。 な る 意 味 の 分 化 で あ り、 そ の 内 容 を 次 第 に 見 究 め て 行 く 活 動 そ の も の で あ る。 從 つ て、 右 の 立 場 に 於 て は、 一 切 が 意 味 化 さ れ て 了 ふ の で、 音 聲 の 法 則 と 云 つ た も の も、 意 味 の 法 則 に 他 な ら な い。 そ こ で は、 晋 聲 の 百 立 性 と か、 そ れ 自 盟 の 髄 系 と か 云 ふ も の は 認 め ら れ な い。 字 音 は、 そ の 文 宇 の 意 昧 の 顯 現 で あ り、 或 は、 ま と ま つ た 文 章 の 意 味 を 形 成 す る 細 部 的 要 素 が そ の まと 現 れ た も の と 考 へ ら れ る。 そ れ 故 に 秘 府 論 が、 集 約 的 に 明 ら か に し て ゐ る 詩 論 の 思 想 の 如 き は、 そ こ に 含 ま れ る 余 地 が な い。 字 音 特 有 の 音 韻 的 世 界 を、 意 味 的 世 界 か ら 猫 立 に 考 へ る 、 こ と は、 許 さ れ な い の で あ る。 藝 術 的、 も し く は 美 的 意 昧 の 世 界 の 中 で、 一 切 を 解 繹 す る 立 場 を 徹 底 す る と 右 の 如 く に な る。 こ の 立 場 自 膿 と し て は、 徹 底 的 で あ り、 藝 術 的 立 場 は、 終 局 に 於 て は、 か く の 如 き も の で あ ら う。 即 ち、 原 理 的 に は、 全 く 正 し い と 思 ふ。 併 し、 こと 立 揚 は、 美 的 世 界、 藝 循 的 世 界 を、 始 め か ら 定 立 す る 結 果、 一 切 の 事 象 が 意 味 化 さ れ 同 質 化 さ れ て、 夫 々 の 事 象 の 異 質 的 な る 側 画 が 十 分 旨 察 さ れ 得 な い、 究 極 の 本 質 の み を、 た 穿 直 接 的 に 即 自 的 に 把 捉 し て ゐ る が 爲 に、 そ の 内 容 と な る 事 象 を 十 分 に 分 析 的 に 展 開 す る こ と が で き な い 悪 く す る と、 或 は こ の 立 場 を 理 解 す る 者 に 直 襯 能 力 が 欠 け て ゐ る と、
本 質 論 の み の 公 式 主 義 に 陥 る。 ま た、 眞 實 の 藝 術 に 於 て は 一 一 切 の も の が、 藝 術 特 有 の 意 味 的 世 界 の 中 に 解 浩 さ れ、 咀 囑 さ れ ね ば な ら な い に し て も、 そ の 内 容 と な る 様 々 な る も の、 知 性 的 な る も の、 倫 理 的 な る も め 等 は、 如 何 に し て、 藝 術 的 世 界 へ 輻 換 さ れ、 内 在 化 さ れ る の か。 今、 我 々 が 問 題 と し て ゐ る 思 想 性 の 如 き は 如 何 に し て 含 ま れ る の で あ ら う か。 更 に、 色 彩、 筆、 紙 等 の 如 き 材 料 の 問 題 は、 こ の 立 場 か ら 十 分 内 在 的 に 理 解 さ れ る に し て も、 多 く の 技 術 を 要 す る 機 械 を 駆 使 し、 如 償 た し て も 自 然 科 學 的 知 識 を 度 外 硯 し 得 な い 現 代 の 舞 毫 藝 術 や 映 叢 藝 術 の 技 法 や 材 料 は、 如 何 に し て 内 在 化 す る の で あ ら らノ の う。 ま た、 工 揚 的 生 産 組 織 を も つ 藝 術 な ど は、 如 何 に 取 扱 ふ べ き で あ ら う か。 此 等 の 問 題 に 封 し て、 上 述 の 立 場 は 十 分 な 解 決 を 與 へ 得 な い で あ ら う。 そ れ は、 藝 術 的 世 界 の 本 質 を 即 自 的 に 把 捉 し、 そ こ か ら 一 切 を 考 察 し よ う と す る が 爲、 如 何 に し て も、 立 揚 が 狭 く、 本 質 そ の も の に 合 致 し な い 異 質 的 と 見 え る も の を 考 察 の 外 に 置 く 他 は な い か ら 七 あ る。 