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屋外広告物条例における広告面積の規制手法に関する研究

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Academic year: 2021

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屋外広告物条例における広告面積の規制手法に関する研究

政策研究大学院大学  まちづくりプログラム MJU08049  河原誠

1.  研究の背景と目的 

  現在、日本では屋外広告物法に基づいて各自治体ご とに定められた屋外広告物条例によって、街中のビル や屋上などに掲出される屋外広告物の規制が行われて いる。こうした規制は法と経済学の観点から考えれば、

屋外広告物によって生じる外部不経済の内部化措置と 解釈することが出来るが、ほとんどの自治体の屋外広 告物条例ではその規制が必要とされる根拠が必ずしも 明確に示されてはおらず、実際に行われている規制に 関しても経済学的に十分な検討がなされているとは言 い難いのが現状である。 

  そのため、本研究は屋外広告物の規制手法に関して 法と経済学の観点から分析を行うことにより、現行規 制の問題点の整理と、より効率的な規制手法の検討、

提案を行うことを目的とする。 

 

2.  研究の位置づけと構成 

  これまでに法と経済学の観点から屋外広告物の規制 について考察を行った先行研究は存在しない。屋外広 告物が地価に与える影響を実証的に分析したものとし ては、国土交通省都市・地域整備局(2007)「景観形 成の経済的価値分析に関する検討報告書」(以下、「国 土交通省報告書」という。)がある。しかし国土交通省 報告書では、屋外広告物は地価に影響を与える景観要 素のひとつとしてとらえられているため、屋外広告物 のみに焦点をあてた詳細な分析は行われていなかった。

そのため、本研究では以下のような流れで論述を進め ることとする。 

(1)1つの県を例として推計した地価関数を用いるこ        とで、掲出される用途地域における屋外広告物の

外部性を実証的に分析する。 

(2)実証分析を受けて、現行規制が屋外広告物の外部 性に対する措置として適当かどうかを法と経済学 の観点から分析する。 

(3)現行規制の分析を踏まえ、より効率的な規制手法 の検討・提案を行う。 

 

3.  屋外広告物法の概要


  屋外広告物法は、同法第2条に定める屋外広告物「常 時または一定の期間継続して屋外で公衆に表示される ものであって、看板、立看板、はり紙及びはり札並び に広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、

又は表示されたもの並びにこれらに類するもの」を適 正にコントロールするための法律である。直近の改正 は景観法施行とともに2004年に行われた。 

  屋外広告物法による規制は大きく分けて2つあり、1 つは屋外広告物の形態・意匠の規制、もう1つは屋外広 告物を設置・維持管理する屋外広告業者に対する規制 である。このうち屋外広告物に対する規制では、広告 物の表示方法の基準、広告掲出物件の形状その他の設 置の方法の基準、広告物又は掲出物件の維持の方法の 基準を定めることができ、屋外広告業者に関する規制 については、2004年の法改正で従来の届け出制から業 者の登録制に変更がなされ、悪質な業者には登録の取 り消しに伴う営業停止処分を行えるようになった。 

  屋外広告物法はその具体的な規制内容のほとんどを 各自治体の条例に委ねるという仕組みになっている。 

 

4.  屋外広告物とその外部性

  国土交通省報告書では、分析の対象となった人口20 万人の都市について住宅地・商業地ともに屋外広告物 の存在が地価に負の影響を与えるという結果が示され ている。本研究では、屋外広告物がその掲出される用 途地域によって地価にどのような影響を及ぼすのか、

東京近郊のある県(以下「A県」)を例として地価関数 を用いた分析を行った。表1に地価関数の推計結果が示 されている。ここで、説明変数の「屋外広告物の面積 割合」とは、視界に占める屋外広告物の面積の割合(視 野占有率)を示している。分析の結果をまとめると、

以下のことが言える。 

■第一種住居地域と近隣商業地域では、屋外広告物の 視野占有率が地価に負の影響を与える。 

■第一種住居地域の方が近隣商業地域よりも、広告物 の視野占有率による外部不経済の程度が大きい。 

(2)

   

1

A

県における地価関数の推計結果

※表 1 中の*、**、***はそれぞれ 10%、5%、1%の水準で統 計的に有意であることを示す。 

5.  現行規制の法と経済分析 

  本研究では、現行規制における直接規制の効率性と 申請時に徴収される許可申請手数料、および違反広告 物の取り締まりという3点について考察を行った。 

 

5-1.  直接規制の効率性 

 

A 県では用途地域によって区切られたエリアごとに、

屋外広告物の種類によって掲出できる面積に上限を規 定する直接規制が行われている。その中で、実証分析 によって外部性が明らかとなった第一種住居地域と近 隣商業地域の規制水準を表 2 に示す。 

 

      表 2:A 県の屋外広告物規制水準   

         

  表 2 を見ると規制の内容は第一種住居地域の方が近 隣商業地域よりも厳しくなっており、規制の方向性は 実証分析の結果と整合していると言える。ただし、規 制における具体的な数値に関する根拠は明確ではない ため、それに関しては地域における詳細な実証分析の 結果を踏まえた上で決定するべきである。 

