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保険契約法 は商法の特別法か民法の 特別法か

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保険契約法 は商法の特別法か民法の 特別法か

⎜⎜ 相互保険と営利性の問題を中心として ⎜⎜

村 田 敏 一

■アブストラクト

現在,保険契約法の 現代化 へ向けた検討が進行している。今回,相互 保険のみならず共済も統一的規律の対象とすべきとの整理に関連し,保険契 約法の私法体系に占める位置付け論が活性化する余地があろう。本稿では,

従来の議論経緯や新会社法の単行法化の中での会社からの営利性要件の削除 といった動向も踏まえ,相互保険の商行為性,相互会社の実質的営利性とい った観点を中心に考察を行う。立法論としては相互保険,共済も含め少なく とも実質的には営業的商行為として規律することが妥当であり,これらの統 一的規律の必要性のみを背景とする単行法化論は妥当ではない。保険は商法 の実質的意義を 企業関係 と 商的色彩 の何れに求めようが,実質的な 商法の典型例として規律することが適当であり,さらに形式的意義における 商法典の空洞化を回避する観点からは形式的にも商法典中に存置する方向性,

すなわち単行法化はこれを行わない事が望まれる。

■キーワード

保険法の現代化,相互保険・相互会社と商行為性・営利性,保険法単行法 化の是非

*平成18年12月26日の日本保険学会関東部会(生命保険協会)報告による。

/平成19年1月9日原稿受領。

(2)

Ⅰ.総説

平成18年9月6日,法務大臣は法制審議会に対し保険契約法の規律内容の 現代化およびその現代語化その他の改正を諮問した(諮問第78号)。我が国 の保険契約法が商法典の一部門として明治32年に制定されてより実に一世紀 余ぶりの全面改正作業がスタートしたこととなる 。立法当局にあっては,

民法典と並ぶ民事基本法である商法典につき,会社法に踵を接する形で商行 為各則についても順次の現代化・現代語化を図ることが企図されており,そ の中で保険契約法見直しが先陣を飾る理由としてはその国民生活とのかかわ りの深さ,社会経済情勢の変化に伴う規律見直しの必要性の際立った高さが 挙げられている 。保険契約法抜本改正の主眼がもとより個々規律内容の合 理化・現代化といういわば中身に置かれるべきことは言をまたないが,さり とて,その法典の佇まいという形式面が重要でないかと言えば,否であろう。

凡そ立法作業に当り,形式面が実質面やその解釈の在り方を逆に規定するこ とも往々にして見られる法現象である 。先行した会社法の現代化過程でそ れが商法典より形式的に独立し単行法となったこととの連想で保険契約法

(以下,本稿において特に断らない限り,保険法と表記する)の単行法化を 漠然と予想する向きもあろうし,また諸外国の立法例を見渡した場合,ドイ ツ,スイス等,主要国の中にも相当数の単行法化例があることも念頭に置か れよう 。こうした単行法化の方向性については今般の法制審議会への諮問

1) 法務大臣の記者会見によれば,保険法の改正案については,平成20年度の通 常国会への提出が目指されているとのことである。平成18年8月1日法務大臣 閣議後記者会見の概要を参照。

2) 江原健志 保険法の現代化に向けて NBL No.824,2006年1月1日,

p.45。

3) 例えば,新会社法の制定に関連し,その体系・形式の変更がもたらした規制 内容の実質的変更への影響につき分析するものとして,岩原紳作 新会社法の 意義と問題点Ⅰ総論 商事法務 No.1775,2006年8月25日,pp.10‑12。

4) 山下友信 保険契約法現代化に向けた課題 上 金融財政事情 2006年4月 17日,pp.32‑33。

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事項の中では明示されてはおらず,もとより明確な方向性が定まっている訳 ではないものの,少なくとも検討課題のレベルではその必要性が立法担当官 によっても認識されている 。

保険契約法の単行法化の是非・要否を検討するにあたり特に考慮すべき事 項は二つある。第一点は,実質的意義において保険法は商法の特別法か,そ れとも民法の特別法かという論点である。もし保険契約法の本質を直接的に 民法の特別法として把握することが妥当とされれば,形式的にもその単行法 化(あるいは民法典の契約各則への典型契約としての編入)が支持されるこ ととなろう。第二点は保険法の現代化がその主要目的の一つとして,営利保 険,相互保険(現行は営利保険に関する営業的商行為の規定の準用等の方法 により実質的には同一の規律下にある),共済(各根拠法により商法の準用 のレベルは区区。判例は相当柔軟にその準用を肯定)の三者を統一的に斑な く規律することを指向する中で ,⎜この方向性自体の妥当性は言うまでも ない⎜このような規律の在り方が単行法化の是非論に及ぼす影響である。も し,相互保険や共済の本質につき実質的に商法の中で規律することが相応し くないと判断されるならば,三者の統一的規律という課題達成が優先される 中では,形式的意義においても新保険法を商法典より独立させ単行法化する 方向性が優位に立とう。逆に,相互保険や共済もその本質においては営利保 険と何ら異ならず,組織法的にも商行為法的にも実質的に商法の一部として 規律することが適当と判断されるならば,むしろ相互保険や共済に関する法 形式面を実質に合致させる方が正攻法であろうし,保険法の単行法化は形式 的意義における商法典(その商行為編)の空洞化あるいは解体をも招来する 危惧があり妥当ではない 。

