監査人としての公認会計士の責任-英米の先例に学
ぶ第三者責任明確化への方向性-著者
安達 巧
号
41
発行年
1998
URL
http://hdl.handle.net/10097/14753
あ
安
鵬
達
働
巧
学 位 の 種 類
博
士(経 済学)
学 位 記 番 号
経 博 第41号
学位授与年 月 日
平成11年3月25日
学位授与 の要件
学位規則第4条 第1項 該当
研 究 科 ・専 攻
学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員
東北大学大学院経済学研究科(博 士課程後期3年 の課程)
経営学専攻
監査人 と して の公認会計士 の責任
一英米 の先例 に学ぶ第三者責 任明確化へ の方向性 一
(主査)
教
授
杉
本
典
之
教 授
高
田 敏
文
論
文
内
容
要
旨
市 場 経 済 ル ー ル が 徹 底 す る に っ れ 、 ま た 、 企 業 社 会 が 行 政 の介 入 を 中 心 と す る体 制 か ら ル ー ル 中 心 の 司 法 型 シス テ ム へ と転 換 して 行 くに っ れ 、 専 門 家 の 役 割 は増 大 し、 公 認 会 計 士 が 専 門 家 と して 企 業 の 「適 正 」 の 監 査 証 明 を 出 す こ と の 意 義 は さ らに大 き くな る と指 摘 さ れ て い る。 ま た 、 会 計 士 監 査 は、 法 的 制 裁 を伴 う理 論 的 枠 組 み の下 に位 置 づ け る必 要 も説 か れ て お り、 そ う な る と、 企 業 の 会 計 監 査 を 担 当 した公 認 会 計 士(又 は監 査 法 人)の 監 査 責 任 訴 訟 が わ が 国 で も増 加 す る もの と思 わ れ る。 わ が 国 に お い て は、 日本 コ ッパ ー ス事 件 が 判 決 の 出 され た 公 認 会 計 士 の 監 査 責 任 訴 訟 と して 唯 一 存 在 して い るが 、 同 事 件(判 決)は 、 監 査 人 と して の 公 認 会 計 士 の 役 割 及 び責 任 に関 し、 法 律 家 と職 業 監 査 人 と の間 で 「認 識 ギ ャ ップ」 が存 在 す る こ と を露 呈 す る結 果 と もな った。 日本 コ ッパ ー ス 事 件 は被 監 査 会 社 に 対 す る契 約 責 任 に 関 す る もの で あ り、 会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 を認 め た 判 例 は 未 だ わ が 国 に は存 在 して い な い の で あ る が 、 上 述 の よ う に会 計 士 を取 り巻 く社 会 環 境 が 変 化 しっ つ あ る点 を 考 慮 す る と、 会 計 士 と の 契 約 当事 者 で は な い が 監 査 済 財 務 諸 表 利 用 者 で あ る第 三 者 に よ っ て 会 計 士 の 監 査 責 任 が 法 廷 に お い て 問 わ れ る状 況 はや が て 定 着 す る もの と考 え られ る。 監 査 人 と し て の 公 認 会 計 士 が 第 三 者 に対 して 負 担 す べ き監 査 責 任 に っ い て は 、 責 任 負 担 の対 象 と な る第 三 者 の 範 囲 に加 え 、 責 任 が 認 容 さ れ る た め の 要 件 を も明 確 化 して お く こ とが 急 務 と思 わ れ 、 こ う し た 問 題 意 識 に 基 づ き、 監 査 人 と して の 公 認 会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 明 確 化 の 方 向 性 に つ い て の 示 唆 を 英 米 の先 例 か ら見 出 そ う と す る の が 本 論 文 で あ る。 本 論 文 の構 成 及 び概 要 は 以 下 の 通 りで あ る。 ま ず 、 「ア メ リカ に お け る会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 」 と題 す る第1部 は 、 第1章 、 第2章 及 び 第3 章 か ら構 成 され る。 