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保険契約の締結過程および内容への 債権法規律適用に関する課題

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保険契約の締結過程および内容への 債権法規律適用に関する課題

西 羽 真

■アブストラクト

本稿は,民法(債権関係)の改正に関する中間試案における提案が保険契 約の締結過程および内容に与える影響について,検討するものである。

情報提供義務 は,ほぼ同時期に保険業法規制への導入も提言されてい るものであるが,両規制は協働して規律を形成し,射程が共通する部分にお いては保険業法規制が民法規律の具体的基準となり得る。また, 契約の解 釈 は,主観的基準に重きを置いたようでいて,客観的基準とのバランスに も配慮されており,保険契約に妥当しないとの評価は必ずしも適当ではない。

約款 規律では, 契約の内容となる╱ならない 個別の合意 などの新 たなコンセプトの趣旨明確化,および保険契約における 中心部分に対する 不当条項規制 の特則を定める特別法の要否の検討が今後の課題となる。

■キーワード

情報提供義務,契約の内容となる╱ならない,不当条項規制

法制審議会民法(債権関係)部会(債権法部会)が2013年2月に決定した 中間試案では,従来の判例法理・通説を過不足無く規定すべく,必要に応じ 新たなコンセプトを持ち込もうとしているが,それら試みのもたらし得る帰 結については,現時点で評価の困難なものも少なくない。本稿では,保険実 務にも大きな影響が及び得る,契約の締結過程および内容に係る規律の見直

(愛知学院大学)報告に

*平成25年10月26日の日本保険学会大会 成26年1月15日原稿

よる。

/平 領。

(2)

しに関する提案を採り上げ,想定される影響等につき考察する。

1.契約締結過程における情報提供義務(中間試案 第27,2)

⑴ 民事法制における状況

現在,契約締結過程における情報提供義務・説明義務を明文で定めた規定 は各種業法に多く見られるが,民事法では,消費者契約法(消契法)第3条 第1項,金融商品の販売等に関する法律(金販法)第3条第1項など,ごく 一部に見られるのみである。また,民事法以外の法律における民事効を伴う 規定も商品先物取引法第217条,同第240条の18など,限定的と考えられる。

2000年に成立した消契法の場合,国民生活審議会消費者政策部会が取りま とめた中間報告では取消権発生という効果を伴った義務化が提言されていた が,最終的に努力義務として法定され,立法者による逐条解説では 契約の 取消しや損害賠償責任といった私法的効力は発生しない とされている。

同じ2000年制定の金販法の説明義務は,当初,金融商品の仕組み,構造等 も対象に含む広い射程で構想されたが,最終的には元本割れと因果関係を持 つ情報のみが対象とされた。その後,2006年の法改正により,元本割れ発生 の虞を生じさせる 金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部 分 も対象とされたが,これまでに説明義務が同法に基づき認められた案件 は僅かで,大半は民法の信義則に基づき認定されているのが実態である 。

さらに,2006年以降,法制審議会保険法部会においても説明義務の導入が 様々な形で検討されたが,民法一般にも関わることについて保険法において 突出した規定を設けることの是非,保険契約者の属性や理解力,契約の内容 等に照らして個別具体的に検討されるべきことを業法ではなく契約法に置く ことの是非などが考慮された結果,最終的に規定化は見送られている。

1) 消費者庁企画課編・逐条解 説 消 費 者 契 約 法〔第 2 版〕96頁(商 事 法 務,

2010)。

2) 松尾直彦・金融商品取引法〔第1版〕388頁(商事法務,2011)では,本実 態に関し, 裁判例を通じて確立している民法の信義則に基づく説明義務に依 拠すれば足り る,との考えが裁判官に有るためではないか,と説明される。

(3)

以上のような状況から,契約締結過程において情報提供を怠った場合の損 害賠償責任を認定するにあたっては専ら民法第1条第2項に基づく信義則が 根拠とされる現状にあるが ,同項に基づく責任認定の要件を明確にすべき であるとして,今般の民法見直しで規定新設が提案されているものである。

⑵ 中間試案の概要

中間試案では, 契約締結判断の基礎となる情報の収集は契約当事者各人 の責任であることを明確にしつつ,その例外として一方当事者が情報提供義 務を負う場合がある とする規律を新設し,次のような義務発生要件を定め ることが提案されている。(以下の記載は,中間試案概要からの引用)

Ⅰ.情報を提供すべき当事者がその情報を知り,又は知ることができたこと

Ⅱ.情報の提供を受けるべき当事者がその情報を知っていたら全く契約を締 結しないか,その条件では契約を締結しなかったことを,情報を提供す べき当事者が知ることができたこと

Ⅲ.情報の提供を受けるべき当事者が自ら情報を入手することを期待できな いこと

Ⅳ.情報の提供を受けるべき当事者に情報を知らなかったことによる不利益 を負担させることが相当でないこと

⑶ 保険業規制における状況

保険業規制では,保険募集の取締に関する法律第16条第1項第1号および これを継承した保険業法第300条第1項第1号の定める禁止条項が,長らく 契約締結過程における情報提供義務に係る唯一の規定と位置付けられてきた。

その後,1998年に成立・施行となった金融システム改革のための関係法律

3) 消契法・金販法の施行直後に発表された山下友信 保険募集と情報提供規 制 損害保険研究63巻1号(2001)は,民法にのみ救済される領域も 相当あ る としたうえで, とくに保険ではそのような領域が広いのではないかと思 われる とする。

