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身体が小さく足も遅い お世辞にもエリートとは呼べなかった中村憲剛少年は どのようにしてトップレベルの選手にまで上り詰めたのでしょうか? この KENGO アカデミー では そんな彼がみなさんに向けて これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお伝えしていきます 身長やフィジカルに

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Academic year: 2021

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中村憲剛の「KENGO アカデミー」

http://www.sakaiku.jp/series/kengo/

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身体が小さく足も遅い、お世辞にもエリートとは呼べなかった中村憲剛少年は、どの ようにしてトップレベルの選手にまで上り詰めたのでしょうか? この「KENGO アカデミー」では、そんな彼がみなさんに向けて、これまでのサッカー 人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお伝えしていきます。 ●身長やフィジカルにコンプレックスを持っている選手、その保護者 ●ボランチなどセンターポジションを任されている選手、その保護者 ●そういった選手を指導しているコーチの方 など 全ての方に参考にしていただけるはずです。ぜひ最後までお読みください。 中村憲剛(なかむら・けんご) 1980 年 10 月 31 日生まれ。東京都小平市出身。小学生時代に府ロクサッカークラ ブでサッカーを始め、都立久留米高校(現・東京都立東久留米総合高校)、中央大 学を経て 03 年に川崎フロンターレ加入。06 年 10 月、日本代表としてデビュー。国 際 A マッチ 68 試合出場 6 得点(2015 年 2 月現在)。05 年から 14 年まで 10 年連 続 J リーグ優秀選手賞を受賞。J リーグベストイレブン5回選出。

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■目次 1.いつもの練習が最高の練習に変わる!サッカーがうまくなる心構え 2.サッカー上達の近道は「自分の型」を見つけること 3.足が遅くても活躍できる!サッカーでは「正確に止めて蹴る」が一番速いプレー 4.サッカーがうまい選手とは「自分にできないことを認めている人」 5.パスは味方へのメッセージ。いつも「強くて速いパス」が正解ではない 6.カラダの小さい選手は必見!中村憲剛の「相手にぶつからない技術」 7.試合から"消えない"ために。走れない選手はアタマを使おう! 8.ドリブルしなくても相手を抜ける!?「駆け引きでDFを突破する方法」 9.サッカー選手は性格が悪い方がいい!?相手をだます術を身に付けよう 10.「攻撃のスイッチ」を入れられる選手とそうでない選手の違い 11.ボールに触らなくてもゲームをコントロールする「賢い選手」とは? 12.カラダが小さくてもボールを奪えるコツは「相手に寄せるタイミング」にあり!

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1.いつもの練習が最高の練習に変わる!サッカーがうまくなる心構え ■「ボールを止めること」はあらゆるプレーにつながる究極の技術 こんにちは、中村憲剛です。いきなりですが、みなさんにこんな質問をしたいと思い ます。 「サッカーで一番大事な“技術”は何だと思いますか?」 たぶん、人それぞれで答えは違ってくるんじゃないかと思います。 1対1でディフェンスを抜き去る必殺フェイント。 大きい相手に当たり負けしないボディコンタクト。 ゴールネットを揺らすための強烈なシュート力。 どれも間違いではありません。でも、僕の答えは違います。僕がサッカーで一番大 事な技術だと思っているのは……。 「ボールを止めること」です。 「何だ、そんなことか」と思った人もいるかもしれません。確かに、ボールを止めると いうプレーはサッカーの基本中の基本です。でも、子供たちのプレーを見ていると、 この基本中の基本を大事にしている人が意外に少ないなと感じます。

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ボールを止めることは、サッカーの基本中の基本であり、あらゆるプレーにつながる 究極の技術だと僕は思っています。例えば、フェイントで相手を抜き去るにしても、ま ずはボールを良い位置にコントロールできなければ、自分の間合いで仕掛けていく ことができません。ボールの止め方によっては、無用なボディコンタクトをしなくても プレーできる。どんなにシュート力があっても、ボールを止める技術がない選手は、 そもそも良い状態でシュートを打てる状況を作れない。 算数で足し算や引き算ができなければ、難しい方程式が解けないのと同じようなこと です。ボールを止めることにこだわり始めたのは、僕自身の経験と関係しています。 今のプレースタイルからは想像できないかもしれないけど、小学生のときの僕はドリ ブラーでした。全国大会にも出場して、地元ではそれなりに有名な選手だったんで す。 だけど、中学校に上がると身長が伸びなくて、自分のプレーが通用しなくなってきま した。当時、136センチで、身体も細かった僕は、ボールを受けても自分より大きい 相手に弾き飛ばされてしまったんです。足も遅かったから、スピードで抜くこともでき なかった。

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一時期はサッカーを辞めようと思うぐらい落ち込んだけど、どうすればいいのか必死 に考えました。身体が突然大きくなるわけでもないし、足だっていきなり速くなること はない。そこで行き着いたのが「ボールをしっかり止めること」だったんです。 ボールをしっかり止めれば、相手に寄せられないし、寄せられたとしても逃げられ る。それは「中村憲剛」という選手がサッカーをしていくうえでの生命線だったし、そ のことがだんだん自分の武器になっていきました。

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■“普通の練習”でもうまくなれる プロになってからも、ずっとボールを止めることにこだわってきました。こだわってき たと言っても特別なメニューをこなしてきたかというと、そうではありません。 サッカーをプレーされたことのないお父さんお母さんはご存知ないかもしれません が、練習前のウォーミングアップで『対面パス』という2人1組になって、パスを出し合 うメニューがあります。どこのチームでもやるようなことだから、正直何となく止めて、 なんとなく蹴っている子が多いかもしれない。みなさんのお子さんはどうでしょうか。 もし、お子さんがなんとなく蹴っているようなら、それは僕からすれば、すごくもったい ない! 自分の意識を変えれば、対面パスという誰でもやっている普通のメニューで もうまくなれるんです。どこにボールを止めれば、一番スムーズに蹴れるのか。ちょ っとズレたパスが来てしまった時に、うまくコントロールするにはどうするか。相手が もしも寄せてきていたら、どの方向にボールを置いたほうがいいのか。 そうやって1回1回のプレーにこだわるのは、サッカー選手になっていくために、とて も大事なことです。例えば、1日に100回ボールを止める機会があるとして、なんと

