アクティブ・ラーニングがキャリア教育に与える影響に関する一考察
A Study on the Effect of Active Learning on Career Education
三和義武(Yoshitake MIWA)
はじめに
かつて、日本経済は、1986年12月から1991年2月までのいわゆるバブル経済が起こり、
株価も最高で約3万9千円の値をつけた。しかしそれ以後は、バブル経済崩壊により、資 産価値の下落、金融収縮などから、日本経済は不況状態に陥ったのである。その後の日本 経済は、IT バブルなどの好況期もあったが、全体的に長期にわたる不況期が続き、失われ た10年、20年ともいわれる時期が続くことになる。特に、2008年9月のリーマンショッ クにより、日本経済はもとより世界経済もどん底状態の不況が続くことになる。しかし今 年は、株価も2017年1月末現在、1万9千円を超え、2万円台に到達しようとしている。
また、為替も1ドル約112円を示している。これは、2017年1月、米国大統領にドナルド・
トランプ(Donald J.Trump)が就任したことが影響していると思われる。しかし、今後の 日本の経済情勢については、彼の政策を注視していく必要があるだろう。また、少なから ず安倍首相によるアベノミクスが功を奏しているともいえる。ともあれ、現時点で日本経 済は好調を維持している。また、各企業では人手不足感がかなり強いこともいわれている。
厚生労働省の発表によれば、2016年12月31日午前における同年12月の有効求人倍率(季 節調整値)は、前月比0.02ポイント上昇した1.43倍で、1991年7月以来、25年5ヶ月ぶ りの高水準となった。さらに、2016年の平均の有効求人倍率についても、前年比0.16ポイ ント上昇して1.36倍となり、1991年以来、25年ぶりの高水準を示している。
そこで本論では、この時期の日本経済の好景気かつ人手不足感の中で、就職を控えた大 学生がどのような能力を身に付けなければならないか。また、企業が求める能力をどのよ うに獲得していくかの方策を、大学教育と連動しながら考察していきたい。
1.企業の採用と大学のインターンシップ
昨今では、企業の採用行動においても、人手不足感がにわかに増大し、学生の売り手市 場状態に転換し、企業の採用活動も活発になっている。2017年の採用スケジュールは、経 済団体連合会所属の企業においては、3月1日に企業説明会などの採用広報が解禁となり、
6月1日に本格的な採用活動の解禁がなされる。なお、昨年は10月1日であった内定決定 が、今年は8月1日に変更されている。しかしながら、実際の現場では、3月前に採用を行 い、内定も出されているケースや 6 月前に本格的な採用活動が始まるケースなどが多くみ られ、経団連の基本方針とは別に、採用活動においては、放埓状態であるのが現状である。
一方、大学においては、これまでの就職支援やキャリア教育に一層の力を入れ、より学
生が希望する企業への採用の支援を強化している。特に、インターンシップが活発化し、
単位型のインターンシップや非単位型のインターンシップ、さらには、就職サイト会社に よるインターンシップも盛んに行われている。また、インターンシップの形態も変化し、
これまでの経団連指針による「インターンシップは 5 日間以上」という企業体験目的のイ ンターンシップから、1day、2dayといった採用直結型のインターンシップも出始めている。
前述したように、経団連の指針においては、採用広報解禁日の3 月1日以前のインターン シップが、「学生に就業体験の機会を提供する」ため「5 日間以上」の確保を企業側に求め ている。しかし実態において、夏季インターンシップの場合は、5日間以上が守られている が、冬季インターンシップの場合は、1日から2日という短期のインターンシップが行われ ているのが実状である。また、冬季インターンシップは、企業においても時間がかからず、
短期間で多くの学生と接触することができること、さらには 3 月の採用広報の解禁日直前 ということで、企業の採用モードに入った段階のインターンシップ学生は、直接採用に結 び付く可能性も秘めているであろう。
2.大学のキャリア教育
