変化 す る認識 中止 の論 理
一 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン の 会 計 ・税 務 処 理 に つ い て 一
大 沼 宏
1.は じ め に
最 近 の リス トラ クチ ャ リ ング 実 務 の 一 つ と して,貸 借 対 照 表 の ス リ ム化 とい う議 論 が な さ れ る 。 こ の延 長 線 上 で,負 債 を い か に して 圧 縮 な い し消 去 す る か と い う点 が 会 計 担 当 者 の み な らず 企 業 経 営 者 の 関心 を集 め て い る 。 特 に負 債 比 率 を下 げ て 社 債 格 付 け の 向 上 な ど を意 図 す る場 合,負 債 を貸 借 対 照 表 上 か ら取 り 除 く と い う 点 が 先 ず 検 討 課 題 に 上 が り や す い 。 こ の 負 債 の 消 去
(extinguishmentofdebt)す な わ ち負 債 の 認 識 中止(derecognitionofdebt) を検 討 す る場 合,Peterson,et.a1[1985],Chaney[1985]ら に よれ ば,ま ず 公 開 市 場 で 社 債 を買 い 入 れ そ れ に よ り負 債 を 償 却 す る 買 入 償 却 が 挙 げ られ
る。 他 に も転 換 社 債 に よ る負 債 か ら株 式 へ の 転 換,コ ー ル可 能 な 債 券 で あ れ ば 債 券 コ ー ル(callingofdebt)が あ る 。 そ し て 負 債/株 式 ス ワ ッ プ(debt/
equityswap)に よ り負 債 を株 式 に転 換 す る 方 法1)も 考 え られ る 。 こ れ ら の 手 1)Hand[1989]に よ る と,負 債/株 式 ス ワ ッ プ は1980年 代 初 頭 に 頻 繁 に行 わ れ た 財 務 手 法 で あ る。 そ の 具 体 的 な 手 法 と して は 次 の 通 りで あ る。 当 該 ス ワ ッ プ を実 行 す る企 業 は 低 ク ー ポ ン レー トの 発 行 済 社 債 を市 場 か ら買 い 入 れ,そ の 見 返 り に 株 式 を新 規 発 行 す る。 仲 介 す る 投 資 銀 行 は 債 券 市 場 か ら買 い 入 れ た社 債 券 と 引 き 替 え に,発 行 さ れ た 新 株 を 債 権 者 へ 譲 渡 す る 。 債 権 者 は 売 却 した 債 券 の 対 価 と し て 株 式 を 受 け 取 る の で,そ の 形 態 は 実 質 的 に社 債 と 株 式 の 交 換(swapping)で あ る 。 しか も こ の 交 換 取 引 が 一 連 の 取 引 と して 行 わ れ る た め,一 般 に こ の よ う な 社 債 と株 式 の 交 換 を負 債/株 式 ス ワ ッ プ と称 す る 。だ がHand,et.al[1990]は, こ の 負 債/株 式 ス ワ ッ プ は 税 法 の 改 正 と と も に そ の 利 点 が 減 少 し た た め に,実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス に 取 っ て 替 わ られ た と指 摘 す る 。
〔295〕
法 す べ て にお い て債 務 者 は法 的 債 務 か ら解 放 され る と と も に,貸 借 対 照 表 上 か ら負 債 が消 去 さ れ る 。
だが,法 的 債 務 が 残 存 す る に も 関 わ らず,貸 借 対 照 表 か ら負 債 を消 去 す る 方 法,す な わ ち認 識 中 止 を達 成 す る方 法 も存 在 す る。 そ の 一 つ は,負 債 と無 リス ク証 券 を取 消 不 能 信 託(irrevocabletrust)に 預 託 し,そ れ に合 わ せ て 無 リス ク証 券 か ら得 ら れ る 元 利 金 を完 全 に負 債 の社 債 権 者 へ の 元 利 支 払 に 充 て る こ と に よ っ て 当 該 負 債 を 貸 借 対 照 表 上 か ら消 去 す る と い う もの で あ る。 通 常 こ の 方 法 の こ と を,実 質 的 に(in‑substance)負 債 を破 棄 す る(defease)手 法 と して, 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス(ln‑substancedefeasance)と 呼 ぶ(詳 細 に つ い て は 拙 稿[1996]参 照)。
この 他 に,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス と手 続 と し て非 常 に 類 似 す る が,取 消 不 能 信 託 を設 定 せ ず に,負 債 の元 利 支 払 い を 銀 行 等 の 第 三 者 企 業 に引 き受 け させ る こ と に よ り,負債 の 認 識 中 止 を図 る方 法 が あ る 。こ れ を デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン(debtassumption)と 呼 ぶ 。
デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンは債 務 履 行 引 受 契 約 と訳 さ れ る が,こ れ は 本 来1983 年 に 発 表 さ れ たFASB財 務 会 計 基 準 書 第76号 「負 債 の 消 去 」"Extinguish‑
mentofDebt"(以 降SFAS76号)に お い て容 認 さ れ た,実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス の 特 殊 形 態 と もい え る金 融 取 引 で あ る2)。
本 稿 で は 最 初 に,日 本 にお け るデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 実 務 上 の 扱 い,及 び 会 計 処 理 を示 す 。 日本 で は デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンが 繰 上 償 還 に よ らず に負 債 の 認 識 中 止 を可 能 に す る手 法 で あ っ た の に 対 し,米 国 で は 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス が そ れ に対 応 して い た。 そ こで 日本 との 対 比 を示 す た め,米 国 の 負 債 認 識 中 止 に 関 す る実 務 と制 度 の歴 史 的 変 遷 と現 状 を把 握 す る 。 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス とデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 両 者 は 米 国 投 資 銀 行 に よ っ て最 初 に考 案 さ れ た が,現 在 会 計 上 の 扱 い は 当 時 と比 べ 大 き く変 化 して い る。 こ の 変 化 の状 況 を検 証 した 後,再 び 舞 台 を 日本 に移 し,米 国 と逆 転 して い るそ の原 因 を浮 き彫 2)佐 藤[1991コ 田 中[1994]は,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン を 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン
ス の 中 の,「 ア サ ン プ シ ョ ン法 」 と分 類 す る。
変化 す る認識 中止 の論 理 297 りに す る。 しか し 日本 に お い て も1995年 に改 正 ・公 表 さ れ た外 貨 建 取 引 等 会 計 処 理 基 準(以 降 新 外 貨 建 基 準 とす る)を 契 機 に,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 会 計 上 の 取 扱 は劇 的 な変 化 の 兆 しを見 せ つ つ あ る 。 こ う した変 化 は会 計 実 務 に と ど ま らず 税 務 実 務,特 に 法 人 税 に 関 す る処 理 に大 き く影 響 を 与 えて い る 。 以 上 を踏 ま え,日 米 の 負 債 の 認 識 中 止 に つ い て の会 計 的 論 理 の相 違 と変 遷 の経 緯 を 検 証 す る こ とを 目的 とす る 。
2.日 本 に お け る デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン の 概 要 一 研 究 報 告 一 わ が 国 で の デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンに つ い て の事 実 上 の会 計 基 準 と して 日本 公 認 会 計 士 協 会 会 計 制 度 委 員 会 研 究 報 告 第3号[1987]「 通 貨 ス ワ ップ の 会 計 処 理 」(以 降 「研 究 報 告 」)が あ る。 この ス テ ー トメ ン トは あ くまで 実 務 の 参 考 と い う位 置 づ け で あ り実 務 を拘 束 す る もの で は な い が,事 実 上 「研 究 報 告 」 の 内 容 に即 して デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンは 行 わ れ て い る3)。
