• 検索結果がありません。

「旧高齢者向け優良賃貸住宅制度が介護保険に与える影響について」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「旧高齢者向け優良賃貸住宅制度が介護保険に与える影響について」"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

旧高齢者向け優良賃貸住宅制度が介護保険に与える影響について

要 旨 旧高齢者向け優良賃貸住宅制度は,高齢化社会に対応し安心安全なバリアフ リー化された共同賃貸住宅のストック増加のために1998年より開始された制度 である.本稿では,旧高齢者向け優良賃貸住宅の管理戸数及び住宅のバリアフ リー化率と集住の効果が社会保障費に与える影響について実証分析を行う.分 析の結果,旧高齢者向け優良賃貸住宅の補助政策は介護保険事業へ有意に影響 を与えているとは言えず,効率性の観点からは疑問が残ることとなった.また, 住宅及び持ち家のバリアフリー化率の向上は介護保険事業費の減尐に影響を与 えることを明らかにした. 2012年(平成24年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU11016 田中 英明

(2)

目次

1 はじめに ... 3 2 高優賃と介護保険事業の概要 ... 4 2.1 高優賃の概要と問題点 ... 4 2.2 介護保険事業の概要 ... 7 3 高優賃の介護保険事業への影響の理論分析 ... 8 4 高優賃・バリアフリー・集住の介護保険事業への影響の実証分析 ... 10 4.1 高優賃整備戸数の介護給付額への影響の分析(分析 1) ... 10 4.1.1 分析方法 ... 10 4.1.2 分析対象 ... 11 4.1.3 推定モデル及び利用するデータ ... 11 4.1.4 推定結果 ... 12 4.2 バリアフリー化,集住の介護給付額への影響の分析(分析 2) ... 14 4.2.1 分析方法 ... 14 4.2.2 分析対象 ... 15 4.2.3 推定モデル及び利用するデータ ... 15 5 分析結果を踏まえた考察 ... 18 5.1 シミュレーション ... 19 5.2 政策提言 ... 21 6 まとめと今後の課題 ... 21

(3)

1 はじめに1 高齢者向け住宅の整備における国の施策としては,厚生労働省による老人福祉施設の 整備を除くと主に国土交通省の補助施策として行われている. 高齢者向け優良賃貸住宅(以下,高優賃)は,高齢者が安全に安心して居住できるよ う60歳以上の単身・夫婦世帯を入居対象とし,バリアフリー化され緊急時対応サービス の利用が可能な共同賃貸住宅の供給を促進するために住宅の整備費用の補助や家賃減額 費用の補助を行ったものである. これらの供給増施策については,バリアフリー化された安全な共同住宅に高齢者が集 住することにより,怪我の機会が減尐するなど寝たきりにつながる事故が防止されるこ とや在宅介護サービスの移動時間短縮などが期待されることから介護保険事業や医療保 険事業等の社会保障制度の効率的な運営が可能になることを目的の一つとし補助を行っ ているものと考えられる. よって,本稿では介護給付費へ高優賃整備戸数が与えた効果及びバリアフリー化や集 住が与えた効果について実証分析を行う.全国の政令市・中核市及び一都三県の市区町 データを用いた分析の結果,高優賃整備戸数は介護給付費減尐に有意に影響を与えない ことが示された.その一方で,持ち家のバリアフリー化は介護給付費の減尐に大きく寄 与することが確認された.その結果を踏まえ,今後の高齢者住宅政策について考察する とともにその改善を提言したものである. これまでの高優賃に関する研究としては,谷 (2004)は,東海地方における独立行政法 人都市再生機構の管理する改良型高優賃を対象とした調査から居住者属性や入居までの 経緯,居住者の付き合いについて明らかにした.さらに,谷 (2006)は,自治体担当者な どに対するヒアリング調査から運用状況と課題即ち入居者集めに苦労している状況や自 治体の財政負担から家賃補助のあり方の問題等を明らかにした.永井 (2008)は,高齢者 向け専用賃貸住宅(以下,高専賃)の実務家の観点から高優賃・高専賃の現状と課題即 ち高齢者の流入による財政負担増を敬遠し,高齢者の住宅問題に消極的な態度をとる自 治体の問題等を明らかにした.松川・鈴木 (2007)は,中国・四国・九州の高優賃及び高 専賃の管理者へのアンケートから介護が必要になっても生活の継続が可能な住宅として は問題のある供給状況を明らかにした.また,高齢者住宅と介護保険に関するこれまで の研究としては,油井 (2010)は,高齢者向けの住宅政策の展開や現状の検討により介護 保険との関連で考察した. しかし,本来高優賃制度は高齢者向けの社会保障制度に大きく影響を与える施策であ るにも関わらず,これまでの研究では,高優賃整備が介護保険事業に与える影響につい 1 本稿作成にあたり,福井秀夫教授(プログラム・ディレクター),北野泰樹助教授(主査),黒川 剛教授(副査),丸山亜希子助教授(副査),その他教員及び学生の皆様から大変貴重なご意見を頂 戴した.ここに記して感謝の意を表する.なお,本稿は筆者の個人的な見解を示したものであり,内 容の誤りはすべて筆者に帰属する.

(4)

て実証的な評価はなされていない.よって,本研究は高優賃整備が介護給付費に与える 影響を実証分析することで,事業評価を行う. 本論文は,まず次章で高優賃と介護保険事業について,統計データを基に概観する. 第3章では,高優賃が介護保険事業に与える影響について理論分析を行う.第4章では, 高優賃,バリアフリー化率,集住が介護保険事業に与える効果について実証分析を行い, その結果を示す.第5章では,実証分析のまとめと分析の結果を踏まえた考察を行う.最 後に,第6章では全体のまとめと今後の課題を示す. 2 高優賃と介護保険事業の概要 この章では高優賃と介護保険事業について統計データをもとに概観する.まず,高優 賃について制度の概要と問題点を示し,さらに介護保険事業について制度の概要と問題 点を示す. 2.1 高優賃の概要と問題点 高優賃は,居住環境が良好な賃貸住宅の供給を促進するため優良な賃貸住宅の供給の 拡大を図り,国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的として,1998年度より 旧建設省の制度要綱による予算措置として始まり,2001年度に高齢者住まい法が制定さ れたことにより法制度による補助となった.この施策は,2011年度の高齢者住まい法改 正により,高齢者円滑入居賃貸住宅登録制度及び高専賃登録制度と統一されサービス付 き高齢者向け住宅の登録制度となった.これにより,高優賃は制度としては無くなった もののサービス付き高齢者向け住宅への整備費の直接補助や税制優遇及び融資の実施等 により実質的には高齢者向け共同賃貸住宅の供給促進政策は継続している. 高齢者向け住宅の供給促進政策継続の背景としては,我が国において2010年に約1,000 万世帯である高齢者単身・夫婦世帯が2020年には1,245万世帯へと急増が予測されること や全高齢者に対する高齢者住宅等の割合がデンマークの8.1%やイギリスの8.0%等と比 較して極端に低くなっていることなどがあげられている2 .また,今までも高優賃制度 等により高齢者向け住宅の供給促進を図ってきたが思うように進まなかった現状も背景 としてあるだろう.この点に関連し,谷 (2006)や永井 (2009)は,高優賃制度では厳しい 財政状況にある市町村を実質的な補助主体としているため供給が進まなくなっていたこ とを指摘している. 高優賃制度による供給数は,2011年3月末現在で自治体の認定により14,255戸,独立行 政法人都市再生機構により21,799戸となっており,合計で36,054戸が供給されている.し かし,2001年度から2005年度を計画期間とした住宅建設計画法に基づく第8期住宅建設5 カ年計画では,5年間に11万戸の供給目標が設定されていたことを考えると,その供給が 停滞した状況が伺える.そのため,今回の法改正によりサービス付き高齢者向け住宅制 2 国土交通省「高齢者住まい法の改正案について」参照

