• 検索結果がありません。

サービス指向プラットフォーム

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "サービス指向プラットフォーム"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

サービス指向プラットフォーム

Service Oriented Platform

あ ら ま し 富士通では,今後のビジネスの拡大が予想されるクラウドサービスを提供する基盤とな るサービス指向プラットフォーム(SOP)の開発を進めている。SOPは,サーバ,スト レージ,ネットワーク,ソフトウェアを統合したクラウド時代のサービスに最適なプラット フォームであり,仮想化技術と運用技術を融合している点に特徴がある。 本稿では,SOPの設計目標と,それを実現するためのアーキテクチャ面の考え方として, サーバ視点でアプリケーションシステムの自動構築を可能とするサーバセントリック仮想化 (ScV)と,サービスを停止せずにサービス基盤の拡張や更新を行うことを可能とする進化 指向アーキテクチャ(EoA)について論じる。さらに,SOPを構築する上でキーとなる要 素技術として,仮想システムのパッケージ化技術,ダイナミックリソース管理技術,および 運用管理技術について述べる。 Abstract

Fujitsu is developing the service-oriented platform (SOP) which is applied as an infrastructure for emerging Cloud services. SOP is a huge complex of servers, storage systems, network and software and is optimized for Cloud services. SOP features integration of various virtualization technologies and system management technologies. This paper describes the design goal of SOP and the concept behind its architecture that is to be used to achieve those goals. This includes its server-centric virtualization (ScV) that enables self-serve and automatic deployment of user application systems, and evolution-oriented architecture (EoA) that enables extension and update of data center infrastructure without service suspension. The key technologies such as virtual system packages, dynamic resource management, and operation management are also explained.

日比賢伸 (ひび よしのぶ) サービス指向プラット フォーム開発戦略室 所属 現 在 ,SOP の 開 発 に 従事。 吉田 浩 (よしだ ひろし) サービス指向プラット フォーム開発戦略室 所属 現 在 ,SOP の 開 発 に 従事。 武 理一郎 (たけ りいちろう) サービス指向プラット フォーム開発戦略室 所属 現 在 ,SOP の 開 発 に 従事。 岸本光弘 (きしもと みつひろ) クラウドコンピューティ ング研究センター 所属 現在,クラウド関連技術 の研究に従事。

(2)

サービス指向プラットフォーム

ま え が き 今後のビジネスの拡大が予想されるクラウドサー ビスを提供するために,データセンター内に構築す るICT プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し て , 富 士 通 で は , 「サービス指向プラットフォーム(SOP:Service

