日本型経営の形成過程 における 社会経済的背景 とその特徴
田 中 良 三
Ⅰ はじめに
市場経済では,企業 は,図 1のような社会経済的な環境のなかで経営活動を している。 したが って,企業 は,消費者の要求を満足す る製品を生産 し,消費 者がその製品を購入す ることによっては じめて,その企業の存続 と発展がなさ れ るのである。そ こで,製品市場 における消費者 と企業の行動 は,つ ぎのよ う に示す ことがで きるであろ う。
図
1
企業の経営環境〔 6 3〕
消費者購買行動の満足度 ‑販売価格 +品質 +サービス
+Ⅹ
企業行動の法的規制内での利益最大化 売上高 一利益 ‑許容費用
さて,製品市場 についての筆者の考え方 は,(1)経営活動の自由,つまり企業 設立の 自由,販売価格や販売数量の自由な決定
,( 2 )
製品市場 には複数の企業が 存在 し,価格競争 に伴 うコス ト競争や生産性向上,品質 ・サー ビス競争,(3)企 業経営の経済合理性を促進す るために,法的規制内での利益の最大化 (日本 は 中長期的利益の最大化,アメ リカは短期的利益の最大化),そ して( 4 )
製品市場 競争で敗北 した企業 は倒産す るものである, と仮定 しよう。現在の 日本では需 要が供給を下回っているので,企業行動 は価格,品質 ・サー ビスの競争 と中長 期的利益の最大化である。それに対 して,戦後の 日本や現在のソ連では需要が 供給を上回 っている状態,つまり品物不足の状態では,企業行動は短期的利益 の最大化のために製品価格を不当に引き上げ,イ ンフレーションを引き起 こし やすいとい う大 きな欠点を もっている。現在, 日本経済 は世界で も類をみないほど健全な発展をみせているが, しか し, 「ローマ‑は一 日に してな らず」という故事の如 く,戦後,長い苦難の年 月を歩んで きたのである。さて, 日本の企業 は,国内市場 と国際市場で激 しい 競争 を して きたが,国際市場 における競争力指標の一つ として国際収支があ る。戦後, 日本の工業生産水準が戦前
( 1 935
年)の水準 に回復 したのは,1 95 4
年で戦後1 0
年間の年月を要 し,また対米貿易収支が黒字になったのは戦後20年 を経過 した1 9 65
年,そ して貿易収支が安定 して黒字 にな ったのは1 9 81
年で実 に3 6
年の年月を要 したのである。表1
はOECD
諸国の‑人当た りのGDP
を 示 した ものであ る。 これによれば,1 9 6 4
年 (東京オ リンピックの年)には, 日本 はアメ リカの23 %
,西 ドイツの41 %
,そ してソ連の58 %
にす ぎなかったが1 98 9
年 にはアメ リカの1 1 3%
,西 ドイツの1 21%
と両国を大 き く上回 るまでに 成長 したのである。 日本のGDP
が このように著 しく増加 した理由としては, 為替 レー トの上昇だけでな くつ ぎの要因 も大 きく貢献 していると考え られ る。(1) 政治の安定,平和主義
日本型経営の形成過程 にお ける社会経済 的背景 とその特徴
6 5
( 2 )
政府 の産業政策 (3) 賃金交渉期間の統一(4) 製品市場 (国内市場 と国際市場)における激 しい価格競争 と品質 ・サー ビス競争
( 5 )
勤勉 な労働者 と長時間労働 (6) 日本型経営表
1 0ECD
諸 国の‑人 当た りのGDP
(単 位 ドル)
1964 1980 1985 1988 1989
日 本7 25 9 ,1 40
ll , 28 2 23, 67 4 23, 29 6
ア メ リ カ3, 2 21
ll , 7 9 4 1 6 ,5 5 9 1 9 , 5 2 3 20 , 6 29
西 ド イ ツ1 ,7 7 4 1 3, 21 3 1 01 ,1 8 9 1 9, 56 0 1 9 ,1 83
ソ 連
1 , 2 35 ‑ ‑ ‑ ‑
(出所)
Nat i onalAc c ount s ( OECD 1 9 91
年版)1 9
64年 はPi c kscur re nc yye arBook1 9 6 4‑5
このような要因 は,戦後の復興過程で生成 し,その後 の政治経済の厳 しい変 動 によって強め られてい ったのである。変動 の具体例 を示す と次のよ うな もの がある。
(
1
)1 945
年8
月 戦後 の社会経済改革( 2 ) 1 949
年3
月 イ ンフ レー シ ョン克服 のための超均衡予算 (ドッジ ・ライ ン)同年
4 月
複数為替 レー トか ら単一為替 レー トへの移行 による輸 出振興
( 3) 1 960
年6 月
貿易 ・為替 自由化計画大綱の決定 による自由化の促進( 4) 1 973
年2
月 ス ミソニア ン体制崩壊 による固定相場制か ら変動相場制への移行
( 5) 1 973
年1 0
月 第1
次オイル ・シ ョック, 1 97 8
年12
月第2
次オイル ・シ ョッ クによる石油価格の高騰(6)
1 985
年8
月 プラザ合意 による円高不況Ⅱ 戦後の経済復興 と発展
戦後 は,需要が供給を上回る品物不足の状態,つ まり表
2
のような‑イパー・イ ンフレーション,配給制 (米,パ ン,い も,砂糖や衣料品) と労働者の激 しいス トライキでは じまったのである。小売物価 (東京)でみれば,
1 95 0
年表
2
戦前 ・戦後の物価 の動 き( 1 9 3 4‑ 36
‑1)年 卸 売 物 価 小売物価 (東京)
指 数 上 昇率 (%) 指 数 上 昇率 (%)
1935 0 . 99 4
‑0 .9 90
‑1936 1 . 03 6 4. 2 1 .0 40 5 .1 1937 1 . 258 21 . 4 1 .1 38 9 .4 1938 1 . 3 27 5 . 5 1 .3 0 3 1 4 .5 1939 1 . 466 1 0 .5 1 .4 6 0 1 2 .0 ‑ 1940 1 . 641
