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これからどうなる?

図書館とオープンアクセス

【基調報告】 オープンサイエンスの推進と機関リポジトリ ―現状と展望― 尾城孝一 国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター はじめに 学術情報のオープン化の流れは,学術論文のオー プンアクセスから,論文のエビデンスとなった研究 データの共有や公開を含むオープンサイエンスへと 展開しつつある。本発表では,機関リポジトリがオ ープンアクセスの発展に果たした役割について検証 しつつ,オープンサイエンス時代の機関リポジトリ の新たな役割について展望したい。 1.オープンアクセスとは オープンアクセスとは,一般に,学術論文等をウ ェブ上に無料公開することで,誰もが障壁なくアク セスできるようにする仕組みのことを指す。2002 年,ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティ ブ(BOAI : Budapest Open Access Initiative)は, オープンアクセスについて,「(査読された)雑誌論 文をインターネット上において無料で利用すること ができ,全ての利用者に,閲覧,ダウンロード,コ ピー,配布,印刷,検索,全文へのリンク,索引化 のためのクロール,ソフトウェアへの取り込み,そ の他合法的な目的での利用を(中略)財政的,法的, 技術的な障壁なしに許可すること」であると定義し ている。 こうしたオープンアクセスを推進する動きが世界 的に広まった背景としては,学術雑誌の危機(シリ アルズ・クライシス),電子化とインターネットの普 及,納税者の権利主張などさまざまな要因が考えら れる。 2.オープンアクセスの実現方式 BOAIは,オープンアクセスを実現するためのモデ ルとして2つの方式を示している。ひとつはグリーン ロード,もうひとつはゴールドロードと呼ばれてい る。 グリーンロードとは,論文の著者である研究者自 身が,自らのホームページやリポジトリと呼ばれる インターネット上の電子アーカイブに自著論文を掲 載する(セルフ・アーカイブ)ことにより,オープ ンアクセスを実現する方式である。セルフ・アーカ イブの受け皿となるリポジトリには,大学等の研究 機関が設置する機関リポジトリ,分野毎の研究者コ ミュニティが構築する分野リポジトリ,政府機関等 が設けるセントラルリポジトリなどいくつかの種類 がある。オープンアクセスリポジトリのディレクト リであるOpenDOAR(The Directory of Open Access Repositories)によれば,世界で3,000以上のリポジ トリが公開されている(2017年8月16日現在)。 一方,ゴールドロードは,学術雑誌自体をインタ ーネット経由で誰もが無料で読めるようにすること によりオープンアクセスを実現する方式である。オ ープンア クセス ジャ ーナル のディレ クトリ である DOAJ(Directory of Open Access Journals)には, 約10,000の学術雑誌が登録されている(2017年8月16 日現在)。オープンアクセスジャーナルは,読者に 無料アクセスを提供するが,もちろん出版のための 費用は発生するので,その費用を回収するモデルが 必要とされる。学会や大学等の助成金により出版を 支えるモデルや論文の著者が費用を負担するモデル などがある。現状では,著者が支払う「論文出版加 工料(APC : Article Processing Charge)」により, オープンアクセスジャーナルを出版するモデルが主 流となっている。 3.オープンアクセスと機関リポジトリ 日本では2005 年頃から機関リポジトリの構築と 公開が始まり,その後,順調にその数を伸ばしてい る。特に,2012 年度から国立情報学研究所(NII) がク ラ ウ ド型 の 機関 リ ポジ トリ シ ステ ム JAIRO Cloud の運営を開始して以来,JAIRO Cloud を利用 してリポジトリの公開を進める機関が増加し,現在 では合わせて800 近い機関がリポジトリを公開して いる。

