ラマヌジャングラフの構成について
教科教育専攻 数学教育専修 篠永小百合
平成
25
年2
月4
日目 次
1
序2
1.1
グラフの隣接行列と固有値. . . . 2
1.2
固有値のgap
の不等式. . . . 3
1.3 family of expanders
での固有値の近似的なふるまい. . . . 4
1.4
近似的なふるまいの証明. . . . 6
1.5
非隣接数と彩色数. . . . 8
1.6
大きなgirth
と大きな彩色数. . . . 9
2
整数論とPSL 2 p q q 14 2.1 2
つの平方数の和. . . . 14
2.2
平方剰余の相互法則と4
つの平方数の和. . . . 16
2.3
四元数環. . . . 17
2.4
整四元数環における整数論. . . . 18
2.5 PGL 2 p q q
とPSL 2 p q q . . . . 21
2.6
部分群の構造. . . . 22
2.7
有限群の表現論. . . . 24
3
グラフX p,q 32 3.1
ケーリーグラフ. . . . 32
3.2 X p,q
の構成. . . . 33
3.3 girth
と連結性. . . . 36
3.4
固有値の評価. . . . 41
4
グラフH z X p,q 50 4.1
商ケーリーグラフ. . . . 50
4.2
グラフH z X p,q . . . . 51
4.3 H z X p,q
の固有値の評価. . . . 53
4.4 H z X p,q
のgirth
と彩色数. . . . 53
1
序1.1
グラフの隣接行列と固有値V
を頂点の集合,Eを辺の集合とし,グラフX p V, E q
を考える.特に断りのないときはグラフX
は 無向で,多くの場合有限グラフである.Xの頂点の集合をV t v 1 , v 2 , u
とする.このときグラフX
の 隣接行列A
はA ij v i
とv j
をつなげている辺の個数とすると,A
p A ij q
である.X が単純であるとは隣接した頂点が多くとも1
つの辺でつながっている,すなわちすべての
v i , v j P V
に対しA ij P t 0, 1 u
となることをいう.Xが単純のときにはv i , v j P V
をつな いでいる辺をt v i , v j u
と表す.隣接行列A
によりグラフX
は完全に決定し,Xが無向のときはA
は対称 行列である.グラフX
にループがないとは,すべてのv i P V
に対し,Aii 0
であることと必要十分であ る.2頂点v i , v i 1 P V
が辺e i P E
により隣接しているとき,列v 1 e 1 v 2 e 2 v 3 v k
をX
の経路という.特 にX
が単純のときにはv 1 v 2 v k
とかく.グラフX
のすべての2
頂点が経路によりつなぐことができた ら連結しているという.定義
1.1.1. k © 2
を整数とする.すべてのv i P V
に対し,¸
v
jPV
A ij k
が成り立つとき,Xはk-正則と
いう.X
にループがないとき,k-正則であることと,すべての頂点がちょうどk
個の頂点と隣接していること は等しい.X
をn
頂点を持つ有限グラフとする.このとき隣接行列A
はn
行n
列の対称行列であり,n個の実固 有値が存在する.重複も数に入れ,値が減少するように並べると,µ 0 © µ 1 © © µ n 1
となる.Aの固有値の集合を
X
の固有値という.µ0
の重複度が1
であることは,µ0 ¡ µ 1
であることと 必要十分である.グラフ
X p V, E q
に対し,関数f : V Ñ C
を考え,l 2 p V q t f : V Ñ C : ¸
v
PV
| f p v q | 2 8u
を定義する.l2 p E q
も同様に定義する.V
が有限のとき| V | n
とすると,すべての関数f : V Ñ C
はl 2 p V q
に含まれる.このような関数をC n
上のベクトルと考える.これに隣接行列を作用させると,Af
A 11 A 12 A 1n .. . .. . .. . A i1 A i2 A in
.. . .. . .. . A n1 A n2 A nn
f p v 1 q f p v 2 q
.. . .. . f p v n q
A 11 f p v 1 q A 12 f p v 2 q A 1n f p v n q .. .
A i1 f p v 1 q A i2 f p v 2 q A in f p v n q .. .