Oriented Platform)」の開発を進めている。(1) SOP

は,仮想化とall IP化を基本に,サーバ,ストレー ジ,ネットワーク,ソフトウェアを組み合わせて構 築されたクラウドサービス基盤である。その実現に 当たっては,以下のような方針で臨んでいる。 (1) 富士通が蓄積してきたサーバ,ストレージ, ソフトウェアなどのコンピューティング技術と ネットワーク技術を駆使し,さらにデータセン ターにおけるホスティングなどのサービスで 培った運用管理技術やノウハウを注入する。 (2) プライベートクラウド向けに開発・提供され ているICT基盤製品を中核に採用する。これに よって,開発の効率化だけでなく,お客様に とって,パブリッククラウド,バーチャルプラ イベートクラウド,プライベートクラウドの相 互利用が容易となり,業務の特性に合わせてハ イブリッドなクラウド形態の利用が可能となる。 本稿では,SOPの開発に当たって設定した設計 目標とアーキテクチャの考え方を述べ,さらにその 実現のキーとなる要素技術について説明する。 SOPの設計目標 富士通のクラウドサービスの基盤として,SOP では,つぎの五つの設計目標を設定している。(2) (1) アプリケーション中心主義 通常,業務システムを構築する際には,サーバ, ストレージ,ネットワークの調達・設置・設定・運 用や,データベース,利用者認証機構の用意など, アプリケーションロジックの開発以外に多くの作業 が必要となる。SOPでは,アプリケーションロ ジック以外の部分をサービスとして提供し,開発者 の負担を軽くすることを目標としている。 (2) ハンズオン クラウドに対する利用者の不安要因として,自身 のシステムや業務がクラウドの中でどういう状況に あるかが見えないということが言われる。SOPで は,性能の可視化を行うダッシュボードを提供し, 利用者は,これを活用することによって,業務シス テムのレスポンスやスループットをリアルタイムに 監視できる。また,必要な性能が得られていないこ とが判明すれば,ICT資源の調達を迅速かつ最適の コストで行えるというクラウドコンピューティング の特性を生かして,サーバを増設することもできる。 このような可視化とコントロール性の提供を「ハン ズオン(手放しにせず,手綱を握る)」と呼ぶ。 (3) 全体をカバーするセキュリティ クラウドコンピューティングに対する利用者のも う一つの不安要因として,セキュリティが挙げられ る。SOPでは,ネットワーク,OS,ストレージ, 外部サービス連携まで含めた全体をカバーするセ キュリティ技術の採用によって,この懸念を軽減し ていく。 例えば,SOPは,インターネット経由のパブ リックサービスだけではなく,利用者企業のイント ラネットに接続するバーチャルプライベートクラウ ドサービスも可能な構成をとっている。さらに,富 士通がFENICSサービスで培ってきたネットワーク 保護技術や認証技術の蓄積を適用する。また,複数 の利用者のシステムが物理的な資源を共有すること から,全体の基盤となる仮想マシン(VM:Virtual Machine)に,ゲスト間およびゲストとホスト間を 確実に分離するセキュアプラットフォーム機構を導 入している。 (4) グリーン データセンターに大規模にICT資源を集約するク ラウドサービスでは,消費電力の低減が重要となる。 SOPは,ハードウェア自体の省電力化に加え,全 面仮想化によるハードウェア利用率向上によって, これを実現する。 一般に業務サーバのCPU利用率は20%以下とも 言われるが,SOPでは,複数のVMを一つの物理 サーバに集約し,さらに,物理サーバに空きができ た場合にもVMの無停止移動(マイグレーション機 能)を行って集約度を高めることによって,物理 サーバの利用率を向上させる。また,ストレージに ついても,冗長データの除去技術や,未使用領域に は実ディスクを割り当てないシンプロビジョニング 技術などにより,利用率を向上させている。 (5) オープン性 今後の企業の業務ICTシステムは,プライベート

(3)

