リトドリンの体内動態と母子間移行の定量的評価
平成
25
年度相 馬 ま ゆ 子
リトドリンの体内動態と母子間移行の定量的評価
本論文は
2013
年北海道薬科大学における博士(薬学)の 学位取得のために提出し受理されたものである。相 馬 ま ゆ 子
i 目 次
緒 言 1
第 1 章 単 胎 及 び 双 胎 妊 娠 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 差 12
第 1 節 序 論 12
第 2 節 対 象 お よ び 方 法 13
1. 対 象 13
2. 方 法 13
1) 検 体 の 採 取 13
2) 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 13
3) 体 内 動 態 パ ラ メ ー タ の 算 出 14
4) 分 娩 転 帰 14
5) 統 計 解 析 14
第 3 節 結 果 17
1. リ ト ド リ ン 投 与 量 と 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と の 関 係 17
2. 分 娩 転 帰 と の 関 連 17
第 4 節 考 察 23
第 5 節 小 括 26
第 2 章 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 母 胎 児 間 移 行 27
第 1 節 序 論 27
第 2 節 対 象 お よ び 方 法 28
1. 対 象 28
2. 方 法 28
1) 検 体 の 採 取 28
2) 血 清 中 並 び に 臍 帯 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 28
3) 統 計 処 理 28
第 3 節 結 果 31
第 4 節 考 察 33
第 5 節 小 括 37
第 3 章 LC-MS/MS に よ る 妊 婦 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 の 新 規 高 感 度
定 量 法 の 評 価 38
第 1 節 序 論 38
第 2 節 対 象 お よ び 方 法 39
1. 内 部 標 準 物 質 39
2. 抽 出 方 法 39
3.LC-MS/MS の 条 件 39
4. 検 量 線 40
5. 測 定 精 度 40
1) 日 内 再 現 性 40
2) 日 差 再 現 性 40
3) 安 定 性 41
6. 症 例 報 告 41
第 3 節 結 果 43
1.MRM(Multiple Reaction Monitoring) 条 件 の 最 適 化 43
2. 測 定 精 度 43
3. 症 例 報 告 44
第 4 節 考 察 50
第 5 節 小 括 52
総 括 53
謝 辞 55
参 考 文 献 56
iii
本 論 文 は 、 学 術 雑 誌 に 収 載 さ れ た 次 の 論 文 を 基 礎 と す る も の で あ る 。
1) Soma M, Konda A, Yoshida H , Kishimoto S ,Fukushima S, Toda T, Sasaki Y, Hayakawa T, Inotsume N: Maternal-to-fetal transfer of ritodrine in twin pregnancy, Jpn J Clin Pharmacol Ther, 43(5), 339-343 (2012).
2) Soma M, Konda A, Fujieda S, Sasaki Y, Takahashi N, Yoshida H, Toda T, Hayakawa T, Fukushima S, Inotsume N: Validation of a novel sensitive method for measuring maternal and neonatal serum ritodrine concentrations, TDM 研 究, 30(4), 134-141(2013).
3) Soma M, Konda A, Fujieda S, Sasaki Y, Watari M, Keira M, Yoshida H , Toda T, Hayakawa T, Kishimoto S ,Fukushima S, Inotsume N: Difference in ritodrine pharmacokinetics between singleton and twin pregnancies, Jpn J Clin Pharmacol Ther, 44(5), 389-394(2013).
緒 言
我 が 国 は 世 界 で 経 験 し た こ と の な い 速 度 で 高 齢 化 が 進 行 し て い る 。 一 方 で 、 妊 娠 分 娩 時 の 高 齢 化 1-5)、 排 卵 誘 発 法 の 開 発 、 生 殖 補 助 医 療 (assisted reproductive technology: ART)の 発 展 6)に よ り 、 不 妊 症 患 者 で も 妊 娠 を 可 能 と す る 医 療 が お こ な わ れ る よ う に な っ た 。 厚 生 労 働 省 の 発 表 に よ る と 、 わ が 国 の 出 生 数 は 、1990 年 に 122.2 万 人 で あ り 出 生 率 1.54 で あ っ た の に 対 し 、2011 年 で は 105.1 万 人 と な り 出 生 率 は 1.397)と 、 少 子 化 傾 向 を 示 し 、 長 期 的 に 人 口 を 維 持 す る た め の 水 準 2.077)と 比 較 し 極 め て 低 い 値 と な っ て い る (Figure 1) 。 平 成 8 年 度 厚 生 省 心 身 障 害 研 究「 不 妊 治 療 の 在 り 方 に 関 す る 研 究 」― 不 妊 治 療 の 実 態 調 査 お よ び 不 妊 治 療 技 術 の 適 応 に 関 す る 研 究 に よ る と 、 三 胎 の 89.7% 、 四 胎 の 97.1% 、五 胎 以 上 は す べ て 不 妊 治 療 に よ る 妊 娠 で あ る と 報 告 し て い る 8)。 多 胎 妊 娠 は 流 産 率 や 早 産 率 が 高 く 母 子 に 重 大 な 危 険 性 を 伴 う が 、 排 卵 誘 発 剤 使 用 に よ り 1 周 期 の 排 卵 卵 胞 数 は 増 加 す る た め 多 胎 妊 娠 の 割 合 が 高 く な る 。ま た 、 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 は 、2008 年 に「 生 殖 補 助 医 療 に お け る 多 胎 妊 娠 防 止 に 関 す る 見 解 」 と し て 「 生 殖 補 助 医 療 の 胚 移 植 に お い て 、 移 植 す る 胚 は 原 則 と し て 単 一 と す る 。た だ し 、35 歳 以 上 の 女 性 、ま た は 2 回 以 上 続 け て 妊 娠 不 成 立 で あ っ た 女 性 な ど に つ い て は 、2 胚 移 植 を 許 容 す る 。」こ と と し て い る た め 多 胎 妊 娠 と な る 場 合 も 多 い 9)。
分 娩 予 定 日 の 定 義 は 、妊 娠 期 間 を 最 終 正 常 月 経 第 1 日 よ り 起 算 し て 満 280日 、 す な わ ち 妊 娠 40 週 0 日 で あ る 。ま た 、妊 娠 37 週 以 降 42 週 未 満 、妊 娠 22 週 以 降 37 週 未 満 、 妊 娠 42 週 以 降 の 出 産 が そ れ ぞ れ 「 正 期 産 」、「 早 産 」、「 過 期 産 」 と 定 義 さ れ る 10,11)。Table 1 に 分 娩 時 期 ご と の 出 生 数 の 年 次 推 移 を 示 し た 7)。
周 産 期 死 亡 率(対 出 産 1,000)は 、胎 児 数 の 増 加 と と も に 上 昇 し 、双 胎 は 75.0、
三 胎 は 75.3、 四 胎 は 102.9、 五 胎 は 125.0 で あ る 。 出 生 後 、1 年 以 上 経 過 し た 小 児 の 後 遺 症 は 、 双 胎 は 4.7% 、 三 胎 は 3.6% 、 四 胎 は 10.2% 、 五 胎 は 30.8%
と 報 告 さ れ て お り 、 そ の 内 訳 は 、 脳 性 麻 痺 、 精 神 発 育 障 害 、 未 熟 児 網 膜 症 で あ る 12)。さ ら に 母 体 の 合 併 症 の 罹 患 率 に つ い て は 、胎 児 数 が 増 加 す る に し た が っ て 上 昇 し 、双 胎 は 78.1% 、三 胎 は 84.1% 、四 胎 は 95.0% 、五 胎 は 100.0% と 報 告 さ れ て い る 12)。さ ら に 、母 体 の 身 体 的 、精 神 的 、お よ び 経 済 的 負 担 が 大 き い
