理支援の現状と今後の課題
著者 中井 あづみ
雑誌名 明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin
University bulletin of psychology
巻 28
ページ 71‑83
発行年 2018‑03‑16
その他のタイトル The current situation and future tasks of providing psychological support for perinatal loss in japan
URL http://hdl.handle.net/10723/00003339
『心理学紀要』(明治学院大学)第 28 号 2018 年 71 83 頁
問題と目的
日本の周産期医療は世界的なトップレベルに ある(今井・上田・上田・香田・土屋・野崎・
前田・松永,2012)。新生児死亡率は低く(日 本ユニセフ協会,2016),死産数も年々減少し ている(厚生労働省,2017)。それでも,全て の妊娠が無事に出産に至るわけではない。国内 で妊娠 12 週以降に死児を出産する率は,2016 年 は 21.0( 千 対 ) で あ っ た( 厚 生 労 働 省,
2016)。妊娠 22 週未満で死産するいわゆる流産 は,8% から 15% ほどであった(日本生殖医学 会,2013)。35 歳から 70 歳の妊娠経験のある女 性のうち,流産経験者は 38.1% にのぼる(杉浦・
鈴木・尾崎・北折,2010)。妊娠や出産は,死 と向き合う機会ともなる経験である。
流産,死産,新生児死といった妊娠や出産に まつわる死を,近年では周産期の喪失(perinatal loss)と総称することがある。Perinatal loss は,
妊娠週数を限定せず,子どもを産み,亡くす体
験について,元気な子どもを産めない事実に直 面し,親であると認識し,夫婦や家族の気持ちに 気づくことと定義されている(岡永・横尾・中 込,2009)。日本では,perinatal loss は,2000 年代から使われだした比較的新しい概念(岡永 他,2009)とされる。妊娠や出産にまつわる死 は,流産,死産,新生児死と呼び名を変えたり,
流産しやすい時期を過ぎるまで妊娠を周囲に告 げなかったりと,妊娠週数で対応を分けること がある。しかし,親にとっては,時期にかかわ らず子どもの死の宣告である(Kavanaugh &
Hershberger,2005)。子どもの死の時期を問 わない包括的な概念は,妊娠や出産を経験する 女性や家族の心理を理解することに役立つ。
Perinatal loss は,喪失の中でも多義的な経 験と位置づけられる。Perinatal loss と配偶者 との死別を比較した畝山(2008)は,perinatal loss では 2 つの否認が行われると指摘した。死 の否認と,思い描いていた赤ちゃんではないこ との否認である。Perinatal loss には命を生み
要 約本研究の目的は,perinatal loss の現状を展望し,心理職が果たしうる役割について,当事者への支援とコンサルテー ション・リエゾンの 2 点から検討することであった。当事者への心理支援は,看護,助産の一貫として行われ,当事 者に継続的に支援を行う必要性が提案されていた。コンサルテーション・リエゾンについて,支援目標は共有されて いるものの,支援者が自身の感情の対応に困難を感じると,支援の質や量が低下する傾向があった。現行の援助資源は,
支援者の感情への対応としては十分でなかった。心理職は,心理面接論を援用した心理教育や,悲嘆や喪失に関する 系統的な理解を提供しうると示唆された。今後の課題が議論された。
キーワード:ペリネイタル・ロス,心理支援,死別,コンサルテーション・リエゾン,多職種協働
中 井 あづみ
(明治学院大学心理学部)【展望】
周産期の喪失(perinatal loss)にかかる
日本の心理支援の現状と今後の課題
出す妊娠や出産そのものの否定が内包されるた めと説明されている。子どもの死も思い描いて いた赤ちゃんではないことも,当事者には直視 しがたい要因である。喪失に関するプロセス研 究によると,喪失体験を受け止め適応する段階 は,喪失を現実のものとして直視する段階を経 てから起きるとされる(池内・藤原,2009;武 井・嶋田・鈴木,2011)。Perinatal loss は,受 け止めや適応に時間がかかりやすいと考えられ る。
実際に,perinatal loss は,医学的に正常と される悲嘆の過程から逸脱しやすい。子どもを 亡くした親は,持続性複雑性死別障害(Persis- tent Complex Bereavement Disorder : PCBD)