(5)

度に統一と同時に国の直接整備費補助により供給増を図ったと考えられる. 旧高優賃では,民間事業者等が60歳以上の単身・夫婦世帯等を入居対象とし,バリア フリー化され,緊急時対応サービスの利用が可能な共同住宅を建設・買取り・改良によ り供給する際に,供給計画を作成し都道府県知事等に認定された場合には,整備に要す る費用の補助,家賃の減額に要する費用の補助,税制・融資の優遇など各種の助成が行 われるのである3.主な認定基準は図1,整備に要する費用の助成の概要は図2の通りであ る. 図1 高優賃の主な認定基準(高齢者住宅財団HPより) 3 「高齢者向け優良賃貸住宅パンフレット」財団法人 高齢者住宅財団 参照 基   準 整 戸   数 5戸以上。(改良により供給する場合は、10年以内に5戸以上とする) 備 1戸当たりの床面積は原則25㎡以上。(居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が 基 共同して利用するために十分な面積を有する共用の設備がある場合は18㎡以上) 準 構   造 原則として耐火構造または準耐火構造。 設   備 原則として各戸に台所、水洗便所、収納設備、洗面設備及び浴室。(共用部分に共同して利用す るため適切な台所、収納設備又は浴室を備えた場合は、各戸が水洗便所と洗面設備を備えていれ ば可) 高齢者の身体機能の低下に対応した構造及び設備。 (改良により供給する場合は、高齢者等配慮対策等級2〈段差解消等については等級2-相当〉) 緊急時に対応したサービスを受けうること。 管理期間:10年以上。(都道府県知事が10年を超え20年以下の範囲でその期間を別に      定めた場合は、その期間以上) 的確な管理:1)公募原則 2)抽選等公正な方法による入居者の選定 3)計画的な修繕       4)適切な事業経営計画 1)60歳以上。(整備費の助成を受ける場合は、収入制度があります。) 2)入居者が単身者であるか、同居者が配偶者若しくは60歳以上の親戚、または入居者が   病気にかかっていることその他特別な事情により入居者と同居させることが必要であると   都道府県知事等が認める者。 入 居 資 格 ※地域優良賃貸住宅(高齢者型)により供給する場合は、Bタイプ(高齢者等配慮対策等級2相当+エレベーター設置 〈移動等に伴う転倒、転落等の防止のための基本的な措置が講じられている〉)。 ※賃貸住宅の管理を委託又は賃貸住宅を転貸事業者に転貸する場合は、当該委託を受けた者又は転貸事業者 ■ 主 な 認 定 基 準 項   目 規   模 住 戸 内 基 準 ※ サ ー ビ ス 管   理 事 業 主 体 内   容 助 成 の 割 合 その他共同施設整備費(例:公園、広場、緑地、通路、立 体的遊歩道及び人工地盤施設、駐車場等) 標準主体附帯工事費に一定の割合を乗じた額 社会福祉施設等との一体的整備に要する費用 共用通行部分整備費(エレベーターの設備の設置及びエレ ベーターホールの整備に要する費用) 仮設店舗等設置に係る費用 ※2 ( 再 開 発 型 に 限 る ) 加 齢 対 応 構 造 等 整 備 費 その他加齢対応構造等整備費(例:警報装置、高齢者のた めの特別な設備の設置等) 団 地 関 連 施 設 整 備 費 給水施設、排水処理施設、道路、公園の整備に要する費用 を合計した額 ※2 国と 地方公共団体で 1/3 建 築 物 等 除 却 費 建築物等除却に係る費用 ※2 国と 地方公共団体で 2/3 ( 再 開 発 型 に 限 る ) 仮 設 店 舗 等 設 置 費   収入分位80%以下の範囲内で、地方公共団体が地域住宅計画等において定める地域及び入居者資格の範囲内に   設定した高齢者向け優良賃貸住宅について、地域住宅交付金制度等により、建設等に要する費用の一部に対し   助成されます。(内容に応じて、限度額等が定められています。) 補 助 対 象 項 目   民 間 の 土 地 所 有 者 等 ( 建 設 ・ 改 良 ) 地 方 住 宅 供 給 公 社 等 ( 改 良 ) 共 同 施 設 等 整 備 費 共 同 施 設 整 備 費 高齢者等生活支援施設(例:生活相談サービス施設、食事 サービス施設、交流施設、介護関連施設等)の整備費 国と 地方公共団体で 2/3  ※1 住 宅 共 用 部 分 整 備 費 ●整備に要する費用の補助

(6)

(国土交通省・都市再生機構資料より筆者作成) 図2 高優賃の整備費に要する費用の助成の概要(高齢者住宅財団HPより) 国及び地方公共団体は,高齢者の居住の安定の確保を図るため,必要な施策を講ずる よう努めなければならない(高齢者住まい法 第2条)ため,2001年度~2005年度を計画 期間とした住宅建設計画法に基づく第8期住宅建設5カ年計画では,高優賃制度により5 年間に11万戸の供給目標が設定されていたが,実際には,図3に示す通りであり,2011 年3月末現在でも自治体の認定により14,255戸,独立行政法人都市再生機構により21,799 戸となっており,合計で36,054戸の供給にとどまっている.さらに,図4に示す通り,自 治体認定の高優賃においては14,255戸のうち3,666戸が空き物件となっており,補助によ り高優賃を整備しても有効に活用されていない状況も観察できる. 図3 高優賃年別3月末管理戸数 図4 2011年3月末高優賃入居状況 高優賃の問題点として大きく分けて整備条件の問題,補助条件の問題,入居条件の問 題が考えられる.それらの問題について考察する. ① 整備条件の問題 高優賃の整備に当たっては,緊急通報システムの設置と住宅のバリアフリー化が大き な特徴と言えるが,これらの工事に当たっては通常の住宅建設よりも工事費用が高額化 しやすい上に,高優賃全体759団地中248団地では,デイサービスセンター・診療所等の 何等かの高齢者利便施設の併設を行っているため,工事費が高騰する傾向にあると言え る.そのために,整備費補助を行い家賃への影響を抑えるのだが,谷 (2005)が指摘する とおり,自治体が認定した民間建設の新築高優賃においては,入居者負担額が民営借家 団 地 関 連 施 設 整 備 費 建 築 物 等 除 却 費 ( 再 開 発 型 に 限 る ) 仮 設 店 舗 等 設 置 費 ( 再 開 発 型 に 限 る ) * 「地方住宅供給公社等」には、社会福祉法人、医療法人、農住組合等を含みます。 ※1 高齢者居住安定化緊急促進事業を活用した場合には、国で2/3を補助します。 ※2 地域優良賃貸住宅(高齢者型)のBタイプについては、対象外となります。 国と 地方公共団体で 1/3 給水施設、排水処理施設、道路、公園の整備に要する費用 を合計した額 ※2 建築物等除却に係る費用 ※2 国と 地方公共団体で 2/3 仮設店舗等設置に係る費用 ※2 買   取 住 宅 の 買 取 費 住宅の買取りに係る費用(住宅全体の工事費相当分) 国と 地方公共団体で 1/3 地 方 住 宅 供 給 公 社 等 * ( 建 設 ・ 買 取 ) 建   設 住 宅 の 建 設 費 住宅全体の工事費

(7)

