市立室蘭医誌(第29巻 第1号 平成16年4月)
精神神経科 山 田 淳
形成外科 今 井 章 仁
神経内科 鈴 木 昭 治
眼科 井 上 直 紀
外科 渋 谷 均
放射線科 楢 屋 弘 明
整形外科 大 山 直 樹
臨床:循 環 器 科 安 達 健 生 病理:臨床検査科 今 信一郎
臨床:消 化 器 科 田 沼 徳 真 病理:臨床検査科 小 西 康 宏
産婦人科 太 田 雄 子
泌尿器科 宮 尾 則 臣
薬局 加 藤 久 晴
小児科 春 日 亜 衣
臨床検査科 松 田 啓 子
耳鼻咽喉科 本 間 朝
リハビリテーション科 関 山 裕 司
消化器科 畠 山 巧 生
呼吸器科 中 島 一 貴
臨床:消 化 器 科 佐 藤 修 司 病理:臨床検査科 小 西 康 宏
臨床:消 化 器 科 本 多 佐 保 病理:臨床検査科 今 信一郎
精神神経科 山 田 淳
統合失調症は,患者の社会生活にも大きな影響を与え てしまうことの多い疾患であるが,その具体的な状況に 関して調査した報告は少ない.今回は,平成14年6月 の時点で当科で治療中の統合失調症患者の病状・経過・
生活状況などについて調査した.協力が得られたのは4 74人で,男性242人,女性が232人であった.治 療形態としては外来が376人,入院が98人であった.
調査結果からは,統合失調症は10歳代半ばから30歳 代半ばまでに好発して就学の妨げとなり,その後も再発 を繰り返して複数回,長期入院を必要とし,そして病状 が落ち着いたとしても残遺症状を残し,就労,結婚の大 きな障壁になっていることが改めて確認された.このよ うな状況を改善する為には,退院や就労を支援する社会 的資源の充実など,行政レベルでなければ解決できない と思われる面も多かった.
平成14年12月24日に障害者基本計画が閣議決定 され,それに沿って障害者施策推進本部が定めた重点施 策実施5か年計画では,精神障害者に対するホームヘル パー,共同住居,授産施設などを充実させていくことが もりこまれている.今回の,当院にて治療中の統合失調 症患者の調査結果から導き出された課題に合致する点も 多く,これらの計画が実行されることにより,統合失調 症患者のハンディキャップが,少しでも緩和されること を期待したい.
形成外科 今 井 章 仁
[要旨]褥瘡はその予防が最も重要であり,もし発生し てしまった場合でも,早期発見,早期治療によりその多 くは保存的に治癒させることが可能である。しかし不幸 にも広範囲で深部に達する褥瘡が発生した場合,保存的 治療のみでは限界があり,手術をするかそのまま長期に 処置を続けるかを選択することとなる。手術には各種皮弁,
植皮などのさまざまな方法が報告されているが,患者の 全身状態,術後の安静などを考えると適応症例は限られ てしまう。今回われわれは術後管理の困難な症例に対し Buried Chip Skin Graftingを行い良好な結果を得た。この 方法は褥瘡が肉芽に覆われている必要があるが,局所麻 酔下に手術可能であり,患者への侵襲が少なく,術後管
理も容易である。[はじめに]褥瘡の手術にはさまざま なものがあるが,今回我々は,buried chip skin grafting1)
を行い,良好な結果を得たので報告する。[方法]この 手技では,植皮をするにあたり創面は肉芽に覆われてい る必要がある。麻酔は患者の状態にもよるが局所麻酔に より十分可能である。褥瘡のポケットが深い場合,創面 全体が直視下に処置できるよう必要に応じ切開を加える。
大腿外側面などから切手サイズの皮膚を分層採皮し,こ れをはさみを使って1mmから2mmの小片に切り分ける。
切手サイズ一枚から100枚近くの小片が作成できる。無鈎 の微小鑷子を用いて,創面に皮膚片を挿入するための深 さ約5mmの小孔を作成し,5mmから1cm間隔で肉芽に皮 膚片を埋め込む。このとき皮膚の表裏を確認するため,
ルーペを用いている。肉芽の厚さが十分でないときは斜 めに埋め込むことで,皮膚片の脱出を防ぐ。術後は1日1回,
生理食塩水または水道水にて洗浄後,各種外用剤,貼付 材を用いて処置を続ける。術後一週間頃より皮膚片が表 面に現れ,術後約4週間で上皮化が完了する。
[症例]【症例1】52歳,女性.ウエルニッケ脳症にて 長期臥床中,仙骨部に褥瘡形成した。6ヶ月間の保存的治 療を行なうが治癒せず,本法を施行した。大腿外側より 分層採皮し,これを小片に分割。術後1週間にて植皮片 が伸展し,肉芽表面に現れ,術後4週にて上皮化が完了 した。【症例2】84歳,男性.脳血管性痴呆にて長期入 院中。仙骨部褥瘡に対し数年に渡り保存的加療が行なわ れていた。頭側のポケットを切開し,buried chip skin graftingを施行。術後5週にて上皮化が得られたが,全身 状態の悪化に伴い再発が見られた。【症例3】71歳,女性.
