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背信の税制と闘う税務会計学研究

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(1)

Ⅰ 両院合同協議会の合意により消費税の部分的改正が成立   ──申告と納付回数・中小事業者の特例・非課税品目──

1 与野党合意による「税制問題等に関する両院合同協議会」を設置し

消費税の見直しを検討

 消費税実施の翌年1990年2月18日に前年の参議院選挙に続いて衆議院の 総選挙が行われ,総選挙後の第118回特別国会では,政府提出の消費税見

 217 商学論纂(中央大学)第

60

巻第3

4号( 2018

11

月)

背信の税制と闘う税務会計学研究

──税務会計学研究

70

年の歩み・

1990

年代前期・中編──

富 岡 幸 雄

   目   次

Ⅰ 両院合同協議会の合意により消費税の部分的改正が成立   ──申告と納付回数・中小事業者の特例・非課税品目──

Ⅱ 所得税減税をするならば消費税アップとのセットを示唆   ──早くも消費税の増税を目論む策謀の胎動を開始──

Ⅲ 細川内閣の税制への取組みによる国民福祉税騒動の真相   ──深夜の突然の記者会見で7%の新税提案で大混乱──

Ⅳ 政局激動で社会党の村山首相による消費税増税への仾変   ──3%から5%への増税は社会党を滅ぼす背信行動──

Ⅴ 消費税の定着化と税率アップシフトの策動の時期の闘い   ──税制の不公正化を阻止する税制再改革構想を志向──

Ⅵ 公正と正義を貫徹する日本税制を目指す税制再改革提案   ──空洞化しているメインタックスの所得課税の再建──

Ⅶ 『背信の税制──サラリーマン・生活者いじめの構造』を出版   ──「経済大国・生活小国」異状の日本改革の爆弾提言──

(2)

直し法案も,野党提出の消費税廃止法案も,ともに6月22日,会期末を前 に廃案となった。

 その後,特別同会の会期末を控え,与野党の幹事長・書記長会談が開か れ,消費税をめぐる膠着状態の打開のための協議が行われた。その結果,

消費税の見直しや土地税制のあり方の検討を念頭に置いた「税制問題等に 関する両院合同協議会」と「税制問題等に関する両院合同協議会専門者会 議」が設けられた。

 両院合同協議会と専門者会議は,会期末の6月26日にそれぞれ第1回会 合が開催され,翌1991(平成3)年4月25日までに,地方統一選挙をはさ んで,両院合同協議会は4回,専門者会議は25回にわたって開催し,消費 税の見直しにつき,与野党間の合意を取りまとめた。

2 両院合同協議会で与野党間で合意した消費税の見直し内容

 消費税の見直しについて両院合同協議会で合意を取りまとめた内容は,

次の3点である。

⑴ 申告・納付の回数(運用益の問題)

 申告・納付の回数を大規模な事業者について年2回から年4回に増や すことにする。

⑵ 中小事業者の特例(益税の問題)

 簡易課税の適用上限を5億円から4億円に引き下げ,限界控除の適用 上限を6,000万円から5,000万円に引き下げる。免税点の3,000万円は維持 する。

⑶ 非課税品目(逆進性の問題)

 住宅家賃,入学金,教科用図書,身体障害者用物品,第二種社会福祉 事業,介護サービスなどを非課税とする。

 飲食料品については,意見の一致ができず,10月まで協議する。

(3)

3 消費税の一部を改正する法律が成立し小手先の改正を実施

 前述の見直しについての合意した内容を織り込んだ「消費税法の一部を 改正する法律案」は議員提案により1991(平成3)年5月1日に衆議院に 提出され,5月7日に衆議院を通過し,翌5月8日に参議院で可決され成 立し,10月1日に施行された。

 協議を継続するものとしてきた飲食料品については,その後においても 最終的に意見の一致をすることができないで,両院合同協議会は10月23日 に解散した。

 政府サイドでは,この見直しにより消費税がかなり安定し定着しつつあ ると判断していたようである。しかし,国際水準からみても原理的にも技 術的にも大きな欠陥を抱えている消費税の見直しについては,余りにも末 梢的で消極的で僅かな部分について小手先の改革に止っているものという べきである。

Ⅱ 所得税減税をするならば消費税アップとのセットを示唆   ──早くも消費税の増税を目論む策謀の胎動を開始──

1 政府税制調査会は「平成5年度の税制改正に関する答申」で所得税

減税を議論するのであれば「消費税アップ」とセットで検討すべきこ とを示唆

 消費税の一部を改正する法律は,1991(平成3)年5月であったが,そ の年の秋には海部内閣に代って宮澤喜一内閣が登場した。

 1992(平成4)年末頃になると,昭和末期の税制改革以後の時の経過に より物価調減税の議論が出てくるとともに,長引いている不況からの脱出 のために所得税減税を実施すべきであるとする意見が出てくるようになっ たが,平成5年度税制改正で減税は取り上げられなかった。

 政府税制調査会は,財源の確保が難しいこと,中低所得者の負担は必ず

(4)

しも過重とはいえないことなどを取り上げて,1993(平成5)年度の税制 改正に関する答申において「平成5年度税制改正においては,現下の厳し い財政事情にかんがみ,所得税減税を行うことは困難であるとの認識に達 した」と結論づけた。

 もっとも答申は,これに続けて,「所得税減税の問題は,幅広い角度か ら検討すべきである。当調査会は,税制改革に関する諸答申において,所 得・消費・資産等の間で均衡のとれた税制を目指すべきであるとの提言を 行っており,近年の税制改正はそうした考え方に沿って推進されている。

現下の所得税減税の問題についても,こうした方向で,今後重要な検討課 題として十分議論する必要がある」とつけ加えていることは見逃すことは できない。

2 答申の文章には 霞が関文学 の官僚作文により「消費税増税」が

炙り出される仕掛け

 この答申の表現は,非常に抽象的で,一般論のようで真意として何をい おうとしているのか一読したのでは,よくわからないが,ここに,いわゆ る 霞が関文学 といわれる 官僚作文 の特徴が潜んでいる。いわんと する正解は,「減税を議論するのであれば消費税アップとセットで検討す べきである」ということである。