(厚生労働省HPより) (厚生労働省HPより) に住む高齢者世帯の平均家賃額を大きく上回るなど,整備費の高騰により家賃への影響 を抑えきれていない現状が確認される. ② 補助条件の問題 高優賃の補助については,国と地方公共団体の負担により行われるが,永井(2009) が 指摘するとおり都道府県は基本的に高優賃の補助を廃止しており,厳しい財政事情にあ る市区町村においても補助制度を整備しているのは全国の16%にしかすぎず,建設費補 助や家賃減額補助,高齢者流入による介護保険財政への影響など長期的に財政を悪化さ せる要因となり得るため建設が進んでいない現状が確認される. ③ 入居条件の問題 岡部ら (2010)は,高優賃に入居した高齢者のうち自立困難になった場合にも住み続け たいという意向を持っているのは4割弱であり,高優賃に転居したとしても終の棲家と ならずに次の居住場所を探す必要性が生じることを指摘している. さらに,谷 (2005)は,自治体が認定した民間建設の新築高優賃においては,入居者負 担額が民営借家に住む高齢者世帯の平均家賃額を大きく上回るなど家賃負担が大きいこ とを指摘している. これらの条件が相まって2011年3月末現在では,自治体認定の高優賃においては14,255 戸のうち3,666戸と実に25.7%が空き家となっている.これは,高齢者のニーズにあった 住宅となっておらず,供給超過になっているとも言える状況である. 2.2 介護保険事業の概要 2000年に導入された介護保険制度は,3年を1サイクルとして介護事業計画や保険料の 設定を行い,様々な改正を行いつつ医療保険同様の社会保険のシステムとして現在に至 っている. 基本的なシステムは,図5に掲載されている通りであり40歳以上の被保険者から集めた 保険料と税金を原資として,保険者(市町村)が費用の9割をサービス事業者に支払うこ 図5 介護保険制度の仕組み 図6 サービス利用の手続き

(8)

とにより認定を受けた高齢者は,自己負担1割で介護サービスを受けられることとした. サービス利用のための手続きは,図6に掲載されている通りであり被保険者が各市町村 に認定を申請し,介護の必要度に応じて要介護認定を受けることにより,ケアマネジャ ーがケアプランを作成し各種の介護サービスを受けられることとなる. 即ち,市町村から認定を受け介護サービスを利用した場合に介護報酬が発生しサービ ス事業者は,利用者から1割の自己負担分を徴収し,残り9割を介護給付費として保険者 (市町村)から受領することとなる.介護報酬の仕組みを図7に介護給付費の内訳につい ては図8に掲載する. この介護報酬は,サービス内容により一律で決められており,地域や事業所の形態ご とに加算,減算は行われるものの基本的には全国統一の水準で決められている. そのため,介護報酬・介護給付費は市場の需給均衡により決まらずに,定型化された サービスの内容・サービスにかけた時間により決定されることになっている. 本稿では,この介護給付費に着目して研究を進めており,介護給付費には,保険料と 公費が投入されており,介護報酬と連動して給付費が決定されることから,需要量の増 加に伴い保険料・公費負担額も増加するといった問題が生じている. 3 高優賃の介護保険事業への影響の理論分析 この章では,経済学の視点から高優賃が介護保険事業に与える影響について分析する. 経済学では「政府は市場のもたらす成果を改善できることもある」と考えられている. 通常,市場は経済活動を組織する良策だが,市場の力では効率的な資源配分を実現でき ない状況を市場の失敗と呼んでいる.市場の失敗がある場合には,政府が市場の成果を 改善できることもあると言える. 高齢者用バリアフリー共同住宅に係る市場の失敗は正の外部性及び情報の非対称性に 伴うモラルハザードが考えられる. 高齢者の共同住宅への集住は移動費の節約等,より効率的な介護事業運営を可能とす 図7 介護報酬について 図8 介護給付費の財源構成 (厚生労働省HPより) (厚生労働省HPより)

(9)

ると考えられる.また,介護事業者が頻繁に出入りをしている状況は他の介護を必要と する高齢者に安心感を与えるといった効果もあるだろう.しかし,各高齢者がそれぞれ 意思決定を行う場合,これらの便益を勘案しないで意思決定を行ってしまうため,共同 住宅の供給は過尐となってしまう可能性がある.したがって,共同住宅への補助に伴う 高齢者の集住は正の外部性を内部化する施策と言えるかもしれない. さらに,高齢者がバリアフリー住宅に居住することにより,段差につまづき骨折する などの怪我の機会を減尐させる効果があると考えられる.もちろん,高齢者は怪我をす ることの危険性を勘案して居住の意思決定をしているものと考えられるが,現状の日本 の制度では,医療費や介護事業費等は全額自己負担ではないために怪我の機会減尐の努 力を怠る可能性がある.よって,バリアフリー住宅への補助は高齢者に存在しうるモラ ルハザードを改善する可能性がある. 以上で議論したように,バリアフ リー化された共同住宅は,正の外部 性の内部化,またモラルハザードの 問題の解消に寄与しうる.図9は横軸 に高齢者用バリアフリー共同住宅量, 縦軸に価格を取った図である. 需要者・供給者の両方に補助をするこ とによってその供給量を増加させてい ると考えられる. これから貸家を建設しようと考える共同住宅建設者にとって正の外部性の内部化等に より社会保障費を減尐させた効果は入居者の利益としてあるものであり,家賃に反映さ せたとしても自己の利益としては小さく,バリアフリー化による建設費の高騰や高齢者 が住むことによる死亡機会の上昇等の管理上の問題も考えるとその供給量は社会的に最 適な量よりも尐なくなっており,私的供給曲線は社会的供給曲線よりも上方にあると考 えられる. 一方,入居を考える高齢者にとって集住の正の外部性やバリアフリー化された住宅に 住むことにからモラルハザードの減尐効果により社会保障費を減尐させるとしても,自 分が受ける利益は社会保障費の自己負担分にかかるものだけとなるため,その効果は正 しく認識されず,家賃の高額化と合わせると高齢者用バリアフリー共同賃貸住宅の効果 は過小に評価されることとなる.そのため,需要量は社会的に最適な量よりも尐なくな っていることが考えられるため,私的需要曲線は社会的需要曲線よりも下方にあると考 えられる. つまり高優賃の補助制度は,これを解消し需要と供給を社会的曲線に近づけるために, 供給者側に住宅整備費補助を需要者側に家賃補助を行いバリアフリー化された共同住宅 の供給量を増加させるための制度とも言える. 図9 高優賃補助制度

(10)

さらに,高優賃のようなバリアフリー化された共同住宅が増加した場合における社会 保障費減尐への影響について介護保険事業を例に考察する. バリアフリー化された住宅の効果を怪我の機会減尐による介護保険事業への影響で考 えた場合,図10のように本人の介護サービス利用機会の減尐等介護需要の減尐に伴う介 護量・介護費用の低下で現れると考えられる. 集住による社会保障費減尐の効果を介護保険事業で考えた場合は,介護給付費がサー ビス内容の単価で決められている現状においては,介護費用を直接的に減尐させる効果 は限定されるが,供給者の供給の効率化につながるため図11のように供給量を増加させ ることから,供給曲線のシフトという形で現れると考えられる. 図 10 怪我の機会が減尐した場合 図 11 集住の効果の介護保険事業への の介護保険事業への影響 影響 4 高優賃・バリアフリー・集住の介護保険事業への影響の実証分析 本章では,高優賃の社会保障費への影響を示した前章の理論分析を検証するために実 証分析を行う.まず,4.1 節で高優賃が社会保障費に影響を与えることについての推定 モデルでの分析を行い,4.2 節でバリアフリーの効果及び集住の効果が社会保障費に影 響を与えることについての推定モデルでの分析を行う. 4.1 高優賃整備戸数の介護給付額への影響の分析(分析1) 本節では,前章の理論分析により導かれた「高優賃の整備は社会保障費の減尐につな がる」との仮説について実証分析を行う.社会保障費としては,医療費・介護費等が考 えられるが,本研究では原則として高齢者向けの政策であるといった高優賃との適合性 などから介護費について分析を行うこととする. 4.1.1 分析方法 まず,高優賃の全国的な効果について実証分析を行うために,全国の政令市・中核市 におけるパネルデータを用いて推定を行う.各市においては,観測不可能な固有の要素 が存在することが考えられることから,固定効果モデル(Fixed Effect Model 以下,「FE」 と呼ぶ)により推定を行う.