国立情報学研究所によれば,国内の機関リポジト リに収録されているコンテンツの総数は,200 万件

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- 2 - を超えている(2017 年 7 月現在)。コンテンツを種 別毎に集計すると,全体の半数以上を紀要論文(53%) が占めており,その他,学術雑誌論文(14%)や学 位論文(5%)など,大学等で生み出された多様なコ ンテンツが登録されている。 日本の機関リポジトリは,学術論文のオープンア クセスの実現手段としては,必ずしも十分な機能を 果たしているとはいえないものの,紀要論文や学位 論文等の流通拡大には大きな貢献を果たしている。 4.オープンアクセス方針の広まり 海外の研究機関や研究助成機関では,オープンア クセスの義務化に関する方針の策定が進んでいる。 それに対して,日本ではこれまでオープンアクセス の制度面での議論が遅れていたが,2011 年の第 4 期科学技術基本計画が,国としてオープンアクセス を進める方向性を示したことを受け,科学技術・学 術審議会は,2012 年にオープンアクセスジャーナル の育成や機関リポジトリの活用など,様々な取り組 みを加速すべきという報告書を公表した。また, 2013 年には学位規則が改正され,「博士の学位を授 与された者は博士論文を印刷公表することとされて いるところ,印刷公表に代えて,インターネットを 利用して公表すること」が義務となった。 こうした政府の方針や国内のオープンアクセス思 潮の高まりに呼応して,大学等の研究機関でもオー プンアクセス方針の採択が進んでいる。2015 年 4 月に,京都大学は「京都大学オープンアクセス方針」 を発表した。これは,機関リポジトリを通じて京都 大学の学術成果をオープンアクセス化することを大 学として制度化したものである。この方針を皮切り に,国内の大学や研究機関での方針策定が急速に進 み,2017 年 4 月までに合わせて 15 の機関がオープ ンアクセス方針を採択している。 大学のみならず,研究助成機関も方針の策定を進 めている。日本学術振興会は,2017 年 3 月に,科 学研究費助成事業をはじめとする研究資金による研 究成果論文のオープンアクセス化について,実施方 針を定めた。また,科学技術振興機構も,2017 年 4 月に,機構が研究資金を配分し実施する研究プロジ ェクト等の成果に基づく研究成果論文はオープンア クセス化することを原則とし,それに加えて,論文 のエビデンスとなる研究データの公開も推奨すると いう基本方針を公表した。 さらに,2016 年 7 月に発足したオープンアクセ スリポジトリ推進協会(JPCOAR)も,国内におけ る研究成果のOA 化を推進するため,各機関が OA 方針をスムーズに策定し,実施のための業務体制を 整備することを支援するツールの作成に取り組み, 2017 年 2 月に『オープンアクセス方針策定ガイド』 を公表している。 こうしたオープンアクセス方針の広まりが,機関 リポジトリを通じた学術論文のオープン化の推進に どのような効果をもたらすのか,今後も注視する必 要があろう。 5.オープンサイエンスへの展開 近年,情報通信技術(ICT)の急速な発展によっ て,研究成果(論文,生成された研究データ等)の 共有が容易になったことで,新たな研究の進め方や 手法であるオープンサイエンスの概念が世界的に急 速な広がりをみせている。 我が国においても,2013 年に開催された G8 の科 学大臣会合において,研究データのオープン化を確 約する共同声明が発表され,それに日本も調印した ことを直接の契機として,内閣府の検討会の報告書 『我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方 について』(2015 年 3 月 30 日),『第 5 期科学技術 基本計画』(2016 年 1 月 22 日閣議決定),科学技術・ 学術審議会学術分科会学術情報委員会の『学術情報 のオープン化の推進について(審議まとめ)』(2016 年2 月 26 日)などの政策文書の中で,論文だけで はなく,論文のエビデンスとしての研究データも含 めてオープン化を進めることにより,オープンサイ エンスの振興に寄与するべきであるという方針が相 次いで発表されている。 6.オープンサイエンスと機関リポジトリ こうしたオープンサイエンスの潮流の中で,機関 リポジトリが果たすべき役割も拡大してきた。論文 のオープン化の受け皿としての機能だけでなく,論 文の根拠となる研究データの保存と公開のための基 盤としても注目されている。 しかしながら,現状を見ると,全国の機関リポジ トリに掲載されているデータあるいはデータセット の件数は約 53,000 件に過ぎず,しかもそのほとん どは千葉大学の機関リポジトリに登録されている植 物さく葉の画像データが占めている。

