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デザイン リテラシー教育のための“わか りかたの表現

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(1)

静岡大学教育学部研究報告 (人文・社会科学篇)第55号

(2005。

3)63〜

74 63

デザイン リテラシー教育のための わか りかたの表現"に関する考察

A Study on Representation of Cognition for Design Literacy Education

Funlihiko ITo

(平

16年9月29日受理

)

は じめに

今 日のデザイン教育を取 り巻 く状況が、個人の創作 に先立つ多種多様なデザイン成果 とそれに伴 う デザイン情報の氾濫であることは、映像 メデイアが一般化 し始めた90年代以降とりわけ顕著 になつて きた様相である。 こうした情報 メデイア社会 にあつて、情報 をいかに選択 し、いかに再構成するか と いつたいわゆるメデイア リテラシーの問題は、デザインの教育 にあっても急務の課題 として提案 され てか ら久 しい。技術的側面のみな らず、審美的側面、 さらには文化的な側面にまで関わるデザイン行 為 にとつて、対象の 「理解」 とそれ に基づ く「表現」の問題は、今 日のようなコ ミュニケーシ ョンを 軸 とした社会 にあつては、最重要課題であるといって よい。 しか しなが ら、 こうした課題 に対す る具 体的な取 り組み、その手段 と方法については未だにブラックボ ックス的な様相を呈 している。それは デザインの特殊性でもある、オ リジナ リティーを保証するための隠匿性な ども理由の一つ として考え られるが、 より根本的な問題 としてデザインにおける一般解 とい うものの有効性そのものが否定 され ていることであ り、解決案や解決方法は常に状況 に応 じて変更 されてい くとい うデザイン実践のあ り かた自体 にある。

こうした中で、デザイン教育は何 を軸 に構築 されるべきであろ うか。デザイン実践の様相からは矛 盾 して聞 こえるかもしれないが、なおもブラックボ ックス とされているデザイン思考のメカニズムを 顕在化 してい くことが、第一の手がか りと言えるのではなかろ うか。特 に創造プロセスに先立つ認識 プロセスヘの注 目が不可欠である。今 日のデザイン教育が、提案や表現を目指 した問題解決型か ら理 解や発見を軸 とした問題発見型へ とシフ トすべき段階にあって、普通教育におけるデザイン教育は「デ ザインリテラシー教育」へ とその方向性を明確にしてい くべきである。

デザインリテラシーとは

本論でデザインリテラシーとは「デザイン情報の解釈能力とそれに基づ く独 自に組織化された表現 能力」と定義する。デザインの知識が「knOwing how」 的な知識であることは、過去にも述べたが

(注

1)、

デザインリテラシー自体がそ うした知識の集合体であると考える。したがつてデザイン対象の違い により様々なデザインの知識が存在するはずであるが、先に述べたデザインの特殊性からも、あま り

(2)

に一般的な知識 とい うものは独 自性 とい う点か らも有効性を持たないであろ うし、逆 にあま りに個別 的な知識 も一般教育の場面 に導入す るだけの価値を見いだせないであろ う。基本的であ りなが ら各個 人の自由な創造性が発揮できる余地のある「knowing how」 が求め られ よう。デザインそのものが「認 識 と創造」、「理解 と表現」の相互作用 によつて成立す る行為であることは経験的にも明 らかである。

この概念を基盤 にデザイン リテラシー としてのよリパフォーマンスの高い、すなわち 「役 に立う」知

(注

2)とは何かを明 らかにしてい く必要がある。

本研究の 目的と方法

本論では「対象をデザインの問題 として理解する方法」、言い換 えれば「

(デ

ザイン表現につながる

)

わか りかた」、とい うものをデザイン リテラシニ教育の核 として とらえ、デザイン教育で実践 された実 例の中か ら、そ うした知識の抽出を行 うのが 目的である:本研究は継続研究の初段階 と位置づ けてい

