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総括研究報告書

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Academic year: 2021

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厚生労働科学研究費(地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究事業)

総括研究報告書

東アジア、 ASEAN 諸国における UHC に資する人口統計システムの整備・改善に関する総合的研究 研究代表者 鈴木 透 国立社会保障・人口問題研究所副所長

A. 研究目的

日本・ ASEAN 保健相会合( 2017 年 7 月)

の共同声明では、各国の住民登録や人口動態を 含む基本的データシステムの構築に関する共同 研究を促進することが宣言された。 住民登録 (も しくは civil registration )に基づく動態統計、

つまり出生・死亡・移動に関する登録・集計が 不十分な状況では、十分な分析ができず政策評 価にも支障を生じる。特に人口動態統計がない か、あっても届出率が低い状況では、妊産婦死 亡率( 3.1.1 ) 、幼児死亡率( 3.2.1 ) 、新生児死亡 率( 3.2.2 ) 、心血管疾患・がん・糖尿病・慢性 呼吸器系疾患による死亡率( 3.4.1 ) 、自殺死亡 率( 3.4.2 ) 、交通事故死亡率( 3.6.1 )青少年出 生率( 3.7.2 )といった、多くの SDGs 指標の算

定が不可能もしくは標本調査による不正確な値 となる。本研究では、東アジア・ ASEAN 諸国 における人口動態統計制度およびその基礎とな る住民登録制度の問題点と整備・改善の条件に 関する国際比較分析を行う。

B. 研究方法

東アジアの日本・韓国・台湾では統計制度は 十分発達しているが、確立までの経緯は

ASEAN 諸国に貴重な示唆を与えるだろう。特

に日本統治下で人口動態統計が急速に整備され た台湾と、日本統治中はもちろん 1960 年代に 至っても不十分なままだった韓国の比較研究は 示唆するところが大きい。中国に関しては経済 統計への懐疑論が提起されているが、人口統計 研究要旨:出生・死亡をはじめとする人口動態統計は UHC の評価に不可欠で、ま

た人口統計システムの改善が UHC 達成を促進することが知られている。日本統治 下の台湾では保甲制度と警察機構の接合によって完全に近い登録システムが構築 されたが、そうした条件を欠いた朝鮮の統計制度の発展は遅れた。韓国で 1980 年 代後半に届出率が向上したのは、地域別経済指標への関心の高まりが影響したと考 えられる。多くの ASEAN 諸国で届出率が向上したが、死因統計についてはまだ残 された課題が多い。マレーシアは統計システムの整備と UHC 目標の達成をほぼ完 了したが、インドネシアは未だに修正・死亡に関する指標を静態統計から間接推計 している状況である。

研究分担者

林玲子 国立社会保障・人口問題研究所 部長 小島克久 同 部長

千年よしみ 同 室長 菅 桂太 同 室長 中川雅貴 同 室長

研究協力者:

仙田幸子 東北学院大学教養学部准教授

大泉 嶺 国立社会保障・人口問題研究所

主任研究官

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でもたとえばセンサスによる合計出生率が低す ぎるといった問題があり、注意深い検討が必要

である。 ASEAN ではシンガポールで統計制度

が最も完備しているが、フィリピンなど急速に 出生・死亡登録を整備している国もあり、各国 の人口登録とそれに基づいた統計作成に関する 現状と動態統計整備に関わる施策の状況を把握 し問題点を抽出し改善策を示す必要がある。ま た住民登録システムと人口動態統計が整備され るまでの間は、センサスによる間接推計法の改 善、 DHS ( Demographic and Health Survey ) のような標本調査の利用、 HMD ( Human Mortality Database ) や HFD ( Human Fertility Database ) といったデータベースの整 備と活用に関する研究も重要である。さらに現 行の統計システム、データに依拠し、直接的に 推計の制度を向上させる手法の検討も必要だろ う。

C. 研究結果

C-1. 韓国・台湾における人口統計システムの発

日本統治期から現在に至る韓国・台湾の人口 統計システムの発展過程を比較した。日本統治 下の台湾における人口登録システムの創設と運 営は非常な成功をおさめ、出生数・死亡数の届 出率は完璧に近く、 修正の余地がほとんどない。