のリスクが高い(Keesee, Currier, & Neimey- er, 2008;Shear, Simon, Wall, Zisook, Neimey- er, Duan, Reynolds, Lebowitz, Sung, Ghesquiere, Gorscak, Clayton, Ito, Nakajima, Konishi, Mel- hem, Meert, Schiff, OʼConnor, First, Sareen, Bolton, Skritskaya, Mancini, & Keshaviah, 2001)。PCBD とは,喪失を受け入れることが できない等悲嘆の症状が 12 ヶ月以上続き,結 果として人生上の適応に抵抗を示す障害である
(Ray・Prigerson・ 勝 野,2009)。PCBD の 危 険因子は,死者と遺族の親密な関係,死に対す る準備不足,ソーシャルサポートの欠如の 3 点 と さ れ(Ray 他,2009),perinatal loss で は そ れらが生じやすい。まず,親子関係は妊娠初期 か ら 築 か れ る 親 密 な 関 係 で あ る(Cranley, 1981;Mehran, Simbar, Shams, Ramezani- Tehrani, & Nasiri, 2013)。日本の周産期医療の 世界的な高さ(今井他,2012;日本ユニセフ協 会,2016)や死産数の減少から(厚生労働省,
2017),国内での妊娠や出産において,死に対 する準備は不足しやすい。池内・藤原(2009)
は,死別から立ち直る要因に,葬儀のような,
悲嘆を社会的に表し受容される場が用意される ことを挙げている。Perinatal loss は,死を社 会的に共有する機会が配偶者との死別より少な く(畝山,2008),サポート源に接する機会が 相対的に減る(岡永他,2009;畝山,2008)。
Perinatal loss は,おしなべて困難な経験であ る(Keesee et al., 2001;Ray 他 , 2009;Toff ol, Koponen, & Partonen, 2012; 畝 山,2008)。
Perinatal loss を経験すると, 以降の妊娠 (Hunter, Tussis, & MacBeth, 2017)やきょうだいの養 育(伊藤・蛎﨑,2014;菅生,2013),災害時 の 抑 う つ(Yoshida-Komiya, Goto, Yasumura, Fujimori, Abe, & The Pregnancy and Birth Survey Group of The Fukushima Health Man- agement Survey, 2015)といった後続する経験 で気持ちが不安定になりやすい。夫婦関係に緊 張をもたらすとも報告されている(岡永他,
2009)。しかし,Schwab(1998)は,子どもの 死と両親の離婚を結びつけたがる傾向を神話と 呼んだ。子どもの死を経験したカップルの離婚 率は,一般人口でのそれより低い場合があり,
夫婦関係を長期にわたって強めることもあると 展 望 さ れ て い る(Schwab, 1998)。Perinatal loss を経験した人を適切に支援することは,
perinatal loss にもかかわらず当事者が健康を 維持し,家族関係も良好になる可能性を高める と考えられる。
Perinatal loss を適切に支援していく際の要 点に,支援者のメンタルヘルスを保つことがあ る。Perinatal loss は,支援者にとっても外傷 的 な 体 験 で あ り( 久 場・ 玉 城,2016;Puia,
Lewis, & Beck, 2013;Wallbank & Robertson, 2012),支援者は喪失反応を来しやすいと指摘 されている(諸岡・湯本・和田・赤羽・今泉,
2016)。Perinatal loss の支援は,従来の周産期 の支援に付加して行われる上に,柔軟性,創造 性,積極性が要求されるので(Defy,1995),
支援者の負担は小さくない。看護学からの展望 では,実際の支援法を紹介したり,perinatal loss に臨む看護職の心理を明らかにしたりと いった検討が行われているものの(諸岡他,
2016),perinatal loss は,知識不足の分野で(畝 山,2008),対応が困難(蛭田・堀内・石井・
堀内,2016)と認識されている。社会福祉から
の展望では,日本のソーシャルワーク教育には
悲嘆の心理の理解や支援法が組み込まれていな