5) 江原・前掲注2)p.46。

6) 山下・前掲注4)p.33。江原・前掲注2)p.46。

7) 組織法的側面については,相互会社については保険業法で,各共済について は各協同組合法で各々規律されており,保険法や商法典の在り方とは直接的関 係性は無いものの,相互保険や共済の規律の在り方,特にその商行為性を論じ るに当っては,やはり十分に検討の視野に収めておく必要があるものと考えら

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第一の論点に関しては,少なくとも現行法下では保険法は形式的意義にお ける商法典の一部を成すとともに,また実質的意義においても商法のカテゴ リーに属することは遍く認められてきた 。しかし我が国にあっても学説史 を回顧すると,田中耕太郎博士の所論 を先 とし,その根拠の力点は相当 異にしつつも比較的近時にあっては石田満博士により保険契約はむしろ民法 の債権法の範疇に入るものである旨が主張された 。今回の保険法全面改正 にあたっても,こうした既往の立論を振り返り,再度,批判的に検証してお く作業が必要であろう。もっとも商法が民法に対し一般法に対する特別法の 関係に立つことは,実定法上明らかであるから(商法1条),保険法が商 法・民法いずれの特別法となろうともその結論から生じる実際の法適用,実 務上の差異はそれ程は多くはなく,議論の帰趨が法適用や実務に齎す影響は 限定的なものに止まり議論の実益自体が乏しいとの見方も生じる余地があろ う。すなわち,保険法が民商法典に対し(任意規定たると強行規定たるとを 問わず)独自の規律を定めたならば,もしそれを商事特別法と解するならば 商法典(単行法化されない場合は商法総則ならびに商行為総則)に優先適用 され,また民事特別法と解されるならば民法典に優先適用されることとなる ものの,結局その差異は無いこととなるし(商法典は民事特別法に優先する

れる。

8) 実質的意義における商法の理論的基礎につき 商法企業法論 (企業関係に 特有の生活関係を対象とする私法と理解)と 商的色彩論 (商法上の法律事 実に通有の技術的色彩すなわち集団性および個性喪失の色彩を帯びるものと理 解)のいずれを採用しようが,保険法はその範疇に属するものと考えられる。

この点に関し,例えば,大隅健一郎 商法総則 新版,有斐閣,昭和53年,

pp.27‑41。鴻常夫 商法総則 全訂第4版補正版,弘文堂,平成3年,pp.4‑

11。

9) 田中耕太郎講述 保険法講義要領 昭和4年度,pp.12‑32。田中耕太郎 保 険の社会性と団体性⎜保険法に於ける社会学的方法の適用 著作集9 商法 学 特殊問題 中 春秋社,昭和31年,pp.107‑172。(初出は昭和7年 法学 協会雑誌 50巻7号,10号)

10) 石田満 私法体系における保険契約の地位 鈴木竹雄先生古稀記念 現代 商法学の課題 上 有斐閣,昭和50年,pp.1‑30。

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と一般に解されるものの,そもそも保険法を民事特別法と位置づけた場合,

それに対し商法典が優越するというのはある種の論理矛盾に陥ろう),また,

そもそも現行体系上,商法典(商行為総則)が民法典の特例を定めかつ保険 法がその特例を置かない事項を通覧した場合,保険法実務との関わりにおい て実際問題となり得る事項は⎜もちろん法定利率,債務履行の場所,消滅時 効等,幾つかの重要事項は俎上に上るものの⎜それ程多くは無いことが見て とれるからである。しかしながら一方で,保険法は商法の特別法か民法の特 別法かという議論の帰趨を,専ら保険契約関係に商行為総則が定める規律を

(保険法として独自の規律を定めない場合に,民法典の債権法の規律に直接 従わず)及ぼすことの個別的妥当性の判断のみに係らしめることも,やはり 議論を著しく矮小化するものとして適切とは言い難い。実は学説史・論争史 を俯瞰すれば,保険契約の商行為性という課題については,保険(特に陸上 保険,生命保険)の 社会性 団体性・相互性 といった特色を根拠に,こ れを一つのGeschaftと見ることは適当ではなく,むしろ商法の圏外におく べきではないかとする田中耕太郎博士の所論 への論駁を主軸とする大森忠 夫博士の論稿 により既に十分な論証を透過しているものと考えられる。同 論稿では,商法の本質的使命を企業経済生活関係の合目的的規制と理解し,

また相互保険を含む保険加入者の行為を純粋に個人主義的意識にもとづく個 別的経済的行為と把握する中で,消極的には, 社会性 団体性 をもって は保険の商行為性を否定する根拠たり得ないとされるとともに,積極的には,

保険の技術的要請としての多数者の危険の綜合平均化と保険企業の計画的・

合理的経営の必然的結合,すなわち保険事業の企業性,保険者の 営利的 取引=商行為に保険の本質が見出され,その結果として保険法が実質的意義 において商法の一部門(あるいは,むしろ典型的一部門)を成すことが緻密

11) 田中・前掲注9) 保険の社会性と団体性 pp.122‑125。

12) 大森忠夫 保険契約の商行為性 保険契約の法的構造 有斐閣,昭和27年,

pp.317‑347。(初出は昭和27年 田中耕太郎先生還暦記念 商法の基本問題 所収)

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かつ説得的に明らかにされている。さて,保険法の私法体系上の地位に関す る性質決定については,以上のような二つのアプローチ(個別的な法条の適 用是非の積み上げからのアプローチと商法の本質からの大上段に振りかぶっ たアプローチ)の他にもいわば第三のアプローチとして,その中間的な手法 もあり得るように思われる。すなわち,今一度,法源適用の順序につき,保 険法の位置付けとの関係において考察することが,問題解決に当り実効的と も考えられるのである。民商事法に関する法源適用の順序は,異論もあるも のの一般的に,①商事自治法②商事特別法または条約③商法典④商慣習法⑤ 民事特別法⑥民法典⑦民事慣習法に従うものとされ ,その意義は特に商慣 習法が民法典に優先適用される点に見出されている(商法1条2項)。また,

