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イギリスにおける日本企業の雇用関係

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35

〔研究ノート〕

イギリスにおける日本企業の雇用関係

佐  藤  守  弘

ヨーロッパ諸国に対するわが国産業の直接投資 1.イギリスの日本企業        の累計は,わが国の海外投資の中の12.3%程度で

「現在(1980年),300余りの日本企業が進出し, あり,アメリカ,東南アジア,韓国,台湾などに 総計8億5千万ポンドに達する投資を行ない操業  比べれば必ずしも大きいシエアではないが,そう

している。とくに最近は日本の製造業の系列会社  した中でイギリスに対する投資比率が大きいのは が成長し,まだ20社余りであるけれども,失業者  特徴的事実であるといってよい。

が増加しつつあるイギリス経済に対して雇用の場   その理由としてはさまざまなものが挙げ5れる を提供している。その雇用者数は約15,000人程度  が,第1にはイギリスがアメリカとならんでわが で,イギリス全体の労働力と対比すれば僅かなも  国の近代化,工業化を促進する上で手本となり,

のであるが,しかしその増加率は年々増大の一途  早くから技術や制度が紹介されて親近感をもって

(1)

を辿っている」とDick Wilsonは述べている。  いるという歴史的経緯があげられよう。1871〜72 近年イギリスに対するわが国産業の直接投資は  年の岩倉使節団がアメリカを経てイギリスに渡り,

増加しており,1979年度には100件,6700万ドル, そこで目のあたりにみた産業制度,都市事晴等は 1980年度には127件,1億8600万ドルに達し,ヨ   『米欧回覧実記』に詳細に記録されている。これ 一ロッパ諸国に対する投資件数お・よび投資金額で  以降,イギリスは 先進国 としてわが国の近代 は他を大きく抜いているのである。       化,工業化を促進する目標としての位置を占めてい

これをや・長期的に1951〜80年度の累計投資を  たのである。

みると,716件,20億900万ドルに達し,ヨーロ   第2に,これは戦後の日本で特に著しくなった ッパ諸国の合計に占める割合は,件数で28.4%,  のであるが,英語が他の外国語に比べて利用され 金額で44.9%と圧倒的に大きいのである(第1表)。 る頻度が非常に高くなり,日常的にも業務上でも

第1表 ヨーロッパに対する直接投資      英語を使いこなせる日本人が増加したとことであ

(1951〜1980年) 金額100万ドル

る。日本企業の経営者が語るところによれば,海

構  成  比

外進出の際にドイツ語やフランス語を使いこなせ

件 数 金 額

件  数 金  額

るスタッフを確保することは困難であるが,英語

イ ギ リ ス

シ ド イ ツ

2,009

S97

ll遺

豊:1

についてはそれほど困難を感じないということで

フ  ラ  ン ス 463 384 18.6 8.6 ある。

オ ラ ン ダ 657 298 6.2 6.7

ベ ル ギ ー 177 291 7.0 6.5 第3に経済的に大きな意味をもつところである

ソ     連 X  イ  ス

111 1器 1:1 1:1

が,イギリスはEC市場に対する輸出基地として

ス ペ イ ン 89 173 3.5 3.9 有利な位置を占めていることである。

アイルランド

41 149 1.6 3.3

ルクセンブルグ 45 105 1.8 2.3 EC市場は日本の製造業にとって大変魅力ある

そ  の  他

@ 計

238

Q,522

 181

S,471

9.4

P00.0

4.0

P00.0

輸出市場であるが,日本製品の輸入規制.が行なわ

資料出所:The Japanese Presence in Bri血in, Anglo. れても,イギリスに生産拠点を設けることによっ

JaPanese Ec°n°mic Institute・1981 P 4   て容易に対処できると評価されている。

(2)

第4に部品,製品の輸送面にお』いて,イギリス  ブラウン管工場を完成したが,その操業開始の式 は航空便,海運のいずれにおいても有利な地域で  典にはダイアナ妃が出席するなど日本企業の現 ある。部品,半製品を日本,アジアから輸送し,  地製作に対する期待は大きくなっている。

製品に組立て,それをEC市場に輸出するという  London School of Economics and Political ルートはテレビ,VTRなど電気機械器具では一  Sciences(LSE)に付置されている International 般にみられるところである。       Center for Economios and Related Disciplines

第5にイギリス国内では長期にわたる不況の中  (ICERD)のThurley教授らの調査研究による で,失業率が高く,学校卒業者をはじめとする若  と,日本企業の進出形態は概略っぎの通りになっ 年労働力の確保が容易であるということも挙げら  ている。調査対象の104社のうち,現地法人の製 れよう。後にふれるように,日本企業の労働力構  造販売11,メーカーの販売部門38,商社とその系 成の特徴は若年層の比率が比較的大きいことに認  列企業20,金融関係では銀行12,証券会社5,交 められており,若年労働者が技術の習得,仕事意  通運輸4,保険13,サービス1である。製造業の 識,労使関係に対する態度で,経験の長い労働者  数は前記27工場とは若干相違がある(第2表)。

と異なった面がみられると指摘されている。

第2表 イギリスへ進出した日本企業の形態 第6に地域の失業率を低下させるため,イギリ

スでは政府も地方自治体も雇用創出効果をもつ企

P独 日本企業

日本企業の合弁 英国資本

ニ合弁

その地の国の

ォと台弁

合 計

業の誘致に熱心である。政府等による開発地域の 現地生産・販売

6

1

4

11

指定と,そこに立地する企業に対する手厚い助成 製 品 販 売 30 1

7

38 措置を講じて,アメリカ,西ドイツ,日本など 商社系列企業

焉@融 銀 行

32 10

Q

53 25 20

P2

からの企業立地を積極的に促進していることであ 金 融 証 券

4

1

5

る。日本からの進出企業は大部分が開発地域に立 交 通 運 輸

2

2

4

地し,土地・建物の賃貸,労働力確保に対する援 保     険

T ー ビ ス

2

1 13

P

助,税制上の優遇措置の恩恵に浴している。

56

14

26 8 104

現在のところイギリスの日本企業のうち製造業 資料出所:The Development of Personnel Management

は27工場健設中の1社を含む)である力僕種   }繍騰,8糊曲㎞G煎 掛i臨

別内訳をみると最も多いのが電気機械器具11工場,

ついで機械工業6工場,化学工業5工場,繊維工   また企業の所有形態では,日本企業の単独出資 業1工場,その他4工場となっている。1984年に  が56と半数近くを占めているが,複数の日本企業 入ってから長年の懸案事項であった日産自動車が  の出資が14,日英合弁が26,他の国との合弁が8

