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パテント・プールの法的側面

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パテント・プールによる競争促進効果の研究

MPEG-2 を事例とした実証分析-

【要旨】 近年、パテント・プールへの関心は高く、ライセンサー、ライセンシー双方の余剰を高 めるため社会的にも望まれるスキームとして注目され、特に標準化活動においてその役割 が強く期待されている。一方、パテント・プールの競争促進に関する理論的な予測では、 非排他的なライセンスの取引により競争が促進される効果を持つと同時に、ライセンス配 分方法など負の要因に伴う競争制限の効果も併せ持っていることが知られている。 そこで本研究では、MPEG-2 のパテント・プールを事例として取り上げ、技術開発の促 進に関し実証的に分析を行った。その結果、パテント・プール設立後にライセンサー、ラ イセンシー共に技術開発が促進され、かつプールに参加しない権利者は制限を受けていな いことがわかり、本パテント・プールでは非排他的なライセンス取引が成功した事例であ ることを示した。標準化を目指したプールであるため、ライセンサーはプール参加者に利 用させることにメリットを有しており、プール参加者も得な状態であったことがその一因 と考えられる。 判断基準を明確にしたガイドラインの作成により、このような非排他的なライセンス取 引が行われるパテント・プールの設立を促進すること等を政策提言した。

2010 年(平成 22 年) 2 月

政策研究大学院大学 知財プログラム

MJI09045 相澤 芳弘

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目次

1 はじめに ... 1 1.1 問題意識と研究目的 ... 1 1.2 パテント・プール先行研究 ... 1 1.3 本論文の構成... 2 2 パテント・プールの実態 ... 3 2.1 パテント・プールとは ... 3 2.2 排他的パテント・プール ... 6 2.3 非排他的パテント・プール ... 6 2.4 パテント・プールの課題点 ... 7 2.5 小まとめ... 8 3 パテント・プールの現行法令等との関連 ... 9 3.1 関連法令... 9 3.2 日本および各国パテント・プールのガイドライン ... 12 3.3 小まとめ... 14 4 パテント・プールの競争制限、競争促進の効果に関する経済学的考察 ... 15 4.1 プール設立と社会的余剰 ... 15 4.2 競争促進的・競争制限的な要因 ... 16 4.3 小まとめ... 18 5 MPEG-2・パテント・プールを事例とした競争促進効果の実証分析 ... 19 5.1 検証の目的... 19 5.2 分析対象とデータ作成 ... 19 5.3 推定式の設定と推定方法 ... 22 5.4 パネルデータから得られる結果と考察 ... 23 5.5 推計結果と考察... 25 5.6 先行研究との比較による判断基準 ... 30 5.7 小まとめ... 30 6 政策提言と今後の課題 ... 32 謝辞 ... 34 参考文献 ... 35

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1 はじめに

1.1 問題意識と研究目的 近年、パテント・プールへの関心は高く、ライセンサー、ライセンシー双方の余剰を高 めるため社会的にも望まれるスキームとして注目され、特に標準化活動においてその役割 が強く期待されている。パテント・プールは企業間の競争ではなく、むしろ協調により成 り立つものである。我が国では公正取引委員会からガイドラインが発表され、競争促進、 競争制限について総合的な判断が求められているが、ライセンス条件について、その判断 基準が十分に明確化されておらず、現状の法制度がもたらす社会的余剰の影響を分析する ことは、余剰増大に向け重要かつ必要と考えられる。一方、パテント・プールの競争促進 に関する理論的な予測では、非排他的なライセンスの取引により競争が促進される効果を 持つ1と同時に、ライセンス配分方法など負の要因に伴う競争制限の効果も併せ持っている ことが知られており、効果の判定には実証分析が必要と考えられる。 先行研究として、米国のミシンに関連するパテント・プールを対象に、その技術開発促 進の効果を実証的に分析したLampe と Moser の研究2がある。この研究によれば、プール 設立がかえって特許件数に対し負の効果をもたらす結果を示した。一方、成功例といわれ るMPEG-2・パテント・プールでは、ガイドラインに沿う形で非排他的に、そして合理的 なライセンス料でライセンスが取引されている。よって、このパテント・プール設立によ る技術開発促進への効果を分析することは、大変有意義であると考えられる。 そこで本研究では、事例としてMPEG-2 のパテント・プールを取り上げ、技術開発の促 進効果に関し実証的に分析し、パテント・プールが本来持つべき役割と技術開発が促進す るための基準について考察し、今後の政策について提言することを目的とする。 1.2 パテント・プール先行研究 法的側面として、プールの歴史と今日的役割を述べた藤野(2006)の研究がある。法と経 済学の側面として、排他的独占権とインセンティブの視点からの分析として福井(2007)、 特許・知財と経済学との関係分析として青木、矢崎(2007)の研究がある。 経済学的側面として、プールでまとめてライセンスする方が合計ライセンス料は低額と なり効率的であることを理論分析したShapiro(2000) がある。Lerner and Tirole(2004) は、Shapiro(2000)を一般化したモデルで、効率性をもたらす条件を理論分析している。 長岡(2002)、Aoki(2009)は、アウトサイダー発生の原因について、理論分析をしている。 スコッチマー(2008)は、発明のインセンティブに与える影響や、プール非参加者への影響 について述べている3 政策の側面として、長岡(2002)、土井(2008)、金(2004)、後藤、長岡 (2003)らが検討し ている。 一方、競争促進の実証分析として、米国ミシンのパテント・プールの技術促進効果を実 証分析したLampe と Moser(2008)の研究がある。山田(2009)は、特許出願件数に着目し、 企業の特許出願行動を分析している。しかし、著者の知る限りでは、近年のパテント・プ

1 Shapiro(2000)、Lerner and Tirole (2004) 2 Lampe and Moser (2008)

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2 ールを対象とした他の事例実証研究は余り見られない。こうしたことから、競争促進効果 に関する実証研究は尐ないといえる。 1.3 本論文の構成 本論文の構成を図 1-1 に示す。まずはパテント・プールが持つ特徴・実態およびライセ ンス条件によるプール設立の違いについて整理し、またパテント・プールが持つ現状の課 題について整理し、MPEG-2・パテント・プールは現状の法規上で規範的プールであるこ とを確認する。また、技術開発のインセンティブを歪めかねない課題点を確認する(第 2 章)。 次に、パテント・プールに関する現行法令等との関連として、特許法、独占禁止法、パテ ント・プールのガイドラインを取り上げ、ガイドラインについては各国との比較分析を行 う。これにより、独禁法について、総合的な視点から、事後的にも競争に与える促進効果、 制限効果を確認していく必要があることを確かめる(第 3 章)。次に、ライセンス価格と取 引量に関する簡易モデルを用い、プール設立に伴う社会的余剰への影響を独立ライセンス 取引との比較により整理する。また、プール設立において競争促進的、競争制限的となる 主な要因について挙げ、プール設立が必ずしも競争促進的とはならないことを確認する(第 4 章)。次に、事例として MPEG-2 のパテント・プールを取り上げ、技術開発の促進とし て、「MPEG」特許登録件数に着目し、特許登録件数の促進に関し実証的に分析を行った。 その結果、パテント・プール設立後にライセンサー、ライセンシー共に技術開発が促進さ れ、かつプールに参加しない権利者は制限を受けていないことがわかり、本パテント・プ ールは非排他的なライセンス取引が成功した事例であることを示した。標準化を目指した プールであるため、ライセンサーはプール参加者に利用させることにメリットを有してお り、プール参加者も得な状態であったことがその一因と考えられた(第 5 章)。以上の分析・ 考察から、1)プール設立によって余剰が増大できる本特徴を、競争当局は権利者及び生産 する者に十分に理解してもらい、プール設立および技術開発のインセンティブを促進する、 2)判断基準を明確にしたガイドラインの作成等により、非排他的なライセンス取引が行わ れるパテント・プールの設立を促進する、の2 つを政策提言とした。パテント・プールを 円滑に機能させるための仕組み作りとして、特許価値に基づくライセンス配分方法の検討 を今後の課題とした(第 6 章)。 図 1-1 本論文の構成 パテント・プールの意義と実態 現行法令等の関連整理 社会的余剰への影響、競争促進・制限要因の整理 MPEG-2・パテント・プールによる特許登録数促進 の実証分析 政策提言・まとめ