A n1 f p v 1 q A n2 f p v 2 q A nn f p v n q
となる.したがって,
p Af qp v i q
¸ n j 1
A ij f p v j q
となる.添字を頂点の組そのままにすると,Aはp A xy q x,y
PV
によって表され,すべての
x P V
に対し,p Af qp x q ¸
y
PV
A xy f p y q
となる.命題
1.1.2. X
を有限で,n頂点を持つk-正則グラフとする.このとき次が成り立つ ;
p a q µ 0 k.
p b q 1 ¨ i ¨ n 1
に対し,| µ i |¨ k.
p c q µ 0
の重複度が1
であることと,X が連結であることは同値である.定義
1.1.3.
グラフX p V, E q
はある頂点の分割V V ∪ V
によりA xy 0
となるすべての2
頂点x, y
をx P V p V
q
かつy P V
p V q
とすることができたならば,2彩色可能という.このグラフを2
部グ ラフという.言い換えると,どの
2
つの隣接する頂点も同じ色にならないように頂点を2
色でぬることができたなら ば,グラフは2
彩色可能である.命題
1.1.4. X
を連結でn
頂点を持つk-正則グラフとする.次は同値となる:
p i q X
は2
彩色可能である; p ii q X
の固有値は0
で対称となる; p iii q µ n 1 k.
すべての有限で連結な
k-正則グラフ X
は最大固有値µ 0 k
を持ち,2彩色可能ならば最小固有値はµ n 1 k
となる.固有値k, k
をX
の自明な固有値という.差k µ 1 µ 0 µ 1
をX
の固有値のgap
という.1.2
固有値のgap
の不等式X p V, E q
をグラフとする.F V
のとき,Fの境界B F
をF
とV F
をつなぐ辺の集合とする.す なわち,B F
はF
とV F
を連結している辺の集合である.B F Bp V F q
である.定義
1.2.1.
グラフX
のexpanding constant
をh p X q inf
"
| B F |
min t| F | , | V F |u : F V, 0 | F | 8
*
とする.Xが
n
頂点を持つ有限グラフのとき,hp X q min
"
| B F |
| F | : F V, 0 | F |¨ n 2
*
となる.
グラフ
X
を情報伝達ネットワークとすると,expanding constanth p X q
はX
の質を測定している.hp X q
が大きいことは,情報伝達がよいことを意味している.定義
1.2.2.
グラフ族p X m q m
©1
が有限で連結していてk-正則であり,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
をみ たすとする.このとき,D
ε ¡ 0,
@m © 1 such that h p X m q © ε
をみたすならば,f amily of expandersという.X m
が完全グラフ(すべての頂点が他のすべての頂点と隣接しているグラフ)ならば,確かに情報伝達 はよいがコストがかかることから,最小の辺によって最適な相互通信能力が与えられるグラフが最もよい.定理
1.2.3. X p V, E q
を有限で連結していて,ループのないk-正則グラフとする.µ 1
をX
の自明でない最大固有値とすると,
k µ 1
2 ¨ h p X q ¨ a
2k p k µ 1 q
が成り立つ.定義
1.2.2
と定理1.2.3
から次がわかる.系
1.2.4. p X m q m
©1
を有限で連結していて,ループのないk-正則グラフ族とし,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
をみたすとする.このとき,族p X m q m
©1
がfamily of expanders
であることは,D
ε ¡ 0,
@m © 1 such that k µ 1 p X m q © ε
をみたすことと,必要十分である.系
1.2.4
からk-正則なグラフ族が family of expanders
であることは固有値のgap
に0
から離れた下限が 存在することと必要十分であることがわかる.また,定理1.2.3
から固有値のgap
が大きいほどexpanding constant h p X q
が大きく,Xの質がよいことがわかる.1.3 family of expanders
での固有値の近似的なふるまいこの節でのグラフはすべてループなしとする.次の定理より
k-正則グラフの固有値の gap
の大きさには 限りがあることがわかる.定理
1.3.1. p X m q m
©1
を有限で連結しているk-正則グラフ族とし,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
をみた すとする.このとき,lim inf
m
Ñ 8µ 1 p X m q © 2 ? k 1
が成り立つ.定理
1.3.1
より強い結果を1.4
節で見ていく.定義
1.3.2. X
を連結グラフとする.Xのgirth g p X q
をX
の最小の閉路の長さとする.X がtree
であ る,すなわちX
に閉路がないとき,gp X q 8
とする.有限で連結している
k-正則グラフにおいて,µ p X q
をX
の最小非自明固有値とする.定理
1.3.3. p X m q m
©1
を有限で連結しているk-正則グラフ族とし,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
をみた すとする.このとき,lim sup
m
Ñ 8µ p X m q ¨ 2 ?
