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虚血性心疾患診療における冠血流予備量比の有用性

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東医大誌 75(2): 195-200, 2017

総   説

虚血性心疾患診療における冠血流予備量比の有用性 Efficacy of Fractional Flow Reserve in Ischemic Heart Disease

田 中 信 大 Nobuhiro TANAKA

東京医科大学八王子医療センター循環器内科

Department of Cardiology, Tokyo Medical University Hachioji Medical Center

病変の存在診断のみではなく、心筋虚血の存在の証 明、さらに心筋虚血の重症度評価が重要である。冠 動脈造影検査は、冠動脈病変診断法のGold standard として用いられているが、造影上冠動脈病変を認め ても、それが安定した、虚血を惹起しない病変であ れば、OMTにより、その予後は良好であることが 示されている1)

冠動脈狭窄重症度の定量的評価法としては、定量 的冠動脈造影法(quantitative coronary angiography : QCA)、 血 管 内 超 音 波 法(intravascular ultrasound : IVUS)・ 光 干 渉 断 層 法(optical coherence tomogra- phy : OCT)に代表される解剖学的指標を用いた評 価 法 と、 冠 血 流 予 備 能(coronary flow reserve : CFR)・ 冠 血 流 予 備 量 比(fractional flow reserve : FFR)、非侵襲的負荷検査(負荷心筋シンチグラム、

負荷心エコー法など)による機能的評価法がある。

CFRの計測には、Doppler sensorにより血流速度を 計測する方法、温度センサーにより熱希釈法より計 測する方法がある。実際に侵襲的治療を行うために は解剖学的な情報は必須であるが、侵襲的な検査・

治療を行うべきか、またどのような治療法を選択す るか、など診断・治療戦略を立てる際には、機能的 診断法による情報に基づいて判断される。特にFFR 平成28129日受付、平成29315日受理

キーワード: 冠血流予備能(Coronary flow reserve)、冠血流予備量比(Fractional flow reserve)、虚血性心疾患(Ischemia heart desease)

(別冊請求先:193-0998 東京都八王子市館町1163番 八王子医療センター循環器内科)

TEL : 042-665-5611

1. 虚血性心疾患の診断・治療

虚血性心疾患罹病者数は、社会の高齢化の影響を 受け、近年増加の一途をたどっている。その虚血性 心疾患に対する治療法として、比較的侵襲性の低い 経カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術percutane- ous coronary intervention : PCI)の進歩は目覚ましい。

金属型ステント(bare metal stent : BMS)の弱点で あった再狭窄の問題も薬剤溶出ステント(drug elut- ing stent : DES)によりほぼ解決され、多くの患者 が治療可能となった。さらに最近では、生体吸収型 ス キ ャ フ ォ ー ル ド(bioresorbable scaffolds : BRS)

の使用が欧米ではすでに始まっており、日本でも 2016年11月に厚労省の承認が下り、2017年以降そ の臨床使用が期待されている。一方で、冠危険因子 である脂質異常症に対するスタチンや新規薬剤

(PCSK9 阻害薬)、糖尿病に対する新規薬剤(SGLT2 阻害薬)が出現し、至適内科治療(optimal medical therapy : OMT)もその良好な予後改善効果が確認 されている。どのような治療選択が良いかは、個々 の症例・病変を評価し、総合的に判断する必要があ る。

虚血性心疾患の治療戦略を立てる際には、冠動脈

(2)

