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産手続開始決定による集合物の固定化の有無につい て―

著者 近藤 隆司

雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

巻 31

ページ 141‑149

発行年 2015‑07‑31

URL http://hdl.handle.net/10723/2526

(2)

倒産手続における集合動産譲渡担保の取扱い

――倒産手続開始決定による集合物の固定化の有無について――

近 藤 隆 司 1.はじめに

 本稿は、倒産手続(破産手続・民事再生手続・会社更生手続)における集合動産譲渡担保の処 遇を確認したうえで、倒産手続開始決定により当然に集合物の固定化が生ずることになるかどう かを検討するものである。

2.集合動産譲渡担保の意義・成立要件・対抗要件

⑴ 集合動産譲渡担保の意義

 集合動産譲渡担保とは、特定の動産を目的物とする譲渡担保(特定動産譲渡担保)に対するも のとして、一定の範囲に含まれる動産の集合体を目的物とする譲渡担保をいう。集合動産譲渡担 保には、集合物を構成する動産が変動しない場合もあり、この場合には、特定動産譲渡担保の場 合と同様に考えることになるが、本稿では、倉庫内の在庫商品のように、搬入と搬出が繰り返さ れることにより、集合物を構成する動産が変動する場合(流動集合動産譲渡担保)を念頭に置く1

⑵ 集合動産譲渡担保の成立要件

 集合動産譲渡担保設定契約の締結が必要であるが、ここでは、特に、目的物の範囲の特定が重 要視される。判例(最判昭和54・2・15民集33巻1号51頁)は、「構成部分の変動する集合財産 についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が 特定される場合には、1個の集合物として譲渡担保の目的となりうる」としており、学説も、一 般論としては、動産の種類・所在場所・量的範囲の3要素を挙げるのが普通である2

⑶ 集合動産譲渡担保の対抗要件

 集合動産譲渡担保は所有権移転の形式をとるから、その対抗要件は引渡し(民178条)である。

この点、判例(最判昭和62・11・10民集41巻8号1559頁)は、占有改定(民183条)の方法によ

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新たに集合物に含まれることになった動産については、あらためて対抗要件を備えなくても、集 合物の対抗要件具備の効力が当然に及ぶとし、学説は、これを、集合物の対抗要件具備時に遡っ て、個々の動産について対抗要件が具備されたことになると理解している4

 また、動産譲渡登記(動産債権譲渡特例法3条1項)の方法によることもできる。

3.倒産手続における集合動産譲渡担保の処遇

 集合動産譲渡担保の設定者について破産手続が開始された場合、譲渡担保権者は、取戻権を有 するか、それとも別除権を有するか。また、民事再生の場合や、会社更生の場合は、どうか。

 譲渡担保は、特定動産譲渡担保も集合動産譲渡担保も、債権の担保を目的として、債務者また は第三者(設定者)の所有する動産の所有権をあらかじめ債権者(譲渡担保権者)に移転し、被 担保債権が弁済された場合には、所有権は設定者に復帰するが、弁済されない場合には、譲渡担 保権者は、目的物を自己に帰属させたうえでその評価額と被担保債権とを清算する(帰属清算型)

か、目的物を処分したうえでその処分価額と被担保債権とを清算する(処分清算型)ことによっ て、被担保債権の回収を図る非典型担保の一種である。

 譲渡担保の設定者について破産手続や会社更生手続が開始された場合における譲渡担保権の処 遇については、譲渡担保の法的構成との関係で、かつては争いがあった。すなわち、破産手続で 言うと、いわゆる所有権的構成を前提として取戻権になると解する説と、いわゆる担保権的構成 を前提として別除権になると解する説とがあった。しかし、判例(最判昭和41・4・28民集20巻 4号900頁)が、会社更生の事案につき、譲渡担保権者は、更生担保権者に準じて権利行使をな すべきものであって、取戻権を有するものではないと判示して以降、学説は次第に、破産の場合 には別除権(破2条9項)と解し、会社更生の場合には更生担保権(会更2条10項)と解するの が通説となった5。その後、平成11年に和議法に代わって民事再生法が制定されたが、民事再生 の場合には別除権(民再53条1項)と解するのが通説である6