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- 3 - 7.JPCOAR の活動 JPCOAR も,機関リポジトリをオープンサイエン スの推進にとって不可欠なツールとするために,具 体的な活動を進めている。 まず,研究データへの対応を意識して,機関リポ ジトリのメタデータスキーマの改訂を進めている。 新しいスキーマはJPCOAR スキーマと名づけられ, パブリックコメントを踏まえた最終的な確定作業が 行われている。 また,JPCOAR の下に設置された研究データタス クフォースを中心として,研究データ管理に関する 基礎的な知識を習得し,各機関において研究データ 管理サービスを構築するための足掛かりを得るため の教材を開発した。この教材は全7 章から構成され, 研究データの生成,加工,分析,保存,公開,再利 用というライフサイクルを包括的に解説する内容と なっている。さらに,タスクフォースでは,学内で 構築されたデータベースの多くが,時が立つにつれ て管理者が不在となり,維持管理が困難となってい る問題に着目し,こうした消えつつあるデータベー スやデータセットを機関リポジトリで救済するため のデータベースレスキュー計画にも着手した。 8.NII の活動 一方,国立情報学研究所(NII)は,大学や研究 機関におけるオープンサイエンス活動を支えるため の ICT 基盤の構築と運用を実施するために,2017 年に「オープンサイエンス基盤研究センター」を新 設した。センターはこの目的を達成するために,「オ ープンサイエンス推進のための研究データ基盤」の 構築に取り掛かっている。 この基盤は,管理基盤,公開基盤,検索基盤とい う3 つの基盤から構成される。管理基盤は,研究者 自身が,研究を進める過程において,生成されたデ ータなどを管理し,研究プロジェクトの内部で共有 するための基盤となる。公開基盤は,NII が既に提 供しているJAIRO Cloud を拡張することにより, 論文だけでなく,その根拠データも含めて公開でき るような機能を備える。さらに現行のCiNii を強化 することにより,研究データの横断検索サービスを 提供することを計画している。これら3 つの基盤を 有機的に繋げることで,オープンサイエンス時代の 研究ワークフローを支える研究環境の提供を目指し ている。 9.大学図書館と研究データ 宇宙観測データ,巨大装置を使った実験データ, さまざまなセンサーから集められた多種多様なデー タ,あるいは遺伝子解析データなどのビッグデータ は,しばしば典型的な研究データとして扱われる。 しかしながら,こうした膨大なデータを機関リポジ トリに蓄積するのは困難であり,また,このような データを扱うには高度な専門知識も必要とされる。 実は,こうした巨大データに関しては,既に分野毎 にデータの保存や共有のための基盤や組織が構築さ れ,経験や知見も蓄積されている。 機関リポジトリが対象とすべき研究データは,こ うしたビッグデータではなく,未整理のまま学内に 散在し,共有や公開が進んでいないスモールデータ なのではないか。また,紀要論文に含まれる表やグ ラフの元となったエクセルの表データなども貴重な 研究データと言える。海外の大学図書館が運営して いるデータのリポジトリを見ても,このようなデー タが数多く登録されている。こうしたデータを論文 と関連付けて機関リポジトリに登録し,公開するこ ともオープンサイエンスに対する貢献のひとつと考 えられる。 おわりに 学術研究の世界では,先人が書いた論文に基づい て新たな知見を構築することは,「巨人の肩の上に立 つ」と比喩的に表現されることも多い。論文のみな らず,その裏にあるデータも含めた巨人の肩の上に 立つことにより,研究の進歩はより加速されるだろ う。機関リポジトリはそれにどう貢献できるのか。 大学図書館が取り組むべき大きなチャレンジのひと つである。 【報告】 初めての人のためのオープンサイエンス入門 逸村 裕 筑波大学図書館情報メディア系教授 1.オープンサイエンスとは オープンサイエンスとはオープンアクセス(OA) とオープンデータを含む概念である。現在,議論に なっている対象は公的研究資金による研究成果とし て得られた論文や研究データとなっている。 情報通信技術の急速な進展に伴い,論文,生成さ