統合失調症にて入院中,背部に褥瘡を形成。術後4週にて 上皮化が得られた。【症例4】70歳,男性.対麻痺によ り仙骨部の褥瘡を繰り返し,2度の皮弁術を施行される も縫合線上に再発が見られた。buried chip skin graftingを 行い4週後に上皮化,リハビリ施設へ転院した。
[考察]褥瘡の手術治療に関しては,さまざまの報告が あるが,皮弁あるいは植皮によるものがある。皮弁の利 点はその強さにあり,長期にわたる再発の防止に重要で ある。しかし,皮弁手術の場合,全身麻酔が必要なこと が多く,また術後に長期間の安静が必要である。植皮は 皮弁に比べ手技的に容易であるが,皮弁同様,植皮の生 着には術後の創部の安静が不可欠である。褥瘡が出来る 患者は,もともと全身状態が悪いことが多く,これらの 手術を受けることは患者にとって多大な負担であると考 える。これに対し, buried chip skin graftingは局所麻酔で 手術が可能であり,術後も術前と同様の生活を送ること ができることより,患者への負担はほとんどない。手技 は形成外科的な基本手技を習得していれば,特に高度な 技術を必要とせず,手術器械も一般的な物で対応しうる
事より,施設を選ばず施行可能である。再発に関しては 植皮面と周囲との境界に線状の潰瘍形成をすることがある。
植皮面の皮下組織に可動性がないため周囲組織とのズレ 応力が生じることによる。その場合も多くは保存的治療 により再上皮化し,問題となることはなかった。[結語]
褥瘡に対してburied chip skin grafting を行い良好な結果 を得た。患者の負担が少なく,手技が容易であり有用な 方法であると考えた。
[文献]
1) Sawada Y : Buried chip skin grafting for treatment of perianal burns. Burns 15 : 36-38, 1989.
神経内科 鈴 木 昭 治
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが系 統的に傷害される原因不明の神経変性疾患である。全身 の筋萎縮が進行し、自然経過では嚥下障害、呼吸障害で 死にいたる。
平均罹病期間は3年(3年未満50%、5年以上生存30%)、
有病率は10万人に2〜6名で、全国に約5700名の患者がいる。
北海道のALS患者は平成12年度311名、日胆地区に約30名、
その半数が室蘭保健所管内の患者である。
平成12年10月から2年半の間に、当院では7名(男性5名、
女性2名。4名死亡)の症例を経験した。発症部位は上肢、
下肢、球部と多様であり、初期には必ずしも診断が容易 でないため、ほとんどの例が整形外科・脳外科・耳鼻科 などを経て当科を受診しており、5名は診断までに1年以 上経過している。呼吸障害に対して、最終的に気管切開・
レスピレーター装着の有無の選択が必要となる。4名の死 亡者は、高齢、独居あるいは2人世帯などのためレスピレ ーターは選択されなかった。
レスピレーター装着後も積極的な生活をされる方々も あるが、以下のような問題点もある。1)装着後も症状 は進行するので、補助手段を用いてもやがてコミュニケ ーションがとれなくなる。生命維持はできるがQOLは保 障できない。2)本人の希望があったとしてもレスピレ ーターをはずすことはできない。3)実際的に長期入院 を保障できる医療機関はわずかであり、原則的に在宅療 養となるので、家族全体の介護力・経済力が必要である。
時間をかけた情報の提供と自己選択が必要で、このため にも早期診断が重要である。
眼科 井 上 直 紀
屈折矯正手術はわが国でも50年以上の昔から行われて きた歴史のある手術である.とりわけ,エキシマレーザ ーを用いたレーシック(LASIK)手術が開発されて以来屈折 矯正手術は広く一般に普及し,アメリカではあらゆる外 科手術の中で最も数多く行われる手術の一つとなった.
屈折異常には近視,遠視,乱視があり角膜,水晶体の 屈折率が大きく関わっている.屈折矯正手術は主に角膜 の屈折率を調整することによって屈折異常を矯正する手 術である.屈折矯正手術の歴史は,1947年佐藤(日本)に よって開発された角膜前後面放射状切開術が始まりである.