そ れ 故 に、 藝 術 的 世 界 の 成 立 す る 展 開 の 諸 契 機 を 十 分 に 見 つ く し、 そ の 本 質 が、 様 々 に 自 己 を 攣 貌 し、 非 本 質 的、 或 は 異 質 的 と 見 え る も の に さ へ、 自 己 を 輻 じ て ゐ る 揚 合 も、 直 ち に 考 察 の 外 に 置 く こ と を せ ず、 一 磨、 一 つ の 契 機 と し て 異 質 的 な る が ま 瓦 に 取 り 入 れ、 凡 て を 含 み な が ら 綜 合 的 に 藝 術 の 世 界 を 明 あ か に し な け れ ば な ら な い、 當 初 か ら 本 質 論 を 掲 げ、 こ の 本 質 に 直 接 合 致 し 得 な い も の は、 凡 て 非 藝 術 的 と し て 考 察 の 外 に 置 く な ら ば、 到 底、 具 髄 的 な る 藝 術 學 の 立 場 は 成 立 し な い。 藝 術 の 自 立 性、 美 的 な る も の 瓦 自 律 性 に 執 着 し、 直 接 的 に 把 捉 し た 本 質 論 の み を 面 守 す る な ら ば、 却 て、 排 他 的 と な り、 無 内 容 な る 學 に 縛 じ て 了 ふ。 か く の 如 き、 藝 術 學 の 根 本 的 問 題 を 反 省 す る 上 か ら も、 秘 府 論 は、 深 い 暗 示 を 含 ん で ゐ る と 思 ふ。 さ て、 右 に 述 べ た が 如 く、 最 も 内 面 的 に 表 現 作 用 の 本 質 を 把 捉 す る も の と 考 へ ら れ る 立 場 で は、 一 切 が 意 味 化 せ ら れ 内 在 化 ざ れ て、 字 音 そ の も の 玉 特 殊 な 世 界 を 考 へ る 余 地 が な い。 と こ ろ が、 こ の 立 揚 と は 異 つ て、 秘 府 論 が 集 約 的 に 明 か に す る 詩 論 の 立 揚 は、 字 晋 の 世 界 と 意 味 の 世 界 と を、 明 白 に 痕 別 す る。 字 音 は、 決 し て、 文 字 の 意 味 そ の も の で は な い と 考 へ ら れ る。 意 味 即 字 昔 と す る 揚 合 は、 意 味 的 統 一 の 法 則 が、 直 ち に 字 音 の 世 界 に 於 け る 法 則 と な る。 然 る に、 こ 玉 で は 字 昔 の 音 韻 的 世 界 は 猫 自 の 法 則 を も ち、 意 味 と 音 韻 の 爾 世 界 の 間 に は、 一 慮、 異 質 的 な る 相 異 が 存 し て、 直 ち に は 同 一 性 が 認 め ら れ な い。 ケ ン 併 し、 沈 約 は、 李 上 去 入 を 東 南 西 北 に 配 し、 又、 藪 思 伯 の 論 難 に 答 ふ る 文 の 申 に、 ﹁ 正 以 レ 春 爲 二 陽 中 殉 徳 澤 不 レ 偏。 即 雫 二 九
三 〇 聲 之 象。 夏 草 木 茂 盛 炎 熾 如 レ火。 即 上 聲 之 象。 秋 霜 凝 木 落。 虫 レ根 離 レ本。 即 去 聲 之 象。 冬 天 地 閉 藏。 萬 物 壷 牧。 即 入 聲 之 ナ リ の こ 象 ﹂ と 論 じ て、 春 夏 秋 冬 に 配 し て ゐ る ( 文 鏡 秘 府 論 箋、 雀 第 三、 四 聲 論 ) こ れ に 依 る と、 沈 約 は 四 聲 夫 々 に 於 て、 或 る 無 限 定 な る 意 味 の 音 聲 的 表 現 を、 認 め て ゐ る か の 如 く に 思 へ る。 即、 我 々 は、 東 南 西 北 の 方 位 に 就 い て、 夫 々 異 つ た 感 情 を 抱 き、 ま た、 春 夏 秋 冬 の 四 季 折 々 に 夫 々 趣 き を 異 に し た 季 節 感 を も つ が、 そ の 方 位 感 や 季 感 の 如 く に、 そ れ と 限 定 の で き な い 意 味 内 容 を、 四 聲 夫 々 が 表 現 し て ゐ る と 考 へ て ゐ る が 如 く 見 え る。 併 し、 そ れ は、 む し ろ 蓮 に、 四 聲 そ の も の が、 自 己 を 表 現 す る と 考 へ ら れ て ゐ る の で あ つ て 四 聲 そ の も の が、 云 は 野 自 ら を そ の や う に 性 格 づ け る の で あ る。 そ れ は、 丁 度 風 の 戸 を ゆ す る 苔 が、 何 者 の 表 現 で も な い の に、 我 々 が こ れ を 淋 し い と 感 ず る の は、 風 の 音 が、 そ の や う に 自 己 を 性 格 づ け る か ら だ と、 考 へ る の に 似 て ゐ る。 物 は、 我 々 が こ ち ら か ら 認 識 す る よ り も、 む し ろ 物 が、 我 々 に 認 識 を 要 求 し、 自 己 を 主 張 し て、 内 面 に 入 り 來 る が 如 く、 風 の 晋 も、 自 己 を 性 格 づ け て 我 ゐ の 主 磯 の 中 に 内 面 化 し 來 る の で あ る。 原 理 的 主 贈 は、 内 面 的 意 味 に 置 か れ ず に、 音 聲 の 側 に 置 か れ て ゐ る。 