 集合動産譲渡担保も、「集合」という点を除けば、特定動産譲渡担保と変わりない。また、「集 合」という点に着眼しても、特定動産譲渡担保と別異に解する理由は見当たらない。そこで、集 合動産譲渡担保も、特定動産譲渡担保と同様に、破産および民事再生の場合には別除権と解し、

会社更生の場合には更生担保権と解するのが通説である7

 なお、倒産手続との関係でも集合動産譲渡担保としての効力が認められるためには、倒産手続 開始の時点で対抗要件を具備していることが必要である。なぜなら、別除権・更生担保権の根拠 となる担保権を有する者と、破産管財人・再生債務者等(民再2条2項)・更生管財人とは、い わゆる対抗関係に立ち、そして、後者の者たちは、破産債権者たちの利益を代表する機関として、

差押債権者と類似の地位を有する、すなわち、いわゆる第三者的地位(第三者性)を有すると一 般に考えられているからである8

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4.集合動産譲渡担保の実行の対象となる動産の範囲――集合物の固定化――

 集合動産譲渡担保設定契約には、債務者の債務不履行など一定の事由が生じた場合には、譲渡 担保権者は譲渡担保権を実行することができる旨の約定が含まれているが、その実行の対象とな るのは、どの範囲の動産か。また、この際、集合物の固定化などと言われることがあるが、それ はどのような意味か。

⑴ 集合動産譲渡担保の法的構成(分析論vs集合物論)9

 ① 分析論とは、個々の動産について譲渡担保が設定されていて、その総和を集合物の譲渡担 保とみる考え方をいう。分析論によれば、個々の動産は、集合体への搬入を停止条件として譲渡 担保の目的物となり、集合体からの搬出を解除条件として譲渡担保の目的物ではなくなる。

 ② 集合物論とは、「集合物」を「1個の物(一物)」とみて、集合物について譲渡担保が設定 されているとする考え方をいう。集合物論は、さらに、2つの考え方に分かれる。

 1つは、伝統的集合物論(二重帰属論。伝統的な通説10)で、集合物に譲渡担保が設定されると、

個々の動産も直接に譲渡担保の目的物になるとする考え方である。すなわち、集合動産譲渡担保 は、集合物のみならず、個々の動産をも物権の対象として優先的に価値を把握するものというこ とである。伝統的集合物論によれば、集合物に属する個々の動産については、譲渡担保権者が処 分権をもち、ただ、譲渡担保権者が設定者に処分権限を付与しているので、設定者の処分によっ てその動産は譲渡担保の効力から離脱することになる。

 もう1つは、集合物論貫徹説(近時の有力説11)で、集合動産譲渡担保の目的物は集合物その ものであり、個々の動産は譲渡担保の直接の目的物ではないとする考え方である。すなわち、集 合動産譲渡担保の価値把握の対象は集合物に尽きるのであって、個々の動産は集合物の構成要素 としての地位しかないということである。集合物論貫徹説によれば、集合物に属する個々の動産 については、特約のない限り、設定者が処分権をもち、よって、設定者の処分によってその動産 は譲渡担保の効力から離脱することになる。

 ③ 判例は、集合物論に立っている(前掲最判昭和54・2・15等)。しかし、伝統的集合物論 か集合物論貫徹説かについて直接言及したものはなく、定かでない。例えば、判例(最判平成 18・7・20民集60巻6号2499頁)が、「譲渡担保権者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担 保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、

当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる」

と判示した部分について、「この処分授権は、譲渡担保権者が個別動産について処分権を有する ことを前提として初めて成り立つ構成である」から伝統的集合物論に立っているとの評価もある 12、「設定者の処分権限の基礎付けを何ら行っていない」「理論的説明になっていない」との評

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⑵ 集合物の固定化(固定化概念必要説vs固定化概念不要説)

 ① 集合物の固定化という概念は、集合物論貫徹説が作り出したものであり、集合動産譲渡担 保の実行に当たり、集合物を固定化する必要があるとされる(固定化概念必要説)。道垣内教授は、