ところが,術後合併症の出現やハードコンタクトレンズ の普及によって佐藤式手術は次第に行われなくなった.
その後1986年トロッケル(アメリカ)によりエキシマレー ザーを用いた角膜表層切除術(PRK)が開発され,1990年パ リスカス(ギリシャ)によってレーシックが考案された.
PRKは角膜上皮をエキシマレーザーで直接切除する手 術法であり術後の疼痛,角膜混濁,矯正量の戻りがみら れるなどの問題がある.これに対してレーシックは角膜 上皮をマイクロケラトームでフラップ状に切除し,フラ ップ下の角膜実質にエキシマレーザーを照射したあとフ ラップを元に戻す手術法である.このためPRKに比べて 術後疼痛,角膜混濁が少ないなどの利点がある.PRKと レーシックの術後成績を比較すると,レーシックでは PRKに比べて早期に視力が回復することが多いが,長期 的な視力予後においては両者に大きな差は見られない.
また,レーシックの合併症は角膜フラップのずれによる 感染,角膜混濁などが挙げられる.
現在,日本眼科学会は屈折矯正手術の適応を「20歳 以上で眼鏡あるいはコンタクトレンズ装用の困難な症例 でかつ(1)2D異常の不同視(2)2D以上の角膜乱視(3)3Dを超 える屈折度の安定した近視のいずれかに該当するもの」
とガイドラインに定めている.次世代の屈折矯正法とし てWave front LASIK,LASEK,有水晶体眼内レンズ,
ICRLなどが開発されている.近い将来,遠視矯正のレー ザー手術も可能になってくるであろう.
外科 渋 谷 均
[目的]高齢者の手術方法は生活年齢の個人差があり,
一概に論ずることはできないが,一般的に80歳を超えた 患者では併存疾患を有し,身体的な衰えが著明であるこ
とが多い.今回,高齢者胃癌について臨床病理学的特徴 と合併症を明らかにし,高齢者胃癌の治療はどうあるべ きかについて検討した.[対象]1975〜2000年までに経 験した胃癌症例のうち80歳以上46例を高齢者群とし,若 年者胃癌の影響を受けないと思われる50〜69歳までの 393例を対照とした.[結果]胃癌症例の80歳以上の占 める比率は1975〜1979年では1.7%であったが1995〜1999 年では12.1%と7倍以上の増加を認め,今後さらにその比 率は高くなると予想される.高齢者群の平均年齢は82.2歳,
男女比は1.9:1,また対照群では60.8歳,2.7:1であった.
腫瘍占居部位では高齢者群でM領域に多く有意差を認め た(56.5%:39.4%).肉眼型,深達度,術式では有意差を認 めなかった.リンパ節郭清ではD1が高齢者群に多く (56.5%:26.7%),逆にD2は少ない(21.7%:54.5%)結果であ った.リンパ節転移陽性率は高齢者群32.6%,対照群40%
と高齢者群に少ない傾向であったが有意差を認めなかった.
進行度では差を認めなかった.病理学的にはpap,tub1,
tub2など分化型の占める比率が高齢者群67.4%,対照群 58%と高齢者群に多い傾向であったが有意差を認めなか った.3年,5年生存率は高齢者群64.7,52.2%,対照群66.8,
60.3%と高齢者群でわずかに予後不良の傾向であったが 有意差を認めなかった.術前併存疾患の比率は高齢者群 62.8%,対照群38.5%と有意差を認め,循環器疾患(糖尿 病,心疾患,高血圧,脳血管障害)が主なものであった.
術後合併症の頻度は高齢者群17.1%,対照群7.5%と有意 差はないが高齢者群に多い傾向であり,その主なものは 術後せん妄であった.[結語]高齢者群では腫瘍の占居 部位でM領域に多いことを除けば進行度,生存率に有意 差を認めなかった.しかしながら術前併存疾患の頻度は 有意に高く,また術後合併症としてはせん妄が多い結果 であった.術後せん妄の防止策としては患者と医療者の 意志の疎通を十分に図ることが必要であり,また術後は 酸素の長期投与,key-personとなる家族の術後早期から の介護が必要である.術式では手術侵襲をより少なくす ることが重要で症例によってはD1郭清で十分と考えられ る.