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サッカーがうまくなるには、特別な指導者に教わったり、特別な練習メニューをやっ たりしなければいけないと思っている人は多いかもしれません。だけど、ただやって いるだけ、ただ教わっているだけでは、サッカーはうまくなりません。 大事なのは、毎日の練習の意識を変えること。1回1回のボールを止めることに、徹 底的にこだわること。あなたのお子さんもそれさえできれば普通の練習でも絶対にう まくなります。僕たち親にできることは、それを子どもに気づかせてあげることではな いでしょうか。

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2.サッカー上達の近道は「自分の型」を見つけること ■「人から教えられるもの」ではなく「自分で見つけるもの」 例えばよくある質問が、 「どうやったら、憲剛さんみたいなキックができますか?」 子供たちに、こう聞かれると、ちょっと困ってしまいます。自分の“企業秘密”だから 教えたくない……わけではありません(笑)。教えたくても教えられない――。それが 正直な答えになります。 サッカーの実用書には、軸足をボールの横に踏み込んで、右足を開いて前に押し出 すというような解説が載っています。でも、それがみんなに当てはまるとは言えませ ん。なぜならキックというのは、人間の身体つきと大きく関係しているからです。 例えば、僕はガニ股なので、最初から足が外側を向いています。だから、インサイド キックのときは、そのまま足を前に押し出せばいいので、すごく蹴りやすい。僕が試 合中、ほとんどインサイドで蹴っているのは、それが一番速くて、正確だからなんで

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僕はキックのフォームというのは、「人から教えられるもの」ではなく「自分で見つける もの」だと思っています。どうすれば、思ったところにボールが飛ぶのか、一番強く蹴 れるのか、それを見つけるためには、たくさんボールを蹴るしかありません。 ■自分に合ったやり方が上達のスピードを上げる ちなみに、僕の右足には「蹴りダコ」があります。蹴りダコがあるのは右足くるぶしの ちょっと左下あたり。ここがぽっこりと出っ張って硬くなっています。子供の頃に、ここ で蹴ると一番強いボールが飛ぶということを発見してから、数え切れないぐらい蹴っ てきたので、そうなってしまったんです。

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僕が1人でよくやっていたのは、壁に向かってボールを蹴るという“壁当て”。1回目 のコラムで紹介した対面パスと同じように、これも何となくやっていてはもったいな い。当てるポイントを決めて、そこに5回連続で当てるなどの目標を設定しましょう。 そうすれば、集中力も高まるし、自分がちゃんと蹴れているかもわかります。 そうやっているうちに、自分が蹴りやすい蹴り方、つまり「自分の型」が自然とわかっ てくるはずです。だから僕の蹴り方をすべて真似する必要はないと思っています。 「自分の型」が見つかったら、どんどんボールを蹴って磨きをかけていきましょう。サ ッカーでも勉強でもそうですが、自分に合ったやり方を見つければ、上達のスピード はアップします。それがうまくなるための近道なのです。

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3.足が遅くても活躍できる! サッカーでは「正確 に止 めて蹴 る」が一 番 速 いプレー ■足が遅ければプレーのスピードで勝負する みなさんのお子さんの中にも、足が遅くて悩んでいる子はたくさんいるのではないで しょうか? 足が遅いと、サッカーでは確かに不利になることは多いです。僕もプロ 選手の中では足が遅いほうなので、「足が速ければなぁ……」と思ったことは何度も あります(笑)。 でも、僕がどんなに足が速くなりたい! と思っても、陸上選手のウサイン・ボルトの ようになることはできません。短所をなくすように頑張ることもよいですが、僕は自分 の長所を伸ばすことのほうが大事だと思っています。 そもそも、サッカーは陸上競技のように足の速さだけを競うスポーツではありませ ん。世界のサッカー選手にも、足が遅くても活躍している選手もたくさんいます。た だ、足が遅くても活躍するためには、違う“スピード”を上げる必要があると思いま す。

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それがボールを止めてから、蹴るまでのスピードです。ファーストタッチの重要性は 何度も言っていますが、本当に大事だと思っているので何度でも言います。 ボールを止めるときに一番大事なのは、自分がボールを蹴れる位置にピタッとコント ロールすること。 通常、キックをするときは、 (1)ボールを止める (2)軸足を踏み込む(止めたボールの位置に) (3)ボールを蹴る という3つのステップがあります。 だけど、ボールをすぐに蹴れる位置に止めることができれば、 (1)ボールを止める (2)ボールを蹴る

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という2つのステップになるので、プレーのテンポが上がります。トラップすると同時 にキックができる状態になっているのが理想的です。 ■正確に止めて蹴るのが一番速いプレー 子どもたちのサッカーを見ていて「もったいないな」と思うことがあります。それが、早 いタイミングで蹴ろうとしたとき、ボールを雑に止めている選手が多いこと。恐らく、 「速く蹴らなきゃ」と焦ってしまって、ボールを止めるところに意識が向いていないの でしょう。