(4)

の整備等に関する法律により,保険業法第100条の2が新設され,保険会社 に対し重要事項説明に関する体制整備義務が課せられることとなった。この 際,銀行法に同様の規定が新設され(第12条の2第2項),同法には併せて 行為規制としての情報提供義務も導入された(第12条の2第1項)が,保険 業法にはこのような規定は盛り込まれなかった 。

2006年には保険業法の情報提供規制を実質化する 契約概要 注意喚起 情報 が導入され,保険会社向けの総合的な監督指針に詳細な記載が盛り込 まれた。本制度の導入を提言した金融庁の 保険商品の販売勧誘のあり方に 関する検討チーム では,同時に業法の情報提供義務の行為規制化を検討し たが,見直し要との結論には至らなかったようである 。なお,同年には投 資性の強い金融商品に係る横断的な投資者保護を目的の一つとした金融商品 取引法(金商法)も制定され,同法第37条の3および第37条の4の定める契 約締結前および契約締結時の書面交付は,これを準用する保険業法第300条 の2により,投資性の高い 特定保険契約 についても対応が必要となった。

以上のとおり,保険業規制では情報提供規制が着実に拡充されてきたが,

他の金融関連法令に見られる積極的情報提供義務が存在しないことから,

2012年に立ち上げられた金融審議会 保険商品・サービスの提供等の在り方 に関するワーキング・グループ (保険WG)で審議の結果,この点の法令 明記を提言する報告書が取りまとめられた。保険WGのテーマの多くは金 融審議会 保険の基本問題に関するワーキング・グループ (保険問題WG)

4) 銀行法との間に生じたこのような規律の差異が今般の業規制見直しの遠因と なっている。差異発生の理由は明らかではないが,銀行法には当時保険業法 300条のような禁止行為規定が存在せず(銀行代理店制度の規制緩和等を図る 2006年施行の法改正により規定新設−13条の3),情報提供義務規定が皆無で あったことが要因とも推測される。

5) 検討チームの審議は非公開であるが,金融審議会 保険商品・サービスの提 供等の在り方に関するワーキング・グループ 第5回会議で,山下委員は 監 督指針で契約概要等を導入したときも,これは当時,積極的に情報提供する部 分は300条に根拠づけざるを得ないということでしたが,ほんとうにそうなの ですかという議論をした と発言。

(5)

の中間論点整理(2009年6月)をベースに設定されたこと,またその一つで ある情報提供義務は保険法検討での制度化見送りを受けて保険問題WG 課題とされたこと を勘案すれば,本動向は前述の民事法制における検討経 緯と関連するものとして捉えるべきであろう。

⑷ 保険 WG 提言の概要

提言は, 保険募集の際,保険加入判断に参考となるべき商品情報その他 の情報(契約概要・注意喚起情報による提供が現在求められている項目等)

を保険会社および保険募集人が顧客に提供することにつき,商品特性等に応 じた適用除外範囲を設けつつ義務付け,併せて契約概要等をその場合の標準 的手法として位置付け直す もの。また,保険業法第300条第1項第1号の 定める情報提供規制を,虚偽説明の場合や契約締結判断に重大な影響を及ぼ す事項の不告知の場合などに限定することも提言されている。

⑸ 中間試案と保険 WG 提言との関係性に関する考察

情報提供規制における民法と業法との関係について,中間試案の補足説明 では 本文の規律を設けることにより,現在信義則に基づいて私法上認めら れる説明義務・情報提供義務と業法上の説明義務との関係が変更されるもの ではない と結論付けている。このような説明は,業法の義務違反は私法上 の責任を判断する際の判断要素にはなるものの,直接にそれを発生させるも のではないとする一般的理解とも符合するが,民事法における検討の流れも 汲み,また中間試案と歩調を合わせるように情報提供義務法制化の方向性を 示した保険WG提言に関しても同様なのか,検討が必要であろう。民法上 の義務と保険業法上の義務との対応関係が一致していれば,後者の行為規範 は前者を具体化・明確化する役割を果たすことで,これに対する違反の有無

6) 保険問題

WG

第44回会議(金融分科会第二部会との合同会合)で取りまと められた 保険法改正への対応について において 保険募集 が検討課題と され,第46回会議における木下委員による問題提起等を経て課題となったもの。

(6)

を判断するうえでの 基準 として機能する,との指摘が有る ことも踏ま え,以下では中間試案と保険WG提言との対応関係を考察してみたい。

図表1のとおり,両者の対応関係は一致せず,総じて保険WG提言の射 程の方が中間試案のそれよりも広い。まず,提供主体・提供相手共に契約当 事者に限られない点で,保険WG提言の方が広範であることに疑問は無い。

また,商品・サービスの正しい理解に資する,より幅広い情報の提供を求め ている点で,提供情報についても同様であると言えよう 。保険WG提言で は更新・一部変更関連を適用除外としているが,これは旧契約と変更の無い 情報は従前の契約締結時に提供済みと考えられるための対応である。中間試

図表 1 中間試案と保険 WG 提言との比較

(出典)中間試案の補足説明や保険

WG

報告書の内容を踏まえ筆者作成

中間試案 保険

WG

提言

商品やサービス内容につい て顧客の正しい理解を図る こと

保険加入判断の参考となる べき商品情報その他の情報

〔適用除外〕対契約者:更 新・一部変更の際の従前と 変わらない情報,対被保険 者:各種除外有り

契約を締結するかどうか,どのような 条件で契約を締結するかを適切に判断 することができるようにすること

契約締結可否または契約条件の判断に 影響を与える情報(当該影響を提供主 体が知ることができ,提供相手に一方 的不利益を課すことが不相当なもの)