(2)

北イングランドに進出を決定したが,イギリス国  となっている。

内では大きな期待が寄せられている。        さらに投資目的についてみると,最も多いのは 電気機械工業はテレビ,テープレコーダー,V  イギリスおよび他の国の市場への販売拡大を目的 TRなどが主力であるが,ソニー,松下,日立,東  とするものが59であり,ついでデータ収集が21,

芝,三菱など日本の代表的メーカーが揃って進出  金融などが9となっていて,やはり市場確保目的 しているのが注目される。この分野では従来部品  が多くなっている。市場別にはイギリス市場を目 を輸送して現地で組立て,イギリス国内およびEC  標とするもの27,第3国向けが5,日本が3とい 市場などに販売していたが,部品の現地調達率の  うことになっている。

規定を充足するために漸次現地で加工組立を行な   日本企業の海外進出の方式としては,①親会社 う一貫生産体制の編成を行なうように変化してき  が海外の系列企業を統制する独立企業を設立する ている。1982年春,ソニーが日本企業では初めて  方式,②ヨーロッパに国際的な持株会社を設立し

(3)

佐 藤:イギリスにおける日本企業の雇用関係       37

(これは海外資本との合弁会社の場合もある),  まざまである。しかしイギリスの経営関係の新聞 各国に製造部門や販売部門を設ける方式,③親  ・雑誌をみていると日本的経営の特徴やその長所 会社に連なる系列会社を設け,独立した経営を  が毎日のように取り上げられており,深い関心の 行なう方式がある。この場合には海外資本との  的となっている。

合弁会社の場合もある。第1の例はHoya Cor一

poratio. UK Branch, H。ya Lens UK Ltd.   2.イギリスにおける日本的経営の研究 であり,これはHoya Corporatめnの100%出   近年,海外でも日本的経営についての関心が高 資会社である。第2の例は,Sony(UK)Ltd.の  まり,学術的な調査研究が盛んに行われるように 場合で,スイスに本社を置くSony Overseas,  なった。これはわが国の高度経済成長を支えた産 SAの100%出資である。第3の例はMatsushi一 業発展の要因として,日本的経営に内包される経 ta Electric(UK)Ltd.で松下電器産業㈱の100 営意思決定過程や生産方式,さらには労使関係の の出資である。GEC−Hitachi Te】evおbn(UK) 特質に着目するという一般的問題関心に加えて,

Ltd.はGECと日立製作所の折半出資の会社で  1970年代以降急激に増加したわが国企業の海外進 あったが,1984年に日立製作所の100%出資の系  出という事態の中で,これら企業進出に対する現 列会社に改組された。       地の労働組合の対応や,日本企業によってもたら

企業の組織形態は,企業の生産・販売に関する  された雇用政策や人事管理制度の意昧について分 経営の意思決定,技術的基礎と生産方式,従業員  析しようという実際的関心によることが多いとい の採用,労働条件,労使関係などに多大の影響を  えるであろう。

与えている。日本企業の100%出資によって新設   海外の研究者による日本的経営の研究の嗜矢は,

された工場では,生産方式をはじめとして経営管  日本の労使関係の特徴的側面に注目したJ.C.

理全般について日本式経営が色濃くみられるので  Abegg】enやらS. B. Lev㎞などの著作であった あるが,合弁企業の場合には,技術や生産方式は  といってよいが,これらの外国人研究者による日 日本側で担当し,その他の経営管理はイギリスと  本研究のポイントは,経営の意思決程過程や職場 いう分担が多くみられ,両者の調整に問題が残さ  集団の態様,労働組合の組織形態,資金決定基準 れることが多い。さきに合弁会社と発足したGEC・ などについて,それぞれ自国と異なる側面に大き H辻achi Television(UK)Ltd,が日立製作所  な関心を寄せることであった。その基礎にある問 の100%出資会社に改組された背景もこのような  題意識は,欧米諸国と異なる歴史的・文化的背景

ことが想定されるし,釣具を製造販売している   を有する日本社会のなかで,産業化過程の中で経 Daiwa Sports Ltd.も当初合弁会社として出  営や労働者・労働組合がどのように適応していく

発したが, ?rで日本側100%出資会社となって  かという点にお・かれた。これらの研究業績の評価 いる。さらに日本企業の進出が,新設企業である  にっいては,すでに稲上毅,島田晴雄らによって かあるいは現地企業の買収(take over)であるか  試みられているし,中山伊知郎も欧米諸国と日本

(4)

によっても差がみられる。買収工場の場合には,  との接合点について適切な指摘を行なっている。

土地建物,設備のほか失業を防止するため従業員   ところで近年の海外研究者による日本的特質へ を引き継ぐことになり,新会社でも経営管理や労  の関心が拡大した背景には,2度にわたるOEC 使関係管理においても従前の慣行が残されるとい  D調査団による調査報告書(1973年および1977年)

(3)

う特徴がみられている。      である。最初の『OECD対日労働報告書』 (労 以上のようにイギリスの日本企業をみると,そ  働省訳編,日本労働協会 昭和48年)は,日本の の企業の経緯,生産方式,人事管理方式などにお  雇用制度のモデルとして,終身雇用,年功賃金,

