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養護教諭の力量形成に関する研究

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茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)33号(1984)33−47      33

養護教諭の力量形成に関する研究 一本学卒業生の力量の自己評価とその成長条件一

大谷尚子*・豊崎友子**

(1983年9月30日受理)

Studies on Progressing the Abilities for the School Nurse Teachers 一Self Evaluation of the Abilities of the Graduates

and Related with their Progress一

   一gisako O TANI and Tomoko ToYozAKI

(Received September 30,1983)

1 は  じ め  に

教員免許を取得して大学を卒業したばかりの新任教師は,赴任と同時に 一人前 の教師として,

その職務を遂行することを要求される。そのために,教育職員免許法ならびに教員養成教育の内容 は,新任教師が一一人前の職務を遂行できる力量を具備させるべく構成されていると言えよう。

より良い教員養成のためには,就職前教育の充実が望まれるが,しかし,教師の力量というもの は,いくら就職前教育が充実されていようとも,それだけでは完全なものにはなりえず,現場の実 践を通じて,「教師になる1)」のであり,教員養成段階の教育は,その基盤を形づくるに過ぎない とも言えよう。

1971年の中央教育審議会答申で「教師の力量は,養成,採用,研修(再教育)の一連のプロセス

●  o  ●      ●  ●  ●

のなかで継続的,段階的に形成される」(傍点筆者)という教師形成の新らしい考えを打ち出した2)

が,その後1978年の中教審答申「教員の資質能力の向上について」をふまえて,都道府県教育委員 会レベルでの教師の研修体系づくりをはじめ,文部省の研修施策の積極化などもみられるように なった3)。また,昨今は,新採用教師の試補的研修制,インターン制などについても,より具体的 な形で論議されている。

このような教育政策の動き,すなわち,教師教育に関する行政施策が急テンポで進められている が,それは理論的研究に先行するものであり,教師の力量形成の在り方,方法に関する研究が早急 の課題になろう4)。

ところで,養護教諭は教育職員ではあるが,「養護を掌る」職種であり,「教育を掌る」一般教 師とは異なる力量を要請されることより,一般教師とは別に,力量形成の在り方や方法についての 研究が必要となる。また,養護教諭の場合,就職前教育,すなわち,養護教諭養成制度が一般教師

*茨城大学教育学部教育保健研究室

**茨城県那珂湊市磯崎小学校

(2)

のように大学で教育されるだけでなく,複雑になっている5)ため,独自の就職前教育,養護教諭養 成に関する研究も必須である。しかし,養護教諭像や養護教諭の職務内容についても,学校保健関 係者(養護教諭養成教育者や現職養護教諭等)の中においてさえ異なるというのが現状であり,そ の共通化を図ることが課題となっている。そして,どのような養護教諭を,どのような力量をもっ た養護教諭に成長させていくのか,ということが,早急に明らかにされ,養護教諭の養成(就職前 教育)と卒後教育の向上を探っていかなければならない。

本研究は上記のような養護教諭およびその養成・教育をとりまく複雑な状況があることをふまえ て,本大学の卒業生という一定の枠を設定し(同一の養成機関,わが国の養護教諭養成制度の中で は最高水準の教育機関),上記の課題を追求したい。すなわち,本学卒業生の養護教諭としての力 量形成の実態を明らかにするとともに,その力量がどのようなことがらによって形成され,促進さ れるのか,成長条件を明らかにしようとするものである。

1 研 究 方 法

1.調査対象

茨城大学の養護教諭養成課程(3年課程,4年課程)で教育を受け卒業し,現在養護教諭となっ ている者を対象とした。本学には,1年課程も設置されていたが,看護婦免許取得者であり,前記 対象者とは教育条件が異なるため,本調査の対象から除外した。なお,対象者は,現場に出て養護 教諭として勤務している年数から,3群に分けた(表1)。回収率が低かったのは,調査内容が力量

の自己評価という難       表1 謁査対象

かしい内容であった

からと思われる。 対   象   者 発送 回収(率)

回答者の概況は, 1群 4年課程1・2回生(就職して2.年以内) 88 36(40.9)

表2の通りである。 H群3年課程5〜8回生(就職4年〜7年) 134 46(34.3)

近年卒業生(1群) 皿群3年課程1〜4回生(就職8年〜11年) 106 40(37.7)

の傾向は,学生の出 328 122(37.2)

身が茨城に集中して

いることもあって, 表2 回答者の概況       数字は%

赴任地が茨城である

回答者 1   群 H  群 皿  群

割合が高い。また,     \諱@ 分 新任校 現任校 新任校 現任校 新任校  現任校 養護教諭の配置状況 勤務地(茨城県) 77,8  77.8 60.9  63.0 37.5  40.0

