三重大学教育学部研究紀要 第 61 巻 自然科学 ( 201 0) 7‑ 11 貢
野外活動施設 における魚類 の解剖学習
片 山 典 子 *・後 藤 太 一 郎 *
Fi sh anat o‑ i calwork f orchi l dren conduct ed ataca‑ pl ngSi t e.
Nori ko K ATAYAMA ,Tai chi ro G oTO
要
旨動物の体のつ くりとはたらさについて学習する上で、魚類は教材生物として扱いやすい動物種である。解剖 学習の材料として、ニジマスは児童 らにも扱いやすい魚種であるが、冷水種であるために生体で入手すること は学校では一般に困難である。キャンプ場などの野外活動施設では、魚の 「 釣 り」や 「 つかみ取 り」をして
「 食べる」 という体験活動としてニジマスが利用されている。 このような活動に参加する児童を対象として、
ニジマスを調理 して食べる前に、生体を用いた解剖学習の指導を行った。参加児童の半数は低学年であったが、
熱心に取 り組み、保護者は貴重な体験活動であると捉えていた。魚を獲る活動を実施できる野外活動施設での 魚類の解剖指導は、児童や保護者の動物の体のつくりに対する関心を高めるとともに、食青の基本である 「 命」
をいただくことへの感謝の気持ちを育む機会となるだろう。
キーワー ド:ニジマス、生体解剖、キャンプ場、調理、体験活動
1. は じめに
生命教育の中で、科学的生命観 と生命尊重 の態度 を 育成す ることは中心的な課題である。動物 を解剖 す る ことは、体 の構造 の理解だ けでないだけでな く、科学 的生命観 を育成す る上 で重要であるが、扱 う動物種 に よっては子 どもの心理 的な面 に与 え る影響が大 き く、
解剖 す ることは生命尊重 に反す るとい う意見 も多 い。
この ような背景 か ら、小学校 における動物 の体 内構造 に関す る学習 の中で、魚類 な どの実物 を用 いた解剖 を 行 うことは 1 97 7年 の学習指導要領 か らな くな り、解 剖学習 ほ とん ど実施 されな くな っている。近年 の調査 では、解剖 の実施率 は小学校 で は 1 0%、 中学校 では 3 0%程度 であ る ( 西川 ・鶴 岡,2 008 ) 。
動物愛護思想の向上 や児童の感情面の配慮 か ら、欧 米 で も多 くの小 中高の授業 では動物 の解剖 の代わ りに コンピューター ・ソフ トや立体模型 な どによる代替法 が取 り入れ られ るようにな り、その開発 が進んできた。
国内で も参考資料 を元 に生徒が作業 を行 う ドライ ラボ 形式の解剖実習 も考案 されている ( 鈴木,1 990,2007 ) 。
しか し、生命 に直接触 れ る体験 の意義 は深 い と考 え る
教師 は多 く、解剖実習 は視覚教材 で は得 られない学習 効果 を上 げることがで き、生命尊重 の心 や態度 の育成 に果 たす意義 が大 きい ことか ら、近年、解剖実習 の指 導法 につ いて検討 されてい る。 ( 鳩貝,2 008 ) 。
脊椎動物 の解剖実習 に用 い られ る もの として代表的 な ものは、身近 に入手 できる魚類 であるが、食材 とな る魚類 であれば、動物愛護 が問題 にされ ることも少 な い。材料 として、 スーパーで簡単 に入手 できるもので あれば生徒の解剖 に対す る抵抗 も少 ない とい う理 由か ら、ア ジを扱 う実践 も多 い。内山と佐名川 ( 2007 ) は、
「食材 か ら学ぶ理科解剖 実験」 を実施 して お り、食材 を活用す ることで解剖実習 が安全で経済 的な実践 とな ることと、食 と生死 が密接 に関連 してい ることを強調 できるとい う利点があ ると述べてい る
。そ もそ も義務教育 における理科学習で は生活の中で 必要 な知識 や経験 を身 に付 けることが重要であ り、解 剖 の意味 もそ こにあるだろ う。 日本人 は他国 に比べて 格段 に多 くの新鮮 な魚介類 を食べ るため、食材 と して いる魚介類 については体 のつ くりが どの ようにな って いて、食べ られ る部分 はどこか とい う基礎的知識 は私 たちの生活のために必要な はずであ る。 しか し、魚介
*三重大学教育学部理科教育講座
片 山 典子 ・後藤太一郎