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3 2 パテント・プールの実態 パテント・プールの競争促進、競争制限の効果を考察するにあたり、パテント・プール の運用、その実態について整理し分析する。 2.1 パテント・プールとは 2.1.1 パテント・プールの定義 パテント・プールとは、特許等の複数の権利者が、それぞれの所有する特許等又は特許 等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあ り、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に 集中し、当該企業体や組織体を通じてパテント・プールの構成員等が必要なライセンスを 受けるものをいう、とされている4。このことから、パテント・プールは企業が補完的な技 術を提供しあい新標準の技術パフォーマンスを高めると同時に、それを第三者にも開放す ることによって新標準への需要を喚起し、その普及を促進する仕組みであると考えること ができる。つまり、複雑な権利関係を処理し、新製品の市場の迅速な立上げ、需要拡大の 阻害のおそれを回避するスキーム、と解される5。 図 2-1 はパテント・プールの基本的仕組みのイメージを示している。電機機械の最終製 品においては、製造における必須特許を各権利者が保有している場合が多く、独立にライ センスを取引するのでは、手間(取引費用)がかかる。取り分け、標準化を伴う場合、権利 者の数は多くなることから、他者技術を補完するための複雑な権利関係を一括処理し、つ まり取引費用を大幅削減するスキーム、であるといえる。 (a) 基本的仕組み(3 保有者の場合) (b) 最終製品における必須特許と保有者 図 2-1 パテント・プールの基本的仕組みのイメージ 2.1.2 パテント・プールの効果とそのための要件 米国司法省が 1995 年に明らかにした「知的財産の許諾に関する反トラストガイドライ ン」では、パテント・プールの有する競争促進効果として、表 2-1 に示す次の4 点を挙げ ている。 (ア) 補完的技術の統合をもたらす (イ) 取引費用を削減する 4 公正取引委員会(1999) 5 クロスライセンスとの比較において、特許の相互許諾をもたらす点で同じであるが、パテント・プール の場合は通常有償ライセンスであること、第三者にも同じ特許の束がしばしば開放され得る点で異なる。

A者

ライセ

ンシ-

ライセンス

の流れ

ロイヤリティー

の流れ

ラ イ セ ン ス 会 社

B者

C者

06/2 06/277 THU THU11:2911:29 最終 製品 アンテナ技術 特許 特許bb(B(B者者)) 液晶技術 特許 特許aa(A(A者者)) 特許 特許cc(C(C者者)) 操作技術 必須特許 06/2 06/277 THU THU11:2911:29 最終 製品 06/2 06/277 THU THU11:2911:29 06/2 06/277 THU THU11:2911:29 最終 製品 アンテナ技術 特許 特許bb(B(B者者)) 液晶技術 特許 特許aa(A(A者者)) 特許 特許cc(C(C者者)) 操作技術 必須特許

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4 (ウ) 特許によるブロッキングを取り除く (エ) 高額な侵害訴訟を回避する 競争促進効果のために最も重要とされている点は、補完的技術の統合6の必要性である。 技術標準に関しては、取り分けこの相互補完作用が重要となる。よって、パテント・プー ルの対象特許属性として、いわゆる必須特許であること及びその必須性判断主体について、 中立的かつ専門能力を有する者があたるべきことが要件として発生することになる7 取引費用の削減効果は、パテント・プールの一括ライセンスによって主に達成される。 通常、ライセンス会社によって一括ライセンスが付与されるため、ライセンス会社の中立 性とそれが扱うライセンシー事業情報の秘匿性確保が必要となる。また、既にライセンス を取得済みである場合に備え、個別的ライセンスが一方で許されなければならない。 パテント・プールの契約において、ライセンサー、ライセンシー及びライセンス会社の 3 つの主体が関与することになる。このため、一般のライセンス契約のように単一の契約 書では全体を権利管理することは困難となり、各主体間で契約を締結する必要が生じ、そ の分費用がかかることになる。しかしながら、一括ライセンスが行われることによりそれ を上回る効果として取引費用が削減されると解される。 特許によるブロッキング8の排除効果を発揮するためには、必須特許の開放性が担保され る必要がある。異なる利害を有する者が加わることは、限定的な参加者の場合と比べ、運 用の公平性と合理性を高めることが期待できるからである。 また、パテント・プールは、経済的な利潤を求める協調する相手と特許権を組むことか ら、第三者に対し新たな強力な排他的独占権を生じさせ得ることになる。元来、この排他 的独占権はインセンティブをもたせるための法的技術にすぎず、我が国特許法では独占期 間を20 年間と限定している9。この点から、協調する相手と特許権を組んだ場合、その排 他的独占権の範囲は広がることから、元来的に所有していた排他的独占権に相等させるに は、その独占期間を短くするか、排他的独占権を弱めるか、のいずれかの手段を取らせる ことが替わりとなると考えられる。こうしたことから、パテント・プールの必須特許の開 放性は、独占期間を変えずにこの排他的独占権のバランスを取るものに相当すると解され る。ここで、開放的とせず、それを第三者の開発インセンティブに替える考えもあるが、 技術は累積的で実現できることを特徴とするため有効ではなく、必須特許の開放性は現実 的な好選とも考えられる。 高額な侵害訴訟を回避する効果を発揮するためには、パテント・プールによるロイヤリ ティ自体が合理的であることが必要となる。個々の特許についてそれぞれライセンスを受 6 補完的技術の統合とは、1 つの技術が複数の構成部分からなるときに、その構成部分ごとに特許が存在 する結果、これら特許1 つ 1 つをすべて使用することによって初めて 1 つの技術が全体として実施可能に なることをいう。 7 パテント・プールの監視には特許弁護士の存在が不可欠といえる。 8 たとえば、藤野(2006) 9 この法と経済学による分析については、福井(2007) 183-194 頁を参照。

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5 ける累積的な場合に比べて、総和としても十分に低い額であるべきである。 また、競争制限性の排除措置と要点を表 2-2 に示す。 表 2-1 パテント・プールの効果とその要件 効果 考えられる要件 補完的技術の統合 必須特許であること及びその必須性判断主体について、中立 的かつ専門能力を有する者があたるべき。 取引費用を削減 ライセンス会社の中立性とそれが扱うライセンシー事業情 報の秘匿性確保。個別的ライセンスが一方で許されること。 特許によるブロッキング の排除 開放性の担保。合理的かつ非差別的(RAND 条件:Reasonable and Nondiscriminatory)に自己の必須特許の許諾。 高額侵害訴訟の回避 ロイヤリティ自体が合理的。 表 2-2 競争制限性の排除措置と要点 排除措置 要点 合理の原則 総合的に判断ができ、効率性を維持し競争制限性を取り除ける柔 軟な措置ができる。 補完的特許のみを プールに含める 補完的特許(必須特許)のみをパテント・プールに含め、代替的特 許を含めることを禁止する。 開放性の義務 希望企業のすべてに無差別かつ公正で合理的な条件で一括ライセ ンスをする。 2.1.3 ロイヤリティ配分 配分されるロイヤリティは、取り分けライセンサー及び将来のライセンサーにとっては 戦略的行動と直結する。 一般的に、パテント・プールを通じて徴収されたロイヤリティは、ライセンス会社が受 け取る手数料等が控除された後、最終的にプール内の各特許権者に配分される。表 2-3 は、 一般的モデルによるロイヤリティ配分と控除項目の例を示している。ライセンス会社の手 数料と創設ライセンサーに対する払い戻し/インセンティブに各 10%ずつ配分し、残りを全 表 2-3 一般的モデルによるロイヤリティ配分と控除項目の例10 項目 配分率(例) 全特許権者に配分されるロイヤリティ 75~80% ライセンス会社の手数料 10% 訴訟準備金 MAX.1~2M$ 創設ライセンサーに対する払い戻し/インセンティブ 10% 10 加藤(2006) 69 頁、から引用した。

