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tPA 療法後の脳出血防止を目指したトランスレーショナルリサーチ

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Academic year: 2021

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(1)● シンポジウム 4 脳保護療法と NVU. tPA 療法後の脳出血防止を目指した トランスレーショナルリサーチ 下畑 享良*,金澤 雅人,川村 邦雄,高橋 哲哉,西澤 正豊. 要 旨  脳梗塞に対する tPA を用いた血栓溶解療法は,発症から 4.5 時間を超えて行った場合,脳出血を合併するリ スクが高くなる.脳出血合併症を防止する治療の開発は,予後の改善と,tPA 療法の治療可能時間域の延長を もたらす可能性がある.我々は,血管リモデリングに関与する血管内皮増殖因子(VEGF)やアンギオポイエチ ン 1(Ang1)を標的とした血管保護療法の可能性について検討し,ラット脳塞栓モデルにおいて,① VEGF 抑制 薬,および②組み換え Ang1 の投与が脳出血合併症を防止し,予後を改善することを明らかにした.その後, 知的財産権の確保,および米国ベンチャー企業との産学連携を行い,現在,臨床試験の実現を目指している. これまでの経験から,アカデミア研究者が,創薬研究の「死の谷」を乗り越えるためには,①動物実験の質の改 善,②知的財産権の確保,③産学連携の推進が重要であると考えられた. (脳循環代謝 26:93∼97,2015). キーワード : 組織プラスミノゲン・アクチベーター,脳血管保護療法,トランスレーショナルリサーチ,知的財産 権,産学連携. 1.はじめに. 2.tPA 療法の出血合併の防止を 目指した基礎研究.  脳梗塞に対する血栓溶解薬「組織プラスミノゲン・ アクチベーター(tissue plasminogen activator; tPA)」の静.  tPA 療法後の脳出血合併症を防止する治療戦略とし. 注療法は,日米のガイドラインにおいてグレード A の. ては種々の試みがあるが2),我々は tPA に血管保護薬. 治療であるものの,治療可能時間域が狭く,治療の恩. を併用する治療法の開発を行ってきた.具体的には,. 恵を受ける患者数が少ないことから,脳梗塞治療への. 血管リモデリング,すなわち脳虚血後の血管の構造上. 貢献は十分とは言えない.また発症から 4.5 時間を超. の変化が,脳出血合併症に関与するという仮説を立て. えて治療を行った場合,脳出血を合併するリスクが高. た(図 1).一般的に脳梗塞後の修復期に,血管リモデ. くなる .このため脳出血合併症を防止する治療の開. リングを誘導する因子(血管リモデリング因子)が作用. 1). 発は,予後増悪の防止に加え,tPA の治療可能時間域. し,発芽や血管新生といった血管の構造上の変化を起. の延長をもたらす可能性がある.. こすため,血管に不安定な状況が生じると考えられて.  本稿では,tPA 療法後の脳出血合併症の防止を目指. いるが,我々はこれらの変化が,急性期のうちから始. して,我々が行ってきた基礎研究やトランスレーショ. まり,脳出血や脳浮腫につながる可能性を考えた.. ナルリサーチを紹介し,さらにアカデミア研究者が,.  この仮説を検証することを目的として,我々は,①. 創薬研究の「死の谷」を乗り越えるために何が必要かを. ヒト脳梗塞に類似したげっ歯類モデルを使用し,②標. 議論したい.. 的とする血管リモデリング因子の局所脳虚血前後の発. 新潟大学脳研究所神経内科 * 〒 951-8585 新潟市中央区旭町通 1-757   TEL: 025-227-0664 FAX: 025-223-6646   E-mail: [email protected]. 現を検討し,③有望な治療標的分子については,その 阻害ないし活性化を行い,脳出血合併症への効果を確 認した.具体的には,代表的な血管リモデリング因子 である血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth ─ 93 ─.