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ボールを雑に止めて、慌ててボールを蹴れば、正確なキックをすることはできませ ん。パスがちょっとズレれば、味方の選手に合わなかったり、トラップして次のプレー に移るまでに時間がかかってしまいます。 逆に、ちゃんとトラップしてから、しっかりとパスを出せば、味方の選手がいるところ にボールが通るし、スムーズにトラップできる。一見、ゆっくりとボールを止めている ように見えても、そのほうが結果的には速くなります。 僕から皆さんに伝えたいメッセージは、「正確に止めて蹴るのが一番速いプレー」な んだよ、ということ。 正確に止めて蹴ることを突き詰めれば、自分のプレーの幅は大きく広がります。 味方からパスを受けて、前方のFWにパスを狙うシーンを想像して下さい。FWに対 しては相手DFがマークについています。FWがフリーになれる時間はほとんどない。 このような状況で、ボールを止めてから、蹴るまでに時間がかかってしまえば、パス を通すことはできません。

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特に、川崎フロンターレのFW陣は動き出しが速くて、ギリギリのところで勝負するの で、こちらが最高のタイミングでパスが出せなければ、せっかくの動き出しが無駄に なってしまう。トラップのちょっとしたズレがゴールを決められるか決められないかの 分かれ道になってしまいます。 僕だって最初から思うようなところにボールを止められるわけではありません。プロ になってからも、「もっともっと正確に止められるようになろう」と追求し続けていま す。 僕がプロ選手になって、日本代表にもなれたのも、正確に止めて蹴るという“速さ”に こだわってきたから。技術を習得しやすい、子どものうちからそこにこだわって練習 することが、とても大切だと思います。

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4.サッカーがうまい選手とは「自分にできないことを認めている人」 ■ドリブルがうまい=サッカーがうまい? “サッカーがうまい選手”と言われて、みなさんはどんな選手を思い浮かべますか? ドリブルで何人も抜いていくような選手でしょうか。1本のパスで決定的なチャンスを 演出する選手でしょうか。あるいは冷静な読みで相手のチャンスをつぶす選手でしょ うか。 正解は全部です。 サッカーというスポーツはさまざまな要素が絡み合っています。だから、ドリブルがで きる選手が 11 人いても強いチームにはなりません。守備ができる選手がいて、パス をつなげる選手がいて、仕掛けられる選手がいる。そうした役割分担があって、強い チームになります。 サッカー少年・少女の多くは、華麗なドリブルで何人もかわせる選手に憧れます。今 でいえば、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマールなどでしょうか。

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今のプレースタイルからは想像がつかないかもしれませんが(笑)、僕も小学生の頃 はバリバリのドリブラーでした。背は小さかったけど、すばしっこくて、ゴールもたくさ ん決めていました。5年生のときには全国大会にも出場して、地元ではちょっとした 有名選手だったんです。 当時の僕はこう思っていました。ドリブルもできて、シュートも決められて、パスも出 せる。「僕は何でもできる選手だ」と。 だけど、中学校に上がると、「何でもできる選手」だったはずの僕は、「何にもできな い選手」になっていきます。一番のネックになったのは身長が伸びなかったこと。中 学入学時点で 136 センチしかなくて、チームの中でもすごく小さい方でした。 しかも、新しくできたクラブチームに入ったので、メンバーは僕たち1年生だけ。対外 試合になると、自分より上の学年で、20~30 センチも身長差がある相手と戦わなけ ればならなかったんです。もう、ほとんど大人と子どもの試合です。 ドリブルで抜こうとしてもつぶされるし、足の速さでも勝てない。自分が得意だと思っ ていたプレーがことごとく通用しないという現実を突きつけられました。

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■自分に「できないこと」を認める しばらく落ち込んで、サッカーを辞めようかとも思ったぐらいですが、この時間が、僕 に大きな気づきを与えてくれました。それが、人には「できること」と「できないこと」が あるということです。自分のチームメートを思い浮かべて下さい。みんな一人一人、 骨格はもちろん、足の大きさや指の長さだって全員違うはずです。そうなれば、得意 なプレーと不得意なプレーはそれぞれに変わってきます。

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プロ選手にも様々なタイプがいます。全員が全員、メッシやロナウドやネイマールで ある必要はありません。彼らをパスで生かす役割や、守備面で支える役割の選手も 必要です。 僕は足が遅かった。身体も小さかった。 それだったら、自分で抜いてゴールを決める選手じゃなくて、味方に良いパスを出す 選手になろう。そうやって、プレースタイルを変える決断をしました。もしも、「点取り 屋のドリブラー」であることにこだわり続けていたら、プロになることなんてできていな かっただろうし、普通の選手で終わっていたはず。 「中村憲剛」という選手はドリブルで何人も抜くことも、空中戦で相手を跳ね返すこと もできません。だけど、僕はプロサッカー選手として 13 年もやってきて、日本代表に もなれました。それは自分の「できないこと」を知って、「できること」を伸ばそうとして きたから。 自分に「できないこと」があるのを認めるのは勇気がいると思います。誰だって、何で もできる選手に憧れるし、そうなりたい。だけど、そうなれないときにどうするか。自分 を客観視すること。これは上のレベルに行くためには絶対に必要なことだと思いま す。

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5.パスは味方へのメッセージ。いつも「強くて速いパス」が正解ではない ■味方のどちらの足に出すかを考える 現代サッカーは「パスゲーム」だと言われています。当たり前ですが、ドリブルだけで サッカーをすることはできません。ボールを持った選手がシュートばっかり狙ってい ては試合にならない。 サッカーの最大の目的である「ゴール」を決めるためには、パスをつないで、ドリブル を仕掛けやすい状況や、高い確率でシュートが決まる状況を作り出すことが重要に なります。 では、しっかりとパスをつなぐためにはどんなことが大事になるでしょうか? 僕はパ スに「メッセージ」をつけることだと思います。 サッカーの試合中にゆっくりと話したり、声をかけたりしている時間はありません。だ からこそ、ボールを使って「しゃべる」ことが必要になるのです。