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6 特許権者に配分されるロイヤリティとされる。全特許権者に配分されるロイヤリティにつ いて、現行では、ほとんど全て、必須特許の数を基準にして配分されている。従量制(パー センテージ)の例は尐なく、殆ど固定ロイヤリティ(X ドル/台)が課せられる。 2.2 排他的パテント・プール 排他的なパテント・プールが設立される場合として、標準化により市場が拡大する場合、 権利者が関連する市場を独占できる場合が挙げられ、差別的で閉鎖的なパテント・プール となり易いと考えられる。このような場合、ライセンス許諾が限定的になるため、独禁法 上の問題が起き易く、歴史的にメンバー間のカルテルと部外者排除のために多く用いられ てきた。 19 世紀半ば、米国のミシン関連特許をプールすることで、初めて出現した。当時のプー ルは、関連市場を独占する目的で形成されたが、それでも当時の独禁法規制の対象外にお かれていた。それがプールによる独占の弊害を助長した11。こうしたプールにより「負の イメージ」が長い間、醸成してきた経緯がある。このため独禁法は、競争促進よりもむし ろ競争制限に対し、力点を置いてきたとみられる。 我が国では、パチンコ機メーカー10 社がパテント・プールを結成し、新規参入企業への ライセンスを拒絶したため、公正取引委員会は、プールによるライセンス拒絶は知的財産 の権利行使とは認められないと判断し、1997 年公正取引委員会が独禁法違反を認定し、排 除措置命令を下した12 2.3 非排他的パテント・プール 非排他的なライセンス取引は権利者を競争させ、更にネットワーク外部性13が見込める 場合、協調インセンティブを一層強化させると考えられる。表 2-4 は排他的・非排他的な パテント・プールとなる場合とそのプール例を示している。 表 2-4 排他的・非排他的なパテント・プールとなる場合とプール例 排他的 非排他的 標準化により市場が拡大する場合 権利者が独占できる場合 権利者を競争させる場合 更にネットワーク外部性が見込める場合 米国ミシン パチンコ機 MPEG-2 表 2-5 はMPEG-2 パテント・プールの概要を示しており、プール設立の成功例といわれ ている。ライセンス会社として MPEG-LA14が管理し、必須特許だけを預け、非差別的に 11 ここで競争制限とは、既存企業が市場を分け合い、高利益に惹かれて参入しようとする新規事業者に 対してプール参加を拒絶することを意味する。米国における代表例は、20 世紀初頭の自動車メーカー間 パテント・プール、1953 年の電灯パテント・プールである。 12 排除措置命令とは、独禁法違反行為によって生じた違法状態を除去し、公正かつ自由な競争秩序を回 復するものである。紋谷(1976) 340-341 頁。 13 ある製品の消費者の数が消費から得られる効用に影響を及ぼすとき、その製品にはネットワーク外部 性が働くという。長岡、平尾(1998) 195 頁。 14 MPEG-2 を含め、複数のパテント・プールを管理・運営している。http://mpegla.com を参照。

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7 単一の一括ライセンスが開放的に許諾され、実施料をライセンサーに配分されるスキーム である。米国 1995 年の反トラスト法ガイドラインを遵守し、非制限的・効果的とされる 要件を満たしており、競争当局の事前審査を経ることにより競争法に違反無く、1997 年 9 月に設立された。また、ライセンサー、ライセンシーも多数参加し、現在もそれら数を増 やし続け、存続している。こうしたことから、MPEG-2 パテント・プールは現状の法規上 で規範的プールといえる。 表 2-5 MPEG-2 パテント・プールの概要15 対象製品 DVD、デジタル TV、DVD ディスク ライセンサー キヤノン、富士通、日立製作所、 KDDI、パナソニック、三菱電機、NTT、 三洋、シャープ、ソニー、東 芝、日本ビクターなど ライセンス会社 MPEG LA 開始時期 1997 年 9 月 必須特許数 約 790 件 ライセンシー 約 1000 社 2.4 パテント・プールの課題点 補完的な技術を集積するパテント・プールは、消費者が技術を利用するコストを下げる と同時に、特許の権利者の利益を高める効果があるが、必ずしも円滑に設立されるとは限 らない。 1 つとして、ライセンス配分について課題がある。現状、新規開発機会を創出するなど の技術の価値には基づかず、必須特許数に応じてライセンス収入がライセンサー(必須特許 権利者)に配分されているため、技術開発インセンティブが歪められている点が挙げられる。 長岡(2002)は、アウトサイダーが発生する問題、プールが分裂する問題として、この課題 を挙げている16。これらの原因の 1 として、自ら生産し販売する垂直統合型企業と、専ら 研究開発のライセンス収入で営む研究開発専業企業との間ではインセンティブが異なると いう基本的な利害対立の存在がある。もう1 つの原因として、他社にパテント・プールを 結成させ、自分だけは独自に高いロイヤリティを集めた方がより高い利益が得られるメカ ニズムの存在がある。こうしたことから、補完的な特許のプールであるにしても、不安定 である可能性がある。 この配分方法、いわゆる特許の数基準の原則については、他の合理的な解決方法を見出 すことができないのが実情であるとされている17。プール設立の普及を妨げうる阻害要因 を解決することは重要である。パテント・プールに参加する企業間に無用な競争(費用)を 生じさせる、 新規技術開発へのインセンティブを減衰させる、など、これに伴う負の社会 的費用が大きくなる場合への対応に供え、権利者が合意可能な特許価値に基づくライセン ス配分方法について、一層の研究が望まれる。今後の政策的な課題の1 つともみられる。 15 加藤(2006) 141 頁、を参考とし、編集した。 16 アウトサイダーが発生する問題として、JPEG の Forgent 特許問題がある。標準化委員会は特許声明 を求めずにForgent 社の特許を規格に取り入れてしまい、結果、ライセンシーは予期しなかったライセン ス料を支払った。プールが分裂する問題として、DVD プールは、3C(フィリップス、ソニーなど)と 6C(東 芝、松下など)の 2 つプールが存在する。 17 特許の数基準の原則の弊害:対象技術の根幹に係る必須特許とごく一部の技術要素を実施するために 不可欠な必須特許が同じ価値、対価で良いのかという批評がある。しかしながら、技術の価値や範囲で分 けても、合意を得るまでに内部的な対立への労力に費用がかかり非生産的である。