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- 4 - れた研究データ等の研究成果を分野や国境を越えて 活用し,新たな価値を生み出すための取組が世界的 に広まりつつある。研究成果のオープン化は,研究 成果の相互利用を促進し,知の創出に新たな道を開 くことが期待されるが,とりわけ研究データ等をオ ープン化しデータ駆動型の研究を推進することでイ ノベーションの創出につなげることを目指した新た な科学の進め方が注目されている。すなわち,研究 成果のオープン化に関する議論は,従来の論文への アクセスを中心としたオープンアクセスの概念にと どまらず,研究データを含む研究成果の利活用へと 概念が変化し,研究の進め方の変化や新たな手法が 生じつつあることを示している。 2.OA とは 査読済み論文に対する障壁なきアクセス インターネット上で,無料で利用でき,すべての 利用者に閲覧,ダウンロード,コピー,配布,印刷, 検索,リンク,索引化のためのクロール,ソフトウ ェアへのデータの取り込み,その他合法的な目的で の利用を,財政的,法的,技術的障壁なしに認める。 (1) OA の背景 学術雑誌価格の高騰 研究成果流通促進 (2) OA の成り立ち BOAI(ブダペスト・オープンアクセス・イニ シアティヴ) (3) OA の現状 グリーンOA 機関リポジトリ ゴールドOA オープンアクセス雑誌 3.オープンサイエンス (1)オープンサイエンスの背景 論文のオープンアクセス 論文のエビデンスとしてのデータ公開 研究データのオープン化

Research Data Sharing Open Research Data 分野の差異 (2)オープンサイエンスに関わる政策文書 2015.3 『我が国におけるオープンサイエンス推進 のあり方について~サイエンスの新たな 飛躍の時代の幕開け~』(内閣府) 2015.4 『わが国におけるデータシェアリングのあ り方に関する提言』(科学技術振興機構) 2016.1 『第5期科学技術基本計画(2016.4-2021.3)』 (内閣府) 2016.2 『戦略的創造研究推進事業におけるデータ マネジメント実施方針』(科学技術振興機 構) 2016.2 『学術情報のオープン化の推進について(審 議まとめ)』(科学技術・学術審議会学術情 報委員会) 2016.7 『オープンイノベーションに資するオープ ンサイエンスのあり方に関する提言』(日 本学術会議) 2017.4 『オープンサイエンス促進に向けた研究成 果の取扱いに関するJST の基本方針』(科 学技術振興機構) 研究成果の公開を通じた利活用を促進する ことにより,自然科学のみならず,人文学・ 社会科学を含め,分野を越えた新たな知見の 創出や効率的な研究の推進等に資するととも に,研究成果への理解促進や研究成果のさら なる普及につながることが期待される。な お,研究成果の利活用を促進する観点とは異 なるが,研究の透明性を確保することや研究 の過度な重複を避けることによって研究費を 効率的に活用する観点からもオープン化の取 組が求められる。また,公的研究資金による 研究成果は,広く社会に還元すべきものであ ることに鑑み,そのオープン化推進の必要性 はなお一層強い。 4.ステークホルダーの役割 オープンサイエンスを進めるためにはステークホ ルダー(関与者)それぞれが担うべき役割が考えら れる。 (1)国 (2)研究資金配分機関 (3)科学技術振興機構(JST) 我が国の公的支援による出版プラットフォームで あるJ-STAGE について,レビュー誌の発信などを通 じて国際的な存在感の向上を図る。 (4) 国立情報学研究所(NII) 機関リポジトリ構築の共用プラットフォーム