るため、今回はまず 「わか りかた」の種類の一部 を明 らかにしてい くことを主眼 としたい。

デザインの知識 を抽出す る場合、通常は専門家=エキスパー トの手法 に目を向けられることが多い が、普通教育におけるデザイン教育 とい うフイール ドにおいては、専門家の職能的な知識が必ず しも 有効ではないケースも見受 けられる。経験 も浅 く職能的な知識 を持ち合わせていない学生の場合、不 十分なもの、整合性を欠 くもの、非合理的なものな どが数多 く抽出されることは予想 されるが、反対 に従来の型 にはまらない 自由な発想 も期待 され、若い世代の教育にとつてはより柔軟な 「知識」を得 られる可能性がある。

事例 としたものは、授業名 「情報デザイン研究」における過去3年間の学生作品の一部である。課 題のテーマは、「遊びのマニュアル」、「物語の分析」、「同類語の図鑑」の三種類である。提示 されたテー マクム 様々な観点か らの分析や読み直 しが可能 になるものを敢えて設定 し、「定式化のし直 し」

(注 3)

を基本 に、「対象をいかに理解 し、いかに視覚化するか」すなわち「わか りかたを形 にする」ことが求 め られた。本課題は、造形性の高いポスターの制作や製品の提案 といつた具体的対象が指定 されたデ ザイン課題ではない。そのため、最終成果 としては 「わか りかた」そのものをデザインしてプレゼ ン テーシ ョンするといつた、図解パネルやプロセスマ ップ形式のものがほ とんどであ り、いわゆる通常 のデザイン作品 とは表現形式を異にす る作品が集まった。 これ らについて、作品そのものか らの分析 と作者への ヒア リングを合めて 「わか りかた」の手法を抽出 していつた。なお本論では、多 くの作品 群の中か ら、 これまでの常識的な 「わか りかた」を踏襲 したものについては参考 に止め、 より独 自な 手法をデザインしているものについてのみその一部を掲載 した。ただ し、デザイン リテラシー教育を 構想す る上では、常識的なものの見方 とい うのも同様 に重要な 「わか りかた」であることにも注意す べ きであ り、双方を合めた方法論の構築が今後求められるであろ う。

事例研究

「遊びのマニュアル」

本課題は、古今東西の 「遊び」を題材 に、マニュアル

(取

扱い説明書)のデザインを通 して、情報 概念を軸 にその遊びの本来の面白さやルールその他 について考察するものである。

「遊び方」の図解マニュアル とい うものを必要条件 としたが、ルールブックのように単なる図解 に 終わ らせ るのではな く、「図解することが新たな知識の獲得につながる可能性を示唆する内容になるこ

と」を条件づ けた。

(3)

デザ イ ン リテ ラシー教 育 のた めの わ か りかたの表現

"に

関す る考察

A‑1 

「ジャンケンジェンカ」

(注

4)

この遊びは呼び名 こそ様々であろ うが、誰 も が一度は経験 したことがある集団ゲすムである。

ジャンケンをし、負 けた者が勝つた者の後 ろに まわ り、 さらに繋がった者同士の先頭がジャン ケンをし、負けた方は勝 つた方の最後尾 に繋が る。 このように単純なルールであ りなが ら、長 い間廃れず継承 されているのは どんな理由によ るのかをマニュアル制作 によつて理解 しようと したのが本作品である。

先 に述べたこの遊びのルァルは、簡単 に言え ば 「ジャンケンに負けた者が勝 つた者の後ろに 並ぶ」 と一言で表 され る。 しか しなが ら、 この 遊びを経験 した者はその独特な優劣の関係や共 同意識が沸き起 こることで、知 らず知 らず夢 中 になっていたことを思い出すであろ う。作者は そ うした この遊びへの参加者の心理的変化を視 覚化することで、 この遊びがもっている魅力を

「理解」することを試みている。本作品は1段 目か ら順 に勝敗 によって変化するキャラクター の様相を追ってい くことで、 この遊びの本 当の

面 白さが リア リテイーを持 って理解できるイラス トレーシ ョンとなつている。例 えば1段目か ら3段 目への変化では、1段目では敗者だった者が3段目では先頭が勝 つたため自分 より下位の者が背後 に繋 がることで、再び 自分が優越感を抱 く心理的変化を表情や態度で表現 させている。4段目に至つては、