2
な ど の 問 題 を 抱 え て い る 13,14)。Figure 2 に 示 し た よ う に 分 娩 週 数 が 早 い ほ ど 死 亡 率 や 後 遺 症 を 残 す 可 能 性 が 高 く な る た め 、 正 期 産 で あ る 37 週 を 目 標 に 、 妊 娠 を 継 続 さ せ る こ と が 重 要 で あ る 15)。
早 産 率 の 年 次 推 移 は 1990 年 に 4.52% で あ っ た が 、2011 年 に 5.74% と 上 昇 し て い る 7)(Table 1)。 単 胎 と 多 胎 の 出 生 数 の 年 次 推 移 に つ い て は 、Table 2 に 示 し た よ う に 、 単 胎 の 出 生 数 は 、 減 少 傾 向 に あ る 。 一 方 、 多 胎 の 出 生 数 の 推 移 は 約 2 万 人 と 変 わ ら ず 、 妊 娠 全 体 の 約 2% を 占 め て い る 16)。
早 産 の リ ス ク 因 子 は 多 岐 に 渡 り 、社 会 的 背 景 と し て 、若 年 妊 婦 17,18)、高 齢 妊 婦 19-21)、喫 煙 19,20)、ア ル コ ー ル の 多 量 摂 取 19,20)、低 栄 養 状 態 22)、ス ト レ ス 23,24)、 妊 娠 成 立 状 況 と し て 、 妊 娠 前 の 合 併 症 25,26)、 大 気 汚 染 27)、ART28,29)、 既 往 早 産 30)、妊 娠 中 の 変 化 と し て 、感 染 症 20)、出 血 19,20)、子 宮 頸 管 無 力 症 20)、子 宮 頸 部 円 錐 切 除 31,32)な ど が 挙 げ ら れ る 。し か し 、特 定 の 原 因 に 限 局 す る こ と は で き ず 、 疫 学 調 査 の 結 果 か ら は 早 産 症 例 の 半 数 程 度 し か 特 定 で き て い な い 。 さ ら に 、妊 娠 32 週 未 満 で は 多 胎 に お け る 早 産 リ ス ク が 約 8 倍 、32~36 週 で は 約 12 倍 に 増 加 し 33)(Table 3) 、 多 胎 妊 娠 は 早 産 リ ス ク を 高 め る と の 報 告 が あ る 34)。 双 胎 妊 娠 の 48~54% が 37 週 未 満 の 早 産 と な り 、 脳 性 麻 痺 の 発 症 頻 度 が 高 い 1,500 g 未 満 に 相 当 す る 32 週 未 満 の 早 産 は 10~15% と 報 告 さ れ て い る 35,36)。 こ れ ら の 頻 度 は 単 胎 妊 娠 の 約 10 倍 で あ る 。 さ ら に 三 胎 以 上 の 多 胎 は 90% 以 上 が 早 産 で 、三 胎 の 平 均 在 胎 週 数 は 32.7 週 、四 胎 で は 29.3 週 、五 胎 で は 25.0 週 で あ る 12,37)。
早 産 に て 出 生 し た 児 は 、低 出 生 体 重 児(2,500 g 未 満)の 可 能 性 が 高 く 、正 期 産 児 に 比 べ 発 達 予 後 が 不 良 で あ る 。特 に 超 低 出 生 体 重 児(1,000 g 未 満)に 起 こ る 脳 性 麻 痺 や 精 神 発 達 遅 滞 の 発 症 率 は 正 期 産 児 と 比 較 し 明 ら か に 高 率 で あ る 38-40)。 平 成 7 年 の 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 周 産 期 委 員 会 報 告 に よ る と 、 胎 児 数 が 増 加 す る に し た が っ て 出 生 体 重 が 減 少 し 、双 胎 は 2153±703 g、三 胎 は 1673±485g、四 胎 は 1203±359 g、 五 胎 は 993±249 g(平 均 ±標 準 偏 差)と な っ て い る 12)。
ま た 、Baker に よ る 「 成 人 病 胎 児 期 発 症(起 源)説 :Fatal Origins of Adult Disease, FOAD」 で は 、 出 生 体 重 の 低 下 は 生 活 習 慣 病 を 含 む 成 人 病 の 発 症 リ ス ク が 高 く な る 41)と い わ れ 、近 年 で は 、妊 娠 前 、妊 娠 中 、新 生 児 期 の 環 境 と 遺 伝 子 の 相 互 作 用 が 健 康・疾 病 に 影 響 を 及 ぼ す と い う 概 念「DOHaD, developmental
origins of health and disease」へ 発 展 し て い る 。メ タ 解 析 に よ り 出 生 体 重 2,500 g 未 満 の 低 出 生 体 重 児 は オ ッ ズ 比 1.21(95%CI 1.13-1.30)で あ り 、成 長 後 に 有 意 に 高 血 圧 を 発 症 す る こ と 42)や 、出 生 体 重 が 少 な い ほ ど 収 縮 期 血 圧 が 高 く な る こ と 43)が 報 告 さ れ て い る 。
双 胎 妊 娠 は 絨 毛 膜 と 羊 膜 の 数 で 分 類 さ れ 、 周 産 期 死 亡 や 神 経 学 的 後 遺 症 は 1 絨 毛 膜 1 羊 膜(monochorionic monoamniotic: MM)双 胎 が 最 も 多 く 、以 下 、1 絨 毛 膜 2 羊 膜(monochorionic diamniotic: MD)双 胎 、2 絨 毛 膜 2 羊 膜(dichorionic diamniotic: DD)双 胎 の 順 と な っ て い る 44)。MM 双 胎 の 周 産 期 死 亡 率 は 20% 前 後 で あ り 、MD 双 胎 で は 4.4~7.5% 、DD 双 胎 の 周 産 期 死 亡 率 は 1.7~1.8% で
あ る 45-47)。 神 経 学 的 後 遺 症 も DD 双 胎 の 1.7~2.4% に 比 較 し ,MD 双 胎 で は
5.5~16.4% と 3~9 倍 リ ス ク が 上 昇 す る 45,46)。
日 本 産 科 婦 人 科 学 会 は 、 切 迫 早 産 の 定 義 を 、「 妊 娠 22 週 以 降 か ら 37 週 未 満 に 下 腹 痛(10 分 に 1 回 以 上 の 陣 痛)、性 器 出 血 、破 水 な ど の 症 状 に 加 え て 、外 測 陣 痛 計 で 規 則 的 な 子 宮 収 縮 が あ り 、 内 診 で は 、 子 宮 口 開 大 、 子 宮 頸 管 展 退 な ど が 認 め ら れ 、 早 産 の 危 険 性 が 高 い 状 態 」 と し て い る 48)。
本 邦 に お け る 切 迫 早 産 治 療 薬 と し て は 、 リ ト ド リ ン 塩 酸 塩 、 イ ソ ク ス プ リ ン 塩 酸 塩 、 ピ ペ リ ド レ ー ト 塩 酸 塩(Figure 3)、 硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム が あ る が 、 主 に リ ト ド リ ン 塩 酸 塩 が 臨 床 で 用 い ら れ て い る 。リ ト ド リ ン は 2 つ の 不 斉 炭 素 を 有 す る が 、 エ リ ス ロ 体 の ラ セ ミ 体 と し て 臨 床 使 用 さ れ て い る 49,50)。
リ ト ド リ ン は 選 択 的 β2作 動 薬 で あ り 、β2受 容 体 に 結 合 後 、ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 活 性 化 、cAMP 含 量 を 増 加 さ せ 細 胞 内 Ca2+の 貯 蔵 部 位 へ の 取 り 込 み を 促 進 し 、 ミ オ シ ン 軽 鎖 キ ナ ー ゼ を 不 活 化 す る こ と に よ り 子 宮 平 滑 筋 を 弛 緩 さ せ る 51)。
1992 年 に カ ナ ダ の 切 迫 早 産 研 究 グ ル ー プ が 、 無 作 為 に 抽 出 し た 708 例 の 切 迫 早 産 症 例 を リ ト ド リ ン 投 与 群(352例)と プ ラ セ ボ 群(356例)に お け る 妊 娠 延 長 期 間 等 を 検 討 し た 大 規 模 臨 床 試 験 を 報 告 し た 52)。 そ の 結 果 、 妊 娠 期 間 、37 週 未 満 の 早 産 数 、2,500 g 未 満 の 新 生 児 数 、 新 生 児 罹 病 率 に お い て リ ト ド リ ン 投 与 群 と プ ラ セ ボ 群 の 間 に は 有 意 差 が な か っ た 。 し か し 、 妊 娠 期 間 に つ い て は 、 治 療 開 始 か ら の 経 過 時 間 が 24 時 間 未 満 、48 時 間 未 満 、7 日 未 満 、ま た 、32 週 未 満 の 分 娩 数 を リ ト ド リ ン 投 与 群 と プ ラ セ ボ 群 で 比 較 し た 場 合 、 リ ト ド リ ン 投