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- 5 - (JAIRO Cloud)により,大学等における効率的な 整備を支援する。国際学術情報流通基盤整備事業 (SPARC Japan)によりセミナーを開催するなど, オープンアクセスに対する理解増進を図る。 (5)学協会 学協会が共同して質の高いオープンアクセスジャ ーナルを構築する。 (6)研究者 (7)大学・大学図書館 オープンアクセスに係る方針を定め公表する 機関リポジトリをグリーンOA の基盤としてさら に拡充する。機関リポジトリの役割について,情報 発信の重要な手段としてのみならず,次のように位 置づけられている a.大学等の生産する知的情報・資料の集積,長期保存 の場(アーカイブ) b.学術情報の発信及び流通の基盤(論文,データ,報 告書等の公表及び提供) c.学習・教育のための基盤(教材の電子化,提供,保 存) d.人材育成 e.連携 これらステークホルダーとの協力連携において大 学図書館は重要な位置を占めると考えられる。 5.大学図書館とオープンサイエンス 大学図書館としてオープンサイエンスにどう向き 合うべきか。一つには学術情報流通の一翼を担うも のとしていっそう「digital」の世界に踏み込むこと である。

研究データ管理(RDM: Research Data Management), インターネット情報の情報資源に識別番号を付与す る デ ィ ジ タ ル オ ブ ジ ェ ク ト 識 別 子 (DOI: Digital Object Identifier), 研 究 者 に 一 意 の 番 号 を 付 与 す る ORCID: Open Researcher and Contributor ID と いった図書館として長く培ってきた技術の応用はデ ジタルの世界においても機能できよう。 第二にオープンサイエンスの目標である「世界中 の誰もが自由にデータを扱える」,「人類の知的・文 化的な情報資源・遺産としてのデータを管理保存す る」という点は図書館本来の目的と結びつくという ことを意識することである。図書館本来の理念とオ ープンサイエンスの目標を理解すれば自ずと図書館 がなすべき行動も明らかになる。 それらの実践についてはすでにオープンアクセス リポジトリ協議会(JPCOAR)等で動きが始まって いる。 デジタルな技術・方法を用いてデジタル情報の作 成 か ら 管 理 そ し て 保 存 に 至 る ま で の 動 き と し て 「Digital Scholarship」の動きも始まっている。 これらに大学図書館として,当事者意識を持って オープンサイエンスに関わることが望まれる。 【報告】 図書資料のオープンアクセス 天野絵里子 京都大学学術研究支援室 日本発の学術情報の流通において学術論文のオー プンアクセス(OA)の進展に大学図書館が果たした 役割は大きい。しかし人文・社会科学分野の研究成 果として重要な図書のOA については手付かずであ り,議論も深まっていない。本報告では欧米の事例 を紹介しながら,日本で図書のOA を進めるための 論点を提供する。また,リサーチアドミニストレー ターの立場から人文・社会科学分野の成果発信にお ける図書館への期待についても述べる。 【報告】 JPCOAR の目指すオープンアクセス 岡部幸祐 筑波大学学術情報部 はじめに リポジトリを通じた知の発信システムの構築を推 進し,リポジトリコミュニティの強化と我が国のオ ープンアクセス並びにオープンサイエンスに資する ことを目的として,2016 年 7 月にオープンアクセ スリポジトリ推進協会(JPCOAR)が設立された。 国立情報学研究所とのJAIRO Cloud の共同運営や オープンアクセス方針策定の支援など,JPCOAR が 進めるさまざまな活動から,JPCOAR が目指すオー プンアクセスを紹介する。 1.JPCOAR とは 2013 年に大学図書館と国立情報学研究所との連