「研 究 報 告 」 は デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョン を,外 貨 建 債 務 を銀 行 が 引 き受 け る と の と同 時 に,銀 行 等 に対 して 見 返 りの 円 債 務 を一 時 に履 行 し原 債 務 の履 行 を 免 れ る取 引 と して い る(H.4)。 す な わ ち 「研 究 報 告 」 は デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ン を,形 式 上 は異 な るが,実 質 的 に は通 貨 ス ワ ップ の特 殊 形 態 と して 捉 え,ス ワ ップ 契 約 締 結 時 に発 生 す る ス ワ ップ債 務 を一 時 に履 行 した もの とみ て い る 。 これ に応 じて そ の 実 質 的 な効 果 か ら,デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ンを発 行 済 社 債 の 繰 上 償 還 と同 様 に処 理 し,当 該 負 債 の認 識 中 止 を肯 定 す る。 ま た デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン後 の 原 債 務 は偶 発 債 務 と して注 記 に よ る 開示 を求 め る(H.4,[解 説]
6)。 つ ま り 「研 究 報 告 」 は負 債 の 認 識 中止 に つ い て の是 非 を 問 う こ と な く,あ くま で こ れ まで の外 貨換 算 実 務 の 延 長 線 上 に お い て い か に位 置 づ け られ る か と
3)秋 葉[1996]は デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン を負 債 の オ フ バ ラ ン ス 化 を達 成 す る 会 計 処 理 と して,我 が 国 に お け る現 状 で の 扱 い を 詳 述 す る 。91頁 。 ま た デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン の デ ィス クU一 ジ ャ ー と具 体 的 な 処 理 法 に つ い て は 伊 藤[1994]第13 章 参 照 。
い う点 か ら論 じ られ た もの で あ っ た 。
具 体 的 に デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョンの ス キ ー ム と会 計 処 理 に つ い て,日 本 公 認 会 計 士 協 会 東 京 会[1992],中 央 監 査 法 人[1994],伊 藤[1992]を 参 考 に,そ の概 略 を検 証 し よ う。
まず,通 常 の社 債 発 行 を行 っ た 場 合 の ス キ ー ム を 図1に 従 っ て 説 明 し よ う。
①A社 は社 債 を発 行 し,②C社(社 債 代 理 人)を 介 してD社 等(社 債 保 有 者) は こ の社 債 を受 け 取 る 。 ③ そ の 対 価 と してD社 等 は元 金 を支 払 い,④ 同 様 に C社 を介 して,A社 はD社 等 か ら支 払 わ れ た 元 金 を受 け 取 る 。 ⑤A社 は 発 行 され た社 債 の 約 定 金 利 を支 払 い,償 還 時 に は 元 本 の 償 還 も行 う。 ⑥D社 等 は A社 か ら支 払 わ れ た元 利 金 をC社 を介 して 受 け取 る 。
次 に,仲 介 役 で あ るB銀 行 を介 して デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンが 行 わ れ た 場 合 の ス キ ー ム を説 明 しよ う。⑦A社 とB銀 行 との 問 で デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョン契 約 が 交 わ さ れ る。 こ の 時,A社 は 発 行 済 み 社 債 の債 務 履 行 をB銀 行 に引 き受 け て も ら う た め に,⑧ 当該 社 債 の元 利 支 払 いが 行 え る程 度 の現 金 預 金 な い しは 有 価 証 券 をB銀 行 へ 預 け る 。 た だ し,B銀 行 が そ の ま まA社 の 債 務 の弁 済 を行 う わ け で は な い 。⑨B銀 行 はA社 か ら支 払 わ れ た現 金 預 金 な い し は有 価 証 券 を 匿 名 の 第 三 者 企 業 で あ るE社 へ 貸 し付 け て,そ の 代 償 と して こ の 債 務 を 引 き 受 け て も ら う こ と にす るの が 一 般 的 で あ る(金 融 市 場 で の 運 用 も含 む)。 ⑩ こ れ に よ っ てE社 は引 き受 け た債 務 の 元 利 支 払 い を行 い,⑪B銀 行 を 介 してA 社 が 行 うべ き社 債 の 元 利 金 支 払 い を代 行 す る。 この 結 果,A社 は 貸 借 対 照 表 上 か ら社 債 を取 り除 くこ とが で き,B銀 行 へ 預 け入 れ た 預 金 と消 去 した 社 債 の 差 額 は償 還 差 損 益 と して 計 上 す る。 ⑦̀ま た,デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョン契 約 を締 結 す る 際 に,保 証 機 関 か ら信 用 状 を受 け 取 る こ とに よ り,当 該 契 約 の 履 行 を保 証 して も ら う場 合 もあ る4)。
4)1980年 代 で は 我 が 国 の場 合 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンは 外 債 に つ い て しか 認 め られ て い な か っ た の で,図1の ⑨ にお い て貸 し付 け られ る現 金 預 金 等 は 外 貨 で あ る 。 外 貨 需 要 を抱 え て い る 企 業 が 主 に債 務 履 行 の 引 受 け手 と な る。 だ が,現 在 で は デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ンは 外 債 の み な らず 円 建 社 債 に つ い て も認 め られ て お り,日 本 と米 国 に お け る ス キ ー ム上 の相 違 は 消 えつ つ あ る 。 太 田 昭 和 監 査 法 人編[1997]142頁 参 照 。
変化 す る認識 中止 の論理
A社 社債発行企業
⑦ 信用状
証関保機
⑦ デ ヅ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン 契 約
299
①社債発行
④元金受取
⑤ 元利 金 支払(デ ヅ ト ・アサ ン プシ ョン契約 前)
⑧ 預 金
\
⑪ 元 利 金 支 払(デ ヅ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン 契 約)
/3⑩ 返済 利払
E社 第 三 者 の
匿名企 業
C社 社債 代理 人
ー②社債受取⊥▽
元支▲Y③金払1ー/ ⑥⑫調金蜘
D社 等 社債保有者
図1デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョンの構造
日本公 認会 計士 協会 東京 会[1992]の253頁,図3‑・3を 参考
具 体 的 に 中 央 監 査 法 人[1994]を 参 考 に,以 下 の設 例 を も っ て社 債 発 行 時 と デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン契 約 実 行 時 の 会 計 処 理 を示 す 。
[設 例]A株 式 会 社 は ニ ュー ヨー ク市 場 か ら以 下 の 条 件 で ドル 建 て 普 通 社 債 を額 面 発 行 した 。な お 社 債 発 行 時 の 為 替 相 場 は115円/1ド ル,利 払 い 日は8月31
日で あ る。
発 行 日:平 成x4年9月1日
発 行 総 額:2,000千U.S.ド ル(帳 簿 価 額:230百 万 円) 発 行 期 間:5年(償 還 期 日平 成x9年8月31日)
利 率:6%
こ の 際 の 会 計 処 理 は 次 の通 り(単 位;千 円)。
x4/9/1(借 方)現 金 預 金230 ,000(貸 方)社 債230,000
第2回 目の 社 債 利 息 を支 払 っ た 直 後 の 平 成x6年9月1日 に金 利 は長 期 的 な 下 降 局 面 に 入 り,更 に 円 高 が 進 ん だ た め に デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン契 約 を実 行 した 。 な お 銀 行 側 の 手 数 料 は無 視 す る。
社 債 元 本 の 残 債 務:2,000千U.S.ド ル 実 勢 金 利:3年 もの でU.S.ド ル5%
現 在 の 直 物 為 替 相 場:110円/1ド ル
こ の 条 件 の 基 で 必 要 に な る預 託 金 は225,991千 円 とな る5)。 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンに つ い て の会 計 処 理 法 に は い くつ か 議 論 が あ る が,社 債 の繰 上 償 還 と 同 じ効 果 を 見 な して 次 の よ う に な さ れ る の が 一 般 的 と考 え られ る(単 位;千 円)。
x6/9/1(借 方)社 債230,000
償 還 差 損5,991*
