Ⅰ.はじめに
2001 年1月に文部科学省調査研究協力者会議 が「21 世紀の特殊教育の在り方について~一人 一人のニーズに応じた特別支援の在り方につい て~」という最終報告書をまとめた.ここから 従来の特殊教育から新たな特別支援教育への転 換が始まった.とりわけ画期的であったのは,
知的には遅れがないのに深刻な学習や学校生活 上の適応困難を抱えている子どもたち,すなわ ち,学習障がい(LD),注意欠陥多動性障がい
(ADHD),高機能自閉症などを抱える子どもた ちが通常学級に在籍しており,通常学級の中で 特別な支援を必要とする子どもたちであること が明記されたことである.
2002 年に文科省は「通常の学級に在籍する特 別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 全国実態調査」を実施した.その結果,学習面 か行動面で著しい困難を示す児童生徒が 6.3%い ることが把握された.2003 年4月の「今後の特 別支援教育の在り方について(最終報告)」によっ て,上記3つの障がいは正式に公教育における 障がい児教育の対象になった.
本稿では,学習障がい(LD),注意欠陥多動 性障がい(ADHD),高機能自閉症などの障がい を「軽度発達障がい」と呼ぶ(小貫 ,2006,p64).
軽度発達障がいのある子どもたちが通常学級に 在籍する場合,当然のことながら,彼らが生活 しやすい環境や理解しやすい授業展開が求めら れる.軽度発達障がいのある子どもたちも一緒 に学んでいるということを前提にして,通常学 級のどの児童生徒も学びやすい教室にしていこ うという試みが「ユニバーサルデザイン」とい う考え方のもとに取り組まれ始めている.
本稿では,ユニバーサルデザイン教育につい て概説し,軽度発達障がいのある子どもたちの かかわり方を見直し,彼らの在籍する通常学級 での具体的実践を紹介し,ユニバーサルデザイ ン教育の有効性と課題について概観する.
Ⅱ.ユニバーサルデザイン教育について
本稿では,ユニバーサルデザイン教育を次の ように定義する.この定義は,以下に概観する 川俣(2014),長江と細渕(2005),阿部(2014a)
に依拠した .
要約:ユニバーサルデザイン教育とは,視覚や触覚に訴える教室環境が準備され,児童同士の関 係が支持的で間違いが許容される学級風土のなか,全ての児童が学びに参加できる,多様な学び 方への柔軟な対応や必要な学習活動に十分に取り組める授業デザインをめざす教育である.学習 障がい(LD),注意欠陥多動性障がい(ADHD),高機能自閉症などのある児童,すなわち軽度発 達障がい児のかかわり方を,ユニバーサルデザイン教育の試みから見直し,具体的実践と課題に ついて概観した.ユニバーサルな授業をデザインする際には,学級がどのような軽度発達障がい 児やどのような傾向の学習困難感を抱える児童たちで構成されているのかを考慮して「わかる授 業」を用意することが求められる.軽度発達障がいのある児童が最も敏感に反応する温かな人間 関係と安定した学級風土をつくることが,ユニバーサルデザイン教育の土台づくりである.今後 の課題は,従来の通常学級の論理と特別支援教育サイドからの発想とがより統合されていくよう な支援プランの追求や,いわゆる健常児にも軽度発達障がい児にも共通して見られる各教科の学 習困難感に焦点を当てた,ユニバーサルデザイン教育の発想を生かした授業計画や授業方法の実 践研究の積み重ねが求められる.
通常学級における軽度発達障がい児支援と ユニバーサルデザイン教育の試み
Support for Children with Mild Developmental Disorders in Regular Class and Experiment on Universal Design in Education
大須賀隆子(帝京科学大学)
Takako OSUGA(Teikyo University of Science)
ユニバーサルデザイン教育とは,視覚や触覚 に訴える環境設定が準備され,児童同士の関係 が支持的で間違いが許容される学級風土のなか,
全ての児童が学びに参加できる,多様な学び方 への柔軟な対応や必要な学習活動に十分に取り 組める授業デザインをめざす教育である.