との関連で,近年は 嚢 校   種(小学校) 63.9  63.9   :U9.6  67.4 45.0  47.5

小規模校の小学校に  縷 児童生徒数(500人未満) 77.8  75.0 54.3  50.0 35.0  32.5

配置される傾向があ 勤務地域(市  部) 47.2  47.2 24.8  39」 45.0  65.0 る。なお,現任校の 転勤の経験あり

@ (2回以上) 0

47.8 i4.3)

85.0 i30.0)

状況は,新任当時の  猿 結婚の経験 2.8 41.3 82.5

状況と,ほぼ同じで 子どもあり 0 30.4 75.0

(3)

大谷・豊崎:養護教諭の力量形成に関する研究      35

あった。また,卒業生の勤務生活・家庭生活の状況は,卒業後の年数とともに異動体験等の体験者 が増加している。

2.調査方法  質問紙郵送調査法 3.調査の内容

1)力量形成に関する自己評価

前述の勧護灘諭の嚇内容に関する鰍の見解があるが,本研究では困翻6 ・現駿

護教諭の自主サ7クル団体7)およびアメリカのスクー一レナース団体8)の研究成果をもとにしなが ら次のような力量の構成とした(表3)。

表3 養護教諭の力量の分類

大  分  類 分       類

養護教諭観の確立 o養護教諭の役割・機能の理解(a)

。子どもおよび健康問題の全体をとらえ見抜く力(b)

養護教諭としての専門的力量の形

o問題確決にとりくむ力(c)

成(子どもとの対応場面において)

・欝総劉蝶購警鶉1謬d1)

o教職員へ問題提起する力(el)

教職員と連携する力量 。教職員の連携を組織する力(e2)

養護教諭の地位向上,身分確立に o養護教諭に対する無理解あるいは不当扱いにとりくむ力(f)

とりくむ力量

評価の尺度は,6段階とした。

+3 非常にある(非常に納得している)(〉内はaの力量に関する評価。以下同じ

+2 大体ある(大体納得している)

+1 どちらかといえばある(どちらかといえば納得している)

一1 どちらかといえば不足している(どちらかといえば納得していない)

一2 やや不足している(あまり納得していない)

一3 非常に不足している(非常に納得していない)

2)卒業後の生活体験および勤務の状況

現任校の概況,新任校の概況,新任時における先輩教師のガイダンス,転勤・退職の経験,結婚 の経験,研究状況。

3)上記2)が養護教諭の力量形成におよぼす影響に対する意見

皿 結 果 と 考 察

A 力量形成に関する自己評価成績 1.評価成績と評価理由

1)項目別にみた評価分布

(4)

回答者全員の各力量に対する自己評価の結果は,図1の通りである。

a養護教諭観の確立は,高い

評価がみられたが,d2集団への 1。。、 ←マイナ禿タをつけた割合

0

プラス点をつけた割合→0       50       100%

保健教育力やe2教師を組織する

a 力は,低い評価がなされていた。

b ひとつひとつの力量が相互に作

用しあい絡みあい,養護教諭と C

しての実践力が作られていくと d1

思われるが,養護教諭として在      d2 職し,その実践力を身につける       e1 過程で,早くから自己の力量と      e2 して高く評価できるものと,そ  より低い         f

より高いプラス点(+2,+3)

ー幕っけ。割合をつけた割合

すなわち,一様に力量が形成さ    a〜fは力量項目(表3参照)(以下同)

れるものではないことが明らか

2)各人の最高得点,最 低得点をつけた項目 本調査が,非常にとらえ難い力

量というものに関して,自己評    ←最低得点をつけた割合   最高得点をつけた割合→

100%      50 0      100%

価法で回答を要請するという方 法をとったため,評価の基準が a

各回答者の判断に委ねられ,回 b

答者の執務に対する受けとめ方 C

や性格等により,回答に偏りが d1

みられると想定できる。確かに d2

回答者の中には,自己に厳しく e1

一3や一2の評価に集中した者 e2

がいたり,+3から一3まで幅 f

広く自己の力量を評価した者が いた。しかし,それぞれ回答者 が判定基準をどこに置いたかは

違っても,一人の回答の中には   図2 項目別にみた最高得点・最低得点を付した者の割合 最高得点を付された力量項目と,

最低得点を付された力量項目が みられる。最高得点を付された

(5)

大谷・豊崎:養護教論の力量形成に関する研究      37

力量項目は,回答者にとっては,自己のうちで最も力量が形成した(成長した)と判断できるとし た項目であり,最低得点はその逆にあたる。

そこで,各力量項目について,最高得点が付された割合および最低得点を付された割合を算出し た結果は,図2の通りである。図1と比較対照してみると,全体にその割合は減少するが,ほぼ同 様の形を示す。