4
与 群 の 分 娩 数 が 少 な い 傾 向 で あ っ た 。 ア メ リ カ や カ ナ ダ で は 、 こ の 報 告 に 基 づ い て 、 新 生 児 呼 吸 切 迫 症 候 群 発 症 予 防 の た め の ス テ ロ イ ド 投 与 の 効 果 が 現 れ る ま で の 48 時 間 を 子 宮 収 縮 抑 制 薬 で 妊 娠 を 延 長 さ せ る 治 療 が 行 わ れ て い る 。 し か し 、こ の 研 究 グ ル ー プ の 解 析 で は 、リ ト ド リ ン 投 与 群 に 、前 期 破 水 例 、50%
以 上 の 子 宮 頸 管 展 退 例 、4 cm 以 上 の 子 宮 口 開 大 例 が プ ラ セ ボ 群 よ り 多 く 含 ま れ て お り 、 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た 可 能 性 が あ る 。
こ の よ う に 、欧 米 で は 、48 時 間 の 妊 娠 期 間 延 長 を 目 的 と し た 短 期 間 の 早 産 防 止 治 療(short-term tocolysis)の た め に 子 宮 収 縮 抑 制 薬 が 用 い ら れ て い る が 、 本 邦 に お い て は 、比 較 的 長 い 早 産 防 止 治 療(long-term tocolysis)が 行 わ れ て お り 、 子 宮 収 縮 抑 制 薬 の 有 用 性 評 価 に つ い て 欧 米 と 本 邦 の 間 で 単 純 に 比 較 で き な い 。 本 邦 で は 、1,147 名 の 妊 婦 を 対 象 と し た 比 較 研 究 に よ り 、リ ト ド リ ン 投 与 群 、 無 治 療 群 に 分 け て 比 較 し た 結 果 が 報 告 さ れ て い る 53)。こ の 研 究 報 告 で は 、平 均 早 産 防 止 期 間 は 、 リ ト ド リ ン 投 与 群 に 無 治 療 群 よ り 有 意 な 延 長 を 認 め た と さ れ て お り 、 リ ト ド リ ン に よ る 長 期 治 療 の 有 用 性 を 認 め て い る が 、 リ ト ド リ ン の 薬 物 動 態 学 的 解 析 は 行 わ れ て い な い 53)。坂 元 ら は 、切 迫 早 産 に お け る リ ト ド リ ン 点 滴 静 注 を 行 っ た 59 名 の う ち 、44 名(74.6%)が 正 期 産 、52 名(88.1%)が 新 生 児 体 重 2,500 g 以 上 を 達 成 し た と 報 告 し て い る 54)。し か し 、切 迫 早 産 治 療 の た め に 長 期 間 に わ た り リ ト ド リ ン が 投 与 さ れ た 妊 婦 、 特 に 双 胎 妊 婦 に お け る 有 効 性 と 安 全 性 評 価 研 究 は 見 当 た ら な い 。
本 邦 に お け る リ ト ド リ ン の 医 薬 品 添 付 文 書 の 用 法 用 量 の 項 に は 「 通 常 ,1 ア ン プ ル(5 mL)を 5% ブ ド ウ 糖 注 射 液 ま た は 10% マ ル ト ー ス 注 射 液 500 mL に 希 釈 し , リ ト ド リ ン 塩 酸 塩 と し て 毎 分 50 μg か ら 点 滴 静 注 を 開 始 し , 子 宮 収 縮 抑 制 状 況 お よ び 母 体 心 拍 数 な ど を 観 察 し な が ら 適 宜 増 減 す る 。 子 宮 収 縮 の 抑 制 後 は 症 状 を 観 察 し な が ら 漸 次 減 量 し , 毎 分 50 μg 以 下 の 速 度 を 維 持 し て 収 縮 の 再 発 が 見 ら れ な い こ と が 確 認 さ れ た 場 合 に は 投 与 を 中 止 す る こ と 。 通 常 , 有 効 用 量 は 毎 分 50~150 μgで あ る 。な お ,注 入 薬 量 は 毎 分 200 μg を 越 え な い よ う に す る こ と 。」と 記 載 さ れ て い る の み で あ り 、詳 細 な 投 与 方 法 指 針 が 検 討 さ れ て い な い 55)。
血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と 子 宮 収 縮 抑 制 頻 度 と は 相 関 性(y = 4.4 x-19.6, r = 0.84, p<0.001, n = 17)が あ り 、 子 宮 抑 制 に 必 要 な 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 15
~45 ng/mL と 報 告 さ れ て い る 56)。 こ れ ま で リ ト ド リ ン の 血 中 濃 度 測 定 法 に つ い て は 、RIA 法 57-60)、HPLC 法 61-71)の 報 告 が あ る が 、 血 清 を 1 mL 以 上 必 要 と し て い た た め 、 血 液 採 取 量 の 面 か ら 新 生 児 に お け る 血 清 中 濃 度 測 定 が 困 難 で あ っ た 。最 近 で は LC-MS/MS 法 72-74)、TOF-MS/MS 法 75)を 用 い た 微 量 血 液 試 料 で の 測 定 法 に つ い て の 報 告 が あ る 。
妊 娠 後 期 に は 医 薬 品 ク リ ア ラ ン ス が 増 加 す る と の 報 告 が 多 い 76)。し か し 、リ ト ド リ ン で は 、患 者 に よ っ て は む し ろ 低 下 す る と の 結 果 が 得 ら れ て い る 61)。リ ト ド リ ン 体 内 動 態 の 特 殊 性 を 明 ら か に す る こ と も リ ト ド リ ン の 適 正 使 用 の 観 点 か ら 必 要 で あ る 。 特 に 、 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 と 臨 床 効 果 と の 関 係 に つ い て の 情 報 は 極 め て 少 な い 61,77,78)。
少 子 化 対 策 の 一 環 と し て 、 女 性 が 安 心 し て 子 供 を 出 産 で き る 医 療 環 境 を 構 築 す る た め に は 、 切 迫 早 産 防 止 作 用 が 認 め ら れ て い る リ ト ド リ ン の 合 理 的 な 投 与 方 法 を 構 築 す る こ と が 急 務 で あ る 。
以 上 の こ と よ り 、 本 研 究 で は 、 は じ め に 、 単 胎 お よ び 双 胎 妊 娠 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 差 に つ い て 、 全 身 ク リ ア ラ ン ス と 分 娩 転 帰 を も と に 詳 細 な 検 討 を 行 っ た 。次 に 、2011 年 11 月 に は 医 薬 品・医 療 機 器 等 安 全 性 情 報 No.285 に お い て 、 リ ト ド リ ン の 胎 児 及 び 新 生 児 に 対 す る 心 不 全 の 副 作 用 が 通 知 さ れ 、 妊 娠 の 継 続 へ の リ ト ド リ ン の 適 正 使 用 の 推 進 の み な ら ず 、 分 娩 後 の 新 生 児 に 対 す る リ ト ド リ ン の 副 作 用 モ ニ タ リ ン グ が 必 須 で あ る と 注 意 喚 起 さ れ た 79)。そ こ で 、DD 双 胎 妊 婦 に お け る 帝 王 切 開 時 に 採 取 し た 臍 帯 血 と 母 体 血 の 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 結 果 か ら 、 リ ト ド リ ン の 母 胎 児 間 移 行 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 さ ら に 、 新 生 児 に お け る リ ト ド リ ン 体 内 動 態 の 評 価 の た め 、 微 量 の 血 液 検 体 を 測 定 す る こ と の で き る 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ・ タ ン デ ム 質 量 分 析(LC-MS/MS)法 に よ る リ ト ド リ ン の 高 感 度 定 量 法 を 開 発 し 、 症 例 検 討 を 行 っ た 。
6
Figure 1.
