神戸女子大学文学部紀要 47 巻 23 - 42 2014
地域活動の資金調達におけるコミュニティ財団の役割
小 沢 康 英
The Community Foundation’s Contribution to Financing Social Enterprise Yasuhide OZAWA
はじめに
経済のグローバル化が進展し,ヒトやモノ,企業の移動テンポが速まるなかで,都市機能の整備が 新たに進められる地域がある一方,活力が急速に低下する地域が生じるなど,地域の取り巻く環境が 変化しやすくなっている。地域の生活や活力を安定・向上させていくには,地元企業や地方自治体の 行動に限らず,地域の住民自身も含め地域に存在する多様な主体との行き来を深め,地域の資産を有 効活用できる仕組みを整えていくことが重要となる。少子高齢化への対応,環境保全,安全性の確保,
教育・文化の充実など地域が抱える課題の解決に向けては,地域に存在するモノ・ヒトのつながりを 背景としたNPO(非営利活動組織)やコミュニティビジネスなど地域密着型事業の活動が広がって いる。
もっとも,地域密着型事業の展開においては,営利主体の企業と同様に,開発した商品やサービス を提供する体制を整えたり,事業を普及させていく際,設備資金や運転資金など資金面からの問題が 生じることが多い。地域密着型事業の運営のなかで地域に存在するモノ・ヒトからの寄与が欠かせな いが,資金面においても地元の資源(カネ)を有効活用していくことが重要となる。行政の財政運営 の厳しさが続くなか,民間主導により,地域に存在する資金を再認識,有効活用することで,各種事 業を推進することが必要と考えられる。地元資金の循環は地域金融機関が主な担い手ではあるが,地 域密着型事業の資金においては市民による資金提供の仕組みがつくられるなど多様性がみられる。そ の一環として地域住民が活動の主体となっている地域コミュニティ財団の設立が広がってきた。本稿 では,先ず地域における資金循環の動向を概観し,次に地域活力の安定・向上に寄与する地域密着型 事業の資金面の特徴や環境変化に関して考察を進めたい。
1.地域資金の有効活用を目指す地域密着型金融の展開
(1)経済のグローバル化の進展とローカルの再認識
欧州の経済面の統合にみられるように,1990年代から経済のグローバル化や市場の自由化が大きく 進展した。日本でも金融ビッグバンなど,金融面を始め規制の緩和が進んできた。グローバリゼーショ ンの進展は,経済の効率化に寄与するものの,企業間の競争を一層厳しいものとした。地域間の競合 も増し,企業が多く集まり,活力が増す地域と,企業が転出・減少し活力が低下する地域との格差を もたらした。また,国際金融取引における短期資本の急速な移動は,通貨・金融危機を引き起こした り,投機的な資金移動を活発化させることにもつながった。資本が急速に流出した地域では,資金循 環が滞って,景気が冷え込み,失業問題も深刻化する。
こうしたグローバリゼーションの進展に伴う弊害に関した対策としては,短期資本の移動に対する 規制の再検討,国際的な金融取引への課税強化など自由な活動への抑制や,世界中央銀行の設立など 国際的な信頼の強化があげられる。グローバルなレベルからの取り組みは,グローバルな金融システ ムへの信用確保に貢献しよう。ただ,グローバルな金融システムがより安定的に機能していくには,
「上から」の視点とともに「下から」の視点を大切にした取り組みも重要である。各地域には地元の 産業や社会の特徴を充分把握した上で資金提供を行うなど,地元経済社会と深い関わりを持つ金融機 関が存在する。地域活力の継続性をもたらす地域金融機関の存在が,環境の激しい変化を緩和し,安 定性を保つことにも寄与する1)。
(2)リレーションシップバンキングの機能強化を図る地域金融機関
(イ)地域密着型金融の推進
地域の活力維持に向けて,地域に存在する資源が重視されるなか,地域密着型金融の再構築も進め られてきた。経済活力の維持向上に向けては金融面でも,活動の自由度を高め,新たな技術やサービ スが創出されやすくなるよう,各種の規制緩和に取り組まれてきたが,金融自由化の進展に伴い,資 金移動が容易となったため,活力が低下した地域から資金が急速に出て行く懸念も高まった。こうし た地域からの資金流出を防ぐため,地域密着型金融の機能強化に取り組まれるようになってきた。地 域密着型金融の推進は,地域で集まった資金を民間主導により域内に循環させるもので,地域活力の 維持向上に寄与することとなる。日本より先行して金融面の規制緩和が進んだアメリカやイギリスで は,地域の資金を地域内に留めて活用する支援策が工夫されている。例えば,アメリカでは1977年に 地域再投資法(CRA)が制定されたが,1990年代から運営が強化された2)。地域再投資法は,営業地 域にある,低所得者やマイノリティが多く住む地域からのニーズを含め,多様な資金需要に対し,公 平に応えることを求めており,資金面からの地域経済への貢献を目指している。1995年からは地域再 投資法の適応範囲が融資に限らず,投資やサービスの提供などに広がり,社会的な投資を一層促すこ ととなった。また,衰退地域の振興を促すコミュニティ開発金融機関(CDFIs)に対する支援も拡 充された。地域再投資法関連の融資はアメリカにおける小規模・零細企業向け融資の約半数を占め,
利益水準も通常の融資と同等であるなど,金融機関による地域の資金循環機能の重要な要素となって
いる。
日本でも,金融庁による2002年の「金融再生プログラム」,2005年の「金融改革プログラム」のなかで,
地域金融機関は不良債権問題の解決と共に,地域密着型金融(リレーションシップバンキング)に関 する機能強化にも取り組まれてきた3)。地域金融機関は,都市銀行に比べ,個別の貸出残高の規模は 小さいものの,全体では大きなウエイトを占めており,地域経済の活力維持に重要な役割を担ってい る。地域密着型金融の推進においては,長期的な取引関係を基に企業の経営情報を的確に把握するな ど情報の非対称性を緩和することで,金融仲介機能の強化,ひいては金融機関自身の収益力確保が期 待されている。例えば,新たな手法を用いた事業再生への取り組みや担保・保証に過度に依存しない 融資の推進,経営相談・情報提供機能の強化などがあげられている。更に,既存の取引先にとどまら ず創業・新事業支援機能等の強化や,地域の利用者の利便性向上に向け地域貢献や地域再生への施策 等へ取り組みも重視されている。金融庁では地域密着型金融に関する取組みへの顕彰制度も設けてお り,2012年度においては,神戸の特色ある食品・生活雑貨等を扱う企業の販路拡大支援や,商談の場 を持ちやすいよう取引企業の意向に沿ったメッセ開催の支援などに取り組んできた神戸信用金庫が顕 彰の対象となった4)。このように地域の金融機関では,地域特性や利用者ニーズ等を踏まえ,リレー ションシップバンキングの着実な進展に取り組まれている。