*¥5 ,991=¥225,991‑$2,000×¥110
**¥10
,000==(¥115‑¥110)×$2,000
貸 方)現 金 預 金225,991 為 替 差 益10,000**
償 還 差 損 は実 勢 金 利 が社 債 の 額 面 利 率 で あ る6%よ り も低 い た め認 識 す る の で あ り,為 替 差 益 は社 債 発 行 時 よ り も円 高 が 進 ん で い る た め で あ る。
税 務 上 も特 に デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン につ い て の 法 令 ・通 達 は存 在 しな い 。 も っ と も渡 辺[1994]に よれ ば,法 人税 法 上 もデ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ン を負 債 の繰 上 償 還 と同様 に見 な す と考 え られ て い る。 税 務 上 も会 計 上 もデ ッ ト ・アサ ン プ シ ョン を負 債 の 繰 上 償 還 と実 質 的 に 同 一 と見 な す とい う こ とで 大 筋 に お い て異 論 が ない と しつ つ も以 下 の 点 が 指 摘 され る 。 第1に,償 還 差 損 益 お よび 為 替 差 損 益 は いつ の 時 点 で損 金 ・益 金 に算 入 で きる か とい う点 で あ る。す な わ ち, デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ンが な さ れ た と して も原 債 務 は依 然 と し て 残 存 す る 以 上,当 該損 益 は実 行 時 にお い て 認 識 す る の で は な く,償 還 時 まで繰 り延 べ る か,
5)預 託 金 は 現 在 割 引 価 値 計 算 に よ り次 の よ う に 行 う。
1年 度 の 利 息 の 現 在 割 引 価 値 計 算;¥110×$2,000千xO.06÷1.05=12,571千
円 。 以 下,2年 度 の 利 息 の 現 在 割 引 価 値==11,973千 円,3年 度 に社 債 を 償 還 す る の で 元 利 金 の 現 在 割 引 価 値=201,447千 円 。 総 額¥225,991千 円 と な る。
変化 す る認識 中止 の論 理 301 あ る い は償 還 時 ま で 期 間 配 分 し各 期 の損 益 に 算 入 す る と い う処 理 も考 え られ る 。 第2に 償 還 差 損 益 と為 替 差 損 益 は 合 算 す べ きか ど う か とい う点 が 挙 げ られ る6)。
しか し 「研 究 報 告 」 と成 澤[1994]に よ れ ば,当 該 償 還 差 損 益,為 替 差 損 益 は デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン実 行 時 に 一 括 して認 識 し,契 約 締 結 日の 事 業 年 度 の 損 益 と して,益 金 あ る い は 損 金 に算 入 す る こ とが 容 認 さ れ て い る。 た だ し両 者 は別 の 要 因 に よ って 発 生 した 損 益 で あ る以 上,合 算 せ ず に別 個 に処 理 す る 。
つ ま り制 度 上 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン に よ っ て負 債 と一 定 の 現 金 預 金 を 認 識 中止 し,そ れ に 伴 う償 還 差 損 益 及 び為 替 差 損 益 は 認 識 す る とい う処 理 は 一 般 に 公 正 妥 当 な会 計 ・税 務 処 理 と して認 め られ て い る 。
3.実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス の 歴 史 的 変 遷
日本 で は実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス で は な くデ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンが繰 上 償 還 に よ らず に負 債 を認 識 中 止 す る 方 法 と して認 め られ て い る が,米 国 で は 反 対 の状 況 に あ っ た 。 デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョン の理 論 的 な背 景 と将 来 の 展 望 を予 想 す る た め に,FASB財 務 会 計 基 準 書 に お け る 実 質 的 デ ィ フ ィ …一・ザ ンス の歴 史 的 変 遷 と実 務 状 況 及 び そ の 背 後 に あ る 経 済 的実 質優 先 思 考 の 論 理 を探 る 。
3.1実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス とデ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョン の 相 違 一SFAS76号 一 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス は,1982年 米 国 企 業 エ ク ソ ン 社(ExxonCorp.)に よ っ て 初 め て 行 わ れ た7)。 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は,エ ク ソ ン社 が 実 質 的 デ ィ
6)こ れ 以 外 の 問 題 と して,為 替 リ ス ク を 回 避 す る 目的 の も と原 債 務 に 為 替 予 約 が 付 さ れ て い る(法 人 税 法 は 個 別 予 約 の み 想 定 し て い る)場 合,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン に 伴 っ て 生 じる 譲 渡 損 益 は 損 金 算 入 が 可 能 か ど う か と い う 点 も指 摘 され る 。 こ う し た 問 題 に つ い て 渡 辺[1994]は,当 該 損 失 に 係 る 支 払 額 が 適 正 な 対 価 と して 認 め られ る場 合 デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ン実 行 時 の 損 金 に 算 入 す る よ う提 案 す る 。 205頁 参 照 。
7)エ ク ソ ン社 の 行 っ た 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス の 内 容 につ い て は,Weil[1983], Exxon[1982],Peterson,et.al[1985],及 び 田 中[1994]を 参 照 。
フ ィ ー ザ ン ス を 行 っ た わ ず か 後,食 品 メ ー カ ー の ケ ロ ッ グ 社(KelloggCorp.) に よ っ て 行 わ れ た 。 ケ ロ ッ グ 社 は75百 万 ドル の 負 債(利 率8.625%)を 消 去 す る た め に,匿 名 の 第 三 者 企 業 数 社 に対 して,総 額64百40万 ドル の現 金 及 び流 動 資 産 を 支 払 っ た。 当 該 匿 名 企 業 は こ の発 行 済 社 債 債 務 を引 き受 け た が,そ こで の 債 務 の 引 受 を確 実 な も の とす るた め に,ケ ロ ッグ社 は モ ル ガ ン ・ギ ャ ラ ンテ イ ー ト ラ ス ト社(MorganGuarantyTrust)か ら 信 用 状(letterofcredits) を 受 け 取 っ た8)。 こ の 意 味 か ら デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は,取 引 と し て は 負 債 の 第 三 者 へ の 売 却 と し て 受 け と め ら れ る9)。 も ち ろ ん 売 却 す る の で あ る か ら, 第 三 者 に 負 債 を 引 き 受 け て 貰 う 以 上,い く ら か の 現 金 を 支 払 う 。 こ の 点 か ら す れ ば,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンは 事 実 上 財 務 手 法 の一 部 で あ り,会 計 政 策(創
8)も う一 つ の デ ィ フ ィ ー ザ ンス 手 法 に 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス(instantaneousin‑