ア メ リカ は 会 計 士 監 査 の 最 先 進 国 と言 わ れ て い るが 、 訴 訟 大 国 と して の 側 面 を も有 して お り、 会 計 士 監 査 責 任 に 関 わ る判 例 が豊 富 に存 在 す る。 会 計 及 び 監 査 の分 野 に お け る グ ロ ー バ ル ・ス タ ン ダ ー ド化 の 事 実 上 の 先 導 役 で も あ る ア メ リカ の 先 例 か らは、 わ が 国 へ の 多 くの 示 唆 が 得 られ る もの と思 わ れ る。 第1章 で は、 わ が 国 の証 券 取 引 法 の 原 型 と も さ れ る ア メ リカ の 連 邦 証 券 諸 法(制 定 法)、 中 で も 1933年 証 券 法 及 び1934年 証 券 取 引 所 法 を 取 り上 げ、 こ れ らの 法 律 に基 づ い た会 計 士 の 責 任 を 考 察 し て い る。 具 体 的 に は、 ア メ リカ の 連 邦 証 券 諸 法 上 の 公 認 会 計 士 監 査 制 度 を 概 説 した 後 、1933年 証 券 法 第11条 、1934年 証 券 取 引 所 法 第10条(b)項 及 びSEC規 則 第10b-5条 、 さ ら に は 、1934年 証 券 取 引 所 法 第14条(a>項 及 びSEC規 則 第14a-9条 を 根 拠 条 文 と して 争 わ れ た 判 例 を検 討 して い る。 考 察 の結 果 、 会 計 士 が 監 査 に お い て 尽 くす べ き注 意 義 務 の 程 度 は、 ア メ リカ 公 認 会 計 士 協 会(AICPA)が 設 定 す る 「一 般 に 認 め られ た 監 査 基 準 」(い わ ゆ るAICPA基 準)を べ 一 ス に な さ れ るべ き で あ るが 、 AICPA基 準 に 対 す る裁 判 所 の 評 価 は必 ず し も高 い と は い え ず 、 ま た 、SECが 、AICPA基 準 に 追 加 ・修 正 を な した 基 準(い わ ゆ るSEC基 準)に も した が っ た 監 査 を会 計 士 に 要 求 して い る点 に 鑑 み る と、 監 査 す る側 が 一 方 的 に定 め る 「一 般 に 認 め られ た監 査 基 準 」 へ の 準 拠 性 だ け で は、 会 計 士 が監 査 人 と して の 対 第 三 者 責 任 を 全 う した こ と に は な らな い と考 え られ る。 な お 、 会 計 士 の 監 査 責 任 認 容 の 要 件 に っ い て は 、 連 邦 最 高 裁 判 所 は会 計 士 の 監 査 の 失 敗 が 「故 意 」 に よ る場 合 に 限 る と し て、 「過 失 」 に よ る監 査 の 失 敗 も含 ま れ る と す るSECの 主 張 を 退 け て い る。 た だ 、SECは 「過 失 」 の あ る会 計 士 を 資 格 剥 奪 等 の 処 分 対 象 に 含 め て お り、 重 過 失 の あ った 会 計 士 はSECに よ る処 分 を 受 けて 経 済 的 不 利 益 を 蒙 る可 能 性 が 高 い。 第2章 で は、 会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 の範 囲 を 確 定 す る た め に 判 例 法 で 示 され た4っ の 代 表 的 基 準 を取 り上 げ る と と も に、 判 例 法 の 特 徴 等 に っ い て も概 説 す る。 判 例 法 に お い て は 、 監 査 人 と して の 会 計 士 は 監 査 報 告 書 にお け る不 実 表 示 責 任 を 問 わ れ る の で あ る が 、 現 在 、 ア メ リカ で は第2次 不 法 行 為 リス テ イ トメ ン トの 第552条 に示 さ れ た 解 釈 に基 づ く考 え方(Restatement基 準)が 主 流 と な っ て い る。 この 考 え 方 に よ れ ば、 会 計 士 は、 会 計 士 の 専 門 家 と して の サ ー ビス に期 待 を 寄 せ る人 々 な い しそ う した期 待 を抱 く こ とを監 査 実 施 の時 点で 当 該 会 計 士 に よ って 特 定 的 に 予 見 され た階 層 の 人 々 に対 して 責 任 を 負 う こ とに な る。 