列の短い方が長い方に勝 って しま うことで、長い方の先頭はそれまで蓄積 してきた努力が水の泡 とな り、あたかも急転直下捕虜 になつて しまったかのような様子がユーモラスに表現 されている。そ して 最終的には、一度 も負 けなかつた者が長い列の先頭 に王様 として 君臨"するとい うわけである。

本作品の場合、遊びのルールを理解 させるための工夫 として、「ルールの適用」による状況の変化が その表現の中心 に置かれた。遊びの参加者たちの気持ちの浮き沈みをマニュアル に表現する試みは、

通常機械的に示 されるルール表現 に加 えて、参加者の心理状態を リアルに伝 えるマニュアルのあ り方 をも提案す る内容 となつた。

A‑2 

「グ リコ」

 A‑2‑1(注 5) A‑2‑2(注

6)

これ らは、ある時代 に流行 したお菓子の商品名が遊びの通称 となっているユニークな事例である。

階段の1段を 1マ ス と見立て、階段 に陣取 つた複数名がジャンケンを行 うことによつて、その勝者は

(グ

=グリコ=3マス、チ ョキ=チ ョコレー ト=6マス、パー=パイナ ップル=6マ)とい うルー ルによつて陣取 り合戦や双六の要領でコマ としての 自分が移動 してい く。 この遊びの面白さは、実際 の階段がゲーム盤であ り、人間がコマであ り、そ して何 より進める数を数えるのではな く、言葉を発 声 しなが ら移動 してい く体感性 とわか りやす さにある。 これを題材 とした異なる作品二例 についてな がめてみたい。

65

A‑1

(4)

A‑2‑1は、この遊びのルールの中に潜んで いるおもしろさを図解 したものである。上下対 称的に示 されたイラス トレーシ ョンにより、ジャ ンケンに何回勝 つたかではな く、ジャンケンに どの 手"で勝 つたかによってゴニル到達 に逆 転現象を引き起 こす ことを明解 に示 している。

本作品も前述A‑1と同様 に、「ルールの適用」

による状況変化を表す ことにより、ルールの理 解 を深める意図がわかる。

これに対 してA‑2‑2の場合は、この遊びが 陣取 り合戦や双六 と同値なものであるとい う理 解か ら、別種のゲームにこのルールを転用する ことで この遊びを再認識 させる意図をもってい る。本作品は、本来な らリアルな人間がコマ と なつて陣地 をとってい く遊びかたこそが この遊 びの楽 しさであるにもかかわ らず、あえて代替 案 としてのボー ドゲーム化を試み、その結果、「グ リコ」のジャンケンルールを活か したサ ッカー ゲームの創案へ とつながった。お互いのニマが ゴールを目指 して進むのではな く、一つのボー ルをルールに従ってお互

いが押 し込んでい くゲー ムスタイルは、シンプル であ りなが ら「ルールの 転用」をきわめて合理的 に表現 したもの といえよ う。「わか りかた」が同時 に新 しい 「表現」に連携 された事例 といえる。

A‑3「

絵描 き歌」

(注

7)

この作品は、古 くか ら 存在する「絵描 き歌」の 理解 と新たな展開につい て考察 されたものである。

絵描 き歌 とは、単純な図 形を歌のフレーズに合わ せて順番 に描いてい くこ とによって絵が仕上がっ てい く遊びで、描 くこと

A‑2‑1

羅罰申  =編露匿冒   

3つ

けオ書

躍配塑 〒嘔蕃華零蒟翼肇■つすす。

露電酔  =翅鼈議電獨自働→

│つ

オす0

驀 瘍

A‑2‑2

(5)

デザインリテラシー教育のための わか りかたの表現"に関す る考察

67

と歌うことが統合されたユニマタな遊びの一つ である。そこでは歌のフレーズやリズムは一種 のプログラムであり、徐々に完成されるあいま いな図形が、最後のフレーズによつて思つても

