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論文 されるものであり 絶対的に正しいものを決定するのは難しいことが多い とはいえ 言葉の意味を考える上で すでにある定義を参照するのは無駄ではない 現状 観光にはどのような定義が与えられているか 確認しておきたい たとえば 世界観光機構 ( UNWTO: World Tourism Organiz

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1.はじめに 本論文の目的は、観光行動をめぐるメディアコミュニケーションに着目し、 『Pokémon GO』を事例として、旅行者を取り巻く空間概念を整理した上で、 観光を再定義することである。方法としては、現実空間のみならず、情報空 間や虚構空間の存在を前提としたハイブリットなフィールドワークを実施し てデータを得た。 本論文の構成は以下の通りである。まずは、観光の一般的定義を確認 し、ゲーム研究、コンテンツ研究の成果と照応させることで、課題を明らか にする。その上で、『Pokémon GO』を具体的にプレイすることで実施した フィールドワークの結果を提示し、考察を行う。最後に、AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実、人工現実感)、MR(Mixed Reality:複合現実)といった最新技術を活用した映像体験を含めた「観光」を 分析していくための枠組みを提示する。 2.ゲームの定義との対置による観光の定義の批判的検討 まずは、観光の定義について検討していきたい。初めに述べておかねばな らないのは、観光という語は、様々な場面や用途によって定義が異なるた め、統一的で確定的な定義は今のところ無いと考えて良いことだ1。そもそも、 定義というものは、様々な立場の人間が、それぞれに必要な状況に応じてな

スマートフォンゲームの

観光メディアコミュニケーション

―『Pokémon GO』のフィールドワークからの観光の再定義―

岡  本   健

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されるものであり、絶対的に正しいものを決定するのは難しいことが多い。 とはいえ、言葉の意味を考える上で、すでにある定義を参照するのは無駄で はない。現状、観光にはどのような定義が与えられているか、確認しておき たい。

たとえば、世界観光機構(UNWTO: World Tourism Organization)2や日 本の国土交通省観光庁では、統計調査を実施するために、観光の定義をして いる。観光庁が定めた「観光入込客統計に関する共通基準」3の観光の定義は 以下の通りだ。「本基準では余暇、ビジネス、その他の目的のため、日常生 活圏を離れ、継続して 1 年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の 諸活動とします」。そして、同基準において、観光入込客は、「日常生活圏以 外の場所へ旅行し、そこでの滞在が報酬を得ることを目的としない者としま す。本基準では、観光地点及び行祭事・イベントを訪れた者を観光入込客と します」と定義されている。 これは、観光客数や観光入込客数を、調査によって把握するための定義で ある。これによると、観光については、「日常生活圏を離れること」「1年以 内に帰ってくること」が主なポイントであり、観光入込客の要件は、「日常生 活圏外への旅行」「報酬を得ることを目的としない滞在」「観光資源のある場 所への来訪」を行う点だ。確かに政策的に観光を把握する際の定義としては 理解できるが、一般的な観光実践の中には、この定義では包含しきれないも のもありそうだ。特に、本書で扱うゲーム『Pokémon GO』をプレイするこ とによる移動などは、この範囲からははみ出す部分が大きい。たとえば、物 理的身体が日常生活圏を離れずとも、『Pokémon GO』のプレイは可能だ。 ここで、ゲーム研究の側からも、定義を確認することで、観光の定義を批 判的に検討し、より深く考察してみたい。ゲーム研究の成果を観光の定義に 応用する理由の一つは、観光という言葉には、楽しみのための活動という意 味が含まれていることだ。上記の定義でも「余暇」「報酬を得ることを目的と しない」「観光地点及び行祭事・イベントを訪れた者」といった部分に、こう した意味を見いだすことができる。「楽しみのための活動」という性質は、ゲー ムも持っているため、その定義を検討することにより、観光の定義を考察す

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る際に有用な知見が得られる可能性が高い。 ゲームの定義について詳細に議論しているイェスパー・ユールの『ハーフ リアル』を参照しながら論を進めていきたい。ユールは、ロジェ・カイヨワ が『遊びと人間』で行ったゲームの定義について、批判的検討を加えている。 カイヨワのゲームの定義を「自由(自発的)である。[時空間的に]分離されて いる。[なりゆきと結果が]不確かである。非生産的である。ルールに支配さ れている。作り事である」と整理し、それに対して以下のように論じる。 カイヨワの定義では、ゲームは、時間的・空間的にゲーム外世界から分離 しており、かつ非生産的4 4 4 4なものだとされる。しかし、分離という特徴に反す るゲームの事例はすぐに見つかる。たとえば、やりようによってはメールで もチェスをプレイできるわけだが、その場合、そのゲームは、生活のなかの ゲームでない部分と時間を共有しているという意味でも、仕事中に指し手を 考えることができるという意味でも、日常生活と重なりあうことになる。(中 略)非生産性もまた、「生産」ということで物理的な財の生産以上のものを意味 するかぎりは、ゲームの特徴と見なせるかどうか疑わしい。カイヨワはギャ ンブルがなにも生産4 4しないと考えているようだが、経済的な観点からみれば、 ギャンブルが一大産業である以上、この考えには問題がある。(ユール 2016) この、「分離」と「非生産性」についての考察は、観光の定義をより深く考え る際にも示唆を与えてくれる。特に、観光における「日常生活圏」と「余暇」に ついてだ。まず「日常生活圏」と「それ以外」という分け方は、明快なようでい て、実はそうではない。もちろん、自宅から何キロ離れれば日常生活圏外、 といった形で取り決めること自体は可能だが、便宜的な線引きでしかないこ とは明らかだ。具体例を挙げると、自宅から数百メートルしか離れていない が、一度も訪れたことが無い公園があったとして、そこは日常生活圏と言え るだろうか。逆に、航空機を使った出張が日常化している人にとって、高度 1万メートルを飛ぶ航空機内は日常生活圏外とは言い切れないだろう。航空 機内の方が慣れていて落ち着く、という状況は十分に有り得る。

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「余暇」についても同様である。余暇の対義語は仕事や労働だが、余暇は 「余った暇」という漢字を書くように、仕事や労働の側に基準を持つ言葉だ。 仕事や労働は何かを生産するものとされ、余暇は、仕事や労働で疲れた心身 を回復させ、再び生産性の高い仕事や労働に戻るための時間(レクリエーショ ン)である。余暇そのものには生産性を求めない。これも、現代のライフス タイルに照らし合わせてみた時に、境界線を引くことが難しい状況が数多く 出てきている。 この線引きの難しさの原因は、観光に関して言えば、いずれも観光者の心 理面に関わる事柄であるからだ。日常生活圏であると感じるかどうか、人生 の中で仕事の時間にどれだけの重要性を感じているのか、これらは、その人、 その時、その場所によって判断が違ってくると同時に、同じ人であっても変 化する。また、価値観の多様化によって様々な生き方を送る人が出てきてい る中、ライフスタイルを固定されたものとみて観光の枠組みを作ると、現代 の観光実践の分析、考察は、重要な部分を捨象してしまうことになるだろう。 観光という語が指す対象範囲が、時代によって変化していくことを考えると、 戦略的に、より動的な枠組みを構築しておく必要がある。 3.ポケモンはどこに存在するのか─現実空間/情報空間/虚構空間 筆者の専門は、観光社会学、コンテンツツーリズム学、ゾンビ学である。 これまでの研究活動として、身体的な移動をともなう観光や現実の地域振 興の調査を行うとともに、コンテンツ4そのものの研究も行ってきた。具 体的には、2008年3月ごろから、アニメ聖地巡礼を中心としたコンテン ツツーリズムを対象に、継続的に研究を行うとともに(岡本 2012、2013、 2014、2015a、2015b、2016など)、主にゾンビに焦点をあてて、メディア コンテンツの分析を実施し、成果を世に問うてきた(岡本・遠藤 2016、岡本 2017)。そこから見えてきたのは、現実空間上の移動だけでなく、主にイン ターネットで接続できる空間である情報空間、そして、映画やマンガ、アニメ、 小説、ゲーム等のコンテンツの中に想定できる虚構空間への精神的移動も 含めて分析、考察していくことの重要性だった(岡本 2015a、2015b、2016、

