医療保障領域におけるリスク認知と 生命保険需要
林 晋
1.はじめに
本稿は林(2011)の続編である。前稿においては,死亡保障領域を対象と して,家計におけるリスク認知と生命保険の需要形成プロセスについて,パ
*平成24年2月18日の日本保険学会関西部会報告による。
/平成24年5月8日原稿受領。
■アブストラクト
家計保険に関し,リスク認知が保険需要形成プロセスの出発点であると想 定されるにもかかわらず,実際の保険需要はリスク認知から形成されるとは 限らず,合理的思考と行動の脆弱性を併せ持つことが指摘されている。医療 保障領域について,家計におけるリスク認知と生命保険需要形成プロセスを パス解析で検証した結果,生命保険需要は,合目的的,合理的には形成され ておらず,ケガ・病気のリスク認知が高くてもリスク保障欲求としては死亡,
老後等の保障準備を優先し,ケガ・病気の保障準備の必要性を感じない一方,
リスク認知が高いほど生命保険の購入意向が強いことが確認できた。このこ とから,公的医療保険制度が完備しているため,ケガ・病気の保障準備の必 然性が弱く,リスク認知からリスク保障欲求へのプロセスが未成熟であるこ と,さらに生命保険需要が直接リスク認知に求められており,生命保険に公 的医療保険制度を補完する役割が求められていることが明らかとなった。
■キーワード
リスク認知,生命保険需要,パス解析
脚注を1行いれ た た め,1 行 落 ちてしまうのを 防ぐため前文の 行間処理をイレ ジュラー処理を しています。
次回以降使用し ないこと。
ス解析により実証的に検証した。ここで,需要形成プロセスについて,一般 の消費財に関しては,P・コトラーがニーズとの関係 で述べており,保障 に対するサービス財に関しては,水島がリスク認知との関係 で述べている。
この2つの考えを重ね合わせることで,リスク認知に始まる生命保険などの 保障サービスに関する需要の形成プロセスを導き出している。
本稿では,ケガ・病気の保障として,医療費負担リスクに対する保険の効 用を実感できる家計保険の重要な保障機能の一つである医療保障を対象とし,
医療保障領域における有力な生活保障資源の一つである生命保険について,
①保険需要の出発点が合目的的にリスクの認知に求められるのか否か
②保険需要の間接性はリスク認知とかかわっているのか否か
という問題意識に対して,2010年に(公財)生命保険文化センターが実施し たアンケート調査 生活保障に関する調査 のデータを用いて,パス解析に より実証的に検証することを研究の目的とする。
本稿では,2節において,分析の枠組みとして,想定するモデル,変数の 定義,使用データ等を説明する。3節では,分析方法と分析結果を説明する。
4節では,実証結果に基づいた結論と今後の研究課題を述べる。
2.分析の枠組み
2.1 モデル設定
2.1.1 生命保険需要の形成プロセス
水島は,リスクの認知が保険需要の形成プロセスの出発点である,との考 えを示しており,リスクの発生が経済生活に支障をきたす可能性を生活者が 認識し,そのリスクへの対処を考えることで保険需要の形成プロセスが始ま る,ということを示唆している。これは,いわばリスク認知(リスク発生の 認識)からリスク保障ニーズ(リスクへの対処を考える)に相転移したと同 様の状態変化であり,リスク認知とリスク保障ニーズがほぼ同値であること
1) P・コトラー(2008)p.17。
2) 水島(2006)pp.82‑83。
を意味している。
マーケティング分野で用いられる需要プロセス と保険の需要プロセスを 重ね合わせると,
リスク認知
⇒
リスク保障ニーズ⇒
リスク保障欲求⇒
生命保険需要 となるが,リスク認知とリスク保障ニーズはほぼ同値なので,これらをリス ク認知で代表させることにして,リスク認知
⇒
リスク保障欲求⇒
生命保険需要を,生命保険の需要形成プロセスとして,本稿の分析を進めることとする。
ただし,本稿で扱う生命保険需要は,具体的な個別会社の生命保険商品で はなく,生活保障資源 としての生命保険である。そのため,生活保障資源
(本稿では生命保険)を商品と読み替えて分析する。
2.1.2 モデルの構築
以上のことから,構築するモデルは,⑴生命保険需要の形成プロセスを説 明するリスク認知,⑵リスク保障欲求,⑶生命保険需要の間接性を説明する 所得水準,によって規定される。これらの変数間の因果関係は,図表1のパ ス・ダイアグラムで表現される。
保険学雑誌 第 618号
3) 需要は ニーズ⇒欲求⇒需要 のプロセスで形成されるとされている。な お,需要は, 購買(財布)に裏打ちされた具体的な商品の購買意向のこと と定義されている(P・コトラー(2008)p.17)。