〔適用除外〕相手方当事者が自ら情報 を入手することを期待できる情報 制度の

目的

提供情報

保険会社・保険募集人 一方当事者

提供主体

提供相手 他方当事者 顧客(契約者・被保険者)

7) 小林道生 保険契約法の現代化と保険募集における情報提供規制 保険学雑 誌599号115・116頁(2007)。

8) 情報提供義務が求める情報の範囲に関し,山下・前掲注3)は,これを画する 重要性 の広狭を分析する枠組みとして, ⒜契約を締結するか否かの判断を 左右する程度 ⒝契約を締結するか否かの判断に影響が及びうる程度 ⒞契 約締結の判断には影響しないとしても正しく情報を与えられることの必要性が 高いという程度 の三区分を提示するが,これを用いて評価するならば,中間 試案は⒜か⒜ + ⒝,保険

WG

提言は⒜ + ⒝ + ⒞ということになろう。

(7)

案においても契約者が入手済みの情報は適用除外とされるので,この点にお いて両者の差は無いと考えられる。なお,提供情報の範囲を画する基準につ いて,中間試案では個別顧客毎に異なる主観的な基準に拠るものとされる 一方,保険WG提言の採る考え方は明確ではない。この点,業法としての 本来的性格 や一定の形式に従った情報提供を求めている点を考慮すれば,

平均的契約者を基準に客観的に判断する想定とも考えられるが,新たな規律 が保険業法第100条の2の定める重要事項説明体制整備義務の詳細を規定し た業法施行規則第53条の7( 顧客の知識,経験,財産の状況及び取引を行 う目的を踏まえた 説明の確保を求めるもの)と並立して定められることを 考慮すると,そのような評価は必ずしも適当ではない。同じく導入が提案さ れている 意向把握義務 も考え併せるなら,保険WG提言も主観的基準 による情報提供を求めるものと想定され,その意味でこの点においても中間 試案との間で広狭の差は無いと言うべきであろう。

以上のような中間試案と保険WG提言との間の対応関係をどのように考 えるべきであろうか。保険業界としては,より具体的な形で定められる業規 制を念頭に置いて業務運営体制構築を目指すことになろうが,より広範な射 程の規制に対応している点を民事の争いでも 参考材料 以上に重視して欲 しい,と実務担当者は期待するのではないか。保険法の制定を契機に,あら ためて業法・私法の適切な役割分担の在り方が問われている 中,民事効を 規定していない限り前者は後者にとって基本的に無関係との考え方はやや硬 直的過ぎるように思われる。金商法・金販法の対応に倣って保険法でも保険

9) 補足説明(2013年7月4日補訂)343頁。

10) 山下・前掲注3)9頁では,業法第300条の定める情報提供義務の主観基準・

客観基準を巡る論争を紹介する中で, 業法としての規制である以上主観的な 判断基準がとられるということは本来あまり想定されていないことであると思 われる としている。

11) 山下友信 保険法制定の総括と重要解釈問題(損保版) 損害保険研究71巻 1号64頁(2009)は,アメリカの保険法が公法・私法一体となっている点に言 及し, 日本でも少しそういう方法を考えていくということを今後せざるを得 ないのではないかというような感触を私個人としては持っている とする。

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業法と並立した規定を置けば良いとの主張も想定されるが,欧州では,EC の第三次保険指令(生保および損保)における情報提供義務の導入を受けた 各国での実施が監督法制で対応するものと契約法制で対応するものとに二分 される など,本規律についてはどちらか一方に置けば良いと考えられて いる様子であること,ドイツでは1994年に保険監督法・保険契約法双方に導 入された情報提供義務に係る規律がその後2008年施行の新保険契約法に一本 化されたことなどを勘案すれば,そのような主張に意味が有るとも思えない。

全契約に共通するものとして定められる民法規律はどうしても抽象的に定め ざるを得ないことから,射程が共通する部分においては業規制がそれを具体 化した基準である,とするのがあるべき整理なのではないだろうか。

⑹ 保険 WG で提言されている意向把握義務との関連

意向把握義務と民法の情報提供義務との関連についても論じておきたい。

中間試案の情報提供義務発生要件Ⅰに 情報を現実には知らないが知るこ とができた場合 も含めているのは, 専門家がその専門性を理由として情 報提供義務が課される場合に,情報収集義務を怠ってその情報を知らなかっ たときには情報提供義務を負わないのは不合理な場合がある から,と説 明され,これは事業者と消費者との間の契約に関して情報提供義務が争われ た判例を分析し,事業者は保有していない情報についても調査義務に基づき 収集して提供する必要が有るとする学説 にも符合する。この点に関し,

顧客意向を調査することも当該調査義務の対象とされ,意向把握義務の存否 が民事上の情報提供義務違反の判断に影響し得るか否かが問題となり得るが,

保険募集人等が助言義務を負うものとされるような場合には顧客に対し保険 選択に必要な情報を質問により調査する義務が有るとする考え方が提示さ 12) 各国の情報提供義務実施状況は,小塚荘一郎ほか訳・ヨーロッパ保険契約法