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岡本・遠藤 2016)。 こうした研究成果を下敷きにして、ポケモンたちはこの世界のどこにい て、我々はどうすればそれを分析視角の中におさめられるかを検討しておき たい。筆者は以前、「アイドル」について、現実空間、情報空間、虚構空間を 前提にした分析を行った(岡本 2016)。その中で、次のことを指摘した。ア イドルは、その形態がアニメやゲームのキャラクターであっても、生身の人 間と完全に乖離して存在するわけではない。ただし、ARやVR等の様々な 技術によって、生身の人間存在のままでは不可能な出会い方が可能になっ てきている。こうした中で、『Pokémon GO』も一つの例として取り上げた5。 モンスターたちは虚構空間の存在だが、それがスマートフォンを通して現 実空間に現れたように見えている。当然、本当にその場にいるわけではない が、『Pokémon GO』のリリース直後の熱狂を支えた一つの要因として、これ までポケモンファンが虚構空間内で行ってきたポケモンの捕獲行為(モンス ターボールを投げつけること)が、あたかも実現できたような気分が味わえ るしつらえ(指で画面をフリックするという間接的なものであったとはいえ) があっただろう。この現実空間と虚構空間をつなぐ構造があったからこそ、 後述するような現実空間上での各種影響につながったのである。ポケモンは 虚構空間と現実空間のはざまを行き来している。 こうした存在と関わる行動を調査しようとした時、調査者もまた、これら の空間を横断したフィールドワークを行う必要があるだろう。観光の現場に おけるコミュニケーションを調査するためのフィールドワークと言えば、地 域の人々や旅行者に対するインタビューを思い浮かべやすい。ただし、どの ような観光も、旅行者が事前情報を得て現地に向かうというプロセスが含ま れるものであれば、ある種の「虚構」との関わりは無視できない。本論文では、 こうした理由から、スマートフォンゲーム『Pokémon GO』を実際にプレイ するとともに、『Pokémon GO』をめぐって起こった社会的事象も含めて、こ れらの実践の中で見られたコミュニケーションのあり方を分析、考察した。

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4.『Pokémon GO』のフィールドワーク─スマホを持て、町に出よう 本章からは、筆者自身が「ポケモントレーナー」として、『Pokémon GO』の 世界をフィールドワークした結果を記していく。 『Pokémon GO』は、『ポケットモンスター』の世界観を用いたスマートフォ ン用の位置情報ゲームだ。Niantic, Inc.(ナイアンティック)と株式会社ポケ モンが共同開発したもので、iOSとAndroidに対応したアプリケーションで ある。日本でのリリースは2016年7月22日だった。筆者が『Pokémon GO』 を始めたのは、2016年7月23日である。アプリが日本でリリースされた翌 日からの開始ということになる。 『Pokémon GO』は、そのリリース前から話題沸騰であった6。本作は、 2017年7月6日にアメリカやオーストラリアなどで配信され、その後1週間 ほどで、「twitter」の利用者数とならぶアクティブユーザーを獲得した。そ の後、ドイツ、イギリス、イタリア、カナダなどで配信されていったが、日 本配信のタイミングについての正確な情報はなかなか発表されなかった。筆 者は、先行配信されている国々で起こった様々な社会現象が、お昼の情報番 組で話題として扱われているのを、非常勤講師先の大学に向かう途中の自家 用車の中でテレビから聞いていた7。つまり、日本では、『Pokémon GO』に ついて、元のコンテンツそのものよりも、コンテンツに関する情報である第 二次テクスト8の方が先行してもたらされ、テレビのコンテンツになってい たのだ。 『Pokémon GO』をiPhoneにインストールした時点では、筆者の『ポケット モンスター』に関する知識はかなり貧弱だった。1996年に発売された『ポケッ トモンスター 赤・緑』(ゲームボーイ版)から始まる携帯コンシューマーゲー ムとしてのポケモンシリーズは一切プレイしたことが無く、アニメ『ポケッ トモンスター』もチャンネルをザッピングしていて、数度断片的に見たぐら いで、ポケモンカードを集めたこともなかった。また、ゲームシステム的に 『Pokémon GO』の前身となった『Ingress』(開発はナイアンティック)につい ても、「ハマっている」人が周りに数名いて、「面白い」と聞いているぐらいで あった。つまり、筆者はポケモンというコンテンツ的な文脈においても、コ

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ンテンツが置かれている開発史的なつながりにおいても希薄な関係しか持た

ない状態で、『Pokémon GO』を始めたことになる9。ただ、ARゲームとし

ては『セカイユウシャ』をプレイしたことがあった10。また、スマホゲームで は『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』、ブラウザゲームでは『艦 隊これくしょん』や『刀剣乱舞─ONLINE─』のプレイ経験があった。 ゲーム『Pokémon GO』をスタートした時、素朴に驚いたのは、プレイヤー アバターの大きさだった。肩幅が道路幅と同じくらいある。道路に合わせて 実寸に直して考えると巨人である。ファミリーコンピュータ等のRPGでは、 道路幅とアバターの幅が同じであることはそれほど珍しいことではなく、こ れまで驚いたことは無かった。今回、筆者が驚いた原因を推察すると、アバ ターの等身が人間に近く、また、空間表現が3Dであったためだと考えられる。 松本健太郎は、イェスパー・ユールの著書『カジュアル革命』で論及された 3つの空間を取り上げて、アバターについて論じている(松本 2013)。それ によると、ゲーム受容に関連する空間は、それぞれ「3D空間」「スクリーン 空間」「プレイヤー空間」と名付けられる。プレイヤー空間は本稿で言うとこ ろの現実空間である。アバターはプレイヤーの代理物であり、松本(2013) の言葉を借りると「代理行為者(エージェント)」だ。iPhoneのスクリーンに 映されたエージェントは平面キャラクターではなく、3Dで描写されていた。 一方で、マップについては3Dマップではあり、ポケストップやジムといっ た構造物は立体的に描写されているものの、底面については割とのっぺりし た平面的な表現になっていた。この微妙な齟齬により、違和感が生じ、驚き の感情が表出したものと考えられる。 5.『Pokémon GO』の怪物性─ながらスマホ、ポケモンショック 『Pokémon GO』が配信されると、様々な出来事が起こった。その中には、 社会的に悪いとされていることも、良いとされていることも含まれており、 多様な場面で議論を呼んだ。悪いとされていることの例としては、ゲームを プレイしながら危険な場所や立ち入りが禁じられる場所に入ってしまう人 が出たり、自動車を運転しながらゲームをプレイしていた結果交通事故が起

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こったりした。 実際にプレイしてみると、自分が歩くのと同期してゲーム内のアバターが 道を進んでいくのが物珍しくて面白いのと、ポケストップやジムの位置を 確認するため、そして、ポケモンの出現を見逃さないために(ずっと見てい なくても、バイブレーション機能で教えてはくれるのだが…)、ついつい画 面を見ながら歩いてしまった。問題となった出来事のほとんどは、この「な がらスマホ」によるものだ。スマホ画面を見ながら歩行すると、視野が狭く なるとともに、情報空間や虚構空間の出来事に意識が向き、まっすぐ歩い ているつもりでもふらふらとした足取りになる。『Pokémon GO』とは直接関 係ないが、この様子をゾンビのようだとしてスマートフォンとゾンビを合 わせた用語「スモンビ」(smombie)という言葉も生まれた11。そう考えると、 『Pokémon GO』というコンテンツ単独の問題というよりは、スマホという メディアが構造的に持つ問題であると言えそうだ。認知心理学的観点から説 明すると、注意資源の分配が、目の前の出来事に対してではなく、スマホに 対して多くなされてしまった結果、自動車の操作ミスが起こったことになる。 情報空間や虚構空間への窓として機能するスマホは、利用者の精神的移動を 促して、意識を「いま、ここ」から旅立たせるのだ。 そうした現象への対応策として、『Pokémon GO』には、速度制限がかけら れ、「周りをよく見て、常に注意しながらプレイしてください」「画面を見続 けながら歩くことや、運転中のプレイはやめてください」「許可無く立ち入っ てはいけない場所や建物には、決して入らないでください」といった注意書 きが表示されるなどした。ゲームルールの変更(追加)が、現実空間の出来事 からの要請によって行われたのである。現実空間の出来事が虚構空間に影響 を与えたのだ。実はこの回路は、アニメ版『ポケットモンスター』ですでに見 られた。いわゆる「ポケモンショック」である。1997年に放送された番組内で、 激しい光の明滅が数多く用いられたため、視聴者の中に光過敏性発作を引き 起こす人が出た問題だ。これによって、やはり『ポケットモンスター』そのも のへのバッシングが強まったが、これも作品の内容に起因するものというよ りは、テレビというメディアにおける表現の一つが引き起こす現象であった。