見なかつた絵 に仕上がることで、驚 きや笑いを 生み出す といつた場面を思い出す ことができる。

初めてその遊びに参加 した者は、プレイヤーの マ ジックにも似た手際の良 さに感心 させ られ、

その遊びに魅了 され ることもしば しばあつた。

こうした遊びをマニユアル化する際、もっと も一般的なものは、歌のフレーズに合わせた絵 や図形 をコマ送 りに配置 させ ることであろ う。

本作品も形式的には同様な表現 となつてぃるも のの、基本形 と応用形 といつた分類で類似した シークエンスが並列して進行する様子が表現さ れているのが特徴である。

本作品がこうした特徴的な構成になつている のは、作者が「絵描き歌」がもつ一般的なルー ルの背後に 暗黙のルール"が隠されているこ

とを理解 したことに始まる。すなわち、歌のフ

レーズに沿つて描かれる図形は、どれくらいの

大きさで どのあた りに描 くのか といつた 大きさと位置 と数の情報"がプレイヤーの暗黙の了解 となつ ていることに気づいたのである。通常それ らの情報は、見る側 にとつては隠蔽 されているために、見 る側はその手際の良 さや予想を超えた結果 に、驚いた り感激 した りするのである。 さて本作品は、そ うした暗黙のルールを逆手 にとつて、あえてそれ らのルールを変更することによつて、一義中に決定 されるはずであつた最終形が、複数のバージヨンを生み出せることを理解し表現に結びつけようとし ている。具体的に言 うならば、○の大きさや位置や数の違いは、ある時は顔に見えたり、ある時は車 輪に見えたりするといつたことを意味している。さらにこうした認識に至つたとき、この遊びが遊び の重要な要素め一つである あるモノを男

1の

モノに見立てる"といつた思考をも援用していることが 理解されているのである。

本作品は、遊びにおいて「ルール?変更」を行うことにより、その遊びが持つている重要な側面を

見いだ してい くとい う「わか りかた」を表現 した作品 といえよう。

事例研究

B r物

語の分析」

「お話の絵」に代表されるように物語を題材にした課題は、普通教育における美術やデザインの教 育現場においてもスタンダー ドな課題 として歴史も古い。これらは多くの場合、物語を読んで、そ から想像きれるある特徴的な一場面または全体を通したイメージを視覚的に表現するといつたイメ ジング作業に力点の置かれた課題が出されることになる。イメージング作業は、視覚デザインの根幹 をなす行為に他ならないが、本事例研究に置いては、あえてそ うした主観的な部分を押さえ、客観的 に判断される物語の情報をいかに抽出し再構成

(再

表現)するかを最重要ポイン トとした。

A‑3

(6)

ここでは、物語 の中で も構成 が シンプルな昔話 や童話 を対象 に情報的な視 点か らの分析 と理解、

再表 現 を課題 とした。前述 の「遊びのマニ ュアル」

との相違点は、前者が「ル ール」とい うもの に注 目させ たのに対 し、本課題 においては、「場面 とそ の進行」とい った読み物 に とっては決定的な要素 を中心 に分析 を試みた。

B‑1  「うさぎ とかめ」

(注

8)

誰 もが知 っている古典的な童話 を題材 にした本 作品は、登場す るキャラクターの視点 を操作す る とい つた「アングルの比較」によって、新 たな「理 解」を生み出そ うとした ものである。多 くの場合、

「お話 の絵」とい う題材は、主人公 の視点あるい は読み手 の視点 に したが って描かれ る。一方本題 材 を選択 した作者 は、登場 キャラクターが うさぎ とかめ といった二者 に限定 された世界であること に注 目し、お互いの視点で見 えてい る

(だ

ろ う

)