いて多様な形態を示し,その抱えている問題もさ  企業別組合をあげて話題となったし,第2回目の

(4)

『OECD報告書 労使関係制度の展開一日本の  これに対して組i織構i造・過程の研究はいずれも組 経験の意味するもの』 (日本労働協会訳編 日本  織科学の立場に立って,計量的分析方法をとって 労働協会 昭和52年)では,これらに加えて企業  いる。この分野の研究は比較的歴史が浅く,その 内部における社会規範がとりあげられた。これら  研究成果を十分に理論化するに至っていない。

の社会規範の例としては,コミュニティとしての   これに対して労使関係に焦点をあてたものは研 企業,タテの人間関係,合意による意思決定など  究業績が数多く蓄積されており,その方法も多様 が指摘され,外国人研究者のみならず日本の国内  なものが認められる。

研究者にも多大の影響を与えた。      これらのうちイギリス人によるものとしては,

ところで,日本的経営という場合には,日本社  RC】arkのThe Japanese Company(『ザ・ジ 会における経営の実態分析であれ,あるいは海外  ヤパニーズ・カンパニー』端 信行訳 ダイヤモ における日本企業の経営の実態分析であれ,他の  ンド社 1981年)とR.P, DoreのBri応h 国と異なった側面について国際比較的関心に基づ  Factory−Japanese Factoryである。 Cねrk いて分析が行なわれることは当然であろう。しか  の研究は2次資料による分析のほか,著書自身の し問題はその比較の方法にある。海外における日  ダンボール工場の調査をふまえた研究で,工場内 本的経営が,母国における一般的価値理念や制度  の職場集団に関する興味深い記述があるものの全 的枠組を前提として,それとは異なった側面を強  体としては日本的経営の紹介の域に留まっている 調する〈差異的方法〉をとるか,あるいは各国に  といえる。

共通する調査研究の枠組を用意して,それによる   これに対してDoreの研究は,日本人研究者と 比較を行なう〈通文化的方法〉を採用するかは研  の共同調査で,日本とイギリスの電気機械工場を 究者による選択の問題である。一般的にいえば文  比較して,経営管理から労使関係までを分析して 化人類学的方法によれば前者の側面が強調される  いる。Doreの提起した論点は,日本的経営の特

し,組織科学的方法によれば後者の側面が強調さ  質を「福祉団体主義」(We匠are Corporatism)と れることになろう。そして前者の場合,個性記述  規定したこと,また日本の労使関係の成功を「後 的になることから産業化過程に内在する共通的要  発効果仮説」(Late Development Hypothes旬 素が軽視され易くなることはすでに度々指摘され  に要約したことである。福祉団体主義は,企業を ているし,後者の場合には調査枠組の〈妥当性〉  株主,経営者,管理者,従業員,組合,組合員な

(Va1漁y)が問題とされることが多いことはつけ  どの利害集団から多元的に構成されたものとみて,

加えておくべきであろう。なお日本の研究者の場  それが一貫した権威構造の下で企業の目標達成に 合には,欧米諸国の経営理念や制度的枠組をく先  整序されているとした。そして戦後の民主的改革 進国モデル〉として構成し,それに対する日本社  によって,伝統的な全体主義的・権威主義的団体 会の現実を切断するという方法が有力であったこ  主義は,民主的団体主義というよりは,経営者が

とは,戦後社会科学の各分野を通じていえるとこ  各利害集団の要求を恩恵的に接配する階層的団体 ろである。       主義と変化した。この福祉団体主義の中心は福利

さて藤原道夫はAbegglen, Lev血などの以後の  厚生であり,コミニュティとしての企業であると

(6)

外国人研究者の研究業績を要約して,研究分野と  した。

してa)経営全般にわたるもの,b)労使関係に焦点   一方,後発効果仮説は,日本の産業化過程が欧 をあてたもの,c)組織構造・過程に分析の焦点を  米諸国に比べて後進的であるが,その産業化のな

(5)

あてたものに分けている。このうち経営全般にわ  かで先進国の経験を摂取しながら優れた結果を生 たるものは,日本の経営システムの紹介といった  み出しているとする。そしてDoreは雇用制度と 性格が強く,必ずしも仮説検証的な分析ではない。 労使関係における日英の差異を強調しながら,将

(5)

佐 藤:イギリスにおける日本企業の雇用関係       39

来イギリスもまた日本と同じ方向に進む可能性は  問われねばならないであろう。このような問題意 あるかと問うている。      識の下に行なわれた調査研究についてみていこう。

「日本と同じ方向に向っているという変化の方

向として論議した傾向は福祉団体主義のシステム,  3.日本的経営の先行的研究

すなわち工場や企業を基礎とした労働組合と団体   ロンドン大学Thurley教授らは1976年イギリ 交渉の構造,企業福祉と保障,雇用の安定,ブル  スに進出した日本企業の雇用制度の先行的研究を 一カラー労働者をも企業の一員として統合するこ  発表した。(K.E. Thurley, M. Nangaku,K.