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8 また、プール設立を容認するガイドラインの明確化が挙げられる。我が国では、公正取 引委員会は 2005 年「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え 方」を発表した。 このガイドラインが政府として唯一実現できた施策であり、公正取引委 員会の元来的目的である現状考えられる競争阻害要因を排除するためのガイドラインであ る。独禁法上どういうプールであれば問題ないのか、その満たす最低条件とは何か、まで は明確化され、プールをつくる環境を揃えたことになる。しかしながら、競争制限的には ならない、という意味として解されるものであり、競争促進的となる効率的条件や、円滑 なパテント・プール設立を促進させるインセンティブとその条件まではまだ十分に明らか にされていないと考えられる。 こうしたことから、円滑なパテント・プールの設立と競争促進を図るためには、総合的 な判断として競争制限の判断のみならず、競争促進の効果判断を事後的にも要するもので あると考えられる。パテント・プールの社会的余剰に与える影響に関する考察と促進効果 に関する実証分析については、後章を参照されたい。 2.5 小まとめ パテント・プールの競争促進、競争制限の効果を考察するにあたり、パテント・プール の運用、その実態について整理し以下のことを確かめた。 ① MPEG-2 パテント・プールは現状の法規上で規範的プールといえる。 ② 補完的であり、開放性と合理性を持つ非排他的な現状のパテント・プールには、技術 開発のインセンティブを歪めかねない要因を持っており、そのため総合的な競争促 進・制限の効果判断を事後的にも要するものである。

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3 パテント・プールの現行法令等との関連

パテント・プールは、国際的な標準化を伴うものが多く国際的にライセンスを供与する、 特許法が目的とする産業発展とかかわる研究開発のインセンティブに大きく依存する、原 則のもつ実務的意味を極めて大きくさせる、ことなどから、パテント・プールの競争促進・ 競争制限の効果を考察するにあたり、関連法規についてその実態を整理する必要がある。 パテント・プールは知的財産権の利用を拡大する。その半面で、パテント・プールは市 場分割や新規参入排除のために悪用されてきた歴史をも有する。こうしたことから競争法 の適用について検討が図られてきている。 ここでは、発明を奨励して産業の発展に寄与するためのインセンティブ制度である特許 法と、特許権の保護を最大限尊重する姿勢を基礎におきながら経済的な最適バランスを図 る独占禁止法を中心に、パテント・プールにおいて重要と思われる点を取り上げ、法的側 面について考察する。 3.1 関連法令 3.1.1 特許法 特許法は、パテント・プールとの関係で中心となる法である。必須特許の判断、権利範 囲や運用・解釈をはじめ、あらゆる側面で係わるからである。ここでは実務的に重要とな る点と裁定実施の適用を取り上げ、法令関連について整理することにする。 (1) 実務的重要点 実務的な重要な点として、加藤は、ア)各国特許独立の原則(属地主義)、イ)間接侵害、ウ) 補正・分割、エ)有効性、の 4 点を言及している18 ア) 各国特許独立の原則(属地主義) 発明(特許法第 2 条 1 項)が特許を受けるためには、産業上の利用可能性、新規性、進歩 性という特許要件(特許法第 29 条)を満たすことが前提となる。 その上でパテント・プールにおいて、必須特許が特許ファミリーを形成する場合には、 尐なくとも1 つの国で必須特許として認定されることが必要であり、必須認定された場合 にはその必須特許の対応外国特許が必須認定を得なくても、特許ファミリーを構成するこ とを前提としている。特許に関する各国特許独立の原則(パリ条約 4 条の 2 等)が、達成し 得る範囲で遵守されている。 また、ロイヤリティの配分は、現状、必須特許の数に応じて基本配分されており、特許 独立の原則の持つ実務的意味は極めて大きい。 イ) 間接侵害 間接侵害(特許法 101 条)とは、特許発明の生産や使用にのみ用いる物を生産する、ある いは特許発明による課題の解決に不可欠な物を、発明であること及び発明実施に用いられ ることを知りながら生産する等の行為で、実質的に侵害と同視できるものまで保護を拡張 18 加藤(2006) 76-79 頁

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10 した規定である。 パテント・プールにおいて、標準化に関連する技術を扱うことが多く、その際、送信と 受信の関係に立つような相互接続性を特徴とすることが多い。このため、互いに相手方の 装置とは間接侵害の関係を生じさせることになり、パテント・プールに関する必須特許で は、間接侵害が適用される場面が非常に多くなる。 ウ) 補正・分割 本来的には、出願時に特許明細書を確定させ、出願することを前提とし、特許法が成立 している。しかしながら、パテント・プールでは、必須特許の数基準によるロイヤリティ 配分が行われ、これは権利者にとってはより密接に収入と直結するため、特許出願を行お うとする者は、法の許す範囲内で一般的に出願の補正・分割をする強いインセンティブを 持つ。 出願の補正は、「手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正を することができる。」(特許法第 17 条)で規定されている。一方、特許出願がなされた後、 そのままで技術標準をカバーする例は尐ない。パテント・プールの必須技術仕様に合わせ、 補正によってクレームと技術仕様が明確に一致するように仕立てていくインセンティブが 働くため、補正されることが圧倒的に多く、補正の適否は必須特許化をする上で重要な実 務要点とされる。 また、出願の分割は、「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する 特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」(特許法第 44 条) と規定されている。必須特許とみなされるなら、尐しでもライセンス収入を上げるため、 戦略的な行動として分割されることもある。 エ) 有効性 実際のパテント・プールにおいては、必須特許の審査(抵触性判断)のみで、有効性の判 断が具体的にされた事例は聞かないとされる。特許の無効性の問題として、全ての特許を 無効化しなければならないため特許の有効性判断を事前に行わなくてもよいという根拠に なっている点、パテント・プールが形成されたことに乗じて数は多くなくても自己の無効 特許を紛れ込ませ一定のロイヤリティ配分を得ようとする行為、が挙げられる。 今後、パテント・プールが社会的に普及していくにつれ、後者の問題が大きくなる可能 性が高いと思われる。第三者による有効性調査判断を義務的に行われることが望ましいが、 自己の事前調査を義務付ける、または先行技術の調査報告書の提出を義務付けることでも 改善は見込めると考えられる。 (2) 裁定実施の適用 知的財産法の裁定制度の在り方を検討する場合、競争政策が目的とする消費者利益の観 点が必要であろう。我が国特許法は、裁定実施に関する規定を 3 つの条文①不実施(第 83 条)、②利用発明(第 92 条)、③公共の利益(第 93 条)より規定している19 19 我が国特許法は、3 つの条件について、いずれも、特許権者のライセンス拒絶あるいは特許不実施に不 服があるものの請求に応じて、裁定が行われる。不実施、利用発明は特許庁長官が、公共の利益は経済産 業大臣が、その裁定をする。実例は無い。