 恐ろしいことに,所得税の減税要求の議論が起きたことを契機として,

本命は,消費税の税率アップが必要である,との消費税増税論の本音を示 唆し提起したいのである。

 所得税減税問題は,そのための財源需要にからみ, 炙り出す と,「消 費税増税問題の提起」ということが浮かび上がってくるという仕掛けなの である。

(5)

3 宮澤総理は所得税減税についてかなりの姿勢を示していたが内閣不

信任決議が可決され総選挙で惨敗し政権交代で細川連立内閣が誕生  所得税減税について宮澤総理は,かなりイメージを浮き彫りにしている とともに1993(平成5)年の秋口にかけての政府税制調査会での検討の開 示への期待が明らかにされていた。

 宮澤総理は,1993(平成5)年6月,国会において「先般の抜本改革で は所得課税の累進構造の緩和をやりきれなかったということもあり,税体 系の問題について本年秋に政府税調で始められる」旨の答弁をしていた。

 ところで,補正予算成立後,野党から宮澤内閣の不信任決議案が提出さ れ,これに対して自民党議員の一部が荷担し,不信任決議案が可決され た。宮澤総理は衆議院の解散をもって対抗し,1993(平成5)年7月18日 に総選挙が行われた。総選挙では,社会党・公明党などの野党が所得税減 税に熱心であった。

 総選挙においては,自民党の内部分裂もあって過半数を得ることができ ず宮澤内閣は総辞職した。その結果,1993(平成5)年8月9日,自民党 の一党独裁が38年ぶりに崩壊し,日本新党の細川護熙代表と首相とする非 自民・反共産の8党派による連立内閣が誕生した。

Ⅲ 細川内閣の税制への取組みによる国民福祉税騒動の真相   ──深夜の突然の記者会見で7%の新税提案で大混乱──

1 税制改革に関し積極的に取り組んだ細川総理の姿勢には,大蔵官僚

のシナリオで消費税率のアップの狙いが伏在

 細川総理は,1993(平成5)年8月23日に衆参両院において所信表明演 説を行い,まず政治改革を取り上げ,「本年中に政治改革を断行する」こ とを内閣の最初の最優先課題とするとした後,重要な検討課題として財政 問題を取り上げ,その中で税制について,次のように表明した。

(6)

 「税制については,平成元年に抜本的な税制改正を行って以来,約

5年が経過しておりますが,その間,バブルの発生とその崩壊,高齢

化の一層の加速などの事態が生じております。私は,このような経済 情勢の変化に現行の税制が即応したものになっているかどうかを点検 し,公正で活力ある高齢化社会を実現するため,年金など国民負担全 体を視野に入れ,所得,資産,消費のバランスのとれた税体系の構築 について,国民の皆様方の御意見にも十分に耳を傾けながら総合的な 検討を行ってまいりたいと存じます。現在,税制調査会では,このよ うな方向で御審議をいただいているところであり,その検討の成果を 尊重してまいりたいと考えております。」

 その狙いは,当面の景気対策とともに,「公正で活力ある高齢化社会」

を目指して,所得,資産,消費のバランスのとれた税体系を構築するとこ ろに置かれていた。この意図は,所得税減税と消費税率の引き上げの組み 合わせということである。

 この細川総理の所信表明演説での税制改革についての表現は,前述した 宮澤内閣時代の1993(平成5)年度の税制改正に関する政府税制調査の答 申と叙述は酷似しており,まさに, 瓜二つ である。自民党政権が崩壊 して政権交代をし,非自民による細川連立政権に代わったにも拘らず,こ れからの税制改正の進め方と狙いが前政権時代と同じであるのは一見して 不可思議なことである。

 しかし,よく考えてみると,当時も税財政政策を取り仕切っているのは 政府や政治家でなく,すべからく大蔵省による官僚主導によっているので あり,総理の施政方針や所信表明の演説の 原稿 は大蔵官僚の筆によ る,いわゆる 霞が関文学 による産物である。このことは,政府税制調 査会による税制改正意見の答申の文章も事実上は同様であるといってよい

(7)

であろう。

 したがって,前記の細川総理の所信表明演説の表現は,これを 炙り出 と,「所得税減税と消費税引き上げの組み合わせ」の提案についての 所信ということになる。

2 所得税を減税し消費税を引き上げ全体として国民負担の増大を求め

る政府税制調査会の細川総理への答申

 細川総理の諮問を受けて政府税制調査会は,1993(平成5)年11月19日 に,それまでの審議を取りまとめて,「今後の税制のあり方についての答 申──『公正で活力のある高齢化社会』を目指して──」を細川総理に答 申した。

 答申は,その基本的な考え方として,「税体系全体としての実質的な負 担の公平を高めるためには,消費課税のウエイトを高め,所得・消費・資 産等の間でバランスをとることにより,国民が公平感を持って納税しうる ような税体系を構築していくことが必要である」とし,租税負担水準につ いて,「高齢化の進展等に伴い社会保障費用などの財政需要の増大が予想 され,今後,国民負担率は上昇していかざるを得ないと見込まれる」と し,租税負担の求め方として,「生産活動の中心的担い手として高齢化社 会を支える勤労世代に過度に負担が偏らず,高齢者を含めた社会の負担可 能な構成員がその能力に応じて広く分かち合うよう,世代間で負担を平準 化していくことが必要である」としている。

 こうした基本的な考え方に基づき,答申は,改革の具体的な方向とし て,税目別に,次のように述べている。

 ⑴  個人所得税については,中堅所得者層を中心として税負担感を緩和 するため,全体として税率構造の累進性の緩和を進める等により,税 負担の大幅な軽減を図る。

(8)

 ⑵  消費税については,中小事業者への特例措置等について,1991(平 成3)年に行った見直し後の状況を踏まえて必要な見直しを行うとと もに,税率を引き上げ,税体系における消費課税のウエイトを高め る。