ll .9 1 .6 9 6 1 6 .2 1941 1 .7 58 7 .1 1 . ‑ 7 1 6 1 .2 1942 1 . 91 2 8 .8 1 .7 6 6 2.9 1943 2 .0 46 7 .0 1 .8 7 4 6 .1 1944 2. 31 9 1 3 .3 2.0 9 8 1 2 .0 1945 3 . 50 3 51 .1 3 .0 8 4 4 7 .0 1946 1 6 . 27 0 3 6 4 .5 1 8 .9 30 51 3 .8 1947 48 .1 50 1 95 .9 5 0 .9 9 0 1 6 9 .4 1948 1 27 .9 00 1 65 .6 1 4 9 .6 00 1 9 3 .4 1949 20 8 . 800 63 . 3 24 3 .4 00 6 2 .7 1950 2 46 .8 00 1 8 . 2 2 39 .1 00
‑1 .8
(出所):日本銀行統計局 『卸売物価指数』昭和39年4
月,P. 2 2
,『東京小売物価指数』昭和43年
1 0
月,P.60には戦前
( 1 9 3 5‑ 6)
の239
倍,また戦後( 1 9 45
年)の77
倍 と著 しい物価上昇を 示 している。 このような経済混乱を収拾す るために,政府 とGH Q ( General Headquart ers)
は,つ ぎのような大 きな改革 と政策を とったのである。(1) 戦後の社会経済改革 と経済政策
社会政策‑‑農地改革
( 1 9 4 5 .1 2 ,1 9 46 .1 2 )
による自作農の増加で食糧 の増産労働組合法
( 1 9 45 .1 2 )
による労働組合の結成で労働条件 の改善経済改革 ‑・・・財閥解体
( 1 9 45 .1 0 )
日本型経営 の形成過程 における社会経済的背景 とその特徴
67
過度経済力集 中排除法( 1 9 4 7 . 1 2 )
による企業分割で競争 の促進戦争 に協力 した経営者 の追放
( 3 , 6 0 0
人)で新 しい経営者 の登場復興金融 と間接金融
ネ ップ (新経済政策)による傾斜生産方式
( 1 9 4 6 . 1 0 )
‑‑石炭,鉄鋼, 造船および食糧財閥の解体 と企業分割 は,中小企業 を含 め振興企業の出現 と市場経済 メカニ ズムの導入 を可能 に して いる。 また経営者 の追放 によ る新 しい経営者 の登場 は,新 しい企業家精神,新 しい経営理念及 び新 しい労使関係,つ ま り労使協調 や企業 内民主主義の形成 を促進 したのである。 この点 につ いて,正村教授 はつ ぎのよ うに述べている。すなわ ら,労働者 の経営への積極 的な参加を推進 しよ うとす る産業民主主義の提案が,戦後初期 に経営者側か ら提起 されていた とい う事実 も重要で あろ う
。1 9 4 6
年4
月3 0
日発足 した経済 同友会 は,経済民主化 と平和国家建設を 目標 として中堅 ・若干 の経営者 を結集 した組織であ ったが, 古 い財界人の保守的資本主義体制温存諭 を批判 し,経営協議会 による労使協力 の必要性 を提 唱 した。つ ま り, 1 9 4 7
年8
月,経済 同友会 の経済民主化研 究会 は,「企業経営の民主化」 と題す るつ ぎのよ うな試案を発表 したのである0 1) (1) 経営 と所有を完全 に分離 し株主が経営者 にな ることを禁止す る。
( 2 )
株主総会 に代 わ って経営協議会 を企業の最高決定機関 とす る。(3)経営協議会 には経営者 と労働者が対等 の票決権を もって参加す る。
( 4 )
両者 の対立 によって決定不能 に陥 るのを回避す るため株主代表 を経営協 議会 に加え る。 しか し,株主総会 はもっぱ ら監査権を行使す る機関に変 化す る。経営者の選任 は経営協議会が行 うもの とす る。このよ うな大胆 な企業民主化案 は,実施 され ることがなか ったけれ ど も,経 営者 は,
1 9 5 0
年代 の ドッジ ・ライ ンや複数為替 レー トか ら単一為替 レー トへ1)
正村公宏著 『戦後史』(上)筑摩書房,1 9 8 5
年2
月,pp. 2 2 5 ‑ 6
0の移行 に伴 う産業合理化のなかで発生 した多 くの深刻な労使紛争の経験を通 じ て,多 くの経営者は労使協調 と企業内民主主義の必要性を認識 していったので ある。
1.複数為替 レー トか ら単一為替 レー ト‑の移行
( 1 9 49
年4
月25
日1
ドル‑3 6 0
円実施)1 9 48
年 になると生産 も上昇 しイ ンフレーションの進展 もようや く鈍 りは じめ ると,イ ンフレーションの収束 ‑経済安定 に対す るGHQ
の態度 は明確になっ てきた。 日本側 にも政府,学者の間で もイ ンフレーションの漸次的な 「中間安 定論」 と 「一挙安定論」にわかれていたが,GHQ
は対 日援助の負担軽減 と貿 易の正常化の見地か ら一挙安定論の立場を とり,つ ぎのような方針をとったの である。つま り,当時,イ ンフレーションの要因 と考え られていた 「物価 と賃 金の悪循環」を断ち切 るために,賃金安定策をさらに具体化 した 「企業合理化 原則」を1 9 48
年1 2
月1
1日に発表 した。 これによれば,(1)賃金引上げのために企 業 は製品価格を引上げてはな らない,(2)賃金引上げのための赤字融資を行 って はな らない,(3)賃金引上げのために政府 は補助金を出 してはいけない, という 賃金引上げ禁止 に等 しいものである。2)しか し, この賃金政策は,当時の コス ト・イ ンフレ‑シ ョンを抑制 しただけでな く,その後の賃金引上げ交渉で賃金 引上げ額は労働生産性の範囲内で とい う慣行を作 り出 したもの と考え られる。また
1 94 8
年1 0
月,アメ リカの国家安全保障会議 は,新 しい対 日政策を決定 し, また経済面での要求 は 「経済安定九原則」にまとめ,1 1
月1 8
日にGHQ
か ら日 本政府 に伝え られた。そ して経済安定九原則 は,つ ぎのよ うな ものである。3)(1) 総合予算の真の均衡をはかること。
( 2 )
税政計画を促進強化 し,脱税を厳重に取締 ること。(3) 融資対象を真に経済復興 に貢献す る事業 に限定す ること。
2)
有沢広 巳監修 『日本産業百年史』(下)昭和4 2
年4
月,pp. 2 2
03)
正村公宏著,前掲書pp. 2 3 9
0日本型経営の形成過程 における社会経済的背景 とその特徴
6 9
( 4 )
賃金安定の効果的計画を実現す ること。( 5 )
価格統制計画を強化 し,できればその範囲を拡張す ること。( 6 )