k 1
が成り立つ.定理
1.3.3
も同様に強い結果を1.4
節で見ていく.定理1.3.1
と定理1.3.3
から主定義が導かれる.定義
1.3.4. X
を有限で連結しているk-正則グラフとする.X
のすべての非自明固有値µ
において,| µ |¨ 2 ? k 1
が成り立つとき,Xをラマヌジャングラフという.p X m q m
©1
をループなしのk-正則なラマヌジャングラフ族とし,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
だとす る.このとき,Xm
の固有値のgap
は可能な限りの最大となり,family of expandersについて最適となる.命題
1.3.5. X
を有限なk-正則グラフとする.頂点 x 0
を固定し,自然数r
をr g p X q
2
とする.Xに中 心x 0
,半径r
の円をかく.この円の中に頂点はk pp k 1 q r 1 q
k 2 1
個ある.証明. 中心
x 0
,半径r
の円をかくと,この円の内部にあるグラフの部分はk-正則な tree
と同型である.よっ て,頂点の個数は1 k k p k 1 q k p k 1 q r
1 k pp k 1 q r 1 q
k 2 1
となる.
命題
1.3.6. k © 3
とする.p X m q m
©1
を連結しているk-正則グラフ族とし,m Ñ 8
のとき| V m |Ñ 8
をみたすとする.このとき,g p X m q ¨ 2 2 log k
1 | V m |
となる.証明. 自然数
r m
をr m g p X m q
2
とする.中心x 0
,半径r m
の円を考えると,命題1.3.5
よりk pp k 1 q r
m1 q
k 2 1 ¨| V m | , k pp k 1 q r
m1 q
k 1 ¨| V m | , p k 1 q r
m¨| V m | ,
r m ¨ log k
1 | V m |
となる.g p X m q
2 1 ¨ r m g p X m q
2
とできるので,g p X m q
2 1 ¨ log k
1 | V m | ,
g p X m q ¨ 2 2 log k
1 | V m |
となる.1.4
近似的なふるまいの証明この節では定理
1.3.1
と定理1.3.3
よりも強い結果を見ていく.定理
1.3.1
の不等式はk-正則グラフでの頂点 v
からv
への長さがm
になる経路の数は,k-正則なtree
のv
からv
への経路の数以上であるということからきている.X p V, E q
をk-正則な単純グラフとする( | V |
は無限でもよい).xi P V p i 0, 1, , r q
に対し,xi
とx i
1 p i 0, 1, , r 1 q
が隣接していてx i 1 x i
1 p i 1, 2, , r 1 q
が成り立つとき,e x 0 x 1 x r
を長さ
r
の後戻りのない経路という.eの始点はx 0
は,終点はx r
である.rP N
に対しA r
をp A r q xy
始点x,終点 y
の後戻りなしの長さr
の経路の数と定義する.このとき,A
0 Id p A 0 q
とA 1 A
が成り立つことは明らかである.補題
1.4.1.
p a q A 2 1 A 2 k Id.
p b q r © 2
に対し,A 1 A r A r A 1 A r 1 p k 1 q A r 1 .
補題
1.4.1
からA r
の生成関数を計算することができる.すなわち,A r
を係数の形式的べき級数にできる.補題
1.4.2.
¸
8r 0
A r t r 1 t 2 1 At p k 1 q t 2
が成り立つ.すなわち, 8¸
r 0
A r t r
p Id At p k 1 q t 2 Id q p 1 t 2 q Id
となる.補題
1.4.2
の右辺の分子の1 t 2
を消去するために多項式T m
をT m ¸
0
¨r
¨m2A m
2r p m P Nq
と定義する.Tm
の生成関数は補題1.4.3
で与えられる.補題
1.4.3.
¸
8m 0
T m t m 1
1 At p k 1 q t 2 .
定義
1.4.4.
第2
種のチェビシェフ多項式をU m p cos θ q sin p m 1 q θ
sin θ p m P Nq
と定義する.U m
とT m
の関係は命題1.4.5
で与えられる.命題
1.4.5. m P N
に対し,T m p k 1 q
m2U m
A
2 ? k 1
が成り立つ.
