金沢 大 学 十 全 医 学 会雑 誌 第1 0 6巻 第2号 1 9 卜 2 0 3 (1 9 9 7)
ヒト前腕血管にお ける ア セチ ル コ リ ンに対 する内皮依存性 血管拡張反 応 に対 する α 交感神経活動の 影響に関 する検討
一 内皮依存性 血 管 反 応に対 する α 交 感神経 活 動の影響 ‑
金 沢 大 学 医学 部医 学 科 内科 学 第一 講 座 ( 主 任:小 林 健 一 教 授)
高 村 雅 之
1 9 1
ヒトの血管 緊 張の調 節に内 皮 国子と神経 性 国 子の相互作 用が み ら れ る か否かを 明ら か にする た め, 若 年 健 常 者24 名 を 対 象に内 皮 依 存 性 血 管 拡 張 反応に及ぼす薬 物 学 的交 感 神 経 遮 断お よ び反射 性 交 感 神 経 活動克 進の影 響 を 検 討し た・ 内 皮依 存 性 血管 拡 張は, ア セ チルコ1) ン(a c et ylcholin e,A C h) を0・1 5・ 0・4 5, 1・5, 4・5m g/ 分・dl・1を上腕 動 脈に注入 し・ スト レ インゲ ー ジ・ プレナス モグ ラフに て求め た前 腕血流 量 (fo r e a r m blo od flo w ,F B F) の変 化で評 価し・ フ ェ ント ラ ミン0・1m g前 投 与, ヒド ラ ラ ジン0.1m g前 投 与, お よ び T 半 身 陰圧qo w e rbody n egativ e pr e s s u r e・L B N P) 負 荷に よ る反射 性 交 感 神経 活 動 克 進の影 響 を 検 討 し た. いずれの薬 物 投 与に ても 心 拍 数, 動 脈庄 に明ら かな 変 化は み ら れ な かった・ A C h 投 与に よ り F B F は月] 量 依 存 性に増 加 し た. フ ェント ラ ミン の前 処 置に より, F B F は 6・0 ±2・3ml/1 0 0ml・升l か ら 9・7 ± 7・Oml/1 0 0ml・升1へ有 意に別口b <0・0 0 1) し た
が, A C h に よ る F B F増 加 反 応は有 意に抑 制さ れ, 用 量 M 反 応 曲 線は右 下 方に偏 位し た(p<0・0 01)・ ヒド ラ ラ ジン の前 処 置で は
フ ェ ント ラ ミン投 与と同 程 度に安 静 時のF B F を増 加さ せ た が, A C h に対 する F B F の反応に は有 意な変 化は な か った・ L B N P‑ 1 0,
‑2 0m m Hgt二よむ) F B F は有 意に減 少 (そ れ ぞ れp<0・0 0 1) し た が, A C h に対 する F B F の増 加 反 応は有 意に克 進 ( それ ぞ れ
p<0.0 5, p<0・0 0 1) し, 用 量 一反 応 曲線は左上方に偏 位し た・ 以 上の結 果より・ ヒトの前 腕 血 管 緊 張の調 節に は内 皮 因 子と神経 性 国 子の相互作月 押み ら れ, 内 皮 依 存 性血管 拡 張 反 応はα 交感 神 経 括 酬犬態に より 修 飾 され ている可 能性が示唆さ れ た・
Key w o rd s a c et ylch olin e, e nd otheliu m ‑depe nde nt v a s odilatio n, nitric o xide, α‑S ym path etic n e rv e a ctivity,V a S C ula rto n e
血管の緊 張は交 感 神 経やコ リン作 動 性 神 経な どの神 経 性 国 子, ア ンギ オ テンシンⅠⅠ な どの循 環血液 中の体 液性 因子, さ ら に 血管 内 皮 細 胞 自 体が 血管 弛 緩性 物 質 あるいは収 縮 怪 物 質を合 成, 放 出し能 動 的に平 滑 筋の張 力 を 制 御す る内 皮 国 子に よ り調 節さ れ て いる. その内 皮 因 子の 1 つが 血管 内 皮 由 来 弛 緩 肛‑f・ (e ndotheliu m‑de riv edr ela xingfa cto r,E D R F) である・ Fu r chgott ら1 ‑は, 1 9 8 0 年に ウ サ ギ大 動 脈 摘 出 標 本の アセ チルコ リ ン (a c et ylcholin e,A C h) に対す る 血管 拡 張反応が,