原則134頁・135頁(公益財団法人損害保険事業総合研究所,2011)参照。

13) 補足説明(2013年7月4日補訂)343頁。

14) 横山美夏 契約締結過程における情報提供義務 ジュリスト1094号131頁

(1996)。

(9)

れ ,また保険WGでは意向把握義務は助言義務を意識して論議されてき ことなどを勘案すれば,肯定的に考えるべきであろう。

もっとも,民事上の情報提供義務の対象となる情報は,あくまで 相手方 当事者が自ら情報入手することを期待できない情報 であるとされる(要件

Ⅲ)ので,これに該当して提供すべき情報は,顧客の希望する契約内容と伝 えられた顧客意向との間の合致しない点など,例外的なものと考える 保険募集人が顧客の本来の意向を把握し,これに適合した保険商品を顧客が 選択できるよう必要な調査をする,というのは保険実務上違和感が無いが,

顧客の誤った理解 の全てが単純明快であるはずも無く,解明困難なもの も少なくないことは考慮されるべきであろう。マンション売買契約において 売り主たる業者の調査義務を認めた判例(札幌地判昭和63年6月28日判時 1294号110頁)でも, 簡単な調査により容易に知り得た場合 (明らかに認 識可能性が有る場合)に義務が存するものとしており,調査義務は,解明の 難易度が考慮され,限定的な範囲で認められるべきであると考える 。

⑺ その他の課題

業規制において導入される情報提供義務が私法上の説明義務にも大きく影 響するものとなる場合には,金販法の説明義務規定との関係整理が課題とな

15) 山下友信・保険法184頁(有斐閣,2005)。

16) 保険WG第7回会議の議事参照。

17) ヨーロッパ保険契約法原則(PEICL)の第2:202条で助言義務を 引き受 けようとする保障(補償)と保険者が知り又は知っているべき申込人の要望と の間に合致しない点があれば,それを申込人に指摘しなければならない 助力 義務として規定している(小塚ほか訳・前掲注12)136頁)点もこのような考え 方と符合していると言えよう。

18) 例えば, 失火による隣家延焼リスクに備え賠償責任保険に加入したい な ど,誤った理解に基づく意向が伝えられた場合が例外として想定される。

19) 前掲注17)記載の

PEICL

第2:202条の 知っているべき も 保険者が知 っている根拠が存した場合 と 不合致が保険者によって合理的には予測され ていたであろう場合 に限定される(小塚ほか訳・前掲注12)137頁)。

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ろう。同法では第3条第7項第2号により,説明を要しない旨の意思表明が あった顧客に対する重要情報の説明義務を免責しているが,保険WG提言 では同様の適用除外を想定していない。重要情報は顧客要請により情報提供 が免責されるのに,重要でない情報については免責されないというのは,実 務として違和感が有る。ドイツ保険契約法第7条第1項のように契約者の要 請に基づく義務免責を定める明文規定を持つ法域も存在するところであり , 保険業規制にも同種免責規定を設けることは,一考の余地が有る。

2.契約の解釈(中間試案 第29)

中間試案では,これまで規定化されてこなかった 契約の解釈 について,

a:当事者間で理解が共通している場合の原則 b:当事者間で理解が共 通していない場合の原則 c:契約内容を確定することができない事項が 残るが契約の成立自体は認められる場合の原則(いわゆる補充的解釈) の 三つに分けて規定することが提案されている。提案されている準則は, そ の表現が一般にどのような意味で理解されているかにかかわらず,当事者の 理解する意味に従って解釈しなければならないとする 考え方を第一の原則 とし,また第二の原則も 表現が通常どのように理解されているかが重要な 考慮要素となるが,これにそのまま従うのではなく,当該契約の個別の事情 を踏まえ 判断とするなど,主観的基準に重きを置いているように感じられ る。このような準則が,組入れによって希薄な合意にもかかわらず契約の内 容となったものであるため当事者の主観的意思を確認し得ないこと ,多数 の契約を画一的に規律する性格を持つものであること などの理由から,

平均的顧客を標準とし客観的に解釈されるべきともされてきた約款を用いた

20) 小塚ほか訳・前掲注12)134頁・135頁によれば,フィンランドやスウェーデ ンの保険契約法に免責規定が有るようである。

21) 河上正二・約款規制の法理434頁(有斐閣,1988)。

22) 山下・前掲注15)117頁。

23) 後述する約款規制でも 契約の内容を画一的に定めることを目的として使用 するもの という表現を含む約款に関する定義規定が提案されている。

(11)

契約,とりわけ保険契約にも妥当するのか,検討が必要であろう。

そこで,提案されている準則を,保険実務において想定される事例に当て はめてみた場合にどのような結論が導き出されるのか, 事故が起きて保険 金請求をした結果,当該事故に対する保障(補償)適用の適否に関する自身 の理解が保険会社と異なることが判明し,契約解釈によって当該適否を確定 することが必要になる という典型的事例を例にとって考えてみたい。

まず,本事例の場合,当事者理解は共通ではないので原則aは適用されず,

原則b(契約は,当事者が用いた文言その他の表現の通常の意味のほか,当 該契約に関する一切の事情を考慮して,当該契約の当事者が合理的に考えれ ば理解したと認められる意味に従って解釈しなければならないものとする。)

が適用されることとなる。本原則は,基本的に 用いた文言等の通常の意 味 という客観要素をベースとするが,同時に基準は平均的顧客ではなく 当事者 という主観要素となり,また一方で客観性を高めるため 合理的 に考えれば理解したと認められる意味に従 うとする,といった内容であり,