(11)

なお,高優賃の建設はその整備費用の一部が自治体の補助によりなされるが,介護給 付費が高くなっている自治体ほど整備を行う可能性があるなどその相関が疑われる.こ の場合,被説明変数である介護給付費には測定誤差が含まれることとなり,高優賃整備 戸数の係数は過小推定されることになる.分析では,高優賃建設には市町村からの整備 費補助が行われることを踏まえ,市町村の財政力が高優賃の整備戸数に影響を与える一 方,整備費用そのものが自治体の財政力に与える影響は限定的であると考えられること から市町村の財政力指数・財政力指数の二乗値を操作変数とし,地域ダミー・年ダミー を入れて固定効果を除去した二段階最小二乗法(Two-stage least squares 以下,「2SLS」 と呼ぶ)による推定も行う.ただ,2.2 項 図 8 で示したように介護給付費に占める市 町村の税負担の割合は 12.5%であることから,市町村のみの理由によるバイアスは限定 的であり,内生性に伴う問題は非常に小さいものと考えられる. さらに,高優賃入居時は自立して生活できる等の入居条件があり,怪我後の介護費使 用のタイムラグから高優賃の効果は数年後に現れる可能性も否定できないが,その時期 については推定できないため 1~5 年前の管理開始済戸数を説明変数とした FE による推 定も行う. 4.1.2 分析対象 分析対象は,政令市・中核市とし 2002 年から 2009 年のパネルデータを用いて推定し た.これは,高齢者向けの賃貸住宅という特性から元々賃貸住宅市場の成り立つ一定規 模以上の市でなければ導入されにくくなっており,町村では実例も極めて尐なくなって いることや導入実績等にもばらつきがあるためであり,全国的な動向をつかむために政 令市・中核市を対象とした. 4.1.3 推定モデル及び利用するデータ (a) lnY=α₁+β₁ELDERit+β₂Xit+δ₁i+ε₁it 被説明変数 lnY は,高齢者への影響を考慮するため各市の 65 歳以上人口一人当たり介護 給付額の自然対数値とし,保険者県別保険給付支払額の支払済額累計4を 65 歳以上人口5 で割ることにより算出したものの自然対数値とする.ELDER は高齢者向け優良賃貸住宅 管理戸数を用いる6.国土交通省住宅局安心居住推進課より入手した『高優賃・管理開始 物件の概要(H22 年度末時点)』により,年別自治体認定団地別管理開始済戸数を算出し, さらに独立行政法人都市再生機構住宅経営部より入手した【支社別・団地別】H22 高優 賃と施設データにより年別 UR 団地別管理開始済戸数を算出し,両者の合計により算出 4 厚生労働省老健局介護保険計画課『介護保険事業状況報告(年報)』 5総務省自治行政局『住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世帯数調査』 6本来であれば,入居戸数をデータとして用いるべきであるが,データ入手の制約から管理開始済の戸数とした.

(12)

する.1~5 年前の管理戸数については,各々算出した自治体における 1~5 年前の戸数 を使用する.これらの管理戸数は,高優賃の整備効果を表す変数として,係数が有意に 負となった場合,高優賃の整備が介護事業費減尐に効果があったと解釈できる. X はコントロール変数であり,介護事業に影響を与え,各市における特徴を示すもの を採用した.総人口(人),高齢化率(%),高齢者千人当たり要介護・要支援認定者数(人), 人口千人当たり介護保険施設定員数(人),人口密度(人/ km²),納税者一人当たり所得(円), 人口 10 万人当たり病院・診療所数(件),年ダミー(各年のデータに 1 をとるダミー変数) を使用した.さらに,2SLS においては市町村ダミー(各市のデータに1をとるダミー変 数)を用いた. α₁は定数項,β₁β₂はパラメータ,δは固定効果(個体ごとに特有で観察できない要 因),εは誤差項を表す. i は政令市・中核市,t は年を表す. さらに,2SLS の推定では,財政力指数を操作変数として使用した.これは,地方公共 団体の財政力を示す指数で,基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去 3年間の平均値であり,F 検定により非線形に反応することがわかったため,その二乗 値も操作変数とする. なお,1~5 年前の管理戸数データで推定するに当たり 2001 年以前の管理戸数データ が存在しないため,1 年遡るごとに 1 年分の政令市 19 市・中核市 41 市分合計 60 市分の データが減尐している. 各説明変数の基本統計量は表 1 のとおりである. 表 1 (b)基本統計量(当該年度の高優賃管理戸数 FE の場合) 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln(65 歳以上高齢者一人あたり介護給付額) 12.2286 0.2033 10.61 12.66 高優賃管理戸数 143.0125 262.3464 0 2276 総人口 686774.5 605673 235064 3605951 高齢化率 0.1979 0.0343 0.1089 0.3222 高齢者千人当たり要介護・要支援認定者数 157.225 29.9273 31 256 人口千人当たり介護保険施設定員数 5.8708 1.6593 1.4 14.4 人口密度 3572.627 2563.84 677 11353 納税者一人当たり所得 3446524 356519.4 2740853 4551100 人口 10 万人当たり病院・診療所数 94.0323 25.492 24.1 446 2003 年~2009 年ダミー 0.125 0.3311 0 1 観測数 480 4.1.4 推定結果 推定結果は,表 2-1,2-2 のとおりである.

(13)