3)評価の理由(判断基準)

力量の自己評価が,どのような根拠によるであろうか。判断基準を知るために,次の二点につい て調査した。

①プラス点

うまくいっていること。新任時からみて,成長したこと,自分のうちに育った専門家としての力 量はどのようなことか。

②マイナス点

現時点で自分に不足していると思われる力量,課題となることは,どのようなことか。

回答結果を要約すると,表4の通りである。

マイナス評価の理由を大別すると,次のような3つの内容になるであろう。

⑦専門的知識・技術の不足……a,b, c,d1,d2, e1(e2)の力量

④関係者との連携が難しい,その方法がわからない……a,b,c,d1,d2, e1(e2)の力量

⑦自己の性格,態度に問題がある(あきらめ,無計画)……d1, d2, e2, fの力量

養護教諭の執務をすすめていくためには,単にヘルスニーズの把握,指導というような狭義の保 健管理,保健教育に必要な専門的知識・技術の有無を判断するだけではないことがわかる。それは e2教師の連携を組織する力量以外の項目でも,関係者との連携に関する知識・技術の有無を判断 理由にしていることに表われている(④)。このようなことは,一般教師とは異なる,養護教論に独 特なものではないかと思われる。

また,自己の性格・態度に問題があるとしている回答が見られた(⑨)。これは,長年の働きかけ,

取り組みが成功をみないためと,あるいは,取り組むべき課題の大きさに最初からあきらめたり,

消極的になったりしていることによるものと思われる。

これらの回答は取り組み方の方法論が不足していたり,その技量が不足している等,前二者(⑦,

④)の判断理由と関連が深く,内包するものと思われる。

プラス点の評価理由の内容からは,卒業生が在職して実践の中からどのような力量を身につけて いくのか,その具体的内容を知ることができよう。

2 就職年数別にみた評価成績(力量形成の過程)

各力量項目について,1群(新任養護教諭),皿群(中間),皿群(中堅養護教諭)に分けて,回 答結果をみていきたい。特に,ここでは,プラス点に評価した者の割合を,図3に示した。卒業晩 就職してからの力量形成の過程を,プラス点評価者の割合の推移を中心に,また,一部,最高得点 最低得点を付した割合をもあわせてみながら,以下,考察を行ってみたい。

(6)

表4 評価の理由,判断基準

力  量 プラスと評価する理由 マイナスと評価する理由 a 養護教諭観 。執務目的(疾病予防と健康増進)と内 。執務内容(健康管理,健康教育)に

の確立 容の理解 ついての力不足

。「学校保健推進者」「子供達にとって 。養護教諭と担任との役割分担が明確 学校で唯一一の先生らしくない先生」と でない。また,その責任の範囲が判

実感できる らない

b 子供および 。子供への対応(特に子供を受容・理解 。医学に関する専門家としての自信が 健康問題の全 し,子供が訴えようとしていることを ない(研さん不足)

体をとらえ見 うまく引き出してあげられる) 。子供との対応場面でヘルスニーズを 抜く力量 。多方面から観察できる(子供の表情, 把握できない

家庭背景,友人関係等から) 。関係者と連携しあって,ヘルスニー

。子供の断片的な話,または話はしなく ズの解明をはかることができない ても,ヘルスニーズを感じとれる

c 問題解決に 。問題解決に取り組もうという構え,研 。指導時において観察力がない,系統 取り組む力量 さん意欲が出てきた だったものができない

。継続管理を行っている 。主治医,担任,父母等との連携に力

。保健指導を実施している 不足を覚える

。関係者との連携をとって問題解決に当 。連携したいが養護教諭一人ではどう

っている することもできない

。時間を確保することが難しい dl保健室で教 。保健室に保健センターとしての機能を 。取り組みに対する意識・知識が不足

育する力量 もたせ,掲示物を活用している 。指導しても,評価の仕方が判らない

。子供に説明するばかりでなく,疾病の 。その場限りの指導に終ってしまう 原因や予防を考えさせられる

d2集団に保健 。機会を作って積極的に養護教諭が指導 。積極性,勤勉性,計画性が不足

教育する力量 している 。指導の方法,指導時の話し方が力不

。教育の手段が多様である(放送,掲示 物,保健だより,アンケート等)

el教職員に問 。提起の仕方(文書や口頭)の発展 。問題提起すべき情報をよく把握して 題提起する力 。担任,管理職,全職員など対象を広げ いない

られる 。情報を得たにしても,分析や判断が

。担任とは互いに情報交換したり,話し できない

合うなど問題提起を発展させられる 。問題提起が雑談程度に終り,教師を 納得させることができない

e2教師の連携 。積極的に取り組んでいる ・消極的,あきらめ,組織化すること を組織する力 。働きかけにより,連携をとることがで 自体を拒否する養護教論自身の姿勢 きたり,組織を運営することができる がある