4) 生活保障資源には,生命保険の他,損害保険,預貯金,有価証券,公的保障,
不動産収入,家族が働くなどがある。
図表1 リスク認知と生命保険需要形成モデル
2.2 データと変数の定義
本稿で用いる 平成22年度生活保障に関する調査 は,人々の生活保障意 識や保障準備の実態を把握することを目的として,(公財)生命保険文化セン ターによって,2010年4月17日〜6月18日にかけて面接聴取法(一部質問は 留置聴取法を併用)で実施され,回収サンプルは4,076であった。
本稿のモデルの推定には,リスク認知,所得水準,リスク保障欲求,生命 保険需要のデータが必要であるが,これらについては,前述のアンケート調 査から得られる変数を加工して適用する。
⑴ リスク認知については, 不確実な事象に対する主観的確率や損失の大 きさの推定,不安や恐怖,楽観,便益,受け入れ可能性などの統合された 認識である (楠見(2006)pp.272‑273)との定義を参考に,その1要素 である不安項目をリスク認知尺度の変数として設定した。具体的にはアン ケート調査の質問から得られた ケガや病気に対する不安の内容 15項 目について,個人毎に当てはまる個数を合計し,それをリスク認知の尺度 得点とした。
⑵ 所得水準については,家計との関わりが個人や世帯のおかれた状況で異 なると考えられることから, 世帯年収 と 本人年収 を変数として 設定した。
⑶ リスク保障欲求については,死亡保障,老後保障,医療保障,介護保障 の4つの保障領域のうち 最も力を入れたい保障準備 と 次に力を入れ たい保障準備 に着目し,個人毎に 最も力を入れたい保障準備 の保 障領域に2点, 次に力を入れたい保障準備 の保障領域に1点,回答の ない保障領域に0点をそれぞれ与え,リスク保障欲求の尺度得点とする変 数として設定した。なお,本稿では医療保障領域の回答を用いている。
5) 質問(Q5SQ)の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)p.274。
6) 質問(F8)の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)p.296。
7) 質問(F4)の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)p.294。
8) 質問(Q37)の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)p.285。
⑷ 生命保険需要については, 医療保障に対する今後の準備意向 に着目 し,その中の選択肢の1つである 生命保険 を変数として設定した。
⑸ 多母集団パス解析に用いる変数としては,性別,年代別,ライフステー ジ別,金融資産別,本人職業別,収入形態別,住居種類別を設定 した。
3.分析結果
3.1 分析に用いた変数の分布
図表2〜3は尺度化した変数の強度分布である。図表2はリスク認知の強 度分布を,図表3はリスク保障ニーズの強度分布を,それぞれ表している。
リスク認知の尺度に含まれる個々の質問が内的整合性を持つか否かを判定す るために,クロンバックの
α
信頼性係数 を推定したところ,0.830であっ たので,妥当な尺度とみなせると判断した。9) 質問(Q11)の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)p.276。
10) 質 問(性 別:F1,年 代 別:F2,ラ イ フ ス テ ー ジ 別:F5SQ2,金 融 資 産 別:F10,本人職業別:F3,夫婦の収入形態別:F3×F7,住居種類別:F9)
の内容と回答分布は生命保険文化センター(2010)pp.294‑296。
11) クロンバックのα信頼性係数の目安としては,0.8以上が望ましいとされて いる(村瀬他(2007)p.232)。
100.0 1.3 3.3 1.3 1.1 1.5 1.7 2.4 2.7
合計 不明 15 14 13 12 11 10 9
4.0 5.1 6.9 10.0 11.9 19.7 10.8 5.9 10.5
8 7 6 5 4 3 2 1 0
分布 度数 分布
図表2 医療保障領域におけるリスク認知の強度分布(単位:%) 度数
25.1
2 不明
18.4
合計 100.0 17.2
1 39.3
0 度数
分布
図表3 医療保障領域におけるリスク保障欲求の強度分布(単位:%)
18号 雑
保険学 誌 第6
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3.2 パス解析による推定結果