類 の体 の構造 と食 を結 びつ けた教育実践 は極 めて少 な い。 その理 由 としては、限 られた時間の中で は十分 な 時間が とれない ことや、 「 生 もの」 を調理 に使 う上 で は十分 な注意 が必要 にな ることが考 え られ る
。食青 の中で は、 「 命」 をいただ くことへ の感謝 や、
作 って くれた人への感謝 の気持 ち も育む ことが基本 で あると言 われてい る。 この ことを体験す るために、生 きている ものを殺 して食べ るとい う授業 も行 われてい るが ( 例 えば村井 , 200 1 )、解剖 と食 を結 びつ けるた め に は、 材 料 の 選 定 が 最 も重 要 とな る。 中 川 ら ( 2007 ) は、食材 とな る身近 な魚介類 を用 いた 「 解剖
&調理実習」 のプログラムを考 え、主 に中学生 を対象 に実施 した。 この実習 は、理科 と家庭科 の クロスカ リ キュラムで、調理 を主 な 目的 と して調理前 に体 の構造 を学ぶ という考 え方で、調理室で実施す るもの とした。
い くつかの魚介類 を用 いた結果、ニ ジマスを用 いた実 習が最 も生徒 に受 け入 れ られた。
ニ ジマスは各地 で養殖 されているために安価 で、体 内の構造 が見 やす く、鱗 が小 さいために取 り扱 いが容 易であ り、美味 しい魚 であ るため、解剖 と調理 を兼ね た実習 には適 した材料 といえ る。 しか しニ ジマスはサ イズが大 きい上 に冷水種であるために、生体 を維持す るにはかな りの広 さと設備 を備 えた飼育槽 が必要 とな るため、学校現場 で生体解剖 と して用 い ることは容易 でない。例えば広島県の仁賀小学校では、小学校のプー ルにニ ジマスを放流 して育て、親子で釣 りをす るといっ た取 り組 みが行われてお り、児童か らは好評 であ るよ
うだが、解剖実習 は行 われていない。
ニ ジマスの生体 を用 いた解剖学習 としては、滋賀県 坂 田郡米原町上丹生 にある滋賀県醒井養鱒場 で開催 さ れている 「 親子 さかな教室」があげ られ る。 この教室 では親子 を対象 と して、ニ ジマスの食性 や体 の しくみ につ いて解剖 を通 じて学ぶが、解剖後 にニ ジマスを食 べ ることは行 われていない。
ニ ジマスはキ ャンプ場な どで は 「 釣 り」や 「 つかみ 取 り」 を して 「 食べ る」 とい う体験活動 として利用 さ れている。 しか しここで も魚の体 の構造 に関 して学ぶ ことは一般 的でない。 この ような体験活動で は解剖 し て体 の構造 と学ぶための貴重な機会 とな るだ ろう。 そ こで、ニ ジマスの 「 つかみ取 り」体験活動 を実施 して いる野外活動施設 で、ニ ジマスの解剖 を取 り入れた体 験学習 を実施 し、参加者 の反応 を調べ るとともに、学 校外 での解剖学習 の進 め方 につ いて検討 した。
2. 実施概要
( 1 )実施場所
三重県 内にはニ ジマスの釣 りやつかみ取 り体験 を実
施 してい るキ ャンプ場 が少 な くて も 5 箇所 はある。 そ の中で、いなべ市 にある 「 青川峡キ ャンピングパーク」
に協力 を得て実施す ることに した。青川峡キ ャンピン グパ ー クでは、宿泊客 を対象 に 「 ニ ジマスのつかみ取 り」 とい うイベ ン トを夏休 み期 間中、 およびそれ以外 の時期 に も特別 イベ ン トと して開催 している。場 内に あ る じゃぶ じゃぶ池 とい う面積 500 m2深 さ 1 5 cm ほ どの池 に生 きたニ ジマスを放 ち、手づかみで捕 まえ る とい うイベ ン トである。年齢制 限はな く、幼児 か ら中 学生 や大人 の参加 もあ る。天気 に もよるが 、 5 0 人 か ら 1 20 人 の参加がある人気 のイベ ン トである。来場者 は取 ったニ ジマスを調理す るため、ニ ジマスのつかみ 取 りの後 で料理 コ ンテス トを実施す るな ど、つかみ取 り参加者 に調理 に対す る関心 を高 めようとす る取組 も 行 われてい る。 また 、 1 60 名 が収容 で きる炭火焼ハ ウ スは様 々な工作な ど体験活動の場 と して も利用 で きる 設備 があ る。 この ように、ニ ジマスの解剖体験 を実施 す る上で必要 な施設関係者 の理解 と実施場所 な どの条 件 が整 っていた。