表1 金融機関の業態別にみた店舗や預金、貸出金
(2012年3月末現在) 機関数 店舗数 預金(兆円) 貸出金(兆円) 構成比(%)
都市銀行 6 2,510 291 210 39.4
長信銀・信託等 8 344 45 42 7.9
地方銀行 64 7,504 221 162 30.4
地方銀行Ⅱ 42 3,129 59 45 8.4
信用金庫 271 7,535 123 64 12.0
信用組合 158 1,737 18 10 1.9
合 計 549 22,759 757 533 100.0
(資料)全国銀行協会「全国銀行概況」、信金中金総合研究所「信用金庫統計」、
全国信用協同組合連合会「ディスクロージャー誌」
もっとも,日本では,必ずしも民間主導による資金の域内循環の仕組みが整っているわけではな い。地域別の預貸率(貸出/預金)をみると,多くの地域では貸出より預金が多く,地域の資金が必 ずしも地域の企業活力の維持・向上に利用されているわけではない。預金の余剰分は,安全度が高い 国債等で運用されたり,資金需要の大きい関東を中心とした大都市圏に流出している。ただ,経済活 動が低調で,企業の資金需要が低迷しているなか,関東においても預貸率(貸出/預金)が₁を切る 状態が続いている。
0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
全国 北海道 東北 関東 中部・北陸 近畿 中国・四国 九州・沖縄
1995.3 2000.3 2005.3 2010.3
(資料)日本銀行「都道府県別預金/貸出金」
図1 地域別にみた預貸率(貸出/預金)
他方,銀行では国債の保有の割合が高まっている。国債等で集められた資金は,国の予算執行のな かで地域に還流される。また,地方交付税制度といった地域間の均衡を図る仕組みにより,東京など 税源の豊かな地域で納付された税金が他地域に分配されている。こうした官主導の資金還流の仕組み もあり,資金循環が極端に悪化している地域はみられない。むしろ,多くの地域で預貸率は近年低下 傾向にあり,官主導による資金還流の度合いが高まっているとも言える。経済のグローバル化に伴い 地域間の競合が厳しさを増しているが,地域密着型金融の機能を一層高め,地域の資金循環を民間主 導で推進する仕組みを築いていくことが重要である。
表2 全国銀行の「資産の部(貸借対照表)」の推移
1995年3月末現在 2000年3月末現在 2005年3月末現在 2010年3月末現在 計数(兆円) 構成比(%) 計数(兆円) 構成比(%) 計数(兆円) 構成比(%) 計数(兆円) 構成比(%)
現金預け金 87.6 10.4 38.6 5.2 43.6 5.8 31.5 3.9
有価証券 128.4 15.2 136.2 18.5 200.2 26.8 231.6 28.4 うち国債 28.7 3.4 43.3 5.9 99.6 13.4 130.7 16.0 貸出金 538.5 63.7 474.6 64.4 414.1 55.5 449.2 55.1
その他 61.8 7.3 44.5 6.0 −11.6 −1.6 −27.1 −3.3
合 計 845.0 100.0 737.2 100.0 745.9 100.0 815.9 100.0
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」
(ロ)新規事業の拡大への支援
地域の活力が維持・向上されていくは,既存企業による業容拡大や新事業の展開と共に,新たに創 業する企業の増加も必要となる。日本では企業の廃業率が開業率を上回る状態が続いており,如何に 新たな事業の展開を促していくかが,大きな課題となっている。地域金融機関による地域密着型金融 への取り組みが推進されているが,金融機関が長期的な取引関係を保っている企業は,創業から時間
が経ち経営基盤が一定程度整ってところが中心となる。経営基盤が整った企業が業容拡大や事業内容 の見直し,新事業の展開に取り組む際には,地域金融機関による寄与は多方面から可能となる。他方,
創業の準備中,創業間もない企業に関しては,地域金融機関による支援機能強化が図られているもの の,経営資源が十分でないこともあり,創業関連の資金調達は,自己資金や親族,友人,関係者から の支援,出資が中心となることが多い(田中,2003)5)。創業間もない企業は大きく成長する可能性 があるものの,その実現には不確実な要素も多い。創業を活発化させるには,地域金融機関からの資 金調達以外に,公的支援の適切な提供や供給資金の回収が保証されない資金を集める仕組みづくりが 大切となる。地域の活性化に向け,地域の様々な主体が関わることで,創業時の不確実性に対するリ スクを低減させる試みも広がっている。地域金融機関も単独で創業支援に取り組むより,地域の様々 な主体が関わるなかで活動したほうが,創業を支援しやすくなる。
(ハ)地域における創業に関する資金調達の多様化
ハイテク系の企業が必要な資金を調達する方法は,技術開発費用への援助といった公的な支援が拡 充されるなど,企業の成長段階に沿って体系的な整備が進んできた。創業の初期段階では,公的な支 援と共に,幅広い投資家層が,ビジネス・エンジェルとして資金面から創業を助ける仕組みがみられ る。日本でも,投資家(ビジネス・エンジェル)と起業家とをマッチィングする場を提供する環境づ くりが広がっている。ビジネス・エンジェルの投資動向をみると,大資産家ばかりが参加していると は限らず,₁回の投資額が50万円未満の場合もある。投資家と起業家とをマッチィングする場の設定 も様々で,特定の地域内で起業家が投資家に事業計画等を説明する機会もみられる。特定地域におけ るマッチィングが増すことは,地元資金を有効に循環させることとなる。
図2 ビジネスエンジェル1人1回当りの平均投資額
また,地域企業の信頼を基礎においた資金調達の仕組みも開発されている。例えば,企業の共同出 資で基金を設立,信用を補完し合うことで金融機関にも拠出を求め,新事業などの取り組みに運用す