X p V, E q
を有限でn
頂点を持つk-正則グラフとする.X
の固有値をµ 0 k © µ 1 © © µ n 1
で表す.x
P V
に対し,fl,x
をX
の始点x,終点 x
の後戻りなしの長さl
の経路の数とする.すなわち,f l,x p A l q xx
である.Tm
のトレースを2
つの方法で考えることで,次のtrace formula
が成り立つことが わかる.定理
1.4.6.
すべてのm P N
に対し,¸
x
PV
¸
0
¨r
¨m2f m 2r,x p k 1 q
m2n ¸ 1 j 0
U m
µ j
2 ? k 1
が成り立つ.
X
の自己同型群Aut X
が頂点集合V
上で推移的に動くとき,Xは頂点推移という.すなわち,すべて の頂点の組x, y
に対し,あるα P Aut X
が存在し,αp x q y
が成り立つことをいう.頂点推移であると き,fl,x
は単にf l
としてよい.系
1.4.7. X
を頂点推移で有限でn
頂点を持つk-正則グラフとする.このときすべての m P N
に対し,n ¸
0
¨r
¨m2f m 2r p k 1 q
m2n ¸ 1 j 0
U m
µ j
2 ? k 1
が成り立つ.
定理
1.4.6
の右辺p k 1 q
m2n ¸ 1 j 0
U m
µ j
2 ? k 1
からだけではこれが非負整数になるかはわからない.し かし,左辺が正となるということからこれが正になることがわかり,これより非自明な結果を得る.その ために,まずチェビシェフ多項式のテクニカルな結果を用意する.
命題
1.4.8. L © 2
とε ¡ 0
を実数とする.r L, L s
上の任意の確率測度ν
に対し,すべてのm P N
にお いて» L L
U m x
2 dν p x q © 0
となるならばν pr 2 ε, L sq © C
をみたす定数
C C p ε, L q ¡ 0
がある.(νはC
以上の速度をr 2 ε, L s
に与える.)有限で連結な
k-正則グラフの固有値の話に戻り,定理 1.3.1
よりもよい定理を与える.定理1.3.1
のよう に非自明でない最大の固有値µ 1
が近似的に2 ?
k 1
より大きいだけでなく,区間rp 2 ε q ?
k 1, k s
にあ る正の固有値でもそうであることが次でわかる.定理
1.4.9.
すべてのε ¡ 0
に対し定数C C p ε, k q ¡ 0
があり,すべての有限で連結なn
頂点を持つk-
正則グラフX
の固有値は,区間rp 2 ε q ?
k 1, k s
に少なくともC n
個存在する.定理
1.4.9
に類似した定理1.3.3
の改善を行っていく.Xをグラフとするとき,| X |
をグラフの頂点数と する.δ a
をa P r L, L s
のディラック測度とする.これはr L, L s
上の確率測度である.すなわち,r L, L s
上の連続関数f
に対し,» L L
f p x q dδ a p x q f p a q
となる.定理
1.4.10. p X m q m
©1
を有限で連結なk-正則グラフ族とし,m Ñ 8
のときg p X m q Ñ 8
をみたすとす る.νm ν p X m q
をν m 1
| X m |
|
X ¸
m|1 j 0
δ
µjpXmq?k1
によって定義される
?k k
1 ,
?k k 1
上の測度とすると,
?k k
1 ,
?k k 1
上のすべての連続関数
f
についてlim
m
Ñ8»
?k k1?k1k
f p x q dν m p x q
» 2 2
f p x q a
4 x 2 dx 2π
となる.言い換えると,
?k k
1 ,
?k k 1
上の測度列
p ν m q m
©1
はdν p x q
? 4 x 2
2π dx
を与えることでr 2, 2 s
上の測度ν
に弱収束する.系
1.4.11. p X m q m
©1
を有限で連結なk-正則なグラフ族とし,m Ñ 8
のときg p X m q Ñ 8
をみたすとす る.すべてのε ¡ 0
に対し,定数C C p ε q ¡ 0
が存在し,区間r k, p 2 ε q ?
k 1 s
上のX m
の固有値 の数は少なくともC | X m |
である.1.5
非隣接数と彩色数X p V, E q
をループのない有限グラフとし,Xの隣接行列をA
とする.定義
1.5.1.