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その後、テレビ画面には、『ポケットモンスター』ではもちろん、それ以外の 番組でも、激しい光の明滅や画面の至近距離での視聴に対する警告が表示さ れるようになった。テレビアニメだけでなく、ニュース番組などでも、カメ ラのフラッシュが連続してたかれるような場面では、やはり注意を促すテ ロップが出されるようになった。 以上の点は「ポケットモンスター」の怪物性とまとめることができるかもし れない。怪物級のヒットを飛ばし、メディアを通じて現実空間にまで影響を およぼすモンスターたちだ。ちなみに、アプリ『Pokémon GO』については、 プレイしているとスマホの電池の減りが非常に速い。実際は、GPS機能を利 用していることにより電池の消耗が早いわけだが、まるで電気が大好物のモ ンスターを、スマホに飼っているようでもある。 6.『Pokémon GO』の心理的効果 ─うつ病、引きこもり、アニメ聖地巡礼 一方の「良い」とされる面としては、運動不足の解消、自殺の名所がポケス トップになった事で常に人がたくさん訪れるようになって自殺防止につな がった、ポケストップにルアーモジュールを刺すことでポケモンの出現確率 を上げて商店街活性に貢献した、といった出来事がメディアで報じられた。 こうした出来事の中に、『Pokémon GO』によって、引きこもりやうつ病 が治った、というものがある(島田 2016)。モバイル機器を携え、移動する 我々の生活(モバイル・ライフ)においては、インターネットやモバイル機器 の使用によって、心理的な疲労や、それに関連する病的な症状が生起する可 能性が高まることが報告されている(エリオット、アーリ 2016)。そう考え ると『Pokémon GO』がもたらしたとされる治癒効果は、モバイル機器やネッ トワーク社会のもう一つの側面に光をあてる可能性がある12。 現実空間上の社会関係などに困難を抱えている場合、情報空間や虚構空間 への親和性が増している場合がある。そうした時には、虚構空間と現実空間 がなんらかの形で接続されることで、現実空間での居場所が見つかることが ある。アニメ聖地巡礼やコンテンツツーリズムの現場においても、同様の事

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態が起こるのは珍しくなかった。アニメの背景のモデルとなった現実の場所 を訪れ、そこで出会った同好の士や地域住民などと関係を取り結ぶことで癒 され、引きこもりや対人恐怖症が治ったというエピソードを複数のアニメ ファンから収集できた(岡本 2012、2013)。 アニメ聖地巡礼、コンテンツツーリズムにおけるコミュニケーションのあ り方に着目してみると、アニメファンは、匿名ではあり続けるものの、他の ファンや地域住民に特定され、交流の回数を重ねて親密性を増していくプロ セスを経ていた(岡本 2012、2013など)。アニメファン同士では、ファンコ ミュニティ内でハンドルネームと呼ばれるニックネームで呼び合う慣習があ る。これはネットを通じてやり取りする情報空間のみならず、コミックマー ケット等の同人誌即売会や現実空間で出会うオフ会、ライブやイベントが開 かれる現実の場所においても同様だ。アニメ聖地巡礼では、従来の観光的な 価値に照らすと観光資源にはならない場所である、住宅街や公園、神社仏閣 等の生活景観なども、アニメの背景になったことによって聖地化し13、観光 の対象となった。これによって、事情を知らない地域住民が驚いたり、ファ ンの中には情報空間や虚構空間の慣習を現実空間に持ち込んでしまう人もお り、そうした価値観を理解しない、あるいは、否定的な見解を持つ地域住民 や他の価値観を持った旅行者との齟齬やトラブルに発展したりするような ケースも見られた(岡本 2015)。 ところが、いくつかの地域では、アニメファンは地域住民と関係を取り結 び始めた。アニメファンは地域住民に対してもハンドルネームを名乗ること が多い。ハンドルネームは、情報空間で使用した場合は、使用者の外見との 接続は無くても良い。名前だけが情報世界で表示され(あるいは、twitterな どではアニメキャラクターなどの図像とともに表示され)、完全に匿名で存 在できる。ただし、現実空間で自らの身体や顔を晒して名乗った場合は、本 名ではなくとも、その存在を特定する名称として機能することになる。匿名 的なハンドルネームを名乗ってはいても、存在は現実空間にあり、その存在 のラベルとして機能するのだ。筆者が話を聞いたファンからは、自分が住ん でいる場所では近所の人の顔も知らないが、アニメ聖地では色々な人に名前

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(ハンドルネーム)を呼んでもらって「元気?」などと声をかけてもらえる、と いったコメントが得られた。 『Pokémon GO』でも、同様の事態は十分に起こり得る。『ポケットモンス ター』シリーズが作り上げてきた虚構空間に対して親和性が高くなっている 人が、『Pokémon GO』という、虚構空間を楽しむために現実空間上の移動 を要請するコンテンツを体験すると、否応なしに外に出かけるようになる。 『Pokémon GO』は、行動しなければゲームが進まないからだ。現実空間上 での移動なしに虚構空間を楽しむことができない仕様になっている。具体的 には、ポケモンを捕獲するためのモンスターボールは、ポケストップやジム という、どの端末にも同じように表示される場所に行かなければ手に入らな いため、現実空間上の特定の場所を訪れることになる。うつ病の治療には、 太陽を浴びながら適度な運動をすることが有効とされており(岡田 2010)、 コンテンツが散歩を促したために病気が治癒した可能性は十分にある。 実は、筆者はうつ病に罹患した経験を持っている。2016年8月ごろから不 眠症に悩まされるようになり、その後、症状は悪化して、重度の抑うつ状態 に陥った。その時に『Pokémon GO』がどのように作用したか(作用しなかっ たか)、記しておきたい14。 筆者の場合は、症状の悪化とともに『Pokémon GO』どころか、スマートフォ ン自体が見られなくなった。テレビ、パソコン、映画、活字、マンガなど全 て見られなくなった。電話にも出られなくなり、家の外に出るのも嫌になっ た。家にいたからといって心が休まるわけでは無い。とにかく何に対しても 全くやる気が無くなってしまった。医師の指導もあり、まずは睡眠をとれる ようにすることに力を注ぐことになった。投薬治療を受けるとともに、午前 中にある程度の時間日光に当たることと、運動して体を疲れさせることが重 要と言われ、毎日、妻に促される形で散歩をすることになった。うつ病に罹 患した状態では、心理的に苦しい状況に置かれているということもあり、無 目的な散歩は精神的に辛いものがあった。だが、ある時から野鳥に目をやる ようになって、散歩が少し楽しい活動に変わった。野鳥を観察し、特徴を覚 えておいて、家に帰って野鳥図鑑の写真でその種類を同定する。毎日、野鳥