(2) 図 1.. 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. .. 図 1.血管リモデリング 図 2. MMPs; matrix metalloproteases,VEGF; vascular endothelial growth factor(血 管 内 皮 増 殖因子),HMGB1; high mobility group box 1,PDGFβ; platelet-derived growth factor β. .. 図 2.血管の不安定化と血管保護療法 VEGF; vascular endothelial growth factor, MMP9; matrix metalloprotease 9, Ang1; angiopoietin1. factor; VEGF)やアンギオポイエチン 1(Angiopoietin 1;. シグナルの活性化6),および② Ang1 陽性血管の減少7). Ang1)を治療標的分子とした血管保護療法の可能性に. が,脳虚血後 24 時間という早期から確認され,血管. ついて検討した.VEGF は脳虚血後,血液脳関門の破. リモデリングに伴う血管の不安定化が生じている可能. 綻と血管新生に関与し,マトリックス・メタロプロテ. 性が示唆された (図 2A).このため治療介入として,. アーゼ 9 の活性化を介して細胞外マトリックスを分解. ①抗 VEGF 中和抗体,VEGF 受容体阻害剤,および②. する3).一方,Ang1 は,抗アポトーシス,抗炎症作用. 組み換え Ang1 の静注を行ったところ,脳出血を軽減. を介して,血管内皮細胞の生存促進をもたらし,さら. し,予後も改善した6, 7) (図 2B).以上より,血栓溶解. に血管リモデリングを促進する Ang2 や VEGF に拮抗. 療法後の脳出血合併症を防止する治療として,血管リ. することが知られている4).. モデリング因子を標的とした治療介入は有効であると.  まず自家血血栓により中大脳動脈を閉塞するラット. 考えられた.近年,血管リモデリング因子は,tPA 療. 塞栓性中大脳動脈閉塞モデル を用いて,VEGF およ. 法後の出血合併症防止の治療標的分子として認識され. び Ang1 の局所脳虚血前後の変化について検討した.. るに至った8).. 5). この結果,虚血周辺部における① VEGF-VEGF 受容体 ─ 94 ─.

(3) 図 3.. tPA 療法後の脳出血防止を目指した TR. 図 3.創薬研究の日米比較. ている.一方,日本では基礎研究と本格的研究をつな. 図 4.. 3.臨床応用を目指した トランスレーショナルリサーチの状況. ぐ創薬ベンチャーがあまり発達しておらず,治療標的 から実際にヒトに投与する薬剤を開発するトランス レーショナルリサーチの実現が難しく,大きなギャッ.  我々は VEGF 抑制療法の米国における臨床試験の実. プとなっている点で異なっていた(図 3).このギャッ. 現を目指している.まず,2009 年に国内特許(用途特. プが日本における創薬研究の「死の谷」の一因と考えら. 許)を出願し,2010 年に特許協力条約(Patent Coopera-. れた.今後,日本においても,創薬ベンチャーの育成. tion Treaty; PCT) に基づく国際出願を行った.これはひ. や,アカデミア発の創薬シーズをサポートする仕組み. とつの出願願書を条約に従って提出することにより,. づくりが重要と考えられる.. PCT 加盟国であるすべての国に同時に出願したことと. 5.「死の谷」を乗り越えるために. 同じ効果を与える出願制度である.2011 年より国内製 薬企業数社に共同研究の依頼を開始したが,脳梗塞に 対する創薬は困難であるという返答であった.その判.  これまでの経験から,「死の谷」を乗り越えるために. 断には,過去における神経保護薬を用いた臨床試験の. は,以下の 3 点も重要と考えられる.. 多数の失敗が影響している印象を受けた.このため, 国内における産学連携は断念し,米国における創薬ベ. 1)動物実験の質を改善する. ンチャーの設立を模索した.最終的に,本創薬シーズ.  まず,動物実験の質を,ヒトにおける臨床試験レベ. を実現することを目的とした ShimoJani LLC を設立し. ルまで高める必要がある.Howells らは,脳梗塞治療. た.新潟大学はこの創薬ベンチャーとライセンス契約. 薬に関する基礎研究論文を調査し,効果判定に使用さ. を結び,2013 年に米国の某クリニックとトランスレー. れたラットは,大半が 10 匹以下であったことを報告. ショナルリサーチを開始した.2014 年には米国におけ. し,ヒトにおける臨床試験と比べ,明らかに少ないこ. る抗 VEGF 抗体療法の特許の権利化を完了した.現. とを指摘した9).今後,効果の判定には,パワー計算. 在,米国でのフェーズ 2 臨床試験を目指し,トランス. による必要ラット数の計算に加え,治療薬の割付のラ. レーショナルリサーチの継続と,治験に必要な資金の. ンダム化,評価のマスク化による厳密な解釈が必要で. 調達を行っている.. ある.  さらに近年,動物モデルを脳梗塞患者と同じ状況に. 4.トランスレーショナルリサーチと「死の谷」. 近づける必要があるという animal model 2.0(動物モデ ル第二世代)の考え方が提唱された10).これまでの.  我々は本創薬シーズが,米国において基礎研究から. ラットを用いた治療薬の効果判定では,若いオスが使. トランスレーショナルリサーチに発展する過程を経験. 用されることが一般的であったが,ヒト脳梗塞に近づ. した.日米における創薬研究を比較し,大きな相違と. け る た め, 加 齢, 性, 脳 血 管 障 害 の 危 険 因 子(高 血. して考えられたものは,米国ではトランスレーショナ. 圧,肥満など)を考慮することや,動物の種について. ルリサーチを行う創薬ベンチャーがよく発達している. も,げっ歯類のみでなく霊長類を用いることが推奨さ. 点が挙げられる.創薬標的を見出す基礎研究が大学で. れている.. 行われる点,ならびに大規模治験や薬事申請といった 本格的研究が製薬企業で行われる点は日米とも共通し ─ 95 ─.