る仕組み(コミュニティ・クレジット)がある。コミュニティ・クレジットは,a)構成企業相互の 審査・保証・監視等を通じて,コミュニティ内部で信頼のない企業が排除され,モラルハザードを起こ さない仕組みの工夫や,b)金融機関および構成企業相互の信頼関係を強めるための情報開示の徹底,
c)金融ストラクチャーの構築(投資分散,エクイティによる信用補完など)によるリスクコントロー ルなどが重要な要素となっている6)。資金貸付の実施においては,参加企業全員によるスクリーニン グが行われ,資金貸付を受けない企業が部分保証を受け持つ。 組合系の金融機関の融資においては,
組合員相互がよく知っていれば債務返済に関しても道徳的義務を果たすことが期待できることが暗黙 の前提となっているが,コミュニティ・クレジットでは参加者間の信頼関係をより明確化したものと いえよう。こうした相互保証の仕組みはイタリアの地域金融にみられる7)。中小企業が融資を受ける 際の保証機能として,日本の行政管轄のものとは異なり,イタリアでは地縁や同業など関連のある複 数企業により設立された保証組織(CONFIDI)が重要な役割を果たしている。CONFIDIは相互保証 を基本とした支援形態であり,世界銀行が発展途上国で展開しているクレジットの仕組みの見本にも なっている。
2.地域密着型の活動と資金的基盤
経済のグローバル化が進展する一方,地域の特性や資源を見直し,活力を取り戻そうという動きが 各地で広がっている。地域の金融システムへの信用も,健全な財政,透明性を有した安定した制度な どと共に,それらを支える市民やコミュニティの活動も重要な役割を果たす。神野(2001)は,新 たな地域の安定化は人の参加によることで形成されるとしている8)。また,佐伯(2000)は世界的な 貨幣的交換モデルと対立あるいは均衡するものとして,地域に根ざした物財交換モデルをあげてい る9)。とはいえ,地域が市場経済から隔離された,自給自足の生活を目指しているわけではない。地 域の課題を新たな需要と捉え,地域内で活かされていないモノやヒトなどの資源を見直し活用するこ とで,需要と供給をうまく結び付けている事例は多い。高齢者介護,環境保全,安全性の確保,教育 などは,域内に様々な面で需要をもたらす。また,地域の文化を再確認し情報発信することで,外来 者が増える,特産品として喜ばれるなど,域外の関心を捉えることが可能となる。こうした地域住民 の視点を活かした連携活動はモノやヒトなど地元資源が重要な役割を果たすものの,モノ・ヒトの連 携活動が活発になるには,活動の流れとは逆の方向を示す資金面からの流れを円滑にすることも必要 となる。
(1)広がる地域密着型事業
地域活力の維持向上に寄与する新たな創業には,ハイテク系の企業や新規業態の商業・サービス業,
社会福祉関連の企業などがある。加えて,NPO(非営利活動組織)やコミュニティビジネスなど事 業性を有した地域密着型の活動も,地域活力の維持向上に一役を担うこととなる。地域の生活の場か らは,高齢者向けなど福祉に関するもの,リサイクルや自然食品など環境保全に関するもの,歴史・
文化資産をいかした観光・交流の活発化など,様々な需要が生じる。こうした需要に対し,明確なミッ
ションを掲げ課題に取り組むことが地域の変革に寄与する10)。様々な地域活動は所得機会にもなる。
NPO法人の認証数は,2012年度には₅万件近くにも達している。認証数の推移をみると,2000年代 に入り動きが盛んになり,近年ややペースが落ちてきたものの年間2,000件ほどの増加が続いてきた。
図3 NPO法人の認証件数の推移
地域の生活の場から生じる需要は,高齢化が進展し,職場で過ごすより,生活の場で活動する人々 が増加するとともに,一層拡大するものと見込まれる。高齢者の増加に伴い,高齢者関連の福祉に関 する需要は拡大するであろうし,生涯学習やレジャーなども時間に余裕のある高齢者向けのものが盛 んになっている。他方,生活の場において高齢者が増加することは,地域密着型事業を提供する側の 人が増加することも意味する。職場で蓄えたノウハウを地域の活動に活かしていく人が増えていけ ば,従来とは違った視点からの活動も新たに立ち上がってくる。例えば,出版社に勤めていた人が退 職後,地域のなかで活動することにより,ミニコミ誌も従来とは異なった切り口のものが出てくる。
地域に存在する特色ある建物のメンテナンスなども,建築関連の人材が参加することで,より的確な 対応が可能になる。
(2)地域密着型事業の活動資金の確保・調達
もっとも,地域に根ざした連携活動の展開は,地域経済の活性化や,生活の質の改善,参加者の生 きがいなどに貢献することが期待されるが,地域密着型の活動が立ち上がれば,それがすぐに地域が 抱える問題の解決,生活の質の向上につながるとは限らない。営利主体の企業の創業同様に,事業を 軌道に乗せていくには,安定した需要の確保と共に,事業開始時における準備資金や円滑な運営を支 える運転資金などの資金調達も重要な要素となる11)。例えば活動のなかで,事務所の家賃や水道光熱 費,スタッフの給料・アルバイト代,会報誌の制作・印刷費および郵送費,文具などの消耗品代な ど,運営に関わる様々な資金が必要となってくる。こうした資金が団体の代表など特定の個人の持ち
出しで賄われる状態では,継続性が難しくなる場合もあるし,特定の資金の出し手の意向が強くなり すぎ組織としての活動が難しくなる懸念もある。法人や団体が継続的に自立した活動を確保していく には,団体としての資金調達が重要となる。
地域密着型事業を行う法人や団体が活動の資金を確保していく方法には,会費,寄付金,補助金,
委託収入,物品販売やサービス提供に伴う自主事業収入,借入などがあり,企業の資金調達に比べ多 様性がみられる。
①入会金・会費収入
活動への賛同者が加入する会員制を取る組織では,会員から入会金や定期的な会費を集める場合が 多い。会員から継続的に払われる会費は一口あたりの金額が小さいものの安定した収入源となる。
②寄付金・協賛金収入
活動の目的や内容に賛同する個人や企業から資金の提供を受ける。中間支援組織を通じて資金を受 取る場合もある。利用使途の自由度が高いものがある一方,使途が限定され成果が求められる場合も ある。単発的なものも多く,あくまでも臨時収入と捉えて事業計画を立てることが大切となる。
③補助金・助成金
新規事業・事業展開などの資金となり,資金提供者は行政の場合が多い。他の法人・団体と競合と なり,補助金・助成金を獲得するためには申請をして審査を通る必要がある。資金提供者の施策動向 を反映しており,継続性・独自性に欠けることもある。
④委託事業収入