外国貿易管理,外国為替管理を改善強化 し, 日本側‑のその委譲を可能 な らしめること。(7) 輸 出貿易振興を目標に,資材の割当 ・配給制度を改善す ること。
(8) 重要国産原料 と工業製品の生産増大をはかること。
( 9 )
食糧供 出計画の能率を向上す ること。さらに,
GHQ
は, このような計画を実施す るには単一為替 レー トの設定が 必要であ ることも強調 している。表3
は単一為替 レー ト設定前( 1 9 49
年, 1 月末)の商品別為替 レー トである。 これによれば,為替 レー トは,輸出品に対しては円安 に,また輸入品に対 しては円高に設定 されている。つまり,輸出品 は ドル建て価格ができるだけ安 く,また輸入品は円建て価格ができるだけ安 く なるように設定 されていたのである。 しか し,アメ リカ政府 は,対 日援助の負 担を軽減す るために日本経済の安定化 と貿易の正常化を強 く要求 している。ま た日本政府 も自助努力で輸出の促進,それに伴 う輸入の拡大によるイ ンフレー ションの収束のためには,単一為替 レー トの採用 と外国資本の導入が必要であ
表
3
単一為替 レー ト設定前( 1 9 49
年1
月末)の商品別為替 レー トの例為替 ‑ ト (去ご呂) 生糸 .絹織物
4 2 0
円輸 鋼船
5 0 0
出 書誌 吉宗
5 5 5 7 0 0
品 板ガラえ .陶磁器
6 0 0
皮革類
5 8 0
綿花 (輸 出品用)
2 5 0
円 羊毛1 2 0 ‑1 4 0
輸 鉄鋼石
1 2 5
入 票髪結単
1 1 6 7 8 5
品 砂糖
1 7 7
生 ゴム
1 5 4
(出所):経済企画庁編 『現代 日本経済の展 開』大蔵省印 刷局
,1 9 7 6
年, P. 5 7
0ることを認めていた。 日本政府は単一為替 レー トの水準を検討 していたが,結 局,
GHQ
の支持 に したが い1949
年4
月25
日か ら1ドル ‑360
円の単一為替 レ‑ 卜を実施す ることになったのである。 この為替 レー トは,表3
か らも明 ら かなように,日本の産業 にとって も厳 しい ものであった。輸出品は1ドル ‑500
円か ら600
円の範囲の ものが多 く,また輸入品は1ドル‑1 00
円か ら200
円の範 囲の ものが多 い。 したが って,1ドル ‑360
円 とい う単一為替 レー トは,多 く の輸 出品にとって大幅な円切 り上げを意味 し,円建て価格の引下げまたは ドル 建て価格の引上 げが必要であった。それに対 して,多 くの輸 出品にとっては大 幅な円切 り下 げにな り,円建て価格の引上 げ となる。4)この ことは, 日本の ような加工貿易,つまり原材料を輸入 して加工品を輸出す る産業にとっては,「原料高の製品安」 とい うきわめて厳 しい事態である。政府 は, このような試 練を乗 り越え国際競争力を確保するために,つ ぎのよ うな産業合理化政策 と外 国資本 ・技術の導入を行い,また産業界 も設備の近代化やアメ リカの新 しい技 術,経営管理や品質管理
(Q C)
の方式を積極的に導入 していったのである。1948
年4 月
証券取 引法1 949
年5 月
通産省の設置による輸 出産業の振興や産業合理化政策,輸 出 重点品 目は繊維, ミシン,カメラ, トランジスタ ・ラジオ,船舶1 949
年9 月
「産業合理化 に関す る件」の閣議決定1 955
年2 月
日本生産性本部の設置 によるアメ リカの新 しい経営管理 と品 質管理(Q C)
方式の導入そ してつ ぎには, 日本政府の 自立にとって必要な輸出産業の育成 と産業合理 化政策 に対 して政府 はどのような方策を とったのかを検討 してみよ う。
2.
産業合理化政策戦後の産業政策 は,均衡予算の確立,単一為替 レー トの設定や健全金融方針 の推進などに伴い,国内経済中心か ら輸出促進による経済 自立を目標 とす る国
4)
前掲書pp. 2 4 2‑3
0日本型経営の形成過程における社会経済的背景とその特徴 〃 際経済中心 に変えていかなければな らなかった。 このような認識の もとに,従 来の商工省 と貿易庁を総合 して発足 したのが,
1 9 49
年5
月の通産省である。通産省の産業政策 は,
1 949
年9
月13
日の 「産業合理化 に関す る件」 (閣議決 定)で,つぎにように述べている。 5)(1) 合理化の前提条件 として将来の産業構造 よりみたる各産業方針の確立杏 図 ること。
( 2 )
合理化 は,原則 として国際価格‑速やかに近づけることを 目標 とす るこ と。(3)企業部門間の合理化については,原則 として創意工夫によ り,合理化を 推進す る環境の育成な らびに合理化を阻害す る障害の除去を図 ること。
(4) 能率の向上,優秀技術の採用については,積極的にその推進を図 ること。
このよ うに,当時の産業合理化の中心課題 は,何よ りもまず個別企業の合理 化,特 に国際的に著 しく立遅れている機械設備の合理化 と生産技術水準の向上 をはかることである。 この政策を推進す るための種 々の方法が とられ るが,主 な ものを示す とつ ぎの
4
つである。 まず第1
は,財政投融資による合理化資金 を確保す るために,1951
年5
月 に 日本開発銀行が発足 している。第2
は,企 業の設備近代化を促進す るため,1 951
年の2
つの税制上の特別措置である。つまり,特定の機械設備等 についての
3
年間5
割増の特別償却 と重要機械類の 輸入関税免除の制度である。第3
は,工業化試験補助金や鉱業技術研究補助金 が1 950
年 に創設 された ことである。 この補助金 は,国内における生産技術の 研究 と工業化を促進す るために設 け られた もので,特 に注 目すべ きことは, ドッジ ・ライ ンの推進に伴 って各種の補助金 ・補給金が整理 されているときに 設 け られたことである。なお, この補助金 は,その後,鉱工業技術研究補助金 に総括 され,応用研究工業化試験の助成を行 う形で今 日に至 っている。そ して 第4
は,1950
年5
月の 「外資 に関す る法律」である。 この法律 は,国際的に 著 しく立遅れた企業を近代化す るには先進国のす ぐれた技術や資本を導入す る5)
通産省編 『産業合理化 白書』 日刊工業新聞社,昭和3 2
年1 2
月,pp.