(4) 図 4.. 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. 図 4.特許取得のスケジュール 著者らの抗 VEGF 抗体療法の特許出願を例に示す.国内出願,優先権主 徴によるデータ追加,国際 PCT 出願,そして各国移行と,その都度,申 請のための費用(手数料や弁理士への支払い)を要した. PCT; patent cooperation treaty. 2)知的財産権を取得する. か?」,Approach は「研 究 に 用 い た 方 法 論 は 正 し い.  “No patent, no cure”という言葉があるが,創薬を目. か?」,Benefit は「その薬剤は利益を生むことができる. 指すためには,知的財産権の確保は不可欠である.ア. のか?」,そして Competition は「競合薬剤に勝つこと. カデミアが単独で,臨床試験や薬事申請を行うことは. ができるのか?」という質問に置き換えることができ. 難しく,製薬企業との共同研究が必要になるが,製薬. る.基礎研究後に,これらについて初めて考えるので. 企業は特許で保護されていない薬剤は独占的販売がで. はなく,基礎研究をデザインする段階からこれらにつ. きないため,共同で開発することは困難となる.よっ. いては考えておく必要がある.. て産学連携に発展させるためには,特許の確保が不可. 6.おわりに. 欠となる.  しかしアカデミア研究者による知的財産権の獲得に は難しい問題がある.第一に,特許は大学院生教育に.  我々が取り組んできた基礎研究,およびトランス. ジレンマを招く.特許の要件のなかには,世の中に知. レーショナルリサーチを紹介した.これからのアカデ. られていないこと,すなわち「新規性・非公知」がある. ミア発の創薬研究は,基礎研究で見出した創薬シーズ. が,大学院生が学会・論文発表を先に行ってしまう. をいかに育て,臨床試験につなげるかを念頭に置きな. と,その創薬シーズは「公知」となり,特許が認められ. がら進める必要がある.. なくなる.よって特許出願を完了するまでは,大学院 生は学会・論文発表は一切できす,モチベーションの.  謝辞:辰巳政弘教授(現筑波大学),宮田敦久教授(新. 低下を招くおそれがある.第二に,特許に要する費用. 潟大学知的財産創成センター),林敏和コーディネー. は高額である点が挙げられる.医薬品は,基本的に国 内外で販売されるため,国内出願に加え海外出願が不. ター(同研究企画推進部産学連携課),S. Clymer 氏,L. Kauvar 氏(ShimoJani LLC)に深謝する.. 可欠となり,複数回の費用がかかる(図 4).とくに各 国移行での海外弁理士への支払いは高額となるため,. 文 献. どのように支払いを行うか計画を立てることが必要で. 1) Lees KR, Bluhmki E, von Kummer R, Brott TG, Toni D,. ある.. Grotta JC, Albers GW, Kaste M, Marler JR, Hamilton SA, Tilley BC, Davis SM, Donnan GA, Hacke W; ECASS,. 3)産学連携の考え方を理解する. ATLANTIS, NINDS and EPITHET rt-PA Study Group,.  特許取得後は大学発ベンチャーの立ち上げや,製薬. Allen K, Mau J, Meier D, del Zoppo G, De Silva DA,. 企業と産学連携を行い,臨床試験を目指すことにな る.ここで重要なのは,従来からの論文発表を目指す 研究と,臨床応用・実用化を目指す産学連携とでは, 根本的に考え方が違うことを認識することである.産 学連携で優先されるものは,必ずしも学術的価値では なく,イノベーションの際に重要な NABC,すなわち. Butcher KS, Parsons MW, Barber PA, Levi C, Bladin C, Byrnes G: Time to treatment with intravenous alteplase and outcome in stroke: an updated pooled analysis of ECASS, ATLANTIS, NINDS, and EPITHET trials. Lancet 375: 1695–1703, 2010 2) 下畑享良,西澤正豊:tPA 療法後の脳出血合併防止 を目指した治療戦略.脳循環代謝 23: 166–174, 2012. Needs, Approach, Benefit, Competition とまとめることが. 3) Bergers G, Brekken R, McMahon G, Vu TH, Itoh T,. で き る11).Needs は「そ の 薬 剤 は 本 当 に 必 要 な の. Tamaki K, Tanzawa K, Thorpe P, Itohara S, Werb Z,. ─ 96 ─.