表 2-1 モデル(a)の推定結果 1(FE) 表 2-2 モデル(a)の推定結果 2(2SLS) 推定結果の記述については基本的に当該年度の高優賃管理戸数を説明変数とした FE 推定方法 被説明変数 0.0000118 [0.0000179] -0.00000557 [0.0000207] -0.00000599 [0.0000244] -0.00000789 [0.0000306] 0.000000286 [0.0000256] -0.00000969 [0.0000273] -0.000000471 -0.000000471 -0.00000053 -0.000000637 -0.000000678 -0.00000108 [0.0000000286] [0.0000000303] [0.0000000352] [0.0000000721] [0.000000243] [0.00000029] -1.016525 -1.016525 -0.3031851 1.556242 -2.687751 -3.153037 [0.521131] [0.5738747] [0.6576133] [0.8523276] [0.8138189] [0.8967061] 0.0019836 0.0019836 0.0016031 0.0011723 0.000531 0.0001787 [0.0002381] [0.0002454] [0.0002453] [0.0002648] [0.0001747] [0.0001339] 0.0424877 0.0424877 0.0304739 0.0141472 0.00749 0.0010387 [0.0039257] [0.0042172] [0.0045446] [0.0063875] [0.0049769] [0.0042322] 0.0000105 0.0000105 0.00000658 0.000032 0.0000303 0.0000229 [0.00000751] [0.00000826] [0.0000107] [0.0000255] [0.00002] [0.0000188] 1.64E-09 1.64E-09 -0.000000023 -1.58E-08 -0.000000193 -0.000000142 [0.0000000482] [0.0000000548] [0.0000000626] [0.0000000887] [0.0000000648] [0.0000000597] 0.000000389 0.000000389 0.000107 0.0013443 0.0039924 0.0037374 [0.0001106] [0.0001078] [0.0001048] [0.0006793] [0.0007327] [0.0008374] 12.03072 12.03072 12.0982 11.99399 13.35422 13.78108 [0.2101372] [0.2325087] [0.2880318] [0.3428255] [0.3628078] [0.4243745] F値 自由度修正済決定係数 観測数 ハウスマンテスト結果 FE ln(介護給付額/65歳以上人口) 説明変数 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 高優賃管理戸数 1年前高優賃管理戸数 2年前高優賃管理戸数 3年前高優賃管理戸数 5年前高優賃管理戸数 4年前高優賃管理戸数 総人口 *** *** *** *** *** *** 高齢化率 * * *** *** 介護事業所定員数 *** *** *** ** 高齢者千人当たり要介護・ 要支援認定者数 *** *** *** *** *** 人口密度 納税者一人当たり所得 *** ** ** 定数項 *** *** *** *** *** *** 人口10万人当たり病院・診 療所数 ** ** 0.9438 0.9477 0.9585 0.9684 0.7874 0.9139 453.27 447.95 509.31 582.12 56.89 116.83 FE FE FE FE FE FE 480 420 360 300 240 180 (注)2SLSの年次ダミー・地域ダミーについては省略した (注)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。 推定方法 被説明変数 0.0002112 [0.0001667] -0.0001398 -0.000000439 [0.0000793] [0.0000000423] 1661.784 -1.241147 [1456.787] [0.6239478] -0.9448817 0.0021689 [0.6596324] [0.0003125] 18.75139 0.0394719 [10.97377] [0.0051361] 0.0622406 -0.00000298 [0.0205507] [0.0000141] 0.0005081 -0.000000112 [0.0001409] [0.00000011] 0.0063793 -0.00000823 [0.3051982] [0.0001266] -2624.015 13.01515 [589.3571] [0.4173586] 1330.647 [553.5691] -552.572 [223.2694] F値 自由度修正済決定係数 観測数 二段階最小二乗法 2SLS 高優賃管理戸数 ln(介護給付額/65歳 以上人口) 説明変数 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 高優賃管理戸数 総人口 * *** 高齢化率 ** *** 介護事業所定員数 高齢者千人当たり要介護・ 要支援認定者数 * *** 人口密度 *** 納税者一人当たり所得 *** 定数項 人口10万人当たり病院・診 療所数 *** *** (操作変数) 財政力指数 ** (操作変数) 財政力指数^2 ** 33.08 131.87 0.834 0.9524 480 480 第一段階 第二段階 (注)2SLSの年次ダミー・地域ダミーについては省略した (注)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

(14)

の結果を記述する.当該年度の 2SLS は内生性を考えた式ではあるがその影響は小さい と考えられるからであり,1~5 年前の高優賃管理戸数を説明変数とした FE はバリアフ リー化の効果がタイムラグを経て現れる場合の推定であり,その期間が計測不能であこ とによる参考式となっているためである. 高優賃管理戸数の係数の符号は,予想に反し正であった.ただし,統計的に有意では ない.過去の管理戸数による FE や 2SLS での推定の結果でも有意にならなかった.予想 と異なった理由については,管理戸数が全体の住宅数と比して尐ない,介護が必要にな った場合には施設に転出する等終の棲家となっていないことなどが原因と考えられる. その他の説明変数については,総人口・高齢化率は有意に負の係数となっており,高 齢者千人当たり要介護・要支援認定者数,人口千人当たり介護保険施設定員数は有意に 正の係数となっている.総人口・高齢化率は予想に反して有意に負であった.人口に関 しては,介護サービスの地域格差7から,都市部においては比較的人件費が高く現状の介 護報酬ではサービス事業が成り立たない状況から利用が妨げられている状況があること が考えられる.高齢化率に関しては,他の推定式でも,符号は定まらない.観測数の尐 なさ等から誤差が発生しているものと考えられる. この結果から,高優賃の整備は介護事業費の減尐への有意な影響がみられず,理論上 考えられている正の外部性を補足するための補助としての効果は実証できず,補助金が 有効に活用されているとは言い難い結果となった. 4.2 バリアフリー化,集住の介護給付額への影響の分析(分析2) 本節では,前章の理論分析により導かれた「住宅のバリアフリー化推進は介護需要の 減尐につながる.」との仮説について実証分析を行うため,次のモデルを推定する. 4.2.1 分析方法 高齢者の住まいの状況について詳細に実証分析を行うために,東京都・埼玉県・千葉 県・神奈川県の一都三県における 2003 年と 2008 年の市区町データを用いて推定を行う. 推定モデルについては,市区町における観測不可能な固有の要素が存在することが考 えられることから,年ダミー・地域ダミーを使用した最小二乗法 (Ordinary Least Squares 以下,「OLS」と呼ぶ)により推定を行う.2003 年から 2008 年の間に市町村合併が多く行 われたことから,パネルデータとならず FE による推定ができなかったが,OLS 推定に 年ダミー,地域ダミーを使用することにより,同様の効果が得られるものと考える. なお,バリアフリ-化の費用については,介護認定者の住居を改修する場合に 20 万円 までは介護保険制度の中で自己負担を1割とすることとなっていることから介護給付費 に上乗せされるため,バリアフリー化率の向上そのものが介護給付費を押し上げる効果 を持つ.しかし,本研究ではこうした直接介護給付費を押し上げる効果ではなく,上で 7池田省三(2011)140~158頁参照

(15)

述べたような怪我などの予防により,介護給付費が引き下がる効果に注目している.こ の場合,被説明変数である介護給付費には測定誤差が含まれることとなり,そしてその 測定誤差がバリアフリー化率と正の相関を持つこととなる.このとき,バリアフリー化 率の係数は正のバイアスが生じることになる.分析では,バリアフリー化率の向上には 市町村からの整備費補助が行われることを踏まえ,市町村の財政力がバリアフリー化率 の向上に影響を与える一方,整備費用そのものが自治体の財政力に与える影響は限定的 であると考えられることから 5 年前のバリアフリー化率,市区町の財政力指数及び財政 力指数の二乗値を操作変数とした 2SLS による推定も行う. ただ,平成 21 年度の全国 の介護給付費総計 6,497,534,382 千円のうち住宅改修費は 37,387,622 千円と全体の 0.58% を占めるにすぎないため内生性に伴う問題は非常に小さいと考えられる. 4.2.2 分析対象 分析対象は,東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の一都三県とし,2003 年と 2008 年 の市区町データを用いて推定する.これは,持ち家・借家に関わらず住宅全般について 詳細に確認する必要があることと,バリアフリー化率のデータについては,5 年に 1 度 行われる住宅土地統計調査のデータを使用したことによる制約があるためである. 4.2.3 推定モデル及び利用するデータ (b) Y=α₂+β₃BARRIERit+β₄GHit+β₅Xit+δ₂i+ε₂it 被説明変数 Y は,各市区町の 65 歳以上一人当たり介護給付額とし,4.1.3 項同様の 出典により作成したデータから算出したものを採用する. BARRIER は,各市区町におけるバリアフリー化率を用いる.総務省統計局『住宅・土 地統計調査』住宅の種類(2 区分)等別 65 歳以上の世帯員のいる主世帯数―市区町の 65 歳以上の世帯員のいる主世帯のうち専用住宅居住者数(持ち家居住者数・借家居住者数) で高齢者等のための設備がある住宅数(持ち家数・借家数)を割ることにより算出した ものを採用する.仮説のとおり,バリアフリー化の推進が介護給付費を減尐させる効果 があるならば予想される符号は負である. GH は,各市町における介護認定者集住度を用いる.厚生労働省老健局介護保険計画 課『介護保険事業状況報告(年報)』保険者別要介護(要支援)認定者数(当年度末現 在)の総数合計を総務省『統計でみる市区町村のすがた』自然環境の可住地面積で割る ことにより算出したものを採用する.介護給付費は単価が決められているため,集住の 効果は供給に影響を与えるという 3 章の理論分析の通りならば,需要の推定を行う今回 の式では,有意にならず符号は不明という結果が予想される. X はその他の説明変数であり,4.1.3 項と同様であるが,介護認定者集住度との内 生性を考慮し,人口密度(人/ km²)は削除した.