そ も そ も ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン と は, ア メ リ カ の 建 築 家 ロ ナ ル ド・ メ イ ス(Ronald Mace,1985)が中心になって試みている,年齢や 性別,身体的な特徴に左右されないで誰もが使 えるものにしようとする環境のデザインである.
バリアフリーが,老人,妊婦,障がい者などの 特定のハンディキャップをもった人々への特別 な対応をさしているのに対して,ユニバーサル デザインは特定のハンディキャップの有無にか かわらず全ての人々に利用可能な環境を目指し ている(川俣,2014,p.10).ロナルド・メイスに よるユニバーサルデザインの7原則は以下の通 りである.
1 誰でも公平に利用できること 2 使う上で自由度が高いこと 3 使い方が簡単ですぐわかること 4 必要な情報がすぐに理解できること 5 うっかりミスや危険につながらないこと 6 無理な姿勢をとることなく,楽に使用でき
ること
7 アクセスしやすいスペースと大きさを確保 すること
福祉施設の建築を手がけてきた坂本(2012,p.8)
は,バリアフリーとユニバーサルデザインは中 核となる理念が重なり,デザイン領域的にも重 なるところも少なくないが,住宅デザインの世 界ではバリアフリーデザインからユニバーサル デザインへと変化してきていると述べている.
建築界の変化の流れは,特別支援教育の変化 と重なるものがあると川俣(2014,pp.10-11)は 言う.2007 年に学校教育法の中に特別支援教育 が位置づけられた当初は,支援ニーズのある子 どものアセスメントに基づき支援計画を立て実 施するという,バリアフリーのスタイルでスター トした.しかし,特別支援教育の実施が進むに つれて,児童生徒には様々なニーズがあり,教 育的な「バリア」が明らかになるたびに対応し ていく方式では学級の授業計画が立てにくいと いう問題が起こってきた.そうした経緯のなか で教育のユニバーサルデザインという試みが始 まったと川俣(2014,pp.10-11)は述べている.
長江と細渕(2005)はユニバーサルデザイン 教育の7原則を次のように提示している.
1 全ての児童が学びに参加できる授業 2 多様な学び方に対し柔軟に対応できる授業 3 視覚や触覚に訴える教材・教具や環境設定
が準備されている授業
4 欲しい情報がわかりやすく提供される授業 5 間違いや失敗が許容され,試行錯誤をしな
がら学べる授業
6 現実的に発揮することが可能な力で達成感 が得られる授業
7 必要な学習活動に十分に取り組める課題設 定がなされている授業
建築家ロナルド・メイスによるユニバーサル デザインの7原則では「エラー」を少なくする ことが重要な原則として掲げられているが,長 江・細渕のユニバーサルデザイン教育の7原則 は「間違いや失敗が許容され,試行錯誤をしな がら学べる授業」を掲げている.
「授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支 部」顧問の阿部(2014a,pp.9-10 )は,ユニバー サルデザインの発想は「使う人の側に立ってデ ザインする」ことであり,これを教育にあては めるならば,「学ぶ側に立った」発想をするのが 教育におけるユニバーサルデザインであると述 べている.阿部は,これまでの「特別でない特 別支援教育」を目指して現場の教師と共に支援 のデザインを考えていく取り組みのなかで,学 習につまずきのある児童を支える教育とは「よ り多くの子どもたちが『ぼくにもできた,わた しにもわかった』と実感し,ワクワクしながら 楽しく学べるような教育の場」であると考える ようになった.そこで,阿部(2014a,pp.9-10 ) は「教育におけるユニバーサルデザインとは,
“『より多く』の子どもたちにとって,わかりや すく,学びやすく配慮された教育のデザイン”
である」と定義している.
阿部の考えるユニバーサルデザイン教育は,
図1に示すように3つの柱から成っている.
1 つ目の柱である「授業のユニバーサルデザイ ン化」の特徴を阿部は5つ挙げている.