t、ま滑 筋に対す る 直接 作 用だ け で なく 内 皮 細 胞 膜の ム スカ リン′受容 体 刺 激に よ り 血管 弛 綬 因子が放 出さ れ ること に よ ること を確 認し, E D R F と し て初めて幸艮告し た. その後1 9 8 8 年 頃ま で に E D R F の正体が 一 酸 化 窒 素 (N O) であること が化 学 軋 薬 理 学 的あ るいは 生物 学 的特 性の相 同性に よりいくつかの研 究グループ に より 証 明さ れ
た2 ト l). N O の合 成は, しア ルギニ ンを基 質と し て N O 合 成 酵 素
(nitric o xide syntha s e, N O S) に よ り行わ れて いる5)【i)・ /1i体 内 での作 脚 寺岡は非 常に短 く, ず り 応 力な どの種々 の刺 激に よ り 合 成, 放 出が行わ れ7), 血管の緊 張の調 節に重 要な働 き をして いる. 近 年, N O に関 する研 究の進 歩は めざましく, N O Sの3 種 類のア イソ フ ォ ー ム, すな わち 構 成 型 神 経 型N O S, 構 成 型 内 皮 型N O S お よ び誘 導 型N O Sのクローニ ング に よ る遺 伝 子 構
造, N O Sの作 剛こお け る カルシ ウムイオン の役 割や, 臨 床 症 例での種々 の血管 病 変に お け る内 皮 機 能の変 化な ど が報 告さ れ ている机 ‖). さら に, Toda ら12 ) 1 5)は頭 蓋 内血管や腸 管 幌 軌脈で は N O 作 動性血管 拡 張 神経が存 在 することを 報 告し て お り, 生 体 内に おい て N O は内 皮 依 存性 血 管 拡 張 物 質と し ての役 割のみ な ら ず, 神 経 伝 達 物 質と し て神 経 系に深く 関 与し ていること が 明ら か に さ れ ている.
血管の緊 掛二は内 皮†朴f・のみ な らず, 神 経 性 因 ナ, 体液 作 問 一戸が関与していること は前 述し た が, 内皮咽げ・が ほ かの血管 調 節 閃 子と どのような関わりを持 ち 調節し ている か は明ら か で は ない. →方, A C h が内 皮に作 柑し N O 産生 を促 進す ること は よ く 知ら れ て おり, 動 物お よ びヒトの内 皮 機 能の評価に用いら れ
ている1竃i) 1 7). ニ の事実は内 皮 表 面にム スカ リン′受解 体が存 在し,
コ リン作 動 性 神 繹の調 節 を 受 けている可 能 性 を 示 唆し ている が, コリン作 動 性 神 経の血管 内 走 行は明ら か で は なく, ヒト に ぉ け る交 感 神経に よ る内 皮 機 能の修飾に関しては系 統 だった検 討は み ら れ ない. そこで今 回, ヒト に おいて内 皮 機 能が交 感 神 経 活 動に より 修 飾さ れ る か否かを 明ら か にする た め, 以下の検 討 を 行っ た. すな わ ち, 前 腕 港 流 標 本を 作 成し, A C hの内皮 依 存 性血管 拡 張 反 応に及ぼす 薬 物 学 的α交 感 神 経 遮 断の影 響を・
平 成8年1 2月9 日受 付, 平成9 年2月4 日受理
A b br evi atio n s : A C h ,a C et ylcholin e ;E D R F, e ndoth eliu m ‑de riv ed r ela xingfa cto r;F B F ,fo r e a r m blo od flo w ;F V R,
fbr e a rm V a S C ula r r e sistan C e;L B N P,lo w e rbody n egativ e pr e s s u r e;N O S,nitric o xide synth a s e
内 皮 非依存 性 血 管 拡 張薬であるヒド ラ ラ ジン の効 果と比較 検 討 し た・ さら に, 下半 身 陰 庄 (lo w e rbody n egativ e pr e s s u r e,
L B N P) 負 荷に よ る反 射性 交 感 神 経 活 動 克 進 時の内 皮 依 存 性血 管 拡 張 反 応 を 検 討し た.