いと問題提起されている。その結果,perinatal loss の支援でソーシャルワーカーが力を出せて いないと述べられている(畝山,2008)。喪失 にいかに対応するかは心理学上の問題でもある ことから,看護や社会福祉の立場から perina- tal loss を支援する人に対して,心理学的なコ ンサルテーションやリエゾンが行われることの 不十分さがあると考えられる。
以上より,perinatal loss の当事者および支 援者に対して,心理支援を充実させていくこと が望まれる。Perinatal loss への支援を展望し た Kendall & Guo(2008)は,対話や思いやり,
信頼関係,死別への理解,継続的な支援が重要 と指摘した。ただし,それらは欧米の慣習を基 盤とした限定的な要点であり,社会文化的要因 に配慮した支援が必要と述べられている。実際 に,米国の支援では,聖職者や精神的指導者に 連絡を取ったり花の種を形見として渡したりす るといった,日本では一般的とは言いにくい手 続きが,米国ガイドラインに則したプロトコル として実施され,効果を挙げている(Johnson
& Langford,2015)。では,日本では,perina- tal loss に対してどのような心理支援が行われ ているのか,不十分さはどのような点にあるか,
把握されていないようである。
そ こ で 本 研 究 で は, 日 本 で 行 わ れ て い る perinatal loss への支援を展望し,成果や問題 点等を挙げ,今後の心理支援の充実に向けて課 題を検討する。その際,当事者への支援と,支 援者へのコンサルテーション・リエゾンの,2 つのニーズ(Defy,1995)から展望していく。
母子保健領域では,心理職の役割が確立されて い な い と 指 摘 さ れ て い る( 瀬 々 倉,2010)。
Perinatal loss が遺された者の心理におよぼす 影響を,心理職の立場から理解し,支援の充実 を考えることは,心理職が多職種の中で存在感 を示す一歩になると考えられる。
方法
データベース検索により関連論文を収集し
た。 流産 死産 新生児死 ペリネイタル・ロ ス 周産期喪失 をキーワードに,CiNii Articles お よ び 医 中 誌 WEB を 用 い た。Perinatal loss に関連する心理支援の現状について広く収集す る目的から,エビデンスレベル等の収集条件は 設けないことにした。先行研究(諸岡他,2016)
を参考に,研究対象,研究方法,研究目的,研 究結果や今後の課題や提案といった要素から展 望しようと考えたため,文献の形式は論文に限 ることにした。
結果
キ ー ワ ー ド 検 索 の 結 果,CiNii Articles は 1950 年から 2017 年まで,医中誌 WEB は 1978 年から 2017 年までの文献が収集の候補に上っ た。重複,書評,海外での取り組み,器質的疾 患や薬物投与,動物に関する文献等,国内の心 理支援と関わりのない論文や会議録を除外した ところ,最終的に 2003 年から 2017 年までの 48 本の論文が収集された。収集された論文に ついて,当事者への支援に関するものとコンサ ルテーション・リエゾンに関わるものの 2 つ
(Defy,1995)から分類した。すると,当事者 支援を目的とする論文は 34 本,コンサルテー ション・リエゾンについては 14 本に分けられ た。どちらにも分類できない論文は見あたらな かった。次に,それぞれの論文を,研究対象,
研究方法,研究目的,研究結果と今後の課題や 提 案 と い っ た 観 点 か ら 分 類 し た( 諸 岡 他,
2016)。研究対象については,母親が 22 本,看
護師が 8 本,助産師が 5 本,医療機関や地域支
援機関が 3 本,父親が 2 本,両親やカップルが
2 本,医療従事者が 1 本,自助グループが 1 本
であった。研究方法は,半構造化面接を実施し
グラウンデッド・セオリー・アプローチや KJ
法から語りを分析する探索的研究が 22 本,症
例報告が 9 本,対照群を置かない前後比較研究
が 7 本,支援者や医療機関等の現状についての
記述的な調査研究が 6 本,文献研究が 4 本であっ
た。研究目的,研究結果,今後の課題や提案は,
Table 1 収集された perinatal loss に関する論文の概要
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各論文の記述にしたがって抜き出した(Table 1)。
考察
