英 語の 代 名 詞 化 変 形
一前 提 ・主 張 文法へ の 試み 一
神 崎 高 明
序
J.R. Ross は、 彼の 有名 な1967年の MIT 博士論 文の 中で 、すべ て の 素性 変 更 規 則 (feature changing rule )1は 、 代 名 詞化 (pronominalization )を 除 い て 、も
し句構 造 標 識 (phrase marker )の 中の 要素 A に 素 性 (十 F )が加 え られ る な ら、こ の 変 化 を引 き起 こす要 素は、 A を統 御 (command )2 し て い な けれ ば な ら ない とい う条件 を受 け る こ と を主 張 し てい る。 そして、並 び換え 変 形 (reordering transformatiOn )の 中の 切 り取 り規 則 (chopping rule )3 もま た、 素 性 変 更規則
と同 じ 条 件 を 受 ける こ と を同 時に明 らか に して い る。こ の よ うに 、素 性 変 更 規 則
の 一つ
で も ある に もか かわ ら ず 、その 規 則 の持 っ て い る条件 を受 け ない 唯一の 規則で ある代 名 詞 化 変 形 が、どの よ う な言 語 行 動 (Linguistic behavbr)を 示 す
か 、ま た代 名 詞 化変 形に は 、 どの 様 な条件 が 必 要で あ る か など に関 し て 、統 語 的 (syntactic )な 面 よ り も、 む し ろ意 味的 (semantic )、 機能 的 (functiona1)
な面か らの 考 察 を試み るの が 、 本 稿 の ね らい で あ る。
一 69一
1 .Ross −Langacker の代 名詞化 規則
概 し て 、代 名 詞 化の 現象 は、 変 形 生 成 文 法 家に よっ て 、統 語 的 な 規 則 と し て取 り 上 げ られ、
その 規 則 に 関 する様 々 な 条 件が考 え ら れ て き た。 その 中で 、最 も 包 括 的 に代 名 詞 化の 現象 を 捉 えて い る と思 わ れる の は、Langacker (1969)やRoss (1969)に よっ て個 別に研 究 さ れ、
提 案 さ れ て い る代名 詞 化の 規 則で ある。 たと え ば、Ross (1969:192)は 、その 規 則 を 次の よ う な 公 式と し て表 わ して い る。
{1) 「代 名 詞 化」4
・D X − [欄 … [螺 。]一・騰 的 、、、
1 2 3 4 5− = = =≒〉
・C (・) 1 2 3 [.詞 ・ ま た ・ (・) ・ [+詞 3 4 5
条 件 :(1) 2 = 4
(2) (b>が許 され るの は、2 が従 文 (subordinate clause )に あ り、その 従 文 が 4 を 支 配 (dominate)し て い ない 時に限 る。
代 名 詞 化 に関 する(1}の 規 則は、(a >の よ う な 順 行 代 名 詞 化 (forward pronomihalization )の 場合は 無条 件である が、(b)の よ う な 逆 行 代 名 詞 化(backward pronominalization ) の場合
は 、2が 従属 節の 構成 要 素で 4が そ の節の構 成 要 素で ない 場 合の み 代 名 詞 化が 可能で あ る と
い うこ とを 意 味 し て い る。
こ の規則に よ れ ば、
Before Hαrry did something rash , he ca ed me . 〔3) Before he did something rash , Harrpt calmed me .
の(2}が文法 的 な 文 で あ る とい うこ と は、順 行 代 名 詞 化 が 無 条 件で あ る こ とに 由 来して お り、
(3)が文法 的 で あ る とい うこ と は、代 名 詞 化 を受け る前のHarry が従属節の 構成要 素で あ るこ
と に由 来 し てい るこ とに なる。 又、
〔4) Harry ca ed me before he did something rash .
5
〔5〕* He calmed me before Harry did something rash ?