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48 がいそうな場所を目指して歩きまわった。それまで気にも留めていなかった が、よく観察すると見られる野鳥の種類はかなり多いことが分かってきた。 ある日、写真を撮ってみようと思いたち、デジカメを持って歩くようになっ た。野鳥にカメラを向けていると、「何かいるんですか?」と声を掛けられ ることもあり、簡単な会話をすることもあった。2017年6月5日にはSNSの 『Instagram』を始め、撮影した野鳥の写真などをアップしはじめた。 以上のように、筆者の場合、『Pokémon GO』は、うつ病の治療に直接役 立ったとは言い難い。しかし、野鳥観察という行為は、身体的な動きとして は『Pokémon GO』に近いものがある。野鳥(ポケモン)を探して歩く、見つ けた野鳥(ポケモン)の種類を同定する、写真を撮影する、出会った人々と会 話する、撮影した写真を情報空間にアップするといった行為だ(図1)。 図1.ポケモンと野鳥の『Instagram』への投稿(筆者撮影) 筆者がうつ病から脱して『Pokémon GO』を再開したのは、2017年6月末 ごろであった。その時、プレイして感じたのは「野鳥観察と似ている」だっ た。それもそのはずで、そもそも『ポケットモンスター』の開発思想の中には 「虫取り」があったという(中沢 2004、2016)。『Pokémon GO』も、現状では、 り 、簡 単 な 会 話 を す る こ と も あ っ た 。20 17 年 6 月 5 日 に は S NS の『 Ins t agram』 を 始 め 、 撮 影 し た 野 鳥 の 写 真 な ど を ア ッ プ し は じ め た 。 以 上 の よ う に 、筆 者 の 場 合 、『 Po kémon GO』は 、う つ 病 の 治 療 に 直 接 役 立 っ た と は 言 い 難 い 。 し か し 、 野 鳥 観 察 と い う 行 為 は 、 身 体 的 な 動 き と し て は 『 Pokém on GO』 に 近 い も の が あ る 。 野 鳥 (ポ ケ モ ン )を 探 し て 歩 く 、 見 つ け た 野 鳥 (ポ ケ モ ン )の 種 類 を 同 定 す る 、 写 真 を 撮 影 す る 、 出 会 っ た 人 々 と 会 話 す る 、 撮 影 し た 写 真 を 情 報 空 間 に ア ッ プ す る と い っ た 行 為 だ ( 図 2 )。 図 1. ポ ケ モ ン と 野 鳥 の 『 I nstagram 』 へ の 投 稿 ( 筆 者 撮 影 )

筆 者 が う つ 病 か ら 脱 し て 『 Pok émon GO』 を 再 開 し た の は 、 2 017 年 6 月 末 ご ろ で あ っ た 。そ の 時 、プ レ イ し て 感 じ た の は「 野 鳥 観 察 と 似 て い る 」だ っ た 。 そ れ も そ の は ず で 、そ も そ も『 ポ ケ ッ ト モ ン ス タ ー 』の 開 発 思 想 の 中 に は「 虫 取 り 」 が あ っ た と い う ( 中 沢 2004 、 2016)。『 P okémon GO 』 も 、 現 状 で は 、 ポ ケ モ ン の 交 換 な ど 、 未 実 装 と 思 わ れ る 機 能 は あ る も の の 、 基 本 的 に 『 ポ ケ ッ ト モ ン ス タ ー 』1 5 の モ ン ス タ ー や 世 界 観 を 引 き 継 い で い る 。 虫 取 り の 面 白 さ

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ポケモンの交換など、未実装と思われる機能はあるものの、基本的に『ポケッ トモンスター』15のモンスターや世界観を引き継いでいる。虫取りの面白さ が『ポケットモンスター』に移植され、そのモチーフを活かした『Pokémon GO』が、プレイヤーに外で遊ぶことの面白さを伝えていると考えることも できる。『ポケットモンスター』自体が、ゲームボーイという携帯ゲーム機を 前提として開発されたコンテンツであり、携帯ゲーム機を接続して、ポケモ ンを交換するシステムを搭載していた。つまり、『Pokémon GO』は、そのコ ンテンツ史的特徴からして、現実空間でのプレイヤーの共在や交流が志向さ れているのだ。 7.都市に出現する小祝祭空間 ─レイドバトルで経験した奇妙な連帯感 『Pokémon GO』を再開してみると、ゲームシステムにかなり変更が加え られていた。ポケモンの種類の増加(2017年2月実装)、ジムにいるボスポ ケモンを倒す「レイドバトル」システムの追加(2017年6月実装)など、ゲー ム内容が変化していたのだ。スマホゲーム、ブラウザゲームなどでは、パッ ケージソフトでリリースされる作品とは違い、システムそれ自体が更新され ていく作品も多い16。 ここでは、新たに実装されたレイドバトルについて、フィールドワークの 結果を提示した上で論じてみたい。レイドバトルは、ジムの上に卵が出現し た後に、それが孵化してモンスターが出現することで参加可能になる。一体 のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクターの略)モンスターに対して、複数 のプレイヤーが共同してポケモンをけしかける(図2)。こうしたポケモンを 倒すことのメリットの一つは、『Pokémon GO』全体のゲーム目標と同様、こ のモンスターを収集できることにある。NPCモンスターに勝利すると、「ゲッ トチャレンジ」画面に切り替わり、通常の「野生のポケモン」と同様に、モン スターボールを投げ、うまくいけばゲットできる。 レイドバトルで登場するNPCモンスターの中には、レア度が非常に高い ものがいる。通常のプレイでは登場しないものや、出現確率が低いものだ。

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50 筆者は、「ルギア」や「サンダー」といった貴重なポケモンとのレイドバトルに 参加したが、そうしたレアモンスターはCP17が数万にのぼり、自分が所持 しているポケモンだけで勝利するのは難しかった。そうすると、必然的にプ レイヤー同士の協力が必要になるが、レイドバトルの開始時間や開催場所は、 数日前から予告されるようなものではなく、家族や友人と約束を取り交わし て赴くことは不可能である。筆者の場合も、「ルギア」は札幌駅近辺を歩いて いた際、そして、「サンダー」は大阪駅近辺を歩いていた際、偶然レイドバト ルに参加した。そうすると、その場で協力するのは、当然見知らぬ他人とい うことになる。 図2. サンダー(左)が出現した「金属製周囲歴史案内板」(右上)における レイドバトルの様子(右下)(2017年8月11日 筆者撮影) サンダーが出現したレイドバトルに参加したのは、2017年8月11日の夕 方18時前ごろ、ジムは「金属製周囲歴史案内板(以下、案内板と表記)」だった。 い た 際 、そ し て 、「 サ ン ダ ー 」は 大 阪 駅 近 辺 を 歩 い て い た 際 に 、偶 然 参 加 し た 。 そ う す る と 、 そ の 場 で 協 力 す る の は 、 当 然 見 知 ら ぬ 他 人 と い う こ と に な る 。 図 2. サ ン ダ ー ( 左 ) が 出 現 し た 「 金 属 製 周 囲 歴 史 案 内 板 」( 右 上 ) に お け る レ イ ド バ ト ル の 様 子 ( 右 下 ) ( 2017 年 8 月 11 日 筆 者 撮 影 ) サ ン ダ ー が 出 現 し た レ イ ド バ ト ル に 参 加 し た の は 、2 01 7 年 8 月 1 1 日 の 夕 方 18 時 前 ご ろ 、 ジ ム は 「 金 属 製 周 囲 歴 史 案 内 板 ( 以 下 、 案 内 板 と 表 記 )」 だ っ た 。 大 阪 駅 周 辺 に 位 置 し 、 都 会 の 真 ん 中 と 言 え る よ う な 立 地 の ジ ム で あ る 。 筆 者 は 、 ジ ュ ン ク 堂 大 阪 本 店 か ら MA RUZEN& ジ ュ ン ク 堂 書 店 梅 田 店 に 向 か っ て 歩 い て い る 途 中 、 偶 然 レ イ ド バ ト ル の 開 催 に 遭 遇 し た 。 す で に 、 案 内 板 の