次のように述べる14。すなわち、 ⑴「集合物を内容の変動しうる状態にしたままで、譲渡担保を 実行することはできない。内容が変動しうるということは、設定者が通常の営業ないし生活の範 囲内で自由に構成要素たる個々の動産を処分できる状態にあるということであり、そのままで譲 渡担保権者ないし第三者に完全な所有権を帰属させることは観念できないからである。したがっ て、実行にあたっては、まず集合物の構成要素を固定化することが要請される。この固定化によ り複数の個別動産譲渡担保に転化する。個々の動産についての譲渡担保の対抗要件は、集合物に ついて具備された対抗要件が、個別の動産のそれに転化する。したがって、個々の動産について の対抗要件具備の時期は、集合物についてそれが具備された時期と考えることができる。」、 ⑵「固 定時以降に、集合体に新たな動産は加入せず、……それには譲渡担保の効力は及ばない。」⑶「譲 渡担保権者が譲渡担保を実行しようとすると、まず、集合物の内容を固定しなければならない。

これには、債務不履行の事実だけではたりず、譲渡担保権者の実行通知を要する」、などと述べる。

 ② これに対して、伝統的集合物論の立場から、集合物の固定化という概念は不要であるとの 見解が主張されている(固定化概念不要説)。例えば、森田宏樹教授は、「担保権の実行通知によっ て処分授権が撤回されれば、その時点で流動性を失うことになる」から、あえて固定化という概 念を持ち出す必要はない、などと述べる15

⑶ 検討――固定化の二義性

 集合物論貫徹説を貫徹するなら、「集合物」を「1個の物」としたまま、譲渡担保を実行すべ きとも考えられるが、それは難しいと考える。この点は、設定者が譲渡担保権者に任意の引渡し に応じる場合には、法的問題として顕在化しないのだろうが、任意に応じない場合には、基本的 に、「民事訴訟(引渡訴訟)→強制執行(引渡執行)」というルートを辿るところ、強制執行がで きるためには、執行官が直ちに判読できる程度に判決の主文で引渡しの目的物が特定されている 必要がある。しかし、集合物が流動性を帯びたままでは、既判力の基準時である事実審の口頭弁 論終結時(民執35条2項参照)の後も流動することがあるため、執行官が執行の現場で直ちにど の動産が事実審の口頭弁論終結時に存在していたものであるかを判別できる程度に、あらかじめ 判決の主文で表示することは不可能であろう16。したがって、集合物を1個の物としたままでは、

譲渡担保を実行することはできないと考える。固定化概念必要説は、このことを前提にして、集 合動産譲渡担保は(複数の)特定動産譲渡担保に転化するという法的テクニックを生み出したも のと思われ、同時に、集合物論貫徹説には限界があることを自ら示したものであると考える。

 もっとも、仮に伝統的集合物論に立つとしても、固定化という概念を完全に否定することは難 しいと考える。確かに、伝統的集合物論は、集合物のみならず、個々の動産についても譲渡担保 の目的物と考えるのであるから、集合動産譲渡担保が特定動産譲渡担保に転化するという意味で

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の固定化概念は否定することになろう。しかし、担保権の実行通知によって処分授権が撤回され れば「流動性を失う」ということは、その時点で担保権の実行の対象となる動産の範囲は「固定 化する」などと言い表すことは許されるものと考える。現在まで、「伝統的集合物論vs集合物貫 徹説」を意識しないで固定化概念を使用する論者がほとんどであるが、その多くは伝統的集合物 論に立っていると思われ、例えば、「集合動産譲渡担保は、その実行手続に着手したときには、

新たに譲渡担保権設定者が取得する財産には及ばないという意味において固定する」17というよ うに、無意識的に、「流動性を失う」という意味での固定化概念を承認しているものと考える。

5.倒産手続開始決定と集合物の固定化

 集合物の固定化は、債務者の債務不履行など一定の事由が生じたために、譲渡担保権者が担保 権の実行に着手した時(実行の意思表示が設定者に到達した時)に生ずるという点については、

争いはないが18、債務者について破産手続が開始された場合、破産手続開始決定により当然に集 合物の固定化は生ずるのか。また、民事再生の場合や、会社更生の場合は、どうか。