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11 仮に、ライセンスを容易に裁定した場合、知的財産権は弱められるが、その一方で知的 財産権の目的であるイノベーションのインセンティブが弱められ、結果的に経済効率が長 期的には低下する20。こうしたことから、公益上の便益が明らかに大きいと客観的に認め られる場合に限定する必要がある21 しかしながら、パテント・プールに参加せず高いロイヤリティを請求するいわゆるアウ トサイダーに対しては、その技術対象が広く実施される技術標準のような場合においては 国民生活に実質的な影響、弊害、社会的に負の高い費用などを与えるおそれがある。競争 法の適用でも対応が難しい場合には、裁定実施権の適用もありえると考えられる。公益利 益の保護の視点が存在するエイズ処方薬は、適用の対象と考えられる。しかしながら、民 間による1 つの産業技術におけるプールの場合、プールへの裁定の適用は難しく、適用さ せるには別の法理が必要と思われる。 3.1.2 独占禁止法 (1) 独占禁止法とは 独占禁止法は事業者の公正かつ自由な競争を促進し、国民経済の健全な発展を図ること を目的としている(独禁法第 1 条)。この目的のため、三大柱として、私的独占(同 2 条 5 項)、 不当な取引制限(同 2 条 6 項)、および不公正な取引方法(同 2 条 9 項、なお一般指定参照)、 を禁止し排除することにしている。 そして、上記行為の認定は各々関連市場における市場支配力、競争制限効果および公正 競争阻害性の観点から、具体的事情に照らして競争秩序に及ぼす影響を総合的に判断して 行われることにしている。パテント・プールは相互ライセンス契約による競争企業間の共 同行為となるため、取り分けこれらの観点に注視を求めることになると考えられる。 (2) 独禁法第 21 条と知的財産権 独占禁止法は著作権法、狭義の工業所有権法による権利の行使と認められる行為にはこ れを適用しない(独禁法第 21 条)22 。著作権法、狭義の工業所有権法はともに、現在の資 本主義的競争体制のもとにおいて企業競争力を獲得する重要な要因である。元来、創作活 動を活性化し、あるいは利用と取引を促進する法的基盤を提供するものとして、有体物に 関する私的財産制度に擬して法技術的に設けられたものである。 この独禁法第 21 条に従い、パテント・プールは複数の権利者が所有する特許権等の利 用価値を高めさせ、技術の使用と保護の促進に沿わせるものとして、この本来趣旨を逸脱 しない限り、パテント・プールは独占禁止法に違反するものではないとする考え方がある。 競争法上問題とされるのは、かかる排他的独占権の利用者が利潤の追求を目的とする事業 者である場合が多いことから、本来趣旨を逸脱し、パテント・プールを通じその排他的独 20 ライセンス強制については知的財産法における「強制ライセンス」(裁定による強制実施)による他に、 競争法を用いる方法があり、どちらによっても強制ライセンスの効果は同じである。WTO の TRIPs 協定 も、加盟国が強制実施を行うことを許容している(TRIPs 協定 31 条)。 21 紋谷(2009) 74 頁 22 本条がその対象を著作権法および狭義の工業所有権法のみを規定しているが、それらに限定する趣旨 ではない。これらと同様に、競争促進的基盤を提供する著作権法上の著作隣接権のみならず、育成者権、 回路配置利用権および不正競争防止法上の保護権等他の知的財産権法をも含むものと解される。紋谷 (2009)268 頁。

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12 占性を利用して市場支配的地位を形成する、あるいは権利の活用に際し制限条項等を課し て、関連市場において種々の競争減殺的行為を行うことである23。これらの場合、もはや 本法の適用を免れるものではなく、権利の濫用の法理を介して独禁法第 21 上が適用され ることになる。 3.2 日本および各国パテント・プールのガイドライン 3.2.1 日本のガイドライン 現代のパテント・プールのほとんどは、競争制限を狙ったものではなく、個別ライセンス の取引コストを避けるなどの正当な目的から結成されている。一方、競争企業間の共同行 為は、参加企業間の競争阻害・停止そして部外者排除による競争制限をもたらしやすい。 このため、競争当局は、パテント・プールの効率面を尊重しつつ、競争制限的な要素を取 り除く規制を実施する必要がある。米国・欧州・日本の独占禁止法当局のガイドラインが あるが、まず日本について確認する。 「知的財産推進計画2004」24では、標準の迅速な普及にとってパテント・プールが重要 であるとの認識から、独禁法上の考え方を明確にすべきであると具体的検討を要請し、公 正取引委員会は 2005 年「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の 考え方」を発表した。ここで、1)必須な特許だけで構成される場合、独禁法違反のおそれ はないこと、2)パテント・プールへの参加制限についても、制限内容が合理的に必要な範 囲であって、競争を制限するものでなければ問題はないこと、3)プールの運営者に集中す るライセンス関連情報については、プール参加者やライセンシーがアクセスできないよう な仕組みづくりを重視すること、を明らかにした。 この公正取引委員会のガイドラインが政府として唯一実現できた施策であり、公正取引 委員会の元来的目的である現状考えられる競争阻害要因を排除するためのガイドラインで ある。競争促進的となる効率的条件や、円滑なパテント・プール設立を促進させるインセ ンティブとその条件まではまだ十分に明らかにされていないと考えられる。現状の阻害要 因を排除した結果、事後的にかえって競争制限的になっているなら、それは問題といえる。 3.2.2 各国のガイドラインの比較 存在するプールの多くは国際的な権利取引であることから、独占禁止法当局の規定が協 調されていることが重要となる。そこで、各ガイドラインについて相違点が存在するか確 かめるため、上述した日・米・欧のガイドライン主項目評価事項の比較をした。 表 3-1 は日本・米国・欧州の独占禁止法当局による主項目評価事項の比較を示している。 プールの開放性について、欧州のガイドラインは当事者全てに開放を求めている点がやや 異なっていることが見られるが、本主項目評価事項においては概ね共通な考え方がされて おり、国際的ライセンスを支障なく供与する最低規定は整っていることが確かめられる。 また、いずれのガイドラインにおいて競争促進効果と制限効果について総合判断で決める ことになっていることから、取り分け事後の分析評価が求められていることがわかる。競 争促進、競争制限に関し継続して検討し、知見を蓄積することが今後の課題と考えられる。 23 紋谷(2009) 268 頁 24 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/040527f.html を参照。

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13 表 3-1 日本・米国・欧州の独占禁止法当局による主項目評価事項の比較25 日本 米国 欧州 当局ガイド ライン 標 準 化 に 伴 う パ テ ン ト・プールの形成等に 関する独占禁止法上の 考え方(2005 年 6 月 29 日、公正取引委員会(以 下、公取委)) 知的財産の実施特許に 関する反トラストガイ ドライン(1995 年 4 月 6 日、司法省) 技 術 移転 契約 に 関す る EC 条約第 81 条の適用に 関するガイドライン(特 に 、 技 術 プ ー ル の 項 目)(2004 年 4 月 27 日、 欧州委員会) 基本的考え 方 技術規格の普及度と市 場地位を考慮(シェア 20%以下ならば問題視 しない。) 競争促進効果と制限効 果を比較し総合判断す る(公取委ガイドライ ン第 3、1(2)) プールによる補完的技 術の統合と取引費用削 減による競争促進効果 と、プール化による制 限がもたらす関連市場 への影響を評価して決 定する(DOJ ガイドライ ン 5.5 項後段) プールの競争抑制可能性 と競争促進効果の両面か ら判断する(EC ガイドラ イン 213、214 項) 対象技術(特 許) 必須特許(商業的必須 も含む)に限定するこ とが原則(同第 3、2(1) ア)。代替技術を含む場 合は合理的必要性とプ ール外ライセンスの可 能 性 を 考 慮 し て 判 断 (同第 3、2(1)イ) 技術的な必須特許に限 定されている点を評価 (BRL/MPEG2、Ⅱ.A 項及 び BRL/3G、Ⅲ.A 項) 必 須 特許 を原 則 とす る (同 220 項)。 代替特許が大部分では不 可(同 219 項)。 代替特許が含まれる場合 は総合判断する(同 222 項)。 ライセンス 条件 非差別的ライセンスを 原則とする。但し、特 許の利用範囲によって 異なるライセンス条件 は直ちに問題視しない (同第 3、3(1)) 全てのライセンシーに 対して同一の契約条件 が適用されること、及 び最恵待遇条項がある こ と を 評 価 (BRL/MPEG2 、 Ⅱ .B 項 (1)) 公正、非差別、非排他的 であること(同 226 項) プールの開 放性 プール参加者に一定の 条件を設けることは、 合理的範囲で競争制限 と な ら な い 場 合 は 可 (同第 3、2(2)) プールは参加希望者全て に解放されていなけれ ばならないものではな いが、市場支配力を有 する場合の排除は競争 阻害要因となる(DOJ ガ イドライン、5.5 項後段) 異なる利害を有する当事 者全てに開放されている ことが公正なライセンス 条 件 の 達 成 に 重 要 ( 同 231 項) 市場情報の 秘匿性 ライセンス会社はプー ル参加者と人的・資本 的関係のない第三者が 望ましい(同第 3、2(1) ア) 競争秩序に影響する情 報は、秘密保持条項に よってライセンス会社は他 に提供できない仕組み と な っ て い る (BRL/MPEG2 、 Ⅱ .B 項 (2)) ライセンス団体(会社)の 非 開 示 義 務 が 重 要 ( 同 234 項) 25 加藤(2006)85-87 頁を参考に、編集した。個別項目の詳細な比較については、参考されたい。