 ⑶  相続税については,現行の最低税率,最高税率を維持しつつ,税率 区分の幅を拡大することが適当である。

 総じていえば,所得税を減税し,消費税を引き上げ,全体として国民負 担の増大を求める方向を提示している。

3 深夜に突然の記者会見で細川首相は税率7%の国民福祉税構想を提

案し国民は驚愕

 年内決着を目指した政治改革が遅れたため平成6年度予算の編成作業は 越年となったが,年が明けて1994(平成6)年1月29日政治改革関連4法 案が成立すると,一気に税制改正作業が始まった。

 1994(平成6)年2月2日の深夜,細川首相から突然,税制改革草案が 発表された。

 たまたま私は,この細川首相の歴史的な生放送を視聴した。その日の深 夜,偶然にテレビのスイッチを入れたら何と細川首相ご本人による税制改 革草案についての記者会見の放送が始まっている時であった。

 細川首相は開口一番に「消費税を廃止します」と発言された。私は自分 の耳を疑う思いで,「これは凄いことだ」と,驚きながらも,一瞬,我々 の主張が実現したのだと喜んだ。

 ところが細川首相は,ひと息ついて,「これに代わり,国民福祉税7%

を創設し,3年後の平成9年4月1日から実施します」と続けた。今,3

%の消費税の代わりに7%の新税を提案しているのであり,これは大変な ことになると,逆な意味で再び非常に驚いた。

(9)

 細川首相は,続けて国民福祉税の創設の趣旨に関して発言し,「国民福 祉税については,高齢化社会においても活力のある豊かな生活を享受でき る社会を構築するための経費に充てることを目的とする」と,説明をされ た。

 記者会見での冒頭発言は,おそらく大蔵省の役人が書いた文章を細川首 相は読ませられたのであろう。大蔵省の役人にこの文章を書かせたのは誰 か,この時はわからなかった。

 ところが,質疑応答になると,まったくの しどろもどろ であった。

 私が聞いた細川首相の会見で,特に強烈な印象を受けた場面は,国民福 祉税の税率が7%の根拠についての記者からの質問におけるやりとりであ った。

 質疑応答で記者から「新税の税率7%の根拠は何ですか」と尋ねられた 細川首相は,この記者会見に陪席していた藤井裕久蔵相に,「藤井さん,

7%の根拠は何でしたかね」と助け舟を求めたが,藤井蔵相はノーコメン

トであった。そこで返事に窮した細川首相は,とっさに,「腰だめの数字 です」と,発言してしまった。そして,「だいたいそんなようなものです」

などと返事をしていた。

 藤井蔵相は,当然,税制改革草案の作成には関与しているものと思った のに税率7%の根拠について答えられなかったことに,「一体,どうなっ ているのか」と不可解に感じたのが私の心境であった。

 これが悪名高い国民福祉税構想について深夜から未明の細川首相の記者 会見の生放送を見ることができた私の記憶に鮮明に残っている映像のシー ンと感想である。

 この細川税制改革草案の基本的な狙いは,所得税を中心に6兆円の減税 をまず先行させ,その減税財源として消費税の税率を3%から7%に引き 上げて,1997(平成9)年度に国民福祉税に改めて補塡しようとすること

(10)

であった。具体的には,国民福祉税は,

16.6兆円の税収を予定しているが,

その一部は消費税の廃止で7.1兆円が相殺され,差し引きの増収は9.5兆円 となる。これを所得税をはじめとする5税(所得税,住民税,相続税,法人 特別税,自動車消費税)の減税総額は6.0兆円であるので,全体として3.5兆 円に上るかなりのネット増税となっている。それに歳出増(社会保障費な

ど)

2.1兆円,つなぎ国債の償還財源1.4兆円で,合計9.5兆円の歳出で,国

民負担の面で中立を図ろうとするプランである。その概要は,〔図表1〕

のようである。

〔図表1〕 国民福祉税構想による税制改革草案のスキーム       ──所得税等の6兆円の先行減税でネット3.5兆円の増税

1 減   税

 ① 所  得  税  減  税  ② 住  民  税  減  税  ③ 相  続  税  減  税  ④ 法  人  特  別  税  ⑤ 自   動   車   消   費   税

(減 税 合 計)

2 歳 出 措 置

 ① 社会保障制度等の歳出増(注1)

    (ゴールドプランの見直し等)

 ② 政府部門の国民福祉税負担増(注2)

3 償 還 財 源

△ 

5.3

兆円

△ 

0.3

兆円

△ 

0.3

兆円

△ 

0.1

兆円

(△ 

6.0

兆円)

△ 

0.8

兆円

△ 

1.3

兆円

△ 

1.4

兆円

△ 

9.5

兆円

 国 民 福 祉 税 の 創 設

〔7%〕

 (9年4月1日〜)

 消   費   税   の   廃   止

〔3%〕

+ 

16.6

兆円

△ 

7.1

兆円

+ 

9.5

兆円

(注) 1  ゴールドプランの見直し等のほか,生活扶助基準の引き上げ,年金等の物 価スライド等。

   2. 財貨・サービス等の購入主体としての国,地方公共団体の負担増加額。

(11)

4 発表の翌日に白紙撤回し国民の前に政治の醜態を露出

 ところが,細川首相の記者会見による国民福祉税構想は,発表直後から 猛烈な反対が起った。とくに,連立与党内で強い異論が出され,与党のう ちでも社会党が最も強硬であった。

 反対の理由は,大別して2つあり,まず第1は,政治的な手続き論であ り,第2は税制改革草案の内容に関するものである。

 まず,与野党を問わず,その政治的手続きに関して大きな不信感を巻き 起した。税制改革の草案作りは,首相と連立与党の一部の首脳が大蔵省と 組んで行われたもので,連立与党の社会党はまったくカヤの外に置かれて いた。いわば官邸の中での密室において調整が行われたので,与党におけ る党内論議が不十分であった。このため国民福祉税構想が発表された時,

