第74巻 第2号 (平成18年3月)
生命保険金請求権の特別受益性
河 森 計
北 海 道 大 学 大 学 院 法学研究科博士後期課程
Ⅰ は じめ に (本稿 の 冒的 )
被相続 人 を保険契約者兼被保険者 と し、共 同相続人の 中の 1人、 ま たは一部の者 を保険金受取人 (以下、単に 「受取人」と称することもある)
とす る生 命保 険契約 につ いて、保険金受取人 が もつ保 険金請求権 は、
民法第903条 に規 定 され てい る特別受益 の持戻 しの対象 とな るの か否 か、見解がわかれ るところである。
生命保険契約 において、被保険者 が死亡す ると、.保険金受取 人は生 命保険金 を請求す ることがで きるが、 この生命保険金 が、相続 人の間 で相続財産 の帰属 をめ ぐる争 いの原 因 とな ることが見受 け られ る。 相 続財産 とは、基本的 には、被相続 人が死亡時 に有 していた財産 で ある
とされ るが、相続法上、生命保険金 をどの ように取扱 うか問題 となる。 本稿 は、近時の生命保険金 をめ ぐる相続 法上の取扱 いにつ いて、最 高裁の考 えを中心 に検討 を加 えるもので ある (注1)。
は じめに、問題の整理のため、民法 (相続法)の特別受益の持戻 し規 定 につ いて簡単 にふれてお くことにす る。 なお、断 りがない限 り、本 稿 で は被相続人 が保 険契約者兼被保険者 、相続 人の 中の1人が保険金 受取 人 とい う設定で話 しをすすめ る。
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1.民法第903条 にい う特別受益の持戻 しとは ?
民法第903条第 1項 は特別受益の持戻 しについて、つ ぎのように規定 している。
(民法第903条第 1項)
共 同相続人 中に、被相続人 か ら、遺贈 を受 け、又は婚姻 、養子縁組の ため 若 しくは生計の資本 と して贈与 を受 けた者 があるときは、被相続 人が相続 開始の時 において有 した財産 の価額 にその贈与の価額 を加 えた もの を相続 財産 とみ な し、前3粂 (民法第900条か ら民法第902条 まで)の規定 によっ て算定 した相続分の 中か らその遺贈又は贈与の価額 を控除 し、その残額 を 以てその者の相続 分 とす る。
相続人が数人い る中で、具体的な相続分 を算定す るには、通常 、被 相続人が死亡 し相続 が開始 した ときにおける相続財産の価額 にその相 続人の相続分 を乗ずればよいのであるが、共同相続人の中の 1人 また
は数人が被相続人か ら婚姻、養子縁組 のため、 もしくは生計の資本 と しての生前贈与 または遺贈 を受 けてい るときは、その価額 を遺産分割 の際 に計算 に入れ なければ公平 を欠 くことになる。 す なわち、 これ ら の遺贈 とか生前贈与などを無視 して相続分 を算定す るな らば、遺贈や 贈与 を余計 に貫 った相続人 は、全 く貫わなかった相続人 よ りも有利 に なる。 したがって、この不公平 を是正す るために、遺贈や贈与 などの
「特別受益」財産 は、相続開始の時に被相続人の手元 にあった財産で あ ると想定 して、回復せ しめ る操作 を行 うことが必要 となる。 この操作 を一般 に、「持戻 し」 と呼んでいる。
2E保険金請求権の特別受益性 に関する問題の整理
従来の保険金請求権の性質 に関す る議論 は、生命保険契約 において 指定 を受 けた保険金受取人 は、保険契約者の権利 を承継 的に取得す る のではな く、原始的に取得す るのであ り、その固有の権利 に もとづ き、
直接 、保険者 に対 して保険金 を請求す ることがで きると したほ うが、
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生 命保険 の効用 が拡 が ることにな るで あろ うし、 あ るいは、被相続 人 の債権者 か ら追 及 され得 ない もので あ ると説 明 され 、判例 ・通説 と さ れ るところで ある (注2)。
この よ うに保 険金請求権 を保 険金受取 人 が原始 的 に取得 す る固有 の 権利 で ある とす るな らば、保険金請 求権 は保険契約者兼被保険者 の た めの責任財産 (被相続人あるいは債務者の財産が、その債権者等のため、執 行の対象として一定の請求の実現にあてられる財産)に もな らず 、本稿 で取 り上 げ る相続 法上の特別受益の持戻 し、 あるいは遺留分 (一定の相続人 が受けることを保証するため、遺産について法律上必ず留保 しなければならな いこととされている一定の割合)の算定 の対 象 と しないの が 自然で ある。
しか しなが ら、保 険契約者 が保 険者 との間で、 自己の生命 の保険契約 を締結 して、保 険金受取 人 が相続 人の一部の者 で あ る場合 、相続 人間 の実質 的 な不公平 が問題 とな る場合 が あ る。 す なわ ち、た とえば、償 金 な どの債務 を負 っていた者 が死亡 して相続 が開始 したが、債務 の引 当て とな る相続財産 が不足 していた場合 、相続 人 が相続財産 を放棄 し た り、限定 的 に承認 す るな どを行 い なが ら、それ とは別 に生命保険金 を受 け取 るよ うな事態 が考 え られ る。 この よ うな事態 において は、保 険金受取 人 とそれ以外の相続 人 とで は実質 的 な負担 の額 が異 な り、相 続 人間の公平性 が保 て な くな るお それが生 じて くる。 あ るいは、相続 財産 がほ とん どな く、生 命保 険金 だけが あ り、 しか も受取 人 が相続 人 以外 の者 で あ る場合 、生活 に困窮 す る相続 人 には保険金 での救済 はな され ないのか とい う問題 も考 え られ る。 これ らの事態 ・問題 において、