主観と客観との微妙なバランス調整が試みられたものと言えるであろう。こ の場合,顧客が明らかに表示の意味を取り違えて異なる理解をしていたので あれば,顧客の理解が正され保障(補償)適用は否定されることになるので あろうが,そもそも表示が多義的で誰でも誤解するようなものとなっていた のであれば,契約趣旨等に反するものでない限り,顧客の理解したとおりの 保障(補償)適用が肯定されるという対応になるものと考えられる。

このような解釈で解決し得ない場合,原則c(上記a及びbによって確定 することができない事項が残る場合において,当事者がそのことを知ってい れば合意したと認められる内容を確定することができるときは,契約は,そ の内容に従って解釈しなければならないものとする。)に拠ることとなるが,

こちらは比較的単純な判断となるのではないか。すなわち,保険会社側で顧 客理解どおりの内容での保険引受が可能だった場合,当該理解のとおり契約 内容を見直すこととなる一方で,そのような引受が元々できなかった場合に は保障(補償)適用は否定される結果となる(これを受け容れて契約を維持

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するか,錯誤無効の主張をするかは顧客次第)と考えられる。

このような対応となるのであれば,これまで明文規定が存在しない中で,

保険契約全体の趣旨や顧客の事情等を勘案する形で合理的に行ってきた保険 約款に関する解釈とも大きな齟齬は無いように思われる。今回提案されてい る準則も,原則bに示された諸要素のバランスをうまく取りながら,結果的 には従来と大きく変わらない帰結に収斂していくものとなるのであれば,約 款解釈に妥当しないとの評価は必ずしも適当ではないと言うべきであろう。

3.約款(中間試案 第30)

約款 の定義

中間試案で導入が提案されている約款規律は,新たなコンセプトを持ち込 む形で判例法理・通説を明文化する代表例であろう。本稿では,当該規律の 内, 契約の内容となる╱ならない 個別の合意 契約の中心部分に対す る不当条項規制の適用 の三点を論ずるが,その前に,それら各論点にも深 い関わりを持ってくる 約款 という用語の定義について考察する。

試案では,約款を 多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準 備される契約条項の総体であって,それらの契約の内容を画一的に定めるこ とを目的として使用するものをいうものとする。 と定義する。この内, あ らかじめ準備される契約条項 という部分までは,各種の立法提案・学説や 外国法でもほぼ共通に盛り込まれ,特に問題無いところと考えられるが,そ れ以降の記載には注意が必要であり,以下この点について指摘しておきたい。

まず注意を要するのは, 総体 という表現が用いられている意味をどう 考えるかという問題であろう。このような表現は,個々の条項に着目して規 制を行うイギリスや附合契約に着目して規制を行うフランスに見られないの は当然であるが,約款を中心に規制を構築するドイツでも用いられていない。

第9回債権法部会では,当該表現を用いて定義する立法提案と,これを使わ ず 契約条項 までで定義した立法提案 とが紹介されたが,特に議論の

24) 部会資料11−2の61頁に掲載された山本豊氏の提案参照。

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無いまま前者が採られたため,当該表現の意味するところは明確とは言えず,

この点は 契約の内容となる╱ならない という論点で問題となる。

続いて, 契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するもの という部分である。これは, 契約書のひな形などが約款に該当してしまう のではないか との批判に対応して中間論点整理以降新たに盛り込まれたも のであり,また約款の定義には 附合契約性 が盛り込まれるべきであると する学説 に応えたものとも考えられる。しかし,附合契約性の有無は,

本来,画一的に定めることが 当初に目的とされていたかどうか ではなく 現に強いられたかどうか で判断されるべきであろう 。不意打ち条項・不 当条項規制の適用判断において考慮される附合契約性を重ねて定義規定に盛 り込む必然性は無く,むしろ弊害の方が多いと考える 。

契約の内容となる/ならない

約款の組入要件の内容 (中間試案 第30,2)は,組入要件が充足され た場合に約款はその 契約の内容となる とし,また 不意打ち条項 (中 間試案 第30,3)は,約款の条項の内,不意打ちとなる条項は 契約の内 容とはならない とする。約款規律の導入にあたり新たに持ち込まれるこれ らのコンセプトは,契約自体の有効性は維持しつつ,特定の条項に関して,

その有効・無効を判断するまでもなく,端から契約から排除した形とするた め用いるもの,と考えられる 。同じ約款規律において不当条項の効果を

25) 河上・前掲注21)137頁以下。

26) 現実には一切個別交渉の機会が無くても 画一的に定めることが当初には目 的とされていなかった ことをもって約款規制対象外となるなら不当であろう。

27) 例えば,約款使用者側は画一的に定める意図が無いのに,相手側が 約款 という表示により画一化目的と理解して交渉を諦めることも危惧される。

28) 落合誠一 消費者契約法立法の論点 安田火災記念財団叢書

No.