( 2)実施 内容
1回 目の実施 は 、 2 007 年 4 月 26 日に行 った。 ニ ジ マスの煩製作 りをす るとい うイベ ン トを企画 し、ニ ジ マスのつかみ取 りの後 で希望者 は下準備 を兼 ねて解剖 学習 をす ることと した。指導 には筆者 らの他 に三重大 学大学院生 2 名があた った。実施手順 は以下 のよ うで ある
。① ニ ジマスのつかみ取 り
・1 5 時か ら開始
・つかまえたニ ジマスをバ ケツに入 れて 「 炭火焼 ハ ウス」 に集合
②ニ ジマスの解剖
・解剖 図を配布
・掲示用解剖 モデル ( 布で製作) を使 って、解剖 の手順、 内臓 とその働 きの説 明
・ニ ジマスの脊髄切断 ( 活 き じめ)
・参加児童が調理 ハサ ミを使 って解剖
・心臓 の動 きを確認
・消化管、浮 き袋、鯉、腎臓 の確認
③煩製 の作成
・下処理
・乾燥 ( 一晩)
・煩製 ( 翌朝) 3‑4 時間
解剖 に際 しては、事前 申 し込 みの際に調理用バ サ ミ
を持参す るよ うに連絡 を した。参加者 の中には就学以
前の子 どももいたため、危険な ところは保護者 に手伝 っ
て もらうように指導 した。
野外活動施設 における魚類 の解剖学習
2 回 目は 2008 年 4 月 26,27 日に実施 した。 この と きは、憾製作 りという企画 はなか ったため、つかみ取 りの開始前 に施設のスタ ッフか ら 「 解剖学習の指導が あるので希望者 はつかみ取 りの後で 『 炭火焼 きハウス』
に集合す るように」 とアナウンス して もらった。ニ ジ マスを持参 した家族 に対 して解剖の手順 と観察のポイ ン トを説明 した後で実施 して もらい、進み具合をみな が ら指導 にあ った 。2009 年 4 月 26 日に も同様 に実施 したが、前 日が大雨のために宿泊のキ ャンセルが多 く、
当 日も小雨であったために参加者 は少なか った。
解剖終了後 には、参加児童 と保護者 に対 して、魚調 理や食事 に関す る意識 と、今回の解剖体験の感想 につ いてア ンケー ト調査 した。
3. 結 果
2007 年 4 月 26 日に行 ったニ ジマスのつかみ取 りに 参加 した児童 は約 90 名 ほどであ った ( 図 1A) 。 その うち、 このイベ ン トに参加 したのは児童 1 7 名 とその 保護者 1 7 名であ った。 また 、2008 年 4 月 26,27 日は 2 日間で 1 00 名以上の参加者 であ ったが、解剖 に参加 した児童数 は 24 名 とその保護者 1 5 名であった 。2007 年では、解剖 よ りも煩製作 りを 目的 として参加 した家 族が多か ったようだ 。2009 年 4 月 26 日は前述 したよ
うに天候が悪かったために、イベ ン ト参加者 は少なかっ たが、 ほぼ全員が解剖 に参加 し、児童 目 名 とその保 護者 1 0名であった。
1回 目の実施では、つかみ取 りを終えた参加者 が集 合 した ところで、ニ ジマスについての説明や、魚の体 のつ くりを布 で作成 した模型 を壁 に貼 って説 明 した ( 図 1B) 。 これに対 して、2 回 目の実施で は、 ニ ジマ スを持 ってきた人 か ら順 に説明 と解剖指導 を した。
参加児童の年齢 は低 く、小学校低学年が半数以上で、
中学年、高学年 になるに したが って少な くな った ( 義 1 )。 これはニ ジマスのつかみ取 りに参加す る年齢層 と 関係 している。魚の解剖体験をす る学齢 としては低い と思われたが、保護者 が子 どもの教育のために参加を 進めている場合が多 く、解剖では保護者 が指導 しなが ら、児童 は熱心 に取 り組んでいた。保護者 の約 1 / 3 は 魚をさばいた経験がなか ったが、子 どもと一緒 に意欲 的に取 り組 んでいた (図 1C, D) 。特 に、心臓 の拍動 にはほぼ全員か ら驚 きの声が聞 こえた。
本活動 に対す る児童のア ンケー ト結果 を表 1に示 し た。学齢 は 低 いが、魚 を食べ ることが嫌 いな児童 は 1 割 もいなか った。ニ ジマスの解剖 によって体 のつ くり がわか ったか どうか という設問に対 して、「わか った」
と 「 少 しわか った」 と回答 した児童 は 90% 以上であっ た。 このように理解度 が高か ったのは、保護者が理解
図