。指導力,まとめていく力に欠ける f 養護教諭の 。人間関係を大切にし,教師を理解しよ 。あきらめ,事なかれ主義,消極的

身分確立に取 うと思う姿勢

り組む力量 。実践を通じてアッピールする 。すぐに感情的になってしまう

(7)

大谷・豊崎:養護教諭の力量形成に関する研究      39

a 養護教諭の役割・機能の把握状況

理解・納得したとした回答は7割前後であり,1,皿,皿群間にほとんど差は認められなかった。

ただし+2,+3の高得点を占める割合は,着実に1群から皿群になるに従って増加している。

この職務の役割・機能について,理解しているかどうかを現職者に質問することは,普通一般に はあり得ないことで,養護教諭の特殊事情によるものである。それは大学に志望した段階で養護教 諭に関する理解が少なく必ずしも養護教諭志向が高くない状況にあること,卒業時にも,まだなお,

養護教諭志向が定まらない者がいる実態9)によるものである。

1群が7割弱のプラス評価である点は,上期の事

0      50 a

100%@ 情により,それなりに,うなづけることであるが,

養護教諭観

1 .皿群においても,なお,8割弱という点については,

の確立 II

養護教諭の職務内容,役割・機能に関する統一見解

II

がなされていない状況を反映するものであり,その

b

1 問題の奥深さを感じさせられる。

子供を見抜 rh

II

b 子供および健康問題の全体をとらえ,見抜

く力 管     ■

」 」

II く力量

C

1 プラス評価は,1群(31%),H群(48%),皿群

問題解決力 II 」       、 (75%)と順次段階的に多くなっていた。着実に養

II 護教諭の実践経験とともに形成する力量といえよう。

d1

1

保健室での 肩「

II 」  : P期  ; Q期  I R期

保健教育II l        l

_  一  噛  一  鼎r − 一 一  一  一  一    一  一 喩  晶 殉  一 一 一 , 成   ;   ・

一㌔丁一 1 長     ,     。

団の

II ,   d、e1 ,

保健教育

II

e匹

1 1

教師への 1

II

問題提起 1

一鴨一 一 一

@e2 o 曹一 一 一 _  一 一 q − 一 一噛 一一∩一凸 伽 一噛一 口  畠  畠 ■  一 一  一 一     d2 e2

P      1

1 9

教師を 1

II 1

組織する力 l       l

II   l

f O      I       II      III

1 卒     (     (     (

養護教諭の1 }1 1       4       8

II

業     〜     〜     〜

身分確立 1 直     2      7     11

1 後     年     年     年

*印はX検定により有意差が認められたものを示す 墜    毯    毯

*5%危険率 **1%危険率 ***0.5%危険率

(以下同)  ■■■■急速に伸長した時期 図3 プラス評価者割合の卒後年数群別比較      図4 力量の伸び方(模式図)

(8)

特に,8年以降の経験を積むと,「力あり」と自覚できるようだ。

なお,1群では,この力量に最低得点をつけた者は,31%であり,他群の20%,8%と比べて多 い。新任養護教諭にとっては,未熟さを感じさせられる力量といえよう。

c 問題解決の取り組みについての力量

プラス評価は,1群が3%,皿群が21%,皿群が58%と全体的にプラス評価は少ないが,経験年 数が増すにつれて,大きく伸長していることがわかる。

なお・皿群がこの項目に最低得点をつけた者が47%と高く(1群31%,皿群26%),就職4年〜

7年頃の時期における,この力量形成の困難さを示している。

d1教育活動を保健室において展開する力量

プラス評価がII群(59%),皿群(70%)に多くみられる。この力量は就職して4年以後に大き く成長するといえよう。

この力量に最低得点をつけた者は,1〜皿群とも20%以下であった。この力量は「保健室内」と いう条件ゆえに,すなわち,他者とのかかわりが少ないということから,すぐに実践し,力量を高 めていくことができるものと思われる。

d2集団に保健教育する力量

1〜皿群とも,プラス評価のものは2〜3割と,大差なかった。また,最低得点をつけた者は,    

1群61%,H群67%,皿群36%であり,非常に多い。

養護教諭にとって,学級,学年,あるいは,全校の児童生徒に対する保健教育の機会があまり多 くなく,その結果,力量の方もなかなか伸びないものと思われる。特に,新任養護教諭にとっては その傾向が強いようである。

e1教職員へ問題提起する力量

1群と皿・皿群の間にプラス点評価の割合に差が認められる。この力量に最高得点をつけた者の 割合は,1群39%,皿群49%,皿群31%であり,II群が最も多かった。経験年数が4〜7年という 時期は,現場の実態(問題)が見え始め,それを教職員へ積極的に訴えていくことが多くなるので