放射線科 楢 屋 弘 明
昨年8月、当院にCR装置、コニカ「REGIUS MODEL 170」が導入され約9ヶ月が経過した。
CR装置の特徴としては、フィルム−スクリーンの代わ りにIP(イメージングプレート)を用いること、X線 に対してのダイナミックレンジの広さなど様々あるが、
最も大きな特徴は撮影後の画像に対して画像処理を行え
るという点である。
コニカ「REGIUS」は、自動階調処理(G処理)、
周波数処理(F処理)、イコライゼーション処理(E処 理)、ハイブリット処理(H処理)と大きく4つの画像 処理機能をもつ。今回は、主に前記4つの画像処理機能 の特徴及び、各画像処理を加えることによる画像の変化 を実際の画像を中心に紹介する。
またこれに加えて、今回のCR装置導入により、以前 のフィルム−スクリーンを使用していた時と比較して、
どのような効果があったのか、またどのような問題点が あるのかを検討しここにあわせて報告する。
整形外科 大 山 直 樹
【目的】今回,我々は当科における人工膝関節置換術(TKA) のクリニカルパス(CP)の検討を行なったので報告する.
【対象及び方法】対象はCP導入以前に行なわれたTKA9 例(非CP群)と導入後に行なわれたTKA9例(CP群)で ある.年齢は非CP群では平均72.3歳(66〜77歳),CP群 は72.7歳(61〜80歳),性別は各々男1例,女8例,男2例,
女7例であった.術前の可動域は各々平均-11.1°〜130.6°,
-11.1°〜124.4°であった.疾患別では各々OA 9例,RA 0例,OA 8例,RA 1例であった.調査項目は1. 術後膝屈 曲90°になるまでの日数,2. 歩行開始までの日数,3. 杖 歩行自立までの日数,4. 在院日数,術後在院日数,合併症,
5. 診療報酬点数,一日当たりの診療報酬点数,6.術後3 ヵ月における可動域で,両群について比較検討した.
【結果】膝屈曲90°になるまでの日数,歩行開始までの 日数は両群間に有意差はなかったが,歩行自立までの日 数は各々平均26.3日,20.9日とCP群が有意に(p<0.05)
早かった.在院日数は各々平均62.8日,47.7日(p<0.05),
術後在院日数も42.7日,34.0日(p<0.01)とCP群が有意 に少なかった.両群とも合併症はなかった.診療報酬点 数は各々平均250072点,223419点と非CP群が有意に(p
<0.05)高いが,一日当たりの診療報酬点数は平均4074点,
4721点と逆にCP群が有意に(p<0.01)高かった.術後3 ヵ月における可動域は両群間でほぼ同様であった.
【考察】術後4週で退院の予定だが,退院後のADLを考慮 して,34日と遅くなったと思われる.これからの課題と して,術前の自己血採取は外来で行なうこととし,術後 関節可動域改善が悪い場合,早期の麻酔下徒手授動術を 行なうことを考えている.
司会:消化器科 近 藤 吉 宏
臨床:循 環 器 科 安 達 健 生 病理:臨床検査科 今 信一郎
臨床経過:
平成4年より高血圧にて近医へ通院していた。平成7 年11月労作時胸痛を主訴に当院循環器科を受診した。
うっ血性心不全と狭心症の疑いにて入院した。冠動脈造 影にて有意狭窄を認めなかったが左室造影では全周性の 壁運動低下を認めた。以後、心不全・VT・肺炎にて入 退院を繰り返す。この間、冠動脈造影に目立った変化は 見られなかったが、左室の壁運動低下は進行していた。
平成15年冬、戸外で氷割りをしているところで倒れ ているのを発見され、救急車にて搬入された。心肺停止 の状態であり蘇生術を施行するもVfを繰り返し死亡した。
病理解剖診断:
1.拡張相肥大型心筋症(640g)、2.大動脈・冠動 脈粥状硬化症、3.管状腺腫(横行結腸、中等度異型)、
4.胃潰瘍瘢痕、5.小葉中心性脂肪肝(1,800g)、6.