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例えば、ボールを受けようとしている選手に対して、マークする相手が距離を空けて いるときは、「前を向いて仕掛けろ」というメッセージを込めて、ゴールに近い方の足 を狙ったパスを出します。 逆に、相手が距離を詰めてきていて、しっかりとキープしたほうがいいと思った時 は、相手から遠い方の足を狙ってパスを出します。このパスには「相手が来ている ぞ」というメッセージが込められています。 メッセージをつけることによって、パスを受けた選手は相手が来ていないのにスピー ドを落としたり、相手が来ているのにドリブルを仕掛けたりするというミスがなくなる し、次に何をすればよいのか判断が早くなるので、プレーのテンポが上がります。

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■弱くて遅いパスもうまく使う パスへのメッセージの付け方は、どちらの足を狙って出すかだけではありません。ボ ールのスピードを変えることでも、メッセージは伝わります。 練習中や試合中、監督やコーチから「強くて速いパスを出せ!」と言われることはあ りませんか? 確かに、相手にカットされないように、強くて速いパスを出すことは大事です。僕自身 もコンパクトなフォームから、強く速いパスを出すことを心掛けています。 でも、どんな場面でも強くて速いパスが“正解”になるわけではありません。シチュエ ーションによっては、むしろ弱くて遅いパスのほうが効果的な場合もあるのです。 中盤でボールを持っていて、前線の選手に縦パスを入れようとしている場面をイメー ジして下さい。前線の選手に対して、ピッタリとDFがマークしています。ここで、セオ リー通りに強くて速いパスを出してしまうと、どうなるでしょうか。

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【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/ 前線の選手は背後からボールを奪いに来ているDFのことを気にしながら、強くて速 いパスをコントロールすることが求められます。そうなると、正確にボールを止めるこ とが難しくなって、せっかくキープしていたボールを失ってしまうことになります。 僕がボールを持っている選手だったら、こういうときは「DFが後ろから来ているか ら、ワンタッチで返せ」というメッセージをつけて、わざと弱くて遅いパスを、DFから遠 い方の足を狙って出します。

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前線の選手からすれば、パススピードが遅い分、時間ができるので余裕を持ってプ レーできますし、DFから遠い方の足に出すことでカットされるという心配もなくなりま す。また、相手DFが遅いパスに食いつくことで、その背後に攻撃のスペースを生み 出すこともできます。

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レベルの高いチームは、言葉でコミュニケーションをとっていないのに、まるで味方 同士が会話をしているかのようにお互いの意図を汲み取ってプレーします。それは1 本1本のパスにメッセージが込められているからなのです。 今度、もし僕の試合を見る機会があれば、それぞれのパスにどんなメッセージが込 められているのか、ぜひ想像してみてください。

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6.カラダの小さい選手は必見!中村憲剛の「相 手にぶつからない技術」 ■勝つためにはぶつからなければいい ぶつかられたら、倒されてしまう——。 そんな悩みを抱えているサッカー少年・少女は多いと思います。人によって体格は 違いますし、有利・不利はどうしてもあります。そういう僕も、フィジカルコンタクトには ずいぶんと悩んできました。 この連載でも何度か話していますが、僕は小学生まではスピードもあって、ドリブル で相手をかわしていくプレーを得意にしていました。でも中学生になったときに、周り の選手に身長で追い抜かれ、線も細かった僕は、厳しい現実を思い知らされます。 ボールを受けようとしても、ガツーンとぶつかられて吹き飛ばされてしまう。ドリブル で相手を抜いたと思っても、後からやってきた相手にカラダを入れられて奪われてし まう。自分の良さを全く出せなくなってしまったんです。

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悔しくて、ショックで、僕は中学1年生の途中でサッカーを止めてしまったほどです。 カラダの強さというのは先天的なものもあるので、線が細い選手がフィジカルモンス ターになろうとしても限界がある。 じゃあ、線が細くて、身長が低い選手は、プロになれないのか? そんなことはあり ません。世界のサッカーを見ても、それほど大柄じゃなくても活躍している選手はたく さんいますよね。そこにヒントがあります。 大柄な選手に、小柄な選手が勝つためには何をすれば良いのでしょうか。答えは、 とてもシンプル。 ぶつからなければいいんです。 とはいえ、ぶつかりたくないからといって、誰もいないところに逃げてボールをもらお うとする選手は、相手にとっては全く怖くありません。そんなところにいてもボールは 回ってこない。大事なのは相手がたくさんいる中でも、ぶつからずにボールをもらえ るようなることです。

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■大柄な選手に勝つための3つのコツ ぶつからないようにするには3つのコツがあります。 ・相手の動きを見る ・相手の視野から消える ・パスの出し手を見る

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【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/ 一つ目のコツは相手の動きを見ること。相手の近くで止まってボールを受けている と、すぐに相手のプレッシャーを受けてしまいます。だから、ボールをもらう前に自分 の近くに相手がいないかを確認して、相手が見えたときは距離を作って、パスをもら うことを心掛けます。 ただし、何メートルも遠くに行く必要はありません。2、3メートル移動するだけでい い。それだけで、相手との距離ができるので、プレッシャーが来るまでの時間を稼ぐ ことができて、その間に余裕を持って考えることができます。

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二つ目のコツは相手の視野から消えること。相手の視野から消える動きができれ ば、極端なことを言えば、相手との距離が1メートル以内でもパスを受けられるよう になります。どういうことか説明したいと思います。 パスをもらおうとしている自分の近くに相手選手がいるとします。このとき、まともに パスをもらおうとすれば、ガツーンとぶつかられてしまう。でも、相手の背後に回っ て、いったん視野から消えてから、素早くボールを受ける動きをすれば、ぶつかられ ない距離で受けることができます。