はなかろうか。そのような実践体験から,この力量形成の自覚が高いものと思われる。

e2教職員の連携を組織する力量

1群,皿群,皿群の間の差は,ほんの少しずつである。力量形成の困難な項目と言えよう。最低 得点をつけた割合が1〜皿群とも50%台と高い割合であったことからもそのことがうかがわれる。

f 養護教諭の地位向上,身分確立に取り組む力量

1群皿群(3割強)と比べて,皿群(5割強)になると,プラス点評価の割合が増加している。

8年以上の経験年数が,この力量を高めていくことに必要といえよう。

以上のような各力量のプラス評価成績を就職年数別(群)に比較した結果,ある経験年数を境に プラス点の割合が徐々に増加するものや,急激に増加するものがあることがわかる。すなわち,力 量の形成には,経験年数の増加に伴い形成されていくものであるが,その成長過程(速度)は,い

くつかのパターンに分けられる。

力量には,急激に成長するものと,なかなか伸びないものがあること,また,急速に伸長する時 期に違いがある。それらを模式的に示したのが,図4である。

(9)

大谷・豊崎:養護教論の力量形成に関する研究       41

特に,成長する時期からみると,次のような5種類の型にわけられよう。

①P期(図中。卒業後1年前後)に急激な成長のみられる力量 a養護教論観の確立

②Q期(卒業後4年前後)に急激な成長のみられる力量 d1保健室で保健教育する力量

e1教職員へ問題提起する力量

③R期(卒業後8年前後)に急激な成長のみられる力量 f養護教諭の身分確立に取り組む力量

④徐々にしかも着実に成長のみられる力量 b子供および健康問題を見抜く力量 c問題解決に取り組む力量

⑤非常にゆるやかな成長で,その伸びが少ない力量 d2集団に保健教育をする力量

e2教職員の連携を組織する力量

B 力量形成に影響する要因

1.体験者からみた,それが力量形成に及ぼす影響 1)新任時の研修・指導を受けた体験

新任時に校内の管理職あるいはその他の教師による指導を受けたかどうか,また,その指導者,

内容等はどうであったかをまとめたも

表5 新任時の校内での指導 一指導状況とその効果一 のが,表5である。

指導を受けたと回答した割合は,10 回 答 者 約10年前 近年

年前も近年も変らないようであるが, 皿 群 H群

指導者が教頭,校長であったところが 29 30 24

指 導  を 受  け た

近年では保健主事によるとする学校が (72.5) (65.2) (66.7)

多くなったようだ。 「主任制」導入に  指 校       長 34.5% 36.7% 37.5%

よる保健主事の位置づけの変化とも関  導 教       頭 55.2 60.0 37.5

連していると思われる。        者 保  健  主  事 24.1 40.0 41.7

指導された内容は,皿群(10年前後) 新 任 校 概 要 34.5 46.7 54.2

       指の場合は,「教職員の心得」や「養護

学校運営方針 37.9 30.0 45.8

教諭の立場」のような新任者が学校職  導 教 職 員 心 得 62.5 46.7 50.0

員として,とるべき心得的な内容が強  内 保健・安全面についトの取り組み 51.7 53.3 58.3

調されていたようだ。近年では,多様       容 児童生徒の保健事情 27.6 20.0 20.8

な内容に広がってきているが,「児童 養護教諭の役割・立場 48.3 36.7 41.7

生徒の健康事情」という内容は低調で 髪箆丞 仕事への意欲 51.7 53.3 75.0

あった。養護教諭が新任校において, 劣讐毎 養護教諭としての自

o 4L4 40.4 41.7

学校保健活動をすすめる場合の基本的  接薯 健康問題の実態把握

51.7 30.0 29.2

な必要情報は指導されていない。それ

(10)

は,専門的なことであるから養護教諭自身で把握しろということのようである。

さて,新任時の指導の効果という面ではどうであろうか。皿群(10年位前の新任養護教諭)は,

その学校の健康問題が理解・把握できたと回答する者も多かったが,近年では,その回答は減り,

もっぱら,仕事への意欲が高まったとする回答に集中していた。

近年の新任時の指導は,新任養護教諭が積極的に,その職務を遂行していく上では,有効なもの と言えるのではなかろうか。前述の自己評価の評価理由でマイナス評価の根拠に,この積極性のな さをあげていた者もいたことを思いおこすと,新任時指導が,養護教論の積極性を高めることで,

間接的に養護教諭の力量形成にかかわっていると言えよう。

2)勤務の異動体験

学校が変ったり(転勤),学校からしばらく離れていた(育児休業)ということで,養護教諭の力 量形成に何らかの影響を受けたかどうかを質問した結果,回答は表6の通りであった。