肺気腫、7.慢性腎盂腎炎、8.虫垂炎術後状態 心筋線維の肥大、錯綜、核の腫大と共に、広範な線維 化と壁の菲薄化を認める拡張相肥大型心筋症の所見であ った。肉眼的に観察された線維化巣以外の心筋内にも軽 度の線維化が広範に認められた。壁の線維化の原因につ いては諸説あるが、本例では冠状動脈に著しい狭窄を認 めることから虚血性の変化が主因と考えられた。
臨床:消 化 器 科 田 沼 徳 真 病理:臨床検査科 小 西 康 宏
臨床経過:
平成14年12月よりイレウスの診断で前医入院とな っていたが、平成15年2月にはいり発熱を繰り返し、
2月中旬になり突然の腹痛出現。腹膜炎の診断にて当院 紹介入院となるも、手術リスクが高いことから内科的治 療が選択された。入院時採血では、黄疸、胆道系酵素上昇、
腎障害が認められた。CRPが高度上昇しており炎症所見 を認めたが、腹部CT上腹膜炎の原因はつかめなかった。
但し、CEA33.4と高値であったため、癌性腹膜炎 も予想された。上部消化管内視鏡検査では、胃に悪性腫
瘍は認めず、下部消化管内視鏡検査ではS状結腸までし か挿入できなかったが、特記すべき所見は認めなかった。
第9病日午後8時30分頃呼吸状態が急激に悪化。胸部 X線写真にて胸水は認めたものの、肺炎像はなく原因は 特定できなかった。その後徐々に状態悪化し、第10病 日に死亡した。
病理解剖診断:
1.総胆管癌(中部総胆管原発、高分化型管状腺癌)、
転移:膵周囲リンパ節、副腎周囲神経節、胃噴門部、
浸潤:十二指腸、2.肝膿瘍+胆管炎、3.化膿性腹膜 炎(腹水2,800ml)、4.肺水腫(左310g、右540g)、5.
嚢胞腎、6.前立腺癌(左葉、潜在癌1mm、中分化腺癌)、
7.右副腎皮質腺腫(15mm)、8.うっ血脾(230g)、
9.食道粘膜下出血、10.大動脈粥状硬化症
肉眼的に、中部総胆管領域に3×3cmの硬い腫瘤を 触れた。組織学的に、高分化型管状腺癌の像で、中部総 胆管原発と考えられた。癌により総胆管壁に肥厚や変形 が起こり上行性に炎症が波及し、肝膿瘍を引きおこした と考えられた。肝漿膜面に膿苔が付着しており、肝膿瘍 から腹膜炎をおこしたと考えた。肺は、左右とも水腫が 著明で、肺胞腔内に硝子膜様の所見を認めた。肺水腫が 直接死因と考えられた。
産婦人科 太 田 雄 子
平成12年1月より平成15年6月までの間の分娩時 多量出血について検討した。1005件の分娩中、50 0g以上の異常出血をきたしたものは158例あり、こ のうち41例は1000g以上の出血量であった。平成 15年度に分娩時出血が1000gを超えた症例は8例 ありその原因として弛緩出血、前置(低位)胎盤、常位 胎盤早期剥離、DIC、子宮筋腫合併妊娠、帝王切開など があった。分娩開始以前に診断可能で分娩時出血が多量 となる可能性の高い疾患として前置胎盤、子宮筋腫合併 妊娠、反復帝王切開などが挙げられるが、当科ではこれ らの疾患を有する妊婦に対して妊娠末期に自己血貯血を 行い分娩時の出血時に自己血輸血を行っている。平成1 2年以降4例の分娩時自己血輸血を行いいずれの症例も 他家血輸血を回避できた。症例は29才初妊婦で子宮筋腫、
子宮内膜症を合併し辺縁前置胎盤のため自己血貯血を行 い待機していたところ、子宮出血のため緊急帝王切開と なった。術中・後に出血量は1800gとなったが、自 己血輸血のみで対応し産褥期の経過は良好であった。分 娩時出血多量となる可能性が高い妊婦にとって、自己血
を貯血して分娩時出血に備えることはきわめて有用と思 われる。
泌尿器科 宮 尾 則 臣
目的:当科定型的手術の準備血液量をretrospectiveに検証 し、evidenceに基づいた準備血液量を算出し、自己血輸 血を併用した場合の適切な準備血液量を検討した。対象 と方法:1992年〜2002年までの泌尿器科定型的手術128 例を対象とした。輸血準備量の検証は準備MAP単位数を 使用MAP単位数で除したC/T比で検討した。適正な準備 血液量を定型的手術の平均輸血量の1.5倍に設定し最大手 術準備血液量(maximum surgical blood order schedule: MSBOS)
を算出した。なお、平均出血量500ml以下では輸血準備 不要、輸血の可能性が30%以下で出血量500ml以下の場合 はtype and screen(T & S)とした。結果:輸血準備量の 検証では、適正なC/T比が1.5〜2.5以下とされているが、
何れも7.8〜無限大であり、準備血液過剰であった。平均 出血量からMSBOSを算出すると、根治的前立腺摘除術、
根治的膀胱摘除術、腎摘除術・腎尿管摘除術の開放手術 においてはMAPで各々6、8、5単位であり、ハンドアシ スト式腹腔鏡下腎摘除術、腹腔鏡下副腎摘除術ではT &S、
腹腔鏡下骨盤内リンパ節郭清術では輸血準備不要と考え られた。これらは自己血輸血を考慮しないため、400な いし1200mlの自己血輸血を併用した同種血輸血準備量を 試算したところ、根治的膀胱摘除術のみでT & Sで、そ の他の手術では同種血輸血準備不要と考えられた。考案:
善意による献血の有効利用と、輸血による合併症を減少 させるためには自己血輸血やMSBOSの算出が必要で、こ のevidenceから血液準備がなされるべきと考えられた。