当初から消費税そのものに強く反対していた社会党は,これを強行するな ら連立政権からの離脱も辞さないという構えを明らかにした。細川首相の 足元の日本新党,新党さきがけの内部でも異論が続出する状況であった。

 当然にマスコミによる批判も厳しく,社説で次のように公然と反対する 意見もあった。

 「……国民生活に直結するのはもちろん,国家運営の屋台骨である 税制を,まやかしや,ごまかしで議論してはならないということであ る。消費税を国民福祉税に変更するなどという,税制の根幹にかかわ る可能性のある重大な事柄が,単に反対論者の目をくらますためだけ に唐突に跳び出すようなことでは,政府に対する国民の信頼が根底か らくつがえる」(『日本経済新聞』1994年2月4日「社説」)

 この社説の主張は,当時の状況を反映して国民の声を代表するものであ ったとみてよいであろう。

(12)

 第2の反対は,国民福祉税を中心とする税制改革のパッケージが不完 で,その内容が必ずしも詰められたものでないことから生じていた。例え ば,増収が9.5兆円に対し,見返りの減税が6.0兆円であり,ネットで増収 になるという不満である。国民福祉税の税率7%の根拠で不明確であるこ とも不信を招いていた。さらに創設される新税である国民福祉税と,廃止 が予定される消費税との違いも不透明で,単に名称を変更するだけなのも 問題視された。

 このような不満や不備の指摘が多方面から噴出し,急転直下,翌2月4 日に白紙撤回することになった。その迷走ぶりによる大失態により政策決 定のメカニズムは機能麻痺の状態となり,国民の前に政治の醜態をさらけ 出し政治不信を増幅した。細川首相の権威と信頼は著しく失遂し,2カ月 後の退陣の大きな原因となった。

5 国民福祉税騒動は国民不信の消費税にダメージを与え将来の消費税

率引き上げへの懸念で悪印象を増幅

 細川首相による国民福祉税騒動は,政治謀略による不正常な形で導入さ れた国民不信の消費税に,改めてダメージを与えることになった。また,

この国民福祉税が将来における消費税率の引き上げを連想させ懸念を生じ させた。

 何よりも政治的なドタバタ劇が消費税を舞台として行われたことは,消 費税に対する悪印象を増幅させる結果を招いている。

 この騒動の後,連立与党内で協議が重ねられ,2月8日に連立与党代表 者会議での合意が成立した。1994(平成6)年に6兆円の先行減税を実施 するというもので法案は3月29日に可決成立した。いかにもドサクサに紛 れた国民に迎合する政治的な決着であり,減税財源も用意されておらず当 面は国債発行でしのぐという無責任な結末であった。

(13)

Ⅳ 政局激動で社会党の村山首相による消費税増税への仾変   ──3%から5%への増税は社会党を滅ぼす背信行動──

1 細川首相が退陣し羽田内閣を経て村山社会党委員長が首班として登

場する政局変動のもとでの税制改革作業の進行

 1994(平成6)年4月8日に細川首相が退陣した後,羽田孜内閣が成立 したが,社会党が連立を離脱し,新党さきがけが閣外協力となったため,

少数与党内閣となり,脆弱な政権基盤のもとで僅か2カ月で崩壊し,6月 には自民党,社会党,新党さきがけの3党からなる連立政権が登場した。

村山富市社会党委員長を首相とする新内閣が発足するという予想外の展開 となった。これは政権奪還のために,自民党がとった破天荒な政治政略と いってよいであろう。

 1994(平成6)年6月30日に村山内閣が発足し,村山首相は,7月18日 衆参両院で所信表明演説を行ったが,そこでは税制改革について,次のよ うに表明した。

 「税制面では,活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し,国・地方 を通じ厳しい状況にある財政の体質改善に配慮しつつ,所得,資産,

消費のバランスのとれた税体系を構築することが不可欠であります。

このため,行財政改革の推進や税負担の公平確保に努めるとともに,

平成7年度以降の減税を含む税制改革について,総合的な改革の論議 を進め,国民の理解を求めつつ,年内の税制改革の実現に努力してま いります。」

 この所信表明演説での連立内閣の村山首相の目指すべきであるとしてい る税制改革の方向は,先の宮澤内閣や政権交代による細川内閣時代のそれ

(14)

と波調は同一である。政権変動が連続し,内閣の首班が,自民党,日本新 党,新生党,社会党というように変わっても国の根幹をなし,政治の姿を 象徴する税制改革の基本哲学が変らず,同じ方向を志向し続けることは,

まことに奇妙なことである。

 これは,前にも指摘したように,税制を仕切っている本当の当事者は内 閣や政治家でなく,大蔵省の官僚であったということである。何党の誰が 総理大臣になろうと,この国の税制を実質的に決めているのは大蔵官僚で あり,永田町主導ではなく, 霞が関主導 であり官僚ペースである。

 どのような内閣が出来ようと,その時の首相の所信表明演説も政府税制 調査会の答申も,その表現は,いわゆる 霞が関文学 による官僚作文に よる原稿に基づくものであることが推測できる。

 政局激動による政変のもとでも大蔵官僚ペースの税制改革の方向は着々 と固められ,税制改革作業は進行してきたのである。それは,ひたすら消 費税率を引き上げ,税体系における消費課税のウエイトを高めることに志 向することが目標などであった。

2 村山内閣による増減税一体処理と消費税率の3%から5%への引き

上げの税制改革法案の成立

 連立政権では,税制改革の内容を具体的に協議する場として,1994(平 成6)年7月19日に与党3党で構成する「税制改革プロジェクトチーム

(与党税調)」が発足した。この与党税調は,その後,2カ月間にわたり19 回の会議を開いて改革案の詰めを行った。

 与党税調は,9月22日に改革内容を決定した。これは,村山内閣による 税制改革案であり,次のように,「増減税一体処理」の中で消費税率の引 き上げを実現させるプランであった。

 所得税について税率のブラケットの拡大,人的控除の引き上げを行う

(15)