は心臓カテーテル室内で判定でき、治療方針に直結 するため、その有用性が高く評価され広く使用され ている。

2. 冠血流予備能の概念

冠血流は、安静時は一定であるが、心筋酸素需要 に応じて増大する。この冠血流の最大限に増えうる 程度を冠血流予備能CFRと呼ぶ。冠血流量の調節

(自己調節能auto-regulation)は抵抗血管がつかさ どっている。抵抗血管は通常の冠動脈造影では描出

不可能な150 μm以下の細小動脈がその主体である。

安静時冠血流、最大充血時(抵抗血管を最大に拡 張した時点)冠血流と冠動脈狭窄の関係を図1に示 す。安静時冠血流は、冠動脈(心筋外血管)に中等 度狭窄が存在しても抵抗血管が拡張することにより 一定に保たれ、狭窄率が90%以上になると低下し 始める。しかし安静時に抵抗血管がすでに拡張して しまうことにより、抵抗血管拡張により得られる冠 血流の最大量は50%狭窄前後を境に低下する2)。正 常では、CFRは3~5であるが、2.0以下を示せば 心 筋 外 血 管 の 狭 窄 が 有 意 で あ る こ と を 意 味 す る3)。すなわちCFRが機能的重症度を表していると 言える。但し、CFRは冠動脈狭窄以外にも、いわ ゆる微小血管障害、糖尿病、左室肥大、心筋梗塞な どにも影響を受け低下する。

3. 冠血流予備量比の概念と臨床応用 CFRに比し、計測時の血行動態の影響を受けに くく、冠動脈狭窄重症度を特異的に表しうる指標と して提唱されたのが冠血流予備量比FFRである(図 0

1 2 3 4 5

0 20 40 60 80 100

% diameter stenosis

Coronary flow reserve

%

Maximum flow

Resting flow Figure 1

2 FFR計測

大動脈圧(Pa、赤ライン)と冠動脈遠位部圧(Pd、緑ライン)を同時計測し、最大充血を惹起する。本例ではATP 140

μg/kg/min を経静脈的に投与した。投与開始60秒頃から充血状態となり始めPdの低下、および計算されたPd/Pa値(黄

ライン)の低下が見られ、投与90秒頃に最大充血が得られている。最大充血時(画面右側)にはPa = 71 mmHg、Pd = 39 mmHgであり、FFR = 0.55と計測された。

1 CFRと狭窄率

安静時冠血流(Resting flow)は90%以上の狭窄とな るまで保たれるが、最大冠血流(Maximum flow)は 50%程度の狭窄より低下し始める。このことから CFRは機能的狭窄率指標として用いられる。

Baseline Hyperemia

0 100

0 100

Pa

Pd

Pa = 71

Pd = 39

ATP 投与

血圧値(mmHgPd / Pa, FFR

(3)

2)。

狭窄のない正常冠動脈では心筋外血管に抵抗(圧 較差)は存在しないため、心筋に対する灌流圧は(Pa

-Pv)となり(Pa : 大動脈圧、Pv : 中心静脈圧)、

微小血管抵抗をRとすると、

正常最大心筋灌流量 QN, max = (Pa-Pv) / R となる。

狭窄が存在すると狭窄遠位部圧(Pd)は低下し、

その際の心筋灌流圧は(Pd-Pv)となるため、

狭窄存在下の最大心筋灌流量

      QS, max = (Pd-Pv) / R となる。

微小血管を最大拡張の状態(最大充血)とすると その抵抗値Rは最小となり、また一定となる。現在、

最大充血を惹起させる薬剤として、アデノシン・

ATPの経静脈内投与(140 μg/kg/min)あるいは冠動 脈内投与(50~200 μg)、塩酸パパベリンの冠動脈 内投与(左冠動脈12 mg、右冠動脈8 mg)、ニコラ ンジルの冠動脈内投与(2 mg)などが用いられてい る。ここでPa、Pdに対しPvが十分低いと仮定す ると、

FFR = QS, max / QN, max

= (Pd-Pv) / (Pa-Pv) ≒ Pd / Pa となる4)5)

正常血管である場合のFFR = 1.0であり、FFRが 0.75に低下しているということは、その血管が正常 であった場合に得られる最大血流量の75%に血液 供給能が制限されているということを意味する。

FFRは負荷試験の結果とよく相関し、負荷誘発性の 心筋虚血を生じうるFFR閾値は0.75であることが 報告されている5)

FFRは多くの臨床研究によりそのエビデンスが確 立され、現在では欧州・米国のガイドラインでも、

虚血評価の手法として重要な位置づけが与えられて いる。FFRに関するエビデンスとして特に重要なも のが、DEFER trial、FAME試験である。DEFER trial は、中等度狭窄に対するPCIの適応を、FFRによっ て決定することの妥当性を示した報告である1)。冠 動脈造影上中等度狭窄を有する症例を対象に、あら かじめPCIを施行する群(perform群)としない群