本 研 究 の 目 的 は, 日 本 に お け る perinatal loss に対する心理支援の現状を展望し,主な成 果や問題点等を挙げることから今までに行われ てきた支援の意義を論じ,今後の課題を検討す ることであった。文献検索により,48 本の論 文が収集された。収集された論文の発行年は,
いずれも 2000 年代以降であった。日本におい て,perinatal loss が科学的な検討課題として 掲げられるようになった時期は比較的新しいと
(岡永他,2009)確認された。検討課題は,先 行研究(Defy,1995)と同様に,当事者と支 援者への支援のあり方であった。以降では,研 究対象,研究方法,研究目的や研究結果といっ た研究内容(諸岡他,2016)から考察を行う。
研究内容は,対象別に論じていく。
研究対象について
当事者を対象とする検討について,母親を対 象としたものが多い点は先行研究での指摘(諸 岡他,2012)と同様であった。父親は,先行研 究(諸岡他,2012)では見当たらなかった対象 で,本研究では 2 本が抽出された。カップルを 対象とする検討は 2 本であった。きょうだいや 祖父母といった,両親以外の家族成員の心理の 理解に関する検討は抽出されなかった。Peri- natal loss を母親以外の視点からとらえる検討 は緒に就いたばかりである。Perinatal loss の 定義の 1 つに,経験を通じて夫婦や家族の気持 ちに気づくことがある(岡永他,2009)。それ ぞれの家族成員が perinatal loss をどのように 受け止めるかを検討することで,perinatal loss の定義の深化につながる。
支援者を対象とする検討について,検討対象 は全て看護師や助産師であった。心理職による 実施報告や,コンサルテーション・リエゾンを 行った報告は見当たらず,今後の課題に挙げら
れた(谷,2010)のみであった。Perinatal loss は,より専門的な支援が求められる場合であっ ても,看護や助産の一環として支援されている と推測される。その結果,perinatal loss は,
対応が困難で(蛭田他,2016),知識不足で(畝 山,2008),外傷的(久場・玉城,2016)とみ なされている可能性がある。心理職が perina- tal loss に関する専門的な知見を発信したり,
支援に加わったりすることは,支援の多様性を 増やし,支援者の負担を減らすと考えられる。
研究方法について
当事者への支援に関する研究もコンサルテー ション・リエゾンについても,当事者および支 援者が,perinatal loss をどのように理解して いるかを探索的に検討したものが多かった。当 事者についての検討では,perinatal loss の定 義(岡永他,2009)に沿うように,経験を理解 していることが示された。Perinatal loss を経 験すると,悲しみやとまどいを感じるとともに
( 坂 本・ 服 部・ 阿 部・ 窪 田・ 渡 邉・ 津 田,
2013),親であると認識し(今村,2012;岩瀬・
森・根岸,2012;菊池・蠣崎・石井,2007;太 田,2006),夫婦や家族の気持ちに気づく(舩本・
北濱・坂井,2011;山崎,2011;和多田・立岡・
中西・長谷・中野 ,2015)といったことである。
一方で,元気な子どもを産めない事実に直面す るという定義に関する結果は示されていない。
亡くなった子どもの健康状態に当事者が接した 際の聞き取りが求められる。
支援者については,支援中の心の動き(河本・
田中,2016;鈴木・遠藤,2017)や支援を行う 動機付け(久場・玉城,2016;米田・吉田・曽 山・島田,2015)のような,perinatal loss に 取り組む際の支援者の心的過程に関する仮説が 生成されていた。生成された仮説の量的な検証 が,今後の課題となる。症例報告や前後比較に よる検討は(蛭田他,2016;金平他,2010;宮 田,2016;岡他,2016;岡永,2017;大前他,
2011),対照群を用いた再検討が望まれる。マ
ニュアル等の援助資源の開発は(堀内・石井・
太田・蛭田・堀内・有森,2011;村田・濱本・
和泉・藤川・小池,2012;坂本・服部・阿部・
窪田・渡邉・津田,2013),ランダム化比較試 験を用いたより信頼性の高い効果検討に進むこ とが望まれる。
母親への支援に関する研究内容について
母親への支援に関する研究目的,研究結果,
今後の課題や提案は,母親の心理に寄りそうよ うに支援目標を建てるための検討と,支援技術 の紹介(諸岡他,2016)の 2 点に集約される。
母親は,気持ちが揺れたり不安定になったりし やすいことが示され(那波,2012;坂本・服部・
阿部・窪田・渡邉・津田,2013;宇野・西田・