substancedefeasance)と い う も の が あ る。 即 時 的 デ ィ フ ィー ザ ンス と は,簡 単 に 言 え ば負 債 が 発 生 す る と 同 時 に そ の 負 債 が 消 去 され る 方 法 で あ る。 具 体 的 に 説 明 す る と,よ り高 い 利 回 り を持 つ 資 産 に投 資 す る た め に,負 債 を 発 生 させ る。 市 場 間 の 金 利 差 に よ る 金 利 差 益 を 得 る た め に,通 常 この 形 態 で は,あ る 国 で 社 債 を 発 行 し,ま た 別 の 国 で よ り高 い利 回 りを持 つ リス ク フ リー 証 券 を 購 入 し て,負 債 を消 去 す る 。 結 果 的 に,即 時 的 な 利 益 が もた ら さ れ る。 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス の 一 例 と し て は,1984年 に ペ プ シ社(PepsiCo.)が 行 っ た も の が あ る 。 ア メ リ カ 債 券 市 場 で ドイ ツマ ル ク建 て社 債 を 発 行 し,当 該 社 債 を消 去 す る た め に,高 利 回 りの 西 ドイ ツ 政 府 債 を 同 時 に購 入 す る。 こ れ に よ り,貸 借 対 照 表 に 一 切 の 影 響 を 与 え る こ と な く,瞬 間 的 な 利 益 を得 る こ と が 可 能 と な っ た 。 貸 借 対 照 表 上 に 資 産 ・負 債 が 現 れ る こ と は 決 し て な く,た だ 損 益 計 算 書 に 瞬 間 的 な 金 利 差 益 が 発 生 す る だ け で あ る 。SFAS76号 は 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス に つ い て は な ん ら規 定 は 設 け な か っ た が,そ の 後 公 表 さ れ たFASBTechnicalBulletin84‑4で は 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス を 認 め な か っ た 。 す な わ ち,社 債 を新 規 発 行 しそ の 直 後 に 当 該 社 債 を デ ィ フ ィー ザ ン ス す る こ と は 認 め て い な い 。 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス に お い て 外 国 子 会 社 の 有 価 証 券 を運 用 す る と き,当 該 取 引 は ド ル建 て の 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス と し て 国 際 的 な 金 利 裁 定(arbitrageofinterestrates)の た め に 利 用 さ れ る 。 即 時 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス はFASB76号 の 下 で 認 め ら る か 否 か に つ い て は 議 論 が あ っ た がTB84‑4に よ っ てFASBは 容 認 しな い と い う立 場 を 明 確 に し た と い え る 。 即 時 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス を 利 用 す る 企 業 に は,他 にSterling DrugInc.BaxterTravenolLaboratories等 が あ っ た 。
9)ケ ロ ッ グ社 に と っ て デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は,自 ら の 負 債 の 金 利 と 元 本 支 払 を 満 た す の に 十 分 な収 益 を 得 る よ う な 別 投 資 を行 っ た と い え よ う。Chaney[1985], P.53参 照
変化す る認識 中止 の論理 303 造 的 会 計)の 一 種 と い え よ う10)。
SECは1982年8月 に こ の取 引 を一 時 的 に 禁 止 し,そ の 会 計 処 理 が 妥 当 で あ るか ど うか につ い て の 審 議 をFASBに 委 ね た 。FASBは 周 到 な議 論 を経 た 後, 多 数 の 反 対 を 押 し切 っ て,1983年11月 に 当 時 と し て は 異 例 の ス ピ ー ドで SFAS76号 を公 表 し た11)。SFAS76号 に よ っ て実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス は ひ と ま ず 認 め ら れ た が,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン の 方 は 認 め ら れ な か っ た 。 ケ ロ ッ グ社 以 降 米 国 に お い て デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョン に よる負 債 の 認 識 中 止 を試 み た
10)デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ン と実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス は 方 法 と して は 共 通 す る こ と か ら,メ リ ッ ト もお お よ そ 類 似 す る 。 す な わ ち,
① 法 的 債 務 か ら解 放 さ れ て い な い に も 関 わ ら ず,貸 借 対 照 表 か ら負 債 を取 り 除 く こ とが で き,結 果 的 に 貸 借 対 照 表 を 圧 縮 で き る。
② 負 債 の 認 識 中 止 が 行 わ れ た 期 に,そ の 他 の 負 債 消 去 方 法 と 同様 に,そ の 期 の 損 益 と し て 損 益 計 算 書 に 報 告 で きる 。 こ れ は 税 務 上 も,財 務 報 告 上 も 同 様 で あ る 。 ま た 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス と同 様 に,売 却 相 手 を 選 ぶ 期 間 に お い て は 内 国 歳 入 法(lnternalRevenueCode)108号 に 基 づ き,利 益 の 繰 延 が 認 め ら れ る。 こ の 取 引 に よ る 利 益 は,そ の 他 の 負 債 消 去 方 法 と 同 様 に,負 債 が 売 却 され た 期 の 損 益 と し て そ の 期 の 損 益 計 算 書 に 報 告 さ れ る。 こ れ は 税 務 上 も,財 務 報 告 上 も 同 様 で あ る 。
③ デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンに 際 し,特 定 の 契 約 を な す だ け で よ い 。 従 っ て, 債 権 者 が 多 数 に 渡 っ て も彼 ら と個 別 的 な 契 約 を 結 ぶ 必 要 は な い 。
④ 社 債 格 付 け が 低 い 企 業 は 資 本 市 場 へ の ア ク セ ス が 難 し い の で,こ の 方 法 に よ っ て 安 価 で 資 金 調 達 を な す こ とが 可 能 で あ る 。 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンが 通 貨 ス ワ ッ プ の 一 形 態 と説 明 さ れ る の は,社 債 格 付 け が 低 い 企 業 に 資 金 調 達 の 手 段 を 提 供 す る 点 が 共 通 す る か らで あ る 。 債 務 者 と な る 企 業 に と っ て 資 本 市 場 に 対 して 同 等 の ア ク セ ス が で き な い よ う な 場 合(例 え ば 信 用 度 が 低 い),負 債 を 「買 い 入 れ る 」(つ ま り現 金 と 債 務 を取 得 す る)の は,負 債 を 得 る企 業 に と っ て 安 価 な 資 金 調 達 手 段 を提 供 す る こ と と 同 じで あ る 。 よ っ て 負 債 を 購 入 す る 企 業 は,現 実 に 債 券 の 市 場 価 格 以 上 の プ レ ミ ア ム を 支 払 お う とす る 。
こ れ に対 して,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン に も不 利 な点 は 多 い 。 第1に,実 際 に 債 務 を 引 き受 け る 企 業 を見 つ け る こ と は 容 易 で な く,企 業 が 独 自 に行 う こ と は 難 しい 。 通 常 は債 務 引 受 企 業 の 調 査 な ど は投 資 銀 行 な ど に 依 頼 す る こ とが ほ と ん ど で あ る 。 第2に,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス が 負 債 を 事 実 上 無 リ ス ク債 券 へ と変 換 す る もの で あ る の に 対 して,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は 負 債 を消 去 して も遡 及 権 が 残 る と い う意 味 で の 信 用 リス ク が 高 い と い う 点 も 問 題 で あ る 。McGoldrick
[1984]参 照 。
11)こ のSFAS76号 公 表 に 関 わ る 詳 し い 説 明 は 佐 藤[1991]及 びMillerandRodney
【1991】,GupandNewman[1984],Cason[1984],GrayandSeville【1985】,Puglisi andRobert[1984]参 照 。
企 業 は お そ ら く存 在 しな い 。
そ こで 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス とデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの構 造 的 な違 い を 見 て み る。デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は図1の よ う な ス キ ー ム に よ っ て 行 わ れ る 。 一 方,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョンの 本 来 の 形 態 で あ る 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス は 図2の よ う な ス キ ー ム で もっ て 行 わ れ る。