(16)

α₂は定数項,β₃~β₅はパラメータ,δは固定効果(個体ごとに特有で観察できない 要因),εは誤差項を表す. i は一都三県の市町,t は年を表す. さらに,2SLS の推定では,5 年前のバリアフリー化率及び財政力指数を操作変数とし て使用した.5 年前のバリアフリー化率は住宅土地統計調査の前回調査値を使用した. 財政力指数は,4.1.3 項と同様で二乗値も用いる. 住宅のバリアフリー化率の算出では,各都県の市及び人口 1 万 5 千人以上の町のデー タを使用しているが,持ち家・借家のバリアフリー化率の算出では,市及び東京都の人 口 1 万 5 千人以上の町のデータのみを使用している.埼玉県・千葉県・神奈川県におい ては人口 1 万 5 千人以上の町のデータが存在しないためである.さらに,2SLS の推定式 においては,東京 23 区のデータ及び 2003 年の全データが除外されている.これも,操 作変数として使用する東京 23 区の財政力指数データと 1998 年における高齢者の入居す る住宅(持ち家・借家)のバリアフリー化率データが存在しないためである. 各説明変数の基本統計量は表 3 のとおりである. 表 3 (b)基本統計量(住宅のバリアフリー化率 OLS の場合) 平均値 標準偏差 最小値 最大値 65 歳以上高齢者一人あたり介護給付額 175007.8 29876.53 104843 273532 高齢者の入居する住宅のバリアフリー化率 0.5771 0.0633 0.4118 0.8174 高齢者集住度 129.0879 142.3087 7.4 699.5 総人口 180294.1 315267.9 14482 3585785 高齢化率 0.182 0.0389 0.0846 0.3469 高齢者千人当たり要介護・要支援認定者数 128.8771 20.9977 80.7 199.7 人口千人当たり介護保険施設定員数 5.642 5.6391 0.7 72.2 納税者一人当たり所得 3781887 804676.6 2667696 11300000 人口 10 万人当たり病院・診療所数 7.822 8.5824 1.99 110.75 2003 年ダミー 省略 各都県地域ダミー 省略 観測数 371 4.2.4 推定結果 推定結果は表 4-1,4-2 のとおりである.

(17)

表 4-1 モデル(b)の推定結果 1(OLS) 表 4-2 モデル(b)の推定結果 2(2SLS) 推定方法 被説明変数 -27280.33 [13982.49] -69845.28 [16140.6] 1781.499 [5241.979] -11.49663 4.851973 [10.08236] [10.03699] -0.0142741 -0.009714 [0.0041799] [0.0040276] 45144.34 11922.64 [28596.77] [29104.45] 1082.389 1107.664 [54.25955] [54.75715] 356.0705 437.0846 [128.1065] [130.4016] 0.002078 0.0015884 [0.0012853] [0.0012261] 61.67766 137.033 [108.9] [105.5886] 50104.41 75219.54 [12721.03] [14257.93] F値 自由度修正済決定係数 観測数 OLS 介護給付額/65歳以上人口 高齢者の入居する住宅のバリアフリー化率 * 説明変数 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 高齢者の入居する借家のバリアフリー化率 高齢者の入居する持家のバリアフリー化率 *** 総人口 *** ** 介護認定者集住度 高齢者千人当たり要介護・要支援認定者数 *** *** 高齢化率 納税者一人当たり所得 介護事業所定員数 *** *** 定数項 *** *** 人口10万人当たり病院・診療所数 83.57 80.15 371 325 0.853 0.8684 (注)年次ダミー・地域ダミーについては省略した (注)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。 推定方法 被説明変数 -94405.16 [43643.39] -109608.7 [56843.53] -2026.303 [22516.68] -0.0000212 -36.25627 0.0000659 -0.0001189 14.21406 [0.0000632] [21.85499] [0.0000543] [0.0002026] [21.72448] -9.15E-09 -0.0132944 -1.53E-08 3.77E-08 -0.0082734 [0.0000000215] [0.0071059] [0.0000000179] [0.000000067] [0.0065787] -0.021049 35059.71 -0.2335819 -0.615514 -128533.4 [0.1756104] [52233.26] [0.1830184] [0.6835245] [56593.57] -0.0001082 1131.824 0.0003162 -0.0014841 1020.177 [0.0002513] [83.34431] [0.0002327] [0.0008691] [97.44251] -0.0000523 370.7018 0.0011049 -0.0050785 501.1689 [0.0005734] [198.1308] [0.000525] [0.0019606] [273.0839] 2.77E-08 0.0045418 0.000000029 4.31E-09 -0.0042331 [0.0000000143] [0.0051749] [0.0000000142] [0.000000053] [0.0056386] -0.0011057 425.0984 0.0003394 -0.0114861 2419.685 [0.0024695] [818.9508] [0.0025546] [0.0095409] [925.5525 0.2432731 126247.6 0.2012155 0.5716601 126247.6 [0.0944445] [37666.57] [0.0970957] [0.3626264] [37666.57] 0.5993808 [0.078114] 0.5731058 0.4367315 [0.0846207] [0.3160354] 0.0360309 0.5387663 [0.0303406] [0.1133139] 0.0674146 0.0978754 -0.0534926 [0.1073315] [0.113667] [0.4245156] -0.0301936 -0.0454947 0.040391 [0.0491037] [0.0499369] [0.186501] F値 自由度修正済決定係数 観測数 2SLS 操作変数のF検定値 2SLS 高齢者の入居する住 宅のバリアフリー化率 介護給付額 /65歳以上人口 高齢者の入居する持 ち家のバリアフリー化 高齢者の入居する借 家のバリアフリー化率 介護給付額 /65歳以上人口 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 高齢者の入居する住宅のバリアフリー化率 ** 説明変数 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] 係数 [標準誤差] * 高齢者の入居する借家のバリアフリー化率 高齢者の入居する持家のバリアフリー化率 総人口 * 介護認定者集住度 ** 高齢者千人当たり要介護・要支援認定者数 *** *** 高齢化率 * * 納税者一人当たり所得 * ** ** 介護事業所定員数 * ** ** 定数項 ** *** ** *** 人口10万人当たり病院・診療所数 (操作変数)高齢者の入居する持ち家のバリアフ リー化率(5年前) *** *** (操作変数)高齢者の入居する住宅のバリアフ リー化率(5年前) *** (操作変数)財政力指数^2 (操作変数)財政力指数 (操作変数)高齢者の入居する借家のバリアフ リー化率(5年前) 7.36 19.87 9.34 5.05 20.24 0.8035 153 153 120 120 120 0.521 0.7487 0.6544 0.4789 (注)年次ダミー・地域ダミーについては省略した (注)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。 二段階 25.31362 17.37548 7.939114 一段階 二段階 一段階(1) 一段階(2)

(18)