・視覚化を工夫し、子どもを「ひきつける」授業
・子どもと学びを「むすびつける」「つなげる」
授業
・焦点化し「方向づける」授業
・理解を「そろえる」授業
・「わかった」「できた」と実感させる授業
図1 ユニバーサルデザイン教育の3つの柱
(阿部利彦作成 ,2014a,p.11)
ユニバーサルデザイン化された授業では,教 師は目の前の子どもの反応を見ながら,理解度 に合わせた声掛けや教え方を心掛け,場合によっ ては授業内容までも変えていくという「学ぶ側 に立った授業」を展開することを旨とする.全 ての子どもが「わかる・できる」授業を目指すが,
当然、個別の対応や配慮をしなくてはならない 場合もある.阿部(2014a,pp.12-13)は,授業の ユニバーサル化とは、基礎的環境整備(教育の 土台作り)であり,その上で細やかな配慮を行っ ていく取り組みであると述べている.
2つ目の柱である「教室環境のユニバーサル デザイン化」のポイントを阿部(2014a,p.14)は 3つ挙げている.
・ルールのある空間で,皆が快適に生活するため の環境を作る
・暗黙のルールなど,目に見えないものを見える ようにする(視覚化)
・子どもの「いいところ」が発揮されやすい環境 をつくる
阿部(2014a,pp.13-14)は,かつて就労支援に 携わっていた際に,自閉症スペクトラム傾向の ある人が暗黙のルールを働きながら自然に身に つけることがいかに困難であるかを実感した体 験から,教室環境のさまざまなルールを,掲示 物などで示す,つまり視覚化することによって 特定の子どもだけでなく周りの子どもたちも快 適に過ごせるようになると指摘している.そう やって教室の暗黙のルールが「見える化」され ることによって,子どもたちは安心して自己発 揮ができると阿部は述べている.
3つ目の柱である「人的環境のユニバーサル デザイン化」は,学級の子どもたちがソーシャ
ルスキルを身につけることによって子ども同士 の関係を改善して,誰かの間違いを冷やかした り失敗を笑ったりという雰囲気をなくし,誰も が「わからない」ことを正直に言える学級を目 指している.阿部は,そのためのソーシャルス キルトレーニングとして「あいさつに関するス キル」「自己認知スキル」「相互理解やセルフコ ントロールのための気持ち認知スキル」などを 挙げている(2014a,pp.14-16).
Ⅲ.軽度発達障がいについて一般的定義
軽度発達障がいのある児童の支援のためのユ ニバーサルデザイン教育を概観するにあたって,
一般的定義と状態像についてふれておきたい.
1.学習障がい (learning disabilities:LD) わが国の LD の定義は,アメリカ合衆国連邦 法や全米学習障害合同委員会の定義を参考にし て,1999(平成 11)年に次のようになされた(文 部科学省,2004).
学習障害とは,基本的には全般的な知的発 達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,
計算する又は推論する能力のうち特定のもの の習得と使用に著しい困難を示す様々な障害 を指すものである.学習障害は,その原因と して,中枢神経系に何らかの機能障害がある と推定されるが,その視覚障害,聴覚障害,
知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な 要因が直接の原因となるものではない.
この定義のポイントは,(1)知的発達に遅れ がない,(2)特定の学習能力に著しい不適応状 態が見られる,(3)中枢神経系の機能障害が推 定される,の三点である.
小貫(小貫 ,2006,p65)は,LD と判断された子 どもたちの学習の困難の実際例のうち代表的な 例を表1のように挙げている.
表1 軽度発達障害児における学習面・社会 性に関する不適応状態の実際例(小貫悟作 成 ,2006,p65)
<学習面>
読み
文字の弁別ができない / 極端なたどり読み / 行飛ばし・2 回読み / 語尾の変化(例「する」
→「します」)/ 意味理解ができない 書き
左右反転の文字(鏡映文字)/ 文章中の文字
イプに分類されている.学校生活において多動 性 - 衝動性優勢型の児童は早期から気づかれる ことが多いが,不注意優勢型の児童の場合は症 状が目立たないために気づかれにくい(鳥居,
2007,p.132).
3.高機能自閉症 (high functioning autism) 自閉症障害は,DSM- Ⅳ -TR(2004)の診断基 準によると,次の三つの特異的障害(1)固執 性(こだわり),(2)対人関係,(3)言語的コミュ ニケーション,がある場合に該当する.アスペ ルガー障害は,(1)(2)のみをもつ場合に該 当する.高機能自閉症は,自閉症障害とアスペ ルガー障害のうち知的水準の高さが確認された 場合に教育分野では高機能自閉症と捉えること が一般的になっている(小貫,2006,p.67).