図表1に示したモデルについて,前節で述べた変数を用いて推定を行う。
リスク認知,所得水準,リスク保障欲求,生命保険需要の各変数を用いて パス図を作成し,パス解析をおこなった。分析には
SPSS
のAmos19を用
いた。 無回答 , わからない はランダムな欠損と位置付け,完全情報最 尤法により処理した。なお,Amosで2値型の順序カテゴリカル変数を用い る場合は,背後の連続変数について,位置しか決まらない。そのため,2値 型変数が外生変数の場合は,その分散を固定し,内生変数の場合は,誤差分 散を固定する方法がよいとされている(豊田(2007)p.169)。生命保険需要 の変数が取る値は 0 または 1 の2値型の内生変数であるため,生命 保険需要の変数の誤差分散を固定した。その結果,パス図とデータの当てはまりを示すモデルの適合度指標 は
CFI
=0.963,RMSEA=0.062であり,CFI値はデータの当てはまりが良い と判断できるが,RMSEA値が0.1未満,0.05超の間のグレーゾーンである ので,パス解析の諸条件を変更するか,パス図が妥当な結果であるという詳 しい説明が必要となる。RMSEA値が0.05以下になるように諸条件を変更 したいが,①研究目的から変数の変更はできない,②変数やデータの取り直 しもできない,という制約がある。そこで本稿では,標本が異なる母集団か ら抽出されたと仮定し,多母集団パス解析を行うこととする。生命保険の需要形成プロセスの推定結果は図表4に示すとおりである。パ ス係数が有意なパスは, リスク認知とリスク保障欲求 (パス係数は負),
リスク認知と生命保険需要 , 所得水準と生命保険需要 である。
12) CFI値は,0から1の間の値をとるが,1に近いほど当てはまりが良く,
0.9以上が求められる。RMSEA値は,0.05以下であれば当てはまりが良く,
0.1以上であれば当てはまりが悪いと判断する習慣がある。(豊田(2007)pp.
243‑245)。
その結果,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知からリスク保 障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認することができなか ったが,リスク認知から生命保険需要へ直接結びつくパスの存在は確認する ことができた。さらに,生命保険需要の間接性を示す所得水準(世帯年収な らびに本人年収)から生命保険需要に至るパスの存在は確認することができ た。また,リスク認知と所得水準の間の相関係数は,世帯年収で0.063,本 人年収で0.003と必ずしも高くないことから,リスク認知からのパスと所得 水準からのパスは生命保険需要の形成にお互いに独立して影響していること が確認できた。
3.3 多母集団パス解析による推定結果
生命保険需要の形成に影響があると考えられる人口学的属性として,性別,
年代別,未既婚別,ライフステージ別,金融資産別,本人職業別,収入形態 別,住居形態別の変数を用いて,各変数内の階層が異なる母集団であると仮 定して,多母集団パス解析で推定を行い,各階層で生命保険の需要形成プロ セスが成り立つか否かを確認する。分析におけるパス図とデータの当てはま 注1)パス係数は標準化推定値。リスク認知と世帯年収ならびに本人年収との間の
数値は相関係数。観測変数の右肩の数値は決定係数。
注2)有意な係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
図表4 リスク認知と生命保険需要のパス解析の推定結果
保険学雑誌 第 618号
りを示すモデルの適合度指標は,図表5のとおりである。性別,年代別,ラ イフステージ別,金融資産別,本人職業別,住居形態別ではともに,CFI 値が0.9以上,RMSEA値が0.05以下なので,多母集団パス解析の結果は,
データの当てはまりが良いと判断できる。しかし,収入形態別は
RMSEA
値が0.05以下であるが,CFI値が0.882と0.9未満なので,データの当ては まりが良いとは判断できない。そこで 収入形態別 を除く属性で,多母集 団パス解析の推定結果を検討することとする。パス解析の推定結果は図表6〜11に示すとおりである。
性別でパス係数が有意なパスは図表6のとおりである。その結果, 男性 , 女性 ともに,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知からリス ク保障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認できなかったが,