そ れ 故 に、 前 掲 の 丈 を 熟 護 す れ ば 分 る が 如 く、 春 は ﹁ 雫 聲 之 象 ﹂ で あ り、 夏 は ﹁ 上 聲 之 象 ﹂ ・ で あ り、 秋 冬 は、 夫 々、 ﹁ 去 聲 之 象 ﹂ ﹁ 入 聲 之 象 ﹂ で あ る。 云 ひ か へ れ ば、 春 夏 秋 冬 の 諸 相 を、 四 聲 そ の も の 玉 顯 現 で あ る と ま で は 考 へ て ゐ な い が、 殆 ど そ れ に 近 い 考 察 を 示 し て ゐ る。 假 に、 春 夏 秋 冬 の 諸 相 を、 宇 暫 の 世 界 に 於 け る 諸 現 象 と す れ ば、 そ の 揚 合、 共 等 の 現 象 は、 四 聲 が 自 已 を 限 定 し 性 格 づ け た も の に 他 な ら な い と 云 ふ 意 味 で あ ら う。 そ れ 程、 字 菅 の 世 界 は、 意 味 的 統 一 の 世 界 と は 別 に 成 立 し、 自 立 的 な 法 則 と 機 能 を も つ と さ れ て ゐ る の で あ る。 こ の 世 界 は、 云 ふ ま で も な く、 輩 な る 菅 響 の 世 界 で も な く、 ま た、 音 樂 の 素 材 た る 樂 音 の 世 界 で も な い。 特 に 字 音 の そ れ で あ る。 字 音 の 法 則 を 樂 罎 日 の 法 則 に 追 随 せ し め て ゐ た 從 來 の 思 想 を 脱 し て、 字 膏 そ の も の の 猫 自 の 法 則 を 見 出 し た 所 に、 沈 約 の 功 蹟 が 存 す る。 右 に 依 て 諒 解 さ れ る が 如 く、 字 音 の 世 界 と 意 味 的 統 一 の 世 界 と は、 表 現 的 關 係 を 以 て 合 一 ル て ゐ る の で は な く、 乖 離 し て ゐ る。 そ れ な ら ば こ の 二 つ は 如 何 に し て 一 つ と な い 得 る で あ ら う か 心 即、 詩 丈 の 表 現 は 如 何 に し て 威 立 す る の だ ら う か。 意 味 と 字 菅 と が 關 係 を し て ゐ る 場 所 は 文 字 以 外 に は な い。 こ れ を 除 い て 表 現 の 成 立 す る 所 は 何 虞 に も な い で あ ら う。 漢 字 は、 本 來、 象 形 文 字 と し て、 人 々 の 磁 愈 的 活 動 の 意 志 に 基 く 傳 達 行 爲 の た め に、 意 味 と 昔 聲 と を 慣 脅 的、 記 號 的 に 結 合 せ し め て ゐ る。 即、 そ の 爾 者 は、 各 文 字 に 於 て 表 徴 的 踊 係 に 置 か れ て ゐ る。 字 昔 が、 意 味 と は 別 の 特 殊 な 音 響 的 世 界 に
属 す る も の と さ 舵 な が ら、 髪 る 馨 で は な く、 あ く ま で、 字 音 と し て、 峯 を 離 れ ざ る も の き 血、 意 味 が、 字 音 の 盟 系 か ら 匿 別 さ れ な が ら、 ど こ ま で も、 文 字 に 依 て 現 さ る べ き 意 味 と し て、 文 字 が 推 敲 さ れ る が 如 く、 爾 者 は ・ 文 字 を 離 れ ず、 丈 字 に 於 て 關 係 づ け ら れ て ゐ る。 こ の 關 係 は、 元 來、 徳 達 行 爲 と 云 ふ 肚 會 的 生 活 の 意 志 に 依 て 結 ば れ て ゐ る。 從 つ て、. そ れ は、 慣 習 的 で あ り、 記 號 的 で あ る が、 併 し、 癌 別 さ、 れ た 二 つ の も の に ・ ま つ 與 へ ら れ て ゐ る 關 係 は ・ 此 以 外 に 存 し な い。 文 字 は、 乖 離 せ る 二 つ の も の が、 そ こ に 置 か れ、 關 係 せ し め ら れ る 場 所 で あ る。 合 一 し 表 現 と な る 足 揚 も、 こ 玉 を 離 れ て 何 虎 に も な い。 云 は 穿、 文 字 は、 乖 離 せ る 爾 者 が、 そ こ に 交 り 來 つ て 内 合 一 せ ん と す る 近 接 鮎 で も あ る。 併 し、 ヅ そ れ は、 あ く ま で、 記 號 的 な も の と し て、 如 何 に 近 接 し て も 乖 離 が 存 し、 然 も、 そ れ に 於 て の み 合 一 が な さ れ る の 他 健 な い と す れ ば、 翠 に 近 接 黙 で は な く、 無 限 大 の 近 接 鮎 の 如 き も の で あ る。 か く の 如 き 無 限 大 の 近 接 黙 に 於 て 合 一 が な さ れ ね ば な ら ぬ と す れ ば、 飛 躍 的 に な さ れ る の 他 は な い。 