近時は消費者契約法の立法に伴い,約款の不当条項規制等に関連して同法が 民商法に優先適用される旨,明文化された(消費者契約法11条)ため,その 具体的適用場面における解釈の在り方も課題とされている 。保険契約が,

約款に拠る取引の一つの典型であることは否定し難い事実であろうが,また 約款(保険約款)の当事者拘束力の根拠を奈辺に求めるかにつき学説,判例 は帰一せず,予てより活発な論争が繰り広げられてきた 。この点,いわゆ る多元説や意思推定説的立場からの有力な反論はなされているものの ,今 日においても学説上はなお,白地商慣習(法)説が多数説的地位を維持して いるものと考えられる 。これを前提とすれば,実際問題として保険契約に おける約款による契約の有用性,利便性がひろく承認されている中では,法

13) 例えば,大隅・前掲注8)pp.78‑83。

14) 山下友信 消費者契約法と保険約款⎜不当条項規制の適用と保険約款のあり 方⎜ 生命保険論集 No.139,pp.9‑11。は消費者契約法優先説と商法優先 説の対立につき紹介しつつ,個々のケースに応じ,商法優先説が妥当する場合 もあるものとする。なお,消費者契約法は優先適用関係につき,民商法の間に 差を設けない。

15) 例えば,大森忠夫 保険法 補訂版,有斐閣,昭和60年,pp.52‑54。

16) 山下友信 保険法 有斐閣,2005年,pp.111‑112。

17) 大塚龍児 普通保険約款の拘束力 別冊 ジュリスト No.121,商法(保 険・海商)判例百選(第二版)pp.6‑7。

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源適用の順序問題との関係では約款の民法典,民事特別法への優越が認めら れることが自然であろう(約款を商事自治法と考えるならば尚更である) 。 このことは,同時に保険法の地位につき,その商事法性が支持される少なく とも一つの有力な根拠たりえるものと考えられる。とは言え,約款の法的性 格につき,いかに白地商慣習(法)説が通説的地位を占めようとも,判例の 立場も含めなお異論は多い訳であるから,これをもって決定的に保険法が商 法の特別法であることの有力論拠とすることには,いささかの躊躇が覚えら れよう。むしろ,保険契約において約款による取引が普遍化しその典型領域 をなすことは,法律関係の合理化,画一化,定型化による個性の喪失の要請 が,継続的性質を有し,かつリスクの集積・分散のため必要的に多数契約を 時間的,空間的に可能な限り平等に扱うべき保険契約において最も代表的に 顕れることの論理必然的帰結として理解されるのであり ,このことは結局 のところ保険契約が 商的色彩 を帯びるという,実質的意義における商法 の概念論に再回帰していくのである。もとより,商法の本質について企業説 を採ったとしても,多数経済主体を糾合する中での合理的,計画的事業遂行 を行う必要性の殊に高い保険事業につき,保険企業者(保険者)の役割が重 視されるべきことは言うまでもなく,やはり保険法を実質的意義における商 法の典型的一部として把握することが,この面からも強く支持されるのであ る 。

さて,考察すべき第二の論点は,今回の立法が私法的規律の場面において 営利保険,相互保険,共済を統一的に扱うことを指向し,立法の主要目的の 一つと位置付ける中で,その場合果たして,保険法が商法典の中にとどまる

18) 大隅・前掲注8)pp.76‑78は約款の商事自治法性は否定しつつ,約款の白地商 慣習(法)性は肯定する。これによれば商慣習法たる約款は民商法の強行規定 に抵触してもその効力が(現在では消費者契約法に抵触しない限り)認められ ることとなる。

19) 田中耕太郎 商法上の法律関係とその定型化 前掲注9) 著作集9 pp.88‑105。

20) この面を取り分け強調する論稿として,大森・前掲注12) 保険契約の商行 為性 pp.337‑341。

(8)

ことが可能あるいは妥当なのか,逆に言えば保険法が商法(典)より独立し,

単行法となる必要はないのかという問いである。換言するならば,(現行,

営利保険に関する規定の準用の形で実質的に商行為性が認められる)相互保 険や,(現行,根拠法により準用状況が区区な)制度(組合)共済につき―

少なくとも実質的な―営利性,商行為性が認められるのかが問題の核心とな る。もちろん現行法解釈上も相互保険の本質につきその実質的商行為性を是 認しつつ,営利性・商行為性の形式的定義からはどうしても直接的にはその 範疇に含ましめることは出来ないため,要は,法はこうした実質と法形式の 乖離を解決するに際し(全面的な)準用という法技術を用いているとの理解 がなされてきたところであり ,こうした理解の在り方は正当である。そし て,相互保険と共済の本質的性格を共通のものと理解するとき,共済につい ても(相互保険と)同様に営利保険に関する規律の全面的準用というテクニ ックを用いれば,―相互保険や共済の営利性といった問題を正面から問うこ となく―いとも容易く当座の立法課題は解決されることとなる。すなわち,

現行体系(営利保険につき直接,相互保険については間接的にその商行為性 を認め,結果的に保険法を商法典中の商行為の一類型として規律する)を基 本的に維持し,微修正する(共済についても営利保険の準用規定を置く)の みで,立法の目的は達成しつつ,保険法の単行法化といった大体系改正はこ れを回避することが出来ることとなる。そもそも,その基本的性格が強行規 定であり,厖大な条文数よりなる会社法が,自足的・完結的体系性を指向し,

