血液癌の細胞分化誘導治療法 : レチノイン酸と併 用する薬剤とその作用機構
著者 高橋 典子
雑誌名 星薬科大学紀要
号 41
ページ 1‑7
発行年 1999
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000099/
Proc. Hoshi Univ. No.41,1999
総 説
血液癌の細胞分化誘導治療法
一レチノイン酸と併用する薬剤とその作用機構一 高 橋 典 子
星薬科大学 衛生化学教室
Cytodifferentiation Therapy in Hematologic Malignancies
−1)rugs in Combination with Retinoic Acid and Mechanism of Its Action一
Noriko Takahashi
D⑳α物2θηZoゾHθα肋Cんe〃2 sぴy, Hos砺σ鋤θアs伽
はじめに
腫瘍が分化誘導治療法で治癒するという概念はテラト カルシノーマ(奇形癌腫)の研究から見いだされだ).本 研究において,癌細胞から派生するいくつかの細胞は良 性腫瘍細胞,或いは正常様細胞に分化していることが示 された.即ち,正常細胞に比べて正常な恒常性を維持し にくい癌細胞が周辺の環境に応答して分化することが明 らかとなった.
ヒト骨髄球性白血病細胞株(human myeloid leuke・
mia cell line, HL60細胞)はヒト白血病細胞の分化誘導 研究において中心的な役割を果たしている.種々の誘導 剤によりHL60細胞は穎粒球様細胞,或いは単球,マク
ロファージ様細胞に分化誘導される.これらの研究の 内,特に,レチノイン酸(RA)によるHL60細胞の分化 誘導に関する研究成果は2・3),急性前骨髄性白血病患者
(APL)の白血病細胞が仇〃伽o及び仇励oでRAによ
り終結分化するという発見に直接導いた3・4).
RAを初めとするレチノイドは,自然界に存在し,ま た微量栄養素であるビタミンA(レチノール)の合成類 縁体として知られているが,多くの癌モデルにおいて癌 細胞の増殖を抑制して,癌細胞の分化を誘導する.また,
RAは経口投与で摂取されAPL患者の約95%を完全 寛解させる勾.このように分化誘導療法は化学療法とは 異なり癌細胞にのみ作用し,正常細胞に大きな影響を与 えないので副作用が少なく,治癒率が非常に高いという 利点を持っ.
RAはAPL患者に有効な細胞分化誘導治療薬ではあ るが,RA単独投与で完全寛解した患者は2〜3カ月後 に高い割合で白血病を再発する.そして,再発した患者 の白血病細胞が仇〃伽oでRAに対し応答しても,ほと
んどの患者は見かけ上RAに対して耐性となる.そこ で,RAを投与した再発患者の変化について調べたとこ ろ,患者の血中のRA濃度は非常に低く,白血病細胞中 のRA結合蛋白質量は著しく増加していた5}.これらの
ことから,(a)RAの代謝酵素であるチトクロームP・450 が誘導されRAの代謝が元進しRA濃度が減少した,
(b)細胞内のRA結合蛋白質量が増加しRAは結合蛋白 質に結合しているたあ(不活性型,貯蔵型),生理作用を 発揮できる遊離RAの濃度が減少した,(c)多剤耐性遺 伝子(multidrug resistantl mRNA, MDRI mRNA)及
びp−glycoproteinが発現し細胞内RAを細胞外に放出 したため,細胞内RA濃度が低下した可能性等が指摘さ れた6).すなわち,何れもRAの大量投与により種々の 遺伝子が誘導され,細胞内のRAの濃度が激減したこと
を表している(図1).
そこで,治療に使うRA濃度を減少させることによ り,上記の蛋白質の誘導を抑え,細胞内のRA濃度を高 く維持することができると考えた.即ち,低濃度のRA
(c)RA Rgloa86
cell membrane
/
(b)Sequoポgrod
図1 レチノイン酸耐性の機構
と他の薬剤を併用することによって,RA単独で用いる 場合と同等の効果を得ることを試みた.薬剤の併用投与
は種々の微生物感染治療,癌化学療法,発癌予防法等に おいて,単独投与よりも一般的により効果的である.本 稿では,RAの作用機構,及びRAと併用する薬剤とそ の作用機構について述べる.