とともに平成7年分の特別減税を実施する。

⑵ 消費税に関しては,次の4項目である。

 ①  1997(平成9)年4月1日より,税率を3%から5%へ引き上げる。

これは,税率を3%から4%に引き上げるとともに,税率1%の地方 消費税を創設することによる。

 ②  現行の地方譲与税のうち,消費譲与税を廃止し地方消費税を創設す る。これに伴い消費税率の引き上げ後の5%のうち1%を地方へ配分 する。

 ③ 中小事業者に対する特例措置の見直しを行う。

 ④  消費税の税率は,社会保障や行財政改革の検討結果をふまえ,財政 状況等に応じて必要があると認めるときは半年前の1996(平成8)

9月30日までに所要の措置を講ずるものとする見直し規定を置くこと

にする。

 この改革案を反映した「所得税法及び消費税法の一部を改正する法律 案」,「平成7年分所得税の特別減税のための臨時措置法案」および「地方 税法の一部を改正する法律案」は,10月14日に国会に提出され,11月25日 に可決成立した。

3 消費税反対の急先鋒であった社会党の委員長を首班とする連立政権

の下で消費税率の引き上げ構想の法案が成立するという「珍事」が発 生し恐るべき増税基調の税制改悪の幕開け

 1993(平成5)年の春頃から論議が始まった一連の税制改革の潮流は,

1年半を要して1994

(平成6)年の秋に社会党の委員長を首班とする村山 内閣の手で漸く決着した。その間,政権がめまぐるしく変転する中で時に は,あわやという場面もあったが結果としては,ねばり強く税制改革作業 を押し進めてきた大蔵ペースで終焉した。

(16)

 改革の骨子である所得税の税率緩和,人的控除の引き上げ,消費税率の 引き上げ,消費税の特例措置の縮減等は,すべて1993(平成5)年11月お よび1994(平成6)年6月の政府税制調査会の答申が提起したとおりのも のとなっている。答申で明確な方向が示されないで継続検討とされていた 地方消費税の創設については,与党税調の指示により大蔵・自治両省間の 協議に委ねられ決着した。

 この平成6年の税制改革を税収ペースで整理すると,〔図表2〕のよう になっている。

 改正の骨格である所得税の減税と,消費課税の充実についてみると,3

〔図表2〕 平成6年の税制改革による増減収額の試算(平年度)

──消費税の増額5兆940億円と所得税等の減税     3兆4,530億円でネット増税は1兆6,410億円──

改 正 事 項 金    額    (億円)

国 税 地方税

1 所 得 減 税

 ⑴ 所 得 税  ⑵ 個人住民税     小 計

△ 24,240

△ 24,240

△ 10,290

△ 10,290

△ 24,240

△ 10,290

△ 34,530

2 消費課税の改正

 ⑴ 消費税の税率の引上げ  ⑵ 消費税の特例の見直し  ⑶ 地方消費税の創設     小 計

23,840 2,610 26,450

24,490 24,490

23,840 2,610 24,490 50,940

    合 計

2,210 14,200 16,410 3 特 別 減 税

 ⑴ 所 得 税  ⑵ 個人住民税     小 計

△ 13,760

△ 13,760

△  6,310

△  6,310

△ 13,760

△  6,310

△ 20,070     総 計 △ 11,550

7,890

△  3,660

(注)1.「税制改革要綱」(平成6年10月)による。

   2 .地方消費税の創設による増収額が消費税率の引上げによる増収額を上回って いるのは,特例の見直し分を含んでいることによるものと思われる。

(17)

兆4,530億円の減税に対して5兆940億円の増税となっていてネット増税1 兆6,410億円である。細川首相のもとでの税制改革草案で減税6兆円,増 税の9兆5,000億円でネット増税3兆5,000億円となっていたのに比べると,

増税規模は半分以下となってはいるが,これだけの規模の増税は,1981

(昭和56)年度を上回るものであり,ひたすら増税基調の幕開けというべき 事態である。

 この時の改正では,基本的改革とともに1995(平成7)年分の特別減税 が行われ,これを加味すると総体では3,660億円の純減税となっている。

しかし,減税の規模は,それほど大きいものではなく,しかも,いずれに しても特別減税は時限的なものであって,やはり改革の基調は「増税志 向」の恐るべきものであった。

4 背信の税制づくりに荷担した社会党の分裂と崩壊の末路

 この増税基調の税制改革の基本的なフレームワークを例の 霞が関文 学 の官僚作文で表現すると,以下のようになる。

 「税制改革の基本的な枠組みは,所得税の累進構造を緩和して経済 社会の活力の増進を図る一方,社会保障施策の充実と財政体質の改善 を念頭に,消費課税の充実により国民に一般的な税負担の増加を求め ていくこととする政府税制調査会の答申の趣旨を具体化したものであ る。」

 細川,羽田,村山の3つの政権のうち,2つの政権は,消費税に真っ向 から反対であった社会党を与党とするものであり,改革の実現を達成した 内閣は社会党の村山委員長を首班とするものであったから,当然その間の 紆余曲折には激動の荒波と苦渋に満ちた葛藤があったことは確かである。

(18)

 このような背信の税制づくりに荷担した社会党のその後の運命は,分裂 の悲劇と崩壊の運命をたどることになる。

 さらに,この村山内閣により成立した消費税率の3%から5%への引き 上げの実施は,村山内閣から代わった橋本龍太郎首相によって1997(平成

9)

年4月1日から実施されている。

Ⅴ 消費税の定着化と税率アップシフトの策動の時期の闘い   ──税制の不公正化を阻止する税制再改革構想を志向──

1 国民不信で揺れ動く消費税を見直しなどにより国民をなだめて何と

しても定着化させようと策動し,続いて税率アップの政府の謀略が進 行している時期での税制公正化を目指した闘い

 消費税は実施されたが国民の不満と不信はおさまらず,廃止論や不公正 税制の是正論におされて激しく揺れ動いている。国会では,政権与党の消 費税見直し論と野党の廃止論が激突していた。