保 険金請求権 は、 あ くまで保険金受取 人の 固有 の権利 で あ るとす るな らば、か えって生命保険の生活保 障機 能 が減退す ることにな りかね な い。
保 険金請求権 と特別受益 の持戻 しの 問題 は、相続財産 を法定 の相続 分で分配 した と して も、一般 に生命保険金 はその額 が大 き く、相続 人 の 1人で あ る保険金受取 人のみ が多 くの利益 を得 る結果 は あま りに も
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不 平 等 で は な いの か とい うこ とか ら発 せ られ る問題 で あ る。 た だ そ こ に は、被相 続 人 の 意 思 の尊 重 と相 続 人 間 の 公平 を、 い か に して 図 るべ きか とい う重 要 な論 点 が前 提 に あ り、 きわ め て デ リケ ー トな問題 が あ る とい うこ とを認識 す る必要 が あ る。
これ まで 、実 際 に、裁 判 で あ らわ れ た事例 をみ て も、保 険 金 請 求 権 の特 別 受益性 が認 め られ るの か ど うか判 断 が分 かれ る と ころで あ った0
この 間題 につ き、最 高 裁 平 成16年10月29日第 二 小 法 廷 決 定
(
『最高裁判所民事判例集』 (以下、民集 と略)第58巻第7号、1979ページ)が保 険 金 請 求 権 の特 別 受 益 性 を否 定 した こ とに よ り、最 高裁 と して初 め て 、保 険 金請 求 権 は原 則 、相 続 法 上 の規 律 の 中 に は置 か な い とい う一 定 の判 断 が くだ され た。 な お 、断 りが ない限 り、本 稿 で は最 高 裁 平 成16年10月 29日決 定 (注3) を 「平成16年 決 定」と呼 ぶ こ とにす る。
以 下 で は 、 まず 、平 成16年決 定 が だ され る まで の 下級 審 裁 判例 を紹 介 した後 、平 成16年 決 定 を詳 説 し、従 来 の裁 判 例 と平 成16年 決 定 は ど の よ うな関係 に あ るの か とい うこ とか らみ て い くこ とにす る。
(注1)なお、本稿で取 り上げる諸問題につ き、学説および判例の詳細 は紙 幅の関係上、省略 させていただいた。また、引用 も最小限にとどめ させ ていただいたOそれぞれの詳細 については拙稿 「保険金請求権 と民法 、 903条 をめ ぐる問題点」『北大法学論集』第56巻第5号、2006年 を参照 さ れたい。
(注2)大審院昭和11年5月13日判決 『大審院民事判例集』第15巻第11号、
877ページ ;最高裁昭利40年 2月2日第三小法廷判決、民築第19巻第1 号、1ページ :大森忠夫 『保険法』[補訂版]有斐閣、1985年、275ペー ジ ;石田満 『商法 Ⅳ (保険法)』[改訂版j青林書院、1997年、283ペ‑
ジ ;西島梅治 『保険法』[第3版]悠 々社、1998年、327ページ ;山下友 信 『保険法』有斐閣、2005年、511ページほかO
(注3)判決 と決定の用語の違いについて、広い意味で裁判は、その形式上、
判決、決定、命令とい う3つに分類することがで きる。判決は、一番東
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要なものとして重要な事項についてなされ、またその手続 も慎重にされ ることとされている。 これに対 して、決定あるいは命令は、簡易な裁判 として軽微な事項、あるいは迅速 を要する事項について用いられるもの とされてい る (兼子‑ほか 『訴訟のはな し』 [新版]有信堂、1982年、
103‑104ページ)民事訴訟法第87条第1項但書では、決定で完結すべ き 事件については、裁判所は口頭弁論 を経ずにjFIJl断をfすことも可能であ るとされている。 また、裁判にかかわる当事者の呼び方も判決 と決定で は違いがある。 抗告を申し立てる者は、控訴人や上告人とはいわず抗告 人と呼び、その相手 となる者は被控訴人や被上告人とはいわずに相手方
と呼ぶ。
Ⅰ 平 成16年 決 定 に先 行 す る童 な裁 判 例 ・審 判例
平成16年 決定 に先 行 す る裁 判例 をみ る と、保 険 金請 求権 の特別 受益 性 を筒 定 (準 じて扱 うもの も含む) した もの 、原 則 と して 胃定 す るが 、 共 同相 続 人 間の実 質 的公平 を損 な うと認 め られ る特段 の 事情 が存 す る 場 合 に は 、 これ を否 定 す る もの 、 あ るい は保 険契 約 者 兼 被保 険 者 (被 相続人)が保 険金受取 人 を指 定 した ことを もって 、被相 続 人の意思 を重 視 して特 別 受 益性 を否 定 す る もの と様 々で あ るが、平成16年 決 定 の よ
うに原則 と して否定 す る立場 の もの はみ られ ない 。
特 別 受 益性 を肯 定 す る先 行例 をみ る と、 た とえば 、福 島 家裁 昭利55
年 9月16日審判 (『家庭裁判月報』〔以下、家用と略〕第33巻第 1号、78ペー ジ)が あ げ られ る。 この事件 は、被相 続 人 と先妻 との 間の 子 が 後妻 お よび その 間の子 に対 して遺産 分割 を求 め た事案 で あ る。 これ に よれ ば、