サービス指向プラットフォーム

クラウドや複数のプロバイダから提供されるクラウ ドサービスを最適に組み合わせて実現されるように なる。この場合,アプリケーションへの投資保護の 観点からは,クラウドの相互接続性が重要となる。 現 在 ,DMTF ( Distributed Management Task Force)やOGF(Open Grid Forum)など,複数 の標準化団体でクラウド基盤のAPI(Application Program Interface)の標準化作業が進んでいる。 SOPでは,このような標準化の場への参画・提案 をするとともに,その標準仕様を実装し,アプリ ケーションのポータビリティとクラウド間の連携性 を向上させ,利用者の特定のクラウドへのロックイ ンの懸念を解消していく。 SOPのアーキテクチャ SOPによって実現されるクラウドサービスの基 本は,IaaS(Infrastructure as a Service)である。 サービス利用者は,データセンター内でサービス提 供者(富士通)によって運用されるSOPから, サーバ,ストレージ,ネットワークを,オンデマン ドにセルフサービスで配備して自分のアプリケー ションシステムを構築し,必要なミドルウェアやア プリケーション,パッケージを搭載して業務システ ムとして運用することができる。これらの機能を 図-1に示す。 このようなサービスを実現するためには,データ センター内に多数のサーバ群,ネットワーク機器群, ストレージ群を設置して仮想資源プールを構築する とともに,これらの物理資源の運用管理を自動化し, その上に多数の利用者ごとのアプリケーションシス テムを動的に配備(仮想資源プールから必要な資源 を割付け)することが必要となる。さらに,セン ター運用者および利用者の双方に対してそれぞれの 運用管理環境を見せる仕組みや,サービスであるこ とから,利用者の管理や課金といった仕組みも必要 となる。これらの要件を実現するSOPの構造の概 要を図-2に示す。SOPは,基盤となるハードウェア 資源と,それの上でIaaSを実現する管理ソフト ウェアによって構成される。ハードウェア資源は, 大量のサーバとストレージをIPネットワークで均 質に接続したものである。管理ソフトウェアは, ハードウェア資源の仮想化と,仮想資源を連携させ テンプレートで指定されたシステムモデルに合わせ て配備する管理機構を中心に,運用管理やサービス 管理を実現するコンポーネントを含む。 このようなSOPのアーキテクチャの基本となる のは,「サーバセントリック仮想化」と「進化指向 アーキテクチャ」の二つの考え方である。 ● サ ー バ セ ン ト リ ッ ク 仮 想 化 (ScV : Server Centric Virtualization) アプリケーション中心主義,オンデマンド,セル フサービスを実現するために,SOPでは,サーバ, ストレージ,ネットワークのすべてを仮想化して, 利用者に見える資源を実際のハードウェアから分離 するとともに(全面仮想化),これらをサーバ視点 のセルフサービスで利用可能とする。利用者は, サーバ台数やサーバの論理的な接続関係,必要なス トレージ量だけを意識すればよく,これらを実現す サーバ群 ネットワーク 機器群 ストレージ群 仮想資源 サービス群 ネットワーク サービス サーバ サービス データ サービス 利用者ごとのアプリケーション システム 利用者運用管理環境 開発環境から サービスの組合せを指示 (アプリケーション システムごと) 仮想資源の最適配置と サービスレベル管理 物理資源の運用管理 データセンター運用管理環境 アプリケーションシステムを実現 するために仮想資源プールから 必要な資源を割付け 図-1 SOPによるIaaS Fig.1-IaaS provided by SOP.

(4)

サービス指向プラットフォーム

利用者ビュー プレゼンテーション 仮想化ソフトウェア 運用管理 利用者管理/課金 VSYS管理 ダイナミックリソース管理 クラウドAPI 管理ソフトウェア アプリケーションシステム 配備 テンプレート インター ネット ハードウェア資源 VM 仮想ネットワーク 仮想ストレージ コア スイッチ VM VM VM VM VM VM ラック サーバ PRIMERGY スイッチ スイッチ FE N IC S コア スイッチ .. . .. . IPCOM .. . ... ... .. . .. . スイッチ スイッチ IPCOM スイッチ スイッチ 仮想スイッチ 仮想スイッチ ストレージ Eternus 図-2 SOPの構造 Fig.2-Structure of SOP. るためのネットワーク設定やストレージ設定を意識 する必要はない。これが,ScVの考え方である。 各物理サーバには,ハイパーバイザ(VMを実現 するための制御プログラム)としてXenが搭載され ており,その上でゲストVM群が動作する。ScVを 実現するために,仮想資源の操作を物理サーバ上の 仮想化ソフトウェアに一元化する。一般的な仮想化 ソフトウェアの用途は物理サーバの仮想化であるが, SOPにおける仮想化ソフトウェアはネットワーク とストレージの仮想化をも担う。すなわち,サーバ, ネットワーク,ストレージに別々の仮想化機能を用 意して,利用者がそれらを組み合わせるのではなく, SOPがサーバ,ネットワーク,ストレージを含め た仮想化の全体を一元管理する。例えば,ストレー ジの仮想化は,Xenの管理OS上にボリュームマ ネージャを搭載して実現される。また,サーバマイ グレーションと連動してネットワークのマイグレー ションを実現する。 ネットワーク仮想化(図-3)は,エンタープライ ズシステムでセキュリティ確保のために標準的に使 われるサブネット構成をオンデマンドで構築する機 能を提供する。これは,VM上のソフトウェアとし て動作するファイアウォールやサーバロードバラン サ(SLB)などのネットワークサーバ技術(富士 通のネットワークサーバIPCOMで蓄積した技術) と,これらと連動して動的にネットワーク側を制御 する管理技術で実現する。また,タグVLAN技術な どを応用してオーバレイネットワークを構成し, サービス利用者ごとに独立したプライベートIPア ドレス空間を割り当てることができるため,企業シ ステムと親和性の高いバーチャルプライベートクラ ウドを迅速かつ柔軟に構築することができる。 なお,SOP基盤の物理資源を相互接続するネッ トワークは,ストレージ機器向けのものも含め,す べてIPネットワーク(Ethernet)で実現されてい る。これにより,物理ネットワーク機器の種類およ びケーブル数を絞り込み,ネットワークの構築,設 定,管理のコストを大幅に削減することが可能に なる。 ● 進 化 指 向 ア ー キ テ ク チ ャ (EoA : Evolution oriented Architecture) クラウドサービス向けプラットフォームでは,随