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大阪駅周辺に位置し、都会の真ん中と言えるような立地のジムである。筆者 は、ジュンク堂大阪本店からMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店に向かっ て歩いている途中、偶然レイドバトルの開催に遭遇した。すでに、案内板の 周りには点々と人々が立ち、スマホに視線を落としていた。二人連れもいた が、一人の人も多かった。このジムは大きな交差点の一角にあり、大勢の人 が信号待ちで滞留する場所ではある。ただ、よく見ると、信号が変わっても 動かない人が多く、この人々は各々がサンダーと戦っているのであった。中 には、案内板そのものに関心を示し、本型になっている金属板をめくってい る人もいた。 筆者も、通行の邪魔にならない場所に立ち、レイドバトルに参戦した。自 分が収集したポケモンの中から戦わせる6体のポケモンを選んでいるうち に、数名の参加者が虚構空間上で集い、バトル開始となった。プレイヤー側 のポケモンたちは、サンダーの強力な攻撃で、どんどんやられていってしまっ たが、最終的には全員の協力で倒すことができた18。その後、ゲットチャレ ンジでは、5 投目くらいでサンダーをゲットできた。ふと顔を上げた時、一 瞬の弱い連帯感が生じたように思えた。実際に一緒にゲームで戦ったのは、 その場に集っている誰なのか、個人の特定はできないのだが、確実に近くに いる誰かなのである。とはいえ、ゲットチャレンジは個別の端末ごとで成否 は異なるので、全員がサンダーをゲットできたのかは分からない。微妙な連 帯感と充実感、そして、少しの申し訳なさを感じつつ、その場を後にした。 これと似た光景は、以前、ゲーム『ドラゴンクエスト』でも目にした。「す れ違い通信」という機能が実装されたタイトル『ドラゴンクエストⅨ 星空の 守り人』(2009年7月発売)で、ゲーム機「ニンテンドー DS」を持った人々が、 他プレイヤーと通信するため、秋葉原にあるヨドバシカメラ店舗前の特設会 場に集っていた。その場に共在しているにも関わらず、全員がゲーム機に目 を落とし、静かにプレイしているのは、外部から見ると異様な光景ではあっ たが、『Pokémon GO』で起こっているのも、基本的にはこれと同様だ。 こうした光景は、都市でよく見られる。『Pokémon GO』の場合は、そも そもポケストップやジムが都市に多く、地域に少ない。これは、『Pokémon

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GO』のポケストップやジムの位置情報データを参照した『Ingress』のユー ザーが都市に多かったことや、ポータルとして申請できる物体が都市に多 かったためである。都市の方が有利にプレイできる仕様なのだ。そういう意 味では、こうしたスマホの位置情報ゲームは都市文化であると言っても良い かもしれない。情報空間上では、このこと自体がネタとして扱われた。田舎 に行くとポケストップやジムが無く、のっぺりとしたマップだけが広がる様 子をスクリーンショットで撮影した画像が、twitterなどに投稿された。 一方で、現実空間上の都市生活において、他者との「連帯感」が生じる瞬間 は、そう頻繁には訪れない。盛り場やスポーツバーなどの特定の場所では、 そうした状況は現出し得るが、それ以外の都市空間は、どちらかと言えば、 匿名性や他者への無関心が目立つ場所である。『Pokémon GO』は、都市の環 境に、疑似的で、かつ、小規模ではあるものの、現実空間と虚構空間のはざ まに祝祭空間を現出させ、小さな達成感や連帯感を供給している。 8.コンテンツツーリズムへの展開 ─北海道江別市の「サードサタデー」を中心に すでに指摘した通り、コンテンツツーリズムと『Pokémon GO』には観光 的な類似の構造が見られる。アニメの舞台とポケストップは、どちらもコン テンツに地域の景観や物を取り入れることによって、コンテンツへの関心を 地域文化や地域住民に向ける契機になり得る。大きな違いとしては、アニ メの舞台はアニメ製作者によって選択されるが、ポケストップやジムの配 置には、ユーザーが選択する回路があったことだ。『Pokémon GO』のポケス トップやジムは、前身となった『Ingress』において、ユーザーがポータルと して申請した場所のデータを利用している。ただし、必ずしも一致してい るわけではなく、『Pokémon GO』でポケストップやジムになっている場所 が『Ingress』ではそうでは無い場合や、その逆もある。また、当然ながら、 『Ingress』をプレイしていたプレイヤーは、ポータルの申請という自らの行 為が、将来の『Pokémon GO』のゲームデザインに関わるなどとは思ってい なかっただろう。『Ingress』は、『Pokémon GO』と同様に、google mapのデー

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タを元に作成されている。プレイヤーは、現実空間上の目立つものをスマホ で情報化し、情報空間のgoogle map上に付加して、『Ingress』という虚構空 間を作り上げるのに貢献した。こうして得られたポータルの位置情報と画像 情報が『Pokémon GO』に活用されたのである。 『Pokémon GO』を用いて、観光振興、地域振興につなげようという試み は様々なところでなされているが、それぞれコンテンツ作品とのかかわり方 は異なっている。リリース初期によく見られたのは、ポケストップにルアー モジュールを刺して集客につなげるものだった。これは、ポケモンの出現確 率を一定期間上げるルアーモジュールというゲーム内アイテムの性質を活用 したものだ。スマートフォンゲームやブラウザゲームの多くのコンテンツに おいて、同様の課金アイテムは、金銭を支払った人の端末やアカウントにだ け作用するが、ルアーモジュールは、使用することによって、ポケストップ 周辺の端末でもポケモンの出現確率が上がる。商店側は、ゲームの課金アイ テムを活用しているだけなので、別途コンテンツ使用料などは発生しない。 次に、『Pokémon GO』のマップを作って配布した取り組みがある。「天橋 立三所詣GOワールドマップ」がそうだ。2017年3月31日の天橋立観光協会 によるウェブサイト「「海の京都」天橋立観光ガイド」での告知によると、「京 都府とNiantic, Inc.との観光振興に関する連携に基づき、『Pokémon GO』公 認の西日本初となる観光マップであり、天橋立の聖地周遊ルート上にある観 光名所と、ゲーム上の拠点である「ポケストップ」や「ジム」を掲載することで、 周遊を促し、天橋立の周辺を歩いて散策していただき、その深い魅力と聖地 の雰囲気を味わうことができるものとなっています」と書かれている19。マッ プの凡例にはジム、ポケストップ、観光名所、トイレ、休憩所、駐車場、案 内所、コンビニ、とあり、一般的な観光マップに虚構空間上のジムやポケス トップが組み込まれた作りとなっている。さらに、本取り組みでは、タイト ルに「三所詣GO」とあるように、裏面は、知恩寺文殊院、元伊勢籠神社、成 相寺の三ヶ所をめぐるスタンプラリーの台紙となっている。ゲーム内にも マップがあるが、そこに紙メディアのマップで情報を付け加えて、『Pokémon GO』を楽しみながら、現実空間の地域を巡る仕掛けになっている。

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さらに、2017年8月9日から8月15日には、株式会社ポケモンが主催する 街型イベント「ピカチュウだけじゃない ピカチュウ大量発生チュウ!」が、神 奈川県横浜みなとみらいエリア一帯で開催され、国内初の『Pokémon GO』 公式イベントである「Pokémon GO PARK」も同時に開催された20。そこで は、普段はなかなか遭遇できないモンスターの出現確率が上げられており、 これまで登場していなかった伝説ポケモンの「ミュウツー」がレイドバトルに 登場するなど、虚構空間での利得が得られるようになっている。それと同時 に、リアルジム、リアルポケストップという、ジムとポケストップの立体造 形も展示された。虚構空間内の物体を、現実空間で再現したものと言えよう。 訪れた人々は、リアルジム、リアルポケストップを背景にARでポケモンを 重ね、その写真をtwitter等のSNSにアップしていた。現実空間、虚構空間、 情報空間が入り混じった楽しみ方である。 最後に、ファンイベントとして日本で初めてにして唯一の実施21となっ た「ポケモンGOサードサタデー」(2016年9月17日)が開催された北海道江 別市への調査結果を報告し、分析してみたい22。本イベントはウェブサイト 「FevGames」の運営団体が主催したものである。「FevGames」は、ARゲー ムのニュースサイトで、『Ingress』や『Pokémon GO』についての様々な情 報を発信している23。当サイトでは、2014年12月からIngressのイベント