このような日本経済における企業の状況や昨今大学教育改革が叫ばれている大学教育の 実態状況に鑑み、今後は、大学がどのような学生を育成しなければならないかについて、
企業が求める人材像と大学教育改革によって輩出される人材を連動させながら考察してみ たい。
まず、統計資料から企業の求人状況や政府による大学生におけるキャリア教育のあり方 について、検討していく。2010年の求人倍率は、1.62であり、この数字はいわゆる求人企 業約8社に対して学生 5人が求人している数字になる。しかし、一見学生有利の状況にみ えるが、現実は、エンプロイヤビリティの高い学生が複数企業から内定を得てしまい、エ ンプロイヤビリティの低い学生はなかなか内定が取れない状況である。いわゆる、「勝ち組」
「負け組」という二極化現象である(寿山2012、5頁)。経済産業省は、2006年1月に「社 会人基礎力」を発表し、①「前に踏み出す力」(アクション)~一歩前に踏み出し、失敗し ても粘り強く取り組む力~、②「考え抜く力」(シンキング)~疑問を持ち、考え抜く力~、
③「チームで働く力」(チームワーク)~多様な人とともに、目標に向けて協力する力~、
の3つの能力に整理している(寿山2012、11頁)。各大学は、上記の社会人基礎力を念頭 に学生指導を行い、受動型の学生から能動型の学生への移行をねらっている。しかし、現 在のところ社会人基礎力を検証した結果が公表されていないためどれほどの効果があった かは不明であるが、少なくともこの非常に分かりやすい能力育成概念は各大学に伝わり、
それを基にキャリア支援が行われていると思われる。また、2010年2月には、以下の通り 大学設置基準および短期大学設置基準の改正が行われ、大学・短期大学におけるキャリア 教育の法制化が施行された(寺田2016、147頁)。
大学設置基準改正(平二二文令三・追加)2010年2月25日
第四十二の二 大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの 資質を向上させ、社会的及び職業的自律を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び 厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な 体制を整えるものとする。
このような条文追加によって、具体的には大学が何をしなければならないかを示してい ないが、ほとんどの大学においてキャリア関連科目が教育課程内で必須科目として実施さ れているのが現状である。それによって、学生は改めて自己を見直し、自己分析し、自己 理解しながら、自らのコンピテンスを高め、問題発見能力、問題解決能力を自発的に獲得 するようになったと考えられる。学生の就業に関する考えは、1990年を境に変化が生じて いると考えられる。それは、バブルの崩壊が影響していると考えることもできる。いわゆ る、1990年以前は、企業の終身雇用制度が前提にあり、定年までその企業が身分を保証す るような企業風土が日本には出来上がっていた。そのため、個人は安定的に自分のキャリ アを磨き上げることが可能であった。そして、個人は、自分の将来の姿やキャリアのゴー ルイメージを比較的容易に描くことができた。1990年以降は、企業によるリストラや企業 破綻が起こり、さらに若年層においては、転職志向やプロフェショナル志向が高まり、雇 用の流動化が本格化していった。その雇用の流動化に伴い、これまでの企業による人材育 成やキャリア育成は、個人の手で行っていくようになった。また、企業においては、人材 像が多様化し、キャリアコースの多元化が進んでいるのである(谷内2015、143-144頁)。
2018年春に卒業予定の大学・大学院生において、リクルートワークス研究所によれば、
2018年卒の学生採用の見通しは、「増える」が 13.5%、「減る」が5.7%であり、7年連続 で「増える」が「減る」を上回った。その意味で、現在は学生の売り手市場が続いており、
企業側は学生の確保に危機感を強め、選考活動を前倒ししたり、インターンシップの回数 を増加させたりする企業が増えている。また、朝日新聞によれば、経団連が定める採用活 動の日程である「説明会は3月解禁、採用面接は 6月解禁」というルールも形骸化が進む としている(2016、18頁)。