出生数及び出生率の年次推移Table 1.
分娩時期の定義と年次推移
8
Figure 2.
分娩週数と新生児生存率Table 2.
単胎と多胎の出生数の年次推移
10
Table 3.
単胎と比較した多胎における
早産リスクのオッズ比
Figure 3.
リトドリン塩酸塩(A)
、イソクスプリン塩酸塩(B)
、 ピペリドレート塩酸塩(C)
の構造式Ritodrine Hydrochloride
(1RS,2SR)-1-(4-Hydroxyphenyl)-2-{[2-(4-hydroxyphenyl) ethyl]amino}propan-1-ol monohydrochloride
Isoxsuprine Hydrochloride
(1RS,2SR )-1-(4-Hydroxyphenyl)-2-{ [(2SR )-1-phenoxy propan-2-yl]amino}propan-1-ol monohydrochloride
Piperidolate Hydrochloride
N-ethyl-3-piperidyl diphenylacetate hydrochloride
(A)
(B)
(C)
12
第 1 章 単 胎 及 び 双 胎 妊 娠 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 差
第 1 節 序 論
早 産 と は 妊 娠 22 週 以 降 か ら 37 週 未 満 の 分 娩 と さ れ て お り 、切 迫 早 産 は 妊 娠 22 週 以 降 か ら 27 週 未 満 に 下 腹 部 痛(10 分 に 1 回 以 上 の 陣 痛)、性 器 出 血 、破 水 な ど の 症 状 に 加 え て 外 側 陣 痛 計 で 規 則 的 な 子 宮 収 縮 が あ り 、内 診 で 子 宮 口 開 大 、 頸 管 展 退 な ど が 認 め ら れ 、早 産 の 危 険 性 が 高 い 状 態 と さ れ て い る 48)。一 方 、本 邦 の 周 産 期 医 療 で は 早 産 に よ る 低 出 生 体 重 児 の 未 熟 性 に よ る 障 害 を 防 ぐ た め 、 在 胎 日 数 を で き る だ け 延 長 さ せ て 胎 児 の 成 熟 度 を 向 上 さ せ る long term tocolysis が 行 わ れ て い る 53)。 早 産 を 予 防 す る た め の 治 療 薬 と し て は 、 妊 娠 中 期 か ら 分 娩 時 ま で 長 期 に わ た り 、 子 宮 収 縮 を 抑 制 す る 選 択 的 β2 作 動 薬 で あ る リ ト ド リ ン が 臨 床 で 用 い ら れ て い る 77,78)。
妊 娠 期 間 中 は 母 体 の 生 理 機 能 が 大 き く 変 化 す る こ と か ら 、 薬 物 の 体 内 動 態 も 変 化 す る こ と が 知 ら れ て い る 80)。ま た 、母 体 の 循 環 血 量 や 羊 水 量 な ど の 違 い か ら 、 単 胎 妊 娠 と 双 胎 妊 娠 で は 投 与 さ れ た 薬 物 の ク リ ア ラ ン ス な ど に 差 が み ら れ る こ と が 考 え ら れ る 。 リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス の 低 下 は 、 持 続 的 に 静 脈 投 与 さ れ て い る 妊 婦 の 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 上 昇 さ せ る こ と か ら 、 副 作 用 の 発 現 に 注 意 し な け れ ば な ら な い 。
胎 児 数 の 薬 物 体 内 動 態 へ の 影 響 に つ い て は い く つ か 研 究 が あ る 。Ballabh ら は 、 ベ タ メ タ ゾ ン の 半 減 期 が 単 胎 9.0±2.7 時 間 で あ る の に 対 し 、 双 胎 で は 7.2
±2.7 時 間 と 有 意 に 短 い こ と を 報 告 し て い る 81)。さ ら に Callesen ら は 、双 胎 妊 娠 に お い て 、14~27 週 の 間 に お け る 1 週 毎 の イ ン シ ュ リ ン 使 用 量 は 、 単 胎 妊 娠 と 比 較 し て 2 倍 に 増 加 し て い た と 報 告 し て い る 82)。
我 々 は 、 妊 娠 の 継 続 と と も に リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス が 著 し く 低 下 す る 双 胎 妊 娠 の 症 例 を す で に 報 告 し た 61)。し か し 、リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 に 関 す る 胎 児 数 や 分 娩 転 帰 を 考 慮 し た 検 討 の 報 告 は な い 。 本 研 究 で は 、 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 に お い て リ ト ド リ ン 持 続 注 入 療 法 時 の 定 常 状 態 に お け る 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 測 定 し 、 体 内 動 態 パ ラ メ ー タ と 分 娩 転 帰 な ど の 関 連 性 に つ い て 比 較 検 討 し た 。
第 2 節 対 象 お よ び 方 法
1. 対 象
天 使 病 院 に お い て 、2004 年 11 月 か ら 2010 年 3 月 に 切 迫 早 産 と 診 断 さ れ 、 リ ト ド リ ン の 持 続 注 入 治 療 を 受 け た 単 胎 妊 婦 67 名 、双 胎 妊 婦 38 名 の 合 計 105 名 の 妊 婦 で あ る(Table 4)。得 ら れ た 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 点 は 395 点 で あ り 、 そ の う ち 、 単 胎 67 名 で の 採 血 点 は 213 点 、 双 胎 妊 婦 38 名 で の 採 血 点 は 182 点 で あ っ た 。
2. 方 法 1) 検 体 の 採 取
リ ト ド リ ン の 定 常 状 態 と 考 え ら れ る 、 同 一 投 与 量 で 24 時 間 以 上 経 過 し た 時 点 に お い て 静 脈 よ り 採 血 を 行 っ た 61)。本 研 究 は 、天 使 病 院 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 、 妊 婦 か ら 書 面 に よ る 試 験 参 加 の 同 意 を 得 た 。
2) 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定
血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 、蛍 光 検 出 器 を 用 い た HPLC 法 に よ り 測 定 し た 。血 液 は 採 取 後 た だ ち に 3,000 rpmで 5 分 間 遠 心 し 、得 ら れ た 血 清 を -20℃ で 保 存 し た 。血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 1 週 間 以 内 に 測 定 し た 。血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 は 、我 々 が す で に 開 発 し た HPLC 法 に よ り 行 っ た(Chart 1) 61)。す な わ ち 、 血 清 1 mL に 0.1 mol/L 炭 酸 ナ ト リ ウ ム 緩 衝 液(pH 9.8) 1 mL を 添 加 し 、酢 酸 エ チ ル 5 mL を 加 え て 15 分 間 振 と う し た 。 試 料 を 遠 心 分 離 し て 得 ら れ た 上 清 4 mL を 40℃ に て 2 時 間 減 圧 乾 固 し た 。 残 渣 を 移 動 相 100 μL に 溶 解 し 、 そ の う ち 50 μL を HPLC に 注 入 し た 。HPLC 送 液 ユ ニ ッ ト は Hitachi L-2130(日 立 、 東 京)を 用 い た 。 カ ラ ム は Lichrospher 100 RP-18(関 東 化 学 、 東 京)、 検 出 器 は Hitachi L‐2480 蛍 光 検 出 器(日 立 、 東 京)を 用 い 、 励 起 波 長 280 nm、 蛍 光 波 長 305 nm と し て 絶 対 検 量 線 法 に よ り 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 測 定 し た 。移 動 相 は 0.04 mol/L リ ン 酸 : ア セ ト ニ ト リ ル =89:11、 カ ラ ム 温 度 は 35℃ 、 流 速 は 1.0 mL/min と し た 。リ ト ド リ ン は 約 12 分 に 溶 出 し 、定 量 妨 害 成 分 は 認 め ら れ な か っ た 。定 量 の 再 現 性 は 、Gross ら の 報 告 63)と 同 様 、日 内 と 日 間 の 変 動 係
14
数 CV は そ れ ぞ れ 5.0% 、10.0% 以 内 で あ っ た 。
3) 体 内 動 態 パ ラ メ ー タ の 算 出
リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス(CLtot)は 、 式(1)の よ う に 投 与 量 を 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 で 除 し て 求 め た 。
持 続 点 滴 投 与 量 (μg/min/kg) × 60
CLtot (L/h/kg) = 式(1) 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 (ng/mL)
4) 分 娩 転 帰
分 娩 記 録 な ら び に 診 療 録 よ り 、 分 娩 転 帰 を 調 査 し 、 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と の 関 連 を 検 討 し た 。
5) 統 計 解 析
血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 、 リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス 、 分 娩 週 数 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 を 算 出 し 、t 検 定 を 行 っ た 。 リ ト ド リ ン 投 与 量 と 血 清 中 濃 度 か ら 得 ら れ た 回 帰 直 線 に つ い て は 共 分 散 分 析 を 行 っ た 。 統 計 解 析 に お け る 危 険 率(p 値) は 、 有 意 水 準 5% と し た 。
Table 4 . Characteristics of the patients.