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三つ目のコツがパスの出し手を見ること。せっかく相手の視野から消えても、その動 き出しに味方が気付いていなければ、パスが出てくるタイミングが遅れて、マークに つかまってしまう。だから、味方が顔を上げていて、パスを出せる状態になっている ときに、動き出すようにしましょう。 とても奥が深いけれど、これができるようになれば、どんなに狭いスペースでも、ど んなに大柄な相手がいても、ボールを受けられるようになるはずです。 フィジカルに優れた選手だったら、プレッシャーの厳しい場所でもガンガン身体をぶ つけて受けられるだろうし、弾き飛ばしながらゴールに向かうこともできるかもしれま

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せん。でも、フィジカルに頼ってプレーしていると、自分より強い選手と当たったとき に持ち味を出せなくなってしまう。

だから、「ぶつからない技術」は身体が小さい選手だけでなく、自分は身体が強いと 思っている選手にとっても重要なものです。

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7.試合から"消えない"ために。走れない選手はアタマを使おう! ■試合から消えるのはなぜ? あなたは、お子さんのプレーを見ていて、こんな風に感じたことはありませんか? うちの子、最初の頃はボールにたくさん触っていたのに、時間が経つにつれて存在 感がなくなっちゃう……。 このように、ボールに触れずに、プレーにも絡めなくなってしまうことを、サッカーでは 「試合から消える」という風に表現します。テレビ中継で「あの選手、後半は消える時 間が長くなっています」と解説者が言っているのを聞いたことがあるかもしれませ ん。 当然ですが、試合から消えている選手は目立たなくなります。 試合から消えてしま う選手がいたら、そのチームは人数が1人少なくなってしまったようなものです。そう すると、早めに交代させられてしまったり、スタメンで使われなくなったりするといった ことにつながります。

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では、試合から“消えない”ためには何が必要なのか——。 真っ先に思いつくのは、「体力」ではないでしょうか。体力がないから、走れないか ら、試合から消えてしまうんじゃないかと。確かに、スタミナは大事な条件ではありま す。 どれだけ走っても疲れない選手は、試合終盤になってもガンガン動けるので、試合 から消えにくい。でも、僕はひたすら走り込んで、スタミナを上げることが一番の方法 だとは思っていません。なぜなら、もっと良い方法があるからです。 それは、「アタマを働かせてプレーすること」です。 僕自身、誰よりもカラダが強かったり、足が速かったり、走れたりといった「特別な才 能」があったわけではありません。だからこそ、どのように動いて、どうすればボール を受けられるか、どうすればチャンスに絡めるかを考えることは他の人よりもやって きたし、それが 34 歳の今も現役でプレーできている理由だと思います。

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■アタマの力をつけよう 試合から消えてしまう選手に共通するのは、ボールを持っていない時のポジショニン グが悪くなってしまうことです。試合の最初の方、体力がまだあるうちはガンガン動き 回れるから、ボールを受けられます。 でも、体力は無限ではありません。だからこそ、ボールを持っていないときのポジショ ニングが大事になるんです。ただ漠然と立っていても、ボールは回ってきません。 自分がボールを持っているときに、パスを出しやすい選手とパスを出しづらい選手を 思い浮かべて下さい。

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パスを出しやすいのはこんな選手です。 ・ボールが来る前にスッと動いてマークを外している選手 ・空いているスペースを見つけて走っている選手 【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/

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パスを出しにくいのはこんな選手です。 ・ピッタリとマークにつかれているのに気付いていない選手 ・スペースに動かず足下でばかりボールをもらおうとする選手 シンプルなことです。自分がパスを出しやすいと思う選手のような動きをして、パスを 出しづらいと思った選手のような動きをしなければいい。 大事になるのは、自分の周りがどうなっているのかを把握することです。そのために は、ボールを持っていないときに「首を振る」という作業をして下さい。

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自分の周りに、ボールを奪おうとしている相手はいないのか。空いているスペースは どこにあるのか。首を振ることで周りの状況を見れば、自分が次にどこに動けばよい のかを正しく判断できるので、ボールをもらいやすくなるし、チャンスにもどんどん絡 めるようになります。 それから、覚えておいてほしいのがカラダの「体力」とアタマの「体力」はリンクしてい るということ。だから、走り回って疲れがたまってくると、考える力も落ちてきて、良い ポジションをとれなくなってくるんです。だからこそ、がむしゃらに走り回るのではな く、しっかりと考えながら、ポジションをとる習慣をつけましょう。 試合から消えることなく、最後までピッチ上で存在感を放つ選手を目指してください。

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8.ドリブルしなくても相手を抜ける!?「駆け引きでDFを突破する方法」 ■ドリブルじゃなくても相手は“抜ける” 今回はみなさんに質問したいことがあります。 「相手を抜く」と聞いて、どんなシーンがパッと思い浮かびますか? 華麗なフェイントで相手の逆を突くプレーでしょうか。 正解です。 スピードで豪快に相手をぶっちぎるプレーでしょうか。 これも正解です。 おそらく、ほとんどの子供たちがこの2つを思い浮かべたはず。子供だけじゃなく、大 人でも「相手を抜く」といえば「ドリブル突破」を思い浮かべる人が大多数です。

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そもそも、「相手を抜く」とはどういうことか、考えてみましょう。サッカーは相手のゴー ルに向かっていくスポーツです。相手選手がたくさんいたら、ゴールを決めるのは難 しくなるから、「相手を抜く」という行為が必要になります。 ドリブル突破というのは、サッカーの「目的」であるゴールを奪うための一つの「手 段」でしかありません。それ自体が「目的」ではない。だけど、子供のサッカーを見て いると、目の前の相手をドリブルで抜くことに一生懸命になっているシーンをよく見ま す。まるでドリブルで抜くことが「目的」になっているかのように——。 決してドリブル突破を否定しているわけではありません。目の前の相手をテクニック やスピードではがすことは価値がある。でも、ドリブルじゃなくても相手をかわすこと はできるんだよ、ということはみなさんに伝えたいと思います。 ■サッカーでは「いつ」が大事 それが「ボールに触らずに抜くプレー」です。