RAの作用機構
RA作用機構は核内レセプター(RAR:retinoic acid receptor, RXR:retinoid X receptor)で説明される.両 レセプターはステロイド/サイロイド核内レセプター多 遺伝子ファミリー(the steroid/thyroid nuclear recep−
tor multigene family)のひとつであり, RAに高い親和 性を持つ.これら核内レセプターは特別なDNA配列を 認識,結合して夕一ゲット遺伝子の転写を開始させると 一般的に受け入れられている7・8).しかし,核内レセプ
ターが分化に関与する直接の証拠は非常に限られてい
る.HL60細胞はRARαがHL60細胞のRAによる分
化誘導作用に役割を果たすと考えられた9)、また,P19 胚細胞のRAによる分化にRARβが間接的に関与する 可能性が示された1°}.これに対して,RARがRAにより 誘導されたF9胚癌腫細胞の分化に関与しないこと,
RARがDNAと直接作用しない機構で機能しうるこ と11112),さらに,遺伝子を介さないRAの作用(non−
genomic effects)13−17)などが報告された.これらの結果
はRAにより誘導される細胞分化過程に核内レセプ ターに加えて別の作用機構が存在する可能性を示唆して
いる.
近年,我々はHL60細胞中で蛋白質のRAによるアシ ル化反応(レチノイレーション)を見いだし,遺伝子を 介さないRA作用のもうひとつの機構として提案した
(図2)18−25).レチノイレーションはRAと蛋白質の共有 結合形成反応であり,その量は最初のRA濃度に依存し
↑
』−l
H
Retlnoylatlon
む
㏄+〉」〉{
Tyrosine Threonine
Serine
Palmitoylation
㎝ 馬 10
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Cysteine
㎝ 占
゜1声
図2レチノイレーションとパルミトイレーション
て最終的に飽和する.また,細胞分化誘導作用,及びレ チノイレーションに対するRAの50%有効量(ED5。)は 非常に近似している.これらの結果は,レチノイレー ションがHL60細胞の分化に深く関与していることを
示唆している.
レチノイレーション経路
レチノイレーションの代謝経路のひとっはレチノイル CoA中間体の形成とそれに伴って起こるレチノイル CoAの転移,そしてレチノイル部分の蛋白質中のアミ ノ酸への共有結合形成である(図2)26).大部分のRAは 蛋白質にエステル結合しており,レチノイレーションと パルミトイレーション(パルミチン酸によるアシル化)
は非常に類似している(図2)2η.
シグナル伝達に重要な働きをすることが知られている プロテインキナーゼA(PKA)のType IとIIの調節サ ブユニット(RIとRII)はレチノイレーションによって 修飾されており,RIIαの1molに1.4 molのRA, RIα
の1molに6mo1のRAとRAは調節サブユニットと
高い割合で結合していた.これに対して,ビメンチンは 低い割合でRAにより修飾されていた28}.
急性骨髄性白血病患者三人の白血病細胞にRAを処 理し得られた蛋白質を二次元電気泳動で分離,解析し た.そのレチノイレーションパターンは相互に類似し,
又,HL60細胞のパターンに著しく似ていた29}.これに 対して,ヒト表皮ケラチン細胞,ヒト乳癌細胞,胚癌腫 細胞,正常イヌ腎臓細胞のレチノイレーションパターン
はHL60細胞のパターンとは異なっていた22 2u.
レチノイレーションと臨床
レチノイレーションは,RAとプロスタグランジンE2
(PGE2)の併用により相乗的にHL60細胞の分化を誘導 するという結果をよく説明する.逐次処理(プライミン グ),すなわち,先ずRA,次にPGE2の順に細胞を処理 すると相乗的に細胞の分化を誘導するが,その順序を逆 にすると全く効果がなかった30−32).従って,RA処理は cAMPの応答を変える変化を誘導している可能性が示 唆された.HL60細胞におけるRIIサブユニットのレチ
ノイレーションはRA処理後5分以内に起こる.その時 点において他の蛋白質はRAにより修飾されていない.