54(1998)

は, 契約の内容になると,いったん契約の内容になったうえでそれを無効に するという規定がないと,それは効力を有するということになるわけです。契 約の内容にならないというのは,有効,無効の判断をするまでもない状態とし て扱おうということです。 とする。

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無効 としているのに対し,不意打ち条項のそれを 契約の内容とならな い とする理由は,当該規律が組入要件を補完する位置付けにある こと に加え,同じく約款を中心にして規制を構築しているドイツ法の取扱い に倣ったためだと考えられる。ドイツでは裁判所が契約内容に介入すること なく契約条項の拘束力を否定する便法として,政策的に不意打ち条項の法理 を発達させてきたようである が,現在の日本に同様な事情は存在せず,

また比較法的には不意打ち条項の効果を 無効 とする立法も有る 中,

本コンセプトの導入が真に不可欠なものとも思えない 。ドイツ民法では第 306条で 契約の内容とならない 場合の法律効果を 無効 のそれと基本 的に同一としているが,債権法部会では法律効果は示されておらず,したが ってコンセプト導入のもたらす作用も未だ見通せない。以下ではそのような 状況から生じている問題点を採り上げ,考察する。

①組入要件瑕疵により 契約の内容とならない 範囲

試案には組入要件を充足した場合のことのみ記載されていること,前述の とおり約款の定義における 総体 の意味するところが不明であることなど から,組入要件に瑕疵がある場合に契約の内容とならない範囲は,判然とし ない。約款規律に通底する 個別合意のある条項は規制対象外 との考え方 を重視して 部分否定 的解釈により 個別に合意したとは言えない条項の

29) 試案概要では 約款の拘束力を当事者の合意に求める 帰結として,不意 打ち条項については,その内容の当否を問わず契約内容にならない とする。

30) ドイツ民法第305c条第1項・第307条第1項参照。

31) 河上・前掲注21)229頁以下。

32) 韓国約款規制法第6条 ②2。

33) 消費者契約法に関する調査作業チーム 論点整理の報告 (消費者委員会,

2013年) 第3章 約款規制 (担当:沖野眞已)46頁・47頁では,消費者契約 法の話ではあるが, 個別の条項について契約内容を構成しないという構成は わかりにくい面もある こと, 契約条項としての効力を認められないという 点では無効と同様 であることを挙げ,不意打ち条項の効果について 無効 とすることも考えられる とする。

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(15)

み がその範囲である とすることも,また約款の定義などを踏まえ 全否定 的解釈により約款の契約条項全体がその範囲である とすること も否定できないが,保険実務ではこの点をいかに考えるべきか。

実務で想定されるのは,保険金請求をした結果,保障(補償)の範囲が自 身の理解と異なっていたことなどを契機に,顧客が 見る機会の無かった約 款に拘束されるべきでない ことを主張する,という事例であろう。このよ うな顧客の大半は,想定していた保険金受領を目指して約款の組入れは否定 せず,理解の異なった条項のみ組入れを否定するものと思われ ,この場合 に全否定の対応のみでは,顧客の期待に適合しない制度となろう 。一方で,

約款全体の組入れを否定し, 約款に含まれる中心条項に関する合意の不存 在 を理由に契約の成立自体を争う顧客も存在し得ることを勘案するならば,

部分否定の対応のみでも同様に不適合な仕組みと言え, 全否定か,部分否 定か は,組入要件の瑕疵の態様や顧客の考え方を踏まえ柔軟に対応できる ものとすることが望まれるように思われる。なお,保険会社が組入要件瑕疵 をもって,一部または全部の条項が契約内容とならないと主張することは,

瑕疵発生の責任が自身に無い(顧客,媒介者等に責任が有る)場合を除き,

信義則上許されず,基本的に主張不可として整理することに疑問は無い。

34) 試案概要には不意打ち条項に関する個別合意の効果についての説明は有るが,

組入要件瑕疵の場合における個別合意条項の取扱いに関する説明は無い。

35) 同じく約款を中心にして規制を構築しているドイツ法では個別の交渉があっ た条項をそもそも約款とはしていないので,こちらの対応となることは明確で ある。第22回債権法部会では 個別の交渉を経て採用された条項を約款に含む ものとするかどうか が検討課題として提起されたが,組入規制ではなく内容 規制の問題であるといった否定的見解も示され検討は見送られた。本提案は,

ドイツ法の規定を意識したものと考えられ,これを採った定義としていれば,

ここで論じているような問題は発生し得なかったようにも思われる。

36) 債権法部会では,当初,特定の条項の一部に無効原因がある場合の残部の効 力維持を原則としつつ,当該条項が約款の一部であるときは例外的に当該条項 全体を無効とすることも提案されていた(部会資料13−1の4頁以下参照)。

37) 山下・前掲注15)112頁注52。

38) もっとも,場合によっては不意打ち条項として争う選択も考えられよう。

(16)

以上の考察を踏まえ,組入要件瑕疵により 契約の内容とならない 範囲 の在り方について考えてみるならば,次のようになると思われる。

契約の内容とならない範囲は,契約締結に向けた契約者の対応状況に照 らして判断した結果,個別の合意が有ったとは評価できない条項であり,場 合によって約款条項全体がこれに当たる,とされることも排除されない。

(なお,組入要件瑕疵発生の責任を負うべき者は,これを主張できない。) 至極当然に思われるこのような整理は, 法律行為の一部が無効であると して,全体としては無効にならないことを原則とすること が提案されてい る中間試案の 法律行為の一部無効 (中間試案 第5,1)の考え方とも整 合する 。そうであるならば, 契約の内容とならない を 無効 とは別 概念として設ける必要も余り無いように思われる。