生 命保 険金 は被相 続 人 の死 亡 に よ って 発生 した財 産 権 で あ るの で 、被 相続 人 の遺 産 を構 成 す る もの で は な く、 その取 得 者 に よ って原始取 得 され た もの とい え るが、 その発 生 に は、被相 続 人 の生 存 中 その財産 か らの なん らかの 出摘 (被相続人の保険掛金の支私)が あ るので 、 その財 産 権 の取 得 は その取 得 者 にお け る被 相 続 人 か らの特 別受 益 とみ る こ とが
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で きるもの と した。
また、同様 に肯定す る もの と して 、宇都宮家裁栃 木支部平成 2年12 月25日審 判 (家月第43巻第8号、64ページ)が ある。 この事件 は被相 続 人 の妻 か ら子供 2人 (相手方)に対 して遺産 分割 を求 め た もので あ るが、
(丑各相続 人 の取得 した生 命保 険金 の額 に著 しい差 が認 め られ 、 その合 理 的理 由 も明 らかで は ない こと、②相手方 が他家 に嫁 い だ こ とや相 手 方 が被相 続 人の後継 者 で あ る ことを考慮 して も不公平 で あ る し、被相 続 人 が、保 険金 受取 人 の指定 お よび その受取 人の保険金 額 に、 こと さ
らに配慮 して い たか も疑 問で ある こと、③被相 続 人 の職業 、資産 か ら み て その生前 か ら相 当の相 続税 が予想 され たため 、同人 が、残 され た 相続 人の相 続 税 に対 す る対策 の趣 旨で生 命保 険 に加 入 した可能性 も否 定す る ことはで きない こ と、 を考 える と、相続 人 の実質 的公平 とい う 見地 か ら、特 別受益 に準 じて相続 分算定 に当 た り考慮 す るの が相 当で あると した。
この よ うに、様 々な観 点 か ら考慮 して共 同相続 人 間の公平 を図 るべ く特別受益 の持戻 しを認 めて い る。 この場 合 、特別 受益 に準 ず る額 を 幾 らとす るか が問題 とな るが、 この点 につ いて は、被相 続 人 が死亡 時
まで に払 い込 ん だ保 険料 の払込 期 間満 了時 までの保 険料総額 に対す る 割 合 を保 険金 に乗 じた額 (いわゆ る 「修正保険金額」)が これ に あた る と
した もの が見 られ る。
また、特別受益性 を原則 胃定 しなが らも、共 同相続 人 間の実 質 的公 平 を損 な うと認 め られ る場合 に これ を否定 した代表 的 な事例 と しては、
つ ぎの2つ があげ られ る。
大阪家裁 昭和53年 9月26日審 判 (家月第36巻第6号、33ページ)は、被 相続人の妻 か ら被相続 人の母 に対 して遺産 分割 を請求 した もので あ る。
この事件 は、生 命保 険金 が生存 配偶者 で あ る妻 の爾後 の生 活保 障機 能 を有 す る もので あ る ことを認 め 、妻 に とって 、他 にみ るべ き固有 財産 がない ことな どの事情 の もとで は特段 の 事情 が あ る と して 、特別受益
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性 を例外的に否定 している。
同様 に、神戸家裁平成11年 4月30日審判 (家用第51巻第10号、135ペー ジ)は、被相続人の先妻 との間の子が後妻 とその実子 に対 して請求 し た もので あるが、生 命保険金請求権 は、共 同相続 人間の実質 的公平 と い う観点 か ら特別受益 に準 じて扱 うべ きで あると しなが らも、 この事 件 で争われ た程度 の金額 (330万円余)は、葬儀 費用や諸雑費 に充て る ため受取人 に取得 させ た とみ ることが公平 に適す ると して、特別受益 性 を原則胃定 しなが らも現実の適用は否定 している。
この よ うに特別受益性 を冒定す る先 行裁判例 をみ ると、生命保険金 は、その額 が大 きく、遺族の爾 後の生活 を保障す る機能 を有す るとい う側面 か ら共 同相続 人間の実質的 な公平 を図 るべ く、特別受益性 を認 め るか例 外的に認めないかに判断がわかれているように見て とれ る。
これ に対 し、特別受益性 を否定す る主 な事例 には次 の よ うな ものが ある。
まず、東京高裁平成10年6月29日判決 (『判例 タイムズ』第1004号、223 ページ)は、生 命保険契約 において、保険金受取人が 「相続人」 と指定
され た ときは、特段 の事情 がない限 り、右相続人 は被保険者の死亡 に よって、保険金請求権 を固有 の権利 と して取得す る もので あるとい う 理 由のみで、特別受益性 を否定す る。 一方 、高松高裁平成11年3月5
日決定 (家月第51巻第8号、48ページ)は、被相続 人の先妻の子が後妻 に 対 して請求 した もので あるが、保険金請求権 は、民法第903条第 1項 に い う 「遺贈」 ない し 「贈 与」に該 当 しないか ら特別受益 にあた るとは い えず 、仮 に該 当す ると して も、本件保険金 は子供 のいない妻の生活 保障 を目的 とす るもので あるか ら、被相続人が民法第903条第 3項 にい う持戻 免除の意思表示 (特別受益財産に持ち戻すことを免除するとの被相続 人の意思表示)を した ことが明 らかで ある、 との理 由付 けによって否定 す る。