即、 詩 文 に 於 け る 意 味 と 字 音 と の 表 現 的 合 一 は、 文 字 に 於 て 飛 躍 葡 に 行 は れ る。 丈 字 に 於 て、 意 味 と 字 普 と が、 表 徴 的 關 係 か ら 表 現 的 合 一 へ 鱒 換 さ れ る。 或 る 意 味 に 就 い て、 如 何 に 適 切 な る 文 字 を 求 め、 字 膏 を 追 求 し て も、 爾 者 の 文 字 に 於 け る 關 係 は、 常 に 慣 習 的、 記 號 的 で あ る が 爲 に、 ど こ を で も、 乖 離 が 存 し、 交 叉 す る 黙 は 得 ら れ な い。 從 つ て、 或 る 近 接 黙 に 於 て 飛 躍 的 に 一、 つ と な ら ね ば な ら な い。 即、 何 れ か の 丈 字 に 於 て、 究 極 の 近 接 黙 を 得、 そ こ に 於 て 飛 躍 的 に 合 一 す る の で あ る。 適 切 な る 文 字 を 求 め る と は、 始 め か ら 一 つ に 交 つ て ゐ る 黙 を 求 め る こ と で は な く、 實 は、 そ こ に 於 て 飛 躍 す べ き 近 接 鐵 を 求 め る こ と で あ る コ そ の 文 字 に 於 て、 表 徴 が 表 現 に 鱒 換 さ れ る。 そ れ 故 に、 詩 文 の 創 作 は、 意 味 と 音 聲 と を、 如 何 な る 文 字 に 於 て 合 三 せ し め る か が、 重 大 な 問 題 と な る。 文 字 の 選 揮 と は、 意 味 と 昔 聲 と の 表 現 的 關 係 が 成 立 す る に 最 も 適 切 な る 揚 所 を 求 め る こ と で あ る。 檬 々 の 文 字 を、 次 か ら 次 へ と 選 鐸 し 推 敲 し て 行 く こ と は、 意 味 と 字 昔 の 近 接 を 蓮 績 的 に 押 し 進 あ て 行 き、 究 極 の 近 接 黙 を 求 め 行 く こ と で あ る。 こ の 究 極 の 難 に 於 て の み、 眞 の 表 現 的 舎 一 が 得 ら れ る。 推 敲 の 動 か ざ る 決 着 郵 は、 右 の 蓮 績 的 近 接 を 究 め つ く し た 所 に 於 て、 飛 躍 的 に 決 つ て 來 る。 從 つ て、 表 現 の 成 立 は 瞬 時 に 現 れ、 あ た か も、 感 惰 が そ の ま ま 叫 聲 と な つ て 獲 せ ら れ る が 如 き 様 相 を 示 す。 そ し て、 推 敲 に 於 て 究 め 來 つ た 近 接 の 過 程 が 非 本 質 的 な 無 意 味 な る 作 用 で あ つ た が 如 く 思 は れ る。 そ れ 故 に、 表 現 成 ち へ 立 の 飛 躍 的 な る 事 態 の み を 見 れ ば、 意 味 そ の も の が、 自 ら 昔 聲 と し て 瞬 間 的 に 現 れ る が 如 く 考 へ ら れ る。 右 の 如 き 本 質 的 な 部 分 の み の 考 察 か ら す れ ば、 毛 詩 の ﹁ 焚 レ 言 爲 レ 詩。 情 動 二 於 中 輔而 形 二 於 言 鴫 故 嵯 ご 歎 之 刈 ﹂ 云 々 と 説 く 章 句 も、 秘 府 論 の 三 一
三 二 向 様 な 所 論 も、 内 面 的 な 意 味 の 直 接 的 顯 現 を 示 す も の と 思 は れ る で あ ら う。 併 し、 こ れ は、 前 に も 述 べ た 如 く、 究 極 の 原 理 的 な 部 分 を 指 す に す ぎ な い こ と は、 明 白 で あ ら う。 字 昔 凋 自 の 艦 系 を 強 調 し、 意 味 的 統 三 の 世 界 か ら の 乖 離 を 認 め て ゐ る 場 合、 右 の 如 き 輩 純 な 考 察 を 加 へ る こ と は 許 さ れ な い。 蓋 し、 こ の 軍 純 な 考 察 を 是 認 し 基 礎 づ け る も の は、 上 述 の、 藝 術 の 本 質 を 即 自 的 に 把 捉 し て、 一 切 を 意 味 の 中 に 解 浩 す る 藝 術 學 の 立 場 で あ ら う。 こ の 立 場 で は、 線、 色、 音 聲 等 の 素 材 ち ぼ ぼ ほ 始 め か ら 意 味 化 さ れ、 意 妹 の 中 に 内 在 せ し め ら れ て ゐ る。 勿 論、 書 家 の 構 想 が、 始 め か ら 線 と 色 の 塞 聞 的 形 象 に 於 て の み 進 展 し 得 る が 如 く、 詩 文 の 作 者 の そ れ も、 字 音 を 離 れ て 可 能 で あ る と は 考 へ ら れ な い。 