上述したように、経済産業省は、大学生のエンプロイヤビリティを高めるために、2006 年に社会人基礎力を公表した。その内容は、簡潔に述べれば「前に踏み出す力(アクショ ン)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」であった(寿山2012、
9-11頁)。また、企業が大学生に求める力として、自分の頭で考え、行動できるか、高いチ ャレンジ精神を持っているか、さらに協調性やコミュニケーション力は必須の要素といえ よう(読売新聞2010、18 頁)。これをみても、思考力、判断力、行動力、チームワーク力 を持っている学生は、企業に非常に魅力的な存在である。そこで、大学教育のなかで、そ のような能力を育成する教育を行っているかが問題である。かつて、日本がバブル経済の 最中であった当時、大学は何もしなくて良い、いや何もしてくれるなといった企業の風潮
が存在した。学生は、入社してから企業が育てるという考えの基で採用活動がなされてい た時代もあったが、バブルがはじけ企業にその余力がなくなると、今度は大学に実践力や 即戦力を持つ人材を求めるようになった。現在では、大学は何もしなくてよい、実践力や 即戦力をつけてほしいといった要望は少なく、大学教育の中で自主的精神、自律的行動、
主体的行動、かつ創造力や表現力を持った人材育成を求めるように変化した。その点では、
経済産業省の社会人基礎力の育成方針は、企業が求める人材と大学が育成する学生像が互 いにマッチした能力開発であるともいえる。その能力は、学問をする上でも非常に重要な 要素で、自らが疑問に感じ、問題提起した課題を解決していく力は、勉学においても企業 活動においても重要であろう。
その大学生の学習意欲の開発について、柳井は以下の 4 つの視点から提言している(柳 井2005、109頁)。
(1)目的意識を育てる
学生にとって重要なことは、自分の将来における人生設計や進路設計に取り組ませ確 立させることである。そのため、大学は、キャリア形成のための大学教育の有用性を認 識させる指導を行い、将来展望を明確にさせながら、学生に目的意識の確立を醸成する 指導が必要である。
(2)自己概念の形成を図る
自己否定的な概念を持つ学生は、教員の適切な指導・援助によって、自分を取り戻 し肯定的な自己概念を形成することが重要である。そうすることで、学生のやる気も 生じ、大学生活に適応するようになると考えられる。そのためにも、自己概念を育成 する指導が大学において必要である。
(3)社会的役割の形成と自覚を図る
人間は誰でも、人間社会の存立のために何らかの役割分担を引き受けなければなら ない。通常個人は、その役割を職業に求める。そのため、学生は社会性の発達を通し て社会的役割の自覚を持つことにより、学業ばかりでなく多くの物事に積極的に取り 組むことができる。
(4)知的好奇心を育てる
大学における学生の授業、つまり学生に課題を与え、資料を収集させ、発表・討論 を行うような授業方法の工夫が必要である。討論することで教員や学生仲間の考え方 に触発されたり、新しい発見に感動したり、考えることの楽しみを味わうことが体験 されるのである。それにより、知的好奇心が刺激され育つことによって、意欲的に変 化していく。
以上のことは、企業活動する上で必ず必要となる素養であり、大学時代において、で きる限りの獲得を要する諸能力である。また、大学教育を受ける上でも、課題発見能力、
課題解決能力や思考力、判断力、表現力、行動力は必要な要素であり、この能力を育成 する機関として大学が存立し、それが大学の存在意義(レーゾンデートル)であるとも いえる。
3.キャリア発達の理論的展開と大学教育
ここで、キャリア発達の理論的展開について、シャイン(Schein,E.H.)を中心に検討し、
大学生の学習意欲開発のために、何が必要なのかを検討しよう。
シャインは、産業心理、組織心理の観点からキャリアを捉えて、10段階に分類している。