リスク認知から生命保険需要へ直接結びつくパスの存在が確認できた。さら に, 男性 では所得水準(本人年収)から生命保険需要へのパスの存在が 確認でき, 女性 では所得水準(世帯年収)から生命保険需要へのパスの 存在が確認できた。男女で所得水準の内容に違いあることは興味深い結果で ある。
0.032 0.046 0.028 0.029 0.028 0.034 0.041
0.954 0.882 0.938 0.946 0.953 0.939 0.985
住居形態別 収入形態別 本人職業別 金融資産別 ライフステージ別 年代別
性別
CFI RMSEA 図表5 多母集団パス解析の適合度指標
年代別でパス係数が有意なパスは図表7のとおりである。その結果,すべ ての年代で,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知からリスク保 障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認できなかったが,
20歳代 〜 50歳代 ではリスク認知から生命保険需要へ直接結びつくパス の存在が確認できた。さらに, 20歳代 ではリスク保障欲求から生命保険 需要へのパスの存在,所得水準(世帯年収)ならびに所得水準(本人年収)
から生命保険需要へのパスの存在が, 30歳代 〜 50歳代 では,所得水準
(世帯年収)から生命保険需要へのパスの存在が確認できた。一方 60歳代 では,リスク認知からリスク保障欲求への負のパスの存在が確認できた。
20歳代 , 30歳代 〜 50歳代 , 60歳代 で,所得水準の内容や,リス ク認知から生命保険需要に至るプロセスが異なることは,年代を経ることに よりリスク移転手段である生命保険に求める内容が変化していることとも取 れる,非常に興味深い結果である。
世帯年収→生命保険需要 0.025 0.139
女性 男性
パス係数
‑0.034
‑0.066 リスク認知→リスク保障欲求
0.083 0.092
リスク認知→生命保険需要
0.006 0.019
リスク保障欲求→生命保険需要
0.045 0.275
本人年収→生命保険需要 相関係数
0.238 0.880
世帯年収⇔本人年収
0.037 0.107
リスク認知⇔世帯年収
‑0.018 0.110
リスク認知⇔本人年収 決定係数
0.001 0.004
リスク保障欲求
0.032 0.103
生命保険需要
図表6 多母集団パス解析の推定結果(性別)
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
保険学雑誌 第 618号
ライフステージ別でパス係数が有意なパスは図表8のとおりである。その 結果,すべてのライフステージで,生命保険の需要形成プロセスである,リ スク認知からリスク保障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確 認できなかったが, 未婚 , 既婚・子供なし では,リスク認知から生命 保険需要へ直接結びつくパスの存在が確認できた。さらに, 未婚 ではリ スク保障欲求から生命保険需要へのパスの存在,所得水準(本人年収)から 生命保険需要へのパスの存在が, 既婚・子供なし では,所得水準(世帯 年収)から生命保険需要へのパスの存在が確認できた。一方 既婚・子供す べて卒業(子供既婚) では,リスク認知からリスク保障欲求への負のパス の存在が確認できた。
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
図表7 多母集団パス解析の推定結果(年代別)
決定係数
生命保険需要 0.111 0.019 0.027 0.041 0.013 リスク保障欲求 0.010 0.000 0.000 0.000 0.006 リスク認知⇔本人年収 ‑0.006 0.022 ‑0.020 ‑0.044 ‑0.054 リスク認知⇔世帯年収 0.076 0.027 ‑0.003 0.000 0.013 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代
0.606 0.547
0.418 0.361
0.455 世帯年収⇔本人年収
相関係数
0.056 0.152
0.126 0.093
0.169 世帯年収→生命保険需要
0.069 0.037
0.039 0.035
0.108 本人年収→生命保険需要
リスク保障欲求→生命保険需要 0.133 ‑0.019 0.001 0.028 ‑0.010 リスク認知→生命保険需要 0.193 0.074 0.072 0.100 0.030 リスク認知→リスク保障欲求 ‑0.102 0.002 ‑0.004 ‑0.010 ‑0.079 パス係数