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ボールに触らずに相手をどうやって抜くのか。とてもシンプルです。「パス」と「フリー ランニング」を組み合わせれば、フェイントをたくさん仕掛けなくても、スピードがなく ても抜くことはできます。 具体的なシーンを出して説明しましょう。中盤でボールを持っています。自分の正面 には相手の選手が立っていて、その奥には味方のFWがマークを背負った状態でい る。 【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/

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自分の正面にいる選手を抜くために、僕だったらどうするか。 まず、味方のFWに縦パスを出します。いわゆる「クサビのパス」です。クサビのパス が入ったら、自分の正面にいる相手は、ボールが移動した方向に首を振ります。 人間の視野というのは基本的に180度までしか見えません。自分の背後の状況を 見るには首を振るしかない。後ろを見ているということは、前にいる自分のことは見 えていません。このタイミングを利用するんです。

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首を振って、自分が視野から外れたとわかった瞬間、相手の背後のスペースに向か って動き出します。当然、相手は見えていないので、こちらの動きには気付かない。 そして、相手の裏のスペースに入って、パスを出した味方FWからのリターンを受け ます。

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僕がリターンパスを受けた時点で、相手は自分の背後にいます。つまり、相手を抜 いている。僕はボールにたくさん触ってもいないし、スピードで振り切ったわけでもな い。パスを出して、短い距離を走る。それだけで、相手を抜いたのです。 大事なのは「いつ」です。 いつ動き出すか? いつパスを出すのか? いつスピードを上げるのか? 僕自身、試合中に何度もドリブルを仕掛ける選手ではありません。足が遅くて、フィ ジカルコンタクトが強い方ではない僕がドリブルを仕掛けても、成功する確率は高く ないからです。だけど、相手を抜くことはできます。 それは「いつ」という部分に、徹底的にこだわっているからなのです。

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9.サッカー選手は性格が悪い方がいい!?相手 をだます術を身に付けよう ■サッカー選手に必要なこと 僕はサッカーのうまい選手には共通点があると思っています。 それが「性格が悪い」こと。 ビックリしましたか(笑)? もちろん、みんなが憧れているあの選手が本当は性格が 悪かった……という話ではありません。僕が言っているのは、あくまでもピッチの上 での話。サッカー選手にとって「性格が悪い」は「駆け引きがうまい」という意味だか らです。 サッカーは相手がいるスポーツ。自分がドリブルで抜きたいと思っていても、相手が それを読んで止めてくれば不利になります。パスを出す方向があからさまにバレて いたら、簡単にカットされてしまう。 そのために、ドリブルで仕掛けないフリをして一気にスピードアップしたり、ノールック でパスを出したりする。日常生活ではウソをついたり、相手をだましたりすることは

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「良くないこと」「やっちゃいけないこと」ですが、サッカーでは「良いこと」「やらなきゃ いけないこと」になるんです。 だから、サッカーのうまい選手というのは、例外なく駆け引きをする力に優れていま す。小さい頃から駆け引きをすることを習慣にして、相手をだます術を身につけるこ とは大事だと思っています。 特に、僕のようにカラダがそれほど強いわけではない、わかっていても止められない ようなスピードがあるわけじゃない、そんな“普通の選手”にとって駆け引きができる かどうかは生命線です。むしろ、それができなければトップレベルでは戦っていけま せん。だから、ピッチの上では「相手が嫌がることは何だろう?」と常に考え、どんど ん性格が悪くなってほしいと思います(笑)。

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■カードを使い分ける 僕は試合中、常に相手がどんな出方をしてくるかを観察しています。 例えば、前線の選手にクサビのパスを出した後、相手がボールを目で追っている間 に、素早く裏をとってリターンをもらったプレーをしたとしましょう。当然、ディフェンス の選手には、「あそこで裏をとられた」という記憶が頭の中に残ります。 【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/

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そのプレーがあった後、同じような状況があったとします。僕だったら、こんな風に考 えます。相手は裏をとられたことを覚えているだろうから、パスを出した後に裏に走 るプレーには最大限の警戒をしているはず。 ディフェンスの立場からすれば、1回やられたプレーを2回もやられるわけにはいか ない。だから、僕が2、3歩ダッシュしただけで、「ヤバい! 裏をとられる」と感じて必 死になって下がります。 こうなったら僕の狙い通りです。裏に走るフリをした後、僕はピタッと止まります。相 手はスペースを埋めるために下がっていますから、自分の周りにはマークがいませ

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僕はカードを使い分けるようなものだと思っています。「A」と「B」というカードがあっ て、最初に「A」を見せておいて、相手が「A」への対策を立ててきたら、今度は「B」と いうカードを出す。 駆け引きがうまい選手、つまりサッカーがうまい選手というのは、このカードをたくさ ん持っています。だから、激しくマークされてもボールを失わないし、「アイツは要注 意」だとみんなわかっているのにゴールを決めることができます。 どんなに優れた武器を持っていても、1枚しかカードを持っていない選手、つまり一 つしか選択肢がない選手はサッカーでは良いプレーはできません。何よりも、駆け 引きの楽しさを覚えれば、サッカーがもっと楽しくなるはずです。