法形式的にも単行法化を達成したこととの対比感の中では,保険法の基本的 性格はあくまで典型契約についての標準的規律を定めるという意味において 任意規定たるべきであり(個々条項の性格吟味を通じ,若干の(片面的)強 行規定が生ずる余地はある) ,そしてそのこととも関連するが簡素な条文

21) 大森・前掲注12) 保険契約の法的構造 p.345。

22) 今回の保険法改正にあたっても,保険法に(片面的)強行規定を積極的に導 入すべきとの主張が有力になされており,その根拠は主に比較法的観点に求め られているようである(山下・前掲注4)pp.32‑33参照)。しかし,顧客ニーズに

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構成が目指されるべきであって,こうした文脈でも法技術的にその単行法化 は馴染まないものと考えられる。仮に,商行為法各則(商事典型契約)の中 では相対的には条文ボリューム感のある保険法が商行為法から離脱,単行法 化すれば,形式面でも商法典の商行為法の空洞化は避けられないであろう し ,その後の商行為法各則・海商法の順次の見直し・現代化に伴う,各々の 単行法化と,最終的には商法典の完全な解体まで展望,覚悟するのでなけれ ば,安易な保険法の単行法化の決断はなすべきではないものと考えられる。

さて,このように相互保険や共済の商行為性につき,実質と法形式の齟齬は

(全面的)準用という法技術により解決され得るのだが,わが国の実態から 見て(特に生保領域では営利保険を凌駕する程の)大きな量的比重を有する 相互保険,共済につき,こうした実質と形式の乖離をそのまま放置しておく ことにも喉に骨の刺さったような違和感が残るものと言えよう。相互保険,

共済に関する法形式と実質を合致させることが自然ではないのか,そのため には営利性,商行為性の意義について再度,根底から問い直すべきではない

柔軟に対応した商品・サービスの開発を行うに当っては,頻繁な改正の困難な 民事基本法上の強行規定による規律は思はぬ障碍となることが,ままあり,消 費者保護は引き続き,約款等基礎書類の行政的統制(認可等)および消費者契 約法による司法的統制の組み合わせにより実現されることがバランスのとれた 手法と考えられる。従って,保険法は基本的にその任意規定性を維持すべきも のと考えられる。なお,しばしばEU諸国が約款の行政認可制度を廃止したこ との保険法強行規定化への影響が指摘されるが,当該諸国では早くから行政認 可制と保険法の強行規定化の併存という言わば がんじがらめ の規制状態が 続いており,1996年の統一指令はむしろこれを解消しようとしたものと(その 手法は適切でなかったとしても)理解される。

23) 現行商法典中の商行為法は全体で182ヶ条より成るが,内,総則の22ヶ条を 除く160ヶ条中,第10章保険は55ヶ条と約3分の1のボリュームを占める。な お,条項数の多寡と任意規定性・強行規定性という法の基本的性格間には相関 関係が観念され得る。強行規定とすると法が精緻,詳細に関係者の利益を調整 せざるを得ず,必然的に条文数は増加する。一方,任意規定を中心とすれば,

法は標準形を示すのみで足り,条文数はそう多くはならない。強行規定を中心 とする独,仏の保険法の条項数が膨大なのは,故なしとしない。

(10)

のかという衝動に駆られる所以である。新会社法(平成17年法86号,以下,

本稿において会社法と表記)は,その単行法化に伴い,自足的・完結的体系 が指向される中で,商法総則の一部規定を取り込んだ。その一環として,会 社法(通則)は商事会社は営利を目的とする社団であるとする改正前商法52 条(および旧有限会社法1条)に相当する規定を承継せず,他方で会社がそ の事業としてする行為及びその事業のためにする行為は商行為とする旨の規 定が置かれた(会社法5条)。その結果,会社法が規律する株式会社等の各 会社形態について,営利性,社団性を明文で定める根拠条文は存在しなくな った。この改正の趣旨,解釈につき会社法上の会社につき引き続き(明文で は無く,隠れた要件として)営利性の要件が必要なのかという議論,そして それと表裏を成す訳であるがそもそも営利性とは何かという議論が生ずるこ ととなった。学説はほぼ一致して会社法上の会社についての営利性要件の存 在を従前どおり承認するとともに ,その(営利性の)意味は構成員の私的 利益をはかることを目的とするものと理解され,より具体的には利益の構成 員への分配は剰余金の分配または残余財産の分配という形をとるものとされ る(株式会社につき会社法105条1項1号,2号) 。そして相互保険会社や

(共済)協同組合(講学上の中間法人)の営利法人性は旧来どおり否定的に 解される 。一方,立法担当官の解説では,まず会社法が 営利を目的とす る社団 という旧商法の規定を承継しなかった理由としては,会社の社員に は明文で利益配当請求権・残余財産分配請求権が認められているため(会社 法105条2項), 営利を目的とする という用語を用いる必要がないものと され,また関連して 商人とみなす 旨を承継しなかった点についても会社 法5条の規定の存在等によりその規定の実益がないものとされる 。このよ

24) 落合誠一 新会社法講義第1回 第1章総論 法学教室 No.307,2006年 4月,pp67‑70。江頭憲治郎 株式会社法 有斐閣,2006年,pp.18‑23。神田 秀樹 会社法 第 版 弘文堂,平成18年,pp.5‑6。

25) 神田・前掲注24)p.5。

26) 江頭・前掲注24)p.19。神田・前掲注24)p.5。

27) 相澤哲編著 一問一答 新・会社法 商事法務,2005年,pp.25‑26。なお,

(11)