従って,RAによるプライミング効果はRIIサブユニッ トのレチノイレーションに起因しているようである.
種々の蛋白質の脂肪酸アシル反応(パルミトイレー ション,ミリストイレーション,イソプレニレーション 等)は各蛋白質の局在部位への移動,定着を調節してい ることが知られている. レチノイレーションはPKAの 移動に関与しているかもしれない.レチノイル化された PKA(RI及びRIIサブユニット)は核画分に存在する
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PGE2 ● r仏
咀詩』
ム
晦 ,二・櫟一
/ l
Phosphorylation ↓ D耐erentiation
図3 RAとPGE2の併用とレチノイレーション仮説図 AC:アデニルシクラーゼ, Gs:G蛋白質, R:プ ロテインキナーゼAの調節サブユニット,C:プロ テインキナーゼAの触媒サブユニット
ので,レチノイレーションを受けたPKAは細胞内を移 動し核に入り,核内の蛋白質をリン酸化して遺伝子発現 を調節する(図3).そして,PGE2はHL60細胞表面に 存在するPG受容体EP2を介して細胞内cAMPの濃度 を上昇させ33},核に存在するRA結合PKAのリン酸化 活性を増加させると考えられる(図3).RAとPGE2の 併用投与治療法は臨床的に大いに期待されている.
分化治療法においてRAと併用する薬剤 1. レチノイド
1) Am80, Ch55
Am80はテレフタル酸アニリド誘導体, Ch55はチャ ルコンカルボン酸誘導体である.これらの化合物の末端 のカルボキシル基と脂溶性基の間隔はRAのその間隔 とほぼ等しい(図4A).放射標識されたRA, Am80,
Ch55を使用して, RA, Am80, Ch55による細胞分化誘 導活性と蛋白質の共有結合修飾との間に正の相関がある かを検討した34).無血清培養条件下では,Ch55は用量 依存的にHL60細胞の分化を誘導したのに対し, Am80
は誘導しなかった(図5).一方,Ch55はHL60細胞蛋 白質と共有結合したが,Am80はほとんど結合しなかっ た.二次元電気泳動で放射標識蛋白質を分離,解析した ところ,そのパターンはRAとCh55では異なっていた
(図6).しかし,PKA IIのRIIサブユニット(蛋白質 11),PKA IのRIサブユニット(蛋白質14)を含む数種 の蛋白質は両レチノイドで共標識された(図6).一方,
レチノイレーション量はAm 80添加によって増加し
(図7A), RAとAm80或いはCh55の併用で, HL60 細胞の分化を相乗的に誘導した(図7B).以上の結果か ら,レチノイレーションと分化誘導作用には正の相関関 係があり,レチノイドによる蛋白質修飾反応がHL60細
ト 国Zポ︑⊆O亘芒Φ﹂Φ迄己
(A) 世し〉し一
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Ch55
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Falconenson■8
内一一廿鵠=脇_
一内一牛… =・…
図4 レチノイドの構造
10 100 1㎜ 10 100 1㎜
Concentration{nMl
図5 RA, Am80, Ch55によるHL60細胞の分化誘導 HL60細胞(2×105/ml)を種々の濃度のRA(○),
Ch55(口), Am80(△)存在下,92時間,112時間 無血清培養液中で生育した.分化誘導作用はNBT を還元する細胞の割合(%)として表した.
胞の分化誘導において重要な働きをしている可能性が示 唆された.また,Am80とCh55は核内レセプターに結 合するが,無血清培養条件下では核内レセプターへの結 合能とHL60細胞の分化誘導作用は相関しなかった.