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- 6 - 携・協力推進会議の下に設置された機関リポジトリ 推進委員会が JPCOAR の前身となっている。その ため,JPCOAR の活動も基本的には,機関リポジト リ推進委員会の方針をもとに進められている。機関 リポジトリ推進委員会が平成25 年 12 月 13 日に公 表した「大学の知の発信システムの構築に向けて」 において,オープンアクセス推進の方向性として次 の4 つが示されていた。 (https://ir-suishin.repo.nii.ac.jp/?action=reposito ry_uri&item_id=7&file_id=22&file_no=3) (1) オープンアクセス方針の策定と展開 (2) 将来の機関リポジトリ基盤の高度化 (3) コンテンツの充実と活用 (4) 研修・人材養成 JPCOAR の事業としては,次の 5 つを掲げている が,具体的な活動は「大学の知の発信システムの構 築に向けて」に示された方向性を踏まえたものとな っている。 ・オープンサイエンスを含む学術情報流通の改善 ・リポジトリシステム基盤の共同運営と有効活用 ・リポジトリ公開コンテンツのさらなる充実 ・担当者の人材育成のための研修活動 ・国際的な取組みに対する積極的連携 具体的な活動としては, ・オープンアクセス基盤を安定的に運用すること ・オープンアクセスの先端的機能の開発を進めるこ と ・オープンアクセスの発展に寄与するために国際連 携を進めること これらを①JAIRO Cloud 運用作業部会,②研修作業 部会,③広報普及作業部会の3 つの作業部会と,① 研究データタスクフォース,②研究者情報連携タス クフォース,③OA 方針成果普及タスクフォース, ④メタデータ普及タスクフォースの4 つのタスクフ ォースを設けて行っている。オープンアクセス基盤 の安定的運用を行うため,ウェブサイトの編集・管 理や情報誌『JPCOAR Newsletter : CoCOAR』の発 行などにより広報・啓発活動の展開及び情報交換の 場の創設を行い, JAIRO Cloud を安定的に運用す るためJAIRO Cloud コミュニティサイトを通じた 利用機関支援やJAIRO Cloud の共同運営,参加機 関の人材育成のための研修を年 5 回開催している。 また,タスクフォースでは,オープンアクセスの先 端的機能の開発を担当し,研究データを扱うための 諸機能開発, 研究者情報との連携機能開発,オープ ンアクセス方針策定のための方策の開発と普及,オ ープンサイエンスも踏まえたメタデータスキーマの 開発を行なっている。さらに,オープンアクセスの 発展に寄与する国際連携を進めるため,国際的取組 において中心的役割を担う COAR への加盟や人材 育成を目的とした,国際的イベント及び海外先進施 設等への参加機関職員の派遣活動も行っている。 2.JAIRO Cloud の共同運用 JPCOAR の会員機関数は,2017 年 7 月で 500 機 関となった(表1)。機関リポジトリを公開している のは2017 年 3 月時点で 681 機関であるが,その約 74%が JPCOAR の会員となっている。その内, JAIRO Cloud の利用機関は,414 機関であり,会員 機関の8 割を超えている。また,公開されている機 関リポジトリの6 割程が JAIRO Cloud によるもの となっている。 表1 会員機関数 種別 機関数 JC 利用機関 国立大学 59 28 公立大学 53 45 私立大学 322 279 大学共同利用機関 12 10 短期大学 32 31 高等専門学校 7 7 その他(研究機関等) 15 14 合計 500 414 JAIRO Cloud は,国立情報学研究所で機能のアッ プデートも行なっており,2017 年度リリースでは, ERDB-JP との自動連携や著者名典拠の管理機能な どが追加されている。JAIRO Cloud については,利 用機関から,システムの維持に労力がかからず,全 国各地に仲間がいて「簡単で安心」との意見もある。 JPCOAR は,コミュニティサイトでの支援や移行の ための担当者勉強会の開催なども行なっていくとと もに,今後も利用機関の要望を取りまとめ,機能改 善に努めていく。