16
Chart 1.
リトドリンの抽出手順とHPLC
の条件第 3 節 結 果
1. リ ト ド リ ン 投 与 量 と 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と の 関 係
リ ト ド リ ン 投 与 速 度 は 、単 胎 妊 婦 で は 2.1±1.4(0.4-7.1)(平 均 値 ±標 準 偏 差 、 (範 囲)) g/min/kg、 双 胎 妊 婦 で は 2.3±1.1(0.7-4.7) g/min/kg で あ っ た 。 リ ト ド リ ン 投 与 速 度 と 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と の 関 係 は 、 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 と も に 正 の 相 関 性 が み ら れ(単 胎 妊 婦, y = 30.1x + 9.34, r = 0.930; 双 胎 妊 婦, y = 39.2x – 0.79, r = 0.907)、 リ ト ド リ ン の 体 内 動 態 は 今 回 の 投 与 量 の 範 囲 で は 線 形 で あ っ た 。 し か し 、 投 与 速 度 に 対 応 す る リ ト ド リ ン の 血 清 中 濃 度 は 双 胎 妊 婦 の ほ う が 有 意 に 高 い 結 果(p<0.01)で あ っ た(Figure 4)。
リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス は 、 単 胎 妊 婦(1.75±0.43 (0.69-3.65) L/h/kg) と 比 較 し て 、 双 胎 妊 婦(1.59±0.30 (0.83-2.47) L/h/kg)の 方 が 有 意 に 低 か っ た (p<0.001)(Figure 5)。
さ ら に 、 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 に お け る 妊 娠 週 数 と 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と の 関 係 を Figure 6 に 示 し た 。単 胎 妊 婦 で の 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 妊 娠 週 数 に よ る 変 化 が み ら れ な か っ た が 、 双 胎 妊 婦 で の 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 妊 娠 週 数 の 経 過 に 伴 い 上 昇 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。
2. 分 娩 転 帰 と の 関 連
対 象 妊 婦 105 名 の 分 娩 転 帰 を 調 査 し た と こ ろ 、 早 産 し た 単 胎 妊 婦 は 20 名 、 双 胎 妊 婦 は 25 名 で あ り 、 分 娩 週 数 に 差 は 認 め ら れ な か っ た(単 胎 妊 婦 33.5±
3.60 (26.4-36.9)週; 双 胎 妊 婦 35.1±2.35 (26.9-36.9)週 、n.s.)。 早 産 し た 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 に お け る 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度(単 胎 妊 婦 49 点 、97.5±61.1 (29.2-220) ng/mL; 双 胎 妊 婦 117 点 、89.6±50.4 (28.4-290) ng/mL、n.s.)に 差 は な か っ た 。一 方 、正 期 産 の 単 胎 妊 婦 は 47 名 、双 胎 妊 婦 は 13 名 で あ り 、双 胎 妊 婦 の 分 娩 週 数 は 単 胎 妊 婦 よ り も 短 い 結 果 と な っ た(単 胎 妊 婦 38.1±1.17 (37.0-40.7)週; 双 胎 妊 婦 37.0±0.04 (37.0-37.1)週 、p<0.001)。血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 、単 胎 妊 婦(164 点 、65.7±38.7 (18.4-187) ng/mL)と 比 較 し て 、双 胎 妊 婦(65 点 、85.8±39.7 (30.4-208) ng/mL)の 方 が 高 い 濃 度 を 維 持 し て い た (p<0.001) (Table 5)。
18
ま た 単 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス は 早 産 し た 妊 婦 と 正 期 産 の 妊 婦 で は 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た が 、(早 産 1.77±0.45 (0.69-2.84) L/h/kg; 正 期 産 1.75±0.43 (0.82-3.65) L/h/kg、n.s.)、 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス は 早 産 し た 妊 婦 よ り も 正 期 産 の 妊 婦 の ほ う が 有 意 に 大 き か っ た(早 産 1.53±0.28 (0.83-2.34) L/h/kg; 正 期 産 1.69±0.31 (1.14- 2.47) L/h/kg、p<0.001)(Table 5)。
Figure 4. Relationship between ritodrine infusion rate and serum ritodrine concentration in 67 singleton (○, y = 30.1×
+ 9.34, r = 0.930) and 38 twin (●, y = 39.2x – 0.79, r = 0.907) pregnancies.
Regression lines of singleton and twin pregnancies
significantly differ (p<0.01).
20
Figure 5. Maternal ritodrine clearance in singleton and twin pregnancies.
Lines within boxes define median; ends of boxes define 25th and 75th percentiles.
Clearance is significantly lower in twin (●, 1.59±
0.30 (0.83-2.47)) than singleton (○, 1.75±0.43
(0.69-3.65, L/h/kg); p<0.001) pregnancies.
Figure 6. Serum ritodrine concentrations according to
gestation week.
22
Table 7. Delivery outcomes of the patients.