映像 を並列 させた コマ撮 り風の画面 に構成 してい る。山の頂上 の ゴール を 目指す両者 の 目に映 るも のは、物語半ばで 「うさぎが眠 つて しま う」こと で視界が閉 ぎされ るコマ を境 に、それぞれの立場 が逆転 して しま う様子がユーモ ラスに表現 されて い る。こ うした 「表現」は、得 て して一面的 にな りがちな物語 の理解 とい うものに少 なか らず新 し い局面 を与 えて くれ る可能性がある。すで にマル チ メデ ィアの分野 においてはマルチアングル とい う概念 が登場 してい るよ うに、対象 を多面的 に眺 め る行為 は対象 の「わか りかた」とい う点か らい えば、読み取 り側 の 自由度 をも う一段高 めた表現 とい える。本事例 の よ うに二者 の徒競走 とい つた 単純 な シチ ュエー シ ョンであった として も、それ ぞれの視点 をきわめて リア リテ ィーをもって疑似 体験す る ことがで き、それぞれ の視点 に立 って相 手 の行動 を眺 める ことは、相手 の状況 を理解す る ことに役立つ ばか りではな く、自分 の状況認識 と い った点で も大 きな効果 が期待 され る。

「アングルの比較」 とい う「わか りかた」は、

対象の多面的な理解 とい う点 においてきわめて有

効 な手法 として考 え られ よ う。 B‑1

(7)

デ ザイ ン リテ ラシー教育 のための わ か りか た の表 現

"に

関す る考察

B‑2 

「三匹のこぶた」 と「ア リとキ リギ リス」

(注 9)

この二つの物語は、キヤラクターの行動の違いが異なうた結末 に結びつ くことにより、着実に努力 を重ねてい くことが成功への道であることを説 く童話である。 これ らは二つの異なつた物語であ りな が ら、内容的には同様の問題をテーマにしていることか ら、作者は両者の共通性 と差異性 をそのス トー

リーの時間的変化を比較することで 「理解」す ることを試みている。

本作品のフィルム状 にレイアウ トされた物語の場面は、 よく見ると微妙な変化が加わつてい くもの もあれば、ある段階で完全 に停止 して しま うものもある。「三匹のこぶた」 においては、「わ らの家」

造 りが最 も早 く完成 し、その動きが停止 して しまい、続いて 「木の家」造 りが停止 して しま う。そ し て最後まで着実 に動きを進めた 「レンガの家」造 りのみが、オオカ ミか らの難を逃れるといつた様子 が三本のコマ送 り比較 により、明解 に表現 されている。

「ア リとキ リギ リス」の話 も同様な手法で比較 されている。先の童話に比べてこちらのほ うがキャ ラクターの対比は著 しく、ア リが最初のコマか ら最後のコマまで動 きを続 けているのに対 し、キ リギ リスは最初のコマか ら停止 したままの 「表現」 によつてこの物語の起承転結が示 されている。

この二つの物語のテーマはともに、時間をかけ継続 して努力を重ねることの大切 さであるととらえ、

それを場面の時間的変化 といつた情報的側面のみを強調 した表現 に置き直す ことで、これ らの物語の共 通性を抽出し、「時間進行を比較」することでテーマの理解をより鮮明にさせる工夫がされた事例である。

B‑2

B‑3 

「七匹のこやぎ」十「三匹のこぶた」+「赤ずきんちゃん」

(注 10)

本作品は、複数の異なつた物語にも拘 らず、類似 したキャラクター構成やス トー リーが展開される ケースがあることを「理解」したことから独自なデザインが始まっている。「七匹のこやぎ」、「三匹の こぶた」、「赤ずきんちゃん」などの童話には、いずれもオオカ ミとい うキャラクターがそのお話の鍵 を握つている点で類似 した場面が出現することになる。物語の構成が、類似 したキャラクターや家な どのアイテムの組み合わせであるとするならば、三本のス トー リーを並列させ、挿絵自体も組み合わ せ られ、読み手がス トー リーに合わせて状況を見立てていくといつた手法を作者は提案している。絵 本の書き出しは 「あるところに、赤ずきんちゃんと呼ばれる女の子のお家と、七匹の子やぎをもつ母

69

(8)

やぎのお家、怠け者の三匹のこぶたのお家、そして、いつもお腹を空かしている悪い三兄弟のオオカ ミのお家があ りました…」と始まる。キャラクターが登場する挿絵は、読み手側が頭の中で自由に構 想 した り差 し替えた りできるイメージをもたせるために、あえてブロックパズル風のデザインにまと められている。