110ことが必要であ り,かかる要請 に応えて外資導入の基盤を整備す るのに制定 さ れた ものである。
企業合理化 においては,設備や技術 とともに,生産管理,販売管理,財務管 理や労務管理などの経営管理 も重要である
。1 9 47
年11月の中小企業対策要綱 (閣議決定) に もとづ き,19 48
年か ら中小企業 に対す る診断 ・指導 の制度が 実施 されている。また製品の標準化の推進 と品質管理,熱管理や計量管理など の科学的管理方式の指導普及のために,工業技術院を中心 として実施 した工業 標準化法( 1 9 49
年7
月1
日実施),熱管理法( 1 951
年1 0
月10
日実施),計量法( 1 9 5 2
年3
月1
日試行)があ る。 さらに,企業合理化 についての法律 は,良 い間,各方面か ら要請 されていたが,1 9 5 2
年3
月の企業合理化促進法では, つ ぎの ことが述べ られている。 6)(1) 技術の向上を促進す るため,一定の試験研究を行 う者 に対 して,補助金 の交付,政府所有施設の貸与を行 うとともに,試験研究用機械設備等の 特別償却
(3
年間の短期均等償却)を認め,また固定資産税の減免を図ること。
( 2 )
機械設備等の近代化を促進す るため重要産業の近代化機械設備等の特別 償却 (初年度2
分の1
の償却)を認め,また固定資産税の減免を図ること。
(3) 道路,港湾等企業の合理化に有す る産業関連施設整備の促進のため特別 の途を講ず ること。
これ らの規定の うちには,法律改定前か ら実施 されていた ものを明文化 した ものがある。 しか し,試験研究の促進,重要産業の合理化促進のための税法上 の特別措置の創設や産業関連施設整備の促進のための措置の法制化は,その後 の企業合理化促進に大 きく貢献 したのである。
1 9 5 2
年4
月28日, 日米講和条約が発効 し, 日本 は完全な独立国 とな った こ とを契機 として,産業合理化政策 は一層積極的に推進 され ることになる。1 95 3
6)
前掲書pp. 1 2‑4
0日本型経営の形成過程における社会経済的背景とその特徴
7 3
年9
月,産業合理化審議会の 「わが国産業の合理化方策 に関す る答 申」におい ては,つ ぎのよ うに述べ られている。7)すなわち,最近 における国際情勢の 推移 に伴 うわが国経済の自立達成は刻下の急務であるが,そのための今後一層 産業の合理化を強力に推進す る必要のあることを指摘 している。そ してさらに 今後の産業合理化方策の基本方針 として,(1) 企業内部の合理化を更に推進す ること。
(2) 産業構造の合理化を促進すること。
(3) 産業組織の合理化を促進す ること。
( 4 )
産業関連施設を整備す ること。(5) 中小企業の組織化等を行 うこと。
をあげるとともに,同審議会の改組を決定 している。 このように産業合理化 政策 は,従来のような 「企業合理化」を中心 とした ものか ら産業全体の合理化 へ と広が っていったのである。つまり, この時期においては,設備の合理化や 産業技術の向上が一層強力に推進 され ることになるが, しか しこれ らの問題 も 単 に企業の合理化 として取 り上げ られ るだけでな く,より広 く産業全体ない し 国民経済全体 との関連が強 く認識 されている。 このような観点か ら,企業間の 結合や協調などを通 じて業種の合理化の問題が取 り上げ られ,また産業組織に 関す る法制の著 しい進展を見 るのである。
他方 において,1
949
年1 2
月 に設置 された 「産業合理化審議会」 は通産大 臣 の「産業合理化に関 し採 るべ き対策如何」の諮問に応 じて積極的な活動を行 い, 特に経営管理については,つ ぎのような注 目すべ き一連の答申を している。1 951
年7
月 企業における内部統制について1 953
年2
月 内部統制の実施に関す る手続要領1 956
年7
月 経営方針遂行のための利益計画19 60
年9
月 事業部制による利益管理1 966
年12 月
コス ト・マネジメ ト7)
前掲書pp. 1 7‑ 8
0これ らの答申は,わが国企業の不完全な内部統制組織を整備 して,設備,餐 材,労働力や資金の結合運営を能率的に行 うための組織の形成,利益管理,予 算統制,事業部制やコス ト・マネジメン トについての新 しいアメ リカの経営管 理方式の導入 と普及により企業経営の合理化を図ろうとした ものである。経営 合理化のためには,産業合理化審議会 とともに大 きな貢献を したのが,つ ぎに 述べ る日本生産性本部である。
3.