併 し、 そ の 故 を 以 て、 直 ち に、 に 内 面 的 意 味 が、 繭 芽 の 厭 態 に あ つ て、 主 罷 の 中 に 潜 む 時 か ら、 既 に 字 晋 と 合 一 し て 居 り、 そ の 具 象 的 な 焚 展 め 結 果 が、 作 品 と な る と は 云 へ な い。 斯 く 考 へ る こ と が、 既 に 字 音 を 内 面 化 し、 意 味 の 中 に 解 消 し て ゐ る こ と で あ つ て、 字 音 そ の も の 玉 猫 自 性 を 認 め な い こ と で あ る。 此 に 反 し て、 こ の 凋 自 性 を 認 め、 意 味 か ら の 乖 離 を 許 し、 そ の 異 質 性 を 浩 去 し な い 立 場 に 於 て は、。 飛 躍 的 に 爾 者 の 合 一 が 成 立 し 表 現 が 達 成 さ れ る 時、 作 品 が 現 れ る の で あ り、 ま た、 そ の 時 に、 始 め て、 十 分 な る 意 味 で 藝 術 的 立 場 に 到 達 し 得 る と 考 へ ら れ る。 こ の 考 察 よ り す れ ば、 意 味 と 字 音 と が 一 つ に な つ た 全 盤 が 成 立 せ ざ る 場 合 は、 麗 に 内 面 的 な 活 動 に と 壁 ま り、 表 現 が 戊 立 し な い ば か り で な く、 藝 術 的 立 場 が 十 分 に 槻 か れ な い。 當 初 か ら 合 一 が 成 立 し、 藝 術 的 立 場 が、 既 に 本 質 的 に 達 威 さ れ て ゐ て、 然 も、 表 現 が 域 立 し な い と は 考 へ ら れ な い の で あ る。 創 作 の 内 面 的 過 程 が、 當 初 か ら 字 音 を 離 れ 得 な い と 云 ふ の は、 常 に 文 字 に 於 て、 昔 聲 と の 表 徴 的 關 係 が 究 極 の 近 接 へ と 推 し 進 め ら れ る こ と で あ つ て、 意 味 と 字 音 と が 始 め か ら 合 一 し そ ゐ る こ と で は な い。 右 に 繰 返 へ し 述 べ た が 如 く、 文 字 に 於 て 求 め ら れ た 究 極 の 近 接 黙 に 於 て、 意 味 と 字 晋 と の 表 徴 的 關 係 が、 表 現 的 合 一 へ と 鱒 ぜ ら れ る。 こ の 揚 合、 表 徴 的 蘭 傑 は、 全 く 浩 失 し て 了 ふ の で あ ら う か。 更 に、 こ の 關 係 を 支 へ、 合 一 の 場 所 を 與 へ て ゐ る 肚 愈 的 な 傳 達 の 意 志 は、 如 何 な る の で あ ら う。 文 字 は、 意 味 と 字 音 と が、 表 徴 的 に 外 的 に 結 合 さ れ る 揚 所 で あ る が、 こ の や う を な 場 所 を 形 成 し、 そ れ を 支 へ る も の は、 人 々 の 肚 會 的 活 動 の 意 志 で あ ち。 即、 文 字 に 於 け る 表 徴 的 結 合 は、 人 々 が、 自 己 の 思 想 を 廣 く、 且 遠 く 傳 達 し、 他 の 人 々 と 交 渉 を 結 び、 自 己 を 肚 會 的 な 關 係 の 中 に あ ら し め よ う と す る 意 志 に 基 い て ゐ る。 そ の 意 志 は、 ま た、 自 己 を 肚 會 の 中 に 於 て 形 成 し、 道 に、 杜 會 を 自 己 の 環 境 と し て 攣 化 せ し め よ う と す る 意 志
で も む る. か く、 の 如 き 肚 會 的 活 動 の 意 志 は、 表 現 の 成 立 と 共 に、 失 は れ て 了 ふ の で あ ら う か。 表 現 的 合 一 が 成 立 し、 藝 衛 的 世 界 が 開 か れ る と 共 に、 作 晶 は、 そ の 別 世 界 に 入 つ て、 他 と は 全 く 關 係 ゲ 断 つ て 了 ふ の で あ ら う か。 藝 術 の 自 立 性 を、 他 の 領 域 か ら 匿 別 ず る こ ど に 於 て の み 考 へ る 立 場 で は、 こ の や う に、 他 と の 關 係 を 噺 つ べ き も の る さ れ る で あ ら う。 勿 論 全 人 聞 性 ど 云 ふ が 如 き も の を 考 へ、 そ こ に 於 け る 關 係 は 認 め る で あ ら う。 そ れ に し て も、 直 接 藝 術 的 表 現 の 成 立 に 於 て、 他 と 働 關 係 を 攻 究 す る こ と は 許 さ な い で あ ら う。 併 し 次 の 如 き 場 合 を 考 察 し て み る な ら ば、 か う し た 自 立 性 の 考 へ が 不 十 分 で あ る こ と は 直 ち に 明 白 と な る。 