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10.「攻 撃 のスイッチ」を入 れられる選 手 とそうでない選 手 の違 い ■攻撃のスイッチを入れるとは? 「攻撃のスイッチ」この言葉を聞いたことはありますか? 攻撃のスイッチとは、これからゴールに向かっていくという合図のようなもの。1本の パスをきっかけにして、前線の選手が一気に動き出し、スピードアップしていくことで す。川崎フロンターレでは、主に僕が「攻撃のスイッチ」を入れる役目を担っていま す。 攻撃のスイッチとなるのは、主に縦方向のパスです。このコラム『ドリブルしなくても 相手を抜ける!?「駆け引きでDFを突破する方法」』でも説明しましたが、縦パスで 攻撃のスイッチが入るのは、ディフェンスの視野と関係しています。 縦パスを通されると、ディフェンスの選手はボールの方を見ます。そうすると、ボール よりも手前側にいた選手は、自分がマークしている選手と、ボールを持っている選手 を同じ視野に収めることが難しくなります。

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【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/ この状態は、ボールだけを見ていることから「ボールウォッチャー」と呼ばれ、攻撃側 にとってはチャンスになります。なぜなら、ディフェンスがボールを見ている間、味方 の選手は自由に動き回れるので、攻撃を仕掛けやすくなるからです。 ただし、守る側も、縦パスが入ったら危ないということはわかっているので、縦パスを 通されないように中央のコースを締めてきます。「攻撃のスイッチ」を入れるために出 したパスをカットされて、カウンターを受けてしまうことも少なくありません。縦パスは ゴールにつながる確率もありますが、失点にもつながる諸刃の剣でもあるのです。

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■パスコースは"最初からあるもの"じゃなくて"自分で作るもの" 同じように縦パスを出していても、味方の元にしっかり通る選手と、相手にカットされ てしまう選手がいます。 この違いはどこにあると思いますか? それはパスを出す前に相手をだませているかです。 ディフェンスの選手は、ボールを持っている選手を見て、さまざまな情報を得ます。 ディフェンスが見ているのは、主にこの3つです。 ・目線 ・カラダの向き ・ボールを置いている位置 「攻撃のスイッチ」を入れるには、相手に“ウソの情報”を教えることが重要です。

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例えば、僕が中盤の左寄りの位置でボールを持っているとします。前線へのパスコ ースには相手選手が立っています。僕だったら、右足の外側にボールを置いてか ら、チラッとサイドのスペースを見て、カラダをその方向に向けます。 ディフェンスは「サイドを変えてくる(逆サイドにパスを出す)」と予想するので、そちら 側にポジションを修正しようとします。1、2歩、距離にすれば数十センチぐらいかもし れませんが、それによって、わずかにパスコースができます。パスコースが空いた瞬 間を狙って、素早く縦パスを入れます。

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相手に簡単にパスをカットされてしまう選手は、「目線」、「カラダの向き」、「ボールを 置く位置」で相手をだますことを意識してください。最初は難しいかもしれませんが、 慣れてくれば、パスを出すほうを見なくても出せるようになるはずです。 プロの世界ではこのような細かい駆け引きが常に行われています。常に「だまし合 い」をしているようなイメージです。良いパスが通ったときは、どうして通ったのか、ど んな駆け引きをしていたのか、そこにも注目してみてください。

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11.ボールに触 らなくてもゲームをコントロールする「賢 い選 手 」とは? ■試合中のほとんどがボールに触れていない時間 サッカーでは1人の選手が試合中ボールに触っている時間は 90 分間のうち、たった の2、3分だと言われています。つまり、試合中はほとんどがボールを持っていない、 「オフ・ザ・ボール」の状態なのです。 現代サッカーでは「オフ・ザ・ボール」で何ができるかがますます大事になってきてい ます。優れたパスセンスを持っていても、ドリブルでかわせる技術があっても、ボー ルをもらうことができなければ、それを発揮することができません。 だから、この KENGO アカデミーのコラムでもオフ・ザ・ボールについては何度も話を してきました。 オフ・ザ・ボールはとても奥が深い技術です。何よりも、人よりカラダが大きい、足が 速いなどの特徴がない、“普通の選手”にとって、オフ・ザ・ボールの質を高めること は、上のレベルでプレーするためには必要不可欠です。

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オフ・ザ・ボールには大きく分けて3つの目的があります。 1つ目が「自分が良い状態で受ける」。自分より大きい相手にマークされていても、 相手の視野から外れるタイミングで動けば、ボールを受けても相手にぶつかられる ことなく、余裕を持ってプレーできます。 2つ目が「味方がパスを出せるところに動く」。がむしゃらに動き回るのではなく、味 方がパスを出しやすいところにポジションをとったり、カラダの角度を工夫すること で、効率的にボールに触れるようになります。 3つ目が「味方を助けるために動く」。自分がボールをもらう確率が低かったとして も、自分が動くことで、味方の選手が良い状態でパスを受けられるようになります。こ れが「オトリの動き」と呼ばれるプレーです。 パス回しが上手なチームを見れば、全員がボールをもらおうとするのではなく、パス を受ける選手のために、他の選手がオトリの動きをしていることがわかります。こうし たボールを持っていない人も含めた駆け引きがサッカーにおいてはとても重要なの です。

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■「オトリの動き」でチームを助けよう! それでは、「オトリの動き」とは、どんな場面で必要になるのでしょうか。 例えば、中盤でパスを回しているとき。FWの選手にパスを通したいけれども、ディフ ェンスが立っているので、パスコースがない。このようなときは、ボールを持っていな い選手が、わざと相手の前を通りながら、別のスペースに移動していきます。ディフ ェンスとしては、パスを受けるかもしれない選手を放っておくわけにはいかないの で、そこについていきます。 【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より