日本生産性本部の発足日本の生産性運動は,国際収支の悪化で外貨事情が急迫 した1
954
年 に,国民経 済の生産性向上 による輸出振興の必要性が痛感 され, これをきっかけとして提 唱された ものである。産業合理化審議会 は,政府 に対 して 日本において も生産 性機関の設置を具申していた。そこで通産省は,1954
年9 月 24
日に生産性運動 の推進母体 としての 日本生産性本部の設置を省議決定 し,その目的をっ ぎのよ うに述べている。 8)すなわち,わが国産業の生産性が欧米先進国のそれに比べ てきわめて低いことは周知の事実であって, この生産性の低 さが コス ト高を招 き,輸出不振を招 き,国民所得を低いままにとどま らせ る結果を招 いている。 こ れに対す る従来のいわゆる 「合理化運動」は,設備の近代化を図ることに主力 をおいている。 しか し,資本蓄積の乏 しいわが国の現状では,これまでの設備近 代策をさらに押 し進めることが必要であることはいうまで もないが, これ と併 行 して,生産技術,原料,燃料,労働,経営技術,流通組織のすべてを含めた総合生 産性の向上を図 ることが,コス トの低下,品質の向上を可能 に し,輸 出を振興 さ せ,ひいては国民所得を増大 させ る起死回生策 といえよう。 かような生産性向 上運動が,大 きな効果をあげるためには,政府 ・経営者 ・労働者のすべてを含め た全国民の支持を得て,国民運動的に行 うことが望ま しい。そのためには,この 運動の中核体 となって これを推進す る機関が,産業界の総意 によって設立 され,8)
日本生産性本部編 『生産性運動10
年の歩み』 日本生産性本部,昭和40年3
月,pp. 2 6‑7
0日本型経営の形成過程における社会経済的背景とその特徴
7 5
これに民間の有識者を集め,その自由な創意 による活動が行われるな らば,その 成果を期 して待つべ きものがあろう。 この意味において,わが国産業の生産性 向上運動の中核体たる 「日本生産性本部」を民間団体 として設立 し,政府が行 う生産性向上対策 と相呼応 して,民間において,国民運動的規模 において活発な 運動を展開 し,わが国産業の生産性の飛躍的向上を図 らん とす るものである。そ して 日本生産性本部 は,
1 9 55 年 3
月1
日に経団連, 日経連, 日本商工会 議所および経済同友会の4
経済団体が中心 となり,また通産省 とアメ リカの対 外活動本部( FoÅ)
の援助 と協力の もとに発足 したのである。1 9 5 5 年 5 月20
日 の 日本生産性連絡会議の第 1回会合 において,生産性向上運動の基本方針 とし て, 「生産性向上運動 に関す る了解事項」を決定 し,そのなかでつ ぎのよ うな 運動三原則を示 している。 9)すなわち,わが国経済の 自立 と国民の生活水準 を高めるためには,産業の生産性を向上 させ ることが緊急の要務である。かか る見地か ら企図 されるべ き生産性向上運動 は,全国民の深い理解 と支持の もと に,国民運動 として展開 しなければな らない。よって, この運動の基本的な考 え方をつ ぎの とお り了解す る。(1) 生産性の向上 は究極において,雇用を増大す るものであるが,過渡的な 過剰人員に対 しては,国民経済的観点 にたって,能 うか ぎり配置転換そ の他の方法 により失業を防止す るよう,官民協力 して適切な措置を講ず
るもの とす る。
(2)生産性向上のための具体的な方式については,各企業の実情 にそ くし, 労使が協力 して これを研究 し,協議す るもの とする。
( 3 )
生産性向上の諸成果は,経営者,労働者および消費者 に,国民経済の実 情に応 じて,公正に配分するものとする。このようにすれば,生産性向上運動 は,個別企業の単なる能率増進運動では な く,産業全体や国民経済全体 に広が る性格を もっているところに特徴があ る。そ こで, 日本生産性本部の設立過程 において も,労働組合の参加をよびか
9)
前掲書pp. 30‑ 1
0けていたが,組合側 に もその設立趣 旨が理解 され るようにな り,
1 9 5 5
年9
月 に日本労働組合総同盟 (総同盟),同年1
1月に全 日本海員組合が生産性向上運 動 に参加す ることを決定 している。その後,生産性運動 に対す る労働組合の理 解が深まるにつれて,全国繊維産業労働組合同盟,全国電力労働組合連合会, 日本 自動車産業労働組合連合会,全国産業別労働組合連合会などの有力組合が 相ついで本部理事会 に代表を派遣 し,運動 に参加 している。10)このように, 多 くの労働組合の理解 と協力の もとに, 日本の生産性向上運動が実施 された ことは,世界的にみてきわめて注 目すべ きことであろう。
また, 日本生産性本部は,発足にあたってその目的を達成す るため,つ ぎの ような事業を行 うことを約束 し,めざま しい成果をあげている。 ll)
(1)生産性向上 に関する視察団の海外派遣,生産性向上 についての海外専門 家の招‑い等 による海外技術交流
(2) 生産性向上 に関す る各種の研究会
(3) 中小企業原価計算委員会,生産性委員会の開催,生産性講座,生産性講 習会,職長学級の開設ない し開催 による国内技術交流
(4) 生産性向上意識の高揚 と生産性向上技術の普及のための広告宣伝 (5) 生産性向上 に関す る資料の収集
アメ リカ,イギ リスや西 ドイツなどの先進国には生産性 に関す るす ぐれた著 書がた くさんある。そのなかか ら,わが国における発展段階にそ くして有効な 著書を選び, これを翻訳 した ものおよびわが国の主なものをあげると,つ ぎの
ような ものがある。
アメ リカ経営学体系 (全1
0
巻) アメ リカ経営学全書 (全1 2
巻) アメ リカ管理会計 シ リーズ係数管理のための会計実務 シリーズ
1 0 )
前掲書pp. 31 ‑2
0l l )