藝 術 的 表 現 で あ る か ら と 云 つ て 遁、 余 り に も、 就 會 一 般 お の 通 念 を 逸 れ た 描 爲 を な し、 表 徴 的 關 係 を 輕 硯 し て、 恣 な 語 法 を 用 ゐ た 作 品 に 接 す る 時、 我 凌 は、 直 ち に、 そ の 非 常 識 や 無 軌 道 さ を 排 撃 し た く な る。 我 々 は 余 り に も 這 理 に 合 は な い 黙 と か、 日 常 の 経 験 を 逸 睨 し て 理 解 で き な い 簡 所 と か、 或 は 亀い と は し い 稚、 無 理 に 歪 曲 さ れ た 用 語 法 な ど を あ げ て、 餉挽 判 す る で あ ら う。 其 等 は、 皆、 藝 術 以 外 の 立 揚 か ら 見 出 じ 得 る 事 柄 で あ る。 日 常 生 活 の 経 験 や、 灘 會 一 般 の 道 理 や、 用 語 法 の 常 識 等 に 照 し て 分 る ヒ と で あ る。 我 々 は、 故 意 に 藝 術 以 外 の 立 場 に 擦 ら う と す る の で は な い が、 自 然 に、 心 の 中 か ら、 他 の 立 場 が 呼 び 畳 さ れ て、 右 の 如 き 事 柄 を 照 し 出 す の で し も も も カ も も も も り う も も あ る。 作 品 を 観 照 し て ゐ る う ち に、 そ の 観 照 し て ゐ る 心 の 中 か ら、 藝 備 以 外 の 立 場 が 與 へ ら れ て 來 る。 こ の あ り、 噂 血 た 事 態 が、 實 に 重 要 な こ と を 暗 示 し て ゐ る と 思 ふ。 即、 頭 初 か ら 他 の 立 場 に た つ て 批 判 す る の で な く、 作 晶 を 観 照 す る と 云 ふ 藝 術 的 な 活 動 を な す 心 そ の も の、 中 に、 他 の 立 場 が 呼 漢 畳 さ れ る。 そ の こ と は 藝 術 的 な 立 場 そ の も の 瓦 中 に、 藝 術 以 外 の も の が 含 ま れ で ゐ る こ と を 示 し て ゐ る。 そ の 中 に 於 て 呼 び 畳 さ れ る が 如 き、 他 の 立 揚 が 潜 み、 本 質 的 に、 藝 術 的 立 場 の 成 立 に 關 係 し て ゐ る こ と を 暗 示 し て ゐ る。 右 の 他 の 立 場 と は、 日 常 的 経 験 や 常 識 で あ る こ と も あ ら う し、 或 ぴ は、 枇 會 的 慣 習 的 な 契 約 や 常 軌 で あ る こ と も あ ら う。 必 ず し も、 カ ン ト が 美 的 判 断 力 に 就 い て 考 へ た 認 識 能 力 一 般 と 云 ふ が 如 き も の で は な い。 必 ず し も、 さ う 云 ふ 能 力 一 般 の 法 則 に 反 す る が 故 に、 他 の 立 場 が 喚 起 さ れ る の で は な い。 喚 起 ざ れ る 他 の 立 場 ゆ、 根 本 的 に は、 そ れ に 基 礎 づ け ら れ て み る に し て も、 能 力 一 般 と 云 ふ が 如 き 無 限 定 な も の で は な く、 更 に 限 定 さ れ て ゐ る 揚 合 が 多 い。 限 定 さ れ て は ゐ て も、 就 會 的 に 普 遍 的 で あ つ て、 人 間 本 來 の 能 力 以 上 に、 肚 會 的 に 客 翻 化 さ れ て 居 り、 そ れ だ け 肚 會 的 な 権 威 を も つ て ゐ る。 観 照 す る 心 そ の も め の 中 に 與 へ ら れ て く る 藝 術 以 外 の 立 場 は、 右 の 例 の 如 き 場 合、 総 じ て、 就 會 的 活 動 の 惹 志 に 依 て 形 成 さ れ、 保 捻 さ れ て ゐ る も の で あ る。 從 つ て、 我 々 は、 藝 術 的 な 立 場 の 中 に、 本 質 的 三 三
三 四 に、 藝 術 以 外 の もと が 潜 ん で ゐ と 云 ふ、 ま こ と に 矛 盾 し た 結 論 に 到 達 す る。 そ し で、 こ の 藝 術 以 外 の も の は、 総 じ て、 肚 會 的 活 動 の 意 志 に 支 へ ら れ る も の で あ る。 そ れ が 凡 て で は な い に し て も、 そ の 主 要 な る も の で あ る。 か く の 如 き 矛 盾 に 到 達 せ ざ る を 得 な い と す れ ば、 我 々 は、 從 來 考 へ ら れ て ゐ る が 如 き 藝 衛 の 概 念 を 改 め ね ば な ら な い。 