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14 3.3 小まとめ パテント・プールの特許法、独占禁止法を中心に、重要と思われる法的項目を整理し、 以下のことを確かめた。 ① 特許法について、実務的に重要となる点を中心に整理し、実運用条の規定は揃ってい ることを確認できる。パテント・プールに関する裁定実施の適用については、競争法 での対応が難しく、社会的に大きな弊害が生じ始めたところで、法・その運用と解釈 について、改めて検討する必要がある。 ② 独禁法について、違反の生ずるおそれが潜在するという前提で、ライセンス条件など も含め総合的な視点から、事後的にも競争当局は競争に与える競争促進効果、競争制 限効果を分析していく必要がある。 ③ 補完的特許だけをパテント・プールに集積させる点について、米国・欧州・日本の独 占禁止法当局ガイドラインに不都合さはみられない。 ④ 違法・合法の判定のみならず、競争促進効果と制限効果について総合的に事後的に評 価するため、継続して検討し、知見を蓄積していくことが今後の課題である。

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4 パテント・プールの競争制限、競争促進の効果に関する経済学的考察

パテント・プールの相互ライセンス供与による企業間協調が効率的となるのか、阻害的 となるのか、についてミクロ経済学に基づく簡易モデルによる理論的考察を行い、パテン ト・プールの競争制限・競争促進の要因に関して整理する。 4.1 プール設立と社会的余剰 パテント・プールの設立が社会的余剰に与える影響について整理するため、ミクロ経済 学の簡易モデルを用い余剰分析を行う。モデルとして以下を仮定する。 [モデル仮定] ① 各企業が 1 つの等価な必須技術を持っている 2 企業 A、B がおり、計 2 つの必須技術 が生産する際に不可欠である。 ② 各企業の限界費用はともにゼロである。 ③ ライセンスは需要の法則に従い、ライセンス取引数量は合計ライセンス料(合計ロイヤ リティ価格)に依存する。 ④ Q=60-R、とする。 Q:取引されるライセンスの数量、R:合計ライセンス料 ⑤ 各企業はそれぞれ利潤最大化を目指すため、独自に高いロイヤリティ価格を求める。 ⑥ プールされたライセンス収入はプール参加者の数で均等に分配する。 表 4-1 はライセンス形態と社会的余剰、死荷重(DWL)への影響を示している。表 4-1 に 記載された図は縦軸がライセンス価格、横軸がライセンス取引量を示している。 Case 1 は A、B の各企業が独立にライセンス交渉をかわす場合である。自己が保有する 独占力を最大限に行使する場合であり、累積的なライセンス価格となる。互いに相手の戦 略を考慮しながら、同時に自己の最適戦略を決めることになり、価格競争のナッシュ均衡 に落ち着き、各者が同じライセンス価格を設定し、各者のライセンス価格は20、合計ライ センス価格は 40 となり、取引量は 20 となる。生産者余剰を表すライセンス収入は合計 800、各企業のライセンス収入は 400、ライセンスを購入する消費者の消費者余剰は 200 である。排他的独占力を行使するため死荷重が発生するが、この死荷重は斜線が引かれた 三角形の部分であり、800 となる。 一方、Case 2 は A、B が相互に協調し、1 つのパテント・プールが設立された場合であ る。このときライセンス価格は30、取引量は 30 となる。ライセンス収入は合計 900 であ り、各企業のライセンス収入は450、消費者余剰は 450 である。死荷重は 450 となる。Case 1 と比較すると、パテント・プールが設立されると、合計ライセンス価格が下がり、取引 量が増えるため、死荷重が減尐すると同時に生産者と消費者の余剰が増大する。また、ラ イセンス数は Case 1 より尐なくなり、交渉の取引費用が一括ライセンスで抑えられるパ テント・プールは、ライセンス価格が低額に納められる。企業間の共同行為のすべてがカ ルテルとされるわけではない26 26 カルテルは競争を阻害し、社会的余剰を低めるので大半の先進国では競争法上原則禁止となっている。 企業が共同して業界標準を決める場合、それが競争的な技術の利用を制限するもでなければ、通常カルテ ルとはみなされない。長岡、平尾(1998) 130-131 頁。

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16 このことから、パテント・プールは、社会的余剰が改善され効率的になり、望まれるス キームであり、必須特許保有者であるライセンサーもこのスキームを設立するインセンテ ィブを持つことがわかる。 表 4-1 ライセンス形態と社会的余剰、死荷重への影響 ライセンス形態 Case 1 独立にライセンス Case 2 パテント・プール 独立ライセンスか らパテント・プー ルに変わる場合の 各増減 ライセンス価格と 取引量 ライセンスの数 2 1 ↓ (-1) ライセンス価格 40 30 ↓ (-10) ライセンス収入 (生産者余剰) 800 900 ↑ (+100) 各企業のライセン ス収入 400 450 ↑ (+50) 死荷重 800 450 ↓ (-350) 消費者余剰 200 450 ↑ (+250) 4.2 競争促進的・競争制限的な要因 コースの定理によれば、知的財産・知識についてもその所有権を明確に設定できれば、 契約によって、効率的な利用は可能となる。すなわちパテント・プールのスキームにおけ る協力によって相互利益が拡大するため、効率的協力は現実出来るはずである。しかし、 技術の価値に関する情報の非対称性の存在、知識創造へのインセンティブが企業間によっ て異なるなどの理由から、現実には、アウトサイダー問題あるいは分裂、やロイヤリティ の累積問題等が発生する場合がある。ここでは、プール設立における競争促進的・競争制 限的な要因を挙げ、考察する。 表 4-2 は、プール設立における競争促進的・競争制限的な主な要因を挙げている。競争 促進的となる要因として、まずは 1)非排他的一括ライセンシングによる取引費用の削減、 が挙げられる。各ライセンサーが独立して契約を締結するより、パテント・プールにより 管理された一括ライセンシングを供与する方が取引費用は低額に納まり、その分、技術開 発の費用の負担が減尐(供給曲線の右へのシフト)できる。取り分け、標準化を伴う技術に おいては、累積的なライセンス価格となりがちであり、その効果は大きくなる。また、2) プール設立後の二重限界性が無くなることによる各企業の高利潤化、が挙げられる。これ により、技術開発のインセンティブが高められ、競争促進的につながる。 一方、競争制限的となる要因も多数存在すると考えられる。まず、1)排他的取引による 30 60 30 60 P Q 0 DWL A B 20 60 40 60 P Q 0 20 B A