(deferral群)にランダム割り付けし、その後カテー テル検査時にFFRを計測、FFR<0.75であればどち らの群であってもPCIを施行(reference群)、FFR

≧0.75の症例は割り付けに従い治療方針を決定し

た。5年間の観察の結果では、FFR≧0.75でステン ト治療を回避した症例(deferral群)の予後は良好で、

心臓死や心筋梗塞の発生率は年間1%に満たず、ス テント治療を行っても(perform群)それ以上改善 しえなかった(図3)。FFR計測による虚血の判定は、

非侵襲的な負荷試験と同様に、予後改善を目的とし た治療方針決定に有用であることが示された。

多枝病変症例の治療においては、個々の病変の重 症度評価がさらに大きな意味を有してくる。解剖学 的判断(冠動脈造影)では3枝疾患と判断されてい たものが、FFRを用いた機能的判断を行うことによ り、実際には1枝・2枝病変である症例は実に60%

以上存在する6)。機能的に有意な病変にのみDESを 留置する治療戦略は、不要なDES留置を避けるこ とにより、ステントトラブル(血栓症等)に起因す る心事故の発生を抑制できる可能性がある。このよ うな背景のもと行われた臨床試験がFAME試験で ある7)。冠動脈造影上50%以上の狭窄を2枝以上に 認める症例を、Angioガイド群とFFRガイド群に割 り付けし、Angioガイド群ではすべての病変にDES を留置、一方FFRガイド群ではすべての病変を FFRにて評価し、FFR 0.80以下の病変のみにDES 留置を行った。FFRを用いることにより、関心病変 の37%に対するDES留置が回避され、その結果医 療費が削減、その後のイベント発生も有意に抑制さ れた。本研究のFFRガイド群では、冠動脈造影に おいて3枝病変と判断された症例のうち、機能的に

3 DEFER trial 5年の予後1)

中等度狭窄を有しているがFFR 0.75以上にてステン ト治療を回避した群(deferral群)の5年間のイベン ト発生率は低率であった。虚血陰性が証明された中等 度狭窄に対しステント留置しても(perform群)、予後 の改善は見られなかった。

(4)

も3枝病変であった症例は14%のみであった8)。機 能的に病変枝数を判断し治療を行う“機能的完全血 行再建”が有用な方法であることが証明された。

安定狭心症の初期治療において、OMTとFFRガ イドのステント治療の成績を比較した試験がFAME 2試験である9)。安定狭心症でPCIを予定された症 例の標的血管すべてにFFRを計測、FFR値が0.80 以下である病変を少なくとも1つ以上有する症例を PCI群(PCIプラスOMT)とOMT単独群にランダ ム割り付けされた。Primary end point(死亡・心筋 梗 塞・ 緊 急 血 行 再 建 術 施 行 ) は、PCI群4.3%、

OMT群12.7%(PCI群 のHazard比0.32、p<0.001) であった。安定狭心症に機能的な有意狭窄を有する 場合は、OMTにFFRガイドPCIを加えることによ り、OMT単独よりもその後の緊急血行再建施行の リスクを減少させた。

4.FFR値の意義

FFRはPCIの適応閾値を判定する際に有用な指 標として扱われている。しかしFFR値は、単に虚 血の有り・無しを判定するだけでなく、その値自体 が虚血の強さを反映している。負荷心筋シンチグラ ムを用いて、可逆性心筋虚血所見の強さと広がりを reversibility scoreとして定量評価すると、FFR値と 負の相関を認めた10)。FFRがより低値となる病変は、

虚血が存在するだけでなく、より広範囲の虚血を惹 起していると考えられる。

一方FFR低値には、狭窄が解剖学的に高度なだ けでなく、狭心症の病態も影響を及ぼしている。不 安定狭心症、特に新規発症の狭心症では、FFR値が 極端に低値を呈する症例が存在する11)。慢性的に進 行した狭窄では、遠位部の冠内圧低下を補てんする ように、狭窄が高度となるほど側副血行血流が増加 している。すなわちFFR値は側副血行路の発達状 態も加味した心筋虚血の強さを表している。側副血 行の発達が間に合わない不安定狭心症においては、