第3章 で は 、 ア メ リカ の 職 業 監 査 人 団 体 で あ るAICPAが 公 表 した 監 査 手 続 書(SAP)及 び 監 査 基 準 書(SAS)の う ち、 経 営 者 不 正 の 発 見 に 関 す る 監 査 人 の 責 任 にっ い て 言 及 した も の を 取 り上 げ、 こ れ らのSAP及 びSASが 期 待 ギ ャ ップ 及 び 認 識 ギ ャ ジプ の解 消 に い か に不 十 分 な 内 容 で あ っ た の か を 中 心 に分 析 を 加 え て い る。AICPAの 公 表 す る こ れ らの 「監 査 基 準 」 は、 国 際 監 査 基 準 (ISA)や わ が 国 を 含 む 他 国 の監 査 基 準 ・指 針 に対 して 最 も強 い影 響 力 を 持 っ て い る。 期 待 ギ ャ ッ プ や認 識 ギ ャ ップ 問 題 の 中 心 的 課 題 と され る 「経 営 者 不 正 の 発 見 に 関 す る監 査 人 の 責 任 」 問 題 にっ
い て 取 り上 げ たAICPAのSAP及 びSASの 分 析 は、 上 述 し た2つ の ギ ャ ップ を 明 らか に して 会 計 士 の 監 査 責 任 明 確 化 の 道 筋 を っ け る上 で 極 め て 重 要 で あ る と思 わ れ る。1996年 に公 表 さ れ たSAS 第82号 で は専 門 家 と して の懐 疑 主 義 の 実 践 を会 計 士 に 要 求 す る な ど して お り、36年 前 のSAP第30 号 の 内 容 に比 べ る と、 監 査 人 と して の 会 計 士 が 経 営 者 不 正 の 発 見 に 積 極 的 に取 り組 む 姿 勢 に 転 じて い る よ う に も受 け取 れ る。 しか しな が ら、 会 計 士 監 査 の 限 界 を 強 調 して 独 自 の 責 任 限 定 理 論 を 主 張 す る こ と も従 来 通 り続 けて お り、SAS第82号(す な わ ちAICPA)の 主 張 が 一 般 大 衆 や 法 律 家 に 受 け入 れ られ る か ど うか は疑 問 で あ る。 ま た、 職 業 監 査 人 側 が こ う した主 張 を 行 う こ と で 、 会 計 士 監 査 の 最 先 進 国 ア メ リカ で会 計 士 監 査 自 体 が信 頼 を 失 う危 険 性 も あ る。 次 に、 「イ ギ リス に お け る会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 」 と題 す る第2部 は 、 第4章 及 び 第5章 か ら構 成 さ れ る。 イ ギ リス は ア メ リカ と と もに 会 計 及 び 監 査 の分 野 で の グ ロ ー バ ル ・ス タ ン ダ ー ド化 を事 実 上 先 導 して い る国 で あ るが 、 会 社 法 に お いて 監 査 人 に 関 す る詳 細 な規 定 を 有 して い る と の 点 で 、 同 じ ア ン グ ロ ・サ ク ソ ン系 の 国 で あ る ア メ リカ と は異 な る ば か りか 、 商 法 特 例 法 を 設 け て 会 計 監 査 人(公 認 会 計 士 又 は監 査 法 人)の 役 割 等 を定 め るわ が 国 の 会 計 士 監 査 制 度 と相 通 じ る点 が あ る。 第4章 で は、 監 査 人 に 関 す る詳 細 な規 定 を 有 す る イ ギ リス会 社 法 が 、 ど の よ う な枠 組 み で 監 査 人 の 役 割 や責 任 を 定 め て い る の か を述 べ る と と も に、 対 第 三 者 責 任 認 容 の3原 則 に つ い て 触 れ て い る。 イ ギ リス の 企 業 に は 、 わ が 国 の 監 査 役 〔会 〕 に相 当 す る機 関 が存 在 せ ず 、 株 主 の 利 益 を守 る た め に 株 主 の 代 理 人 と して の 監 査 人(会 計 士)に 大 き な 期 待 が か け られ て い る。 