第1段階は、成長、空想と探索、第2段階は、教育と訓練、第3段階は、仕事生活、第4 段階は、基礎訓練により組織になじむ、第5段階は、一人前の成員、第6段階は、終身雇 用権を獲得、第7段階は、自分を再評価、第8段階は、勢いを維持、第9段階は、仕事か らの引き始め、第10段階は、退職といった過程である。また、シャインは、キャリアアン カー(Career Anchor)の概念も提唱している。キャリアアンカーとは、どんなに難しい選 択を迫られた時でも放棄することのない自己概念であり、船の錨になぞらえたキャリア選 択の指針、方向づけの意味を持っている。キャリアアンカーは、以下の8つのカテゴリー に分類できるという。
(1)専門・職能別コンピタンス、(2)全般管理コンピタンス、(3)自立・独立、(4)保障・
安定、(5)起業家的創造性、(6)奉仕・社会貢献、(7)純粋な挑戦、(8)生活様式である。
そして、キャリアアンカーの順位が決まった後、実践で活かすためにシャインは、次の 5つの方法を提言している。(1)自分自身についてさらに深く学ぶための方法を学ぶ、(2)
自分の現在の職務を分析する、(3)将来の計画を考える、(4)自分の欲求について人に伝 える、(5)自分自身でキャリアを積極的に管理するというものである。これらにより、シ ャインは、キャリア発達の究極の目的は、個人の欲求を組織の要望に適合させることにあ るとして、自分自身のキャリアアンカーを深く洞察することが、キャリアにまつわる計画 や選択をうまく遂行するために必須であると論じている(寿山2012、34-35頁)。
上記の分類から、自分自身を深く考えることによって、自立性、自律性、計画性、思考 性、判断力、表現力などが育成できるものと考えることができる。
また、組織内におけるキャリアを開発・形成していくための自律型人材の育成方法とし ては、以下に示すCDP(Career Development Program)を利用することも効果的であろ う。CDP は、アメリカにおいて1955 年の第二次フーバー委員会人事部会の勧告に基づい てアメリカ陸軍文官に対して実施されたCDP(Army Civilian Career Program)が最初と
いわれている。このCDP(Career Development Program)には、4つの特徴がある。第1 は、個人が生涯にわたって通過する、空間的広がりを持った、パターン化された経路(キ ャリア・パス)である。第 2 は、通過する経路が空間的に広がりを持っている。これは、
幅広い職種を経験するキャリア・パスがあることを意味している。第 3 は、通過する経路 がパターン化されていることである。なぜならば、CDPは、長期的かつ系統的人材育成プ ログラムであるためである。第4は、キャリア形成の中心は個人である。CDPは、組織が 必要とする人材育成であるが、その主役はあくまで個人であるという理由からである。CDP は、自律的なキャリア形成を支援するものであるが、自律的なキャリア形成はCDPだけで はその実現が困難である。そのために、職務特性モデル(ハックマン・オールダムによる)
を援引することができる。これには、5つの要素が存在する。第1は、技能多様性である。
これは、職務遂行者が持つ多様な技能や才能を要請される程度を意味する。第 2 は、タス ク完結性である。これは、自分の仕事を最初から最後まで一人で成し遂げ、目にみえる成 果がどの程度出せるかを表している。第 3 は、タスク重要性である。これは、仕事の重要 性を表すものである。第 4 は、自律性である。これは、計画や職務遂行における自主裁量 の程度を意味している。第 5 は、フィードバックである。これは、自分の仕事の成果や効 率について明確な情報をフィードバックされる程度を表している。このような職務特性モ デルは、極めて優れた職務設計の理論モデルといえるため、このモデルを利用するととも に、他方では、自律的なキャリア形成を支援していくためには、これらとともに教育・研
修システムも転換していく必要があろう(谷内2015、157-68頁)。 一方で、柳井(2005)は、平成12年11月に大学審議会が答申した「グローバル時代に