図1と 図2を 踏 ま え て デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン と実 質 的 デ ィ フ ィ ーザ ンス と の違 い を 検 証 し よ う。 デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン は,E社 とい う 匿 名 の 第 三 者 企 業 に 負 債 を 引 き受 け させ,債 務 履 行 引 受 の対 価 に,あ る程 度 の 現 金 預 金 な い し有 価 証 券 を預 け る。 こ れ に対 し,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス で は,負 債 と資 産 を取 消 不 能 信 託 に 預 託 す る 。 い ず れ の会 計 処 理 に お い て も,資 産 と負 債 を 相 殺 した と き に,差 額 損 益 が 認 識 され る。 つ ま り,負 債 を消 去 す る た め に銀 行 へ 預
① 社 債 発 行
A社 ④ 元金 受 取
社債 発 行 企 業 ⑤ 元利 金 支 払(実 質的 デ ィ フ ィー ザ ンス 契 約 前)
⑦ 実 質 ⑧ 預金
的 デ ィ ⑪ 元 利 金 支払
ブ イー(実 質 的 デ ィ
ザ ンス フ イーザ ンス
契 約 契約)
B銀 行
⑨ 預 託
⑩ 信 託 収益 に よ る元利 金 支 払
C社 社債代理人
⑫利取⑥元金受1
②社債受取
元支・③金払
D社 等 社債保有者
図2実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス の 構 造
日本 公 認 会 計 士 協 会 東 京 会[1992]の253頁,図3‑3を 参 考
変 化す る認 識 中止 の論理 305 け る 資 金 の 流 入 先 が,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンが 匿 名 の 第 三 者 企 業E社 で あ
るの に対 して,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス は 取 消 不 能 信 託 で あ る点 が 相 違 す る 。 た だ,い ず れ もD社 等 に発 行 した社 債 の元 利 払 い を タイ ミ ン グ 良 く行 い,且 つ 金 額 も合 致 し て い る こ と は必 要 条 件 とな る 。
一 見 して解 る よ うに,両 者 の違 い は そ れ ほ ど大 き くは な い 。 そ れ に も関 わ ら ず 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス だ け が 容 認 さ れ た 根 拠 は ど こ にあ っ た か とい え ば, 両 者 の 経 済 的 実 質 に つ い て の 見 解 の 相 違 に あ っ た と い え よ う。FASBは SFAS76号 に お い て次 の よ う に記 す 。
主 た る債 務 の解 除 が され ない 時 に,第 三 者 に よっ て 「デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ン」 が な さ れ た と して も,(こ れ は 実 質 的 に は 債 務 償 還 で は な く 一大 沼 注)当 該 債 務 者 に代 わ っ て 第 三 者 が 原 債 権 者 に対 し支 払 う見 込 額 の債 権(receivable)を 別 に新 た に 第 三 者 に 生 じさ せ て い る に過 ぎ な い の で あ る(par.20)。
FASBは 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス に つ い て は,取 消 不 能 信 託 に預 託 さ れ て い る金 融 資 産 の信 用 リ ス ク は 合 理 的 に僅 少(remote)で あ り,し か も預 託 資 産 を別 の 用 途 に充 て な い よ う拘 束 され て い る とい う点 か らそ の 実 質 を 債 務 の償 還 と考 え て い る こ とが 伺 え る(par.1・4)。 これ に対 し,FASBは デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ンは 債 務 の償 還 とせ ず に 債 権 の発 生 と見 て い る と こ ろ か ら,第 三 者 が 代 わ りに支 払 う代 価 と して の 債 権 をデ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ン は生 み 出 す に過 ぎな い と考 え る 。 つ ま りデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 経 済 的 実 質 は債 務 の 償 還 で は な く負 債 の売 却 処 理 と見 な して い る。 従 っ て 負 債 の 債 務 者 か ら将 来 に 元 利 支 払 を 求 め られ る 可 能 性(信 用 リス ク)は デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョン の ほ うが 高 い と考 え られ た。 信 用 リス ク の 高 低 が,こ う した デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンは 棄 却 して 実 質 的 デ ィ フ ィ ーザ ンス は容 認 す る と い う結 果 を導 い た の で あ る 。
3.2SFAS76号 か らSFAS125号 へ の 展 開
と ころ が,1995年10月 に 公 表 さ れ た 公 開草 案,そ して1996年6月 に 公 表 さ れ たFASB財 務 会 計 基 準 書 第125号 「金 融 資 産 の譲 渡 及 び 元 利 金 の徴 収 並 び に負
債 の 消 去 の 会 計 」"AccountingforTransfersandServicingofFinancial
AssetsandExtinguishmentsofLiability"(以 降SFAS125号)に お い て,「 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス に よ っ て負 債 の 消 去 が な され た とは 考 え な い」 とい う一 文 が 明 記 され た 。
こ の よ うな 展 開 は 何 が 契 機 と な っ た の か 。 明 ら か に,財 務 要 素 ア プ ロ ー チ (financial‑componentsapproach)がSFAS125号 に 導 入 さ れ た か らで あ る。
古 賀[1996]に よ る と,財 務 要 素 ア プ ロ ー チ とは 資 産 負 債 を将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を創 造 す る基 礎 的 な 財 務 要 素 の 集合 体 と考 え,そ れ ぞ れ を当 該 実 体 の 法 的 コ ン トロー ル 下 にあ る か ど うか を判 断 し た上 で,認 識 ・測 定 す る ア プ ロ ー チ の こ とで あ る。 これ に対 し,こ れ までSFAS76号 な どで採 用 され て い た リス ク経 済 価 値 ア プ ロー チ(risk‑rewardapproach)は,資 産 負 債 を 全 体 で 一 つ の 要 素 と考 え,当 該 資 産 負 債 を保 有 す る こ とに よ る便 益 と リス クの 両 方 が 実 体 に 帰 属 す る か ど うか に よっ て 認 識 ・測 定 が 決 定 され て い た 。 この た め,資 産 負 債 を譲 渡 す る 際 に,そ の取 引 が 売 却 か 借 入 取 引 か を判 断 す る場 合,経 営 者 の 恣 意 的 な 決 定 や 取 引 の 順 序 な ど よ っ て 会 計 処 理 が 相 違 す る(SFAS125号par.102他)。
これ らに つ い て の 批 判 は非 常 に 多 か っ た。
FASBは こ う した 曖 昧 な 点 を 出 来 る 限 り排 除 す る 目 的 を も っ て,各 財 務 要 素 につ い て 法 的 な コ ン トロ ー ル が 放 棄 さ れ て い るか ど うか とい う明確 な基 準 に よ り,資 産負 債 の 認 識 及 び認 識 中 止 を決 定 す る。 非 常 に パ ラ ドキ シ カル で あ る が,経 済 的 実 質 を優 先 す る論 理 を押 し進 め て い くと,結 果 的 に法 的形 式 で あ る 契 約 規 定 を重 視 す る とい う結 論 に 至 るの で あ る 。 こ の視 点 に立 つ 限 り,実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス の よ う な法 的義 務 が 残 存 した ま ま で の 認 識 中 止 は基 本 的 に矛 盾 す る は ず で あ る 。 しか しSFAS125号 を 精 読 す る と,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス が 否 定 さ れ た根 拠 が 法 的 債 務 の残 存 に加 え て,他 に もあ っ た と い う こ とが わ か る。SFAS125号 に よ る と,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス に つ い て の批 判 は 次 の よ う に述 べ られ て い る。