法人・団体が有する専門性に基づき,民間企業や行政から事業の委託を受け,成果に対する報酬を 得る。事業遂行に向け安定した事業実施体制も必要となる。委託に際しては,他の法人・団体と競合 となる場合が多い。
⑤自主事業収入
法人・団体が開発した商品の販売売上げや,法人・団体が提供するノウハウ・サービスへの料金で あり,事業志向が強い法人・団体では主な収入源になる。但し,NPO法人など非営利性の法人・団 体では,事業からの利益を正会員など構成員に分配しないことが求められる。活動に伴う収益は原則 課税対象となる。
⑥借入
代表者からの個人的な借入の他,一般の法人と同様の金融機関などからの融資,市民が自発的に出 資した資金に基づいて活動しているNPOバンクからの融資などの形態がある。融資を受ける場合 は,活動目的や事業内容,返済計画などに関する審査を通過する必要がある。
これらのように活動資金の確保・調達方法は様々であるが,地域密着型事業の法人・団体の活動目 的や事業の内容,運営資源に合った方法が検討・選択されている。地域にとって望ましい商品やサー ビスの提供体制を整えても,顧客としての地域住民への理解・浸透が進まず,賛同者や取扱量が増え
なければ,人件費や事務所の維持費など,資金面からも厳しい状況が続くこととなる。中小企業基盤 整備機構が行ったNPOに関わるアンケート調査(2009年)によると,収入内訳の構造としては,自 主事業収入(37.1%),行政・民間からの委託事業収入(24.4%)の割合が高めとなっている12)。収入 構造をNPOの特徴別にみると,事業型NPOでは,自主事業収入(48.4%),委託事業収入(26.8%)
が主体となっているが,慈善型NPOでは,自主事業収入の割合(22.4%)の割合が下がり,入会金・
会費収入(21.8%),寄付金・協賛金収入(11.3%),補助金・助成金(17.0%)の割合が高めとなっ ている。
図4 収入内訳の構成比
もっとも,入会金・会費収入や寄付金・協賛金収入,及び自主事業収入や委託事業収入で十分に活 動資金が賄われているわけではなく,上記のNPOに関わるアンケート調査から借入金の状況をみる と,全体では約₃分の₁が借入金残高を有しており,そのうち事業型NPOに絞ると約半数が借入れ を行っている。借入金残高が無い団体においては,「借入れをしてまで,事業を実施・拡大すること は考えていない」との意見が多く,収入資金に十分な余剰があるという訳でもない。借入金の借入先 は,NPOの代表者等の個人からが7割強を占め,金融機関からの借入れは低調となっている。金融 機関からの借入れに際しての問題点としては,NPOの社会的ミッションや役割を理解してもらえな い,役員に対して保証人になることが求められる,物的担保が求められるなどがあがっている。
図5 現在の借入残高に対する借入先(複数回答)
事業性を有した地域密着型の活動が一層活発化し,地域の活力回復や生活の質の向上が実現してい くには,地域内の連携を深め,物的,人的資源を今以上に活用していく体制を整えていくことが欠か せないが,モノやヒトの活動の流れとは逆の方向を示す資金面からの流れを円滑にすることも重要と なる。地域密着事業の資金繰りに関してNPOの代表者等の負担を軽減し,資金面からの流れを円滑 化させていく仕組みを整えていくことが大切で,地域密着型事業の立ち上げに対しても,ハイテク企 業の創業を支援するビジネス・エンジェルのような,地域の幅広い層から資金調達が可能となるよう な仕組みが必要であろう。
3.地域に根ざしたファイナンス・サービス
地域密着型事業の活動は地域住民の暮らしを豊かにすると共に,急激に変動するグローバル経済の 動きを和らげることにも寄与する。地域活力の安定・向上に資する地域密着型事業の展開においては,
モノやヒトに加えカネの流れの確保に関しても,金融機関に限らず,地域住民など地域で活動する多 様な主体の参加がみられる。カネの流れにおける多様な主体の参加は,地域の資金を地元に安定的に 留保,循環させる仕組みの構築につながる。こうした地域の資金循環に関して,資金の供給側からの 取り組みをみていきたい。
(1)中間支援組織を通じた市民セクターからの資金供給
NPOの増加と共に,NPOセンター,NPOサポートセンターなどという名称を持つ,中間支援 組織の設立が進んだ。中間支援組織は,NPOの創業や運営に関わる支援を主目的としており,地域 の課題解決に向けて行政,地域住民,企業など地域の多様な主体が協働できるよう,地域の住民同士,
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地域住民と行政,行政と企業などの間に立って,その仲介役として中立的な立場で,それぞれの活動 を支援している。中間支援組織の活動が活発化するなかで,地域住民や地元企業といった市民セクター の資金をうまく取り入れていく仕組みも工夫されてきた。
中間支援組織は,NPOやコミュニティビジネスなど地域密着型事業の創業支援のなかで資金面 に関しても地域金融機関や行政などとの橋渡しの役割に努めてきた。ただ地域金融機関からの融資 は,創業関連の資金には必ずしも適さないこともあり,既存の金融機関とは別に,地域密着型事 業の支援組織である中間支援組織が,独自に資金供給に関する組織を整え,資金面からの支援に 取り組んでいる事例もある。例えば,北海道では地域のNPOと地方自治体が協力して,融資機関
<NPOバンク>が設立されている。<NPOバンク>は,地域住民,地元企業,行政,NPOなど 様々なサポーターからの出資を受ける「NPOバンク事業組合」と,「NPOバンク事業組合」に集まっ た資金を無利子で借り受け,その資金を原資に審査を通過したNPOやワーカーズコレクティブに融 資を行う「北海道NPOバンク(NPO法人)」で構成されている。NPO法人自身では出資金を集 めることが出来ないので,₂段階の仕組みとなっているが,地域内における資金循環を促す仕組みと なっている。融資を受けた資金は返済が必要となるが,毎月返済していくことが事業者の自信や事業 継続への意識の高まりを育むことにも役立つ。
また,融資という形態の他に,寄付という形式で市民セクターの資金を集め,中間支援組織が選定 した地域密着型事業に資金供給していく方法や,特定の公益的な事業に直接的な出資を地域住民や地 元企業に対し募る方法もある。寄付の形式においては中間支援組織が「認定NPO法人」という形態 を整えることが多い。「認定NPO法人」になることで,寄付をしてくれた地域住民,地元企業が寄 付金控除に関する税制上の措置が受けられるようになり,寄付へのインセンティブとなる。近年では 一般財団法人や公益財団法人という形態を整える中間支援組織も出てきた。一般財団法人・公益財団 法人の形態をとる中間支援組織は,市民コミュニティ財団や地域コミュニティ財団などと呼ばれてい る。