血液供給体制、院内のコンセンサス、麻酔科医の協力な ど当院でこれまでに築かれた基礎があったからこそ可能 であるが、術者の技術の向上など、同種血輸血を回避す る努力も必要であると思われた。
薬局 加 藤 久 晴
近年、医療過誤・医療事故の事例をよく耳にする。そ の中で、抗癌剤による医療事故の事例も少なくない。薬 剤師が混注することによって、より多くの人の目を通し 鑑査することで、事故を未然に防ぐ可能性が高くなる。
当院では、平成13年11月にIVH用高カロリー輸液 の無菌混注が試行され、翌年4月から施行している。平
成14年11月には無菌製剤処理施設基準の認定を受け、
平成15年3月からは化学療法の無菌混注も施行した。
無菌製剤処理を実施した場合、1日につき40点加算で きる。現在IVH用の無菌混注が6階西病棟と3階西病棟で、
化学療法の無菌混注は全病棟および外科外来で実施して いる。
混注業務は、クリーンルームで行い、特に化学療法剤 の混注に関しては、総投与量設定薬剤の管理から三重の チェック体制のもと、混注を行っている。また、ラベル には今年8月より抗癌剤の略名または一般名と用量を記 載し、内容薬剤の確認が行えるようにした。
今回、特に化学療法剤の申込みから無菌混注終了後の 最終鑑査までの流れをクリーンルームの紹介も含め報告 する。
薬剤師が無菌混注することで、①院内感染防止および 患者のリスク軽減、②まとめて混注することによる時間 短縮および診療材料等の経費節減、③薬剤師も関与する ことで、医師との二重の投薬量チェックによる医療事故 防止、④保険点数加算による病院の収益増が図れる。
小児科 春 日 亜 衣
一定の大きさの動脈管開存をコイルを用いて経カテー テル的に閉鎖する試みが、広く行われるようになってき ている。本年度、当院にて2例の幼児に対し、無症候性 の動脈管開存の経カテーテル的閉鎖術を施行し、合併症 無く完全閉鎖を得た。基礎疾患を持ち、今後のMRI施行 の可能性を残す例に対しては、従来用いられているステ ンレス製ではなくプラチナ製着脱式コイルを本道で初め て使用した。
(1979年から2002年)
臨床検査科 松 田 啓 子
血液培養は敗血症や菌血症の原因菌検索に欠くことの できない検査法であるが、大学病院や大規模施設の報告 はあるが当院規模の報告は見あたらない。分離記録の残 された1979年から24年間の成績をまとめたので報 告する。
血液培養瓶は1982年7月までカルチャーボトル(栄 研)、以後はBCBボトルシステム(ロシュ)を採用、培 養日数はいずれも約2週間、陰性時はサブカルチャーで 確認した。1996年7月より自動血液培養装置バクテ
ック(9120型、BD)を導入。好気用、嫌気用レズ ンボトルを採用、培養日数は7日間。集計対象は197 9年から2002年12月までの24年間の陽性成績で 2年毎にまとめ1期から12期として経年動向をみた。
分離菌内訳数は同一症例同一菌種の重複を削除した例数 として示した。
薬剤感受性は微量液体希釈法マイクロスキャン(DADE)
採用の1992年以降の成績をまとめた。
繁用抗菌剤の種類と量は当院薬局の1989年以降の購 入実績からまとめた。
【結果】検査依頼数は1期で427件、最も新しい12 期で2177件と約5倍に増大。10期は1997年6 月の新病院移転開業の影響で依頼数が少ない。単純陽性 率は1期が最大で18.94%、7期で最低値6.93%、
自動血液培養装置採用以後の10期、11期、12期は 13%以上であった。
分離菌をグループ分けしてみるとGP groupが一時増加傾 向を示したが、11期12期とGN groupが増加を示した。
GP groupの菌種ではS.aureus が7期から増えはじめ 1 2期には31例を数えた。31例のうち24例はMRS Aであった。ちなみにMRSAの初症例は5期の198 7年泌尿器科入院の患者であった。GN groupではE.coli が 1 1 期 3 0 例 、 1 2 期 4 3 例 を 数 え た 。 1 2 期 で
K.pnumoniae16例、A.baumanii11例、P.aerogenosa9例、
S.marcescens10例,E.cloacae10例であった。
近年件数増のみられたE.coli、K.pnumoniae、A.baumanii のCEZ,CMZ,PIPC,MINOについてMIC値をみたが、
A.baumaniiを除いては、特に大きな耐性化はみられなか
った。抗菌剤の中でセフェム剤が最も購入量が多く1995 年を境に第一、第二セフェム剤の増加と第三セフェム剤 の減少を示したが血液分離MRSA例数はむしろ増加した。
2002年では第二セフェム剤が更に増加し、第四セフ ェム剤も減少したが、MRSA例数は14例を数えるに 到った。以上のことから起炎菌に焦点を当てた抗菌剤の 適正な使用が強く求められていると思われた。
耳鼻咽喉科 本 間 朝
症例1は54才男性.症例2は53才女性.2例は高カルシウ ム血症,血中intact-PTH高値より原発性副甲状腺機能亢進 症と判明した.単発性の副甲状腺腫瘍を認め,手術を施 行し,腫瘍を摘出した.腫瘍は腺腫であった.手術前に おける腫瘍の局在部位判断にCT,MRIが有用であったが,
Tl-Tcサブトラクションシンチは有用ではなかった.手術後,
血清カルシウム値,血中intact-PTH値は正常化した.