p a q
彩色数χ p X q
をすべてのi 1, 2, , χ
に対し,すべてのx, y P V i
がA xy 0
となるよう な分割V V 1 ∪ V 2 ∪ ∪ V χ
の組の最小数とする.p b q
非隣接数i p X q
を すべてのx, y P F
に対し,Axy 0
となるような部分集合F V
の要 素の最大数とする.補題
1.5.2. X
をループなしのn
頂点を持つ有限グラフとする.このとき,n¨ i p X q χ p X q
が成り立つ.有限で連結している
k-正則グラフ X
の固有値k µ 0 ¡ µ 1 © © µ n 1
と
i p X q
には次の関係がある.命題
1.5.3. X
を有限で連結なn
頂点を持つk-正則グラフとする.このとき, i p X q ¨ n
k max t| µ 1 | , | µ n 1 |u
が成り立つ.補題
1.5.2,命題 1.5.3,命題 1.1.4,定義 1.3.4
から次がわかる.系
1.5.4. X
を有限で連結なn
頂点を持つループなしのk-正則グラフとする.このとき
χ p X q © k
max t| µ 1 | , | µ n
1 |u
が成り立つ.特に,X が
2
彩色可能でないラマヌジャングラフならばχ p X q © k
2 ?
k 1
? k 2
となる.1.6
大きなgirth
と大きな彩色数一般に辺の数が増えると彩色数は増加し(少なくとも減少はしない),girthは減少する.大きな
girth
と大きな彩色数を同時に持つグラフの存在という問題には長い歴史がある.なぜなら大きなgirth
と大き な彩色数を同時に持つと通信効率の面でもコストの面でもよいからだ.次はErd¨ os
によって最初に示され たものである.定理
1.6.1. k
とc
を大きな数とする.gp X q © k
とχ p X q © c
をみたす単純なグラフX
が存在する.証明.
n
を自然数とする.頂点数がn,辺の数が m
のグラフの集合を考える.この集合をX n,m
と表す.0 ε 1
k
をみたすε
を固定し,mr n 1 ε s
と定める(r s
はガウス記号).First Step.
まず,X n,m
の元の個数を数える.頂点n
個から辺はn
2
本引くことができるので,m辺 を選ぶと
| X n,m | n
2
m
となる.
Second Step.
次に,X n,m
の中で非隣接数が小さいものを考える.0η ε
2
をみたすη
を固定し,p r n 1
η s
とする.Xの頂点集合からp
個の元をもつ任意の部分集合をとる.その頂点で作った完全グラ フK p
の辺がX
とn
個(かなり大きい数)より多い辺と共有しているものを非隣接数が小さいとする.そ うでない悪いグラフとはある完全グラフK p
と共有している辺が少ししかないときであり,この悪いグラ フを考えていく.p
個の元を固定して考える.Kp
が0 ¨ l ¨ n
をみたすl
辺だけ共有しているX P X n,m
の数はp
2
l
n
2
p 2 m l
となる.したがって
n
個以下の辺がK p
と共有しているX P X n,m
の数をN r p n, m q
とすると,N r p n, m q
¸ n l 0
p
2
l
n
2
p 2 m l
となる.n
¨ N
2
かつ0 ¨ l ¨ n
のとき,一般にN
l
¨ N
n
となるので,大きな
n
と0 ¨ l ¨ n
に対し,p 2
l
¨ p
2
n
,
n 2
p 2 m l
¨ n
2
p 2 m
がわかる.よって
N r p n, m q ¨ p n 1 q p
2
n
n
2
p 2 m
¨ p n 1 q
p p p 1 q 2
n n
2
p 2 m
¨ p 2n 2 n p n 1 q
n
2
p 2 m
¨ p 2n n
2
p 2 m
p 2n m!
n 2
p
2 n 2
p
2
1
n
2
p
2
m 1
となる.0
¨ l ¨ m
のときn 2
p
2
l ¨ n
2
l 1
p 2
n 2
より,
N r p n, m q ¨ p 2n m!
n 2
n 2
1
n
2
m 1 1
p 2
n 2
m
p 2n n
2
m 1
p 2
n 2
m
¨ p 2n n
2
m 1
p 1 n 1
2 m
となる.0
x 1
のときp 1 x q m e
mx
となるので,First StepよりN r p n, m q ¨ p 2n e
m p
np11q
2| X n,m |
となる.Third Step. N p n, m q
をあるK p
とn
辺以下の辺を共有しているX P X n,m
の数とする.Kp
はn
p
通 りあるので
N p n, m q ¨ n
p
N r p n, m q
となる.