(2)地域金融機関を主体とした企業セクターによる資金供給
欧州では,協同組合,社会的企業など社会性を有した経済活動が1970年代以降盛んとなったが,こ の動きに対応して,社会的銀行とかコミュニティ金融などと呼ばれる商業的な融資と慈善資金の中間 に位置する資金供給の仕組みが発達した。 例えば,基金をもとにした小規模起業融資・ワーカーズコ レクティブ融資や,信用組合型組織による小規模ビジネスのための融資・株の形態での貯蓄,相互保 証協会による会員ビジネス共同出資・銀行融資の利用などがある13)。イギリスでは,1990年代から自 治体,企業,ボランタリーセクターの三者のパートナーシップにより地域再生を試みる施策が始まっ たが,地域再生の計画自体は自治体が作成するものの,地域の再生事業の立ち上げ・活動拡大の際は,
コミュニティ金融が重要な役割を果たした。
日本でも,地域密着型事業など公益的な事業に対して,資金を提供する仕組みを持つ地域金融機関 が出てきている。中間支援組織と提携し,NPOやコミュニティビジネス向け融資を行っている地方
銀行もある。地方銀行と提携している中間支援組織は,大手銀行のOBが中心メンバーに入っており,
事業計画書の作成支援など創業や運営のノウハウも提供している。また,信用金庫や労働金庫など協 同組合系の金融機関においても,営業エリア内で活動が安定してきたNPOに対して,運転資金や設 備資金などの資金を提供するところが増えてきている。
また,企業セクターによる事業密着型事業に対する支援に関して,融資という形態ではなく,企業 の社会的責任(CSR)に関わる活動の一環として行われる場合もある14)。企業のCSRのなかで物 品の提供に限らず,委託事業やNPOが開発した商品の購入などを通じて資金提供する場合もある。
物品や資金の提供という形でかかわる場合,企業としても公平性や公正性への配慮が欠かせないた め,中間支援組織を通すことなどによる対応が行われている。
(3)行政セクターによる支援の拡充
地域密着型事業の運営や事業立ち上げの際に資金調達の確保が重要な課題となっているが,現状で は資金調達の手段が限られている。ただ,経済の低成長が長期化し,厳しい雇用所得環境が続くなか,
地域密着型事業が有する生活改善や雇用所得機会の提供といった効力への期待もあり,行政セクター による地域密着型事業への資金面からの支援も講じられるようになった。
例えば,子育て・高齢者ケアサービス,社会人向け教育サービスなど地域に貢献する事業を新たに 設立した場合の支援として,再就職希望者を一定数雇用した団体に奨励金を支給する制度が設けられ た。雇用者受入に関わる支援は創業へのインセンティブとして働く。雇用といった観点とは別に,地 方自治体では委託事業の拡大や中間支援組織向けの支援など,地域密着型事業との協同も広がってい る。中間支援組織の育成に力を入れることで,地域密着型事業が活発化することが,結果的には,行 政が直接,公共サービスを提供したり,個別事業にそれぞれ支援をするよりも,効率的な公共サービ スの提供,新規性を有した公共サービスの実現につながりやすくなる。
また,地域住民の地元の活動に関心を高めてもらい,地域内の資金循環を促すという点からいうと,
地方自治体が発行するミニ公募債(住民参加型ミニ市場公募債)も,地域に根ざした資金調達方法の 一つにあげられよう。ミニ公募債を購入できるのは一般的に,発行する自治体内に居住または通勤す る人,拠点を置く法人などで,地域内の資金循環に寄与する。兵庫県や神戸市も既に発行実績があり,
小中学校や公園,人と防災未来センターなどの整備に活用されている。また,市民から資金を集め地 域で循環させる仕組みという点では,企業向けの資金調達となるが横浜市では,個々の貸出金を束ね 証券化することで,市民からの資金を活かす仕組みを整えている。
以上のように,日本でも地域活力の安定・向上に向け,金融機関による資金循環に限らず,地域内 に存在する住民や企業が有する資金・信頼を活用する試みが広がっている。
4.各地で広がる地域住民によるコミュニティ財団の設立
地域密着型事業への資金の供給方法に関しては,中間支援組織,金融機関や地元企業,地方自治体 など様々な主体による取り組みが広がってきている。ただ,地域で新たに発生してきた課題に関して
は,行政の認識は直ぐ高まらず,また課題解決に係わる需要が小さく借入返済の計画が立て難いなど,
課題解決に向けた事業を立ち上げる際の資金調達の方法が限られる。地域では様々な課題が新規に顕 在化しており,必要性が高いものの需要が小さい事業支援に関して,資金使途や返済などへの縛りが 少ない寄付への関心が高まってきている。
以下では,市民セクターからの寄付を主眼においた資金の供給方法への取り組みのなかで,地域住 民が活動の主体となっている地域コミュニティ財団についてみていきたい。
(1)各地で設立が広がる地域コミュニティ財団
(イ)公益財団法人の形態を整えた地域コミュニティ財団設立の広がり
地域密着型事業の創業や事業継続を支援する中間支援組織は,モノ,ヒト,カネなど様々な経営資 源に関して,地域住民同士,地域住民と地元企業や地方自治体などとの橋渡しの役割を果たしてきた。
資金面の支援に関しては仲介役にとどまらず,中間支援組織自体が地域住民や地元企業の資金を地域 密着型事業につなげる資金循環の役割を担う仕組みを整える組織もある。地域住民や地元企業からの 寄付により資金循環を促す組織は,認定NPO法人や一般財団法人,公益財団法人などの形態がとら れている。このうち近年公益財団法人設立への取り組みに広がりがみられるようになってきた。
地域密着型事業への寄付による資金提供の機能強化を目指した中間支援組織として設立される公益 財団法人は,コミュニティ財団などとも呼ばれている。京都府や沖縄県において先進的な取り組みが あり,ここのところ岡山県や愛知県,兵庫県などへ動きが広がってきた。
①公益財0団法人京都地域創造基金
2009年に300人以上の市民等の寄付をもとに設立された公益財団法人である。市民主体で集めた基 金による設立は日本初であり,以降の各地の取り組みのモデルにもなっている。市民・企業,また遺 産・相続財産からの寄付を京都のNPO・市民活動に届けることで,暮らしやすい豊かな地域社会づ くりに取り組んでいる。信頼ある事業を先に提示し寄付を募集する「事業指定寄付」や,地元企業と 連携したチャリティプログラム(例:カンパイチャリティ)などの特徴的な事業を展開している。