(5)

サービス指向プラットフォーム

時,更新・拡張・改良が加えられていく中で,多数 の利用者に継続性のあるサービスを提供していくこ とが必要とされる。プラットフォームのスケーラビ リティやサービスメニューの拡大を実現するために 進化し続け,継続性を持ってサービスを提供し続け る た め の 仕 組 み をEoA ( Evolution oriented Architecture:進化指向アーキテクチャ)と呼ぶ。 EoAは,アイランド構成による成長性と,運用ノウ ハウ蓄積フレームワークによって実現される。 (1) アイランド構成 均一性の高い構成をスケーラブルに展開すること により運用コストを下げることは,クラウドコン ピューティング向けプラットフォームの基本である。 しかし,初期にはこの目標が達成できたとしても, 数年が経てば,新しいハードウェアやソフトウェア の追加,既存のハードウェアやソフトウェアへのア ドホックな修正適用などで均一性は崩れ,運用コス トが増大する危険がある。 長期間にわたって,システム全体が複雑化するこ とを回避していくために,SOPでは,アイランド と呼ぶ構成単位(物理サーバ数で100台から1000台 程度)を並べてプラットフォームを構築する。各ア イランド内のハードウェア素材,ソフトウェア素材 は均質として複雑度を小さくする一方で,異なるア イランド間では素材の世代が異なることを許容し, 新しい素材の導入を可能とする(図-4)。 アイランドは新陳代謝の単位でもあり,新しい資 源の追加や古い資源の廃棄はアイランド単位で行う。 外部ネットワークへ :共有する物理的なネットワーク :仮想ネットワーク (VLANで分離) VM VM FW SW 仮想ネットワーク R VM VM 仮想ネットワーク FW SW SLB

・・・

オンデマンドで仮想ネット ワークを提供。DMZ+イン トラネットなどのサブネット 構成も可能 VMは物理的なネットワーク 機器,構成を意識せずに ネットワークを利用できる ネットワークサーバ機能もソ フトウェア化(FW,SLB) FW :ファイアウォール SLB :サーバロードバランサ SW :スイッチ R :ルータ 図-3 ScVにおけるネットワーク仮想化 Fig.3-Network virtualization in ScV. データセンター

上位ス イッチ ラ ッ ク ラ ク ラ ッ ク ラ ッ ク アイランドごとに異なるハードウェア/ソフトウェア世代 アイランド アイランド アイランド内:均質な構成 図-4 アイランド構成 Fig.4-Island structure.