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17 技術開発インセンティブの阻害が挙げられる。甲にはライセンスするが、乙にはライセン スせず、甲と乙が同業者である場合、乙がその該当ライセンスを使用することができない ため、市場において甲に比べ技術開発力が将来的には弱まる。技術は累積的である場合が 多いことから、技術開発に大きなハンデを負ってしまうと将来的な技術開発インセンティ ブが大きく阻害される。また、2)第三者(プール非メンバー)の特許取得の阻害、が挙げら れる。プールの参加メンバー同士がライセンスを供与し、第三者も同市場の技術開発を行 っている場合、新規技術開発を第三者より容易にさせ、結果第三者の特許取得が阻害され ることにつながる。取り分け、標準化を図るためプール参加者が多数存在している場合、 同市場を事業戦略とおく非メンバーへの影響は大きい。逆に言えば、標準化を伴う場合、 プールメンバーに参加するインセンティブが発生することにもつながる。紋谷(2009)は、 知的財産権プールとして捉えた場合、その規模が大きく、開放的であれば、多数の利用権 者の競争を増大するが、その一方で、他の知的財産権者の知的財産権許諾先を減尐せしめ る点を課題として挙げている27 。3)のアウトサイダーの発生、について、現状のパテント・ プールでは、特許件数に応じてライセンス収入を配分する慣例があるため、他者にパテン ト・プールを結成してもらい、自分だけは独自に高いロイヤリティを得た方が高利益とな る場合がある。これは、プールでのライセンス料を歪ませ技術開発のインセンティブを阻 害させる。取り分け、生産部門を持たずライセンス料で利益を狙うベンチャー型企業では、 特許独占権を行使し自己利益の最大化を図るため、そのような行動を取るインセンティブ は高く、プールへの参加者が多くなる程、その余剰増分が高くなるため、強いインセンテ ィブが生じるのも特徴である28。ロイヤリティの配分ルールは、取り分けパテント・プー ルへの参加インセンティブに強い影響を与えると考えられ、パテント・プールは社会的余 剰の増加としても望ましいスキームであることから、プール設立による余剰増大化を可能 とするための重要検討課題であろう。4)更なる技術開発インセンティブの減尐化、につい て、プール設立事後において新規・代替技術の入れ替えルールが不明確な場合、ライセン サー、ライセンシーにとって必須特許化を目指す更なる技術開発へのインセンティブが減 尐する。 以上から、プールが設立されるときに含まれる要因により、競争が促進的効果、または 制限的効果となることがあり、その要因は多数存在する。いわゆるトレードオフの関係を 持つことになり、プール設立が必ずしも促進的になるとは限らないことがわかる。また、 結果的に競争促進的であるかは、実証分析が必要なことがわかる。また、これら要因の影 響について詳細な解析と分析が行われ、促進的・制限的となる基準が明確化されることが 円滑なプール設立と更なる競争促進に向け望まれるといえる。 27 複数の知的財産権者の共同行為により形成され、その利用権者の数も多いことから、利用許諾に伴う 市場に及ぼす影響も大きい。したがって、知的財産権の本来的行使と解される各制限条項も不当な取引制 限(独禁法 3 条後段)、事業者団体の競争制限・阻害行為(同 8 条 1 項)、特定産業の統一の目的で結成され れば私的独占(同 3 条前段)、の問題ともなりうる。紋谷(2009) 274-275 頁。 28 解決策として、プールしないと結果、累積的なライセンスを結ぶことになるため、アウトサイド時よ り更に小さな生産者余剰しか得られないことを周知させることが有効と考えられる。

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18 表 4-2 プール設立における競争促進的・競争制限的な主な要因 要因 競 争 促 進 的 1)非排他的な一括ライセンスによる取引費用の削減 2)プール設立後、二重限界性は無くなることによる各企業の高利潤化 3)必須特許保有者が多数いる中、プールが設立され、各保有者がライセンシーとな ることによる競争力の保持易さ 4)紛争コストの低額 5)ライセンシーが将来のプールで必須特許として採用されるよう、技術開発インセ ンティブの発生 6)低額なライセンス価格による他分野への技術開発インセンティブの発生 競 争 制 限 的 1)排他的ライセンス取引による技術開発インセンティブの阻害 2)第三者(プール非メンバー)の特許取得機会の阻害 3)アウトサイダーの発生 4)必須特許の入れ替えルールの不明確さによる更なる新規・代替技術開発インセン ティブの阻害 4.3 小まとめ パテント・プールの相互ライセンス供与による企業間協調が効率的となるのか、阻害的 となるのか、についてミクロ経済学に基づく簡易モデルによる理論的考察を行い、パテン ト・プールの競争制限・競争促進の要因に関して整理し、以下のことが確かめられた。 ① ライセンス形態と余剰、死荷重への影響の分析から、パテント・プールは、社会的な 総余剰が増大され効率的になり、望まれるスキームであり、ライセンス保有者もこの スキームを設立するインセンティブを持つ。 ② 理論的な予測では、非排他的なライセンスの取引により競争が促進される効果を持つ と同時に、ライセンス配分方法など負の要因に伴う競争制限の効果も併せ持っており、 プール設立が必ずしも促進的になるとは限らない。 これから、競争促進効果を検討するためには、実証分析が必要である。併せて、競争促 進的となる判断基準を探ることが強く求められることがわかる。

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5 MPEG-2・パテント・プールを事例とした競争促進効果の実証分析

パテント・プールが設立された場合、通常一括ライセンスが行われるため、個別のライ センス契約とは異なり、累積的な高額なライセンス価格とはなりにくい。このため、ライ センス価格を低く抑えることができ、生産者、消費者に余剰・メリットを生じさせる。ま た、プールされる技術は標準化を伴うケースが多く、これは将来にわたり購入される最終 製品の数は多く見込められる。このため、生産者にとっては負になる要因は尐なくなる。 こうしたことから、ライセンスへの需要が一定なら、低額なライセンス価格によりライセ ンスの取引量を増やし、結果として、最終製品の低額化となるため、購入する消費者の余 剰を増やし、かつ特許のような独占的排他権に付与される死荷重を、従来の累積的な個別 ライセンス時より小さくできるため、社会的余剰は高まり望ましくなる。このため、パテ ント・プール設立の効果を事後的に把握することは知財政策を深化する上で重要といえる。 一方、こうした企業の協調行動において、本当にパテント・プールの設立によって特許 権が目的とする技術開発インセンティブを促す効果を果たしているのか、について、パテ ント・プールを対象に実証的な研究は余り見られない。競争制限的効果となる要因を併せ 持っている可能性もあり、果たして相互一括ライセンスする協調を特許保有者は取るのだ ろうか。特許は本来独占権を得られるものであるので、プールに参加しないアウトサイダ ーとなり、高いライセンス価格をかわし、ライセンス取引量を抑えることで個別企業の利 益最大化を選択し、存続し続けることも有り得る。また、ライセンスを供与できるライセ ンサー側は累積的価格とならず効率良く低価格で技術を取得できるため、新規技術開発へ のインセンティブが抑えられてしまう可能性もある。一方、低額なライセンス価格が達成 されることにより、技術開発投資が一定の場合、開発投資に余裕が生じることになるため、 パテント・プールへの参加により、プールされた技術の特許保有者は新規研究開発へのイ ンセンティブが高まり、技術開発が促進される場合もある。 ここでは、パテント・プールの規範的事例としてMPEG-2 パテント・プールを取り上げ、 競争促進的な効果があったのか、すなわち新たな技術開発が生じたのか、を特許登録件数 に着目し、実証的に検証する。パテント・プール設立がプール参加者のMPEG 関連の特 許登録件数に与える影響について、本研究で新規に作成したパネルデータを用いて分析し、 競争促進的なプールであるのか検証し、パテント・プールに関する政策について考察する。 5.1 検証の目的 先行研究により、パテント・プールにおいて、非排他的なライセンス取引が行われると、 競争促進的となることが理論的に明らかにされている。一方、理論的な予測では、非排他 的なライセンスの取引により技術開発が促進される効果を持つと同時に、ライセンス配分 方法など負の要因に伴う技術開発の制限の効果も併せ持っており、プール設立が必ずしも 促進的になるとは限らない。 そこで、MPEG-2 のパテント・プールが市場を通じ、結果、技術開発が促進的となった のか、制限的となったのか、を検証することを目的とする。 5.2 分析対象とデータ作成 5.2.1 分析対象