以 上の よ うに主 な裁判例 を概観す ると、被相続 人の意思 をどの よ う
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に汲み取 るか とい う点 と、生 命保険 が有 す る爾後 に残 され た遺族 の生 活保障機能 とい う点 な らび に共 同相続 人間の公平 とい う点 をどの よ う に考慮す るかによって判断がわかれてい るが、なかで も生命保険 が有 す る遺族 の生活保障機能 に重点 がおかれてい るよ うにみ ることがで き
る。
近時の先行審判例 をみ ると、特別受益性 を否定す る立場 が優勢 とい えるで あろ う。 その 中で、今回最高裁 が示 した判断 は、 これ まで裁判 所 が示 した審判例 とは異 な り、つ ぎに紹介す るよ うに、保険金請求権 の特別受益性 を否定す るだけに とどまらない とい う点 に特異性 が認 め
られ る。
Ⅲ 最高裁平成16年10月29日第二小 法廷決定 の 内容 (注4) l。事実の概要
事実の概要 はつ ぎの とお りで ある。
(1)Xl、x2、Ⅹ3(抗告人。以下 「Ⅹら」という)およびY (相 手方) は、いずれ も訴 外Aと訴外Bの間の子で あ る。 Aは平成 2年 1月に、
Bは同年10月29日に、それぞれ死亡 した。Aの法定相続人 は、B、Ⅹ ら及びYで あ り、Bの法定相続人 はⅩら及びYである。
(2)本件 において遺産分割の対象 となる遺産 は、Aが所 有 していた第 1番審判の別紙遺産 目録記載の各土地 (以下 「本件各土地」という)であ り、その平成 2年度の固定資産税評価額 は合計707万7100円、第 1番 に おける鑑定の結果 による平成15年 2月7日時点の評価額 は合計1149万 円で ある。
(3) A及びBの本件各土地以外の遺産 については、 Ⅹら及びYとの間 において、平成10年11月30日までに遺産 分割 協議及び遺産分割調停 が 成立 し、 これ によ り、Yは合計1387万8727円、Ⅹ1は合計1199万6113
円、x2は合計1221万4998円、Ⅹ3は合計1441万7793円に相 当す る財産 をそれ ぞれ取得 した。 なお、 Ⅹら及びYは、本件各土地の遺産 分割の
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際 に上記遺産分割の結果 を考慮 しない ことを合意 している。
(4) Yは、AとBの ために Ⅰ市内の 自宅 を増築 し、AとBを昭和56年
6月 ころか らそれ ぞれ死亡 す るまで そ こに住 まわせ 、認知症 の状態 に な っていたAの介讃 をBが行 うの を手伝 った。 その 間、 Ⅹ らは、いず れ もA及びBと同居 していない 。
(5) Yは、次 の養老保険契約及び養老生命共済契約 に係 る死亡保険金 等 を受領 した。
① 養老保険契約 (以下、「①契約」という) 契約締結 日 :平成 2年 3月1日
保険契約者 。被保険者 :B 死亡保険金受取人 :Y
死亡時支払保険金 :500万2465円
②養老保険契約 (以下、「②契約」という) 契約締結 日 :昭和39年10月31日
保険契約者 ・被保険者 :B 死亡保険金受取 人 :Y
死亡時支払保険金 :73万7824円
③養老生命共済 (以下、「本件共済」という) 契約締結 日 :昭和51年 7月5日
共済契約者 :A 被共済者 :B 共済金受取 人 :A
死亡 時支払共済金 :206万0768円 入院時支払共済 金 :13万4,000円
第 1番 (神戸家裁伊丹支部平成15年 8月8日審判)は、「保険 金 (共済金) 合計約793万 円が特別受益 に当た る」 と判断 したが、Bを保険契約者 と す る①②契約の保険金 が、Aの遺産相続 において特別受益 とな る根拠
を何 ら明 らかに していない。
ill和
生命保険 金請求権の特別受益性
これ に対 して原審 (大阪高裁平成16年5月10日決定)は、次 の よ うな理 由でYの主張 を認容 した。
「死亡保険金 (共済金)請求権 は、指定 された保険金 (共済金)受取人 が、被保険者 (被共済者)死亡時 に、自己の固有の権利 と して取得す る のであって、保険 (共済)契約者の払 い込 んだ保険料 と等価の関係 に立 つ ものではな く、被保険者 (被共演者)の稼動能力に代 わ る給付で もな いのであって、死亡保険金 (共済金)請求権 が実質的 に保険 (共済)契 約者又 は被保険者 (被共済者)の財産 に属 していた もの とみ ることはで きない。 したがって、前記保険金 (共済金)は、民法第903条第 1項所 定の遺贈 又 は生計の資本 と しての贈与 に該 当す るもの と解す ることは で き」 ない。
この決定 に対 して、 Ⅹ らは、原審 が引用す る最高裁平成14年11月5 日判決の射程 は、共 同相続 人間の公平 とい う観点 が重視 され る持戻 し の事案 には直ちに及ぶ ものではな く、保険金 (共済金)はYの特別受益 にあた り持 ち戻 され るべ きであるとの理由によ り許可抗告 をな した。
最高裁 はつ ぎの よ うな理 由によ りⅩらの抗告 を棄却 した。
2.決定要 旨 (許可抗告棄却)