うに一見は重大な意味を有するようにも思われる営利性要件等の非承継の意 味合いや,そもそも予てより一つのアポリアともされてきた営利性要件の理 解の在り方につき,学説や立法担当官はさしたる議論の実益を見出していな いようである。畢竟するに,営利性の理解の在り方としては,理論的には,

これを広義に解して事業性と同義に捉え企業者がその合理的計算において反 復的・継続的に収益事業を行いその利益・果実を社員(構成員)に分配する 活動と理解する(その利益の源泉と分配先の関係は特に問われない)在り方 と,これをより狭義に解し 対外的活動 によって得た利益を社員に分配す る(分配の方法は利益配当たると残余財産分配たるとを問わない)もののみ に営利性を肯定する在り方が対立し得るように考えられる。そして従来の定 説は後者にあり ,こうした理解の在り方は会社法制定下でも通説として維 持されている 。このような考え方に従えば,従前どおり相互会社や協同組 合については,たとえそれらが構成員の拠出金の運用等から生じた剰余金の 分配・配当をなし得る(保険業法55条の2等)としても,対外的経済活動を 目的とせず,団体の内部的活動により構成員に直接的な経済的利益を与える ことを目的とするものとして,営利性の要件から除外されることとなる 。 通説のような理解の仕方,すなわち社員(団体構成員)へ分配すべき利益が 対外的活動によるものか,内部的活動によるものかにより営利性の有無を峻 別・弁別する考え方は,確かに実定法上の営利性規定の存否という従来の法 状況を事後的・追認的に説明するには整合的な理解の在り方であったものと

立法担当官の解説の中では,相互会社や協同組合の非営利性については明確な 言及はなされていないが,営利の目的の意義については,従前どおり 会社が 対外的活動を通じて上げた利益を社員に分配すること とされているため(同 p.25),この点についても伝統的理解の在り方が踏襲されているものと考え られる。

28) 例えば,大隅健一郎・今井宏 会社法論 上巻第三版,有斐閣,平成3年,

p.18。 新版 注釈会社法⑴ 有斐閣,昭和60年,pp.38‑40。(谷川久執筆)

29) 神作裕之 会社法総則・擬似外国会社 ジュリスト No.1295,2005年8 月,特集新会社法の制定,pp.138‑140。

30) 江頭・前掲注24)p.19。

(12)

言える。しかし,最早,実定法が株式会社等の会社法上の会社から営利性要 件を削除した中で,いったいこうした解釈を維持することにどのような実益 があるのだろうか。我々は営利性についての通念的理解に呪縛され,絡めと られているのではないだろうか。営利性につき大胆に理解の在り方を転換し 広義に解するほうが,例えば保険の商行為性といった議論の文脈において⎜

全面的準用といった実態と形式の不一致を回避する法技術に依らずに適用関 係を簡明に処理出来る点で⎜はるかに実益に適うものとも考えられるのであ る。もっとも一部の制度共済(保険協同組合)の根拠法にあっては,逆に明 文でその事業の非営利性が謳われており(農業協同組合法8条,消費生活協 同組合法9条) ,こうした反面的な営利性否定の条項を反対解釈する限 り,⎜少なくとも明文で非営利性を定める協同組合にまで⎜営利法人性の概 念を及ぼすことにはやはり法技術上の限界もあるものと思われ⎜本来的には そのような一部共済組合についてその規定趣旨の不明瞭な非営利性規定を削 除する法改正を行うことが正攻法であるにせよ⎜営利保険・相互保険の準用 による処理が一部残存せざるを得ない可能性もまた否定できない。しかし,

このような法技術上の限界は残るにはせよ,基本的には営利性の意義を広義 すなわち事業性と解し,構成員への配分利益の源泉の内部性・外部性を問わ ないことによって法適用関係の簡明化(形式と実質の合致)が実現すること となろう。いずれにせよ,少なくとも,旧来のような営利性要件に関する形 式的理解を前提に,保険法の適用対象に相互保険,共済を包含することの論 理的帰結として保険法の商法典からの独立化,単行法化を導くことは誤りと 考えられよう。本稿では,我が国における保険法の私法体系上の地位に関す る論争史を重要論稿を素材として,批判的に振り返り,その上で,総説での 考察をベースとして相互保険,共済の営利性・事業性の問題についての若干

31) 各協同組合法の中で,中小企業等協同組合法はこのような 非営利性 を宣 言する明文規定を置かない。もっとも 営利を目的としてその事業を行っては ならない といった一種の精神的規定にいったいいかなる法的意義があるのか は判然としない。

(13)

の立法論的検討(パターン分析)を行うこととしたい。なお,紙幅との関係 上,商行為法通則が民法に対し独自規律を定める事項についての保険法との 関係における考察についてはこれを省略せざるを得なかった 。

Ⅱ.保険法の商行為性(私法体系上の地位)を巡る論争史について

1.田中耕太郎 保険の社会性と団体性⎜保険法に於ける社会学的方法の適 用 昭和7年

実質的意義における商法の本質論に関する 商的色彩論 の主唱者として 知られる田中博士は,一面において保険法の商的色彩を認めつつも,その特 異性を強調し,保険法は純商法的とは言えず,むしろ商法の限界上あるいは その範囲外に置かれるべきものと主張された。ここで言う商法とは,商行為 法を意味し,保険は一般商行為のGeschaftたる性質を超越しむしろ組織法 の範疇に入るものともされ,相互保険のみならず株式会社による保険も相互 的精神に立脚し営利性を去るべきものとされる。保険法(就中,陸上保険法,