通常の安定狭心症よりも極度にFFR値が低下し、

発作ごとの灌流圧低下・末梢血流低下は冬眠心筋 hibernationを来す要因となる。

治療適応の閾値として、FAME試験以降FFR 0.80 が用いられているが、その境界領域の値を示す病変 の予後は一概に不良ではない。FFR境界領域0.75~

0.85においてPCIを回避した症例をその後7年間 経過観察したところ、イベント発生はFFR値より

も内服加療の内容に影響を受けていた12)。境界閾値 付近のFFRによってPCIを回避し経過観察とする 際には、虚血陰性と判断した場合においてもFFR がある程度の低下を惹起する粥腫が存在しているこ とを念頭に置き、その後の内科治療(粥腫のコント ロール)に活かすべきである。

FFR低値であれば虚血の解除を目的にステント治 療を行うが、治療後にFFRを再計測すると、必ず しも期待通りに改善しないことがある。その際には 冠内圧引き抜き曲線を記録することにより、留置し たステントの拡張不十分、ステント端の問題、ステ ント外の病変の残存、あるいは血管全体にびまん性 に広がる動脈硬化性変化の影響などを鑑別しう る13)。ステント自体の問題であれば追加治療が必要 なこともあり、治療終了時期決定において非常に重 要な情報である(図4)。しかし、日常の臨床にお いては、十分なステントの拡張が得られたにも関わ らず、FFR値が十分に回復しない症例に遭遇する。

全PCI症例の約15%程度を占めるが、その90%以 Figure 4-a

FFR = 0.74

Figure 4-b

4a

4b

4 左冠動脈前下行枝(LAD)に対するFFRガイドステ

ント留置手技

LADに複数の病変を認め(図4a左)、病変 ①、② に 対しステントを留置、それぞれ良好な拡張を得た(図 4a右)。しかしその後計測したFFR0.74と改善不 良であったため、圧引き抜き曲線を記録したところ、

残存の ③ に有意な圧較差を認めた(図4b)。本例で は病変 ③ に対してもステントを追加留置し、良好な FFR(0.86)まで改善、終了した。

(5)

上 は 左 冠 動 脈 前 下 行 枝(left anterior descending artery : LAD)病変である14)。LAD病変は3枝の中 で最も重要で、予後に影響を及ぼしうる血管である ため、FFRの改善不良は予後予測因子となりうる。

患者背景としては慢性腎臓病(chronic kidney dis-

ease : CKD)とFFRの改善不良に関係があること

を報告した15)。今後それ以外の要素についても詳細 な検討が必要である。

5. お わ り に

冠動脈疾患治療においてFFRを使用する場合に は、単なる虚血陽性・陰性という結果のみでなく、

得られたFFRの値、その血管の灌流領域などを総 合的に判断し治療方針決定に役立てることが重要で ある。またPCIを行う際には、見た目の狭窄の解 除ではなく、機能的改善を目指し治療を行うべきで あるが、FFR値の十分な改善が得られない症例の存 在を認知すべきである。今後は、改善不良例の予測、

また改善不良であった場合の対応・治療法を検討し ていくことが重要である。

著者のCOI(conflicts of interest)開示:

田中信大; アドバイザリー契約(St. Jude Medical, Volcano Japan, Boston Scientific)

文   献

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1016/j.jjcc.2016.09.005. Epub ahead of print 14) Kimura Y, Tanaka N, Okura H, Yoshida K, Akabane

M, Takayama T, Hirayama A, Tada T, Kimura T, Takano H, Mizuno K, Inami T, Yoshino H, Yama- shina A : Characterization of real-world patients with low fractional flow reserve immediately after

drug-eluting stents implantation. Cardiovasc Interv Ther 31: 29-37, 2016

15 Sakoda K, Tanaka N, Hokama Y, Hoshino K, Murata N, Yamashita J, Yamashina A : Association of mod- erate chronic kidney disease with insufficient improvement of fractional flow reserve after stent implantation. Catheter Cardiovasc Interv 88: E38- 44, 2016

参照

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