第 4 節 考 察
低 出 生 体 重 児 の 出 産 や 周 産 期 死 亡 を 防 止 す る た め 、 本 邦 で の 切 迫 早 産 の 治 療 は 妊 娠 期 間 を 延 長 さ せ る こ と が 基 本 と さ れ 、 主 に リ ト ド リ ン の 持 続 静 脈 投 与 が 行 わ れ て い る 。 一 方 、 ア メ リ カ や カ ナ ダ で は 、 カ ナ ダ の 切 迫 早 産 研 究 グ ル ー プ の 臨 床 研 究 報 告 に 基 づ き 、 新 生 児 呼 吸 切 迫 症 候 群 発 症 予 防 の た め に 投 与 さ れ る ス テ ロ イ ド 投 与 の 効 果 が 現 れ る ま で に 必 要 と さ れ る 48 時 間 に つ い て 、 子 宮 収 縮 抑 制 薬 投 与 に よ り 妊 娠 を 延 長 さ せ る 治 療 が 行 わ れ て い る 52)。そ の た め 、切 迫 早 産 防 止 の た め の 長 期 間 に 渡 る リ ト ド リ ン 治 療 を 行 な っ て い る 妊 婦 の 報 告 は 少 な い 。
リ ト ド リ ン は 、 選 択 的 β2 受 容 体 刺 激 薬 で あ る が 、 単 胎 妊 娠 時 に お い て 、 弱 い β1 受 容 体 刺 激 作 用 も 新 生 児 の 頻 脈 ・ 低 血 糖 症 ・ 腸 管 麻 痺 症 に 関 与 し て い る と 報 告 さ れ て い る 83,84)。血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と 子 宮 収 縮 抑 制 頻 度 と は 相 関 性 (y = 4.4 x-19.6, r = 0.84, p<0.001, n = 17)が あ り 、 子 宮 収 縮 抑 制 に 必 要 な 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 、15~45 ng/mL と 報 告 さ れ て い る 56)。
Table 4、Figure 4 に 示 す よ う に 、 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 に お い て 投 与 速 度 に 違 い が な い に も か か わ ら ず 、 投 与 速 度 に 対 応 す る リ ト ド リ ン の 血 中 濃 度 は 双 胎 妊 婦 の ほ う が 有 意 に 高 い 結 果 で あ っ た 。Gabriel ら は 、 多 胎 妊 婦 で は 、 単 胎 と 比 較 し て 長 時 間 の リ ト ド リ ン 静 脈 内 投 与 に よ り 母 体 へ の 有 害 作 用 の 頻 度 が 劇 的 に 増 加 し た と 報 告 し て い る 78)。さ ら に 、リ ト ド リ ン は 胎 盤 を 通 過 す る た め 、リ ト ド リ ン の 薬 理 作 用 に よ る 新 生 児 の 頻 脈 、 低 血 糖 症 、 腸 管 麻 痺 が 報 告 さ れ て い る 83,84)。 我 々 は す で に リ ト ド リ ン の 持 続 的 静 脈 投 与 が 行 わ れ た 双 胎 妊 婦 14 人 を 対 象 と し 、 リ ト ド リ ン の 母 胎 児 間 移 行 を 精 査 し た と こ ろ 、 母 児 間 の リ ト ド リ ン 濃 度 は ほ ぼ 等 し い こ と を 明 ら か と し た 85)。し た が っ て 今 回 の 結 果 は 、母 体 の 血 清 中 濃 度 が 高 い ほ ど 胎 児 に も リ ト ド リ ン が 移 行 し て い る こ と を 示 し て お り 、 胎 児 の 発 育 状 況 や 副 作 用 の 状 況 を 注 意 深 く 観 察 し 、 治 療 を 行 う 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。
ま た Figure 5 に 示 す よ う に 、単 胎 妊 婦 と 比 較 し て 、双 胎 妊 婦 の リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス が 有 意 に 低 い 結 果 と な っ た 。さ ら に Figure 6 に 示 す よ う に 、妊 娠 週 数 の 経 過 に 伴 い 、 双 胎 妊 婦 で は 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 上 昇 す る 傾 向 が 認
24 め ら れ た 。
Table 5 に 示 す よ う に 、 対 象 妊 婦 の 分 娩 時 の 出 生 体 重 は 、 早 産 し た 妊 婦 で は 単 胎 児 、 双 胎 児 で の 体 重 差 は み ら れ な か っ た 。 一 方 、 正 期 産 の 妊 婦 で は 、 双 胎 児 の 出 生 体 重 は 単 胎 児 と 比 較 し て 有 意 に 低 か っ た 。 母 子 保 健 の 主 な る 統 計 に よ る と 平 成 18 年 に 本 邦 で 出 生 し た 児 の 体 重 に つ い て 、 単 胎 児 の 平 均 は 3.01 kg、
複 産 児 の 平 均 は 2.21 kg と 報 告 さ れ て お り 86)、今 回 の 結 果 と ほ ぼ 同 様 で あ っ た 。 ま た 、 正 期 産 に お け る 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 の 分 娩 週 数 は 、 双 胎 妊 婦 の 方 が 短 か っ た 。 天 使 病 院 産 科 で は 、 双 胎 妊 婦 の 分 娩 は 、 最 長 で も 37 週 程 度 ま で と し 、 帝 王 切 開 術 に て 出 産 す る こ と が ほ と ん ど の た め で あ る と 考 え ら れ る 。
さ ら に 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 、 早 産 し た 対 象 妊 婦 は 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 で は 差 が 認 め ら れ な か っ た が 、 正 期 産 で は 単 胎 妊 婦 と 比 較 し て 、 双 胎 妊 婦 の 方 が 高 い 濃 度 を 維 持 し て い た 。 ま た 単 胎 妊 婦 に お い て は 、 正 期 産 で 出 産 し た 妊 婦 よ り も 、 早 産 の 妊 婦 に お け る 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 が 高 い 結 果 と な っ た 。 リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス に つ い て は 、 早 産 し た 双 胎 妊 婦 の 値 が 小 さ か っ た 。 こ の こ と は 双 胎 妊 娠 を 維 持 す る た め に は よ り 高 い 血 清 中 濃 度 が 必 要 と 考 え ら れ る 。 以 上 の こ と か ら 、 胎 児 数 に 応 じ て 、 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 調 整 す る こ と で 、 妊 娠 を 継 続 さ せ る こ と が で き る 可 能 性 を 示 し て い る 。
今 回 の 結 果 で は 、 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 に お い て 体 内 動 態 が 異 な る 結 果 が 得 ら れ 、 双 胎 に お け る 母 体 生 理 機 能 に つ い て 薬 物 代 謝 能 を 含 め て 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。リ ト ド リ ン の 代 謝 は 一 般 的 に は グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 38%、硫 酸 抱 合 45%
と い わ れ て お り 、硫 酸 転 移 酵 素(sulfotransferase, SULT)の サ ブ タ イ プ で あ る 、 SULT1A3 と SULT1A1 が そ れ ぞ れ 小 腸 と 肝 臓 で リ ト ド リ ン の 代 謝 を 主 に 担 っ て い る 87)。リ ト ド リ ン の 代 謝 活 性 は 、SULT1A3 に 対 し て SULT1A1 が 1/5 ~ 1/4 程 度 と さ れ て お り 、 肝 臓 で の SULT1A1 活 性 の 個 人 差 が 大 き い こ と が 報 告 さ れ て い る 87,88)。胎 児 で の リ ト ド リ ン 抱 合 に つ い て も グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 が 23% 、 硫 酸 抱 合 が 66% と 報 告 さ れ て い る 70)。 ま た 低 出 生 体 重 児 で は 、 肝 、 腎 機 能 の 未 熟 性 に よ る リ ト ド リ ン ク リ ア ラ ン ス の 低 下 が 報 告 さ れ て い る 70)。そ の た め 胎 児 の 発 育 に よ る 、 胎 児 の リ ト ド リ ン 代 謝 能 が 変 化 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。 本 研 究 で 明 ら か と な っ た よ う に 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン 体 内 動 態 に は 違 い が あ る た め 、 リ ト ド リ ン の 適 正 使 用 を 行 う た め 、 出 生 し た 児 に つ
い て の リ ト ド リ ン 体 内 動 態 に つ い て 臍 帯 血 や 静 脈 血 の リ ト ド リ ン 濃 度 を 測 定 し 解 析 を 行 う こ と が 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。