中村,2016),その変動に寄り添い(木地谷・
蠣崎・石井,2008;鈴木・八木・塚本,2012),
気持ちを表現するように促す(関根,2016)と の支援目標が提案されている。死児との面会や 埋葬に寄り添うことで心理の変化が促される
(菊池・蠣崎・石井,2007;倉原,2014;大塚・
福力,2003;酒井,2010)といった,経験の再 構築をめざす(小川・和田;2005;大塚・福力,
2003),Kendall & Guo(2008)とは異なる支援 目標が導き出されていた。挙げられた支援目標 や支援技術が,perinatal loss の定義(岡永他,
2009)に,どのように関わるかを検討すること で,支援の精度が上がると考えられる。
支援技術の紹介では,まず,perinatal loss を支援している医療機関は 49% ほどであり,
医療者に取り組みを促す必要性が挙げられてい た(片岡他,2008)。支援の記述(片岡・中塚・
合田,2012;米田・吉田・曽山・島田,2016)
や 症 例 報 告( 浅 田・ 溝 江・ 田 中・ 小 河 原,
2006;千秋・磯村・黒川,2007;倉原,2014;
酒井,2010;関根,2016;宇野・西田・中村,
2016;牛木・石切山・井上,2012)は,医療者 への啓発手段ととらえることができる。また,
実施した支援が母親の心理に寄りそっているか が探索的に検討されていた(浅田他,2006;岩 瀬・ 森・ 根 岸,2012; 関 根,2016; 宇 野 他,
2016; 牛木他,2012)。現行の支援技術は支援
目標(木地谷他,2008;鈴木他,2012)に合致 するのか,模索の段階と考えられる。
さらに,具体的な支援技術が,複数紹介され ていた。新しい援助資源の開発や用い方の工夫
( 堀 内 他,2011; 村 田 他,2012; 坂 本 他,
2013),個人で行う支援(木地谷他,2008;佐藤,
2009)からチームでの支援(米田・吉田・曽山・
島田,2015),地域における支援(宮本・太田・
堀内・お空の天使パパ & ママの会(WAIS)
関東支部,2005;谷,2010 : 米田他,2016)で あった。継続的,連続的な支援の必要(伊藤・
蠣崎,2014;岩瀬他,2012;鈴木・八木・塚本,
2012;米田他,2015)が主張されているものの,
継続性,連続性を仮定した支援技術の開発や検 討は見当たらなかった。
父親への支援に関する研究内容について
父親への心理支援について,父親は,父親役 割や夫役割を果たそうとする中で,悲嘆を体験 すると示された(舩本・北濱・酒井,2011;今 村,2012)。父親も,妊娠初期から子と親子関 係を築くと(Cranley,1981;Mehran et al.,
2013)確認された。父親は,妻を気遣い(舩本 他,2011),自らの悲しみに気づかない場合が ある(今村,2012)との心理的な特徴を持つ。
子どもの死の,夫婦関係への影響が最大化する のは出来事から数年経た後(Schwab,1988)
とされる。父親の心理についての検討を増やし,
カップルの悲嘆の過程の違い(舩本他,2011;
今村,2012;和多田他,2015;山崎,2011)や,
両者の悲嘆の相互作用(諸岡他,2012)をさら に明らかにすることは,夫婦関係の悪化(岡永 他,2009 ;Schwab,1998)を抑止し,カップ ルのコミュニケーションを促進させる支援(諸 岡他,2012 山崎,2011)につなげうる。
コンサルテーション・リエゾンに関する研究内 容について
コンサルテーション・リエゾンに関しては,
支援技術の向上と支援者の感情への対処の 2 点
が焦点と考えられる。支持技術については,支
援スキルプログラムの開発および実施(蛭田・
堀内・石井・堀内,2016),勉強会やカンファ レンスの実施(金平・内田・吉川,2010;河本・
田中,2016;宮田,2016;岡・西村・佐伯・上 野・米村・松本,2016;岡永,2017;大谷他,
2009)による向上が報告されている。支援法の 習得は,当事者の気持ちの理解を深めるまでに は至らないものの(金平他,2010),困難感の 軽減や(蛭田他,2016;金平他,2010;岡他,
2016;岡永,2017),自己評価の上昇(米田,
2007)につながると,肯定的に評価されている。
支援者の感情への対処については出口を見い だせていないようである。支援者が子どもの死 に直面してとまどうと(大前・大嶋・石原,
2011; 大 谷・ 北 口・ 中 山,2009; 菅 原 他,