と,巨大な官僚制組識と協同または企業のイデオ  Uragami Employm壱nt Relations of J apanese ロギーなどの明らかな特徴をましているだけであ  Companies in the U. K.:areport on an expl・

る。これは日本的システムが全部イギリスで現わ  oratory study, Preceedings of the British As・

れるということではない。(中略)産業別交渉の現  sociation for Japanese Studies Vol.11976)

(7}

在のシステムは依然として残るかもしれない。」こ   このグループの研究は,日本企業によってもた うしてDoreは階層的システムと企業福祉システ  らされた人事政策の意味を検討することを目的と ムはイギリスでは形成されないだろうとしながら  しているが,当然それは日本的経営の導入可能性 も,日本的雇用政策のあるものはイギリスでも摂  の問題に結びつくし,さらに実際的にはどのよう 取可能かもしれないと述べている。       な方法が有効であるかの検討にかかわるものであ

このDoreの研究はイギリスの研究者たちの日  る占9)

本的経営に対する関心を触発し,多数の研究者が   海外にお』ける日本企業の人事管理政策のタイプ イギリスに進出した日本企業の研究を促進するこ  には次の4つのタイプがあると類型化している。

とになった。      なお以下のタイプ名称は筆者が付したものである。

従来までの研究は,西欧と日本の人事管理や労   タイプ1(直轄型) 多国籍企業の本社スタップ 使関係の差異について強調し,イギリスにおいて  によって実施される本国に根ざした人事政策に従 は日本的方法を応用することは不可能であるとい  うタイプ。

う見解が多かった。それは労働者を統制するため   タイプ2(下請型) 日本人スタッフに対しては,

に伝統的に形成された文化的傾向,例えば和を重  本国の中央集権的人事政策に従い,現地採用のイ 視する企業意識恩恵的な雇用制度などは,工業化  ギリス人に対しては,現地の方式に従って現地の

と工場システムの成立以前の16世紀後半から維持  イギリス人社長によって決定された政策を実施す されてきた契約に基づく雇用関係が存在するイギ  る。

リスに導入することは困難であるというのである。  タイプ3(独立型) イギリスに在住する日本人

〔8)

西欧と日本の根本的な差異は,人事管理におい  社長が,独自の意思決定により人事政策を決定し,

て,専門分化した職業構造に基礎を有する西欧型  実施する。

と,本社の統制,計画に従う日本型との差であり,  タイプ4(二重型)工場レベルの政策決定はイ 労使関係では労働組合との契約の関係(西欧型)  ギリス人管理者によって決定され,日本人は企業

と,工場・会社別の協定による関係(日本型)の  レベルの政策に統制される分権的二重システムで 差になって現われる。       ある。

しかしDoreがいうように,すべての日本的経   こうした人事管理政策の類型化の上に立って,

営の方法が転移されないにしても,ある種の方法  イギリスに進出した4つの製造業と1つの商社に は可能性があるとされるなら,そしてまた西欧が  ついて,経営者・従業員との面接調査,さらに2 日本的経営に追い付くことが可能であるとするな  つの工場における職務満足度調査,さらに従業員 ら,日本的経営のどのようなものが転移可能かが  との集合討論会などの方法で調査が実施された。

(6)

調査対象の企業のプロフィールはつぎのように  と落胆するかもしれないが,実際はD社のように なっている。      良い成績をあげることができるとしている。

A社:タイプ2(下請型)      このようにしてイギリスに進出した日本企業の 販路拡大をめざし組立作業を行う。   人事政策にはさまざまな選択肢があることを指摘 B社:タイプ3(独立型)      し,日本的経営といってもさまざまな政策をその

現地生産工場,イギリスの他工場と競争  企業戦略と関連させて実施しているのである。

が激しい。       研究グループはこのような特徴づけを行なった C社:日本人はタイプ1(直轄型) イギリス人  後,人事原則,賃金,労使関係,経営管理,日本

タイプ4(二重型)       人経営者のイデオロギーと態度,イギリス人の日 現地生産工場,西欧市場で価格競争が激  本企業に対する態度などについて分析をしている。

しい。      ここでは注目すべき知見について若干触れておこ D社:タイプ4(二重型)       う。

現地生産工場,日本企業との競争が激し   Doreの日本的経営のモデルは,雇用関係の集 い。      団的特性,個人の技能形成の欠如,モーラル形成 E社:タイプ2(下請型〉但し経営トップはタ  と教育訓練の重要性をあげている。しかしイギリ

イブ1(直轄型)      スではこれらの原則を見出すことはできない。労 海外に進出した企業がどのような人事管理政策  働者も管理者もイギリス人は仕事を個人的雇用契 を選択するかは上のように多様なものであるが,  約として考えており,雇用関係は当事者双方の都 著者たちは雇用政策・労使関係の発展は生産コス  合によって結ばれる。イギリスに進出した日本企 トを統制し,労働力の質を整え,企業帰属意識を  業の従業員は多様な採用経路で募集されている 形成し仕事への関心を高めるよう従業員を励ます  が,重要な点は職務等級と地位以外に正規従業

ことにあるとする。      員の間に区別がないこと,また経営お・よび操業 もしタイプ1の日本的方法が採用された場合,  上のスタッフが,会社に対する帰属意識をもっ 企業の業績をあげるに十分な生産性水準を達成す  た Key worker であるという認識を有している るために動機づけられることが議論されるかもし  ことである。これらは会社の操業に必要な人びとで れない。これはC社でみられたことであるが,企  あり,多くの場合会社は彼らを日本に短期間派遣 業に魅力的であるとしてもイギリスの労働組合や  して企業に対する帰属意識を増すような試みがな 労働者の強い反対に遭うかもしれないのである。  されている。しかしながらこのようなシステムで

これに対して,現地の日本人経営者に政策決定  驚くべきことは,そのスタッフが何ら特別の職務 の自由を認めるような方法はタイプ3(独立型)で  の保障を得ているという認識がないことである。

あるが,B社の場合には現地の日本人社長に集中   また賃金決定基準に関してD・reモデルは新規 された意思決定と,従業員の個人的忠誠を期待す  入職者や臨時従業員には労働市場の影響があるけ る非公式組識とパーソナルな接触を強調する経営  れども,正規従業員に対しては職務の潜在的能力 となっている。      や業績,年令,家族生活の責任など社会的要素が さらに第3の選択は,イギリス人の人事専門管  強調されるとしている。たしかに日本国内では,

理者を任命し,人事管理にあたらせるとともに,  従業員に対して付加給付を与え,健康計画,奨学 労働組合を承認し,ショップスチュアード組識を  資金,体育活動や社会活動,慰安旅行,年2回の 発展させるというタイプ4(二重型)のものであ  ボーナスなどがみられている。しかしイギリスで る。これはイギリスの慣習に合ったものであるが, は5つの会社とも日本と同じようにはやっていな 日本の経営者は生産システムの柔軟性が失われる  いし,日本式のボーナス制度はない。これらの報