前掲書pp. 3 2‑3
0日本型経営の形成過程における社会経済的背景とその特徴
7 7
現代労務管理全書 (全1 6
巻)日本経営史 (全
4
巻)経営 システム工学体系 (全
7
巻)さらに,生産性の向上 は,労使が協力 しては じめて実現す るものである。技 術革新が著 しいときには,設備の更新が急激に進みまた雇用事情や労働条件が 大 きく変化する。 この場合,生産性をめ ぐる諸問題 について,労使が率直に協 議す ることが必要である。生産性本部で は,
1 9 5 6
年1
1月か ら労使協議制のあ り方 について調査 ・研究 し,1 9 5 8
年1
月 に中間報告 と して 「労使協議制のす すめ方」を発表 し, さらに労使協議制の研究 と普及活動か ら得 られた理論的, 実践的成果を もとに,1 9 6 4
年4
月に 「企業内における労使協議制の具体的設 置基準案」を発表 している。そ して,労使協議制の普及のために,平易な解説 書の頒布,講演会,研究会の開催や実施の指導 ・相談などを行い,大 きな成果 をあげている。 12)以上のように,生産性向上運動 に対す る経営者 と労働者の信頼関係や協調関 係 にもとづ く労使協議会制の実施に伴い, 日本型経営 はどのような特徴をもっ ているかをっ ぎに検討 してみることに したい ものである。
Ⅲ
日本型経営の特徴日本企業は,国内市場だけでな くいっ も国際市場における競争力の維持 と強 化を目的 としてお り,そのための方法 としてプロセス ・イノベーション,生産 管理 とマーケテイングがある。生産管理 とは,労働者,設備,材料,部品や情 報を合理的に結合 して,品質の良い製品を安いコス トで生産す ることである。
また製品は生産 されただけでは価値を生 まず,消費者がその製品を購入 して満 足 した場合には じめてその製品の価値が生 じるのである。そこで,企業 は,坐 産 ・流通 ・販売 のすべての段階を管理 しなければな らないのである。 日本型
1 2 )
前掲書pp. 1 5 9‑6 1
0経営 は,生産 ・流通 ・販売過程を組織的に維持 ・強化 しているが,その特徴を 要約 して示す と,つ ぎのようになる。
(1) 株主 ・経営者 ・労働者のパ ワー ・バ ランス
( 2 )
トータル ・ネ ッ トワーク ・システム・・・‑生産 ・流通 ・販売の相互協力 (3) 企業内組合(4) 企業内民主主義
(a)参加型意思決定‑‑取締役会,棄議制度,委員会制度,
Q C
サークル 運動および提案制度(b) 平等主義
(5) 現場主義 (アメ リカ的エ リー ト主義か らの脱皮),配置転換,労働者の 多能工制 (複数の作業 ・仕事ができること)
(6) 品質 ・作業 ・設備の改善‑‑ QCサークル運動,提案制度
そ して これ らの項 目の うち紙面の関係か ら株主 ・経営者 ・労働者のパ ワー ・ バ ランスと企業内民主主義のなかの参加型意思決定について,つ ぎに日本 とア
メ リカを比較 しなが ら検討 したいのである。
1.株主 ・経営者 ・労働者のパ ワー ・バ ランス
企業は,法律的な観点か らみれば,所有者である株主,経営を委任 された経 営者そ して企業に雇用 された労働者か ら構成 されている。企業の生産性向上に とっては,株主 ・経営者 ・労働者のパ ワー ・バ ランスが均衡 していることが望 ま しい。そ こで, この点を検討す るために, 日本 とアメ リカを上ヒ較 しなが ら(1) 株主 については企業利益,
( 2 )
労働者 については雇用保障の観点か ら取 り上げることに しよ う。 13)
(1) 経営 目標 としての中長期的利益
日本企業は 「中長期的利益」,アメ リカ企業 は 「短期的利益」を重視す ると
1 3 )
田中良三稿 「日米の企業経営比較」産業経理,第49巻第4
号,1990年1
月,pp. 7 5‑8 4
0日本型経営の形成過程 にお ける社会経済的背景 とその特徴 79
いわれてい るが,かか る相違 はどこか らくるのであろ うか。
1 988
年1
月 の 「日米企業行動比較調査」 によれば,最 も重視す る経営 目標 として, 日本企業 は,1 0
年前で は 「売上高の最大化」( 47 . 3%)
,現在および1 0
年後 で は, 「利益 の最大化」( 45 .0%
,3 9 .8%)
をあげてい る。それ に対 して, アメ リカ企業 は一貫 して 「利益 の最大化」 ( 4 6 .2%
,5 3 .6%
そ して50 .0%)
をあげている。 日本企業の場合,市場規模の拡大 していた高度成長期 には,売 上高の最大化 はコス ト引下げにつなが る最良の方法であ ったが,しか し, 1 97 3
年 の石油 シ ョック以降の安定経済成長 において は,売上高 よ りもむ しろ利益を重 視 した企業経営 を しなければな らな くな った ことによるものである。14)さて,現在 および
1 0
年後 の経営 目標 と して,日米両企業 とも「利益 の最大化」を最 も重視 しているが,果た して両者の経営 目標が完全 に一致 しているのであ ろ うか。 この点 について さ らに検討す るために,新製品の開発 と新規事業への 進 出に対す る態度 についてみてみよ う。 利益の最大化 には現在 のマーケ ッ トを 維持す るだけでな く,将来 においてマーケ ッ ト・シェアを拡大 してい く必要が あ る。マーケ ッ ト・シェアの拡大 の方法 と して,日本企業で は「新製 品の投入」
(第
1
位6 9 .2%)
, 「販売促進 の強化」 (第2
位3 7 .3%)
,そ して 「デ ィスカ ウ ン ト」 (第3
位29 .1 %)
である。 それに対 して,アメ リカ企業で は 「新製品の投 入」 (第1
位47 .3%)
, 「販売促進の強化」 (第2
位41 .1 %)
,そ して 「デ ィスカ ウ ン ト」 (第 3位41 .1 %ー )