これは伝統的な保甲制度と警察機構の接合が非 常にうまく行ったためで、戸籍変更事項の届出 に限らず、治安維持、公衆衛生、防災と救恤な ど多方面で大きな成果を上げた。

一方、日本統治下の朝鮮では保甲のような自 治組織がなく、警察も民政に介入するには至ら なかった。このため出生・死亡の届出率は低か ったが、それでも 1940 年代前半には出生は 85% 程度、死亡は 95% 程度まで向上したと推定 される。 しかし大韓民国として独立後は急落し、

特に朝鮮戦争中( 1950 ~ 53 年)の届出率は出 生・死亡とも 14% 前後だったと推定される。

1960 年代半ばになっても届出率は 40% 未満で、

業を煮やした経済企画院は 「人口動態標本調査」

を実施し人口動態率の推計に役立てようとした。

韓国の出生・死亡届出率が 95% を超えたのは 1980 年代後半で、 地域別経済指標に対する関心 の高まりが自治体の担当者の熱意に火をつけ、

住民の関心と理解を惹起することに成功し、届 出率の向上をもたらしたと考えられる。

日本・台湾では明治時代以来の戸籍簿の記録 方式がほぼ維持されているが、韓国では 2008 年に廃止され、個人単位の家族関係登録簿に切 り替えられた。中国では 1950 年代に始まった 農村戸籍・都市戸籍の区分が維持されており、

社会保障の格差問題につながっている。

C-2. 東アジア・ ASEAN 諸国の死因統計の整備 状況について

アジア全体の死因統計の状況を概観した後、

韓国・中国・マレーシア・ベトナムの死因登録 の状況を検討した。 WHO の評価によると、韓 国の死因統計は日本と同様に問題がなく、中国 のそれには重大な問題があり、マレーシアとベ トナムのそれは分析に耐えないとされる。

日本統治時代を除き、韓国の死因統計が得ら れるのは 1982 年以降である。現在は遺族が死 亡診断書を自治体に提出し、そこで入力された データが統計庁に送られるようになっている。

中国では共通様式による死亡証明書の作成が求 められているが、死因別統計の対象となるのは 605 監測地点(総人口の 24% )だけである。

マレーシアの死亡登録率は高いが、死因統計 の信頼度は低い。 WHO が勧告する複数死因を 書くようになっておらず、医学的判断の割合は 51.5% ( 2014 年)にとどまる。マレーシア独自 の簡単分類による 10 大死因は毎年公表されて いるが、医学的判断か否か、公立病院か否かで 順位が大きく異なる。ベトナムの死因統計もマ レーシアと同じく信頼度が低い。農村部では埋 葬許可が必要でなく自宅死亡が多いため、死亡 診断書が作成されない場合が多い。

C-3. 台湾における UHC と人口統計

台湾は 1995 年に医療に関する皆保険を達成 したが、ごく少数とは言え医療保険がカバーで きない部分は残っている。そこで被保険者数の 把握との関連において、台湾の人口統計を検討 した。

「全民健康保険」 は、 ①台湾戸籍を有する者 、

②台湾で雇用されている外国人(中国・香港・

澳門を含む)を対象とする。外国人は被雇用者

以外に、 「台湾での在留許可などの書類があり滞

在が 6 か月になる」等の条件を満たせば加入で

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きる。 登録人口による 2017 年の加入率は 98.0%

である。センサス人口は登録人口より少なく、

加入率は高めに出る。外籍労工の加入率は高い が、在台期間が短い外籍配偶の加入率が低く、

加入促進が必要とされる。

C-4. マレーシアにおける UHC と CRVS の現 状と課題

マレーシアにおける出生・死亡登録の創設過 程と現状について検討した。英領マラヤでは 1869 年以降出生・死亡登録法が制定され、州ご とに運用されていた。 1953 年以来、国家登録局 が出生・死亡・結婚・離婚・養子縁組・国籍変 更を管轄してきた。半島では出生届は 60 日以 内、死亡届は 7 日以内に行わねばならず、サラ ワク州では各々 14 日以内、 24 時間以内と定め られている。