「Ingress First Saturday」(以下、FSと略記)を実施していた。サイトで開

催が呼びかけられ、プレイヤーは開催候補地としてエントリーして、イベ ントに参加する。本イベントは、世界中から参加地域を募って行われてい た。2016年8月4日、FSの『Pokémon GO』版と言える「Pokémon GO Third

Saturday」(以下、TSと略記)の告知が「FevGames」のウェブサイトでなさ れた24。 ここからは、なぜ北海道の江別でこうしたイベントが実施されたのかを中 心に、事例を見ていきたい。前述の告知を見てイベントにエントリーしたの は「北海道江別ポケモンgoサークル」代表の三浦嘉大氏である。三浦氏は、以 前からgoogle mapやIngressに関心を持ち、当該ウェブサイトでも情報を得 ていた。情報を見つけた当時、「このイベントにエントリーすれば、江別が日

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本で最初の開催地になる」と思い、申し込んだという。「FevGames」が提示し ていたゲームのルールは次の通りのものだった。「1.獲得した経験値、2. 捕まえたポケモンの数、3.歩いた距離、4.上がったレベル数、5.最終集 合場所のジム保有チーム」。このゲームを遊ぶためには、ポケストップがそ れなりの数必要になる。会場となったJR江別駅周辺は、いわゆる旧市街であ り、どちらかというと近くのJR野幌駅周辺の方が栄えている。先ほどの、都 市と地域という分け方で行くと、地域に属するだろう。ところが、虚構空間 内の江別駅近辺は様子が異なる。図3の左と中央は、江別駅周辺のフィール ドだ。左手前のジムが江別駅で、角度と縮尺を少し変えて撮影してある。画 像中央あたりの緑地とそこにあるジム、あるいは、画像右下のポケモン「オ タチ」を基準に見ると分かりやすい。さすがに東京や大阪の中心市街地と比 べると数は少ないものの、ジムやポケストップの密度はそれなりに高い。 これは、さかのぼると『Ingress』のポータルが多かったためである。三浦 氏によると、イラストレーターである木野陽(きのひなた)氏の力が大きかっ たと言う。江別市出身の木野氏は、地元に『Ingress』のポータルが郵便局し かない状況で、「ポータル職人見習い」として、様々なものをポータルとして 申請していった。木野氏は、その様子をマンガで表現し、SNS「Google+」 で公開している。本作では、野幌屯田町公園の申請の際、子供のころに公園 を巡り歩いた「冒険のわくわく」を感じる主人公が描かれている25。公園の他、 江別駅近辺にあるポータルの多くは、「れんがギャラリー街路灯」である(図 3 右)。これは、街路灯の柱がガラス張りのギャラリーボックスになっており、 アーティストの作品が展示されているもので、33基ある。『Ingress』のポー タルを数多く申請できたのは、この「れんがギャラリー街路灯」があったこと が一つの要因である。現実空間の物を、人が選別して申請し、それが情報と して登録されたことによって、虚構空間の環境を豊かにしたのだ。 このように、虚構空間上の豊かな資源を背景にイベントが実施された。 ネットでイベントの告知をしたところ反響が大きく、安全に配慮して40名 限定として募集をかけたところ、数日で定員を満たしたという。先述した 木野氏も、この取り組みに対して特別なイラストを描き提供した。当日は、

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56 40名の参加者の他、申し込みはしていないものの、ともにイベントを楽し もうと多くの人が集まった。三浦氏によると、それまでのイベントに集っ ていた『Ingress』ユーザーとは異なる層の人々が多く参加していたという。 『Ingress』と『Pokémon GO』はいずれもナイアンティックが制作し、同じ位 置情報ゲームであり、データの活用もあることから近いコンテンツとして語 られるが、ユーザー層は同じではないのだ。『Pokémon GO』が登場して、突 然問題行動が大きなニュースになった事からもそのことがわかる。 図3.江別駅周辺のポケストップとジム(左・中央)、ポケストップ   「れんがギャラリー街路灯1」(右)(筆者撮影)      江別でのTS開催に際しても、当時マスメディアで流された様々なニュー スを背景に、問題行動が起こらないかと不安の声が上がり、警察からも問い 合わせがあったという。そこで、ちょうど『Pokémon GO』プレイヤーがた むろすることで公園がゴミだらけになったというニュースを見た「北海道江 別ポケモンgoサークル」メンバーは、「FevGames」の公式ルールには無い追 加のゲームを実施することにした。『Pokémon GO』は、赤、青、黄のチーム に分かれているので、それぞれにイベント特製のゴミ袋を配布し、回収した ら れ る が 、ユ ー ザ ー 層 は 同 じ で は な い の だ 。『 Po k émon GO 』が 登 場 し て 、突 然 問 題 行 動 が 大 き な ニ ュ ー ス に な っ た 事 か ら も そ の こ と が わ か る 。 図 3.江 別 駅 周 辺 の ポ ケ ス ト ッ プ と ジ ム ( 左 ・ 中 央 )、 ポ ケ ス ト ッ プ 「 れ ん が ギ ャ ラ リ ー 街 路 灯 1 」( 右 )( 筆 者 撮 影 ) 江 別 で の TS 開 催 に 際 し て も 、 当 時 マ ス メ デ ィ ア で 流 さ れ た 様 々 な ニ ュ ー ス を 背 景 に 、 問 題 行 動 が 起 こ ら な い か と 不 安 の 声 が 上 が り 、 警 察 か ら も 問 い 合 わ せ が あ っ た と い う 。 そ こ で 、 ち ょ う ど 『Pokémon GO』 プ レ イ ヤ ー が た む ろ す る こ と で 公 園 が ゴ ミ だ ら け に な っ た と い う ニ ュ ー ス を 見 た 「 北 海 道 江 別 ポ ケ モ ン go サ ー ク ル 」 メ ン バ ー は 、「 FevGames」 の 公 式 ル ー ル に は 無 い 追 加 の ゲ ー ム を 実 施 す る こ と に し た 。『Pokémon GO』は 、赤 、青 、黄 の チ ー ム に 分 か れ て い る の で 、 そ れ ぞ れ に イ ベ ン ト 特 製 の ゴ ミ 袋 を 配 布 し 、 回 収 し た ゴ ミ の 数 を 競 う と い う も の だ っ た( 図4)。参 加 者 は 、イ ベ ン ト を 楽 し み な が ら も 街 を き れ い に す る 役 割 を 担 っ た 。 地 域 の 人 々 の 目 に も 「 な ん だ か わ か