であ る。 15'ここで注 目すべ きことは, 日本企業 は, マーケ ッ ト・シェア拡大の方法 として 「新製品の投入」を最 も重視 してお りア メ リカ企業 よ りも2 2%
も多 い ことである。 さ らに, 日本企業で は特 に経営 目標 として 「利益 の最大化」をあげて いる企業 の69 .6%
,「売上高の最大化」をあ げてい る企業 の83 .3%
が新製品の投入をあげて い る。 また新製 品の開発 にあ た って重視す る要 因 と して, 「市場 の将来 的成長」で は 日本企業 は7 6 .8%
,1 4 )
通商産業省産業政策局編 『日米の企業行動比較』 日本能率協会,昭和6 2
年1
1月,pp. 1 6‑ 70
1 5 )
前掲書pp. 24‑ 6
0アメ リカ企業 は
78 .9%
で 日米両者 とも最 も多 くな っている。 しか し, 「当面 確保可能な売上高」(重要度3
位 まで含む)では日本企業 は29 .2%
,アメ リカ 企業 はゼ ロであるのに対 して, 「利幅の厚 さ」で は 日本企業 は25 .4%
,アメ リカ企業 は6 0 .5%
であ る。16)っ ぎに,新規事業‑の進 出につ いてみてみよ う。 当面 (3ない し4
年)は利益がな くて も 「中長期的に当社の平均利益率以 上 の利益が見込 めれば,その事業 に進 出す る」では, 日本企業 は55 .5%
,ア メ リカ企業 は2 3 .5%
である。 また 「当初(3
年以 内)か ら水準以上の利益 の 見込みがなければ,その事業 に進 出 しない」で は日本企業 は1 0 .0%
,アメ リカ企業 は
47 .1 %
である。17)以上の ことか ら明 らかなように, 日米両企業 とも経営 目標 として 「利益の最 大化」を最 も重視 しているが,詳細 に検討 してみると両者 は同一ではな く, 日 本企業では 「中長期的利益の最大化」,アメ リカ企業では 「短期的利益の最大 化」を重視 していると結論づけることがで きるであろう。
それでは, このような日米企業の利益 に対す る考え方の相違 はどこか ら生 じ て くるのであろうか。この点を検討す るために,資本市場をみることに しよ う。 企業 は,経営活動 に必要な資本を株式,社債 (証券市場)や借入金 (金融市場) の形で調達す る。 ここで注 目すべきことは, 日本 とアメ リカでは主要株主の構 成 と要求が異なっていることである。主要株主の構成 については, 日本企業 は
「取引先」(金融機関
35 .6%
,その他9 .4%
,計45 .0%)
, 「親会社 ・グールプ 会社」( 30 .7%)
,そ して 「投資家」 (機関投資家1 2 .9%
,一般投資家2.5%
, 計1 5 .4%)
である。それに対 して,アメ リカ企業 は 「取 引先」(金融機関1 .9
%,その他
1 .9%
,計3 .9%)
,「親会社 ・グールプ会社」(1 .9%)
,そ して 「投 資家」
(株関投資家71 .7%
,一般投資家5 .7%
,計7 7 .4%)
である。18)主要 株主の構成で注 目すべ きことは, 日本企業では取引先や親会社 ・グループ会社1 6 )
前掲書pp. 88‑ 9
01 7 )
前掲書pp. 9 2‑ 3
01 8 )
前掲書pp. 100‑ 1
0日本型経営の形成過程 における社会経済的背景 とその特徴
81
とい った安定株主で7 5 .7%
を 占めているのに対 して,アメ リカ企業で は投資 利益を追求す る投資家で77 .4%
を 占めてい ることであ る。 このよ うに,株主 構成でみ ると日米企業で全 く逆の結果 になっているが, この ことが株主の企業 に対す る要求にどのよ うに影響 しているのであろうか。株主の要求 について, 日本企業 は,「事業の成長」( 56 .4%)
,「事業の安定」( 2 4 .0%)
,そ して 「株価 の上昇」( 1 2.1 %)
であるのに対 して,アメ リカ企業 は 「事業の安定」( 3 .8%)
,「事業の成長
」( 1 4 . 8%)
,そ して 「株価 の上昇」( 7 9 . 2%)
である19)とな って 全 く逆の結果 にな っている。以上 の ことか ら明 らかなよ うに, 日米 の企業経営 にお ける特徴 を要約す る と,つ ぎのよ うになる。すなわち, 日本企業では主要株主が 「事業の成長」 と
「事業の安定」を重視す る取引関係上 の安定株主 であるか ら,「中長期的利益」
を優先す ることがで きる。それに対 して,アメ リカ企業では 「株価の上昇」を 重視す る投資家であるか ら,株価を維持す るために中長期的利益 よ りもむ しろ
「短期的利益」を維持 しなければな らないのである。例えば,
IBM
の株主 に 対す る委任状報告書によれば,会社役員の報酬 は,業績,一株当た りの利益 ま たは株式の市場価格で評価 され る20)とな っているが, この ことは 「短期的利 益」を重視 していることの証拠 となるであろ う。 そ して 日米企業におけるこの ような経営 目標の相違が,労働者の雇用関係 にどのよ うに影響 しているかをっ ぎに検討す ることに しよう。( 2 )
労働者 に対す る雇用保障雇用保障 とは, ここでは経営者の経営戟略の失敗で労働者をできるだけ解雇 または レイオ フ しない ことを意味す る。 したが って,労働者 は自己都合で会社 をかえ ることが しば しばあるので, ここでの雇用保障には自己都合退職者 は含 まれず,誤解をさけるため終身雇用 という用語を用いなか ったのである。
さて経営戦略の失敗で業績悪化 に陥 った場合, 日米企業ではどのよ うな対応
1 9 )
前掲書pp. 1 0 2‑3
020 ) IBM Not i ce of 19 88 AnnualMeet i ngandproxyst at ementpp.