⑴ 学説の状況

 現在のところ、倒産手続開始決定により当然に集合物の固定化が生ずると解するのが通説であ るが、最近は、それ以外の見解も有力に主張されている19

 ① 通説は、倒産手続開始決定により当然に集合物の固定化が生ずると解する(固定化肯定 説)20。破産・会社更生の場合については、開始決定により債務者の財産の管理処分権が破産管 財人・更生管財人に移転することなどを理由とする。民事再生の場合については、開始決定時に 管財人が選任される場合(この場合は破産・会社更生の場合と同様に考えることになろう)を除 き、再生債務者は管理処分権を維持するが、開始決定後の再生債務者は再生手続の機関として業 務を遂行し、また管理処分権を有するのであり、開始決定前の再生債務者と同視すべきではなく、

管財人と同様に考えるべきであること、あるいは単に、いわゆる再生債務者の第三者性を理由と する。

 ② 通説に対しては、第1に、民事再生および会社更生の場合に限っては、開始決定により固 定化は生じないと解する見解がある(固定化限定否定説)21。事業の継続を念頭に置いた再建型 の倒産手続では、開始決定による固定化を否定するのが、債務者および譲渡担保権者の双方にとっ て利益になると説くものである。すなわち、再生債務者(または管財人)・更生会社(更生管財人)

は、従前どおりの物流を行うことができる、と同時に、従前どおりの担保価値維持義務(不足担 保補充義務)を負う、と主張する。さらに、事実上の問題として、手続開始時に集合動産を固定 するのは困難であるし、譲渡担保権の実行時に、手続開始時に存在した動産とその後に搬入され

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目的物に及ばないと解すべき理由は見いだしがたいとする。

 ④ 第3に、倒産手続開始決定により――集合物ではなく――「価値枠」の固定化が生ずると 解する見解がある23。この見解は、破産手続開始の決定によって担保目的財産は固定化しないが、

担保権者が把握しているのは、破産手続開始の決定時の財産の価値の範囲であって、開始決定時 の価値枠さえ保証されれば担保権者の保護に欠けることはないから、破産手続開始の決定時の価 値枠で固定すると説くものである。民事再生・会社更生の場合も、同様に考えられよう。

⑵ 検討――破産・民事再生の場合は固定化否定、会社更生の場合は価値枠が固定化

 ① 通説は、破産手続・会社更生手続の開始決定があると、債務者は自己の財産の管理処分権 を失い(破産管財人・更生管財人に移転し)、その結果として、集合動産についての処分授権を 喪失するものと考えている。民事再生手続についても、これと同様に考えようとするものである。

しかし、いずれの場合であっても、倒産手続を主宰する機関である破産管財人・再生債務者等・

更生管財人は、基本的に、債務者の従前の実体法上の地位を承継する24。そうであれば、集合動 産譲渡担保が有効に成立し、対抗要件を具備している限り、破産管財人たちは、債務者の有する 集合動産についての処分授権を承継することになるから、譲渡担保権者との関係で処分権限が喪 失することはない。

 また、個別執行(強制執行または担保権の実行)の場面において、集合動産の全部または一部 を第三者が差し押さえたとしても、集合動産譲渡担保権者は、第三者異議の訴え(民執38条)に より、第三者による個別執行を排除することができる(最判昭和62年11月10日民集41巻8号1559 頁は、集合動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えを認めて、特別の先取特権に基づく動産競 売を排除した)。そうであれば、倒産手続開始決定を包括的差押えとみるとしても、これにより 固定化を生ずるとする理論的根拠を見出すことは困難であると考える。

 さらに、譲渡担保権者による担保権の実行の着手は固定化事由と考えられているが、集合動産 譲渡担保設定契約書の多くは、債務者の債務不履行など一定の事由が生じたら、「①設定者は集 合動産の処分権を喪失する→②設定者はそれを譲渡担保権者に引き渡す→③譲渡担保権者は処分 清算型(または帰属清算型)で被担保債権の回収を図る」というものである。そこで、債務者の 債務不履行も固定化事由と考えられそうだが、そうすると、譲渡担保権者がまだ実行を望んでい ないのに実行を強制することになり好ましくないとして固定化を否定するのが一般的である25 倒産手続開始決定についても、これと同様に考えるべきである。