(6)

サービス指向プラットフォーム

アイランド構成要素に対する修正(例えばソフト ウェアに対するパッチ適用)は,同一世代のアイラ ンドに対しては一括して行うことで,構成要素の組 合せの多様性をアイランドの世代数程度に抑え込む。 また,どのアイランドも観測と操作のための内部イ ンタフェースを持っており,運用管理者はこのイン タフェースを通じて複数世代のアイランド群を統合 管理することができる。 (2) 運用ノウハウ蓄積のフレームワーク 運用ノウハウの蓄積は,クラウドサービス提供者 にとって大きな財産となる。ノウハウが蓄積されて 運用の自動化が進展することで,サービスコストを 低減できる。 運用ノウハウの蓄積と活用のために,SOPでは, 経験を形式知化するための言語と,その言語で書か れた運用ポリシーの実行エンジンを実現していく。 ここで重要となるのは,アイランド構造によって管 理対象の構成が絞り込まれていることであり,自動 化とノウハウ蓄積の進展を加速できる。 仮想システムのパッケージ化 SOPでは,利用者に対して,よく使われる典型 的なアプリケーションシステムを提供することで, アプリケーション中心主義を進めている。提供する アプリケーションシステムをVSYSパッケージと呼 び,仮想化時代のソフトウェアの流通単位となるこ とを目指している(図-5)。VSYSパッケージを用 いれば,個別のソフトウェアをVMにインストール する必要がなくなり,ソフトウェアスタックの整合 性が事前に確認され,さらに個々の用途に向けた チューニングが完了した状態でアプリケーションシ ステムを提供することが可能になる。 VSYSパッケージは仮想マシンを複数含むことが でき,配備に必要な基盤要件,設定パラメータ,ラ イセンス情報などを記述したXML文書(VSYS記 述ファイルと呼ぶ)と,ソフトウェアスタックを事 前にインストールしたディスクイメージファイルな どから構成されている。ディスクイメージファイル で は , ク ラ ウ ド 間 の 相 互 接 続 性 の 観 点 か ら , DMTFのOpen Virtualization Format(OVF)(3)

採用する。利用者(サービス提供者)は,一つの同 一VSYSパッケージから,複数のアプリケーション システムを配備し起動することができる。 複数サーバから構成されたシステムに対する効率 的で整合性のあるソフトウェア配備は,分散システ ムの基本運用技術として,OVF以前から開発およ び標準化がされてきた。代表的な標準仕様として, OGFのACS(Application Contents Service)(4)

CDDLM(Configuration Description,Deployment and Lifecycle Management )(5)OASIS の SDD

VSYSパッケージ 仮想資源 アプリケーションシステム 仮想資源環境 ユーザA用 ユーザB用 配備 配備 仮想資源 【VSYSパッケージの要素】 ディスクイメージ ・インストール済の ソフトウェアスタック VSYS記述 ・アプリケーションシステムの 配備要件 ・設定パラメータ ・ライセンス情報 【VSYSパッケージの要素】 ディスクイメージ ・インストール済の ソフトウェアスタック VSYS記述 ・アプリケーションシステムの 配備要件 ・設定パラメータ ・ライセンス情報 OS ミドルウェア アプリケーション ディスクイメージ VSYS記述 OS ミドルウェア アプリケーション OS ミドルウェア アプリケーション 【仮想資源】 VM(群) 仮想ストレージ 仮想ネットワーク 【仮想資源】 VM(群) 仮想ストレージ 仮想ネットワーク アプリケーションシステム 図-5 VSYSパッケージ Fig.5-VSYS package.

(7)