2000 年代からマレーシアは IT 大国を目指し、

個人情報登録に加え様々な機能を持つ Mykad を導入した。これによって出生・死亡の届出率 は向上したが、遠隔地ではまだ漏洩が多く、国 家登録局はときどきワンストップ・センターを 置いて登録を促している。

C-5. シンガポールにおける現代的統計制度の

成立

英領マラヤ連邦では統計局長官が権限を独占 する一極集中型の統計システムが運営されてい たが、シンガポールとして独立後は統計制度調 査会答申( 1969 年)をきっかけに分散型のシス テムに移行した。 1980 年代には統計局が実施し ていた統計調査が次々と担当省庁へ移管された が、 この過程で出生・死亡統計は国家登録部へ、

結婚・離婚統計は地方自治開発省へ移された。

1990 年代には IT を利用した効率的なデータベ ースが構築された。こうして確立された高精度 の統計システムを基盤に、 2000 年センサスから は登録センサスに移行した。

C-6. インドネシアにおける人口動態統計の現

状と課題

インドネシアの住民登録と人口統計の現状に ついて検討した。住民登録のカバー率はまだ低 く、人口統計のカバー率はまだ低く、未登録児 数は世界で最も多い国の一つとされる。インド ネシア政府は、 18 歳未満人口の登録率を、現状

の 56% から 2019 年には 85% まで引き上げるこ とを目標としている。住民登録は内務省人口市 民登録局が管轄しているが、出生登録は保健省 も登録システムを運用しており、内務省のシス テムと統合されていない。出生登録・死亡登録 とも主に助産師が行うため、中高年男子の死亡 登録率が低い。乳児と妊産婦死亡以外では、統 一された死因登録システムがない。 ただし 2014 年から 128 郡区(約 800 万人)で「標本登録シ ステム」により 55 ~ 72% の死亡について死因が 登録されている。このため合計出生率や平均寿 命のような指標は、センサスや標本調査から推 計されている。しかしそうした推計値には、各 種の問題が指摘されている。

D. 考察

台湾は 20 世紀初頭に欧米先進国を上回る人 口統計システムを完成させた希有な例であり、

植民地としては例外中の例外と言える。これは 戸口制度と警察組織の接合が非常にうまく行っ たためで、現地人を含む警察官が住民の日常生 活全般に強力に介入したことにより可能だった。

このような「警察国家」の確立は、強力な独裁 政権下でもかなり難しいと思われる。

朝鮮では保甲のような利用できる制度がなく、

警察も住民の日常生活に介入できず、統計制度 の発展は遅れた。韓国で 1980 年代後半に出生・

死亡の届出率が向上したのは、地域別統計指標 への関心の高まりに動機づけられたものと考え られる。したがって水増し報告のようなモラル ハザードを回避しながら、正確な地域別指標の 重要性と有用性を担当者と住民に納得させられ れば、届出率の向上につながるだろう。

ASEAN にはシンガポールやマレーシアのよ

うに届出率が高い国もあるが、ベトナムの死亡 届出率は 90% 未満と考えられ、インドネシアは 重要な指標の算出を静態統計に頼っている状態 である。また全ての死亡について WHO が推奨 する形式で死因が集計されている国は、アジア では日本・韓国・ブルネイだけである。中国も 正確な死因統計が得られるのは一部の地域だけ で、 SDGs 達成の評価時に障害になる。

E. 結論

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アジアで人口動態統計に問題がないのは日 本・韓国・台湾・シンガポール程度で、他の国・

地域は何らかの問題を抱えている。 中国は 2000 年以後センサスの合計出生率が異常に低く、死 因統計も一部地域でしか得られない。人口ウェ イトが高い中国で、経済発展にもかかわらず統 計の信頼度がなかなか改善されないのは問題で ある。発展段階が中国に及ばない国・地域も、

統計システムの整備が UHC 達成に貢献するこ とに鑑み、一層の努力が求められる。

F. 健康管理情報 なし

G. 研究発表

1. 論文発表

Toru Suzuki, Eastern Asian Population History and Contemporary Issues , Population Studies of Japan, Springer, 2019.