原文 によれば、「被相続人が自己 を保険契約者及び被保険者 とし、共 同相続人の 1人又 は一部の者 を保険金受取 人 と指定 して締結 した養老 保険契約 に基づ く死亡保険金請求権 は、その保険金受取人 が自 らの固 有の権利 と して取得す るので あって、保険契約者 又 は被保険者 か ら承 継取得 す る ものではな く、 これ らの者の相続財産 に属 す るものではな い とい うべ きで ある (最高裁昭和36年 (オ)第1028号同40年2月2日第三小 法廷判決、民集第19巻第 1号、1ページ参照)。また、死亡保険金請求権 は、
被保険者 が死亡 した時 に初 めて発生す る もので あ り、保険契約者 の払 い込 んだ保険料 と等価 関係 に立つ ものではな く、被保険者 の稼動能 力 に代 わ る給付 で もないので あるか ら、実質 的に保険契約 者又は被保険
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者の財産 に属 していた もの とみ ることはで きない (最高裁平成11年 (受) 第1136号 同14年11月5日第1‑I‑‑小法廷判決 、民集第56巻第8号、2069ページ参照)。 したがって、 ‑ 養老保険契約 に基づ き保険金受取 人 とされ た相続 人が取得す る死亡保険金請求権又 は これ を行使 して取得 した死亡保険 金 は、民法第903条第 1項 に規定す る遺贈又は贈与 に係 る財産 には当た らない と解す るのが相 当で ある。 もっとも、上記死亡保険金請求権の 取得の ための費用で ある保険料 は、被相続人 が生前保険者 に支払 った もので あ り、保険契約者 で ある被相続人の死亡 によ り保険金受取 人で ある相続 人 に死亡保 険金請求権 が発生 す ることな どにかんがみ る と、
保険金受取 人で ある相続 人 とその他の共 同相続 人 との間に生ず る不公 平 が民法第903条の趣 旨に照 らし到底是認す ることがで きないほどに著 しい もので あると評価 すべ き特段 の事情 が存 す る場合 には、同条の類 推適用 によ り、当該死亡保険金請求権 は特別受益 に準 じて持戻 し対象
とな ると解す るの が相 当で あ る。 上記特段 の事情 の有 無 につ いて は、
保 険金 の額 、 この額 の遺産 の総額 に対す る比率 の ほか、同居 の有無 、 被相続 人の介護等 に対す る貢献の度合 いな どの保険金受取 人で ある相 続人及び他の共 同相続 人 と被相続 人 との関係 、各相続人の生活実態等 の諸般 の事情 を総合考慮 して判断すべ きで ある。 これ を本件 につ いて み る に 、 。特 段 の 事 情 が あ る と まで は い え な い。 した が っ て、 (本件①、②契約の)死亡保険金 は、特別受益 に準 じて持戻
しの対象 とすべ きもの とい うことはで きない」とす る。
なお、本件共済 につ いて は、「共済金受取人 をAとす るもので あ り、
民法903条の類推適用 を論ず る余地 はない」などを理 由 として、抗告棄 却の決定 を下 した。
平成16年決定 は、原則 として、保険金請求権 は特別受益 に該 当 しな い と したわ けで あるが、例 外的 に特段 の事情 とい う許容 を もうけ、つ ぎの① か ら⑤等の諸般 の事情 がある場合 には、 これ らを総合考慮 して 保険金請求権 が特別受益 に準 じて持戻 しの対象 となるもの としてい る。
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生命保険金請求権の特別受益性
①保険金の額
②保険金の額の遺産総額 に対す る比率
③ 同属の有無
④被相続 人の介護等 に対す る貢献 の度合 いな どの保険金受取 人 で あ る相続 人及び他の共同相続人 と被相続 人 との関係
⑤各相続人の生活実態
保険金請求権 の特別受益性 を認 めた従来 の審 判例 をみ ると、特段 の 事情 に挙 げ られ た④ と⑤ の基準 を重視 し、被相続 人の意思 を解釈 して い るよ うに思 われ る。 す なわ ち、保険金受取人 を指定 した被相続 人の 意思 を、遺族 の生活保障機 能 と共 同相続人 間の公平の観 点 か ら読 み解
き、相続人間のバ ランスを図 ろ うとす る趣 旨が見受 け られ る。
しか し、 ここで 1つ 問題 が生ず る。 平成16年決定 が例外 的で は ある が保険金請求権 が特別受益 の持戻 しの対象 とな るとい うことを明確 に 認 めてい る点 で ある。 そ うで あれ ば、共 同相続 人間 に生ず る不公平 が 民法第903条の趣 旨に照 らして到底是認す ることがで きない とい う例外 的処理 の範 囲がその まま民法第1044条 によ り民法第903条 が準用 され る 場面で も類推適用 され 、最高裁平成14年11月5日判決 (民集第56巻第8 号、2069ペ ← ジ。 なお、本稿では、「平成14年判決」 と呼ぶ)が示 した論理
に も影響 を及ぼす可能性 があるので はないか とい う問題で ある。
平成16年決定 が引用す る平成14年判決 は、保 険契約者兼被保険者 が 相続 人以外の者 に保険金受取 人 を変更 した事案 で ある。平成14年判決 で は、保険金受取 人の変更行為 は民法第1031条 にい う遺贈 ・贈 与 また は これ に準 ず る もの に は該 当せ ず 、 その保 険金 請 求権 は遺 留 分減殺
(「減殺」とは、遺留分権利者が、遺留分を保全するために遺贈などの効力を否 定すること)の対象 にはな らない もので あるとされ た。す なわち、死亡 保険金請求権 は、保険金受取 人 が原始 的 に取得 す る もので あって 、相 続財産 に属す る ものではな く、被保険者 が死亡 した時 には じめて発生 す る権利 で あるか ら、被保険者 の稼動能 力 に代 わ る給付 とい うことも