本事例は、物語のキャラクターやアイテムといった 「構成要素の比較」によって、物語の類似性を 理解 し、そこから同時進行させる物語表現の可能性を提案した事例である。比較することによる「わ か りかた」が差異性だけではな く類似性にも着目した展開事例 といえる。

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B‑3

事例研究

「同類語の図鑑」

本事例は、言葉を視覚化することを条件 にした課題である。例えば 日本語の動詞は副詞 との組み合 わせによって、多種多様な様態を表現することができる。「ちらっ と見る」や「ちらちらと見る」な ど がそ うした例であるが、それぞれの微妙 に異なったニュアンスは、言葉で説明することが困難な場合 もある。名詞の場合 も同様であ り、「足」や 「雨」とい う基本単語 に別の語 を組み合わせ ることによつ て、様々に歩 く動作を表現 した り、雨の様々な降 り方を表す言葉が出来上がる。こうした言葉のグルー プを仮 に同類語 とここでは呼ぶ ことにす る。

こうした 日本語の持つ微妙な様相や様態を 「理解」するためには、視覚的な媒体が有効であると考 え、写真やイラス ト、記号な どによって、それぞれの言葉の違いを感覚的に、あるいは疑似体感的に

「理解」できる、言い換えれば 「行為をシ ミュレー ト」 して理解する一種の 「図鑑」を提案するのが 本課題の中心テーマ となった。

C‑1 

「 見る"の図鑑」

(注 11)

「見る」 とい う行為は、人間の動作の中でもきわめて重要で基本的なものと位置づけられる。その ため、様々な副詞な どを伴 うことによって、「見る」行為の微妙な差異を表現するケースは頻繁に起 こ る。われわれは経験的にそれ らの状況 にあった言葉を使い分けている訳であるが、きちん とした定義 をしてそれ らの言葉を使 つている訳ではない。それ らの言葉の微妙な差異をいかに理解 した らよいの

(9)

デザイン リテ ラシー教育のための わか りかたの表現"に関す る考察

であろ うか。本作品の着眼点は、様々な「見る」行為は、「視点の移動=視線」によつて表現できるの ではないか といつたものであった。本作品はこのよ うな理解 に基づ き、パネルを見た第三者が「見る」

ことを体験できる

(シ

ミュレー トできる)図解 を提案 している。見るべ き対象 となる写真画像上 に示 されたOの数字は、視点の位置 と順番を表 し、その大きさは滞留時間を示 したものである。例えば、「きょ ろき ょろ」は 「落ちつ きな く、 ランダムに視点が移動す る」、「じろ りと」は 「上 目遣いで、下か ら上 へ と視点を移動 させる」、「ちらつと」は「一瞬わずかに、対象に一瞥を加える」、以下 「じつくり=時

間をかけて」、「ち らち ら=少しずつ何度 も」、「ぼ うつと=力を抜いて」、「キ ッと=強気で」、「じいっ =集中して」、「じろじろ=何度 も繰 り返 し」、「まじまじ=視線 をそ らさず」、「しげしげ=何度 も注 意深 く」 といつた具合に、辞書的な定義 をベースにしなが ら、 日常的な経験 を加味 した図鑑 となって いる。 これ らは、作者の主観 も含まれていることか ら、厳密に正確な表現 とい うわけではない。けれ ども日常的な写真画像 にマークされた番号順 にこち らの視線 を合わせ見るとき、その行為が図 らず も 自らの 「視線 をシ ミュレー ト」できていることに気づか される。

本作品のような表現は、視覚伝達デザインの分野 に、受動的で一方通行的な理解だけでな く、能動 的で双方向的な 「わか りかた」 とい う新たな可能性 を提案するもの といえよう。

C‑2 

「 足"の図鑑」

(注 12)

本作品は、「足」とい う文字が絡む様々な言葉を抽出 し、それ らの意味や差異の「理解」を試みたも のである。「〜足」とい う言葉は、名詞ではあるものの、意味的には足の動作でその様態を表す動詞 と 考 えることができる。これ に関 して通常の漫画表現 においては、「抜き足0差し足」は泥棒か忍者のキャ ラクターが音を立てず に歩 く様子 として描かれ ることが多い。また 「千鳥足」は同様な例 として酒 に 酪酎 したキャラクターめ歩き方 として描かれ るのが一般的である。