Ⅳ.軽度発達障がい児童の個別的かかわり方の 見直しとユニバーサルデザイン授業における留 意点
阿部 (2014 a,pp.16-38) は,ユニバーサルデザイ ン教育を実践するなかで,軽度発達障がいのあ る児童のかかわり方を見直すことを提案してい る.
1.学習障がい (LD) 児童のかかわり方
LD 児のかかわり方の見直しについては,横浜 市教育委員会特別支援教育課指導主事を務めた 佐々木(2007,pp.121-127)に拠る.
「読字障がい」のある児童は,文字がだぶって 見えたり,反転して見えたりするなど視覚的認 知の問題を抱えているため,読むことに絶えず 困難感がつきまとう.支援の仕方としては,読 みやすいように指を添えたり,1行だけが見え るような枠を作って教科書の上に重ね,枠の中 を読むようにする.また,字は読めるが,内容 が把握できない場合は,順序よく絵や図が描い てある本を基に理解を促す.「算数障がい」のあ る児童は,数の概念,合成・分解などを繰り返 し練習しても定着しにくい.支援としては,棒,
積木,チップなどを使って5,10 の数の合成分 解を学習する.九九の苦手な個所を図式化し,
意味を理解し習熟を促す.計算が苦手な場合は,
マスのあるノートを利用することにより計算の 桁ズレを防ぐ.計算練習の際には計算機で答え を確認する習慣をつける.
佐々木は(2007),それぞれの児童の困難さに 合わせた支援方法を工夫する必要はあるが,「苦 手な部分を繰り返し取り組ませるより,むしろ 得意なところを使って理解を進めていくことが 抜け / 視写ができない / 聴写ができない / 作
文内容がまとまらない 計算
数字の大小がわからない / 位取りの概念が理 解できない / やさしい加減算でも指を使わな いとできない / 繰り上がり・繰り下がりの理 解できなさ・運用の困難 / 筆算における頻繁 な桁ずれ / 少数・分数概念の理解できなさ
<社会性>
学校場面で指示どおり動けない / 集団遊びに ついていけない・ルール理解の困難 / 勝ち負 けを理解することができない / 言葉でのコミュ ニケーションが苦手 / 自分の気持ちを伝えら れない / 相手の立場に立つことができない・
理解できない / 状況理解・判断ができない ここに挙げられている学習面や社会性の不適 応状態は,どのような子どもたちにも学習や小 学校入学後の初期段階には見られる事態である.
しかし,LD の子どもたちは,こうした不適応に よる困難感を長期にわたって,あるいは一生涯 もち続けるのである.
2.注意欠陥多動性障がい (attention deficit/
hyperactivity disorder:ADHD)
ADHD は,DSM(アメリカ精神医学会による 精神疾患の診断マニュアル)に基づく医学的診 断名である.文部科学省(2003)による定義は 次のようになっている.
ADHD とは,年齢あるいは発達に不釣り合 いな注意力,及び / 又は衝動性,多動性を特 徴とする行動の障害で,社会的な活動や学業 の機能に支障をきたすものである.また,7 歳以前に現れ,その状態が継続し,中枢神経 系に何らかの要因による機能不全があると推 定される.
この定義のポイントは,(1)年齢に不釣り 合いな不注意,及び / 又は衝動性、多動性を特 徴とする行動の障害,(2)7歳以前に現れる,
(3)中枢神経系の機能障害が推定される,の三 点である.活動的な幼児はしばしば見られるの で,その診断は小学校年齢になってからなされ る.出現頻度はおよそ3~5%であり,男女比 は3~4:1で男児に多く出現する.
DSM- Ⅳ -TR(2004) に よ る と, ADHD の 主 症状は不注意,衝動性,多動性の三つであるが,
その現れ方によって(1)混合型,(2)不注意 優勢型,(3)多動性 - 衝動性優勢型の三つのタ
り組み,いったん頼まれた仕事も丁寧にやり遂 げる律義さがある.教室において高機能自閉症 児が上手く適応するために,他者とのかかわり 方を具体的に教えることが必要である.いくつ かの場面を図解して,状況に応じたふるまい方 や話し方を具体的に丁寧に教えると有効である.