小島克久「台湾における地域密着の高齢者介護 ケア提供体制構築の動向」 『 Int'lecowk 』 1085 号 , pp.7-16, 2018

小島克久「日本の長期時系列の社会保障支出動 向・ 1990 年代の介護制度構築」 『社会保障評 論』第 9 号 , 2019 (刊行予定)

中川雅貴・山内昌和・菅桂太・鎌田健司・小池 司朗( 2018 ) 「都道府県別にみた外国人の自 然動態」『人口問題研究』第 74 巻第 4 号 ,pp.293-319.

中川雅貴「外国人人口の移動と分布」小崎敏男・

佐藤龍三郎 編著『移民・外国人と日本社会』

原書房, 2019 年 1 月.

中川雅貴「オーストラリアにおける移民の動向 と政策」 『統計』第 70 巻第 1 号, 2019 年 1 月, pp.26-31.

中村廣隆・尾島俊之・中川雅貴・近藤克則「地 域在住高齢者が転出に至る要因の研究」 『厚生 の指標』第 65 巻第 5 号, 2018 年 5 月,

pp.21-26.

2. 学会発表

Toru Suzuki, “Family and Demographic

Changes in Eastern Asia,” The 2nd Seoul Population Symposium, 11 July 2019, Seoul, Korea.

Toru Suzuki, “Comparative Politics of Low Fertility in Eastern Asia,” International Seminar on Indicators and Politics of Low Fertility, 11 December 2019, Seoul, Korea.

Reiko Hayashi “The demand and supply of the long term care in Asia”, The 4th Asian Population Association Conference, Shanghai, China

Reiko Hayashi “Population ageing and emerging needs for the long-term care in Asia - its challenges and opportunities“, 7th International Public Health Conference, 30th Aug.2018, Putrajaya, Malaysia

Katsuhisa Kojima (2018), “ Social Security in Japan -Developments and Challenges - ” 14th International Conference on Social Security, Dalian, China, 17th September 2018.

Katsuhisa Kojima (2018), “ Japan Long-term Care Insurance and its Local Governance ” Nanjing Forum 2018, Nanjing, China, 18th November 2018.

菅桂太・ Cho Sungho 「地域差を考慮した若年 層の自立と初婚タイミングの日韓比較」 , 日 本人口学会第 70 回大会, 明海大学 ( 2018.6.2 ) 菅桂太・小池司朗「 2015 年国勢調査人口移

動集計における「不詳」と移動率」 , 日本人 口学会第 70 回大会,明海大学( 2018.6.3 ) 小池司朗・菅桂太・鎌田健司「地域別将来人口

推計における手法と結果の概要」 , 日本人口 学会第 70 回大会,明海大学( 2018.6.3 ) Keita Suga, "Women ’ s Employment and the

Timing of 1st Marriage and 1st Childbirth in Japan: A Life Course Perspective,"

presented at Population Association of America Annual Meeting 2018, Sheraton Denver Downtown, U.S.A. ( 2018.4.26 ) and presented at European Population Conference 2018, The Vrije Universiteti Brussel, Belgium. ( 2018.6.7 )

Keita Suga, "Regional Population Dynamics and Its Consequence in Japan: 1980-2040,"

5th Annual International Conference on

(5)

Demography and Population Studies, Titania Hotel, Athens, Greece. (2018.6.18) Keita Suga, "A Life Course Analysis with

a Competing Risk Model for Women's Employment, and 1st Marriage and 1st Childbirth in Japan: Patterns and Covariates," 5th Annual International Conference on Demography and Population Studies, Titania Hotel, Athens, Greece. (2018.6.19)

Keita Suga, "Ethnic Differentials in Effects of 1st Marriage and Marital Fertility on Below-replacement Fertility in Singapore, 1980-2015: A Multistate Lifetable Analysis," The 4th Asian Population Association Conference, Shanghai University, China. (2018.7.13)

菅桂太・小池司朗・鎌田健司・石井太・山内昌 和「日本の地域別将来推計人口からみた将来 の死亡数」 2018 年度日本人口学会第 1 回東 日本地域部会,札幌市立大学( 2018.12.9 )

H. 知的財産権の出願・登録状況 1. 取得特許

なし

2. 実用新案登録

なし

3. その他

なし

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参照

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