26 第 5 節 小 括
1. リ ト ド リ ン 投 与 速 度 と 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 に は 、 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 と も に 線 形 性 が 認 め ら れ た 。
2. 双 胎 妊 婦 の 平 均 リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス は 、 単 胎 妊 婦 よ り 有 意 に 低 か っ た 。
3. 分 娩 転 帰 を 精 査 し た 結 果 、 早 産 妊 婦 で は 、 単 胎 妊 婦 と 双 胎 妊 婦 間 の 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 に 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た 。 一 方 、 正 期 産 で は 、 双 胎 妊 婦 の 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 が 単 胎 妊 婦 よ り 高 い 濃 度 に 維 持 さ れ て い た 。
第 2 章 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 母 胎 児 間 移 行
第 1 節 序 論
本 邦 に お い て 切 迫 早 産 防 止 の 入 院 治 療 が 必 要 な 妊 婦 に は 、 β2 受 容 体 刺 激 作 用 薬 で あ る リ ト ド リ ン を 持 続 的 に 静 脈 か ら 投 与 さ れ る こ と が 多 い 。 リ ト ド リ ン は β2 受 容 体 に 結 合 後 、 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 活 性 化 、cAMP 含 量 を 増 加 さ せ 細 胞 内 Ca2+の 貯 蔵 部 位 へ の 取 り 込 み を 促 進 し 、ミ オ シ ン 軽 鎖 キ ナ ー ゼ を 不 活 化 す る こ と に よ り 子 宮 平 滑 筋 を 弛 緩 さ せ る 51)。我 々 は 、妊 娠 の 継 続 と と も に リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス が 著 し く 低 下 す る 双 胎 妊 娠 の 症 例 を す で に 報 告 し た
61)。リ ト ド リ ン 全 身 ク リ ア ラ ン ス の 低 下 は 、持 続 的 に 静 脈 投 与 さ れ て い る 妊 婦 の 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 上 昇 さ せ 、 場 合 に よ っ て は 副 作 用 の 発 現 に 注 意 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 妊 娠 を 継 続 す る の に 必 要 な リ ト ド リ ン 投 与 量 は 、 単 胎 妊 婦 に 比 較 し て 双 胎 妊 婦 の ほ う が 有 意 に 多 く 、 治 療 濃 度 も 双 胎 妊 婦 は 単 胎 妊 婦 の 約 2 倍 の 濃 度 で あ っ た 68)。
リ ト ド リ ン は 胎 盤 を 通 過 し 、 単 胎 妊 婦 に お い て 新 生 児 の 頻 脈 、 低 血 糖 症 、 腸 管 麻 痺 に 関 与 し て い る と 報 告 さ れ て い る 83,84)。し か し 、双 胎 妊 婦 に お け る 母 - 双 胎 児 間 の リ ト ド リ ン 濃 度 移 行 率 の デ ー タ は 現 在 の と こ ろ 見 当 た ら な い 。 本 研 究 で は 、 単 胎 妊 婦 よ り 高 い リ ト ド リ ン 濃 度 に よ り 管 理 さ れ て い る 双 胎 妊 婦 の 帝 王 切 開 術 施 行 時 に 得 ら れ た 母 体 静 脈 血 な ら び に 臍 帯 静 脈 血 よ り 、 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 測 定 し 、 双 胎 妊 婦 に お け る リ ト ド リ ン の 母 児 間 移 行 率 を 明 ら か に す る 目 的 で 研 究 を 行 な っ た 。
28 第 2 節 対 象 お よ び 方 法
1. 対 象
2009 年 4 月 か ら 2010 年 3 月 ま で の 1 年 間 に 、切 迫 早 産 と 診 断 さ れ 、リ ト ド リ ン 持 続 静 脈 投 与 を 分 娩 時 ま で 受 け た 双 胎 妊 婦 14 人 を 対 象 と し た(Table 6)。
2. 方 法 1) 検 体 の 採 取
対 象 妊 婦 は 2 絨 網 膜 2 羊 膜 双 胎(DD 双 胎)で あ り 、 子 宮 収 縮 状 況 、 母 体 の 心 不 全 な ど の 副 作 用 を モ ニ タ リ ン グ し な が ら リ ト ド リ ン に よ る 切 迫 早 産 治 療 を 続 け 、 帝 王 切 開 術 に よ る 分 娩 ま で に 至 っ た 。 血 液 採 取 は 、 帝 王 切 開 術 施 行 日 に お け る 採 血 プ ロ ト コ ル(Figure 7)に 従 っ て 行 な わ れ た 。
本 研 究 は 、 天 使 病 院 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 、 妊 婦 か ら 書 面 に よ る 試 験 参 加 の 同 意 を 得 た 。
2) 血 清 中 並 び に 臍 帯 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定
血 清 中 並 び に 臍 帯 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 測 定 は 、第 1章 と 同 じ 方 法 で 行 っ た61)。
3) 統 計 処 理
母 体 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 と 第 1子 お よ び 第 2子 の 臍 帯 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度 の 平 均 値 、 標 準 偏 差 を 算 出 し 、 直 線 回 帰 分 析 、 一 元 配 置 分 散 分 析 を 行 っ た 。 ま た 、 そ れ ぞ れ の 臍 帯 血 清 中 濃 度 と 母 体 血 清 中 濃 度 の 移 行 率 (臍 帯 血 清 中 濃 度 / 母 体 血 清 中 濃 度)を 算 出 し 、t 検 定 を 行 っ た 。統 計 解 析 に お け る 危 険 率(p 値)は 、 有 意 水 準 5% と し た 。
Table 6. Characteristics of dichorionic twin pregnancies.
30
Figure 7. Maternal and umbilical blood sampling protocol.
第 3 節 結 果
本 研 究 に 参 加 し た 双 胎 妊 婦 の 妊 娠 を 継 続 す る た め に 必 要 な リ ト ド リ ン 濃 度 は 、 21.8~126.0ng/mL で あ り 、 そ の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は 58.2±33.9ng/mL で あ っ た(Table 6)。新 生 児 全 員 に つ い て 先 天 異 常 は な か っ た 。 本 研 究 で は 、帝 王 切 開 施 行 時 に 取 り 出 し や す い 位 置 に あ る 児 を 先 に 出 生 さ せ 第 1 子 と し た が 、第 1 子 は 第 2 子 よ り も 有 意 に 体 重 が 重 か っ た 。ま た 、第 1 子 、第 2 子 の 臍 帯 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 は 、 そ れ ぞ れ 22.2~129.0 ng/mL、22.6~128.0 ng/mL で あ り 、 そ の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は そ れ ぞ れ 60.3±36.8 ng/mL、65.3±37.2 ng/mL で あ っ た 。母 体 血 中 、第 1 子 臍 帯 血 中 、第 2 子 臍 帯 血 中 の リ ト ド リ ン 濃 度 結 果 に は 差 が 認 め ら れ な か っ た 。 母 体 か ら 臍 帯 へ の 移 行 率 は 、 第 1 子 が 0.65~1.40、 第 2 子 が0.75~1.64の 範 囲 で あ り 、そ の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は 、第 1子 が1.05±0.23、
第 2 子 が 1.15±0.26 で あ っ た 。移 行 率 は 有 意 に 第 2 子 の ほ う が 移 行 率 が 高 値 を 示 し た 。(p<0.05)。 母 体 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度(14 点)と 臍 帯 血 清 中 リ ト ド リ ン 濃 度(第 1 子 14 点 、第 2 子 14 点)は 、第 1 子 y = 1.00x + 2.01、r = 0.92、p<0.001;
第 2 子 y = 1.02x + 6.19、r = 0.93、p<0.001)(Figure 8)と 直 線 回 帰 さ れ た 。
32
Figure 8. Relationship between umbilical and maternal
serum ritodrine concentration in first (●, y =
1.00x + 2.01, r = 0.92, solid line) and second
newborn (○, y = 1.02x + 6.19, r = 0.93, dashed
line), n = 14.