の 文の(4}の場 合に は、(2〕と 同 様 に、順 行 代 名 詞 化の た め に無 条 件 に 代 名 詞 化が行な わ れて お り、(5)の場 合に は、文 頭 の Harry が従 属 節の 構 成 要 素で ない に もか かわ らず、代 名 詞 化 さ れ てい るために 、非 文 法 的 な文になっ て い るの で あ る。
以上の よ うに 、 Langacker − Rossの提 案 し た代名 詞化の 規 則に従え ば、(2}一(4)の よ う な 文 法 的 な 文 を派 生 し、(5}の よ うな非 文 法的 な文の派 生 を阻 止す る こ とが 出 来る 訳で ある が、
こ の 規 則 に は、 重大な 反 例がい くっ か存 在 し て い る。 次の 節か ら は、そ れ らの 反例 を招介 し
っ つ 、Ross −Langacker の 代 名 詞化の 規 則 に 取 っ て代 わるべ き代 案を示 し て ゆ くこ とにする。
一 71 一
2 .Lakoff の 出 力条 件
Lakoff (1968 :5)は、 Langacker − Ross の 代 名 詞 化の (a >の 順 行 代 名 詞 化 は無 条 件 1こ 起こ る とい う主 張 に対 し て 、次の よ う な 反例が 存在 す る こ とを 指 摘 し てい る 。
(6} In Mary ’s apartment , a thief assaulted her . {7}*ln her apartment , a thief assaulted MarOr.
(8)*ln M αrrv’s apartment
, she was assaulted by a thief . {g) In heT apartment . Mary was assaulted by a thief ・
上 記の文 に お い て、Lakeff (1968: 1 − 5)も主 張 し て い る よ うに 、副詞前 置 変 形 (adverb
7
prepesing )は代 名 詞化 に 先 行 するこ とか ら、Langacker − RQss の 規 則の (a )に よ り、(6)
は 文 法 的 な 文 となり、 (7)は非 文 法 的 な 文と なる 。 しか し なが ら、彼 らの 規 則 に よ れ ば、非 文 法 的 な(8)を 文 法 的 な 文 とし て 、又、文法的 な (9)を 非 文 法的 な文 と し て派 生し て し ま うこ と に な る。こ の 事か ら、Lakoff (1968 )は、 Langacker −Ross の (a )の 順 行 代 名 詞 化 は 無 条 件で 起 こ る とい う 主 張が誤 り で あると し、(6)、(7}と{81、(9}の 文 法 性の 差 異は、(1}の 規 則 の 構 造 指 標の 第 4項の NP が、(6}、(7}に おい て は、主 語で ない位 置に あ り、{8}、(9}に お い て は、主 語の 位 置 に ある ためであ る と す る。 第4項の NP が 、主 語で ある か、主語 で ない か が、 副 詞 前 置
変 形 に の み適 用され る ad hoc な条件 で ない こ とを 示 す た め に、 Lakoff (1968:5 − 9 ) は 同 様の 事が、話 題 化 変 形 (topicalization )、分 裂 文 (cleft sentence )、主 節 (main clause )
に も 言 え る と し て 、 次 の よ うな例 文 を 挙 げて い る。
〔1 *Bitl’s apartment , he always talks to Mary about (it). (11} Bill ’s apartment , Mary always talks to him about (it). 〔12}*It was Jehn ’s dog that he bit.
(13) It was J・hn ’s
dogthat bithim .
(14)*He was hit by Mary , before John had a chance to get up . (1翁 Mary hit him , before John had a chance to get up .