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20 米国競争当局の「知的財産の実施特許に関する反トラストガイドライン」を遵守し、必 須特許だけを預け、非差別的に単一の一括ライセンスが許諾されたMPEG-2 パテント・プ ールを分析対象とした。競争法に違反無く立ち上げられ、規範的プールとされ、制限性は 特段に無く成功例といわれており、技術開発の促進効果をはかる実証分析対象として有用 である。本パテント・プールの概要については、前章を参照されたい。 本研究では企業の競争促進の効果を検討するため、技術開発が進めば競争下におかれる 各者は結果として特許登録件数につながるであろうと仮定し、特許出願件数ではなく権利 化ができた特許登録件数に着目した。 5.2.2 データの選定 この特許登録件数への影響を調べるため、特許分析データを以下の手順により作成した。 1. (独)工業所有権情報・研修館(INPIT)の特許電子図書館のデータベース(公報テキス ト検索29)において、 2. 明細書の請求範囲に「MPEG」30が記載されている登録特許で、 3. 10 特許以上を登録する権利者の特許を抽出する。 5.2.3 データ作成 図 5-1 は、上記手順で権利者:「ソニー」、対象技術:「MPEG」で抽出された特許明細 書の例を示している。登録特許の明細書に記載されている、特許権者名、特許出願日、特 許登録日、登録番号などの情報を選定した全登録特許について調べ、データを作成した。

出願日

特許権者名

登録日

請求項数

「MPEG」

審査請求日

登録No.

図 5-1 「ソニー」「MPEG」で抽出された特許明細書の例 29 http://www7.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjkta.ipdl?N0000=108 を参照。 30 MPEG-2 パテント・プールを分析対象としたとき、代表的な技術のキーワードとして、「MPEG」を 今回選定した。

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21 5.2.4 「MPEG」パネルデータ このようにして、本データ収集対象の権利者は、全23 者であり、登録特許は計 1102 件、 10 特許以下の保有者を含め登録特許総件数は 1359 件となった31。ここで、登録特許を対 象としていることから、審査請求中の特許もあり、出願から登録されるまでには時間を要 するため、2003 年までに出願された特許を抽出することにした32。こうして、プール設立 前後の6 年間を含む 1992 年から 2003 年までの 12 年間における全 23 者、計 991 件を分 析対象特許とした。 表 5-1 は本分析対象における「MPEG」特許保有者と特許保有数(全 23 者、計 991 件の内 訳)を示している。プールにおいて、必須特許のライセンス供与を受ける者をライセンシー、 ライセンス供与を受けていない必須特許保有者をライセンサー、プールに参加していない 者を非メンバーとしている。必須特許保有者がライセンシーとなっている者が 13 者と半数 以上と多数であり、ライセンシーの数は 18 者であり、ライセンス供与が活発に行われてい ることがわかる。またそれらの多くが、自ら製造・販売を実施しているいわゆる垂直型企 業であることがわかる。「MPEG」特許を保有する非メンバーは、もともと事業目標が他者と 異なるなどで効率的に活用する戦略ではなかった、とも考えられる。参考として、必須の 欄には、本プールに集中された必須特許件数の保有数を示している33。必須特許の数と MPEG 特許保有の数の強い相関は見られないことから、MPEG の必須技術以外に、広い範囲で新規 技術が開発されている可能性がみられる。 表 5-1 「MPEG」特許保有者と特許保有数(全 23 者、計 991 件の内訳) 31 現在でも特許登録されつつあるが、2009 年 11 月末と 2010 年 1 月 8 日で対象となる件数が 9 件しか 増えておらず、同様な計量分析結果、各係数はほとんど変わらないことを確認している。このことから、 2010 年 1 月 8 日現在に登録されている本データで確定させ、分析している。 32 近年では出願から登録までに要する期間が 5、6 年かかっているため、2003 年までを対象とした。 33 MPEG-LA の web に必須特許とその保有者(ライセンサー)、ライセンシーが公開されている。必須特 許について、期限が切れたものまでここではカウントしている。 保有者 MPEG 必須特許* 保有者 MPEG 必須特許 ソニー 133 222 LG 12 3 パナソニック 129 54 三星電子 40 19 シャープ 26 1 トムソン ライセンシング 22 145 東芝 113 9 日本電気 96 0 三菱電機 29 123 トムソン コンシューマ 23 0 日立製作所 50 7 IBM 30 0 キヤノン 46 2 NHK 13 0 富士通 13 6 アルパイン 13 0 三洋 61 1 パイオニア 18 0 日本ビクター 58 39 ケンウッド 12 0 NTT 13 2 船井電機 8 0 フィリップス 33 66 *:プールに集中された必須特許数 ライセンサー&ライセンシー ライセンサー ライセンシー 非メンバー

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22 5.2.5 抽出対象の占有割合への影響 表 5-2 は、本抽出した MPEG 特許において、10 特許以上または 5 特許以上を保有する者 における特許登録件数と特許登録総件数に対する占有割合を示している。本分析では、10 件/者以上の特許登録を対象にしており、登録特許全体に占める割合は 81%と高い。5 件/ 者以上で区切り直した場合、3%しかその割合は増えず、5 件/者以上を対象に計量分析を実 施する必要性は高く無いと考えた。 表 5-2 1 者当たりの保有件数抽出者と特許保有数割合 10 件/者以上 5 件/者以上 特許登録件数 1102 1140 特許登録総件数 1359 特許登録総件数に対する占有割合 0.81 0.84 5.3 推定式の設定と推定方法 先行研究の Lampe と Moser(2009)の推定式を参考に、説明変数として、全特許登録件 数、非メンバーを追記し、以下で述べる推定式を作成し、いずれもOLS 推定した。 技術開発の促進効果をはかる際、プール設立で変化しているのか、新技術の創出時期で 変化しているのか、または年がもたらす影響で変化しているか、を分けるため、全特許登 録件数を説明変数として加えた。 5.3.1 推定式の設定 (1) ライセンサーと非ライセンサーに分けた場合(推定 1) ライセンサーと非ライセンサー(必須特許非保有者)に分け、プール設立による特許登録 件数の影響を調べる。この推定式を式 1 に示す。 特許登録件数it = 定数 1 + α1*ライセンサーi + α2*ライセンサーi*プールt + α3*非ライセンサーi*プールt+ α4*ln(全特許登録件数t) +εit 式 1 特許登録件数it :保有者 i の年 t における特許登録数[件] ライセンサーi :ライセンサーのとき1 をとるダミー変数[-] 非ライセンサーi :ライセンサー以外のとき 1 をとるダミー変数[-] プールt :プール期間(1997 年以降)のとき 1 をとるダミー変数[-] 全特許登録件数t :年 t における全特許登録数[件] εit :誤差項 (2) 非ライセンサーを純ライセンシーと非メンバーに分けた場合(推定 2) 必須特許を保有しておらずライセンサーからライセンス供与を受ける者を純ライセンサ ー、プールに参加しない者を非メンバーとし、非ライセンサーについて、プール設立によ る特許登録件数の詳細影響を調べる。この推定式を式 2 に示す。

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