2015;米田他,2015),支援に迷いが生じ(大 谷他,2009;菅原他,2015),自信が低下して(宮 田,2016), 支 援 に 回 避 的 に な り( 大 谷 他,
2009;菅原他,2015),他職種との連携を難し く感じる(岡永,2005)と指摘され,支援者の 感情が,支援の質や量に影響をおよぼすと考え られている。支援技術の向上は,支援者の感情 の受け皿にはならず(岡他,2016),支援経験(大 谷他,2009;米田,2007)や出産経験も,支援 者の死生観の変化につながりにくい(菅原他,
2015)。感情のコントロールが対処法として提 案 さ れ て い る も の の( 大 谷・ 北 口・ 中 山,
2011),具体的な検討は見当たらなかった。
支援者の死生観(菅原他,2015)の柔軟性を 高め,「当事者と向き合って得た学びを次のケ アにつなげ」(久場・玉城,2016),創造的かつ 積極的に perinatal loss にかかわるために(Defy,
1995),支援者の喪失反応(諸岡他,2016)に 建設的に対応することが期待される。母親への 対応で主に主張されている,支援者が当事者の 気持ちに寄り添い(木地谷他,2008;鈴木他,
2012),気持ちを表現するように促し(関根,
2016), 経 験 を 再 構 築 す る( 小 川・ 和 田;
2005;大塚・福力,2003)ことをめざす支援は,
心理面接の 1 種ととらえうる。そこで,心理面 接法を援用したコンサルテーション・リエゾン
が考えられる。心理面接法は,心理面接の過程 で生じうることの体系化であり,心理職の養成 課程に組み込まれている(日本臨床心理士資格 認定協会,2017)基盤的な専門技術である。た とえば,心理面接では,セラピストがクライエ ントに対して抱く感情は,否定したりコント ロールしたりするより受け止めようとする。セ ラピストが否定的な感情を受け止めようとする ことは,クライエントにとってモデルになる。
支援者のとまどい(大前他,2011;大谷他,
2009;菅原他,2015;米田他,2015)や迷い(大 谷他,2009;菅原他,2015)は,コントロール しようとする(大谷他,2011)より,表出し(河 本・ 田 中,2016), 承 認 す る ほ う が( 畝 山,
2008),望ましい支援(米田,2007)につなが りやすいことになる。勉強会やカンファレンス
(金平他,2010;富田,2016;岡他,2016)に 心理職が出席し,心理面接におけるセラピスト の感情への対応についてコメントするといった コンサルテーション・リエゾンが考えられる。
悲嘆の過程や perinatal loss の心理的特徴(池 内・藤原,2009;Keesee et al.,2001;武井他,
2011;畝山,2008)について系統的な心理教育 を行うことも,支援者の喪失反応への支援(諸 岡他,2016)になる。当事者を心理職にリファー する選択肢(谷,2010)を具体的に伝えること は,他職種との連携を難しく感じる支援者(岡 永,2005)の,心理職へのアクセシビリティを 上げうる。
まとめと今後の課題
本研究は,perinatal loss に対する心理支援 の現状と課題を,当事者への支援とコンサル テーション・リエゾンの 2 点から展望すること を目的とした。Perinatal loss の支援は,看護,
助産の一貫として行われていた。当事者の気持 ちに寄りそい,感情表出を促して,経験の再構 築を進めるとの独自の支援目標が設定されてい た。コンサルテーション・リエゾンについて,
支援者が自身の感情への対処に困難を感じるこ
とをきっかけに,支援の質や量が低下し自信を そこねる悪循環が見いだされた。支援プログラ ムや勉強会といった援助資源は,支援者の感情 への対応としては不十分であった。
今後の課題として,研究上では,探索的な検 討によって生成された仮説の一般化可能性を検 証することが挙げられる。症例対照研究やラン ダム化比較試験を行い,当事者には効果が高く,
支援者には心理的負担の少ない支援法を選択し ていくことが望まれる。父親およびカップル,
きょうだいといった母親以外の家族を対象とす る検討を増やすことによる定義の深化,支援者 の感情への心理教育を提供し効果検証を行うこ とも必要である。実施上の課題としては,次子 の妊娠や養育といった後続の経験を見据えた長 期的,継続的な支援の実施が挙げられる。心理 職は,支援者の喪失反応を軽減するため,心理 面接法を援用して,支援者に自身の感情の受容 を促したり,悲嘆や喪失に関する体系的な心理 教育を提供したりしうると示唆される。
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