 次に、固定化限定否定説は、民事再生手続・会社更生手続開始後の債務者の事業の継続を念頭 に置き(そのうえで債務者および譲渡担保権者の双方の利益になると説き)、それらの手続開始 決定による固定化を否定する。しかし、再建型の倒産手続にあっても、清算を内容とする再生計 画・更生計画の認可・確定を目指すことが認められているし(会社更生については、明文の規定 がある。会更185条・196条5項)、実際にその例も少なくない。事件の中には、手続開始直後か ら清算に向けた処理が行われている場合もあろう。また、清算型の破産手続においても、破産管 財人は裁判所の許可を得て破産者の事業を継続することができるところ(破36条)、固定化限定

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否定説の中には、この場合について固定化を否定する余地があるとするものもある26。このよう に、清算型と再建型の区別自体も、その限界は相互に流動的なものである。したがって、固定化 事由の基準として、清算型か再建型かという点を持ち出すのは適当ではなく、譲渡担保権者によ る担保権の実行の着手に委ねるのが適当と考える。破産・民事再生の場合においても、破産管財 人・再生債務者等による債務不履行とか、「通常の営業の範囲内」(前掲最判平成18・7・20)で ない処分がメルクマールとなろう。後者は明確な枠組みがでないため、その判断が困難な場合も あろうが、それは倒産手続外においても同じことである(多くの場合は、受戻しとか、別除権協 定により解決されるであろう27)。

 ただし、会社更生の場合には、更生担保権は更生手続開始の時における時価で評価されるから

(会更2条10項本文)、この意味において価値枠が固定されるものと考える。なお、会社更生の 場合には、担保権者も個別的権利行使が禁止されるので(会更135条1項・50条1項)、開始決定 後に実行の着手により固定化が生ずると解する余地はない。

 以上のことから、破産・民事再生の場合には、その手続開始決定により集合物の固定化は生じ ないと解する。これに対して、会社更生の場合には、その手続開始決定により価値枠の固定化が 生ずるものと解する。

 ② なお、倒産手続開始決定による集合物の固定化を否定し、あるいは価値枠が固定化すると 解するときは、破産者たちから破産管財人たちが承継する担保価値維持義務(不足担保補充義務)

の範囲が問題となる。この点については、例えば、集合動産譲渡担保設定契約において、破産者

(設定者)は倉庫内に在庫商品100の担保価値維持義務を負う旨の約定があったが、破産手続開 始時に100以上存在していた場合には、破産管財人は従前どおり100の担保価値維持義務を承継す るが、破産手続開始時に70しか存在しなかった場合には、破産管財人は70の担保価値維持義務を 承継するものと解する。後者の場合には、破産手続開始時において破産者がすでに担保価値維持 義務に違反していたのであるから、30の不足担保補充請求権は破産債権となるからである(なお、

被担保債権が70を超えるときは、もともと70を超える部分の被担保債権は破産債権として存在し ているため〔破108条=不足額責任主義〕、30の不足担保補充請求権は実質的には意味をもたない。

また、被担保債権が70以下のときは、そもそも意味をもたない)。民事再生・会社更生の場合も 同様と考える28

1 集合動産譲渡担保の法的構成(分析論vs集合物論)については、後述4⑴参照。

2 道垣内弘人『担保物権法〔第3版〕』(有斐閣、2013)332頁以下など。

3 伊藤眞『破産法・民事再生法〔第3版〕』(有斐閣、2014)456頁以下など。

4 道垣内・前掲注⑵334頁など。ただし、道垣内教授は、判例と見解が異なる(後述4⑴参照)。

5 伊藤・前掲注⑶450頁以下、同『会社更生法』(有斐閣、2012)208頁以下など。

6 伊藤・前掲注⑶903頁以下など。なお、判例も別除権と解している(最判平成18・7・20民集60巻6号 2499頁など)。

(9)

生担保権として保護を受けるための権利保護要件であるからとする見解も主張されている(今中利昭 ほか『実務倒産法講義〔第3版〕』(民事法研究会、2009)216頁など)。