 やがて,与野党の合意により,消費税は部分的見直しが実施されたが,

暫くして消費税率アップへのシフト謀略が進行しはじめ事態は急迫を続け た。何よりも問題なのは,現行の既存税税制に存在する欠陥税制である不 公正税制の是正に本格的に取り組まないで放置していることである。

 この時期において私の税務会計学研究は,公正と正義を目指す税制公正 化への闘いが果敢に行われた。その表面的な現れは,全国各地での講演,

テレビやラジオへの出演であり,より重要な手段は,税制公正化にチャレ ンジした著書の刊行,新聞や雑誌等への論文や所見の発表であった。

 1990年代前期における全国各地での講演やテレビ・ラジオへの出演等に ついては本誌の前号に記述してきたので,ここでは,雑誌・新聞,著書等 により明らかにしてきた所見につき述べることにする。

(19)

2 税収不足で消費税率アップなどとんでもない──松下電器,トヨタ

自動車,三菱商事,東京海上火災,三井物産,日立製作所,アラビア 石油,西武グループほかの大企業からあと 6 兆2,700億円の税収  講談社発行の『月刊現代』のインタビューを受けて明らかにした所見 が,1992(平成4)年1月創刊25周年記念特大号(1992年1月1日発行)

「大研究=税収不足で消費税率アップなどとんでもない──松下電器,ト ヨタ自動車,三菱商事,東京海上火災,三井物産,日立製作所,アラビヤ 石油,西武グループほか大企業からあと6兆円税金がとれる」のタイトル により発表している。

 同誌に発表されている日本の税制に存在する欠陥である不公正の実態に ついての所見の全容は,以下のようである。

⑴ 悪税の強化より不公平是正を

 世界の優等生といわれてきた日本経済の雲行きがあやしくなった。バブ ルがはじけて経済成長率も減速,経済大国の土台が揺れだしたのである。

早速それが税収に表われ,法人税を中心に大幅な落ち込みとなった。

 国の予算の歳入欠陥は,1991(平成3)年度で約2兆7,000億円。さらに,

このままだと1992(平成4)年度は5兆円もの欠陥が予想されるという。

なのにいま日本は,国際的貢献という海外への巨額な経済援助を迫られて いる。年金や福祉などの関連予算も削減できない。

 窮地に追い込まれた政府自民党の実力者である小沢一郎元幹事長は,11 月の早目の段階で「皆で少しずつ負担するのがベストだから消費税の税率 を上げるべき」と公言した。宮沢首相も就任直前から「消費税も国民の間 に定着してきた」といっていた。この宮沢発言には,にっちもさっちもい かなくなったら,「消費税率を引き上げる」という含みがあると読みとる べきだろう。

 消費税を1%上げると,約1兆8,000億円の税収がころがり込む。財政

(20)

当局にとってこの税は,まさに打出の小槌,カネの成る木とでも考えてい るのだろう。

 しかし,現行の消費税は,悪平等で弱い者いじめの意地悪な税金であ り,不公正な税制なのだ。

 これまで高い物品税が課されていた生活に直接的にはあまり必要のない 贅沢品や高度の便宜品などの税金が大幅に安くなり,これに反して,これ まで税金がかかっていなかった生活必需品にも一律に3%課税されること になったのである。

 大型モーターボート,ゴルフ用具,猟銃,貴金属,時計(製造課税30%) ボウリング用具,大型冷蔵庫,高級たんす(同20%)の課税が大幅に下が る一方,食料品をはじめ,ワイシャツ,背広,作業服,書籍,雑誌,新 聞,さらに,電気料,ガス代,電車賃,バス代から子供の学習塾の授業料 にいたるまで,すべて同率で課税されている。

 所得が多く力の強い人にも,所得が少なく力の弱い人にも,すべて一律 に同一の税率で負担を求めることは悪平等である。この「逆進性」は,消 費税の救い難い最大の欠陥だ。

 そのうえ,いまの消費税は,「ねこばば税制」といわれるように,消費 者が納めた税金が国に入らない場合のある桁違いに大きな免税点,限界控 除,簡易課税による抜け穴があり,また,アバウト課税である帳簿方式に よる仕組みなど極めて不透明にして不公正な税金である。そんな悪税強化 よりも,税制のメイン・タックスである所得税と法人税にかかわる欠陥を 是正すべきである。そうすれば11兆5,900億円の課税洩れが徴収でき,税 収増が期待できる。これが私の持論で,そのための改革提案も作った。

 ⑵ 大会社ほど優遇する法人税

 基本的に日本の税制は大企業に甘く,また課税ベースが虫食いの浸食化 現象となるタックス・イロージョンを起こしている。税金の隠れ場を作る

(21)

タックス・シェルターの問題も大きい。所得税と法人税にある不公平税制 の是正が先決だ。

 まず一番の問題点として強調したいのは,大会社ほど優遇されている法 人税と,税制の甘さをよいことにそれを逆手にとって 課税逃れ をして いる国際的大企業のズルさである。

 世界をまたにかける巨大な総合商社が税金ゼロという例を,私が指摘し て問題提起したことがある。企業の資本金の規模別に法人税の実効税負担 率をみると,大企業ほど安い。

 大企業の税負担を軽減させている原因はいくつかあげられるが,わかり やすい事例は受取配当金課税の問題である。法人が持っている他の会社の 株式について受取る配当金に対しては,基本的に税がかからないのである。

 周知のとおり,日本の産業界では企業の株式の持ち合い化が進んでい て,法人の大株主が多い。例えば,有名会社の主要株主には銀行,信託会 社,保険会社,証券会社,総合商社,大事業会社が名を連ね,これが今,

株式総数の8割を超える圧倒的多数の株を持っている。相互に株式を持ち 合い,株主の安定化を図っているのである。

 これはアメリカからも,日米構造協議の場で系列問題として盛んに批判 されている。

 株式持ち合いによる受取配当金は,1989(平成元)年で1兆9,427億円あ る。法人が株を取得するために銀行などから借金をして,その利息を払っ た場合,その負債利子を受取配当金から差し引いた残りの分が「益金不算 入」となり,課税除外になる。