2)4・HPR
4 HPRはRAの末端のカルボキシル基にヒドロキシ ルフェニルアミン基が結合した化合物である(図4A).
4−HPRは有効な癌化学予防剤,癌細胞増殖抑制剤であ るが,核内レセプターと結合しないのでその作用機構は よく分かっていない.無血清培養条件下では,4・HPRは 用量依存的にHL60細胞の分化を誘導するが, RAと比
106一 71一
44−
●七 5き28一
18一
RA Ch55 Composite
/◎●oo 。oo
ソ 俘881、
8
●Oo●、,
oo 2223
ACID BASE
図6 RA, Ch55で修飾されたHL60細胞蛋白質の二次元電気泳動パターン HL60細胞(2×106/ml)を100 nM[3H]RA(50 Ci/mmo1)或いは,100 nM[3H]Ch55(20 Ci/mmol)存在下24時間無血清培養液中で生育した. Bligh−Dyer法で遊離 RA, Ch55を取り除いた後,得られた蛋白質残渣を等電点電気泳動緩衝液(pH 3.5−10)に溶解し,二次元電気泳動とフル オログラフィで分析した.ゲルをフィルムに120日間露光させた.矢印は主レチノイル化蛋白質の位置を示した.
Compositeの白丸はRA,ドットはCh55,黒丸は両リガンドで標識されている蛋白質を表した.
図7
220
_ 180日
8芒160 140 ご1209
る100』
〜ξ8°
£60
(A)
40
30
20
10 三穗こ゜ロZま︑⊂O一起乞Φ﹂Φ主O
(B)
1・・1伊 1・・ RA° 1。 1。1。4。
Concentration(nM) ch55 10 10 Am80 10 10 Concentration(nM)
Am80, Ch55による(A)レチノイレーション量の増加と(B)RA一分化誘導作用の増強 (A)HL60細胞(2×106/ml)を 100nM[3H]RA(50 Ci/mmol)と種々の濃度の非放射標識RA(●), Ch55(□), Am80(△)存在下24時間無血清培養液 中で生育した.Bligh−Dyer法で遊離RA, Ch55, Am80を取り除いた後,得られた蛋白質残渣を溶解しシンチレーショ
ンカウンターで測定した.100nM[3H]RA単独で標識されたレチノイル化蛋白質を100%として表した.(B)HL60 細胞(2×105/ml)を図に示した濃度のRA, Ch55, Am80存在下94時間無血清培養液中で生育した.分化誘導作用は NBTを還元する細胞の割合(%)として表した.グラフ内の左上の図はアイソボログラムを示し,単独,或いは併用処理
して37%の分化率を与えるために必要な各化合物の濃度をプロットした.
100
︑
Σ_80
︑︑︑
⊂60一 ︑︑
め ︑
雲40 ︑︑
o20 ︑︑︑
︑
0010203040
RA(nM)
較すると非常に弱い分化誘導作用を示した35).しかし,
4・HPRとRAの併用で相乗的にHL60細胞の分化を誘 導し,その際,4−HPRは細胞内レチノイレーション量を 増加させた.一方,4−HPRは細胞の増殖を抑制しアポ
トーシスを誘導することが知られている.以上の結果か ら,レチノイレーションと分化誘導作用に相関関係が認 められ,単独で細胞分化誘導能が弱い薬剤でもRAと併 用することにより臨床的に使用できる可能性を示唆し
た.
3) falconensones
falconensone AとBは,南米ベネズエラの土壌より 分離された新種の子嚢菌であるEm碗c¢〃α垣coη¢ηs s NHL2999株の菌体の塩化メチレン抽出エキス中より単 離されその構造が決定された新しいタイプの黄色化合物 である.これらの化合物はcyclopentenone環に共役二 重結合が連なるポリエンであり,RAと構造上類似して いる(図4B).しかし, RAはカルボン酸(・COOH)を持 つのに対して,falconensone AとBは極性残基(活性
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基)を持たない.蛋白質の共有結合修飾が細胞分化作用 発現に重要であるならば極性残基を導入する必要があ
る.そこで,falconensone Aの2位のカルボニル基を ρ一bromophenylhydrazineにより置換したfalconens・
one Aρ一bromophenylhydrazone(Br誘導体), falco−
nensone Aの2位,及び3 位のカルボニル基にヒドロ キシルアミンを用いてオキシム置換したfalconensone Adioxime(Ox誘導体)を合成し,細胞分化誘導作用を
検討した(図4B)36}.