豆群の育児休業経験者の場合には,影 表6 体験者からみた勤務の異動体験および家庭

@    生活が力量形成に与える影響        響なしとする力量項目もみられた(a,

(数字は当該体験者が賛同した割合) e1,f)。これは,子育て真最中にある

体  験 1) 勤 務 異 動 2)雛特に   者にとっては,その影響を把握しにくい

転勤の経験i育児休業の経

状況にあるのかもしれない。その他の場

回答者 皿   皿

Q   群

皿   皿

Q  群

漏灘合,すなわち,曙の場合あるい1よ

力     量          1B−34 。_221。−14・−9 閏_   H群の転勤体験者の場合は,全ての力量

a 養護教諭観の確立 ・・ザー…i・バrl 295@11・1   項目にその体験が影響ありと回答してい

412  22.7

、。「・五11,2デ・・箔1 た。そのうち,。韻繍観の蹴,b

く力量の形成

子供のヘルスニーズを見抜く力,e教師

C 問題解決の力量形成 20.6  13.6 21.4  22.2 27.3   111

を組織する力の3種に関しては,皿群と

d 保健教育の力量形成 23,5  27.8 28.6  44.4 25°@°   ∬群の間に有意差が認められ,皿群(中

e 教師を組織する力量形成 235  227 42.9−『B 45 0   堅養護教諭)が,その体験の影響をより

強く認めていると言える。異動体験の累

f 養護教諭の地位確立 17.6  227 214    0 4.5    0

積に基づく差と言えよう。

9 養護教諭としての志気 38.2  318 42.9  556 4α9@11・1    なお,養護教諭の力量(a〜f)に加 えて,9養護教諭の志気も回答肢に加え ておいたが,異動体験が養護教諭の志気 に影響すると回答した者が%〜%に達していた点は,注目できよう。

3)結婚および家庭生活の変化

結婚によって変化する生活内容として「配偶者」(教職員であるか否か)や「義・実父母との同 居」(同居の有無)等が含まれるので,その差についても調べたが,それらが,養護教論の力量形 成に影響を与えた様子はみられなかった。

それよりも,子供を育てる経験というものが,大きく影響を与えていることがわかる。表6一 2は,各力量が,結婚により,プラスに影響を受けたかどうかの回答率を,既婚者のうちの子供 有り群となし群に分けて比較したものである。全ての力量項目について,子供あり群の方が高い回 答率であるが,特に,b子供のヘルスニーズを見抜く力量に関しては顕著な差が認められる。

(11)

大谷・豊崎:養護教論の力量形成に関する研究      43

愛知県の養護教諭山内テル氏が述べている通り1ω,学校での「養護」と家庭での「育児」の能力 が相互に関連し,高めあっているのであろう。まさに,わが子の成長が,養護教諭としての成長に つながっていく。子供は「生まれ育っている」という,その存在だけで,既に養護教諭である母親 の協力者になっているとも言えよう。

2 卒業後の生活・研修と自己評価成績との関連

卒業生の学校内外における生活体験や研さんの状況が,養護教諭としての執務を遂行する上での 力量形成に関連しているかどうかをみるために,その生活状況・研さん状況別にプラス評価の割合 を比較した。その結果,各力量項目毎に有意な差が認められたものをあげると,表7の通りになる。

表7 力量形成を促進させる要因

力量 a 養護教諭 b 子供およ c 問題解決 d1保健室で d2集団に保 e1教職員へ e2教職員の f 養護教諭 観の確立 び健康問題

とらえ見 にとりくむ 保健教育を 健教育する 問題提起す 連携を組織

の身分確立 ノとりくむ

要因 抜く力量 力量 行う力量 力量 る力量 する力量 力量

 勤年務数

*少ない

i皿皿群)

*少ない i皿群)

生児 ***

徒童 500人未満

(皿群)

*** *** ***

(間理 校長 教 頭 校 長 校 長

@(皿群)

校 長

解関 ***

あ係 保健部教師 教務主任

(E皿群) (H皿群)

*** **

職場全体 職場全体 職場全体 職場全体 職場全体

(皿群)

o **

転勤あり 育児休業あり 転勤あり 育児休業あり

家 務 (H皿群) (且1江群) (皿皿群) (皿皿群)

庭 生

生 活 ● ● ●

育児休業あり 子供あり

(皿皿群) (皿皿群)

の新 *** ** *** *** ***

関聞 注意深く読む 注意深く読む 注意深く読む 注意深く読む 注意深く読む 注意深く読む

心へ (皿群)

 主

Qマ **

サークル活動 サークル活動 サークル活動 サークル活動

加ル に参加 に参加 に参加 に参加(皿群)

