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論文審査の結果の要旨
氏名: 秋 元(松 土) 恵 理 博士の専攻分野の名称:博士(理学)
論文題名:Minimal coloring numbers of Z-colorable links(整数彩色可能絡み目の最少彩色数)
審査委員:(主 査) 教授 市 原 一 裕
(副 査) 教授 茂 手 木 公 彦 東京女子大学教授 新 國 亮
柔らかい幾何学とも呼ばれる位相幾何学(トポロジー)において、その特徴的な分野である結び目 理論は、3次元空間内の「閉じた紐」を研究対象とする。より正確には、3次元ユークリッド空間に 埋め込まれた円周(連結1次元閉多様体)を結び目(knot)、その非交和を絡み目(link)と定義し、
その性質を調べ分類することを研究目標とする。例えば、与えられた結び目が解けている(自明)か どうかを簡便に判定することは、最重要課題の一つである。このような問題に対して、特に分類や性 質の研究に用いられるのが、結び目および絡み目の不変量である。またさらに近年では他分野との関 連もあり、結び目・絡み目の不変量そのものも重要な研究対象となっている。その不変量中で、もっ ともよく知られている古典的な不変量の一つが、1960年代にR. Fox によって定義されp-彩色数可能 性である(pは2以上の整数)。この不変量は、結び目や絡み目を平面上に表した結び目図式から容易 に求めることができ、比較的識別能力も高い。例えば、結び目理論への導入として、もっとも単純な 結び目である三つ葉結び目について、それが3彩色可能であることにより非自明であることを示す(自 明ならば3-彩色可能ではないことに矛盾させる)ということが標準的な手法になっている。また他の 代数的な不変量との関連(例えば、結び目のアレクサンダー多項式や、結び目の行列式)との関連も ある興味深いものである。ところが一方で、ある種の絡み目のクラスについては、p-彩色可能性が識 別能力を持たないことが知られている。つまり、2以上の任意の整数pに対して、p-彩色可能となっ てしまう絡み目たちが存在する(実際、絡み目の行列式と呼ばれる不変量が0になるような絡み目が、
その性質を持つ)。そのような絡み目は、存在は知られていたものの、これまであまり焦点を当てて研 究対象とされてこなかったものであった。申請者は、そのような絡み目に着目し、p-彩色の一般化と して、一般的な整数による彩色(以下Z-彩色と略記)を定義、導入し、独創的かつ萌芽的な研究を続 けてきた。本申請論文は、その一連の研究をまとめたものである。
申請者の研究の中で、題目にも含まれているZ-彩色の最少彩色数(minimal coloring number)の研 究が主な柱となっている。古典的なp-彩色の様々な研究の中に、1999年に HararyとKauffmanに よって導入された、結び目図式の p-彩色に現れる色数の最小値の研究がある。そのような最小値を、
彼らはp-彩色の最少彩色数と呼び、基礎的な研究を行なった。このp-彩色の最少彩色数については、
その後、結び目理論の大家であるL. Kauffman氏をはじめ、神戸大学の中西康剛氏、佐藤進氏、リス ボン大学のP. Lopez氏らにより、現在まで精力的に研究が進められている。申請者は、上記のように 新たに導入したZ-彩色に対しても、同様に最少彩色数を定義し、その性質を研究している。このよう な背景のもと、本論文では、絡み目のZ-彩色の最少彩色数について、これまでに得られた知見をまと めたものであり、以下の6章から構成される。
まず第1章は序説であり、上記の内容を含む歴史的な背景と研究動機が述べられ、本論文で得られ た結果がまとめられている。
第2章では、結び目理論における基礎的な定義を振り返った後、絡み目のZ-彩色の定義が与えられ る。また、その基本的な性質が示されている。特に、分離的な絡み目はいつでも Z-彩色可能
(Z-colorable)であり、その最少彩色数が2となることは、続く研究の動機を与えるものである。ま た補題として与えられる、最大および最小の色がつけられる弧の性質(Lemmas 2.13, 2.14)は、以 降の議論の中で繰り返し使われる重要な事実であり、p-彩色との対比からも注目に値する。
第3章ではまず、交点数が10以下の図式を持つ絡み目について、そのZ-彩色を具体的に調べた結 果、特徴的に観察された例から着想した、単純Z-彩色(simple Z-coloring)が導入される。丁寧かつ
2 根気強い作業と図式の変形を元にした優れた観察によって導入されたこの概念が、その後の研究を推 進する重要な契機となった。そして、単純Z-彩色を許容する絡み目について、その最少彩色数が4以 下となることを証明し、特に絡み目が非分離ならば最少彩色数は4であることを示した。これは、こ れまでのp-彩色に関する先行研究の本質的な部分を取り出し、応用した優れた手法によるものである。
第4章では、本申請論文の白眉とも言える定理「非分離なZ-彩色可能な絡み目の最少彩色数は4で ある」の証明が与えられる。実際、示されているのは、任意のZ-彩色可能な絡み目は、非自明な単純 Z-彩色を許容するというものであり、これと前章の結果を合わせて上記の定理が証明される。その証 明は、非凡なセンスによって発想された複雑な図式の変形を用いて帰納的になされている。なおこの 結果は、ほぼ同時期に中国の研究グループによっても証明が得られているが、本論文の証明は彼らの ものよりシンプルで見通しの良いものである。これにより、絡み目の Z-彩色の最少彩色数について、
最終的な完全決定に至った。これはp-彩色の場合と極めて対照的な結果であり、関連する多くの研究 者に衝撃を持って迎えられた特異な結果であった。
一方で、上記の定理の証明は帰納的なものであり、与えられたZ-彩色可能な絡み目について、真に 最少彩色数を実現する絡み目図式およびZ-彩色を、具体的に構成するのは非常に難しいと考えられた。
これについて、ある種のZ-彩色可能な絡み目に対しては、比較的容易に最少彩色数を実現する変形が あることを示しているのが、第5章の内容である。ここで取り上げられているのは、与えられた絡み 目図式の平行化(parallel)という手法である。平行化によって得られる絡み目図式は多くの場合、
Z-彩色可能になり、さらに、その平行化図式からは、局所的な変形のみによって、最少彩色数を実現 する絡み目図式およびZ-彩色が得られることが示されている。これらの結果も、関連する研究者にと って意外なものであり、さらに今後の研究の発展が期待されるものである。
最終章である第6章では、逆に、Z-彩色可能であると知られている絡み目について、その絡み目図 式を制限した場合に、その図式が許容するZ-彩色の最少彩色数がどのようになるかの研究が述べられ ている。取り挙げているのは、いわゆるプレッツェル絡み目、トーラス絡み目と呼ばれる2つの絡み 目のクラスであり、図式の中で最も単純な、最少交点数を実現する図式、いわゆる最小図式(minimal diagram)である。プレッツェル絡み目については、具体的な例の構成により、最小図式に制限する と、最少彩色数に上限が無いこと、一方で、最少彩色数を実現するような最小図式も存在することを 示している。トーラス絡み目については、最新の研究も含み、トーラス図式と呼ばれる特徴的な最小 図式については、最少彩色数が5以下となることが報告されている。
以上のように、本申請論文では、申請者が新たに導入した絡み目のZ-彩色と、その最少彩色数につ いて、独創的かつ萌芽的な非常に優れた研究が報告されており、高く評価できるものである。また新 たな概念および手法の開発によって、当該分野研究に大きく寄与するものであり、今後の研究発展が 強く期待される。
よって本論文は,博士(理学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平 成 31 年 1月 22 日