第74巻第 2号 (平成18年3日)
で きない。 したが って、実 質的 に もこれ らの者 の相続財産 とい うこと はで きず遺留分減殺 の対 象 にはな らない と説 明 し、 これ を否定 した も ので ある。
平成14年判決 の解 説 。評釈 をみ ると、平成16年 の最高裁 にの ぞむ抗 告 人の許 可抗 告理 由で も述 べ られ た よ うに、遺留 分減殺 につ いて示 さ れ た平成14年判決 の射程 は、特 別受益 の判 断 に及ぶ もので はない と読 明 されてい る (注5)。射 程 が及ばない とす る理 由は、最高裁平成10年 3月24日第 三小法廷判決 (民集第52巻第2号、433ページ)が挙 げ られ説 明 されてい る。 す なわ ち、民法第1044条で民法第903条が準用 され る場 合 には、民法第1031条 が適用 され る場 合 とは異 な り、民法第1030条 の 制約 (調整対象たる贈 与一は相続開始前 1牢内のものに限る)を受 けない とい う判示 を指摘 し、 これ を共同相続 人間の公平の観点 か ら説 明 してい る ので ある。
しか しなが ら、平成16年決定 をみ ると、射程 が及 ば ない と され た辛 成14年判決 を引用 して保険金請求権 の特別受益性 を否定 してい るので ある。 それ に も拘 らず 、平成16年決定では、民法第903条の趣 旨に照 ら して到底 是認 す ることがで きないほ どに著 しい もので あると評価 すべ き特段 の事情 が認 め られ る場合 には、例 外 的で は あるが、持戻 しの対 象 とな る ことを肖定 してい るので ある。 この差 は どの よ うに理解 す る
ことがで きるので あろ うか。
1つ の説 明 と して は、遺留 分減殺請 求 が認 め られてい る条文 の趣 旨 か ら理解す ることが可能で あろ う。
民法第1030条 ・第1031条 はつ ぎの よ うに規定 されてい る。
(民法第1030条)
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限 り、前条 (遺留分の算定)の 規定によりその価額を算入する。 当事者双方が遺留分権利者に損害を加え ることを知って贈与 したときは、1年前の日より前にしたものについても、
同様とする。
115
生命保険金請求権の特別受益性
(民法第1031条)
遺留分権利者及びその承継人 は、遺留 分を保 全す るの に必要 な限度で、遺 贈 及び前条に規定す る贈与の減殺 を請求す ることがで きる。
民法第1030条 と第1031条 は、相続 開始前 1年 内の贈 与は相続人 と相 続人以外 とで区別せず に及ぶ もの で あ る と読 む ことがで き、民 法 第 1031条の遺贈 または贈与 と特別受益の対象 とで は重 なってい るよ うに 見 ることがで きる。 しか し、 ここで注意 しなければな らないの は、民 法第1031条 と民法第903条が準用 され る民法第1044条 は趣 旨の異なった 規定であ り、同 じ相続 開始前 1年内の贈与で も、それが民法第1031条 の遺留 分減殺の対象 となるか或 いは特別受益の対象 となるかはそれぞ れ異 なる考慮 に基づ くもので あるとい うことがで きる。 したが って、
民法第1031条の対象にはあた らない とされ た 1年内の受取 人指定 が民 法第903条で特別受益 と され ることは あ りうるとい うことにな る (注
6)。この とき、結論 として遺留分減殺の対象 となるのは、民法第1031 条ではな く、民法第1044条の効果 とい うことになる。
なぜ この ように同 じ遺留 分減殺請求で あるに もかかわ らず 、減殺 の 対象 とな るか否 かの判断 がわかれ るのか。 この区別の説 明 と してはつ ぎの よ うに考 え られ る。 す なわち、遺留分減殺請求 には2つの側面 が あるとい うことである。
相続 人に必ず留保 しなければな らない と保障す る制度 で あ り、その実 現の手段 とい う側面で ある。 そ して第 2の側 面 と しては、遺留分 は一 定割合の相続財産の留保 を保障す るもので あるが、相続人 を対象 とす
る限定 をその まま貫 いて相続人以外 に対す る遺贈や贈与 は遺留分算定 では考慮 しないのだ とすれば、遺留分制度 が滑脱 され る危険性 が高 く なる。 その ため、遺留分制度の潜脱 を防止す るための手段 とい う側面 である。
つ まり、民法第1044条 にい う遺留分減殺請求 は相続財産 の分 け方の
第74巻第2号 (平成18年3月)
調 整 が 目的 で あ り、 これ に対 して 、民 法 第1031条 の ほ うは相 続 人 が受 け取 る相 続 財産 自体 の減 少 の防 止 が 目的で あ る と考 え られ る (注7)0
この よ うに、遺 留 分 減 殺 の もつ 2つ の側 面 に よ って 、相 続 人 以外 の 者 に対 す る遺 留 分減 殺 請 求 は 、特 別 受 益 の持 戻 しとは その趣 旨 が違 う た め 、平 成14年 判 決 の 射 程 は特 別 受 益 の判 断 に は及 ば な い もの と解 さ れ るの だ と説 明 をす る こ とが可 能 で あ ろ う。