Fourth Step. p r n 1
η s
よりn
p
¨ n p ¨ p n
であるので,Second StepとThird Step
よりN p n, m q ¨ p 3n e
m p
n1p1q
2| X n,m |
となる.
Fifth Step. 0 η ε
2 , m r n 1 ε s , p r n 1
η s
であることを使うと,N p n, m q
| X n,m | ¨ p 3n e
m p
n1p1q
2e 3n log p
m p
p1n1q
2となる.さらに
m
p 1 n 1
2
© p n 1 ε 1 q
n 1
η 2 n
2
n 3
2η ε 4n 2
η ε 4n 1 ε n 2
2η 4n 1
η 4 n 2
n 1
2η ε p n
が大きいときq
であり,0ε
12η ε
によりlog p ε
1とできるので3n log p m p 1
n 1 2
3nε
1n 1
2η ε Ñ 8 p n Ñ 8q
となる.よってN p n, m q
| X n,m | Ñ e
80 p n Ñ 8q
が成り立つ.nÑ 8
のときA p n q o p B p n qq
とは,nÑ 8
のときA p n q
B p n q Ñ 0
が成り立つことと同値であ るので,nÑ 8
のときN p n, m q o p| X n,m |q
となる.これは
X n,m
の中ですべてのK p
とn
辺より多く共有しているグラフX
の割合がn Ñ 8
のとき1
となることを表している.すなわち,非隣接数が小さいX
が存在することを表している.Sixth Step.
これからgirth
について考える.今まで考えてきたK p
とn
辺より多く共有しているX
が大きな
girth
をもつとは限らないからである.X n,m
上の整数値関数F
を定義する.最初に固定したk
に対し,長さ
l ¨ k
のX
の閉路の数をF p X q
とする.Ap n, k q
をF
の値の平均とするとA p n, k q 1
| X n,m |
¸
X
PXn,mF p X q
となる.Seventh Step. A p n, k q
を別の方法で計算していく.3¨ l ¨ k
のとき,lを固定してC l : x 1 Ñ x 2 Ñ Ñ x l Ñ x 1
となる長さl
の閉路を考える.Cl
を含むグラフの個数はn 2
l m l
個であり,
¸
X
PXn,mF p X q
ではX P X n,m
の中でこの条件をみたすものは1
個ずつ数えてある.np n 1 q p n l 1 q
は長さl
の閉 路の数である.したがってA p n, k q 1
| X n,m |
¸ k l 3
n p n 1 q p n l 1 q n
2
l m l
¨
¸ k l 3
n l n
2
l m l
n
2
m
p First Step
よりq
¸ k l 3
n l m p m 1 q p m l 1 q
n 2
n
2
1
n 2
l 1
¨
¸ k l 3
n l m l
n 2
n
2
1 n 2
l 1
¸ k l 3
n l m l
n 2
l
1
n
2
l n
2
n
2
1 n 2
l 1 1
となる.
p q
の項はn Ñ 8
のときo p 1 q
となる.これより,mr n 1 ε s
とε 1 k
からA p n, k q ¨ p 1 o p 1 qq
¸ k l 3
n l m l
n 2
l
p 1 o p 1 qq
¸ k l 3
2m n 1
l
¨ p 1 o p 1 qq k 2m
n 1 k
Ñ o p n q p n Ñ 8q
となる.Eighth Step. n Ñ 8
のとき1
| X n,m |
¸
X
PXn,m:F
pX
q©nkn
k ¨ 1
| X n,m |
¸
X
PXn,mF p X q A p n, k q o p n q
が成り立つ.よってn Ñ 8
のとき| t X P X n,m : F p X q © n k u |
| X n,m | o p 1 q
となる.Coda. X P X n,m
に対し,次の2
つの性質を考える:(1) X
はn
辺より多く,すべてのK p
と共有している;(2) F p X q n k .