症例3は29才男性.IgA腎症による慢性腎不全のため,
血液透析を施行されていた.高リン血症,血中intact-PTH 高値,続発性副甲状腺機能亢進症,副甲状腺腫大を認め,
内科的治療に抵抗するため,外科的治療を目的に紹介さ れた.CT,MRIで副甲状腺4腺の腫大が見られた.Tl-Tc サブトラクションシンチでは甲状腺以外の部位に副甲状 腺の存在を示唆する所見はなかったが,4腺の存在を明 確に示す所見はなかった.腫大した全副甲状腺を摘出し,
副甲状腺の一部を胸鎖乳突筋内に自家移植術を行った.
手術後血中intact-PTH値は正常化した.病理の結果,全副 甲状腺は過形成であった.傍気管リンパ節に甲状腺乳頭 癌の転移を認め,現在経過観察中である.
リハビリテーション科 関 山 裕 司
機能回復訓練の中で起き上がりは,歩行訓練とならび 重要な位置を占めている.今回われわれは上肢を使用し ないで起き上がる場合の腹筋筋力と起き上がり動作の関 係を調べた.
(対象)職員とリハビリ治療中の患者.過度の脊椎変形,
骨折のあるもの,ペースメーカー使用者,腰痛の強いも のは除外した.
(方法)起き上がり動作
グレード1:水平面から起き上がる
グレード2:30度ギャッジアップから起き上がる グレード3:45度ギャッジアップから起き上がる 上記動作を下肢固定有り無しで遂行可能かどうか調べ,
最大能力を記録した.
(筋力測定)cybex筋力測定装置を使用し,膝軽度屈曲立 位で等尺性に体幹筋力を測定した.
呼吸器科 中 島 一 貴
従来の抗癌剤に比べると分子標的治療薬イレッサは、
癌細胞に対する特異性に優れており毒性も比較的軽微で ある。また、効果の点でも病勢コントロール率、奏効率、
自覚症状の改善度も比較的高くこのため患者さんのQOL を低下させることなく治療継続が可能である。しかし、
一方でイレッサに起因する急性肺障害、間質性肺炎を起 こすと致命的な経過をたどり慎重な経過観察が必要である。
今回、当科ではイレッサを1カ月以上投与した6例につ いての経過を報告する。6名の内訳は、男性4名、女2名、
年齢50歳〜81歳、2名に従来の化学療法3クールの治療歴 あり、ほか4名は前治療歴なし。組織型は、5名が肺腺癌、
1名が肺大細胞癌であった。臨床病期は、1名がⅢA期、5 名がⅣ期ですべてが進行期非小細胞肺癌であった。効果 としては、4名はPR相当で4週間以内に抗腫瘍効果を認め たほか2名はSD相当であった。毒性に関しては、4名に grade1または2の軽度の皮膚障害、下痢、1名はgrade2の 肝機能障害で治療を中断したほか1名は急性肺障害、間 質性肺炎で死亡された。
司会:消化器科 近 藤 吉 宏
臨床:消 化 器 科 佐 藤 修 司 病理:臨床検査科 小 西 康 宏
臨床経過:
平成9年より慢性C型肝炎のため、当院外来で定期的 に経過観察されていた。平成14年10月の腹部CTにて、
S7に3cm大のHCCを認めた。またS2を中心とした 肝左葉に血流動態の異常領域を認めたが術前診断が難しく、
平成15年1月肝S7切除術予定で手術を開始するも、膵 周囲のリンパ節が著明に腫大しており、根治的手術は不 可能と判断され、HCCも切除せず閉腹となった。その 後定期的に経過観察していたが、呼吸苦と高度の貧血を 認めたため、同年4月に再入院となる。右癌性胸膜炎を おこしていたため、胸腔ドレナージで胸水を抜いた。そ の際、難治性の右気胸を併発していることも判明した。