以 上 、平 成16年 決 定 の場 面 で は 、被 抗 告 人 の親 の 介 護 、 日々の生 描 負 担 な ど客 観 的 にみ て も最 高 裁 の示 した特 別 受 益 の持 戻 しを認 め ない とい う結 論 は妥 当で あ ろ う。 しか し、理 論 構 成 に は 問題 が あ る よ うに 思 われ る。
(注 4)本決定の評釈 ・解説 として、山下典孝 『NBL』第798号、2004年、
『ジュ リス ト』第1290号、2005年、119ペ←ジ ;千藤洋三 『ジュ リス ト平 成16年度重要判例解説』第1291号、2005年、88ページ ;榊素寛 『法学教 室』第229号、2005年、122ページ ;甘利公人 『保険事例研究会 レポー ト」] 第198号、2005年、1ページ ;新井修司 『保険事例研究会 レポー ト』第 200号、2005年、13ペ‑ジがあるo
(注5)寺川永 『法律時報』第75巻第11号、2003年、109ページ ;岩志和一 郎 『法学教室』第274号、2003年、135ページ ;辻朗 『判例時報」]第1834 号、2003年、182ページ ;中村也寸志 『法曹時報』第56巻第4号、2004 年、1062ペ ージ ;梅村悠 『損害保険研究Lq第65巻第3 ・4号合併号 、 2004年、472ページ。
(注6)山本哲生 「自己 を被保険者 とす る生命保険契約の受取人変更 と遺 贈 ・死因贈与」『保険事例研究会 レポー ト』第185号、生命保険文化セン
ター、2004年、7ページ。
(注7)同上、4ペ…ジ。
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生命保険金請求権の特別受益性
Ⅳ 学説の検討
学説 も保険金請求権の特 別受益性 を肖定す る もの否定 す る もの な ど さまざまで ある。
まず 、他人の ためにす る生命保険契約 につ いて 、第三者 が保険金受 取人 に指定 され た場合 には、 その受取人 は保険契約者 の権利 を承継 的 に取得 す るので はな く原始 的 に取得 す るので あ り、保険金請求権 は受 取 人 固有 の権利 に属す るので あると して生命保険金 の相続財産性 を否 定す る見解 、 さらに、被相続 人の意思 を重視 して、生命保 険金 を受領 すべ き地位 にあ る相続 人 は共 同相続人の 中で最 も被相続 人 と密接 な関 係 にあることが一般 で あろ うか ら、特別受益性 は否定 され るべ きで あ
るとす る見解 が存在す る (注8)。
また、同様 に被相続 人の意思重視 を強調 して、原則 と して特別受益 は否定 され るべ きで あるが、共 同相続人 間の公平 さを極 めて損 な うと い う例外 的 な場合 には、特別受益 に準 じて処理 す るとい う、平成16午 決定 と同 じ結論 を導 く見解 (注9)が主張 されてい る。
これ らの見解 に対 して、保険契約者 と保 険金受取人 との間の実質 的 な関係 に着 目 し、保険金請求権 の特別受益性 を認 め る見解 が 多数存在 す る。 なかで も近時 、保険法学者 の 中で、民法上の 「第三者 の ために す る契約」 における対価 関係 (注10)に着 目す ることで解決 が図 られ る べ きで あ る とす る見解 が有 力で ある。 少 し細 か くな るが紹 介す る と、
この見解 によれば、他 人の ため にす る保険契約 はつ ぎの二重 の構 造 を もってい ると され る。
(丑保険契約者 と保険者 との間の法律関係 (補償関係)
②保険契約者 と保険金受取 人 との間の法律関係 (対価関係)
保険金受取 人は保 険者 に対 して直接 に保険金 を請求す る権利 を取得 す るが、 これ は補償 関係 に基づ く権利 で ある。 す なわち、保険契約 の 当事者 (保険者と保険契約者)で はない第三者 が保 険金受取 人 に指定 さ
第74巻第2号 (平成18年3月)
れ た場合 、保険金受取 人 は保険事故発生 によって保険契約 か ら生ず る 債権 を取得す ることにな るが、 この債権 、つ ま り保険者 に保険金 を請 求す る権利 は、保険契約者 と保険者 が保険契約 を締結 し、保険料 を支 払 うとい う関係 (補償関係)に基づ くもので ある。 そ して、他人のため にす る生命保険契約 においては、保険金受取人 が この保険金請求権 を 取得 す るために、保険契約者 によって指定 され なければな らない。 保 険契約者 は保険事故 が発生す るまでの間、保険金受取 人 を変更す るこ とも可能 で あるか ら、 この保 険事故発生 とい う条件成就 までの 間は、
保険金受取 人の地位 は不安定 な もの とい うことがで きるで あろ う。 こ の ことは、商法第675条第 1項但書 が、保険契約者 が保険金受取人の変 更権 を留保す る意思 を表示 した ときにはその意思に従 うとし、実際 に、
約款 で は、保険金受取人の指定 。変更権 が留保 されてい るのが通例 で あることか らも認 め られ るで あろ う。 この よ うに保険契約者 が誰 を保 険金受取 人 に しよ うと しまい と、それ は 自由なので あって、保険金受 取人の権利取得 が保険契約者 との関係 で どの よ うな性格 をもつ もので あるかは、補償 関係 とは独立の法律 関係 で論 じるべ きことになる。 保 険金受取 人 と他 の共 同相続 人 との利害 関係の調整 は、独立 の法律 関係 で ある対価 関係 に即 して決定 され なければな らない とい うことがで き
る。