対 象お よび 方 法
Ⅰ. 対 象
若 年 健 常 者2 4名 を 対 象と し た. 対 象の選 択に おいて は, 病 歴上特 別 な 疾 患の既 往がな く,検 査 前の診 察で異 常 所 見がなく,
血圧 は収 縮 期庄 1 4 0m m Hg, 拡 張 期 庄9 0m mHg以 下 であ り, か
つ体 格 指 数は 2 4以下の者と し た. 男性1 6名, 女 性8名で, 年 齢 は 2 0 、 2 4歳 (2 2.3 ±1,3才: 平 均±標 準 偏 差) であった. 身 長は 1 6 8・7 ±6・2c m , 体 重は 6 0.6 ± 7 .9 kg., 収 縮 期 庄1 3 1.3±
7・4m m H g, 拡 張 期庄 6 7.1 ±6.8 m m Hg
, 体 格 指 数2 1.2± 1・5 kg/ m 2で, 水 槽 内の水 位の変化より 求め た前 腕 体 積は 1 3 2 8.5 ±9 5.7ml であった. う ち8名にα遮 断 襲であるフ ェ ント ラ ミン(チバガイ キ ー, 束 京) 投 与 前 後でのA C b に対 する前 腕
の内皮 依 存性 血 管 拡 張 反応 (プロ トコ ー ル1) を, 8名に内 皮 非 依存性血管 拡 張 発であるヒドラ ラ ジン1 S 卜 2 2 )
(チバガ イ キ ー) 投 与 前 後で同様の検 討 (プロ トコ ー ル2) を行い, さ ら に残 り8名
で一1 0,
‑2 0m m H g でのL B N P2 3 卜 2 5 )の影 響 (プロ トコ h ル3) を 検 討し た. 各プロトコ ー ル の参 加 者の臨 床 像 を 表1 に示 す. プロ トコ ー ル3 で全 例 男 性であった 以外に は, 年齢, 血圧, 体 格 指 数に は各プロ トコ ー ル間で差がなかった.
1†. 方 法
1 ・ 動 脈圧, 心拍 数, 前 腕血流量 (fo r e a rm blo od 丑o w,F BF)
の測 定
被検 者をベ ッ ト上に安 静 臥床と し た後,胸 部に電 極を装 着し,
St rain‑ga uge P le th ysm ograp h y
Fig・1・ Sche m aticillu str atio n of t he pr o c edu r e fo r fo r e a r m pe血I Sio n m ethod.
Tab lel. Cl inic alchar a cteristic sint he v olu nte e r s
心 電 図 を 連 続 記 録し た・ 図1 に前 腕 潅 流 法 を 示 す・ F B F 測 定側
の肘 部を局 所 麻 酔 用リ ド カ イン(藤 沢, 東 京) に て浸 潤 麻 酔 後,
上腕 動 脈に薬 液 注人用お よ び動脈庄測 定 馴ニ2 0 ゲ ー ジの留 置 針 (テル モ, 東 京) を 挿入 し た. 三方 活 栓 を 使 用し て,
→ 方を
動 脈 注人用シ リンジ ポンプ T E 3 1 1(テル モ) に接 続し薬 液注 入 用に便 用し,
一 方 を庄 ト ラン スデューサーモニ タ キッ ト(バク スタ ー , 東 京) に接 続し た. 動 脈庄 は心 電 図と ともに ポ リ グ ラ
0 1 20 Z 40 36 0
T im e afte rinfu sio n of phe ntoJa min e (S e C)
(
ま
)
」
巴
u
芯 ぎ 雲
じ
ざ
0
0 12 0 2 40
T im e af te rinfu sio nof h y dr ala zin e(s e c)
0 12 0 2 40
Tjm e du ring L B N P (S e C)
F ig・2・ Tim e c o u r s e ofpe r c e ntcha ngein fo r e a r m blo od flo w a氏e rphe ntola min einfu sio n (A) a nd hydr ala zin einfusio n (B),
a nd du ring L B N P aト1 0 a nd ‑2 0m m Hg (C).'Ea ch point r epr e s e nts th e m e a n a nd v e rtic al ba r sind ic ate S D . ▽,
phe ntola min e; q ,hydr ala zin e; ◇,L B N P at‑1 0m m Hg O,
L B N P at ‑2 0m m Hg・ F B F,fo r e a r m b lo od no w;L B N P,lo w e r
bodyn egativ e pr e s s u r e.