生命保険法)の特異性はその社会性と団体性に求められる。社会性とは保険 が純個人主義的性格を脱し,私保険も含め社会生活の規範としての共同経済 的性格を帯びるとの考えであり,すなわち保険のGemeinschaft性が殊更に 強調される。そしてその論理的帰結として保険に対する公法的監督と保険法 の強行規定化の必要性が訴えられる。商法における組織法の強行規定性と行 為法の任意規定性(Laissez faire性)を鮮やかに対蹠された博士の考え方 と保険法の非商行為法性の主張は確かに整合する。一方,団体性の理解とし てはRohrbeckの所論に依拠し,保険契約者の平等待遇の要請を超え,さら に構成員(契約者)の団体的関連性・紐帯の自覚や責任・義務までが必要と

32) 結論としては,保険法の商事法性の証左となるべき若干の規律も見られたも のの,商行為通則が民法に対して置く特例が僅かであることもあり,保険法の 性格を論断するための決め手とすることは無理なものと考えられる。ただし,

例えば,保険法の定める商行為通則の5年より短い消滅時効(保険金支払義務 につき2年)は迅速結了主義という商事法の一つの 表と理解される。

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される。保険団体は技術的なリスクプールの要請を超え,構成員の主観的・

犠牲的団体として性格づけられるのである。もとより博士も保険が,行為の 定型化,個性の喪失,集団性等,自らが商的色彩として認めている特性を有 することはこれを是認し,その上で,何故,保険法は商法の圏外にあるのか と自問自答される。そこでは保険の社会的色彩は恰も労働法のごとく,商的 色彩という個人主義的色彩を超克するものと考えられた。また,保険契約の 多数契約や継続的契約たる性質,あるいは事業者の合理的経営が不可欠な点 は他の典型的な営業,商行為(運送,倉庫寄託等)にも見られるとしつつ,

保険の場合は保険契約者相互の利害共通関係(すなわち団体性)が存在し,

これは他の契約類型には見られない保険契約固有の特性とされた。博士の立 論について検討すると,まず保険の社会性に関しては,今日でも公的監督の 必要につき,保険業法に基づく厳格な監督が維持されている点で一定の社会 性=公共性の存在が前提とされているものと理解されるものの,保険制度が 個人主義的精神に基づくものでないという意味での社会性の理解の在り方に ついては完全に否定されているものと言えよう。なお,博士が保険法は他の 商行為と異なり強行規定性を帯びるべきとされた点については,まさに今回 の立法に際しても大きな論点となる訳であるが,その意味での社会性・公共 性は私法の強行規定化を通じてではなく,現行どおり商品認可等,監督を通 じて実現されることが契約者利益により適うという基本的方向性に関する私 見については先に記した。次に博士の保険の団体性に関する立論については,

今日でも保険団体の技術的団体性については承認されつつ,それを超え利害 共通団体的に捉える考え方については,既に論駁し尽くされたものと評価さ れよう。田中博士が夙に指摘された保険契約の多数契約性,集団性,定型性,

継続契約性といった特性は博士の主張自体には反し,むしろその商行為性を 強く表徴しているものとも考えられるのである。

2.米谷隆三 商法一般に於ける保険法の地位 保険学雑誌第326号,1930年 約款法の理論で知られる米谷博士は,保険法の地位に関する我が国での先 駆的な考察を保険学雑誌に発表し,その内容は前記,田中博士の論稿にも一

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定の影響を与えたことが見てとれる。米谷博士は商法の二大発展傾向として,

進化的傾向と統一的傾向を看取し,前者の典型として集団性・社会性を特色 とする陸上保険法を,後者の典型として国際的経済活動の活発化の中での海 上保険法を各々位置づける。そして,陸上保険法については,その社会性の 濃厚性から,ついに個人主義的商法(商行為法)を蝉脱し,営利性を駆逐し て,組織法的な強行規定化や公法化を指向していくものと説かれる。生命保 険を典型とする陸上保険もあくまで利己的・個人主義的意識に基づく制度で あり,米谷博士の説く社会性・団体性の理解の在り方が誤りである点につい ては,後に大森博士や石田博士によって十分な論駁が加えられ,この点は田 中博士に対するものと同様である。

3.石田満 私法体系における保険契約の地位 昭和50年

鈴木竹雄先生古稀記念 現代商法学の課題 の巻頭を飾る石田博士の論 稿では,結論として,保険契約法は民法と密接な関係をもち民法の債権法の 範疇に入ること,相互保険,共済についても保険契約法の規制の対象とすべ きこと,立法形式としては保険契約法の単行法化が妥当であることの三点が 主張され,そしてこの三つの主張は相互に連関している。石田博士は保険契 約の商行為性は二つの側面から批判を受けているものとされる。第一は保険 は個人主義的思想を離れ相互扶助的・犠牲的精神にもとづく協同体であると して,その商行為性,営利性を否定する批判(田中博士)であり,この論拠 については賛成できないものとされる。第二の批判は商行為性のない相互保 険,共済を統一的に保険契約法の規律下におくべきとの立法論に従えば,必 然的に保険契約法全体としての商行為性は否定されるという批判であり,博 士はこの第二の批判には賛意を表され,さらにその必然的帰結としての保険 法の単行法化を立法論として主張された。また保険契約の射倖契約性,双務 契約性や保険法上のオプリーゲンハイト,損害塡補義務と損害賠償義務とい った視点から保険契約法と債権法の関係につき考察され,その帰結として保 険契約法は民法の債権法の中に位置づけることで十分との結論を導かれる。