表中に記した事項は力量形成への関与(関連)が有意な差で認められたものを示す。

なお・印は体験者の意見に基づく。

これらは,力量形成に影響する,言い換えれば力量形成を促進させる要因と言えるであろう。な お,表中の勤務生活,家庭生活の欄には,前項1,体験者の意見の回答もあわせて記載してある。

(12)

1)各力量に関する影響要因

促進要因を勤務校(現任校)の状況,勤務・家庭生活および研さんの三つに大別して,その影響 をみてみると,3要因がそろって関連ありとなる力量がある一方,一つの要因のみが関連する力量 もある。すなわち,力量の内容によって促進(関連)する要因が異なることが明らかにされた。

。三要因が関連する力量:a養護教諭観の確立,e2教職員の連携を組織する力量

。勤務校の要因が関連する力量

勤務校の要因のほか,勤務・家庭生活要因が関連する:c問題解決に取り組む力量 o勤務校の要因のほか,研さん要因が関連する:d2集団に保健教育する力量

el教職員へ問題提起する力量, f養護教諭の身分確立に取り組む力量

゜勤務校の要因は関連がみられない力量

勤務・家庭生活要因と研さん要因が関連する:b子供を見抜く力量 o研さん要因のみが関連する:d1保健室で保健教育する力量

2)影響要因について

① 勤務校・職場の状況 O勤務年数

c問題解決に取り組む力量とd2集団に保健教育する力量に関しては,転勤して勤務年数がまだ 少ない群の方が,プラス評価をしていた。いくらベテランであっても,養護教諭の場合転勤すると,

新しい勤務地での実践は,なかなか軌道に乗らないと言われているが,転勤体験がプラスして,力 量が成長すると自覚できるものもあることがわかった。

o児童生徒数

d2集団に保健教育する力量は,学校規模が小さいほど,保健教育の機会も作りやすく,また,指 導しやすいので,そのことが力量形成に関連していると言えよう。

o人間関係

「養護教諭に最も理解を示してくれる教職員は誰ですか」という問に対する回答に基づき,比較 検討してみた。その結果,教頭,教務主任,保健部に所属する教師の理解を得ていると回答した群 がそうでない群に比べて,有意にプラス評価がなされているという力量が数多くみられた。また,

「今までのうちで,上司,同僚等の無理解,あるいは不当扱いにより,養護教諭としての志気を失 ったことがありますか」という質問に対する回答で,そのようなことがない,すなわち,職場全体 の人間関係がよいという群も,そうでない群に比べて,各種の力量にプラス評価をしている割合が 高かった。

以上のことより,勤務校の上司,同僚等に理解され,また,職場全体からも理解されている等の よい人間関係は,養護教諭の力量形成全般にプラスに作用していると言える。このことは,小島氏 が「一般教師の考える成長要因として,人間関係が重要視される」11)と述べている点と共通してい

る。

しかし,その中で,一般教師の場合は,校長のリーダーシップやアドバイスは,あまり重要視さ れず,もっぱら学年主任や学年教師の指導が,新任教諭の成長に非常に重要な役割をもっていると 指摘されているが,養護教諭の場合,学年教師のような所属する親しい教師の存在が無い。

(13)

大谷・豊崎:養護教論の力量形成に関する研究      45

それは・次のようなことからも裏づけされる。「養護教諭としての専門的な執務をすすめていく 上で,行詰ったこと,悩んでいることを個別的に相談にのってもらい,指導・助言を受けたことが あると思います・今年度は・どのような人に相談し,助言を受けましたか」という質問に対し,近 隣の養護教諭(62%)・現任校の同僚(47%),茨大同級生(養護教諭)(44%),茨大卒の先輩 養護教諭(33%),現任校上司(24%),大学教官(12%),その他,という順の回答であった。

たとえ,新任養護教諭であっても職場の同僚等からは,専門的な指導をしてもらえない。 専門職 養護教諭 の集団の助け合い,裏をかえして言えば,職場にあっては,孤独な 専門職養護教諭 の姿を見ることができよう。

②勤務生活,家庭生活

前項で力量形成に影響するかどうかを体験者に質問し,その結果,各種の力量に影響していると 述べた。しかし,体験の有無と力量のプラス評価状況とのクロス集計結果では,有意な差は認めら れなかった。影響要因については,前項に記したので,ここでは略す。