Pr oto c oI
v霊:t≡, S A ge(yrs) Hei g ht(C m) Bod y w ei g ht(k g) B。d y m a s sinde x(k g/m2) F。 , e a , m V 。1。 m e(ml) 1 8 21.8 ±1.5 1 6 4.0 ±6.3
2 8 22.0± 0.5 169.1 ±3.9 3 8 23.1±1.2 1 72,1±5.2
56.0土6.9 5 9.3± 5.6 65.8士6.7
2 0.8 士 1.5 1 2 3 6.3±85.8 2 0.7士1.3 1 35 6.3± 5 7.8 2 2.1 土 1
一
.5 1375.0 土70.7
Valu e sa r e e xpr e s eda s盲±SD.
内 皮 依 存 性血管 反応に対 するα 交感 神経 活 動の影 響
Tab le 2・ S yst e miche m od yn amic ef fbc t s ofdrug infu sio ns
Baselin e Ac et ylcholin e(4.5 /Jg/min ・d トl) 1 93
In te r v e n tio n s No.or
V Olu n t e e r s Me an arterial pr e ss ur e Heartrat e M e a nar t erial pres sure (mm H g) (b pm) (m m H g) ControI
P he n t ola min e
Co n tr oI H y dr ala zin e
Co n t r oI L BNP‑2 0
8 8
8 8 8 8
88.1 士 6.1 8 8.1 ± 7.0 9 3 .8 ±5.5 94.0 ± 6.0 8 3.1 ±5.0 8 3.6 ± 4.5
64.9 ±7.6 65.8 ± 9.1 6 6.3 ± 4.5 64.5± 5.1 7 1.6± 10、1 7 0.1 ± 臥7
Re s ults a r e e xpr es seda s 又± S D・ L BNP‑2 0,lowe rbod yn egativ epr e s s u r e a ト2 0m m H g・
87.1 ±5.8 87.8 ± 8.0 9 2.3 ± 6.0 93.4 ± 6.8 8 3.9 ±4.3 B 4.4± 3.9
He ar t rat e
(b pm) 6 4.3± 7.3 6 6.5 ±8.8 65.5±4.8 6 7.1±6.0 7 2.3 ± 9.2 70.5 ± 8.1
C o ntr ol
Bas eline A C h infusio n
C o ntr oI
、. ノ
ー′
∴
Ba s eLine Ath infusion
C o ntr ol
Ba setin e A C h infu sio n
Ph e ntola m in e
BaseIine A C h infu sio n
H yd r a]a zin e
M 皿
Bas e]in e A C h infusio n
L B N P
Ba s elin e A C h infu5ion
Fig.3.
rrh)ic al e x am ple s ofe xpe rim e ntal r e c o rds showi ng the effe cts of p he ntolam in e ( 肌 hydrala zinge(B), an d lo w e rbody n egadv e pr e s s u r e at‑2 0m m Hg(C) o n a c et ylcholin e‑indu c ed in c r e a s e sinfo r e a r mblo od flo w ・ L B N P,lo w e rbod yn egativ epr e s s u r e・