サービス指向プラットフォーム

(Solution Deployment Descriptor)(6)などがある。

近年,仮想化技術が成熟化して一般に普及したこと により,これらの技術が実用レベルに達したと言 える。 利用者(開発者)がアプリケーションシステムを 構築するとき,その全体はサービスビルダによって デザインされる。利用者は全くの白紙状態から新し いシステムを構築することもできるが,VSYSパッ ケージをベースとして開発を効率化することも可能 である。ScVを前提として,サービスビルダを使っ てサーバをどう組み合わせるかという視点からサー ビスの構築を行うことで,ファイアウォールの設定 やアプリケーションサーバとデータベースの接続な どについて詳細に踏み込まなくとも,Web 3階層シ ステムのような高度なシステムを簡単に構築できる。 なお,既存のVSYSパッケージを用いる場合には, データのバックアップや障害への対処などに関する 運用手順と,操作ログの取得やデータ暗号化などに 関するセキュリティポリシーが同時に提供されるた め,システムの運用や監査に関する手間の削減にも 貢献できる。 ダイナミックリソース管理 SOPでは,アプリケーションシステムを構成す る複数のVMを自動配備し,仮想ネットワークでそ れらVM間を接続する。利用者ごとのアプリケー ションシステムの設計図は,前述のVSYS記述ファ イルに記述され,利用者がダッシュボードからアプ リケーションの配備・撤収の操作を指示すると, SOPのダイナミックリソース管理がVSYS記述に 従って必要な処理を自動実行する。これにより,ア プリケーションシステム配備のセルフサービスを実 現する。このようなダイナミックリソース管理に対 しては,以下のような要件がある。 (1) 複雑な初期設定なしで,仮想資源を使いたい ときにすぐ使える迅速性 (2) 急激な業務負荷の変動や環境変化に対応でき る柔軟性 (3) ハードウェアの故障や更改に伴う資源の再配 置や再設定を自動化する効率性 SOPでは,エンタープライズ市場で実績のある サ ー バ 仮 想 化 管 理 ソ フ ト ウ ェ アServerView Resource Coordinator VE(7)に加えて,ダイナミッ クリソース管理ソフトウェアServerView Resource Orchestrator(8)の開発を進め,それに大規模クラウ ドサービス向けの機能を追加して,管理ソフトウェ アに採用した。 ダイナミックリソース管理では,つぎの機能を実 現している。 (1) 仮想資源プール機能 仮想資源を共用資源として管理し,利用者からの 配備要求に応じて必要な資源を迅速に払い出す。 (2) 資源オーケストレーション機能 サーバ,ネットワーク,ストレージの関係を維 持・管理することにより,業務の特性や変化に合わ せて柔軟にアプリケーションシステムを配備する。 (3) 資源自動最適化機能 サーバなどの機器故障や更改に対して,代替とな る仮想プラットフォームを配備し,自動的にフェー ルオーバもしくはマイグレーションを行う。 なお,VMを物理サーバに配置する際には,複数 の方針(ポリシー)が考えられる。SOPでは, サービス提供者(データセンター管理者)が指定し たポリシーに従って,動的に適切な物理サーバへの 配置を行う。代表的な配置ポリシーとして,省電力 ポリシーと高可用ポリシーがある。省電力ポリシー は,配置するVMをなるべく少数の物理サーバに詰 め込んで配置することで,空きの物理サーバを作り, 空き物理サーバの電源スイッチをオフにすることで, データセンター全体の電力消費量を減少させるもの である。一方,高可用ポリシーは,複数のVMをな るべく異なった物理サーバに分散配置することで, ある物理サーバで故障が発生しても,影響するVM の数を減らすというものである。 運用管理環境 SOPは,以下の2種類の運用管理環境を提供して いる。 (1) 利用者に対する運用管理環境 自身で配備したアプリケーションシステムの監 視・操作機能として,ダッシュボードが提供される。 アプリケーションシステムやその中の個々のサーバ の起動,停止,バックアップ取得などの機能が提供 される。また,監視機能としては,CPU負荷など の資源利用状況に加えて,各VMや利用している サービスのレスポンスを見ることも可能としていく。

(8)