  また、A 県の現行規制ではあるエリアにおける全て

の屋外広告掲出者に同じ水準の規制を課しているが、

これはそれぞれの掲出者の屋外広告物掲出に伴う限界 純便益曲線が異なるため、限界純便益が均等化できず に経済学的に非効率な規制となっている可能性が高い。

5-2.  屋外広告物の許可申請手数料 

  現行制度では、屋外広告物掲出の許可を行政の担当 部局に申請する際に申請手数料が必要となる。A 県に 関しては広告板 5 ㎡あたり 1500 円の手数料が課され ているが、この手数料の徴収の仕方は一般的な手数料 の徴収方法とは異なる。なぜなら、提出された書類や 図面から屋外広告物の掲出許可を審査するのに、屋外 広告物の面積が大きくなるにつれて審査の手間が増え るとは考えづらいからである。 

  そのため、現行の許可申請手数料制度は、屋外広告 物の社会的費用に対する課税と解釈することもできる。

だが、そうだとすれば現在のように全ての地域で同額 の手数料を徴収するという制度では外部性に対する措 置として機能していない。ここでの議論をまとめると、

以下のことが言える。 

■純粋に手数料として徴収するのであれば審査の対象 となる屋外広告物の面積に応じて手数料が増加するの はおかしく、その金額は手間に応じた額(一定)にす るべきである。 

■屋外広告物掲出に対する外部性の内部化措置として 課税するのであれば、全てのエリアで同一額を徴収す るのはおかしく、ヘドニックアプローチなどで実証的 に導き出された外部性を考慮した上で、エリアごとに 課税を行うべきである。 

 

5-3.  違反広告物の取り締まり 

  屋外広告物条例は全国的に違反広告が非常に多い条 例であると言われている。しかし、その実態の把握に は相当な費用がかかるため調査自体が行われておらず、

経験的にしか実態をつかむことができないのが実情で ある。行政の担当者にヒアリングを行った結果、A 県 にも違反広告物に関する統計データは存在しなかった。 

  このように違反広告物が多い主な理由として、行政 によるモニタリングが不十分であり、取り締まりがで きていないということが挙げられる。屋外広告物は容 易に設置できる一方で、それを取り締まり、是正する ためには一定の時間がかかる。さらには、地方公共団 体で屋外広告物を担当する職員の数がさほど多くない

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(3)

ため、屋外広告物に対して適切なモニタリングを行う ことで違反広告物を全て取り締まるのは難しい。この ような場合には違反広告物を掲出しても処罰されるリ スクが低いため、屋外広告物の掲出者に違反広告物を 掲出させる逆のインセンティブが働いてしまう。   

  規制の実効性を担保するためには、違反者のリスク を上げることが効果的である。そのために政策当局が とることのできる方向性は 2 種類あり、一つは取り締 まりの確率は低いが罰則を非常に厳しくするという方 向性、もう一つは、罰則は軽いが取り締まりの確率を 非常に高くするという方向性である。現実にはこの極 端な 2 つの例の中間となる位置に、取り締まりに実効 性を持たせながら取り締まり費用を最小にする水準が 存在すると考えられる。 

6.  現行規制の改善提案 

 

5 での分析により、現行の規制に効率性の面で問題が あることが明らかとなった。そこでこれ以降、現行規 制に対して市場重視政策の導入を検討し、屋外広告物 条例における面積規制の効率性を改善するための提案 を行う。 

6-1.  屋外広告物への課税(ピグー税) 

 

ピグー税は、屋外広告物市場における市場均衡点が 社会的限界費用と限界便益との交点に移動するよう税 金を課すことで外部性を内部化し、社会的余剰の最大 化を図る規制手法である。外部性の内部化措置として 理想的な政策であるが、ピグー税を実施するためには 掲出者の限界費用・限界便益曲線と社会的限界費用曲 線に関する完全な情報を政策当局が把握する必要があ り、通常それは困難である。現に外部性への対策が数 多く議論されてきている環境政策の分野でも、これま で社会的費用に等しい額を課税するという厳密な意味 でのピグー税は行われてきていない。 

6-2.  屋外広告物への課税(ボーモル・オーツ税) 

 

ボーモル・オーツ税はピグー税における社会的余剰 の最大化は目的とせず、外生的に決定した社会的に適 当と考えられる規制水準 S2 を満たすよう税率を定め ることで社会的費用を抑える規制手法である。(図 1) 

     

         

                     

      図 1:ボーモル・オーツ税   

  税金が課されると、全ての掲出者が税金と屋外広告 物を掲出する限界純便益が等しくなる水準まで屋外広 告物の面積を減らすため、全ての掲出者における限界 純便益が均等化して効率的な規制を行うことが可能に なる。この規制手法は現行制度における許可申請手数 料を税率 t とおきかえて、それを発展させるかたちでの 導入が可能であるため、導入に際しての社会的取引費 用は後述する広告権取引と比較して低いといえる。 