(7)

佐 藤:イギリスにおける日本企業の雇用関係      41

賞制度には労働者に批判的意見もあるし,歓迎さ  方は3つのグループに分かれる。第1のグループ れていない。だがC社では5段階の日本式職能給  は,イギリスの企業に比べて彼らの処遇について 賃金を導入しようとしているが,これが実施され  不明確であることに苦情をもっている。労働者た ると,経歴の古い労働者と新しく採用された労働  ちが日本の企業における経営と従業員の関係が特 者の間に差が生じ,明確な区分を示すことになる  異なものであることを理解することは困難である。

ことが予想される。      第2のグループは,日本に派遣されて訓練を受

 Doreによれば,労使関係では日本の組合は企  けたため,日本的方法に魅せられてこれを積極的       ■

ニを基礎にして組織されるが,イギリスでは職業, に導入しようとしている人びとである。彼らはイ 産業,地域を基礎に組織されるとされている。5  ギリスの経営における権威主義的対応に大変批判 つの会社のうち,C社とD社はAUENを承認  的である。第3のグループは,日本人的人事管理0

し,C社はクローズド・ショップ制を採用してい  方法はイギリス的方法とは全く異なったもので,

る。他の2社には労働組合はないが,B社では労  これをイギリスに導入することは不可能に近いと 使協議会制を設けたが,現場の労働者にはあまり  している。

受け入れられていない。このようなことから,企   以上のような各種の側面について検討した後,

業を基礎とした日本的労使関係の証拠はみられて  結論的には次のように調査結果を要約している。

いない。       第1に経営イデオロギーと実際的方法の関係で 経営管理についてはDoreによって日英対比の  は,日本企業はそれぞれ企業の経営理念をもって ポイントとされたのは権威(authority)の性格と  いて,従業員の統合のために利用されているが,

責任(resposibility)の形態であったが,日本的  日本の経営者イデオロギーと実際に使われている 経営では職場に地位の差がみられず,工場全体の和  企業の戦略は必ずしも一致していない。5つのケ のイデオロギーとともに責任の集団的受容があり, 一スの分析によれば人事政策は全体的な生産目標 これがコンサルティング,指導,成員相互間の親密な  や販売戦略などの企業政策の一部分としてみられ 関係を生み出している。しかしイギリスの経営では  るべきものであろうと結論づけている。

経営と従業員の間には経営的権威と責任の形態に   第2に紛争の類似性であるが,工場に発生する ついて明確に規定されており,そのために人事・管理  対立と満足度の高さを例示すればつぎのようにな 担当の専門的職能が確立している。このような観点  る。まずイギリス人の管理者が人事管理の意思決定 から5つの会社の経営構造をみると,非公式的関  に重要な役割を果している企業では従業員の満足 係をもつB社と公式的関係を中心とするD社の問  度は高い。労働組合が未結成である企業では紛争

には広い幅があり,他の3社はその中間にあると  は少ない。鋭い対立と低い職務満足度に対する政 認められる。そしてそれぞれの企業の人事政策の  策の秘決は,強い組合組織化をともなう日本的人 特徴は,日本人の経営者の数と,イギリス人スタ  事管理にある(第1図)。

ッフの配置に依存するところが多いとしている。   第3により良い労使関係の形成のためには全体 日本人経営者のイギリス人労働者に対する見方  として日本的経営の方法を導入することは得策で は,彼らは仕事を個人的生活のためであると非常  はないし,また調査した5つのケースともそれを に手段的に考えているため,企業忠誠心に欠け,  行なっていない。そもそも人事管理政策は従業員 仕事に対する熱意が不足しているとみている。し  が馴れ親しんだ習慣や方法の全体を受け入れなけ かし人事政策によっては労働に対する態度も変わ  ればならないのであって,急激な形でこれを変化 り得るし,また生産確率を上げていく上では必要  させようとする試みは組織的な教育プログラムと,

なことであるとしている。       日本人とイギリス人の双方が一体感をもつようみ 一方,イギリスの労働者の日本企業に対する見  ならなければ効果はないと結論づけられる。

(8)

第1図 人事政策と紛争お・よび満足度水準の関係    けることができるであろう。また政策科学研究所 経営政策に対する       は最近設置された研究所であるがロンドン大学 顕在的紛争の度合い       のLSEやインペリアル・カレッジと共同で,日

高い 本的経営の特質を分析し,それがイギリスに転移     Dタイプ 4

@    (現地イギリス的経営)人間関係

cタイプ%     可能であるか否かについて研究している。

職務満足 高

度の度合 い し、 後にオクスフォード大学経営研究センターに研究

い    Aタイプ 2

@    (イギリス的ライン管理)

1論経営)二繍畿圭濃憂瀦磁諜

Bタイプ 3    度について研究を重ね,1979年に政策科学研究所

旧本的経営)         の主任研究員に就任している。

低い      一方,M. Trevorはオクスフォード大学(大学

資料出所:Empl・yment R・1・ti・ns・f J・panesese    院)で社会人類学を修め,日本文化についての関

驕rl脇。描騒1今,是e四t   心から日本研究を始めた.1962年から1971年まで この調査研究はイギリスにおける日本企業に関  の約9年間日本の金融機関,大学で働いた経歴を する最初のものであり,結論をひき出すには長期  もった知日家である。

的な研究が必要であると述べているが,この指摘   1976年から西欧における日本企業の研究に従事 は妥当なものであろう。日本企業にお・ける日本人  し,1978年から前述のICERDの研究員となり,