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ゴミの数を競うというものだった(図4)。参加者は、イベントを楽しみなが らも街をきれいにする役割を担った。地域の人々の目にも「なんだかわから ないゲームをやっている迷惑な人たち」ではなく、ゴミ拾いをしてくれる人 たちと映り、トラブルを避けることができる。コンテンツツーリズムでも課 題になる地域住民と来訪者の価値観の齟齬を融和させる工夫だ。 TSは好評のうちに終了したが、FSのように継続することはなかった。FS では行われているイベント終了後の「FevGames」によるポイント集計や、ど この地域が勝利したというような結果発表もなく、2017年8月15日現在、江 別市はTSの日本初で唯一の参加地域となっている。このことについて、三 浦氏は、「FevGames」を通じてNianticにデータを提供しただけで終わったの かもしれない、という感想を述べた。確かに、その後、Nianticは規模の大き な公式イベントを実施するなど、収益化可能な方向性を模索しているように も見える。そうすると、グローバル企業が、データ取りのために一地域を実 験場として用いたという「グローバル対ローカル」の二項対立図式を当てはめ ることもできよう。とはいえ、そうした単純な図式に回収されるわけでも無 いことは強調しておきたい。三浦氏は、今回イベントを実施したことで、こ れまで江別という名前を知りもしなかった人々に名前が知られたことや、問 課 題 に な る 地 域 住 民 と 来 訪 者 の 価 値 観 の 齟 齬 を 融 和 さ せ る 工 夫 だ 。 TS は 好 評 の う ち に 終 了 し た が 、 FS の よ う に 継 続 す る こ と は な か っ た 。 F S で は 行 わ れ て い る イ ベ ン ト 終 了 後 の 「 FevGa me s」 に よ る ポ イ ン ト 集 計 や 、 ど こ の 地 域 が 勝 利 し た と い う よ う な 結 果 発 表 も な く 、 2 01 7 年 8 月 15 日 現 在 、 江 別 市 は T S の 日 本 初 で 唯 一 の 参 加 地 域 と な っ て い る 。こ の こ と に つ い て 、三 浦 氏 は 、「 F evGames 」を 通 じ て N iantic に デ ー タ を 提 供 し た だ け で 終 わ っ た の か も し れ な い 、と い う 感 想 を 述 べ た 。確 か に 、そ の 後 、Nian ti c は 、規 模 の 大 き な 公 式 イ ベ ン ト を 実 施 す る な ど 、 収 益 化 可 能 な 形 を 模 索 し て い る よ う に も 見 え る 。 そ う す る と 、 グ ロ ー バ ル 企 業 が 、 デ ー タ 取 り の た め に 一 地 域 を 実 験 場 と し て 用 い た と い う 「 グ ロ ー バ ル 対 ロ ー カ ル 」 の 二 項 対 立 図 式 を 当 て は め る こ と も で き る 。 と は い え 、 そ う し た 単 純 な 図 式 に 回 収 さ れ る わ け で も 無 い こ と は 強 調 し て お き た い 。 三 浦 氏 は 、 今 回 イ ベ ン ト を 実 施 し た こ と で 、 こ れ ま で 江 別 と い う 名 前 を 知 り も し な か っ た 人 々 に 名 前 が 知 ら れ た こ と や 、 問 い 合 わ せ の あ っ た 警 察 署 の 担 当 者 と 顔 見 知 り に な る な ど 、 そ の 後 、 地 域 イ ベ ン ト を 実 施 す る 上 で の 経 験 値 を 積 む こ と が で き 、 得 る も の も 多 か っ た と い う 。 図 4 江 別 駅 前 の レ ン ガ 造 り の 噴 水 に 集 ま っ た イ ベ ン ト 参 加 者 ( 左 )、 配 布 さ れ た ビ ニ ー ル 袋 と 拾 わ れ た ゴ ミ ( 右 ) ( 写 真 提 供 : 北 海 道 江 別 ポ ケ モ ン go サ ー ク ル ) 図4.江別駅前のレンガ造りの噴水に集まったイベント参加者(左)、 配布されたビニール袋と拾われたゴミ(右)       (写真提供:北海道江別ポケモンgoサークル)     

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い合わせのあった警察署の担当者と顔見知りになるなど、その後、地域イベ ントを実施する上での経験値を積むことができ、得るものも多かったという。 コンテンツツーリズムにおいて、その課題とされるものはいくつかある。 経済効果や持続可能性などだが、いずれの問題も、コンテンツという外部資 源への依存によって引き起こされると考えられているものだ。とはいえ、そ の一方で、今回見てきたように、現実空間で起こる出来事の中には、そうし た図式に回収しきれないものも確かにあるのだ。 9.新たな枠組みの提案 以上のことから、『Pokémon GO』は、虚構空間を携帯した「日常」を現出さ せていると言うことができるだろう。現実の場所が意味づけられ、虚構空間 に出現することによって、虚構空間と現実空間が紐づき、ユーザーはゲーム の世界を日常に取り入れることになる。『Pokémon GO』は、日常と非日常の 境目もあやふやにしていくのだ。本論文で明らかになったことをふまえて、 コ ン テ ン ツ ツ ー リ ズ ム に お い て も 、そ の 課 題 と さ れ る も の は い く つ か あ る 。 経 済 効 果 や 持 続 可 能 性 な ど だ が 、 い ず れ の 問 題 も 、 コ ン テ ン ツ と い う 外 部 資 源 へ の 依 存 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る と 考 え ら れ て い る も の だ 。 と は い え 、 そ の 一 方 で 、 今 回 見 て き た よ う に 、 現 実 空 間 で 起 こ る 出 来 事 の 中 に は 、 そ う し た 図 式 に 回 収 し き れ な い も の も 確 か に あ る の だ 。 9 . 新 た な 枠 組 み の 提 案 以 上 の こ と か ら 、『 Pokémon GO 』は 、虚 構 空 間 を 携 帯 し た 「 日 常 」を 現 出 さ せ て い る と 言 う こ と が で き る だ ろ う 。 現 実 の 場 所 が 意 味 づ け ら れ 、 虚 構 空 間 に 出 現 さ せ る こ と に よ っ て 、 虚 構 空 間 と 現 実 空 間 が 紐 づ き 、 ユ ー ザ ー は ゲ ー ム の 世 界 を 日 常 に 取 り 入 れ る こ と に な る 。『 Pok émon GO 』は 、日 常 と 非 日 常 の 境 目 も あ や ふ や に し て い く の だ 。 本 論 文 で 明 ら か に な っ た こ と を ふ ま え て 、 AR や VR、MR などの技 術 で実 現 する観 光 体 験 も 含 めて扱 うことができる視 座 を示 した い( 図 5)。 図5.観光における観光主体と空間、移動の関係性

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ARやVR、MRなどの技術で実現する観光体験も含めて扱うことができる視 座を示したい(図5)。 観光主体は、現実空間での物理的移動とともに、情報空間や虚構空間への 精神的移動を行い、日常空間に帰ってくる。映画やマンガ、小説の体験、そ して、VRコンテンツなどは、物理的移動はほとんどせずに、精神的な移動 感覚のみを生じさせる。これが、MRになると、現実世界に、情報や虚構内 存在を、それと分からないように組み込む。 こうした技術の登場とともに、日常空間と非日常空間は様々な意味で、そ の境界線がはっきりしなくなってきている。観光は、日常的に観光主体が現 実空間、情報空間、虚構空間の真ん中に位置して小さな移動を繰り返す中で、 はっきりしない日常と非日常の境界を、時折大きく越えたり戻ってきたりす る動的な運動であるとみることができる(図5)。そうすると、観光は、「そ の人が日常空間(と考えている場所)から物理的、あるいは、精神的に移動し て、戻ってくる行動」とひとまず広い定義をすることができるのではないだ ろうか。こうした定義で世の中の様々な現象を見てみると、思っても見なかっ たものが観光的なものとして、その姿を現すかもしれない。 1. 観光学の概説書である『観光学キーワード』(山下 2011: 6-7)や『観光学ガイド ブック』(大橋ら 2014: 2-7)に、こうした状況がよくまとまっている。 2. 観光に関する国連専門機関。本部はスペインのマドリードにある。 3. 平成21年12月に策定された、観光統計の整備のために調査を実施する際の 共通基準を示した文書。本書で参考にしたのは、平成25年3月改訂版。 https://www.mlit.go.jp/common/000995211.pdf (downloaded at 2017.8.5) 4. 「情報がなんらかの形で創造・編集されたものであり、それ自体を体験するこ とで楽しさを得られうる情報内容」を意味し、具体的には小説、マンガ、写真、 映画、音楽、演劇、アニメ、ゲーム等のことを指す。(岡本・遠藤 2016: 4-6) 5. 岡本(2016)では、その他に、アイドル、声優、ダンスを踊るアニメキャラ クター、初音ミクの「ミクパ」、ゲーム『ラブライブ』『サマーレッスン』『艦隊 これくしょん』『刀剣乱舞』などと並び、たま駅長、ツチノコなどについても 取り上げた。 6. 『ポケモンGO』の機能やビジネスモデル、本作にまつわる社会事象について