求められる高等教育の在り方について」に注目し、その中でのキャリア発達の重要性に着 目している。具体的には、広い視野を持った人材の育成を目指す柔軟な教育システムとし て、社会の高度化、複雑化に伴い、社会が求める人材が多様化しているため、学生は、幅 広い分野の教育・研究に触れ、社会意識を深め、社会的要請を的確に認識しながら、修得 すべき学問を見極める必要があること、また各大学においては、学生の立場に立って、学 生に高い付加価値を適切に身に付けさせる体系的な教育課程の編成に留意することの重要 性を挙げている。さらに、教育方法や、履修指導の充実においては、学生が将来への目的 意識を明確化できるよう職業観を涵養し、職業に関する知識・技能を身に付けさせ、主体 的に進路を選択できる能力・態度を育成するキャリア教育を、大学の教育課程全体の中に 位置づけ実施していくことの重要性を説いている(104-105頁)。
4.大学のアクティブ・ラーニング
上述した学習意欲の向上のため、最近では、各大学でFD(faculty development)が積 極的に行われ、特に学生の能動的学修(アクティブ・ラーニング(active learning))を推 進する授業が導入されている。この能動的学修は、学問的な意味合いにおいても、企業が 求める人材において共通する能力育成が多く含まれている。
溝上によれば、アクティブ・ラーニングは、1990年代初頭に米国のボンウェルとアイソ ンによって理論化された学習論であると論じている(2016、9頁)。また、後にバーとタグ が「教えるから学ぶへ(from teaching to learning)」と呼んだ教授パラダイムから学習パ ラダイムへの転換を推進する学習論の包括的用語として登場する。やがて、PBL(project based learning)や協同学習をはじめとする専門分野での学習論を位置づけて発展してきた としている(2016、9 頁)。学習パラダイムは、教授パラダイムに対比される用語であり、
教授パラダイムは「教員から学生へ」、学習パラダイムは、「学習は学生中心」「学習を生み 出すこと」「知識は構成され、創造され、獲得されるもの」を特徴としているという(2016、
9 頁)。その内容について述べれば、学習者が能動的に学修することによって、認知的、倫 理的、社会能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図ることである。その目 的は、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等を高めるため、教室内のグループ ディスカッション、ディベート、グループワーク等を取り入れていく手法であるとしてい
る(溝上2016、11頁)。また、松下によれば、高大接続改革答申において、アクティブ・
ラーニングは、「課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学習・指導方法」と定義され ているが、これは、同答申での「学力の三要素」いわゆる、① 主体性を持って多様な人々 と協働して学ぶ態度(主体性・多様性)、② その基礎となる「知識・技能を活用して、自 ら課題を発見しその解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・
表現力等の能力」、③ さらにその基礎となる「知識・技能」であり、アクティブ・ラーニ ングで獲得する能力と違わないという(2006、14頁)。
今後は、大学における講義のみでアクティブ・ラーニングを実施するのではなく、大学 全体の仕組みとして取り入れていく必要がある。アクティブ・ラーニングやPBLを取り入 れた初年次教育により、学内のキャリア形成を真剣に考える動機づけを行うことができる であろう(岡本・白鳥2016、49頁)。
この手法による学生の能力向上は企業等にとっても魅力的であり、大学は、有効的に講 義内のアクティブ・ラーニングを利用して、キャリア形成の醸成を図ることが可能になる だろう。それこそが、経済産業省がもとめた社会人基礎力の育成といえよう。
ここで、職業教育に関して実践主義的教育観を基底とするコーオプ教育について触れて みよう。コーオプ教育(cooperative education)とは、大学と企業・地域が連携し、「実学 と行動力」を身に付けた人材を育成しようとする就業体験型教育プログラムである(軽部
