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宮崎医会誌 第 39 巻 第1号 2015 年3月 妊娠子宮の右側に 子宮の背側に の境界明瞭な多嚢胞性腫瘤を認める 図1 経膣超音波断層法 両側卵巣に 12 程度の多嚢胞性嚢胞腫瘍を認め lutein cyst が疑われる また Multivesicular pattern

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宮崎医会誌 2015 ; 39 : 51-5.

症  例

は じ め に  染色体異常は胎芽死亡の50%,胎児死亡の5~ 7%,死産・新生児死亡の6~ 11%の原因となっ ている1)。妊娠初期の流産の原因のうち,16%が16 トリソミーであり1),一方で16トリソミーモザイク は生児率66%の疾患として報告されている2)  また妊娠に合併する卵巣腫瘍の頻度は約0.1 ~ 0.2%であり,そのうち約95 ~ 98%が良性腫瘍であ る3)。妊娠初期に確認された卵巣腫瘍の多くは20週 までには(96%)自然に消失し,臨床上は問題とな ることは少ない4)。消失するものの多くは黄体嚢胞 で,10㎝を超えるものはなく,12 ~ 13週以降では 7㎝を超えるものはないとされている5)。一方,消 失しない腫瘍では特に捻転や破裂,悪性腫瘍を念頭 に置いて管理する必要があるが,今回妊娠12週以 降でβhCGの著明な上昇による黄体嚢胞を契機に 胎児16トリソミーモザイクが判明した症例を経験 したため,文献的考察を含め報告する。 症     例  患者:3X歳,女性。妊娠・分娩歴:0経妊0経産。 既往歴・家族歴:特記事項なし。現病歴:自然妊娠 成立し,近医で妊娠管理されていた。妊娠初期に卵 巣腫瘍の指摘はなく,同院で妊娠管理を継続してい た。妊娠18週時の妊婦検診で初めて両側卵巣腫大 と胎盤肥厚を指摘され,当科へ紹介となった。検査 所見:20週時の腹部超音波断層法では多発卵胞嚢 胞様で右卵巣が13.8×7.0×8.6㎝,左卵巣が11.8×8.7 ×10.2㎝と腫大していた(図1)。また胎児に関し ては単一臍帯動脈と胎児発育不全(推定体重217g; −2.0SD),胎盤肥厚を認めた。腫瘍マーカーは CA19-9:0.8U/mL,CA125:25.8U/mLと上昇して いなかったが,β-hCGが440,000mlU/mL(妊娠中 期での値:17,000 ~ 70,000IU/mL)と著明に上昇し ており,絨毛性疾患や異所性βhCG産生腫瘍など も疑われた。さらにβhCGの高値から胎児共存奇 胎の可能性やFGRを認めることから部分胞状奇胎 による3倍体の可能性も考えられたため,腹部 MRIおよび羊水染色体検査を施行した。MRIでは 宮崎大学医学部生殖発達医学講座産婦人科学分野

母体両側卵巣腫瘍を契機に発見された

胎児16トリソミーモザイクの1例

松澤 聡史

古川 誠志

古田  賢

西窪かなえ

住吉香恵子

岩永  巌

鮫島  浩

要約:母体両側卵巣腫瘍を契機に胎児16トリソミーモザイクが判明した1例を経験した。妊娠18週の 妊婦健診時に両側の卵巣腫瘍を指摘され,妊娠20週で当科へ紹介された。超音波断層法では両側卵巣 腫瘍は多房性で,14㎝大に腫大し,腫瘍マーカーはCA19-9:0.8U/mL未満,CA125:25.8U/mLだった。 また血中βhCGは440,000mlU/mLと著明に上昇していた。胸部レントゲン検査や骨盤部MRIを行った が,絨毛性疾患を示唆する転移や嚢胞性変化は認めなかった。胎児は発育不全(FGR)で経過してい たため,部分胞状奇胎を疑って羊水染色体検査を行ったところ,16トリソミーモザイクであった。16 トリソミーモザイクはFGR,心奇形,高βhCGを合併することがあり,今回の卵巣腫大の原因は16ト リソミーモザイクに伴う絨毛組織での高βhCG産生過多が原因と考えられた。  〔平成26年12月5日入稿,平成27年1月20日受理〕