「… …特 に 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス とい う取 引 は負 債 の 認 識 中止 及 び利 益 を認 識 す る こ と を正 当 化 す る の に 十 分 な経 済 的 実 質 は兼 ね 備 え て い ない と
変化 す る認識 中止 の論理 307 批 判 す る もの が 多 か っ た 。そ こで,金 利 が 上 昇 した 後 で も実 質 的 デ ィフ ィ ー ザ ンス は 経 済 的 な イ ンパ ク トを持 つ の か 一SFAS76号 の下 で は 会 計 的 な 利 益 は 得 られ る の で あ る が 一 とい う こ と を何 人 か の研 究 者 とア ナ リス トらが 調 査 し た。 結 果 と して,実 質 的 デ ィ フ ィーザ ンス は株 主 に 経 済 的 損 失 を負 わ せ る,と い う結 論 が得 られ た 。 つ ま り,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス に よ っ て 負 債 を 認 識 中 止 し,対 照 的 に 利 益 を 認 識 す る の は 表 現 の 忠 実 性
(representationallyfaithfu1)に 欠 け て い る との 示 唆 を こ れ らの研 究 は得 た の で あ る(par.219)。 」
つ ま り,実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス は 富 移 転(wealthtransfer)に よ る損 失 を株 主 へ 負 わせ る とい う問題 の 他 に,資 産 負 債 の認 識 を 中止 す る ほ どの経 済 的 な実 質 は 兼 ね備 え て い な い とい う主 に2つ の批 判 に よ っ て実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス は 退 け られ た の で あ る12)。SFAS76号 で 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス が 承 認 さ れ た の は,取 消 不 能 信 託 の 信 用 リス ク は合 理 的 に僅 少 で あ り,か つ 債 務 者破 産 とい う事 態 が 生 じて も取 消 不 能 信 託 へ の 影 響 は 生 じな い と見 な した か らで あ る。 そ れ 故 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス は 負 債 の 繰 上 償 還 と実 質 的 に同 一 と判 断 さ れ た。だ がSFAS125号 で は債 務 者 の破 産 が 及 ぼす 影 響 を慎 重 に考 慮 した 結 果, 次 の よ う に判 断 した 。 第1に,取 消 不 能 信 託 の信 用 リス ク は債 務 者 と隔絶 され
て い る とい え な い(par.220,a,b)。 第2に,取 消 不 能 信 託 に負 債 と資 産 を譲
12)SFAS125号,par.220‑222参 照 。だ が,筆 者 は 根 本 的 な 理 由 は 別 に あ る と考 え る。
第1に 前 者 の 批 判 で あ る が,批 判 者 の い う 経 済 的 実 質 と は 何 か を正 確 に 把 握 す る こ と は 出 来 な い が,リ ス ク経 済 価 値 ア プ ロ ー チ の 下 で の 経 済 的 実 質 と は 間 違 い な く,将 来 の 経 済 的 便 益 と そ れ に つ い て の リ ス ク で あ る 。 こ れ に 対 して 財 務 要 素 ア プ ロ ー チ か ら経 済 的 実 質 を 考 え る と,別 の 要 素 と な る で あ ろ う 。 異 な る ア プ ロ ー チ か ら批 判 す る の は,理 論 的 に 妥 当 な もの と は い え な い 。後 者 の 批 判 の 根 拠 と な っ た の は,Hand,et.al【19901,Byington,et.al[1989/1990】,GaumnitzandThomp‑
son[1987]な ど の 研 究 で あ る 。 ま たRoden[1987コ,Weil[1983]ら も 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス に よ っ て 富 移 転(wealthtransfer)が 生 じる と批 判 す る。しか し, 彼 ら は富 移 転 の 可 能 性 を 示 唆 した だ け で あ り,Hand,et.al[1990]は,実 証 的 に そ の 可 能 性 は 低 い と し て い る 。 た だ し,そ の 内 容 と して は 富 移 転 の 可 能 性 を 否 定 は し な い が,「 弱 い が,あ る 程 度 の ク ロ ス セ ク シ ョナ ル な 意 味 で の 富 移 転 は 存 在 す る 」 と 記 述 す る 程 度 で あ る 。Hand,et.al[1990],pp.52‑97.参 照 。 な お こ の 論 文 に つ い て は 拙 稿[1997]第2章 も参 照 。
渡 し た と し て も そ の 法 的 支 配 力 は 依 然 と し て 実 質 的 に 債 務 者 の 下 に 残 る (par.220,c,d,f)。 つ ま り,取 消 不 能 信 託 の 所 有 権 が 実 質 的 に 債 務 者 の 下 に あ り,そ の コ ン トロ ー ル が 事 実 上 債 務 者 の 意 の ま ま で あ る以 上 負 債 の 信 用 リス ク も依 然 と して 債 務 者 に 帰 属 す る 。 よ っ て 実 質 的 デ ィフ ィー ザ ンス に よ っ て負 債 を 認 識 中 止 す る こ と は 論 理 的 に 矛 盾 す る と い うの で あ る 。 こ れ に つ い て AAA[1996]は,債 務 者 が 破 産 した と して も取 消 不 能信 託 へ 資 産 回収 の 権 限 が 及 ぶ 限 り,SFAS125号par.9に お け る認 識 中 止 の た め の 要 件 を満 た して い な い と指 摘 す る。
1997年 に 公 表 さ れ た 国 際 会 計 基 準 デ ィ ス カ ッ シ ョ ン ・ペ ー パ ー 「金 融 資 産 及 び 金 融 負 債 の 会 計 処 理 」 も,SFAS125号 と同 様 の 論 拠 か ら,実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス の 禁 止 を明 言 す る に 至 っ た 。 これ が 国 際 会 計 基 準 と して 公 表 さ れ る と実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス は 禁 止 さ れ,こ の 特 殊 形 態 で あ る デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン(に よ る負 債 の 認 識 中 止)も 同様 に国 際 金 融 市 場 にお い て も禁 止 とい う道 を た どる 可 能 性 が 高 い 。 日本 の 企 業 会 計 と税 務 会 計 も会 計 基 準 の 国 際 的 調 和 化 と い う流 れ に 関 わ らず,今 後 もデ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンを容 認 で き る か は 明 確 で は な い 。 こ の点 を中 心 に以 下 議 論 を進 め て い く。
4.デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン が た ど る道
日本 で 最 初 に デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン を行 っ た 企 業 は,1982年 にBanquet deParisetdesPays‑Basと の 問 で 契 約 を交 わ した 伊 藤 忠 商 事 で あ っ た。 これ 以 降 もデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン を行 う企 業 は相 次 い だ が,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 具 体 的 な会 計 基 準 の 作 成 は そ の 議 論 は な さ れ た が 実 現 に は 至 ら な か っ た。 この た め,SFAS76号 公 表 に 当 た り米 国 で 行 わ れ た よ う な経 済 的 実 質優 先 思 考 とい う観 点 か ら,あ る い は そ の適 切 な デ ィ ス ク ロー ジ ャー は何 で あ る か と い う点 につ い て の 綿 密 な議 論 は先 述 した 「研 究 報 告 」 に と ど ま るの が 現 実 で あ る。 日本 にお い て なぜ 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス で は な くデ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンが行 わ れ た の か と い う問 題 の 具 体 的 な根 拠 は そ れ 程 明 確 で は な く,単 に従 来