2016、21 頁)。このコーオプ教育が、現在行われている従来のインターンシップと異なる
点は、ここでの就業体験が大学のカリキュラムに組み込まれ、その就業内容も学生の学修 分野を考慮して就業体験先と共同で構築しているところである。しかも学生は、就業体験 中の学期に大学に通学する必要がなく、学外の雇用先で仕事をし、その間は企業から賃金 も支払われるのである(軽部2016、21頁)。特に、このようなコーオプ教育は、理系の大 学には取り入れやすい傾向があるが、今後は様々な手法を変えたやり方で大学に拡散して いく可能性もある。
おわりに
企業の求める人材像は、文系・理系の学生とも意欲的でバイタリティのある人間であろ う。特に経団連は、(1)新しい価値を創造する学生、(2)時代に富んだ人材として、自ら 問題を発見し、考え、実行できる力を持つ学生、(3)既存の概念を超えて、新しい価値を 創造できる学生など、いわゆる創造的な人材の確保に力を入れている。その他、チャレン ジ精神、バイタリティ、人の知らないことを求める貪欲さ、未知の領域に飛び込み、自ら 課題を達成していく開拓精神の旺盛な学生などが、企業の求める人材である。換言すれば、
積極的・意欲的な行動力、誠実性、協調性、個性の発揮等が企業の欲する人材である。
そのためには、現在大学において取り入れられ始めているアクティブ・ラーニングの手 法が、これまでの講義中心主義から調査(リサーチ)、討論(ディスカッション・ディベー ト)、発表(プレゼンテーション)などを中心とする教育手法へ転換することにより、より 思考的かつ行動的で、表現力を持った人材の輩出が可能であろう。それには、大学が学生 を意欲的で、知的好奇心に満ち溢れ、失敗を厭わない行動力を伴った人物に育て上げてい かねばならない。大学は、これまでの講義中心の授業を否定することなく、新しい手法を 上手く取り入れ、大学教育にも適合し、また企業精神も植えつける高等教育機関として存 在することが与えられた使命であろう。
大学は、学校教育法(52 条)にある「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、
深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的および応用的能力を展開させること」という 目的を達成することはもちろん重要であるが、大学が学問の府として存在するだけでなく、
学生達を将来の日本社会や世界に通じる人材に育成し、高等教育機関として社会の存続と 発展に貢献できる人材の育成を目指した教育・研究機能であることが期待される。
今後の課題として、企業の求める課題発見能力、問題解決能力などの獲得を、大学教育 と連関させて、学生にいかに身に付けさせるかを探っていかなければならない。
【引用・参考文献】
朝日新聞、2016、12月26日、朝刊、朝日新聞社。
軽部征夫、2015、「東京工科大学の職業訓練」『IDE 現代の高等教育』IDE大学協会。
日本キャリア教育学会編、2015、『キャリア教育概説』東洋館出版社。
高橋和幸・難波利光編、2015、『大学教育とキャリア教育―社会人基礎力をキャリア形成に 繋げるために―』五絃舎。
岡本・白鳥、2016、「初年次教育におけるアクティブ・ラーニングとキャリア教育―嘉悦大 学ビジネス創造学部の事例―」『IDE 現代の高等教育』IDE大学協会。
寿山泰二、2012、『エンプロイヤビリティにみる大学生のキャリア発達論―新時代の大学キ ャリア教育のあり方』阪南大学叢書92、金子書房。
寺田盛紀、2016、『キャリア教育論―若者のキャリアと職業の形成』学文社。
松下佳代、2016「何のためのアクティブラーニング―〈コンピテンスvs知識〉を超えて―」
『IDE 現代の高等教育』IDE大学協会。
柳井 修、2005、『キャリア発達論 青年期のキャリア形成と進路指導の展開』ナカニシ出 版。
谷内篤博、2014、『大学生の職業意識とキャリア教育』勁草書房。
谷内篤博、2015、『働く意味とキャリア形成』勁草書房。
読売新聞、2010、8月24日、東京朝刊、読売新聞社。