Fifth Step
とEighth Step
よりn Ñ 8
のときX P X n,m
が(1),(2)
をみたす割合が1
となる.そこで 十分大きなn(k, ε, η
により決まる)に対し,(1),(2)をみたすX
を選ぶ.Xから長さがl
以下の閉路を 作る辺すべてを消したものをX
1とする.明らかにg p X
1q ¡ k
である.(2)よりX
からX
1にするのに消し た辺はn
辺より少ないので,X1は少なくとも1
辺がすべてのK p
と共有しているのでi p X
1q ¨ p
が成り立 つ.補題1.5.2
よりχ p X
1q © n
p
であり,χ p X
1q © n n 1
η n η
となる.これは十分大きな
n
に対してc
より大きくなる.よってX
1が必要な条件をみたすグラフであ る.Erd¨ os
によって示された定理1.6.1
は確率論的方法を使っている.この証明方法では大きなgirth
と大き な彩色数をもつグラフの存在は明らかとなるが,具体例を見つける手掛かりとはならない.p, qを異なる奇素数としたとき,Lubotzkyと
Phillips
とSarnak
はPGL 2 p q q
またはPSL 2 p q q
を頂点集合とし,Sp,q
によ り辺を構成するグラフX p,q
がラマヌジャンであり,ルジャンドル記号p q
1
のときは大きなgirth
と 大きな彩色数をもつことを示した.このことは3
節にある.なお,この論文の1
節から3
節は参考文献[2]
を基本的にまとめたものである.
この論文では部分群
H PGL 2 p q q
による,PGL 2 p q q
またはPSL 2 p q q
の剰余類を頂点集合とし,Sp,q
によ り辺を構成するグラフH z X p,q
もラマヌジャンであることを示す.このグラフH z X p,q
はどのh P H, s P S p,q
も共役でなく,mを任意の
h P H
に対し,hm 1
となる最小の自然数としたとき,Xp,q
のgirth
が2m
より大きいときにループがなく単純である.ループがなく単純のときには,Hz X p,q
はX p,q
に比べ,頂点 数は少なくなるがgirth
はそれほど小さくはならないことがわかる.すなわち,Hz X p,q
は大きなgirth
を もつことがわかる.また,Hz X p,q
の彩色数は,Xp,q
が2
彩色可能でないときは同様の下限をもつことが わかる.特に,ルジャンドル記号p q
1
のときは,Xp,q
は2
彩色可能となってしまったが,Hz X p,q
は部分群H
をうまくとることで2
彩色可能でなくなり,この場合も他の場合と同様の下限をもつことがわ かる.すなわち,大きな彩色数をもつことがわかる.これによりラマヌジャンで,ループがなく単純な大きな
girth
と大きな彩色数をもつグラフの具体的な例を増やすことができる.2
整数論とPSL 2 p q q
2.1 2
つの平方数の和この節ではガウスの整数環
Zr i s
と整四元数環HpZq
の様々な性質を見ていく.特に,2.4節のS p
はX p,q
やH z X p,q
の構成に必須のものである.また,2.5節からはX p,q
の頂点集合になるPGL 2 p q q
やPSL 2 p q q
について見ていく.k © 2,n P Z
に対し,rk p n q
をn
をk
個の平方数の和で表す方法の個数とする.すなわちディオファン トス方程式x 2 0 x 2 1 x 2 k
1 n
の解の個数である:r k p n q
#
p x 0 , , x k 1 q P Z k :
k ¸ 1 i 0
x 2 i n + .
i
を虚数単位とする,すなわちi 2 1
をみたすとする.ガウスの整数環Zr i s
をZr i s t a bi : a, b P Zu
と定義する.
Zr i s
が複素数体C
の部分環であることはすぐわかる.ノルムN p α q
をN p α q αα | α | 2 a 2 b 2
とするとN p α q
は有理整数であるから,有理整数が2
つの平方数の和となることと,あるガウス整 数のノルムであることは同値である.ノルムは乗法についてN p αβ q N p α q N p β q p α, β P Zr i sq
となることから,2つの平方数の和の積が
2
つの平方数の和となることがわかる.αP Zr i s t 0 u
とする.α
1 α 1 P Zr i s
のとき,αを単元という.1N p α α 1 q N p α q N p α 1 q
かつN p α q , N p α 1 q P N ∪ t 0 u
よりα
がZr i s
の単元となることはN p α q 1
であることと同値である.さらにN p α q 1
はα P t 1, 1, i, i u
と 同値である.定義
2.1.1.