さて本作品においては、足裏 に 体圧分布"的な層を描き、そのグラデーシ ヨンを使つた足裏イラ ス トの変化によつて、それぞれの 「〜足」のイメージが擬似的に体感できるアイデアが提案 されてい

71

C‑1

(10)

る。ただし、あ くまでも感覚的なイラス トレーシヨ ンであ り、科学的な 体圧分布"を示す ものでは ない。例えば、「抜 き足」と「差 し足」では体重の 移動が逆 になる。「探 り足」においては、つま先側 だけに圧力がかか り探 りを入れる様子が感 じられ る。その他、「しどろ足」はよろよろとした重心移 動が表 され、「摺 り足」は残像表現で摺る様子が表 され、「ムーンウォーク」は宙に浮 く感 じが表 され、

「轟足」は打ち付けた衝撃が表 され、「千鳥足」は ふ らふ らと千鳥に歩 く様子が表 されている。本作 品もC‑1と同様 に、足裏 に重心をかけるといつ た誰 もが簡単にできる「歩 く動作のシ ミュレー ト」

を利用 して対象 となる言葉を理解するといつた新 しい認識手段を提案 している。

C‑3 

「 雨"の図鑑」

(注 13)

「雨」とい う言葉が表す内容も様々な様態があ り、それぞれの意味を付加 した「〜雨」とい う言 葉 も数多 く存在する。こうした雨の様態を「音や 声、音楽記号」を用いてその差異を明 らかにしよ うとしたのが本作品である。様々な様態の雨は音 楽 と同じように、音の強弱や リズムなどによつて、

その特徴の一端 を「理解」することができるので はないか といつた提案である。例えば、「長雨=や

や大きな音で連続的に」「俄雨=だんだん大きく なつて、す ぐに小 さくなってい く」「涙雨=小さく 間を置いて」な どであ り、以下「豪雨=最も大き な音で一時に多量に降る」「霧雨=霧のように細か く小 さく」とい うように辞書的な概念規定を、感 覚的に音楽記号の中に当てはめてい く作業により 実現させたものであるもここで特に重要なことはt

この一種の楽譜 に似た視覚表現を「あめ」と連続 的に「発声」することで「リズムをシ ミュレー ト」

し、雨の降る様子を擬似的に体感 させ ようとい う 狙いである。

わか りかたの種類

これまで眺めてきた事例か ら、い くつかの「わ か りかた」の手法を整理 してみることができる。

「遊びのマニュアル」課題の事例からは、「ルー

.・

抜 3 と

ヽ ヽさ に1 上″ τ多 i う ⁚ ⁚

しくoみその

︐ 會でを

に ︑

︐ 3

潮                 一一蜘攣一一 一一纏弾︻

C‑2

『あめ』 の言い方で雨の種類を表す

,鯰 虜慮

:像

ff最も大きく    やや大きく    やや小さく    ,小さく

.̲だ  だ К  謝晦

22・f

虜 麗 麓 虜 魔 虜 虜 虜

B慮

舶慮虜

B  

ちうちちらん

            勇魔総緞   虜総

"像

C‑3

(11)