②公益財団法人みらいファンド沖縄
那覇市NPO活動支援センターの10周年記念事業として財団設立にむけた活動を(寄付者募集)を 開始し,2010年に設立された。NPOをはじめとする市民公益活動団体と,公益活動を支えたい企業,
個人等とを橋渡しするなど,諸資源の循環をもたらすことで,地域のあらゆる主体が公益を担い,沖 縄の未来を支え合う社会の実現に寄与することに努めている。
③一般財団法人みんなでつくる財団おかやま
NPO法人岡山NPOセンターが,行政の施策である「新しい公共担い手育成支援事業」の一環と して設立を支援した。500人を超える市民が発起人となり,寄付による約₄百万円を基本財産に2012 年設立。市民の寄付で設立された財団としては中四国地方では初で,社会課題解決を目指している。
④一般財団法人あいちコミュニティ財団
愛知県ではNPOバンクとして活動してきた”コミュニティ・ユース・バンクmomo”などが中心 となり,財団設立の活動が始まり,市民約650名・寄付総額約9.5百万円を基に2013年に設立された。
県内の地域課題を「見える化」し,その解決に挑む市民公益活動団体を資金面から支援することで,
安心できる地域の未来づくりに取り組んでいる。
⑤公益財団法人ひょうごコミュニティ財団
兵庫県では認定NPO法人「市民活動センター神戸(KEC)」など,地域の公益活動を支える兵 庫県内各地で活動する₆団体の中間支援組織が集まり,県から委託を受け準備を開始した。地域が抱 える課題は多岐にわたり,公益活動を行う団体も多いため,KECなどの₆団体は全県的な視野が必 要と判断し,共同で準備を推進。「ひょうごコミュニティ財団」は2013年₆月に,100人を超える市民 が発起人となり約₃百万円の寄付を基に,一般財団法人として設立され,その後,同年₇月に公益財 団法人となった。
(ロ)コミュニティ財団の活動内容
コミュニティ財団では,寄せられた様々な寄付金を基金として財団が一括して管理・運用し,公益 に資する活動をしている法人・団体等に助成・資金供給をしている。助成先・資金供給先の選定は財 団が行う。寄付した個人や企業の思いを尊重した,いわゆる「冠プログラム」,強い志向は無いもの のある程度分野を絞った「テーマ別プログラム」といった先に寄付による資金ありきのものや,逆に 先ず地域の課題に向けた事業・活動団体を選定し,その後選定された事業・団体を対象とした寄付を 募っていく「事業指定プログラム」など,様々なメニューがある。寄付金を集める方法も直接資金を 提供してもらう他,寄付つき商品を開発し販売を通じて資金提供してもらう方法もある。事業財団の 規模が大きくなると寄せられた基金は,単一の固まりではなく,様々な思い・テーマ・プロジェクト 毎に区別し運用・助成され,マンションのような形態となる。財団への寄付金は,寄付した個人・団 体にとって税制上の優遇措置の対象となることが多い。
(2)地域住民によるコミュニティ財団設立の広がりの背景
地域住民が発起人の主体となり設立されるコミュニティ財団(公益財団法人)が各地に広がる背景 には,中間支援組織が担う役割の拡大,非営利組織に関する制度改革,公と民による協働に対する意 識向上・深まりなどがあげられる。
(イ)中間支援組織の役割の広がり
地域住民によるコミュニティ財団の設立においては,NPOなど地域密着型事業の創業や運営を支 援する中間支援組織が母体になっていることが多い。中間支援組織は,自ら特定の公益活動を遂行す ることが目的ではなく,地域密着型事業の設立や継続的な運営に関して,地域住民同士や地域住民と 行政などとの間に立って,その仲介役として中立的な立場で,それぞれの活動を支援することを目的 としており,事業の実施主体と受け手との中間的な位置する組織として認識されている15)。地域の課
題を感じた住民が課題解決に取り組もうとしても,賛同者が集まり組織として活動が広がっていくに は時間がかかり,様々な障害が存在する場合も多い。これは事業の実施主体とモノやサービス等の受 け手との間,或いは資金の出し手と事業の実施主体との間で,必要な情報量が十分に共有できず一方 に偏りがある,いわゆる情報の非対称性が存在する為である。中間支援組織の存在・活動により,事 業の実施主体と地域住民・地元企業・地方自治体等との行き来が盛んになることで,情報の共有が深 まり情報の非対称性も緩和が進むことになる。
中間支援組織の活動は,NPOといった地域密着型事業そのものの認知度の向上を図る段階を経 て,より具体的な支援の拡充,新たな課題の認知・解決方法の発見など内容が変化,多様化してきた。
中間支援組織が提供する支援策も,団体により得意分野に違いが出てきており,ヒトやモノ,情報の 仲介を主体とする団体,資金面からの支援の仕組みを整えている団体,更に,資金面からの支援の仕 組みと共にヒトやモノ,情報の仲介の両者を行う組織もある。こうしたなかで,資金面からの支援の 仕組みと共にヒトやモノ,情報の仲介の両者を行う組織が地域住民によるコミュニティ財団設立への 推進役・母体となることが多い。例えば,あいちコミュニティ財団はNPOバンクであるmomoが活 動を先導する役割を果たしてきたし,ひょうごコミュニティ財団は認定NPO法人であるKECのほ か₆団体が活動の母体となっている。
中間支援組織による資金面からの支援においては,地域金融機関や行政など既存の資金の出し手と 事業の実施主体との仲介の他,市民セクターの資金活用を目指して,NPOバンク(融資など)や認 定NPO法人(寄付など)など中間支援組織が主体となった資金循環機能を整える組織もある。中間 支援組織自体が資金循環機能を有する場合,事業の実施主体への資金提供の方法には,融資や寄付の 形態を取るが,寄付による事業創造・継続への支援を強化する必要性への認識が増してきた。
寄付による支援の強化が求められる要因には,先ず融資による資金提供の限界がある。資金提供の 方法の一つである融資においては,返済可能性を示す資金計画が明確である必要があるため,資金提 供できる先が限られてくる。地域密着型事業を行う事業体が増すなか,審査など事務的な対応に限界 が出てくる場合もある。事業性が低いものの公益性・必要性が高い事業に対する資金調達の方法には 会費収入や寄付金・協賛金が有効であり,資金面の支援機能を更に拡充していくなかで,寄付を通じ た支援の仕組みも重要な要素となる。