③研さん

。新聞への関心

「養護教諭として必要な知識を得る媒介として,新聞にどの程度の関心をよせていますか」とい う質問に対して,「非常に期待し,注意深く読む」と回答した群が,多様な力量に有意にプラス評 価をしていた。日進月歩の医学,保健情報あるいは,教育問題,子供の問題に関する情報を見落さ ないように常日頃から気を使って収集している養護教諭の姿勢が,養護教諭の専門的力量の形成に 大きくかかわると言えよう。

o校外における自主的サークルの参加

サークル活動に参加している群は,養護教諭の力量のうちでも,その成長速度が緩いもの,すな わち・中堅養護教論にとっても難しいとされる力量(例えば,b子供をとらえ見抜く力量, d2集団 に保健教育する力量,e2教職員の連携を組織する力量など)について,プラス評価している者が有 意に多いという点は,注目に値する。

前記したように,職場からの専門的力量の指導がなされない養護教諭にとって,養護教諭自身の かかえている課題を達成していくためには,自主的なサークル活動に参加していくことが有効な手 段のようである12)。また,新聞への関心や自主サークル活動に参加するという研さんに積極的,意 欲的な姿勢が,養護教諭の力量全般に有効に作用し,その成長を促進させているとも言えるであろ

う。

IV ま と め

本大学卒業生である養護教諭を対象に自己の力量の自己評価および,力量形成影響要因に関する 項目について調査した結果,次のような所見を得た。

1.養護教諭の力量形成の過程は,力量の内容(項目)により,その成長,飛躍時期が異なって

いた。

有意な差をもって飛躍した時期をポイントにして,その成長過程をみると,次の通りである。

(14)

o養護教諭の役割・機能の理解は,就職直後に,ある程度理解されるが,その後の伸長は緩やか になる。

O子供および健康問題をとらえ見抜く力量は,確実に経験と共に成長していく。

。問題解決に取り組む力量は,就職直後の成長はあまりみられないが,その後は,経験年数の増 加とともに,大きく成長がみられる。

o健康増進のための保健教育を行う力量は,就職後4年以降に成長がみられるが,その後の成長 過程は緩やかである。集団の保健教育に関する力量は,中堅養護教諭であっても,低い評価となっ ている。

o教職員との連携ならびに組織的活動の推進のための力量については,問題提起は就職1〜2年 後の段階で,ある程度評価できるが,さらに4〜7年後に大きく成長している。しかし,教師を組 織する力は,その成長過程は緩やかで,中堅養護教諭にとっても成長を自覚することは難しい。

o養護教諭の身分確立に取り組む力量は,8年以降に,急激に成長を認めることができる。

2.力量形成に影響する要因,すなわち,養護教諭の成長条件は,多種類が相互関係をもちなが ら作用しており,また,力量の内容によって,その成長条件は異なる。

おもな成長条件,力量形成に影響する要因は次の通りである。

o勤務校,職場の条件 学校規模,勤続年数のほか,職場の人間関係とくに,養護教諭に対する 理解状況が関係する。特に「般教師の場合と異なり,校長の養護教諭理解状況が大きく影響する。

O勤務生活・家庭生活 転勤や育児休業などの職場異動体験,あるいは,子育て体験が,ある種 の力量の成長に影響している。

O養護教諭の研さん姿勢 日常生活において新聞に関心を寄せていたり,自主的なサークル活動 に参加するなどの積極的,意欲的な研さん姿勢が,養護教諭の力量の全般に大きく作用している。

おわりに,本調査にご協力いただいた卒業生の皆さまに感謝いたします。

1)林友三郎「教師はいかにして教師となるか」r生活指導』270(1980)pp.22−29,

2)小島弘道ほかr若い教師の力量と研修需要に関する実証的研究』(第20回日本教育経営学会研究発表資料 1980)PP.1−2.

3)前掲書 2)

4)前掲書2)P.3.

5)小倉学「養護教諭養成の現状と今後の課題」r学校保健研究』20−7(1978)p303.

6)国立養護教諭養成所協会 養護教諭の職務内容検討委員会r養護教諭の職務内容について』(1973)

7)全国養護教諭サークル協議会r10年のあゆみ』(1980)pp.25−94.

8)全米学校保健協会学校看護委員会(小倉学・中村明子・町田和子訳)rアメリカ学校保健協会学校看護委 員会報告書 学校保健計画におけるナース・学校看護指針』(東山書房 1969)pp」7−22. pp 57−75.

9)大谷尚子「専攻学生の入学後,卒業後の変化」学会要望課題「養護教諭の養成教育のあり方をめぐって」

(15)

大谷・豊崎:養護教論の力量形成に関する研究      47

『日本学校保健学会講演集』(1982)pp.68−69.

10)山内テル「学校の子どもへの愛とわが子への愛とのかかわり」r健』6−2(1977)pp.23−27.

11)前掲書 2)pp.17−27.

12)大掘美和子・五十嵐順子・小倉学「現職養護教諭の研修に関する実態調査」r養護教諭の職務研究 第4集』

(1971)PP.213−230,

参照

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