推定結果の記述については基本的にOLSの結果を記述する.1項記載のとおり内生性は 小さいと考えられるので,2SLSの結果は参考に算出したためである. なお,2SLSの推定式の一段階目においていずれの式でも操作変数のうち財政力指数と 財政力指数の二乗値が有意でないとなっているが,表4-2中に記したとおり5年前のバリ アフリー化率・財政力指数・財政力指数の二乗値の有意性を図るのF検定を行いいずれも 1%水準において棄却されている.借家のF値のみ7.939とやや低い水準ではあるがいずれ も操作変数としては有効であると言える. 高齢者の住む住宅のバリアフリー化率の係数の符号は,10%の水準で統計的に有意に 負であり,予想通りの結果が得られた.2SLS で推定した場合にも符号は 5%の水準で統 計的に有意に負であった. 高齢者の住む持ち家のバリアフリー化率の係数の符号は,1%の水準で統計的に有意に 負であり,予想通りの結果が得られた.2SLS で推定した場合にも符号は 10%の水準で統 計的に有意に負であった. 高齢者の住む借家のバリアフリー化率の係数の符号は,予想に反し正であった.ただ し,統計的に有意ではない.2SLS で推定した場合には,符号は負であったがこちらも統 計的に有意ではない.予想と異なった理由については,今回使用した一都三県の市区町 のデータでは借家居住者は高齢者全体の 22.16%に過ぎないことや比較的低所得者が借 家に居住する傾向から介護の使用頻度が元々低いことなどが原因と考えられる. 介護認定者集住度の係数の符号は,住宅数の推定では負であり,持ち家・借家数の推 定では正であった.ただし,どちらも予想通り統計的に有意ではなかった.2SLS で推定 した場合にも同様の結果であり,どちらも統計的に有意ではなかった. その他の説明変数では総人口は有意に負の係数となっており,高齢者千人当たり要介 護・要支援認定者数,人口千人当たり介護保険施設定員数は有意に正の係数となってい る.これらの符号は 4.1 節で推定した高優賃管理戸数の分析と同様の結果である. この結果から,住宅のバリアフリー化は,介護事業費の減尐に有意な影響を与えてお り,東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県のデータでは,他の条件を一定として各市区町 において専用住宅に高齢者等のための設備がある確率を 1 単位(即ち 100%)上昇させる と高齢者一人当たりの介護給付額を約 27,280 円減尐させることを示している.つまり, 1%上昇させた場合には約 272 円減尐させる.さらに,持ち家については 1%上昇させる と介護給付費を約 698 円減尐させることを示している. 集住の効果については,介護事業の需要を推定する今回の分析においては,介護事業 費の減尐に有意な影響は証明されないこととなった. 5 分析結果を踏まえた考察 4 章で行った分析の結果を考えると,全国の中核市・政令市においては,高優賃の整 備を促進することが介護給付額の減尐に寄与しているとは証明できなかった.この他に

(19)

も医療費等その他の社会保障費の影響を考え,費用便益分析を行った上で考える必要は あるが,自治体認定の高優賃においては 25.7%の空き家が発生し高齢者の需要と合わない ままの制度となっており,有効に活用されていない現状からも高優賃の整備に補助を行 うことが効率的な方法とは考えにくい. そして,一都三県のデータから介護給付額を減尐させるには,住宅のバリアフリー化 特に持ち家のバリアフリー化の向上の効果が大きいことがわかった.借家においては, バリアフリー化の向上が介護給付額に有意に影響を与えなかったが,これは高優賃の整 備が介護給付額に有意に影響を与えなかったことと整合しており,同じバリアフリーに 補助を行うのであれば,借家よりも持ち家のバリアフリー化の向上に補助を行った方が, 介護保険事業への影響は大きいと言える. 本章では,4 章での分析結果を踏まえ各市でバリアフリー向上に補助を行った場合の シミュレーションの検討を行い,さらに今後の介護費用減尐に向けた政策提言を行う. 5.1 シミュレーション (b)式の OLS の結果から持ち家のバリアフリー化率向上が与える影響についてシミュ レーションする.今回の推定式で(a)(b)両方のデータに入っている市は,埼玉県さいたま 市・川越市,千葉県千葉市・船橋市・柏市,神奈川県横浜市・川崎市・相模原市・横須 賀市の 9 市である.この 2008 年のデータを使用して持ち家のバリアフリー化率上昇の場 合の市税支出の減尐効果を計測する. 今回のシミュレーションで使用したデータは,表 5-1 のとおりである. 表 5-1 2008 年 9 市データ このデータを使用して,持ち家のバリアフリー化率が 1%上昇した場合の減尐額 698 円 を当てはめた時の国・県・市の負担する税金の減尐額を算出する. なお,介護給付費の財源構成は,2.2 の図 8 で示した公費 50%のうち国が 25%,県・ 市が各々12.5%として算出する. シミュレーションの結果は表 5-2 のとおりである. 市名 年 介護給付 (千円) 65歳以上 高齢者数 (人) 一人当たり 給付額 (円) 高齢者等の ための設備 がある持ち 家 (件) 専用住宅(持ち 家)に住む65歳 以上の世帯員の いる主世帯 (件) 高齢者の入居す る持ち家のバリア フリー化率 (%) さいたま市 2008 40,163,592 208,964 192,203 74,990 109,990 68.18% 川越市 2008 10,627,885 63,118 168,381 21,910 35,860 61.10% 千葉市 2008 32,324,236 170,943 189,094 59,220 86,640 68.35% 船橋市 2008 18,593,840 106,651 174,343 38,230 54,450 70.21% 柏市 2008 11,650,528 69,455 167,742 25,920 37,690 68.77% 横浜市 2008 146,842,967 667,016 220,149 224,430 336,940 66.61% 川崎市 2008 44,961,573 214,149 209,955 63,760 94,410 67.54% 横須賀市 2008 20,268,866 98,918 204,906 35,100 51,800 67.76% 相模原市 2008 20,617,650 119,633 172,341 41,000 65,030 63.05%

(20)

表 5-2 介護給付費減尐の場合の税金負担減尐シミュレーション 1 年分の介護給付費で計算すると,最大の横浜市においては,約 5,819 万円の減尐効果, 最尐の川越市においても約 550 万円の減尐効果が上がることが分かる. 仮に,各市においてこの減尐すると見込まれる市税からの支出を全て持ち家のバリア フリー化率上昇に補助金として支出した場合の 1 件当たり補助可能金額を算出する. シミュレーションの結果は表 5-3 のとおりである. 表 5-3 税金負担減尐分バリアフリー補助シミュレーション 補助金額が最大の川崎市においては 19,791 円を 944 件に,最小の川越市においても 15,357 円を 359 件に補助することにより,持ち家のバリアフリー化率が 1%向上し,介護 給付費への税金支払い額と相殺されることとなるのである. 今回は,介護保険の事業主体である市町村が単独で補助を行った場合の限度額を試算 したが,国・県からの補助を制度化できるのであれば,この試算値の 4 倍までは持ち家 のバリアフリー化に補助可能となる.補助は 1 度限りだが,バリアフリー化率が向上し 市名 年 持ち家の BF率1%上 昇効果 (円) 1%上昇した場 合の介護給付 費減少額 (円) 税金の減少額 (国25%) (円) 税金の減少額 (県・市12.5%) (円) さいたま市 2008 -698 -145,856,872 -36,464,218 -18,232,109 川越市 2008 -698 -44,056,364 -11,014,091 -5,507,046 千葉市 2008 -698 -119,318,214 -29,829,554 -14,914,777 船橋市 2008 -698 -74,442,398 -18,610,600 -9,305,300 柏市 2008 -698 -48,479,590 -12,119,898 -6,059,949 横浜市 2008 -698 -465,577,168 -116,394,292 -58,197,146 川崎市 2008 -698 -149,476,002 -37,369,001 -18,684,500 横須賀市 2008 -698 -69,044,764 -17,261,191 -8,630,596 相模原市 2008 -698 -83,503,834 -20,875,959 -10,437,979 市名 年 専用住宅(持ち 家)に住む65歳以 上の世帯員のい る主世帯 (件) バリアフリー化 率1%上昇に必 要な持ち家戸 数 (件) 税金の減少額 (県・市12.5%) (円) 市において可 能な補助額(1 戸あたり) (円) さいたま市 2008 109,990 1,100 -18,232,109 16,576 川越市 2008 35,860 359 -5,507,046 15,357 千葉市 2008 86,640 866 -14,914,777 17,215 船橋市 2008 54,450 545 -9,305,300 17,090 柏市 2008 37,690 377 -6,059,949 16,078 横浜市 2008 336,940 3,369 -58,197,146 17,272 川崎市 2008 94,410 944 -18,684,500 19,791 横須賀市 2008 51,800 518 -8,630,596 16,661 相模原市 2008 65,030 650 -10,437,979 16,051