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両側卵巣は多嚢胞性腫瘤の形態で,luteinが疑われ た(図2)。また胎盤に関してはMultivesicular patternを示すような所見はなく,軽度の肥厚のみ を認めた。染色体検査では培養細胞の一部に16ト リソミーを認め,胎児16トリソミーモザイクであ ることが判明した(図3)。胎児の精査目的に妊娠 22週で入院し経過をフォローしたが,胎児発育不 全は持続した。胎児超音波断層法で胎児心胸郭比 (CTAR)の拡大や胸郭の低形成も認められたため, 妊娠25週でMRIを施行した(図4)。肺は胸郭内に 痕跡程度を認めるのみで,左肺は不明瞭であり,肺 低形成を強く疑った。以上から胎児の予後は厳しい ことが予想された。家族説明後,胎児適応での帝王 切開は行わないことを選択され,一旦,外来管理と した。妊娠32週で前期破水のため再入院となり, 同日に死産となった。出生体重は986gと重度の発 育遅延(−3.1SD)を認めたが,明らかな外表奇形 は認めなかった。剖検を行い,右肺低形成と左肺無 形成,左腎無形成,食道閉鎖,食道気管瘻,大動脈 縮窄,心房中隔欠損を認めた。母体血中β-hCGの 推移は,妊娠20週でおよそ440,000mlU/mLであっ たが,その後緩やかに減少し,妊娠28週で160,000 図1.経膣超音波断層法. 妊娠子宮の右側に11×10㎝,子宮の背側に11×12㎝の境界明瞭な多嚢胞性腫瘤を認める. 図2.骨盤部MRI(T2WI). 両側卵巣に12㎝程度の多嚢胞性嚢胞腫瘍を認め,luteincystが疑われる. またMultivesicularpatternを呈する絨毛部分は認めず,胎盤の肥厚のみを認めた.

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mlU/mLまで低下したが,正常妊娠と比較しても非 常に高値で推移した(表1)。しかし,分娩後には 急激に低下し,産褥1カ月で35.8mlU/mL,3ヵ月 で1.7mlU/mLまで減少した。両側卵巣腫瘍は分娩 後には縮小傾向を認め,産褥1ヵ月の時点で右卵巣: 4.7×1.7㎝,左卵巣:8.7×4.5㎝だった。 考     察  今回我々は妊娠中の両側巨大卵巣腫瘍を経験し た。その原因は,胎児の16トリソミーモザイクと いう染色体異常に伴う絨毛でのβ-hCG産生過多が 原因と考えられた。  妊娠中に発見される付属器腫瘤は全妊娠のおよそ 0.01 ~1%とされる3)。多くは良性で,自然消失す るが,悪性が疑われるもの,ある程度大きいものは 手術の対象となる。産婦人科ガイドライン一産科編 で妊娠中の卵巣嚢胞の取り扱いは,超音波検査で良 悪性の評価を行い,類腫瘍性病変の場合には経過観 図3.羊水染色体検査. 左:16トリソミー,右:正常核型 別々に培養した2培養フラスコを分析し,低頻度の16トリソミーを認めた。フラスコ①では23細胞中3細胞に,フラス コ②では20細胞中1個にそれぞれ16トリソミーを認めた。他の細胞はいずれも46,xxの正常核型を示した. 図4.胎児MRI. 胸郭の低形成と共に肺の低形成を認める 31週の健常胎児MRI