経営者や技術者の数が人事政策に関する意思決定  Thurley教授のグループの一員として研究を続け に大きな影響を与えているとすれば,新設され操  てきたが,1982年以降政策科学研究所の研究員に 業開始したばかりの企業と安定操業期に入った企  就任した。筆者が在外研究員としてロンドン大学 業とでは日本人の数が異なるからである。     に出張中の析には,ICERDの同じ研究室で当 さらに日本企業における人事政策がどのような  時進行中の日本的経営の研究について意見を交換 特質をもつかについては,自由面接法による結果  したことがある。近報によると,ハワイ大学に客員 のみでは計量的に比較分析ができない。この調査  教授として出張するなど国際的にも活躍中である。

研究が問題発見的意義をもつことは十分評価され   本書の構成はつぎの通りである。

るべきであるが,さらに調査方法を洗錬していく   第1章 日本的雇用制度の展望 ことが必要であろう。      第2章 調査研究の枠組

第3章 地域社会における日系企業 4.『日本的経営の下で』        第4章 日系企業における労働と権威

Michael White and Malcolm     第5章 日本人経営者なしの日本的経営 Trevor, Under Japanese       第6章 日系企業にお』ける イギリス式経営 Management, 1983      第7章 シティにおける日系企業一その背景 本書は政策科学研究所がロンドン大学に付置さ   第8章 シティにおける3つの日本企業 れているICERDとの共同研究の成果であり,   第9章 結論と合意

イギリスにおける日本企業の日本的経営にイギリ    付  調査方法

スの労働者がどのように反応したかを分析したも   第1章において著者は,近年の日本経済の成長 のである。 ICERDはこれに先だって西欧にお  の奇跡と日本企業が海外進出を目の前にして,25 ける日本企業の雇用政策について研究してきたが, 年前には彼らの模倣者にすぎなかった故に日本か この書物もまたその研究計画の一環として位置づ  ら何かを学ぶことを渋ったり,また日本の成功の

(9)

佐 藤:イギリスにおける日本企業の雇用関係       43

秘密を日本の社会構造や文化的特性のせいにして,  8.明確に区分された地位の構造,職務レベル それらは西欧と全く異なっているので学ぶぶべき    でも年功による格付け

ものは何もないという態度を批判し,それは自己   9.教育,スローガンによる労働者の統合化 批判をするという苦しい課題から逃避するものだ   このような雇用制度のもとで,労働者が自分の

と指摘する。      利益よりも会社の利益を優先させる態度をもち,

さらに日本企業の海外進出は,日本にとっても  経営的・技術的変化を吸収する協同性と労使紛争 先進国間の貿易の不均衡の是正と,日本の高等教  を防止しようという意識が形成された。そして高 育卒業者のポスト不足を解決するという使命をも  い生産性を維持し,経営政策の展開を容易にする っている。すなわち,海外投資は研究開発と生産  ような雰囲気が譲成されたとしている。つまり日 増大により,その技術的リーダーシップと市場支  本の雇用方法の利点として認められるのは,企業 配力を確保すると同時に,海外投資,研究開発,  に対する高い帰属意識をもった労働力の編成にあ 計画統制などの業務を総括する本社機能を拡大す  り,これによって集団の凝集性や協同性が確保さ

ることにより,高等教育卒業者に対するポスト不  れたとみるのである。

足を打開するものになるからである。       この雇用制度の成立の背景には,日本の社会制 イギリスはEC市場への玄関口として日本企業  度の文化的特性や,教育制度の強調などにみられる の海外投資の絶好の場所になっているが,しかし  構造的特質をあげることが従来から多かった。し 労働者の教育水準・技術水準が低く,西欧諸国に  かしこの説明は日本と西欧の差異を強調するばか 比べて労使関係の紛争が多い国として知られてい  りで,日本的経営の方法の転移可能性にっいては る。だがイギリスに進出した外国企業には良好な経  何も説明していない。戦後アメリカで誕生した 営を維持しているものもあり,こうした事例が明  Human Resati(田運動が日本の雇用制度に大きな

らかにされることが後発企業の参考にもなると研  影響を与えたということは日本の経営者たちも認 究の意義を強調する。       めており,それをアメリカ独特の社会的土壌の産

なおこの研究では,投資と市場をめぐる企業戦  物としてみなかったことは事実である。

略と,日本政府と産業界の関係についての分析は   したがって1970年代以降急速に拡がったところ 取り扱っていない。これはこれらが重要な問題で  の日本の経済的成功の要因は優秀な労働力の質を

ないというのではなく,著者たちの研究が主に企  もち,コスト低減に効果的であった作業方法に求 業の人間的側面に焦点を当てることにあるという  めるという考え方は,西欧にとっても日本から何 理由からである。       を学ぶかという問題を提起している。そして海外 著者の日本企業における雇用システムの特質は  に進出した日本企業が,日本的経営と呼ばれるよ つぎのように要約される。       うな雇用政策や作業方法を導入しているか,もし

1.終身雇用 大企業では定年まで仕事が保障  導入しているとすれば,イギリスの労働者にどの されている。       ように受け入れられているか,またそれは成功し 2.勤続年数を基礎とする賃金決定      ているかが問われなければならないと調査の目標 3.企業別労働組合      を提起している。

4.生涯を通じて職業訓練の強調         各種の調査研究によると,海外の日本企業はこ 5.広範囲な福利厚生サービス,社宅,会社の  のような日本的経営の方法を導入していないとい 病院,結婚相談など従業員生活に対するサー  う結論を出しているものが多い。上智大学の高宮

ビス       教授もその一人であり,日本企業は終身雇用や 6.合意に基づく意思決定       手厚い企業福祉を提供してないし,労働者の職 7.第一線監督者の役割       務満足度はイギリスやアメリカ企業の労働者と

(10)

比較しても決して高くはない。しかし日本企業は, の伝統工業が男子を雇用していたからとみられる。

労働生産性や品質管理の面で成功している。そ  しかし伝統工業の雇用は減少しつつあり,ニュー れは日本独特の雇用制度や高い職務満足度を示す。 タウンに育った若い労働者はニュータウンに進出 づけている。      の規模の工場であっても地域の労働市場に大きな