11。をす るのであろうか,先の 「日米企業行動比較調査」によれば,「人件費以外 の コス トの圧縮」(日本企業 は
7 5 .7%
,アメ リカ企業 は55 .4%)
,「人件費 の圧 縮」( 4 .5%,1 7 .9%) ,
「不採算部門の切 り捨て」( 2 .0%,21 .4%)
,「役員報酬 のカ ッ ト」( 4 .0%
,1 .8%)
,そ して 「配当圧縮」( 2 .5%
,ゼ ロ%)である。 こ の ことか ら明 らかなように,業績悪化の対策についての大 きな相違 は, 日本企 業では 「人件費以外のコス トの圧縮」, 「役員幸相中Iのカ ッ ト」,そ して 「配当 の圧縮」である。それに対 して,アメ リカ企業では 「不採算部門の切 り捨て」と 「人件費の圧縮」を重視 している。また 「人件費の圧縮」について も, 日本 企業では 「残業規制
」( 44.9%)
,「新規採用停止等」( 37 .7%)
,「外部への出 向」( 7 .8%)
,そ して 「配置転換」( 5 .4%)
で対応 し,それで も不十分なときに は 「役員報酬のカ ッ ト」や 「配当の圧縮」などで対応 しできるだけ労働者の雇 用保障を維持 しよ うと努力 している。それに対 して,アメ リカ企業では 「新規 採用停止等」( 32 .7 %)
, 「解雇 ・パー トの雇用」( 29 .1 %)
,「残業規則」( 20 .0
%),そ して 「ポス トの削減
」( 9 .1%)
であ る。 21)っ ま り, アメ リカ企業で は,経営戦略の失敗 による業績悪化の責任を労働者 に転嫁 して企業の短期的利 益を維持 し,株主への配当と経営者の高い剖紺"を維持 しようとしている。例え ば, フォー ドで は, 日本車 との競争 に敗れて販売不振 となった1 98 0
年5
月, つ ぎの5
カ月間の生産計画で25
万台の生産縮小 したのである。その結果,労働 時間の短縮や 7つの工場の閉鎖だけでな く,数千人の労働者や中間管理者を レ イオ フしたのである。22)またクライスラーでは,雇用保障 とい うことで賃金 の引上 げをおさえ,また1 9 88
年 に医療費の給付基準 の引下げの労働協約を結 んでおきなが らも,管理者 にはボーナス,経営者には非常 に高い報酬を支払 っ ていたのである。つまり, 日本企業では,業績悪化に対 してまず経営者 と株主がその責任を負 うのに対 して,アメ リカ企業では,労働者が犠牲 となって株主 と経営者の利益
2
1) 前掲書pp. 6 8‑71
022 ) D.Hal be rst am,TheReckoni ng, AvonBookspp. 605 0
日本型経営の形成過程 における社会経済的背景 とその特徴
83
が保持 されるのである。 したが ってアメ リカ企業では,経営者 と労働者の問に 信頼関係の基礎がないので相互不信 と対立関係 になって しまう。そのため労働 者 は, 自己の利益を維持 ・強化 しようとして強力な労働組合を組織 し,株主 と 経営者 に対抗 しなければな らない。それに対 して, 日本企業では,先に述べた ように,戦後の経済復興過程における経営者 と労働者の協力,国際競争力強化 のための生産性向上運動や労使協議会を通 じて,経営者 と労働者の信頼関係 と 協調関係を深めていったことも注 目すべ きことであろう。2.
参加型意思決定参加型意思決定 とは,経営 目標を合理的に遂行す るにあたって経営に参加す る経営者,管理者および労働者のすべてが,その意思決定 システムに参加す る ことであると仮定 しよう。 例えば,上級管理者 (業務執行責任者) は取締役 と して取締役会 に参加 した り,菓議制度 において,仕事の担当者が原案の作成 と い う形で重要案件 について も参加す る。また作業現場の労働者であって も,作 業の改善,機械,設備の改善や品質の改善のためのアイディアを提供す る提案 制度や
QC
サークル運動がある。 これ らの制度 は,意思決定 に必要な創意工夫 が意思決定者 よりも下位の人 々によって出されるものであるか らボ トム ・ア ッ プとよばれ,アメ リカ企業のような トップ ・ダウンとは対称的である。企業が,研究開発,生産,流通,販売およびサー ビスのすべの過程 において, 消費者の要求を満たすのに,経営者 と管理者だけの努力では不十分であ り,ど うして も労働者の協力が必要である。 つま り,経営者,管理者 と労働者が一致 協力 して,は じめて消費者の要求を満たす ことがで きるのである。 ここでは, 取締役会の構成員たる経営者 と品質 ・作業 ・設備の改善に大 きく貢献 している 労働者 の創意工夫を引 き出すための提案制度 について取 り上 げることに しよ
う 。
(1)取締役会の構成
経営者 とは, ここでは株主総会で選任 された取締役であるとしよう。取締役 会 は取締役で構成 され る企業の最高意思決定機関であるか ら,取締役会の構成
員の差異 は企業経営に大 きな影響を及ぼす ことになるであろう。
表
4
と表5
は, 日米の取締役会の構成を示 した ものである。両者を比較 して 注 目すべ きことは,社外取締役 において, 日本企業では1 0%
以下であるのに対 して,アメ リカ企業では5 0%
以上であることである。社外取締役の割合 は,各 国の取締役会の制度や役割によって異なっているが,国際比較において社外取 締役が過半数を占める企業の割合をみれば, 日本 と西 ドイツではゼ ロであるの に対 して,製造業 においてイギ リスでは30%
,アメ リカでは8 3%
であるという 調査結果がある。23)この調査結果か らみて も,アメ リカ企業が社外取締役を 数多 く参加 させているというのは,世界的にみて もユニークな ものとみること ができるであろう。表4 日本企業の取締役会の構成 表
5
アメ リカ企業の取締役会の(単 位
%)
構成( 1 9 88 )
1 9 8 5‑89 1 9 85 ‑8 9
社 内 社外 文系 技系 日 産 自 動 車9 3 7 4 6 54
日 本 電 気91 9 4 2 58
松 下 電 ー器9 1 9 60 40
(出所):有価証券報告書
(単 位
%)
社 内 社外 取締役 の数G
M28 7 2 1 8 G
E1 7 8 3 1 8
Ⅰ B M
35 6 5 1 7
モ トロー ラ丁
47 5 3 1 9
(出所):Not i ceof1 98 8AnnualMee t i ng
andPr oxySt at ement
さて企業 は,経営戦略を遂行 して経営 目標を達成 しようとす るが, この点に 関 して奥村教授 は,つ ぎのように述べている。24)すなわち,戦略的経営論の 立場か らすれば, 日本の取締役会および トップ ・マネ ジメン トのあ り方 につい てひとつの説明ができる。つまり,米国型の経営 システムは,戦略決定 と戦略 実施の機関を分化 させ る。 このようなシステムでは決定 は迅速であるが, しか し実施側か らしば しば抵抗 にあい実施が遅れることがある。それに対 して, 日