肺炎を合併し抗生剤による治療を行ったが呼吸不全は改 善傾向を認めなかった。入院第14病日に呼吸状態が急 激に悪化し翌日死亡した。
病理解剖診断:
1.原発性肝癌(2重癌)、①肝細胞癌(肝右葉、中 分化型肝細胞癌)、転移なし、②胆管細胞癌(肝左葉、
高分化型腺癌)、転移:肺、胸膜、膵、副腎、小腸、後 腹膜組織、傍大動脈リンパ節、膵周囲リンパ節、2.肝 海綿状血管腫、3.器質化肺炎(左肺630g、右肺650g)、
4.肺水腫、5.肺炭粉沈着症、6.慢性肝炎(A1,F1)、
7.左水腎症、8.胃潰瘍(胃角部、1.0 x 0.9 cm、UL−
III)。
肝右葉には3 x 2.8 cmの腫瘍を認め、中分化型肝細胞癌
の所見であった。また、左葉には7 x 5 cmの腫瘍を認め、
組織学的に管状の高分化型腺癌像を示す胆管細胞癌であ った。このように肝細胞癌と胆管細胞癌の2重癌は珍し い症例であった。またこの2つの悪性腫瘍の他に海綿状 血管腫も伴っていた。肺は、水腫を認め、組織学的に肺 胞内に線維芽細胞の増生を伴う器質化肺炎の像を認めた。
肺水腫と器質化肺炎による呼吸不全が直接死因と考えら れた。
臨床:消 化 器 科 本 多 佐 保 病理:臨床検査科 今 信一郎
臨床経過:
平成10年12月、当院形成外科において右眼窩腫瘤(ア ミロイド腫瘤)摘出術をうけ、全身精査のため当院消化 器科へ紹介された。この際、M蛋白血症を認めたため平 成11年および平成12年に入院精査を行ったが多発性 骨髄腫の所見を認めずMGUSとして外来で経過観察され ていた。胸部CTにて両肺に多発性のブラを認めたため、
呼吸器科でBF検査を受けたが特記すべき所見は得られ なかった。その後、咳き込んだときに血痰様症状が年に2、
3回出現していたが来院せず放置。平成13年、外来診 察中に失神発作あり循環器科入院精査の結果、神経調節 性失神の診断で内服薬が開始となった。その後も外来受 診中やCF検査後に失神発作を起こすことがあったが呼 吸苦や消化器症状などはなく経過していた。平成15年 9月、市内の路上で吐血し倒れているところを通報され 救急蘇生されながら当院に搬送された。到着時は心肺停 止状態であり蘇生術の効なく死亡した。
病理解剖診断:
1.全身性アミロイドーシス(AL)、両肺内、胸膜 のアミロイド結節形成、右下眼瞼皮下アミロイド結節摘 出術後、全身諸臓器小動脈壁アミロイド沈着(心、肺、肝、
腎、脾、甲状腺、副甲状腺、前立腺、食道、胃、小腸、
大腸、膵、胆嚢)、2.多発性ブラ、両肺、3.左肺出 血(940g)、4.上行結腸管状腺腫、中等度異型、5.
前立腺結節性過形成、6.心肥大(540g)、7.うっ血 脾(340g)
左肺には著しい出血が見られ、右肺にも吸引されてお り肺出血による呼吸障害が直接死因と考えられた。消化 管には明らかな出血点は認められなかった。両肺には下 眼瞼皮下にみられたものと同様のアミロイド結節が多発 しており、結節内にはアミロイド変性の著しい血管が散 見され、これらの血管の破綻に起因する出血と考えられた。
肺以外でアミロイドの沈着がみられたのは小血管壁の みであるが、検索した全ての組織の小動脈壁に於いてア ミロイドの沈着がみられた。結節部に存在する形質細胞 はλ軽鎖を有するものがほとんどでモノクローナルな増 生が示唆された。臨床上は著しい肺出血をきたした点で、
また、病理学的には限局性から全身性への移行を示唆す るアミロイドーシスである点でめずらしく貴重な症例で あった。