無血清培養条件下において,falconensone Aは単独 でHL60細胞の分化を誘導するが,血清含有培養条件下 ではほとんど分化を誘導しなかった3θ.しかし血清含有 培養条件下でも,RAとfalconensone Aを併用するこ とによってHL60細胞の分化は相乗的に誘導された.ま た,血清の有無に関わらずfalconensone AはHL60細 胞の増殖を抑制した.falconensone Aのcyclopenten−
one環の4 位にメチル基のないfalconensone Bは,
HL60細胞に対して細胞増殖抑制作用,及び細胞分化誘 導作用を示さなかった.falconensone Aの合成誘導体 であるBr誘導体及びOx誘導体は, falconensone Aと 比較してより強い両作用を示した.また,両合成誘導体
によって誘導された細胞はRAの場合とは異なり単
球・マクロファージ様細胞であった.以上の結果から,
活性基を持っfalconensone Aの合成誘導体であるBr 誘導体,Ox誘導体は, HL60細胞に対する細胞増殖抑制 作用及び細胞分化誘導作用において,falconensone A よりもより強い抗癌作用を有していた.従って,活性基 の導入により各作用が増強されることが明らかとなっ た.また,falconensone Aのcyclopentenone環の4 位にメチル基のないfalconensone Bは全く作用を示さ
なかったことから,このメチル基は作用発現に必須であ ることが分かった.以上の結果から,親化合物への極性 基導入により各作用が強くなることから,リガンド(化 合物)と蛋白質の共有結合形成が作用発現に重要である かもしれない.これらの標識化合物を作製できれば修飾 されている蛋白質が明らかとなる.
以上の結果から,レチノイド(Am80, Ch55,4・HPR,
falconensones)は低濃度のRAとの併用により相乗的 にRA作用を増幅した.この併用効果は,併用する薬剤 の核内レセプター結合能に関係しなかった.また,この 低濃度RAとレチノイドの併用は,遊離RA濃度を減少
させる蛋白質遺伝子を誘導しないことに加えて,図1に 表したように,レチノイドがRAと拮抗して(a)RA代 謝を阻害し,(b)RAのRA結合蛋白質への結合を抑制 し,(c)RAの細胞外への放出を抑え,その結果細胞内 RA濃度を高め,最終的にレチノイレーション,及び核 内レセプターに多量の遊離RAを供給して相乗的な効 果を現す可能性が示唆された.
2.ステロイド:Mer−NF8054X
砂漠に生息する耐熱性の子嚢菌であるE〃z仇cθ〃α 舵 eγo仇α砺cαは無機培地中で容易に増殖するため培養 が安価で行えること,また菌体内で合成された化合物は 菌体外(培養液中)に分泌されるので化合物の単離,精 製が比較的容易であるという利点をもつ.本菌から,
cycloergostan骨格を持っ新規エルゴステロイド三種が 単離され構造が決定された(図8A). Mer−NF8054X,
Emesterone A, Emesterone Bは水酸基を順に4,3,2個 有する(図8A). Mer−NF8054X単独で濃度,時間依存 的にHL60細胞を単球・マクロファージ様細胞に分化 誘導した37}.また,Mer・NF8054Xは強い細胞増殖抑制 作用を表し,RAとの併用で相乗的に細胞の分化を誘導
した.Mer−NF8054Xの3位の水酸基がカルボニル基に なったEmesterone AはMerNF8054Xに比べて弱い 増殖抑制作用,分化誘導作用を示した.Emesterone A の5位の水酸基の欠失したEmesterone BはEmester−
one Aより強くMer−NF8054Xより弱い作用を示した.
これらの結果は,Mer−NF8054とその類縁体は新しいタ イプの分化誘導剤であり,3位,5位の水酸基は作用発 現に必要であるが必須ではないこと,Mer−NF8054Xは RAによる分化誘導作用を増強させることを明らかにし た.従って,Mer−NF8054XはRAとの併用で白血病患 者の治療に利用できる可能性が見いだされた.
1,25(OH)2ビタミンD3(1,25(OH)2D3)(図8A)はHL 60細胞の分化誘導剤として非常に優れているが,細胞 内カルシウム濃度に大きな影響を与えるので臨床的に副 作用が強く使用できない.1,25(OH)2D3に似た構造を持 っMer−NF8054Xの細胞内カルシウム濃度に及ぼす影 響を検討することは大変興味深い.