  また、個人商店の看板など、広告面積が小さく外部 性が無視できると考えられる領域(O→A)については、

社会的取引費用の低減と規制効果に対する行政費用の 観点から、税金を非課税とすることを提案したい。 

  このようにピグー税と比べて実施に必要な情報量が 少ないボーモル・オーツ税であるが、それでも目的の 規制水準を実現する税率を見つけるためには掲出者の 限界費用・限界便益曲線の完全な情報が必要となり1、 政策実施が容易であるとは言い難い。

 

6-3.  広告権取引 

 

広告権取引はあるエリアにおける広告総量を政策当 局が決定し、その範囲内で屋外広告物を掲出する権利 を各掲出者に割り当て、その後取引をさせることで効 率的な規制を行う規制手法である。ここでは広告権の 主な初期配分にオークションを用いることで、効率的 な規制と公平な初期権利配分を行うことができる。 

1 政策実施の別の手段として、ピグー税、ボーモル・オーツ税ともに 税率を試行錯誤的に改訂する方法も考えることができる。その場合は、

税率改訂に伴う行政費用と社会的費用を政策選択の考慮にいれる必要 がある。

(4)

  広告権取引では、実施に際して政策当局が対象エリ アにおける広告総量さえ決定すれば規制を行うことが 可能であるため、課税による規制と比べて実施に必要 な情報量が少ないといえる。一方、全く新しい仕組み の構築が必要となるため、導入にあたっての社会的取 引費用は広告税よりも相対的に高いと考えられる。 

  広告権取引の場合も、社会的取引費用の低減と規制 効果に対する行政費用の観点から、自家用広告のよう な広告面積が小さく外部性が無視できると考えられる 領域 1 については広告権を無償配分し、それを超える 広告面積の領域 2 においてオークションによる権利配 分を実施することが現実的であろう。(図 2) 

                           

      図 2:広告権取引   

  実際に広告権取引制度を運営する上では、政策当局 が電子台帳によって各掲出者に配分されている広告権 の量を管理し、屋外広告物にその台帳と対応するよう な通し番号を打つことでモニタリングをしやすくする という管理方法を提案したい。 

 

6-4.  規制手法の選択 

 

ここまで述べてきた市場重視政策にはそれぞれ特性 があり、実施が容易な場面や不向きな場面が存在する。

それらをまとめると以下のようになる。

■屋外広告物の掲出に伴う社会的費用が一定であると 考えられる場合や、政策当局に試行錯誤的な課税が許 される状況にある場合は、(試行錯誤的な)ピグー税に よって規制を実施することが効果的である。 

■掲出者の純便益に関する情報の入手が困難であり、

現在の広告量を基準に規制を行うような場合、広告に 対する課税よりも直接的に総量を決定できる広告権取 引によって規制を行う方が政策実施が容易である。 

■総量の規制に重点をおくボーモル・オーツ税や広告 権取引はエリアを限定した局所的な規制には有効でな い場合が多いため、局所的に規制を実施したい場合に は、必要な情報が把握できればピグー税、情報の把握 が困難であれば直接規制を用いる方が効果的である。 

 

7.  結論 

 

屋外広告物の外部性には地域差が存在し、A 県にお ける現行の直接規制は①規制水準に経済学的な根拠が 希薄である、②全ての掲出者に全く同じ水準の規制を 行っているという 2 つの意味で非効率である。これは A 県のみならず、同様の規制を行っている全ての自治 体についていえる。 

  よって、屋外広告物の社会的費用に関する実証的な 分析の結果を踏まえた上で、現行の直接規制に市場重 視政策を導入することで規制の効率性を改善できると 考えられる。その導入にあたっては、政策の特性と政 策実施に際して必要な情報量及び費用を考慮に入れた 上で最適なものが選択されるべきである。 

 

8.  今後の課題 

 

本研究では、データの都合上A県という広い範囲での 実証分析を行うことで論を進めたが、厳密にはさらに 細かくエリアを分けた上で、データや推計方法を洗練 させることによるモデルの精緻化が必要となる。本研 究では踏み込まなかった実際の外部不経済と現行規制 との乖離といった具体的な議論は、そのような詳細な 分析を待った上で論じられるべきであろう。また、導 入される市場重視政策の具体的な制度設計についても 課題が残る。特に広告権取引に関しては屋外広告物相 互の組み合わせ効果などを考慮したオークションの制 度設計が必要になると考えられるが、その理論的な分 析は現在研究がなされている最中であり、今後の展開 が期待されるところである。 

<参考文献>  

R.L.ミラー・D.C.ノース・D.K.ベンジャミン/赤羽隆夫(訳)(1995)『経済学で 現代社会を読む』日本経済新聞社 

植田和弘・岡敏弘・新澤秀則(1997)『環境政策の経済学  理論̶と現実』日本 評論社 

国土交通省都市・地域整備局(2007)「景観形成の経済的価値分析に関する検討 報告書」 

渡辺隆裕(2002)「複数の財のオークションについて(特集 2  オークションの 理論)『経済セミナー』通号 569,pp67-73     

など 

参照

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