釦、 他 の 一 切 の も の に 拘 ら な い 特 有 の 個 性 的 な 意 味 内 容 が、 表 現 の 素 材 と 合 三 し 客 襯 的 と な つ た も の が 藝 術 作 品 で あ る と 太 ふ 考 察 は、 狭 隆 で あ る と せ 訟 ば な ら な い。 藝 術 家 が、 一 草 一 木 を 凝 観 し、 こ れ を 表 現 し て ゐ る 揚 合 と 錐 も、 そ れ が、 眞 の 藝 術 作 品 と し て 普 遍 性 を も つ な ら ば、 軍 に 個 性 的 だ 意 味 内 容 の 客 観 化 で は な い。 一 般 に、 こ の 個 性 的 意 味 内 容 が、 藝 術 本 來 の 慰 の で あ つ て、 こ れ を 把 捉 し て 他 の 何 も の に も 拘 ら な い の が 藝 術 の 立 場 で あ る と 考 へ ら れ て ゐ る。 個 性 的 な 意 味 内 容 は、 重 要 な 契 機 で あ る に 相 異 な い し、 甚 の 考 察 を 除 い て 藝 術 學 が 成 り 立 た な い こ と は 云 ふ ま で も な い。 併 し、 そ れ が 蜘 何 に 多 ぐ の 契 機 を、 自 巳 の 内 容 と し て 含 ん 守 ゐ る に し て も、 そ れ だ け を 原 理 と す る 考 察 が 独 瞳 で あ る こ と は、 上 述 に 依 て 明 ら か で あ ら う。 こ に ・ 重 要 な の は ・ 藝 術 を 観 照 す る 心 そ の も の、 中 に、 非 枇 會 的 な る も の を 批 判 し 照 し 出 す 能 力 が 含 ま れ て ゐ る こ と で あ る ・ 從 つ て ・ 藝 術 的 立 場 は ・ 廣 く ・ 個 性 的 慧 味 内 容 と 共 に ・ 器 的 活 動 り 意 志 を 含 ん で ゐ る と 云 み こ と が で き る。 我 々 は、 先 に、 余 り に も 就 會 三 般 の 通 念 や 道 理 を 逸 し、 肚 會 の 意 志 に 支 へ ら れ た 通 常 の 用 語 法 を 無 観 せ る 作 品 に 就 い て、 直 ち に、 藝 術 以 外 の 立 場 か ら 批 剰 す る こ と を 述 べ た。 更 に、 一 見、 非 常 識 で あ り、 非 就 脅 的 で あ り な が ら、 我 々 を 納 得 せ し め、 反 感 を 起 さ し め な い 作 品 の あ る こ 竜 注 意 し な け れ ば な ら な い。 併 し、 こ の 揚 合 も、 そ の 作 品 が、 非 融 會 的 で あ る こ と を 示 す の で も な く、 ま た、 藝 術 が、 非 融 會 的 で あ つ て も よ い こ と を 指 す の で は な い。 そ の 作 品 が、 眞 實、 非 融 會 的 で あ る な ら ば、 直 ぢ た、 我 々 の 批 判 を 呼 び 起 す で あ ら う。 こ れ を 呼 ぴ 起 ざ な い の は ︹ 非 敢 會 的 な る も の を 照 し 出 す 立 場 を 本 質 的 に 満 足 せ し め る か ら で あ ら う。 一 見、 非 肚 會 的 で は あ つ て も、 枇 會 的 活 動 の 意 志 に 背 反 し た 眞 實 性 を も た な い も の を、 描 い て ゐ も の で は な い。 肚 會 的 活 動 の 意 志 の 本 質 を 包 含 し て、 そ の 本 質 に 背 か ず、 本 質 の 現 れ と し て 可 能 な る も の を 描 い て ゐ る の で あ る。 現 象 的 に は 非 就 會 的 で あ り、 現 實 と 相 異 し て 非 常 識 で あ つ て も、 本 質 的 に は、 肚 會 的 活 動 の 意 志 に と つ て、 可 能 的 で あ る が 故 に、 我 々 の 批 剰 を 呼 び 畳 さ な い の で あ る。 斯 く 考 察 し 來 る な ら ば、 他 の も の と の 匝 別 に 於 て の み 藝 術 の 自 立 性 を 考 へ、 藝 術 そ の も の 瓦 成 立 に 就 い て、 他 の も の と の 直 接 的 な 關 係 を 認 め な い 立 揚 が、 如 何 に 抽 象 的 で あ る か は、 明 官 で あ ら う と 思 ふ。 藝 循 的 立 揚 の 中 に は、 就 會 的 活 動 の