金融資産別でパス係数が有意なパスは図表9のとおりである。その結果,
すべての金融資産で,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知から 既婚・末子
大学生 既婚・末子
中高生
既婚・子供 すべて卒業
(未婚)
既婚・子供 すべて卒業
(既婚)
生命保険需要
本人年収→生命保険需要
0.011 0.005
リスク保障欲求 0.003 0.001
既婚・子供 なし
パス係数
‑0.036 0.055
リスク認知→リスク保障欲求 ‑0.068 ‑0.104
0.035 0.053
リスク認知→生命保険需要 0.088 0.006
0.087 0.053
0.102 ‑0.053 0.048 0.018
リスク保障欲求→生命保険需要 ‑0.021 0.038
‑0.057 0.067
世帯年収→生命保険需要 0.078 0.064
‑0.007 0.066
リスク認知⇔世帯年収 0.013 0.005
0.618 0.548
世帯年収⇔本人年収 0.428 0.450
相関係数
‑0.031 0.010
リスク認知⇔本人年収 ‑0.065 ‑0.039
決定係数
0.021 0.016
生命保険需要 0.030 0.011
0.057
0.107 0.020 0.014
0.002 0.000
リスク保障欲求 0.001 0.000
決定係数
0.001
‑0.012 リスク認知⇔本人年収 0.092 0.017
相関係数
0.479 0.795
世帯年収⇔本人年収 0.451 0.406
‑0.056 0.001
リスク認知⇔世帯年収 0.056 0.033
0.023 0.062
世帯年収→生命保険需要 ‑0.045 0.178
0.038 0.023
リスク保障欲求→生命保険需要 0.099 0.101
‑0.036 0.299
本人年収→生命保険需要 0.075 0.099
0.136 0.139
リスク認知→生命保険需要 0.079 0.021
‑0.044
‑0.017 リスク認知→リスク保障欲求 0.035 ‑0.001
図表8 多母集団パス解析の推定結果(ライフステージ別)
パス係数
未婚 既婚・末子
未就学
既婚・末子 小学生
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
保険学雑誌 第 618号
リスク保障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認できなかっ たが, 100万円未満 では,保険需要の間接性を表す所得水準(世帯年収)
ならびに所得水準(本人年収)から生命保険需要に至るパスの存在が確認で きた。また, 100〜500万円未満 , 500〜1000万円未満 では,所得水準
(世帯年収)から生命保険需要に至るパスの存在が確認できた。さらに,
2000万円以上 では,リスク保障欲求から生命保険需要へのパスの存在が 確認できた。
本人職業別でパス係数が有意なパスは図表10のとおりである。その結果,
すべての本人職業で,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知から リスク保障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認できなかっ たが, 民間企業被用者 (小・中・大企業被用者), 無職 では,リスク認 知から生命保険需要へ直接結びつくパスの存在と,保険需要の間接性を表す 注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
図表9 多母集団パス解析の推定結果(金融資産別)
‑0.028 パス係数
100万円 未満
100〜500万 円未満
‑0.032
500〜1000 万円未満
‑0.035
1000〜2000 万円未満
0.019
2000万円 以上
0.034 リスク認知→リスク保障欲求
本人年収→生命保険需要 0.120 0.020 0.065 0.080 0.029 0.071 0.029
0.126 世帯年収→生命保険需要 0.181 0.209
0.142 0.028
‑0.034 リスク保障欲求→生命保険需要 ‑0.062 ‑0.005
0.074 0.062 0.034 0.127 0.076 リスク認知→生命保険需要
リスク認知⇔世帯年収 0.016 0.071 0.052 ‑0.011 0.015
世帯年収⇔本人年収 0.310 0.421 0.588 0.498
