︿論説﹀
会 計 監 査 人 の 第 三 者 に 対 す る 責 任
ー 1 そ の 比 較 法 的 考 察 を 中 心 と し て
会計監査入の第三者に対する責任
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一はじめに 黒木松男
わが国における監査制度は︑昭和四九年の商法改正と﹁株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律﹂(以
下︑監査特例法と略す)の制定および同五六年の商法ならびに監査特例法の改正によって︑抜本的な改革がなされた︒
とくに︑山陽特殊鋼事件に代表される粉飾経理の問題およびロッキード︑グラマン等の航空機疑惑事件などの会社の
不祥事件を解決するために︑監査役の地位の独立性の確保や権限の強化がはかられ︑外部的監査機関として会計監査
人制度を新設し︑会計監査人の地位を強化してきた︒このような監査役や会計監査人の職務の重要性を強調する反
面︑その職務を適切に遂行しなかった揚合の責任も同時に強化したのである︒従来︑監査役の第三者に対する責任を
( 1 )
追究した事件は枚挙にいとまがないが︑会計監査人である公認会計士や監査法人に対する責任追究をした例を聞かない︒その原因は︑わが国の特殊な非法律的風土に起因するといわれている︒すなわち︑わが国の投資者は諦めが早く
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訴訟を嫌う傾向があり︑また︑信用調査部門をそなえた銀行その他の大企業の場合には︑取引先の不正経理を看破で
きなかったことを自ら公にすることになり︑面子の上からもできないというのがその主な理由としてあげられてい
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る︒しかしながら︑このような事態が将来も継続していくとは到底考えられない︒先にあげた昭和四〇年三月の山陽特殊鋼の倒産をはじめ︑昭和五〇年代は︑ニクソン・ショックやオイル・ショックのあおりをうけて︑同五〇年八月
の興人︑同五一年=月の東洋バルブ︑同五三年二月の永大産業︑同年四月のヴァン・ジャケット︑最近では︑同五
六年一二月の北炭夕張炭鉱など︑本格的な大型倒産が続々と報道された︒これらの多くの倒産事件では︑確かに︑企
業経営の執行責任という見地から︑その責任追及の標的は︑すべて社長あるいは︑代表取締役であり︑監査役あるい
( 3 )
は会計監査人が何らかの形で責任を問われまたは訴えられた事例はほんの数えるほどしかない︒また︑ロッキード︑グラマン等の航空機疑惑などの企業の不正事件においても︑このことは同様であった︒しかし︑昭和四九年以降の商
法改正作業は︑明らかに︑監査役あるいは会計監査人を︑企業の自主統制機構の頂点に存在するものとして︑その職
責の重要性を強調してきた︒昭和五六年の改正に伴い︑取締役の自己取引や無償供与等を監査報告書に記載すべきこ
とを省令で規定したのも︑この路線の一つのあらわれであろう(監査報告書規則七・一項参照)︒そして︑その職務を全
うしなかった揚合に︑監査役あるいは会計監査人の会社および第三者に対する民事責任を規定している︒したがっ
て︑今後︑監査役さらには会計監査人が︑会社または第三者からその責任を追及されるケースが増え℃いくことが当
然予想される︒本稿ではこのうち︑とくに会計監査人の第三者に対する責任に的をしぼって考察を試みることにす
る︒けだし︑企業の外部監査機関として︑また︑会計監査の職業的専門家として︑会計監査人は︑今後︑最も重要な
立場に立つものと考えられるからである︒このような公認会計士という職業的専門家による外部的監査を導入したの
は︑わが国では︑昭和四九年からであるが︑諸外国においては︑かなり以前からこの外部的監査が行われている︒そ
こで︑本稿では︑イギリスとフランスの場合の会計監査役制度を概観しながら︑会計監査役の第三者に対する責任に
会計監査人の第三者に対する責任
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関する判例や学説を紹介しつつ比較法的に考察を試みることにする︒まず︑イギリスにおいては︑会計監査役の第三
( 4 ) ( 5 )
者に対する責任に関する規定は会社法には存在しないが︑判例法上︑d一#餌§鉾Φω事件︑O磐亀興事件および閏Φ亀Φ︽じd崔Φ穐という三つの袋的な先禦あり・これらを忠にして︑会計監査役の第三者に対する責任の問題を考
究している︒,つぎに︑フランスの場合は︑一九六六年七月二四日の商事会社法(い9コ︒①①凸鵯9鍾甘竃9一〇①αω¢同
一①︒︒ω︒︒一α鼠8ヨ目26巨①ω)の第二三四条一項に︑会計監査役の第三者に対する責任に関する規定があるので︑この規
定の解釈上問題となる点を列挙し︑その問題点を︑フランスにおける学説や判例を参照しながら解明している︒そし
て︑最後に︑これらがわが国における会計監査人の第三者に対する責任に関する規定の解釈において︑何らかの示唆
を与えてくれるか否かについて考察したいと思う︒
二 ︑ イ ギ リ ス に お け る 会 計 監 査 役 の 第 三 者 に 対 す る 責 任
ω会計監査役制度の概要
イギリス法における会計監査役制度は︑一七八九年の特別法により︑まず銀行について設置され︑ついで︑一九〇
〇年の会社法および一九〇八年の会社総括法により︑︼般会社にも強制されるようになった︒これは︑会社業務の民