寄付による支援の強化が求められる要因の第二として,地域が抱える課題の多様性がある。行政と 地域住民,各種団体による協働は2000年代に入ると徐々に広がり,公と民との協業のなかで,行政か らの補助金・助成金や委託事業も増えていった。行政との協働の拡大は,地域密着型事業の活動資金 源の安定化をもたらすと共に,地域の福祉,教育,環境など様々な課題解決に貢献した。もっとも,
地域では様々な課題が新たに顕在化してきているが,行政との協働は,行政の施策という行政の視点 が主体になることもあり,地域住民の視点からの地域の課題解決につながらない場合もある。また,
行政からの委託事業は,必要性がより強く顕在化し予算化された分野に限られるが,地域の課題には,
行政が認識できていないものもある。行政による認識が低く,需要量も大きくはないものの,地域で 必要とされている事業を推進していくには,市民セクターの資金を集める必要がある。需要量が小さ
く採算が取れない事業の場合,借入による資金調達は難しく,会費収入や寄付金・協賛金による方法 が主体にならざるを得ない。このため地域の課題を新たに感知,「見える化」させ課題解決に取り組 んでいくためには,寄付による事業創造・継続への支援を強化することが重要となる16)。
先にみた,中小企業基盤整備機構が行ったNPOに関わるアンケート調査によると,今後増やして いきたい収入項目としては,現状の収入項目の構成比と比較して,事業型NPO,支援型NPOとも に寄付金・協賛金収集の項目の割合が大きくなっており,活動が継続・拡大するかなで,寄付金・協 賛金収集への期待がうかがわれる。
図6 今後増やしていきたい収入項目
寄付を募るには,課題解決への取り組みの必要性や志の強さを情報発信する必要があるものの,動 きが出てきたばかりで組織や知名度など存続基盤が強固でない組織や団体では,地域への情報発信が 十分できない場合もある。寄付による資金循環機能を有した中間支援組織が地域の問題解決に向けた 事業の必要性や事業者の志の強さなどをしっかりと把握し,市民セクターから集めた資金の供給先を 選択することが,寄付を行った地域住民や地元企業のニーズを的確に反映していくこととなる17)。寄 付を行った地域住民や地元企業の満足度を高め,寄付のリピーターとなるよう,地域密着型事業から の情報発信を推奨し,地域密着型事業と地域住民・地元企業との情報循環も進むような工夫を行って いる財団もある。
(ロ)非営利法人・公益法人の制度改革
各地で地域住民によるコミュニティ財団の設立が広がっているが,組織の形態として,公益財団法 人と一般財団法人との違いがある。先ず,公益財団法人や一般財団法人についてみていきたい。
2008年に非営利法人・公益法人の制度改革が行われた。2008年12月より前は非営利法人・公益法人 は,社団法人,財団法人,NPO法人(特定非営利活動法人)の₃種類であったものが,2008年12月 以後は,一般社団法人,一般財団法人,公益社団法人,公益財団法人,NPO法人の₅種類が設定さ
れた。制度改革に伴い社団法人・財団法人は₂段階に分けられ,第1段階目の一般社団法人・一般財 団法人と,第₂段階目の公益社団法人・公益財団法人とが設けられた。このため既存の社団法人・財 団法人では組織の見直しが必要となった。
第₁段階としての一般財団法人の設立においては,非営利性(利益を正会員など構成員に分配しな いこと)が設立要件となり,設立者が300万円以上の財産を拠出し定款を作って登記をする必要があ る。従来の財団法人と比べ,比較的自由に事業を行うことができ,法人設立においても,制度改革以 前は財団主務官庁の許可が必要であったものが,一般財団法人は法務局に登記することで設立する事 ができるようになった。こうした非営利法人・公益法人の制度改革が,それまで中間支援組織におい て認識の薄かった公益財団化への動きを呼び込んだと考えられる。ただ,地域コミュニティ財団の設 立においては,市民による,市民のための活動を目標としているところが多く,多数の市民から少し ずつ寄付を募集する活動が展開されている。
第₂段階目の公益財団法人の設立にあたっては, 非営利性に加え,公益性(不特定多数の利益実現 の追求)が要件となる。まずは,第₁段階として一般財団法人を設立してから,公益認定を申請し,
第₂段階目の公益財団法人の設立を目指すこととなる。非営利法人であるNPO法人においても直接 に公益認定の申請をすることはできず,先ず一般財団法人を新たに設立した後に,公益財団法人の設 立に向けた認定の申請を行政に行う必要がある。一般財団法人が公益財団法人になるには,様々な公 益認定基準を満たしていることが必要となる。各種の基準や要件を満たし公益財団法人としてふさわ しいかについて有識者などで構成される審議会等の場で検討・判断が行われ,その上で行政から認定
(公益認定)を受けることになる。
認定を受けた公益財団法人は,公益目的事業とされた収益事業が法人税の課税対象外なり,事業か ら出た収益を全額公益活動に再利用できるなど公益財団法人自身が税制面での優遇が受けられると共 に,公益財団法人に対して寄付を行う個人及び法人も寄付金控除に関する税制上の措置が受けられる ので,寄付金を集めやすくなる。また,設立が認められれば,公益財団法人という表示ができるよう になり,従来型の公益法人が培ってきた,団体名称への信頼,評価を活用することができるようにな る。公益財団法人の設立の動きをみると,従来からあった組織の転進が一段落する一方,新たな公益 財団法人の設立の動きが増している。
また,寄付を募る団体で,寄付金が税制上の優遇措置の対象となる組織にはNPO法人のうち,活 動の公益性の高さが認められた認定NPO法人がある。中間支援組織が寄付による資金支援機能を強 化するため,認定NPO法人設立の動きが先に広がったが,その中から,より多様な活動を目指した 組織が単独,或いは複数集まって公益財団法人の設立に取り組むようになっている。
(ハ)市民と行政との協働への意識向上,信頼感醸成
厳しい財政事情が続く一方,少子高齢化への対応,環境保全など様々な地域の課題が存在するなか,
地域活力の安定・向上を図る際,行政のみがその役割を担っていくには限界があることから,地域の 住民や地元企業の公共分野での活動が活発化してきている。こうした公共に関する公と民との協働へ
の取り組みにおいては,NPOやコミュニティビジネスといった地域密着型事業も大切な役割を担っ ている。地域密着型事業に関しては行政から委託事業を請け負い,成果をあげることなどを通じて,