また,予定外の行事や取り組みが入る場合には,
高機能自閉症児には個別の配慮やサポートをす ることによってパニックを防ぐことができる.
(阿部,2014a,pp.22-23)
4.軽度発達障がい児のいる通常学級におけるユ ニバーサルデザイン授業実施の留意点
以上,軽度発達障がいのある児童の学習や生 活上の困難感や特徴を理解しながらのかかわり 方の見直しを概観したが,こうした児童の在籍 する教室においてユニバーサルデザインな授業 を展開する際の留意点について阿部(2014a)は 次のように述べている.
「わかる授業」「楽しい授業」は,ADHD 傾向 のある児童と高機能自閉症傾向のある児童では,
教師の取り組みや工夫が相入れない場合がある.
例えば,ADHD 児はサプライズや先が読めな いワクワク感によって集中を持続できる.しか し,高機能自閉症児の多くは,ルーティン化さ れた授業の流れの中で安心感をもって取り組む ことができるので,視覚的な工夫によって授業 全体の見通しをもたせることが有効な手立てと なる.従って,授業をデザインする際には,学 級がどのような軽度発達障がいの児童やどのよ うな傾向の児童たちで構成されているのかを考 慮して「わかる授業」「楽しい授業」を用意する ことが求められると阿部は提言している.(阿部,
2014a,pp.26-27)
さらに,阿部は,学級全体に目を向けた支援 の重要性について次のように述べている.学級 観察を通して阿部は,最近の児童の「気になる 傾向」を4つ挙げている.(阿部,2014a,pp.27- 29)
・先生に自分だけ大切にされたい傾向
・自分に敏感で、相手に鈍い傾向
・楽しいこと、ラクなことに流れる傾向
・気持ちを切り替えることが苦手な傾向
こうした4つの「気になる傾向」は,軽度発 達障がい児の適応困難のいくつかの問題に重な るとの指摘を阿部はしている.従って,通常学 級において最優先すべきことは「学級の安定を 図る」ことだと言う.そのためには,個々の児 童の問題や個性に合わせた指導を工夫する前に,
有効である」と重要な指摘をしている.さらに,
「わからない場合は,教師や周りの友だちに聞く ことができるような学級作りが望ましい」とユ ニバーサルデザイン教育につながる指摘をして いる(佐々木,2007,p.128).
2.注意欠陥多動性障がい (ADHD) 児のかかわ り方
ADHD 児は,注意の持続時間が短い,幅が狭 いといった「アテンション・スパン」の課題,
勉強中に他のことに気をとられたり,人の話が 聞けなかったりと「注意の転動性が高い」とい う問題,「過集中」して切り替えられないという 問題もある.
成長とともに多動性が,「非多動性多動」にな り,貧乏ゆすり,「手の多動」,おしゃべりが止 まらない「口の多動」が見られるようになる.
考えずに即行動してしまう衝動性の問題,禁止 事項を示されると敢えて破りたくなるなどの傾 向もみられる.(阿部,2014a,pp.17-19)
阿部(2014a,pp.19-20)は,ADHD 児の上記 の行動傾向を「いつも元気一杯,エネルギーに 満ちあふれている子と考える」こともできると 述べている.彼らのありあまるエネルギーをど のようにコントロールしたらよいのかという方 略は,彼らと一緒に考えて彼ら自身からコント ロールの方法を引き出すとよいとも指摘してい る.また,ADHD 児は大好きな人や尊敬する大 人に出会うとその人に認められたい気持ちを強 くもつので,その児童と信頼関係を築き一緒に 問題を乗り越えようとするスタンスをとると良 い方向に向かっていくと述べている.