p a q 2
つのガウス整数α, β
が同伴であるとは,ある単元ε P Zr i s
がありα εβ
が成り立つ ことである.p b q
ガウス整数π P Zr i s
が素元であるとは,πがZr i s
の単元でなく,すべての因数分解π αβ P Zr i s
に対してα
またはβ
がZr i s
の単元であることである.同伴である
2
つの元はZr i s
上で同値関係が成り立ち,逆元や素元の有無や整除性といった特性を保つ.可換環では定義
2.1.1(b)
は普通既約の定義であり,素元の定義は命題2.1.5
のものである.この2
つが同値 であることを見ていく.命題
2.1.2. α, β P Zr i s , β 0
とする.γ, δP Zr i s
があり,αβγ δ
かつN p δ q N p β q
とできる.定義
2.1.3. α, β P Zr i s
を固定する.p a q α
がβ
を割り切るとは,γP Zr i s
がありβ γα
となることである.p b q δ P Zr i s
がα
とβ
の最大公約数とは,δがα
とβ
を割り切り,αとβ
を割り切るすべてのγ P Zr i s
がδ
を割り切ることである.p α, β q δ
とかく.明らかに,最大公約数が存在するとき,同伴なものを無視すればただ
1
つである.p α, β q 1, i
なら ばα
とβ
を互いに素という.この場合はp α, β q 1
とする.命題
2.1.4. α, β P Zr i s t 0 u
に対し,最大公約数p α, β q P Zr i s
が存在する.また,ベズーの等式が成り立 つ,すなわちγ, δ P Zr i s
があり,p α, β q αγ βδ
とできる.命題
2.1.5. π P Zr i s
が素元であることは,πが積αβ p α, β P Zr i sq
を割り切るとき,πがα
またはβ
を割 り切ることと同値である.これから,
Zr i s
の因数分解の一意性が示される.命題
2.1.6.
すべての0
でないZr i s
の元はZr i s
の素元の積で単数倍を除いて一意的にかける.すなわち
α P Zr i s t 0 u
とすると,素元π 1 , , π k , σ 1 , , σ l P Zr i s
がありα π 1 π k
とかけ,さらにα π 1 π k σ 1 σ l
とα
に素元による因数分解が2
つあるならば,kl
かつ1 ¨ i ¨ k
に対して添 字を置換することでπ i
とσ i
は同伴となる.q
を素数のべき乗とする.F q
を元をq
個持つ有限体とする.q個の元を持つ有限体は1
種類しかない.F
q
はF q
の0
でない元の乗法群を意味する.定理
2.1.7. p
をN
上の奇素数とする.次は同値となる:p i q p 1 p mod 4 q ;
p ii q 1
がF q
で平方,すなわちx 2 1 p mod p q
はZ
に解をもつ; p iii q p
は2
つの平方数の和となる(r2 p p q ¡ 0
である).次は
Fermat
とEuler
の有名な結果である.系
2.1.8.
整数n © 2
が2
つの平方数の和でかける(r2 p n q ¡ 0)ことは,すべての p 3 p mod 4 q
となる 素数がn
の素因数分解の中に偶数乗で現れることと同値である.補題
2.1.9. n P Z , α P Zr i s
とする.p m, α q 1
とp m, N p α qq 1
は同値である.命題
2.1.10.
ガウス整数π P Zr i s
が素元であることは,次の3
つのうちの1
つが成り立つことと同値である:
p i q N p π q 2(すなわち π t 1 i, 1 i u
);p ii q p
をZ
の素元でp 1 p mod 4 q
とする.Np π q p
となる; p iii q q
をZ
の素元でq 3 p mod 4 q
とする.πとq
が同伴となる.n P N
とし,次を定義する:• d 1 p n q
を法4
で1
と合同になるn
の約数の個数とする;• d 3 p n q
を法4
で3
と合同になるn
の約数の個数とする;• d p n q
をn
の約数の個数とする.定理
2.1.11. n P N , n ¡ 0
とする.r2 p n q 4 p d 1 p n q d 3 p n qq
が成り立つ.ε ¡ 0
を固定する.nP N
に対し,fp n q O ε p n ε q
であるとは,ある定数C C p ε q ¡ 0
によりすべてのn P N
が| f p n q |¨ Cn ε
となることである.これを使い,r
2 p n q
とr 3 p n q
の増大度を求める.系
2.1.12.
すべてのε ¡ 0
に対し,r2 p n q O ε p n ε q
となる.系