(1 一 の 例 に お い て も、(8)、(9}の 例 と同 様 に 、Langacker − Ross の 代 名 詞 化で は、現 実の 文 法性と は全 く逆の文 法 性 を 予 測 して し ま うこ と に なる。 そこ で、Lakoff (1968 二14−
5 >は{ {8}一{15)の 文の 文 法性を正 し く説明 す る た め に、主 題 化 変 形、分 裂 文 など の代 名 詞 化 に関 し、 Langacker − Ross で は説明出 来 ない 代 名 詞 化の 現象を 処理す る た め の(16)の(a )一
(e )の 出 力 条 件 (eutput condition )の他 に、(f)の よ う な 出 力 条 件 を設定 し てい る。
(1 「構 造 記 述 」8
X − NP − X − NP − X
1 − 2 − 3 − 4 − 5
も し上の よ うな構造 記 述 を 持っ 文が、次の よ う な条件 を満せ ば、非 文 法 的 に な る。
(a )2 が4 と同 じ指 示 関 係 にあ り
かつ (b )2が 4 を統 御 し て お り
かっ (c )4が 〔十 PRO 〕で あ り 〔− REL 〕で あり
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かっ (d )2 が適 切 な 強勢 (appropriate stress ) を持っ て お り
かっ (e )4 を支配 し て い るが、 2 を支 配 して い ない S節 点が 多 くて (at most )一っ あ
り、
かっ (f)4 が 主 語で あ る 場 合
確かに 、Lakoffの 提 案 す る の よ う な 出 力 条 件に よ れ ば 、(8}一(15)の 文の 文法 性 は、正 し く 説 明 されるが、Karttunen (1968:6)が提 出し て い る 次 の よ うな談 話 (discourse)の中に
お け る代 名 詞 化 に 関 して は、Lakoff の出 力 条 件で は、そ れ らの 文 を 構 造 記 述 に 合 う もの と し て 、代 名 詞 化 を許 して しま う。
(1の John didn’・t manage to find an apartment . * lt has a balcony ・ (IS Bill didn’tdare to ask a question . *The lecturer answered it.
こ の こ とか ら、aη、 は、順 行 代名 詞化に関す るLakoffの出 力 条 件に対 する重 要 な 反 例で あ る こ とが分か る。 又、 Langacker ・一・Ress の 規 則 や、彼 ら と ほ ぼ 同 じ考 え方 を 逆行 代 名 詞 化に 関 し て 取っ てい る と思 わ れ るLakoffなどの 枠 組 み で は、次の よ う な文 を、(1)の (b )の 条 件 に適 合 す るもの と して、文 法 的 な 文 とし て し まう。
(19)*What annoyed him was my punching BiU .
*The th諭g that annoyed him was my punching Bilt.
こ の よ うに 、Langacker − Ress 、 Lakeffの 代 名 詞 化 規則に は、重 要 な反例が 存 在 し て い る 訳で あ り、それ らの 反 例 を 彼 らの 規 則に組み 入.れ る た め に は、彼 らの 規 則 に新た に別の条 件 を
加 え る必要 がある。 事 実、 Postal (1971:23)は、 、 の よ う な 文 を 説 明 す る為 に 、逆行 代 名 詞化 に 関 す る 次 の よ う な特 別の 条 件 を 考 案し て い る。
1) 指 示 的同一性 を 表 わ す 連 結 動 詞 を 越 えての 逆 行 代 名 詞 化は不 可 能 であ る。 (Back − ward prenominalization is banned across a copula verb of referential identity.)
しか しなが ら、 次の よ うな文に おい て は、連 結 動 詞 を 越 えて 逆 行 代 名詞 化が起 こ っ てい る にもか か わ ら ず 文 法 的 な 文で あ るこ と から、Posta1の 主張す る(21}の条 件は、明 らか に一般 性
を欠 くαdhoe な 条件 で あ る こ と が分 か る。
My punching him was BiU’s major gripe・ My punching him was what annoyed Bitl.
こ の よ うに 、 、{1 9)の よ う な 反 例の た めの 特別 な条 件 を 考案 して も、尚 かっ その 条 件 に関
して 、 の よ う な 反 例が残る とい うこ と は、 彼 ら の 規 則の枠組 み 自 体に、何か根 本 的 な 誤 りが存在 し てい るこ と を 示 して い る よ うに 私 に は思 われ る。そこ で、本 稿で は 、〔1の、 の よ うな一文 内での 代 名 詞 化 と同 様 に、(19、20の よ う な 談 話 内で の 代 名 詞 化 を も、一元 的、統一
的 に 説 明 する た め に、従来の 変 形文法 窟 に よっ て追 求 さ れ て来 た規 則 に対 し て様 々 な 統 語 的 制 約 (syntactic censtraint )を掛 けて ゆ く とい う接 近 法 を 捨て 、代 名 詞 化の 現 象 を 前提 (pre −
suppositien )や主張 (assertion )とい っ た 意 味 的 概 念 を 使 用 して分 析 してゆ くこ とにす る。
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