3.高機能自閉症児のかかわり方
高機能自閉症児は,他者の表情から感情を察 知することが難しかったり,言語によるコミュ ニケーションも一方通行であったり表面的で あったりと対人関係のつまずきが目立つ.また,
場の雰囲気を読み取って,その場にふさわしい 振舞いをしたり周りの人々と気持ちを共有した りすることが苦手である.さらに特定のことに こだわりのある場合が多く,同じ生活パターン や手順を好み,予測不可能なことや不規則なこ と,急激な変化に対応することに大きな困難を 感じる.(阿部,2014a,pp. 21-22)
高機能自閉症児は,ある分野に強い関心をも ち専門的にとことん追究する傾向がある.彼ら の独自のこだわりの世界の中に蓄えられた情報 の豊かさや緻密さは素晴らしいものがある.ま た,彼らは決まった日課や活動にはきちんと取
ンタジー),また練習をしたいと強く思うように なる話である .
桂 (2014,p.58) は,国語の授業のわかりにくさ は「内容理解のイメージ」が目標になっている ことにあるとして,文学教材の心情の読み取り 方,主題のとらえ方を「論理」的に読み取る指 導を授業目標にした.その理由として,「論理的 に読むことで,内容理解のイメージも深まる」,
「論理は明解なので,人の気持ちを読み取ること が苦手な子どもにもわかりやすい」という2点 を桂は挙げている.
上記の授業目標を実現すべく,「授業を焦点化 する(シンプル)」「授業を視覚化する(ビジュ アル)」の要件を授業デザインに桂は取り入れて いる.国語の授業は,聴覚情報優位の話し合い 活動が中心であるが,センテンスカードを黒板 に貼って,指差しながら説明したほうが分かり やすく,写真や動画の資料の活用,音読や動作 化などの諸感覚を動員した活動も有効であると 桂は述べている.こうした工夫をしても,活動 が停滞する児童がいる場合は,例えば,漢字の 苦手な児童には振り仮名付きプリントを与えた り,書くことが苦手な児童には個別に問いかけ るという配慮を桂はする.(桂,2014,pp.58-59)
「五十回をすぎたころから,うでがだんだん軽 くなった.足がふらつき,目が回る.」というセ ンテンスカードを黒板に貼って,全員で音読す ると,児童たちから「おかしいよ!」「変だよ!」
という声が上がる.一箇所ずつ「変な」言葉や 言い回しの入ったセンテンスカードを6枚黒板 に貼って,児童同士ペアを組んで「変な」とこ ろ探しをする.その後,全員で誤った箇所を確 認し合うのだが,その際に発表者は黒板に貼ら れたセンテンスカードを指差しながら正解を言 う.例えば,「五十回をすぎたころから,うでが だんだん軽くなった.足がふらつき,目が回る.」
の場合,「軽くと重くでは,どう違うの?」と必 ず問い返しをする.「軽くだったら調子が出る感 じだけれど,重くだったらもう疲れたあって感 じがする」など,ワタルの心情を引き出すこと が目的だからだ.また,波打ち際の動画を投影 して,ワタルになったつもりで波が来る度に素 振りをするように指示をすることで,ワタルの 懸命な素振りを追体験することを児童たちに促 す.(桂,2014,pp.60-61)
「この話はね,はじめ,○○な気持ちだったワ タルが,○○によって,最後は○○な気持ちに なる話なんだよ.」と言って,主人公のワタルの クラスの子どもたちと信頼関係を築き,子ども
たちが集団の楽しさを体験することが支援の ベースであると述べている.軽度発達障がいの ある児童が「今年は落ち着いている」と言われ るときには,その子ども自身の成長だけではな く,学級の子ども同士の関係が和やかで温かな ときに,その相互作用によって落ち着いてくる のである.
佐藤(2004,p.2)は,延べにすると 800 あまり の学校や幼稚園・保育園を訪れ,そこで出会っ た子どもや教師(保育者),保護者の実践や事例 を基に具体的な支援の手だての数々を提示して いる.その佐藤 (2004, p.4) も次のように述べてい る.
特別支援教育というと,「個別支援」や本人の「自立」
といった,「個」の育ちにばかり目が奪われがちである.
しかし,(中略)集団としての機能が失われた学級では,
「個別支援」がまったく通用しなくなる.
さらに,佐藤(2004,p.103-104)は,学級崩 壊に陥ったクラスで,しばしば発達障がいのあ る児童が取りざたされているが,それについて は次のように否定している.