行政に限らず地域の住民・企業に対しても,役割の認識や活動内容への理解が深まってきた。公と民 との協働において,地域密着型事業などの民の役割は,行政の施策の代替的な役割を果たすだけでは なく,行政の気付いていない地域の課題を自ら感じ,改善に動くなど自律した活動も行っている。初 谷(2012)は地縁組織とNPOとの葛藤を乗り越え協働を推進するなど,多様な主体がともに参画す る地域共治主体による空間管理やNPO政策の可能性を更に検討していく必要があるとしている18)。 こうした公と民との協働への意識向上,信頼感醸成は,公益財団法人型としての地域住民が発起人 の主体となったコミュニティ財団の設立が広がる背景にもなっている。非営利法人・公益法人の制度 改革以前では,公益法人を設立するハードルは高く,公益法人は従来どちらかといえば行政や大手企 業が基盤となった団体により設立された。市民セクターからの寄付を地域の課題解決に役立てること を目指したコミュニティ財団は制度改革前にも設立されていたが,団体の基盤は大手企業が主体と なっている。このところ多数の地域住民による寄付が基盤となった新たな公益財団法人設立の動きが 広がっているが,公益認定を得るには有識者などで構成される合議制の機関等による審議を経ること が必要であり,行政や地域の住民・企業など幅広い層からの地域密着型事業に対する役割の認識や活 動内容への理解の深まりが必要となる。地域住民によるコミュニティ財団の設立の広がりには,非営 利法人・公益法人改革の効果と共に,地域住民と行政の双方からの協働への意識の変化や信頼感が培 われてきたことが大切な基盤となっている。
地域住民が主体のコミュニティ財団が公益財団法人になるには,基金の募集や様々な公益認定基準 を満たすなど多くのハードルがある。このため,公益財団法人としてのコミュニティ財団設立の行程 のなかで,地域の住民・企業や行政など幅広い層からの理解や協力が一層深まろうが,公益財団法人 に認定されることにより,更なる信頼度の向上が見込まれる。また,地域住民が主体のコミュニティ 財団は都道府県単位での設立が多く,中間支援組織の従来の活動範囲に比べ,広い範囲での寄付募集 及び寄付先の選定を行うなど,活動の地域的広がりがみられる。活動の地域的広がりも,公益財団法 人の信頼度向上に寄与しよう。
こうした信頼度の向上は,寄付が集まりやすくなるほか,各種アライアンスの円滑化にも貢献する。
資金面の支援に取り組む中間支援組織は,寄付による資金面の支援にとどまらず,様々な面からの支 援策の提供に努めているところが多い。寄付による資金面の支援においても,市民セクターからの寄 付の受け皿という受動的な機能の他,地域住民や地元企業からの寄付が集まりやすくなるような能動 的な工夫に取り組んでいる。様々な支援策を検討する過程では,地元に存在する企業や団体などの資 源の有効活用も必要で,各種連携を構築するうえではお互いの信頼感が重要な要素となる。公益財団 法人への認定に伴う信頼度の向上は各種連携を円滑化させることから地域密着型事業への支援策の拡 充にもつながる。
例えば,地域金融機関とのアライアンスにより,地域金融機関が提供する融資制度の活用も深まる。
これまでも地元金融機関との連携がなされてきたが,連携を組む金融機関数の増加や信託機能を利用
した資金提供商品の開発など支援策の拡充が可能となる。また,中間支援組織が地元企業と連携し寄 付が集まりやすいような仕組みづくりをしている場合もある。京都では,醸造会社と連携し寄付つき のワインの開発・販売が行われている。
(3)資金の提供方法の多様化による地域密着型事業の財務基盤強化
コミュニティ財団からの寄付の形態による資金の提供は,地域密着型事業を取り巻く金融環境の改 善につながるが,特に創業時における資金面の困難性を緩和させることに役立つ。また,各種アライ アンスによる支援策の拡充を通じた地域密着型事業の資金環境の改善は,事業運営時の資金繰りの安 定にも寄与する。こうした財務基盤強化が活動期間の長期化や活動範囲の拡大などをもたらし,事業 の安定性,発展の継続性が一層増すこととなる。安定した活動を継続的に行う地域密着型事業に対し ては,これまでNPO等との取引になじみの薄かった地域金融機関においても融資という形式で資金 提供がしやすくなる。更に,安定的な活動を行う地域密着型事業の数が拡大していけば,地域金融機 関の地域密着型事業に対する融資残高が増していく。コミュニティ財団は,地域の資金を地域のため に活用する点火機能を果たしているが,地域金融機関による地域密着型事業への貸出増加は,地域の 資金を地域のために活用するより大きなうねりになる。こうした役割分担を通じた資金供給の動きを 確実にしていくことが,地域の資金を地域の活力の維持向上に利用していく地域内の資金循環の流れ をより大きなものとしていこう。
5.評価の獲得に向けた積極的な情報発信
地域密着型事業は,地域住民に限らず他の非営利団体,地方自治体,営利目的が主体の企業,金融 機関など多様な利害関係者(ステイクホルダー)に支えられている。そして多様なステイクホルダー との行き来を密接にすることで,事業展開がより円滑化する。地域密着型事業の創業において,提供 する商品やサービスが地域に安定や活力をもたらすという面では理解が得られたとしても,ステイク ホルダーが活動の内容を十分把握していない場合も多く,活動開始の準備や顧客の確保が保証されて いるわけでもない。地域密着型事業の活動を開始・継続していくうえで,地域にどのようなステイク ホルダーが存在するのか認識し,各ステイクホルダーに組織の仕組み・活動の内容などを理解しても らい,評価を得ていくことが必要となる。多様なステイクホルダーから理解や評価を得ていくために は,情報公開(意思決定の仕組みや,事業活動の内容,会計報告など)を進め,地域に情報の共有化 を働きかけ,相互理解を求めることが重要である。特に資金調達に関する支援を得ていく際には,支 援先との間で濃密な情報のやりとりを行い,支援側のモニタリング機能に十分応えていくことが欠か せない。
また,新たな地域密着型事業の推進者が情報公開機能を強化する際,様々なステイクホルダーから の評価を高めていくには,積極的な情報提供の姿勢維持とともに,提供する情報の質を高めていくこ とも大切となる。情報の質向上の向けては,他の機関・団体が提供する評価システムの活用が考えら れる。安定的な評価システムを採用することで,継続的な改善に取り組めるとともに,対外的な説明