例 え ば 、 監 査 契 約 ま た は 定 款 の 定 め を も って して も、 監 査 人 に要 求 され る技 術 と注 意 の水 準 を 軽 減 す る こ と は 認 め られ な い が 、 そ の逆 、 す な わ ち 、 監 査 契 約 ま た は 定 款 で 会 社 法 の 規 定 以 上 に 高 い 水 準 の検 証 な い し証 明 の義 務 を 課 す こ と は 可 能 で あ る と解 さ れ て い る点 な ど は そ の 典 型 例 と考 え られ る 。 第5章 で は、 イ ギ リス判 例 法 に お け る 会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 の 動 向 を検 討 し、 イ ギ リス の 裁 判 所 が 、CaparoIndustriesPLC.v.DickmanandOthers事 件 判 決 を 機 に 会 計 士 の 対 第 三 者 責 任 を 制 限 す る方 向 に転 じて い る こ と を示 して い る。 イ ギ リス で は、 株 主 の 利 益 が 最 も尊 重 さ れ る べ きで あ る と い う伝 統 的 企 業 観 が 根 強 く存 在 して い る が 、 上 記 事 件 判 決 に お い て 貴 族 院 に よ り示 さ れ た解 釈 は、 ま さ に そ の 企 業 観 を 反 映 し た 内 容 で あ っ た。 た だ、CaparoIndustriesPLC.v,Dickman andOthers事 件(判 決)は 、 キ ャ ドベ リー 委 員 会 報 告 書 に も取 り上 げ られ 、 会 計 士 の 第 三 者 責 任 の 範 囲 に関 す る議 論 の 進 展 を 促 す 副 次 的 効 果 が あ っ た。 続 い て、 「会 計 士 の 役 割 拡 大 と監 査 人 と して の 責 任 」 と題 す る第3部 は 、 第6章 及 び 第7章 か ら 構 成 され る。 第6章 で は、 英 米 両 国 に お い て 、 そ れ ぞ れ 、 ロ ン ドン証 券 取 引 所 上 場 規 程 の 改 正 及 び米 国 私 的 証 券 訴 訟 改 革 法 の成 立 を 機 に 、 会 計 士 が 会 計 監 査 の 枠 を越 え て 企 業 統 治 監 査 の分 野 に ま で 関 与 す べ き こ とが 既 に 制 度 化 さ れ て い る事 実 を 説 明 す る。 第7章 で は、 監 査 人 と して の 会 計 士 が 不 当 に重 い責 任 を 負 わ され る こ と の な い よ う講 じ られ て い る監 査 人 の 保 護 策 に つ い て 、 英 米 両 国 の 状 況 を 調 べ て い る。 責 任 限 度 額 の 設 定 に 関 す る議 論 や 監 査 人 を辞 す る こ と も厭 わ な い 強 い 態 度 の保 持 な ど は 示 唆 に富 ん で い る。
最 後 に 、 「公 認 会 計 士 の 監 査 責 任 明 確 化 に 向 け て」 と題 す る第4部 は、 第8章 及 び 第9章 か ら構 成 さ れ る。 第8章 で は、 第1部 か ら第3部 ま で の 考 察 を総 括 して い る が 、 上 述 した 内 容 に加 え 、 取 締 役 の 責 任 と監 査 人 の責 任 と を 区 別 す る こ とが 監 査 人 の責 任 の 前 提 で あ る 旨 を指 摘 す る。 第9章 で は、 第8章 で の総 括 を 踏 ま え た上 で 、 会 計 士 の 監 査 責 任 明 確 化 に 向 け て 今 後 な され るべ き必 要 事 項 を 筆 者 な りに 述 べ て い る。 職 業 監 査 人 側 に は 自 ら設 定 す る監 査 基 準 ・指 針 の 内容 を 吟 味 す る こ と等 が 求 あ られ るが 、 職 業 監 査 人 以 外 の監 査 関 係 者 に も そ れ ぞ れ の 立 場 に応 じて 公 認 会 計 士 監 査 制 度 の あ るべ き姿 の 方 向 性 を 検 討 す る こ とが 求 あ られ る。 ま た 、 制 度 の 面 に お い て も、 会 計 士 の 監 査 責 任 と り わ け対 第 三 者 責 任 に っ い て 、 責 任 認 容 の 要 件 及 び責 任 負 担 の 対 象 範 囲 を 何 らか の 形 で 明 確 化 して お く こ と が 強 く望 ま れ る。