デザイン リテラシー教育のための わか りかたの表現"に関す る考察

73

ル」 とい うものをいかに理解す るか とい う問題意識が浮上 し、その理解 を表現 に結びつ けるために 次のような手法が提案 された。

1.ルールを適用する

 =ル

ールの実践 とその結果や効果の表現 によつて理解する。

2.ルールを転用する =ルールを別の状況 に当てはめることによつて理解する。

3。

ルールを変更する =ルールを変更することで本来の意味 と新たな可能性を理解する。

これ らは、「ルールの操作 による理解」 と呼ぶ ことができる。

「物語の分析」課題の事例からは、物語そのものやその構成要素な どを「

Lヒ

較」することにより、

物語の読み取 りを促進 した り、新 しい物語構成 を考 えるための手法が抽出された。

1.アングルを比較する =複数の視点を表現す ることにより、物語 を多面的に理解する。

2。

時間進行を比較す る =時間的推移 と状況変化の比較 により、因果関係 を理解す る。

3.構成要素を比較する =構成要素の差異性 と類似性 を理解する。

これ らは、「

1ヒ

較 による理解」 と呼ぶ ことができる。

「同類語の図鑑」課題の事例か らは、同類語を言葉ではな く視覚的媒体によつて理解する方法が 模索 され、シ ミュレーシ ョンとい う擬似的な 「体感」を支援す る新 しい視覚デザイン手法が抽出さ れた。

1。

視線 をシ ミュレー トする =視点の移動 を体感することで 「見る」行為を理解す る。

2.動作をシ ミュレー トする =足裏の体圧変化で 「歩 く」行為を理解する

3.リズムをシ ミュレー トする =発声 リズムにより「雨の降 り方」を理解す る。

これ らは、「体感のシ ミュレー トによる理解」 と呼ぶ ことができる。

以上の 「わか りかた」は、A・ B・ Cそれぞれの課題 とそれぞれに使用 した手法をシャッフル した としても新たな適用 とオ リジナルな成果が十分予想 される。従つて これ らは、デザイン リテラシー教 育 におけるデザイン手法 として今後の検討 に値す るもの と位置づ けられ よう。

考察 とまとめ

本研究で取 り上げられた事例は、学生 による授業課題の一部であ り、そ こで展開 された思考方法や デザイン手法 にはまだまだ論理性や正確 さを欠 くものが多い。反面その自由な着想は、従来の硬直化

したデザイン実践の分野 に対 して、一石を投 じられる可能性 も十分あるもの と評価 され よう。

冒頭 にも述べた ように今 日のデザイン教育、特 に普通教育 におけるそれにあつては、「創造や表現や 制作」の対極 とも見 られ る「認識や理解や鑑賞」 により多 くの時間が割かれるべ きである。 しか しな が ら「表現」へのこだわ りを捨てきれないデザイン教育の限 られた時間の中では、そ うした余裕がな いのも事実である。したがつて、「表現」か「理解」かの どち らかに重点を置 くとい うのではな く、「理 解 を表現す る」 といつたデザイン リテラシー教育の構想が求め られるはずである。

本事例研究は、デザインテーマに対する「理解」を一般的な理解や既存の理解へ向けるのではな く、

思考方法を様々に変 えなが ら、テーマに対する独 自な 「理解」 と「表現」を実現するといつたデザイ ン リテラシーの基本 を表出している点で、価値のある成果 を上げた といって よい。創造行為に関わる デザイン リテラシー教育 とは、他の諸学問領域 に比 して、 より認識か ら創造へのベ ク トルが重視 され る教育分野である。 したがつてデザインされるべ きものは 「わか りかた」それ 自体であ り、新たな創

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造へ繋がるための認識 を表現す ることになる。個別の 「わか りかた」は無数に存在するであろ うが、

すでに実践 されたデザイン行為の中か ら、典型的な手法を抽出 してい くことが、教育方法を検討す る 端緒 となるだろ う。そ して、そ うしたものを教育的見地か ら修正を加 えデザインの手法へ と発展 させ たものこそ、デザイン リテラシー教育のコア として位置づけられるはずである。

(1)  伊藤文彦,「 デザインの知識"に関する基礎的考察」,大学美術教育学会誌,1991, p78

(2)J.F.リ オタール,「ポス ト・モダンの条件」,書

 

風の薔薇,1986,p129

(3)M.ミ

ンスキー,「

Jい

の社会」,産業図書,1990,p212

(4)  望月麻由,「情報デザイン研究」課題作品,図版用 に一部修正,2002

(5)  萩原美保,同

,2003       

(6)松

下加奈子,同,2003

(7) (10) 

川合瑠美,同,2002

(8)  西山智浩,同,2002

(9)  小笠原拓哉,同,2002 (11)  篠原宏一,同,2004 (12)  宮田孝典,同,2004 (13)  八木育恵,同,2004

参照

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