② 契約の内容とならない 場合の条項補充および原状回復

契約の内容とならない 場合の条項補充に関しては, 無効 の場合と対 応を別異に考えるべき特段の理由も無いと思われる。中間試案では,無効の 場合の条項補充は補充的解釈(第29,3)に拠るものとされ,前記 契約の 解釈 の原則cに従い,当事者がそのことを知っていれば合意したと認めら れる内容で条項が補充される。果たして 契約の内容とならない 場合にも このような考え方が妥当するかどうか,やはり保険の実務で想定される事例 αという事故が保障(補償)対象外となっている担保条項βが契約の内容 とならない場合 への対応を検討することを通じて考察してみたい。

原則cに従った条項補充は, そもそも当該保険会社ではαという事故を 対象として設定し得たのか(問1) αという事故が対象外であることを 理解していた場合でも顧客は契約を締結していたのか(問2) により場合 分けして考える必要があり,結果は下表のとおりになると考えられる。

39) ドイツ民法第306条第1項でも 契約の内容とならない 場合の効果につい て,一部無効の場合と同じく, 全体として無効にならない と規定する。

→図表が入らないので、アキを作成しています。注意

(17)

このように保険会社がそもそも設定できないような条件への見直しを迫ら れることのない帰結が導かれるという点では合理的であり,原則cに従った 条項補充は, 契約の内容とならない 場合にも適用して問題ないであろう。

もっとも,表中の 担保条項γ補充 という対応は,契約締結に至る両当 事者の様々な事情が斟酌され,顧客が 現在望んでいると主張する 条件で 契約を締結していたと言える蓋然性が存在していた場合に限り認められるべ きであるが,このような事後的な検証作業の公正性確保は大きな課題である。

組入要件や不意打ち条項規制の導入により, 契約の内容とならない こと を巡る争いの増加は避けられないが,安易な顧客主張の認定は,発生不確実 な事象に備え加入する保険制度の根幹を揺るがす虞も有り,抑制される必要 が有る。一方,保険会社としても,保険金支払いでトラブルになりがちな給 付条項,免責条項などについて約款上で注意を惹くよう表現したり,文言自 体を見直したりするなど,継続的な業務改善に努めていく必要があろう。

契約の内容とならない ことが生じた場合の原状回復の対応も,中間試 案の想定するところは明確ではないが,保険契約では,一部の給付条項が契 約内容とならないこととされた場合の対応でトラブルが生ずる懸念がある。

契約者が契約条件の相違を認識するまでの間に享受していたはずの保険の保 障(補償)という便益に対するコストは,当然契約者負担とされるべきもの であるが,なかなか実感し難いそのような便益を理解させ,保険料を負担し てもらうことには大きな困難が伴うものと想定される。

なお, 無効 の場合の原状回復に関しては中間試案第5,2で規定を置 くことが提言されており,これに拠れば保険契約者は受けた保険給付の価額

担保条項

βに αに対する保障(補償)が付加

された担保条項

γが補充される

条項

βが補充される

Yes  

Yes

No →

No →

合意の不存在などにより契約は取り消される

(18)

の償還義務を負うこととなる。このような取扱いは保険契約における 契約 の内容とならない 場合の原状回復にも妥当するものであると言える。

③小 括

以上, 契約の内容とならない というコンセプトの導入による影響を考 察してきたが,これを 無効 と別の概念として整理すべき特段の事情を認 めることはできなかった。第3読会の議論の中では,錯誤の規律における 法律行為の内容になる という表現について,分かり易いものではないと の指摘があることを受け,これを維持するか否かが論議されている状況であ が,同様の問題が有る 契約の内容となる╱ならない という表現に ついても,今後の審議において, 無効 との関係も含め,その意味すると ころの詳細が論議され,明らかにされることに期待したい。

個別の合意

個別の合意 は,中間試案本文では一切用いられていない表現だが,約 款規制の対象範囲を画する重要な要件として試案概要で紹介されている。債 権法部会では,当初,約款使用者と相手方との間で条項変更の可能性が検討 されるなど実質的な交渉があった場合を意味するものとして諸外国でも用い られる 個別の交渉 とすることが提案されていたが, 実質的な交渉の有 無 という基準が曖昧との指摘も有って,第11回会議で提案された 個別の 合意 が採られる結果となっている。 個別の交渉 より緩和された要件と 思われる 個別の合意 を採るべき理由は,基準の明確性に加え,特定の条 項が個別に合意されて契約の内容になっているのであれば,もはやそれは約 款を用いない一般的な契約と同じで約款に対する特別な規制を適用する必要 も無いため,と説明されている。しかし,一般的な契約においても,通常は 条項毎に署名・捺印をするのではなく,契約条項全体に対して署名・捺印を しており,また契約全体に対する合意は有るが,個別条項には意に副わない ものも有るということは少なくない中で,果たして 個別の合意 が明確な

40) 債権法部会資料66

B

の2頁以下。

(19)

基準と言えるのであろうか 。定義が不明確なまま,このような新たなコン セプトが持ち込まれた場合には,約款規制逃れで個別合意を無理にでも取得 しようとし,結果的に事業者・顧客双方に過大な負担が生ずるという問題も 想定される。むしろ,容易には充足され難い 個別の交渉 という要件とす れば,そのような弊は避けられるとも考えられるところであり,第3読会の 議論では,そのようなことも含め十分な検討がなされることに期待したい。

中心部分に対する不当条項規制の適用

契約の中心部分を不当条項規制の対象とするか否かを巡っては,債権法部 会でも意見が大きく割れていたが,決着がつかず,最終的にはこの点の明文 化は見送り,解釈に委ねることとされた。ここでは,対象外とすることに対 して示されていた反対意見(主なものは,以下イ〜ハの三点)につき考察し たうえで,見送りを受けた対応はいかにあるべきかを論ずることとする。