◎H ◎柄
(B)
125(OH)2V㎞inO3 蘭●州F8054X
〜COOH
。 o
\.σw一㎜
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丁品u⑲r柏
Trlcho80巳tln A
R賦ino鰺A61d
図8 ステロイド,脂肪酸の構造
Er情戚●ron●8
3.脂肪酸:
酪酸(butyric acid, BA)はHL60細胞分化誘導剤であ り,クロマチンに存在するピストンの脱アセチル化を阻 害することが知られている(図8B).トリブチリン(BA のプロドラッグ)(tributyrin, TB)は3個のBAを持ち,
TB l molが3molのBAに相当する(図8B).単独処 理の場合,HL60細胞の分化能に対するED50値はRA で0.11μM,BAで480μM, TBで130μMであっ
た538㌧モル比を1000:1(BA or TB:RA)として併用し た場合,そのED50値はBAが38μM, RAが38 nM, TB が13μM,RAが13nMとなった.特に, TBをRAと 併用することにより,50%分化誘導活性を得るために 必要とされる化合物のRA濃度は,単独の場合と比較し て8〜10分の1に減少した.
最近,このRAとBAの併用による相乗効果が核内レ セプターで説明されっっある.一般的にピストンのアセ チル化はクロマチンの活性遺伝子のところで活発であ る.RXR, RARの共役抑制因子であるSMRT, mSin3A が脱アセチル化酵素(HDAC1,mRPD3)と複合体を形成 しており,脱アセチル化酵素阻害剤によってRAによる 転写活性は元進する39・4°),また,共役活性因子である CBP/p300, SRC−1にアセチル化酵素活性が認められ た4L42㌧詳細はまだ明らかではないが,このような知見 を基にして図9の様なモデルが考えられている.一方,
トリコスタチンA(図8B)はBAと同様にピストンの
抑制
ユ 酪酸ノトリコスタチン
ピストン脱アセチル化
⑱⑬とうー
活性化
図9 RAとBAの併用時の作用機構モデル:核内レセプ ターとピストンの脱アセチル化阻害
脱アセチル化を阻害することが知られているが,構造上 BAよりもRAによく類似していることは非常に興味深
い.
おわりに
細胞分化誘導療法は癌細胞にのみ作用して癌細胞を正 常様細胞に分化誘導するため,癌細胞ターゲッティング 療法のひとつと考えられる.従って,正常細胞に影響を 与えず,化学療法に見られるような副作用が非常に少な い.このような理由からか,白血病の患者はカプセルに 封入されたRAを毎日経口的に摂取している.現在,
RAの多量投与によるRA耐性が問題となっている最 中,RAはよく効く薬であることは間違いないのである から,RAの投与方法,剤形を考え直す時期が将にきて いる.これと同時に,副作用の少ない細胞分化誘導療法 を礎にして,分化誘導作用を増強する薬物(細胞分化誘 導剤,アポトーシス誘導剤,cAMP生成誘導薬, cAMP 様作用薬等)を探索,検討することは重要である.また,
細胞分化誘導療法の他の癌に対しての応用が期待され
る.
三酸化ヒ素である亜ヒ酸は日本では毒物,劇物として 規制されているが,最近,RA治療を行い一度寛解した 後再発した患者16人中15人が亜ヒ酸療法で完全寛解
したことが報告された43).亜ヒ酸はアポトーシス誘導作 用を持ち,RA耐性患者に対し副作用が少なく効果的な 化学療法剤であると考えられている.果たして白血病は
この意外な薬,亜ヒ酸とRAの併用で完全治癒するのだ ろうか.今後の研究の動向が非常に楽しみである.
謝 辞
本研究を遂行するにあたり星薬科大学大谷記念研究助 成金をいただき深く御礼申し上げます.本研究の御指導 いただきました米国国立癌研究所のT.R. Breitman博 士,化合物の単離,合成,及び御助言をいただきました 星薬科大学河合賢一教授,御協力をいただいた星薬科大 学衛生化学,薬化学教室の皆様に深く感謝いたします.
また,本稿の執筆の機会を与えて下さいました星薬科大 学紀要編集委員会の皆様にお礼申し上げます.
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78901234567891112222222222
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