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パスコースに立っていた選手がずれることで、つまり、1秒前までなかったパスコー スが、ほんの数メートル動くだけで生まれるのです。ポイントはわざと相手の視界に 入ることと、全力でダッシュするのではなく、ジョギング程度でゆっくりと動くこと。そう することで相手の意識をより引き付けやすくなります。 あるいは、DFラインの背後にスルーパスを出したいとき。ディフェンスとしては裏の スペースでパスを受けられるとピンチになるので、最も警戒しています。もしもFW2 人が同時に裏を狙えば、DFラインを下げられて対応されてしまうでしょう。

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そこで、FWのうちの1人はボールを受けるために、ボールを持っている選手のほう へ下がってきます。それにディフェンスがついてきたら、もう1人のFWが裏のスペー スへ飛び出します。DFラインの人数が少なくなるので、パスを受けやすくなります。 自分が動くことで、どこにスペースができて、誰がフリーになるのか。そこまで考えて 動ける、賢い選手を目指しましょう。

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12.カラダが小 さくてもボールを奪 えるコツは 「相 手 に寄せるタイミング」にあり! ■ボールを奪えないと攻めれない! ボールに触るのは大好きだけど、ボールを奪うのは苦手・・・。 そんな選手は、きっと多いんじゃないでしょうか。子供たちのサッカーでも、相手がボ ールを持っているときはつまらなそうにしている選手を見かけます。 その気持ちはわかります。僕も子供の頃から守るよりも攻めるほうが大好きだった ので(笑)。 だけど、よく考えてみましょう。サッカーは野球のように攻撃と守備が分かれているス ポーツではありません。自分たちが攻撃するには、相手からボールを奪うことが必 要です。相手にボールをずっと持たれて、ボールを奪うことができなければ、攻める ことはできません。 カラダが小さいし、足も遅いし、当たりが強いわけじゃないし・・・。ディフェンスに対し て苦手意識を持っている人もいるかもしれません。確かに、カラダが大きくて、足が

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速くて、当たりに強ければ、ボールを奪うには有利になります。でも、そうじゃなくて も、ボールを奪うことはできます。

今回のコラムでは僕が考える、ディフェンスのコツをお伝えしていきます。

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■ボールが動いている間に寄せる まず伝えたいのは、ボールを奪うためには「準備」が大切だということ。 例を出します。相手チームのA選手からB選手にパスが出るとします。自分がマーク しているのはB選手です。自分とB選手の間には5メートルの距離がある。 ここで大事なのは寄せ始めるタイミングです。 この3つのうち、どれが正しいタイミングだと思いますか? 【1】Aがパスを出す前に寄せる 【2】Bにボールが渡ってから寄せる 【3】ボールの移動中に寄せる 【1】では速過ぎます。パスが出てくるだろうと思って、先に動き過ぎてしまうと、ボー ルを持った選手はその動きを見て、B選手の足下に出さずに、裏のスペースに出し てくるもしれません。

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【2】では遅過ぎます。相手にボールが渡ってからだと、寄せるまでに時間がかかる ので、相手は余裕を持ってコントロールできます。飛び込んでかわされてしまう選手 の多くがこのパターンです。 正解は【3】です。 【写真】「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」より http://www.e-3shop.com/kengoacademy/ ボールが動いている間に2、3メートル距離を詰めることができれば、ボールを受け る選手はプレッシャーを感じます。周りを見る余裕を与えなければ、ミスが出る可能

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ボールを奪える選手というのは、相手がどこにパスを出すのかを予測して、パスが 出た瞬間に素早く距離を詰めています。寄せるタイミングが良ければ、カラダが小さ くてもボールは奪えます。 ■1人で奪おうとしない それから忘れてはいけないのは、サッカーはチームスポーツだということです。自分 が奪えなくても、味方の選手に奪わせるということもできます。もちろん、みんながバ ラバラにボールを奪おうとしてもダメです。 チームでボールを奪うときに大事になるのは、 ・どこに追い込むのか ・いつプレスを強めるのか ・誰がボールを奪うのか というイメージを共有しておくことです。

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例えば、相手が最終ラインでボールを回しているとします。そこへFWがプレッシャー をかけている。ここでFWが相手のセンターバックを追いかけ回しても、スペースがあ るので、ボールを奪うのは難しいでしょう。 そこで、FWの選手はパスコースを限定しながら、サイドバックにパスを出させるよう に誘導します。そして、相手のサイドバックの選手が持ったら、そこに味方の選手が プレッシャーをかけていく。

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相手のサイドバックからパスコースを探す余裕をなくせば、大きく蹴り出すか、近くの 味方にパスを出すしかありません。そこで近くの味方にパスを出したところを、中盤 の選手が狙ってカットします。 ボールを奪っても、そこがゴールではありません。ボールを奪った瞬間というのは、 相手のバランスが崩れています。つまり、最も攻撃のチャンスになりやすい状態なの です。 素早く守備モードから攻撃モードに切り替えて、今度はゴールを奪いに行きましょ う!

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ありがとうございました! 中村憲剛選手が、これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントを お届けする「KENGO アカデミー」。最後まで読んでいただきありがとうございました。 誌面の都合もあり、ここで紹介できたアイデアは、ほんの一部分ですが、「もっと知り たい!」という方は、ぜひ以下のサイトにもアクセスしてください。 「KENGO Academy~サッカーがうまくなる 45 のアイデア~」 http://www.e-3shop.com/kengoacademy/ 中村憲剛選手が自身の選手経験の中で積み重ねてきた「サッカーがうまくなる 45 のアイデア」をひとつの教材にまとめました。全て本人が出演し解説したこの教材で は、本物の「技術」と「駆け引き」を映像とテキストを見ながら学ぶことができます。 特別な練習メニューは必要ありません。このコラムで伝えてきたことと同じように、教 材を見て普段の練習で意識するだけで、プレーの質が大きく向上します。 ぜひ、実践してみてください!

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参照

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