以上のように日本的経営の特質としてあげられる  影響を与えたのである。

ものは,一方では雇用政策における幅広い社会的文   製造工業の他の2工場と3つの金融機関の調査 化的文脈を強調するのに対して,他方では日本企業  はこれと比較するために実施されたのであり,地 の優秀性が生産労働組織にあるとして職場組織の  域調査と企業調査はセットになっている。

ありかたに力点をお・いている。そして職場の生産   第3章と第4章は地域調査の結果を分析したも 労働に注目することは,雇用制度の特徴をあげる  のであるが,その中心はあくまでもJELの雇用

ことよりも目立たない仕事であるが,実はこの点  政策や組織における労働と権威に関するものであ こそ日本的経営の方法を移植できるかどうかを  る。

検討する重要なものであると考えているのである。  JELでは従業員に作業衣を支給し,守衛を除 とくにイギリスの労使関係においては,労働組合  くすべての従業員が男女を問わず同じ服装である。

による職場の規制が強く,日本的経営の方法を導  職場は大変清潔で整理整頓されている。職場の装 入することは職場における権威関係に新たな争点  置は機械化され,流れ作業方式を採用し,製品の を提起することになるからである。       85%は西欧市場に輸出される自動車部品工場であ

本書は,日本企業が進出した地域におけるコミ  る。

ユニティ研究,日本の系列企業2工場のケース・   しかし工場に常駐する日本人管理者は2人にす スタディ,日本の金融機関・商社3店についての  ぎず,イギリス人の部長の半数は日本に派遣され,

ケース・スタディから成り立っている。調査方法  日本の生産方法の研修を受けている。

は企業における聞き取り調査と質問紙法による労   人事政策の特徴は,若年労働力の構成比が大き 働者意識調査が採用されている。         く,一般に教育水準が高い。従業員に対する教育

このうち重要なのは地域調査であり,日本企業  が熱心に行われ,他の外資系企業に比べて派遣社 が進出して地域の労働市場に比較的大きな影響を  員による教育が徹底されている。

与えている ニュータウン と仮りに呼ばれる地   労働者の定着性は高くはないし,また日本的な 域で行われた。そこは8000世帯,労働者5000人を  手厚い福利厚生制度が行われているのではない。

有する地域であり,従業員200人以上の工場が8  したがって従業員の仕事満足度をみるとこの点で 工場,500〜199人規模の工場が8工場のほか50余  も決して他工場よりも高いとはいえない(第3表)。

りの中小企業が存在する。企業の立地に対する政   このようにして要約すればJELの雇用政策は 府の援助があるニュータウンは外資系企業にとっ  この地域の他の企業と異なるところはなく,労働 て魅力的な場所であり,2つの大工場を含めて米  者も Happy Worker といわれるものではない。

国系企業が4工場,スカンジナビァ系企業,日本  したがって日本的経営の諸制度が実施されていな 系企業があり,その日系企業Japanese Enginee・ いし,労働者の評価も同じであった。

ring Limited.(仮称)(JELと略す)が調査対象  だが ニュータウン 地域の他の工場の労働者た である。      たちは,日本的経営の特徴は,賃金決定方法,付

ニユータウンの雇用の2割は外資系企業によっ  加給付などにあるのではなく,仕事のやり方にあ て維持され,とくに早くからニュータウンに立地  るとしている。教育訓練が重要視され,時間を厳

した工場は主に婦人を雇用している。これは周辺  守し,定められた規格の製品の生産が強調されて

(11)

佐 藤:イギリスにおける日本企業の雇用関係      45

第3表 仕事の満足度の比較 社の場合には5年間にこれがもっと進んだものと

JEL 外資系の イギリス その他 いうことができる。しかしJELではそれより長

(サンプル数)

(146) 大工場

@(74)

大工場

@(92)

(30)

い操業期間であるにもかかわらず日本的経営の影

経営との関係

2.7 2.3 2.6 2.4 響が持続していることを考えると,むしろイギリ

雇用の安定 1.9 3.0 2.7 3.2 ス人管理者の意欲と能力にかかるところが大きい

仕事のやりがい

d事の興味

2.5 Q.6

2.5 Q.6

2.6 Q.9

2.6

Q.9 と結論づけている。

付加的給付 3.5 2.8 3.1 3.5 第7章と第8章はロンドンの中心であるシティ

仲間との親密さ 2.2 1.8 2.0 2.0 における日系企業の分析であり,その分析の焦点

労 働 時 間 d事のやり方

2.8 Q.4

2.3 Q.2

2.6 Q.5

2.4

Q.5 は現場の労働者から事務労働者に移る。

賃     金 2.8 2.6 2.8 3.1 従来イギリスの労使関係の問題点としてとりあ

作 業 条 件 2.5 2.5 2.8 2.8 げられたのは製造業の現場の労働者を対象とした

訓     練

ク     進

2.8 R.1

2.9 R.3

3.0 R.3

2.9

R.4 ものが多かった。これは金融機関や商社で比較的

(注)6点評価法による。1点は全く満足 6点は全く不満足を示す。 良い経営を維持してきたとみられているからであ

       るが,日本企業と比較してみると必ずしもそうと資料出所:M.White and M. Trevor, Under J apanese

Manag・m・・t, H・ineman,1983 P29      は言えない。1970年代以降,金融の国際化と商社 いる。そして生産にあたっては管理者と職場が一  機能の拡大にともなって日本の金融機関や商社の 体となってお・り,この一体性・平等性がそこで働  イギリス進出が盛んになったが,これらを分析す いている人々に生き甲斐を与えていると指摘され  ることは何らかの教訓を得ることが可能であろう。