相関係数
0.437
0.024 0.031 ‑0.085 ‑0.084 ‑0.087 リスク認知⇔本人年収
0.001 決定係数
0.001 0.001 0.000 0.001 リスク保障欲求
生命保険需要 0.076 0.053 0.029 0.025 0.034
所得水準(世帯年収)から生命保険需要に至るパスの存在が確認できた。ま た, 非正規社員 では,所得水準(世帯年収)から生命保険需要に至るパ
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
図表10 多母集団パス解析の推定結果(本人職業別)
0.054 パス係数
農林漁業 商工
サービス業
‑0.035
公務員
0.089
民間小企業 被用者
‑0.080
民間中企業 被用者
‑0.067 リスク認知→リスク保障欲求
本人年収→生命保険需要 0.068 ‑0.033 0.203 ‑0.041 ‑0.013 0.232 0.154
‑0.147 世帯年収→生命保険需要 0.081 0.119
0.033
‑0.086
‑0.006 リスク保障欲求→生命保険需要 0.217 0.075
0.155 0.015 0.134 0.150 0.097 リスク認知→生命保険需要
リスク認知⇔世帯年収 ‑0.144 ‑0.044 0.075 0.072 0.093
世帯年収⇔本人年収 0.686 0.708 0.512 0.745
相関係数
0.642
‑0.173 ‑0.087 ‑0.016 ‑0.011 0.070 リスク認知⇔本人年収
0.003 決定係数
0.001 0.008 0.006 0.004 リスク保障欲求
生命保険需要 0.085 0.016 0.035 0.054 0.063
0.081 0.044 0.022 0.064 生命保険需要
リスク保障欲求 0.001 0.003 0.002
決定係数
0.000
リスク認知⇔本人年収 0.059 0.029 ‑0.070 ‑0.008 0.805
相関係数
‑0.066 ‑0.006 0.276 世帯年収⇔本人年収
0.104 0.022 0.075 0.006 リスク認知⇔世帯年収
リスク認知→生命保険需要 0.134 0.065 0.075 0.100 0.065 0.017
リスク保障欲求→生命保険需要 ‑0.050 0.168
0.273 0.177
世帯年収→生命保険需要 0.111 0.103
‑0.058 ‑0.080 0.004 0.093 本人年収→生命保険需要
リスク認知→リスク保障欲求 0.042
学生
‑0.057 無職
‑0.032 非正規社員 民間大企業
被用者 パス係数
‑0.011
保険学雑誌 第 618号
スの存在が確認できた。
住居形態別でパス係数が有意なパスは図表11のとおりである。その結果,
すべての住居形態で,生命保険の需要形成プロセスである,リスク認知から リスク保障欲求を経由して生命保険需要に至るパスの存在は確認できなかっ たが, 持家(ローンあり・なし) , 持家・夫婦以外名義 , 賃貸住宅 で は,リスク認知から生命保険需要へ直接結びつくパスの存在が確認できた。
さらに, 持家(ローンあり・なし) , 賃貸住宅 では,保険需要の間接性 を表す所得水準(世帯年収)から生命保険需要に至るパスの存在が確認でき た。また, 持家・夫婦以外名義 , 社宅 では,保険需要の間接性を表す 所得水準(本人年収)から生命保険需要に至るパスの存在が確認できた。
0.039 0.029 0.084 0.070 0.112 生命保険需要
リスク保障欲求 0.001 0.006 0.003 0.000
決定係数
0.000
リスク認知⇔本人年収 0.021 ‑0.030 0.076 ‑0.032 ‑0.009 0.475
相関係数
0.569 0.612 0.543 0.336 世帯年収⇔本人年収
0.048 0.027 0.100 0.048 0.054 リスク認知⇔世帯年収
リスク認知→生命保険需要 0.083 0.093 0.095 0.108 ‑0.001 0.016 0.000
リスク保障欲求→生命保険需要 0.075 0.081 ‑0.008
0.142 0.091
世帯年収→生命保険需要 0.104 0.238 0.145
0.056 0.070 0.180 ‑0.029 0.257 本人年収→生命保険需要
リスク認知→リスク保障欲求 0.009
社宅
‑0.052 賃貸住宅
‑0.079 持家・夫婦
以外名義
‑0.033 持家・
ローンなし 持家・
ローンあり パス係数
‑0.014
図表11 多母集団パス解析の推定結果(住居形態別)