しかしこの子たち(発達障がいのある児童)は,学 級が崩れる原因ではない.騒然とした教室の雰囲気に,
むしろ彼らはいちばん影響を受けやすい.実際,進級 して集団が変わると,前年のことがうそのように落ち 着く場合がある.
学級の子どもたちが,例えば,ソーシャルス キルを身につけることによって子ども同士の関 係が温かで支持的なものになることによって学 級が和やかな雰囲気に変わっていくと,もっと も敏感に反応して一番早くに落ち着いていくの が軽度発達障がいのある児童であると佐藤は証 言しているのである.
Ⅴ.小学校・ユニバーサルデザインな国語授業 の実践例
小学校 3 年生文学教材「海をかっとばせ」を,
筑波大学附属小学校教諭の桂(2014,pp.57-58)が,
「(複数の情報処理が苦手,言語理解が困難,落 ち着いて学習することが難しい)Aさんを想定 したユニバーサルデザイン的な『指導の工夫』や,
バリアフリー的な『個別の配慮』によって,全 員が楽しく『わかる・できる』国語授業づくり」
を目指して展開した実践事例を紹介する.山下 明生「海をかっとばせ」(光村図書『国語三年・上』)
は,野球の試合に出たいと思っていた主人公の ワタルが,海岸で波の子との練習によって(ファ
ザインの発想は「使う人の側に立ってデザイン する」ことであり,これを教育にあてはめるな らば「学ぶ側に立った」発想をするのが教育に おけるユニバーサルデザインであるからだと述 べている(阿部,2014b,p.97).つまり,それぞ れのクラス担任は,どのような軽度発達障がい を抱え,どのような学習困難感や生活不適応感 を抱えている児童がいるのかをアセスメントし つつ,そうした児童の「学ぶ側に立った」授業 や教室環境をデザインしていくことが,ユニバー サルデザイン教育の発想なのである.
長江と細渕(2005)が提示したユニバーサル デザイン教育の7原則のうち,「間違いや失敗が 許容され,試行錯誤をしながら学べる授業」の 原則は,佐藤(2004)も指摘するように,子ど も同士の関係性が支持的で,間違いや失敗が許 されて試行錯誤しながら成長したり学習できる 学級風土に最も敏感に影響されるのが,軽度発 達障がいのある児童なのである.温かな人間関 係と安定した学級風土をつくることが,ユニバー サルデザイン教育の土台づくりであると言えよ う.
特別支援学校主任教諭の川上 (2014,p.65) は,
ユニバーサルデザイン教育は,当初,特別支援 教育サイドからの発信であり,教室環境や発問・
指示等の見直しには寄与したが,通常学級の論 理と乖離した不自然な支援プランも少なくな かったと述べている.今後の課題としては,誰 にとって「不自然な支援プラン」であったのか,
どのように「通常学級の論理」と乖離していた のかを明らかにしていき,改めて軽度発達障が い児童が在籍する学級が通常学級であるという 捉え直しに基づいた支援プラン,従来の通常学 級の論理と特別支援教育サイドからの発想とが より統合されていくような支援プランが求めら れるのでないだろうか.
さらに,桂(2014)の国語の授業実践に見ら れるように,「国語の授業のわかりにくさは『内 容理解のイメージ』が目標になっている」とい う理解のもと「文学教材の心情の読み取り方,
主題のとらえ方を『論理』的に読み取る指導を 授業目標」にするという発想の転換,「国語の授 業は,聴覚情報優位の話し合い活動が中心であ るが,センテンスカードを黒板に貼って,指差 しながら説明したほうが分かりやすく,写真や 動画の資料の活用,音読や動作化などの諸感覚 を動員した活動も有効」といった五官を多様に 動員する授業方法の工夫から,次のような今後 変化を図解(図2)して桂は示す.