9 なお、それ以外に、価値枠説(伊藤進「集合動産譲渡担保理論の再検討」ジュリ699号92頁以下など)、

流動動産担保説(下森定「集合物(流動動産)の譲渡担保」下森定=須永醇監修『物権法重要論点研究』

(酒井書店、1991)122頁以下など)、債権的効果説(石田喜久夫『現代の契約法〔増補版〕』(成文堂、

2001)147頁)なども主張されている。

10 米倉明『譲渡担保の研究』(有斐閣、1976)119頁以下、森田宏樹「集合物の『固定化』概念は必要か」

金判1283号1頁など。

11 道垣内・前掲注⑵328頁以下。

12 森田宏樹・前掲注⑽1頁。

13 今尾真「判批」明治学院ローレビュー8号65頁、67頁。

14 道垣内・前掲注⑵339頁以下など。

15 森田宏樹・前掲注⑽1頁。さらに、森田修「『固定化』概念からの脱却と分析論回帰の志向――最一小 決平成22・12・2評釈」金法1930号60頁など。

16 譲渡担保権者が、占有移転禁止の仮処分、執行官保管の仮処分、引渡断行の仮処分などを得ていれば、

そのような心配は減ずる。しかし、現行法上、譲渡担保権者にそれを強制できない。

17 田原睦夫「倒産手続と非典型担保権の処遇」別冊NBL69号79頁。

18 道垣内・前掲注⑵340頁など。

19 近い将来、本格的な議論が行われるものと予想される。なお、判例は、下級審を含めて、まだない。

20 谷口安平『演習破産法』(有斐閣、1984)122頁〔破産〕、田原睦夫「集合動産譲渡担保の再検討」金融 法研究・資料編⑸150頁(同『実務から見た担保法の諸問題』(弘文堂、2014)に所収)〔破産・会社更生。

なお、和議・会社整理については否定〕、同・前掲注⒄79頁以下〔破産・民事再生・会社更生〕、中野 貞一郎ほか編『基本法コンメンタール破産法〔第2版〕』(日本評論社、1997)151頁〔宮川聡〕〔破産〕、

斎藤秀夫ほか編『注解破産法(上)〔第3版〕』(青林書院、1988)587頁〔野村秀俊〕〔破産〕、伊藤眞『債 務者更生手続の研究』(西神田編集室、1984)349頁〔会社更生〕、同『破産法・民事再生法〔第2版〕』

〔有斐閣、2009〕356頁、704頁〔破産・民事再生〕(ただし、伊藤教授は後に固定化否定説に改説)、

道垣内・前掲注⑵340頁〔破産・民事再生・会社更生〕など。なお、山本研「担保権消滅請求制度の射程」

佐藤鉄男=松村正哲編『担保権消滅請求の理論と実務』(民事法研究会、2014)97頁以下参照。

21 小林信明「非典型担保の倒産手続における処遇」佐藤歳二ほか編『新担保・執行法講座第4巻』(民事 法研究会、2009)217頁〔民事再生・会社更生〕、伊藤達哉「倒産手続における将来債権・集合動産譲 渡担保権の取扱い」金法1862号9頁以下〔民事再生・会社更生〕、粟田口太郎「倒産手続におけるABL 担保権実行の現状と課題」金法1927号85頁以下〔民事再生〕など。

22 伊藤・前掲注⑶457頁以下、903頁以下〔破産・民事再生〕、同・前掲注⑸214頁以下〔会社更生〕、荒井 正児「集合動産譲渡担保」NBL926号107頁〔破産・民事再生・会社更生〕。

23 三山裕三「破産手続と集合物譲渡担保(上)」NBL984号24頁〔破産〕。なお、伊藤眞ほか『条解破産法〔第 2版〕』(弘文堂、2014)514頁以下参照。

24 例えば、最判平成18・12・21民集60巻10号3964頁は、質権設定者が破産した場合につき、破産管財人 は質権設定者の担保価値維持義務を承継するものとしている。

25 田原・前掲注⒇150頁参照。

26 粟田口・前掲注87頁注12など。

27 なお、譲渡担保権者が受戻し等に応じないときは、担保権消滅制度(破186条以下、民再148条以下)

の利用を検討することになろう。この場合には、破産管財人・再生債務者等が裁判所に担保権消滅許

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可の申立てをした時に固定化が生ずるものと解する。

28 なお、集合動産譲渡担保設定契約において、設定者について倒産手続の開始申立てや開始決定があっ たことを集合物の固定化事由とする旨の特約が定められている場合については、固定化は担保権実行 の準備段階にとどまり、これを倒産解除特約と同視してその効力を一律に否定する必要まではないた め、契約上の固定化事由の発生により固定化が生ずると解される。山本・前掲注⒇97頁など。

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