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(有馬弘晃)論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(有馬弘晃)論文内容の要旨

主 論 文

Unique hemoglobin dynamics in female Tibetan highlanders

チベット高地民の女性における特異なヘモグロビン動態

有馬弘晃、中野政之、

Sweta Koirala

、伊東啓、

Basu Dev Pandey

Kishor Pandey

和田崇之、山本太郎

Tropical Medicine and Health, 49:2, 2021

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻

(主任指導教員:山本太郎教授)

緒 言

現在、世界で

1

4000

万人以上もの人々が

2,500

メートルを超える高地で生活を しており、特有の文化が生み出されている。このような高地で生き抜くため、アンデ ス高地(南アメリカ)とチベット高地(アジア)の高地民は、それぞれ異なる戦略で 低酸素環境に適応してきた。アンデス高地民は、ヘモグロビン濃度を上げる方法で低 酸素環境に適応している。しかしヘモグロビン濃度が上昇すると、血液の粘稠度が上 がってしまうため、心血管疾患を発症するリスクが増加してしまう。対照的に、チベ ット高地民は、低酸素環境でも低地の人と同程度かわずかにしかヘモグロビン濃度を 上昇させず、多血症を回避している。そして血管径を拡張する能力を高めることで低 酸素環境に適応してきた。チベット高地民の祖先は約

50000

年から

25000

年前に、

アンデス高地民の祖先は約

10000

年前に各高地に到達したと考えられているため、こ れが適応度にも影響している可能性が示唆されている。

この低酸素適応を獲得したチベット高地民の間でも、高齢者の一部は慢性高山病に よる多血症を発症することが報告されている。しかしながら、ヘモグロビン濃度は一 般的に加齢とともに減少する傾向がある。そこで、チベット高地民における加齢とヘ モグロビン濃度の関連を明らかにすることを本研究の目的とした。

対象と方法

調査は、ネパールのムスタン地区にあるツァラン村で行った。ツァランは標高約

3560m

に位置し、ムスタン地区総人口の

6.4

%を占める合計

452

人(

132

世帯)が生 活をしている。

1440

年の建国以来、ムスタンは

2008

年まで自治王国として存在し続 けていた。ムスタンに住むロバ族も、他のチベット高地民と共通の祖先をもつ。さら に、ムスタン王国は長期間、外部の人々との交流を制限していた。そのためチベット 高地民が獲得した特有の遺伝的特徴を今でも集団内で強く保持している可能性があ る。そこで、近代化や食生活の変化の影響をまだ強く受けていないツァランを調査対 象とした。

(2)

2017

年に実施したヘルスキャンプにはツァラン住民

190

名が参加した。質問紙調 査により年齢、性別、教育歴、収入などの社会学的データを取得し、身体測定では身 長、体重、血圧、SpO2、ヘモグロビン、指先の血管径等を測定した。これらのデー タを用いて、チベット高地民における加齢とヘモグロビン濃度の関連を解析した。

結 果

現地でヘモグロビン濃度の測定が可能であった男性

76

名、女性

103

名の計

179

を本研究の最終的な解析対象者とした。加齢による生理値の変動では、男性において

BMI

や拡張期血圧が中年層で高く、一般的な加齢の影響が現れていた。ヘモグロビ ンにおいても男性では加齢と共に減少する傾向がみられ、一般的なヘモグロビン動態 を示した。しかし、女性では年齢とヘモグロビン濃度が正の相関を示し、加齢と共に ヘモグロビン濃度が上昇する傾向がみられた。

ヘモグロビン濃度と関連のある因子を検索するため、単変量解析を行ったところ、

男性では血管径のみがヘモグロビン濃度と負の相関を示した。女性では、年齢、脈圧、

および貧困指数がヘモグロビン濃度と正の相関を示し、

SpO

2 と血管径がヘモグロビ ン濃度と負の相関を示した。さらに、多変量解析により交絡因子の影響を取り除いた 上で、ヘモグロビンと相関している因子を探索した。その結果、男性では単変量解析 と同様に血管径のみがヘモグロビン濃度と負の相関を示した。女性では、年齢と脈圧、

貧困指数、及び血管径の

4

因子が相関していた。

考 察

男性の生理値は、低地で生活をする人と変わらない一般的な加齢による影響を受け ていた。一方で女性では、加齢に伴ってヘモグロビン濃度が上昇するという特異な動 態が観察された。多変量解析の結果、ヘモグロビン濃度は年齢の他に、血管径、脈圧、

貧困指数と相関していた。閉経後の女性では血管拡張能を有するエストロゲンの分泌 量が減少することから、加齢に伴う血管径の短縮が進行する。それに伴って血管負荷 が増加し、脈圧も高くなっていると考えられる。また、レニン

-

アンギオテンシン系 は酸化ストレスを促進して血管収縮物質の産生と一酸化窒素による血管拡張能の低 下を引き起こすことが報告されているため、女性の血管拡張能の低下をさらに進めて いる可能性がある。貧困は心血管疾患の発症リスクと関連しているとの報告もあり、

ムスタンにおける貧困が動脈硬化を促進している可能性さえある。さらに低酸素環境 下における閉経前の日常的な出血(生理)や出産も高地生活における血管負荷に拍車 をかけているのではないか。

このように女性がチベット高地民特有の血管拡張能を失うと、十分な酸素を組織へ 供給するためにヘモグロビン濃度を上昇させるしかないのではないか。このような性 差は、低酸素という過酷な環境へ適応するために生じたものである可能性がある。

参照

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