(21)

た場合の効果は,その後も住宅が解体されるまでは続くこととなるため,その効果から も持ち家のバリアフリー化向上に直接補助を行うことも検討に値すると言える. 5.2 政策提言 これまでの分析結果を踏まえて次の政策提言を行いたい. 高優賃に関しては,2011 年度の高齢者住まい法改正によりサービス付き高齢者住宅の 登録制度となったが,整備費の補助は続けられている.しかし,今回の実証により,借 家のバリアフリー化率向上よりも持ち家のバリアフリー化率向上の方が介護給付額減尐 に効果を与えることがわかった.そのため,効率性を考慮した場合には高優賃制度等の 借家のバリアフリー化向上政策よりも持ち家のバリアフリー化向上政策に転換した方が より効果的と言える. バリアフリー化向上の政策としては,現在介護保険制度において,20 万円までのバリ アフリー化費用については 1 割負担で住宅改修工事を行える事業を行っている.これは, 既に介護認定を受けている高齢者に対して行われるものであるが,予防的な観点から考 えると費用便益分析を行った上でではあるが,介護認定されていない高齢者の住宅をバ リアフリー化する場合にも何らかの支援を行うことも必要である. 支援の形態としては,介護保険制度のような住宅改修費補助も考えられるが地方財政 への影響などを考えた場合,直接補助によるものでなくともバリアフリー化へのインセ ンティブが働くものであれば様々な形態が考えられる. まず,バリアフリ-住宅に居住することのメリットを正確に伝える啓蒙・教育活動は もちろん住居の新築・増改築時に建築基準法等の規制により一定のバリアフリー導入の 義務化を行うこと.さらには,介護保険制度の中で行うのであれば居住する住宅のバリ アフリー度合いによる高齢者の介護保険料率設定を行うことやバリアフリー度合いに応 じた介護費負担額の設定などによることも考えられる. そして,限られた財源の中で支援を行うことを考えるならば,住宅の中でも持ち家の バリアフリー化に集中して行った方がより効率的となる. 以上のように,バリアフリー化の推進に関しては,より効率的にバリアフリー化のイ ンセンティブが働くよう誘導する方法や対象を検討の上行うことを本稿の提言とする. 6 まとめと今後の課題 本稿では,高優賃制度の介護保険事業費に与える影響に着目し,その特性であるバリ アフリーと集住の効果も合わせて実証分析した.その結果,住宅及び持ち家のバリアフ リー化率の向上は介護給付額を減尐させることがわかった.その分析の結果からの考察 を踏まえて,バリアフリー化に応じた介護保険料の設定などのインセンティブの変更へ の誘導政策について提言した.

(22)

今後の課題としては以下の 2 点が挙げられる.第 1 に,バリアフリー住宅の与える影 響は,介護保険事業のみにとどまらず医療事業等の社会保障事業全般への影響が考えら れるため,それらへの効果も分析することが必要である.第 2 に,介護保険事業への影 響の中でも今回の分析では需要の推定に留まっているため供給の推定で算出すべき集住 の効果が推定できていない.集住による移動経費の削減等の供給の効率化の効果につい ては,実際の事業者の費用関数の推定等の分析が必要となるが,本研究をより発展的な ものとするため,更なる分析・提言を図りたい. 参考文献 谷武 (2004)「公団の高齢者向け優良賃貸住宅に住む世帯の付き合いに関する研究」都市 住宅学 No.47 pp.65-70 谷武 (2005)「高齢者向け優良賃貸住宅の入居者負担額に関する研究-民間高優賃と公団 高優賃の比較分析-」日本建築学会東海支部研究報告集 No.43 pp.705-708 谷武 (2006)「高齢者向け優良賃貸住宅の運用状況と課題 自治体担当者などに対するヒ アリング調査の結果から」都市計画論文集 No.41-3 pp.665-670 谷武 (2007)「高齢者向け優良賃貸住宅の入居者負担額に関する研究」都市計画論文集 No.42-3 pp.205-210 永井秀之 (2009)「高齢者向け優良賃貸住宅・高齢者専用賃貸住宅-供給の現状と課題―」 マンション学 No34 pp.22-30 油井雄二 (2010)「高齢者向け住宅政策の展開と介護保険」成城大学経済研究 No187 pp.267-298 松川修啓・鈴木義弘 (2007)「高優賃及び高専賃の類型的把握と計画課題について」日本 建築学会九州支部研究報告 No.46pp.109-112 岡部真智子・児玉善郎・渥美正子 (2010)「高齢者対応住宅に住み替えた高齢者世帯の居 住実態と課題 その 3 今後の居住継続の意向」日本建築学会大会学術講演梗概集 pp.245-246 N.グレゴリー・マンキュー著 足立英之ほか訳 (2005)『マンキュー経済学Ⅰミクロ編(第 2 版)』東洋経済新報社 池田省三 (2010)『介護保険論』中央法規出版 国土交通省 (2011)「高齢者住まい法の改正案について」 財団法人高齢者住宅財団 (2009)「高齢者向け優良賃貸住宅制度パンフレット」

表 2-1    モデル(a)の推定結果 1(FE)  表 2-2    モデル(a)の推定結果 2(2SLS)  推定結果の記述については基本的に当該年度の高優賃管理戸数を説明変数とした FE推定方法被説明変数0.0000118[0.0000179]-0.00000557[0.0000207]-0.00000599[0.0000244]-0.00000789[0.0000306]0.000000286[0.0000256]-0.00000969[0.0000273]-0.000000471-0.00000
表 4-1    モデル(b)の推定結果 1(OLS)  表 4-2  モデル(b)の推定結果 2(2SLS) 推定方法被説明変数 -27280.33 [13982.49] -69845.28[16140.6]1781.499[5241.979]-11.496634.851973[10.08236][10.03699]-0.0142741-0.009714[0.0041799][0.0040276]45144.3411922.64[28596.77][29104.45]1082.3891107.664[54
表 5-2    介護給付費減尐の場合の税金負担減尐シミュレーション  1 年分の介護給付費で計算すると,最大の横浜市においては,約 5,819 万円の減尐効果, 最尐の川越市においても約 550 万円の減尐効果が上がることが分かる.    仮に,各市においてこの減尐すると見込まれる市税からの支出を全て持ち家のバリア フリー化率上昇に補助金として支出した場合の 1 件当たり補助可能金額を算出する.  シミュレーションの結果は表 5-3 のとおりである.  表 5-3  税金負担減尐分バリアフリー補助シミュレ

参照

関連したドキュメント

c加振振動数を変化させた実験 地震動の振動数の変化が,ろ過水濁度上昇に与え る影響を明らかにするため,入力加速度 150gal,継 続時間

ロボットは「心」を持つことができるのか 、 という問いに対する柴 しば 田 た 先生の考え方を

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

1.4.2 流れの条件を変えるもの

 高齢者の外科手術では手術適応や術式の選択を

バックスイングの小さい ことはミートの不安がある からで初心者の時には小さ い。その構えもスマッシュ

Bでは両者はだいたい似ているが、Aではだいぶ違っているのが分かるだろう。写真の度数分布と考え

前章 / 節からの流れで、計算可能な関数のもつ性質を抽象的に捉えることから始めよう。話を 単純にするために、以下では次のような型のプログラム を考える。 は部分関数 (