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は、『なぜ人々はポケモンGOに熱中するのか?』(鈴屋・井原 2016)や『ポケ モンGOは終わらない』(西田 2016)などに詳しい。 7. テレビを聞く、というのはどういうことかというと、筆者の自家用車のカー ナビではテレビを見ることができるのだが、運転中に画面を見つめるのは危 険なので、サイドブレーキを引かなければ画面が映らないようになっている。 そのため、走行しながらテレビ番組を音だけで聞いていたというわけだ。 8. ジョン・フィスクが提唱した概念。テレビ番組そのものを第一次テクストと し、それに関して他の広告媒体で発信される情報を第二次テクストと名付け た(フィスク 1996)。 9. その後、2017年7月27日に『Ingress』もプレイを始めた。 10. ARアプリの「セカイカメラ」(頓智ドット株式会社)上で動作するソフトで、 株式会社アンビションによって展開。拡張現実オンラインRPGと銘打たれて いた。2010年10月には、岐阜県庁の協力を受け、「高山勇者伝説」というゲー ム内と現実空間双方でのイベント展開も実施した。2011年12月15日にサー ビスを停止している。 11. こうした「ゾンビ」の比喩的な言葉の使用については、『ゾンビ学』に詳述した (岡本 2017)。 12. 医学的にこの両面性について言及した論考に、鷲見(2017)がある。 13. このプロセスについては、岡本(2012)や岡本(2013)に詳しいので、そちら を参照のこと。 14. うつ病の症状は人によってかなり異なる。そのため、ここに書いたのは筆者 の場合であり、一般化可能なものではないことは断っておく。 15. 『ポケットモンスター』については、『任天堂公式ガイドブック ポケットモン スター 赤・緑・青 全対応 改訂版』(糸井重里 1997)『ポケットモンスター赤 緑青 必勝攻略法』(ファイティングスタジオ 1997)などの攻略本を参照した。 16. とはいえ、これを持って、ゲームが半永久的に続くとは言えない。『セカイユ ウシャ』がすでに遊べなくなっていることを考えても、自明である。 17. コンバット・パワーの略。ポケモンの強さを表す数値。 18. こうしたプレイ体験は、ネットゲームやMMORPGでも珍しくない。『モン スターハンター』などは、協力してNPC(ノンプレイヤーキャラクター:Non Player Character)のモンスターを狩る。 19. 「天橋立三所詣GOワールドマップの配布開始について」 http://www.amanohashidate.jp/blog/sansyo-go/(downloaded at 2017.8.5) 20. 『Pokémon GO』「2017年8月4日 株式会社ポケモン主催「ピカチュウだけじゃ ない ピカチュウ大量発生チュウ!」のイベントでお会いしましょう!」 http://pokemongolive.com/ja/post/yokohamapark(downloaded at 2017.8.5) 21. 2017年8月4日現在 22. 本件に関するインタビューは2017年7月30日に実施した。インタビュー対

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象者は、「北海道江別ポケモンgoサークル」代表の三浦嘉大氏、および、江別 市議会議員の堀直人氏である。

23. 「Fev Games | AR Gaming News」 https://fevgames.net/ (downloaded at 2017.8.5)

24. 「Introducing: Pokémon GO TS(Third Saturday)│Fev Games」

https://fevgames.net/pokemon-go-third-saturday/(downloaded at 2017.8.5) 25. https://plus.google.com/+HinataKino/posts/eE4Ljgnr6Ay (downloaded at 2017.8.5) 参考文献 エリオット・アンソニー/アーリ・ジョン(著)、遠藤英樹(監訳)(2016)『モバ イル・ライブス─「移動」が社会を変える』 ミネルヴァ書房 フィスク・ジョン(著)、伊藤守・藤田真文・常木瑛生ら(訳)(1996)『テレビジョ ンカルチャー─ポピュラー文化の政治学』 梓出版社 ユール・イェスパー(著)、松永伸司(訳)(2016)『ハーフリアル─ 虚実のあい だのビデオゲーム』 ニューゲームズオーダー 糸井重里(監修)渡辺隆司・高山邦雄(編集)(1997)『任天堂公式ガイドブック ポケットモンスター 赤・緑・青 全対応 改訂版』 小学館 大橋昭一・橋本和也・遠藤英樹・神田孝治(編)(2014)『観光学ガイドブック─ 新しい知的領野への旅立ち』 ナカニシヤ出版 岡田尊司(2010)『うつと気分障害』 幻冬舎 岡本健(2012)『情報社会における旅行者の特徴に関する観光社会学的研究』 北 海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士学位論文 岡本健(2013)『n次創作観光─ アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光 社会学の可能性』 北海道冒険芸術出版 岡本健(監修・編著)(2014)『マンガ・アニメで人気の「聖地」をめぐる神社巡礼』 エクスナレッジ 岡本健(2015a)「コンテンツツーリズムの現場からみる空間概念─現実・情報・ 虚構空間をめぐる観光旅行のあり方」『地理』、60(6)、pp.20-28.古今書院 岡本健(編著)(2015b)『コンテンツツーリズム研究─ 情報社会の観光行動と地 域振興』 福村出版 岡本健(2016)「あいどるたちのいるところ─アイドルと空間・場所・移動」『ユ リイカ』 2016年9月臨時増刊号、48(12)、通巻686、pp.243-250、青土社 岡本健(2017)『ゾンビ学』 人文書院 岡本健・遠藤英樹(編)(2016)『メディア・コンテンツ論』 ナカニシヤ出版 小山友介(2016)『日本デジタルゲーム産業史─ファミコン以前からスマホゲー

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ムまで』 人文書院 島田裕巳(2016)『スマホが神になる─ 宗教を圧倒する「情報革命」の力』 KADOKAWA(角川新書) 鈴屋二代目タビー・井原渉(2016)『なぜ人々はポケモンGOに熱中するのか?』 徳間書店 鷲見聡(2017)「インターネット依存とインターネットゲーム障害─医学的概念 としての変遷と課題」『小児科診療』 80(4)、pp.513-517 舘暲・佐藤誠・廣瀬通孝(監修)、日本バーチャルリアリティ学会(編)(2011)『バー チャルリアリティ学』 日本バーチャルリアリティ学会 デジタルゲームの教科書制作委員会(2010)『デジタルゲームの教科書─知って おくべきゲーム業界最新トレンド』 ソフトバンク クリエイティブ 徳岡正肇(編著)(2015)『ゲームの今─ ゲーム業界を見通す18のキーワード』 SBクリエイティブ 中川大地(2016)『現代ゲーム全史─文明の遊戯史観から』 早川書房 中沢新一(2004)『ポケットの中の野生─ポケモンと子ども』 新潮社(新潮文庫) 中沢新一(2016)『ポケモンの神話学─新版 ポケットの中の野生』KADOKAWA (角川新書) 西田宗千佳(2016)『ポケモンGOは終わらない』 朝日新聞出版(朝日新書) 日経BP社 ゲーム産業取材班(2016)『日本ゲーム産業史─ゲームソフトの巨人 たち』 日経BPマーケティング ファイティングスタジオ(1997)『ポケットモンスター赤緑青 必勝攻略法』 ゲー ムボーイ完璧攻略シリーズ34、双葉社 増川宏一(2012)『日本遊戯史─古代から現代までの遊びと社会』 平凡社 松井悠(2011)『デジタルゲームの技術─開発キーパーソンが語るゲーム産業の 未来』 ソフトバンク クリエイティブ 松本健太郎(2013)「スポーツゲームの組成─それは現実の何を模倣して成立す るのか」日本記号学会(編)『ゲーム化する世界─ コンピュータゲームの記号 論』 新曜社、pp.71-87. 山下晋司(編)(2011)『観光学キーワード』 有斐閣

Niantic, Inc.(監修)、岡安学(著)(2016)『INGRESSを一生遊ぶ!』 宝島社 I/O編集部(編)(2015)『「VR」「AR」技術最前線』 工学社

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