る。      このような意図のもとに,人事政策と人事管理 第5章で分析されたB社は化学製品工場である  の方法,仕事の組識と執務体制について分析して が,日本から派遣された社員も1人で,全体とし  いる。

てイギリス式の経営が行われている。人事管理諸   人事管理の特徴としては日本人の派遣社員と現 制度では日本的方法といわれるものが少なく,従  地採用のイギリス人とが二重体制の下で行われて 業員の満足度は賃金ではJELよりも高いが,雇  いること,日本人の派遣社員は大体5年間くらい        ,

フ安定については低い。作業管理の面では2年前  の短期間の派遣であり,彼らは本社の人事政策に に操業開始した当時は教育訓練も熱心に行われ,  従っていることである。この結果,むしろ現地採 管理者と現場の一体化がみられたが,2年を過ぎ  用者に長期勤続者が多いという傾向がある。

ると両者の疎隔がみられている。         さらに執務方法は日本的意思決定が Bottom さらに第6章で分析されたC社は化学工業の二  Up で担当者の自発性にまっところが大きいのに 次製品の生産工場であるが,操業後5年を経た工  対して,イギリス的方法は細部にわたって上役の 場である。       指示を期待することから両者の問に考え方の違い

雇用管理,作業管理のいずれの面においてもイ  が出て来ることがある。

ギリス式経営であり,生産計画の全体性の認識,   執務にあたっては,細部にわたる厳密さと時間 品質管理に対する意識も低い。         厳守が強調され,仕事に関するルールは厳格に守

結局,C社の場合には操業開始直後に採用され  られる(例えばDoublecheckの方法)。

た日本的経営の方法が,日本人派遣社員の帰国に   残業時間は日本人に一般的に多く,現地採用の ともない現場管理の中心が現地採用のイギリス人  イギリス人は残業を好まない。面接の際1人のイ 管理者に委ねられるにつれて漸次イギリス式に変  ギリス人は「イギリス人は帰りが遅くなるときに 更されたものとみている。操業後間もないB社で  家に電話をするが,日本人は早く帰る時に電話を

も日本的経営は漸次色が薄れてきているので,C  する。イギリス人は生きるために働らき,日本人

(12)

は働らくために生活をしている」と述べている。  本的なものというよりも,イギリスの大工場でも もっとも著者たちは日本人の残業には社交性も含  みられるものである。しかし金融機関・商社では,

まれていて,仕事と社交の区分が必ずしも明確で  従業員の採用と教育訓練には問題が多い。日本企 はないとも指摘している。       業は流動性の高い労働市場の中で良い人材の確保

日本企業に雇用されているイギリス人は,日本  が困難であるし,また人事管理の二重性のゆえに と違って必ずしも有名な大学・高校を卒業したも  能力開発を行い,社内経歴を積むような人事管理 のばかりではない。彼らは日本企業の中の社内経  も十分ではない。工場では機械設備や作業方法に 歴を積むことよりも,各種の企業をわたり歩いて  関する知識や品質管理意識が強調されるに対して,

個人的な職業経歴を積み重ねることに関心をもっ  事務労働では規則や執務過程についての知識のみ ているので,若年層ほど労働異動が大きいといわ  が要求され,仕事の責任感や仕事への自発性など れている。       個人に委ねられる面が多くその標準がない。日本 以上のようにシティの日本企業における人事管  企業ではこのような複雑かつ困難な問題に気付い 理の特徴をあげたのち,著者たちは工場と金融機  ているが,これを改善するための長期的な対策が 関の差として,従業員に対する企業内教育訓練の  みられていないと忠告している。

違い,作業方法の違いを重要な点として指摘して   2.仕事の満足度と人間関係について

いる。すなわち工場の場合には現場労働者に対す   日本企業における従業員の仕事に対する満足度 る教育訓練を徹底し,経営と現場が一体化してい  は決して高くはない。製造業において日本企業と るのに対して,金融機関では人事管理の二重性が  イギリス・アメリカ企業の従業員の満足度を比較 教育訓練や執務方法にまで一貫しており,従業員  すると,アメリカが最高である。また日本企業の の労働意欲をそぐ結果となっている。このように  工場と金融機関を比較しても差はみられない。し してイギリスに進出した日本企業の人事管理上の  かし日本企業は従業員の満足度を軽視しているの 問題点は,工場よりも金融機関,生産労働者より  ではなく,全体として満足度得点は平均以上の水

も事務労働者にあるというのが著者たちの結論で  準にある。

ある。       このような従業員の満足度は,雇用の安定性に さて6つのケース・スタディを全体的に総括し  依存するところが大きく,それは日本的な終身雇 て,著者たちはっぎのように述べている。     用によるのではなく,業績の向上など経営の動向

1.雇用政策と人事管理について       によるものである。

日本的経営の下では労働意欲の高い労働者が多   企業内の人間関係の重視についても,日英米と いといわれるが,調査の結果ではこれは認められ  も製造業では変りがみられない。このことは Ha・

なかった。それは日本的経営を拒ける要因として, ppy Worker 説を覆すものであり,人間関係が 移動性の高い労働市場,また労働者個人の職業移  それほど大きな要因になっていない。

動に対する強いアスピレーションがあり,一方労   3.仕事の方法について

働組合と労使関係の制度的枠組がある。しかしこ   雇用政策と制度の特徴を重視する従来の研究に うした障害があるからといって日本企業は環境に  対して,仕事の方法を重視するのが著者の着眼点 受け身になっているのではなく,日本式方法を細  である。日本企業の特徴は,品質管理を最優先し,

かい部分について導入している。        そのため細部まで標準化するという組織的アプロ 製造業においては,従業員の採用とその教育訓  一チにある。

練について確固たる雇用政策をもっており,労使   工場では品質管理意識が強調され,作業員一人 関係においても目立った問題はない。工場におい  ひとりにその責任感が滲透している。日常の集会 て単一労働組合協定がみられているが,これは日  でも品質管理が話題となり,経営幹部が生産現場

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