意 志 が、 重 要 な 契 機 と し て 含 ま れ て ゐ る の で あ る。 ひ ち が へ つ て、 詩 文 の 表 現 を 考 察 す る 時 馬 文 字 忽 於 て、 字 昔 と 意 味 と が 合 一 し 表 現 が 成 立 す る や、 全 く 他 と の 開 係 を 失 つ て 別 の 領 域 に 入 る と 考 へ る べ き 理 由 は 存 し な い。 文 字 に 於 け る 表 徴 的 關 係 が 消 失 し、 こ の 關 係 を 支 へ る 肚 曾 的 活 動 の 意 志 か ら、 無 關 係 と な つ て 了 ふ ど 考 へ る べ き で は な い の で あ ら う。 上 述 の 如 く、 藝 術 的 立 揚 そ の も の、 中 に、 肚 會 的 活 動 の 意 志 が 包 含 ざ れ る と す れ ば、 む し ろ 沸 文 字 に 於 け る 表 徴 的 閥 係、 ま た、 こ れ を 支 へ る 杜 會 的 な 意 志 は、 表 現 的 合 一 に ヨ於 て 開 か れ る 藝 術 的 立 揚 そ も の、 中 に、 本 質 的 に 含 ま れ る と す べ き で あ ら う。 元 來 屯 詩 文 を 創 作 す る こ ど が、 文 字 に 於 け る 表 徴 的 關 係 を 契 機 と し て、 意 味 と 普 聲 と の 合 一 を 求 め る こ と で あ る な ら ば、 詩 文 を 創 作 す る 藝 術 的 立 掛 そ の も の の 中 に、 表 徴 的 關 係 及 び こ れ を 支 へ る 敢 會 的 活 動 の 意 志 が 含 ま れ て ゐ る べ き で あ る。, 從 來 考 へ ら れ て ゐ る 藝 術 的 な る も の、 即、 作 者 の 内 面 的 な 意 味 内 容 と、 表 徴 的 關 係 を 保 持 す る 就 會 的 活 動 の 意 志 と 億、 異 質 的 で あ る。 併 七、 こ れ ら 酉 者 を、 何 ら か の 仕 方 で、 綜 合 し な け れ ば、 眞 に 自 立 的 な 藝 術 の 立 場 は 成 立 し な い。 何 と な れ ば、 内 面 的 な 意 味 を 客 襯 化 し ょ う と 云 ふ 狭 義 の 藝 術 的 意 志 の み に 依 て は、 そ の 表 現 の 場 所、 具 龍 的 な 括 動 の 場 面 を 得 る こ と が で き な い。 即、 文 字 に 於 け る 表 徴 的 關 係 は 得 ら れ な い。 ま た、 藝 術 的 意 志 の 活 動 が、 表 徴 的 關 係 を 輿 へ る 敢 會 的 括 動 の 意 志 を 常 に 豫 想 し、 そ れ に 依 て 支 へ ら れ る と 云 ふ の な ら ば、 詩 文 の 自 立 性 は 失 ば れ る。 常 に、 表 現 の 具 罷 的 な 活 動 の 揚 所 を、 他 に 期 待 す る こ と は、 更 に 進 ん で、 此 に 從 屡 し 到 用 さ れ る 危 瞼 が 存 す る。 事 實、 詩 丈 は、 駐 々 に し て 軍 な る 就 會 的 活 動 の 意 志 ど 嚢 表 す る 道 具 に 供 さ れ て ゐ る。 少 く も、 そ の 時 々 の 局 限 さ れ た 事 情 に 追 随 し、 豫 備 的 に 知 つ て ゐ る 揚 合 の み に 諒 解 さ れ る が 如 き 作 品 を 生 ず る こ と 玉 な る。 そ れ 故 に、 狭 義 の 藝 術 的 意 志 と、 肚 會 的 活 動 の 意 志 と は、 吏 に 高 次 覧 の 立 場 に 於 て、 綜 合 さ れ ね ば な ら な い。 そ れ が、 詩 文 の 眞 に 藝 術 的 な 立 場 に 他 な ら い。 か く し で、 就 會 的 活 動 の 意 志 は、 内 面 的 な 意 味 内 容 の 中 に 生 か さ れ、 内 面 的 意 味 内 容 は、 就 會 性 を 含 ん で、 深 さ と 廣 さ と を 得 る の で あ る。 こ の 綜 合 の 立 楊 は、 一 つ の 藝 術 的 世 界 観 の 立 揚 で あ つ て、 こ の 立 場 に 於 け る 観 照 は、 軍 菰 一 草 一 木 の 鏡 き 観 照 に と 璽 ま ら ず、 同 時 に、 砒 會 襯、 或 は 人 生 観、 進 ん で は 政 激 経 世 の 意 志 に 貫 か れ て ゐ る。 こ、 に 於 て の み、 詩 文 の 藝 術 的 自 立 性 が 全 か ら し め ら れ、 他 に 表 現 の 場 面 を 期 待 す る こ と な く、 十、 分 な る 意 味 で の 藝 術 的 表 現 が 可 能 と な る。 そ れ は、 文 字 に 於 け る 表 徴 的 關 係 を、 そ の 根 底 た る 融 會 的 活 動 の 意 志 を 含 む こ と に 依 て、 本 質 的 に 自 已 の も の と す る。 從 つ て 自 律 的 に、 意 味 と 字 音 と を 合 一 せ し め る こ と が で き る の で あ る。 三 五