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- 7 - 3.オープンアクセス方針の策定支援 オープンアクセスの促進には,各機関においてオ ープンアクセスの環境を作ることが必要となる。OA 方針成果普及タスクフォースは2017 年 2 月に「オ ープンアクセス方針策定ガイド」を公開し,環境作 りを支援している。 (https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/?action=repository_ uri&item_id=32)これは,オープンアクセス方針 (OA 方針)の策定を支援するツールとして作成さ れ,第1 章では,OA 方針を策定・実施するために 必要な事柄を実際の手順に沿って解説している。第 2 章では,OA 方針に盛り込むべき構成要素を記入 例もとに示している。付録として,「実施計画例」, 「OA 方針雛形」と,学内で検討,提案する際の参 考資料となるように「オープンアクセスとは」を用 意している。このガイドではOA 方針の策定から実 施までを表2 のように 5 つのフェーズに分けている。 表2 OA 方針の策定・実施 フェーズ1 計画 ・検討プロジェクト立ち上げ ・他機関のOA 方針の研究 ・運用体制の確認(人員&技術面) ・策定・実施計画の作成 1 ~ 2 か 月 フェーズ2 方 針 案 作 成・策定 ・方針案,説明文書の作成 ・図書館委員会,キーパーソンへ の説明 ・教員のコメント受付 ・方針の承認 1 ~ 3 か 月 フェーズ3 プ ロ モ ー シ ョ ン ・ 認 知 向上 ・複数媒体による学内周知 ・教員向け説明会の開催 ・プレスリリースの発行 ・ROARMAP への登録 1 ~ 3 か 月 フェーズ4 実施 ・方針の実施 ・実施要領の作成,学内周知 ・教員向けの FAQ や登録サポー ト 1 ~ 3 か 月 フェーズ5 フ ォ ロ ー ア ップ ・利用統計の作成 ・対象論文の捕捉と登録の呼びか け ・モニタリング,上層部への情報 提供 継 続 (『オープンアクセス方針策定ガイド』第 1 章より The OpenAIRE guide for research institutions を 元に作成) OA 方針は,定めればそれで終わるものではない。 学内への周知を行い,教員の認知度を高め,登録の サポートを行うなど,継続的な努力があって初めて, 実効性のあるものとなっていく。 OA 方針案に盛り込むべき構成要素については, 第2 章にその項目及び内容を示しているが(表 3), 機関としてOA を義務とするのか推奨するのか,ま た,免除規定など検討が難しい内容もある。既に策 定を済ませている機関での状況を参考にして検討を 行うことになるだろう。 表3 構成要素 OA 方針の構成要素 第1 条 趣旨 『趣旨』 第2 条 対象者 『研究成果の公開』 対象コンテンツ 公開先 第3 条 免除規定 『適用の例外』 第4 条 対象期間 『適用の不遡及』 第5 条 登録するタイミング 『リポジトリへの登録』 登録する版 第6 条 その他 『その他』 (『オープンアクセス方針策定ガイド』第 2 章から 抜粋) 4.これからの活動

JPCOAR では,今後も JAIRO Cloud の共同運用 を進めるとともに,機関リポジトリコミュニティの 強化に努めていくが,同時にオープンアクセス,オ ープンサイエンスの促進に向けてのタスクフォース での活動も進めていく。OA 方針成果普及タスクフ ォースでは,OA 方針策定済機関へのアンケート調 査の実施(2017 年秋),OA 方針策定ガイドの拡充 (2018 年冬)を予定し,メタデータ普及タスクフォ ースでは,JPCOAR スキーマの確定(2017 年秋), JPCOAR スキーマ説明会の実施(2017 年 10 月 10 日),各種ガイドラインの整備などを予定している。 他にも,研究データタスクフォースでは,リサーチ データマネジメントトレーニングツールを開発し,

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- 8 - 2017 年 6 月にパワーポイント教材を公開した。そ れを元に国立情報学研究所がJMOOC でのコース開 設を計画している。研究者情報連携タスクフォース では,研究者の識別ID を提供する ORCID(Open Researcher and Contributor ID, オーキッド)と機 関リポジトリの連携の可能性について検討を進めて いる。 JPCOAR は,大学図書館界全体として活動する場 となる機関リポジトリの新しいコミュニティである。 その運営は会員機関からの会費と人的支援によるも のである。日本の機関リポジトリ,オープンアクセ ス,オープンサイエンスを進めていくためにもさら なるご支援,ご協力をお願いしたい。 第103 回全国図書館大会ホームページ掲載原稿 作成 2017 年 8 月 29 日 更新 2017 年 9 月 14 日

参照

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