第 4 節 考 察
前 章 の 考 察 で も 述 べ た よ う に 、 低 出 生 体 重 児 の 出 産 や 周 産 期 死 亡 を 防 止 す る た め 、 本 邦 で の 切 迫 早 産 の 治 療 は 、 妊 娠 期 間 を 延 長 さ せ る こ と が 基 本 と さ れ 、 主 に リ ト ド リ ン の 持 続 静 脈 投 与 が 行 わ れ て い る 。一 方 、ア メ リ カ や カ ナ ダ で は 、 カ ナ ダ の 切 迫 早 産 研 究 グ ル ー プ の 臨 床 研 究 報 告 に 基 づ い て 、 新 生 児 呼 吸 切 迫 症 候 群 発 症 予 防 の た め の ス テ ロ イ ド 投 与 の 効 果 が 現 れ る ま で の48時 間 に つ い て 子 宮 収 縮 抑 制 薬 を 投 与 し て 妊 娠 を 延 長 さ せ る 治 療 が 行 わ れ て い る52)。リ ト ド リ ン は 、 選 択 的 β2受 容 体 刺 激 作 用 と 比 べ て 弱 い も の の 、 β1受 容 体 刺 激 作 用 も あ る こ と が 知 ら れ て お り 、 単 胎 妊 娠 時 に お い て は 、 新 生 児 の 頻 脈 ・ 低 血 糖 症 ・ 腸 管 麻 痺 症 に 関 与 し て い る と 報 告 さ れ て い る83,84)。
対 象 の 双 胎 妊 婦 へ の リ ト ド リ ン 投 与 期 間 は 、23日 か ら111日 で あ り 、 妊 娠 週 数 の 平 均 は 、35.7±1.4週 で あ っ た 。リ ト ド リ ン の 半 減 期 は 、消 失 半 減 期α相 : 0.15,β 相:4.66 時 間 と 報 告 さ れ て お り55)、本 研 究 で は 定 常 状 態 に 到 達 し て い る と 考 え ら れ る 一 定 投 与72時 間 以 降 の 血 液 を 採 取 し た 。リ ト ド リ ン 持 続 投 与 中 止 後 、 麻 酔 の 導 入 と ほ ぼ 同 時 に 母 体 の 右 上 腕 部 の 静 脈 よ り 採 血 を 行 な い 、 帝 王 切 開 術 後 に 臍 帯 静 脈 血 液 を 得 た(Figure 7)。
母 体 か ら 胎 児 へ の 薬 物 移 行 に 関 す る 報 告 は 、ニ ト ラ ゼ パ ム 89-91)や ゾ ニ サ ミ ド
89)、フ ェ ニ ト イ ン 89,92,93)、フ ェ ノ バ ル ビ タ ー ル 89)、カ ル バ マ ゼ ピ ン 89,92,94,95)、 バ ル プ ロ 酸 92,94,96)な ど の 抗 て ん か ん 薬 や 、 ジ ゴ キ シ ン 89,97-100)に つ い て 、 臍 帯 血 お よ び 新 生 児 血 清 中 濃 度 を 測 定 し た 報 告 が あ る 。 一 方 、 リ ト ド リ ン の 移 行 に 関 し て は 単 胎 妊 婦 に お け る 報 告 が い く つ か あ る 58-60,65,66)が 、双 胎 妊 婦 に 関 す る 報 告 は 見 当 た ら な い 。従 来 の 報 告 は RIA 法 が 多 く 、リ ト ド リ ン の 臍 帯 血 の 測 定 方 法 、 測 定 手 順 が 煩 雑 で 、 施 設 間 の 違 い が 大 き か っ た 。 そ の た め 、 本 研 究 の 測 定 法 で あ る HPLC 法 で の 結 果 と 直 接 比 較 は で き な い と と も に 、3 例 の 単 胎 妊 婦 に お け る 症 例 報 告 や 投 与 期 間 が 必 ず し も 定 常 状 態 と は 認 め ら れ な い 報 告 も 含 ま れ て い る(Table 7)。HPLC 法 に よ る 本 研 究 の 測 定 で 得 ら れ た 移 行 率 は 、第 1 子 1.05±0.23、 第 2 子 1.15±0.26 で あ り 、 こ の 値 は 他 の HPLC 法 に よ る 単 胎 妊 婦 で の 報 告 と ほ ぼ 同 様 の 結 果 で あ っ た 。
リ ト ド リ ン の 主 な 代 謝 経 路 は 、グ ル ク ロ ン 酸 抱 合(38%)と 硫 酸 抱 合(45%)で あ
34
り 70,101-105)、SULT1 フ ァ ミ リ ー の 活 性 に は 遺 伝 的 多 型 に 基 づ く 個 体 差 が 認 め ら れ て い る 106)。Ozawa ら は ヒ ト 肝 上 清 の p- ニ ト ロ フ ェ ー ル 硫 酸 転 移 酵 素 活 性 の 分 布 を 調 査 し た 結 果 、SULT 1A3 依 存 的 酵 素 活 性 に 個 体 差 が あ る こ と を 報 告 し た 107)。 ま た 、 彼 ら は 、SULT 1A3mRNA に 異 型(Arg213His、Met223Val) を 見 出 し 107)、 さ ら に 日 本 人 で は 、 検 索 し た 143 検 体 の 中 に 、 対 立 遺 伝 子 の 存 在 率 で は 213Arg型 が 0.83 の 割 合 で あ る と 報 告 し て い る 108)。Raftgianis ら は 、 ヒ ト 血 小 板 のSULT 1A3依 存 的 活 性 を213Arg/His多 型 と の 相 関 を も と に 調 査 し た と こ ろ 、213His 型 ホ モ は 、通 常 の 血 小 板 酵 素 活 性 の 7 分 の 1 以 下 し か 示 さ な か っ た と 報 告 し て い る 109)。 我 々 は 、 経 時 的 に 母 体 血 中 リ ト ド リ ン 濃 度 を 測 定 し た 単 胎 妊 婦 、 双 胎 妊 婦 に お い て 、 妊 娠 週 数 が 経 過 す る に つ れ リ ト ド リ ン ク リ ア ラ ン ス が 減 少 す る こ と を 報 告 し た 61)。本 研 究 に よ り 得 ら れ た 移 行 率 は 、第 1 子 が 0.65~1.40、 第 2 子 が 0.75~1.64 と 移 行 率 の 最 小 値 と 最 大 値 に 2 倍 以 上 の 差 が 認 め ら れ た こ と は 、 母 体 と 新 生 児 に お け る 代 謝 能 の 個 体 差 に 関 係 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。
胎 盤 に は 、 MDR1(multiple-drug resistance protein 1) お よ び MRP (multidrug resistance- associated protein)が 発 現 し て お り 、 ま た 、ABC ト ラ ン ス ポ ー タ ー フ ァ ミ リ ー の ABCP(ABC placenta)が 特 異 的 に 発 現 し て 、 薬 物 の 母 体 側 へ の 排 泄 に 関 与 し て い る 110-112)。 さ ら に 、 胎 児 の 肝 臓 で は 、 比 較 的 早 く 硫 酸 抱 合 活 性 が 発 現 さ れ 、そ の 活 性 も 高 い こ と が 報 告 さ れ て い る 70)。こ れ ら の 理 由 で 、 胎 児 の 成 長 し て い く 過 程 に よ り リ ト ド リ ン の 移 行 率 に 個 体 差 が 生 じ た と 考 え ら れ た 。
同 一 の 母 体 か ら 出 産 し て い て も 第 2 子 の ほ う が 第 1子 よ り も 移 行 率 が 高 い こ と が 明 ら か と な っ た 。こ の こ と は 、胎 児 の 発 育 が 関 与 し て い る と 考 え ら れ る が 、 詳 細 な 検 討 が 必 要 で あ る 。 新 生 児 に リ ト ド リ ン に よ る 副 作 用 が 生 じ た 場 合 、 第 1 子 と 第 2 子 で は 、 異 な る 対 応 が 必 要 と な る 可 能 性 が あ る 。
母 体 血 と 臍 帯 血 の リ ト ド リ ン 濃 度 の 関 係 は 、 切 迫 早 産 の 治 療 濃 度 内 で 母 体 血 清 中 濃 度 の 上 昇 に 伴 っ て 臍 帯 静 脈 血 清 中 濃 度 が 直 線 的 に 上 昇 し た(Figure 8)。
こ の 関 係 は 、 Grossら の 単 胎 に お け る 報 告(y = 0.88x + 2.09, r = 0.97) に お い て も 認 め ら れ て い た 71)が 、彼 ら の 報 告 で は 、投 与 期 間 が 短 く 、ま た 、治 療 濃 度 範 囲 が 母 体 血 中 濃 度 で 60 ng/mL 付 近 ま で の 測 定 範 囲 で あ る た め 、 本 研 究 と は