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
4.おわりに
4‑1 多母集団パス解析の推定結果のまとめ
リスク認知から生命保険需要に至るパス①,②,③(図表12)のうち,有 意なパス係数の組み合わせ(タイプ)は,理論上,下記の7通りとなる。
タイプ1:①,②,③すべてのパス係数が有意 タイプ2:①,②(‑)のパス係数のみが有意 タイプ3:①,③のパス係数のみが有意 タイプ4:②(‑),③のパス係数のみが有意 タイプ5:①のパス係数のみが有意 タイプ6:②(‑)のパス係数のみが有意 タイプ7:③のパス係数のみが有意
そこで,タイプごとに生命保険の需要形成プロセスを概観し,多母集団パ ス解析による属性の特徴を整理する。
⑴ タイプ1は,リスク認知からリスク保障欲求を経由して生命保険需要に 至るパスが特徴である。いいかえると,ケガ・病気に対するリスク認知が 高いほどリスク保障欲求が強く,保障準備の必要性を感じ,ケガ・病気へ の保障手段として,生命保険の購入意向が強い。このタイプはリスク認知 に対して生命保険を合目的的に需要する理想的な形態である。
図表12 リスク認知から生命保険需要に至るパスの組み合わせ
保険学雑誌 第 618号
このタイプは,属性の特徴が導出できなかった。
⑵ タイプ2の一般形は,リスク認知からリスク保障欲求までは至るが,そ こから生命保険需要には繫がらない一方,リスク認知から直接生命保険需 要に至るパスが特徴である。しかし本稿のこのタイプは特殊形であり,リ スク認知からリスク保障欲求のパスが負の係数という特徴を持つ。つまり,
ケガ・病気に対するリスクの認識が高くても,リスク保障欲求としては死 亡や老後などの保障準備を優先して,ケガ・病気の保障準備の必要性を感 じない一方で,リスク認知が高いほど,生命保険の購入意向が強い。
このことは,公的医療保険制度が完備していることにより,リスク保障 欲求としてのケガ・病気に対する準備が必要とは限らない状況になってお り,それがリスク認知からリスク保障欲求への繫がりをネジレた状態にし,
さらにリスク保障欲求から生命保険需要に結びつきにくい状態を作りだし ているものと推察される。また,リスク認知から直接生命保険需要に結び ついている状況は,生命保険企業の営業努力による結果と考えられる。
このタイプは, 男性 で導出できた。
⑶ タイプ3は,リスク認知からリスク保障欲求への繫がりがない状態でリ スク保障欲求から生命保険需要に至るとともに,リスク認知から直接生命 保険需要に至るパスが特徴である。いいかえると,ケガ・病気に対するリ スクの認知の高低にかかわらず,リスク保障欲求が強いほど生命保険の購 入意向が強く,かつリスクの認知が高いほど生命保険の購入意向が強い。
このことは,ケガ・病気の準備を,生命保険企業や団体の啓蒙・啓発活 動等によって,生命保険の必要性を認識することで,リスクを認知するこ となく 欲求⇒需要 の枠組みが形成されたものと推察される。
このタイプは, 20歳代 , 未婚 , 賃貸住宅 で導出できた。
⑷ タイプ4の一般形は,リスク認知からリスク保障欲求経由で生命保険需 要に至るが,リスク認知から直接生命保険需要には至らないパスが特徴で ある。しかし本稿のこのタイプは特殊形であり,タイプ2と同様,リスク 認知からリスク保障欲求のパスが負の係数という特徴を持つ。つまり,ケ
ガ・病気に対するリスク認識が高くても,リスク保障欲求としては死亡や 老後などの保障準備を優先して,ケガ・病気の保障準備の必要性を感じな い。しかし,リスク保障欲求が強いほど生命保険の購買意向が強い。
このことは,公的医療保険制度が完備していることにより,リスク保障 欲求としてのケガ・病気に対する準備が必要とは限らない状況になってお り,それがリスク認知からリスク保障欲求への繫がりをネジレた状態にし ている。しかしながら,生命保険企業や団体の啓蒙・啓発活動等の影響に より,リスクを認知することなく 欲求⇒需要 の枠組みが形成されたも のと推察される。
このタイプは,属性の特徴が導出できなかった。
⑸ タイプ5は,リスク認知から,リスク保障欲求を経由せず,直接生命保 険需要に至るパスが特徴である。つまり,リスク認知が高いほど生命保険 の購入意向が強い。しかしリスク認知の高低がリスク保障欲求の強弱には 影響しない。
このことは,リスク認知から直接生命保険需要に結びついていることか ら,生命保険を合目的的に購入しようとする行動ではなく,生命保険企業 の営業努力による結果と考えられる。