変 化す る認 識 中止 の論理 309 の 会 計 実 務 か ら ほ とん ど逸 脱 して い な か っ た に 過 ぎな い13)。 日本 で は 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス の よ う に信 託 を利 用 す る金 融 ス キ ー ム につ い て信 託 制 度 及 び そ れ に対 して の 税 法 上 の 扱 い は 明 確 で は な い 。 こ れ に対 しあ る程 度 先 物 為 替 予 約 取 引 に類 似 して い た こ と もあ っ て デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョンが 利 用 され た 。 ま た 特 に米 国 と わが 国 の 会 計 制 度 上 の 相 違 も この 点 に 関 わ って くる。伊 藤[1996]
に よ る と 日本 の 会 計 制 度 は トライ ア ング ル体 制 と呼 ば れ,外 部 公 表 会 計 制 度 は 証 券 取 引 法,商 法,税 法 の3つ の 法 規 制 の密 接 な連 携 に よ っ て形 成 され る。 こ の た め 会 計 上 の 処 理 は い ず れ の 法 規 制 に則 して も一 貫 して い る こ とが 原 則 と さ れ る。一 方 米 国 で は財 務 報 告 書(financialreport)と 税 務 申告 書(taxreturn) の 内 容 は必 ず し も一 致 す る必 要 は な い た め,会 計 処 理 も一 貫 して い る必 要 は な い 。 従 っ て 米 国 で は 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス につ い て税 法 上 は債 務 の 償 還 が あ っ た とい う よ うな 会 計 処 理 は行 わ な い14)。 これ に対 して 日本 で は 証 券 取 引 法 (特 に企 業 会 計 原 則)の 見 地 か ら は問 題 と し な く と も,実 質 的 デ ィ フ ィ ーザ ン ス は信 託 を 利 用 す る取 引 で あ る こ とか ら,納 税 申告 の 際 に厳 し く審 査 され 結 果 と して否 認 され る恐 れ が あ っ た た め に通 常 の 外 貨 換 算 実 務 と共 通 す るデ ッ ト ・ アサ ンプ シ ョ ンが 利 用 さ れ た の で あ る。
し か しデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョン に よ る負 債 の認 識 中 止 につ い て も特 に公 正 妥
13)実 際 に 伊 藤 忠 商 事 の 会 計 担 当 者 に 話 を伺 っ た と こ ろ,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン契 約 を締 結 し た 理 由 は,従 来 の 会 計 実 務 とそ れ 程 乖 離 して い ず,あ く ま で 会 社 の 方 針 に 従 っ て 実 務 的 に対 応 した に 過 ぎ な い と の 言 質 を得 た 。 ま た ス キ ー ム 取 引 自体 に つ い て の 法 制 度 上 の 整 備 が1980年 代 前 半 は ま だ な さ れ て お らず,無 難 な 取 引 を 選 ん だ と い う と こ ろ が 実 態 で あ っ た 。
14)Peterson,et.al[1985]に よ る と,内 国 歳 入 庁(lnternalRevenueService)は,
財 務 諸 表 上 実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ン ス に よ っ て 認 識 中 止 さ れ た 負 債 を,税 務 申 告 書 上 も消 去 さ れ た も の と し て 処 理 し な い よ う 指 示 し た 。pp、60‑62及 びIRC§357参 照 。結 果 と して 償 還 差 損 益 は 課 税 所 得(taxablegain)に 導 入 し な い こ と に な っ た 。 と い う の も 内 国 歳 入 庁 の 見 解 で は 取 消 不 能 信 託 の 創 設 は,IRS基 本 通 達
(regulations)301.7701‑4(d)の 清 算 信 託 と み な さ れ る た め,当 該 信 託 か らの あ ら ゆ る 利 益 は 負 債 の 償 還 期 ま で 繰 り延 べ ら れ る か ら で あ る 。 よ っ て 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ン ス を行 う企 業 は,利 益 か 損 失 を計 上 して も,そ れ に 対 応 す る 税 金 の 効 果(税 効 果)は,一 時 的 差 異(timingdifference)と して 繰 り延 べ ら れ る 。他 に, Davis,et.al[1991】p.65も 参 照 。
当 な会 計 処 理 で あ る と認 め られ た わ けで は な い 。 あ くま で 「研 究 報 告 」 に よ っ て 通 貨 ス ワ ッ プ に準 じた 処 理 が妥 当 と判 断 され た に過 ぎな い 。 従 っ て 通 貨 ス ワ ッ プ に よる 負 債 の認 識 中 止 が 容 認 され な くな れ ば,デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンに よ る負 債 の 認 識 中止 も再 考 を迫 られ る可 能 性 が あ る。 そ して 現 在,こ の 可 能 性 を示 唆 す る状 況 に な りつ つ あ る 。
新 外 貨 建 会 計 処 理 基 準 が1995年 に 公 表 さ れ,そ の 中 で通 貨 ス ワ ップ は 為 替 予 約 に準 じ て扱 う よ う規 定 が 改 正 され た。 「研 究 報 告 」 に よ れ ば 通 貨 ス ワ ッ プ に よっ て 原 債 務 とス ワ ップ 債 務 は交 換 した もの と して 処 理 し,原 債 務 を認 識 中止 す る こ とが で き た。 これ に対 し,新 外 貨 建 基 準 は 為 替 予 約 に 準 じて 原債 務 は ス ワ ッ プ契 約 後 も認 識 し続 け,新 た に ス ワ ップ債 務 を別 に認 識 す る とい う処 理 方 法 に 変 わ っ た(新 外 貨 建 基 準,一 一2‑(1),注 解7)。
新 外 貨 建 基 準 の 公 表 に合 わ せ て,国 税 庁 も外 貨 建 債 権 債 務 の換 算 につ い て の 基 本 通 達 を改 正 し,そ の 中 で 通 貨 ス ワ ッ プ契 約 が 締 結 さ れ て い る場 合 の税 務 上 の 取 扱 を 明 確 に し た 。 こ れ に よ る と,通 貨 ス ワ ップ は 法 人 税 法 基 本 通 達13の 2‑1‑5に よ り,法 人税 法 施 行 令 第139条 の8第1項 で 規 定 さ れ る先 物 外 国為 替 契 約(い わ ゆ る為 替 予 約)に 該 当 す る と した 。 つ ま り,国 税 庁 も新 外 貨 建 基 準 と
同様 に通 貨 ス ワ ッ プ を為 替 予 約 と同 一 と認 識 す る と明 言 した の で あ る。
以 上 の 規 定 と 日本 公 認 会 計 士 協 会 が1996年 に公 表 した 「外 貨 建 取 引 等 の 会 計 処 理 に関 す る実 務 指 針(中 間 報 告)」(以 降 実 務 指 針)を 手 が か りに,デ ッ ト ・
ア サ ン プ シ ョ ンの 将 来 に つ い て 予 想 して み る。 あ く まで 通 貨 ス ワ ップ に準 じ る もの と して解 釈 す る と,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン につ い て も通 貨 ス ワ ップ と 同 様 に,こ れ ま で は 認 識 中止 して い た 原債 務 も償 還 期 間 が 経 過 す る まで 貸 借 対 照 表 上 に継 続 して 認 識 し続 け る と い う 処 理 が 必 要 と な る こ と が 強 く予 想 さ れ る15)。 具 体 的 な シ ナ リ オ と して は次 の2つ が 考 え ら れ る 。 第1に,デ ッ ト ・ ア サ ンプ シ ョ ンに よ る負 債 の 認 識 中 止 自体 が 禁 止 さ れ る とい う シ ナ リ オ で あ
15)デ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ン に よ る負 債 の 認 識 中 止 見 直 しの 意 見 は 実 務 家 サ イ ドか ら も提 起 され て い る 。 例 え ば 小 林[1997]参 照 。
変 化す る認 識 中止 の論理 3ヱ1