図2 ワタルの変化を図にして示す
(桂 聖作成,2014,p.62)
子どもたちは,この図解を見ながら,ワタル の変化を表現する練習をする.「はじめ夏の大会 までには何とか試合に出たいと思っていたワタ ルが,波の子との練習によって,試合に出たい という勇気がついた話」と堂々と言える児童を 意図的に指名して発表させた後に(モデルを示 した後に),各自自分の言葉でペアの児童に表現 するように桂は指示する.その表現を,授業最 後の5分間でノートに書かせ,教師のところに もってこさせて個別指導を行うという展開であ る.(桂,2014,pp.62-63)
以上の桂実践に対して,東京都立青山特別支 援学校主任教諭の川上(2014 ,pp.63-65)は,「計 算し尽くされたしかけの連続であり,深い教材 研究とつまずきのある子の学び方への温かい配 慮に裏付けられた実践である」と評価している.
Ⅵ.おわりに:ユニバーサルデザイン教育とそ の課題
以 上, 通 常 学 級 に お け る 軽 度 発 達 障 が い
(LD,ADHD, 高機能自閉症)を抱える子どもたち の支援を,ユニバーサルデザイン教育の観点を 活かして取り組んでいる実践と研究を概観した.
「特別でない特別支援教育」を目指して現場の教 師と共に支援のデザインを考えてきた阿部(2014 b)は,わかりやすくするためにカードを使う,
見通しをもたせるためにルーティン化するとい う単純な発想がユニバーサルデザイン化ではな いと言い,同じ学校内であっても,あるクラス のユニバーサルデザインと別なクラスのユニ バーサルデザインとは当然異なっていなければ ならないと言う.なぜならば,ユニバーサルデ
論』,放送大学教育振興会.
佐藤曉(2004),『発達障害のある子の困り感に 寄り添う支援』, 学習研究社.
高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳(2004):DSM-
Ⅳ -TR 精神疾患の診断・統計マニュアル,新 訂版,医学書院 .
鳥居深雪(2007),「ADHD 児の理解」,大南英明・
緒方明子・吉田昌義編著,『特別支援教育基礎 論』,放送大学教育振興会 .
の課題を見出すことができる.いわゆる健常児 も軽度発達障がい児も共通して見られる国語だ けではなく他の教科の学習困難感に焦点を当て た,ユニバーサルデザイン教育の発想を生かし た授業計画や授業方法についての実践の積み重 ねと議論の深まりが課題ではないだろうか.
参考文献
阿部利彦編著・授業のユニバーサルデザイン研 究会湘南支部著(2014a),『通常学級のユニバー サルデザインプラン Zero 気になる子の「周囲」
にアプローチする学級づくり』,東洋館出版社.
阿部利彦(2014b),「ユニバーサルデザイン教育 を非日常から日常へ」,柘植雅義編著『ユニバー サルデザインの視点を活かした指導と学級づ くり』,金子書房.
桂 聖(2014),「小学校・国語授業のユニバー サルデザイン―3年生文学教材『海をかっと ばせ』の学習指導」,柘植雅義編著『ユニバー サルデザインの視点を活かした指導と学級づ くり』,金子書房.
川上康則(2014),「計算し尽くされた「しかけ」
が授業のユニバーサルデザインを支える」,柘 植雅義編著,『ユニバーサルデザインの視点を 活かした指導と学級づくり』,pp.63-65,金子 書房.
川俣智路(2014),「国内外の『ユニバーサルデ ザイン教育』の実践」,柘植雅義編著『ユニバー サルデザインの視点を活かした指導と学級づ くり』,金子書房.
文部科学省(2003),「特別支援教育の在り方に 関する調査研究協力者会議:今後の特別支援 教育の在り方について(最終報告)」.
文 部 科 学 省(2004),「 小・ 中 学 校 に お け る LD( 学習障害 ),ADHD(注意欠陥 / 多動性障 害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体 制の整備のためのガイドライン(試案)」.
長江清和・細渕富夫(2005),「小学校における 授業のユニバーサルデザインの構想:知的障 害児の発達を促すインクルーシブ教育の実現 に向けて」,『埼玉大学紀要教育学部(教育科 学)』54(1),pp.155-156.
小貫悟(2006),「適応と障害」,鹿毛雅治編著,『教 育心理学』,朝倉書店.
坂本啓治(2012),『心地よいバリアフリー住宅 をデザインする方法』,エクスナレッジ.
佐々木徳子(2007),「LD 児の理解」,大南英明・
緒方明子・吉田昌義編著『特別支援教育基礎