 この税制の 恩典 で,受取配当金1兆9,427億円から負債の利子6,928 億円を差し引いた1兆2,499億円もの巨額な金額が課税除外になっている。

 企業が他会社の株を持って,配当金をもらうと,一般の企業会計である 財務会計においては,それは営業外収益,投資収益として利益になる。だ

(22)

が,それが法人税法においては益金不算入といって,法人税の申告書上に おいて除算できる。

 だから,企業が外部に公表している利益は巨大であっても,税務署に申 告する課税所得額では,それが引き算できるため意外に小さな額になって しまう。企業によっては,余ったカネでよその会社の株を持ち,それによ って配当収入を受ける財テクにもなっている。その収益が課税除外になる のだ。

 ⑶ 松下,トヨタと大企業がズラリ

 竹下内閣の税制改革においては,私どもの批判によって,原則として受 取配当の80%を益金不算入にし,20%だけは課税することにした。なぜ20

%なのか。この数字にはまったく根拠がなく,私はこれを「アバウト課 税」といっている。

 では,どうして法人間の受取配当が課税にならないか。それは,法人の 所得には,法人それ自体には課税する必要がないという考え方を前提とし て,法人税は株主個人に対する配当課税の前払だという仮説に立ってい る。そのため法人株主が間へ入った時,そこへ課税すると,その法人の個 人株主の配当にも課税されているので,二重に課税されることになる。こ れは不合理だから,法人はトンネル勘定にする,というのが益金不算入の 根拠である。

 つまり,A社が

B

社の株を持った場合に,B社からの受取配当金に対 しては,最終的には個人株主への配当となった段階で,A社の株主に課税 すればよいとするわけだ。

 しかし,この税法の理屈は現実をふまえた説得力に欠ける。

 具体例をあげてみよう。課税除外の金額をみると,一番多いのは松下電 器産業である。1989(平成元)年3月期で,課税除外となった受取配当金 は,なんと312億1,900万円。この期の松下の申告所得は2,557億円だから,

(23)

実にその12.2%に当たる。2番目のトヨタ自動車の場合,課税除外となっ た受取配当金は,249億500万円。申告所得が5,732億6,100万円だから,課 税除外は4.3%だが絶対額はかなり大きい。上位の3番目は三菱商事で課 税除外が201億5,200万円。申告所得が698億6,500万円だから,その比率は

28.8%となる。4番目は東京海上火災の194億4,600万円で,申告所得の 12.7%。5番目は,三井物産の168億2,100万円。申告所得は372億7,400万

円だから実に45.1%も占めている。以下,日立製作所,安田火災海上,東 芝,伊藤忠など上位10社には一流大企業がひしめいている。

 業界別に,この項目の1989(平成元)年の金額を調べてみた。証券5社 で21億800万円,損保10社で750億2,300万円。総合商社9社で681億9,000万 円。自動車10社で494億1,200万円。電機10社で844億5,100万円にもなって いる。

 驚いたことに,総合商社9社の申告所得を合計すると,2,618億5,500万 円だから,課税除外はその26.0%も占めている。

 こうして控除されたおカネは,結局,大企業の社内留保になる。

 それだけ実効税率は下がるわけだ。企業に課せられる税金は,法人税率 が37.5%,事業税と住民税を加えると約50%。企業家は,「高い,高い」

というが,現実は,それが40になり,35になり,いろいろな道具だてによ り,限りなくゼロに近くなっている。

 要するに,あるべき所得が満月の円形だとすると,現在の実情はあちこ ち浸食されて課税が変形三日月型になっているのだ。

 かりに本来は100億円あるべき課税所得が30億円ぐらいに縮小したとす る。税率は50%と高いかもしれないが,税収は15億円しかない。

 しかし,その法人の課税所得をきちんと元の100億円に戻せば,税率を

30%に下げても,税収は30億円と倍増する。だから消費税はいらない,と

いうのが私の結論だ。

(24)

⑷ 財テクで大儲けしているのに無税扱いを受けている主要企業の実態  企業課税において受入配当金の益金不算入の扱いを受け,課税除外とな る財テク収益の多い企業をあげれば,〔図表3〕のようである。参考のた めに申告課税所得を示し,課税除外の受取配当金のウエイトの大きさを表 示している。調査は,1989(平成元)年3月期について行っている。

〔図表3〕 課税除外の受取配当金の多い企業(主要業界別)

──財テクで大儲けしても無税はおかしい──

数字は原則として平成元年3月期(単位:100万円)

〈証券会社〉

企 業 名 課税除外受取

配当金相当額 申告課税所得

野 村 證 券

917 251,654 2

大 和 證 券

444 165,944 3

日 興 證 券

201 143,591 4

山 一 證 券

386 117,442 5

三 洋 証 券

160 23,744

2,108 702,375

〈損害保険会社〉

企 業 名 課税除外受取

配当金相当額 申告課税所得

東 京 海 上 火 災

19,446 152,172 2

安 田 火 災 海 上

11,295 45,867 3

三 井 海 上 火 災

8,831 53,604 4

住 友 海 上 火 災

7,369 37,158 5

日 動 火 災 海 上

6,017 34,518 6

日 本 火 災 海 上

6,397 33,801 7

大東京火災海上

3,761 25,999 8

富 士 火 災 海 上

3,183 22,466 9

千代田火災海上

4,449 26,413 10

同 和 火 災 海 上

4,275 16,513

75,023 448,511

(25)