さて,博士の立論について見るに,まず田中博士による商行為性否定論への

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反論や,営利保険・相互保険・共済が保険契約法の統一的規律下におかれる べきとの立法論はいづれも妥当なものと評価されよう。一方で,博士が保険 契約法の民法(債権法)との連続性をその商行為性否定論の論拠とされる点 については首肯し難い。保険契約も契約の一類型なのだから債権法との連続 性を有することは当然である。かかる論理を推し進めれば,商法(商行為 法)の定める各商事典型契約もすべて民法(債権法)の中に融解し,商行為 法の存在意義そのものの否定に繫がりかねない。各契約類型の商行為性につ いては,商的色彩(定型性・個性の喪失,反覆性・集団性等)や,その事業 の企業性の,各々濃淡に即し,実質的かつ相対的な判断がなされなければな らない。また,博士が三者(営利保険・相互保険・共済)の統一規律の必要 性から,保険法全体の商行為性の否定を導かれる点についても,いわば発想 が倒立しているものとして首肯し得ない。

4.大森忠夫 保険契約の商行為性 昭和27年

大森博士は 保険契約の法的構造 に所収されることとなった論文 保険 契約の商行為性 により,保険契約がその本質において商行為性を有し,従 って商法の一部門として規律されるべきことを主張された。その論拠は,保 険の社会性・団体性の強調により保険の商取引としての適性を否定する立論 への消極的反論と,保険取引の保険者にとっての営利的取引・商行為性すな わち保険事業の企業性を強調することによる積極的論拠に大別される。まず 前者に関しては,保険加入者の意識の根底は,あくまで自己や自己の家族を 経済的不安定から守ろうとする利己的・個人主義的意識にあり,他人救済と いった相互救済意識は認められないものとされ,保険制度に犠牲的意識を認 めようとする田中博士やRohrbeck,Kischの立論は斥けられる。また,保 険の団体性についても,保険企業者が純然たる企業者の立場から多数危険の 綜合平均化を図るためのあくまで技術的な団体性として把握される。従って,

保険の社会性・団体性を理由にその商行為性を否定する立論は根拠を失うこ ととなる。なお,大森博士も保険制度の運営の適否が社会公衆の利害に及ぼ す影響の甚大さという意味での 社会性 はこれを肯定されるとともに,た

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だしそうした意味での 社会性 は決して保険の商行為性と相容れないもの ではなく,社会公衆の利益の保護は普通保険約款の認可といった行政的監督 やあるいは契約法の一部の強行規定化により対処することで十分であるとの 考え方を示される。次に保険の商行為性の積極的論拠であるが,経済生活の 安定を希求する加入者の欲求の満足を保険企業の合理的経営を通じて実現す る点に保険団体の存在意義が見出され,すなわち保険企業者がその保険者と しての責任を果すことの決定的重要性,換言すれば保険事業と企業性(企業 として営まれること)との論理必然的結合が強調される。この結果,保険は 保険者にとっての営利的取引・商行為として把握され,保険法は企業生活関 係の合目的的規制をその本質的使命とする実質的意義における商法の中に位 置づけられることとなる。以上の大森博士の論理展開は間然とするところが なく,なお,今日にあっても全面的に妥当するものと考えられる。博士はそ の論稿を終えるに当り,特に 相互保険と商行為性 の章を設けられた。相 互保険の営利保険との差異は,保険制度の技術的要請たる危険の綜合平均化 が,前者にあっては加入者のみを構成員とする法人としての相互会社によっ て行われる点のみに見出される。相互保険も企業者的見地からなされる取引 行為である点で,営利保険と何ら異ならず,相互保険行為も実質上は商行為 として取扱うべきものとされる。ただし,法形式的には相互会社は営利をそ の存立目的とする営利法人とはいえないため,この法形式と実質とのギャッ プを埋めるべく商行為たる営利保険に関する規定の相互保険への準用という 法技術が用いられているものとされるのである。商法規定の準用に止まるこ とは決して相互保険の実質上の商行為性の否定にはつながらず,むしろそれ を肯定する証左と捉えられる訳である。

Ⅲ.相互保険,共済と営利性・商行為性⎜立法論的分析⎜

本稿の総説において,営利法人の営利性の概念には広狭の二義が観念され 得ること,そして会社法が会社法上の会社について営利法人性を明定する規 定を継受しなかったという変化を受けても,なお学説は営利性の意義を狭義

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(対外的な事業活動から得た利益を社員に分配することを目的とする法人の みに営利性を認める)に解し,株式会社等については解釈上その営利法人性 を認め,一方,相互会社,共済については営利法人性を認めないという現状 につき確認した。もちろん会社法の制定を受け,会社の営利性要件の解釈を 巡っては一定の議論が生じてはいるが,その射程は社員の配当請求権と残余 財産分配請求権の一者,あるいは両者を定款で剥奪した場合の効果論(株式 会社と持分会社の差異等)に限定されたものとなっている 。さて,ここで 相互会社に関し,会社法の準用状況を含めた営利性に関する法の適用(準 用)状況と関連学説を再度確認してみたい。まず,商法典の中では,商法6 63条および同683条1項が相互保険に営利保険に関する保険法の規律(商法 第二編第十章)をその性質がこれを許さざるときを除き準用する旨定める