サービス指向プラットフォーム

(2) サービス運用者(データセンター運用者)に 対する運用管理環境 物理的および仮想化された資源プールに対する監 視と操作の機能を提供する。資源プールの監視と操 作は,プラットフォーム管理者向けのコックピット を使って行う。物理資源のプール管理,仮想資源の 物理資源への最適配置などを支援する。また監視に ついては,物理資源の稼働状況に加え,仮想資源の 資源利用状況,レスポンス状況などを観測し,コッ クピット上で可視化される。 なお,各アプリケーションシステムのダッシュ ボードに提供される情報も同じ機構に基づいて取得 される。これによって,利用者(サービス提供者) とデータセンター管理者との間でサービスレベルの 情報共有が実現されることになる。 10 000台規模の物理サーバ,100 000台規模の VMの運用管理が求められるSOPでは,物理機器 (サーバやネットワークスイッチなど)の大量一括 導入や監視・保守の効率化も重要な課題である。人 件費などの運用コスト削減という観点だけでなく, 大量の機器の保守品質を一様に保つという観点から も,効率的でシンプルな運用管理技術が必要になり, 膨大な数の物理機器運用管理を大幅に効率化する基 盤構築技術を開発した。 従来,データセンターへの機器導入時には,ラッ クへの機器搭載,ケーブルの配線と接続先の目視確 認,サーバのBIOS設定,MACアドレスなどの確認 や登録などの手作業が必要で,現場CEの作業負荷 が大きく効率が悪かった。SOPでは,導入時の一 連の現場作業を自動実行する機能を開発し,物理装 置をラック単位でアイランドに組み込むシステムを 開発し,装置増設時の人的ミスの抑制とコストの軽 減を実現している。 む す び クラウドコンピューティングは,グリッドコン ピューティング,ユーティリティコンピューティン グ,サービス指向アーキテクチャ(SoA)などの技 術が発展融合したものであり,これらを利用者から のサービスの視点でとらえ直したコンセプトが多く の人々の心をとらえていると考えられる。その本質 が「ネットワーク越しに提供されるサービス」であ ることから,クラウドの利用には国境がない。した がって,今後,広く相互接続性を備え,標準技術を 活用したクラウド基盤をオープンイノベーションに より実現する必要がある。 ICTは電力と同様に供給を集約することで,大幅 にコストが削減できる。(9) したがって,数千台から 数万台規模のクラウドデータセンターを実現し,そ の運用を自動化することによって,従来のホスティ ングサービスに対して十分安価なICTサービスを提 供でき,今までICTが適用できなかった分野も含め て,ICTの新たな利用が開けることになる。このこ とは,クラウドサービスの基盤に対する大規模化, 自動化などの技術的要件としてとらえることがで きる。 このような方向を踏まえて,富士通では,今後も, クラウド基盤技術の開発を強化していく。 参 考 文 献

(1) C. Sagawa et al.:Cloud Computing Based on Service Oriented Platform.Fujitsu Sci. Tech. J., Vol.45,No.3,p.283-289(2009).

(2) 武 理一郎:仮想化技術を活用したクラウド時代の ITプラットフォーム.FUJITSU,Vol.60,No.3, p.266-273(2009).

(3) Distributed Management Task Force : Open Virtualization Format Specification Version 1.1.0. DSP0243,2010.

(4) Open Grid Forum:Application Contents Service Specification 1.0.GFD-R-P.073,2006.

(5) Open Grid Forum : CDDLM Configuration Description Language Specification Version 1.0. GFD-R-P.085,2006.

(6) Organization for the Advancement of Structured Information Standards : Solution Deployment Descriptor Specification 1.0.2008.

(7) 富士通:Serverview Resource Coordinator VE http://software.fujitsu.com/jp/rcve/

(8) 富士通:ServerView Resource Orchestrator http://software.fujitsu.com/jp/ror/

(9) N. Carr:The Big Switch:Rewiring the World, From Edison to Google.W. W. Norton & Company, Inc.,2008.

参照

関連したドキュメント

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

近年、めざましい技術革新とサービス向上により、深刻なコモディティ化が起きている。例え

青色域までの波長域拡大は,GaN 基板の利用し,ELOG によって欠陥密度を低減化すること で達成された.しかしながら,波長 470

「技術力」と「人間力」を兼ね備えた人材育成に注力し、専門知識や技術の教育によりファシリ

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

はじめに 中小造船所では、少子高齢化や熟練技術者・技能者の退職の影響等により、人材不足が

技術士のCPD 活動の実績に関しては、これまでもAPEC

島根県農業技術センター 技術普及部 農産技術普及グループ 島根県農業技術センター 技術普及部 野菜技術普及グループ 島根県農業技術センター 技術普及部