る。 デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ンが 行 わ れ て も,財 務 諸 表 本 体 に で は な く脚 注 で の 報 告 に と ど ま る とい う も の で あ る。 会 計 処 理 の 面 か らい え ば,デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン契 約 前 後 で 財 務 諸 表 上 の 数 値 に 変 化 は 生 じ な い。SFAS125号 と 国 際 会 計 基 準 の 行 方 を見 据 え る とこ の 可 能 性 も考 え られ る が,歴 史 的経 緯 や 基 準 の 持 つ 性 格 上,こ の シナ リ オ は や や 実 現 困 難 と予 想 さ れ る 。 第2の シ ナ リ オ と し て は,こ ち らの ほ うが よ り現 実 的 と思 わ れ るが,デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョン の特 徴 を生 か しつ つ 通 貨 ス ワ ッ プ に準 じて 償 還 差 損 益 と為 替 差 益 を原 債 務 満 期 時 ま で 期 間配 分 す る とい う もの で あ る 。 あ く まで 筆 者 な りの 試 案 で は あ る が,第2 節 で 示 した 会 計 処 理 に つ い て条 件 を ほ ぼ全 て 等 し く した と し て も,会 計 処 理 上 は 長 期 為 替 予 約 取 引 の 一種 と して 変 更 す る。そ の結 果,負 債 の 認 識 申止 と為 替 ・ 償 還 差 損 益 の 一 括 計 上 とい う財 務 効 果 は ほ ぼ 無 くな る もの で あ る。 な お,デ ッ
ト ・アサ ンプ シ ョ ン契 約 時 の直 物 為 替 相 場(平 成x6年8月31日)=115円/1
ドル 。償 還 時(平 成x9年8月31日)の ス ワ ッ プ レー トは110円/1ド ル とす る 。 な お 利 息 相 当 額 は為 替 予 約 と して 処 理 す る16)。
x6/8/31(借 方)社 債10,000(貸 方)長 期 前 受 収 益10,000*
長 期 前 払 利 息5,991**現 金 預 金5,991
*…(¥115/$ 一¥110/$)×2000千U .S.ド ル
16)こ れ 以 外 に 利 息 法 を 用 い た 計 算 法 も考 え られ る 。 利 息 法 に よ る と 支 払 利 息 は 常 に 元 本 の5%と な る よ う 計 算 さ れ る た め,貸 借 対 照 表 上 の 社 債 額 は224,641千 円 と な る。 仕 訳 も 以 下 の よ う に な り,差 額 分 が 未 払 金 とな る な ど本 文 中 の 仕 訳 と多 少 違 っ て くる(単 位;千 円)。 ま た デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンの 利 点 で あ る社 債 を繰 上 償 還 を した の と 同 じ効 果 は 利 息 法 の 下 で は 得 ら れ な くな り,結 果 と し て ほ と ん
ど 通 貨 ス ワ ッ プ と 同 じ取 引 に な る 。 x6/9/1(借 方)社 債5,359
x7/8/31(借 方)支 払 利 息11,500 D/A未 払 金1,700 x8/8/31(借 方)支 払 利 息11,415 D/A未 払 金1,785 x9/8/31(借 方)支 払 利 息11,325 D/A未 払 金1,874
社 債224,641
(貸 方)デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン(D/A) 未 払 金5,359
(貸方)現 金 預 金13,200
(貸方)現 金 預 金13,200
(貸方)現 金 預 金13,200
現 金 預 金224,641
**… 平 成6年 以 降 の 社 債 元 利 総 額 の 現 在 割 引 価 値225 ,991千 円(第2節 に お け る預 託 金 額 と 同額)一 長 期 為 替 予 約 元 本220,000千 円
以 降 為 替 予 約 差 額 は 長 期 前 受 収 益 と して,及 び 償 還 差 損 は 長 期 前 払 利 息 と し て い ず れ も支 払 利 息 の 調 整 項 目 と して 毎 期 均 等 額 で 期 間 配 分 処 理 す る 。 新 外 貨 建 基 準 及 び 法 人 税 基 本 通 達13の2‑1‑11か ら,通 貨 ス ワ ップ 契 約 に よっ て 確 定 し て い る社 債 の 円 換 算 額 は,会 計 上 も税 務 上 も授 受 す べ き元 本 額 とす る 。 こ の こ とか ら,直 先 差 額(ス ワ ッ プ レー トと直 物 レー トとの 差 額,つ ま り為 替 予 約 差 額) を社 債 元 本 金 額 か ら長 期 前 受 収 益 と し て減 額 す る こ とに な る。 デ ッ ト ・アサ ン プ シ ョ ンに つ い て も通 貨 ス ワ ップ と同 様 に処 理 す る と推 測 され る。 これ に よ り デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ン を行 っ た と して も社 債 の 繰 上 償 還 と 同 じ効 果 を得 る こ とは 実 質 的 に 困 難 に な る が,為 替 リス ク と金 利 リス ク の ヘ ッ ジ効 果 だ け は得 ら れ る こ とに な る。
5.変 遷 の 基 底 に あ る経 済 的実 質 の ゆ らぎ
本 稿 で は 日本 と米 国 に お け る実 質 的 デ ィ フ ィー ザ ンス とデ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ンの 会 計 及 び 税 務 上 の 扱 い,そ の根 底 に あ る 負 債 認 識 中 止 の 理 論 的 変 遷 を見 て きた 。 以 上 か ら米 国 に お け る負 債 認 識 中止 の 論 理 と 日本 にお け る 負 債 認 識 中 止 の 論 理 は似 て 非 な る構 造 を有 して い た こ とが 判 明 した 。
米 国 で は デ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンで は な く実 質 的 デ ィ フ ィ ーザ ンス が 容 認 さ れ た の は,信 用 リス ク が 重 要 な カ ギ と な っ て い た 。 そ し てSFAS125号 に お い て 実 質 的 デ ィ フ ィ ー ザ ンス が 否 定 され た の も,や は り信 用 リス ク の 存 在 が 認 否 の ポ イ ン トと な っ て い た 。 こ れ に 対 し 日本 で は 通 貨 ス ワ ッ プ の会 計 処 理 を 明 ら か にす る過 程 で,通 貨 ス ワ ップ と類 似 す る取 引 とい う観 点 か らデ ッ ト ・ア サ ン プ シ ョ ンに つ い て の 会 計 処 理 を 定 義 づ け た 。 これ に よ りデ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ン に よ る負 債 の 認 識 中 止 が 容 認 され た訳 だ が,そ の決 定 は 米 国 の よ う に,当 該 取 引 か らの 信 用 リス ク が 原 債 務 者 に帰 属 す る か 否 か とい う点 に則 して 判 断 され た わ け で は な い 。 負 債 の 認 識 中 止 を まず 前 提 と して お き,そ の上 で い か に理 論
変化 す る認 識 中止の論 理 313 的 に妥 当 な もの と して 説 明 す る か とい う点 か ら論 じ られ た に過 ぎ な か っ た 。
こ う した 判 断 の 際,常 に奥 底 に 潜 む の は法 人 税 法11条 「実 質 所 得 者 課 税 の 原 則 」 に あ る 経 済 的 実 質 を優 先 す る とい う姿 勢 で あ っ た。 税 務 調 整 な い し税 務 署 の対 応 を ま ず 念 頭 に お き,差 し支 えが な い段 階 で 新 た な処 理 が 容 認 さ れ る とい う経 緯 を踏 ま え る と,税 法 が デ ッ ト ・アサ ンプ シ ョ ンに よ る負 債 認 識 中 止 に 関 して極 め て重 要 な役 割 を 果 た して い た よ う で あ る。
この よ う に 日米 の 負 債 認 識 申止 の 変 遷 が 対 照 的 な構 図 を描 い て い た に も関 わ らず,近 年 で は 両 国 と も認 識 中止 を 認 め な い 方 向 へ と シ フ トしつ つ あ る の は印 象 的 で あ る。 しか し 日米 両 国 の こ の よ う な動 向 は決 して偶 然 に よ る と ころ で は な い 。 背 後 に は 金 融 機 関 の信 用 の揺 ら ぎ を含 む 企 業 を取 り巻 く様 々 な不 確 実 性 の増 大 が あ る 。 そ れ 故 負 債 及 び そ の 背 後 に あ る 企 業 リス ク に 対 して の社 会 の 目
も厳 格 に な っ て きて い る 。 こ う した社 会 的 な動 向 を下 に法 的 債 務 が 残 存 した ま ま で の 負 債 の 認 識 中 止 は容 認 で きな い とす る思 考 が 生 ま れ て い るの で あ る 。 つ ま りデ ッ ト ・ア サ ンプ シ ョ ン な い し実 質 的 デ ィ フ ィ ーザ ンス に関 して は 経 済 的 実 質 を 優 先 す る か ら こ そ 負 債 が 認 識 中 止 さ れ て い た と い わ れ る が(田 中 [1994]),今 日で は経 済 的 実 質 そ の もの が 揺 らい で い る とい う現 実 が 示 唆 され る の で あ る。
こ れ か ら も新 た な金 融 取 引 ・金 融 商 品 が 生 ま れ て くる こ とは 容 易 に想 像 で き るが,そ の 取 引 の根 底 に あ る経 済 的実 質 と は何 か とい う点 に つ い て の 注 意 深 い 観 察 と検 証 が 今 後 よ り一 層 求 め られ て い くこ とが 予 想 さ れ る 。