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察を行うとされている。また捻転や破裂・出血など を疑う場合や悪性・境界悪性が疑われる場合には, 妊娠週数に関わらず手術を行うとされている。本症 例では腫瘍形態がovarian hyper stimulation syn-drome(OHSS)でよく遭遇する多発卵胞嚢胞様で あり,MRIの画像診断上悪性が疑われるものでは なかった。ただβ-hCGの高値による卵巣過剰刺激 を原因とした機能性嚢胞の可能性が高いと考えられ た。しかしながら本症例ではβ-hCGの産生母地が はっきりと特定できなかったこと,β-hCGが高値 であれば胞状奇胎がまず鑑別に挙がること,胞状奇 胎であれば妊娠中断の判断を迫られることなどから 管理に苦慮した。また絨毛性疾患以外にも異所性 β-hCG産生腫瘍も鑑別に挙げる必要があった。た だし異所性β-hCG産生腫瘍でのhCGレベルは50 mlU/mLを越すことは稀であり6−8),ホルモン産生 母地が胎盤組織以外にある可能性は低いと判断し た。  β-hCG高値となる疾患の頻度を考慮すれば,胎 児共存奇胎や部分胞状奇胎を鑑別に挙げる必要があ る。胎児共存奇胎であれば,胎盤所見で正常部分と multivesicular patternを呈する部分が認められる ことが多い9)。部分胞状奇胎では胎盤は一様に multivesicular patternとなり,胎児は3倍体のた め発育不全を呈する9) 。本症例では胎盤にmulti-vesicular patternを認めなかった。しかし,必ずし も典型的な所見を示さないこともあり,鑑別するた めに羊水検査を行った。結果は16トリソミーモザ イクだった。  16トリソミーは稀な疾患であるが,染色体異常 に起因する自然流産の中では最も頻度が高く10),ほ とんどの症例で妊娠8週から15週での流産となる11)。 その一方で16トリソミーモザイクは生児率66%, 平均出生週数35.7週,平均出生体重−1.93SDと報 告されている2)。今回の症例も32週で早産となり, 児の子宮内発育不全を認めた。また児の剖検所見で は右肺低形成,左肺無形成,左腎無形成,食道閉鎖 を認めていた。16トリソミーモザイクの報告例で は出生児の45%が1つ以上の奇形を持ち,主な奇 形はVSDやASD,尿道下裂などが多いとされてい る2)。同報告では,今回の症例と同様に肺の低形成 を認めた例は29症例中3症例であった。また母体 の血中AFP・β-hCGの上昇も来すと報告されてお り,妊娠20週で平均160,000mlU/mL(正常妊娠は 18,000mlU/mL)であった。今回の妊娠でも妊娠20 週で440,000mlU/mLと著明に上昇しており,分娩 後に急激な低下を認めたことからも,16トリソミー モザイクによるβ-hCG上昇と考えられた。  β-hCGの産生過多に関しては,絨毛そのものの 形成障害の関連が疑われる。最も多いaneuploidで ある21トリソミーでもβ-hCGの上昇が知られてい るが12),in vitroでトリソミー 21の絨毛は糖鎖形成 表1.βhCG(mlU/ml)の推移.

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MosaicTrisomy16DiagnosedonInvestigatingMother'sBilateralOvarianTumors SatoshiMatuzawa,SeishiFurukawa,KenFuruta,KanaeNishikubo, KaekoSumiyoshi,IwaoIwanagaandHiroshiSamejima

DepartmentofObstetricsandGynecologyFacultyofMedicineUniversityofMiyazaki Abstract

Ovarian tumors are not always malignant. Most are benign cysts that spontaneously resolve. A 3x-year-old primiparous woman was referred to our hospital at 20 weeks of gestation due to large bilateral ovarian tumors. Abdominalultrasonographyshowedthatthebilateraltumorsconsistedofmultiplecystswithoutsolidpartsandboth were 14 cm in diameter. A fetal ultrasound examination revealed a fetus with severe growth restriction(IUGR). Wemeasuredserumβ-hCG,CA-125,andCA19-9,revealingsignificantlyelevatedβ-HCG(440,000mlU/mL).Serum CA-125(25.8U/mL)andCA19-9(0.8U/mL)werenotelevated.UltrasoundandMRIfailedtodetectthecharacteristic appearanceoftheplacenta,revealingapartialmolarpregnancy,althoughtheplacentalappearanceofapartialmolar pregnancycanbevariable.InordertoclarifyapartialmolarpregnancywithIUGR,weperformedamniocentesis toconfirmfetaltriploidy.Subsequently,thekaryotypingofthefetusshowedmosaictrisomy16.Mosaictrisomy16 isararechromosomaldisorder.Ithasbeenreportedtobeassociatedwiththevariabilityofclinicalfeaturessuch asIUGR,heartdeformity,andariseofβ-hCG.Inthiscase,itwasthoughtthatmosaictrisomy16causedariseof β-hCGfollowedbybilateralovariantumors.Assessmentofthefetalkaryotypeisessentialtodifferentiatebenign tumorsassociatedwithelevatedβ-hCG.

Key words :mosaictrisomy16,ovariantumor

障害を来しβ-hCGの産生異常を起こすという報告 がある13,14)。症例の16トリソミーモザイクでも同 様な変化が起こっていた可能性は高い。本症例の胎 盤病理所見では肉眼的に水腫状の絨毛は認めず,組 織所見でもtrophoblastの異常増殖や幹絨毛血管の 動脈瘤様拡張は認めなかった。  今回の症例は両側卵巣嚢腫を契機に16トリソ ミーモザイクが判明し,β-hCGの著明な上昇によ る両側黄体嚢胞と考えられた。β-hCG上昇は胎児 染色体異常に起因する場合があることを念頭に置い た検索も必要である。 参 考 文 献

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