イ. 中心部分とそれ以外の付随的な条項とを区別するのは困難

ロ. 対価に関する条項でも自覚的に選択されたか判然としないものが有る ハ. 中心部分は個別の合意により規制対象外となるものも多いはず

①反対意見に対する考察

上記イの主張に対しては, 中心部分の判別が困難であるなら,一体何を もって契約成立の判断をするのであろうか という反論が考えられよう。債 権法部会では,当初,契約の成立に関する一般的規定として契約の 中心部 分 に関する合意を契約成立要件とすることも検討されていたところであり,

41) 債権法部会の第67回会議では, 事前に説明があった場合 についても個別 合意となるという考えが委員から述べられたのに対し,異論は示されず,現時 点において, 個別の合意 の意味はかなり多義的に捉えられていると言わざ るを得ない。なお,ヨーロッパ契約法原則(PECL)第2:101条・第2:103 条をはじめ,比較法的には 合意 について定めた規律が多く存在する中,債 権法部会でも,当初,契約の成立に関する一般的規定で 合意 に関する一般 的規定を置くことも提案されていた(部会資料11−2の4頁以下参照。)が,

その後このような対応は見送られた。重要な規則の対象を画する概念として用 いるのであれば,この課題について再考することも必要なのではないか。

(20)

このような主張に説得力が有るとは思えない。部会では保険約款を例に挙げ て,給付条項と裏腹の関係にある免責条項に給付を妨げる記載をすれば,給 付内容に影響が及ぶと問題指摘し,単に給付条項というだけで対象外とすべ きではないとも主張されている。しかし,そのような免責条項を選択した顧 客は基本的に付保範囲縮小に伴う保険料低減という利益を享受し,給付と対 価との適切な関係は維持されているはずであるし,仮に顧客が望まない形で 付保範囲が縮小されてしまっているのなら,それは不意打ち条項として取り 扱うべき話とも思え,あまり適切な問題設定ではないのではないか。

上記ロの主張は,専ら複雑な携帯電話の料金体系を例に出して説明される が,果たしてどこまで一般化できる事例であるのか精査すべきであるし,そ もそも,このような事例は,比較法的にも多く見られる透明性原則 によ り対処する方がより適切であるものと考える。

多くは個別に合意されているはずの中心部分を,敢えて不当条項の規制対 象として残すべきとする上記ハの主張は,中心部分でありながら個別の合意 がなされず隠蔽されてしまっているものが有るのではないかという問題意識 に基づくものと思われる。もっとも,中心部分が隠蔽され,合意されていな いのであれば,不意打ち条項でも対応でき,どうしてもこれを不当条項規制 の対象として含めなければならない事情も無いのではないか。

反対主張に対して以上のとおり様々な批判も考えられる中で,中心部分を 不当条項規制の適用対象外とすることの明文化は見送られてしまっているも のであるが,以下ではこれを受けた対応について論ずることとしたい。

②見送りを受けた対応はいかにあるべきか

中心部分に対する規制の適否を解釈に委ねることが不適当な契約類型に関 しては,今後その取扱いに係る特則を特別法で定めるか否かが検討されるこ とになろうが,保険契約の場合,この点をどう考えるべきであろうか。

保険業法第5条で規定された免許審査基準等に基づき業務運営を行い,保 険料についても同基準の定めに従い, 保険数理に基づき合理的かつ妥当な

42) ドイツ民法第307条,PECL第 4:110条⑵ ⒜など。

(21)

もの を設定することが求められる保険業務では,契約の中心部分,少なく とも給付内容と対価水準との均衡に係る点を裁判所の判断に委ねられるのか,

疑問も有る。また,保険料算出に影響する免責条項を無効とする場合には,

当該契約者の利害のみならず,それによる契約者全体への影響 にも配慮 が必要など,保険商品固有の問題も有る。この点,PEICLの第 2:304条で PECL第 4:110条や不公正契約条件指令の規律をリステイトし, 無形 のサービスである保険を取り扱う,という保険契約の特殊性を考慮し策定さ れた 規定を設け,保険契約の文脈に適合させる形で中心部分に対する適 用除外範囲 について定めており,本邦においても同様に,保険法におい て保険契約の特性に応じ規制の適用対象から外すべき中心部分を定めること が,今後検討されて然るべきなのではないであろうか。

4.最後に

第3読会に入った債権法部会では,要綱案策定に向けた検討に拍車がかか っている。要綱案では新たなコンセプトの趣旨が明確にされ,保険実務への 影響が具体的に想起されるものとなるよう,今後の審議に期待したい。

(筆者は株式会社損害保険ジャパン勤務)

43) 多くの契約者が必要としない保障(補償)範囲の拡張により保険料が値上 げになる , 危険選択上不可欠な免責条項が使えなくなることにより当該商品 を販売継続することが困難になる などの影響が考えられよう。

44) 小塚ほか・前掲注12)157頁。

45) 小塚ほか・前掲注12)156頁以下の記載を要約すれば, 保障(補償)および 保険料の価格の相当性 および 保障(補償)または保険料の本質的事項を規 定する条件(平易かつ分かり易い言葉で書かれ,実際に保険料計算で考慮され ている場合のみ) が適用除外とされるが, 保障(補償)を限定または変更す る条件 は除外されない。

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