(5) tPA 療法後の脳出血防止を目指した TR. Hanahan D: Matrix metalloproteinase-9 triggers the angio-. 7) Kawamura K, Takahashi T, Kanazawa M, Igarashi H,. genic switch during carcinogenesis. Nat Cell Biol 2: 737–. Nakada T, Nishizawa M, Shimohata T: Effects of angio-. 744, 2000. poietin-1 on hemorrhagic transformation and cerebral. 4) Gamble JR, Drew J, Trezise L, Underwood A, Parsons M,. edema after tissue plasminogen activator treatment for. Kasminkas L, Rudge J, Yancopoulos G, Vadas MA:. ischemic stroke in rats. PLoS ONE 9: e98639, 2014. Angiopoietin-1 is an antipermeability and anti-inflamma-. 8) Jickling GC, Liu D, Stamova B, Ander BP, Zhan X, Lu A,. tory agent in vitro and targets cell junctions. Circ Res 87:. Sharp FR: Hemorrhagic transformation after ischemic. 603–607, 2000. stroke in animals and humans. J Cereb Blood Flow Metab. 5) Okubo S, Igarashi H, Kanamatsu T, Hasegawa D, Orima H,. 34: 185–199, 2014. Katayama Y: FK-506 extended the therapeutic time win-. 9) Howells DW, Sena ES, Macleod MR: Bringing rigour to. dow for thrombolysis without increasing the risk of hem-. translational medicine. Nat Rev Neurol 10: 37–43, 2014. orrhagic transformation in an embolic rat stroke model.. 10) Animal Models 2.0: co-morbid conditions, optogenetics. Brain Res 1143: 221–227, 2007. and other new directions. Internatonal stroke conference. 6) Kanazawa M, Igarashi H, Kawamura K, Takahashi T,. 2014. Pre-conference symposium II.. Kakita A, Takahashi H, Nakada T, Nishizawa M, Shimo-. 11) Carlson CR, Wilmot WW: It’ s as simple as NABC: how. hata T: Inhibition of VEGF signaling pathway attenuates. Liz got her job. In: Innovation: The five disciplines for. hemorrhage after tPA treatment. J Cereb Blood Flow. creating what customers want. Crown Business, New. Metab 31: 1461–1474, 2011. York, 2006, pp 85–100. Abstract Translational research that enables inhibition of hemorrhagic transformation after tissue plasminogen activator treatment for ischemic stroke Takayoshi Shimohata, Masato Kanazawa, Kunio Kawamra, Tetsuya Takahashi, and Masatoyo Nishizawa Department of Neurology, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan Tissue plasminogen activator (tPA) treatment is beneficial for patients with ischemic stroke when started within 4.5 h of stroke onset. However, the risk of intracerebral hemorrhagic transformation (HT) increases with the delay in treatment initiation. Development of vasoprotective drugs that attenuate HT after tPA treatment might improve the prognosis of stroke patients and extend the therapeutic time window of tPA. We identified vascular remodeling factors such as vascular endothelial growth factor (VEGF) and angiopoietin 1 as therapeutic target molecules for HT after tPA treatment. We demonstrated that HT was inhibited by intravenous administration of anti-VEGF neutralizing antibody/VEGF receptor antagonist or recombinant angiopoietin 1 in a rat thromboembolic model. After the animal studies, we acquired intellectual property rights and established an academic–industrial alliance. Presently, we aim to conduct a clinical trial to assess the effect of VEGF-inhibiting drugs on HT. From our experiences, to overcome “the valley of death”, which is the difficult period of transition from laboratory success to human clinical trials, in drug development, academic researchers need to focus on (i) improving the quality of animal studies, (ii) acquiring intellectual property rights, and (iii) promoting academic– industrial alliances. Key words: tissue plasminogen activator, vascular protection, translational research, intellectual property rights, academic-industrial alliance. ─ 97 ─.

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