このタイプは, 女性 , 30〜50歳代 , 既婚子供なし , 金 融 資 産 1,000〜2,000万円未満 , 民間小〜大企業被用者 , 無職 , 持家・ロー ンあり , 持家・ローンなし , 持家・夫婦以外名義 で導出できた。
⑹ タイプ6の一般形は,リスク認知からリスク保障欲求まではパスが至る が,そこから生命保険需要にパスが至らないことが特徴である。しかし本 稿のタイプ6は特殊形であり,タイプ2やタイプ4と同様にリスク認知か らリスク保障欲求のパスが負の係数という特徴をもつ。いいかえると,ケ ガ・病気に対するリスク認識が高くても,リスク保障欲求としては死亡や 老後などの保障準備を優先して,ケガ・病気の保障準備の必要性を感じな いことを意味している。
このことは,公的医療保険制度が完備していることにより,リスク保障
保険学雑誌 第 618号
欲求としてのケガ・病気に対する準備が必要になるとは限らない状況を作 り出しており,それがリスク認知からリスク保障欲求への繫がりをネジレ た状態にし,さらにリスク保障欲求から生命保険需要に結びつきにくい状 態を作りだしているものと推察される。
このタイプは, 60歳代 , 既婚子供すべて卒業(既婚) で導出できた。
⑺ タイプ7は,リスク認知からリスク保障欲求まではパスが至らないが,
そこから生命保険需要に至るパスが特徴である。さらに,リスク認知から 直接生命保険需要にパスが至らないことも特徴である。いいかえると,ケ ガ・病気に対するリスクの認知の高低にかかわらず,リスク保障欲求が強 いほど生命保険の購入意向が強い。
このことは,ケガ・病気に対する準備を,生命保険企業や団体の啓蒙・
啓発活動等の影響により,リスクを認知することなく 欲求⇒需要 の枠 組みが形成されたものと推察される。
このタイプは, 金融資産2,000万円以上 で導出できた。
さらに生命保険需要の間接性を示す所得水準(世帯年収および本人年収)
から生命保険需要に至るパスのうち,パス係数が有意な組み合わせのタイプ は3通りとなる。タイプごとの特徴と多母集団パス解析による属性の特徴を 整理する。
タイプAは,世帯年収,本人年収ともパス係数が有意である。属性では,
20歳代 , 金融資産100万円未満 で導出できた。
タイプBは,世帯年収のみでパス係数が有意である。属性では, 女性 , 30〜50歳代 , 既婚子供なし , 金融資産100〜1,000万円未満 , 民間 小〜大企業被用者 , 非正規社員 , 無職 , 持家・ローンあり , 持 家・ローンなし , 賃貸住宅 で導出できた。
タイプCは,本人年収のみでパス係数が有意である。属性では, 男性 , 未婚 , 持家・夫婦以外名義 , 社宅 で導出できた。
なお,リスク認知と所得水準(世帯年収,本人年収)の相関は,高くはな かったので,互いに独立して生命保険需要に影響していると考えられる。
4‑2 結論と課題
パス解析の結果,医療保障領域における生活者の リスク認知〜リスク保 障欲求〜生命保険需要 の形成プロセスは一元的でなく,以下の①,②の 特徴が明らかになった。
①今回の分析では,リスク認知からリスク保障欲求を経由して生命保険需 要に至るパスが導出できなかったことや,リスク認知からリスク保障欲 求のパスが負のネジレた関係で導出されたことから,医療保障領域では 生命保険を合目的的,合理的思考で需要する形態が未成熟であること
②その背景としては,公的医療保険制度が完備していることなど
さらに,多母集団パス解析の結果からは,以下の③〜⑤の特徴が明らかと なった。
③生命保険企業の営業努力によって,生命保険需要が直接リスク認知に求 められるタイプの存在
④生命保険企業や団体の啓蒙・啓発活動等により,リスクを認知すること なく 欲求⇒需要 の枠組みが形成されたタイプの存在
⑤所得水準が生命保険需要を規定しているが,世帯年収,本人年収ともに 規定しているタイプ,世帯年収のみ規定しているタイプ,本人年収のみ 規定しているタイプの存在
残された課題としては,次の⑴〜⑶が挙げられる。
⑴ 生命保険と同様の生活保障資源である損害保険,預貯金,有価証券な どの金融商品における需要形成プロセスを推計し,それらと生命保険と を比較分析する
⑵ 時系列での生命保険需要形成プロセスの変容を分析する
⑶ 老後保障領域,介護保障領域を対象に,本稿ならびに残された課題⑴
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〜⑵と同様の分析を行い,各保障領域における保障資源の需要形成プロ セスを比較分析する
(筆者は公益財団法人 生命保険文化センター勤務)
参考・引用 献
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