主的支配︑すなわち︑株主による会社業務の監督・支配を期待したものであった︒しかし︑第一次世界大戦以後は︑
一般大衆投資家の裾野が拡がり︑会社業務に関心を向けるよりも︑会社からの利益配当に関心を寄せる投資家が増大
( 7 )
し︑株主による会社業務の監督・支配は︑およそ無に等しいといってよい状態になってしまった︒そこで︑一九二九年の会社法および一九四八年の会社法は︑監査役(き島8邑の地位を強化し︑その独立性を保持するための規定を新
設することによって︑株主による会社業務の監督・支配から︑監査役による会社業務の監督・規制へと移行した︒と
くに︑一九四八年の会社法により︑初めて会計監査役は︑特免私会社(①×①ヨ℃け箕ぞ讐︒8日窓塁)を除いて︑会計士
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(餌OOO二HPけ口]Pけω)の資格を要求されるようになった(同法一六一.一項)︒すなわち︑監査役の被選資格の積極的要件とし
て︑連合王国内で設立され︑商務院(ゆ09H山Oh]り鴇①息O)によって承認されている会計士協会(げ︒身︒h88§5三ω)の会
員であることが必要となったのである︒このように︑イギリスでは︑早くから公認会計士という会計専門家による会
計監査を導入していた︒また︑一九四八年の会社法は︑監査役の職務権限を明らかにしている︒すなわち︑監査役の
主要な職務は︑年次総会に提出される貸借対照表︑損益計算書について︑それが会社の真実の財産状態や損益の内容
を公正に表示しているか否かを監査し︑その監査の結果を年次総会に報告することである(同法一六二)︒そして︑
右の目的を達成するため︑監査役は︑いつでも︑会社の会計に関する諸帳簿︑計算書類︑証拠書類等を閲覧し︑ま
た︑必要があるときは︑会社の役員に対して情報および説明を求め︑その他︑年次総会に出席して︑自己の職務に関
係のある事項について意見を開陳する権利を有しているのである(同法一六二・三項︑四項)︒その後︑この一九四八年
会社法およびその関連法規の規定とその作用を再検討するため︑一九五九年一二月に︑政府の諮問機関として会社法
( 8 )
委員会(Oo日冨昌冨≦8ヨ慧80)が設置された︒同委員会は︑ジェンキンス卿(い自α冨艮一器)を会長とし︑投資者保護に関する現行法制の適否および企業合同を目的とする株式の買占め(け鋤閃O・O︿・O搬び一創ω)の社会に及ぼす影響等を主な
検討内容としていたが︑一九六二年六月にその報告書を公表した︒この報告書が︑一般に︑ジェンキンス・レポート
(匂︒口民器.図︒宮5と呼ばれ︑その第=章は﹁監査役﹂と題し︑監査役の資格︑選任および解任︑監査役の権限︑監
査役の報告書の様式等に分かれて勧告がなされている︒この勧告に基づいてなされた改正が︑一九六七年の会社法と
なったわけであるが︑同法は︑監査役に関しては︑一九四八年法をほぼ踏襲し︑ただ︑会計監査役の被選資格︑監査
報告書の記載事項および監査役の権限に若干の修正を加えたにすぎなかった︒
働会計監査役の第三者に対する責任
以上のような立法の経緯によって︑イギリス法における会計監査役制度が存在しているのであるが︑会計監査役の
会計監査入の第三者 に対する責任
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任務解怠・注意義務違反についての民事責任に関しては︑会社法上明文の規定がない︒そこで︑この問題の解決は︑
判例法に依存せざるをえない︒すなわち︑①会計監査役は第三者に対して民事責任を負うか︑②民事責任を負う場合
の第三者の範囲はどこまでか︑また︑③その民事責任の性質はどう理解すべきか︑④注意義務違反の判断の前提とし
て会計監査役の注意義務はどの程度なのか等が問題となるが︑以下判例を参照しながら︑これらの問題にアプローチ
していくことにする︒イギリスの判例法上︑会計監査役の第三者の責任が問題となった先例は︑臼時9︒白霞Φω事件︑
Oき臼2事件および団Φ亀Φ︽切く巨Φ事件が代表的なものであるから︑主に︑これらの三つの判例を考察しながら︑上
記の設問に対する解答を与えていくことにする︒そこで︑まず︑これら三つの判例の事件の概要を略述することにし
よう︒
まず︑d一霞帥白舘Φω事件の概要は︑つぎのとおりである︒被告であるツーシュ(↓○=oげ①)は︑公認会計士事務所
(貯ヨ・暁蜜びぎ碧8毒富巳ω)の一員であり︑ブレッド・スターン会社(犀巴ωけ︒ヨ卿oρ)に雇われて︑同社の経営状
態を示す貸借対照表(σ巴弩8昌①8を作成し︑それに監査役証明書(8﹃臨︒鉾Φ・h9︒&ぎ居ω)を添付するサービスを︑
毎年度決算期に提供していた︒フレツド・スターン会社は︑実質的には︑スターン自身の個人会社で︑弾性ゴム製品
の輸入および販売に従事していたが︑事業資金の調達のために︑同社は︑広範囲にわたる信用を必要とし︑銀行その
他の融資先から巨額の資金を借り入れた︒その際︑被告であるツーシュは︑自らの証明した貸借対照表が︑フレツ
ド・スターン会社によって︑金融取引の基礎として︑銀行(ぴ"口吋ω)︑債権者(︒器鼻︒邑︑株主(ω8︒写︒一α︒邑︑製品の
購入者(窪容冨ωΦ邑または販売者(ω巴︒邑に提示されるであろうことを認識していた︒したがって︑貸借対照表を作
成したとき︑ツーシュは︑フレツド・スターン会社に︑副本として通し番号の付してある証明済の三二通の写しを交
付した︒ただ︑その際︑これらの副本が提示される人間︑または︑これらが使用される取引の範囲や数については︑
なんら触れることがなかった︒とくに︑問屋としてブレッド・スターン会社と取引をしていた原告であるウルトラマ