(現在ではその性質上許されざる具体的条項は無いものと解されている)。ま た,商法502条9号は,営業として保険をするときこれを商行為(営業的商 行為)とし ,商行為に関する通則規定が当該保険に適用される旨を定める とともに,商行為通則に関する規律は基本的に保険業法によって相互会社の 行う行為に準用される(保険業法21条2項。なお,同条は他に会社法総則や 商法総則の多くの規律を相互会社に準用する)。一方で,会社法上の会社が その事業としてする行為及びその事業のためにする行為を商行為と定める会 社法5条の規律は保険業法によって相互会社には準用されない 。こうした,

33) 落合・前掲注24)pp.66‑70。神作・前掲注29)pp.137‑141。

34) 営業としてされない保険が(相互保険,共済以外で)あり得るのかも一つの 問題である。筆者はこれを否定的に解し,何らかの企業体が保険者とならない 保険は認められないものと考える。もっともこうした営業としてなされない保 険の禁圧は,業法的規律により達成される。

35) 立法論としては,少なくとも 営業 ではなく, 事業 という概念を会社 法が採る以上,仮に営利性についての伝統的理解を採ったとしても会社法5条 は相互会社に準用されるべきものと考えられる。なお,そもそも新会社法はそ の諸概念につき,営業というワーディングを事業に変更している(例えば,事 業譲渡,事業報告書等)。もとより,これは相互会社等との共通規律を意図し た改正ではないものの,営業概念と事業概念との分別につき大きな示唆を与え

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保険相互会社への商行為法の準用状況につき,学説は営利性ではなくその企 業取引性から相互会社に商行為法の規定を適用することが合理的と考えられ たものとする 。相互会社の営利法人性や商人性については,かねてより伝 統的な営利性や商人性の定義を前提とする限りはこれを否定的に解する他な いとされるとともに,多くの準用による処理が見られる中では,あまり正面 から議論する実益は乏しく,また,相互会社の行う保険事業以外の事業には 営利法人性を,資産運用行為等が基本的商行為にあたる限りその事業に関し 商人性を肯定する必要が,各々指摘されてきた 。いずれにせよ,会社法が 営利法人性に関する明文規定を置かなかった現況を踏まえれば,実定法上の 営利性の規定の有無という株式会社等と相互会社等の法形式上の差異を説明 するために編み出された感のある従来の営利法人性に関する理解(狭義の営 利法人性)を維持する基礎は喪失したものと言え,株式会社等も相互会社等 も,その行為は事業としてまたは事業のためにする行為として,商行為性を 正面から認めることが妥当であろう。かつて,大森博士が喝破された相互会 社に関する実質と法形式の乖離を解消すべき時期が到来したものと言えるの である。以下,こうした観点からのあり得る立法論のパターンを示し,本稿 の結びとしたい。

立法論としては,その手法としてA.企業体の行う行為の商行為性から のアプローチ(会社法5条的アプローチ)とB.営業的商行為の範囲拡大か らのアプローチ,あるいはA+Bが考えられ,また,あわせて,C.保険法 内での規定整備が考えられる。一方で,立法の対象による場合分けとしては,

甲.相互会社と各共済(協同組合)につき同様の措置を行う方法(その場合,

非営利性を宣言する規定を有する協同組合法については,当該規定の削除が

るものである(複数の営業が観念される場合を事業として概念整理されており,

そう考えれば,相互会社等も必然的に事業の主体となるものと考えられる)。

36) 森本滋編著 商行為法講義 第2版,成文堂,2006年,p.10。(森本滋執筆)

37) 前田雅弘 相互会社の存在意義と基本的属性 文研論集 第111号,平成7 年6月,pp.126‑128。

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必要となる)と,乙.両者で異なった規定形式とする方法があり,さらに乙 のヴァリエーションとして,乙́.各共済根拠法につき非営利性規定のないも ののみを相互会社と同等に扱うといった方法がある。後はこれらの組み合わ せとなる。より具体的に見てみよう。Aの類型としてはA①.各組織の根拠 法(保険業法,各協同組合法)にその事業として及びその事業のためにする 行為を商行為とする旨の会社法5条相当の規定を置く,A②.各組織の根拠 法中に会社法5条の準用規定を置く,A③.現行どおり特段の手当ては行わ ない,の三類型があり得る。次に,Bの類型としては,B①.商法の営業的 商行為に関する条項(商法502条)を改正し,9号の保険に相互保険や共済 が含まれることを明確化する,B②.同じく商法502条を改正し,そもそも の営業的商行為の概念を捨て,会社法の表現にあわせ,(保険以外を含め)

事業的商行為の概念に構成し直す(営業としてするときを,事業としてする ときに改正する),B③.各組織の根拠法に保険,共済を営業として行うと きは営業的商行為となる旨を規定する,B④.各組織の根拠法で営業的商行 為に関する商法の各規律を個別に準用する,の四類型が考えられる。Cにつ いては,C①.商法典中の保険法の中で,その適用対象が営利保険,相互保 険,各根拠法を持つ共済である旨を直接的に規定する,C②.商法典中の保 険法の中で,営利保険の規律を相互保険,各根拠法を持つ共済に準用する規 定を置く,の三類型が考えられる。

理論的には,A①+B②+C①+甲の組合せが,法形式と実質を合致させ るという観点からは最も理想的なものと評価されるが,他の選択枝(組合 せ)も否定されるものでは無い。後は具体的改正の在り方につき,法技術的 観点も踏まえ,すなわち我が国の法体系全体との整合性をも踏まえる中で,

法制的に決定されるべき問題と言えよう。

(筆者は日本生命保険相互会社勤務)

本稿脱稿後,落合誠一 会社の営利性について 江頭憲治郎先生・還暦記念・企 業法の理論・上巻 に接したが,引用が適わなかった。但し,本稿の所論に特に変 更はない。

参照

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