〈総合商社〉

企 業 名 課税除外受取

配当金相当額 申告課税所得

伊 藤 忠

7,698 32,882 2

三 井 物 産

16,821 37,274 3

住 友 商 事

7,396 53,264 4

丸   紅

7,670 30,915 5

三 菱 商 事

20,152 69,865 6

日 商 岩 井

3,318 18,513 7

ト ー メ ン

4,876 9,246 8

ニ チ メ ン

259 4,715

兼   松

0 5,181

68,190 261,855

〈電機〉

企 業 名 課税除外受取

配当金相当額 申告課税所得

松下電器産業

31,219 225,796 2

日 立 製 作 所

15,938 205,055 3

東    芝

8,876 173,960

5,770 98,428

6,557 127,509

富  士  通

4,288 119,482 7

ソ  ニ  ー

5,919 77,419

1,707 116,481

3,370 54,624

10

京  セ  ラ

807 50,722

84,451 1,279,476

(注) 日本電装は,昭和63年12月期。

〈自動車〉

企 業 名 課税除外受取

配当金相当額 申告課税所得

ト ヨ タ 自 動 車

24,905 573,261

日 産 自 動 車

9,312 100,048

(26)

⑸ もはや実態にあわない法人税

 法人の場合,真実の実効税率は企業の規模によって違う。資本金が100 億円以上の巨大企業の真の実効税率は,法定税率42%のとき,平均で35.6

%と非常に低い。

 資本金が5,000万円の40.3%をピークにして,資本金が大きくなるほど,

負担が軽くなる。つまり,規模が大きくなるほど,真実の実効税率が低下 していくのである。

 現在,日本には法人が185万1,000社ある。ところが,資本金100億円以 上の法人は604社しかない。50億円以上で100億円未満が519社,10億円以 上で50億円未満が2,386社。一方,資本金10万円未満の法人が17万6,276社 もある。90数%は中小規模のプライベート・カンパニーなのだ。

 そこで,このような日本企業の構成の実態からして,中小企業には中小 企業にマッチした税制,大企業には大企業に相応な税制の仕組みにしたほ うがよいと考える。

 まず,株式を上場しているような公開大企業である資本開放性法人の場 合には,法人税というのは,法人自体の所得にかかる税金であり,法人の 構成員,所有者である株主の税金とは無関係であると考えるべきだ。アメ

本 田 技 研 工 業

5,030 66,495 4

鈴木自動車工業

553 13,018

1,245 38,858

ダ イ ハ ツ 工 業

882 15,520 7

富 士 重 工 業

520 9,285 8

日野自動車工業

1,296 20,346 9

豊 田 自 動 織 機

4,332 17,873 10

ア イ シ ン

1,337 19,024

49,412 873,728

(注) トヨタ自動車は,平成元年8月期。マツダは,昭和63年10月期。

(27)

リカ,イギリスも,先進国のほとんどはこの方式に立っている。法人企業 には法人税をかけ,株主が配当を受けた時は,それが法人株主と個人株主 であるかを問わず配当所得として課税する。個人が銀行預金の利息やアパ ートの家賃収入,会社の月給から税金を払うのと同じように税金を課すべ きである。したがって,株主に支払った配当について二重課税を排除する 必要はなく,受取配当金の益金不算入制度を適用しない。

 一方,支払法人が中小企業のような資本閉鎖制法人のプライベート・カ ンパニーの場合には,法人と株主との二重課税を排除するために,法人株 主への受取配当金は100%益金不算入を適用する,私はこういう提案をし ているわけだ。この法人区分税制をとることにより,法人税は1,600億円 の増収になるのである。

 現行の法人税制の根幹は,終戦まもない1950(昭和25)年,東京は焼け 野原,会社らしい会社がなかった時代に,占領軍のマッカーサー司令部の 要請によって,コロンビア大学のシャウプ博士が来日し勧告した「シャウ プ税制」を原型としていたのである。戦後の産業復興,企業育成を急務と した,その頃の日本には当てはまった。だが,もはや経済大国,企業社会 となった今の日本にはまったく当てはまらない。

⑹ パチンコ台のないパチンコ店

 法人税に関する次の問題は,「税務会計制度の自由化の是正」である。

課税所得の計算のことを税務会計というが,そのシステム中に,いろいろ な問題がある。

 1番目は,資産計上基準の緩和化。例えば,本来は資産に計上すべきも のを,使い始めたとき一度にその期の損金として落している。税金を払う 資産となるべきものが,非常に多く課税対象外の費用になっている。

 かつては,1個1個の金額としては,小さな資産でも,その資産がなけ れば商売ができない,事業にとって基本的に重要なものは,資産勘定に計

(28)

上させていた。それは「少額重要資産制度」といっていたが,この制度を 昭和49年にやめてしまった。それで現在は,1個あるいは1組の所得価額 が20万円未満ならば,まとめて何千万円買っても資産として扱わなくても よいという企業にとって甘い税制になっている。

 例えば,ホテルや旅館の場合,テーブル,イス,ベッド,食卓,茶だん す,鏡台,テレビ,冷蔵庫,こたつ,ストーブ,扇風機,マット,毛布,

座布団,じゅうたんなど単価20万円未満のものは資産に計上しなくてよい のである。

 これはプリンスホテルが,相当な利益がありながら税金をあまり払って いない原因の1つにもなっている。

 ホテルを作って調度品を入れると,何千万円,何億円というふうに,ご そっと経費で落ちる。西武グループが資産はあるけれど計算上はあまり利 益が出ないというのは,こういう税務会計のメカニズムがあるからだ。

 一番ひどいのは建設業の足場用材,型枠用財,シートパイルなどだ。何 千万円,何億円とするものであっても,これを工事現場に払い出した時に 一度にその金額を損金で落とせる。そういう簿外資産が多くある。パチン コ店のパチンコ台は,1台20万円未満程度であろう。500台入れれば1億 円近くなる。ところがパチンコ店の貸借対照表に「パチンコ台」という資 産は表示されていない。1台20万円未満だから,儲っている店では全部を 損金で落としている。税務会計上でみると,パチンコ台のないパチンコ店 ばかりということになっているのである。おかしな話ではないか。

⑺ 日本だけのバカげた税制

 税務会計の資産計上では,「営業権の自由償却化」という問題もある。

M&A

で企業がよその会社を買収する場合,よいお得意先が多くあるとか,

名声がある,信用があるとかで,のれん代を払う。

 そののれん代は,無形資産だ。これは営業権と言って,昔は資産に上げ

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