さらに、対価 関係 によって保険金請 求権の特別受益性 を認め ること の妥 当性 を説明す るもの と して は、山下友信教授 によるつ ぎの例示 に よって理解 が深 まるのではないか と思われ る (注11) 。 す なわち、た と えば、銀行預金契約 において、預金者 が銀行 との間で、預金者 の死亡 後 は、第三者 に預金 を払 い戻 して欲 しい とい う内容の合意 がな され た とす る。 この場合 、 これ を第三者のための契約 と考 えるな らば、第三 者 のための契約の 当然の効果 と して固有権性 を認 め る立場 で は、預金 につ いて相続債権者のための黄任財産 にな らない ことになる。 しか し、
この よ うな契約 が許 され るか とい えば、おそ らく否定 され るで あろう0
119
生 命保険金請求権の特別受益性
すなわち、第三者のための契約の効果 とい うことか ら固有権性 を導 き 出 し、それ によってのみ問題 を解決 しよ うとす るな らば、被相続人が 相続法の原則 を回避 して相続債権者 などの指定 を受 けなかった者 を排 除 しよ うとす る結果 を許す ことになるで あろう。 この論理 を銀行預金 契約 と生命保険契約 は別で あるとして、あえて生命保険契約 に持 ち込 まなければな らない とい う理 由 も見出 しえない 。 保険金請求権 が相続 債権者等のための責任財産 とな らない とい う見解 によれば、預金契約 では認め られないで あろう結果 を他 人のためにす る生命保険契約では 認めていることになる。 特別受益性 を否定す る立場 がい うよ うに保険 金請求権 は他人のためにす る保険契約 か ら生ず る当然の効果であると す るな らば、 この差 を説明す ることは不可能 なのではなかろ うか。 よ って、前述 したよ うに、保険者 と保険契約者 との間の法律 関係 とは別 に、独立の法律関係 と して保険契約者 と保険金受取 人 との間の対価関 係 を認めることで、保険金請求権の特別受益性 を説明す ることが論理 的に妥当であると思われ る。
ここで注意 しておかなければな らないのは、対価 関係 を認め る見解 にたつ場合であって も、決 して保険金受取 人の直接請求権 まで も否定 す るものではない 。 したがって、た とえば、保険金請求権の特別受益 性 が認め られ ることによ り、被相続 人の債権者 が保険者 に対 して保険 金 を直接請求す ることも可能で あるのか とい うとそ うではない 。 あ く
まで保険金 を直接請求で きるのは保険金受取 人で あって、受取 人に指 定 されていない相続人 とのバ ランスは、保険者 と保険契約者 との間の 法律 関係 とは独立の もの として保険契約者 と保険金受取 人の間の対価 関係 を認めることで、この法律関係 を生前贈 与など (注12)と同 じよう に扱 い、特別受益の持戻 しなど相続法上の規律 にそ くして共 同相続 人 間の公平 を図ることが可能 となる。
以上の よ うに特別受益性 を胃定す る見解 が採用す る関係 は、いわゆ る 「三角関係」 と呼ばれ るもので あるが、 この対価 関係 がなければ、
第74巻第 2号 (平成18年3月)
保険金受取人 は保険金請求権 とい う権利 を取得 す る実質的な根拠 がな くなって しまい、生命保険契約 における被保険者の死亡等 による保険 事故の発生 によって保険金 を取得 した と して も、それ は保険契約者 に 対す る不 当利得 と して返還 しなければな らな くなって しまうで あろ う
(注13)。
また、原則 と して対価 関係 を認 めつつ も、実質的に共 同相続 人間の 公平 を損 な うことが認 め られ る場合 には、特別受益 と して一律 に持戻 しの対象 と解すべ きではな く、生命保険金額及び それ が遺産総額 に し め る割合等の諸事情 を勘案 しつつ 、その特別受益性 を考 えるべ きで あ ろ うとす る見解 もみ られ る (注14)。
特別受益性 を認 め るとす ると、つ ぎに問題 となるの が、どの金額 が 持戻 しの対象 とな るのか とい う問題 で ある。 この問題 につ いては本稿 で は詳細 を省 くが、特別受益性 を肯定 した先行裁判例 をみ ると、保険 金請求権 が具体化 した支払保険金額 とす る ものや、被保険者 の死亡時 まで に払 い込 んだ保険料 の払込満 了時 までの保険料総額 に対す る割合 を保険金額 に乗 じて得 た額 (修正保険金額)とす るもの にわかれている。
平成16年決定の調査官解説 によると、平成16年決定で も相続 人間の公 平 を考 えるにあた り保険金 の額 が考慮要素の 1つ とされてお り、保険 金の額 を基本 として考 える可能性 を示 している (注15)。
平成16年決定 は、保険金請求権 の特別受益性 を原則 と して否定 しつ つ特段 の事情 とい う例外 的許容 を残 して被相続人の意思 を汲み取 ろ う
としてい るよ うに見 えるが、保険契約者 と保険金受取人の間の対価 関 係 が認 め られ なければ、 この 「特段 の事情」 を理論的 に説 明す ること は困難 となって しま う。 前 にみて きたよ うに、最高裁 は この点 につ い て何 ら判示 してお らず 、 どの よ うに理解 してい くべ きかはい まだ明 ら かに されていない。
さらに、平成16年決定 が示 す よ うな特段 の事情 があって例 外的に特 別受益性 を肖定す る場合、民法第903条第 3項 が適用 され る可能性 はあ
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